説明

排気浄化装置

【課題】静電容量を増やさずに捕集面積を増加し得るようにしたプラズマアシスト型の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】誘電体のバリア8を挟んで対向配置された電極5,6間に、フィルタ機能を有する適宜数の金属導体10を電気的に絶縁された状態で介装して、該金属導体10により前記電極5,6間を複数のプラズマ発生空間9に分割し、該各プラズマ発生空間9に導入した排気ガス2が必ず前記金属導体10を通過して流れるように流路形成を図り、前記電極5,6間に放電に必要な電圧を印加し得るように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン等の内燃機関の排気ガス中からパティキュレートを除去する排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレート(Particulate Matter:粒子状物質)は、炭素質から成る煤と、高沸点炭化水素成分から成るSOF分(Soluble Organic Fraction:可溶性有機成分)とを主成分とし、更に微量のサルフェート(ミスト状硫酸成分)を含んだ組成を成すものであるが、この種のパティキュレートの低減対策としては、排気ガスが流通する排気管の途中に、パティキュレートフィルタを装備することが従来より行われている。
【0003】
この種のパティキュレートフィルタは、コージェライト等のセラミックから成る多孔質のハニカム構造となっており、格子状に区画された各流路の入口が交互に目封じされ、入口が目封じされていない流路については、その出口が目封じされるようになっており、各流路を区画する多孔質薄壁を透過した排気ガスのみが下流側へ排出されるようにしてある。
【0004】
そして、排気ガス中のパティキュレートは、前記多孔質薄壁の内側表面に捕集されて堆積し、排気温度が高い運転領域に移行した際に自然燃焼して除去されるようになっているが、例えば都内の路線バス等のように渋滞路ばかりを走行するような車輌では、必要な所定温度以上での運転が長く継続しないため、パティキュレートの処理量よりも堆積量の方が上まわり、パティキュレートフィルタが目詰まりを起こす虞れがあった。
【0005】
このため、排気温度が低い運転領域でもパティキュレートを良好に燃焼除去し得るようプラズマアシスト型の排気浄化装置の開発が進められており、この種の排気浄化装置で排気ガス中に放電してプラズマを発生させれば、排気ガスが励起してOラディカルやOHラディカル等の活性のラディカルが発生し、排気温度が低い運転領域でもパティキュレートを良好に燃焼除去することが可能となる。
【0006】
例えば、下記の特許文献1や特許文献2には、穿孔処理された円筒状ステンレススチールから成る外側電極と内側電極との間に誘電体を成すセラミックスのペレットを充填し、該ペレットの充填層を通過するように排気ガスを流して該排気ガス中のパティキュレートを捕集する一方、外側電極と内側電極との間で放電してプラズマを発生させるようにしたプラズマアシスト型の排気浄化装置が提案されている。
【特許文献1】特表2002−501813号公報
【特許文献2】特表2002−511332号公報
【0007】
ただし、これらの従来提案されているプラズマアシスト型の排気浄化装置にあっては、先の特許文献1や特許文献2にも示されている通り、穿孔処理された円筒状ステンレススチールから成る外側電極と内側電極との間に誘電体を成すセラミックスのペレットを充填し、該ペレットの充填層を通過するように排気ガスを流して該排気ガス中のパティキュレートを捕集する一方、外側電極と内側電極との間で放電してプラズマを発生させるようにしたものが一般的であるが、自動車に実装することを想定した場合、走行振動によりセラミックスのペレット同士が擦れ合って短期間に摩耗してしまう虞れがあり、その耐久性に関する課題が残っているのが実情である。
【0008】
このため、本出願人は、電極自体を金属フィルタで構成して該金属フィルタにパティキュレートを捕集する方式を採用したプラズマアシスト型の排気浄化装置の研究開発を進めており、例えば、図5に示す如きプラズマアシスト型の排気浄化装置を既に創案している。
【0009】
ここに図示している例では、同方向に向けて並設された複数の金属フィルタ1により排気ガス2の流路が区画されており、その区画された各流路の入口が導電性栓体3により交互に目封じされ、入口が目封じされていない流路については、その出口が絶縁性栓体4により目封じされるようになっており、各流路を区画する金属フィルタ1を透過した排気ガス2のみが下流側へ排出されるようにしてある。
【0010】
そして、図中の上から一番目の金属フィルタ1と、導電性栓体3により電気的に接続された二、三番目の金属フィルタ1のペアと、導電性栓体3により電気的に接続された四、五番目の金属フィルタ1のペアと、六番目の金属フィルタ1とを電極5,6として、各電極5,6間に対し放電に必要な交流高電圧(直流パルス高電圧や交流パルス高電圧でも可)を印加し得るよう電源7が接続されている。
【0011】
また、絶縁性栓体4により出口側を目封じされた流路には、誘電体から成るバリア8が介装されており、該バリア8により区画された各電極5,6間をプラズマ発生空間9としてバリア放電が起こり、これにより各プラズマ発生空間9に低温プラズマ(非熱平衡プラズマ)が発生することになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、斯かる図5の如きプラズマアシスト型の排気浄化装置において、パティキュレートの捕集能力を高めるべく金属フィルタ1を大きくして捕集面積を増加させると、そのことが電極面積を増加させることになって静電容量の増加を招き、結果的に大型の電源7が必要となって該電源7の自動車への搭載性の悪化やコストの高騰が避けられなくなるという問題があった。
【0013】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、静電容量を増やさずに捕集面積を増加し得るようにしたプラズマアシスト型の排気浄化装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、誘電体を挟んで対向配置された電極間に、フィルタ機能を有する適宜数の金属導体を電気的に絶縁された状態で介装して、該金属導体により前記電極間を複数のプラズマ発生空間に分割し、該各プラズマ発生空間に導入した排気ガスが必ず前記金属導体を通過して流れるように流路形成を図り、前記電極間に放電に必要な電圧を印加し得るように構成したことを特徴とするものである。
【0015】
而して、このように排気浄化装置を構成すれば、各プラズマ発生空間に導入された排気ガスがフィルタ機能を持つ金属導体を必ず通過して流れ、この金属導体を通過する際に排気ガス中のパティキュレートが捕集されていくので、必要時に各電極間に放電に必要な電圧を印加すると、電極と該電極に隣接する金属導体との間、又は金属導体と該金属導体に隣接する別の金属導体との間で放電が起こり、これにより各プラズマ発生空間にプラズマが生じる結果、排気ガスが励起してOラディカルやOHラディカル等の活性のラディカルが発生し、これらの排気ガス励起成分による助勢を受けてパティキュレートが効果的に燃焼除去(酸化処理)されることになる。
【0016】
この際、各プラズマ発生空間の間隔の総和が、電極間に金属導体を介装しない従来タイプの排気浄化装置における電極間距離と等しければ、この従来タイプの排気浄化装置の静電容量とほぼ同じ程度に静電容量が抑制されることになるので、金属導体の介装により分割される各プラズマ発生空間の間隔の総和が、所定間隔を超えないように金属導体の介装数を増やせば、静電容量を増やさずに捕集面積を効率良く増加することが可能となる。
【0017】
更に、本発明をより具体的に実施するに際しては、金属導体自体を金属フィルタとしてフィルタ機能を付与したり、金属導体の表面に絶縁性フィルタを担持させてフィルタ機能を付与したり、各電極を金属フィルタとしてフィルタ機能を付与したり、金属導体と該金属導体に隣接する別の金属導体又は電極との間を誘電体又は絶縁性フィルタにより区画したりすることが可能である。
【発明の効果】
【0018】
上記した本発明の排気浄化装置によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0019】
(I)本発明の請求項1、2、3に記載の発明によれば、電極への金属導体の介装により分割される各プラズマ発生空間の間隔の総和が、所定間隔を超えないように金属導体の介装数を増やすことによって、静電容量を増やさずに捕集面積を効率良く増加することができ、電源の大型化を抑制して該電源の自動車への搭載性の悪化やコストの高騰を未然に回避することができる。
【0020】
(II)本発明の請求項4に記載の発明によれば、各電極も金属フィルタとして捕集面積の増加に寄与せしめることができるので、静電容量を増やさずに捕集面積をより一層増加させることができる。
【0021】
(III)本発明の請求項5に記載の発明によれば、金属導体と該金属導体に隣接する別の金属導体又は電極との間を誘電体又は絶縁性フィルタにより区画しているので、全てのプラズマ発生空間でバリア放電が起こり、これにより各プラズマ発生空間に安定した低温プラズマ(非熱平衡プラズマ)を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1は本発明の第一の形態例を示すもので、先の図5の従来例の場合と同様に、同方向に向けて並設された複数の金属フィルタ1により排気ガス2の流路が区画されており、その区画された各流路の入口が導電性栓体3により交互に目封じされ、入口が目封じされていない流路については、その出口が絶縁性栓体4により目封じされるようになっており、各流路を区画する金属フィルタ1を透過した排気ガス2のみが下流側へ排出されるようにしてある。
【0024】
そして、ここに図示している例では、電源7に対し接続されている単独の金属フィルタ1及び金属フィルタ1のペアが夫々電極5,6を成しているが、これらの電極5,6間には、導電性栓体3により入口側を目封じされた金属フィルタ1のペアから成る金属導体10が電気的に絶縁された状態で一つずつ介装されており、この金属導体10により前記電極5,6間が複数のプラズマ発生空間9に分割されるようになっている。
【0025】
また、この金属導体10と該金属導体10に隣接する電極5,6との間に形成されて出口側を絶縁性栓体4により目封じされた流路には、誘電体から成るバリア8が介装されており、このバリア8の入口側及び出口側の端部が、導電性栓体3や絶縁性栓体4よりも大きく外側へ張り出され、しかも、各絶縁性栓体4近傍の金属フィルタ1が部分的に絶縁されて、各プラズマ発生空間9を外側に迂回する放電が生じないようにしてある。
【0026】
而して、このように排気浄化装置を構成すれば、各プラズマ発生空間9に導入された排気ガス2が、電極5,6及び金属導体10を成している金属フィルタ1を通過して流れ、これらの金属フィルタ1を通過する際に排気ガス2中のパティキュレートが捕集されていくので、必要時に電源7により各電極5,6間に放電に必要な電圧を印加すると、バリア8により区画された状態にある電極5,6と該電極5,6に隣接する金属導体10との間でバリア放電が起こり、これにより各プラズマ発生空間9に安定した低温プラズマ(非熱平衡プラズマ)が生じる結果、排気ガス2が励起してOラディカルやOHラディカル等の活性のラディカルが発生し、これらの排気ガス励起成分による助勢を受けてパティキュレートが効果的に燃焼除去(酸化処理)されることになる。
【0027】
この際、各プラズマ発生空間9の間隔の総和が、電極5,6間に金属導体10を介装しない従来タイプの排気浄化装置における電極5,6間の距離と等しければ、この従来タイプの排気浄化装置の静電容量とほぼ同じ程度に静電容量が抑制されることになるので、金属導体10の介装により分割される各プラズマ発生空間9の間隔の総和が、所定間隔を超えないように金属導体10の介装数を増やせば、静電容量を増やさずに捕集面積を効率良く増加することが可能となる。
【0028】
即ち、図2に示す如き電極5,6間に金属導体10を介装しない従来タイプの排気浄化装置において、電極5,6間の距離がd、プラズマ発生電圧がE、静電容量がCであるとすると、図3に示す如き電極5,6間に金属導体10を介装してプラズマ発生空間9を複数に分割した排気浄化装置において、その分割された各プラズマ発生空間9の間隔d1,d2,d3,d4の総和が図2の電極5,6間距離dと変わらない場合、その静電容量C’も図2の排気浄化装置の静電容量Cと等しくなり、各プラズマ発生空間9における電界強度E’も図2の排気浄化装置の場合の電界強度Eと等しくなるので、プラズマ発生電圧も図2の排気浄化装置の場合と同程度に抑えることができる。
【0029】
尚、何らかの外部要因により放電が起こらないプラズマ発生空間9が存在する場合は、電極5,6の面積やバリア8の誘電率を変更することで各プラズマ発生空間9にかかる電界を調整することが可能となる。
【0030】
従って、上記形態例によれば、電極5,6間への金属導体10の介装により分割される各プラズマ発生空間9の間隔の総和が、所定間隔を超えないように金属導体10の介装数を増やすことによって、静電容量を増やさずに捕集面積を効率良く増加することができ、しかも、特に本形態例では、従来通り各電極5,6を金属フィルタ1として捕集面積の増加に寄与せしめることもできるので、電源7の大型化を抑制して該電源7の自動車への搭載性の悪化やコストの高騰を未然に回避することができる。
【0031】
また、図4は本発明の第二の形態例を示すもので、ここ図示している例では、電源7に対し接続されている単独の金属フィルタ1及び金属フィルタ1のペアが夫々電極5,6を成しているが、これらの電極5,6間には、導電性栓体3により入口側を目封じされた金属フィルタ1のペアから成る金属導体10が電気的に絶縁された状態で二つずつ介装されており、これら各金属導体10により前記電極5,6間が複数のプラズマ発生空間9に分割されるようになっている。
【0032】
また、これら金属導体10の相互間に形成されて出口側を絶縁性栓体4により目封じされた流路の一部には、誘電体から成るバリア8が各電極5,6間で必ず一枚は介装されるようになっており、このバリア8の入口側及び出口側の端部についても、導電性栓体3や絶縁性栓体4よりも大きく外側へ張り出され、しかも、各絶縁性栓体4近傍の金属フィルタ1が部分的に絶縁されて、各プラズマ発生空間9を外側に迂回する放電が生じないようにしてある。
【0033】
更に、バリア8を挟まずに電極5,6や別の金属導体10と対峙している金属導体10の対峙面が、金属メッシュ11(又はパンチングメタルでも可)の表面に誘電体から成る絶縁性フィルタ12を担持させてフィルタ機能を付与したものとしてある。
【0034】
尚、図4の図示において、金属フィルタ1で構成されている箇所についても、金属メッシュ11(又はパンチングメタルでも可)の表面に誘電体から成る絶縁性フィルタ12を担持させてフィルタ機能を付与したもので代用することが可能である。
【0035】
而して、このようにすれば、各プラズマ発生空間9に導入された排気ガス2が、電極5,6及び金属導体10を成している金属フィルタ1や金属メッシュ11の表面の絶縁性フィルタ12を通過して流れ、これらの金属フィルタ1や絶縁性フィルタ12を通過する際に排気ガス2中のパティキュレートが捕集されていくので、必要時に電源7により各電極5,6間に放電に必要な電圧を印加すると、電極5,6と該電極5,6に隣接する金属導体10との間、又は金属導体10と該金属導体10に隣接する別の金属導体10との間でバリア放電が起こり、これにより各プラズマ発生空間9に安定した低温プラズマ(非熱平衡プラズマ)が生じる結果、排気ガス2が励起してOラディカルやOHラディカル等の活性のラディカルが発生し、これらの排気ガス励起成分による助勢を受けてパティキュレートが効果的に燃焼除去(酸化処理)されることになり、金属導体10にフィルタ機能を付与するための一手段として採用した絶縁性フィルタ12を、安定した低温プラズマ(非熱平衡プラズマ)を発生させるための誘電体として採用することが可能となる。
【0036】
尚、本発明の排気浄化装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、電極や金属導体は必ずしも平面型にしなくても良く、各プラズマ発生空間を一様に形成できる構成であれば円筒型、円盤型などとしても良く、また、排気ガスが必ず金属導体を通過して流れるようにするための流路形成に関しては、図示する例以外の流路形成を採用しても良いこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第一の形態例を示す概略図である。
【図2】電極間に金属導体を介装しない従来タイプの排気浄化装置の概念図である。
【図3】電極間に金属導体を介装した排気浄化装置の概念図である。
【図4】本発明の第二の形態例を示す概略図である。
【図5】従来例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0038】
1 金属フィルタ
2 排気ガス
3 導電性栓体
4 絶縁性栓体
5 電極
6 電極
7 電源
8 バリア(誘電体)
9 プラズマ発生空間
10 金属導体
11 金属メッシュ
12 絶縁性フィルタ(誘電体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体を挟んで対向配置された電極間に、フィルタ機能を有する適宜数の金属導体を電気的に絶縁された状態で介装して、該金属導体により前記電極間を複数のプラズマ発生空間に分割し、該各プラズマ発生空間に導入した排気ガスが必ず前記金属導体を通過して流れるように流路形成を図り、前記電極間に放電に必要な電圧を印加し得るように構成したことを特徴とする排気浄化装置。
【請求項2】
金属導体自体を金属フィルタとしてフィルタ機能を付与したことを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項3】
金属導体の表面に絶縁性フィルタを担持させてフィルタ機能を付与したことを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項4】
各電極を金属フィルタとしてフィルタ機能を付与したことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の排気浄化装置。
【請求項5】
金属導体と該金属導体に隣接する別の金属導体又は電極との間を誘電体又は絶縁性フィルタにより区画したことを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−291862(P2006−291862A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114297(P2005−114297)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】