説明

成形性と溶接性に優れた高強度冷延鋼板、高強度溶融亜鉛めっき鋼板及び高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板、並びに、高強度冷延鋼板の製造方法、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】最大引張強度(TS)が980MPa以上、延性、穴拡げ性、曲げ性及びスポット溶接性に優れた高強度冷延鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.075〜0.1%未満、Si:0.4〜0.8%、Mn:1.9〜2.3%、Mo:0.1〜0.35%、Ti:0.014〜0.029%、B:0.0001〜0.0045、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下、O:0.001〜0.0045%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる高強度冷延鋼板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最大引張強度(TS)が980MPa以上で、延性、曲げ性、穴拡げ性等の成形性に優れ、かつ、スポット溶接性にも優れた自動車用の構造用部材、補強用部材、足廻り用部材に特に適した高張力冷延鋼板と高強度溶融亜鉛めっき鋼板及び高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関するものである。本発明における高強度鋼板とは通常の冷延鋼板の他、亜鉛めっき鋼板やAlめっき鋼板、電気めっき鋼板に代表される各種めっき鋼板を含む。また、めっき層中には、純亜鉛に加え、Fe、Al、Mg、Mn、Si、Crなどを含有しても構わない。
【背景技術】
【0002】
自動車のクロスメンバーやサイドメンバー等の部材は、近年の燃費軽量化の動向に対応すべく軽量化が検討されており、材料面では、薄肉化しても強度および衝突安全性が確保されるという観点から鋼板の高強度化が進められている。しかしながら、材料の成形性は強度が上昇するのに伴って劣化するので、上記部材の軽量化を実現するには、プレス成形性と高強度の両方を満足する鋼板を製造する必要がある。主に自動車の構造用部材や補強用部材に使用される最大引張強度780MPa以上の鋼板は、曲げ性、穴拡げ性、延性に優れることが要求される。一般的に、引張試験の全伸び(El)や張出し成形性は鋼板のn値と相関があることから、成形性向上のために低い降伏比を有する鋼板が指向されていた。このような低降伏比は、軟質組織(フェライト)と硬質組織(マルテンサイトや残留オーステナイト)よりなる複合組織とすることで成し遂げられる。しかしながら、第2相にマルテンサイトや残留オーステナイトを活用した場合、穴拡げ性が著しく低下してしまうという問題がある(例えば、非特許文献1)。このように優れた延性を確保可能な組織と、優れた曲げ性および穴拡げ性確保可能な組織が相反することから、これら特性の両立が求められていた。
【0003】
一方、鋼板の強度が十分であっても衝突時に溶接部で破断すると、衝突エネルギーを十分に吸収することが出来ず、所定の衝突エネルギー吸収性能を得ることが出来ない。そこで、自動車部品は、スポット溶接、アーク溶接、レーザー溶接等の優れた継ぎ手強度を兼備することが求められている。しかしながら、鋼板の高強度化に伴って、C、Si、Mn等の含有量が増加し、それに伴い溶接部強度が低下するという問題点があり、含有する合金元素量を極力増やさずに高強度化させることが望まれていた。
このような課題に対し、高強度と同時に高成形性を得る手法として特許文献1や特許文献2に記載されている残留オーステナイトのマルテンサイト変態を利用したTRIP(TRansformation Induced Plasticity)鋼があり、近年用途が拡大しつつある。しかしながら、この鋼は成形時のマルテンサイト変態を利用して、優れた成形性を確保していることから、成形性確保のためには、多量の残留オーステナイトが必要であり、その確保のためには、多量のC添加が必要である。その結果、980MPa超の強度確保を考えた場合、スポット溶接性が劣化してしまうという問題を有している。
【0004】
あるいは、成形性とスポット溶接性を具備するために、鋼板中へのC添加を抑えた冷延鋼板およびめっき鋼板が、特許文献3および特許文献4にて開示されている。しかしながら、これらの文献に記載の手法では、980MPa以上の強度確保を考えた場合、Cの多量添加は不可欠であり、スポット溶接性と優れた成形性を同時に具備することは難しいという問題を有していた。
一方、主相をベイナイト組織とすることで、優れた伸びフランジ性およびスポット溶接性を具備する手法が、特許文献5および特許文献6に開示されている。しかしながら、これらの文献に記載された方法では主相がベイナイト組織であるため、伸びが低く成形性に劣るという問題を有していた。
【0005】
これに対し、主相であるフェライトと硬質組織であるマルテンサイトの硬度差を低減させ、フェライト及びマルテンサイトよりなる複合組織鋼板の穴拡げ性を向上させる手法がある。硬質組織であるマルテンサイトを焼戻すことで軟質化させ、フェライト組織との硬度差を低下させ穴拡げ性を改善可能であることが非特許文献1に示されている。
しかしながら、マルテンサイト組織の軟質化による穴拡げ性の向上は、マルテンサイト組織の強化能の減少を意味することから、強度低下をC添加量の増加によるマルテンサイト体積率の増加によって補わねばならず、980MPa以上の強度確保を考えた場合、スポット溶接性に劣るという問題を有していた。加えて、高強度と優れた穴拡げ性の両立を考えると、マルテンサイト体積率が多くなり、延性の劣化が大きいという問題も有している。これに対し、硬質組織の硬度を低減させるのではなく、Siの固溶強化を用いて、軟質組織の硬度を増加させることで穴拡げ性を向上させる手法(例えば、非特許文献1)、あるいは、TiやNbを単独あるいは複合添加することで、フェライト組織を析出強化し穴拡げ性を向上させる手法(例えば、非特許文献2)がある。
【0006】
しかしながら、Siの固溶強化による硬度差の低減と穴拡げ性向上を行うためには、多量のSi添加が必要であり、化成性、めっき性及び溶接性を低下させるという問題を有している。一方では、TiやNb添加による穴拡げ性の向上は、TiやNbの炭窒化物の析出が熱延時に起こることから、熱延鋼板に対する活用は可能なものの、その後、冷延-熱処理を行う冷延鋼板やめっき鋼板では、その析出強化能が低下することから、多量のTiやNb添加が必要であるが、これら元素は再結晶を大幅に遅延し延性を低下させることから、制御し難いという問題を有していた。
【非特許文献1】CAMP-ISIJ vol.13(2000),p391
【非特許文献2】CAMP-ISIJ vol.13(2000),p411
【特許文献1】特開平1−230715号公報
【特許文献2】特開平2−217425号公報
【特許文献3】特開2001−152287号公報
【特許文献4】特開2001−226742号公報
【特許文献5】特開2004−256906号公報
【特許文献6】特開平11−279691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、最大引張強度(TS)が980MPa以上で、延性、穴拡げ性、曲げ性等の成形性とスポット溶接性に優れた高強度冷延鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、最大引張強度(TS)が980MPa以上で、延性、穴拡げ性、曲げ性等の成形性とスポット溶接性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板及び高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板とそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意、検討を重ねた結果、鋼板にSi、Mo、BおよびTiを複合添加させ、かつその他の合金元素を適正量添加し、主相であるフェライトを強化し、第二相として高強度化に寄与しているマルテンサイトやベイナイト組織とフェライトとの硬度差を小さくすることで、980MPa以上の引張強度、穴拡げ性、曲げ性や延性等の成形性に優れ、かつ、溶接性に優れた鋼板を製造できることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は成形性と溶接性に優れる高強度冷延鋼板、高強度溶融亜鉛めっき鋼板及び高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板と、それらの製造方法であって、それらの要旨は以下の通りである。
(1)本発明の成形性と溶接性に優れた高強度冷延鋼板は、質量%で、C:0.075〜0.1%未満、Si:0.4〜0.8%、Mn:1.9〜2.3%、Mo:0.1〜0.35%、Ti:0.014〜0.029%、B:0.0001〜0.0045%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下、O:0.001〜0.0045%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、引張強度980MPa以上であることを特徴とする。
(2)本発明の成形性と溶接性に優れた高強度冷延鋼板は、上記(1)に記載の高強度冷延鋼板に、さらに、鋼中に質量%で、Nb:0.001〜0.029%を含有することを特徴とする。
(3)本発明の成形性と溶接性に優れた高強度冷延鋼板は、上記(1)又は(2)に記載の高強度冷延鋼板に、さらに、鋼中に質量%で、Cr:0.005〜3%を含有することを特徴とする。
(4)本発明の成形性と溶接性に優れた高強度冷延鋼板は、上記(1)及至(3)のいずれかに記載の高強度冷延鋼板に、さらに、鋼中に質量%で、Ca、Mg、La、Ce、Yから選ばれる1種または2種以上を合計で0.005〜0.04%含有することを特徴とする。
(5)本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の高強度冷延鋼板の表面に溶融亜鉛めっきが施されていることを特徴とする。
(6)本発明の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の高強度冷延鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっきが施されていることを特徴とする。
【0010】
(7)本発明の成形性と溶接性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法は、上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の化学成分からなる鋳造スラブを直接または一旦冷却した後1200℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、630℃以下の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷間圧延を施し、次いで、連続焼鈍ラインを通板するに際して、580〜750℃の温度範囲を平均加熱速度0.8℃/秒以上にて加熱し、750℃以上かつ900℃以下で焼鈍し、400℃〜200℃間の温度域に冷却後、400℃〜200℃間の温度域で30秒以上保持することを特徴とする。
(8)本発明の成形性と溶接性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の化学成分からなる鋳造スラブを直接または一旦冷却した後1200℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、630℃以下の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷間圧延を施し、次いで、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際し、580〜750℃の温度範囲を平均加熱速度0.8℃/秒以上にて加熱し、750℃以上かつ900℃以下で焼鈍し、亜鉛めっき浴温度より40℃低い温度から前記亜鉛めっき浴温度より50℃高い温度までの温度範囲に冷却後、亜鉛めっき浴に浸漬することを特徴とする。
(9)本発明の成形性と溶接性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の化学成分からなる鋳造スラブを直接または一旦冷却した後1200℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、630℃以下の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷間圧延を施し、次いで、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際し、580〜750℃の温度範囲を平均加熱速度0.8℃/秒以上にて加熱し、750℃以上かつ900℃以下で焼鈍し、亜鉛めっき浴温度より40℃低い温度から前記亜鉛めっき浴温度より50℃高い温度までの温度範囲に冷却後、亜鉛めっき浴に浸漬し、460℃以上の温度で合金化処理を施した後、室温まで冷却することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、自動車用の構造用部材、補強用部材、足廻り用部材に好適な引張強度で980MPa以上の高強度と、優れた成形加工性及び溶接性を兼備する高強度冷延鋼板、高強度溶融亜鉛めっき鋼板及び高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を安価に提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。まず、優れたスポット溶接性を確保するためには、C量を0.1%未満とすることが重要である。次に、引張強度を980MPa以上とし、優れた延性、穴拡げ性及び曲げ性を具備するためには、C、Si、Mn、Mo、Ti及びBを同時に添加し、かつ、あるバランスで制御することが極めて重要であることを見出した。鋼板成分を適正な範囲とすることで、延性、曲げ性、穴拡げ性及びスポット溶接性の良好なバランスの良い高強度鋼板を得ることが出来る。
【0013】
以下に、本発明について詳細に説明する。
まず、成分の限定理由について説明する。なお、本明細書において%は質量%を意味する。
C:Cは、鋼板の強度を上昇できる元素である。しかしながら、0.075%未満であると980MPa以上の引張強度と成形加工性を両立することが難しくなる。一方、0.1%以上となるとスポット溶接性の確保が困難となる。このため、その範囲を0.075〜0.1%未満(0.075以上、0.1%未満)に限定した。
Si:Siは、強化元素であり、鋼板の強度を上昇させることに有効である。しかしながら、0.4%未満であると伸びの劣化による成形性の低下が顕著になり、また0.8%を超えると化成処理性あるいは亜鉛めっき鋼板の場合はめっきの濡れ性が低下する。従って、Si含有量は0.4〜0.8%(0.4%以上、0.8%以下)の範囲に制限した。より好ましい範囲は、0.5〜0.7%である。
Mn:Mnは、強化元素であり、鋼板の強度を上昇させることに有効である。しかしながら、1.9%未満であると980MPa以上の引張強度を得ることが困難である。逆に多いとP、Sとの共偏析を助長し、曲げ性や伸び穴拡げ性の著しい劣化を招くことから、2.3%を上限とする。即ち、Mn含有量は、1.9%以上、2.3%以下の範囲であり、より好ましい範囲は、2.0〜2.2%である。
【0014】
TiとBを複合添加することで、鋼板の強度、延性、曲げ性及び穴拡げ性の具備が可能となる。
Ti:Tiは、強化元素である。析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転位強化にて、鋼板の強度上昇に寄与することから、その添加は極めて重要であるのに加えて、Tiは強力な窒化物形成元素であることから、Bに比較して、Nと優先的に結び付くことで、熱間圧延後の鋼板組織中に固溶状態のBを確保可能となることから、冷延及び焼鈍時の組織制御にB添加効果を発揮させるためにはその添加は必須である。加えて、Tiは、Alに比較して、Nと優先的に結び付くことで、微細な窒化物を形成し、粗大なAlNの形成を抑制し、曲げ性の劣化を抑制することから、特に、重要である。また、主相であるフェライトの硬質化をもたらすことから、強化相であるベイナイト及びマルテンサイト組織との硬度差を低下させ曲げ性及び穴拡げ性を向上させる。これらの効果は、0.014%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.014%とした。0.029%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化するため、上限値を0.029%とした。即ち、Ti含有量は、0.014%以上、0.029%以下の範囲である。
Bは、0.0001%以上の添加で粒界の強化や鋼材の強度化に有効であるが、その添加量が0.0045%を超えると、その効果が飽和するばかりでなく、熱延時の製造製を低下させることから、その上限を0.0045%とした。即ち、B含有量は、0.0001%以上、0.0045%以下の範囲である。
P:Pは鋼板の板厚中央部に偏析する傾向があり、溶接部を脆化させる。0.04%を超えると溶接部の脆化が顕著になるため、その適正範囲を0.04%以下に限定した。Pの下限値は特に定めないが、0.0001%未満とすることは、経済的に不利であることからこの値を下限値とすることが好ましい。
S:Sは、溶接性ならびに鋳造時および熱延時の製造性に悪影響を及ぼす。このことから、その上限値を0.01%以下とした。Sの下限値は特に定めないが、0.0001%未満とすることは、経済的に不利であることからこの値を下限値とすることが好ましい。
【0015】
Al:Alは、フェライト形成を促進し、延性を向上させるので添加しても良い。また、脱酸材としても活用可能である。しかしながら、過剰な添加はAl系の粗大介在物を形成し、表面傷や穴拡げ性の劣化の原因になる。このことから、Al添加の上限を0.1%とした。下限は、特に限定しないが、0.0005%以下とするのは困難であるのでこれが実質的な下限である。
N:Nは、粗大な窒化物を形成し、曲げ性や穴拡げ性を劣化させることから、添加量を抑える必要がある。これは、Nが0.01%を超えると、この傾向が顕著となることから、N含有量の範囲を0.01%以下とした。加えて、溶接時のブローホール発生の原因になることから少ない方が良い。下限は、特に定めることなく本発明の効果は発揮されるが、N含有量を0.0005%未満とすることは、製造コストの大幅な増加を招くことから、これが実質的な下限である。
O:Oは、酸化物を形成し、曲げ性や穴拡げ性を劣化させることから、添加量を抑える必要がある。加えて、Oは、NよりもTiと優先的に化合物を形成することから、O含有量が多いと、Tiは酸化物として存在する割合が多く、粗大なAlNの形成を促進することから、曲げ性や穴拡げ性をさらに劣化させる。これは、Oが0.0045%を超えると、この傾向が顕著となることから、O含有量の上限を0.0045%以下とした。0.0010%未満とすることは、過度のコスト高を招き経済的に好ましくないことから、これを下限とした。
Nb:Nbは、強化元素である。析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転位強化にて、鋼板の強度上昇に寄与することから、その添加は極めて重要である。また、主相であるフェライトの硬質化をもたらすことから、強化相であるベイナイト及びマルテンサイト組織との硬度差を低下させ曲げ性及び穴拡げ性を向上させる。これらの効果は、0.001%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.001%とした。0.029%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化するため、上限値を0.029%とした。
【0016】
Cr:Crは、強化元素であるとともに焼入れ性の向上に重要である。しかし、0.005%未満ではこれらの効果が得られないため下限値を0.005%とした。逆に、3%超含有すると製造時および熱延時の製造性に悪影響を及ぼすため、上限値を3%とした。
Ca、Mg、La、Ce、Yから選ばれる1種または2種以上を合計で0.0005〜0.04%(0.0005%以上、0.04%以下)添加できる。Ca、Mg、La、CeおよびYは脱酸に用いる元素であり、1種または2種以上を合計で0.0005%以上含有することが好ましい。しかしながら、含有量が合計で0.04%を超えると、成形加工性の悪化の原因となる。そのため、含有量を合計で0.0005〜0.04%とした。 なお、本発明において、LaやCeはミッシュメタルにて添加されることが多く、LaやCeの他にランタノイド系列の元素を複合で含有する場合がある。不可避不純物として、これらLaやCe以外のランタノイド系列の元素を含んだとしても本発明の効果は発揮される。ただし、金属LaやCeを添加したとしても本発明の効果は発揮される。
なお、本発明組成において、その他の不可避不純物として、Ni、Cuを合計で0.05%未満含んでも良い。
【0017】
鋼板中に含まれる各組織の分率は特に定めることなく、本発明の効果は発揮されるが、優れた延性を確保するためには、主相をフェライトとすることが望ましい。なお、フェライト相の形態としてはポリゴナルフェライトの他に、アシキラーフェライト、回復した未再結晶フェライトを含むものとする。鋼板の高強度化を目的に、マルテンサイト及びベイナイト組織のうち1種又は2種を含有しても良い。ベイナイト組織とマルテンサイト組織の分率については、特に、限定することなく本発明の効果は発揮されるが、マルテンサイトに比較して、ベイナイト組織体積率が大きいと、より優れた延性と曲げ性及び穴拡げ性のバランスが得られる。更なる延性の向上を目的に、オーステナイト相を含んでも構わない。
なお、上記ミクロ組織の各相、フェライト、マルテンサイト、ベイナイト、オーステナイトおよび残部組織の同定、存在位置の観察および面積率の測定は、ナイタール試薬および特開59−219473号公報に開示された試薬により鋼板圧延方向断面または圧延方向直角方向断面を腐食して、1000倍の光学顕微鏡観察及び1000〜100000倍の走査型および透過型電子顕微鏡により定量化が可能である。なお、回復した未再結晶フェライトとラスベイナイト組織の分離は、FESEM−EBSP法の結晶方位マッピングにより行い、粒内で連続的に方位が変化しているフェライト相あるいは回復して微細なセル構造を有しているフェライト相については未再結晶フェライト相と判断する。各20視野以上の観察を行い、ポイントカウント法や画像解析により各組織の面積率を求めることが出来る。
【0018】
本発明において、フェライトの結晶粒径については特に限定しないが、強度、伸び、穴拡げ性のバランスの観点から公称粒径で4μm以下であることが望ましい。
本発明では、スポット溶接性に優れる鋼板を提供する。本発明で得られる鋼板のスポット溶接性は、散り発生となる溶接電流であっても、散り発生の直前の電流で溶接した際の十字型引張試験による引張荷重(CTS)に関して、CTSの劣化代が小さいことが特徴として挙げられる。すなわち、通常の鋼板では散り発生を伴う溶接を行うと、CTSが大きく低下したりCTSのばらつきが大きくなったりするのに対して、本発明の鋼板ではCTSの低下率やばらつきが小さい。散り発生領域での溶接電流値としては、散り発生の電流値(CEとする)に1.5kAを加えた電流値とする。溶接電流をCEとする溶接を5回行ったときのCTSの平均値を1としたとき、溶接電流を(CE+1.5kA)とする試験を5回行ったときのCTSの最低値が0.7以上となる。好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上である。なお、CTSはJIS Z 3137の方法に準拠して評価する。
【0019】
本発明の鋼は、上述の通りスポット溶接に対して特に優れた特性を示す他、通常行われる溶接方法、たとえば、アーク、TIG、MIG、マッシュシーム及びレーザー等の溶接方法にも適する。
なお、本発明では優れた延性、曲げ性及び穴拡げ性を有し成形加工性に優れる鋼板を提供する。延性に関しては、具体的にはTS(MPa)×引張試験の全伸び(El)(%)で18000(MPa×%)以上を有するものを優れた延性を有するものと定義する。穴拡げ性に関しては、具体的にはTS(MPa)×穴拡げ率(λ)(%)で30000(MPa×%)以上を有するものを優れた穴拡げ性を有するものと定義する。
TS(MPa)×穴拡げ率(λ)(%)が30000(MPa)を下回ると、伸びフランジ成形の際に亀裂を生じ易くなることから、その下限値を30000(MPa)とした。
曲げ性に関しては、圧延方向と垂直方向に100mm、圧延方向に30mmの試験片を採取し、90°曲げ時の割れ発生限界曲げ半径にが、0.5mmとなるものを優れた曲げ性を有するものと定義する。
熱間圧延に供するスラブは特に限定するものではない。すなわち、連続鋳造スラブや薄スラブキャスターなどで製造したものであればよい。また、鋳造後に直ちに熱間圧延を行う連続鋳造-直接圧延(CC-DR)のようなプロセスにも適合する。
【0020】
熱延スラブ加熱温度は、鋳造中時に析出した炭窒化物を再溶解させる必要があるので、1200℃以上にする必要がある。上限は特に定めることなく、本発明の効果は発揮されるが、加熱温度を過度に高温にすることは、経済上好ましくないことから、加熱温度の上限は1300℃未満とすることが望ましい。
仕上げ圧延温度はオーステナイト+フェライトの2相域になると、鋼板内の組織不均一性および材質の異方性が大きくなり、焼鈍後の成形加工性が劣化するので、Ar3温度以上が望ましい。
なお、Ar3温度は次の式により計算する。
Ar3=901−325×C+33×Si−92×(Mn+Ni/2+Cr/2+Cu/2+Mo/2)
【0021】
巻き取り温度は630℃以下にする必要がある。630℃を超えると熱延組織中に粗大なフェライトやパーライト組織が存在するため、焼鈍後の組織不均一性が大きくなり、最終製品の曲げ性や穴拡げ性が劣化する。焼鈍後の組織を微細にして強度延性バランスを向上させる観点からは600℃以下で巻き取ることがより好ましい。下限については特に定めることなく本発明の効果は発揮されるが、室温以下の温度で巻き取ることは技術的に難しいので、これが実質の下限となる。なお、熱延時に粗圧延板同士を接合して連続的に仕上げ圧延を行っても良い。また、粗圧延板を一旦巻き取っても構わない。
このようにして製造した熱延鋼板に、必要に応じて酸洗を行っても良い。酸洗は鋼板表面の酸化物の除去が可能であることから、化成処理性およびめっき性向上のためには重要である。酸洗は、インラインで行っても良いし、オフラインで行っても良い。また、一回の酸洗を行っても良いし、複数回に分けて酸洗を行っても良い。
【0022】
酸洗した熱延鋼板を圧下率40〜70%で冷間圧延して、連続焼鈍ラインまたは連続溶融亜鉛めっきラインに通板する。圧下率が40%未満では、形状を平坦に保つことが困難である。また、最終製品の延性が劣悪となるのでこれを下限とする。一方、70%を越える冷延は、冷延荷重が大きくなりすぎてしまい冷延が困難となることから、これを上限とする。45〜65%より好ましい範囲である。圧延パスの回数、各パス毎の圧下率については特に規定することなく本発明の効果は発揮される。
連続焼鈍ラインを通板する場合の580〜750℃の温度範囲での加熱速度は0.8℃/秒以上とする必要がある。Tiを用いた強化を行っていることから、加熱時の粒成長および再結晶の制御は極めて重要である。詳細なメカニズムは不明であるものの、加熱速度が0.8℃/秒未満であると、粒成長や再結晶が進行しすぎてしまい、曲げ性及び穴拡げ性の劣化を招く。このことから下限を0.8℃/秒とした。一方、上限は特に定めることなく本発明の効果は発揮されるが、加熱速度を100℃超とすることは、過度の設備投資を招き、経済的に好ましくないことから、これが実質的な上限である。
最高加熱温度は、750〜900℃の範囲である。最高加熱温度が750℃未満になると、熱延時に形成した炭化物が再固溶するのに時間がかかりすぎてしまい炭化物、あるいは、その一部が残存することから、980MPa以上の強度が確保できない。さらには、鋼板中に残存する粗大な炭化物は、穴拡げ性の劣化をもたらす。このことから、750℃が最高加熱温度の下限である。一方、過度の高温加熱は、コストの上昇を招くことから経済的に好ましくないばかりでなく、高温通板時の板形状が劣悪になったり、ロールの寿命を低下させたりとトラブルを誘発することから、最高加熱温度の上限を900℃とする。この温度域での熱処理時間は特に限定しないが、炭化物の溶解のために、10秒以上の熱処理が望ましい。一方、熱処理時間が600秒超となると、コストの上昇を招くことから経済的に好ましくない。熱処理についても、最高加熱温度にて等温保持を行っても良いし、傾斜加熱を行い最高加熱温度に到達した後、直ちに、冷却を開始したとしても、本発明の効果は発揮される。
【0023】
上記焼鈍終了後、200〜400℃まで冷却する。この際の冷却速度あるいは冷却開始温度は、特に限定せず本発明の効果は発揮される。特に、本鋼は、MoやBを多く含むことから、冷却過程での組織変化が抑制され、冷却速度を小さくしたとしても、組織変化が起こらず、材質上は何ら問題を生じない。冷却速度を大きくしたとしても、材質上なんら問題はないが、過度に冷却速度を上げる事は、製造コスト高を招くこととなるので、上限を200℃/秒とすることが好ましい。冷却方法については、ロール冷却、空冷、水冷およびこれらを併用したいずれの方法でも構わない。
また連続焼鈍ラインの場合、過時効帯を利用して、400℃以下の温度範囲で、30秒以上の熱処理を行っても良い。過時効帯内における平均板温度が400℃超であると、鋼板中に含まれるマルテンサイト体積率が減少することから、引張最大強度980MPaと優れた溶接性の両立が困難になる。一方、下限の温度は特に定めることなく本発明の効果は発揮されるが、200℃未満での熱処理は効果がないばかりでなく、過度の冷却を必要とすることから好ましくないので、下限を200℃とした。保持時間とは、単なる等温保持だけでなく、200〜400℃の温度範囲の滞留時間を意味し、この温度域での除冷や加熱も含まれる。
熱処理後のスキンパス圧延の圧下率は、0.1〜1.5%の範囲が好ましい。0.1%未満では効果が小さく、制御も困難であることから、これが下限となる。1.5%を超えると生産性が著しく低下するのでこれを上限とする。スキンパスは、インラインで行っても良いし、オフラインで行っても良い。また、一度に目的の圧下率のスキンパスを行っても良いし、数回に分けて行っても構わない。
【0024】
冷延後に溶融亜鉛めっきラインを通板する場合の580〜750℃の温度範囲での加熱速度も、連続焼鈍ラインを通板する場合と同様の理由により、0.8℃/秒以上とする。最高加熱温度も連続焼鈍ラインを通板する場合と同様の理由により、750〜900℃とする。焼鈍後の冷却に関しても、連続焼鈍ラインを通板する場合と同様の理由により、特段定めることなく本発明の効果を発揮できる。
めっき浴浸漬板温度は、溶融亜鉛めっき浴温度より40℃低い温度から溶融亜鉛めっき浴温度より50℃高い温度までの温度範囲とすることが望ましい。浴浸漬板温度が溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃を下回ると、めっき浴浸漬進入時の抜熱が大きく、溶融亜鉛の一部が凝固してしまいめっき外観を劣化させる場合があることから、下限を(溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃とする。ただし、浸漬前の板温度が(溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃を下回っても、めっき浴浸漬前に再加熱を行い、板温度を(溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃以上としてめっき浴に浸漬させても良い。また、めっき浴浸漬温度が(溶融亜鉛めっき浴温度+50)℃を超えると、めっき浴温度上昇に伴う操業上の問題を誘発する。また、めっき浴は、純亜鉛に加え、Fe、Al、Mg、Mn、Si、Crなどを含有しても構わない。
【0025】
また、めっき層の合金化を行う場合には、460℃以上で行う。合金化処理温度が460℃未満であると合金化の進行が遅く、生産性が悪い。上限は特に限定しないが、600℃を超えると、パーライト変態が起こり硬質組織(マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイト)体積率を減少させ、引張強度980MPa以上の確保が難しくなるので、これが実質的な上限である。また、めっき浴浸漬前に、500〜200℃の温度範囲にて、付加的な熱処理を行っても良い。溶融亜鉛めっき鋼板にスキンパス圧延を施しても構わない。
また、めっき密着性をさらに向上させるために、焼鈍前に鋼板に、Ni、Cu、Co、Feの単独あるいは複数より成るめっきを施しても本発明を逸脱するものではない。
さらには、めっき前の焼鈍については、「脱脂酸洗後、非酸化雰囲気にて加熱し、H及びNを含む還元雰囲気にて焼鈍後、めっき浴温度近傍まで冷却し、めっき浴に侵漬」というゼンジマー法、「焼鈍時の雰囲気を調節し、最初、鋼板表面を酸化させた後、その後還元することによりめっき前の清浄化を行った後にめっき浴に侵漬」という全還元炉方式、あるいは、「鋼板を脱脂酸洗した後、塩化アンモニウムなどを用いてフラックス処理を行って、めっき浴に侵漬」というフラックス法等があるが、いずれの条件で処理を行ったとしても本発明の効果は発揮できる。また、めっき前の焼鈍の手法によらず、加熱中の露点を―20℃以上とすることで、めっきの濡れ性やめっきの合金化の際の合金化反応に有利に働く。
なお、本冷延鋼板を電気めっきしても鋼板の有する引張強度、成形性、溶接性を何ら損なうことはない。すなわち、本発明鋼板は電気めっき用素材としても好適である。
また、本発明の加工性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板の素材は、通常の製鉄工程である精錬、製鋼、鋳造、熱延、冷延工程を経て製造されることを原則とするが、その一部あるいは全部を省略して製造されるものでも、本発明に係わる条件を満足する限り、本発明の効果を得ることができる。
【実施例】
【0026】
[実施例1]
次に、本発明を実施例により詳細に説明する。
表1に示す成分を有するスラブを、1220℃に加熱し、仕上げ熱延温度900℃にて熱間圧延を行い、水冷帯にて水冷の後、表2に示す温度で巻き取り処理を行った。熱延板を酸洗した後、厚み3mmの熱延板を1.2mmまで冷延を行い、冷延板とした。その後、これらの冷延板に表2に示す条件で焼鈍熱処理を行い、焼鈍温度から650℃までを4℃/秒で、その後、各温度まで40℃/秒にて冷却し、各温度にて付加的な熱処理を250秒間行い、その後室温まで冷却した。最後に、得られた鋼板について0.4%の圧下率でスキンパス圧延を行った。
一部の鋼板については、上記と同様の手法で冷延まで行い、連続合金化溶融亜鉛めっき設備にて、熱処理と溶融亜鉛めっき処理を施した。溶融亜鉛めっきを施す鋼板については、焼鈍の後、650℃−460℃間を冷却し、その後、亜鉛めっき浴に通板し、室温まで10℃/秒の冷却速度で室温まで冷却した。合金化処理を行うものについては、亜鉛めっき浴に通板の後、500℃で30秒の合金化処理を行い、室温まで10℃/秒の冷却速度で室温まで冷却し、最後に、得られた鋼板について0.4%の圧下率でスキンパス圧延を行った。一部の鋼板については、めっき処理に引き続き合金化処理を行った。その際の目付け量としては、両面とも約50g/mとした。めっき後の鋼板に、0.4%スキンパス圧延を施した。
【0027】
得られた冷延焼鈍板あるいは亜鉛めっき板について、引張試験を行い、YS,TS,Elを測定した。なお、降伏応力は0.2%オフセット法により測定した。
引張試験は、1.2mm厚の板から圧延方向に直角方向にJIS5号試験片を採取し、引張特性を評価した。強度(TS)−全伸び(El)のバランス(TS×E1)が18000(MPa・%)を超えるものを、穴拡げ性に優れた高強度鋼板とした。
穴拡げ性は、直径10mmの円形穴を、クリアランスが12.5%となる条件にて打ち抜き、かえりがダイ側となるようにし、60°円錐ポンチにて成形し、穴拡がり率λ(%)により評価した。強度−穴拡げ性(λ)のバランス(TS×λ)が30000(MPa・%)を超えるものを、穴拡げ性に優れた高強度鋼板とした。
曲げ性に関しては、圧延方向と垂直方向に100mm、圧延方向に30mmの試験片を採取し、90°曲げの割れ発生限界曲げ半径によって評価した。すなわち、ポンチ先端部の曲げ半径を0.5〜5.0mmまで、0.5mm刻みで曲げ性を評価し、割れ発生のない最小曲げ半径を限界曲げ半径と定義した。
スポット溶接性は次の条件で行った。電極(ドーム型):先端径6mmφ、加圧力 4.3kN、溶接電流:散り発生直前の電流(CE)及び(CE+1.5)kA、溶接時間:14サイクル、保持時間:10サイクル。溶接後、JIS Z 3137に従って、十字引張試験を行った。溶接電流をCEとする溶接を10回行い、その中の最低値をCTS(CE)とした。これに対し、溶接電流を散り発生領域である(CE+1.5)kAとする溶接を10回行った時のCTSの最低値をCTS(CE+1.5)とした。これら値の比(=CTS(CE+1.5)/CTS(CE))が、0.7未満を×、0.7以上0.8未満を△、0.8以上を○とした。
【0028】
めっき性、合金化反応はそれぞれ下記のように評価した。
・めっき性
○:不めっきなし
△:不めっき若干あり
×:不めっき多数あり
・合金化反応性
○:表面外観に合金化ムラなし
△:表面外観に合金化ムラ若干あり
×:表面外観に合金化ムラ多い
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
測定した引張特性、曲げ性、穴拡げ性、めっき性、合金化反応性、スポット溶接性を表2、表3、表4に示す。本発明の鋼板はいずれも溶接性に優れ、延性、穴拡げ性及び曲げ性にも優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、自動車用の構造用部材、補強用部材、足廻り用部材に好適な、TSで980MPa以上の高強度と優れた延性、曲げ性、穴拡げ性及び溶接性を兼備する鋼板を安価に提供するものであり、自動車の軽量化に大きく貢献することが期待でき、産業上の効果は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.075〜0.1%未満、Si:0.4〜0.8%、Mn:1.9〜2.3%、Mo:0.10〜0.35%、Ti:0.014〜0.029%、B:0.0001〜0.0045%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下、O:0.0010〜0.0045%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、引張強度980MPa以上であることを特徴とする成形性と溶接性に優れた高強度冷延鋼板。
【請求項2】
さらに、鋼中に質量%で、Nb:0.001〜0.029%を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度冷延鋼板。
【請求項3】
さらに、鋼中に質量%で、Cr:0.005〜3%を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高強度冷延鋼板。
【請求項4】
さらに、鋼中に質量%で、Ca、Mg、La、Ce、Yから選ばれる1種または2種以上を合計で0.0005〜0.04%含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の高強度冷延鋼板。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の高強度冷延鋼板の表面に溶融亜鉛めっきが施されていることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の高強度冷延鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっきが施されていることを特徴とする高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の化学成分からなる鋳造スラブを直接または一旦冷却した後1200℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、630℃以下の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷間圧延を施し、次いで、連続焼鈍ラインを通板するに際して、580〜750℃の温度範囲を平均加熱速度0.8℃/秒以上にて加熱し、750℃以上かつ900℃以下で焼鈍し、400℃〜200℃間の温度域まで冷却後、400℃〜200℃間の温度域で30秒以上保持することを特徴とする成形性と溶接性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の化学成分からなる鋳造スラブを直接または一旦冷却した後1200℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、630℃以下の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷間圧延を施し、次いで、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際し、580〜750℃の温度範囲を平均加熱速度0.8℃/秒以上にて加熱し、750℃以上かつ900℃以下で焼鈍し、亜鉛めっき浴温度より40℃低い温度から前記亜鉛めっき浴温度より50℃高い温度までの温度範囲に冷却後、亜鉛めっき浴に浸漬することを特徴とする成形性と溶接性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の化学成分からなる鋳造スラブを直接または一旦冷却した後1200℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、630℃以下の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷間圧延を施し、次いで、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際し、580〜750℃の温度範囲を平均加熱速度0.8℃/秒以上にて加熱し、750℃以上かつ900℃以下で焼鈍し、亜鉛めっき浴温度より40℃低い温度から前記亜鉛めっき浴温度より50℃高い温度までの温度範囲に冷却後、亜鉛めっき浴に浸漬し、460℃以上の温度で合金化処理を施した後、室温まで冷却することを特徴とする成形性と溶接性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2007−231369(P2007−231369A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54717(P2006−54717)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】