説明

排ガス処理装置及びその処理方法

【課題】 排ガス中の有害ガスの分解処理に、非熱プラズマを低電圧で発生させて省エネルギー化できる効率的な排ガス処理装置及びその処理方法を提供する。
【解決手段】 排ガスの出入り口を設けた非熱プラズマ反応器と、その反応器の内部に配置された線状導電性物質と、その反応器内に非熱プラズマを発生させる手段とを備えた排ガス処理装置である。その線状導電性物質としては、アスペクト比が5以上である金属線、カーボンナノチューブ、半導体細線、及びそれらのウィスカーまたはナノワイアから選ばれる1種以上を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気汚染の防止にプラズマを利用する排ガス処理技術に係るものであり、詳しくは、排ガス中の有害成分を非熱プラズマを用いて分解させる排ガス処理装置及びその装置を用いる排ガス処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、大気汚染を防止するために排ガス中の有害成分を無害化する排ガス処理については数多くの研究開発が行われており、それらの中にはプラズマと触媒を併用した排ガス処理装置も既に知られている。
このようなプラズマ及び触媒を利用するものとして、電極表面に触媒作用を有する金属などを被着した電極間にプラズマを発生させ,対象となる有害ガスを常温・常圧下で分解させるガス浄化装置(例えば、特許文献1参照)が提案されているが、この装置では、触媒として多種類の金属を使用できることが開示されているものの、これらの金属は電極上にメッキしたものに限られており、金属の形状に着目したものではない。
【0003】
また、鉄、金、白金をコーティングした電極を用いてその触媒作用について検討したこと(例えば、非特許文献1参照)が報告されているが、使用する触媒の形状は平面状のもののみである。さらに、DBD(Dielectric Barrier Discharge)プラズマの一方の電極を多数の針状電極とすることにより、開始電圧が低くなるとともにNO分解のエネルギー効率が向上すること(例えば、非特許文献2参照)が報告されている。しかし、その電極材質には真鍮の一種のみを用いるものであるうえに、金属の触媒作用には着目されていない。
【0004】
【特許文献1】特許第2111722号
【非特許文献1】Appl.Catal.A:General 219(2001) 25−31
【非特許文献2】IEEE Trans.Plasma Sci. 27(1999) 1137−45
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、排ガス処理にプラズマを用いれば有害ガスを分解できることは良く知られているが,従来,プラズマを発生させるエネルギーが大きいことが問題であった。すなわち、電極間隔を狭めるとプラズマ発生電圧を低くすることができるが、プラズマ体積が減少するため有害ガス処理量あたりの使用エネルギーを減少させることができなかった。
本発明は、従来の技術における上記した実状に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、排ガス中の有害ガスの分解処理に、非熱プラズマを低電圧で発生させて省エネルギー化できる効率的な排ガス処理装置及びその処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、非熱プラズマを発生させる電極間領域内に、金属線等の線状の導電性物質を配置すると、これらが中間電極となり非熱プラズマの体積を減少させることなくプラズマ発生電圧を大幅に低下させることができ、かつ,金属線等の触媒効果により効率的に有害ガスを分解させることができることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、排ガスの出入り口を設けた非熱プラズマ反応器と、その反応器の内部に配置された線状導電性物質と、その反応器内に非熱プラズマを発生させる手段とを備えたことを特徴とする排ガス処理装置である。
また、本発明は、非熱プラズマを用いる排ガス処理方法であって、排ガスを内部に線状導電性物質を設けた非熱プラズマ反応器内に導入し、その反応器に非熱プラズマを発生させて排ガス中の有害成分を分解させることを特徴とする排ガス処理方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、排ガス中の有害成分を従来よりも大幅に少ないエネルギーで効率的に分解させることができるから、各種排ガスの処理を低コストで簡易な装置を用いて行うことができ、工業的実施に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、排ガス中に含まれる有害成分を非熱プラズマで処理する際に、反応器中の非熱プラズマを発生させる部位(プラズマ反応器内)に線状の導電性物質を配置し、その中に非処理成分である排ガスを流入させて、有害成分を従来よりも大幅に少ないエネルギーで分解させることができる排ガス処理装置及びその装置を用いる排ガス処理方法である。
【0010】
本発明によれば、従来の接触分解法を用いて処理されている各種排ガスの処理が可能である。処理できる排ガスとしては、揮発性有機溶剤、悪臭成分、ガス状無機酸化物などが含まれる工場等の排ガス、自動車等からの排ガスであって、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類、アルコール類、アルデヒド類、エステル類等の有機溶剤、硫化水素、メルカプタン類、アンモニア等の悪臭成分、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、一酸化炭素等の無機酸化物等;を含むガスである。
【0011】
本発明における非熱プラズマを用いた排ガス処理においては、プラズマ発生部分に金属線などの線状導電性物質を配置、好ましくはアスペクト比(長さと直径の比)が5以上の細い線状導電性物質を分散させて配置することにより、
その導電性物質の端部が新たな放電点となって排ガス中の有害成分を効率的に分解させることができる。さらに、線状導電性物質の端部は有害成分を分解させる触媒としての作用も行うものである。
【0012】
用いられる導電性物質としては、電圧を印加すると非熱プラズマを発生する線状導電性部材であれば使用可能であって、通常の鉄、銅などの金属線のみならず、炭素材料、カーボンナノチューブ、半導体細線、それらのウィスカー、ナノワイアなどが挙げられる。これらの導電性物質は、細い線状のものであってアスペクト比(長さと直径の比)が5程度以上、好ましくは5〜100の微細な線状に切断したものを用いることが好ましい。また、これらの導電性物質は、反応器内で十分に分散されるように充填材中に保持されて配置することが好ましい。その充填材としては、ガスの通過を可能な限り妨げない多孔質のものが好ましく、例えば、ガラスウール、石英ウールなどが用いられる。
【0013】
反応装置としては、従来公知のプラズマ装置において、電圧を印加して非熱プラズマを発生させるプラズマ反応器内に上記した線状の導電性物質を配置させたものであれば如何なる形状、構造のものも使用可能である。電圧印加方法としては、商用周波数乃至、低周波、高周波、マイクロ波が用いられる。
【0014】
図1〜3は、本発明に用いられる一例のプラズマ反応器の構造を示す断面概略図を示す。図1には平行平板型のプラズマ反応器を示し、図2には平行平板型多段式プラズマ反応器を示し、また図3には同軸円筒型プラズマ反応器を示す。
実施例
以下、本発明について実施例などを用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
図4に示すプラズマ実験装置を用いて、NOを含むガスの分解を行った。この装置のプラズマチャンバは、2枚のAl製電極(80mmφ)のそれぞれを石英ガラスで覆い、10mm間隔で対向させ、その電極間空間内に敷いた石英ウールの中に、導電性物質として素線0.1mmφのSUSメッシュを斜めに1〜2mm幅で切断したもの(SUS細線)1.9gを分散させた。
次に、その2つの電極間に50Hz交流で電圧18〜25kVを印加してプラズマを発生させた。
その装置内に、NO1000ppm、酸素2.7%を含む窒素ガスを流量20ml/min.で導入し、NOの分解反応を行った。この反応後の流出ガスについて2台のガスクロマトグラフ、NOx計, 質量分析計で分析した。比較のため、SUS細線を用いないものについても同様に分析した。
得られた結果を図5に示した。図5には、印加電圧とNO分解率との関係を示す。図5に見るように、SUS細線を用いた場合には、SUS細線無しの場合に比べてはるかに高いNOx分解率を得た。ただし、SUS細線無しでもさらに高電圧にすれば同等の分解率を達成できるが、プラズマ処理にSUS細線を加えることにより低電圧で効率的に有害ガスを分解できることがわかる。
【実施例2】
【0016】
実施例1において、装置のプラズマチャンバに用いたSUS細線に代えて、導電性物質として直径0.05mmφのPd線を2〜3mmに切断したもの(Pdワイヤ)0.045gを用いたこと以外は、実施例1と同じ装置を用い、同様にプラズマを発生させた。その装置内に、反応ガスとしてNO1000ppmを含み、かつそれぞれ酸素濃度を2.7%、4.1%及び6.3%を含む窒素ガスを流量20ml/min.で導入し、NOの分解反応を行った。この反応後の流出ガスについて実施例1と同様にして分析した。比較のため、Pdワイヤ無しのもの、実験装置内にPd/Al(5%)0.94gを石英ウール中にまぶしたものについても同様に分析した。
得られた結果を図6に示した。図6には、反応ガス中の酸素濃度とNO分解率との関係を示す。図6に見るように、酸素濃度が高くなるといずれの場合もNOx分解率は低下するが、Pd線は全ての酸素濃度に対してNOx分解率は向上した。一方、Pd/Al触媒の場合には触媒無しの場合と同等以下であった。
【実施例3】
【0017】
実施例1において、装置のプラズマチャンバに用いたSUS細線に代えて、導電性物質として長さ2m、直径0.05mmφのPd線を逐次切断し、それぞれ1本、8本、32本、約600本を石英ウール内に分散させ、反応ガスとして実施例2に用いたと同じガスを同様に導入し、NOの分解反応を行った。この反応後の流出ガスについて分析した結果を図7に示した。
その結果、図7に見るように横軸を本数とすると、全長(したがってPd重量)は一定で変わらないにもかかわらず, NOx分解率は分散させたPdの本数とともに増加した。
【実施例4】
【0018】
実施例1に用いた装置において、導電性物質としてそれぞれNi(0.025φ、 10mを2〜3mmに切断したもの)0.029gまたはFe(ウール状物)0.35gを用い、同様にしてNOの分解反応を行った。この反応後の流出ガスについて分析した結果を図8に示した。その結果、使用した導電性物質は、ほぼ同等のNOx分解率を示したが、副生成物NOの生成は金属種による触媒効果の違いによる差異が大きく、PdとSUSが良好であることがわかった。
【実施例5】
【0019】
実施例1に用いた装置において、導電性物質としてウール状鉄0.35gを用い、NO1000ppmを含み、
酸素を含まない窒素ガスの分解反応を行った。また、導電性物質を用いない場合についても同様に分解反応を行った。
その生成ガスを分析した結果を図9に示した。その結果、ウール状鉄を用いた場合には、それを用いない場合に比べて、同一電圧ではるかに高いNOx分解率を与えた。触媒によって低電圧で効率的に有害ガスを分解できることがわかる。このときの電源出力を比較すると、NOxの98%を分解するのに要したパワーは触媒無しの場合に19Wであるのに対して、触媒有りでは9.0Wと1/2以下であった。
【実施例6】
【0020】
実施例1に用いた装置において、導電性物質としてウール状鉄0.35gを用いた。その装置に非処理ガスとして、ベンゼン50ppm、酸素10%、窒素10%を含むヘリウムガスを導入したこと以外は、実施例1と同様にして分解反応を行った。また比較のため、ウール鉄無しのものについても分解反応を行った。
その生成ガスを分析した結果を図10に示した。その結果、ウール状鉄ありの場合には、ウール鉄無し比べて同一電圧で極めて高いベンゼン分解率を与えた。ベンゼンの95%分解に必要な電源パワーはウール状鉄無しの場合6.7W、有りの場合4.3Wで、35%の省エネルギーとなっている。このことは、導電性物質の存在によって低電圧・低電力で効率的に有害ガスを分解できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に用いられる一例のプラズマ反応器の要部構造を示す断面概略図である。
【図2】本発明に用いられる他の一例のプラズマ反応器の要部構造を示す断面概略図である。
【図3】本発明に用いられる他の一例のプラズマ反応器の要部構造を示す断面概略図である。
【図4】本発明の実施例などに用いたプラズマ発生反応器の構造を示す断面概略図を示す。
【図5】実施例1で得られたNOx分解率と印加電圧との関係を示すグラフである。
【図6】実施例2で得られたNOx分解率と酸素濃度との関係を示すグラフである。
【図7】実施例3で得られたNOx分解率とPd線の本数との関係を示すグラフである。
【図8】実施例4で得られたNOx分解率及びNO生成率と酸素濃度との関係を示すグラフである。
【図9】実施例5で得られたNOx分解率と印加電圧との関係を示すグラフである。
【図10】実施例6で得られたベンゼン分解率と印加電圧との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0022】
1・・・電極
2・・・誘電体(ガラス等)
3・・・充填材(ガラスウール等)
4・・・線状導電性物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスの出入り口を設けた非熱プラズマ反応器と、その反応器の内部に配置された線状導電性物質と、その反応器内に非熱プラズマを発生させる手段とを備えたことを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項2】
前記線状導電性物質は、アスペクト比が5以上である金属線、カーボンナノチューブ、半導体細線、及びそれらのウィスカーまたはナノワイアから選ばれる1種以上からなるものである請求項1に記載の排ガス処理装置。
【請求項3】
前記線状導電性物質は、充填材中に分散させたものである請求項1または2に記載の排ガス処理装置。
【請求項4】
非熱プラズマを用いる排ガス処理方法において、排ガスを内部に線状導電性物質を設けた非熱プラズマ反応器内に導入し、その反応器に非熱プラズマを発生させて排ガス中の有害成分を分解させることを特徴とする排ガス処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−247507(P2006−247507A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−66730(P2005−66730)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度経済産業省「エネルギー需給構造高度化技術開発等委託費 低エネルギー消費型環境負荷物質処理技術研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】