説明

排ガス浄化装置

【課題】捕集漏れのPMが増加する前に使用を停止することが可能であると共に、限界近くまで有効に使用することが可能な排ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】ディーゼル車に搭載される排ガス浄化装置1であって、多孔質セラミックスで構成され単一の方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセル11,12を備えるフィルタ本体20と、それぞれフィルタ本体に当接して配設された発振子31及び受振子32を備え、発振子により発振された超音波を受振子で受振することにより、フィルタ本体内を超音波が伝播する伝播時間を計測する超音波センサ30と、超音波センサによる計測結果に基づく情報をディーゼル車の運転者に報知する報知装置41,42とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気から粒子状物質を除去する排ガス浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出されるガスに含まれる粒子状物質(Particulate Matter。以下、「PM」と称することがある。)は、大気を汚染すると共に健康に悪影響を及ぼすおそれがあることから、ディーゼル車には排ガス中のPMを捕集し除去する排ガス浄化装置が搭載されている。一般的な排ガス浄化装置は、多孔質セラミックスで構成され単一の方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを有するフィルタ(ディーゼルパティキュレートフィルタ。以下、「DPF」と称することがある。)を備えており、セルは一端が封止されたものと他端が封止されたものとが交互に配設されている。かかる構成により、排ガスは一方向に開口したセルから流入し、多孔質セラミックスの隔壁を通過してから他方向に開口したセルから流出するため、ガスが隔壁を通過する際に、隔壁の表面及び気孔内に排ガス中のPMが捕集される。
【0003】
排ガス中のPM濃度については、法律によって規制値が定められているが、近年この規制値はより厳しいものとなっている。例えば、2009年から日本で実施されているポスト新長期規制では、PM濃度の規制値は0.005g/kmと従前より大幅に引き下げられており、排ガス浄化装置には極めて高レベルのPM捕集性能が要求される。また、2008年から欧州で実施されているEuro5でも同じくPMの規制値は0.005g/kmであり、米国において2009年から実施されているTier2 Bin5でもPMの規制値は0.006g/kmと同程度であり、規制の強化は世界的な動向である。更に、東京都を含む所定の地域では、規制値を達成していないディーゼル車、或いは指定された排ガス浄化装置を装着していないディーゼル車については、当該地域内への乗り入れを禁止するという措置をとっている。そのため、気孔径や気孔径分布等の制御により、PMの捕集性能を高めたDPFの開発が種々進められている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、一般的なDPFでは、捕集したPMがある程度堆積した時点で、通電による自己発熱または外部加熱によってPMを燃焼させる再生処理が行われる。そのため、再生処理の際に発生する熱応力に起因して、DPFの隔壁に亀裂が生じることがある。加えて、車両の走行に伴う振動やエンジンの運転及び停止の繰り返しにより発生する熱応力によっても、隔壁に亀裂が生じる可能性がある。また、多数のセルからなるセグメントが複数接着されて形成されているDPFでは、隔壁だけではなく接着層においても、亀裂が生じるおそれがある。そして、気孔径や気孔径分布等の制御によってPMの捕集効率が高められていたとしても、亀裂が発生してしまえば、捕集されずに漏れるPMが増加して上記の規制値を満たさなくなってしまうおそれがある。
【0005】
しかしながら、亀裂等に起因して捕集漏れのPMが増加するに至ったことを検知できる排ガス浄化装置は、現時点では実施されていない。そのため、排ガス中のPM濃度が法による規制値を満たさなくなっていたとしても、ディーゼル車の運転者はそれを知ることができない。そのため、次の車検時までその事実を知らず、規制値以上のPMを排出しながら走行を続けるおそれや、上記の規制地域で抜き打ち検査を受けて初めてその事実を知り、当該地域への乗り入れをその場で制限されて、運送業などの業務に支障をきたすおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明者らは、亀裂の発生等に起因して捕集漏れのPMが増加した場合に、PMの実測値に基づいて、ディーゼル車の運転者がこれを遅滞なく認識することができる排ガス浄化装置を提案している。なお、提案された発明にかかる出願は出願公開前であるため、文献公知発明に該当しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記提案にかかる排ガス浄化装置は、捕集漏れのPMが実際に増加して初めて、これを検知するものである。そのため、遅滞なく検知できる利点は大きいものの、検知後にDPFを交換する等の処置を取るまでは、規制値を超えたPMを排出しながら走行を続けてしまうおそれがあった。一方、そのような事態を回避すべく早めにDPFを新品に交換するのは、非経済的であると共に資源の有効利用の点からも望ましいものではない。
【0008】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、ディーゼル車に搭載される排ガス浄化装置であって、捕集漏れのPMが増加する前に使用を停止することが可能であると共に、限界近くまで有効に使用することが可能な排ガス浄化装置の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる排ガス浄化装置は、「ディーゼル車に搭載される排ガス浄化装置であって、多孔質セラミックスで構成され単一の方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるフィルタ本体と、それぞれ前記フィルタ本体に当接して配設された発振子及び受振子を備え、前記発振子により発振された超音波を前記受振子で受振することにより、前記フィルタ本体内を超音波が伝播する伝播時間を計測する超音波センサと、該超音波センサによる計測結果に基づく情報を前記ディーゼル車の運転者に報知する報知装置とを」具備している。
【0010】
「多孔質セラミックス」としては、炭化珪素質、窒化珪素質、コージェライト質、アルミナ質、ムライト質セラミックス等の多孔質体を使用することができる。
【0011】
「超音波センサ」による「伝播時間」の計測は、例えば、予め定めた所定時間間隔で行われる設定、或いは、捕集されたPMがある程度堆積しPMを燃焼させる再生処理が行われた後に行われる設定とすることができる。
【0012】
「超音波センサによる計測結果に基づく情報」が「報知装置」により報知される態様としては、超音波センサによって計測された伝播時間そのものが、報知装置としての表示装置に表示される態様を例示することができ、この場合、表示装置は運転席近傍に設けられるのが良い。その他、後述のように、超音波センサによる計測結果に基づいて、コンピュータによって亀裂の程度が判定され、その判定結果が表示装置に表示される態様や、判定結果に応じて報知装置から警告音が発せられ、或いは、警告灯が点灯される態様を例示することができる。
【0013】
フィルタ本体に亀裂が発生すると、超音波がフィルタ本体内を伝播する伝播時間が変化する。例えば、超音波がフィルタ本体内を透過するように発振子及び受振子が取り付けられた場合、フィルタ本体内に亀裂が存在する場合は、亀裂が存在しない場合より超音波の伝播時間は長くなる。具体的に、超音波の伝播時間を一般的なDPFについて測定した結果を示して説明する。このDPFは、図5に示すように、複数のセグメント110が接着層125a,125bを介して接合され、外周面に外周材層129が設けられたフィルタ本体120を備えている。そして、フィルタ本体120においては、図中で網掛けを付した接着層125aに沿って視認できる大きさの亀裂が生じており、その他の接着層125bには亀裂は生じていない。
【0014】
このようなフィルタ本体120について、発振子及び受振子の一方をフィルタ本体120の上流側端面のA〜Hの何れかの位置に当接させ、他方を下流側端面のa〜eの何れかの位置に当接させて、超音波の伝播時間を計測した結果を、表1及び表2に例示する。このとき、A−b間など亀裂のある接着層125aを挟んで超音波が伝播する場合の伝播時間を表1に、A−a間など亀裂のない接着層125bを挟んで超音波が伝播する場合の伝播時間を表2に示す。なお、図5では、発振子及び受振子の取付け位置について、上流側端面における位置を白抜きの丸印で、下流側端面における位置を黒塗りの丸印で示している。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
表1と表2を対比すると明らかなように、亀裂のある接着層125aを挟んで超音波が伝播する場合は、亀裂のない接着層125bを挟んで超音波が伝播する場合より伝播時間が長い。これは、亀裂が生じている場合、伝播経路を最短とする超音波の伝播が、亀裂すなわち空気の層によって妨げられ、亀裂のない部分を迂回した超音波の伝播が計測されるために、伝播経路が長い分だけ伝播時間が長くなるものである。
【0018】
そして、後述のように、本発明者らは、フィルタ本体に亀裂が発生する場合、捕集漏れのPMが増加するほどの大きさの亀裂が一気に発生するのではなく、まず捕集漏れのPMの増加には至らない程度の微小な亀裂が発生し、その亀裂が進展及び拡大することによって捕集漏れのPMの増加に至ること、及び、排ガス浄化装置を上記構成として超音波の伝播時間を計測することにより、捕集漏れのPMが増加するほどの大きさの亀裂はもちろんのこと、捕集漏れのPMの増加には至らない程度の微小な亀裂であっても、その存在を検知できることを見出した。
【0019】
従って、上記構成の本発明によれば、フィルタ本体内の超音波の伝播時間を計測することにより、微小な亀裂の発生を検知し、そのまま使用を継続すればまもなく捕集漏れのPMが増加することを知ることができる。その結果、捕集漏れのPMが増加していない段階で、新しいフィルタ本体に取り換える等の適切な処置を行うことが可能となり、規制値を超えてPMを大気中に排出しながらディーゼル車を走行させる事態を、回避または低減することが可能となる。また、捕集漏れのPMが増加していない段階で使用を停止し、新しいフィルタ本体に取り換えても、既に亀裂が発生し使用限界が近づいた段階であるため、資源の有効利用の点においても経済性においても無駄のないものとなる。
【0020】
本発明にかかる排ガス浄化装置は、「前記フィルタ本体は、複数の前記セルを備えるセグメントが接着層を介して複数接合されて形成されており、前記発振子及び前記受振子は、両者を結ぶ直線が前記接着層と交差するように前記フィルタ本体に当接している」ものとすることができる。
【0021】
「接着層」は、複数のセグメントの側面に接着材を塗布し、セグメントどうしを接着したのち乾燥させることにより、セグメント間に形成された層である。ここで、接着材としては、炭化珪素,アルミナ,ムライト等のセラミックス粉末やセメント粉末を、シリカゾル,アルミナゾル等の無機バインダー、またはメチルセルロース等の有機バインダーと混合することにより得られた、ペースト状の接着材を例示することができる。
【0022】
一般的に、フィルタ本体の断面積を大きくしPMの捕集量を増加させることを目的として、また、熱衝撃を吸収・緩和することを目的として、複数のセグメントが接着層を介して接合されたフィルタ本体を備えるDPFが多用されている。このような構成のフィルタ本体では、セグメント内に亀裂が存在していなくても接着層に亀裂が存在していれば、捕集漏れのPMが増加するおそれがある。ところが、発振子及び受振子が同一のセグメントに当接している場合は、接着層に亀裂が発生していたとしてもセグメント内に亀裂が存在していなければ、超音波は亀裂に妨げられることなく発振子から受振子へと伝播し、伝播時間によって亀裂の存在を検知することができない。
【0023】
これに対し、本発明では、発振子及び受振子を結ぶ直線が接着層と交差する構成であるため、発振子から受振子に向かって超音波が直進しようとすると、必ず接着層が介在し、接着層に亀裂が生じていれば、そのことが伝播時間に反映される。従って、上記構成の本発明によれば、複数のセグメントが接着層を介して接合されたフィルタ本体を有する排ガス浄化装置について、セグメント内における亀裂の発生と、接着層における亀裂の発生とを、共に検出することができる。
【0024】
本発明にかかる排ガス浄化装置は、「前記超音波センサによる計測結果に基づいて前記フィルタ本体における亀裂の程度を判定する判定装置を更に具備し、前記報知装置は、前記判定装置による判定に基づく報知を行う」ものとすることができる。
【0025】
「亀裂の程度の判定」は、例えば、捕集漏れのPMの増加には至らない程度の微小な亀裂が発生した、捕集漏れのPMが規制値を超えるほどの亀裂が発生した、あるいは、そのような亀裂は発生していない、等の段階的な判定とすることができる。
【0026】
「判定装置」は、例えば、マイクロコンピュータで構成させることができる。そして、マイクロコンピュータには、超音波センサにより計測された伝播時間を、使用開始直後の新品のフィルタ本体について計測された伝播時間(以下、「初期伝播時間」という)と対比し、その差に基づいて亀裂の程度を判定するプログラムを予め記憶させておくことができる。このような判定としては、例えば、計測された伝播時間が初期伝播時間に対して所定割合だけ変化したとき、あるいは計測された伝播時間が初期伝播時間から所定値だけ変化したときに、微小な亀裂が発生したと判定し、更に、伝播時間が上記とは異なる所定値あるいは所定割合だけ初期伝播時間に対して変化したときに、捕集漏れのPMの増加に至る大きな亀裂が発生したと判定するものとすることができる。なお、判定の基準となる所定値あるいは所定割合は、フィルタ本体の材質、気孔に関する特性、寸法などの各種条件を同一として、捕集漏れのPMを測定しつつ超音波の伝播時間を計測する測定を多数行い、統計的に処理することにより、それぞれ数値範囲として設定することが可能である。
【0027】
或いは、経時的に計測された伝播時間から近似式を導出し、この近似式から外れる計測結果が得られた場合に、これに基づいて亀裂の程度を判定するプログラムを、マイクロコンピュータに予め記憶させておくことができる。
【0028】
報知装置が「前記判定装置による判定に基づく報知を行う」態様としては、判定結果に応じたメッセージを表示装置に表示させる態様、亀裂の程度によって色が相違する警告灯を点灯させる態様、亀裂の程度によって音の種類が相違する警告音を発生させる態様を例示することができる。
【0029】
本発明では、排ガス浄化装置によって亀裂の程度が判定され、その結果がディーゼル車の運転者に報知される。従って、上記構成の本発明によれば、超音波の伝播時間の計測結果がそのまま報知される場合に比べて、フィルタ本体の使用限界が近づいたことを運転者が認識し易い。これにより、規制値を超えたPMを大気中に排出しながらディーゼル車を走行させる事態を、より確実に回避または低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明の効果として、ディーゼル車に搭載される排ガス浄化装置であって、捕集漏れのPMが増加する前に使用を停止することが可能であると共に、限界近くまで有効に使用することが可能な排ガス浄化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態の排ガス浄化装置の構成図である。
【図2】フィルタ本体Aについて、所定のPM堆積量での再生処理後に排ガスに含まれるPMの粒子個数濃度を示すグラフである。
【図3】フィルタ本体Aについて、所定のPM堆積量での再生処理後の超音波伝播時間を示すグラフである。
【図4】フィルタ本体Bについて、所定のPM堆積量での再生処理後の超音波伝播時間を示すグラフである。
【図5】亀裂のない接着層が介在する場合と亀裂のある接着層が介在する場合について、超音波の伝播時間を比較するために行った測定を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の一実施形態である排ガス浄化装置1について、図1乃至図4に基づいて説明する。本実施形態の排ガス浄化装置は、ディーゼル車に搭載される排ガス浄化装置1であって、図1に示すように、多孔質セラミックスで構成され単一の方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセル11,12を備えるフィルタ本体20と、それぞれフィルタ本体20に当接して配設された発振子31及び受振子32を備え、発振子31により発振された超音波を受振子32で受振することにより、フィルタ本体20内を超音波が伝播する伝播時間を計測する超音波センサ30と、超音波センサ30による計測結果に基づく情報をディーゼル車の運転者に報知する報知装置41,42とを具備している。加えて、本実施形態の排ガス浄化装置1は、超音波センサ30による計測結果に基づいて、フィルタ本体20における亀裂の程度を判定する判定装置40を更に具備しており、報知装置41,42は、判定装置による判定に基づく報知を行う構成とされている。
【0033】
より詳細に説明すると、セル11,12は、一方向に開放したセル11と他方向に開放したセル12とが交互となるように、それぞれの一端が封止部15によって封止されている。そして、フィルタ本体20は、ディーゼルエンジン55から排出される排ガスの流通経路57に設けられている。
【0034】
また、本実施形態のフィルタ本体20は、複数のセル11,12を備えるセグメント10が接着層25を介して複数接合されて形成されており、発振子31及び受振子32は、両者を結ぶ直線が接着層25と交差するようにフィルタ本体20に当接している。特に、本実施形態では、発振子31及び受振子32は、フィルタ本体20において排ガスが流入する上流側端面21及び排ガスが流出する下流側端面22を除く側面に当接するように取り付けられている。より具体的には、発振子31及び受振子32は両者間の距離がほぼ最長となるように、即ち、発振子31及び受振子32の一方が上流側の側面に、他方が下流側の側面に設けられていると共に、両者を結ぶ仮想的な直線がフィルタ本体20のほぼ中心を通るように設けられている。なお、図1では、発振子31が上流側の側面に、受振子32が下流側の側面に設けられた場合を示しているが、もちろん逆であっても構わない。
【0035】
発振子31及び受振子32を備える超音波センサ30は、判定装置40としてのマイクロコンピュータに接続されており、マイクロコンピュータの記憶装置には、フィルタ本体20における亀裂の程度を判定するためのプログラムが記憶されている。更に、判定装置40には、判定装置40による判定に基づいて報知を行う報知装置としての警告灯41及び警告音発生装置42が接続されている。
【0036】
上記構成の排ガス浄化装置1では、ディーゼルエンジン55の運転を開始すると、排ガスは上流側端面21からフィルタ本体20に導入されて下流側端面22から排出される。その過程で、排ガスに含まれるPMは隔壁の表面及び気孔によって捕集される。超音波センサ30は、所定時間間隔で発振子31から超音波を発振し、フィルタ本体20内を透過した超音波を受振子32によって受振して、超音波の伝播時間を計測する。計測された伝播時間は超音波センサ30から判定装置40に送信され、判定装置40は受信した伝播時間を記憶すると共に、伝播時間に基づいて亀裂の程度を判定する。そして、判定装置40は、判定結果に応じて警告灯41を制御して点灯させると共に、警告音発生装置42を制御して警告音を発生させる。
【0037】
ここで、判定装置40による判定条件は、排ガス浄化装置1に使用されるフィルタ本体20と同種類のフィルタ本体について、予め超音波の伝播時間と亀裂の程度との関係を調べることにより設定することができ、亀裂の程度は、捕集漏れのPMの実測値によって評価することが可能である。例として、種類の異なる二種類のフィルタ本体A,Bについて、超音波の伝播時間の計測結果と、捕集漏れのPMをPM計測装置で計測した結果を以下に示す。
【0038】
フィルタ本体A,Bは、何れも炭化珪素質のセラミックス材料を用いて、公知の方法で製造されたものである。具体的には、まず、セラミックス材料の粉末をバインダー、水及び分散剤と混合・混練して所定の粘度の混練物とし、単一の方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造を有し、かつ角柱状の成形体を、押出成形によって作製した。この成形体を乾燥した後、非酸化性雰囲気下で焼成し、得られたセグメントを接着材を用いて複数結束し、乾燥した後に研削機を用いて円筒状に加工した。更に、外周面に外周材を塗布した後、加熱処理をした。ここで、接着材及び外周材としては、炭化珪素粉末及びセラミックス繊維にバインダー及び分散剤を添加して混合したペーストを用いた。なお、フィルタ本体A,Bは、セル密度(200セル/平方インチ)、隔壁の厚さ(0.4mm)、直径(5.66インチ)において同一であり、排ガスの流通方向の長さ(フィルタ本体Aは10インチ、フィルタ本体Bは6インチ)及びセラミックス材料の配合において相違している。
【0039】
上記のフィルタ本体A,Bを、それぞれキャニングした上で排ガスの流通経路に設置し、ディーゼルエンジン(日産自動車製QD32型)からの排ガスを導入した。定常運転条件(エンジン回転数1400rpm、トルク200Nm)で所定量のPMを堆積させた後、PMを燃焼させる再生処理を行い、再生処理の際の熱衝撃に起因して亀裂が発生していないかを、排ガス単位体積あたりのPM粒子個数を測定することにより評価した。PM粒子個数濃度は、フィルタ本体から排出された排ガスを空気で希釈した後、PM計測装置(ダイレック製EEPS 3090)を用いて計測した。なお、再生処理は、エンジンの回転数を上げてフィルタ本体の温度を約680℃まで上昇させた後、一気にアイドリング状態として酸素供給量を増加させ、堆積したPMを燃焼させることにより行った。
【0040】
フィルタ本体Aについて、所定量のPMを堆積させた後に再生処理を行い、冷却後に再び定常運転状態で運転している状態で、排ガス単位体積あたりのPM粒子個数を計測した結果を図2に、超音波の伝播時間を計測した結果を図3に示す。なお、PM堆積量が0g/cmとは、新品のフィルタ本体の使用開始直後の状態である。また、超音波センサとしては、周波数50kHzの超音波を発振する発振子を備えるものを使用した。
【0041】
図2から、捕集漏れのPMの粒子個数濃度は、PM堆積量12g/cmでの再生処理までほとんど変化しておらず、PMの排出量は許容範囲(ポスト新長期規制における規制値以下)であったが、PM堆積量14g/cmでの再生処理後には、捕集漏れのPMの粒子個数濃度は大きく増加しており、PMの排出量は規制値を超えていた。従って、PM堆積量14g/cmでの再生処理によって、PMの捕集漏れの増加につながるほどの大きな亀裂が発生したと考えられた。
【0042】
一方、図3に示すように、超音波の伝播時間はPM堆積量10g/cmでの再生処理までほぼ一定であったが、PM堆積量12g/cmでの再生処理後に大きく上昇し、PM堆積量14g/cmでの再生処理後に更に上昇している。このことから、超音波の伝播時間の計測により、PMの捕集漏れの増加には至らない程度の微小な亀裂の発生が検知できることが分かる。なお、図3において、白抜きのマーカーはPMの排出量が許容範囲内にあることを示し、黒塗りのマーカーはPMの排出量が規制値を超えていることを示している。また、各マーカーの上に記した数値は、各時点の伝播時間を、使用開始直後(堆積量0g/cm)の伝播時間、即ち、初期伝播時間を1として示したものである。
【0043】
従って、上記の結果に基づきフィルタ本体Aについては、例えば、超音波の伝播時間の初期伝播時間に対する比が1.15を超えたときに、PMの捕集漏れの増加には至らない程度の微小な亀裂が発生したと判定することとし、この判定条件を判定装置に設定しておくことができる。これにより、PMの排出量が規制値を超える前に、このまま使用を継続するとまもなくPMの排出量が規制値を超えるほどの亀裂が発生することを報知することができる。なお、上記のような判定条件は、多数回の実測に基づく統計的処理から導びくことが望ましい。
【0044】
フィルタ本体Bについて、所定のPM堆積量での再生処理後に、超音波の伝播時間の計測及びPMの粒子個数濃度の計測を行ったところ、上記と同様の結果が得られた。即ち、図4に示すように、PM堆積量10g/cmでの再生処理後までは伝播時間はほぼ一定でPMの排出量も許容範囲内であり、PM堆積量12g/cmでの再生処理後に、捕集漏れのPMの増加には至らないが超音波の伝達時間が長くなり、PM堆積量14g/cmでの再生処理後には超音波の伝達時間が更に長くなると共に、捕集漏れのPMが大きく増加し規制値を超えた。なお、図4では、上記と同様に、白抜きのマーカーはPMの排出量が許容範囲内にあることを示し、黒塗りのマーカーはPMの排出量が規制値を超えていることを示している。また、マーカーの上の数値は、各時点の伝播時間を初期伝播時間を1として示したものである。
【0045】
従って、上記の結果に基づきフィルタ本体Bについては、例えば、超音波の伝播時間の初期伝播時間に対する比が1.2を超えたときに、PMの捕集漏れの増加には至らない程度の微小な亀裂が発生したと判定する判定条件とすれば、PMの排出量が実際に規制値を超える前に、そのような事態にまもなく至ることを報知することができる。
【0046】
上記のように、本実施形態の排ガス浄化装置1によれば、捕集漏れのPMの増加には至らない程度の微小な亀裂の発生を検知することができる。その結果、PMの排出量が規制値を超えていない段階で、且つ、使用限界が近い段階で、新しいフィルタ本体に取り換える等の処置を行うことが可能となる。
【0047】
また、発振子31及び受振子32が、両者を結ぶ直線が接着層25と交差するようにフィルタ本体20に当接している構成であるため、セグメント10内における亀裂の発生と、接着層25における亀裂の発生とを、共に検知することができる。
【0048】
ここで、発振子31及び受振子32の一方をフィルタ本体20の上流側端面21に当接させ、他方を下流側端面22に当接させると共に、発振子31及び受振子32をそれぞれ異なるセグメント10に当接させることによっても、発振子31と受振子32とを結ぶ直線が接着層25と交差する構成とすることができるところ、本実施形態では発振子31及び受振子32を共にフィルタ本体20の側面に当接させている。そのため、フィルタ本体20への排ガスの導入、及びフィルタ本体20からの排ガスの排出が、発振子31及び受振子32によって妨げられることがない。これにより、フィルタ本体20によるフィルタリング作用を、十分に発揮させることができる。
【0049】
また、本実施形態では、発振子31及び受振子32間の距離が、ほぼ最長となるように両者の取り付け位置が設定されているため、フィルタ本体20内のどの部分で亀裂が発生しても、確度高くこれを検知することができる。
【0050】
更に、本実施形態では、超音波センサ30による伝播時間の計測結果が、そのまま運転者に報知されるのではなく、判定装置40によって亀裂の程度が判定されてから、その判定結果が報知される構成である。そのため、フィルタ本体20の使用限界が近づいたことを運転者が認識し易く、PMの排出量が規制値を超えてしまう前に、新しいフィルタ本体に交換する等の適切な処理を確実に行うことができる。
【0051】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0052】
例えば、上記の実施形態では、フィルタ本体20内を透過した超音波の検知により伝播時間を計測する場合を例示したが、これに限定されず、フィルタ本体20内で反射された超音波によって伝播時間を計測するものとすることができる。この場合の構成としては、発振子と受振子をフィルタ本体に対して同じ側に近接して当接させる構成、発振子と受振子とが一体化された単一の端子をフィルタ本体に当接させる構成を例示することができる。このような構成により反射波を利用して計測される伝播時間は、フィルタ本体内に亀裂が存在する場合は、フィルタ本体内に亀裂が存在しない場合より短くなる。この場合も、伝播時間の変化を検知することにより、同様に亀裂の程度を判定することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 排ガス浄化装置
10 セグメント
11,12 セル
20 フィルタ本体
25 接着層
30 超音波センサ
31 発振子
32 受振子
40 判定装置
41 警告灯(報知装置)
42 警告音発生装置(報知装置)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0054】
【特許文献1】特許第4130216号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼル車に搭載される排ガス浄化装置であって、
多孔質セラミックスで構成され単一の方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるフィルタ本体と、
それぞれ前記フィルタ本体に当接して配設された発振子及び受振子を備え、前記発振子により発振された超音波を前記受振子で受振することにより、前記フィルタ本体内を超音波が伝播する伝播時間を計測する超音波センサと、
該超音波センサによる計測結果に基づく情報を前記ディーゼル車の運転者に報知する報知装置と
を具備することを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記フィルタ本体は、複数の前記セルを備えるセグメントが接着層を介して複数接合されて形成されており、
前記発振子及び前記受振子は、両者を結ぶ直線が前記接着層と交差するように前記フィルタ本体に当接している
ことを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記超音波センサによる計測結果に基づいて前記フィルタ本体における亀裂の程度を判定する判定装置を更に具備し、
前記報知装置は、前記判定装置による判定に基づく報知を行う
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−270659(P2010−270659A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122711(P2009−122711)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】