振動ミキサーを用いたエマルションの製造方法およびそれから得られる水性塗料組成物
【課題】効率のよいエマルション製造方法を提供すること。
【解決手段】振動ミキサーを用いることによって、塩基性基または酸性基を含んだ樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とからエマルションを製造する方法であって、(i)樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを含んだ原料をミキサーの流入口から供給して混合物Aを得る工程、(ii)ミキサーの第1供給口から中和剤水溶液を供給して、分散相としての水相および有機溶剤と中和剤により中和された樹脂成分と硬化剤とを含んだ連続相としての油相の2相から成る混合物Bを得る工程、ならびに(iii)ミキサーの第2供給口から水を供給して、転相を行ってエマルションを形成する工程を含み、原料の粘度が、400〜5000mPa・s、混合物Bの粘度が、10000〜50000mPa・s、また、エマルションの粘度が5〜300mPa・sであることを特徴とする製造方法。
【解決手段】振動ミキサーを用いることによって、塩基性基または酸性基を含んだ樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とからエマルションを製造する方法であって、(i)樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを含んだ原料をミキサーの流入口から供給して混合物Aを得る工程、(ii)ミキサーの第1供給口から中和剤水溶液を供給して、分散相としての水相および有機溶剤と中和剤により中和された樹脂成分と硬化剤とを含んだ連続相としての油相の2相から成る混合物Bを得る工程、ならびに(iii)ミキサーの第2供給口から水を供給して、転相を行ってエマルションを形成する工程を含み、原料の粘度が、400〜5000mPa・s、混合物Bの粘度が、10000〜50000mPa・s、また、エマルションの粘度が5〜300mPa・sであることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルションの製造方法に関する。また、本発明は、かかる製造方法で得られたエマルションを含んで成る水性塗料組成物(例えば電着塗料)にも関する。更には、かかる水性塗料組成物を用いた塗膜形成方法および塗装物にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電着塗料等の水性塗料に用いられるエマルション(またはエマルジョンもしくは乳化液)は、反応釜等の容器に原料を入れて乳化させるバッチ式で製造していた。具体的には、まず、原料となる樹脂成分、硬化剤および有機溶剤(必要に応じて種々の添加剤)を反応釜に供給した後、それらを攪拌しながら中和剤水溶液を加え、油相の連続相と水相の分散相とから成る混合物を形成し、次いで、その混合物に水を加えて連続相を油相から水相へと変える転相を引き起こすことによって、エマルションを製造していた。
【0003】
しかしながら、このような従来の製造法はバッチ式であるために、エマルションの必要量に応じた規模の製造設備が必要であり、省スペース化の点で決して好ましいものではなかった。
【0004】
例えば生産性の観点からエマルションを連続式で製造することが考えられるものの、電着塗料等の水性塗料に用いられるエマルションの製造では、上述のような転相現象に起因して製造時における原料の粘度変化が大きく、製造装置の運転が容易ではないので、連続式ミキサーなど攪拌機の使用は考えられていなかった。例えば、樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを含んで成る原料の初期の粘度は約2500〜4000mPa・s(70℃温度条件下)であり、転相直前における混合物の粘度は約18000〜25000mPa・s(40℃温度条件下)であり、そして、転相後のエマルションの粘度は約10〜50mPa・s(25℃温度条件下)である。このように製造時の粘度変化が大きいために、ミキサーの操作条件が複雑となるだけでなく、転相前に非常に高くなる原料粘度に起因して、攪拌翼などを駆動させるモーターに大きな負荷をかけることになり、結果的にミキサーが故障してしまう可能性があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題は、電着塗料等の水性塗料に用いられるエマルションを生産性および省スペース化の点で効率よく製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、省スペースとなるにも拘わらず生産性が驚くべきほどに向上したエマルション製造法の発明を完成させた。
上記課題を解決する本発明は、
有機溶剤に溶解可能な塩基性基または酸性基を含んで成る樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とからエマルションを製造する方法であって、
(i)樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを含んで成る原料から混合物Aを得る工程、
(ii)塩基性基または酸性基を中和する中和剤水溶液を混合物Aに加え、分散相としての水相および有機溶剤と中和剤により中和された樹脂成分と硬化剤とを含んで成る連続相としての油相の2相から成る混合物Bを得る工程、ならびに、
(iii)水を混合物Bに加え、連続相を油相から水相へと変える転相を行ってエマルションを形成する工程
を含んで成り、
原料が、70℃の温度条件下、400〜5000mPa・sの粘度を有し、混合物Bが、40℃の温度条件下、10000〜50000mPa・sの粘度を有し、また、エマルションが、25℃の温度条件下、5〜300mPa・sの粘度を有しているエマルション製造方法において、
(a)流入口102および流出口104を端部近傍に備え、内部にて流体が流通するケーシング110、
(b)流体が流通できる開口部120を備え、ケーシング110内部を複数のセクション(110a,110b,110c,・・・)に分ける仕切板122、ならびに
(c)長尺の軸部130とその周囲に設けられた螺旋形状の羽根部132とを備えた攪拌体134であって、ケーシング110の軸方向に沿うように仕切板122の開口部120を通してケーシング110内に収納された攪拌体134
を有して成り、攪拌体134がその軸方向に振動することによってケーシング110内の流体が混合されるミキサー100(以下「振動ミキサー」ともいう)を用いることを特徴としており、
工程(i)では、原料を流入口102からケーシング110内に導入して、混合物Aを得ており、
工程(ii)では、ケーシング110に設けられた第1供給口106(好ましくは流入口102と流出口104との間に設けられている第1供給口106)を介して中和剤水溶液をケーシング110内に導入し、混合物Bを得ており、また
工程(iii)では、第1供給口106と流出口104との間の位置となるケーシング110に設けられた第2供給口108を介して水をケーシング110内に導入し、転相を実施し、流出口104からエマルションが得られることになるエマルション製造方法である。
【0007】
本発明において「塩基性基または酸性基を有して成る樹脂成分」とは、中和することによって水和可能な樹脂成分を実質的に意味している。また、本発明において「エマルション」とは、一般的に連続相としての水性媒体に対して油相が分散相して存在する乳濁液または乳化液を意味している。本発明の製造方法で得られるエマルションからは水性塗料組成物、特に電着塗料を得ることができる。
【0008】
また、本発明における「粘度」とは、各々所定の温度条件の下でブルックフィールド型粘度計により求めた粘度を意味している。
【0009】
本発明のエマルションの製造方法は、原料の粘度変化が大きいにも拘わらず、振動ミキサーを用いることによって、エマルションを連続式で製造できることを特徴としている。より具体的にいうと、製造時における供給原料の粘度が図1で模式的に示すように中粘度から高粘度を経て低粘度へと大きく変化し、その点で運転操作が容易ではないのにも拘わらず、連続式でエマルションを製造できることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法で用いられる振動ミキサーは、原料の滞留時間が短いのでエマルションを短時間で製造できるだけでなく、ミキサーのサイズが比較的小さいのでミキサーの設置スペースおよび設置面積を小さくできる。つまり、本発明の製造方法は、生産性および省スペース化の点で効率のよいエマルション製造法である。
【0011】
また、本発明の製造方法では、振動ミキサーのケーシングの外側から温度調整を容易に行うことができ、エマルション製造時の原料を容易に冷却することができるので、乳化効率が良くなり、安定性の高いエマルションを得ることができる。ここでいう「安定性の高いエマルション」とは、従来の製造方法で得られるエマルションと比べて、時間的に安定しており貯蔵安定性に優れるエマルションを意味している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の説明に先立って、まず、本発明の製造方法で用いる振動ミキサーについて説明する。
【0013】
図2に本発明の製造方法で用いる振動ミキサー100の一部断面模式図を示すと共に、図3に振動ミキサー100の分解斜視図を示す。振動ミキサー100は、
(a)流入口102および流出口104を備え、内部にて流体が流通できるケーシング110、
(b)流体が流通できる開口部120を備え、ケーシング110の内部を複数のセクション(110a,110b,110c,・・・・)に分ける仕切板122、ならびに
(c)長尺の軸部130とその周囲に設けられた螺旋形状の羽根部132とを備えた攪拌体134であって、ケーシング110の軸方向に沿って仕切板122の開口部120を通るようにケーシング110内に収納された攪拌体134
を有して成り、
攪拌体134がその軸方向に上下に振動することによってケーシング110内の流体の混合が促進されるミキサーである。
【0014】
図3(a)に示すように、ケーシング110は、その各バレル(115a,115b,115c,・・)が仕切板122と交互に配置されるように設けられることが好ましい。ケーシング110とバレル(115a,115b,115c,・・・)との間には、流体の漏れを防止すべくシール材(例えばシリコーン材料から成るシール材)を配置することが好ましい。
【0015】
図2に示すように、混合すべき供給原料は、ケーシング110の下端部の近傍に設けられた流入口102から適当なポンプによって連続的にケーシング110内に導入される。ケーシング110内に導入された供給原料は、その供給圧に起因してケーシング内を上方へと下流側に向かって流れるが、その際、攪拌体134の振動による混合に付される。最終的には、ケーシング110の上端部の近傍に設けられた流出口104から押し出されるように混合物が連続的に排出されてくる。
【0016】
このような振動ミキサー100においては、攪拌体134の螺旋形状の羽根部132が上下に往復運動することによって、混合すべき流体に乱流が生じて混合が行われる。特に、混合すべき流体が約10000〜50000mPa.sの粘度(40℃温度条件下)を有するような高粘性流体の場合では、羽根部132が上下に往復運動することによって、仕切板122で区切られているセクション(110a,110b,110c,・・・・)内で流体(または「流体要素」)の「折り畳み」と「引き伸ばし」が繰り返し行われて局所的な混合効果が生じると共に、流体が仕切板122の開口部120を通過するに際して大域的な混合効果が生じることになる。従って、流入口102から流出口104へと流体がケーシング内を通過するに際して流体が混合されることになる。
【0017】
混合効果をより高める目的で、螺旋形状の羽根部132に穴を設けてもよい。この場合、攪拌体134が振動すると、流体の一部が穴を通過(流通)することになり、混合が更に促進されることになる。同様な目的で、仕切板122にも穴を設けてもよい。
【0018】
ケーシング110またはその各バレル(115a,115b,115c,・・)は、円筒形状であることが好ましい。また、ケーシング110またはその各バレル(115a,115b,115c,・・)の材質は特に限定されるものではなく、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス鋼または耐食性合金(例えば、ハステロイ、インコネル、ステライト)などの金属材料であってよい。
【0019】
仕切板122は、ケーシング110の内部を複数のセクション(110a,110b,110c,・・・・)に分けるものである。仕切板122の中央には、攪拌体134の軸部130を通すと共に、ミキサー運転時に流体を流通させる開口部120が設けられている。開口部120の形状(横断方向の断面形状)は、円形が好ましい。なお、仕切板122の材質は特に限定されるものではなく、ケーシング110の材質に関して例示したような金属材料であってよい。
【0020】
攪拌体134は、長尺の軸部130とその周囲に設けられた螺旋形状の羽根部132とを備えており、ケーシング110の軸方向に沿って仕切板122の開口部120を通るようにケーシング110内に収納されている。この攪拌体134は、図2に示すように、上端部分が振動駆動部136に取り付けられており、軸方向に上下に往復運動できるようになっている。本発明の製造に際して、攪拌体134は、好ましくは5〜30s−1(ストローク/秒)、より好ましくは10〜30s−1(ストローク/秒)の振動数、および、例えば5〜40mmの振幅でもって振動することが好ましい。上述したように、螺旋形状の羽根部132には穴を設けて、混合効果をより高めてもよい。この場合、穴は、図4に示すように、羽根部132の外側寄りの穴133aと内側寄りの穴133bとの2種類設けることが好ましく、外側寄りの穴133aは略半円形状にすると共に、内側寄りの穴133bは円形状にすることが更に好ましい。このように穴を設けることによって、振動ミキサー100の混合効果がより促進されることになる。尚、羽根部132は、螺旋形状が好ましいものの、必ずしもその形状に限定される必要はなく、振動することによって流体の混合を促進するものであれば、螺旋形状から適当に変形させた形状であってもよい。また、攪拌体134の材質は特に限定されるものではなく、例えばケーシング110および仕切板122の材質に関して例示したような金属材料であってよい。
【0021】
本発明の製造方法では、原料を振動ミキサー100に連続的に導入した後、中和剤水溶液および水を連続的に供給する。従って、本発明の製造方法で用いる振動ミキサーは、図2に示すように、中和剤水溶液を供給するための第1供給口106をケーシング110に備えていると共に、水を供給するための第2供給口108を同じくケーシング110に備えている。水の供給は、中和剤水溶液の供給よりも後に行うので、第2供給口108は第1供給口106よりも下流側に設けられている。ここで、第1供給口106は、流入口102と流出口104との間の位置となるケーシング110に設けられていることが好ましいものの、特にそれに限定される必要はなく、流入口102が設けられているケーシング100の端部領域に設けてもよい。同様に、第2供給口108は、第1供給口106と流出口104との間に設けられているが、特にそれに限定される必要はなく、第1供給口106が設けられているケーシング110の胴部領域または流出口104が設けられているケーシング110の端部領域に設けてもよい。
【0022】
本発明の製造方法で用いられる振動ミキサー100は、非常にコンパクトなミキサーであることを特徴の1つとする。具体的には、振動ミキサーのサイズ(体積)は、好ましくは0.1〜10m3、より好ましくは0.1〜8m3であって、必要な設置面積は、好ましくは0.2〜3m2、より好ましくは0.2〜1.5m2である。
【0023】
ある好ましい態様では、本発明の製造方法で用いる振動ミキサー100は、市販されている振動ミキサーであってよく、例えば、冷化工業株式会社より販売されているVIBRO MIXER(登録商標)である。VIBRO MIXER(登録商標)の中でも、特に型式M35の振動ミキサーが好ましい。このVBRO MIXER型式M35は非常にコンパクトであって、ミキサー・サイズが約0.12m3であり、その必要な設置面積が0.25m2である。尚、市販の振動ミキサーを用いる場合には、そのまま用いてよいものの、適宜改良して用いてもよい。例えば、第1供給口106および/または第2供給口108が設けられていない場合には、それらが備えられるように改良してよい。
【0024】
次に、図2に示す振動ミキサー100を参照して、本発明のエマルションの製造方法を詳細に説明する。図5には本発明に係る製造フローを示す。
【0025】
まず、工程(i)では、塩基性基または酸性基を有して成る樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを含んで成る原料(「供給原料」ともいう)を振動ミキサー100の流入口102からケーシング110内に連続的に導入して、樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とから成る混合物Aを得る。原料のケーシング内への導入には、例えばリニアポンプ、ギアポンプまたはチューブポンプ等の送液ポンプを用いることが好ましい。原料の供給量は、好ましくは500〜1500g/min、より好ましくは750〜1200g/minである。また、原料は、70℃の温度条件下、400〜5000mPa・s、好ましくは1000〜5000mPa・s、より好ましくは2000〜4000mPa・sの粘度を有している。
【0026】
樹脂成分および/または硬化剤は、有機溶剤に予め混ぜられた形態で用いてもよい。つまり、樹脂成分および/または硬化剤の製造過程・調製過程で、有機溶剤を予め含んだ形態で樹脂成分および/または硬化剤が得られる場合には、有機溶剤を含んだ形態のまま樹脂成分および/または硬化剤を用いることができる。
【0027】
「塩基性基または酸性基を有して成る樹脂成分」は、中和することによって水和可能な官能基を有する樹脂であればいずれの樹脂であってもかまわない。例えば樹脂としては、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、カーボネート樹脂およびポリブタジエン樹脂から成る群から選択される少なくとも1種以上の樹脂の構造中にアミノ基等の塩基性基またはカルボキシル基等の酸性基を含んで成るものを挙げることができる。その中でも、塩基性基を有する樹脂としてはアクリル樹脂またはエポキシ樹脂であることが好ましく、また、酸性基を有する樹脂としてはアクリル樹脂またはポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0028】
硬化剤(または架橋剤)は、上記の樹脂成分を硬化(または架橋)させ得るものであれば、いずれの種類の硬化剤であってもかまわない。なお、硬化(または架橋)のために必要な樹脂成分の有する反応性官能基は、上記の塩基性基または酸性基であってもかまわない。例えば、樹脂成分がカルボキシル基を含んで成る場合、硬化剤は、カルボジイミド化合物およびエポキシ化合物のいずれか1種を含んでいる硬化剤であることが好ましい。一方、樹脂成分が水酸基を含んで成る場合、硬化剤は、ブロックイソシアネート化合物、メラミン樹脂およびベンゾグアナミン樹脂から成る群から選択される少なくとも1種以上の硬化剤であることが好ましい。
【0029】
有機溶剤は、樹脂成分および硬化剤を分散または溶解させるものであれば、いずれの種類の溶剤であってもかまわない。例えば、有機溶剤は、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロオクタン、ノナンもしくはデカン等の炭化水素化合物;エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、シクロペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、シクロヘプタノール、オクタノールもしくはシクロオクタノール等のアルコール系化合物;アセトン、メチルエチルケトンもしくはメチルイソブチルケトン等のケトン系化合物;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、イソアミルセロソルブもしくはヘキシルセロソルブ等のセロソルブ系化合物;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンもしくはキシレン等の芳香族系化合物;または、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルもしくは酢酸ペンチル等のエステル系化合物を挙げることができる。
【0030】
工程(ii)では、ケーシング110に設けられた第1供給口106を介して、塩基性基または酸性基を中和する中和剤水溶液をケーシング110内に供給する。これによって、工程(i)で得られた混合物Aに対して中和剤水溶液が加えられることになり、混合に付されることによって、「分散相としての水相」および「有機溶剤と中和剤により中和された樹脂成分と硬化剤とを含んで成る連続相としての油相」の2相から成る混合物Bが得られる。なお、分散相としての水相には、有機溶剤、樹脂成分および/または硬化剤が部分的に含まれてもよい。同様に、連続相としての油相は、あくまでも主として有機溶剤と樹脂成分と硬化剤とを含んでいればよく、中和剤水溶液の成分が部分的に油相に含まれてもよい。また、分散相は連続相中に必ずしも均一に分散している必要はない。
【0031】
ここで、本明細書において「中和剤水溶液」とは、樹脂成分が塩基性基を含んで成る場合には、酸性化合物を含んだ水溶液を意味しており、樹脂成分が酸性基を含んで成る場合には、塩基性化合物を含んだ水溶液を意味している。酸性化合物としては、例えば、酢酸、蟻酸、乳酸およびクエン酸等を挙げることができる。塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、ジメチルアミノエタノールおよび水酸化ナトリウム等を挙げることができる。
【0032】
中和剤水溶液をケーシング110内に供給するには、例えば、リニアポンプ、ギアポンプまたはチューブポンプ等の送液ポンプを用いて連続的に供給すること好ましい。中和剤水溶液の供給量は、好ましくは100〜1200g/min、より好ましくは250〜900g/minである。また、中和剤水溶液は、25℃の温度条件下、好ましくは1〜300mPa・sの粘度、より好ましくは3〜150mPa・sの粘度を有している。
【0033】
得られる混合物Bの粘度および温度は経時的に連続に変化しており、特に、得られる混合物Bの粘度は工程(ii)において次第に高くなる。例えば、混合物Bの粘度は、次に行う工程(iii)の直前(即ち、水供給の開始時点)では、10000〜50000mPa・sの粘度(40℃温度条件下)、好ましくは15000〜50000mPa・sの粘度(40℃温度条件下)、より好ましくは20000〜50000mPa・sの粘度(40℃温度条件下)となる。
【0034】
工程(iii)では、ケーシング110に設けられた第2供給口108を介して、ケーシング110の内部に水を供給する。これによって、混合物Bに対して水が加えられることになり、混合に付されることによって、混合物Bの連続相が油相から水相へと変わる転相が生じ、O/Wエマルションが得られることになる。
【0035】
工程(iii)で加えられる水は、一般的な水性塗料の水性媒体に用いられるものであれば特に制限はない。但し、得られるエマルションを電着塗料に用いる場合、工程(iii)で加えられる水が脱イオン水であることが好ましい。
【0036】
水をケーシング110内に供給するには、例えば、リニアポンプ、ギアポンプまたはチューブポンプ等の送液ポンプを用いて連続的に供給すること好ましい。水の供給量は、好ましくは100〜2000g/min、より好ましくは300〜1000g/minである。
【0037】
得られるエマルションは、振動ミキサー100の流出口104から押し出されるようにして連続的に排出される。このように流出口104から得られるエマルションの量(即ち、エマルションの生産量)は、好ましくは700〜5000g/min、より好ましくは1000〜3500g/minである。
【0038】
ここで、得られるエマルションは、中和剤水溶液および加えられた水を含んで成る水相を連続相として含む一方、樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを含んで成る油相を分散相として含むことになる。尚、混合物Bと同様、連続相を構成する成分が分散相に部分的に含まれていてもよく、また、分散相を構成する成分が連続相に部分的に含まれていてもよい。エマルションにおいては、分散相が連続相中に必ずしも均一に分散している必要はない。
【0039】
工程(iii)でも工程(ii)と同様、形成されるエマルションの粘度および温度が経時的に連続に変化しており、特に、エマルションの粘度は工程(iii)の転相に伴って次第に低くなる。例えば、流出口104から排出された時点におけるエマルションは、25℃の温度条件下、5〜300mPa・sの粘度、好ましくは10〜300mPa・s、より好ましくは10〜100mPa・sの粘度を有している。また、工程(iii)で得られるエマルションの粒子径は、好ましくは40〜150nmであり、より好ましくは50〜120nmとなっており、従来の製造法で得られるエマルションよりも小さい粒子径となっている。そのため、得られるエマルションは、従来の製造法のエマルションと比べて貯蔵安定性に優れている。本明細書において「エマルションの粒子径」とは、エマルション中に分散する油相成分の粒子の直径であって、レーザー光散乱法により求めた体積平均粒子径である。
【0040】
以上、図2に示すミキサーおよび図5に示す製造フローに基づいて本発明の製造方法を説明してきた。本発明の製造方法は、生産性の点で非常に効率が良いという点で有利な効果を奏する。具体的には、供給原料のミキサー滞留時間は、好ましくは3〜25s、より好ましくは3〜6sと非常に短いにも拘わらず、エマルション生産量は、好ましくは40〜300kg/hr、より好ましくは50〜200kg/hr、更に好ましくは90〜160kg/hrと大きいものである。装置の有効体積(m3)当たりのミキサー処理量は、好ましくは約170〜約1200ton/(hr・m3)、より好ましくは約340〜約800ton/(hr・m3)、更に好ましくは390〜620ton/(hr・m3)である。ここで「有効体積」とは、混合すべき流体が流れることになる振動ミキサー内の体積であって、ケーシング内の体積から攪拌体および仕切板などの挿入パーツの体積を除いて算出される体積を実質的に意味している。
【0041】
ある好適な実施態様では、工程(i),工程(ii)および/または工程(iii)において、添加剤を加えてもよい。添加剤としては、一般的な水性塗料の製造に用いられる添加剤が好ましく、例えば、表面調整剤、消泡剤、可塑剤および粘度調整剤から成る群から選択される少なくとも1種以上の添加剤を挙げることができる。
【0042】
また、別の好適な実施態様では、原料、混合物Aおよび混合物Bにて硬化反応が生じないように温度調整することが好ましい。つまり、工程(i)〜工程(iii)において、樹脂成分と硬化剤との硬化反応が生じないように温度調整することが好ましい。このように温度調整を必要とする理由は、硬化反応が一部生じたエマルションを用いた塗料では塗膜形成時のフロー性が不充分となり、塗膜外観が低下するからである。原料、混合物Aおよび混合物Bの温度は、好ましくは50〜110℃、より好ましくは60〜100℃となるように温度調整する。例えば、樹脂成分としてエポキシ樹脂、硬化剤としてブロックイソシアネートを用いる場合では、原料、混合物Aおよび混合物Bの温度を70〜90℃に保持することが好ましい。
【0043】
本発明では、振動ミキサーのケーシングに温度調整ジャケットを設けて温度調整を行うことができる。この場合、ケーシングの全体に温度調整ジャケットを設けてもよいが、ケーシングを構成する各バレルごとに温度調整ジャケットを部分的に設けてもよい。このように、温度調整できるので、本発明の製造方法で得られるエマルションの粒子径を、従来の製造法で得られるエマルションよりも小さい粒子径にすることができる。
【0044】
更に別の好適な実施態様では、工程(i)と工程(ii)とを実質的に同時に開始してもよい。つまり、樹脂成分と硬化剤と有機溶剤と中和剤水溶液とから混合物Bを直接形成してもよい。この場合では、図6に示すような振動ミキサー100を用いることが好ましい。この振動ミキサー100では、図示するように振動ミキサー100の最も上流側のバレル115aに流入口102aと第1供給口106aとが設けられていると共に、その下流側のバレル115bに第2供給口106aが設けられている。流入口102aを介して、樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを含んで成る原料が振動ミキサー100に供給されると共に、供給口106aを介して中和剤水溶液が供給される。図6に示す振動ミキサー100では、第2供給口108aがバレル115bに設けられているが、混合物Bを得るための混合が充分に行われるように、より下流側のバレル115cに第2供給口108aを設けた振動ミキサーを用いてもよい(図7参照)。更に、図6に示す振動ミキサーを用いた場合では、原料(樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを含んで成る原料)と中和剤水溶液とが別々の流入口ないし供給口からそれぞれ供給される態様であるが、図8に示すように、原料と中和剤水溶液とを1つの流入口102bから供給する態様であってもよい。かかる態様は、送液ポンプの数を減らせると共に、操作がより簡易となる点で好ましい。
【0045】
本発明の製造方法で得られるエマルションからは、水性塗料組成物を得ることができる。具体的には、得られたエマルションに、顔料ペースト、表面調整剤および粘度調整剤等の各種添加剤、ならびに、必要に応じてその他の水性樹脂成分等、当業者によってよく知られている塗料に用いられる各種成分を含むことによって、水性塗料組成物が得られる。このような水性塗料組成物はスプレー塗装やハケ塗り用の塗料だけでなく、電着塗料として用いることができる。
【0046】
そのように得られた水性塗料組成物は、自動車のボディー、ホイールまたは二輪車のフレーム等の基材に対して、塗装することによって塗膜を形成することができ、基材に塗膜を有する塗装物を得ることができる。塗装方法としては特に限定されず、スプレー塗装、ハケ塗りまたは電着塗装等を挙げることができる。
【0047】
以下では、本発明の製造方法を更に詳細に説明するために、図9を参照して、振動ミキサーを用いた水性塗料用エマルションの連続的な製造方法について説明する。図9に示す振動ミキサーでは、工程(i)〜(iii)が実施されるセクションI〜IIIを模式的に示している。このセクションI〜IIIは、一般的には、振動ミキサー内に形成された各セクション(例えば図2に示すセクション110a,110b,110c)に相当し得るものの、各工程を説明すべく便宜的に用いるものであるので、実際の振動ミキサーでは図示するようなセクションが存在しない場合もあることに留意されたい。
【0048】
まず、振動ミキサー100の流入口102に、有機溶剤1に溶解している樹脂成分2、硬化剤3および添加剤4をポンプ150で連続的に供給する。これにより、有機溶剤1と樹脂成分2と硬化剤3と添加剤4とが攪拌体134の振動に付されてセクションIにおいて混合が行われて、混合物Aが形成される。かかる混合と相俟って、供給圧によって、原料成分(有機溶剤1,樹脂成分2,硬化剤3および添加剤4)がA方向(図9にて矢印で図示する方向)へと送られる。従って、セクションIでは、原料成分が下流側へと送られつつ混合物Aが形成されることになる。
【0049】
次いで、セクションIIまで混合物Aが送られると、混合物Aに対して中和剤水溶液5が第1供給口106を介して加えられ、混合物Bが形成される。このセクションIIでも、攪拌体134の振動によって、混合物Aと中和剤水溶液5とが混合されるので、下流側へと送られつつ混合物Bが形成されることになる。
【0050】
次いで、混合物BがセクションIIIへと送られてくると、第2供給口108を介して、脱イオン水などの水6が混合物Bに加えられることになる。これによって、混合物Bにおける連続相が油相から水相へと変化し(即ち「転相」が生じる)、エマルション7が形成されることになる。このセクションIIIでも、攪拌体134の振動によって、混合物Bと水6とが混合されるので、より下流側へと送られつつ転相が生じることになる。最終的には流出口104からエマルション7が連続的に排出されてくる。
【0051】
第2供給口108から供給される水6は、セクションIIIで転相が生じる量さえあれば充分である。従って、得られるエマルション7の固形分濃度は、ミキサー100から排出された後で必要に応じて調整してもよい。
【0052】
また、必要に応じて、得られたエマルション7からゴミや凝集物等を取り除くために、振動ミキサー100の下流側に濾過器を設けてもよい。この場合、例えば珪藻土を用いた濾過器を用いることができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0054】
例えば、振動ミキサーのケーシングを構成するバレルおよび攪拌体の羽根部は、図2に示すような3段である必要は必ずしもなく、それよりも少ない段数又は多い段数であってもよい。例えば図10(a),(b)に示すように、バレルおよび羽根部を2段積み重ねて構成した振動ミキサーであってよい。同様に、例えば図11に示すように、バレルおよび羽根部を5段積み重ねて構成した振動ミキサーであってもよい。
【実施例】
【0055】
実施例1および実施例2は、振動ミキサーを用いて、本発明の製造方法を実施した例であり、比較例は、電着塗料用エマルションの従来の製造法を実施した例である。
【0056】
まず、実施例1,2および比較例に先立って、以下の前処理1〜3を実施した。
(前処理1:樹脂成分の調製)
樹脂成分としてアミン変性エポキシ樹脂を調製した。まず、撹拌機、窒素導入管、冷却管および温度計を備えた反応容器に、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂1000.0部(ダウケミカル製 DER−331J)、ビスフェノールA351.7部、オクチル酸191.5部およびメチルイソブチルケトン(以下MIBKと略す)151.0部を仕込んで100℃に昇温した。撹拌して均一な混合物を得た後、ベンジルジメチルアミン1.65部を添加し、エポキシ当量が1700になるまで120℃で反応させた。引き続いて、MIBK25部を加えて混合物を冷却した後、ジエチレントリアミンのメチルイソブチルジケチミン73%MIBK溶液206.8部およびN−メチルエタノールアミン21.4部を加えた。次いで、混合物を115℃で1時間保持した。以上の操作によって、アミン変性エポキシ樹脂1949.0部(固形分88%)を得た。
【0057】
(前処理2:硬化剤の調製)
硬化剤としてポリウレタン架橋剤を調製した。まず、攪拌機、窒素導入管、冷却管および温度計を備えた反応容器にポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート132部(日本ポリウレタン製 MR−200)を仕込み、次いで、MIBK73.5部を反応容器に加えて希釈した。引き続いて、ジブチル錫ジラウレート0.1部を加え、得られた混合物を80℃に昇温した。その後、混合物が90℃を超えないように制御しながら、ブチルジグリコール162部を徐々に加えた。IRスペクトル測定でイソシアネート基の吸収が実質上消失することを確認できるまで混合物を80℃に保持した。以上の操作によって、ポリウレタン架橋剤367.5部(固形分80%)を得た。
【0058】
(前処理3:顔料ペーストの調製)
製造されるエマルションに加えられる顔料ペーストを調製した。エポキシ系4級アンモニウム塩型顔料分散樹脂(固形分50%)120.0部、50%乳酸4.2部、カーボンブラック2.0部、カオリン100.0部、二酸化チタン80.0部、リンモリブデン酸アルミニウム18.0部およびイオン交換水(調製する顔料ペーストの固形分が56%となる量のイオン交換水)をサンドグラインドミルに仕込み、粒子径が10μm以下となる分散状態が得られるまで処理することによって、顔料ペーストを得た。
【0059】
《実施例1》
振動ミキサーとして冷化工業株式会社製のVIBRO MIXER(型式:M35)を用いた。実施例1は、図7に模式的に示す振動ミキサーを参照にして説明する。振動ミキサーの運転条件は次の通りである。
・攪拌体の振動数: 30s−1(30ストローク/sec)
・ミキサー有効体積:240cc
【0060】
まず、前処理1で得られたアミン変性エポキシ樹脂10.71kgと前処理2で得られたポリウレタン架橋剤5.05kgとを、攪拌機を備えた容器に仕込み、80℃で30分攪拌することによって樹脂液Aを得た。得られた樹脂液Aの粘度は、80℃の温度条件下、1500mPa・sであった。また、別の容器では、90%工業用酢酸0.296kgとイオン交換水6.38kgとを仕込み、25℃で10分攪拌することによって酸性液Bを得た。得られた酸性液Bの粘度は、25℃の温度条件下、3mPa・sであった。
【0061】
次いで、リニアポンプ(冷化工業製)を用いて、788.0g/minの割合で樹脂液Aを投入口102aから振動ミキサーに連続的に供給すると共に、333.8g/minの割合で酸性液Bを投入口106aから振動ミキサーに連続的に供給した。これによって、バレル115aおよび115b内においてW/Oエマルションを形成した。
【0062】
次いで、リニアポンプ(冷化工業製)を用いて、バレル115cに設けられた供給口108aよりイオン交換水を443.5g/minの割合で連続的に供給して転相を実施した。この転相の直前時には、W/Oエマルションは20300mPa・s(40℃温度条件下)となるまで粘度が増加していた。転相によって、W/Oエマルションの連続相が油相から水相へと変わり、O/Wエマルションが得られた。得られたO/Wエマルションの粘度は、15mPa・s(25℃温度条件下)を有するものであった。
【0063】
振動ミキサーを運転し始めてから約5秒後には流出口104よりO/Wエマルションが流出し始めた。振動ミキサーを約20分間連続運転すると、31.3kgのO/Wエマルション(固形分43%)を得ることができた。
【0064】
実施例1で得られた結果を以下に示す。
・滞留時間: 約5秒
・エマルション生産量 : 約94kg/hr
・ミキサー有効体積当たりの処理量: 392ton/(hr・m3)
・エマルションの粒子径: 112nm
【0065】
最終的には、得られたエマルションを脱溶剤処理し、固形分濃度を41%に調整して得られた調整物850gを、イオン交換水1386gおよび前処理3で得られた顔料ペースト264gと混合することによって、カチオン型電着塗料2500gを得た。
【0066】
《実施例2》
実施例2では、実施例1で用いた各種原料の量および供給速度を変えて本発明の製造方法を実施した。振動ミキサーは、実施例1と同様、冷化工業株式会社製のVIBRO MIXER(型式:M35)であり、振動ミキサーの運転条件も以下の通り実施例1と同じである。
・攪拌体の振動数: 30s−1(30ストローク/sec)
・ミキサー有効体積:240cc
【0067】
まず、前処理1で得られたアミン変性エポキシ樹脂16.81kgと前処理2で得られたポリウレタン架橋剤7.93kgとを、攪拌機を備えた容器に仕込み、80℃で30分攪拌することによって樹脂液Aを得た。得られた樹脂液Aの粘度は、80℃の温度条件下、1500mPa・sであった。また、別の容器では、90%工業用酢酸0.465kgとイオン交換水10.02kgとを仕込み、25℃で10分攪拌することによって酸性液Bを得た。得られた酸性液Bの粘度は、25℃の温度条件下、3mPa・sであった。
【0068】
次いで、リニアポンプ(冷化工業製)を用いて、1237.0g/minの割合で樹脂液Aを投入口102aから振動ミキサーに連続的に供給すると共に、524.3g/minの割合で酸性液Bを投入口106aから振動ミキサーに連続的に供給した。これによって、バレル115aおよび115b内においてW/Oエマルションを形成した。
【0069】
次いで、リニアポンプ(冷化工業製)を用いて、バレル115cに設けられた供給口108aよりイオン交換水を696.3g/minの割合で連続的に供給して転相を実施した。この転相の直前時には、W/Oエマルションは20000mPa・s(40℃温度条件下)となるまで粘度が増加していた。転相によって、W/Oエマルションの連続相が油相から水相へと変わり、O/Wエマルションが得られた。得られたO/Wエマルションの粘度は、15mPa・s(25℃温度条件下)を有するものであった。
【0070】
振動ミキサーを運転し始めてから3.51秒後には流出口104よりO/Wエマルションが流出し始めた。振動ミキサーを約20分間連続運転すると、49.1kgのO/Wエマルション(固形分43%)を得ることができた。
【0071】
実施例2で得られた結果を以下に示す。
・滞留時間: 約3.5秒
・エマルション生産量 : 約147kg/hr
・ミキサー有効体積当たりの処理量: 613ton/(hr・m3)
・エマルションの粒子径: 100nm
【0072】
最終的には、得られたエマルションを脱溶剤処理し、固形分濃度を41%に調整して得られた調整物850gを、イオン交換水1386gおよび前処理3で得られた顔料ペースト264gと混合することによって、カチオン型電着塗料2500gを得た。
【0073】
《比較例》
従来のパッチ式製造法によって電着塗料用エマルションを製造した。
【0074】
まず、前処理1で得られたアミン変性エポキシ樹脂2.74kgと前処理2で得られたポリウレタン架橋剤1.29kgとを、攪拌機を備えた容器V1に仕込み、80℃で30分攪拌することによって樹脂液Aを得た。得られた樹脂液Aの粘度は、80℃の温度条件下、1500mPa・sであった。次いで、別の10L容器V2(「バッチ容器」に相当する)において、90%工業用酢酸0.076kgとイオン交換水1.63kgとを仕込んで、25℃にて約10分攪拌した後、4.03kgの樹脂液A(80℃)を容器V2に加え、容器V2内の混合物の温度が43℃になるまで室温(25℃)で放冷させつつ約30分間攪拌した。このような操作により、W/Oエマルションを得た。次いで、得られたW/Oエマルションを容器V2にて攪拌しながら、W/Oエマルションに対して2.27kgのイオン交換水を1時間かけて滴下供給することによって、最終的に8.00kgのO/Wエマルション(固形分43%)を得た。エマルション原料の混合開始時(即ち、「樹脂液Aを容器V2に加え始めた時点」)から8.00kgのO/Wエマルションが得られるまでに要した時間は約90分であった。
【0075】
比較例で得られた結果を以下に示す。
・所要時間: 1.5時間
・エマルション生産量 : 5.33kg/hr
・容器V2の有効体積当たりの処理量: 0.533ton/(hr・m3)
・エマルションの粒子径: 160nm
【0076】
最終的には、得られたエマルションを脱溶剤処理し、固形分濃度を41%に調整して得られた調整物850gを、イオン交換水1386gおよび前処理3で得られた顔料ペースト264gと混合することによって、カチオン型電着塗料2500gを得た。
【0077】
《結論》
実施例1,2および比較例から以下のことが分かった。
(イ)VIBRO MIXER(型式:M35)を用いた本発明の製造法では、滞留時間が約3〜6秒、エマルション生産量が約90〜160kg/hr、ミキサーの有効体積当たりの処理量約390〜620ton/(hr・m3)であるのに対して、従来技術の製造法では処理時間が約1.5時間、エマルション生産量が約5.3kg/hr、ミキサー有効体積当たりの処理量0.533ton/(hr・m3)であることを鑑みると、本発明の製造法は、コンパクトなミキサーを用いながらも、生産性の点で非常に効率のよいエマルション製造法(特に電着塗料などの水性塗料に用いられるエマルションの製造にとって好適な方法)であることが分かった。
(ロ)実施例で得られたエマルションの粒子径は、比較例で得られたエマルションの粒子径よりも小さいので、本発明の製造法では従来技術の製造法よりも効率よく乳化できる。また、粒子径が小さいので、本発明の製造法で得られたエマルションは、従来の製造法で得られたエマルションより貯蔵安定性に優れている。
【0078】
尚、上記の比較例は、ラボスケール(10L)で行った例であるが、工業スケール[攪拌容器体積40m3、アミン変性エポキシ樹脂13.68ton、ポリウレタン架橋剤6.45ton、工業用酢酸379kg、イオン交換水(工業用酢酸と最初に混ぜられるイオン交換水)8.16ton]を想定すると、上記比較例と同様な操作で攪拌容器内の混合物の温度が43℃になるまでに1時間およびイオン交換水11.33tonの滴下供給に3時間要することで40tonのO/Wエマルションが得られることが推測でき、以下の結果が導かれることを付言しておく。以下の結果を参照すると本発明の効果(優れた生産性)がより顕著なものであることがより理解できるであろう。
・所要時間: 4時間
・エマルション生産量 : 10ton/hr
・攪拌容器の有効体積当たりの処理量: 0.25ton/(hr・m3)
・エマルションの粒子径: 160nm
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のエマルションの製造方法は、例えば電着塗料など水性塗料組成物に用いるエマルションを連続的に製造するのに特に適している。しかしながら、原料成分を適当に変えることによって、化粧品または医薬品等のエマルションを連続的に製造することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、水性塗料に用いるエマルションを製造する際の原料の粘度変化を模式的に示したグラフである。
【図2】図2は、本発明の製造方法に用いる振動ミキサーを模式的に示した一部断面図である。
【図3】図3(a),(b)は、本発明の製造方法に用いる振動ミキサーの構成部品を模式的に示した分解斜視図である。
【図4】図4は、振動ミキサーの攪拌体の好ましい態様を模式的に示した図である。
【図5】図5は、本発明の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図6】図6は、本発明の製造方法に用いる振動ミキサーの好ましい態様を模式的に示した一部断面図である。
【図7】図7は、本発明の製造方法に用いる振動ミキサーの好ましい態様を模式的に示した一部断面図である。
【図8】図8は、本発明の製造方法に用いる振動ミキサーの好ましい態様を模式的に示した一部断面図である。
【図9】図9は、振動ミキサーを用いて実施される本発明の製造方法を模式的に示した図である。
【図10】図10(a),(b)は、本発明の製造方法に用いる振動ミキサーの別の好ましい態様を模式的に示した一部断面図である。
【図11】図11は、本発明の製造方法に用いる振動ミキサーの別の好ましい態様を模式的に示した一部断面図である。
【符号の説明】
【0081】
1…有機溶剤、2…樹脂成分、3…硬化剤、4…添加剤、5…中和剤水溶液、6…水、7…エマルション、100…振動ミキサー、102(102a,102b)…流入口、104…流出口、106(106a)…第1供給口、108(108a,108b)…第2供給口、110…ケーシング、110a,110b,110c…ケーシングの内部に形成された複数のセクション、115a,115b,115c…ケーシングを構成する各バレル、120…仕切板の開口部、122…仕切板、130…攪拌体の軸部、132…螺旋形状の羽根部、133a…外側寄りの穴、133b…内側寄りの穴、134…攪拌体、136…振動駆動部および150…送液ポンプ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルションの製造方法に関する。また、本発明は、かかる製造方法で得られたエマルションを含んで成る水性塗料組成物(例えば電着塗料)にも関する。更には、かかる水性塗料組成物を用いた塗膜形成方法および塗装物にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電着塗料等の水性塗料に用いられるエマルション(またはエマルジョンもしくは乳化液)は、反応釜等の容器に原料を入れて乳化させるバッチ式で製造していた。具体的には、まず、原料となる樹脂成分、硬化剤および有機溶剤(必要に応じて種々の添加剤)を反応釜に供給した後、それらを攪拌しながら中和剤水溶液を加え、油相の連続相と水相の分散相とから成る混合物を形成し、次いで、その混合物に水を加えて連続相を油相から水相へと変える転相を引き起こすことによって、エマルションを製造していた。
【0003】
しかしながら、このような従来の製造法はバッチ式であるために、エマルションの必要量に応じた規模の製造設備が必要であり、省スペース化の点で決して好ましいものではなかった。
【0004】
例えば生産性の観点からエマルションを連続式で製造することが考えられるものの、電着塗料等の水性塗料に用いられるエマルションの製造では、上述のような転相現象に起因して製造時における原料の粘度変化が大きく、製造装置の運転が容易ではないので、連続式ミキサーなど攪拌機の使用は考えられていなかった。例えば、樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを含んで成る原料の初期の粘度は約2500〜4000mPa・s(70℃温度条件下)であり、転相直前における混合物の粘度は約18000〜25000mPa・s(40℃温度条件下)であり、そして、転相後のエマルションの粘度は約10〜50mPa・s(25℃温度条件下)である。このように製造時の粘度変化が大きいために、ミキサーの操作条件が複雑となるだけでなく、転相前に非常に高くなる原料粘度に起因して、攪拌翼などを駆動させるモーターに大きな負荷をかけることになり、結果的にミキサーが故障してしまう可能性があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題は、電着塗料等の水性塗料に用いられるエマルションを生産性および省スペース化の点で効率よく製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、省スペースとなるにも拘わらず生産性が驚くべきほどに向上したエマルション製造法の発明を完成させた。
上記課題を解決する本発明は、
有機溶剤に溶解可能な塩基性基または酸性基を含んで成る樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とからエマルションを製造する方法であって、
(i)樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを含んで成る原料から混合物Aを得る工程、
(ii)塩基性基または酸性基を中和する中和剤水溶液を混合物Aに加え、分散相としての水相および有機溶剤と中和剤により中和された樹脂成分と硬化剤とを含んで成る連続相としての油相の2相から成る混合物Bを得る工程、ならびに、
(iii)水を混合物Bに加え、連続相を油相から水相へと変える転相を行ってエマルションを形成する工程
を含んで成り、
原料が、70℃の温度条件下、400〜5000mPa・sの粘度を有し、混合物Bが、40℃の温度条件下、10000〜50000mPa・sの粘度を有し、また、エマルションが、25℃の温度条件下、5〜300mPa・sの粘度を有しているエマルション製造方法において、
(a)流入口102および流出口104を端部近傍に備え、内部にて流体が流通するケーシング110、
(b)流体が流通できる開口部120を備え、ケーシング110内部を複数のセクション(110a,110b,110c,・・・)に分ける仕切板122、ならびに
(c)長尺の軸部130とその周囲に設けられた螺旋形状の羽根部132とを備えた攪拌体134であって、ケーシング110の軸方向に沿うように仕切板122の開口部120を通してケーシング110内に収納された攪拌体134
を有して成り、攪拌体134がその軸方向に振動することによってケーシング110内の流体が混合されるミキサー100(以下「振動ミキサー」ともいう)を用いることを特徴としており、
工程(i)では、原料を流入口102からケーシング110内に導入して、混合物Aを得ており、
工程(ii)では、ケーシング110に設けられた第1供給口106(好ましくは流入口102と流出口104との間に設けられている第1供給口106)を介して中和剤水溶液をケーシング110内に導入し、混合物Bを得ており、また
工程(iii)では、第1供給口106と流出口104との間の位置となるケーシング110に設けられた第2供給口108を介して水をケーシング110内に導入し、転相を実施し、流出口104からエマルションが得られることになるエマルション製造方法である。
【0007】
本発明において「塩基性基または酸性基を有して成る樹脂成分」とは、中和することによって水和可能な樹脂成分を実質的に意味している。また、本発明において「エマルション」とは、一般的に連続相としての水性媒体に対して油相が分散相して存在する乳濁液または乳化液を意味している。本発明の製造方法で得られるエマルションからは水性塗料組成物、特に電着塗料を得ることができる。
【0008】
また、本発明における「粘度」とは、各々所定の温度条件の下でブルックフィールド型粘度計により求めた粘度を意味している。
【0009】
本発明のエマルションの製造方法は、原料の粘度変化が大きいにも拘わらず、振動ミキサーを用いることによって、エマルションを連続式で製造できることを特徴としている。より具体的にいうと、製造時における供給原料の粘度が図1で模式的に示すように中粘度から高粘度を経て低粘度へと大きく変化し、その点で運転操作が容易ではないのにも拘わらず、連続式でエマルションを製造できることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法で用いられる振動ミキサーは、原料の滞留時間が短いのでエマルションを短時間で製造できるだけでなく、ミキサーのサイズが比較的小さいのでミキサーの設置スペースおよび設置面積を小さくできる。つまり、本発明の製造方法は、生産性および省スペース化の点で効率のよいエマルション製造法である。
【0011】
また、本発明の製造方法では、振動ミキサーのケーシングの外側から温度調整を容易に行うことができ、エマルション製造時の原料を容易に冷却することができるので、乳化効率が良くなり、安定性の高いエマルションを得ることができる。ここでいう「安定性の高いエマルション」とは、従来の製造方法で得られるエマルションと比べて、時間的に安定しており貯蔵安定性に優れるエマルションを意味している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の説明に先立って、まず、本発明の製造方法で用いる振動ミキサーについて説明する。
【0013】
図2に本発明の製造方法で用いる振動ミキサー100の一部断面模式図を示すと共に、図3に振動ミキサー100の分解斜視図を示す。振動ミキサー100は、
(a)流入口102および流出口104を備え、内部にて流体が流通できるケーシング110、
(b)流体が流通できる開口部120を備え、ケーシング110の内部を複数のセクション(110a,110b,110c,・・・・)に分ける仕切板122、ならびに
(c)長尺の軸部130とその周囲に設けられた螺旋形状の羽根部132とを備えた攪拌体134であって、ケーシング110の軸方向に沿って仕切板122の開口部120を通るようにケーシング110内に収納された攪拌体134
を有して成り、
攪拌体134がその軸方向に上下に振動することによってケーシング110内の流体の混合が促進されるミキサーである。
【0014】
図3(a)に示すように、ケーシング110は、その各バレル(115a,115b,115c,・・)が仕切板122と交互に配置されるように設けられることが好ましい。ケーシング110とバレル(115a,115b,115c,・・・)との間には、流体の漏れを防止すべくシール材(例えばシリコーン材料から成るシール材)を配置することが好ましい。
【0015】
図2に示すように、混合すべき供給原料は、ケーシング110の下端部の近傍に設けられた流入口102から適当なポンプによって連続的にケーシング110内に導入される。ケーシング110内に導入された供給原料は、その供給圧に起因してケーシング内を上方へと下流側に向かって流れるが、その際、攪拌体134の振動による混合に付される。最終的には、ケーシング110の上端部の近傍に設けられた流出口104から押し出されるように混合物が連続的に排出されてくる。
【0016】
このような振動ミキサー100においては、攪拌体134の螺旋形状の羽根部132が上下に往復運動することによって、混合すべき流体に乱流が生じて混合が行われる。特に、混合すべき流体が約10000〜50000mPa.sの粘度(40℃温度条件下)を有するような高粘性流体の場合では、羽根部132が上下に往復運動することによって、仕切板122で区切られているセクション(110a,110b,110c,・・・・)内で流体(または「流体要素」)の「折り畳み」と「引き伸ばし」が繰り返し行われて局所的な混合効果が生じると共に、流体が仕切板122の開口部120を通過するに際して大域的な混合効果が生じることになる。従って、流入口102から流出口104へと流体がケーシング内を通過するに際して流体が混合されることになる。
【0017】
混合効果をより高める目的で、螺旋形状の羽根部132に穴を設けてもよい。この場合、攪拌体134が振動すると、流体の一部が穴を通過(流通)することになり、混合が更に促進されることになる。同様な目的で、仕切板122にも穴を設けてもよい。
【0018】
ケーシング110またはその各バレル(115a,115b,115c,・・)は、円筒形状であることが好ましい。また、ケーシング110またはその各バレル(115a,115b,115c,・・)の材質は特に限定されるものではなく、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス鋼または耐食性合金(例えば、ハステロイ、インコネル、ステライト)などの金属材料であってよい。
【0019】
仕切板122は、ケーシング110の内部を複数のセクション(110a,110b,110c,・・・・)に分けるものである。仕切板122の中央には、攪拌体134の軸部130を通すと共に、ミキサー運転時に流体を流通させる開口部120が設けられている。開口部120の形状(横断方向の断面形状)は、円形が好ましい。なお、仕切板122の材質は特に限定されるものではなく、ケーシング110の材質に関して例示したような金属材料であってよい。
【0020】
攪拌体134は、長尺の軸部130とその周囲に設けられた螺旋形状の羽根部132とを備えており、ケーシング110の軸方向に沿って仕切板122の開口部120を通るようにケーシング110内に収納されている。この攪拌体134は、図2に示すように、上端部分が振動駆動部136に取り付けられており、軸方向に上下に往復運動できるようになっている。本発明の製造に際して、攪拌体134は、好ましくは5〜30s−1(ストローク/秒)、より好ましくは10〜30s−1(ストローク/秒)の振動数、および、例えば5〜40mmの振幅でもって振動することが好ましい。上述したように、螺旋形状の羽根部132には穴を設けて、混合効果をより高めてもよい。この場合、穴は、図4に示すように、羽根部132の外側寄りの穴133aと内側寄りの穴133bとの2種類設けることが好ましく、外側寄りの穴133aは略半円形状にすると共に、内側寄りの穴133bは円形状にすることが更に好ましい。このように穴を設けることによって、振動ミキサー100の混合効果がより促進されることになる。尚、羽根部132は、螺旋形状が好ましいものの、必ずしもその形状に限定される必要はなく、振動することによって流体の混合を促進するものであれば、螺旋形状から適当に変形させた形状であってもよい。また、攪拌体134の材質は特に限定されるものではなく、例えばケーシング110および仕切板122の材質に関して例示したような金属材料であってよい。
【0021】
本発明の製造方法では、原料を振動ミキサー100に連続的に導入した後、中和剤水溶液および水を連続的に供給する。従って、本発明の製造方法で用いる振動ミキサーは、図2に示すように、中和剤水溶液を供給するための第1供給口106をケーシング110に備えていると共に、水を供給するための第2供給口108を同じくケーシング110に備えている。水の供給は、中和剤水溶液の供給よりも後に行うので、第2供給口108は第1供給口106よりも下流側に設けられている。ここで、第1供給口106は、流入口102と流出口104との間の位置となるケーシング110に設けられていることが好ましいものの、特にそれに限定される必要はなく、流入口102が設けられているケーシング100の端部領域に設けてもよい。同様に、第2供給口108は、第1供給口106と流出口104との間に設けられているが、特にそれに限定される必要はなく、第1供給口106が設けられているケーシング110の胴部領域または流出口104が設けられているケーシング110の端部領域に設けてもよい。
【0022】
本発明の製造方法で用いられる振動ミキサー100は、非常にコンパクトなミキサーであることを特徴の1つとする。具体的には、振動ミキサーのサイズ(体積)は、好ましくは0.1〜10m3、より好ましくは0.1〜8m3であって、必要な設置面積は、好ましくは0.2〜3m2、より好ましくは0.2〜1.5m2である。
【0023】
ある好ましい態様では、本発明の製造方法で用いる振動ミキサー100は、市販されている振動ミキサーであってよく、例えば、冷化工業株式会社より販売されているVIBRO MIXER(登録商標)である。VIBRO MIXER(登録商標)の中でも、特に型式M35の振動ミキサーが好ましい。このVBRO MIXER型式M35は非常にコンパクトであって、ミキサー・サイズが約0.12m3であり、その必要な設置面積が0.25m2である。尚、市販の振動ミキサーを用いる場合には、そのまま用いてよいものの、適宜改良して用いてもよい。例えば、第1供給口106および/または第2供給口108が設けられていない場合には、それらが備えられるように改良してよい。
【0024】
次に、図2に示す振動ミキサー100を参照して、本発明のエマルションの製造方法を詳細に説明する。図5には本発明に係る製造フローを示す。
【0025】
まず、工程(i)では、塩基性基または酸性基を有して成る樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを含んで成る原料(「供給原料」ともいう)を振動ミキサー100の流入口102からケーシング110内に連続的に導入して、樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とから成る混合物Aを得る。原料のケーシング内への導入には、例えばリニアポンプ、ギアポンプまたはチューブポンプ等の送液ポンプを用いることが好ましい。原料の供給量は、好ましくは500〜1500g/min、より好ましくは750〜1200g/minである。また、原料は、70℃の温度条件下、400〜5000mPa・s、好ましくは1000〜5000mPa・s、より好ましくは2000〜4000mPa・sの粘度を有している。
【0026】
樹脂成分および/または硬化剤は、有機溶剤に予め混ぜられた形態で用いてもよい。つまり、樹脂成分および/または硬化剤の製造過程・調製過程で、有機溶剤を予め含んだ形態で樹脂成分および/または硬化剤が得られる場合には、有機溶剤を含んだ形態のまま樹脂成分および/または硬化剤を用いることができる。
【0027】
「塩基性基または酸性基を有して成る樹脂成分」は、中和することによって水和可能な官能基を有する樹脂であればいずれの樹脂であってもかまわない。例えば樹脂としては、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、カーボネート樹脂およびポリブタジエン樹脂から成る群から選択される少なくとも1種以上の樹脂の構造中にアミノ基等の塩基性基またはカルボキシル基等の酸性基を含んで成るものを挙げることができる。その中でも、塩基性基を有する樹脂としてはアクリル樹脂またはエポキシ樹脂であることが好ましく、また、酸性基を有する樹脂としてはアクリル樹脂またはポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0028】
硬化剤(または架橋剤)は、上記の樹脂成分を硬化(または架橋)させ得るものであれば、いずれの種類の硬化剤であってもかまわない。なお、硬化(または架橋)のために必要な樹脂成分の有する反応性官能基は、上記の塩基性基または酸性基であってもかまわない。例えば、樹脂成分がカルボキシル基を含んで成る場合、硬化剤は、カルボジイミド化合物およびエポキシ化合物のいずれか1種を含んでいる硬化剤であることが好ましい。一方、樹脂成分が水酸基を含んで成る場合、硬化剤は、ブロックイソシアネート化合物、メラミン樹脂およびベンゾグアナミン樹脂から成る群から選択される少なくとも1種以上の硬化剤であることが好ましい。
【0029】
有機溶剤は、樹脂成分および硬化剤を分散または溶解させるものであれば、いずれの種類の溶剤であってもかまわない。例えば、有機溶剤は、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロオクタン、ノナンもしくはデカン等の炭化水素化合物;エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、シクロペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、シクロヘプタノール、オクタノールもしくはシクロオクタノール等のアルコール系化合物;アセトン、メチルエチルケトンもしくはメチルイソブチルケトン等のケトン系化合物;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、イソアミルセロソルブもしくはヘキシルセロソルブ等のセロソルブ系化合物;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンもしくはキシレン等の芳香族系化合物;または、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルもしくは酢酸ペンチル等のエステル系化合物を挙げることができる。
【0030】
工程(ii)では、ケーシング110に設けられた第1供給口106を介して、塩基性基または酸性基を中和する中和剤水溶液をケーシング110内に供給する。これによって、工程(i)で得られた混合物Aに対して中和剤水溶液が加えられることになり、混合に付されることによって、「分散相としての水相」および「有機溶剤と中和剤により中和された樹脂成分と硬化剤とを含んで成る連続相としての油相」の2相から成る混合物Bが得られる。なお、分散相としての水相には、有機溶剤、樹脂成分および/または硬化剤が部分的に含まれてもよい。同様に、連続相としての油相は、あくまでも主として有機溶剤と樹脂成分と硬化剤とを含んでいればよく、中和剤水溶液の成分が部分的に油相に含まれてもよい。また、分散相は連続相中に必ずしも均一に分散している必要はない。
【0031】
ここで、本明細書において「中和剤水溶液」とは、樹脂成分が塩基性基を含んで成る場合には、酸性化合物を含んだ水溶液を意味しており、樹脂成分が酸性基を含んで成る場合には、塩基性化合物を含んだ水溶液を意味している。酸性化合物としては、例えば、酢酸、蟻酸、乳酸およびクエン酸等を挙げることができる。塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、ジメチルアミノエタノールおよび水酸化ナトリウム等を挙げることができる。
【0032】
中和剤水溶液をケーシング110内に供給するには、例えば、リニアポンプ、ギアポンプまたはチューブポンプ等の送液ポンプを用いて連続的に供給すること好ましい。中和剤水溶液の供給量は、好ましくは100〜1200g/min、より好ましくは250〜900g/minである。また、中和剤水溶液は、25℃の温度条件下、好ましくは1〜300mPa・sの粘度、より好ましくは3〜150mPa・sの粘度を有している。
【0033】
得られる混合物Bの粘度および温度は経時的に連続に変化しており、特に、得られる混合物Bの粘度は工程(ii)において次第に高くなる。例えば、混合物Bの粘度は、次に行う工程(iii)の直前(即ち、水供給の開始時点)では、10000〜50000mPa・sの粘度(40℃温度条件下)、好ましくは15000〜50000mPa・sの粘度(40℃温度条件下)、より好ましくは20000〜50000mPa・sの粘度(40℃温度条件下)となる。
【0034】
工程(iii)では、ケーシング110に設けられた第2供給口108を介して、ケーシング110の内部に水を供給する。これによって、混合物Bに対して水が加えられることになり、混合に付されることによって、混合物Bの連続相が油相から水相へと変わる転相が生じ、O/Wエマルションが得られることになる。
【0035】
工程(iii)で加えられる水は、一般的な水性塗料の水性媒体に用いられるものであれば特に制限はない。但し、得られるエマルションを電着塗料に用いる場合、工程(iii)で加えられる水が脱イオン水であることが好ましい。
【0036】
水をケーシング110内に供給するには、例えば、リニアポンプ、ギアポンプまたはチューブポンプ等の送液ポンプを用いて連続的に供給すること好ましい。水の供給量は、好ましくは100〜2000g/min、より好ましくは300〜1000g/minである。
【0037】
得られるエマルションは、振動ミキサー100の流出口104から押し出されるようにして連続的に排出される。このように流出口104から得られるエマルションの量(即ち、エマルションの生産量)は、好ましくは700〜5000g/min、より好ましくは1000〜3500g/minである。
【0038】
ここで、得られるエマルションは、中和剤水溶液および加えられた水を含んで成る水相を連続相として含む一方、樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを含んで成る油相を分散相として含むことになる。尚、混合物Bと同様、連続相を構成する成分が分散相に部分的に含まれていてもよく、また、分散相を構成する成分が連続相に部分的に含まれていてもよい。エマルションにおいては、分散相が連続相中に必ずしも均一に分散している必要はない。
【0039】
工程(iii)でも工程(ii)と同様、形成されるエマルションの粘度および温度が経時的に連続に変化しており、特に、エマルションの粘度は工程(iii)の転相に伴って次第に低くなる。例えば、流出口104から排出された時点におけるエマルションは、25℃の温度条件下、5〜300mPa・sの粘度、好ましくは10〜300mPa・s、より好ましくは10〜100mPa・sの粘度を有している。また、工程(iii)で得られるエマルションの粒子径は、好ましくは40〜150nmであり、より好ましくは50〜120nmとなっており、従来の製造法で得られるエマルションよりも小さい粒子径となっている。そのため、得られるエマルションは、従来の製造法のエマルションと比べて貯蔵安定性に優れている。本明細書において「エマルションの粒子径」とは、エマルション中に分散する油相成分の粒子の直径であって、レーザー光散乱法により求めた体積平均粒子径である。
【0040】
以上、図2に示すミキサーおよび図5に示す製造フローに基づいて本発明の製造方法を説明してきた。本発明の製造方法は、生産性の点で非常に効率が良いという点で有利な効果を奏する。具体的には、供給原料のミキサー滞留時間は、好ましくは3〜25s、より好ましくは3〜6sと非常に短いにも拘わらず、エマルション生産量は、好ましくは40〜300kg/hr、より好ましくは50〜200kg/hr、更に好ましくは90〜160kg/hrと大きいものである。装置の有効体積(m3)当たりのミキサー処理量は、好ましくは約170〜約1200ton/(hr・m3)、より好ましくは約340〜約800ton/(hr・m3)、更に好ましくは390〜620ton/(hr・m3)である。ここで「有効体積」とは、混合すべき流体が流れることになる振動ミキサー内の体積であって、ケーシング内の体積から攪拌体および仕切板などの挿入パーツの体積を除いて算出される体積を実質的に意味している。
【0041】
ある好適な実施態様では、工程(i),工程(ii)および/または工程(iii)において、添加剤を加えてもよい。添加剤としては、一般的な水性塗料の製造に用いられる添加剤が好ましく、例えば、表面調整剤、消泡剤、可塑剤および粘度調整剤から成る群から選択される少なくとも1種以上の添加剤を挙げることができる。
【0042】
また、別の好適な実施態様では、原料、混合物Aおよび混合物Bにて硬化反応が生じないように温度調整することが好ましい。つまり、工程(i)〜工程(iii)において、樹脂成分と硬化剤との硬化反応が生じないように温度調整することが好ましい。このように温度調整を必要とする理由は、硬化反応が一部生じたエマルションを用いた塗料では塗膜形成時のフロー性が不充分となり、塗膜外観が低下するからである。原料、混合物Aおよび混合物Bの温度は、好ましくは50〜110℃、より好ましくは60〜100℃となるように温度調整する。例えば、樹脂成分としてエポキシ樹脂、硬化剤としてブロックイソシアネートを用いる場合では、原料、混合物Aおよび混合物Bの温度を70〜90℃に保持することが好ましい。
【0043】
本発明では、振動ミキサーのケーシングに温度調整ジャケットを設けて温度調整を行うことができる。この場合、ケーシングの全体に温度調整ジャケットを設けてもよいが、ケーシングを構成する各バレルごとに温度調整ジャケットを部分的に設けてもよい。このように、温度調整できるので、本発明の製造方法で得られるエマルションの粒子径を、従来の製造法で得られるエマルションよりも小さい粒子径にすることができる。
【0044】
更に別の好適な実施態様では、工程(i)と工程(ii)とを実質的に同時に開始してもよい。つまり、樹脂成分と硬化剤と有機溶剤と中和剤水溶液とから混合物Bを直接形成してもよい。この場合では、図6に示すような振動ミキサー100を用いることが好ましい。この振動ミキサー100では、図示するように振動ミキサー100の最も上流側のバレル115aに流入口102aと第1供給口106aとが設けられていると共に、その下流側のバレル115bに第2供給口106aが設けられている。流入口102aを介して、樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを含んで成る原料が振動ミキサー100に供給されると共に、供給口106aを介して中和剤水溶液が供給される。図6に示す振動ミキサー100では、第2供給口108aがバレル115bに設けられているが、混合物Bを得るための混合が充分に行われるように、より下流側のバレル115cに第2供給口108aを設けた振動ミキサーを用いてもよい(図7参照)。更に、図6に示す振動ミキサーを用いた場合では、原料(樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを含んで成る原料)と中和剤水溶液とが別々の流入口ないし供給口からそれぞれ供給される態様であるが、図8に示すように、原料と中和剤水溶液とを1つの流入口102bから供給する態様であってもよい。かかる態様は、送液ポンプの数を減らせると共に、操作がより簡易となる点で好ましい。
【0045】
本発明の製造方法で得られるエマルションからは、水性塗料組成物を得ることができる。具体的には、得られたエマルションに、顔料ペースト、表面調整剤および粘度調整剤等の各種添加剤、ならびに、必要に応じてその他の水性樹脂成分等、当業者によってよく知られている塗料に用いられる各種成分を含むことによって、水性塗料組成物が得られる。このような水性塗料組成物はスプレー塗装やハケ塗り用の塗料だけでなく、電着塗料として用いることができる。
【0046】
そのように得られた水性塗料組成物は、自動車のボディー、ホイールまたは二輪車のフレーム等の基材に対して、塗装することによって塗膜を形成することができ、基材に塗膜を有する塗装物を得ることができる。塗装方法としては特に限定されず、スプレー塗装、ハケ塗りまたは電着塗装等を挙げることができる。
【0047】
以下では、本発明の製造方法を更に詳細に説明するために、図9を参照して、振動ミキサーを用いた水性塗料用エマルションの連続的な製造方法について説明する。図9に示す振動ミキサーでは、工程(i)〜(iii)が実施されるセクションI〜IIIを模式的に示している。このセクションI〜IIIは、一般的には、振動ミキサー内に形成された各セクション(例えば図2に示すセクション110a,110b,110c)に相当し得るものの、各工程を説明すべく便宜的に用いるものであるので、実際の振動ミキサーでは図示するようなセクションが存在しない場合もあることに留意されたい。
【0048】
まず、振動ミキサー100の流入口102に、有機溶剤1に溶解している樹脂成分2、硬化剤3および添加剤4をポンプ150で連続的に供給する。これにより、有機溶剤1と樹脂成分2と硬化剤3と添加剤4とが攪拌体134の振動に付されてセクションIにおいて混合が行われて、混合物Aが形成される。かかる混合と相俟って、供給圧によって、原料成分(有機溶剤1,樹脂成分2,硬化剤3および添加剤4)がA方向(図9にて矢印で図示する方向)へと送られる。従って、セクションIでは、原料成分が下流側へと送られつつ混合物Aが形成されることになる。
【0049】
次いで、セクションIIまで混合物Aが送られると、混合物Aに対して中和剤水溶液5が第1供給口106を介して加えられ、混合物Bが形成される。このセクションIIでも、攪拌体134の振動によって、混合物Aと中和剤水溶液5とが混合されるので、下流側へと送られつつ混合物Bが形成されることになる。
【0050】
次いで、混合物BがセクションIIIへと送られてくると、第2供給口108を介して、脱イオン水などの水6が混合物Bに加えられることになる。これによって、混合物Bにおける連続相が油相から水相へと変化し(即ち「転相」が生じる)、エマルション7が形成されることになる。このセクションIIIでも、攪拌体134の振動によって、混合物Bと水6とが混合されるので、より下流側へと送られつつ転相が生じることになる。最終的には流出口104からエマルション7が連続的に排出されてくる。
【0051】
第2供給口108から供給される水6は、セクションIIIで転相が生じる量さえあれば充分である。従って、得られるエマルション7の固形分濃度は、ミキサー100から排出された後で必要に応じて調整してもよい。
【0052】
また、必要に応じて、得られたエマルション7からゴミや凝集物等を取り除くために、振動ミキサー100の下流側に濾過器を設けてもよい。この場合、例えば珪藻土を用いた濾過器を用いることができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0054】
例えば、振動ミキサーのケーシングを構成するバレルおよび攪拌体の羽根部は、図2に示すような3段である必要は必ずしもなく、それよりも少ない段数又は多い段数であってもよい。例えば図10(a),(b)に示すように、バレルおよび羽根部を2段積み重ねて構成した振動ミキサーであってよい。同様に、例えば図11に示すように、バレルおよび羽根部を5段積み重ねて構成した振動ミキサーであってもよい。
【実施例】
【0055】
実施例1および実施例2は、振動ミキサーを用いて、本発明の製造方法を実施した例であり、比較例は、電着塗料用エマルションの従来の製造法を実施した例である。
【0056】
まず、実施例1,2および比較例に先立って、以下の前処理1〜3を実施した。
(前処理1:樹脂成分の調製)
樹脂成分としてアミン変性エポキシ樹脂を調製した。まず、撹拌機、窒素導入管、冷却管および温度計を備えた反応容器に、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂1000.0部(ダウケミカル製 DER−331J)、ビスフェノールA351.7部、オクチル酸191.5部およびメチルイソブチルケトン(以下MIBKと略す)151.0部を仕込んで100℃に昇温した。撹拌して均一な混合物を得た後、ベンジルジメチルアミン1.65部を添加し、エポキシ当量が1700になるまで120℃で反応させた。引き続いて、MIBK25部を加えて混合物を冷却した後、ジエチレントリアミンのメチルイソブチルジケチミン73%MIBK溶液206.8部およびN−メチルエタノールアミン21.4部を加えた。次いで、混合物を115℃で1時間保持した。以上の操作によって、アミン変性エポキシ樹脂1949.0部(固形分88%)を得た。
【0057】
(前処理2:硬化剤の調製)
硬化剤としてポリウレタン架橋剤を調製した。まず、攪拌機、窒素導入管、冷却管および温度計を備えた反応容器にポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート132部(日本ポリウレタン製 MR−200)を仕込み、次いで、MIBK73.5部を反応容器に加えて希釈した。引き続いて、ジブチル錫ジラウレート0.1部を加え、得られた混合物を80℃に昇温した。その後、混合物が90℃を超えないように制御しながら、ブチルジグリコール162部を徐々に加えた。IRスペクトル測定でイソシアネート基の吸収が実質上消失することを確認できるまで混合物を80℃に保持した。以上の操作によって、ポリウレタン架橋剤367.5部(固形分80%)を得た。
【0058】
(前処理3:顔料ペーストの調製)
製造されるエマルションに加えられる顔料ペーストを調製した。エポキシ系4級アンモニウム塩型顔料分散樹脂(固形分50%)120.0部、50%乳酸4.2部、カーボンブラック2.0部、カオリン100.0部、二酸化チタン80.0部、リンモリブデン酸アルミニウム18.0部およびイオン交換水(調製する顔料ペーストの固形分が56%となる量のイオン交換水)をサンドグラインドミルに仕込み、粒子径が10μm以下となる分散状態が得られるまで処理することによって、顔料ペーストを得た。
【0059】
《実施例1》
振動ミキサーとして冷化工業株式会社製のVIBRO MIXER(型式:M35)を用いた。実施例1は、図7に模式的に示す振動ミキサーを参照にして説明する。振動ミキサーの運転条件は次の通りである。
・攪拌体の振動数: 30s−1(30ストローク/sec)
・ミキサー有効体積:240cc
【0060】
まず、前処理1で得られたアミン変性エポキシ樹脂10.71kgと前処理2で得られたポリウレタン架橋剤5.05kgとを、攪拌機を備えた容器に仕込み、80℃で30分攪拌することによって樹脂液Aを得た。得られた樹脂液Aの粘度は、80℃の温度条件下、1500mPa・sであった。また、別の容器では、90%工業用酢酸0.296kgとイオン交換水6.38kgとを仕込み、25℃で10分攪拌することによって酸性液Bを得た。得られた酸性液Bの粘度は、25℃の温度条件下、3mPa・sであった。
【0061】
次いで、リニアポンプ(冷化工業製)を用いて、788.0g/minの割合で樹脂液Aを投入口102aから振動ミキサーに連続的に供給すると共に、333.8g/minの割合で酸性液Bを投入口106aから振動ミキサーに連続的に供給した。これによって、バレル115aおよび115b内においてW/Oエマルションを形成した。
【0062】
次いで、リニアポンプ(冷化工業製)を用いて、バレル115cに設けられた供給口108aよりイオン交換水を443.5g/minの割合で連続的に供給して転相を実施した。この転相の直前時には、W/Oエマルションは20300mPa・s(40℃温度条件下)となるまで粘度が増加していた。転相によって、W/Oエマルションの連続相が油相から水相へと変わり、O/Wエマルションが得られた。得られたO/Wエマルションの粘度は、15mPa・s(25℃温度条件下)を有するものであった。
【0063】
振動ミキサーを運転し始めてから約5秒後には流出口104よりO/Wエマルションが流出し始めた。振動ミキサーを約20分間連続運転すると、31.3kgのO/Wエマルション(固形分43%)を得ることができた。
【0064】
実施例1で得られた結果を以下に示す。
・滞留時間: 約5秒
・エマルション生産量 : 約94kg/hr
・ミキサー有効体積当たりの処理量: 392ton/(hr・m3)
・エマルションの粒子径: 112nm
【0065】
最終的には、得られたエマルションを脱溶剤処理し、固形分濃度を41%に調整して得られた調整物850gを、イオン交換水1386gおよび前処理3で得られた顔料ペースト264gと混合することによって、カチオン型電着塗料2500gを得た。
【0066】
《実施例2》
実施例2では、実施例1で用いた各種原料の量および供給速度を変えて本発明の製造方法を実施した。振動ミキサーは、実施例1と同様、冷化工業株式会社製のVIBRO MIXER(型式:M35)であり、振動ミキサーの運転条件も以下の通り実施例1と同じである。
・攪拌体の振動数: 30s−1(30ストローク/sec)
・ミキサー有効体積:240cc
【0067】
まず、前処理1で得られたアミン変性エポキシ樹脂16.81kgと前処理2で得られたポリウレタン架橋剤7.93kgとを、攪拌機を備えた容器に仕込み、80℃で30分攪拌することによって樹脂液Aを得た。得られた樹脂液Aの粘度は、80℃の温度条件下、1500mPa・sであった。また、別の容器では、90%工業用酢酸0.465kgとイオン交換水10.02kgとを仕込み、25℃で10分攪拌することによって酸性液Bを得た。得られた酸性液Bの粘度は、25℃の温度条件下、3mPa・sであった。
【0068】
次いで、リニアポンプ(冷化工業製)を用いて、1237.0g/minの割合で樹脂液Aを投入口102aから振動ミキサーに連続的に供給すると共に、524.3g/minの割合で酸性液Bを投入口106aから振動ミキサーに連続的に供給した。これによって、バレル115aおよび115b内においてW/Oエマルションを形成した。
【0069】
次いで、リニアポンプ(冷化工業製)を用いて、バレル115cに設けられた供給口108aよりイオン交換水を696.3g/minの割合で連続的に供給して転相を実施した。この転相の直前時には、W/Oエマルションは20000mPa・s(40℃温度条件下)となるまで粘度が増加していた。転相によって、W/Oエマルションの連続相が油相から水相へと変わり、O/Wエマルションが得られた。得られたO/Wエマルションの粘度は、15mPa・s(25℃温度条件下)を有するものであった。
【0070】
振動ミキサーを運転し始めてから3.51秒後には流出口104よりO/Wエマルションが流出し始めた。振動ミキサーを約20分間連続運転すると、49.1kgのO/Wエマルション(固形分43%)を得ることができた。
【0071】
実施例2で得られた結果を以下に示す。
・滞留時間: 約3.5秒
・エマルション生産量 : 約147kg/hr
・ミキサー有効体積当たりの処理量: 613ton/(hr・m3)
・エマルションの粒子径: 100nm
【0072】
最終的には、得られたエマルションを脱溶剤処理し、固形分濃度を41%に調整して得られた調整物850gを、イオン交換水1386gおよび前処理3で得られた顔料ペースト264gと混合することによって、カチオン型電着塗料2500gを得た。
【0073】
《比較例》
従来のパッチ式製造法によって電着塗料用エマルションを製造した。
【0074】
まず、前処理1で得られたアミン変性エポキシ樹脂2.74kgと前処理2で得られたポリウレタン架橋剤1.29kgとを、攪拌機を備えた容器V1に仕込み、80℃で30分攪拌することによって樹脂液Aを得た。得られた樹脂液Aの粘度は、80℃の温度条件下、1500mPa・sであった。次いで、別の10L容器V2(「バッチ容器」に相当する)において、90%工業用酢酸0.076kgとイオン交換水1.63kgとを仕込んで、25℃にて約10分攪拌した後、4.03kgの樹脂液A(80℃)を容器V2に加え、容器V2内の混合物の温度が43℃になるまで室温(25℃)で放冷させつつ約30分間攪拌した。このような操作により、W/Oエマルションを得た。次いで、得られたW/Oエマルションを容器V2にて攪拌しながら、W/Oエマルションに対して2.27kgのイオン交換水を1時間かけて滴下供給することによって、最終的に8.00kgのO/Wエマルション(固形分43%)を得た。エマルション原料の混合開始時(即ち、「樹脂液Aを容器V2に加え始めた時点」)から8.00kgのO/Wエマルションが得られるまでに要した時間は約90分であった。
【0075】
比較例で得られた結果を以下に示す。
・所要時間: 1.5時間
・エマルション生産量 : 5.33kg/hr
・容器V2の有効体積当たりの処理量: 0.533ton/(hr・m3)
・エマルションの粒子径: 160nm
【0076】
最終的には、得られたエマルションを脱溶剤処理し、固形分濃度を41%に調整して得られた調整物850gを、イオン交換水1386gおよび前処理3で得られた顔料ペースト264gと混合することによって、カチオン型電着塗料2500gを得た。
【0077】
《結論》
実施例1,2および比較例から以下のことが分かった。
(イ)VIBRO MIXER(型式:M35)を用いた本発明の製造法では、滞留時間が約3〜6秒、エマルション生産量が約90〜160kg/hr、ミキサーの有効体積当たりの処理量約390〜620ton/(hr・m3)であるのに対して、従来技術の製造法では処理時間が約1.5時間、エマルション生産量が約5.3kg/hr、ミキサー有効体積当たりの処理量0.533ton/(hr・m3)であることを鑑みると、本発明の製造法は、コンパクトなミキサーを用いながらも、生産性の点で非常に効率のよいエマルション製造法(特に電着塗料などの水性塗料に用いられるエマルションの製造にとって好適な方法)であることが分かった。
(ロ)実施例で得られたエマルションの粒子径は、比較例で得られたエマルションの粒子径よりも小さいので、本発明の製造法では従来技術の製造法よりも効率よく乳化できる。また、粒子径が小さいので、本発明の製造法で得られたエマルションは、従来の製造法で得られたエマルションより貯蔵安定性に優れている。
【0078】
尚、上記の比較例は、ラボスケール(10L)で行った例であるが、工業スケール[攪拌容器体積40m3、アミン変性エポキシ樹脂13.68ton、ポリウレタン架橋剤6.45ton、工業用酢酸379kg、イオン交換水(工業用酢酸と最初に混ぜられるイオン交換水)8.16ton]を想定すると、上記比較例と同様な操作で攪拌容器内の混合物の温度が43℃になるまでに1時間およびイオン交換水11.33tonの滴下供給に3時間要することで40tonのO/Wエマルションが得られることが推測でき、以下の結果が導かれることを付言しておく。以下の結果を参照すると本発明の効果(優れた生産性)がより顕著なものであることがより理解できるであろう。
・所要時間: 4時間
・エマルション生産量 : 10ton/hr
・攪拌容器の有効体積当たりの処理量: 0.25ton/(hr・m3)
・エマルションの粒子径: 160nm
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のエマルションの製造方法は、例えば電着塗料など水性塗料組成物に用いるエマルションを連続的に製造するのに特に適している。しかしながら、原料成分を適当に変えることによって、化粧品または医薬品等のエマルションを連続的に製造することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、水性塗料に用いるエマルションを製造する際の原料の粘度変化を模式的に示したグラフである。
【図2】図2は、本発明の製造方法に用いる振動ミキサーを模式的に示した一部断面図である。
【図3】図3(a),(b)は、本発明の製造方法に用いる振動ミキサーの構成部品を模式的に示した分解斜視図である。
【図4】図4は、振動ミキサーの攪拌体の好ましい態様を模式的に示した図である。
【図5】図5は、本発明の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図6】図6は、本発明の製造方法に用いる振動ミキサーの好ましい態様を模式的に示した一部断面図である。
【図7】図7は、本発明の製造方法に用いる振動ミキサーの好ましい態様を模式的に示した一部断面図である。
【図8】図8は、本発明の製造方法に用いる振動ミキサーの好ましい態様を模式的に示した一部断面図である。
【図9】図9は、振動ミキサーを用いて実施される本発明の製造方法を模式的に示した図である。
【図10】図10(a),(b)は、本発明の製造方法に用いる振動ミキサーの別の好ましい態様を模式的に示した一部断面図である。
【図11】図11は、本発明の製造方法に用いる振動ミキサーの別の好ましい態様を模式的に示した一部断面図である。
【符号の説明】
【0081】
1…有機溶剤、2…樹脂成分、3…硬化剤、4…添加剤、5…中和剤水溶液、6…水、7…エマルション、100…振動ミキサー、102(102a,102b)…流入口、104…流出口、106(106a)…第1供給口、108(108a,108b)…第2供給口、110…ケーシング、110a,110b,110c…ケーシングの内部に形成された複数のセクション、115a,115b,115c…ケーシングを構成する各バレル、120…仕切板の開口部、122…仕切板、130…攪拌体の軸部、132…螺旋形状の羽根部、133a…外側寄りの穴、133b…内側寄りの穴、134…攪拌体、136…振動駆動部および150…送液ポンプ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤に溶解可能な塩基性基または酸性基を含んで成る樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とからエマルションを製造する方法であって、
(i)前記樹脂成分と前記硬化剤と前記有機溶剤とを含んで成る原料から混合物Aを得る工程、
(ii)前記塩基性基または酸性基を中和する中和剤水溶液を前記混合物Aに加え、分散相としての水相および前記有機溶剤と前記中和剤により中和された前記樹脂成分と前記硬化剤とを含んで成る連続相としての油相の2相から成る混合物Bを得る工程、ならびに、
(iii)水を前記混合物Bに加え、前記連続相を前記油相から水相へと変える転相を行ってエマルションを形成する工程
を含んで成り、
前記原料が、70℃の温度条件下、400〜5000mPa・sの粘度を有し、前記混合物Bが、40℃の温度条件下、10000〜50000mPa・sの粘度を有し、また、前記エマルションが、25℃の温度条件下、5〜300mPa・sの粘度を有しているエマルション製造方法において、
(a)流入口および流出口を備え、内部にて流体が流通するケーシング、
(b)前記流体が流通できる開口部を備え、前記ケーシング内部を複数のセクションに分ける仕切板、ならびに
(c)軸部とその周囲に設けられた螺旋形状の羽根部とを備えた攪拌体であって、前記ケーシングの軸方向に沿うように前記仕切板の前記開口部を通して前記ケーシング内に収納された攪拌体
を有して成り、前記攪拌体がその軸方向に振動することによって前記ケーシング内の前記流体が混合されるミキサーを用いることを特徴としており、
前記工程(i)では、前記原料を前記流入口から前記ケーシング内に導入して、前記混合物Aを得ており、
前記工程(ii)では、前記ケーシングに設けられた第1供給口を介して、前記中和剤水溶液を前記ケーシング内に導入し、前記混合物Bを得ており、また
前記工程(iii)では、前記第1供給口と前記流出口との間にて前記ケーシングに設けられた第2供給口を介して、前記水を前記ケーシング内に導入して前記転相を行っており、前記流出口から前記エマルションが得られるエマルション製造方法。
【請求項2】
前記ミキサーにおいて、前記攪拌体の前記羽根部に穴が設けられており、前記攪拌体が振動すると、前記原料、前記混合物A、前記混合物Bおよび/または前記エマルションが前記穴を介して流通し、混合が促進されることを特徴とする、請求項1に記載のエマルション製造方法。
【請求項3】
前記ミキサーが、商品名VIBRO MIXER(登録商標)であることを特徴とする、請求項1または2に記載のエマルション製造方法。
【請求項4】
前記原料、前記混合物A、前記混合物Bおよび前記エマルションにて硬化反応が生じないように温度調整することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のエマルション製造方法。
【請求項5】
前記樹脂成分は、前記塩基性基としてアミノ基または前記酸性基としてカルボキシル基を含んで成る、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、カーボネート樹脂、ポリブタジエン樹脂、メラミン樹脂およびベンゾグアナミン樹脂から成る群から選択される少なくとも1種以上の樹脂であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のエマルション製造方法。
【請求項6】
前記工程(i),(ii)および/または(iii)において、表面調整剤、消泡剤、可塑剤および粘度調整剤から成る群から選択される少なくとも1種以上の添加剤を前記ミキサー内に供給することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のエマルション製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のエマルション製造方法で得られるエマルションを含んで成ることを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項8】
前記水性塗料組成物が電着塗料であることを特徴とする、請求項7に記載の水性塗料組成物。
【請求項9】
基材に対して塗料を塗装して塗膜を形成する方法であって、
前記塗料が、請求項7に記載の水性塗料組成物であることを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項10】
請求項9に記載の塗膜形成方法によって得られることを特徴とする塗装物。
【請求項1】
有機溶剤に溶解可能な塩基性基または酸性基を含んで成る樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とからエマルションを製造する方法であって、
(i)前記樹脂成分と前記硬化剤と前記有機溶剤とを含んで成る原料から混合物Aを得る工程、
(ii)前記塩基性基または酸性基を中和する中和剤水溶液を前記混合物Aに加え、分散相としての水相および前記有機溶剤と前記中和剤により中和された前記樹脂成分と前記硬化剤とを含んで成る連続相としての油相の2相から成る混合物Bを得る工程、ならびに、
(iii)水を前記混合物Bに加え、前記連続相を前記油相から水相へと変える転相を行ってエマルションを形成する工程
を含んで成り、
前記原料が、70℃の温度条件下、400〜5000mPa・sの粘度を有し、前記混合物Bが、40℃の温度条件下、10000〜50000mPa・sの粘度を有し、また、前記エマルションが、25℃の温度条件下、5〜300mPa・sの粘度を有しているエマルション製造方法において、
(a)流入口および流出口を備え、内部にて流体が流通するケーシング、
(b)前記流体が流通できる開口部を備え、前記ケーシング内部を複数のセクションに分ける仕切板、ならびに
(c)軸部とその周囲に設けられた螺旋形状の羽根部とを備えた攪拌体であって、前記ケーシングの軸方向に沿うように前記仕切板の前記開口部を通して前記ケーシング内に収納された攪拌体
を有して成り、前記攪拌体がその軸方向に振動することによって前記ケーシング内の前記流体が混合されるミキサーを用いることを特徴としており、
前記工程(i)では、前記原料を前記流入口から前記ケーシング内に導入して、前記混合物Aを得ており、
前記工程(ii)では、前記ケーシングに設けられた第1供給口を介して、前記中和剤水溶液を前記ケーシング内に導入し、前記混合物Bを得ており、また
前記工程(iii)では、前記第1供給口と前記流出口との間にて前記ケーシングに設けられた第2供給口を介して、前記水を前記ケーシング内に導入して前記転相を行っており、前記流出口から前記エマルションが得られるエマルション製造方法。
【請求項2】
前記ミキサーにおいて、前記攪拌体の前記羽根部に穴が設けられており、前記攪拌体が振動すると、前記原料、前記混合物A、前記混合物Bおよび/または前記エマルションが前記穴を介して流通し、混合が促進されることを特徴とする、請求項1に記載のエマルション製造方法。
【請求項3】
前記ミキサーが、商品名VIBRO MIXER(登録商標)であることを特徴とする、請求項1または2に記載のエマルション製造方法。
【請求項4】
前記原料、前記混合物A、前記混合物Bおよび前記エマルションにて硬化反応が生じないように温度調整することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のエマルション製造方法。
【請求項5】
前記樹脂成分は、前記塩基性基としてアミノ基または前記酸性基としてカルボキシル基を含んで成る、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、カーボネート樹脂、ポリブタジエン樹脂、メラミン樹脂およびベンゾグアナミン樹脂から成る群から選択される少なくとも1種以上の樹脂であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のエマルション製造方法。
【請求項6】
前記工程(i),(ii)および/または(iii)において、表面調整剤、消泡剤、可塑剤および粘度調整剤から成る群から選択される少なくとも1種以上の添加剤を前記ミキサー内に供給することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のエマルション製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のエマルション製造方法で得られるエマルションを含んで成ることを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項8】
前記水性塗料組成物が電着塗料であることを特徴とする、請求項7に記載の水性塗料組成物。
【請求項9】
基材に対して塗料を塗装して塗膜を形成する方法であって、
前記塗料が、請求項7に記載の水性塗料組成物であることを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項10】
請求項9に記載の塗膜形成方法によって得られることを特徴とする塗装物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−80257(P2008−80257A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263782(P2006−263782)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】
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