説明

押出成形体を別部材に連結固定するための固定構造

【課題】構成が簡単で生産効率が高く、しかも、連結具の位置決め精度が高く、廃棄時の分別も簡単な連結固定構造を提供する。
【解決手段】
押出成形体20に形成した貫通孔25内に、内ネジ31を有する連結具30を固定し、この連結具にボルト部材70を係合させることで、当該押出成形体20を別部材10に連結する。フランジ32中央の開口から、テーパ内腔部に配置された塊体60に向けて棒材を打ち込んで、スリットの入った周壁をスカート状に拡径させて、押出成形体20の貫通孔25内壁面に食い込ませることで、連結具30は、押出成形体20の貫通孔25内に固定される。フランジ32は、押出成形体20の貫通孔25の開口周囲に設けた凹部29内に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形体を別部材に連結固定するための固定構造に関する。この固定構造は、代表的には、段板をササラ桁に固定して階段を構成するのに利用できる。
【背景技術】
【0002】
例えば集合住宅の野外部分に設置する階段の構造として、図1の分解図に示したものが従来から知られている。
この階段構造は、ササラ桁(または側桁)と呼ばれる細長い板状の支持材10を両側に配置し、その間に多数の段板20’を挟持して、階段を構成している。
【0003】
各段板20’は、その端面から突出するボルト30’を備えている。一方、ササラ桁10にはボルト30’を通すボルト孔11が形成されていて、ボルト30’をボルト孔11に通し、ナット(不図示)を用いて両者を固定する。なお、段板20’側にナットを埋め込んでおいて、ササラ桁10の外側からボルト孔11にボルトを通して両者を連結してもよい。
【0004】
セメント系材料を用いてこのような段板20を製造する場合、従来より、「押出成形」が多く利用されている。「型成形」は、「押出成形」と比べて生産効率が低く、大量生産には適さないからである。
【0005】
特許文献1では、モルタル材料から押出成形によって踏板を形成しており、押出成形の際、細長い棒状の補強杆が踏板内に埋設される。補強杆の両端には、ナットとして機能する螺管が固定されていて、ササラ桁のボルト孔に通したボルトをこの螺管に連結することで、踏板がササラ桁に連結される。
しかし、踏板を押出成形する際、踏板の端面と螺管の端面とが面一になるように位置合わせすることが必要となるが、これを正確に行うことは難しい。
このように、押出成形は、生産効率が高く大量生産に適しているが、押出成形の際に埋設されるナット(あるいはボルト)の位置合わせが難しいという問題がある。
【0006】
一方、特許文献2では、押出成形の際に踏板内部にナットを埋設するのではなく、押出成形後に外部からナットを挿入している。すなわち、長手方向に沿う貫通孔を有する踏板を押出成形した後、貫通孔内に外部から筒状ナットを嵌入して、接着剤を用いて固定している。
しかし、接着剤を用いた固定では、十分な固定強度が得られない場合があり、また、廃棄の際にコンクリート材と金属のナットとを分別する作業が厄介なものとなる。
【0007】
一方、「押出成形」ではなく「型成形」を利用して踏板を構成することも考えられ、その場合には、プレキャストで、埋設するナットやボルトの位置合わせは容易に行うことができるが、「型成形」は生産効率が悪く、また、廃棄の際にコンクリート材と金属のナットあるいはボルトを分別する作業が厄介である。
【0008】
また、特許文献3には、壁面に形成した下穴内にアンカーナットを固定するアンカーナット固定具が開示されている。このアンカーナット固定具を使用すれば、下穴内の所定深さの位置にアンカーナットを簡単に固定することができる。
しかし、特許文献3においては、アンカーナット固定具とアンカーナットとが別体で構成されているため、全体の構成が複雑になる。その上、使用に際して、これら2つの部材を連結したり分離したりする必要があるため、作業工程が多くて煩雑であるという欠点がある。
【0009】
【特許文献1】特開平7−119269号公報
【特許文献2】特開平4−166546号公報
【特許文献3】特開2004−143902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みて創案されたものであり、その目的は、構成が簡単で生産効率が高く、しかも、連結具の位置決め精度が高く、廃棄時の分別も簡単な連結固定構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の固定構造は、ボルトとナットの連結機構を利用して、押出成形体を別部材に固定するものであって、次のような特徴を備える。
押出成形体に形成した貫通孔内に連結具が固定されている。当該連結具は、「内ネジが形成されるとともに、一端にフランジを備え、他端にアンカー固定部を備えた筒状体」で構成されていて、当該アンカー固定部から上記貫通孔に挿着固定されている。
アンカー固定部は、「当該連結具の軸心に沿って先細になるテーパ内腔の周囲に位置する、スリットの入った周壁」で構成されている。
上記筒状体の開口から、テーパ内腔部に配置された塊体に向けて棒材を打ち込んで、上記スリットの入った周壁を、スカート状に拡径させて押出成形体の貫通孔内壁面に食い込ませ、これにより、連結具が押出成形体の貫通孔内に固定されている。
上記フランジは、押出成形体の貫通孔の開口周囲に設けた凹部内に位置している。
上記別部材に通したボルト部材を上記内ネジに係合させることにより、押出成形体と別部材が連結固定されている。
【0012】
本発明の固定構造は、対向する2つのササラ桁の間に段板を固定して階段を構成するのに適しているが、それに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0013】
上記構成を有する本発明の固定構造においては、連結具は、自身が有するフランジを、押出成形体に設けた凹部内に位置させた状態で、押出成形体に固定されるので、押出成形体に対する連結具の位置合わせが簡単である。また、アンカー固定部が拡径(変形)して貫通孔の内壁面に食い込むことで、連結具が押出成形体に固定されるので、十分な固定強度が得られる。
また、プレキャスト(型成形)を利用しなくても連結具の位置合わせが容易であることから押出成形体を利用しているので、型成形を用いる場合よりも生産効率が高い。
さらには、連結具は乾式で段板に固定されているので(すなわち、接着剤で固定しているのではなく、プレキャストによる型成形でもないので)、廃棄の際の分別処理が簡単となる。
また、連結具はフランジを一体に備えた簡単な構造であって、フランジが押出成形体の凹部に納まるように、連結具を押出成形体の貫通孔に挿入するだけで当該連結具の押出成形体に対する位置合わせが完了するので、作業工程も簡単なものとなる。すなわち、特許文献3では2つの別部材を連結したり分離したりする必要があったが、本発明ではそのような必要はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態を添付の図面を参照して以下に詳細に説明する。本発明は、「押出成形体」を「別部材」に連結固定する固定構造に関するものであるが、以下では、「押出成形体」としての段板20に、「別部材」としてのササラ桁10を固定して、階段を構成する例を説明する。
【0015】
図2は、段板20を説明する斜視図である。段板20は、踏板21と蹴込板22からなる本体部23に、後述する連結具30を固定して構成される。連結具30は、その詳細は後述するが、一端にフランジ32を、他端にアンカー固定部35を備えた筒状体で構成されている(図3参照)。
【0016】
≪段板の本体部≫
段板の本体部23は、踏板21と蹴込板22を一体的に連結して構成している。本体部23は、押出成形により成形する。使用する材料は、押出成形できるものであれば問わない。靱性が高く、比重1.7〜2.3程度の軽量セメント系材料を用いることが好ましい。
本体部23には、その長手方向に沿って延在する貫通孔25が形成されていて、この貫通孔25に連結具30が挿入固定される。このように、本発明では、まず本体部23を成形した後で、外部から連結具30を固定するので、本体部23に対する連結具30の位置決めが簡単である。したがって、押出成形による高い生産効率を確保しながらも、連結具の位置決めを簡単に行うことができる。
なお、楕円形の貫通孔26は、軽量化および強度アップを目的として形成されたものである。
【0017】
段板20のサイズは、例えば、踏板21の奥行きが300mm、蹴込板22の高さが150mm、厚みが50mmで、段板20の全幅が990mmである。勿論、これらに限定されるものではない。
【0018】
本発明においては、段板の本体部23が押出成形されていること、および貫通孔25に後述する連結具30を挿通固定していることが重要である。蹴込板22や貫通孔26は、省略することも可能である。
【0019】
≪連結具の構成≫
図3(a)は、連結具30の一例を示しており、図3(b)は、この連結具30を段板本体23の端面20aに固定する方法を示している。図3(b)では、連結具30を断面図で示している。連結具30は、段板20をササラ桁10に連結するための部材である。
連結具30は、一端にフランジ32を、他端にアンカー固定部35を一体的に備えた筒状体で構成されていて、当該筒状体の内周面に内ネジ31を有している。
アンカー固定部35は、以下に説明するように、連結具30の軸心に沿って先細になるテーパ内腔33の周囲に位置する、スリット36の入った周壁で構成されている。
【0020】
連結具30は、テーパ内腔33を有している。テーパ内腔33は、連結具30の軸心に沿って延在し、フランジ32の中央に開口33aを有する。また、テーパ内腔33の内周壁は、フランジ32からアンカー固定部35側に向かうにつれて先細になるテーパ状とされている。
【0021】
また、テーパ内腔33の周囲に存在する周壁には、アンカー固定部35の先端から上方に向かって連結具30の長手方向に一定距離だけ延在するスリット36が、周方向に一定間隔をおいて所定数(例えば、周壁に沿って90°毎に4本)だけ形成される。
このようなスリット36を設けているため、後述するように、テーパ内腔33内に配置した塊体60に向かって棒材50を打ち込んだ場合に、アンカー固定部35がスカート状に拡径する。
【0022】
≪段板への連結具の固定≫
連結具30を段板本体23に固定する場合、まず、連結具30のアンカー固定部35を、段板の端面20aに開口する貫通孔25に差し込む。アンカー固定部35の断面積は、貫通孔25よりもやや小さいことが好ましい。
連結具30は位置決め用のフランジ32を備えている。また、貫通孔25の開口周囲にはフランジ32を収容する座ぐり穴(凹部)29が形成されている。したがって、フランジ32が座ぐり穴29内に収容されるまで連結具30を押し込むことで、簡単かつ確実に連結具30を適正位置にセットできる。一例として、座ぐり穴29は、内径30mm、深さ3mmの円柱状に形成する。
【0023】
このように、フランジ32によって、貫通孔25内における連結具30の位置(深さ)が決まる。また、フランジ32が存在することで、後で棒材50を打ち込む際に、連結具30が貫通孔25内に沈んで行くことを防止できる。
フランジ32の形状は、代表的には円板状であるが、四角形その他、任意の形状とすることが可能であり、それに併せて凹部29の形状も変更することが好ましい。
【0024】
なお、座ぐり穴29の深さをフランジ32の厚みに等しく設定しておけば、連結具30を固定した場合に、段板の端面20aとフランジ32とを面一にすることができる。
【0025】
次に、フランジ32中央の開口33aからテーパ内腔33に棒材50を打ち込む。テーパ内腔33は、先端に向かうにつれて(アンカー固定部35側に向かうにつれて)先細になっており、また、アンカー固定部35においては、周壁にスリット36が形成されている。さらに、テーパ内腔33には塊体60が配置されている。
テーパ内腔33内の塊体60に向かって棒材50を打ち込むと(図3b中、矢印A)、アンカー固定部35がスカート状に拡径して、段板20の貫通孔25の内周面に食い込む(図3b中、矢印B)。これによって、連結具30は、段板本体23に確実かつ強固に固定される。
この食い込みをよくするために、図示はしていないが、アンカー固定部35の外周面に凹凸部等を設けておいてもよい。
【0026】
なお、塊体60が存在しなくても、テーパ状の内腔33に棒材50を直接打ち込めば、アンカー固定部35は拡径する。しかし、その場合には、棒材50がテーパ面に食い込んで、これを引き抜くことが困難になる。
また、スカート状に拡径して貫通孔25の内周面に食い込んだアンカー固定部35の戻りを防止するという観点からは、棒材50は、引き抜くよりもそのまま放置することが好ましい。しかし、棒材50を内腔33に放置すると、後でボルト部材70(図4参照)を内ネジ31に係合させることができなくなる。
【0027】
そこで、これらの不都合を解消するために、塊体60を介してアンカー固定部35を拡径させている。すなわち、図4を参照すれば分かるように、拡径したアンカー固定部35は、その内側に塊体60が存在するので、元に戻ることが防止される。また、塊体60によって拡径状態が維持されるので棒材50に対して締付力は作用せず、したがって、棒材50を簡単に引き抜くことができる。
【0028】
塊体60は、図3および図4に示したように、内腔33のテーパ面に合わせて、先細になる円柱体であって、その表面に、内腔33の周面への食い付きを良くするための凹凸を有するものが好ましい。しかし、棒材50で打ち込まれてアンカー固定部35を拡径させるとともに、その内側に保持されて拡径状態を維持できるものであれば、その具体的な形態は問わない。
【0029】
以上のようにして段板本体23に連結具30を固定して段板20を構成した後は、図4に示したように、ボルト部材70を、ササラ桁10のボルト孔11に通して内ネジ31と係合させる。これにより、段板20とササラ桁10とが連結固定される。
なお、図4では部分的にしか図示していないが、図1に示した従来例と同様に、2つのササラ桁10の間に複数の段板20を連結固定して階段が構成される。
【0030】
本発明においては、連結具30は乾式で段板20に固定されている。すなわち、連結具30は、接着剤で固定されているのではなく、また、プレキャストによる型成形で段板20に埋め込まれたものでない。したがって、廃棄の際には、段板20を砕くだけで、容易に分別を行うことができる。
【0031】
≪防水緩衝シール材を設ける例≫
段板20とササラ桁10との間には、防水および緩衝を目的としたシール材40(防水緩衝シール材)を配置することが好ましい(図2参照)。
「防水」は、連結具30が金属製である場合に、これが腐食するのを防止するために行う。「緩衝」は、ササラ桁10の間で段板20がガタツクことや、接合端面が傷付くことを防止するために行う。
防水緩衝シール材40は、段板の端面20aに適合する形状(図2の例ではL字状)とすることが好ましく、連結具30が挿着される貫通孔25を露出させるための開口41を有する。
【0032】
防水緩衝シール材40の材質としては、ウレタン等の発泡プラスチックや、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)等を使用する。
【0033】
以上に説明した実施形態では、「押出成形体」としての段板20に、「別部材」としてのササラ桁10を固定して、階段を構成している。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、「押出成形体からなる板材」の外周に「別部材としての枠体」を固定して門扉または笠木等を構成する場合、また「別部材としての建物躯体」に固定して柱、破風または鼻隠し等を構成する場合に、本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ササラ桁と段板を利用した従来の階段構造を説明する分解図。
【図2】本発明の一実施形態に係る段板を説明する斜視図。
【図3】図2の段板に連結具を固定する方法を説明する図。
【図4】図3のように連結具が固定された段板とササラ桁と連結固定する方法を説明する図。
【符号の説明】
【0035】
10 ササラ桁
11 ボルト孔
20 段板
20a 段板の端面
21 踏板
22 蹴込板
23 段板の本体部
25、26 貫通孔
25a 貫通孔の内壁面
30 連結具
31 内ネジ
32 フランジ
33 内腔
33a 内腔の開口
35 アンカー固定部
36 スリット
40 防水緩衝シール材
50 棒材
60 塊体
70 ボルト部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトとナットの連結機構を利用して、押出成形体(20)を別部材(10)に固定してなる固定構造であって、
押出成形体(20)に形成した貫通孔(25)内に連結具(30)が固定されていて、
当該連結具(30)は、内ネジ(31)が形成されるとともに、一端にフランジ(32)を備え、他端にアンカー固定部(35)を備えた筒状体で構成されていて、当該アンカー固定部(35)から上記貫通孔(25)に挿着固定されていて、
アンカー固定部(35)は、当該連結具(30)の軸心に沿って先細になるテーパ内腔(33)の周囲に位置する、スリット(36)の入った周壁で構成されていて、
上記筒状体の開口(33a)から、テーパ内腔部に配置された塊体(60)に向けて棒材(50)を打ち込んで、上記スリット(36)の入った周壁を、スカート状に拡径させて押出成形体の貫通孔内壁面(25a)に食い込ませ、これにより、連結具(30)が押出成形体(20)の貫通孔(25)内に固定されていて、
上記フランジ(32)は、押出成形体(20)の貫通孔(25)の開口周囲に設けた凹部(29)内に位置しており、
上記別部材(10)に通したボルト部材(70)を上記内ネジ(31)に係合させることにより、押出成形体(20)と別部材(10)を連結固定したことを特徴とする、固定構造。
【請求項2】
上記押出成形体は、階段を構成する段板(20)であり、上記別部材は、段板の側面に連結されるササラ桁(10)である、請求項1記載の構造。
【請求項3】
上記押出成形体(20)と別部材(10)は、その間に、防水緩衝シール材(40)を挟み込んだ状態で連結固定されている、請求項1または2記載の構造。
【請求項4】
内ネジ(31)が形成されるとともに、一端にフランジ(32)を備え、他端にアンカー固定部(35)を備えた筒状体で構成される連結具(30)であって、
アンカー固定部(35)は、当該連結具の軸心に沿って先細になるテーパ内腔(33)の周囲に位置する、スリット(36)の入った周壁で構成されていて、
当該テーパ内腔部に、上記筒状体の開口(33a)から挿入される棒材(50)に打たれて、上記スリット(36)の入った周壁をスカート状に拡径させる塊体(60)を有していることを特徴とする、連結具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−163565(P2008−163565A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351376(P2006−351376)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】