説明

排出物制御における改善

酸化触媒を含む排気システムを備えてなるリーンバーン天然ガス燃料ディーゼルエンジン。そのエンジンは、例えば、車両に動力を供給するため、移動用途で使用され、或いはは発電用の固定エンジンになる。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、排出(排出物)制御における改善に関するものである。とりわけ、本発明は、特に、触媒排出制御システムを伴った天然ガス燃料の内燃機関に関するものであり、典型的には、車両(自動車)用途であるが、発電用の固定エンジンからの排出物を処理するためにもまた使用することができる。
【0002】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて、「ディーゼルエンジン」の用語は、圧縮点火内燃機関という意味において使用される。
【背景技術】
【0003】
ヘビー−デューティ(大型車両用)ディーゼルエンジンにおいては、圧縮天然ガスを使用する傾向があり、そのようなエンジンは液体ディーゼル燃料エンジンよりも、排ガス放出物における用語「よりきれい」という認識が、少なくとも一部に認められる。本発明は、新設計されたエンジン及び液体ディーゼル燃料よりむしろ天然ガスで走るように改良されたディーゼルエンジンの両方に適用される。好都合なことに、天然ガスは、圧縮天然ガス(CNG)として、又は、適切には、液化天然ガス(LNG)として貯蔵することができる。
【0004】
用語「天然ガス」は、天然ガス井戸のような鉱物源から、及び他の高級炭化水素に関連するガスから、バイオマスのガス化から、石炭ガス化プロセスから、埋立地から、それぞれ得られた、或いは、炭素酸化物及び他のメタン形成工程における水素化により製造されるガスで製造された、体積で30%以上のメタンを含有するガス、を包含する。
【0005】
メタンそれ自体及び天然ガスのセタン価(CN)は、未改良のディーゼルエンジンの燃料としてだけ使用するには、通常、あまりにも低いものである。天然ガスは、例えば、天然ガス燃焼に十分な温度を付与する、ディーゼル燃料パイロット噴射と共に使用することが可能である。天然ガスは、改良されたディーゼルエンジンにおいてのみ使用することができ、そのシリンダー内において、スパーク・プラグが天然ガスを点火することとなる。他のエンジンの改良は、例えば、天然ガスで走行する際に、性能を最適化するための圧縮比の変更を包含する。
【0006】
天然ガスで走行するエンジンは、二つのモードの少なくとも一つの下で作動(操作)可能である。即ち、燃焼した天然ガスの量と化学的バランスを持った酸素と共に化学量論的なモード、及び、通常、これは、空気/燃料比(空燃比)がほぼ17に相当し、液体炭化水素の値よりずっと高いモードである。次に、排ガス排出物は、従来のガソリンエンジンで使用されるものと類似した「三元触媒」で制御(処理)することができる。第二の作動モードは、燃焼した天然ガスの量より、酸素が過剰に存在する場合である。そのようなリーンバーン作動は機能上の利点を有し、天然ガスで走行する為に改良されたディーゼルエンジンにおいて、一般に使用される。
【0007】
リーンバーン天然ガス燃料ディーゼルエンジンのための従来の排出制御システムは、酸化触媒と、例えば、微粒子トラップ、例として触媒化煤フィルターの形態、及び還元剤インジェクターシステムを備えたSCR触媒のような、追加の構成(部品)を伴った或いは伴わないものである。この酸化触媒は、スペースのある排気システムに設置される。全て現代の大型車両用ディーゼルエンジンはターボチャージが取り付けられており、そのターボチャージャーは、エンジン排気マニホルドの近くに設置されている。特に、そのターボチャージャーユニットが、吸入空気を同時に圧縮しながら、排ガスにより動力を供給しなければならないためである。
【0008】
天然ガス燃料エンジンの場合、我々は、新たな設計(企画)が有益であると信じている。メタンは、存在するメタンの量、流量等の特定の条件に依存する触媒酸化により、他の高級炭化水素と比べて高い温度が要求される。その温度は、通常約450℃以上である。負荷をかけて作動する大型車両用ディーゼルエンジンは約600℃の排ガス温度を発生させるが、部分負荷の条件の下ではこれよりはるかに低く、又、ターボチャージャーは一般に大きなサイズであり、発電するためのエネルギーを引き出しながら、コンプレッサーが排ガスを劇的に冷却させる。そのため、ターボチャージャー装置は、作動条件に依存しながら、100℃以上の排ガス温度の低下を一般に引き起こす。ターボチャージャーから1メートル以上離れて通常設置される酸化触媒を用いても、排気管中で排ガスが更に冷却され、その結果、その酸化触媒を通した際、メタン転化はほんの僅か生じないことがある。
【0009】
現在、メタン排出量は、アメリカでは規制されていない。オゾン形成を減少させる排出制御の当初の意図に基づいた歴史的な理由のためである。そのため、エンジンからのメタン排出量の減少に対する、又はメタンの触媒転化の改善に対する要求はない。にもかかわらず、メタンは重大な「温室ガス」であり、メタン排出量を最小限にすることが望ましい。
【0010】
US2005/0229900は、内燃機関、例えば、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン又は天然ガスエンジンの排気システム、及び排ガスのある種の排出成分を減少させるためにその場でアンモニアを発生させる方法を開示している。このアンモニアは、第一シリンダーグループから製造されるリッチ排ガスから触媒的に発生される。酸化触媒は、ターボチャージャーの上流に設置され、リーン排ガス中で、NOをNOに酸化させ、第二シリンダーグループから約1:1のNO:NOの混合物を発生させる。
【0011】
CA2285780は、天然ガスからエネルギーを発生させるための発電プロセス及びシステム、すなわち、固定供給源発電を開示している。そのシステムは、エンジンとターボチャージャーの間に設置された触媒コンバーターを包含する。JP11−350942もまた類似したシステムを開示している。
【0012】
SAE2001−01−0189は、車両ディーゼルエンジンからの炭化水素及び一酸化炭素を処理するためのプレターボ酸化触媒を開示している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、硫酸化の前後両方で、パラジウム、金及びパラジウム/金の幅広い触媒に対するメタン酸化活性を示すグラフである。
【図2】図2は30℃〜850℃に加熱中、AuPd触媒のX線解析を示すグラフである。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、環境への全体的な改善と共に、リーンバーン天然ガス燃料ディーゼルエンジンからの排出物制御の改善を目的とする。
【0015】
本発明による第1の態様によれば、本発明は、酸化触媒を含んでなる排気システムを備えた、リーンバーン天然ガス燃料ディーゼルエンジン、所望により大型車両用エンジンを提供するものである。このエンジンは、可動性の、例えば、車両用、例えばトラック、バス等の大型車両用ディーゼルエンジンからの排ガスを処理するのに使用され、或いは発電用の固定エンジンにおける処理に使用される。
【0016】
特別な実施態様では、排気システムは、排気駆動ターボチャージャーを備えてなる。このシステムは、酸化触媒がエンジンとターボチャージャーの間に設置される。一つの実施態様では、各シリンダーに対して排気マニホルドの内部に設置された酸化触媒がある。他の実施態様では、ターボチャージャーの目前に設置された酸化触媒であり、例えば、ターボチャージャーハウジングの注入口側の内部に設置された酸化触媒である。
【0017】
実施態様において、酸化触媒は、少なくとも一つの貴金属、即ち、金、銀及び白金族の金属、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金を含んでなる。例えば、その少なくとも一つの貴金属は白金、パラジウム及び金、又これらの組合せから成る群から選択される。好ましい実施態様において、酸化触媒の貴金属は、パラジウムと金の組合せ、必要に応じてこれらの合金、からなる。
【0018】
ある種の実施態様において、酸化触媒は、パラジウム及び金の組合せ、少なくとも合金として存在する一部を含んでなる。この実施態様は、特に多くの理由で好都合である。第1に、Pd:Auは、メタンを処理するPdだけの触媒(比較可能)より、一層触媒活性があるということが、本実施例から理解できる。第二に、パラジウムだけの触媒(比較可能)の活性は、燃料に存在する硫黄によって汚染(死活)される。しかし、本実施例で示されるように、Pd:Au触媒は、Pdだけの触媒より、一層容易に脱硫される。さらに、Pd:Au触媒がプレターボに設置される実施態様において、この触媒は高い排気温度に曝され、まず始めに触媒が硫酸化される可能性を減少させることができ、及び/又は触媒を排ガス温度に曝して、走行中、触媒に吸収されたいかなる硫黄を取り除き、より冷たい排ガスを発生させる。Pd:Au触媒は、相対的に高い熱耐久性を有しいてもよい。
【0019】
他の態様によれば、本発明は、本発明によるエンジンを備えてなる、車両、必要に応じて大型車両を提供する。
【0020】
他の態様において、本発明は、リーンバーン天然ガス燃料ディーゼルエンジンからのメタン排出を改善する方法を提供するものであり、この方法は、エンジンからの排ガスを酸化触媒に通過させ、排ガス温度でメタンを効率よく酸化することを含んでなるものである。
【0021】
特別な実施態様において、この方法は、酸化触媒により処理された排ガスをターボチャージャーの中を通過させる工程を提供する。
【0022】
本発明のプレターボの実施態様が、システム構成の改善された「パッケージ」を必要とするが、ターボチャージャーの上流にある酸化触媒の体積は、ターボチャージャーの下流に設置された従来の大きな体積の酸化触媒と比較すると、著しく減少するため、その問題は改善される。上流の酸化触媒は下流の酸化触媒と結合することが予想される。本発明において、酸化触媒は、驚くほど高い排ガス温度、及び、振動する排ガス圧力に曝され、メタンに対して高い転化効果を示すことが出来る。
【0023】
酸化触媒を通過する排ガスの圧力の僅かな損失はあるが、炭化水素の酸化から起きる発熱が、排ガス温度、及び、ターボチャージャーに入る排ガスのエネルギー含量の増加により、少なくとも部分的に補うことが予期される。
【0024】
特別なエンジンの特徴に依存して、又は、排ガス規制に基づいて、排ガス制御システムは、追加の構成を包含してなる。とりわけ、我々は、粒子フィルター及び触媒化粒子フィルター(不活性又は活性再生制御システムを有する)、NOx−トラップ又はNOx転化触媒及び還元剤インジェクション手段と共に選択的接触還元(SCR)触媒について述べたい。アンモニア破壊触媒のような付加構成は、SCR触媒の下流に設置される。還元剤インジェクションの電気制御が推奨される。
【0025】
本発明で使用する好適な酸化触媒は、フロースルー基材に担持された耐火性酸化物と共に、白金又はパラジウム又は金、又はそれらの混合物(10〜250g/cu ft)で充填される。その基材は、好ましくは金属であるが、適切な耐火性のセラミック基材をもまた考慮されてよい。従来の触媒沈殿法及び触媒構造体が使用される。
【0026】
本発明を一層容易に理解するために、以下の本実施例がほんの一例として及び添付図面を参照して提供される。
【実施例】
【0027】
触媒準備及び試験方法
0:1〜1:0のPd:Auの原子組成で酸化アルミニウムに分散させた一連のPd−Au触媒を以下のように準備した。硝酸パラジウム及びアルミナ微粒子担体を含有するHAuCl4の水性混合物に、その担体上にAuとして金を加水分解させ、沈殿させるためのベースを加えた。そのスラリーは、適切な期間の後、ろ過され、そのろ液は塩化物イオンを除くために洗浄され、その物質を乾燥させ次に焼成した。この技術によって準備された触媒は、本明細書で「フレッシュ」触媒と呼ばれる。
【0028】
触媒を、ステンレス鋼フリットに残留した触媒粉末(0.4g)を用いて、垂直な直径10mmのステンレス鋼の反応管を有するマイクロリアクターで試験した。気体流(2L/分)は下向きで、出入り口のガス組成を、転化が正常に計算される様々な自動分析装置で決定した。触媒ベッド(床)温度を、反応管の周囲のオーブンにより設定温度でサーモスタッド的に維持し、或いは110℃から所定の試験温度まで10℃/分の割合で上昇させた。300℃で所定の期間、窒素、水蒸気及び100−150ppmの二酸化硫黄(SO)を含有するガス混合物に触媒を通過させて硫酸化し(sulfated:硫酸塩化)、硫黄15−400mg/触媒gの範囲で、予め定められた硫黄の量で触媒を曝した。その硫酸化した触媒を、次に110℃〜500℃の温度で酸化活性のために試験した。500℃に達したとき、その触媒をこの温度で20分間維持し、一部の硫黄が触媒から放出される工程をシミュレートした。次にそれを、110℃まで冷却し、活性試験手順を繰り返した。
実施例1
【0029】
図1は、硫酸化前後の様々なパラジウム、金及びパラジウム/金の触媒に対するメタンの酸化活性を示す。試験ガスは、一酸化炭素(1000ppm)、一酸化窒素(200ppm)、二酸化硫黄(2ppm)、メタン(900ppm)、二酸化硫黄(4.5%)、水蒸気(4.5%)、酸素(8%)と残部の窒素を含んだ。これらの結果から、パラジウム触媒はメタン酸化(曲線A、2%Pd)に対して優れた活性を有することが確認された。それに対して、金だけを含有する触媒は、弱いメタン酸化活性(曲線B、0.5%Au)を有した。驚くべきことに、パラジウム触媒に金を添加することで、著しくメタンの酸化性能(曲線C、2%Pd+0.5%Au)が向上した。
【0030】
硫酸化について、パラジウム触媒は、かなりの活性の損失(曲線D、2%Pd)を示し、パラジウム及び金を含有する触媒は、より大きな活性の損失(曲線E、2%Pd+0.5%Au)を示した。そのため、非硫酸化パラジウム/金の触媒は優れた活性を有し、硫酸化すると効果が低下する。相対的に大量の金を含有する触媒(曲線B、0.5%Pdと1%Au)はフレッシュな状態でとても弱い活性だったので、硫酸化したものは試験されなかった。
実施例2
【0031】
この実施例は、パラジウム/金の触媒が、パラジウムだけの触媒よりずっと低温で、脱硫化及び酸化反応に対して再活性化され、そしてこの触媒は、天然ガス燃料エンジン上のターボチャージャーの前にある触媒より低温で起こり、そのため、脱硫化はそこで効率的継続的に起こるので、高い触媒性能を維持することを示す。この触媒を、上記のように準備し及び試験した。試験ガスは、一酸化炭素(1000ppm)、一酸化窒素(200ppm)、二酸化硫黄(2ppm)、プロピレン(Cとして900ppm)、二酸化炭素(4.5%)、水蒸気(4.5%)、酸素(12%)、そして残り窒素を含んだ。得られた試験結果は、80%の一酸化炭素転化(COT80)及び50%の炭化水素転化(HCT50)を達成するのに必要な温度を示す形式で表1のように表される。
【0032】
【表1】

【0033】
これらの結果は、パラジウム触媒に金を添加することで、硫酸化触媒が酸化反応に対して再活性化する温度を下げ、そして、これは実質的に効果があることを示す。これらの触媒は、試験前、48時間750℃で加熱することにより加速処理し、我々は、パラジウム/金の組合せの強化された再活性化が、少なくとも部分的に、金とパラジウムが合金を形成することにより起きていると信じている。X線回折で合金の形成を確認した。金とパラジウムは、ほぼ完全な相互溶解性を有し、形成された合金の組成と直線的に相関する格子の膨張と一致する。
【0034】
図2は金(III)とパラジウム(III)から2θ領域でX線反射を示す。触媒サンプルを30℃〜850℃に加熱し、図2でこれら2つに印を付けた反射間に合金相の反射の強度が増大し、この層の存在を確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化触媒を備えた排気システムを備えてなる、リーンバーン天然ガス燃料ディーゼルエンジン。
【請求項2】
前記排気システムが、排気駆動ターボチャージャーを備えてなり、
前記酸化触媒が、前記エンジンと前記ターボチャージャーの間に配置されてなる、請求項1に記載されたエンジン。
【請求項3】
前記酸化触媒が、排気マニホルド内部に配置されてなる、請求項2に記載されたエンジン。
【請求項4】
前記エンジンが、複数のシリンダーを有してなり、かつ、
各シリンダーが、その排気マニホルド内部に酸化触媒を有してなる、請求項3に記載されたエンジン。
【請求項5】
前記酸化触媒が、前記ターボチャージャーの排ガス注入口の内部に配置されてなる、請求項2に記載されたエンジン。
【請求項6】
前記酸化触媒が、少なくとも一つの貴金属を含んでなる、請求項1〜5の何れか一項に記載されたエンジン。
【請求項7】
前記少なくとも一つの貴金属が、白金、パラジウム、金、及びこれらの組合せからなる群から選択されてなる、請求項6に記載されたエンジン。
【請求項8】
前記酸化触媒が、パラジウム及び金の組合せを含んでなる、請求項7に記載されたエンジン。
【請求項9】
パラジウム及び金の少なくとも一部が合金として存在してなる、請求項8に記載されたエンジン。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載されたエンジンを備えてなる、車両、所望により大型車両。
【請求項11】
請求項1〜9の何れか一項に記載された、発電用の固定エンジン。
【請求項12】
リーンバーン天然ガス燃料ディーゼルエンジンからのメタン排出物を改善する方法であって、
前記排ガス温度で、メタンを効果的に酸化する酸化触媒を介して前記エンジンからの排ガスを通過させることを含んでなる、方法。
【請求項13】
前記酸化触媒により処理された排ガスをターボチャージャーに通過させることを含んでなる、請求項12に記載された方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−514950(P2011−514950A)
【公表日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−548179(P2010−548179)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【国際出願番号】PCT/GB2009/000563
【国際公開番号】WO2009/106849
【国際公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】