説明

振動デバイスの周波数調整方法、並びに振動デバイス、および電子デバイス

【課題】段差部に引出電極を有する圧電振動片を採用した場合であっても、周波数調整時に断線の虞を生じさせる事の無い圧電デバイスの周波数調整方法を提供する。
【解決手段】励振電極26が形成された振動部24と、入出力電極30が形成された周縁部22との間に段差部23を備え、前記段差部を跨いで前記励振電極と前記入出力電極とを電気的に接続する引出電極28が形成され、厚み滑り振動を主振動とする圧電振動片20における前記励振電極を、前記圧電振動片をパッケージベース36に搭載した後にエッチングすることで成す周波数調整方法であって、少なくとも、前記振動部に楕円形状に形成されるエネルギー閉じ込め領域の外形形状に沿う曲線のうち、前記励振電極の周縁部において前記引出電極が接続された部位に最も近接する部位に対して定められる接線よりも、前記エネルギー閉じ込め領域側に位置する励振電極をエッチング領域としてエッチングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電デバイスの周波数調整方法、並びに当該周波数調整方法を実施することにより得ることのできる圧電デバイス、および周波数調整に用いるマスクに係り、特に、振動部と周縁部との間に段差部を有する圧電振動片を実装する圧電デバイスに対して好適な周波数調整方法、圧電デバイス、およびマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電振動片を搭載する圧電デバイス(例えば圧電振動子)の製造工程では、バッチ処理により圧電振動片、パッケージ、およびリッドをそれぞれ製造し、パッケージに対して圧電振動片を実装した後に、個々の振動子単位に周波数調整が行われる事が一般的である。
【0003】
圧電振動片をパッケージに実装した後に行う周波数調整としては、励振電極に対してスパッタ等を施して重み付けするというものと、イオンレーザ等を照射するイオンミリングにより電極膜の一部を削るというものがある。圧電デバイスの小型・薄型化が進む近年では、後者に掲げた電極膜の削り取りによる周波数調整が行われる事が多い。
【0004】
しかし、電極膜の削り取りにより周波数調整を行おうとする場合通常、励振電極と共に励振電極に接続された引出電極の一部も削り取られることとなる。こうした場合、メサ型や逆メサ型の圧電振動片のような、振動部と周縁部との間に段差部を有する圧電振動片では、次のような問題が生ずる。
【0005】
すなわち、振動部と周縁部との間の段差部、および段差部と平坦部との間に存在する角部に形成される引出電極は、平坦面である振動部や周縁部に形成された電極膜よりも、その肉厚が薄くなるのである。
このため、周波数調整の際に引出電極の一部が削り取られた場合、断線を生じさせる虞がある。
【0006】
このような振動部と周縁部との間に段差を有する圧電振動片を採用した圧電振動子の周波数調整を行う場合に好適な手段が、特許文献1に開示されている。特許文献1に示されている圧電振動片は、プラノ逆メサタイプの圧電振動片である。特許文献1には、このような圧電振動片を採用した圧電振動子の周波数調整を行う場合、逆メサ部をパッケージの底板側に向け、圧電振動片のフラット面に形成した励振電極を削り取るようにすれば良いという事が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−246866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示されている技術は、バイメサ型(両主面に凸部を有するメサ型:以下単にメサ型と称す)やバイ逆メサ型(両主面に凹状陥部を有する逆メサ型:以下単に逆メサ型と称す)の圧電振動片を採用したい場合や、パッケージ形状の制限がある場合などには使用することができない。
【0009】
このため、本発明では、メサ型や逆メサ型のような段差部に引出電極を有する圧電振動片を採用した場合であっても、周波数調整時に断線の虞を生じさせる事の無い圧電デバイスの周波数調整方法、並びに圧電デバイス、および周波数調整用マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適応例として実現することが可能である。
【0011】
[適応例1]励振電極が形成された振動部と、入出力電極が形成された周縁部との間に段差部を備え、前記段差部を跨いで前記励振電極と前記入出力電極とを電気的に接続する引出電極が形成され、厚み滑り振動を主振動とする圧電振動片における前記励振電極をエッチングすることで成す周波数調整方法であって、少なくとも、前記振動部に楕円形状に形成されるエネルギー閉じ込め領域の外形形状に沿う曲線のうち、前記励振電極の周縁部において前記引出電極が接続された部位に最も近接する部位に対して定められる接線よりも、前記エネルギー閉じ込め領域側に位置する励振電極をエッチング領域に定めると共に、少なくとも前記段差部上に形成された前記引出電極を非エッチング領域としてエッチングすることを特徴とする圧電デバイスの周波数調整方法。
【0012】
このような特徴を持つ圧電デバイスの周波数調整方法によれば、メサ型や逆メサ型の圧電振動片を採用した圧電デバイスであっても、周波数調整時に引出電極がエッチングされる虞が無く、周波数調整に起因する断線を生じさせる虞も無い。また、エッチング領域には確実に、振動部におけるエネルギー閉じ込め領域が含まれるため、周波数調整をする際の効率も良い。
【0013】
[適応例2]励振電極が形成された振動部と、入出力電極が形成された周縁部との間に段差部を備え、前記段差部を跨いで前記励振電極と前記入出力電極とを電気的に接続する引出電極が形成され、厚み滑り振動を主振動とする圧電振動片における前記励振電極をエッチングすることで成す周波数調整方法であって、前記振動部に楕円形状に形成されるエネルギー閉じ込め領域の楕円形状を構成する短軸と長軸の交点を中心として、前記楕円形状の短軸の長さまたは長軸の長さを直径とする円の内側をエッチング領域に定めると共に、少なくとも前記段差部上に形成された前記引出電極を非エッチング領域としてエッチングすることを特徴とする圧電デバイスの周波数調整方法。
【0014】
このような特徴を有する圧電デバイスの周波数調整方法であっても、上記適応例1と同様に、メサ型や逆メサ型の圧電振動片を採用した圧電デバイスであっても、周波数調整時に引出電極がエッチングされる虞が無く、周波数調整に起因する断線を生じさせる虞も無い。また、エッチング領域には確実に、振動部におけるエネルギー閉じ込め領域が含まれるため、周波数調整をする際の効率も良いという事ができる。
【0015】
[適応例3]適応例1または適応例2に記載の圧電デバイスの周波数調整方法であって、前記エッチングとしてイオンミリングを採用し、エッチング領域を定めるためのマスクにより、エッチング時に生ずる熱を吸収し、エッチング雰囲気中の温度上昇を抑制することを特徴とする圧電デバイスの周波数調整方法。
【0016】
このような方法を採用することによれば、周波数調整時における雰囲気温度の上昇を抑えることができる。よって、周波数調整終了後の温度降下による圧電デバイスの周波数変動を抑えることができる。
【0017】
[適応例4]パッケージ内に少なくとも、振動部と周縁部、および前記振動部と前記周縁部との間に形成された段差部とを有する圧電振動片を収容した圧電デバイスであって、前記振動部に形成された励振電極のうち、少なくとも前記周縁部に形成された入出力電極と電気的な接続が図られる引出電極が接続された部位に形成された金属膜の膜厚よりも、前記振動部におけるエネルギー閉じ込め領域に形成された金属膜の膜厚を薄くしたことを特徴とする圧電デバイス。
【0018】
適応例1乃至適応例3のいずれかに示した方法により周波数調整を行うことにより、上記特徴を有する圧電デバイスを製造することができる。このような特徴を有する圧電デバイスによれば、エネルギー閉じ込め領域に形成された金属膜が薄肉化されることにより、圧電デバイスの周波数調整は実現され、引出電極接続部近傍に形成された電極膜は厚肉のまま残存する。このため、製造された圧電デバイスにおいて、引出電極に断線が生じているという事態が無く、圧電デバイス製造後の熱膨張歪みや外部からの機械的衝撃などに起因する断線も防止できる。
【0019】
[適応例5]適応例4に記載の圧電デバイスであって、前記金属膜の膜厚を薄くする部分を、前記エネルギー閉じ込め領域を構成する楕円形状の短軸と長軸の交点を中心として、前記楕円形状の短軸の長さまたは長軸の長さを直径として描かれる円の内側としたことを特徴とする圧電デバイス。
【0020】
このような構成の圧電デバイスであっても、上記適応例4に記載の圧電デバイスと同様な効果を得ることができる。
【0021】
[適応例6]適応例4または適応例5に記載の圧電デバイスであって、前記励振電極は矩形とし、前記引出電極は前記励振電極の角部に接続したことを特徴とする圧電デバイス。
【0022】
励振電極を矩形とし、引出電極を励振電極の角部に接続することによれば、引出電極とエッチングにより薄肉化される領域との距離を離すことができる。よって、引出電極がエッチングにより薄肉化されてしまう危険性を低下させることができる。
【0023】
[適応例7]適応例4乃至適応例6のいずれかに記載の圧電デバイスであって、前記圧電振動片を、メサ型、プラノメサ型、逆メサ型、プラノ逆メサ型のいずれかの圧電振動片としたことを特徴とする圧電デバイス。
いずれの形態を有する圧電振動片であっても、適応例4乃至適応例6のいずれかに記載した効果を得ることができるからである。
【0024】
[適応例8]圧電デバイスのパッケージに搭載された、振動部と周縁部との間に段差部を有し、厚み滑り振動を主振動とする圧電振動片の振動部に形成された励振電極をイオンミリングする際に用いるマスクであって、金属部材により構成し、前記励振電極上において前記厚み滑り振動が閉じ込められるエネルギー閉じ込め領域の楕円形状を構成する短軸と長軸の交点を中心として、前記楕円形状の短軸の長さまたは長軸の長さを直径とする円形開口部を機械加工により形成したことを特徴とする周波数調整用マスク。
【0025】
楕円形状のエッチング目的範囲に対し、円形のマスクを採用した場合でもエッチングにより圧電デバイスの周波数調整は可能とすることができる。そして、マスクに形成する開口部を円形とし、これを機械加工で形成することによれば、母材とする金属部材の板厚が厚い場合であっても短時間で開口部を形成することが可能となる。さらに、マスクを構成する金属部材の板厚を厚くすることによれば、イオンミリング時に発生する熱を、マスクが吸収することとなり、イオンミリング時の雰囲気温度の上昇を抑えることができる。これにより、周波数調整終了後における圧電デバイスの周波数変動を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】圧電デバイスの基本的構成を示す図である。
【図2】周波数調整を行う際の、圧電デバイスとマスクとの関係を示す図である。
【図3】マスクの基本的構成と、その配置を示す図である。
【図4】円形開口部を有するマスクを用いた周波数調整方法についての説明を行うための第1の例を示す図である。
【図5】円形開口部を有するマスクを用いた周波数調整方法についての説明を行うための第2の例を示す図である。
【図6】励振電極の短軸に対して非対称、長軸に対して対称としたエッチング領域を定める開口部を有するマスクを用いた周波数調整方法についての説明を行うための図である。
【図7】励振電極の短軸、長軸双方に対して非対称としたエッチング領域を定める開口部を有するマスクを用いた周波数調整方法についての説明を行うための図である。
【図8】図8に示すマスクの応用形態を示す図である。
【図9】発明に係る圧電デバイスにおける圧電振動片の部分拡大図である。
【図10】発明に係る周波数調整方法を好適に適用可能な圧電デバイスについての第1の変形例を示す図である。
【図11】発明に係る周波数調整方法を好適に適用可能な圧電デバイスについての第2の変形例を示す図である。
【図12】発明に係る周波数調整方法を好適に適用可能な圧電デバイスについての第3の変形例を示す図である。
【図13】発明に係る圧電デバイスに含まれる圧電デバイスの例を示す図である。
【図14】発明に係る圧電デバイスの周波数調整方法を実施する対象となる圧電振動片の形態例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の圧電デバイスの周波数調整方法、並びに当該周波数調整方法を用いて製造される圧電デバイス、および前記周波数調整方法に使用されるマスクに係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0028】
まず、本発明に係る圧電デバイスの周波数調整方法の実施対象となる圧電デバイスの基本的な形態について、図1を参照して説明する。なお、図1(A)、図1(B)はそれぞれ、圧電デバイスの側断面を示す図であり、図1(C)は同図(B)のリッドを外した状態の平面を示す図である。
【0029】
以下の実施形態においては、説明を簡単化するために、圧電デバイス10として、圧電振動子を例に挙げて説明する。
本実施形態に係る圧電デバイス10は、圧電振動片20とパッケージ50とを基本構成とする。圧電振動片20は、水晶(SiO2)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)等の圧電現象を生じさせる材料により構成された板材である。圧電振動片20の構成材料としては、前述した単結晶材の他に、チタン酸バリウム(BaTiO3)等の多結晶材や圧電セラミックス等を挙げることができるが、広い温度範囲において安定した振動特性を得られる材料としては、水晶が知られており、本実施形態で取り扱う圧電振動片20も水晶により構成されたものとする。
【0030】
水晶により構成される圧電振動片20は、その結晶構造の組成(カット角)により、主振動の振動モードを異ならせる。本実施形態で取り扱う圧電振動片20は、主振動の振動モードを厚み滑り振動とするもので、カット角としては、ATカット、BTカット、あるいはSCカットと呼ばれるカット角で切り出された水晶片により構成されるものである。
【0031】
また、本実施形態の圧電振動片20は、ATカット圧電振動片の中でも、メサ型と呼ばれるタイプのものである。圧電振動片20を構成する圧電素板は、厚肉とされる振動部24と、振動部24の周囲に配置された薄肉の周縁部22とから構成されており、表裏面双方の振動部24と周縁部22との間に段差部23を有するものである。
【0032】
本実施形態に係る圧電振動片20は、振動部24、周縁部22ともに矩形状を成し、振動部24には同じく矩形状を成す励振電極26が形成され、周縁部22には入出力電極30が形成される。そして、励振電極26と入出力電極30との間には、段差部23を跨いで両者を電気的に接続する引出電極28が形成される。
【0033】
このような構成の圧電振動片20では、主振動である厚み滑り振動のエネルギーは、図1(C)に破線で示すような楕円形状に集中し、当該楕円形状で示される領域は、エネルギー閉じ込め領域26aと呼ばれている。
【0034】
パッケージ50は、パッケージベース36とリッド32、および両者を接合するためのシームリング34とから構成される。パッケージベース36は、例えば図1(A)に示すような箱型状のものや、図1(B)に示すような平板状のものを挙げることができる。いずれも、セラミックスシートを焼成することにより形成するものや、金属により形成するものが知られているが、金属によりパッケージベース36を構成する場合には、内外端子や配線とパッケージベース本体との間の絶縁を図る必要がある。パッケージベース36には少なくとも、実装用外部端子40、内部搭載端子38、および実装用外部端子40と内部搭載端子38とを電気的に接続する配線パターン(不図示)が備えられる。
【0035】
リッド32は、平板状の蓋体であり、金属、ガラス、あるいはセラミックスにより構成されることが一般的である。構成部材としては、線膨張率が、上述したパッケージベース36を構成する部材に近似しているものであることが望ましい。このため、パッケージベース36をセラミックスとした場合、金属ではコバール、ガラスではソーダガラス等を採用する事が一般的である。
【0036】
シームリング34は、上述したパッケージベース36とリッド32とを接合する際に用いる接合部材である。また、パッケージベース36を平板状のものとする場合には、圧電振動片20を収容するためのキャビティ42を構成するスペーサとしての役割も担う。
なお、シームリング34を用いたパッケージベース36とリッド32との接合は、従来より知られているシーム溶接の技術を用いれば良い。
【0037】
次に、上記のような基本構成を有する圧電デバイス10に対する周波数調整方法について説明する。
本発明の圧電デバイスの周波数調整方法は、エッチングにより励振電極26を削る周波数調整を実施する際、特定形状のマスクを用いてエッチング範囲を定めた事を特徴とするものである。よって、マスクの形状により、種々異なる実施形態を奏することとなる。まず、第1の実施形態として、図2、図3に示すような開口部62を有するマスク60を用いて周波数調整を行う場合について説明する。
【0038】
本実施形態で使用するマスク60は、金属部材により構成されており、図3に示すような楕円形状の開口部62を有するものである。この楕円形状は、矩形状に形成された励振電極26を有する振動部24に発生する厚み滑り振動の振動エネルギーが閉じ込められる、エネルギー閉じ込め領域26a(図1(C)参照)の形状と合致させる。
【0039】
励振電極26をエッチングする際、振動エネルギーが集中する部位をエッチングする方が、励振電極26の質量降下量に対する周波数変化量を大きくすることができ、周波数調整の効率が良くなるためである。
【0040】
また、矩形状の励振電極26に対し、矩形状の励振電極26に内接する大きさ以下の楕円の内部をエッチング範囲に定めることにより、励振電極26の角部に接続した引出電極28がエッチングされる虞が無くなる。このため、段差部23を跨ぐ引出電極28がエッチングされる虞も無く、エッチングに起因する断線も防止することができる。
【0041】
本実施形態に係るエッチングは、ドライエッチング、具体的には、イオンレーザを用いたイオンミリングという手法で行うようにすると良い。すなわち、図2のようにマスク60を配置した圧電デバイス(リッド32無し)の圧電振動片20に対し、マスク60の開口部62を介してイオンレーザを照射することで、励振電極26の一部を選択的に削り取るのである。
【0042】
なお、上記のようなドライエッチングは、真空チャンバ等の中に圧電デバイスを配置し、不活性雰囲気の中で行われることが望ましい。
このような手法で励振電極26の削り取りを行う事により、周波数調整量に応じた微小なエッチングが可能となり、エッチング面の平坦化も実現可能となる。
【0043】
次に、本発明の圧電デバイスの周波数調整方法に係る第2の実施形態について、図4、図5を参照しつつ詳細に説明する。本実施形態では、図4、図5に示すように、円形の開口部62a,62bを有するマスク60a,60bを用いてエッチングを行うことを特徴とする。
【0044】
マスク60a,60bに形成する円形開口部62a,62bの直径は、矩形状の励振電極26が形成された圧電振動片20におけるエネルギー閉じ込め領域26aを構成する楕円の短辺27、または長辺29の長さと、その直径とを合わせたものとする。マスク60a,60bの開口形状をこのような形状とし、エッチング時に投影される円の中心とエネルギー閉じ込め領域26aを構成する楕円の短辺27と長辺29の交点とを合致させることにより、エッチング領域にはエネルギー閉じ込め領域26aが含まれることとなり、効率的な周波数調整が可能となる。
【0045】
また、励振電極26の角部は、マスク60a,60bに形成された円の曲率に応じて非エッチング領域となるため、角部に接続された引出電極28がエッチングされる虞が無い。よって、振動部24と周縁部22の間の段差部23を跨ぐ引出電極28に周波数調整に、起因した断線を生じさせる虞も無い。
【0046】
エッチング領域を円形とすることによれば当然に、マスク60a,60bに形成する開口部62a,62bも円形となる。微細形状を有する開口部の形成は、エッチングにより成されることが一般的であるが、図4、図5に示すような円形の開口部62a,62bであれば、ドリル等による機械加工も可能となる。機械加工により開口部62a,62bを形成する場合、短時間で垂直な孔開け加工が可能なため、マスク60a,60bを構成する金属部材の板厚を厚くすることができる。
【0047】
マスク60a,60bを構成する金属板材の板厚を厚くすると、マスク60a,60bの熱容量が増大するため、エッチング時に発生する熱をマスク60a,60bが吸収することとなる。このため、チャンバ内部の雰囲気の温度上昇を抑えることができ(温度変化が少なく)、周波数調整後における圧電デバイス10の周波数変動を少なくすることができる。
【0048】
次に、本発明の圧電デバイスの周波数調整方法に係る他の実施形態について、図6を参照しつつ詳細に説明する。上記実施形態ではいずれも、励振電極26の中心Oを基準として、励振電極26の長軸72と、それに直交する方向の短軸70を取り、励振電極26を4つの象限に分けた場合、いずれの象限においてもエッチング領域が同一形状となるように、マスク60(60a,60b)の開口部62(62a,62b)の形状を定めていた。しかしながら本発明では、少なくともエッチング時に、引出電極28をエッチングする事無く効率的に周波数調整を行うことができれば良いため、図6に示すような開口部62cを有するマスク60cを使用してエッチングを行うようにしても良い。
【0049】
具体的には、励振電極26の短軸70を中心として、引出電極28側に位置する2つの象限では、エネルギー閉じ込め領域26aの形状に沿った曲線の内側がエッチング領域となるように開口を形成し、短軸70を介した反対側、すなわち圧電振動片20の先端側に位置する2つの象限では、励振電極26の外形形状に倣った矩形状の開口を形成することで、開口部62cを形成するというものである。
【0050】
このような開口部62cを有するマスク60cを用いてエッチングを行うようにすれば、少なくとも振動部24におけるエネルギー閉じ込め領域26aに係る励振電極26をエッチングすることができ、励振電極26の角部に接続された引出電極28がエッチングされることは避けることができる。
【0051】
また、上記実施形態ではいずれも、励振電極26の長軸72を基準として線対称にエッチングを行うように記載している。しかしながら、本発明の圧電デバイスの周波数調整方法の目的は、段差部23を跨ぐ引出電極28の断線を防ぎつつ、効率的に周波数調整を行う事であるため、以下のような形状の開口部を有するマスクを用いてエッチングを行うようにしても良い。
【0052】
すなわち、図7に示すように、励振電極26の中心を基準とする短軸70、長軸72により分けられる4つの象限のうち、引出電極28が接続された象限のみ、エネルギー閉じ込め領域26の形状に沿った曲線の内側がエッチング領域となるように開口を形成し、他の象限では、励振電極26の外形形状に倣った矩形状の開口を形成することで、マスク60dの開口部62dを形成するというものである。
【0053】
なお、引出電極28が接続された象限に対応する開口は、エネルギー閉じ込め領域26aの形状に沿った曲線上であって、引出電極28の接続位置と最も近接する個所(引出電極28とエネルギー閉じ込め領域26aとの距離がΔlとなる位置)に定められる接線の内側がエッチング領域となるように形成しても良い(図8参照)。
【0054】
次に、上記のような周波数調整方法により製造される圧電デバイス10の特徴について説明する。上記のような圧電デバイス10はいずれも、励振電極26における引出電極28の接続部近傍を避けるようにしてエネルギー閉じ込め領域26aをエッチングするようにしている。このため、上記実施形態に係る圧電デバイス10における圧電振動片20の励振電極26を拡大視すると、図9に示すような状態を見て取ることができる。
【0055】
すなわち、励振電極26における引出電極接続部28a近傍の電極膜の肉厚よりも、エネルギー閉じ込め領域26aの電極膜の肉厚の方が薄く、両者の間に段差を有するのである。
【0056】
次に、上述した本発明の圧電デバイスの周波数調整方法を有効に適応可能な圧電デバイスの形態についての変形例を、図面を参照しつつ説明する。なお、以下に示す変形例はいずれも、その殆どの構成を図1に示す圧電デバイスと同様としている。したがって、その機能を同一とする箇所には同一の符号を図面に付して、詳細な説明は省略するものとする。
【0057】
図10に示す第1の変形例は、圧電振動片としてプラノメサ型のものを採用した圧電デバイス10aである。プラノメサ型の圧電振動片20aとは、一方の主面において、周縁部22に対して振動部24を凸状に形成し、両者の間に段差部23を有する圧電振動片のことをいう。
【0058】
このような形状の圧電振動片20aを採用する場合には、平坦面をパッケージ開口側に配置すれば良いとも考えられるが、この場合、パッケージの底板(図10ではパッケージベース36)と、凸状の振動部24との接触が懸念される。また、凸状の振動部24とパッケージベース36との接触を避けるために、パッケージベース36を多段にし、底板に凹陥部を形成することもできるがこの場合、パッケージを製造するための工程数が多くなる。そして、パッケージの構造を変えず、実装用の導電性接着剤52の量を増やした場合には、導電性接着剤52の流れ出しによる短絡や、導電フィラーの間にバインダが入り込む事による断線、抵抗の増大などが生じ易くなると考えられる。
【0059】
よって、凸状の振動部24をパッケージの開口側へ向けて配置することで、パッケージの底板と振動部との接触や、パッケージ製造時の工程数の増加を避けることができ、導電性接着剤52の流れ出しによる短絡や、導電性接着剤52の構成に起因する断線等を抑制することができる。
【0060】
次に、本発明の圧電デバイスに係る第2の変形例について図11に示す。図11に示す第2の変形例は、圧電振動片として逆メサ型のものを採用した圧電デバイス10bである。逆メサ型の圧電振動片20bとは、両主面に形成された凹状陥部の間に形成された薄肉部を振動部24とし、振動部24の周囲に位置する周縁部22を厚肉とする圧電振動片のことをいう。
【0061】
このような構成の圧電振動片20bであっても、振動部24と周縁部22との間に介在される段差部23を跨ぐ引出電極28は、平坦面に形成される電極膜の膜厚よりも薄くなるため、上述したような周波数調整方法を採用することが好適である。
【0062】
また、本発明の圧電デバイスに係る第3の変形例として図12に示す圧電デバイス10cを挙げることができる。図12に示す圧電デバイス10cは、圧電振動片として、プラノ逆メサ型のものを採用した圧電デバイスである。プラノ逆メサ型の圧電振動片20cとは、薄肉の振動部24を形成する際に、一方の主面にのみ凹状陥部を形成し、他方の主面を平坦面として構成されたものである。
【0063】
このような構成の圧電振動片20cであっても、凹状陥部をパッケージ開口側へ向けて実装した場合には、エッチングが成される面に段差部23を備えることとなる。このため、上述したような周波数調整方法を採用することが好適である。
【0064】
なお、上記実施形態では、ドライエッチングの一種としてイオンミリングを挙げたが、イオンミリングに替えてプラズマCVMなどの技術を用いても良い。
また、上記実施形態では、圧電デバイスの例として圧電振動子を挙げて説明しているが、本発明の適用範囲としては、図13に示すような圧電発振器100等、パッケージ中に圧電振動片20以外の電子部品(図13中ではIC)を含む圧電デバイスも本発明の圧電デバイスに含まれる。
【0065】
さらに、上記実施形態ではいずれも、励振電極のエッチングは、圧電振動片をパッケージベースに収容した後に実施する旨記載した。しかしながら本発明に係る圧電デバイスの周波数調整方法は、バッチ処理によりウエハ上に形状形成された圧電振動片(例えば図14のような形態)に対して、折り取り前の工程で施すようにしても良い。このような形態の圧電振動片に対して個別的にエッチングを行ったとしても、周波数調整としての効果を得ることができるからである。
【符号の説明】
【0066】
10………圧電デバイス、20………圧電振動片、22………周縁部、23………段差部、24………振動部、26………励振電極、26a………エネルギー閉じ込め領域。28………引出電極、30………入出力電極、32………リッド、34………シームリング、36………パッケージベース、50………パッケージ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励振電極が形成された振動部と、入出力電極が形成された周縁部との間に段差部を備え、前記段差部を跨いで前記励振電極と前記入出力電極とを電気的に接続する引出電極が形成され、厚み滑り振動を主振動とする圧電振動片における前記励振電極をエッチングすることで成す周波数調整方法であって、
少なくとも、前記振動部に楕円形状に形成されるエネルギー閉じ込め領域の外形形状に沿う曲線のうち、前記励振電極の周縁部において前記引出電極が接続された部位に最も近接する部位に対して定められる接線よりも、前記エネルギー閉じ込め領域側に位置する励振電極をエッチング領域に定めると共に、少なくとも前記段差部上に形成された前記引出電極を非エッチング領域としてエッチングすることを特徴とする圧電デバイスの周波数調整方法。
【請求項2】
励振電極が形成された振動部と、入出力電極が形成された周縁部との間に段差部を備え、前記段差部を跨いで前記励振電極と前記入出力電極とを電気的に接続する引出電極が形成され、厚み滑り振動を主振動とする圧電振動片における前記励振電極をエッチングすることで成す周波数調整方法であって、
前記振動部に楕円形状に形成されるエネルギー閉じ込め領域の楕円形状を構成する短軸と長軸の交点を中心として、前記楕円形状の短軸の長さまたは長軸の長さを直径とする円の内側をエッチング領域に定めると共に、少なくとも前記段差部上に形成された前記引出電極を非エッチング領域としてエッチングすることを特徴とする圧電デバイスの周波数調整方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の圧電デバイスの周波数調整方法であって、
前記エッチングとしてイオンミリングを採用し、エッチング領域を定めるためのマスクにより、エッチング時に生ずる熱を吸収し、エッチング雰囲気中の温度上昇を抑制することを特徴とする圧電デバイスの周波数調整方法。
【請求項4】
パッケージ内に少なくとも、振動部と周縁部、および前記振動部と前記周縁部との間に形成された段差部とを有する圧電振動片を収容した圧電デバイスであって、
前記振動部に形成された励振電極のうち、少なくとも前記周縁部に形成された入出力電極と電気的な接続が図られる引出電極が接続された部位に形成された金属膜の膜厚よりも、前記振動部におけるエネルギー閉じ込め領域に形成された金属膜の膜厚を薄くしたことを特徴とする圧電デバイス。
【請求項5】
請求項4に記載の圧電デバイスであって、
前記金属膜の膜厚を薄くする部分を、
前記エネルギー閉じ込め領域を構成する楕円形状の短軸と長軸の交点を中心として、前記楕円形状の短軸の長さまたは長軸の長さを直径として描かれる円の内側としたことを特徴とする圧電デバイス。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の圧電デバイスであって、
前記励振電極は矩形とし、前記引出電極は前記励振電極の角部に接続したことを特徴とする圧電デバイス。
【請求項7】
請求項4乃至請求項6のいずれかに記載の圧電デバイスであって、
前記圧電振動片を、メサ型、プラノメサ型、逆メサ型、プラノ逆メサ型のいずれかの圧電振動片としたことを特徴とする圧電デバイス。
【請求項8】
圧電デバイスのパッケージに搭載された、振動部と周縁部との間に段差部を有し、厚み滑り振動を主振動とする圧電振動片の振動部に形成された励振電極をイオンミリングする際に用いるマスクであって、
金属部材により構成し、
前記励振電極上において前記厚み滑り振動が閉じ込められるエネルギー閉じ込め領域の楕円形状を構成する短軸と長軸の交点を中心として、前記楕円形状の短軸の長さまたは長軸の長さを直径とする円形開口部を機械加工により形成したことを特徴とする周波数調整用マスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−34217(P2013−34217A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−202826(P2012−202826)
【出願日】平成24年9月14日(2012.9.14)
【分割の表示】特願2007−204440(P2007−204440)の分割
【原出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】