説明

成形型及び当該成形型を用いた筒型防振装置の製造方法

【課題】筒体21とその内部のゴム弾性体23とを備えた筒型防振装置2の成形に際し、安価にその生産効率を高める。
【解決手段】成形型は、筒体21の筒軸方向一端面に密着する下面(第1面)40と、筒体21の筒軸方向他端面に密着する上面(第2面)30と、筒体21の外周面に当接する周側面(第3面)50と、を有する型本体1を備える。型本体1には、キャビティ11内に開口する注入孔12と、キャビティ11内のエアを排出するためのエア抜き孔13と、が形成され、下面40及び上面30の少なくとも一方には、筒体21の端面との間に所定の隙間を形成するように凹陥した逃がし凹部35が、筒体21の周方向の所定の範囲に亘って広がるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、筒体とその内部のゴム弾性体とを備えた筒型防振装置を成形するための成形型、及び、その成形型を用いた筒型防振装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、車両用の防振装置として、外筒体と、それと同軸配置された内筒体と、外筒体及び内筒体との間で両者を結合するゴム弾性体と、を備えた筒型の防振装置を成形するための成形型が開示されている。具体的にこの成形型は、前記外筒体が保持されるキャビティを区画形成する上型及び下型と、上型及び下型のそれぞれにおいて、前記内筒体を保持するための芯体押え及び支持ピンとを備えており、この文献に記載された成形型ではさらに、前記内筒体の端面とキャビティの区画面との間の隙間を通って、キャビティ内に注入した未加硫ゴムが漏れ出すことを防止するために、前記内筒体の端部の外周面に当接するシールリングを備えるようにしている。つまり、漏れ出したゴムは成形品におけるバリとなり、そのバリ取り加工が必要になることから、そうした仕上げ工程を無くすために、前記文献に記載された成形型では、ゴムの漏れ出しを防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−79551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記の特許文献1では内筒体の端面からの漏れを問題にしているが、例えば外筒体の端面とキャビティの区画面との間の隙間を通って未加硫ゴムが漏れ出す場合もある。こうして外筒体の外に未加硫ゴムが漏れ出すことは、成形品にバリを発生させることから、そのバリ取りの仕上げ工程が必要になる。
【0005】
そうした外筒体の端面からの未加硫ゴムの漏れ出しを防止する方策の一つとして、例えば型締め圧をさらに高め、そのことにより、キャビティの区画面と外筒体の端面とを密着させることが考えられる。しかしながら高い型締め圧を実現する成形型は高価であると共に、例えば一度に成形可能な数が増えれば増えるほど、つまり、生産効率を高めるべく複数個取りに構成した成形型では、その取り数が増えれば増えるほど、必要な型締め圧がさらに高くなってしまう。
【0006】
また、型締め圧を高めたとしても、外筒体の寸法精度によっては端面からの未加硫ゴムの漏れが生じてしまう場合も起こり得ることから、バリの発生有無の確認及びバリ取りの仕上げ加工を、完全に無くすことはさらに困難であり、生産効率は必ずしも高くならない。しかもこのような場合は、外筒体における周方向のどの位置にバリが発生するかを事前に把握することはできないため、様々な位置に、1つ又は複数個発生するバリを全て取り除かねばならず、結果として仕上げに要する時間が長くなってしまうことにもなり得る。
【0007】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、筒体とその内部のゴム弾性体とを備えた筒型防振装置の成形に際し、安価にその生産効率を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、型締め圧を高めて未加硫ゴムの漏れを無くし、それによって仕上げ工程を無くすようにするのではなく、仕上げ工程を行うことを前提にして、その仕上げ工程をできるだけ簡略化させるという観点から成形型の検討を行った。
【0009】
具体的に、成形型において必要となる型締め圧は、キャビティを区画する面と筒体の端面とが当接する面積に比例する点に鑑みて、当該面積を小さくすることで型締め圧の低下を図ることとした。つまり、成形型における筒体の端面と密着する面の一部に、筒体の端面に対し隙間を形成するように凹陥した逃がし凹部を、筒体の周方向の所定の範囲に亘って広がるように形成することとした。
【0010】
一方でこうした逃がし凹部は、成形型の面と筒体の端面との間で、前記筒体の内外を連通させることにもなるため、未加硫ゴムがこの逃がし凹部を通じて筒体の外に漏れ出し、成形品にバリを発生させることになる。しかしながらこの構成では、バリがほぼ確実に発生すること、そしてそのバリは逃がし凹部の形成箇所において発生することが事前に把握できるため、成形型から取り出した成形品の所定箇所のバリを取り除くだけの仕上げを行えばよく、仕上げに要する手間及び時間を軽減し得ることを見い出し、本願発明を完成するに至ったものである。
【0011】
具体的にここに開示する成形型は、筒体の内部に所定形状のゴム弾性体を備えた筒型防振装置を加硫一体成形するための成形型である。この成形型は、前記筒体の筒軸方向一端面に当接する第1面と、前記筒体の筒軸方向他端面に当接する第2面と、前記筒体の外周面に当接する第3面と、を有する型本体を備え、前記型本体の前記第1〜第3面によって、前記筒体を保持すると共に、未加硫ゴムが注入されるキャビティが区画され、前記型本体には、前記キャビティ内に開口して前記未加硫ゴムを注入するための注入孔と、当該未加硫ゴムが前記キャビティ内に注入されるに伴い、当該キャビティ内のエアを排出するためのエア抜き孔と、が形成される。そして、前記第1面及び第2面の少なくとも一方には、前記筒体の端面との間に所定の隙間を形成するように凹陥した逃がし凹部が、前記筒体の周方向の所定の範囲に亘って広がるように形成されている。
【0012】
この構成によると、キャビティを区画する第1面及び第2面の少なくとも一方に、逃がし凹部を筒体の周方向の所定の範囲に亘って広がるように形成している。このため、筒体の端面との間に隙間が設けられる逃がし凹部の分だけ、筒体の端面と第1面及び第2面とが当接する面積が減少して必要な型締め圧が低下する。このことは成形型を安価にする上で有利になる。
【0013】
一方、筒体の内外を連通させ得る逃がし凹部の形成により、キャビティ内、つまり筒体内に注入した未加硫ゴムが、この逃がし凹部を通じて筒体の外に漏れ出すことになるものの、当該成形型によって成形した成形品には、漏れによるバリがほぼ確実に発生すること、及び、そのバリは逃がし凹部の形成箇所において発生することが事前に把握できるため、成形型から取り出した成形品の所定箇所のバリを取り除くだけの仕上げ加工を行えばよい。つまり、成形品の一つ一つについてバリの発生有無を確認した上で、バリが発生している場合は、様々な箇所に、一つ又は複数個発生しているバリを全て取り除くといった煩雑な仕上げ加工は不要であり、仕上げに要する手間及び時間が軽減されることで、生産効率が高まる。
【0014】
ここで、前記エア抜き孔は、前記第1面又は第2面と前記筒体の端面との間において、当該筒体の内外を連通させるように、所定の周方向位置で前記筒体の径方向に延びて形成されており、前記逃がし凹部は、前記エア抜き孔が形成されている箇所に設けられている、とすることが好ましい。
【0015】
エア抜き孔が筒体の内外を連通させるように筒体の径方向に延びて形成されていることにより、このエア抜き孔を通じて、未加硫ゴムが筒体の外に漏れ出すことが起こる可能性がある。一方で、未加硫ゴムが漏れ出し得る逃がし凹部を、このエア抜き孔の形成箇所に設けることで、結果的に、エア抜き孔及び逃がし凹部の形成箇所において、未加硫ゴムが漏れ出し、他の箇所での未加硫ゴムの漏れは防止される。このことは、前記と同様に、バリの発生箇所を特定の箇所に限定し(発生箇所の減少)かつ、その箇所を事前に特定することを可能にする。つまり、仕上げに要する手間及び時間がより一層軽減される。
【0016】
前記第1面には、前記筒体の一端面における内周縁を潰すように圧接して、前記未加硫ゴムの漏れを防止するシール部が、前記筒体の全周に亘って形成されており、前記逃がし凹部は、前記第2面に形成されている、としてもよい。
【0017】
こうすることで、筒体の一端面側では、シール部によって未加硫ゴムの漏れが防止されるため、バリが発生しない。一方、それとは反対側である、筒体の他端面側では、逃がし凹部を形成しているため、前述したように未加硫ゴムが漏れ出してバリが発生し得る。つまり、成形品における筒体の一方の端面側にのみバリが発生するため、バリ取りに要する手間及び時間がさらに軽減され、生産効率がさらに高まる。
【0018】
ここに開示する筒型防振装置の製造方法は、前記の成形型を用いた製造方法である。具体的にこの製造方法は、前記キャビティ内に前記筒体をセットする工程、前記成形型の型閉めを行うと共に、前記キャビティ内に前記注入孔を通じて前記未加硫ゴムを注入する工程、前記未加硫ゴムの加硫後に、前記筒体と前記ゴム弾性体との加硫一体成形品を前記成形型から取り出す工程、及び、前記取り出した成形品において、前記逃がし凹部に対応する位置に存在しているバリを取り除く工程、を含む。
【0019】
前述したように、成形型に逃がし凹部を形成していることで、この成形型を用いた筒型防振装置の製造方法では、キャビティ内に注入した未加硫ゴムの一部が、逃がし凹部を通じて筒体の外に漏れ出して、成形品にはバリが発生するものの、所定の箇所に発生しているバリを取り除くだけの仕上げ加工を行えばよく、仕上げ工程の手間及び時間が軽減して、生産効率が高まる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、前記の成形型及び製造方法によると、成形型において、筒体の端面に当接する第1面及び第2面の少なくとも一方に、逃がし凹部を、周方向の所定範囲に亘って広がるように形成することで、型締め圧を低減することができる一方で、その成型品に対しては、当該逃がし凹部の形成箇所に対応して発生するバリを取り除く仕上げ加工を行うだけでよく、仕上げに要する手間及び時間を軽減して生産効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態に係る成形型によって成形される筒型防振装置を示す一部破断の斜視図である。
【図2】(a)筒型防振装置の平面図、(b)同図(a)のA−A断面図である。
【図3】(a)成形型の上金型の底面図、(b)同図(a)のB−B断面に対応する成形型の断面図である。
【図4】(a)成形型における上金型と外筒体との当接箇所を拡大して示す断面図、(b)上金型と外筒体との当接箇所の内、逃がし凹部の形成箇所を拡大して示す断面図、(c)成形型における下金型と外筒体との当接箇所を拡大して示す断面図である。
【図5】成形型から取り出した加硫一体成形品を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、成形型及びそれを用いた製造方法の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1,2は、本実施形態に係る成形型1(図3参照)によって成形される筒型防振装置2を示しており、このものは、車両用の、例えばサスペンションブッシュとして用いられる防振装置2であり、金属製の外筒体21と、当該外筒体21よりも小径の筒体であって前記外筒体21と同軸に配置された、金属製の内筒体22と、外筒体21の内周面と内筒体22の外周面との間で両者を互いに連結するゴム弾性体23とを備えて構成されている。そうして、この防振装置2では、外筒体21よりも小径でかつ内筒体22よりも大径の中間筒24が、外筒体21及び内筒体22と同軸になるように、ゴム弾性体23に埋設されている。尚、この筒型防振装置2においては、筒軸方向の一端側と他端側とは対称に形成されており、例えば上下方向といった方向性は特には存在しないものの、以下においては、説明の便宜上、図1及び図3(b)における上側を上と呼び、図1及び図3(b)における下側を下と呼ぶ場合がある。
【0023】
この防振装置2について、さらに詳細に説明すると、前記外筒体21は、比較的薄肉の円筒状の部材である。尚、図示は省略するが、外筒体21の筒軸方向の両端部それぞれにおいては、その外周面にテーパを形成してもよい。
【0024】
前記内筒体22は、比較的厚肉の円筒状の部材であり、その筒軸方向の長さは、前記外筒体21よりも長い。それによって外筒体21に内挿された内筒体22は、その筒軸方向の両端部がそれぞれ、外筒体21の端部よりも外方に突出している(例えば図2(b)参照)。
【0025】
前記中間筒24は、図2(a)に示されるように、一対の半割状の部材(半筒体241)を、所定の間隔を空けて突き合わせるように配置することで、全体として円筒状となるように構成されている。中間筒24は、その筒軸方向の長さが、前記外筒体21よりも若干短い長さに設定されていると共に、図2(b)に端的に示されるように、防振装置2の断面においては、外筒体21と内筒体22との間の略中央位置に配置されている。
【0026】
前記ゴム弾性体23は、前述したように、前記外筒体21の内周面と前記内筒体22の外周面との間で、両者をその全周に亘って互いに連結しており、当該ゴム弾性体23における筒軸方向の各端面には、前記外筒体21と中間筒24との間、及び、中間筒24と内筒体22との間において周方向に延びる凹溝231がそれぞれ形成されている。また、内筒体22の筒軸方向の両端部にはそれぞれ、周方向に180°の間隔を空けて、内筒体22の外周面から径方向の外方に突出する2つの突起部232が、ゴム弾性体23と一体に形成されている。
【0027】
図3,4は、前記筒型防振装置2を、加硫一体成形するための成形型1の一部を示している。つまり、この成形型1は、図示は省略するが、例えば一度に複数個の筒型防振装置2を成形し得るように、複数個のキャビティ11を有するものであるが、図例では、その内の一つのキャビティ11の部分のみを抜き出して示している。この成形型(型本体)1は、上金型3、下金型4及び中間金型5の3つを備え、これら上金型3、下金型4及び中間金型5が組み合わされることで、その内部にキャビティ11を区画形成する。
【0028】
上金型3は、キャビティ11の上面(第2面)30を区画形成する金型であり、内筒体22を支持するための支持ピン39が取り付けられる中央凹部31を有していると共に、この中央凹部31の外周側に、中間筒24(半筒体241)の上端部を保持する環状凹溝32と、外筒体21の上端部が外挿されてこの外筒体21の上端部を保持する環状凸部33と、を有している。上金型3の中央凹部31には、ねじ穴311が形成されており、このねじ穴311に支持ピン39のねじ部391が螺合することによって、内筒体22の上端部に内挿される支持ピン39が上金型3から下向きに突出するように配設される。環状凹溝32は、図3(a)にも示すように、前記半割状の半筒体241に対応するように一対の半円弧状の凹溝321が突き合わされることで、全体として環状に形成されており、一対の半円弧状の凹溝321の間には、前記半筒体の位置決めを行うための位置決め突起322が設けられている。また、この環状凹溝32における周方向の所定の箇所には、前記筒型防振装置2における上側の突起部232を形成するための凹み323が形成されており、この凹み323によって凹溝321は分断されるようになっている。環状凸部33は、環状凹溝32に対して径方向に隣接して設けられており、下向きに突出するように設けられている。上金型3内にはまた、キャビティ11内に連通して未加硫ゴムを注入するための注入孔12が上下方向に延びるように形成されており、この注入孔12は、前記環状凹溝32に対応する径方向位置において、前記位置決め突起322と凹み323との中間に対応する周方向位置で、互いに180°だけ間隔を空けて、2箇所、開口している。
【0029】
そうして、上金型3において環状凸部33の径方向の外周側には、環状凸部33に外挿された外筒体21の上端面に当接する環状の当接面34が形成されている。ここで、この当接面34は、図4(a)に拡大して示すように、外筒体21の上端面に対して、その厚み方向の全面に亘って当接するように構成されている。また、この当接面34には、図3(a)に示すように、前記各注入孔12に対して、90°の間隔を空けて、2つのエア抜き孔13が形成されている。従ってこの各エア抜き孔13は、各注入孔12に対して周方向に最も離れた位置に形成されていることになる。このエア抜き孔13は、例えば図4(b)に拡大して示すように、上金型3の当接面34から凹陥するように形成されており、これによって外筒体21の上端面に対して、所定の隙間が形成されるようになっている。尚、図例においては理解容易のために、エア抜き孔13の深さを、実際よりも誇張して描いている。このエア抜き孔13は、外筒体21の内外を連通させるように、径方向に延びて形成されており、これによって、未加硫ゴムが注入孔12を通じてキャビティ11内に注入されるに伴い、キャビティ11内のエアは、このエア抜き孔13を通じて径方向に、外筒体21の外に排出されることになる。
【0030】
そうしてこの上金型3の当接面34には、前記各エア抜き孔13の形成位置に、逃がし凹部35が形成されている。この逃がし凹部35はそれぞれ、図4(b)に示すように、当接面34から凹陥するように形成されて、外筒体21の上端面に対し所定の隙間を形成する、換言すれば外筒体21の上端面とは非接触となる部分であり、図3(a)に示すように、周方向に所定の角度範囲θに亘って広がるように形成されている。従って、上金型3の当接面34は、この逃がし凹部35が形成されている範囲が外筒体21の上端面とは非接触であることから、外筒体21の上端面と接触する面積が、その分縮小していることになる。逃がし凹部35の深さは、図例では理解容易の観点から、前記エア抜き孔13と同様に実際よりも誇張して描いているが、逃がし凹部35の深さは、図にも示されるように、エア抜き孔13の深さよりも浅いことが好ましい。すなわち、エア抜き孔13は、キャビティ11内のエアを確実に排出する観点から、所定の断面積を確保することが好ましく、逃がし凹部35のように周方向に広がらないエア抜き孔13は、その深さが相対的深くなり得る。エア抜き孔13は、当接面34と外筒体21の上端面との間で、いわゆる小孔の形状となるようにすればよい。一方、逃がし凹部35は、外筒体21の上端面に対して非接触となればよく、しかも周方向に所定の角度範囲に亘って広がって形成されることから、余りに深く形成すると、後述するようにこの逃がし凹部35を通じて外筒体21の外に漏れる未加硫ゴムの量が多くなってしまうという不都合がある。従って、逃がし凹部35は比較的浅く形成すればよい。
【0031】
中間金型5は、上金型3と下金型4との間で、キャビティ11の周側面(第3面)50を区画形成する金型であり、その内周面の一部によって前記周側面50を構成する挿入孔51を有している。挿入孔51の下端部には、後述する下金型4が内挿される一方、その中間部には外筒体21が内挿されるように構成されており、この挿入孔51の中間部には、下金型4の当接面44(シール部)と共に、前記外筒体21の下端面に当接する、環状の当接面52が形成されている(図4(c)参照)。また、挿入孔51の上端部には、外筒体21のキャビティ内への挿入を良好にするために、その径が拡大するテーパが形成されている。
【0032】
下金型4は、キャビティ11の下面(第1面)40を区画形成する金型であり、上金型3と同様に、内筒体22を支持するための支持ピン49が取り付けられる中央凹部41を有していると共に、この中央凹部41の外周側に、中間筒24(半筒体241)の下端部を保持する環状凹溝42と、外筒体21の下端部が外挿されてこの外筒体21の下端部を保持する環状凸部43と、を有している。この中央凹部41にも、支持ピン49のねじ部491が螺合するねじ穴411が形成されており、これによって、内筒体22の下端部に内挿される支持ピン49が下金型4から上向きに突出するように配設される。詳細な図示は省略するが、環状凹溝42もまた、上金型3と同様に、一対の半円弧状の凹溝が突き合わされることで、全体として環状に形成されており、一対の半円弧状の凹溝の間には位置決め突起が形成されている。上金型3と相違する点として、下金型4の環状凹溝42における周方向の所定の箇所には、半筒体241の下端をその肉厚方向に挟持するための挟持部423が形成されており、これにより半筒体241は、キャビティ11内で、起立した姿勢で保持されることになる。環状凸部43は、環状凹溝42に対して径方向に隣接して設けられており、上向きに突出するように設けられている。この環状凸部43の径方向の外周側には、環状凸部43に外挿された外筒体21の下端面に当接する、環状の当接面44が形成されている。この当接面44は、図4(c)に拡大して示すように、外筒体21の内周縁に対し、その全周に亘って当接するように設定されていると共に、後述するように成形型1を型締めしたときには、当該外筒体21の内周縁を潰すように、外筒体21の下端面に圧接するように構成されている。このことにより、成形時には、外筒体21の下端面と下金型4の当接面44との間を通って、未加硫ゴムが外筒体21の外に漏れることを防止するようにしており、この当接面は、未加硫ゴムの漏れを防止するシール部として機能する。尚、以下においては、「当接面」及び「シール部」について、同じ符号「44」を付す場合がある。
【0033】
次に、前記の成形型1を用いた筒型防振装置2の成形手順について簡単に説明する。先ず、成形型1の型開きをした状態で、外筒体21、内筒体22、一対の半筒体241をそれぞれ、キャビティ11内の所定の位置に配置する。そうして、成形型1の型閉めを行う。ここで、前述したように、上金型3の当接面34に、逃がし凹部35を2箇所設けており、この逃がし凹部35の分だけ、上金型3の当接面34と外筒体21の上端面との当接面積は小さくなる。その面積の縮小分だけ、必要な型閉め圧は低下することになる。すなわち、この成形型1は、必要な型閉め圧が比較的低くなるように構成されている。一方、下金型4のシール部44は、外筒体21の下端の内周縁を潰すことになる。
【0034】
成形型1の型締めが完了すれば、前記2箇所の注入孔12を通じてキャビティ11内に未加硫ゴムを注入する。このときに、下金型4のシール部44は、外筒体21の下端面を潰すように圧接しているため、外筒体21の下端面を通じて未加硫ゴムが外に漏れることは確実に防止される。一方で、前述したように、上金型3の当接面34には逃がし凹部35を形成しており、外筒体21の上端側では、この逃がし凹部35を通じて外筒体21の内外が連通していることから、未加硫ゴムは、この逃がし凹部35及びエア抜き孔13を通じて外筒体21の外に漏れるようになる。
【0035】
その後、加熱により加硫一体成形し、成形型1の型開きをして、外筒体21、内筒体22、中間筒24及びゴム弾性体23からなる加硫一体成形品6を取り出す。ここで取り出した成形品6は、例えば図5に示すように、外筒体21の上端面において、前記逃がし凹部35の形成箇所に対応する位置に、当該逃がし凹部35及びエア抜き孔13を通じてゴムが漏れ出たことに起因するバリ61が形成されており、このバリ61を取り除く仕上げを、手作業で、又は、機械加工により行うことで、図1に示すような筒型防振装置2が完成することになる。ここで、図1に示すように、筒型防振装置2の外筒体21の上端面付近には、前記のバリ61の一部であるゴム弾性体62が残る場合がある。
【0036】
以上説明したように、前記の成形型1及びこの成形型1を用いた筒型防振装置2の製造方法によると、上金型3の当接面34に、所定の角度範囲θに亘る逃がし凹部35を形成していることで、外筒体21の上端面との当接面積が減少する。成形型1の型締め圧は、前記の当接面積に比例することから、当接面積の減少は必要な型締め圧を低減させる。つまり、前記の成形型1は、比較的低い型締め圧での成形を可能にする。例えば一度に複数個の成型品を成形する成形型においては、その取り数が増える程、必要な型締め圧は高くなることから、前記のような低い型締め圧での成形を可能にする構成は、複数個取りの成形型1において、必要な型締め圧を大幅に低減し得る点で、特に有効である。
【0037】
型締め圧が低下する一方で、前記の逃がし凹部35は、その構造上、外筒体21の内外を連通させていることから、キャビティ11内に注入された未加硫ゴムが、この逃がし凹部35を通じて外筒体21の外に漏れ出て、成形品6にバリ61を発生させることになる。しかしながらこのバリ61は、成形品6において、逃がし凹部35の形成箇所に発生することが事前に把握されるため、図5に示すように成形品6の所定の2箇所に発生するバリ61を取り除けばよく、バリ取り作業の手間や時間は余りかからない。こうしたバリ取りの仕上げ加工は手作業で行ってもよいが、特にバリ61の発生箇所が常に同じ箇所であることから、バリ取りの仕上げ加工を機械加工によって行うことも可能であり、そうした場合は、仕上げ工程はより一層、簡易かつ短縮化される。
【0038】
また、前記の逃がし凹部35は、エア抜き孔13の形成箇所に設けているが、このエア抜き孔13もまた外筒体21の内外を連通させる構造を有しているため、未加硫ゴムの漏れを発生させ得るものである。このように、未加硫ゴムの漏れを発生させ得る逃がし凹部35とエア抜き孔13とを同じ箇所に設けることは、未加硫ゴムの漏れの発生箇所を集中させることになり、成形品6において発生するバリ61の数を少なくする効果を有する。このこともまた、仕上げ工程の簡略化に寄与する。
【0039】
さらに、前記の成形型1では下金型4の当接面をシール部44とし、外筒体21の下端を潰すように密着させることで、外筒体21の下端側では未加硫ゴムの漏れを確実に防止していることから、成形品6におけるバリ61の発生箇所を、外筒体21の上端のみに限定することが可能である。つまり、バリ61の発生箇所が少なくなるため、仕上げ工程の簡略化に有利になる。尚、下金型4にのみシール部44が設けられ、外筒体21の上端面はシール部によって潰れないため、図示は省略するが、完成した筒型防振装置2では、外筒体21の上端面は概ね平坦になる一方で、下端面には、その径方向の内外で段差が生じ得ることになる。
【0040】
こうして、筒型防振装置2の成形に際し、安価にその生産効率を高めることが実現する。
【0041】
ここで、前記の逃がし凹部35を形成する範囲は、大きければ大きい程、型締め圧を低下させることになる一方で、逃がし凹部35の範囲が大きいことは、外に漏れる未加硫ゴムの量が多くなり、発生するバリ61が大きくなることを意味する。このことは、仕上げ工程に悪影響を及ぼす。このことから、前記の逃がし凹部35を形成する範囲は、型締め圧と未加硫ゴムの漏れ量との双方の観点から設定することが好ましい。例えば、前記の成形型のように180°の間隔を空けて2箇所に逃がし凹部35を設ける場合は、一つの逃がし凹部35の角度範囲として、30°〜90°程度の範囲、好ましくは60°前後の範囲で設定してもよい。
【0042】
尚、前記の成形型1では、逃がし凹部35を2箇所形成しているが、逃がし凹部35の数は特に限定されるものではない。通常、成形型においては、そこに設ける注入孔の数に応じた数のエア抜き孔を設けることになるが、逃がし凹部35もまた、そのエア抜き孔の数に応じた数だけ設けてもよい。但し、逃がし凹部35の数とエア抜き孔13の数とは、必ずしも一致するものではない。例えば逃がし凹部35を、エア抜き孔13よりも多く形成してもよい。またエア抜き孔を、前記の成形型1のように外筒体21の端面において径方向に延びるように形成しない場合、例えば前記の成形型1の注入孔12と同様に、金型内を上下方向に延びるように形成する場合等においては、逃がし凹部35をエア抜き孔の形成箇所に形成することにはならないため、逃がし凹部35の数や形成箇所に関する制約がゆるくなる、又は制約を無くし得る。
【0043】
また、前記の成形型1では、上金型3にのみ逃がし凹部35を形成しているが、例えば注入孔12の開口位置をどのように設けるかに応じて、下金型4に逃がし凹部35を形成してもよいし、上金型3と下金型4との双方に逃がし凹部35を形成してもよい。
【0044】
さらに、前記の成形型1では下金型4の当接面にのみシール部44を設けているが、上金型3の当接面34にもシール部を設けてもよい。すなわち、外筒体21の上端面及び下端面のそれぞれにおいて、その内周縁を潰すようにしてもよい。但し、前記逃がし凹部35及びエア抜き孔13の形成範囲は除かれる。ここで、外筒体21の端面の潰し量は、外筒体21の筒軸方向の長さの寸法公差に応じて、端面が確実に潰されるように設定される。例えば前記の成形型1のように、下金型4の当接面にのみシール部44を設けた構成では外筒体21の下端側だけが潰されるため、その潰し量(L)は単純に寸法公差(T)よりも大に設定するだけでよい(L>T、例えばL=T+α)。一方で、前述したように、外筒体21の上端面及び下端面のそれぞれを潰すような構成では、外筒体21の寸法公差(T)を上端側と下端側とに分割し(T/2,T/2)、外筒体21の上端側及び下端側のそれぞれで、分割した寸法公差より大きい潰し量(L1,L2)を設定しなければならない(L1>T/2,L2>T/2、例えばL1=T/2+α、L2=T/2+α)。この場合、全体の潰し量(L1+L2=T+2α)は、外筒体21の一端側だけを潰す場合の潰し量(L=T+α)に比べて大きくなることから、その分、必要な型締め圧は大きくなり得る。すなわち、前記の成形型1のように、下金型4にのみシール部44を設ける構成、換言すれば外筒体21の一方の端面のみを潰すような構成は、必要な型締め圧を低減する上で有利になり得る。
【0045】
尚、ここに開示するような、型締め圧を低下し得る一方で仕上げ可能が容易になる成形型は、前述したような中間筒24を備えた筒型防振装置2の成形に限定されず、そうした中間筒24を備えない筒型防振装置の成形にも適用することが可能である。また、筒体を有し、その内部に所定形状にゴム弾性体を備えた、種々の型式の車両用の筒型防振装置の成形に広く適用することが可能である。さらにまた、成形対象は、車両用の筒型防振装置に限定されるものではない。
【0046】
加えて、ここに開示する技術は、ゴム成形品の成形に限定されず、各種のプラスチック材料の成形にも適用し得る技術でもあり、成形型によって成形され得る成形品は、防振装置には限らず、種々の製品の製造にも適用し得る。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、ここに開示した成形型及びそれを用いた筒型防振装置の製造方法は、必要な型締め圧を低減する一方で、仕上げ工程を簡略化することができるため、筒型防振装置の成形に際し、安価にその生産効率を高めることができ、有用である。
【符号の説明】
【0048】
1 成形型
11 キャビティ
12 注入孔
13 エア抜き孔
2 筒型防振装置
21 外筒体(筒体)
23 ゴム弾性体
30 上面(第2面)
34 当接面
35 逃がし凹部
40 下面(第1面)
44 シール部
50 周側面(第3面)
6 成形品
61 バリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体の内部に所定形状のゴム弾性体を備えた筒型防振装置を加硫一体成形するための成形型であって、
前記筒体の筒軸方向一端面に当接する第1面と、前記筒体の筒軸方向他端面に当接する第2面と、前記筒体の外周面に当接する第3面と、を有する型本体を備え、
前記型本体の前記第1〜第3面によって、前記筒体を保持すると共に、未加硫ゴムが注入されるキャビティが区画され、
前記型本体には、前記キャビティ内に開口して前記未加硫ゴムを注入するための注入孔と、当該未加硫ゴムが前記キャビティ内に注入されるに伴い、当該キャビティ内のエアを排出するためのエア抜き孔と、が形成され、
前記第1面及び第2面の少なくとも一方には、前記筒体の端面との間に所定の隙間を形成するように凹陥した逃がし凹部が、前記筒体の周方向の所定の範囲に亘って広がるように形成されている成形型。
【請求項2】
請求項1に記載の成形型において、
前記エア抜き孔は、前記第1面又は第2面と前記筒体の端面との間において、当該筒体の内外を連通させるように、所定の周方向位置で前記筒体の径方向に延びて形成されており、
前記逃がし凹部は、前記エア抜き孔が形成されている箇所に設けられている成形型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の成形型において、
前記第1面には、前記筒体の一端面における内周縁を潰すように圧接して、前記未加硫ゴムの漏れを防止するシール部が、前記筒体の全周に亘って形成されており、
前記逃がし凹部は、前記第2面に形成されている成形型。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の成形型を用いた筒型防振装置の製造方法であって、
前記キャビティ内に前記筒体をセットする工程、
前記成形型の型閉めを行うと共に、前記キャビティ内に前記注入孔を通じて前記未加硫ゴムを注入する工程、
前記未加硫ゴムの加硫後に、前記筒体と前記ゴム弾性体との加硫一体成形品を前記成形型から取り出す工程、及び、
前記取り出した成形品において、前記逃がし凹部に対応する位置に存在しているバリを取り除く工程、を含む製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−173380(P2011−173380A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40572(P2010−40572)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】