打刻データ作成装置及び打刻データ作成プログラム
【課題】複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合における、打刻針の無駄な駆動停止時間を少なくした効率的な打刻データを作成する
【解決手段】針棒ケース7の針棒8のうち特定の針棒8に、縫針9に代えて打刻彫刻用の打刻針を装着可能とする。移送機構18のキャリッジ19に、被加工物Wを保持する打刻用保持体を取付可能とする。制御回路は、打刻データに基づいて、打刻彫刻動作を実行させる制御を行う。制御回路は、刺繍縫製用の模様データから、移送データのみを抽出して打刻データを作成する。このとき、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、それら模様毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように打刻データを作成する。
【解決手段】針棒ケース7の針棒8のうち特定の針棒8に、縫針9に代えて打刻彫刻用の打刻針を装着可能とする。移送機構18のキャリッジ19に、被加工物Wを保持する打刻用保持体を取付可能とする。制御回路は、打刻データに基づいて、打刻彫刻動作を実行させる制御を行う。制御回路は、刺繍縫製用の模様データから、移送データのみを抽出して打刻データを作成する。このとき、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、それら模様毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように打刻データを作成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍縫製可能なミシンの針棒に打刻針を装着し、移送機構により被加工物を所定の二方向に移送させながら、前記打刻針を上下動させることにより被加工物に所望の模様を打刻彫刻する打刻彫刻動作を実行するための打刻データを作成する打刻データ作成装置及び打刻データ作成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば多色の刺繍糸による刺繍縫製動作を連続的に実行できる多針刺繍ミシンが供されている。この種の多針刺繍ミシンは、アーム部の先端に、例えば6本の針棒を備えた針棒ケースを備え、それら針棒のうち所定のものを針棒駆動機構に選択的に連結して上下駆動するように構成されている。ミシンの制御装置は、一針毎の針落ち位置(加工布の移動量)や色替え等を指示する模様データに基づいて、加工布を保持した刺繍枠を移送機構によりX,Yの二方向に移動させつつ、前記針棒駆動機構及びその他の駆動機構を制御して、多色の刺繍縫製動作を実行させる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
尚、特許文献1においては、ニードルパンチという手法を用いて、布地を装飾するために、一部の針棒に、縫製用の縫針に代えてニードルパンチ針を装着し、ニードルパンチ情報に基づいて加工布にニードルパンチを施すことが記載されている。
【0004】
ところで、近年、例えばプラスチックや金属製の板、木材や繊維材料からなるボード等の表面に対し、打刻針を用いて、所望の写真やイラスト、文字などを打刻彫刻し、アクセサリーや調度品を製作する装置が提供されている。そして、このような打刻彫刻を自動で行う装置として、ドットインパクトプリンタの機構を応用し、複数本の打刻針を設けたプリンタヘッドをX方向に移動させながら、被加工物が載置された台座をY方向に移動させることより、被加工物の表面に所定の打刻彫刻を施すようにした打刻機が考えられている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−172566号公報
【特許文献2】特開2007−8133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、上記した多針刺繍ミシンにおいて、複数本の針棒のうちの一部に、縫製用の縫針に代えて打刻針を装着することによって、多針刺繍ミシンを、打刻彫刻を行う装置として兼用できるのではないかと考えた。この場合、加工布を保持する刺繍枠に代えて、被加工物を固定的に保持する保持体を移送機構のキャリッジに取付けるようにし、打刻彫刻用の打刻データに基づいて被加工物を移動させながら、打刻針が装着された針棒を上下動することにより、被加工物の表面に前記打刻データに応じた所定の打刻彫刻を施すことができると考えられる。
【0007】
ところで、上記のように刺繍ミシンによって打刻彫刻動作を実行させる場合に必要となる打刻データを作成するにあたり、特に、横方向に並んだ複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、その打刻データをどのように作成するかが問題となる。上記特許文献2に記載された打刻機では、ドットインパクトプリンタの機構を応用しているので、被加工物(台座)を、前後方向(紙送り方向)に1ピッチずつ順に移動させながら、打刻針を有するヘッド側をそれとは直交する横方向(印字方向)に往復移動させて打刻動作を行うように構成されている。つまり、用紙に対する印刷と同様に、横方向に1行分の打刻動作を行って、次の行に移動して1行分の打刻動作を行うことを繰返す。
【0008】
具体例をあげると、図9に示すように、被加工物に例えば「WELCOME」といった横書きの複数の文字からなる模様Pを打刻彫刻することを考える。この場合には、従来の打刻機では、図9(b)に示すように、打刻針(ヘッド)が、例えば矢印a、矢印b、矢印c、矢印d、矢印e、矢印f、矢印gの順に相対的に横方向に移動して黒塗りの部分(各文字模様Pの下辺部分)を打刻し、次に、縦方向に1ピッチ分ずれて次の行の打刻を行うといった順序で打刻動作が行われる。しかしながら、上記した刺繍ミシンで打刻彫刻を行う場合に、そのような打刻順を採用すると、特に隣の模様との間で横方向の空間が大きくあいている場合には、打刻針がその空間部分を横方向に相対移動(いわば空移動)する間は、打刻針の上下方向の駆動を停止させなければならない。そのため、打刻していない無駄な時間が余分にかかるという不具合がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、刺繍縫製可能なミシンを用いて被加工物に対する打刻彫刻動作を実行するための打刻データを作成するものにあって、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合における、打刻針の無駄な駆動停止時間を少なくした効率的な打刻データを作成することができる打刻データ作成装置及び打刻データ作成プログラムを提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1の打刻データ作成装置は、刺繍縫製可能なミシンの針棒に、被加工物の表面をドット単位で突き当てて彫刻するための打刻針を装着し、移送機構により前記被加工物を所定の二方向に関して移送させながら、前記打刻針を上下動させることにより前記被加工物に所望の模様を打刻彫刻する打刻彫刻動作を実行するための打刻データを作成する打刻データ作成装置であって、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、前記模様毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように前記打刻データを作成する打刻データ作成手段を備えるところに特徴を有する。
【0011】
刺繍縫製可能なミシンにおいて、針棒に打刻彫刻用の打刻針を装着し、その針棒を上下動させながら、所望の模様に対応した打刻データに基づいて移送機構を制御して、被加工物を所定の二方向に移送させることにより、被加工物に対する打刻彫刻動作が実行される。このとき、被加工物には、打刻データに対応した所望の模様が打刻彫刻される。これにて、刺繍縫製可能なミシンを、打刻彫刻を行う装置として兼用することが可能となる。
【0012】
上記構成においては、打刻データ作成手段により、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、それら複数の模様毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように打刻データが作成される。これにより、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合には、模様毎に打刻彫刻動作が順に実行されるようになるので、打刻針が模様同士間を相対的に移動する回数を少なく済ませることができ、打刻針の全体としての駆動停止時間を少なく抑えることができる。
【0013】
請求項2の打刻データ作成装置は、請求項1の発明において、前記打刻データ作成手段は、前記ミシンにおいて刺繍縫製を行うための模様データから、前記移送機構を駆動するための移送データのみを抽出することによって、前記打刻データを作成するところに特徴を有する。
【0014】
請求項3の打刻データ作成装置は、請求項1又は2の発明において、前記複数の模様に対する打刻彫刻動作を実行する順番を決定する順序決定手段を備えるところに特徴を有する。
【0015】
請求項4の打刻データ作成装置は、請求項1の発明において、前記打刻データ作成手段は、複数の模様を含んでいる画像データから、前記各模様を、夫々ブロック領域として抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された複数のブロック領域毎に打刻彫刻動作を実行する順番を決定する順序決定手段とを備えるところに特徴を有する。
【0016】
請求項5の打刻データ作成装置は、請求項4の発明において、前記抽出手段は、前記画像データ中の各画素に対してラベルを付与するラベリング処理を行うことに基づいて、前記各模様を複数のブロック領域として抽出するところに特徴を有する。
【0017】
本発明の請求項6の打刻データ作成プログラムは、請求項1から5のいずれかに記載の打刻データ作成装置の各種処理手段として、打刻データ作成装置に内蔵されたコンピュータを機能させるところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の打刻データ作成装置によれば、刺繍縫製可能なミシンを用いて被加工物に対する打刻彫刻動作を実行するための打刻データを作成するものにあって、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、それら複数の模様毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように打刻データを作成する打刻データ作成手段を備えるので、打刻針の無駄な駆動停止時間を少なくした効率的な打刻データを作成することができるという優れた効果を得ることができる。
【0019】
請求項2の打刻データ作成装置によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、刺繍模様と同じ模様の打刻彫刻を行いたい場合には、そのための打刻データを、模様データから、移送機構を駆動するための移送データのみを抽出することにより簡単に作成することができる。つまり、打刻データを初めから新規に作成することなく、刺繍縫製用の模様データを打刻データに転用することができ、打刻データの作成の処理を簡単に済ませることができる。
【0020】
請求項3の打刻データ作成装置によれば、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、前記複数の模様に対する打刻彫刻動作を実行する順番を決定する順序決定手段を備えるので、複数の模様に対する打刻彫刻動作の実行順序を自動で決定することができ、打刻データの作成の処理を簡単に済ませることができる。
【0021】
請求項4の打刻データ作成装置によれば、請求項1記載の発明の効果に加え、打刻データ作成手段は、複数の模様を含んでいる画像データから、各模様を夫々ブロック領域として抽出する抽出手段と、この抽出手段により抽出された複数のブロック領域毎に打刻彫刻動作を実行する順番を決定する順序決定手段とを備えるので、ユーザが用意した任意の模様に関して、その画像データから容易に打刻データを作成することができる。
【0022】
請求項5の打刻データ作成装置によれば、請求項4記載の発明の効果に加え、抽出手段は、画像データ中の各画素に対してラベルを付与するラベリング処理を行うことに基づいて、各模様を複数のブロック領域として抽出するので、打刻データを作成するにあたり、画像データ中の各模様をブロック領域として確実に抽出することができる。
【0023】
請求項6の打刻データ作成プログラムによれば、打刻データ作成装置に内蔵されたコンピュータを、請求項1から5のいずれかに記載の打刻データ作成装置の各種処理手段として機能させるので、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、打刻針の無駄な駆動停止時間を少なくした効率的な打刻データを作成することができるという優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すもので、多針刺繍ミシンの外観構成を示す斜視図
【図2】針棒ケース部分の正面図
【図3】打刻針が装着された針棒の正面図(a)及び縦断右側面図(b)
【図4】刺繍枠が装着された状態の枠ホルダの平面図
【図5】打刻用保持体の平面図(a)及び縦断正面図(b)
【図6】多針刺繍ミシンの電気的構成を概略的に示すブロック図
【図7】打刻データの作成の処理手順を示すフローチャート
【図8】制御装置が実行する針棒制御の処理手順を示すフローチャート
【図9】本実施形態における模様Pに関する打刻動作順序(a)を、従来例における打刻動作順序(b)と併せて示す図
【図10】本発明の第2の実施形態を示すもので、打刻データ作成装置の外観構成を示す図
【図11】ラベリング処理を説明するための図
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(1)第1の実施形態
以下、本発明を具体化した第1の実施形態について、図1から図9を参照しながら説明する。尚、本実施形態では、刺繍縫製可能なミシンである多針刺繍ミシンが、打刻データ作成装置としての機能を内蔵して構成される場合を具体例としている。図1は、本実施形態に係る多針刺繍ミシン1の外観構成を概略的に示している。まず、この多針刺繍ミシン1の構成について説明する。以下の説明では、図1,図2,図4に示すように、多針刺繍ミシン1の左右方向をX方向とし、前後方向をY方向としている。
【0026】
図1に示すように、多針刺繍ミシン1は、図示しない載置台上に載置される支持台2、この支持台2の後端部から上方に延びる脚柱部3、この脚柱部3の上端部から前方に延びるアーム部4等を備えて構成される。前記支持台2は、左右部位に前方に延びる脚部2a,2aを有した、上面から見て前方が開放するほぼU字状に構成されている。また、この支持台2には、後部中央部から前方に延びるシリンダベッド5が一体的に設けられている。このシリンダベッド5の先端上部には、針穴6aを有する針板6が設けられ、図示はしないが、その内部には、糸捕捉釜や糸切り機構(及びピッカー)等が設けられている。
【0027】
尚、図示は省略しているが、前記アーム部4の後側上部には、例えば6個の糸駒がセット可能な糸立て装置が設けられている。また、アーム部4の右側には、操作パネル(図示せず)が設けられている。図6にのみ図示するように、この操作パネルには、ユーザ(オペレータ)が各種の指示や選択、入力の操作を行うための複数の操作スイッチ45や、ユーザに対して必要なメッセージ等の表示を行う液晶ディスプレイ(LCD)46等が設けられている。
【0028】
図2にも示すように、前記アーム部4の先端部には、針棒ケース7が左右方向(X方向)に移動可能に設けられている。図2に示すように、この針棒ケース7は、前後方向に薄型の矩形箱状をなしている。そして、その内部には、左右方向に並んで、複数本の針棒8、本実施形態の場合は6本の針棒8が上下動可能に支持されている。これら各針棒8は、図示しないコイルばねのばね力により、常時上方(図2に示す上死点(針上位置))に向けて付勢されている。
【0029】
これら各針棒8は、その下端部が、針棒ケース7の下方に突出位置しており、その下端部には、刺繍用の縫針9が、着脱(交換)可能に取付けられている。尚、6本の針棒8を区別する場合には、右から順に、1番,2番‥と針棒番号が付される。このとき、図3にも示すように、本実施形態では、6本の針棒8のうち、左端に位置する特定の針棒8(針棒番号6番)には、縫針9に代えて打刻針10が装着されている。この打刻針10については後述する。
【0030】
また、各針棒8の下部には、当該針棒8の上下動に同期して上下動する刺繍用押え足11が設けられている。この場合、針棒番号6番の針棒8に、縫針9に代えて打刻針10が装着された状態では、刺繍用押え足11は取外されるようになっている。また、詳しく図示はしないが、針棒ケース7の上部側には、6本の針棒8に対応して6個の天秤が設けられている。これら各天秤は、その先端部が、針棒ケース7の前面に上下に延びて形成された6個のスリット孔12を夫々通して前面側に突出しており、針棒8の上下動に同期して上下動(揺動)するように構成されている。また、図示はしないが、後述する針棒上下駆動機構により上下動される位置にある針棒8の後方にはワイパーが設けられている。
【0031】
図1に示すように、この針棒ケース7には、その上端から斜め後方に延びて上部カバー13が一体的に設けられている。この上部カバー13には、図示しない6個の糸調子器(取付用の穴のみを示す)が設けられていると共に、上端部に位置して6個の糸切れセンサ14が設けられている。これにて、糸立て装置にセットされた糸駒から、刺繍用の上糸が引出され、糸切れセンサ14、糸調子器、天秤等の所定の経路を順に通され、最後に縫針9の目孔(図示せず)に通されることにより、刺繍縫製が可能となる。このとき、6本(或いは5本)の縫針9に、夫々異なる色の上糸を供給することにより、複数色の上糸による刺繍縫製動作を、自動で切替えながら連続的に行うことができる。
【0032】
詳しく図示はしないが、前記脚柱部3には、ミシンモータ15(図6にのみ図示)が設けられている。前記アーム部4には、周知のように、前記ミシンモータ15により駆動される主軸や、この主軸の回転により前記針棒8等を上下動させる針棒上下駆動機構、針棒ケース7をX方向に移動させて針棒を選択する針棒選択機構などが設けられている。尚、前記主軸の回転により、前記糸捕捉釜も前記針棒8の上下動と同期して駆動される。
【0033】
前記針棒上下駆動機構は、針棒8に設けられた針棒抱き16(図3参照)に選択的に係合する上下動部材を備えている。前記針棒選択機構は、針棒選択用モータ17(図6にのみ図示)を駆動源として針棒ケース7をX方向に移動させ、いずれかの針棒8(前記針穴6aの真上位置の針棒8)を、上下動部材に係合させるように構成されている。これにて、針棒選択駆動機構が構成され、選択された1本の針棒8(及びその針棒8に対応した天秤)のみが、針棒上下駆動機構により上下駆動される。
【0034】
そして、図1に示すように、前記支持台2上(脚柱部3の前方)には、前記シリンダベッド5のやや上部に位置して、移送機構18(図6参照)のキャリッジ19が設けられる。このキャリッジ19には、刺繍縫製を施すべき加工布を保持する刺繍枠20(図4参照)、或いは、打刻彫刻を施すべき被加工物Wを保持する打刻用保持体21が着脱可能に連結される。尚、詳しく図示はしないが、加工布を保持する刺繍枠20については、大きさや形状の相違する複数種類のものが付属品として備えられている。
【0035】
図1,図4に示すように、前記キャリッジ19は、Y方向キャリッジ22、このY方向キャリッジ22に設けられるX方向キャリッジ23、このX方向キャリッジ23に取付けられる枠ホルダ24(図4のみ図示)を備えている。詳しく図示はしないが、前記移送機構18は、前記支持台2内に設けられY方向キャリッジ22をY方向(前後方向)に自在に移動させるY方向駆動機構と、このY方向キャリッジ22内に設けられ前記X方向キャリッジ23及び枠ホルダ24をX方向(左右方向)に移動させるX方向駆動機構とを含んでいる。刺繍枠20或いは打刻用保持体21は前記枠ホルダ24により保持され、移送機構18により所定の二方向であるX方向及びY方向に自在に移送される。
【0036】
前記Y方向キャリッジ22は、横長な(細幅の)箱状をなし、前記支持台2の左右の脚部2a,2a間に掛け渡されるようにして左右方向(X方向)に延びている。このとき、図1に示すように、支持台2の左右の脚部2a,2aの上面には、夫々前後方向(Y方向)に延びるガイド溝25が設けられている。図示はしないが、前記Y方向駆動機構は、これらガイド溝25を上下に貫通し、該ガイド溝25に沿ってY方向(前後方向)に移動可能に設けられた2個の移動体を備えている。前記Y方向キャリッジ22の左右両端部が、夫々移動体の上端部に連結されている。
【0037】
前記Y方向駆動機構は、ステッピングモータからなるY方向駆動モータ26(図6参照)や、タイミングプーリやタイミングベルト等からなる直線移動機構を備えて構成されている。前記Y方向駆動モータ26を駆動源として前記直線移動機構により前記移動体を自在に移動させることによって、Y方向キャリッジ22をY方向(前後方向)に自在に移動させる。
【0038】
図1、図4に示すように、前記X方向キャリッジ23は、一部がY方向キャリッジ22の前面側下部から前方に突出する横長な板状をなし、該Y方向キャリッジ22にX方向(左右方向)にスライド移動可能に支持されている。Y方向キャリッジ22内に設けられるX方向駆動機構は、ステッピングモータからなるX方向駆動モータ27(図6参照)や、タイミングプーリやタイミングベルト等からなる直線移動機構を備えて構成され、X方向キャリッジ23をX方向(左右方向)に自在に移動させる。
【0039】
ここで、前記X方向キャリッジ23に取付けられる枠ホルダ24、及び、この枠ホルダ24に着脱可能に装着される保持体(刺繍枠20及び打刻用保持体21)について述べる。まず、図4を参照して刺繍枠20について述べる。この刺繍枠20は、丸みを帯びた矩形枠状をなす内枠28と、この内枠28の外周に着脱可能に嵌合される外枠29と、内枠28の左右両端部に取付けられた一対の連結部30,30とを備えている。図示はしないが、被加工物たる加工布は、内枠28と外枠29との間に挟まれ、内枠28の内側でピンと張った状態に保持される。
【0040】
前記左右一対の連結部30,30は、平面的に見て180度の回転対称的な構造を備えており、これら連結部30には、枠ホルダ24への装着のための係合溝30a及び係合穴30bが形成されている。上記のように、前記刺繍枠20は、大きさ或いは形状(刺繍領域)の相違する複数種類が用意され、加工布の大きさや刺繍の大きさに応じて選択的に使用される。また、それら刺繍枠20の種類に応じて、左右の幅寸法L1(連結部30の外縁から連結部30の外縁までの間の寸法)が相違するように設定されており、それによって、後述する検出手段により刺繍枠20の種類(及び打刻用保持体21かどうか)の検出が可能である。図4では、この幅寸法が一番大きな刺繍枠20を例示している。
【0041】
次に、前記打刻用保持体21について述べる。図5に示すように、打刻用保持体21は、丸みを帯びた矩形板状をなす保持部31と、この保持部31の左右両端部に取付けられた一対の連結部32,32とを備えている。前記保持部31の板面には、矩形状をなす有底状の保持凹部31aが設けられている。被加工物Wは、予め前記保持凹部31aに対応した矩形板状とされて供される。被加工物Wは、例えばアクリル等の樹脂製の板材、アルミや真鍮等の金属製の板材、木材や合板、繊維材料を固形化したボード等であり、ユーザの所望する材料が適宜使用される。この被加工物Wが、前記保持凹部31aにほぼ密着した状態に嵌め込まれることにより、裏面側が受けられた状態で、前記打刻用保持体21の特定の固定位置に保持される。
【0042】
また、前記左右一対の連結部32,32は、やはり、平面的に見て180度の回転対称的な構造を備えており、これら連結部32には、枠ホルダ24への装着のための係合溝32a及び係合穴32bが形成されている。上記したように、この打刻用保持体21の左右の幅寸法L2(連結部32の外縁から連結部32の外縁までの間の寸法)は、前記いずれの種類の刺繍枠20の幅寸法L1とも相違するように設定されている。尚、この打刻用保持体21についても、被加工物Wの大きさや形状等に応じて複数種類を用意しておくようにしても良い。
【0043】
そして、上記した刺繍枠20や打刻用保持体21が装着(連結)される枠ホルダ24は、以下のように構成されている。即ち、図4に示すように、この枠ホルダ24は、前記X方向キャリッジ23の上面部に固定的に取付けられるホルダ本体33と、このホルダ本体33に位置変更可能に取付けられる可動腕部34とを備えている。可動腕部34は、装着すべき刺繍枠20(打刻用保持体21を含む)の種類つまり幅寸法L1(L2)に応じて、ユーザにより左右方向に位置変更されるものである。
【0044】
そのうちホルダ本体33は、X方向(左右方向)に長く延びる板状をなす主部33aの右端部に、ほぼ直角に折曲って前方に延びる右腕部33bを有している。この右腕部33bの上面には、先端に位置して係合ピン35が設けられていると共に、その後側に、連結部30,32の挟持用の板ばね36が取付けられている。前記係合ピン35は、前記刺繍枠20の連結部30の係合溝30a、或いは、前記打刻用保持体21の連結部32の係合溝32aに係合する。
【0045】
前記可動腕部34は、前記右腕部33bとほぼ左右対称的な形状をなし、その基端部(後端部)が、前記ホルダ本体33の主部33aの左側部分の上面に重なるように取付けられる。この可動腕部34の上面には、先端に位置して係合ピン37が設けられていると共に、その後側に、連結部30,32の挟持用の板ばね38が取付けられている。前記係合ピン37は、前記刺繍枠20の連結部30の係合孔30b、或いは、前記打刻用保持体21の連結部32の係合孔32bに係合する。
【0046】
この可動腕部34は、基端部(後端部)に左右方向に長い案内溝34aを有し、前記ホルダ本体33の主部33aの上面に設けられた案内ピン39が、その案内溝34a内に係合することにより、前記ホルダ本体33の主部33aに対し、左右方向にスライド移動可能に設けられている。また、図示はしないが、前記ホルダ本体33の主部33aには、可動腕部34を複数の所定位置で選択的に固定するための位置決め固定機構が設けられている。ユーザがこの位置決め固定機構を操作することにより、可動腕部34の左右方向位置が変更可能である。
【0047】
これにて、ユーザは、装着すべき刺繍枠20(打刻用保持体21)の種類(幅寸法)に応じて可動腕部34を適切な位置に固定した状態で、刺繍枠20或いは打刻用保持体21を枠ホルダ24に装着する。図4に例示するように、刺繍枠20を装着するにあたっては、刺繍枠20の左右の連結部30を、夫々、可動腕部34の板ばね38部分、及び、右腕部33bの板ばね36部分に挟み込まれるように前方から差込む。次いで、可動腕部34の係合ピン37に連結部30の係合孔30bを係合させると共に、右腕部33bの係合ピン35に連結部30の係合溝30aを係合させる。これにより、刺繍枠20は、枠ホルダ24に保持され、移送機構18によってX,Y方向に移動されるのである。打刻用保持体21の場合も、同様にして枠ホルダ24に装着することができる。
【0048】
このとき、前記X方向キャリッジ23には、図4、図6に示すように、可動腕部34の位置を検出することに基づいて、装着されている刺繍枠20(打刻用保持体21)の種類を検出するための枠種類検出センサ40が設けられている。図示はしないが、この枠種類検出センサ40は、例えば回転型ポテンショメータからなり、可動腕部34に設けられた例えば傾斜面からなる被検出部に当接する検出子を有し、可動腕部34の左右方向位置によってその検出子の回動位置(角度)が変動することに応じて、抵抗値(出力電圧値)が変動する。
【0049】
図6に示すように、この枠種類検出センサ40の出力信号は後述する制御回路41に入力され、この制御回路41にて刺繍枠20(打刻用保持体21)の種類を検出(判断)する。従って、これら枠種類検出センサ40及び制御回路41などから、打刻用保持体21が装着されているかどうかを検出する検出手段が構成される。
【0050】
さて、本実施形態では、多針刺繍ミシン1は、加工布に対する6色の刺繍糸を用いた通常の刺繍縫製動作の実行が可能であると共に、打刻用保持体21を移送機構18によってX、Y方向に移動させながら、被加工物Wの表面に対し、打刻針10をドット単位で突き当て、所望の写真やイラスト、文字などを打刻彫刻する打刻彫刻動作の実行が可能である。上記したように、打刻彫刻動作を実行するにあたっては、図2に示すように、6本の針棒8のうち左端の針棒8(針棒番号6番)に、縫針9に代えて打刻彫刻用の打刻針10が装着される。
【0051】
図3にも示すように、この打刻針10は、基端(上端部)部に針棒8に取付け可能な取付部を有し、先端(下端)が打刻彫刻に適した尖った形状をなしている。この打刻針10は、針棒8の最下位置(下死点)において、打刻用保持体21に保持された被加工物Wの表面に突き当てられるものである(加工布を貫通するものではない)から、縫針9よりも短く構成されている。
【0052】
尚、図示はしないが、打刻針10は、長さ寸法や太さ寸法、先端形状が互いに相違する複数種類が用意されており、そこからユーザが選択した1本の打刻針10が針棒番号6番の針棒8に装着される。また、図2に示すように、打刻針10が装着された針棒8については、押え足11が取外される。針棒番号6番の針棒8に打刻針10が装着されている場合には、刺繍縫製動作は、残りの5本(針棒番号1番から5番)の針棒8を使用して(5色の刺繍糸で)行われることは勿論である。
【0053】
図6は、本実施形態に係る多針刺繍ミシンの電気的構成を、全体を制御する制御手段としての制御回路41を中心にして概略的に示している。この制御回路41は、コンピュータ(CPU)を主体として構成され、ROM42、RAM43、外部メモリ44が接続されている。前記ROM42には、刺繍縫製制御プログラム、打刻彫刻制御プログラム、打刻データ作成プログラム、各種制御用データ等が記憶されている。前記外部メモリ44には、多数種類の刺繍縫製用の模様データや、打刻データ等が記憶されている。
【0054】
この制御回路41は、前記操作パネルの各種操作スイッチ45の操作信号が入力されると共に、液晶ディスプレイ46の表示を制御する。このとき、ユーザは、液晶ディスプレイ46の表示を見ながら、各種操作スイッチ45を操作することによって、縫製のモード(刺繍縫製モード、打刻彫刻モード、打刻データ作成モード等)を選択したり、所望する刺繍模様や打刻彫刻模様を選択指定したりする。
【0055】
また、制御回路41には、糸切れセンサ14の検出信号、前記移送機構18の枠種類検出センサ40の検出信号、その他各種検出センサ47の検出信号が入力される。そして、制御回路41は、駆動回路48を介して前記ミシンモータ15を駆動制御すると共に、駆動回路49を介して前記針棒選択用モータ17を駆動制御する。
【0056】
そして、制御回路41は、駆動回路50を介して前記移送機構18のY方向駆動モータ26を駆動制御すると共に、駆動回路51を介して前記X方向駆動モータ27を駆動制御し、枠ホルダ24(刺繍枠20又は打刻用保持体21)を自在に移動させる。更に、制御回路41は、駆動回路52,53,54を夫々介して、ピッカー(図示せず)の駆動源となるピッカーモータ55、糸切り機構の駆動源となる糸切りモータ56、ワイパー(図示せず)の駆動源となるワイパーモータ57を制御し、以て糸切り動作を実行させる。
【0057】
ここで、前述のピッカー及びワイパーを簡単に説明する。尚、糸切り機構については十分に周知の機構であるので説明は省略する。まず、ピッカーとは、刺繍縫製開始時や糸切り時に糸捕捉釜に当接するように動作する部材であって、上糸(の糸量)を一時的に確保することで、縫製開始時に、加工布の上面から上糸の糸端が出る(残る)ことを防止したり、縫針の目穴から上糸が抜けるのを防止するものである。また、ワイパーとは、糸切り機構により切断された上糸の糸端を、加工布の上面に引き上げるように動作する部材である。そして、このワイパーの動作を糸払い動作という。
【0058】
制御回路41は、刺繍縫製制御プログラムの実行(刺繍縫製モード)により、例えば外部メモリ44に記憶されている刺繍縫製用の模様データの中から、ユーザが選択した模様データに基づいて、ミシンモータ15、針棒選択用モータ17、移送機構18のY方向駆動モータ26及びX方向駆動モータ27等を制御し、刺繍枠20に保持された加工布に対する刺繍縫製動作を自動で実行させる。
【0059】
このとき、周知のように、上記刺繍縫製用の模様データは、一針毎の針落ち位置(刺繍枠20のX、Y方向の移動量)を示す一針データ(移送データ)、刺繍糸の色(即ち駆動する針棒8)の切替えを指示する色替えデータ、糸切り動作を指示する糸切りデータ、縫製終了データ等を含んでいる。また、前記一針データの中には、糸切りを行わずにフィードしたり刺繍を補強したりするために、縫製(縫目形成)は行われるものの刺繍の外観に現れることのない(最終的に他の刺繍糸により隠されてしまう)下打ちデータが含まれている。
【0060】
そして、本実施形態では、前記制御回路41は、そのソフトウエア構成(打刻彫刻制御プログラムの実行)により、打刻データに基づいて、ミシンモータ15、針棒選択用モータ17、移送機構18のY方向駆動モータ26及びX方向駆動モータ27等を制御し、打刻用保持体21に保持された被加工物Wの表面に対する打刻針10による打刻彫刻動作を自動で実行させる(打刻彫刻モード)ことが可能に構成されている。この打刻彫刻動作は、針棒番号6番の針棒8を選択し当該針棒8(打刻針10)を上下動させながら、針棒8の上昇時に被加工物Wを次の打刻点に移動させることを繰返すことにより行われる。このとき、前記打刻データは、打刻針10による一針毎の打刻点の位置、即ち一針毎の被加工物W(打刻用保持体21)のX、Y方向の移動量を示す移送データの集合を主体として構成される。
【0061】
このとき、後の作用説明(フローチャート説明)でも述べるように、制御回路41は、打刻彫刻動作を実行させるにあたり、前記枠種類検出センサ40により、前記枠ホルダ24に対する打刻用保持体21の装着が検出されていることを条件に、打刻彫刻動作を実行させる。つまり、打刻用保持体21の装着が検出されていないときには、ユーザにより打刻彫刻動作の実行が指示されても、縫製動作(ミシンモータ15の起動)を禁止する。
【0062】
さらに、本実施形態では、これも後の作用説明(フローチャート説明)で述べるように、制御回路41は、打刻データ作成プログラムの実行により、刺繍模様の模様データから打刻データを作成する打刻データ作成装置としての機能を兼用している。この打刻データの作成は、刺繍模様と同じ模様についての打刻彫刻を施すことができるように、当該刺繍模様の模様データから、移送機構18を駆動するための移送データのみを抽出することにより行われる。
【0063】
この場合、打刻データの作成(移送データの抽出)にあたっては、模様データから色替えデータや糸切りデータが省かれることは勿論、一針データのうち下打ちデータが省かれる。そして、本実施形態では、制御回路41は、打刻データ作成プログラムの実行により打刻データを作成するにあたり、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、それら模様(ブロック)毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように打刻データを作成するように構成されている。従って、制御回路41が打刻データ作成手段として機能する。尚、刺繍模様の模様データにおいては、刺繍領域が細長い場合に、その長手方向が縫製動作の進行する方向とされるようになっており、打刻データにおいても、模様を構成する領域が細長い場合にはその長手方向が打刻動作の進行する方向とされる。
【0064】
また、制御回路41は、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、併せて、それら複数の模様に対する打刻彫刻を行う順番を決定するように構成されており、順序決定手段としても機能する。順序決定の手法の一例として、例えば、複数の模様(ブロック)のうち、最も左に位置する模様を順序1番目とし、左から右に向けて順に打刻彫刻が進むように順序が決定される。
【0065】
尚、本実施形態では、制御回路41は、枠種類検出センサ40により打刻用保持体21の装着が検出されているとき(打刻彫刻動作の実行時)には、刺繍縫製における固有の動作を行わない(禁止する)制御を行う。ここでいう、「刺繍縫製における固有の動作」には、例えば糸切り機構による糸の切断動作、ワイパーによる糸払い動作、糸切れセンサ14による糸切れ検出の動作等が含まれる。また、打刻彫刻動作時の針棒8の駆動速度(主軸の回転速度)は、刺繍縫製動作時における最高速度(例えば1,000rpm)に比べて低速(例えば800rpm)に抑えることが好ましく、打刻彫刻動作時における最高速度を超える速度で針棒8を駆動することも、刺繍縫製固有の動作となる。
【0066】
次に、上記構成の作用について、図7から図9も参照して述べる。尚、ここでは、図5及び図9に示すように、被加工物Wに例えば「WELCOME」といった横書きの複数の文字からなる模様Pを打刻彫刻する場合を具体例としてあげながら説明する。上記したように、制御回路41は、例えばユーザの選択指示により、外部メモリ44或いはROM42に記憶されている刺繍縫製用の模様データから、移送機構18を駆動するための移送データのみを抽出することにより打刻データを作成する処理を行う(打刻データ作成モード)。図7のフローチャートは、その際に制御回路41が実行する打刻データの作成処理の手順を示している。
【0067】
打刻データの作成にあたっては、ユーザは、各種操作スイッチ45を操作して打刻データの作成を指示すると共に、ROM42或いは外部メモリ44に記憶されている模様データのなかから所望の刺繍模様を選択しておく。まず、ステップS1では、選択された模様データから、一針データが1番目のものから順に読込まれる。次のステップS2〜S4では、ステップS1で読込んだデータの種類の判別がなされる。即ち、ステップS2では読込んだデータが縫製終了データかどうかの判断がなされる。
【0068】
縫製終了データでない場合には(ステップS2にてNo)、ステップS3にて、糸切りデータかどうかが判断される。糸切りデータであった場合には(ステップS3にてYes)、ステップS1に戻り、次のデータの読込みが行われる。糸切りデータでない場合には(ステップS3にてNo)、ステップS4にて、色替えデータかどうかが判断される。色替えデータであった場合には(ステップS4にてYes)、ステップS1に戻り、次のデータの読込みが行われる。
【0069】
色替えデータでない場合には(ステップS4にてNo)、一針データ(移送データ)と判断できるので、ステップS5にて、その一針データがバッファに展開され、ステップS1に戻って次のデータの読込みが行われる。このような処理が繰返されることにより、一針毎の針落ち位置(キャリッジ19のX、Y方向の移動量)を示す移送データ(ステッチデータ)のみが抽出されてバッファに展開され、最後の縫製終了データが読込まれると(ステップS2にてYes)、ステップS6にて終了データがバッファに展開される。
【0070】
次いで、ステップS7では、ステッチデータがブロックデータ(模様Pのブロック毎に順に打刻彫刻を行うためのデータ)に変換される。またこのとき、併せて各ブロック(模様P)の打刻彫刻実行の順序が決定される。さらに、ステップS8にて、内部走り縫い等の下打ち用のデータが削除され、打刻データの作成処理が終了する。作成された打刻データは、例えばユーザにより所望の名称が付されて外部メモリ44に記憶される。
【0071】
これにより、上記刺繍模様を被加工物Wの表面に打刻彫刻するための、一針毎の打刻針10の打刻位置(キャリッジ19ひいては打刻用保持体21のX、Y方向の移動量)を示すデータの集合からなる打刻データが作成されるのである。このとき、図9(a)に示すように、「WELCOME」の複数の文字模様Pの場合には、模様P毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように、即ち、最初に「W」の文字模様Pが打刻彫刻され、次に「E」の文字模様Pが打刻彫刻され、3番目に「L」の文字模様Pが打刻彫刻されるといった順序の打刻データが作成されるのである。また、刺繍縫製用の模様データを、打刻データに転用することができ、打刻データの作成の処理を簡単に済ませることができる。
【0072】
次に、本実施形態の多針刺繍ミシン1においては、通常の刺繍縫製動作に加えて、以下のようにして、被加工物Wに所望の模様の打刻彫刻を行う打刻彫刻動作を実行させることができる。打刻彫刻動作を実行させるにあたっては、ユーザは、特定の針棒8(針棒番号6番)に打刻針10を装着すると共に、被加工物Wを保持させた打刻用保持体21を、枠ホルダ24に装着する。そして、所望の模様の打刻データの選択(読出し)を行って打刻彫刻動作をスタートさせる。
【0073】
このとき、本実施形態では、多針刺繍ミシン1の制御回路41は、動作を開始する(ミシンモータ15を起動する)にあたって、図8のフローチャートに示すように、枠種類検出センサ40の検出に基づく動作の制御を行う。即ち、動作を開始するにあたり、まずステップS11では、枠種類検出センサ40の出力信号に基づいて、保持体(刺繍枠20及び打刻用保持体21)の種類の認識が行われる。ステップS12は、打刻用保持体21が装着されているかどうかの判断ステップであり、どちらが装着されているかによって以下の制御が異なってくる。
【0074】
打刻用保持体21が装着されていないと判断された場合、つまり刺繍枠20が装着されている場合には(ステップS12にてNo)、次のステップS13にて、縫製終了まで、縫針9による刺繍縫製動作が実行される。縫製が終了したときには(ステップS14にてYes)、ステップS15にて、糸切り動作及びワイパーによる糸払い動作が実行され、処理が終了する。尚このとき、図示はしないが、上記ステップS11の認識処理において刺繍枠20の種類まで検出することができるので、例えば、選択されている模様データの大きさが刺繍枠20の縫製領域(図4に想像線で示す)よりも大きい場合にエラー報知を行うなど、取付けられている刺繍枠20の種類に応じた制御を行うことができる。
【0075】
一方、枠種類検出センサ40出力の信号に基づいて、枠ホルダ24に打刻用保持体21が装着されていることが検出された場合には(ステップS12にてYes)、ステップS16にて、打刻針10による打刻彫刻動作が実行される。この場合、制御回路41は、打刻データに基づいて、移送機構18を制御して打刻用保持体21ひいては被加工物WをX、Y方向に自在に移送させながら、針棒選択用モータ17により、打刻針10が装着された特定の針棒8(針棒番号6番)を選択的に駆動させることによって、打刻彫刻動作を実行させる。これにて、打刻針10が被加工物Wの表面に突き当てられ、打刻データに応じた模様の打刻彫刻が施されるのである。
【0076】
このとき、図9(a)に示すように、「WELCOME」の複数の文字模様Pを打刻彫刻する場合には、上記のようにして作成された打刻データに基づいて制御が行われる。従って、まず最初に「W」の文字模様Pが、例えば矢印A,矢印B,矢印C,矢印Dの順(打刻動作の進行方向)に打刻彫刻される。次に「E」の文字模様Pが打刻彫刻され、3番目に「L」の文字模様Pが打刻彫刻されるといった順序で打刻彫刻動作が実行されるのである。図9(a)では、打刻彫刻が完了した部分を黒塗りで示しており、3番目に「L」の文字模様Pの途中までが打刻彫刻された状態を示している。
【0077】
これにて、図9(b)に示した従来例の打刻機における打刻順序、つまり、打刻針が文字模様P全体に対して相対的に横方向に移動しながら打刻し、次に縦方向に1ピッチ分ずれて次の行の打刻を行うといった打刻動作順序と異なり、本実施形態では、模様P(ブロック)毎に打刻彫刻動作が順に実行されるようになる。これにより、特に隣の模様Pとの間で横方向の空間が大きくあいている場合に、打刻針がその空間部分を横方向に相対移動(いわば空移動)する間は、打刻針の上下方向の駆動を停止させなければならなかった従来と異なり、打刻針10が模様P同士間を横方向に相対的に移動する回数を少なく済ませることができ、打刻針10の全体としての駆動停止時間を少なく抑えることができる。
【0078】
図8に戻って、縫製動作の終了が判断された(終了データが読込まれた)場合には(ステップS17にてYes)、そのまま動作が終了する。また、図示はしていないが、枠ホルダ24に打刻用保持体21が装着されているにも関わらず、ユーザが刺繍縫製動作を行おうとした場合や、枠ホルダ24に刺繍枠20が装着されているにも関わらず、ユーザが打刻彫刻動作を行おうとした場合には、エラー報知が行われる。
【0079】
上記した制御回路41の制御により、枠ホルダ24に打刻用保持体21が装着されている状態では、縫製用の縫針9が装着された針棒8(針棒番号1番から5番の針棒8)を上下駆動してしまう不具合や、刺繍縫製用の模様データに基づいて打刻彫刻の動作を行ってしまうといった不具合を未然に防止することができる。逆に、枠ホルダ24に刺繍枠20が装着されているときには、打刻針10が装着された針棒8を上下駆動したり、打刻データに基づいて刺繍縫製動作を実行したりすることも防止できる。尚、これに加えて、上記したように、枠種類検出センサ40により打刻用保持体21の装着が検出されているときには、刺繍縫製における固有の動作が禁止される。
【0080】
このように本実施形態によれば、特定の針棒8に打刻針10を装着可能とすると共に、被加工物Wを保持する打刻用保持体21を、打刻データに基づいて移送機構18により移送可能に構成した。従って、加工布に対する通常の刺繍縫製動作に加えて、被加工物Wの表面に対する打刻彫刻動作を行うことが可能となり、多針刺繍ミシン1を、打刻彫刻を行う装置として兼用することができる。このとき、制御回路41は、枠種類検出センサ40により打刻用保持体21の装着が検出されているときに、打刻彫刻動作を実行させる制御を行うので、装着されている保持体20,21の種類に対応しないような不適切な動作を行ってしまう不具合を効果的に防止することができる。
【0081】
そして、本実施形態では、多針刺繍ミシン1が、模様データから移送機構18を駆動するための移送データのみを抽出することにより打刻データを作成する機能を備える。これにより、刺繍模様と同じ模様の打刻彫刻を行いたい場合には、刺繍縫製用の模様データを、打刻データに転用することができ、打刻データの作成の処理を簡単に済ませることができる。このとき、複数の模様Pを含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、それら複数の模様P毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように打刻データが作成されるので、打刻針10の無駄な駆動停止時間を少なくした効率的な打刻データを作成することができるという優れた効果を得ることができる。
【0082】
(2)第2の実施形態、その他の実施形態
次に、図10及び図11を参照して、本発明の第2の実施形態について述べる。尚、この第2の実施形態においても、多針刺繍ミシン1は、打刻データに基づいて被加工物Wに対する打刻彫刻動作を実行することが可能に構成されている。この多針刺繍ミシン1のハードウエア構成等については、上記第1の実施形態と共通するので、第1の実施形態との共通部分については、新たな図示や詳しい説明を省略すると共に、符号を共通して使用することとし、以下、上記第1の実施形態と異なる点についてのみ述べる。
【0083】
図10は、この第2の実施形態に係る打刻データ作成装置71の外観構成を示している。この打刻データ作成装置71は、例えば汎用のパーソナルコンピュータシステム等からなり、多針刺繍ミシン1とは独立した装置として構成されている。打刻データ作成装置71により作成された打刻データが多針刺繍ミシン1に与えられる。この打刻データ作成装置71は、作成装置本体72に、例えばカラーCRTディスプレイからなる表示装置73、キーボード74及びマウス75、カラー画像の読取りが可能なイメージスキャナ76、例えばハードディスクドライブからなる外部記憶装置77を接続して構成されている。
【0084】
前記作成装置本体72は、パーソナルコンピュータ本体からなり、詳しく図示はしないが、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェース、例えばCDやDVD等の記録媒体(光ディスク)に対するデータの読込み及び書込みを行う光ディスクドライブ装置78などを備えている。打刻データ作成プログラムは、例えば外部記憶装置77に予め記憶されていたり、或いは、CDやDVD等の記録媒体に記録された状態で、その記録媒体が前記光ディスクドライブ装置78にセットされて読取られる。
【0085】
打刻データ作成プログラムの実行時には、前記表示装置73には、打刻データを作成するための模様や必要な情報が表示され、ユーザ(オペレータ)がキーボード74やマウス75を操作することにより、必要な入力,指示を行う。さらには、前記イメージスキャナ76により、打刻データを作成したい模様の原画の画像データを読込むことができる。尚、イメージスキャナ76に代えて、デジタルカメラ等においてデジタル化された画像データ(写真等)を取込むように構成しても良い。
【0086】
さて、前記作成装置本体72は、打刻データ作成プログラムの実行により、ユーザが例えば前記イメージスキャナ76により読込させた模様の原画の画像データから、当該模様を前記多針刺繍ミシン1にて打刻彫刻するための打刻データの作成処理を実行する。このとき、ユーザが、所望の模様が描かれた原画をイメージスキャナ76にセットし、キーボード74(或いはマウス75)を操作して処理の開始を指示することにより、作成装置本体72は、以下のような処理ルーチンを自動で実行する
【0087】
即ち、まず、イメージスキャナ76により、模様の原画の画像データを取込む画像取込みのルーチンが実行される。次に、取込まれた模様の画像データから、模様をブロック領域として抽出する抽出ルーチンが実行される。このとき、本実施形態では、画像データに複数の模様が含まれている場合には、ラベリング処理を行うことに基づいて、それら各模様が夫々ブロック領域として抽出される。
【0088】
図11は、ラベリング処理によるブロック領域の抽出の手法を示しており、格子状の目が一つ一つの画素を表している。ここで、イメージスキャナ76により読取られた模様の画像データから、各画素(例えば縦横各0.1mm程度の画素)の明度が所定のしきい値で処理され、例えば、模様を構成する画素が黒レベル(ハッチングを付して示す)、背景を構成する画素が白レベルとされる(図11(a)参照)。例えば画像データの左上から横方向に走査して黒レベルの画素を見つけ、当該画素に新しいラベル(番号)を付加する。次に、ラベルを付した画素の8方向に連結している黒レベルの画素に同じ番号のラベルを付加することを繰返す。これにより、図11(b)に示すように、同じラベル(番号)が付加されている画素の集合が一つのブロックとして認識され、ブロック領域の抽出が可能となる。
【0089】
ブロック領域の抽出の処理の後に、模様(ブロック領域)毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように打刻データを作成するルーチンが実行されると共に、それら複数の模様(ブロック領域)毎に、打刻彫刻動作を実行する順番を決定するルーチンが実行される。この場合、例えば、各ブロック領域を打刻針10による打刻痕で埋めながら、当該ブロックの長手方向に打刻動作が進行するようにして打刻データが作成され、また、複数の模様(ブロック領域)のうち、例えば最も左に位置する模様を順序1番目とし、左から右に向けて順に打刻彫刻が進むように順序が決定される。従って、作成装置本体72が、打刻データ作成手段、抽出手段、順序決定手段として機能する。
【0090】
このような第2の実施形態によれば、上記第1の実施形態と同様に、複数の模様Pを含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、それら複数の模様P毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように打刻データga作成されるので、多針刺繍ミシン1にあっては打刻針10が模様P同士間を相対的に移動する回数を少なく済ませることができ、打刻針10の無駄な駆動停止時間を少なくした効率的な打刻データを作成することができるという優れた効果を得ることができる。
【0091】
また、特に本実施形態では、イメージスキャナ76により読取った複数の模様Pを含んでいる画像データから、各模様Pを夫々ブロック領域として抽出して打刻データを作成できるので、ユーザが用意した任意の模様Pに関して、その画像データから容易に打刻データを作成することができる。しかも、その際のブロック領域の抽出の処理を、画像データ中の各画素に対してラベルを付与するラベリング処理に基づいて行うので、打刻データを作成するにあたり、画像データ中の各模様Pをブロック領域として確実に抽出することができる利点も得ることができる。
【0092】
尚、本発明は上記した各実施形態に限定されるものではなく、様々な拡張、変更が可能である。
上記各実施形態では、打刻データ作成装置を、多針刺繍ミシン1の制御回路41を兼用したり、汎用のパーソナルコンピュータを用いて構成したが、刺繍縫製可能なミシンに直接的に接続された、或いはネットワーク等を介して接続された装置として構成したり、打刻データ作成の専用機として構成したりしても良い。そして、上記各実施形態では、打刻データの作成を、コンピュータがほとんど自動で行う構成としたが、例えば、画像データからの複数の模様(ブロック領域)の抽出や、打刻動作の進行方向の設定、打刻順序の決定などをユーザ(オペレータ)の入力操作により行なうようにしても良い。
【0093】
その他、刺繍縫製可能なミシンの構成としても、種々の変更が可能であることは勿論である。例えば、針棒ケース7に設けられる針棒8の本数についても、9本や12本などであっても良く、さらには1本の針棒を備える刺繍ミシンであっても、縫針と打刻針とを付替えることにより、打刻彫刻動作の実行が可能である。先端の太さや形状の相違する複数種類の打刻針10を使い分けながら打刻彫刻を行う構成としても良い。多針刺繍ミシン1の全体構成や、移送機構18(キャリッジ19)の構成、打刻用保持体21の構成等についても、種々の変更が可能である等、本発明は要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得るものである。
【符号の説明】
【0094】
1 多針刺繍ミシン(打刻データ作成装置)
4 アーム部
7 針棒ケース
8 針棒
9 縫針
10 打刻針
15 ミシンモータ
17 針棒選択用モータ
18 移送機構
19 キャリッジ
21 打刻用保持体
25 Y方向駆動モータ
26 X方向駆動モータ
40 枠種類検出センサ
41 制御回路(打刻データ作成手段、順序決定手段)
71 打刻データ作成装置
72 作成装置本体(打刻データ作成手段、抽出手段、順序決定手段)
76 イメージスキャナ
P 模様
W 被加工物
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍縫製可能なミシンの針棒に打刻針を装着し、移送機構により被加工物を所定の二方向に移送させながら、前記打刻針を上下動させることにより被加工物に所望の模様を打刻彫刻する打刻彫刻動作を実行するための打刻データを作成する打刻データ作成装置及び打刻データ作成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば多色の刺繍糸による刺繍縫製動作を連続的に実行できる多針刺繍ミシンが供されている。この種の多針刺繍ミシンは、アーム部の先端に、例えば6本の針棒を備えた針棒ケースを備え、それら針棒のうち所定のものを針棒駆動機構に選択的に連結して上下駆動するように構成されている。ミシンの制御装置は、一針毎の針落ち位置(加工布の移動量)や色替え等を指示する模様データに基づいて、加工布を保持した刺繍枠を移送機構によりX,Yの二方向に移動させつつ、前記針棒駆動機構及びその他の駆動機構を制御して、多色の刺繍縫製動作を実行させる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
尚、特許文献1においては、ニードルパンチという手法を用いて、布地を装飾するために、一部の針棒に、縫製用の縫針に代えてニードルパンチ針を装着し、ニードルパンチ情報に基づいて加工布にニードルパンチを施すことが記載されている。
【0004】
ところで、近年、例えばプラスチックや金属製の板、木材や繊維材料からなるボード等の表面に対し、打刻針を用いて、所望の写真やイラスト、文字などを打刻彫刻し、アクセサリーや調度品を製作する装置が提供されている。そして、このような打刻彫刻を自動で行う装置として、ドットインパクトプリンタの機構を応用し、複数本の打刻針を設けたプリンタヘッドをX方向に移動させながら、被加工物が載置された台座をY方向に移動させることより、被加工物の表面に所定の打刻彫刻を施すようにした打刻機が考えられている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−172566号公報
【特許文献2】特開2007−8133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、上記した多針刺繍ミシンにおいて、複数本の針棒のうちの一部に、縫製用の縫針に代えて打刻針を装着することによって、多針刺繍ミシンを、打刻彫刻を行う装置として兼用できるのではないかと考えた。この場合、加工布を保持する刺繍枠に代えて、被加工物を固定的に保持する保持体を移送機構のキャリッジに取付けるようにし、打刻彫刻用の打刻データに基づいて被加工物を移動させながら、打刻針が装着された針棒を上下動することにより、被加工物の表面に前記打刻データに応じた所定の打刻彫刻を施すことができると考えられる。
【0007】
ところで、上記のように刺繍ミシンによって打刻彫刻動作を実行させる場合に必要となる打刻データを作成するにあたり、特に、横方向に並んだ複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、その打刻データをどのように作成するかが問題となる。上記特許文献2に記載された打刻機では、ドットインパクトプリンタの機構を応用しているので、被加工物(台座)を、前後方向(紙送り方向)に1ピッチずつ順に移動させながら、打刻針を有するヘッド側をそれとは直交する横方向(印字方向)に往復移動させて打刻動作を行うように構成されている。つまり、用紙に対する印刷と同様に、横方向に1行分の打刻動作を行って、次の行に移動して1行分の打刻動作を行うことを繰返す。
【0008】
具体例をあげると、図9に示すように、被加工物に例えば「WELCOME」といった横書きの複数の文字からなる模様Pを打刻彫刻することを考える。この場合には、従来の打刻機では、図9(b)に示すように、打刻針(ヘッド)が、例えば矢印a、矢印b、矢印c、矢印d、矢印e、矢印f、矢印gの順に相対的に横方向に移動して黒塗りの部分(各文字模様Pの下辺部分)を打刻し、次に、縦方向に1ピッチ分ずれて次の行の打刻を行うといった順序で打刻動作が行われる。しかしながら、上記した刺繍ミシンで打刻彫刻を行う場合に、そのような打刻順を採用すると、特に隣の模様との間で横方向の空間が大きくあいている場合には、打刻針がその空間部分を横方向に相対移動(いわば空移動)する間は、打刻針の上下方向の駆動を停止させなければならない。そのため、打刻していない無駄な時間が余分にかかるという不具合がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、刺繍縫製可能なミシンを用いて被加工物に対する打刻彫刻動作を実行するための打刻データを作成するものにあって、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合における、打刻針の無駄な駆動停止時間を少なくした効率的な打刻データを作成することができる打刻データ作成装置及び打刻データ作成プログラムを提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1の打刻データ作成装置は、刺繍縫製可能なミシンの針棒に、被加工物の表面をドット単位で突き当てて彫刻するための打刻針を装着し、移送機構により前記被加工物を所定の二方向に関して移送させながら、前記打刻針を上下動させることにより前記被加工物に所望の模様を打刻彫刻する打刻彫刻動作を実行するための打刻データを作成する打刻データ作成装置であって、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、前記模様毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように前記打刻データを作成する打刻データ作成手段を備えるところに特徴を有する。
【0011】
刺繍縫製可能なミシンにおいて、針棒に打刻彫刻用の打刻針を装着し、その針棒を上下動させながら、所望の模様に対応した打刻データに基づいて移送機構を制御して、被加工物を所定の二方向に移送させることにより、被加工物に対する打刻彫刻動作が実行される。このとき、被加工物には、打刻データに対応した所望の模様が打刻彫刻される。これにて、刺繍縫製可能なミシンを、打刻彫刻を行う装置として兼用することが可能となる。
【0012】
上記構成においては、打刻データ作成手段により、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、それら複数の模様毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように打刻データが作成される。これにより、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合には、模様毎に打刻彫刻動作が順に実行されるようになるので、打刻針が模様同士間を相対的に移動する回数を少なく済ませることができ、打刻針の全体としての駆動停止時間を少なく抑えることができる。
【0013】
請求項2の打刻データ作成装置は、請求項1の発明において、前記打刻データ作成手段は、前記ミシンにおいて刺繍縫製を行うための模様データから、前記移送機構を駆動するための移送データのみを抽出することによって、前記打刻データを作成するところに特徴を有する。
【0014】
請求項3の打刻データ作成装置は、請求項1又は2の発明において、前記複数の模様に対する打刻彫刻動作を実行する順番を決定する順序決定手段を備えるところに特徴を有する。
【0015】
請求項4の打刻データ作成装置は、請求項1の発明において、前記打刻データ作成手段は、複数の模様を含んでいる画像データから、前記各模様を、夫々ブロック領域として抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された複数のブロック領域毎に打刻彫刻動作を実行する順番を決定する順序決定手段とを備えるところに特徴を有する。
【0016】
請求項5の打刻データ作成装置は、請求項4の発明において、前記抽出手段は、前記画像データ中の各画素に対してラベルを付与するラベリング処理を行うことに基づいて、前記各模様を複数のブロック領域として抽出するところに特徴を有する。
【0017】
本発明の請求項6の打刻データ作成プログラムは、請求項1から5のいずれかに記載の打刻データ作成装置の各種処理手段として、打刻データ作成装置に内蔵されたコンピュータを機能させるところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の打刻データ作成装置によれば、刺繍縫製可能なミシンを用いて被加工物に対する打刻彫刻動作を実行するための打刻データを作成するものにあって、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、それら複数の模様毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように打刻データを作成する打刻データ作成手段を備えるので、打刻針の無駄な駆動停止時間を少なくした効率的な打刻データを作成することができるという優れた効果を得ることができる。
【0019】
請求項2の打刻データ作成装置によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、刺繍模様と同じ模様の打刻彫刻を行いたい場合には、そのための打刻データを、模様データから、移送機構を駆動するための移送データのみを抽出することにより簡単に作成することができる。つまり、打刻データを初めから新規に作成することなく、刺繍縫製用の模様データを打刻データに転用することができ、打刻データの作成の処理を簡単に済ませることができる。
【0020】
請求項3の打刻データ作成装置によれば、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、前記複数の模様に対する打刻彫刻動作を実行する順番を決定する順序決定手段を備えるので、複数の模様に対する打刻彫刻動作の実行順序を自動で決定することができ、打刻データの作成の処理を簡単に済ませることができる。
【0021】
請求項4の打刻データ作成装置によれば、請求項1記載の発明の効果に加え、打刻データ作成手段は、複数の模様を含んでいる画像データから、各模様を夫々ブロック領域として抽出する抽出手段と、この抽出手段により抽出された複数のブロック領域毎に打刻彫刻動作を実行する順番を決定する順序決定手段とを備えるので、ユーザが用意した任意の模様に関して、その画像データから容易に打刻データを作成することができる。
【0022】
請求項5の打刻データ作成装置によれば、請求項4記載の発明の効果に加え、抽出手段は、画像データ中の各画素に対してラベルを付与するラベリング処理を行うことに基づいて、各模様を複数のブロック領域として抽出するので、打刻データを作成するにあたり、画像データ中の各模様をブロック領域として確実に抽出することができる。
【0023】
請求項6の打刻データ作成プログラムによれば、打刻データ作成装置に内蔵されたコンピュータを、請求項1から5のいずれかに記載の打刻データ作成装置の各種処理手段として機能させるので、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、打刻針の無駄な駆動停止時間を少なくした効率的な打刻データを作成することができるという優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すもので、多針刺繍ミシンの外観構成を示す斜視図
【図2】針棒ケース部分の正面図
【図3】打刻針が装着された針棒の正面図(a)及び縦断右側面図(b)
【図4】刺繍枠が装着された状態の枠ホルダの平面図
【図5】打刻用保持体の平面図(a)及び縦断正面図(b)
【図6】多針刺繍ミシンの電気的構成を概略的に示すブロック図
【図7】打刻データの作成の処理手順を示すフローチャート
【図8】制御装置が実行する針棒制御の処理手順を示すフローチャート
【図9】本実施形態における模様Pに関する打刻動作順序(a)を、従来例における打刻動作順序(b)と併せて示す図
【図10】本発明の第2の実施形態を示すもので、打刻データ作成装置の外観構成を示す図
【図11】ラベリング処理を説明するための図
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(1)第1の実施形態
以下、本発明を具体化した第1の実施形態について、図1から図9を参照しながら説明する。尚、本実施形態では、刺繍縫製可能なミシンである多針刺繍ミシンが、打刻データ作成装置としての機能を内蔵して構成される場合を具体例としている。図1は、本実施形態に係る多針刺繍ミシン1の外観構成を概略的に示している。まず、この多針刺繍ミシン1の構成について説明する。以下の説明では、図1,図2,図4に示すように、多針刺繍ミシン1の左右方向をX方向とし、前後方向をY方向としている。
【0026】
図1に示すように、多針刺繍ミシン1は、図示しない載置台上に載置される支持台2、この支持台2の後端部から上方に延びる脚柱部3、この脚柱部3の上端部から前方に延びるアーム部4等を備えて構成される。前記支持台2は、左右部位に前方に延びる脚部2a,2aを有した、上面から見て前方が開放するほぼU字状に構成されている。また、この支持台2には、後部中央部から前方に延びるシリンダベッド5が一体的に設けられている。このシリンダベッド5の先端上部には、針穴6aを有する針板6が設けられ、図示はしないが、その内部には、糸捕捉釜や糸切り機構(及びピッカー)等が設けられている。
【0027】
尚、図示は省略しているが、前記アーム部4の後側上部には、例えば6個の糸駒がセット可能な糸立て装置が設けられている。また、アーム部4の右側には、操作パネル(図示せず)が設けられている。図6にのみ図示するように、この操作パネルには、ユーザ(オペレータ)が各種の指示や選択、入力の操作を行うための複数の操作スイッチ45や、ユーザに対して必要なメッセージ等の表示を行う液晶ディスプレイ(LCD)46等が設けられている。
【0028】
図2にも示すように、前記アーム部4の先端部には、針棒ケース7が左右方向(X方向)に移動可能に設けられている。図2に示すように、この針棒ケース7は、前後方向に薄型の矩形箱状をなしている。そして、その内部には、左右方向に並んで、複数本の針棒8、本実施形態の場合は6本の針棒8が上下動可能に支持されている。これら各針棒8は、図示しないコイルばねのばね力により、常時上方(図2に示す上死点(針上位置))に向けて付勢されている。
【0029】
これら各針棒8は、その下端部が、針棒ケース7の下方に突出位置しており、その下端部には、刺繍用の縫針9が、着脱(交換)可能に取付けられている。尚、6本の針棒8を区別する場合には、右から順に、1番,2番‥と針棒番号が付される。このとき、図3にも示すように、本実施形態では、6本の針棒8のうち、左端に位置する特定の針棒8(針棒番号6番)には、縫針9に代えて打刻針10が装着されている。この打刻針10については後述する。
【0030】
また、各針棒8の下部には、当該針棒8の上下動に同期して上下動する刺繍用押え足11が設けられている。この場合、針棒番号6番の針棒8に、縫針9に代えて打刻針10が装着された状態では、刺繍用押え足11は取外されるようになっている。また、詳しく図示はしないが、針棒ケース7の上部側には、6本の針棒8に対応して6個の天秤が設けられている。これら各天秤は、その先端部が、針棒ケース7の前面に上下に延びて形成された6個のスリット孔12を夫々通して前面側に突出しており、針棒8の上下動に同期して上下動(揺動)するように構成されている。また、図示はしないが、後述する針棒上下駆動機構により上下動される位置にある針棒8の後方にはワイパーが設けられている。
【0031】
図1に示すように、この針棒ケース7には、その上端から斜め後方に延びて上部カバー13が一体的に設けられている。この上部カバー13には、図示しない6個の糸調子器(取付用の穴のみを示す)が設けられていると共に、上端部に位置して6個の糸切れセンサ14が設けられている。これにて、糸立て装置にセットされた糸駒から、刺繍用の上糸が引出され、糸切れセンサ14、糸調子器、天秤等の所定の経路を順に通され、最後に縫針9の目孔(図示せず)に通されることにより、刺繍縫製が可能となる。このとき、6本(或いは5本)の縫針9に、夫々異なる色の上糸を供給することにより、複数色の上糸による刺繍縫製動作を、自動で切替えながら連続的に行うことができる。
【0032】
詳しく図示はしないが、前記脚柱部3には、ミシンモータ15(図6にのみ図示)が設けられている。前記アーム部4には、周知のように、前記ミシンモータ15により駆動される主軸や、この主軸の回転により前記針棒8等を上下動させる針棒上下駆動機構、針棒ケース7をX方向に移動させて針棒を選択する針棒選択機構などが設けられている。尚、前記主軸の回転により、前記糸捕捉釜も前記針棒8の上下動と同期して駆動される。
【0033】
前記針棒上下駆動機構は、針棒8に設けられた針棒抱き16(図3参照)に選択的に係合する上下動部材を備えている。前記針棒選択機構は、針棒選択用モータ17(図6にのみ図示)を駆動源として針棒ケース7をX方向に移動させ、いずれかの針棒8(前記針穴6aの真上位置の針棒8)を、上下動部材に係合させるように構成されている。これにて、針棒選択駆動機構が構成され、選択された1本の針棒8(及びその針棒8に対応した天秤)のみが、針棒上下駆動機構により上下駆動される。
【0034】
そして、図1に示すように、前記支持台2上(脚柱部3の前方)には、前記シリンダベッド5のやや上部に位置して、移送機構18(図6参照)のキャリッジ19が設けられる。このキャリッジ19には、刺繍縫製を施すべき加工布を保持する刺繍枠20(図4参照)、或いは、打刻彫刻を施すべき被加工物Wを保持する打刻用保持体21が着脱可能に連結される。尚、詳しく図示はしないが、加工布を保持する刺繍枠20については、大きさや形状の相違する複数種類のものが付属品として備えられている。
【0035】
図1,図4に示すように、前記キャリッジ19は、Y方向キャリッジ22、このY方向キャリッジ22に設けられるX方向キャリッジ23、このX方向キャリッジ23に取付けられる枠ホルダ24(図4のみ図示)を備えている。詳しく図示はしないが、前記移送機構18は、前記支持台2内に設けられY方向キャリッジ22をY方向(前後方向)に自在に移動させるY方向駆動機構と、このY方向キャリッジ22内に設けられ前記X方向キャリッジ23及び枠ホルダ24をX方向(左右方向)に移動させるX方向駆動機構とを含んでいる。刺繍枠20或いは打刻用保持体21は前記枠ホルダ24により保持され、移送機構18により所定の二方向であるX方向及びY方向に自在に移送される。
【0036】
前記Y方向キャリッジ22は、横長な(細幅の)箱状をなし、前記支持台2の左右の脚部2a,2a間に掛け渡されるようにして左右方向(X方向)に延びている。このとき、図1に示すように、支持台2の左右の脚部2a,2aの上面には、夫々前後方向(Y方向)に延びるガイド溝25が設けられている。図示はしないが、前記Y方向駆動機構は、これらガイド溝25を上下に貫通し、該ガイド溝25に沿ってY方向(前後方向)に移動可能に設けられた2個の移動体を備えている。前記Y方向キャリッジ22の左右両端部が、夫々移動体の上端部に連結されている。
【0037】
前記Y方向駆動機構は、ステッピングモータからなるY方向駆動モータ26(図6参照)や、タイミングプーリやタイミングベルト等からなる直線移動機構を備えて構成されている。前記Y方向駆動モータ26を駆動源として前記直線移動機構により前記移動体を自在に移動させることによって、Y方向キャリッジ22をY方向(前後方向)に自在に移動させる。
【0038】
図1、図4に示すように、前記X方向キャリッジ23は、一部がY方向キャリッジ22の前面側下部から前方に突出する横長な板状をなし、該Y方向キャリッジ22にX方向(左右方向)にスライド移動可能に支持されている。Y方向キャリッジ22内に設けられるX方向駆動機構は、ステッピングモータからなるX方向駆動モータ27(図6参照)や、タイミングプーリやタイミングベルト等からなる直線移動機構を備えて構成され、X方向キャリッジ23をX方向(左右方向)に自在に移動させる。
【0039】
ここで、前記X方向キャリッジ23に取付けられる枠ホルダ24、及び、この枠ホルダ24に着脱可能に装着される保持体(刺繍枠20及び打刻用保持体21)について述べる。まず、図4を参照して刺繍枠20について述べる。この刺繍枠20は、丸みを帯びた矩形枠状をなす内枠28と、この内枠28の外周に着脱可能に嵌合される外枠29と、内枠28の左右両端部に取付けられた一対の連結部30,30とを備えている。図示はしないが、被加工物たる加工布は、内枠28と外枠29との間に挟まれ、内枠28の内側でピンと張った状態に保持される。
【0040】
前記左右一対の連結部30,30は、平面的に見て180度の回転対称的な構造を備えており、これら連結部30には、枠ホルダ24への装着のための係合溝30a及び係合穴30bが形成されている。上記のように、前記刺繍枠20は、大きさ或いは形状(刺繍領域)の相違する複数種類が用意され、加工布の大きさや刺繍の大きさに応じて選択的に使用される。また、それら刺繍枠20の種類に応じて、左右の幅寸法L1(連結部30の外縁から連結部30の外縁までの間の寸法)が相違するように設定されており、それによって、後述する検出手段により刺繍枠20の種類(及び打刻用保持体21かどうか)の検出が可能である。図4では、この幅寸法が一番大きな刺繍枠20を例示している。
【0041】
次に、前記打刻用保持体21について述べる。図5に示すように、打刻用保持体21は、丸みを帯びた矩形板状をなす保持部31と、この保持部31の左右両端部に取付けられた一対の連結部32,32とを備えている。前記保持部31の板面には、矩形状をなす有底状の保持凹部31aが設けられている。被加工物Wは、予め前記保持凹部31aに対応した矩形板状とされて供される。被加工物Wは、例えばアクリル等の樹脂製の板材、アルミや真鍮等の金属製の板材、木材や合板、繊維材料を固形化したボード等であり、ユーザの所望する材料が適宜使用される。この被加工物Wが、前記保持凹部31aにほぼ密着した状態に嵌め込まれることにより、裏面側が受けられた状態で、前記打刻用保持体21の特定の固定位置に保持される。
【0042】
また、前記左右一対の連結部32,32は、やはり、平面的に見て180度の回転対称的な構造を備えており、これら連結部32には、枠ホルダ24への装着のための係合溝32a及び係合穴32bが形成されている。上記したように、この打刻用保持体21の左右の幅寸法L2(連結部32の外縁から連結部32の外縁までの間の寸法)は、前記いずれの種類の刺繍枠20の幅寸法L1とも相違するように設定されている。尚、この打刻用保持体21についても、被加工物Wの大きさや形状等に応じて複数種類を用意しておくようにしても良い。
【0043】
そして、上記した刺繍枠20や打刻用保持体21が装着(連結)される枠ホルダ24は、以下のように構成されている。即ち、図4に示すように、この枠ホルダ24は、前記X方向キャリッジ23の上面部に固定的に取付けられるホルダ本体33と、このホルダ本体33に位置変更可能に取付けられる可動腕部34とを備えている。可動腕部34は、装着すべき刺繍枠20(打刻用保持体21を含む)の種類つまり幅寸法L1(L2)に応じて、ユーザにより左右方向に位置変更されるものである。
【0044】
そのうちホルダ本体33は、X方向(左右方向)に長く延びる板状をなす主部33aの右端部に、ほぼ直角に折曲って前方に延びる右腕部33bを有している。この右腕部33bの上面には、先端に位置して係合ピン35が設けられていると共に、その後側に、連結部30,32の挟持用の板ばね36が取付けられている。前記係合ピン35は、前記刺繍枠20の連結部30の係合溝30a、或いは、前記打刻用保持体21の連結部32の係合溝32aに係合する。
【0045】
前記可動腕部34は、前記右腕部33bとほぼ左右対称的な形状をなし、その基端部(後端部)が、前記ホルダ本体33の主部33aの左側部分の上面に重なるように取付けられる。この可動腕部34の上面には、先端に位置して係合ピン37が設けられていると共に、その後側に、連結部30,32の挟持用の板ばね38が取付けられている。前記係合ピン37は、前記刺繍枠20の連結部30の係合孔30b、或いは、前記打刻用保持体21の連結部32の係合孔32bに係合する。
【0046】
この可動腕部34は、基端部(後端部)に左右方向に長い案内溝34aを有し、前記ホルダ本体33の主部33aの上面に設けられた案内ピン39が、その案内溝34a内に係合することにより、前記ホルダ本体33の主部33aに対し、左右方向にスライド移動可能に設けられている。また、図示はしないが、前記ホルダ本体33の主部33aには、可動腕部34を複数の所定位置で選択的に固定するための位置決め固定機構が設けられている。ユーザがこの位置決め固定機構を操作することにより、可動腕部34の左右方向位置が変更可能である。
【0047】
これにて、ユーザは、装着すべき刺繍枠20(打刻用保持体21)の種類(幅寸法)に応じて可動腕部34を適切な位置に固定した状態で、刺繍枠20或いは打刻用保持体21を枠ホルダ24に装着する。図4に例示するように、刺繍枠20を装着するにあたっては、刺繍枠20の左右の連結部30を、夫々、可動腕部34の板ばね38部分、及び、右腕部33bの板ばね36部分に挟み込まれるように前方から差込む。次いで、可動腕部34の係合ピン37に連結部30の係合孔30bを係合させると共に、右腕部33bの係合ピン35に連結部30の係合溝30aを係合させる。これにより、刺繍枠20は、枠ホルダ24に保持され、移送機構18によってX,Y方向に移動されるのである。打刻用保持体21の場合も、同様にして枠ホルダ24に装着することができる。
【0048】
このとき、前記X方向キャリッジ23には、図4、図6に示すように、可動腕部34の位置を検出することに基づいて、装着されている刺繍枠20(打刻用保持体21)の種類を検出するための枠種類検出センサ40が設けられている。図示はしないが、この枠種類検出センサ40は、例えば回転型ポテンショメータからなり、可動腕部34に設けられた例えば傾斜面からなる被検出部に当接する検出子を有し、可動腕部34の左右方向位置によってその検出子の回動位置(角度)が変動することに応じて、抵抗値(出力電圧値)が変動する。
【0049】
図6に示すように、この枠種類検出センサ40の出力信号は後述する制御回路41に入力され、この制御回路41にて刺繍枠20(打刻用保持体21)の種類を検出(判断)する。従って、これら枠種類検出センサ40及び制御回路41などから、打刻用保持体21が装着されているかどうかを検出する検出手段が構成される。
【0050】
さて、本実施形態では、多針刺繍ミシン1は、加工布に対する6色の刺繍糸を用いた通常の刺繍縫製動作の実行が可能であると共に、打刻用保持体21を移送機構18によってX、Y方向に移動させながら、被加工物Wの表面に対し、打刻針10をドット単位で突き当て、所望の写真やイラスト、文字などを打刻彫刻する打刻彫刻動作の実行が可能である。上記したように、打刻彫刻動作を実行するにあたっては、図2に示すように、6本の針棒8のうち左端の針棒8(針棒番号6番)に、縫針9に代えて打刻彫刻用の打刻針10が装着される。
【0051】
図3にも示すように、この打刻針10は、基端(上端部)部に針棒8に取付け可能な取付部を有し、先端(下端)が打刻彫刻に適した尖った形状をなしている。この打刻針10は、針棒8の最下位置(下死点)において、打刻用保持体21に保持された被加工物Wの表面に突き当てられるものである(加工布を貫通するものではない)から、縫針9よりも短く構成されている。
【0052】
尚、図示はしないが、打刻針10は、長さ寸法や太さ寸法、先端形状が互いに相違する複数種類が用意されており、そこからユーザが選択した1本の打刻針10が針棒番号6番の針棒8に装着される。また、図2に示すように、打刻針10が装着された針棒8については、押え足11が取外される。針棒番号6番の針棒8に打刻針10が装着されている場合には、刺繍縫製動作は、残りの5本(針棒番号1番から5番)の針棒8を使用して(5色の刺繍糸で)行われることは勿論である。
【0053】
図6は、本実施形態に係る多針刺繍ミシンの電気的構成を、全体を制御する制御手段としての制御回路41を中心にして概略的に示している。この制御回路41は、コンピュータ(CPU)を主体として構成され、ROM42、RAM43、外部メモリ44が接続されている。前記ROM42には、刺繍縫製制御プログラム、打刻彫刻制御プログラム、打刻データ作成プログラム、各種制御用データ等が記憶されている。前記外部メモリ44には、多数種類の刺繍縫製用の模様データや、打刻データ等が記憶されている。
【0054】
この制御回路41は、前記操作パネルの各種操作スイッチ45の操作信号が入力されると共に、液晶ディスプレイ46の表示を制御する。このとき、ユーザは、液晶ディスプレイ46の表示を見ながら、各種操作スイッチ45を操作することによって、縫製のモード(刺繍縫製モード、打刻彫刻モード、打刻データ作成モード等)を選択したり、所望する刺繍模様や打刻彫刻模様を選択指定したりする。
【0055】
また、制御回路41には、糸切れセンサ14の検出信号、前記移送機構18の枠種類検出センサ40の検出信号、その他各種検出センサ47の検出信号が入力される。そして、制御回路41は、駆動回路48を介して前記ミシンモータ15を駆動制御すると共に、駆動回路49を介して前記針棒選択用モータ17を駆動制御する。
【0056】
そして、制御回路41は、駆動回路50を介して前記移送機構18のY方向駆動モータ26を駆動制御すると共に、駆動回路51を介して前記X方向駆動モータ27を駆動制御し、枠ホルダ24(刺繍枠20又は打刻用保持体21)を自在に移動させる。更に、制御回路41は、駆動回路52,53,54を夫々介して、ピッカー(図示せず)の駆動源となるピッカーモータ55、糸切り機構の駆動源となる糸切りモータ56、ワイパー(図示せず)の駆動源となるワイパーモータ57を制御し、以て糸切り動作を実行させる。
【0057】
ここで、前述のピッカー及びワイパーを簡単に説明する。尚、糸切り機構については十分に周知の機構であるので説明は省略する。まず、ピッカーとは、刺繍縫製開始時や糸切り時に糸捕捉釜に当接するように動作する部材であって、上糸(の糸量)を一時的に確保することで、縫製開始時に、加工布の上面から上糸の糸端が出る(残る)ことを防止したり、縫針の目穴から上糸が抜けるのを防止するものである。また、ワイパーとは、糸切り機構により切断された上糸の糸端を、加工布の上面に引き上げるように動作する部材である。そして、このワイパーの動作を糸払い動作という。
【0058】
制御回路41は、刺繍縫製制御プログラムの実行(刺繍縫製モード)により、例えば外部メモリ44に記憶されている刺繍縫製用の模様データの中から、ユーザが選択した模様データに基づいて、ミシンモータ15、針棒選択用モータ17、移送機構18のY方向駆動モータ26及びX方向駆動モータ27等を制御し、刺繍枠20に保持された加工布に対する刺繍縫製動作を自動で実行させる。
【0059】
このとき、周知のように、上記刺繍縫製用の模様データは、一針毎の針落ち位置(刺繍枠20のX、Y方向の移動量)を示す一針データ(移送データ)、刺繍糸の色(即ち駆動する針棒8)の切替えを指示する色替えデータ、糸切り動作を指示する糸切りデータ、縫製終了データ等を含んでいる。また、前記一針データの中には、糸切りを行わずにフィードしたり刺繍を補強したりするために、縫製(縫目形成)は行われるものの刺繍の外観に現れることのない(最終的に他の刺繍糸により隠されてしまう)下打ちデータが含まれている。
【0060】
そして、本実施形態では、前記制御回路41は、そのソフトウエア構成(打刻彫刻制御プログラムの実行)により、打刻データに基づいて、ミシンモータ15、針棒選択用モータ17、移送機構18のY方向駆動モータ26及びX方向駆動モータ27等を制御し、打刻用保持体21に保持された被加工物Wの表面に対する打刻針10による打刻彫刻動作を自動で実行させる(打刻彫刻モード)ことが可能に構成されている。この打刻彫刻動作は、針棒番号6番の針棒8を選択し当該針棒8(打刻針10)を上下動させながら、針棒8の上昇時に被加工物Wを次の打刻点に移動させることを繰返すことにより行われる。このとき、前記打刻データは、打刻針10による一針毎の打刻点の位置、即ち一針毎の被加工物W(打刻用保持体21)のX、Y方向の移動量を示す移送データの集合を主体として構成される。
【0061】
このとき、後の作用説明(フローチャート説明)でも述べるように、制御回路41は、打刻彫刻動作を実行させるにあたり、前記枠種類検出センサ40により、前記枠ホルダ24に対する打刻用保持体21の装着が検出されていることを条件に、打刻彫刻動作を実行させる。つまり、打刻用保持体21の装着が検出されていないときには、ユーザにより打刻彫刻動作の実行が指示されても、縫製動作(ミシンモータ15の起動)を禁止する。
【0062】
さらに、本実施形態では、これも後の作用説明(フローチャート説明)で述べるように、制御回路41は、打刻データ作成プログラムの実行により、刺繍模様の模様データから打刻データを作成する打刻データ作成装置としての機能を兼用している。この打刻データの作成は、刺繍模様と同じ模様についての打刻彫刻を施すことができるように、当該刺繍模様の模様データから、移送機構18を駆動するための移送データのみを抽出することにより行われる。
【0063】
この場合、打刻データの作成(移送データの抽出)にあたっては、模様データから色替えデータや糸切りデータが省かれることは勿論、一針データのうち下打ちデータが省かれる。そして、本実施形態では、制御回路41は、打刻データ作成プログラムの実行により打刻データを作成するにあたり、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、それら模様(ブロック)毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように打刻データを作成するように構成されている。従って、制御回路41が打刻データ作成手段として機能する。尚、刺繍模様の模様データにおいては、刺繍領域が細長い場合に、その長手方向が縫製動作の進行する方向とされるようになっており、打刻データにおいても、模様を構成する領域が細長い場合にはその長手方向が打刻動作の進行する方向とされる。
【0064】
また、制御回路41は、複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、併せて、それら複数の模様に対する打刻彫刻を行う順番を決定するように構成されており、順序決定手段としても機能する。順序決定の手法の一例として、例えば、複数の模様(ブロック)のうち、最も左に位置する模様を順序1番目とし、左から右に向けて順に打刻彫刻が進むように順序が決定される。
【0065】
尚、本実施形態では、制御回路41は、枠種類検出センサ40により打刻用保持体21の装着が検出されているとき(打刻彫刻動作の実行時)には、刺繍縫製における固有の動作を行わない(禁止する)制御を行う。ここでいう、「刺繍縫製における固有の動作」には、例えば糸切り機構による糸の切断動作、ワイパーによる糸払い動作、糸切れセンサ14による糸切れ検出の動作等が含まれる。また、打刻彫刻動作時の針棒8の駆動速度(主軸の回転速度)は、刺繍縫製動作時における最高速度(例えば1,000rpm)に比べて低速(例えば800rpm)に抑えることが好ましく、打刻彫刻動作時における最高速度を超える速度で針棒8を駆動することも、刺繍縫製固有の動作となる。
【0066】
次に、上記構成の作用について、図7から図9も参照して述べる。尚、ここでは、図5及び図9に示すように、被加工物Wに例えば「WELCOME」といった横書きの複数の文字からなる模様Pを打刻彫刻する場合を具体例としてあげながら説明する。上記したように、制御回路41は、例えばユーザの選択指示により、外部メモリ44或いはROM42に記憶されている刺繍縫製用の模様データから、移送機構18を駆動するための移送データのみを抽出することにより打刻データを作成する処理を行う(打刻データ作成モード)。図7のフローチャートは、その際に制御回路41が実行する打刻データの作成処理の手順を示している。
【0067】
打刻データの作成にあたっては、ユーザは、各種操作スイッチ45を操作して打刻データの作成を指示すると共に、ROM42或いは外部メモリ44に記憶されている模様データのなかから所望の刺繍模様を選択しておく。まず、ステップS1では、選択された模様データから、一針データが1番目のものから順に読込まれる。次のステップS2〜S4では、ステップS1で読込んだデータの種類の判別がなされる。即ち、ステップS2では読込んだデータが縫製終了データかどうかの判断がなされる。
【0068】
縫製終了データでない場合には(ステップS2にてNo)、ステップS3にて、糸切りデータかどうかが判断される。糸切りデータであった場合には(ステップS3にてYes)、ステップS1に戻り、次のデータの読込みが行われる。糸切りデータでない場合には(ステップS3にてNo)、ステップS4にて、色替えデータかどうかが判断される。色替えデータであった場合には(ステップS4にてYes)、ステップS1に戻り、次のデータの読込みが行われる。
【0069】
色替えデータでない場合には(ステップS4にてNo)、一針データ(移送データ)と判断できるので、ステップS5にて、その一針データがバッファに展開され、ステップS1に戻って次のデータの読込みが行われる。このような処理が繰返されることにより、一針毎の針落ち位置(キャリッジ19のX、Y方向の移動量)を示す移送データ(ステッチデータ)のみが抽出されてバッファに展開され、最後の縫製終了データが読込まれると(ステップS2にてYes)、ステップS6にて終了データがバッファに展開される。
【0070】
次いで、ステップS7では、ステッチデータがブロックデータ(模様Pのブロック毎に順に打刻彫刻を行うためのデータ)に変換される。またこのとき、併せて各ブロック(模様P)の打刻彫刻実行の順序が決定される。さらに、ステップS8にて、内部走り縫い等の下打ち用のデータが削除され、打刻データの作成処理が終了する。作成された打刻データは、例えばユーザにより所望の名称が付されて外部メモリ44に記憶される。
【0071】
これにより、上記刺繍模様を被加工物Wの表面に打刻彫刻するための、一針毎の打刻針10の打刻位置(キャリッジ19ひいては打刻用保持体21のX、Y方向の移動量)を示すデータの集合からなる打刻データが作成されるのである。このとき、図9(a)に示すように、「WELCOME」の複数の文字模様Pの場合には、模様P毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように、即ち、最初に「W」の文字模様Pが打刻彫刻され、次に「E」の文字模様Pが打刻彫刻され、3番目に「L」の文字模様Pが打刻彫刻されるといった順序の打刻データが作成されるのである。また、刺繍縫製用の模様データを、打刻データに転用することができ、打刻データの作成の処理を簡単に済ませることができる。
【0072】
次に、本実施形態の多針刺繍ミシン1においては、通常の刺繍縫製動作に加えて、以下のようにして、被加工物Wに所望の模様の打刻彫刻を行う打刻彫刻動作を実行させることができる。打刻彫刻動作を実行させるにあたっては、ユーザは、特定の針棒8(針棒番号6番)に打刻針10を装着すると共に、被加工物Wを保持させた打刻用保持体21を、枠ホルダ24に装着する。そして、所望の模様の打刻データの選択(読出し)を行って打刻彫刻動作をスタートさせる。
【0073】
このとき、本実施形態では、多針刺繍ミシン1の制御回路41は、動作を開始する(ミシンモータ15を起動する)にあたって、図8のフローチャートに示すように、枠種類検出センサ40の検出に基づく動作の制御を行う。即ち、動作を開始するにあたり、まずステップS11では、枠種類検出センサ40の出力信号に基づいて、保持体(刺繍枠20及び打刻用保持体21)の種類の認識が行われる。ステップS12は、打刻用保持体21が装着されているかどうかの判断ステップであり、どちらが装着されているかによって以下の制御が異なってくる。
【0074】
打刻用保持体21が装着されていないと判断された場合、つまり刺繍枠20が装着されている場合には(ステップS12にてNo)、次のステップS13にて、縫製終了まで、縫針9による刺繍縫製動作が実行される。縫製が終了したときには(ステップS14にてYes)、ステップS15にて、糸切り動作及びワイパーによる糸払い動作が実行され、処理が終了する。尚このとき、図示はしないが、上記ステップS11の認識処理において刺繍枠20の種類まで検出することができるので、例えば、選択されている模様データの大きさが刺繍枠20の縫製領域(図4に想像線で示す)よりも大きい場合にエラー報知を行うなど、取付けられている刺繍枠20の種類に応じた制御を行うことができる。
【0075】
一方、枠種類検出センサ40出力の信号に基づいて、枠ホルダ24に打刻用保持体21が装着されていることが検出された場合には(ステップS12にてYes)、ステップS16にて、打刻針10による打刻彫刻動作が実行される。この場合、制御回路41は、打刻データに基づいて、移送機構18を制御して打刻用保持体21ひいては被加工物WをX、Y方向に自在に移送させながら、針棒選択用モータ17により、打刻針10が装着された特定の針棒8(針棒番号6番)を選択的に駆動させることによって、打刻彫刻動作を実行させる。これにて、打刻針10が被加工物Wの表面に突き当てられ、打刻データに応じた模様の打刻彫刻が施されるのである。
【0076】
このとき、図9(a)に示すように、「WELCOME」の複数の文字模様Pを打刻彫刻する場合には、上記のようにして作成された打刻データに基づいて制御が行われる。従って、まず最初に「W」の文字模様Pが、例えば矢印A,矢印B,矢印C,矢印Dの順(打刻動作の進行方向)に打刻彫刻される。次に「E」の文字模様Pが打刻彫刻され、3番目に「L」の文字模様Pが打刻彫刻されるといった順序で打刻彫刻動作が実行されるのである。図9(a)では、打刻彫刻が完了した部分を黒塗りで示しており、3番目に「L」の文字模様Pの途中までが打刻彫刻された状態を示している。
【0077】
これにて、図9(b)に示した従来例の打刻機における打刻順序、つまり、打刻針が文字模様P全体に対して相対的に横方向に移動しながら打刻し、次に縦方向に1ピッチ分ずれて次の行の打刻を行うといった打刻動作順序と異なり、本実施形態では、模様P(ブロック)毎に打刻彫刻動作が順に実行されるようになる。これにより、特に隣の模様Pとの間で横方向の空間が大きくあいている場合に、打刻針がその空間部分を横方向に相対移動(いわば空移動)する間は、打刻針の上下方向の駆動を停止させなければならなかった従来と異なり、打刻針10が模様P同士間を横方向に相対的に移動する回数を少なく済ませることができ、打刻針10の全体としての駆動停止時間を少なく抑えることができる。
【0078】
図8に戻って、縫製動作の終了が判断された(終了データが読込まれた)場合には(ステップS17にてYes)、そのまま動作が終了する。また、図示はしていないが、枠ホルダ24に打刻用保持体21が装着されているにも関わらず、ユーザが刺繍縫製動作を行おうとした場合や、枠ホルダ24に刺繍枠20が装着されているにも関わらず、ユーザが打刻彫刻動作を行おうとした場合には、エラー報知が行われる。
【0079】
上記した制御回路41の制御により、枠ホルダ24に打刻用保持体21が装着されている状態では、縫製用の縫針9が装着された針棒8(針棒番号1番から5番の針棒8)を上下駆動してしまう不具合や、刺繍縫製用の模様データに基づいて打刻彫刻の動作を行ってしまうといった不具合を未然に防止することができる。逆に、枠ホルダ24に刺繍枠20が装着されているときには、打刻針10が装着された針棒8を上下駆動したり、打刻データに基づいて刺繍縫製動作を実行したりすることも防止できる。尚、これに加えて、上記したように、枠種類検出センサ40により打刻用保持体21の装着が検出されているときには、刺繍縫製における固有の動作が禁止される。
【0080】
このように本実施形態によれば、特定の針棒8に打刻針10を装着可能とすると共に、被加工物Wを保持する打刻用保持体21を、打刻データに基づいて移送機構18により移送可能に構成した。従って、加工布に対する通常の刺繍縫製動作に加えて、被加工物Wの表面に対する打刻彫刻動作を行うことが可能となり、多針刺繍ミシン1を、打刻彫刻を行う装置として兼用することができる。このとき、制御回路41は、枠種類検出センサ40により打刻用保持体21の装着が検出されているときに、打刻彫刻動作を実行させる制御を行うので、装着されている保持体20,21の種類に対応しないような不適切な動作を行ってしまう不具合を効果的に防止することができる。
【0081】
そして、本実施形態では、多針刺繍ミシン1が、模様データから移送機構18を駆動するための移送データのみを抽出することにより打刻データを作成する機能を備える。これにより、刺繍模様と同じ模様の打刻彫刻を行いたい場合には、刺繍縫製用の模様データを、打刻データに転用することができ、打刻データの作成の処理を簡単に済ませることができる。このとき、複数の模様Pを含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、それら複数の模様P毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように打刻データが作成されるので、打刻針10の無駄な駆動停止時間を少なくした効率的な打刻データを作成することができるという優れた効果を得ることができる。
【0082】
(2)第2の実施形態、その他の実施形態
次に、図10及び図11を参照して、本発明の第2の実施形態について述べる。尚、この第2の実施形態においても、多針刺繍ミシン1は、打刻データに基づいて被加工物Wに対する打刻彫刻動作を実行することが可能に構成されている。この多針刺繍ミシン1のハードウエア構成等については、上記第1の実施形態と共通するので、第1の実施形態との共通部分については、新たな図示や詳しい説明を省略すると共に、符号を共通して使用することとし、以下、上記第1の実施形態と異なる点についてのみ述べる。
【0083】
図10は、この第2の実施形態に係る打刻データ作成装置71の外観構成を示している。この打刻データ作成装置71は、例えば汎用のパーソナルコンピュータシステム等からなり、多針刺繍ミシン1とは独立した装置として構成されている。打刻データ作成装置71により作成された打刻データが多針刺繍ミシン1に与えられる。この打刻データ作成装置71は、作成装置本体72に、例えばカラーCRTディスプレイからなる表示装置73、キーボード74及びマウス75、カラー画像の読取りが可能なイメージスキャナ76、例えばハードディスクドライブからなる外部記憶装置77を接続して構成されている。
【0084】
前記作成装置本体72は、パーソナルコンピュータ本体からなり、詳しく図示はしないが、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェース、例えばCDやDVD等の記録媒体(光ディスク)に対するデータの読込み及び書込みを行う光ディスクドライブ装置78などを備えている。打刻データ作成プログラムは、例えば外部記憶装置77に予め記憶されていたり、或いは、CDやDVD等の記録媒体に記録された状態で、その記録媒体が前記光ディスクドライブ装置78にセットされて読取られる。
【0085】
打刻データ作成プログラムの実行時には、前記表示装置73には、打刻データを作成するための模様や必要な情報が表示され、ユーザ(オペレータ)がキーボード74やマウス75を操作することにより、必要な入力,指示を行う。さらには、前記イメージスキャナ76により、打刻データを作成したい模様の原画の画像データを読込むことができる。尚、イメージスキャナ76に代えて、デジタルカメラ等においてデジタル化された画像データ(写真等)を取込むように構成しても良い。
【0086】
さて、前記作成装置本体72は、打刻データ作成プログラムの実行により、ユーザが例えば前記イメージスキャナ76により読込させた模様の原画の画像データから、当該模様を前記多針刺繍ミシン1にて打刻彫刻するための打刻データの作成処理を実行する。このとき、ユーザが、所望の模様が描かれた原画をイメージスキャナ76にセットし、キーボード74(或いはマウス75)を操作して処理の開始を指示することにより、作成装置本体72は、以下のような処理ルーチンを自動で実行する
【0087】
即ち、まず、イメージスキャナ76により、模様の原画の画像データを取込む画像取込みのルーチンが実行される。次に、取込まれた模様の画像データから、模様をブロック領域として抽出する抽出ルーチンが実行される。このとき、本実施形態では、画像データに複数の模様が含まれている場合には、ラベリング処理を行うことに基づいて、それら各模様が夫々ブロック領域として抽出される。
【0088】
図11は、ラベリング処理によるブロック領域の抽出の手法を示しており、格子状の目が一つ一つの画素を表している。ここで、イメージスキャナ76により読取られた模様の画像データから、各画素(例えば縦横各0.1mm程度の画素)の明度が所定のしきい値で処理され、例えば、模様を構成する画素が黒レベル(ハッチングを付して示す)、背景を構成する画素が白レベルとされる(図11(a)参照)。例えば画像データの左上から横方向に走査して黒レベルの画素を見つけ、当該画素に新しいラベル(番号)を付加する。次に、ラベルを付した画素の8方向に連結している黒レベルの画素に同じ番号のラベルを付加することを繰返す。これにより、図11(b)に示すように、同じラベル(番号)が付加されている画素の集合が一つのブロックとして認識され、ブロック領域の抽出が可能となる。
【0089】
ブロック領域の抽出の処理の後に、模様(ブロック領域)毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように打刻データを作成するルーチンが実行されると共に、それら複数の模様(ブロック領域)毎に、打刻彫刻動作を実行する順番を決定するルーチンが実行される。この場合、例えば、各ブロック領域を打刻針10による打刻痕で埋めながら、当該ブロックの長手方向に打刻動作が進行するようにして打刻データが作成され、また、複数の模様(ブロック領域)のうち、例えば最も左に位置する模様を順序1番目とし、左から右に向けて順に打刻彫刻が進むように順序が決定される。従って、作成装置本体72が、打刻データ作成手段、抽出手段、順序決定手段として機能する。
【0090】
このような第2の実施形態によれば、上記第1の実施形態と同様に、複数の模様Pを含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、それら複数の模様P毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように打刻データga作成されるので、多針刺繍ミシン1にあっては打刻針10が模様P同士間を相対的に移動する回数を少なく済ませることができ、打刻針10の無駄な駆動停止時間を少なくした効率的な打刻データを作成することができるという優れた効果を得ることができる。
【0091】
また、特に本実施形態では、イメージスキャナ76により読取った複数の模様Pを含んでいる画像データから、各模様Pを夫々ブロック領域として抽出して打刻データを作成できるので、ユーザが用意した任意の模様Pに関して、その画像データから容易に打刻データを作成することができる。しかも、その際のブロック領域の抽出の処理を、画像データ中の各画素に対してラベルを付与するラベリング処理に基づいて行うので、打刻データを作成するにあたり、画像データ中の各模様Pをブロック領域として確実に抽出することができる利点も得ることができる。
【0092】
尚、本発明は上記した各実施形態に限定されるものではなく、様々な拡張、変更が可能である。
上記各実施形態では、打刻データ作成装置を、多針刺繍ミシン1の制御回路41を兼用したり、汎用のパーソナルコンピュータを用いて構成したが、刺繍縫製可能なミシンに直接的に接続された、或いはネットワーク等を介して接続された装置として構成したり、打刻データ作成の専用機として構成したりしても良い。そして、上記各実施形態では、打刻データの作成を、コンピュータがほとんど自動で行う構成としたが、例えば、画像データからの複数の模様(ブロック領域)の抽出や、打刻動作の進行方向の設定、打刻順序の決定などをユーザ(オペレータ)の入力操作により行なうようにしても良い。
【0093】
その他、刺繍縫製可能なミシンの構成としても、種々の変更が可能であることは勿論である。例えば、針棒ケース7に設けられる針棒8の本数についても、9本や12本などであっても良く、さらには1本の針棒を備える刺繍ミシンであっても、縫針と打刻針とを付替えることにより、打刻彫刻動作の実行が可能である。先端の太さや形状の相違する複数種類の打刻針10を使い分けながら打刻彫刻を行う構成としても良い。多針刺繍ミシン1の全体構成や、移送機構18(キャリッジ19)の構成、打刻用保持体21の構成等についても、種々の変更が可能である等、本発明は要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得るものである。
【符号の説明】
【0094】
1 多針刺繍ミシン(打刻データ作成装置)
4 アーム部
7 針棒ケース
8 針棒
9 縫針
10 打刻針
15 ミシンモータ
17 針棒選択用モータ
18 移送機構
19 キャリッジ
21 打刻用保持体
25 Y方向駆動モータ
26 X方向駆動モータ
40 枠種類検出センサ
41 制御回路(打刻データ作成手段、順序決定手段)
71 打刻データ作成装置
72 作成装置本体(打刻データ作成手段、抽出手段、順序決定手段)
76 イメージスキャナ
P 模様
W 被加工物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺繍縫製可能なミシンの針棒に、被加工物の表面をドット単位で突き当てて彫刻するための打刻針を装着し、移送機構により前記被加工物を所定の二方向に関して移送させながら、前記打刻針を上下動させることにより前記被加工物に所望の模様を打刻彫刻する打刻彫刻動作を実行するための打刻データを作成する打刻データ作成装置であって、
複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、前記模様毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように前記打刻データを作成する打刻データ作成手段を備えることを特徴とする打刻データ作成装置。
【請求項2】
前記打刻データ作成手段は、前記ミシンにおいて刺繍縫製を行うための模様データから、前記移送機構を駆動するための移送データのみを抽出することによって、前記打刻データを作成することを特徴とする請求項1記載の打刻データ作成装置。
【請求項3】
前記複数の模様に対する打刻彫刻動作を実行する順番を決定する順序決定手段を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の打刻データ作成装置。
【請求項4】
前記打刻データ作成手段は、複数の模様を含んでいる画像データから、前記各模様を、夫々ブロック領域として抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された複数のブロック領域毎に打刻彫刻動作を実行する順番を決定する順序決定手段とを備えることを特徴とする請求項1記載の打刻データ作成装置。
【請求項5】
前記抽出手段は、前記画像データ中の各画素に対してラベルを付与するラベリング処理を行うことに基づいて、前記各模様を複数のブロック領域として抽出することを特徴とする請求項4記載の打刻データ作成装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の打刻データ作成装置の各種処理手段として、打刻データ作成装置に内蔵されたコンピュータを機能させるための打刻データ作成プログラム。
【請求項1】
刺繍縫製可能なミシンの針棒に、被加工物の表面をドット単位で突き当てて彫刻するための打刻針を装着し、移送機構により前記被加工物を所定の二方向に関して移送させながら、前記打刻針を上下動させることにより前記被加工物に所望の模様を打刻彫刻する打刻彫刻動作を実行するための打刻データを作成する打刻データ作成装置であって、
複数の模様を含んだ打刻彫刻動作を行う場合に、前記模様毎に打刻彫刻動作が順に実行されるように前記打刻データを作成する打刻データ作成手段を備えることを特徴とする打刻データ作成装置。
【請求項2】
前記打刻データ作成手段は、前記ミシンにおいて刺繍縫製を行うための模様データから、前記移送機構を駆動するための移送データのみを抽出することによって、前記打刻データを作成することを特徴とする請求項1記載の打刻データ作成装置。
【請求項3】
前記複数の模様に対する打刻彫刻動作を実行する順番を決定する順序決定手段を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の打刻データ作成装置。
【請求項4】
前記打刻データ作成手段は、複数の模様を含んでいる画像データから、前記各模様を、夫々ブロック領域として抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された複数のブロック領域毎に打刻彫刻動作を実行する順番を決定する順序決定手段とを備えることを特徴とする請求項1記載の打刻データ作成装置。
【請求項5】
前記抽出手段は、前記画像データ中の各画素に対してラベルを付与するラベリング処理を行うことに基づいて、前記各模様を複数のブロック領域として抽出することを特徴とする請求項4記載の打刻データ作成装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の打刻データ作成装置の各種処理手段として、打刻データ作成装置に内蔵されたコンピュータを機能させるための打刻データ作成プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−222728(P2010−222728A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70254(P2009−70254)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]