説明

成膜装置および成膜方法

【課題】AD法によって成膜を行う成膜装置において、エアロゾルの流れを安定化して均一な膜形成を行なうことのできる成膜装置を提供することにある。
【解決手段】成膜装置1には、噴出口25の長手方向の側方に設けられてこの噴出口25から噴射されたエアロゾルの噴射流E1の側方を覆う遮蔽板26が備えられている。これにより、排気流Fによって噴射流E1が乱れることを抑制し、均一な膜を形成できる。特に、噴射流が大きく流れる噴出口24の長手方向の側方で流れを遮るように遮蔽板26を設置することで効果的に噴射流E1の乱れを抑制できる。また、遮蔽板26が、成膜チャンバ20内部での排気口21に向かう排気流Fに対して交差方向に配されている。また、遮蔽板26は一対が噴射流E1を挟んで互いに対向して設けられている。また、遮蔽板26は噴射流E1に相対する内側面が凹面26Aとされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置および成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタのインクジェットヘッド等に用いられる圧電アクチュエータの圧電膜の製造方法として、エアロゾルデポジション法(AD法)と呼ばれるものがある。これは、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電材料の微粒子を気体中に分散させたもの(エアロゾル)を基板表面に向けて噴射させ、微粒子を基板上に衝突・堆積させることにより圧電膜を形成させるものである。この製法は、圧電材料の成膜に限られず、セラミックス材料や金属材料の成膜にも利用されている。
【0003】
例えば特許文献1(特開2003−293159号公報)には、このようなAD法を使用して成膜を行うための装置が開示されている。この装置は、エアロゾルを発生させるためのエアロゾル形成室と、発生したエアロゾルの基板への噴き付けを行うための成膜室と、成膜室の内部に備えられたノズルとを備えている。成膜室に接続された排気ポンプを作動させると、エアロゾル形成室で発生したエアロゾルは、エアロゾル形成室と成膜室との間の差圧により、高速に加速されて噴出ノズルから噴出する。噴出したエアロゾルに含まれる材料粒子は基板に衝突して堆積し、この基板上に膜を形成する。
【特許文献1】特開2003−293159公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このような装置では、噴出ノズルから噴出したエアロゾルの流れが、排気ポンプによる排気流に引きずられて排気方向に流されることがある。このような場合には、材料粒子が排気方向に厚く堆積してしまい、均一な膜形成が阻害される。
【0005】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、AD法によって成膜を行う成膜装置において、排気口の位置にかかわらず、エアロゾルの流れを安定化して均一な膜形成を行なうことのできる成膜装置および成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明の第1の態様に従えば、成膜を行うための成膜室と、前記成膜室に接続されてこの成膜室内の気体を外部に排気する排気装置と、前記成膜室内に設けられて被処理材を保持するホルダと、前記成膜室内に設けられて、スリット状に形成された噴出口を備えるとともに材料粒子を含むエアロゾルを前記噴出口から前記被処理材に向けて噴射することにより前記被処理材上に前記材料粒子からなる膜を形成する噴出ノズルと、前記噴出口における長手方向の側方に設けられてこの噴出口から前記被処理部材に向けて噴射される前記エアロゾルの噴射流の側方を覆う遮蔽部材と、を備える成膜装置が提供される。
本発明の第2の態様に従えば、材料粒子を含むエアロゾルを調製することと、前記エアロゾルを成膜室においてノズルから噴出することと、前記ノズルから噴出されたエアロゾル噴射流をガイド部材でガイドしながら前記成膜室のホルダに保持される被処理材に導くこと、を備える成膜方法が提供される。
本発明の成膜装置および成膜方法では、遮蔽部材またはガイド部材が排気流によるエアロゾルの流れの乱れを抑制できるから、排気口の位置にかかわらず膜を均一に形成することができる。特に、エアロゾルの噴射流はスリット幅方向(短手方向)よりもスリット長さ方向(長手方向)に沿う方向に大きく流れる傾向にあるから、この長さ方向の側方でガス流を遮るように遮蔽部材またはガイド部材を設置することが効果的である。
【0007】
本発明の成膜装置および成膜方法において、前記遮蔽部材およびガイド部材は、一対が互いに対向して設けられてもよい。この場合、一対の遮蔽部材に挟まれた領域内でエアロゾルが噴射されることとなるから、エアロゾルの噴射流をより安定化し、膜を均一に形成することができる。
【0008】
本発明の成膜装置および成膜方法において、前記成膜室には前記排気装置が接続される排気口が備えられ、前記遮蔽部材およびガイド部材が、前記排気口に向かう前記エアロゾルの排気流に対して交差方向に配されてもよい。この場合、噴出口から排気口へと向かう気流が遮断されるから、排気流による噴射流の乱れを効果的に低減することができる。
【0009】
本発明の成膜装置および成膜方法において、前記遮蔽部材およびガイド部材の前記噴射流に面する内側面は、前記噴射流の噴射方向に沿う方向の中心位置が前記噴射流から離れる側に凹む円弧面とされてもよい。また本発明の成膜方法において、前記エアロゾル噴射流を前記被処理材に導いた後、被処理材に衝突して跳ね返ったエアロゾルを、前記ガイド部材の内側面に沿って前記エアロゾル噴射流に合流させて循環流を発生させることを含んでもよい。この場合、被処理材に衝突して跳ね返ったエアロゾルがこの円弧面に沿って湾曲し、噴出口から被処理材に向かうエアロゾルの噴射流に合流する。このようなエアロゾルの循環により、跳ね返ったエアロゾルに含まれる、被処理材に固着しなかった材料粒子が再利用されることとなるから、成膜効率の向上が図れる。また、エアロゾル合流位置では、循環流が噴射流に対して側方からぶつかり、噴射流に対してせん断力を与え、これにより、凝集した材料粒子が破砕されて微粉化する。これにより、薄く均一で性能の良い膜を形成することができる。
【0010】
本発明の成膜装置および成膜方法において、前記遮蔽部材およびガイド部材が、前記ホルダの被処理部材取り付け領域の側方に取り付けられてもよい。この場合、遮蔽部材またはガイド部材をノズルに取り付ける場合と比較して、ホルダに取り付け代を確保しやすいため、遮蔽部材を安定して取り付けることができる。
【0011】
本発明の成膜装置および成膜方法において、前記遮蔽部材およびガイド部材が噴出ノズルの噴出口の側方に取り付けられてもよい。この場合、遮蔽部材またはガイド部材を噴出口から噴出するエアロゾルの噴射流の幅をカバーできるだけの大きさとすればよいから、遮蔽部材が小型で済む。
【0012】
本発明の成膜装置および成膜方法において、前記遮蔽部材およびガイド部材が着脱可能に取り付けられてもよい。この場合、遮蔽部材またはガイド部材が汚れたり破損したりしたとき、この遮蔽部材またはガイド部材を成膜装置から取り外してメンテナンスに供することができるため、便利である。
【0013】
本発明の成膜装置および成膜方法において、前記遮蔽部材およびガイド部材の前記内側面の硬度がHV450以上であってもよい。このように、エアロゾルに含まれる材料粒子が衝突した際に、めり込まず跳ね返る程度の硬度としておくことによって、材料粒子が遮蔽部材またはガイド部材に固着することを防止できる。
【0014】
本発明の成膜装置および成膜方法において、前記遮蔽部材およびガイド部材が開閉可能に取り付けられてもよい。この場合、遮蔽部材またはガイド部材を開いた状態で被処理材の取り付けおよび取り外しができ、遮蔽部材またはガイド部材を閉じた状態で成膜することができるので、便利である。
【0015】
本発明の成膜装置において、前記排気口は、前記成膜室内において前記噴出ノズルに対して前記一対の遮蔽部材の一方と同じ側の側壁に形成されてもよい。この場合、噴出ノズルから噴出されたエアロゾルの噴射流と排気口との間が遮蔽部材によって遮られるので、排気流による噴射流の乱れを効果的に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<第1実施形態>
以下、本発明を具体化した第1実施形態について、図1〜図5を参照しつつ詳細に説明する。
【0017】
なお、以下の説明において、噴出ノズル24から基板Bに向けて吹き付けられるエアロゾルの噴射流E1に沿う方向(図1において紙面の上下方向)をZ軸方向とし、このZ軸と直交する方向のうち噴出ノズル24における噴出口25の長手方向に沿う方向(図5において紙面の左右方向)をX軸方向、短手方向に沿う方向(図5において紙面の上下方向)をY軸方向とする。
【0018】
図1には、本発明を具体化した成膜装置1の概略図を示す。この成膜装置1は、材料粒子Mをキャリアガスに分散させてエアロゾルを形成するエアロゾル発生器10、およびエアロゾルを噴出ノズル24から噴出させて基板に付着させるための成膜チャンバ20(成膜室)を備えている。
【0019】
エアロゾル発生器10には、内部に材料粒子Mを収容可能なエアロゾル室11と、このエアロゾル室11に取り付けられてエアロゾル室11を振動する加振装置12とが備えられている。エアロゾル室11には、キャリアガスを導入するためのガスボンベGが導入管13を介して接続されている。導入管13の先端はエアロゾル室11内部において底面付近に位置し、材料粒子M中に埋没するようにされている。キャリアガスとしては、例えばヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性ガスや空気、酸素等を使用することができる。
【0020】
成膜チャンバ20は矩形箱状に形成されており、その側壁部20Aには排気口21が開口されている。この排気口21には、成膜チャンバ20内を減圧するための真空ポンプP(排気装置)が、成膜後のエアロゾルから材料粒子Mを回収するための粉体回収装置30を介して接続されている。
【0021】
この成膜チャンバ20の内部には、基板B(被処理材)を支持するためのステージ22(ホルダ)と、このステージ22の下方に設置された噴出ノズル24が備えられている。
【0022】
噴出ノズル24は、全体として上下方向(Z軸方向)に延在する円筒状に形成されており、図5に示すように、上側の開口部は、スリット状の噴出口25とされている。また、下側の開口部はエアロゾル供給管14を介してエアロゾル室11に接続されており、エアロゾル室11内のエアロゾルがエアロゾル供給管14を通って噴出ノズル24に供給されるようになっている。
【0023】
図2に示すように、ステージ22は矩形板状をなし、ステージ移動機構23によって水平姿勢で天井から吊り下げられて、下面側に基板Bを保持することができるようになっている。このステージ22は基板Bよりも一回り大きく形成され、これにより、取り付けられた基板Bの端縁からのステージ22の側方への張り出し分が後述の遮蔽板26を取り付けるための取り付け代として確保されており、ここには、下面側に開口するねじ穴29が設けられている。
【0024】
ステージ移動機構23は、図示しない制御装置からの指令に応じて駆動されるものであり、ステージ22の板面と平行な面内において、このステージ22を、噴出ノズル24における噴出口25の長手方向(X軸方向)および短手方向(Y軸方向)に沿った方向に移動させる。これにより、噴出ノズル24は基板Bに対して相対移動可能とされている。すなわち、基板Bを噴出ノズル24における噴出口25の短手方向(走査方向)に沿う方向に直線移動させると、噴出ノズル24が基板Bの面上を走査し、基板Bを噴出口25の長手方向に沿う方向に直線移動させると、走査経路の変更がなされる。このようにして、噴出ノズル24の基板Bに対する相対位置を少しずつずらしながら複数回往復走査させることにより、基板Bの全面に渡ってエアロゾルの吹き付けを行うことができる。
【0025】
図3に示すように、ステージ22には、噴出口25から基板Bに向けて上方に噴射されるエアロゾルの噴射流E1の側方を遮蔽する一対の遮蔽板26(遮蔽部材)が、基板Bを挟んで噴出口25の長手方向に沿う方向に並んで取り付けられている。遮蔽板26は、矩形状のステンレス板からなり、側面(XZ平面)から見て円弧状となるように湾曲されている。2枚の遮蔽板26は、互いに凹面26A側が内側を向き、かつ、その幅方向(円弧の周方向と交差方向)が噴出ノズル24における噴出口25の短手方向(Y軸方向)に沿う姿勢で、ステージ22の端縁部から垂下されている。すなわち、一対の遮蔽板26は、円弧状の凹面26Aが間にエアロゾルの噴射流E1を挟んで互いに向かい合うように設置されている。そして、これら凹面26Aは、円弧状に形成されることによって、噴射流E1の噴射方向(Z軸方向)において略中心となる位置が噴射流E1から最も離れるように凹んでいる。
【0026】
図2に示すように、遮蔽板26の外周面上端部はステージ22においてこの遮蔽板26が取り付けられる端縁の角部の形状に合わせて切り欠かれており、この切り欠き部27の下側の壁部には、ねじSを通すための貫通孔28が上下方向(Z軸方向)に貫通して設けられている。そして、この切り欠き部27をステージ22の端縁にあてがい、貫通孔28からねじSを通してステージ22のねじ穴29にねじ付けることにより、遮蔽板26がステージ22に着脱可能に固定される。
【0027】
図2に示すステージ22に取り付けられる基板Bの端縁と遮蔽板26の内側の端縁との距離D1はおおよそ3mm以下、図3に示す噴出ノズル24の上端縁と遮蔽板26の下端縁との距離D2は上下方向(Z軸方向)におおよそ±2mmの範囲、図4に示す遮蔽板26の幅D3は噴出ノズル24による成膜範囲(基板B上で材料粒子Mが付着する範囲)の幅D4+5mm以内であることが好ましい。なお、この遮蔽板26を構成するステンレス板としては、エアロゾル中の材料粒子Mが付着しにくいよう、例えば表面のビッカース硬度HV450以上のものが使用されている。
【0028】
また、上述した排気口21は、図1に示すように、成膜チャンバ20において、噴出ノズル24から見て一対の遮蔽板26のうちいずれかが設けられた側と同じ側の側壁部20Aに位置している。これにより、噴出ノズル24から噴射されたエアロゾルの噴射流E1と排気口21との間が遮蔽板26によって遮られるようになっている。
【0029】
次に、上記のように構成された成膜装置1を用いて基板B上に膜を形成する手順について説明する。
【0030】
成膜装置1を用いて材料粒子Mの膜を形成する際には、まず、基板Bをステージ22にセットする。次いで、エアロゾル室11の内部に材料粒子Mを投入する。材料粒子Mとしては、例えば圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を使用することができる。
【0031】
そして、ガスボンベGからキャリアガスを導入して、そのガス圧で材料粒子Mを舞い上がらせる。それとともに、加振装置12によってエアロゾル室11を振動することで、材料粒子Mとキャリアガスとを混合してエアロゾルを発生させる。次いで、成膜チャンバ20内を真空ポンプPにより減圧し、エアロゾル室11と成膜チャンバ20との間の差圧により、エアロゾル室11内のエアロゾルを高速に加速しつつ噴出ノズル24から噴出させる。噴出したエアロゾルに含まれる材料粒子Mは基板Bに衝突して固着し、圧電膜を形成する。このとき、ステージ移動機構23によってステージ22を動かすことで基板Bに対する噴出ノズル24の相対位置を少しずつずらしながらエアロゾルの吹き付けを行うことによって、基板Bの全面にわたって膜を形成する。基板Bに衝突した後のエアロゾルは、真空ポンプPの吸引力によって排気口21から粉体回収装置30側へ排出される。
【0032】
このとき、噴出ノズル24から噴出されたエアロゾル噴射流E1が、真空ポンプPの吸引力によって生じた排気口21に向かう排気流Fに引きずられて排気口21の方へ流されてしまうと、材料粒子Mが基板B上で排気口21に近い側に厚く堆積してしまい、均一な膜形成が阻害されるおそれがある。しかし、本実施形態では、ステージ22に遮蔽板26が取り付けられており、噴出口25から噴射されるエアロゾルの噴射流E1の側方が覆われている。これにより、排気流Fに影響されてエアロゾルの流れが乱れることを抑制できる。特に、エアロゾルは噴出口25の長手方向(X軸方向)に沿う方向に大きく流れやすいが、本実施形態ではこの長手方向の側方で流れを遮るように、すなわち、遮蔽板26をその板面方向が噴出口25の短手方向(Y軸方向)に沿う姿勢で配しているから、噴射流E1の乱れを効果的に抑制できる。なお、遮蔽板26は、エアロゾルの噴射流を被処理材に導くためのガイド部材とみなすこともできる。
【0033】
さらに、排気口21が、成膜チャンバ20において、噴出ノズル24から見て一対の遮蔽板26のうちいずれかが設けられた側と同じ側の側壁部20Aに位置している。すなわち、遮蔽板26が、成膜チャンバ20内に生じる排気口21に向かう排気流Fに対して交差方向に配されている。これにより、噴出ノズル24から排気口21への気流が遮蔽板26によって遮られるから、排気流Fによる噴射流E1の乱れを効果的に低減することができる。
【0034】
加えて、遮蔽板26は一対が互いに対向して設けられている。これにより、一対の遮蔽板26に挟まれた領域内でエアロゾルが噴射されることとなるから、噴射流E1をより安定化し、膜を均一に形成することができる。
【0035】
また図3に示すように、遮蔽板26は側面から見て円弧状となるように湾曲しており、その内側面が円弧状の凹面26Aとされている。このため、基板Bに衝突して跳ね返ったエアロゾルがこの凹面26Aに沿って向きを変えられ、噴出口25から基板Bに向かうエアロゾルの噴射流E1に合流する循環流E2が生じる。このようなエアロゾルの循環により、基板Bから跳ね返ったエアロゾルに含まれる、基板Bに固着しなかった材料粒子Mが再利用されることとなるから、材料粒子Mの利用効率が上がり、成膜効率の向上が図られる。また、合流位置では循環流E2が噴射流E1に対して側方からぶつかり、噴射流E1に対してせん断力を与える。これにより、噴射流E1に含まれる凝集した材料粒子Mが破砕されて微粉化する。これにより、薄く均一で性能の良い膜を形成することができる。
【0036】
以上のように本実施形態によれば、成膜装置1には、噴出口25の長手方向の側方に設けられてこの噴出口25から噴射されたエアロゾルの噴射流E1の側方を覆う遮蔽板26が備えられている。これにより、排気流Fによってエアロゾルの流れが乱れることを抑制できるから、膜を均一に形成することができる。特に、噴射流E1はスリット幅方向(噴出口25の短手方向)よりもスリット長さ方向(同長手方向)に沿う方向に大きく流れる傾向にあるから、この長さ方向の側方でガス流を遮るように遮蔽板26を設置することで効果的に噴射流E1の乱れを抑制している。さらに、遮蔽板26が、噴出ノズル24から成膜室の排気口21に向かう排気流Fに対して交差方向に配されている。これにより、噴出口25から排気口21へと向かう気流が遮断されるから、排気流Fによる噴射流E1の乱れを効果的に低減することができる。
【0037】
また、遮蔽板26は一対が噴出ノズル24からのエアロゾルの噴射流E1を挟んで互いに対向して設けられている。これにより、一対の遮蔽板26に挟まれた領域内でエアロゾルが噴射されることとなるから、噴射流E1をより安定化し、膜を均一に形成することができる。
【0038】
また、遮蔽板26は側面から見て円弧状となるように湾曲しており、エアロゾルの噴射流E1に相対する内側面が凹面26Aとされている。これにより、基板Bに衝突して跳ね返ったエアロゾルがこの凹面26Aに沿って曲げられ、噴出口25から基板Bに向かうエアロゾルの噴射流E1に合流する。このようなエアロゾルの循環により、跳ね返ったエアロゾルに含まれる、基板Bに固着しなかった材料粒子Mが再利用されることとなるから、成膜効率の向上が図れる。また、エアロゾル合流位置では、循環流E2が噴射流E1に対して側方からぶつかり、噴射流E1に対してせん断力を与え、これにより、凝集した材料粒子Mが破砕されて微粉化する。これにより、薄く均一で性能の良い膜を形成することができる。
【0039】
また、遮蔽板26がステージ22に取り付けられている。このような構成によれば、ステージ22の幅を基板Bよりも大きく形成することで容易に取り付け代を確保できるから、遮蔽板26を安定して取り付けることができる。加えて、遮蔽板26が着脱可能に取り付けられているから、遮蔽板26が汚れたり破損したりした場合に、この遮蔽板26を成膜装置1から取り外してメンテナンスに供することができるため、便利である。
【0040】
また、遮蔽板26を構成するステンレス板の硬度がHV450以上とされている。このように、遮蔽板26をエアロゾルに含まれる材料粒子Mが衝突した際に、めり込まず跳ね返る程度の硬度としておくことによって、材料粒子Mが遮蔽板26に固着することを防止し、メンテナンスの手間を軽減することができる。
【0041】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態について、図6および図7を参照しつつ説明する。本実施形態の第1実施形態との主たる相違点は、遮蔽板41がステージ22側ではなく噴出ノズル24側に取り付けられている点にある。なお、本実施形態においても第1実施形態と同様に、噴出ノズル24から基板Bに向けて吹き付けられるエアロゾルの噴射流E1に沿う方向(図6において紙面の上下方向)をZ軸方向とし、このZ軸と直交する方向のうち噴出ノズル24における噴出口25の長手方向に沿う方向(図6において紙面の左右方向)をX軸方向、短手方向に沿う方向(図6において紙面に直交する方向)をY軸方向とする。
【0042】
本実施形態の遮蔽板41は、矩形状のステンレス板を側面(XZ平面)から見て円弧状となるように湾曲させたものである。一方、噴出ノズル24の上端位置には、噴出口25の長手方向(X軸方向)に沿って両外側に張り出す支持板42が取り付けられている。そして、この支持板42の両延出端に、2枚の遮蔽板41が互いに凹面41A側が内側を向き、かつ、その幅方向(円弧の周方向と交差方向)が噴出ノズル24における噴出口25の短手方向(Y軸方向)に沿う姿勢で立設されている。これにより、遮蔽板41が噴出口25から噴射されたエアロゾルの噴射流E1の側方を遮蔽している。
【0043】
図6に示すように、この遮蔽板41の上端とステージ22の下面との距離D5は0.5mm以下であることが好ましい。なお、遮蔽板41の厚さは上下方向中央位置が最も厚く、上端側および下端側に行くほど薄くされている。本実施形態の遮蔽板41は噴出ノズル24に取り付けられてステージ22の下方に位置するものであるため、特に上端部の厚さを小さくして、遮蔽板41がステージ22またはこのステージ22に取り付けられた基板Bにこすれない限度で凹面の上端位置がステージ22面にできるだけ近接するようにしている。また図7に示すように、遮蔽板41の幅D6は噴出ノズル24の開口幅+5mm以内であることが好ましい。その余の構成は第1実施形態と同様であるので同一の符号を付して説明を省略する。
【0044】
このように、本実施形態においても遮蔽板41が噴出口25から噴射されたエアロゾルの噴射流E1の側方を遮蔽しているから、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。加えて、遮蔽板41が噴出ノズル24側に取り付けられている。このような構成によれば、遮蔽板41の幅を噴出口25から噴出するエアロゾルの噴射流E1の幅をカバーできるだけの幅とすればよいから、遮蔽板41が小型で済む。また、遮蔽板41で囲まれた領域の中央にノズル24が存在するので、ステージの移動にかかわらず、常に安定した状態の循環流E2が確保される。
【0045】
<他の実施形態>
本発明の技術的範囲は、上記した実施形態によって限定されるものではなく、例えば、次に記載するようなものも本発明の技術的範囲に含まれる。その他、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
【0046】
上記実施形態では、一対の遮蔽板26、41は、噴出ノズル24からのエアロゾルの噴射流E1を挟んで互いに対向して設けていたが、遮蔽部材は1部材のみであっても良い。
【0047】
上記実施形態では、遮蔽板26、41は側面から見て湾曲した形状のものであったが、平板状のものであっても良く、内側面のみに凹面が形成されたものであっても良い。
【0048】
上記実施形態では、遮蔽板26、41としてステンレス板を使用したが、例えば樹脂等により形成された板の表面を表面硬度の大きい金属材料によって被覆したものあっても良い。
【0049】
上記実施形態では、遮蔽板26が着脱可能に設けられていたが、遮蔽部材は着脱不能に固定されていても構わない。
【0050】
上記実施形態では、遮蔽板26、41はステージ22またはノズル24の支持板42に取り付けられていたが、その部分に限られず、排気流によるエアロゾル噴射流の乱れを抑制できれば、例えば成膜室の上壁に取り付けられても良い。
【0051】
また、本発明の成膜装置および成膜方法において、遮蔽板26、41が開閉可能に取り付けられてもよい。この場合、遮蔽板26、41を開いた状態で基板Bの取り付けおよび取り外しができ、遮蔽板26、41を閉じた状態で成膜することができるので、便利である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】第1実施形態の成膜装置の概略図
【図2】第1実施形態のステージおよび遮蔽板の側面図
【図3】第1実施形態においてエアロゾルを噴出ノズルから基板に吹き付ける様子をノズル長手側の側方から見た図
【図4】第1実施形態においてエアロゾルを噴出ノズルから基板に吹き付ける様子をノズル短手側の側方から見た図
【図5】第1実施形態においてエアロゾルを噴出ノズルから基板に吹き付ける様子を下面側から見た図
【図6】第2実施形態においてエアロゾルを噴出ノズルから基板に吹き付ける様子をノズル長手側の側方から見た図
【図7】第2実施形態においてエアロゾルを噴出ノズルから基板に吹き付ける様子をノズル短手側の側方から見た図
【符号の説明】
【0053】
1…成膜装置
20…成膜チャンバ(成膜室)
21…排気口
22…ステージ(ホルダ)
24…噴出ノズル
25…噴出口
26、41…遮蔽板(遮蔽部材)
26A、41A…凹面(円弧面)
B…基板(被処理材)
E1…噴射流
F…排気流
P…真空ポンプ(排気装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜を行うための成膜室と、
前記成膜室に接続されてこの成膜室内の気体を外部に排気する排気装置と、
前記成膜室内に設けられて被処理材を保持するホルダと、
前記成膜室内に設けられて、スリット状に形成された噴出口を備えるとともに材料粒子を含むエアロゾルを前記噴出口から前記被処理材に向けて噴射することにより前記被処理材上に前記材料粒子からなる膜を形成する噴出ノズルと、
前記噴出口における長手方向の側方に設けられてこの噴出口から前記被処理部材に向けて噴射される前記エアロゾルの噴射流の側方を覆う遮蔽部材と、
を備える成膜装置。
【請求項2】
前記遮蔽部材は、一対が互いに対向して設けられている請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記成膜室には前記排気装置が接続される排気口が備えられ、前記遮蔽部材が、前記排気口に向かう前記エアロゾルの排気流に対して交差方向に配される請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記遮蔽部材において前記噴射流に面する内側面が、前記噴射流の噴射方向に沿う方向の中心位置が前記噴射流から離れる側に凹む円弧面である請求項1に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記遮蔽部材が、前記ホルダの被処理部材取り付け領域の側方に取り付けられている請求項1に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記遮蔽部材が、前記噴出ノズルの噴出口の側方に取り付けられている請求項1に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記遮蔽部材が、着脱可能に取り付けられている請求項1に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記遮蔽部材の前記内側面の硬度がHV450以上である請求項4に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記遮蔽部材が、開閉可能に取り付けられている請求項1に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記排気口は、前記成膜室内において前記噴出ノズルに対して前記一対の遮蔽部材の一方と同じ側の側壁に形成されている請求項3に記載の成膜装置。
【請求項11】
材料粒子を含むエアロゾルを調製することと、
前記エアロゾルを成膜室においてノズルから噴出することと、
前記ノズルから噴出されたエアロゾル噴射流をガイド部材でガイドしながら前記成膜室のホルダに保持される被処理材に導くこと、
を備える成膜方法。
【請求項12】
前記ガイド部材は、一対が互いに対向して設けられている請求項11に記載の成膜方法。
【請求項13】
前記成膜室には排気装置が接続される排気口が備えられ、前記ガイド部材が、前記排気口に向かう前記エアロゾルの排気流に対して交差方向に配置される請求項11に記載の成膜方法。
【請求項14】
前記ガイド部材において前記噴射流に面する内側面が、前記噴射流の噴射方向に沿う方向の中心位置が前記噴射流から離れる側に凹む円弧面である請求項11に記載の成膜方法。
【請求項15】
前記エアロゾル噴射流を前記被処理材に導いた後、被処理材に衝突して跳ね返ったエアロゾルを、前記ガイド部材の内側面に沿って前記エアロゾル噴射流に合流させて循環流を発生させることを含む請求項14に記載の成膜方法。
【請求項16】
前記ガイド部材が、前記ホルダの被処理部材取り付け領域の側方に取り付けられている請求項11に記載の成膜方法。
【請求項17】
前記ガイド部材が、前記噴出ノズルの噴出口の側方に取り付けられている請求項11に記載の成膜方法。
【請求項18】
前記ガイド部材が、着脱可能に取り付けられている請求項11に記載の成膜方法。
【請求項19】

前記ガイド部材の前記内側面の硬度がHV450以上である請求項14に記載の成膜方法。
【請求項20】

前記ガイド部材が、開閉可能に取り付けられている請求項11に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−84925(P2007−84925A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227861(P2006−227861)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】