説明

押出成形体及びその形成方法、並びに光ファイバケーブル

【課題】高滑性、耐摩耗性及び難燃性に優れたオレフィン系樹脂の押出成形体とその製造方法を提供する。
【解決手段】オレフィン系樹脂に結晶径3〜10μmのタルク11を添加し、当該タルク11を添加したオレフィン系樹脂混合物を押出成形により形成することにより、押出成形の際にベース樹脂であるオレフィン系樹脂の表面側へタルク11が誘引されて成形体であるケーブル外被1表面に鱗片状に配列されることとなり、表面を鱗片状に覆うタルク11により表面硬度を高くして高滑性(低摩擦性)及び耐摩耗性を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系樹脂をベース樹脂として押出形成される電線・ケーブル・線状体、シート状体等の押出成形体に関し、特に難燃性、高滑性及び耐摩耗性に優れた押出成形体と、この押出成形体を用い、架空線を宅内へ引込配線する際の管路への挿入等が容易となる光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバケーブルをはじめとするケーブルや電線については、近年、火災発生時に燃焼して有毒ガスや煙を発生することのないよう、難燃性が強く求められるようになっている。こうしたケーブル外被等として用いられる樹脂成形体に難燃性を付与する成分(難燃剤)には、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物やリン等の組合わせが一般的に使用されている。また、こうした難燃性を重視した樹脂成形体には、燃焼抑制効果や機械的特性の向上を図るために、適切に選択された充填材、添加剤が添加されている。このような難燃性を有する従来の樹脂成形体の一例として、断熱管の製造方法に関するものが特開平7−330941号公報に開示されている。
【0003】
前記従来の断熱管の製造方法は、赤リンを0.1〜20%と液化炭化水素ガスを0.5〜10%含むポリスチレンまたはスチレン共重合体樹脂を金属管の外周に発泡倍率3〜20倍に押出被覆するものである。
【0004】
この従来の断熱管の製造方法においては、ステアリル酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ケイ酸カルシウム等の造核剤、タルク、アルミナ、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム等の補強剤、硫酸カルシウム、雲母、セライト、アスベスト、ゼオライト、珪藻土等の添加剤を添加することにより、発泡ポリスチレンまたはスチレン共重合体樹脂を緻密で剛直な構造とすることができる。また、これらの添加量としては、ポリスチレンまたはスチレン共重合体樹脂に対し、造核剤は0.01〜1.0重量%程度、好ましくは0.05〜0.2重量%程度が適当であり、補強剤は0.5〜5重量%程度、好ましくは1.5〜3重量%程度が適当である。これらの添加剤を加えることにより、気泡径をより微細にすることができ、機械的強度が向上する。
この他、従来の難燃性樹脂成形体の別例として、ポリオレフィン樹脂成形体に関するものが特開平11−21392号公報に開示されている。
【0005】
前記従来の樹脂成形体は、ベース樹脂のポリプロピレンにアルカリ土類の金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、タルク、ゼオライト、酸化チタン等の無機充填材が、リン系難燃剤と共に添加されて構成される。水和珪酸マグネシウムの粉末の無機物であるタルクは、ポリプロピレンの量を減じて発火温度と伝熱係数と比重を高め、燃焼速度を低下させることができるものであり、特に、他の無機物と比べて良好な耐薬品性を有し、その白色度が95前後と高く、硬度が1前後と柔らかくて成形体の加工性を損なわない、という特性を有しているので好ましい。このタルクの添加量は、ポリプロピレン100重量部に対して、10〜100重量部が好ましい。より好ましくは20〜60重量部である。
【特許文献1】特開平7−330941号公報
【特許文献2】特開平11−21392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載の断熱管の製造方法によれば、タルク又はステアリン酸カルシウムの添加で、ポリスチレン又はスチレン共重合体樹脂の機械的強度を向上させられるものの、得られる樹脂成形体表面の耐摩耗性が比較的低く、他の物体との接触による摩耗で摩擦抵抗が大きくなり、高滑性及び耐摩耗性が求められるケーブル外被への使用には適さないという課題を有していた。
【0007】
また、前記特許文献2に記載の樹脂成形体は上記のように構成され、タルクの添加により燃焼速度を低下させて難燃性を向上させることができるものの、前記同様、得られる樹脂成形体表面の耐摩耗性が比較的低く、他の物体との接触による摩耗で摩擦抵抗が大きくなり、高滑性及び耐摩耗性が求められるケーブル外被への適用は難しいという課題を有していた。
【0008】
さらに、樹脂成形体の下層部分を微細な気泡径の難燃発泡樹脂被覆層としているが、この難燃発泡樹脂被覆層の下層部分を、添加されるタルクにより発泡ポリスチレン又はスチレン共重合体樹脂の気泡径を微細にすることによって、機械的強度を向上させようとしていることから、下層と上層とを別途に被覆形成しなければならないという課題を有していた。
【0009】
本発明は、前記課題を解消するためになされたもので、難燃性のみならず高滑性、耐摩耗性に優れた硬質の表面を備えるオレフィン系樹脂の押出成形体及びその製造方法、並びに、前記押出成形体を用い、引裂き性など使い勝手も優れる光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る押出成形体は、オレフィン系樹脂に結晶径3〜10μmのタルクを添加し、当該タルクを添加したオレフィン系樹脂混合物を押出成形により形成するものである。
また、本発明に係る押出成形体は必要に応じて、タルクがオレフィン系樹脂100重量部に対して10〜20重量部を添加するものである。
【0011】
また、本発明に係る押出成形体は必要に応じて、タルクが押出成形の押出し速度を遅くするに伴って大きな結晶径とされるものである。
また、本発明に係る押出成形体は必要に応じて、オレフィン系樹脂100重量部に対して赤リンをリン濃度で5wt%〜9wt%添加するものである。
【0012】
また、本発明に係る押出成形体の形成方法は、オレフィン系樹脂に結晶径3〜10μmのタルクを添加してオレフィン系樹脂混合物を作成し、当該オレフィン系樹脂混合物を10m/分〜500m/分の押出し速度で押出して押出成形体を形成するものである。
また、本発明に係る押出成形体の形成方法は必要に応じて、オレフィン系樹脂混合物が、オレフィン系樹脂100重量部に対してタルクを10〜20重量部添加して作成されるものである。
【0013】
また、本発明に係る押出成形体の形成方法は必要に応じて、押出し速度が、タルクの結晶径が3〜10μmの間で大きくなるのに伴って遅くなるものである。
また、本発明に係る押出成形体の形成方法は必要に応じて、オレフィン系樹脂混合物が、オレフィン系樹脂100重量部に対して赤リンをリン濃度で5wt%〜9wt%添加して作成されるものである。
【0014】
また、本発明に係る光ファイバケーブルは、前記押出成形体を外被とされ、一又は複数本の光ファイバ芯線、及び当該光ファイバ芯線と並行させて一又は複数本配置される補強線の外周を、前記外被で一括被覆されてなるものである。
【0015】
また、本発明に係る光ファイバケーブルは必要に応じて、前記光ファイバ芯線及び補強線を前記外被で被覆してなる光ファイバ本線に対し、メッセンジャーワイヤを外被で被覆してなる支持線が、前記光ファイバ芯線及び補強線と並行する向きで前記光ファイバ本線と一体化されてなるものである。
【0016】
また、本発明に係る光ファイバケーブルは必要に応じて、前記外被における前記光ファイバ芯線近傍の表面所定位置に、一又は複数の切欠溝部が設けられるものである。
また、本発明に係る光ファイバケーブルは必要に応じて、前記切欠溝部が、前記光ファイバ芯線位置を中心として対向関係となる配置で外被表面に二つ配設されるものである。
【0017】
また、本発明に係る光ファイバケーブルは必要に応じて、前記補強線が、前記光ファイバ芯線を中心として対称位置関係となる配置で二つ配設され、前記切欠溝部が、くさび状の断面形状とされ、溝入口側から溝奥に向う溝中心線が、前記補強線同士を結ぶ直線に対し所定角度分傾いて光ファイバ芯線を通らない線となるように配置されるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明において、オレフィン系樹脂に結晶径3〜10μmのタルクを添加し、当該タルクを添加したオレフィン系樹脂混合物を押出成形により形成することにより、押出成形の際にベース樹脂であるオレフィン系樹脂の表面側へタルクが誘引されて成形体表面に鱗片状に配列されることとなり、表面を鱗片状に覆うタルクにより表面硬度を高くして高滑性(低摩擦性)及び耐摩耗性を向上できる。
【0019】
また、本発明においては、タルクがオレフィン系樹脂100重量部に対して10〜20重量部添加されることにより、ベース樹脂であるオレフィン系樹脂の表側全面をタルクの結晶板で被覆できることとなり、成形体表面全体の高滑性(低摩擦性)及び耐摩耗性をより向上させることができる。
【0020】
また、本発明においては、タルクが押出成形の押出し速度を遅くするに伴って大きな結晶径とされることにより、押出成形の際にベース樹脂であるオレフィン系樹脂の表面側へタルクをより確実に誘引できることとなり、成形体表面全体の高滑性(低摩擦性)及び耐摩耗性をより向上させることができる。
【0021】
また、本発明においては、オレフィン系樹脂100重量部に対して赤リンをリン濃度で5wt%〜9wt%添加することにより、加熱燃焼時に赤リンが成形体表面に炭素膜を確実に形成できることとなり、高滑性(低摩擦性)及び耐摩耗性と共に難燃性を向上させることができる。
【0022】
また、本発明においては、オレフィン系樹脂に結晶径3〜10μmのタルクを添加してオレフィン系樹脂混合物を作成し、当該オレフィン系樹脂混合物を10m/分〜500m/分の押出し速度で押出して押出成形体を形成することにより、押出成形の際にベース樹脂であるオレフィン系樹脂の表面側へタルクが誘引されて成形体表面に鱗片状に配列されることとなり、表面を鱗片状に覆うタルクにより表面硬度を高くして高滑性(低摩擦性)及び耐摩耗性を向上できる。
【0023】
また、本発明において、タルクを添加したオレフィン系樹脂混合物の押出成形を経て光ファイバケーブルの外被を得ることにより、押出成形の際にベース樹脂であるオレフィン系樹脂の表面側へタルクが誘引されてケーブル外被表面に鱗片状に配列されることとなり、表面を鱗片状に覆うタルクにより表面硬度を高くしてケーブルとして高滑性(低摩擦性)及び耐摩耗性を向上できる。
【0024】
また、本発明においては、光ファイバ本線と支持線とを並行一体化した構造とすることにより、光ファイバ芯線に負担を与えずに架空吊設することができ、外被表面に切欠溝部を設けた場合には、外被から光ファイバ芯線を引き出す際に特別な工具を使用せず手で切開作業を簡易確実に行うことができる。さらに、切欠溝部を芯線を中心に対向配置としたり、切欠溝部をくさび状断面形状としてその向きが光ファイバ芯線に向わないような配置としたりすることにより、外被の切裂き性向上や光ファイバ芯線の損傷の抑止が図れることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る押出成形体を、光ファイバケーブル(架空光ドロップケーブル)を例に挙げてその形成方法と共に図1及び図2に基づいて説明する。図1は本実施形態に係る光ファイバケーブルの横断面図、図2は図1記載の光ファイバケーブルのA−A線断面図である。
【0026】
前記各図において本実施形態に係る光ファイバケーブル50は、所定配合比のポリエチレン樹脂混合物からなる外被1で被覆される光ファイバ本線20と支持線21とをネック部22で接合して形成される。
【0027】
前記光ファイバ本線20は、外被1に被覆された二芯の光ファイバ芯線2と、この光ファイバ芯線2の両側に配設されるFRP製の二本の補強線3とを備える構成である。また、光ファイバ本線20の外被1の表面における側面対向位置に切欠溝部10aが形成され、この切欠溝部10aにより管路入線の際に管路内壁への接触面積を極力小さくして摩擦係数を小さくすると共に、光ファイバ本線20自体の適当な屈曲性を獲得している。特に、この切欠溝部10aは、外被1から光ファイバ芯線2を引き出す場合に切開作業を簡易確実に行うことができる。
前記支持線21は、鋼製のメッセンジャーワイヤ4を光ファイバ本線20と同じ外被1で被覆して構成される。
【0028】
これら光ファイバ本線20及び支持線21に用いられる外被1は、高密度ポリエチレン等のオレフィン系樹脂をベース樹脂とし、これにタルクをオレフィン系樹脂100重量部に対して10〜20重量部の割合で混練し、さらに水酸化マグネシウム等の金属水酸化物である難燃剤、酸化防止剤や滑剤、顔料等を添加して樹脂混合物を生成して構成される。
【0029】
前記タルクは、結晶径が3〜10μmが望ましい。結晶径が3μm以下では成形体表面に鱗片状に配列できず、また結晶径が10μm以上では押出し成形されるケーブル外被形状を悪化させる。
【0030】
このタルクを含めた具体的な配合の例を挙げると、高密度ポリエチレン70重量部、相溶化剤10重量部、低密度ポリエチレン20重量部、水酸化マグネシウム70重量部、タルク15重量部、難燃助剤4重量部、酸化防止剤0.6重量部、滑剤1重量部、及び顔料4重量部となり、これらでポリエチレン樹脂混合物を生成することとなる。この配合内容(DE−4)を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
次に、本実施形態に係る光ファイバケーブルの外被製造過程について説明する。まず、前記配合比で外被1となるポリエチレン樹脂混合物を混練生成し、このポリエチレン樹脂混合物を10m/分〜500m/分の押出し速度で押出して光ファイバケーブル50を形成する。なお、前記押出し速度は、タルクの結晶径が3μm〜10μmの間で大きくなるに伴って500m/分から10m/分へ遅くなるように制御することもできる。
【0033】
高密度ポリエチレンをベース樹脂とするポリエチレン樹脂混合物中に混練されたタルクは、3μm〜10μmの結晶径のものを選定され、且つポリエチレン樹脂混合物の押出し速度を10μm/分から500μm/分の間で制御するようにしているので、ポリエチレン樹脂混合物の押出成形されてなる外被1の表面にタルク11が誘引され、このタルク11が外被1表面において図2に示すような鱗片状タルク11aとして配列されることとなる。こうして外被1表面に鱗片状タルク11aが配列されることで、外被1の表面硬度を高くして高滑性(低摩擦性)及び耐摩耗性を向上させた光ファイバケーブルとすることができる。
【0034】
このように、本実施形態に係る光ファイバケーブルは、外被1をなすポリエチレン樹脂混合物中の水酸化マグネシウムによる難燃性に加えて、配合されたタルクが押出成形の過程で外被1表面に鱗片状に配列されることによる高滑性(低摩擦性)及び耐摩耗性を得ることができ、管路への通線布設等の作業時におけるケーブル張力を抑えられるなど、作業性に優れる。
【0035】
(本発明の第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る光ファイバケーブルを、前記実施形態同様、架空光ドロップケーブルを例に挙げて、図3に基づいて説明する。図3は図1に記載の光ファイバケーブルの炭化被膜発生状態でのA−A線断面図である。
【0036】
本実施形態に係る光ファイバケーブル50は、前記第1の実施形態同様、光ファイバ本線20と支持線21とをネック部22で接合して形成される一方、外被1をなすポリエチレン樹脂混合物の一部配合を異ならせたものである。ケーブル構造については、前記図1に示す前記第1の実施形態に係るケーブルと同様であり、説明を省略する。
【0037】
本実施形態における外被1は、高密度ポリエチレン等のオレフィン系樹脂をベース樹脂とし、これにタルクをオレフィン系樹脂100重量部に対して10〜20重量部の割合で混練し、さらに前記第1の実施形態で用いた水酸化マグネシウムと難燃助剤に代えて赤リンを添加し、その他にも添加物を添加して樹脂混合物を生成して構成される。
【0038】
前記赤リンは、高密度ポリエチレンのベース樹脂量に対して5wt%〜9wt%が最適である。この5wt%以下の添加では難燃性を低下させ、他方9wt%以上の添加では難燃性の向上がない。また、前記樹脂混合物には水酸化マグネシウム及び難燃助剤を添加せず、赤リンを添加していることから、樹脂中のフィラーを減少させることができ、成形後の外被1について低摩擦化して耐摩耗性を向上させることができる。
【0039】
この赤リンを含めた具体的な配合の例を挙げると、高密度ポリエチレン70重量部、相溶化剤10重量部、低密度ポリエチレン20重量部、赤リン11.7重量部、タルク15重量部、酸化防止剤0.6重量部、滑剤1重量部、及び顔料4重量部となり、これらでポリエチレン樹脂混合物を生成することとなる。この配合内容(DE−21)を前記表1に示す。
【0040】
次に、本実施形態に係る光ファイバケーブルの難燃性について説明する。ケーブルの製造にあたっては、前記第1の実施形態と同様に、前記配合比で外被1となるポリエチレン樹脂混合物を混練生成し、このポリエチレン樹脂混合物を10m/分〜500m/分の押出し速度で押出して光ファイバケーブル50を形成する。なお、前記押出し速度は、タルクの結晶径が3μm〜10μmの間で大きくなるに伴って500m/分から10m/分へ遅くなるように制御することもできる。
【0041】
この高密度ポリエチレン樹脂をベース樹脂とするポリエチレン樹脂混合物中にタルクと赤リンを混練していることから、前記第1の実施形態と同様、外被1表面に図3(A)に示すような鱗片状タルク11aが配列されることに加え、前記赤リン12が外被1中でやや表面寄りに散点状に分布するので、光ファイバケーブル50が炎等の高温に曝されたとしても、表面に炭化被膜12aを形成することができ、高い難燃性を得られることとなる。
【0042】
この光ファイバケーブル50において、燃焼時に発生する高熱で仮にポリエチレン樹脂混合物が液状に溶融し流動状態になると、前記炭化被膜12aの崩壊に至るが、表面に配列される鱗片状タルク11aをはじめとするタルクの結晶水放出に至る温度が800℃と極めて高いことから、燃焼時の熱で結晶水の放出は生じにくく、ポリエチレン樹脂混合物の溶融、流動化を抑えられ、炭化被膜12aの崩壊を確実に防止できる。なお、タルク11以外の金属水酸化物(例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等)、板状結晶体フィラー(例えば、カオリナイト等)等の無機充填材は、200℃〜400℃で結晶水を放出し発泡することから、タルクと比べて燃焼時の熱で容易に炭化被膜12aを崩壊させることとなる。
【0043】
このように、本実施形態に係る光ファイバケーブルは、外被1をなすポリエチレン樹脂混合物に配合される難燃剤として赤リンを使用し、フィラーを減少させることから、外被1表面に鱗片状に配列されるタルクの作用と合わせて耐摩耗性が大幅に向上し、優れた高滑性(低摩擦性)も得られることとなり、前記第1の実施形態の場合よりもケーブルとして好ましい特性を発揮でき、管路への通線布設等の作業性をより一層向上させられる。
【0044】
(本発明の第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る光ファイバケーブルを、前記各実施形態同様、架空光ドロップケーブルを例に挙げて、図4に基づいて説明する。図4は本実施形態に係る架空光ドロップケーブルの横断面図である。
【0045】
前記図4において本実施形態に係る光ファイバケーブル51は、前記第1の実施形態同様、光ファイバ本線70と支持線71とをネック部72で接合して形成される一方、異なる点として、外被6表面の切欠溝部60aが、くさび状の断面形状とされ、溝入口側から溝奥に向う溝中心線60bが、前記補強線8同士を結ぶ直線に対し所定角度分傾いて光ファイバ芯線7を通らない斜め向きの線となるように配置される構成を有するものである。
【0046】
前記光ファイバ本線70は、外被6に被覆された四芯の光ファイバ芯線7と、この光ファイバ芯線7の両側に配設されるFRP製の二本の補強線8とを備える構成である。また、光ファイバ本線70の外被6の表面における光ファイバ本線70を中心とした回転対称位置にくさび状の切欠溝部60aが斜めに形成され、外被6から光ファイバ芯線7を引き出す場合に外被6の切裂き作業を容易に行えるようにする本来の作用の他、管路入線の際にこの切欠溝部60aの外側にある外被6の薄い突出片部分が撓むことにより、管路内壁や既設ケーブルへの接触面積を極力小さくして摩擦係数を小さくすることができる。さらに、切欠溝部60aの溝深さ方向が光ファイバ芯線7からずれていることで、このような狭隙部分に産卵管を刺し入れる性質のあるセミ等の昆虫による芯線損傷の被害を避けられることとなる。
【0047】
切欠溝部60aは、その溝中心線60bが補強線8同士を結ぶ直線に対し15°〜45°の傾きをなし、且つ溝中心線60bの延長上に補強線8が位置するように配置するのが好ましい。また、切欠溝部60aのくさび状断面の開き角は30°以下とするのが好ましい。さらに、光ファイバ本線70の断面形状が図4に示すような矩形状である場合、切欠溝部60bは光ファイバ本線70の隅部に溝開口が位置するように配置するのが、識別用表示の配置やケーブル取扱い性の点で望ましい。
【0048】
前記支持線71は、前記第1の実施形態同様、鋼製のメッセンジャーワイヤ9を光ファイバ本線70と同じ外被6で被覆して構成される。
前記光ファイバ本線70及び支持線71に用いられる外被6は、前記第1の実施形態又は前記第2の実施形態の場合と同様の配合でポリエチレン樹脂混合物を生成して形成されるものであり、詳細な説明を省略する。
【0049】
本実施形態に係る光ファイバケーブルの表面状態については、前記第1及び第2の実施形態同様、ポリエチレン樹脂混合物の押出成形の過程で外被1の表面にタルク11が誘引され、外被1表面において前記図2及び図3に示すような鱗片状タルク11aとして配列された状態となっていることから、外被1の表面硬度を高くして高滑性(低摩擦性)及び耐摩耗性を向上させることができる。
【0050】
このように、本実施形態に係る光ファイバケーブルは、前記第1及び第2の実施形態同様、難燃性を確保しつつ高滑性(低摩擦性)及び耐摩耗性を従来に比べ大きく向上させられることに加え、光ファイバ本線70部分に切欠溝部60aを適切に配置することで、光ファイバ芯線7の損傷の危険性を小さくでき、架空配線状態での耐久性やケーブルとしての信頼性を高められる。
【0051】
なお、前記各実施の形態に係る光ファイバケーブルにおいて、光ファイバ本線20、70内に光ファイバ芯線2、7が二本又は四本縦に並べて配置される構成としているが、これに限らず、図5や図6にも示すように、光ファイバ芯線の数やその並べ方は光ファイバ本線に適切に収められる範囲で適宜設定することができる。また、光ファイバ芯線についても、単心の光ファイバ芯線を一又は複数本配置する構成に限らず、複数本の芯線が共通被覆で一体となった束状やテープ状の芯線を一又は複数組配置する構成とすることもできる。
【0052】
また、前記各実施の形態に係る光ファイバケーブルにおいては、外被1、6表面の切欠溝部10a、60aを、光ファイバ芯線2、7を中心として回転対称となる二箇所にそれぞれ設ける構成としているが、これに限らず、手による外被の切裂き、芯線取り出し操作が容易に行えるものであれば、配置位置は光ファイバ芯線周囲のどの位置でもかまわない。切欠溝部の配置数も二つに限らず、一つ若しくは三つ以上とすることもでき、切欠溝部の配置数を増やせば光ファイバ本線における屈曲性増大も図れることとなる。さらに、芯線取り出し用の工具が常時使用できる場合や、切欠溝部の存在による強度低下や芯線損傷の危険性増大といったリスクをなるべく小さくしたい場合には、図5に示すように、前記各実施形態同様に光ファイバ芯線73と補強線81を外被61で被覆した光ファイバ本線74及び支持線75を備える構造を有しながら、切欠溝部を全く設けない構成の光ファイバケーブル52とすることもできる。
【0053】
また、前記各実施の形態に係る光ファイバケーブルにおいて、メッセンジャーワイヤ4、9を外被1、6で被覆した支持線21、71が光ファイバ本線20、70と一体化されて光ファイバケーブル50、51をなす構成としているが、宅内引込時など必要に応じて支持線を分離除去して光ファイバ本線のみ管路挿入等で取扱うことができる。さらに、図6に示すように、当初から支持線を用いず、光ファイバ芯線76と補強線82を外被62で被覆し、表面に切欠溝部63を設けた光ファイバ本線部分のみで光ファイバケーブル53をなす構成とすることもでき、架空状態での強度がそれほど必要でない場合に簡略な構造を採用することでコストダウンが図れると共に、宅内引込時等の管内挿入作業への移行も、支持線切離し等の手間なく容易且つ速やかに行え、切離し後のネック部の残り等も存在しないことで摩擦抵抗を減らしてスムーズに作業が行える。
【0054】
さらに、前記各実施の形態に係る光ファイバケーブルにおいて、補強線を光ファイバ芯線及びメッセンジャーワイヤと直線上に並ぶ配置として二本配設する構成としているが、これに限らず、ケーブルの用途や設置環境に応じて芯線に対する補強線の配置位置や配置数を適宜変更してもかまわない。
【実施例】
【0055】
本発明の光ファイバケーブルの性能を確認するための試験を図7及び図8に記載する試験システムを用いて実施した。図7は本発明の各実施形態に係る光ファイバケーブルの低摩擦性を試験する低摩擦性試験装置の構成図、図8は本発明の各実施形態に係る光ファイバケーブルの管路通線試験システム構成図である。なお、試験対象のいずれのケーブルも、光ファイバ本線20の高さL1を3.7mm、ケーブル全体の高さL2を6.0mm、ケーブル全体の幅L3を2.0mmとする。
【0056】
(実施例1)
前記図7に記載の低摩擦性試験装置により第1及び第2の実施形態に係る光ファイバケーブル(DE−4、DE−21)と共に従来の光ファイバケーブル(外被材料に日本ユニカー株式会社製NUC−9739を使用)を比較例として、各光ファイバケーブルの支持線を切除した光ファイバ本線のみに対して、低摩擦性試験を行った。
【0057】
この低摩擦性試験は図7に示すように引き抜き試験片としての光ファイバケーブルを固定試験片で上下より挟み込み、この挟み込んだ光ファイバケーブルを試料固定板で挟み込んだ状態で印加荷重3kgの錘で加圧する。この印加荷重3kgの加圧状態でロードセルにて前記引き抜き試験片を引っ張り軸方向へ100mm/minの速度で引っ張り、摩擦力を測定して摩擦係数を得た。この低摩擦性試験の結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
(実施例2)
摩耗輪による耐摩耗性試験を、前記実施例1と同様に第1及び第2の実施形態に係る光ファイバケーブル(DE−4、DE−21)と共に従来の光ファイバケーブル(外被材料に日本ユニカー株式会社製NUC−9739を使用)を比較例として用いて、各光ファイバケーブルの支持線に対して実行した。この耐摩耗性試験結果を表3に示す。同表において第1の実施形態に係る光ファイバケーブルは比較例である従来ケーブルの6倍の耐摩耗性を有する結果が得られた。また同表において第2の実施形態に係る光ファイバケーブルは、同様に比較例の24倍の耐摩耗性を有する結果が得られた。
【0060】
【表3】

【0061】
(実施例3)
前記図8に記載の管路通線試験システムを用いて第1及び第2の実施形態に係る光ファイバケーブル(DE−4、DE−21)と共に従来の光ファイバケーブル(外被材料に日本ユニカー株式会社製NUC−9739を使用)を比較例として管路通線試験を行った。この管路通線試験は、図8に示す管路内に呼び線(約31m、6mmφ対撚構造)を挿入し、この管路の送出端から露出している呼び線に試験対象となる光ファイバケーブルを接続し、この光ファイバケーブルを接続した呼び線をケーブル牽引端より牽引するように実行する。このケーブル牽引は人手で10m(牽引開始時を引込長0とする。)の距離を10m/minの速度で4回行い、引込総長40mでの張力を測定した。この試験結果を表4に示す。同表において引込総長40mでは、第1、第2の実施形態に係る光ファイバケーブルは比較例である従来ケーブルに対して5分の1の張力となっており、低摩擦性試験で得られた動摩擦係数と同様の傾向を示していることが解る。
【0062】
【表4】

【0063】
(実施例4)
本発明の第2の実施形態に係る光ファイバケーブルにおけるポリエチレン樹脂混合物中のタルクについて、その粒径及び添加量を異ならせて実験1、2、及び3のケーブルを得、第2の実施形態に係るケーブル(DE−21)との比較を行った。各ケーブル外被の配合と比較結果を表5に示す。同表に示すように、各実験のケーブル外被は、タルク11の結晶径を2μm、17μmとすると共に、添加量を15重量部と30重量部に異ならせる構成とした。この結果、タルク11の結晶径が17μm(実験2)では結晶の押出外観が悪くなり、結晶径2μm(実験1)では耐摩耗性が若干悪化することが解る。また、タルク11の添加量が30重量部(実験3)となると、熱老化性が悪くなることが解る。
【0064】
【表5】

【0065】
(実施例5)
本発明の第2の実施形態に係る光ファイバケーブルにおけるポリエチレン樹脂混合物中の赤リンについて、その添加量を異ならせて実験4〜8のケーブルを得、第2の実施形態に係るケーブル(DE−21)との比較を行った。各ケーブル外被の配合と比較結果を表6に示す。同表に示すように、各実験のケーブル外被は、赤リン12の添加量を1.5重量部(実験4)、4.4重量部(実験5)、7.5重量部(実験6)、11.7重量部(DE−21)、14.3重量部(実験7)、19.8重量部(実験8)に異ならせる構成とした。この結果、赤リン12のリン濃度が3wt%以下で難燃性が悪いことが解り、また赤リン12のリン濃度が12wt%以上でケーブルの押出外観が悪化することが解る。即ち、赤リンのリン濃度は、5wt%から9wt%の範囲が望ましい。
【0066】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光ファイバケーブルの横断面図である。
【図2】図1記載の光ファイバケーブルのA−A線断面図である。
【図3】図1記載の光ファイバケーブルの炭化被膜発生状態でのA−A線断面図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る光ファイバケーブルの横断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る光ファイバケーブルの横断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る光ファイバケーブルの横断面図である。
【図7】本発明の各実施形態に係る光ファイバケーブルの低摩擦性を試験する低摩擦性試験装置の構成図である。
【図8】本発明の各実施形態に係る光ファイバケーブルの管路通線試験システム構成図である。
【符号の説明】
【0068】
1、6、61、62 外被
10a、60a、63 切欠溝部
11 タルク
11a 鱗片状タルク
12 赤リン
12a 炭化被膜
2、7、73、76 光ファイバ芯線
20、70、74 光ファイバ本線
21、71、75 支持線
22、72 ネック部
3、8、81、82 補強線
4、9 メッセンジャーワイヤ
50、51、52、53 光ファイバケーブル
60b 溝中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂に結晶径3〜10μmのタルクを添加し、当該タルクを添加したオレフィン系樹脂混合物を押出成形により形成することを
特徴とする押出成形体。
【請求項2】
前記請求項1に記載の押出成形体において、
前記タルクがオレフィン系樹脂100重量部に対して10〜20重量部を添加することを
特徴とする押出成形体。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の押出成形体において、
前記タルクが押出成形の押出し速度を遅くするに伴って大きな結晶径とされることを
特徴とする押出成形体。
【請求項4】
前記請求項1ないし3のいずれかに記載の押出成形体において、
前記オレフィン系樹脂100重量部に対して赤リンをリン濃度で5wt%〜9wt%添加することを
特徴とする押出成形体。
【請求項5】
オレフィン系樹脂に結晶径3〜10μmのタルクを添加してオレフィン系樹脂混合物を作成し、当該オレフィン系樹脂混合物を10m/分〜500m/分の押出速度で押出して押出成形体を形成することを
特徴とする押出成形体の形成方法。
【請求項6】
前記請求項5に記載の押出成形体の形成方法において、
前記オレフィン系樹脂混合物が、オレフィン系樹脂100重量部に対してタルクを10〜20重量部添加して作成されることを
特徴とする押出成形体の形成方法。
【請求項7】
前記請求項5又は6に記載の押出成形体の形成方法において、
前記押出速度は、タルクの結晶径が3〜10μmの間で大きくなるのに伴って遅くなることを
特徴とする押出成形体の形成方法。
【請求項8】
前記請求項5ないし7のいずれかに記載の押出成形体の形成方法において、
前記オレフィン系樹脂混合物が、オレフィン系樹脂100重量部に対して赤リンをリン濃度で5wt%〜9wt%添加して作成されることを
特徴とする押出成形体の形成方法。
【請求項9】
前記請求項1ないし4のいずれかに記載の押出成形体を外被とされ、一又は複数本の光ファイバ芯線、及び当該光ファイバ芯線と並行させて一又は複数本配置される補強線の外周を、前記外被で一括被覆されてなることを
特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項10】
前記請求項9に記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記光ファイバ芯線及び補強線を前記外被で被覆してなる光ファイバ本線に対し、メッセンジャーワイヤを外被で被覆してなる支持線が、前記光ファイバ芯線及び補強線と並行する向きで前記光ファイバ本線と一体化されてなることを
特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項11】
前記請求項9又は10に記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記外被における前記光ファイバ芯線近傍の表面所定位置に、一又は複数の切欠溝部が設けられることを
特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項12】
前記請求項11に記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記切欠溝部が、前記光ファイバ芯線位置を中心として対向関係となる配置で外被表面に二つ配設されることを
特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項13】
前記請求項12に記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記補強線が、前記光ファイバ芯線を中心として対称位置関係となる配置で二つ配設され、
前記切欠溝部が、くさび状の断面形状とされ、溝入口側から溝奥に向う溝中心線が、前記補強線同士を結ぶ直線に対し所定角度分傾いて光ファイバ芯線を通らない線となるように配置されることを
特徴とする光ファイバケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−270120(P2007−270120A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306583(P2006−306583)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000207089)大電株式会社 (67)
【Fターム(参考)】