説明

抗菌剤

【課題】 グリセリンとδ−ヒドロキシカルボン酸とのエステルからなる新規な抗菌剤を提供すること。
【解決手段】 本発明の抗菌剤は、グリセリンとδ−ヒドロキシカルボン酸とのエステルである、下記式(1):
【化1】


(式中、Rは水素原子または炭素数1〜15の分岐若しくは非分岐の飽和若しくは不飽和アルキル基を示す)で表されるモノグリセリンモノ5−ヒドロキシカルボン酸エステルからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌剤に関し、特にグリセリンとδ−ヒドロキシカルボン酸とのエステルであるモノグリセリンモノ5−ヒドロキシカルボン酸エステルからなる抗菌剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パラベンの皮膚刺激性が問題となっており、安全性の面から、その配合量の軽減が望まれている。化粧品の防腐殺菌剤として用いられるパラベン、安息香酸類、サリチル酸類などの防腐殺菌剤を低減又は排除する技術として、例えば1,2−アルカンジオールからなる防腐殺菌剤などが開示されている(特許文献1参照)。しかし、1,2−オクタンジオールなどの1,2−アルカンジオールを単独で防腐殺菌剤として用いた場合、充分な効果を得るためには高配合量を必要とする場合があり、また、1,2−アルカンジオールは特有の原料臭を有することから充分な防腐殺菌効果を発揮できる防腐殺菌剤の開発が望まれている。
【0003】
また、ヒドロキシカルボン酸のエステルが抗菌作用を示すことも知られており、例えばヒドロキシカルボン酸の脂肪族アルコールエステル、それらの乳酸アルコキシル化誘導体からなる抗菌組成物が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−322591号公報
【特許文献2】特表2008−537732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に開示されたヒドロキシカルボン酸はいずれもα位またはβ位に水酸基を有するものであり、δ位に水酸基を有するδ−ヒドロキシカルボン酸を構成要素とする5−ヒドロキシカルボン酸エステルに関しては開示されていない。また、前記エステルの構成要素である脂肪族アルコールは水酸基1個を有する脂肪族アルコールであり、グリセリンのような多価アルコールを構成要素とするものでもない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、グリセリンとδ−ヒドロキシカルボン酸とのエステルからなる新規な抗菌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、グリセリンとδ−ヒドロキシカルボン酸とのエステルであるモノグリセリンモノ5−ヒドロキシカルボン酸エステルに着目し、該化合物の抗菌作用を検討したところ、グラム陽性菌、グラム陰性菌、口腔内細菌、カビ、酵母等の幅広い菌に対し優れた抗菌力を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 グリセリンとδ−ヒドロキシカルボン酸とのエステルである、下記式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは水素原子または炭素数1〜15の分岐若しくは非分岐の飽和若しくは不飽和アルキル基を示す)で表されるモノグリセリンモノ5−ヒドロキシカルボン酸エステルからなる抗菌剤、
〔2〕 前記式(1)のRが、炭素数3〜7の非分岐の飽和若しくは不飽和アルキル基である前記〔1〕記載の抗菌剤、
〔3〕 前記〔1〕または〔2〕に記載の抗菌剤を食品、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、生活衛生用品、衣類、塗料およびペット衛生用品から選ばれる抗菌対象物に配合して、該抗菌対象物の抗菌力を高める方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、グラム陽性菌(黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌)、グラム陰性菌(大腸菌)、口腔内細菌(歯周病菌、う蝕菌)、カビ、酵母のうち、少なくともグラム陽性菌と口腔内細菌に対して周知の抗菌剤(メチルパラベン、1,2−オクタンジオール)と同程度若しくはそれ以上の抗菌力を有する抗菌剤が提供される。このため、該抗菌剤を例えば、食品、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、生活衛生用品、衣類、塗料およびペット衛生用品から選ばれる抗菌対象物に配合することで、細菌感染や食中毒を予防し、数々の場面での有効な応用が図れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の抗菌剤は、上述したとおり、グリセリンとδ−ヒドロキシカルボン酸とのエステルである、下記式(1):
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Rは水素原子または炭素数1〜15の分岐若しくは非分岐の飽和若しくは不飽和アルキル基を示す)で表されるモノグリセリンモノ5−ヒドロキシカルボン酸エステルからなる点に特徴がある。
【0015】
幅広い菌に対して優れた抗菌力を発揮する点で、Rとしては、炭素数3〜7の非分岐の飽和若しくは不飽和アルキル基がより好ましい。特に好ましいのはRが炭素数6または7の非分岐の飽和アルキル基である。具体的にはRの炭素数が6である下記式(2):
【0016】
【化3】

【0017】
で表されるモノグリセリンモノ5−ヒドロキシウンデカン酸エステル(後述する実施例における本発明品4)と、Rの炭素数が7である下記式(3):
【0018】
【化4】

【0019】
で表されるモノグリセリンモノ5−ヒドロキシドデカン酸エステル(後述する実施例における本発明品5)である。
【0020】
上記エステルが基礎とするδ−ヒドロキシカルボン酸(以下、「5−ヒドロキシカルボン酸」ともいう)としては特に限定されないが、Rが炭素数3〜7の非分岐の飽和若しくは不飽和アルキル基を有するエステルの場合、例えば、5−ヒドロキシオクタン酸、5−ヒドロキシノナン酸、5−ヒドロキシデカン酸、5−ヒドロキシウンデカン酸、5−ヒドロキシドデカン酸等の非分岐の直鎖状飽和アルキル基を有する5−ヒドロキシカルボン酸;5−ヒドロキシ−8−デセン酸、5−ヒドロキシ−7−デセン酸等の非分岐の直鎖状不飽和アルキル基を有する5−ヒドロキシカルボン酸;等を挙げることができる。
【0021】
本発明の抗菌剤はグリセリンと上述した5−ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体を酵素反応(酵素として、例えば、リパーゼを使用)または化学的合成法によりエステル化またはエステル交換(以下、まとめて「エステル化」という)して得られる。このエステル化に用いられる5−ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体は、例えば、飽和または不飽和二重結合を有する、炭素数5〜20、好ましくは炭素数8〜12のδ−ラクトンの開環反応により得られる。炭素数8〜12の飽和型δ−ラクトンとしては、例えば、δ−オクタラクトン、δ−ノナラクトン、δ−デカラクトン、δ−ウンデカラクトン、δ−ドデカラクトン等が挙げられ、炭素数8〜12の不飽和型δ−ラクトンとしては、例えば、δ−ジャスモラクトン、δ−ジャスミンラクトン等が挙げられる。
【0022】
上記飽和型および不飽和型δ−ラクトンの開環反応の方法としては、常温、水、アルカリ触媒の存在下で行われる加水分解法;メタノール、アルカリ触媒の存在下で行われるメチル化法;が挙げられる。上記のうち、ヒドロキシカルボン酸の状態では再環化を起こしやすく不安定なので、メチル化法が好ましい。
【0023】
上述したδ−ラクトンを出発原料としてメチル化法により開環させて得られる飽和型5−ヒドロキシカルボン酸メチルエステルは、5−ヒドロキシオクタン酸メチルエステル、5−ヒドロキシノナン酸メチルエステル、5−ヒドロキシデカン酸メチルエステル、5−ヒドロキシウンデカン酸メチルエステル、5−ヒドロキシドデカン酸メチルエステルであり、不飽和型5−ヒドロキシカルボン酸メチルエステルは、5−ヒドロキシ−8−デセン酸メチルエステル、5−ヒドロキシ−7−デセン酸メチルエステルである。
【0024】
δ−ラクトンの開環反応に使用されるアルカリは水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、ナトリウムメトキシド、カリウムエトキシド等が挙げられる。これらのうち、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシドが好ましい。なお、無機アルカリ化合物は固体(フレーク状)でも液体でもよい。
【0025】
グリセリンと5−ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体のエステル化に用いられるリパーゼは、グリセリド類を基質として認識するものであれば特に限定されない。例えば、モノグリセリドリバーゼ、クチナーゼ、エステラーゼ等が挙げられる。これらの中でもリパーゼが好ましく、このようなリパーゼとして、モノグリセリドリパーゼ、モノおよびジグリセリドリパーゼ等が挙げられる。
【0026】
リパーゼは精製(粗精製および部分精製を含む)されたものを用いてもよい。さらに、遊離型のまま使用してもよく、あるいはイオン交換樹脂、多孔性樹脂、セラミックス、炭酸カルシウムなどの担体に固定化して使用してもよい。
【0027】
反応混合液から、モノグリセリンモノ5−ヒドロキシカルボン酸エステルを単離・精製する方法は特に限定されず公知の単離・精製法を採用し得る。単離・精製法としては、例えば、脱酸、水洗、蒸留、溶媒抽出、イオン交換クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、膜分離等が挙げられ、これらは単独でまたは複数組み合わせて使用される。
【0028】
上述した本発明に係る抗菌剤の製造法について、例えば、δ−ウンデカラクトンを出発原料としてメチル化法による開環反応により5−ヒドロキシウンデカン酸メチルエステルを製造し、次いで該エステルとグリセリンとをリパーゼの存在下で反応させエステル交換によりモノグリセリンモノ5−ヒドロキシウンデカン酸エステルを製造する方法を化学式で示すと下記式(4)のとおりである。
【0029】
【化5】

【0030】
本発明の抗菌剤は、グラム陽性菌(黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌)、グラム陰性菌(大腸菌)、口腔内細菌(歯周病菌、う蝕菌)、カビ、酵母のうち、少なくともグラム陽性菌と口腔内細菌に対して周知の抗菌剤(メチルパラベン、1,2−オクタンジオール)と同程度若しくはそれ以上の抗菌力を有する。特に、上記式(2)に示すモノグリセリンモノ5−ヒドロキシウンデカン酸エステル(以下、「本発明品4」という)と上記式(3)に示すモノグリセリンモノ5−ヒドロキシドデカン酸エステル(以下、「本発明品5」という)は、グラム陽性菌と口腔内細菌に対する抗菌力が周知の抗菌剤に比べて大きく、黒カビや酵母に対しても周知の抗菌剤と同程度の抗菌力を示す。さらに、本発明品4は上記菌以外にグラム陰性菌(大腸菌)に対しても周知の抗菌剤と同程度の抗菌力を示す。
【0031】
このため、例えば、食品、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、生活衛生用品、衣類、塗料およびペット衛生用品から選ばれる抗菌対象物に本発明の抗菌剤を配合すれば、抗菌対象物の抗菌力を高めることができる。抗菌対象物中の抗菌剤の含量は、通常0.01〜50重量%であり、好ましくは0.1〜10重量%である。
【0032】
上記の抗菌対象物中に本発明の抗菌剤を配合する場合、該抗菌剤のうち1種を単独で用いてもよいが、2種以上を併用することもできる。また、本発明の抗菌剤と従来から知られている他の抗菌剤の1種または2種以上を併用することも可能である。併用できる他の抗菌剤としては、例えば、塩化セチルピリジニウム、塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、クロロヘキシジン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、オフロキサシン、ヨウ素、フッ化ナトリウム、安息香酸系、ソルビン酸系、有機ハロゲン系、ベンズイミダゾール系の殺菌剤、銀、銅などの金属イオン、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、エタノール、プロピレングリコール、1,2−アルカンジオール、ポリリジン、リゾチーム、キトサン、チモール、オイゲノール、油性甘草エキス、桑白皮エキス、アシタバ抽出エキス、香辛料抽出物、ポリフェノールなどの植物抽出物エキス等が挙げられる。
【0033】
本発明の抗菌剤の形態は、上述した抗菌対象物に応じて適宜変更可能であり、例えば、粒状、ペースト状、固形状、液体状などが採用できる。
【0034】
上述した抗菌対象物に本発明の抗菌剤を配合する際は、上述した形態を製造し得る公知の装置(パドルミキサー、ホモミキサー、ホモジナイザーなど)が好適に使用できる。本発明の抗菌剤は配合特性に優れるので、製造された種々の抗菌対象物から該抗菌剤が結晶として析出することはない。
【実施例】
【0035】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0036】
1.モノグリセリンモノ5−ヒドロキシカルボン酸エステルの合成例
1−1.δ−ラクトンの開環反応による5−ヒドロキシカルボン酸メチルエステルの合成
50mlバイアル瓶にδ−ドデカラクトン 7g、メタノール 20ml、ナトリウムメトキシド 0.1gを添加し、1時間、常温(25℃)で撹拌した。反応後、得られた反応液に水20mlとヘキサン30mlを加え、振とう後、ヘキサン層を脱溶媒することにより5−ヒドロキシドデカン酸メチルエステルを得た。
上記と同様にして、δ−ラクトンとしてδ−ウンデカラクトン、δ−デカラクトン、δ−ノナラクトン、δ−オクタラクトン、δ−ジャスモラクトン、δ−ジャスミンラクトンを用いて対応する5−ヒドロキシカルボン酸メチルエステルをそれぞれ合成し、得られた5−ヒドロキシカルボン酸メチルエステルをモノグリセリンモノ5−ヒドロキシカルボン酸エステルの反応原材料とした。
【0037】
1−2.モノグリセリンモノ5−ヒドロキシカルボン酸エステルの合成例
50ml耐圧バイアル瓶に上記で得られた5−ヒドロキシドデカン酸メチルエステル6g、グリセリン4g、固定化リパーゼ(製品名 Novozyme 435、ノボザイムズジャパン株式会社)を添加し、50℃、10mmHgの減圧下で24時間撹拌を行った。反応後、得られた反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行った結果、純度99%のモノグリセリンモノ5−ヒドロキシドデカン酸エステルを得た。
上記と同様にして、グリセリンモノ5−ヒドロキシカルボン酸エステルの反応原材料として5−ヒドロキシウンデカン酸メチルエステル、5−ヒドロキシデカン酸メチルエステル、5−ヒドロキシノナン酸メチルエステル、5−ヒドロキシオクタン酸メチルエステル、5−ヒドロキシ−8−デセン酸メチルエステル、5−ヒドロキシ−7−デセン酸メチルエステルを用いて対応するモノグリセリンモノ5−ヒドロキシカルボン酸エステルをそれぞれ合成した。反応後、得られた反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行った結果、精製品の純度は99%以上であった。
【0038】
2.黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、芽胞菌、大腸菌に対する抗菌効果
96穴深型マイクロプレートにあらかじめ滅菌処理済の培地(日水製薬社製、商品名「ブレインハートインフュージョン液体培地」)0.5mlを添加し、上記「1−2.モノグリセリンモノ5−ヒドロキシカルボン酸エステルの合成例」で合成した本発明品を0.5ml添加し、各発明品を培地中最終濃度で50ppm、100ppm、200ppm、400ppm、625ppm、1250ppm、2500ppm、5000ppmになるよう段階的に調製した。これらの試料溶液に対し、約1×108CFU/mlの黄色ブドウ球菌(S.aureus、JCM2151)、表皮ブドウ球菌(S.epidermidis、JCM2414)、芽胞菌(B.subtilis、JCM2151)、大腸菌(E.coli、JCM1649)の各培養菌液を0.1ml添加し、撹拌後好気条件下で37℃、24時間培養を行った。抗菌効果の判定は目視で行い、上記微生物の無添加試験区と比較し、微生物増殖による濁りの見られない試験区を抗菌効果有りとして発育を阻止するために必要な最低濃度(以下、「最小発育阻止濃度」という)を測定した。また、比較例として、広範囲の抗菌スペクトルを有する抗菌剤として知られているメチルパラベン、1,2−オクタンジオールについて、上記と同様の方法を用いて最小発育阻止濃度を測定した。表1に結果を示す。
【0039】
【表1】

【0040】
3.口腔内細菌(歯周病菌、う蝕菌)に対する抗菌効果
96穴深型マイクロプレートにあらかじめ滅菌処理済の培地(日水製薬社製、商品名「GUMブイヨン液体培地」)0.5mlを添加し、上記「1−2.モノグリセリンモノ5−ヒドロキシカルボン酸エステルの合成例」で合成した本発明品を0.5ml添加し、各発明品を培地中最終濃度で50ppm、100ppm、200ppm、400ppm、625ppm、1250ppm、2500ppm、5000ppmになるよう段階的に調製した。これらの試料溶液に対し、約1×108CFU/mlの歯周病菌(F.nucleatum、ATCC25586)、う蝕菌(S.mutans、JCM5175)の各培養菌液を0.1ml添加し、撹拌後嫌気条件下で37℃、24時間培養を行った。抗菌効果の判定は目視で行い、上記微生物の無添加試験区と比較し、微生物増殖による濁りの見られない試験区を抗菌効果有りとして最小発育阻止濃度を測定した。また、比較例として、メチルパラベン、1,2−オクタンジオールについて、上記と同様の方法を用いて最小発育阻止濃度を測定した。表2に結果を示す。
【0041】
【表2】

【0042】
4.黒カビ、酵母に対する抗菌効果
96穴深型マイクロプレートにあらかじめ滅菌処理済の培地(日水製薬社製、商品名「ポテトデキストロース液体培地」)0.5mlを添加し、上記「1−2.モノグリセリンモノ5−ヒドロキシカルボン酸エステルの合成例」で合成した本発明品を0.5ml添加し、各発明品を培地中最終濃度で50ppm、100ppm、200ppm、400ppm、625ppm、1250ppm、2500ppm、5000ppmになるよう段階的に調製した。これらの試料溶液に対し、約1×106CFU/mlの黒カビ(A.nigar、JCM10254)、酵母(C.albicans、NBRC1594)の各培養菌液を0.1ml添加し、撹拌後好気条件下で30℃、4日間培養を行った。抗菌効果の判定は目視で行い、上記微生物の無添加試験区と比較し、微生物増殖による濁りの見られない試験区を抗菌効果有りとして最小発育阻止濃度を測定した。また、比較例として、メチルパラベン、1,2−オクタンジオールについて、上記と同様の方法を用いて最小発育阻止濃度を測定した。表3に結果を示す。
【0043】
【表3】

【0044】
表1〜表3の結果から、本発明品1〜7は、グラム陽性菌(S.aureus, S.epidermides, B.subtilis)、グラム陰性菌(E.coli)、口腔内細菌(F.nucleatum、S.mutans)、黒カビ(A.nigar)、酵母(C.albicans)のうち、少なくともグラム陽性菌と口腔内細菌に対して比較例で用いたメチルパラベン、1,2−オクタンジオールと同程度若しくはそれ以上の抗菌力を示した。また、上記本発明品のうち本発明品4と5は、グラム陽性菌と口腔内細菌に対する抗菌力がメチルパラベン、1,2−オクタンジオールに比べて大きく、黒カビや酵母に対してもメチルパラベン、1,2−オクタンジオールと同程度の抗菌力を示した。さらに、本発明品4は上記菌以外にグラム陰性菌である大腸菌に対してもメチルパラベン、1,2−オクタンジオールと同程度の抗菌力を示した。
【0045】
5.配合特性
<化粧水>
ヒアルロン酸(0.1重量%水溶液) 2.0重量%
グリセリン 5.0
エタノール 5.0
モノグリセリンモノ5−ヒドロキシウンデカン酸エステル 0.5
精製水 残部
(製法)
ヒアルロン酸、エタノール、グリセリン、モノグリセリンモノ5−ヒドロキシウンデカン酸エステルをそれぞれ混合し、次いで精製水を添加して化粧水を得た。
(配合特性)
グリセリンモノ5−ヒドロキシウンデカン酸エステルは他の成分と容易に混合した。得られた化粧水には濁りや析出などは見られなかった。
【0046】
<乳液>
セタノール 1.0重量%
スクワラン 4.0
ステアリン酸 1.0
モノステアリン酸ポリエチレングリコール(25EO) 3.2
モノステアリン酸グリセリン 1.0
モノグリセリンモノ5−ヒドロキシウンデカン酸エステル 0.5
γ−トコフェロール 0.05
BHT 0.01
キサンタンガム 0.1
1,3−ブタンジオール 3.0
プロピレングリコール 7.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
水酸化カリウム 0.2
精製水 残部
(製法)
セタノール、スクワラン、ステアリン酸、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(25EO)、モノステアリン酸グリセリン、モノグリセリンモノ5−ヒドロキシウンデカン酸エステル、γ−トコフェロール、BHTをそれぞれ混合し70℃に加温溶解した(これを混合物Aとする)。一方、キサンタンガム、1,3−ブタンジオール、プロピレングリコール、カルボキシビニルポリマー、水酸化カリウムをそれぞれ室温下で混合した(これを混合物Bとする)。続いて、混合物Aと混合物Bを合わせて60℃に加温し精製水中に少量ずつ添加しながら激しく攪拌し乳化して乳液を得た。
(配合特性)
モノグリセリンモノ5−ヒドロキシウンデカン酸エステルは他の成分と直ちに混和した。得られた乳液には分離や析出は見られなかった。
【0047】
<クリーム>
スクワラン 10.0重量%
ステアリン酸 8.0
ミツロウ 2.0
ステアリルアルコール 5.0
モノグリセリンモノ5−ヒドロキシウンデカン酸エステル 2.0

N−椰子油脂肪酸アシルL−アルギニンエチル−DL−ピ
ロリドンカルボン酸塩 10.0
精製水 残部
(製法)
スクワラン、ステアリン酸、ミツロウ、ステアリルアルコール、モノグリセリンモノ5−ヒドロキシウンデカン酸エステル、N−椰子油脂肪酸アシルL−アルギニンエチル−DL−ピロリドンカルボン酸塩をそれぞれ混合し、70℃に加温溶解した。加温溶解した前記油性成分に少量ずつ精製水を添加し良く攪拌してクリームを得た。
(配合特性)
モノグリセリンモノ5−ヒドロキシウンデカン酸エステルは他の成分と非常に良く混和した。得られたクリームには分離や析出は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る抗菌剤は幅広い菌に対し優れた抗菌力を有し、かつ配合特性にも優れるので、食品、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、生活衛生用品、衣類、塗料およびペット衛生用品から選ばれる抗菌対象物の配合成分として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンとδ−ヒドロキシカルボン酸とのエステルである、下記式(1):
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜15の分岐若しくは非分岐の飽和若しくは不飽和アルキル基を示す)で表されるモノグリセリンモノ5−ヒドロキシカルボン酸エステルからなる抗菌剤。
【請求項2】
前記式(1)のRが、炭素数3〜7の非分岐の飽和若しくは不飽和アルキル基である請求項1記載の抗菌剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗菌剤を食品、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、生活衛生用品、衣類、塗料およびペット衛生用品から選ばれる抗菌対象物に配合して、該抗菌対象物の抗菌力を高める方法。

【公開番号】特開2010−180137(P2010−180137A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22601(P2009−22601)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000208086)大洋香料株式会社 (34)
【Fターム(参考)】