説明

排気ガス再循環装置の異常診断装置

【課題】 圧縮比あるいは膨張比を変更可能なエンジンの吸排気系統に設けられたEGR装置の異常診断を、良好な精度で行う。
【解決手段】 EGR装置の異常診断中は、圧縮比が一定になるように、圧縮比制御が行われる。EGR装置の異常診断装置は、圧縮比制御系異常診断部による、圧縮比制御系における異常の発生の検知結果に応じて、EGR装置の異常診断の実施可否を決定する(例えば、圧縮比制御系における異常の発生が検知された場合に、EGR装置の異常診断を禁止する。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス再循環装置(以下、「EGR装置」と略称する。EGRは排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)の略である。)の異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
EGR装置は、排気エミッションの改善等を目的として、内燃機関の吸排気系統に設けられる。このEGR装置に何らかの異常が発生すると、EGR量が機関運転状態に適した量から逸脱する場合があり得る。この場合、燃焼状態や排気エミッションが悪化するおそれがある。
【0003】
そこで、EGR装置の異常を診断あるいは検出する装置が、従来から種々提案されている(例えば、特開平5−106516号公報、特開2002−227727号公報、特開2003−129906号公報、等参照。)。この種の装置は、吸気管圧力やEGR通路内温度の検出値に基づいて、EGR装置の異常を診断するようになっている。
【特許文献1】特開平5−106516号公報
【特許文献2】特開2002−227727号公報
【特許文献3】特開2003−129906号公報
【特許文献4】特開2003−206771号公報
【特許文献5】特開2004−169660号公報
【特許文献6】特開2007−224927号公報
【特許文献7】特開2008−157128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンにおいて、圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構を備えたものが知られている(例えば、特開2003−206771号公報、特開2004−169660号公報、特開2007−224927号公報、特開2008−157128号公報、等参照)。なお、ここでいう、変更可能な「圧縮比」には、「機械的圧縮比」と、「実圧縮比」とがある。
【0005】
機械的圧縮比は、隙間容積(ピストン上死点における燃焼室容積)とピストン行程容積との和を隙間容積で割った値であって、公称圧縮比あるいは幾何学的圧縮比とも称される。実圧縮比は、吸入空気に対する実効的な圧縮比であり、典型的には、吸入空気の圧縮開始時の燃焼室容積を圧縮終了時の燃焼室容積で割った値となる。
【0006】
機械的圧縮比は、例えば、クランクシャフトが回転可能に支持されたクランクケースと、シリンダヘッドが上端部に固定されたシリンダブロックとを、シリンダの中心軸に沿って相対移動させることで変更され得る(例えば特開2003−206771号公報等参照)。あるいは、機械的圧縮比は、コンロッド(ピストンとクランクシャフトとを連結する部材)を屈曲可能に構成するとともに、このコンロッドの屈曲状態を変更することで変更され得る(例えば特開2004−169660号公報等参照)。
【0007】
実圧縮比は、上述のような機械的圧縮比の変更に伴って変更され得る。あるいは、この実圧縮比は、吸気バルブや排気バルブの動作タイミングを可変とすることによっても変更され得る。
【0008】
機械的圧縮比の変更により、膨張比もまた変更され得る。膨張比は、膨張行程における膨張終わりの容積と膨張始めの容積(=隙間容積)との比である。この膨張比は、排気バルブの開閉タイミングを変更することによっても変化し得る。よって、機械的圧縮比及び吸排気バルブの開閉タイミングを変更可能とすることで、機械的圧縮比と実圧縮比と膨張比とが独立に設定及び変更され得る(例えば特開2008−157128号公報等参照)。
【0009】
上述のような、圧縮比あるいは膨張比を変更可能なエンジンにおいて、EGR装置の異常診断中に、圧縮比や膨張比の設定あるいは取得が適切に行われていないと、EGR装置の異常診断を精度よく行うことが困難になる可能性がある。
【0010】
例えば、圧縮比や膨張比を変更するための機構やその制御装置が故障した場合、排気温度や吸気管圧力が正常時から大きくずれる可能性がある。このような場合にEGR装置の異常診断が実施されると、誤った診断結果が生じる等、診断精度が悪化するおそれがある。あるいは、EGR装置の異常診断中に、圧縮比や膨張比が不用意に変更されて、排気温度や吸気管圧力が変動すると、EGR装置の異常診断の精度が悪化するおそれがある。
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明の目的は、圧縮比あるいは膨張比を変更可能なエンジンの吸排気系統に設けられたEGR装置の異常診断を、良好な精度で行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の一側面における特徴は、排気通路に排出された排気ガスを吸気通路に還流する排気ガス再循環装置の異常診断装置が、下記の通りの、圧縮比制御系異常検知部と、異常診断実施可否決定部と、を備えたことにある。
【0013】
前記圧縮比制御系異常検知部は、圧縮比制御系(圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構及び当該可変圧縮比機構による圧縮比の設定状態を取得する圧縮比取得部を含む)における異常の発生を検知するようになっている。
【0014】
なお、前記圧縮比制御系は、前記排気ガス再循環装置の異常診断中の圧縮比を一定に制御するようになっていてもよい。また、前記圧縮比制御系は、前記異常が発生した場合に、圧縮比を所定の設定状態で固定するように構成され得る。
【0015】
前記異常診断実施可否決定部は、前記圧縮比制御系異常検知部による前記異常の発生の検知結果に基づいて、前記排気ガス再循環装置の異常診断の実施可否を決定するようになっている。
【0016】
かかる構成を備えた本発明の異常診断装置においては、前記異常診断実施可否決定部は、前記圧縮比制御系異常検知部による前記異常の発生の検知結果に基づいて、前記排気ガス再循環装置の異常診断の実施可否を決定する。
【0017】
具体的には、例えば、前記異常診断実施可否決定部は、前記異常の発生が検知された場合に、前記排気ガス再循環装置の異常診断を禁止する。よって、前記排気ガス再循環装置の異常診断は、前記圧縮比制御系が正常に作動している場合に(のみ)行われる。
【0018】
あるいは、前記異常の発生が検知された場合であっても、圧縮比が所定の設定状態で固定されたときには、前記排気ガス再循環装置の異常診断中における排気温度や吸気管圧力の不用意な変動が抑制される。よって、このときは、前記異常診断実施可否決定部は、前記排気ガス再循環装置の異常診断を許可する。
【0019】
あるいは、前記異常の発生が検知された場合であって、圧縮比の設定状態を取得可能なときには、運転状態が前記排気ガス再循環装置の異常診断に適したものとなった時点で当該異常診断が行われ得る。よって、このときは、前記異常診断実施可否決定部は、前記排気ガス再循環装置の異常診断を許可する。
【0020】
(2)本発明の他の側面における特徴は、排気通路に排出された排気ガスを吸気通路に還流する排気ガス再循環装置の異常診断装置が、前記排気ガス再循環装置の異常診断中の圧縮比を一定に制御する圧縮比制御部を備えたことにある。
【0021】
かかる構成を備えた本発明の異常診断装置においては、前記圧縮比制御部は、前記排気ガス再循環装置の異常診断中は、圧縮比を一定に制御する。これにより、当該異常診断中における排気温度や吸気管圧力の不用意な変動が抑制される。
【0022】
なお、前記異常診断装置は、さらに、圧縮比制御系異常検知部と、異常診断実施可否決定部と、を備えていてもよい。
【0023】
前記圧縮比制御系異常検知部は、前記圧縮比制御系における異常の発生を検知するようになっている。この圧縮比制御系には、圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構と、当該可変圧縮比機構による圧縮比の設定状態を取得する圧縮比取得部と、前記圧縮比制御部と、が含まれ得る。
【0024】
前記異常診断実施可否決定部は、前記圧縮比制御系異常検知部による前記異常の発生の検知結果に基づいて、前記排気ガス再循環装置の異常診断の実施可否を決定するようになっている。
【0025】
かかる構成においては、前記異常診断実施可否決定部は、前記圧縮比制御系異常検知部による前記異常の発生の検知結果に基づいて、前記排気ガス再循環装置の異常診断の実施可否を決定する。
【0026】
具体的には、例えば、前記異常診断実施可否決定部は、前記異常の発生が検知された場合に、前記排気ガス再循環装置の異常診断を禁止する。よって、前記排気ガス再循環装置の異常診断は、前記圧縮比制御系が正常に作動している場合に(のみ)行われる。
【0027】
あるいは、前記異常の発生が検知された場合であっても、圧縮比が所定の設定状態で固定されたときには、前記排気ガス再循環装置の異常診断中における排気温度や吸気管圧力の不用意な変動が抑制される。よって、このときは、前記異常診断実施可否決定部は、前記排気ガス再循環装置の異常診断を許可する。
【0028】
あるいは、前記異常の発生が検知された場合であって、圧縮比の設定状態を取得可能なときには、運転状態が前記排気ガス再循環装置の異常診断に適したものとなった時点で当該異常診断が行われ得る。よって、このときは、前記異常診断実施可否決定部は、前記排気ガス再循環装置の異常診断を許可する。
【発明の効果】
【0029】
上述のような構成を備えた本発明の異常診断装置においては、圧縮比や膨張比の設定あるいは取得が適切に行われている状態で、EGR装置の異常診断が行われる。したがって、本発明によれば、圧縮比あるいは膨張比を変更可能なエンジンの吸排気系統に設けられたEGR装置の異常診断を、良好な精度で行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態(本願の出願時点において取り敢えず出願人が最良と考えている実施形態)について図面を参照しつつ説明する。
【0031】
なお、以下の実施形態に関する記載は、法令で要求されている明細書の記載要件(記述要件・実施可能要件)を満たすために、本発明の具体化の単なる一例を、可能な範囲で具体的に記述しているものにすぎない。よって、後述するように、本発明が、以下に説明する実施形態の具体的構成に何ら限定されるものではないことは、全く当然である。本実施形態に対して施され得る各種の変更(modification)は、当該実施形態の説明中に挿入されると、一貫した実施形態の説明の理解が妨げられるので、末尾にまとめて記載されている。
【0032】
<システムの全体構成>
図1は、本発明の一実施形態が適用されたシステムS(車両等)の要部の概略構成を示す図である。このシステムSには、直列複数気筒のエンジン1が搭載されている(なお、図1には、気筒配列方向と直交する面によるエンジン1の側断面図が示されているものとする。)。
【0033】
エンジン1は、シリンダブロック11と、シリンダヘッド12と、クランクケース13と、可変圧縮比機構14と、を備えている。シリンダヘッド12は、シリンダブロック11に対して相対移動しないように、シリンダブロック11の上端部に対して、図示しないボルト等によって固定されている。
【0034】
エンジン1のシリンダヘッド12には、吸排気系統2が接続されている。吸排気系統2は、インテークマニホールドやサージタンク等を含む吸気通路21と、エキゾーストマニホールドを含む排気通路22と、を備えている。
【0035】
本発明の異常診断装置の一実施形態を構成する制御装置3は、エンジン1及び吸排気系統2を含むシステムSの運転を制御するとともに、各部の異常を診断するように構成されている。
【0036】
以下、システムSに含まれる各部の構成について、さらに詳細に説明する。
【0037】
<エンジン>
シリンダブロック11には、略円柱形状の貫通孔であるシリンダボア111が形成されている。シリンダボア111の内側には、ピストン112が、シリンダボア111の中心軸線であるシリンダ中心軸CCAに沿って往復移動可能に収容されている。
【0038】
シリンダヘッド12の下端部には、複数の凹部が、各シリンダボア111の上端部に対応する位置に設けられている。燃焼室CCは、シリンダヘッド12がシリンダブロック11に接合されて固定された状態における、ピストン112の頂面よりも上側(シリンダヘッド12側)のシリンダボア111の内側の空間と、上述の凹部の内側(下側)の空間と、によって形成されている。この燃焼室CCに連通するように、シリンダヘッド12には、吸気ポート121及び排気ポート122が形成されている。
【0039】
シリンダヘッド12には、吸気バルブ123と、排気バルブ124と、可変吸気バルブタイミング装置125と、可変排気バルブタイミング装置126と、が備えられている。吸気バルブ123は、吸気ポート121と燃焼室CCとの連通状態を制御するためのバルブである。排気バルブ124は、排気ポート122と燃焼室CCとの連通状態を制御するためのバルブである。
【0040】
可変吸気バルブタイミング装置125及び可変排気バルブタイミング装置126は、吸気バルブ123及び排気バルブ124の開閉タイミングを変更することで、実圧縮比を変更し得るように構成されている。かかる可変吸気バルブタイミング装置125及び可変排気バルブタイミング装置126の具体的な構成については周知なので、本明細書ではその説明は省略されている。
【0041】
クランクケース13内には、クランクシャフト131が回転可能に支持されている。クランクシャフト131は、気筒配列方向と平行に配置されている。このクランクシャフト131は、ピストン112のシリンダ中心軸CCAに沿った往復移動に基づいて回転駆動されるように、コンロッド132を介して、ピストン112と連結されている。
【0042】
本実施形態の可変圧縮比機構14は、シリンダブロック11とシリンダヘッド12との接合体を、クランクケース13に対して、シリンダ中心軸CCAに沿って互いに相対移動させて、隙間容積を変更することで、機械的圧縮比を変更し得るように構成されている。具体的には、可変圧縮比機構14は、連結機構141と、駆動機構142と、ストッパ機構143と、を備えている。
【0043】
連結機構141は、シリンダブロック11とクランクケース13とを、シリンダ中心軸CCAに沿って互いに相対移動可能に連結するように構成されている。
【0044】
駆動機構142は、シリンダブロック11とクランクケース13とを互いに引き離すように設けられたスプリングと、このスプリングの弾性力に抗してシリンダブロック11とクランクケース13とを互いに近づけるように作動する油圧シリンダと、を備えている。この駆動機構142は、油圧シリンダに供給される油圧に応じて、シリンダブロック11とクランクケース13とをシリンダ中心軸CCAに沿って(すなわち図中上下方向に沿って)互いに相対移動させ得るように構成されている。
【0045】
ストッパ機構143は、連結機構141に設けられている。このストッパ機構143は、駆動機構142の故障により油圧シリンダに油圧が供給されなくなった場合に、エンジン1のサイクル運動に伴ってシリンダブロック11とクランクケース13とが振動的に相対移動する(ガタつく)ことがないように、当該場合におけるシリンダブロック11とクランクケース13との位置関係を固定するようになっている。
【0046】
<吸排気通路>
吸気通路21は、吸気ポート121と接続されている。この吸気通路21には、スロットルバルブ211が介装されている。スロットルバルブ211は、DCモータからなるスロットルバルブアクチュエータ212によって回転駆動されるように構成されている。
【0047】
吸気通路21における、スロットルバルブ211よりも下流側には、インジェクタ213が介装されている。インジェクタ213は、燃焼室CC内に供給するための燃料を、吸気ポート121内に噴射し得るように、構成及び配置されている。
【0048】
排気通路22は、排気通路22は、排気ポート122を介して燃焼室CCから排出される排気ガスの通路であって、排気ポート122と接続されている。この排気通路22には、上流側触媒221及び下流側触媒222が介装されている。上流側触媒221及び下流側触媒222は、酸素吸蔵機能を有する三元触媒をその内部に備えていて、排気ガス中のHC、CO、及びNOxを浄化可能に構成されている。上流側触媒221は、下流側触媒222よりも上流側に設けられている。
【0049】
また、吸排気系統2は、EGR装置230を備えている。EGR装置230は、排気通路22に排出された排気ガスを吸気通路21に還流するように構成されている。具体的には、EGR装置230は、EGR通路231と、EGR制御バルブ232と、を備えている。
【0050】
EGR通路231は、吸気通路21と排気通路22とを接続するように設けられている。EGR制御バルブ232は、EGR通路231に介装されている。このEGR制御バルブ232は、その開度によって、吸気中のEGRガスの混入率であるEGR率を調整し得るようになっている。
【0051】
<制御装置>
制御装置3は、本発明の圧縮比制御系異常検知部、異常診断実施可否決定部、及び圧縮比制御部を構成する、電子制御ユニット(以下、「ECU300」と称する。)300を備えている。
【0052】
ECU300は、CPU301と、ROM302と、RAM303と、バックアップRAM304と、インターフェース305と、バス306と、を備えている。CPU301、ROM302、RAM303、バックアップRAM304、及びインターフェース305は、バス306によって互いに接続されている。
【0053】
ROM302には、CPU301が実行するルーチン(プログラム)、及びこのルーチン実行の際に参照されるテーブル(ルックアップテーブル、マップ)やパラメータ等、が予め格納されている。RAM303は、CPU301がルーチンを実行する際に、必要に応じてデータを一時的に格納し得るように構成されている。バックアップRAM304は、電源が投入された状態でCPU301がルーチンを実行する際にデータが格納されるとともに、この格納されたデータが電源遮断後も保持され得るように構成されている。
【0054】
インターフェース305は、後述する各種のセンサや出力部と電気回路的に接続されていて、これらからの信号をCPU301に伝達し得るように構成されている。また、インターフェース305は、可変吸気バルブタイミング装置125、可変排気バルブタイミング装置126、駆動機構142、ストッパ機構143、インジェクタ213、等の動作部と電気回路的に接続されていて、これらの動作部を動作させるための動作信号をCPU301からこれらの動作部に伝達し得るように構成されている。すなわち、制御装置3は、インターフェース305を介して上述のセンサ等からの信号を受け取り、当該信号に応じたCPU301の演算結果に基づいて、上述の動作信号を各動作部に向けて送出するように構成されている。
【0055】
<<各種センサ>>
冷却水温センサ311は、シリンダブロック11に装着されている。この冷却水温センサ311は、シリンダブロック11内の冷却水の温度(冷却水温Tw)に対応する信号を出力するように構成されている。
【0056】
クランクポジションセンサ312は、クランクケース13に装着されている。このクランクポジションセンサ312は、クランクシャフト131の回転角度に応じたパルスを有する波形の信号を出力するように構成されている。具体的には、クランクポジションセンサ312は、クランクシャフト131が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに、クランクシャフト131が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するように構成されている。すなわち、クランクポジションセンサ312は、エンジン回転数Neに対応する信号を出力するように構成されている。
【0057】
吸気カムポジションセンサ313a及び排気カムポジションセンサ313bは、シリンダヘッド12に装着されている。吸気カムポジションセンサ313aは、吸気バルブ123を往復移動させるための図示しない吸気カムシャフト(可変吸気バルブタイミング装置125に含まれている)の回転角度に応じたパルスを有する波形の信号を出力するように構成されている。排気カムポジションセンサ313bも、同様に、図示しない排気カムシャフトの回転角度に応じたパルスを有する波形の信号を出力するように構成されている。
【0058】
ストロークセンサ314は、可変圧縮比機構14に設けられている。このストロークセンサ314は、シリンダブロック11とクランクケース13との相対位置に応じた出力電圧を生じるように構成されている。
【0059】
エアフローメータ315、吸気圧センサ316、及びスロットルポジションセンサ317は、吸気通路21に介装されている。
【0060】
エアフローメータ315は、吸気通路21内を流れる吸入空気の質量流量である吸入空気流量Gaに対応する信号を出力するように構成されている。吸気圧センサ316は、スロットルバルブ211及びEGR通路231との合流部よりも下流側の吸気通路21内の空気(この空気にはEGRガスが含まれることがある)の圧力に対応する信号を出力するように構成されている。スロットルポジションセンサ317は、スロットルバルブ211の回転位相(スロットルバルブ開度TA)に対応する信号を出力するように構成されている。
【0061】
上流側空燃比センサ318a及び下流側空燃比センサ318bは、排気通路22に介装されている。上流側空燃比センサ318a及び下流側空燃比センサ318bは、排気ガス中の成分(HCやNOx等)の濃度に対応する出力電圧を生じるように構成されている。上流側空燃比センサ318aは、上流側触媒221よりも上流側に配置されている。下流側空燃比センサ318bは、上流側触媒221と下流側触媒222との間に配置されている。
【0062】
アクセル開度センサ319は、運転者によって操作されるアクセルペダル321の操作量Accpに対応する信号を出力するように構成されている。
【0063】
また、ECU300のインターフェース305には、警報表示器322が接続されている。この警報表示器322は、表示ランプ等であって、システムSの各部にて異常の発生が検知された場合に、これを運転者に報知するようになっている。
【0064】
<動作の概要>
本実施形態のシステムSにおいては、制御装置3にて、以下の処理が行われる。
【0065】
<<空燃比制御>>
スロットルバルブ開度等に基づいて、目標空燃比が設定される。この目標空燃比は、通常は理論空燃比に設定される。一方、加速時等には、必要に応じて、理論空燃比から若干リッチ側あるいはリーン側にシフトした値に目標空燃比が設定され得る。このようにして設定された目標空燃比と、吸入空気流量等と、に基づいて、インジェクタ213から噴射される燃料量の基本値(基本燃料噴射量)が取得される。
【0066】
エンジン1の始動直後で上流側空燃比センサ318a及び下流側空燃比センサ318bが充分に暖機されていない場合等、所定のフィードバック制御条件が成立していない場合は、基本燃料噴射量に基づくオープンループ制御が行われる(このオープンループ制御では学習補正係数に基づく学習制御が行われ得る)。
【0067】
これらのセンサの活性化後にフィードバック制御条件が成立した場合は、基本燃料噴射量が、上流側空燃比センサ318a及び下流側空燃比センサ318bからの出力に基づいてフィードバック補正されることで、インジェクタ213からの実際の燃料噴射量(指令燃料噴射量)が取得される。また、上流側空燃比センサ318a及び下流側空燃比センサ318bからの出力に基づいて、上述のオープンループ制御の際の学習補正係数を取得するための学習制御が行われる。
【0068】
<<圧縮比制御>>
暖機状態や負荷状態等の、エンジン1の運転状態に基づいて、圧縮比が設定される。本実施形態においては、運転状態に基づいて、圧縮比の変更が行われる。
【0069】
但し、EGR装置230の異常診断(以下、「EGROBD」と称する。)が行われる場合、運転状態に応じた圧縮比の変更は禁止され、圧縮比が一定に保持される。
【0070】
<<EGROBD>>
EGROBDは、CPU301によるEGROBD可否判定ルーチンの実行の結果、EGROBDフラグXobdがセットされた場合に実施される(かかるルーチンの詳細については後述する)。
【0071】
EGROBDは、公知あるいは周知の様々な方法によって行われ得る。例えば、EGR制御バルブ232の調整(開閉)状態と吸気圧センサ316の出力とに基づいて、EGROBDが行われ得る。あるいは、EGR制御バルブ232の調整(開閉)状態と排気ガスの温度や成分(HCやNOx等)の変化とに基づいて、EGROBDが行われ得る。
【0072】
<動作の具体例>
次に、図1に示されている本実施形態の制御装置3の動作の具体例について、フローチャートを用いて説明する。なお、以下に説明するフローチャートに対応する各図面において、「ステップ」は“S”と略記されている。
【実施例1】
【0073】
<<EGROBD可否判定>>
CPU301は、図2に示されているEGROBD可否判定ルーチン200を、所定タイミング毎に実行する。
【0074】
まず、ステップ210にて、EGROBDの実施条件(以下、「OBD条件」と略称する。)が成立しているか否かが判定される。このOBD条件は、冷却水温Twが所定温度Tw0以上であること、アクセルペダル321の操作量Accpが所定量以下であること、エンジン回転数Neの変化量が所定範囲内であること、等である。
【0075】
OBD条件が成立している場合(ステップ210=Yes)、処理がステップ220に進行し、可変圧縮比機構14及びストロークセンサ314を含む(機械的)圧縮比制御系が正常であるか否かが判定される。この判定は、ECU300による圧縮比制御における圧縮比設定状態の指令値と、ストロークセンサ314による実際の圧縮比設定状態の取得値と、を比較することによって行われる。具体的には、上述の指令値と取得値との偏差が所定値以上である状態が所定時間以上継続した場合に、圧縮比制御系における異常の発生が検知される。
【0076】
圧縮比制御系が正常である場合(ステップ220=Yes)、処理がステップ230に進行し、EGROBDフラグXobdがセットされ、本ルーチンが一旦終了する。これにより、図示しないEGROBDルーチンによるEGROBDの実施が許可される。なお、上述の通り、EGROBDそのものについては周知であるので(例えば特開平8−42403号公報等参照)、本明細書においてはその詳細な説明は省略されている。
【0077】
一方、OBD条件が成立していない場合(ステップ210=No)、又は圧縮比制御系に異常が発生している場合(ステップ220=No)、処理がステップ240に進行し、EGROBDフラグXobdがリセットされ、本ルーチンが一旦終了する。これにより、図示しないEGROBDルーチンによるEGROBDの実施が禁止される。
【0078】
なお、本具体例においては、CPU301によるルーチン200の処理によって、本発明の異常診断実施可否決定部が実現されている。また、CPU301によるステップ220の処理によって、本発明の圧縮比制御系異常検知部が実現されている。
【0079】
<<圧縮比設定>>
CPU301は、図3に示されている圧縮比設定ルーチン300を、所定タイミング毎に実行する。なお、本具体例においては、このルーチン300の処理によって、本発明の圧縮比制御部が実現されている。
【0080】
まず、ステップ310にて、エンジン1が暖機後であるか否か(冷却水温Tw≧Tw0であるか否か)が判定される。エンジン1が暖機中である場合(ステップ310=No)、処理がステップ320に進行する。ステップ320においては、排気温度を上昇させることで、エンジン1、上流側触媒221、及び下流側触媒222の暖機を促進するために、機械的圧縮比εmが最低値ε0に設定される。その後、本ルーチンが一旦終了する。
【0081】
エンジン1が暖機後である場合(ステップ310=Yes)、処理がステップ330に進行し、EGROBDフラグXobdがセットされているか否かが判定される。EGROBDフラグXobdがセットされていない場合(ステップ330=No)、現在の運転状態は、エンジン1の暖機後の通常運転である。よって、この場合、処理がステップ340に進行する。ステップ340においては、機械的圧縮比εmが、エンジン回転数Neや負荷率KLに基づいて、マップ等を用いて取得される。なお、負荷率KLは、周知の通り、吸入空気流量Ga、スロットルバルブ開度TA、あるいはアクセル操作量Accpに基づいて取得され得る。その後、本ルーチンが一旦終了する。
【0082】
エンジン1が暖機後であり(ステップ310=Yes)、且つEGROBDフラグXobdがセットされている場合(ステップ330=Yes)、EGROBDが実施される。この場合、処理がステップ360に進行し、機械的圧縮比εmが所定値εdに固定される。すなわち、EGROBD中の機械的圧縮比εmが一定に制御される(なお、この場合、可変吸気バルブタイミング装置125及び可変排気バルブタイミング装置126による、実圧縮比εr及び膨張比εeの設定状態も、一定に保持されるものとする。)。その後、本ルーチンが一旦終了する。
【0083】
<<具体例による作用・効果>>
本具体例においては、圧縮比制御系に異常が発生している場合は、EGROBDが禁止される。よって、圧縮比制御系が正常である場合にのみ、EGROBDが実施される。また、EGROBD中は、圧縮比が一定に制御される。したがって、本具体例によれば、EGROBDを良好な精度で行うことが可能になる。
【実施例2】
【0084】
CPU301は、図4に示されているEGROBD可否判定ルーチン400を、所定タイミング毎に実行する。
【0085】
まず、ステップ410にて、OBD条件が成立しているか否かが判定される。OBD条件が成立している場合(ステップ410=Yes)、処理がステップ420に進行し、圧縮比制御系が正常であるか否かが判定される。
【0086】
圧縮比制御系が正常である場合(ステップ420=Yes)、処理がステップ430に進行し、EGROBDフラグXobdがセットされ、本ルーチンが一旦終了する。一方、圧縮比制御系に異常が発生している場合(ステップ420=No)、処理がステップ440に進行し、機械的圧縮比εmの設定状態が特定(取得)可能であるか否かが判定される。
【0087】
すなわち、圧縮比制御系の異常発生が可変圧縮比機構14にかかるものであって、ストロークセンサ314は正常である場合、OBD条件が満たされ且つ機械的圧縮比εmの設定状態が正確に取得されればEGROBDは良好に実施され得る。したがって、圧縮比制御系に異常が発生していても(ステップ420=No)、機械的圧縮比εmの設定状態が特定(取得)可能である場合(ステップ440=Yes)、処理がステップ430に進行し、EGROBDフラグXobdがセットされ、本ルーチンが一旦終了する。
【0088】
OBD条件が成立していない場合(ステップ410=No)、又は圧縮比制御系に異常が発生し且つ機械的圧縮比εmの設定状態が特定(取得)できない場合(ステップ420=No、ステップ440=No)、処理がステップ450に進行し、EGROBDフラグXobdがリセットされ、本ルーチンが一旦終了する。
【0089】
なお、本具体例においては、CPU301によるルーチン400の処理によって、本発明の異常診断実施可否決定部が実現されている。また、CPU301によるステップ420及び440の処理によって、本発明の圧縮比制御系異常検知部が実現されている。
【0090】
<<具体例による作用・効果>>
本具体例においては、圧縮比制御系に異常が発生している場合であっても、機械的圧縮比εmの設定状態が特定(取得)可能であるときには、EGROBDが許可される。したがって、本具体例によれば、EGROBDの精度を良好に維持しつつ、EGROBDが実施可能な場合の当該実施を確保することが可能になる。
【実施例3】
【0091】
<<圧縮比設定>>
CPU301は、図5に示されている圧縮比設定ルーチン500を、所定タイミング毎に実行する。なお、本具体例においては、このルーチン500の処理によって、本発明の圧縮比制御部が実現されている。
【0092】
まず、ステップ510にて、エンジン1が暖機後であるか否かが判定される。エンジン1が暖機中である場合(ステップ510=No)、処理がステップ520に進行する。ステップ520においては、機械的圧縮比εmが最低値ε0に設定される。その後、本ルーチンが一旦終了する。
【0093】
エンジン1が暖機後である場合(ステップ510=Yes)、処理がステップ530に進行し、圧縮比制御系が正常であるか否かが判定される。
【0094】
圧縮比制御系に異常が発生している場合(ステップ530=No)、駆動機構142に備えられた上述の油圧シリンダに対する油圧の供給が停止される。すると、駆動機構142に備えられた上述のスプリングの作用、及び、燃焼室CCにおける燃焼圧の作用で、シリンダブロック11とクランクケース13とが最大限引き離される。これにより、駆動機構142の故障の場合とストロークセンサ314の故障の場合とにかかわらず、機械的圧縮比εmが、強制的かつ自動的に、最低値ε0に設定される。
【0095】
この状態で、ストッパ機構143により、シリンダブロック11とクランクケース13との位置関係が固定される。これにより、圧縮比制御系に異常が発生している場合の機械的圧縮比εmが、最低値ε0に固定される。その後、本ルーチンが一旦終了する。
【0096】
圧縮比制御系が正常である場合(ステップ530=Yes)、処理がステップ540に進行し、EGROBDフラグXobdがセットされているか否かが判定される。EGROBDフラグXobdがセットされていない場合(ステップ540=No)、現在の運転状態は、エンジン1の暖機後の通常運転である。よって、この場合、処理がステップ550に進行する。ステップ550においては、機械的圧縮比εmが、エンジン回転数Neや負荷率KLに基づいて、マップ等を用いて取得される。その後、本ルーチンが一旦終了する。
【0097】
EGROBDフラグXobdがセットされている場合(ステップ540=Yes)、EGROBDが実施される。この場合、処理がステップ560に進行し、機械的圧縮比εmが所定値εdに固定される。すなわち、EGROBD中の機械的圧縮比εmが一定に制御される。その後、本ルーチンが一旦終了する。
【0098】
<<EGROBD可否判定>>
CPU301は、図6に示されているEGROBD可否判定ルーチン600を、所定タイミング毎に実行する。
【0099】
まず、ステップ610にて、OBD条件が成立しているか否かが判定される。OBD条件が成立している場合(ステップ610=Yes)、処理がステップ620に進行し、圧縮比制御系が正常であるか否かが判定される。
【0100】
圧縮比制御系が正常である場合(ステップ620=Yes)、処理がステップ630に進行し、EGROBDフラグXobdがセットされ、本ルーチンが一旦終了する。一方、圧縮比制御系に異常が発生している場合(ステップ620=No)、処理がステップ640に進行し、機械的圧縮比εmが最低値ε0に固定されているか否かが判定される。
【0101】
機械的圧縮比εmが最低値ε0に固定されている場合(ステップ640=Yes)、処理がステップ630に進行し、EGROBDフラグXobdがセットされ、本ルーチンが一旦終了する(なお、この場合のEGROBDにおけるしきい値として、機械的圧縮比がεdのときの値に対して適宜補正したものが用いられる。)。
【0102】
OBD条件が成立していない場合(ステップ610=No)、又は圧縮比制御系に異常が発生し且つ機械的圧縮比εmが最低値ε0に固定されていない場合(ステップ620=No、ステップ640=No)、処理がステップ650に進行し、EGROBDフラグXobdがリセットされ、本ルーチンが一旦終了する。
【0103】
なお、本具体例においては、CPU301によるルーチン600の処理によって、本発明の異常診断実施可否決定部が実現されている。また、CPU301によるステップ620及び640の処理によって、本発明の圧縮比制御系異常検知部が実現されている。
【0104】
<<具体例による作用・効果>>
本具体例においては、圧縮比制御系に異常が発生している場合には、機械的圧縮比εmが、強制的かつ自動的に、最低値ε0に設定及び固定される。これにより、不用意なノッキングやプレイグニッションの発生が効果的に防止される。
【0105】
また、圧縮比制御系に異常が発生している場合であっても、機械的圧縮比εmが、強制的かつ自動的に、最低値ε0に設定及び固定された状態で、EGROBDが許可される。したがって、本具体例によれば、EGROBDの精度を良好に維持しつつ、EGROBDが実施可能な場合の当該実施を確保することが可能になる。
【0106】
<変形例の例示列挙>
なお、上述の実施形態や各具体例は、上述した通り、出願人が本願の出願時点において最良であると考えた本発明の具体的な構成及び制御例を単に例示したものにすぎないのであって、本発明はもとより上述の実施形態等によって何ら限定されるべきものではない。よって、上述の実施形態や各具体例に対して、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、種々の変形が施され得ることは、当然である。
【0107】
以下、変形例について幾つか例示する。ここで、以下の変形例の説明において、上述の実施形態における各構成要素と同様の構成・機能を有する構成要素については、当該変形例においても同一の名称及び同一の符号が付されているものとする。そして、当該構成要素の説明については、上述の実施形態における説明が、矛盾しない範囲で適宜援用され得るものとする。
【0108】
もっとも、変形例とて、下記のものに限定されるものではないことは、いうまでもない。本発明を、上述の実施形態や下記変形例の記載に基づいて限定解釈することは、(特に先願主義の下で出願を急ぐ)出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、許されない。
【0109】
また、上述の実施形態や各具体例、及び下記の各変形例に記載された内容の一部又は全部は、技術的に矛盾しない範囲において、適宜複合して適用され得ることも、いうまでもない。
【0110】
(1)本発明は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、メタノールエンジン、バイオエタノールエンジン、その他の任意のタイプの内燃機関に適用され得る。気筒数、気筒配列方式(直列、V型、水平対向)、燃料噴射方式(ポート噴射、筒内直接噴射)も、特に限定はない。
【0111】
(2)可変圧縮比機構14を含むエンジン1の構成も、上述の実施形態のものに限定されない。例えば、コンロッド132がマルチリンク構造を有していて、このコンロッド132の屈曲状態が変更されることで機械的圧縮比が変更されるように、エンジン1が構成され得る(特開2004−156541号公報等参照)。かかる構成を備えたエンジン1を含むシステムSに対しても、本発明は好適に適用され得る。
【0112】
(3)本発明は、上述した実施形態における具体的動作例に限定されない。
【0113】
例えば、上述の実施形態における圧縮比制御は、主として機械的圧縮比に対するものであった。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
【0114】
可変吸気バルブタイミング装置125や可変排気バルブタイミング装置126による実圧縮比制御及び膨張比制御に対しても、本発明は同様に適用され得る。すなわち、上述の各フローチャートにおいては、圧縮比εの設定は機械的圧縮比εmの設定であったが、実圧縮比εrや膨張比εeの設定であってもよい。
【0115】
また、運転状態に応じた実圧縮比の変更は、可変圧縮比機構14による機械的圧縮比の変更と、可変吸気バルブタイミング装置125や可変排気バルブタイミング装置126によるバルブタイミングの変更と、を併用することでも行われ得る。本発明はこの場合に対しても良好に適用され得る。
【0116】
さらに、本発明は、可変圧縮比機構14、可変吸気バルブタイミング装置125、及び可変排気バルブタイミング装置126により、機械的圧縮比及び吸排気バルブの開閉タイミングを変更可能とすることで、機械的圧縮比と実圧縮比と膨張比とが独立に設定及び変更され得るエンジン1に対しても、好適に適用され得る。
【0117】
ここで、異常診断の対象となる圧縮比制御系(膨張比制御系)には、可変吸気バルブタイミング装置125や可変排気バルブタイミング装置126が含まれ得る。よって、ストロークセンサ314の出力に基づく機械的圧縮比制御系の異常発生検知結果とともに、あるいはこれに代えて、吸気カムポジションセンサ313aや排気カムポジションセンサ313bの出力に基づく可変吸気バルブタイミング装置125や可変排気バルブタイミング装置126(実圧縮比及び膨張比制御系)の異常発生検知結果に基づいて、EGROBDの実施可否が決定され得る。
【0118】
(3−1) 図7は、図3及び図5にて説明された圧縮比設定動作の具体例の、一つの変形例を示すフローチャートである。CPU301は、図7に示されている圧縮比設定ルーチン700を、所定タイミング毎に実行する。なお、本具体例においては、このルーチン700の処理によって、本発明の圧縮比制御部が実現されている。
【0119】
まず、ステップ710にて、エンジン1が暖機後であるか否かが判定される。エンジン1が暖機中である場合(ステップ710=No)、処理がステップ720に進行する。ステップ720においては、機械的圧縮比εmが最低値ε0に設定され、本ルーチンが一旦終了する。
【0120】
エンジン1が暖機後である場合(ステップ710=Yes)、処理がステップ730に進行し、機械的圧縮比εmが、エンジン回転数Neや負荷率KLに基づいて、マップ等を用いて取得される。次に、処理がステップ740に進行し、EGROBDフラグXobdがセットされているか否かが判定される。EGROBDフラグXobdがセットされていない場合(ステップ740=No)、それ以降の処理がスキップされ、本ルーチンが一旦終了する。
【0121】
EGROBDフラグXobdがセットされている場合(ステップ740=Yes)、処理がステップ750に進行し、機械的圧縮比εmの変動範囲Δεが、EGROBDの精度よい実施が可能な所定範囲内であるか否かが判定される。
【0122】
Δεが所定範囲外である場合(ステップ750=No)、処理がステップ760に進行し、機械的圧縮比εmが上述の所定値εdに強制的に設定(修正)され、本ルーチンが一旦終了する。一方、Δεが所定範囲内である場合(ステップ750=Yes)、そのまま本ルーチンが一旦終了する。すなわち、この場合、ステップ730にて設定された機械的圧縮比εmがそのまま用いられることとなる。
【0123】
本変形例においては、EGROBDの実施にあたり、機械的圧縮比εmが完全に一定でなく変動する場合であっても、その変動幅が小さいために良好なEGROBDが可能であるときには、そのままEGROBDが実施される(但し、圧縮比設定状態に応じて、EGROBDのしきい値が適宜補正され得る。)。
【0124】
(3−2) 図8は、図3及び図5にて説明された圧縮比設定動作の具体例の、他の変形例を示すフローチャートである。CPU301は、図8に示されている圧縮比設定ルーチン800を、所定タイミング毎に実行する。なお、本具体例においては、このルーチン800の処理によって、本発明の圧縮比制御部が実現されている。
【0125】
まず、ステップ810にて、エンジン1が暖機後であるか否かが判定される。エンジン1が暖機中である場合(ステップ810=No)、処理がステップ820に進行する。ステップ820においては、機械的圧縮比εmが、最低値ε0に設定される。その後、機械的圧縮比εmの値がバックアップRAM304に格納され(ステップ825)、本ルーチンが一旦終了する。
【0126】
エンジン1が暖機後である場合(ステップ810=Yes)、処理がステップ830に進行し、EGROBDフラグXobdがセットされているか否かが判定される。EGROBDフラグXobdがセットされていない場合(ステップ830=No)、現在の運転状態は、エンジン1の暖機後の通常運転である。よって、この場合、処理がステップ840に進行する。ステップ840においては、機械的圧縮比εmが、エンジン回転数Neや負荷率KLに基づいて、マップ等を用いて取得される。その後、機械的圧縮比εmの値がバックアップRAM304に格納され(ステップ845)、本ルーチンが一旦終了する。
【0127】
エンジン1が暖機後であり(ステップ810=Yes)、且つEGROBDフラグXobdがセットされている場合(ステップ830=Yes)、EGROBDが実施される。この場合、処理がステップ850に進行し、バックアップRAM304に格納された機械的圧縮比εmの値が読み込まれる。すなわち、機械的圧縮比εmが、前回と同じ値に保持される。その後、本ルーチンが一旦終了する。
【0128】
このように、本変形例においては、EGROBDの実施中における機械的圧縮比εmが一定になるように、機械的圧縮比εmが制御される(このときのEGROBDの実施中における機械的圧縮比εmはεdとは限らない)。
【0129】
(4)その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の技術的範囲に含まれることは当然である。
【0130】
また、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能ないかなる構造をも含む。さらに、本明細書にて引用した各公報の内容(明細書及び図面を含む)は、本明細書の一部を構成するものとして援用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明の一実施形態が適用されたシステム(車両等)の要部の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示されている本実施形態の制御装置による、EGROBD可否判定ルーチンの一具体例を示すフローチャートである。
【図3】図1に示されている本実施形態の制御装置による、圧縮比設定ルーチンの一具体例を示すフローチャートである。
【図4】図1に示されている本実施形態の制御装置による、EGROBD可否判定ルーチンの他の具体例を示すフローチャートである。
【図5】図1に示されている本実施形態の制御装置による、圧縮比設定ルーチンの他の具体例を示すフローチャートである。
【図6】図1に示されている本実施形態の制御装置による、EGROBD可否判定ルーチンの他の具体例を示すフローチャートである。
【図7】図3及び図5にて説明された圧縮比設定動作の具体例の、一つの変形例を示すフローチャートである。
【図8】図3及び図5にて説明された圧縮比設定動作の具体例の、他の変形例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0132】
S…システム 1…エンジン 11…シリンダブロック
12…シリンダヘッド 13…クランクケース 14…可変圧縮比機構
141…連結機構 142…駆動機構 143…ストッパ機構
2…吸排気系統 21…吸気通路 22…排気通路
230…EGR装置 231…EGR通路 232…EGR制御バルブ
3…制御装置 300…ECU 314…ストロークセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に排出された排気ガスを吸気通路に還流する排気ガス再循環装置の異常診断装置であって、
圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構及び当該可変圧縮比機構による圧縮比の設定状態を取得する圧縮比取得部を含む圧縮比制御系における異常の発生を検知する、圧縮比制御系異常検知部と、
前記圧縮比制御系異常検知部による前記異常の発生の検知結果に基づいて、前記排気ガス再循環装置の異常診断の実施可否を決定する、異常診断実施可否決定部と、
を備えたことを特徴とする、排気ガス再循環装置の異常診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の、排気ガス再循環装置の異常診断装置であって、
前記異常診断実施可否決定部は、前記異常の発生が検知された場合に、前記排気ガス再循環装置の異常診断を禁止することを特徴とする、排気ガス再循環装置の異常診断装置。
【請求項3】
請求項1に記載の、排気ガス再循環装置の異常診断装置であって、
前記異常診断実施可否決定部は、前記異常の発生が検知された場合であって、圧縮比が所定の設定状態で固定されたときには、前記排気ガス再循環装置の異常診断を許可することを特徴とする、排気ガス再循環装置の異常診断装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1項に記載の、排気ガス再循環装置の異常診断装置であって、
前記異常診断実施可否決定部は、前記異常の発生が検知された場合であって、圧縮比の設定状態を取得可能なときには、前記排気ガス再循環装置の異常診断を許可することを特徴とする、排気ガス再循環装置の異常診断装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1項に記載の、排気ガス再循環装置の異常診断装置であって、
前記圧縮比制御系は、前記排気ガス再循環装置の異常診断中の圧縮比を一定に制御することを特徴とする、排気ガス再循環装置の異常診断装置。
【請求項6】
排気通路に排出された排気ガスを吸気通路に還流する排気ガス再循環装置の異常診断装置であって、
前記排気ガス再循環装置の異常診断中の圧縮比を一定に制御する、圧縮比制御部を備えたことを特徴とする、排気ガス再循環装置の異常診断装置。
【請求項7】
請求項6に記載の、排気ガス再循環装置の異常診断装置において、
圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構、当該可変圧縮比機構による圧縮比の設定状態を取得する圧縮比取得部、及び前記圧縮比制御部を含む圧縮比制御系における、異常の発生を検知する、圧縮比制御系異常検知部と、
前記圧縮比制御系異常検知部による前記異常の発生の検知結果に基づいて、前記排気ガス再循環装置の異常診断の実施可否を決定する、異常診断実施可否決定部と、
をさらに備えたことを特徴とする、排気ガス再循環装置の異常診断装置。
【請求項8】
請求項7に記載の、排気ガス再循環装置の異常診断装置であって、
前記異常診断実施可否決定部は、前記異常の発生が検知された場合に、前記排気ガス再循環装置の異常診断を禁止することを特徴とする、排気ガス再循環装置の異常診断装置。
【請求項9】
請求項7に記載の、排気ガス再循環装置の異常診断装置であって、
前記異常診断実施可否決定部は、前記異常の発生が検知された場合であって、圧縮比が所定の設定状態で固定されたときには、前記排気ガス再循環装置の異常診断を許可することを特徴とする、排気ガス再循環装置の異常診断装置。
【請求項10】
請求項7ないし請求項9のうちのいずれか1項に記載の、排気ガス再循環装置の異常診断装置であって、
前記異常診断実施可否決定部は、前記異常の発生が検知された場合であって、圧縮比の設定状態を取得可能なときには、前記排気ガス再循環装置の異常診断を許可することを特徴とする、排気ガス再循環装置の異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−133294(P2010−133294A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308138(P2008−308138)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】