説明

接着シート及びその製造方法、並びに、半導体装置の製造方法及び半導体装置

【課題】 ダイシングテープのプリカット加工時にセンサによる接着剤層の位置認識を容易とすることが可能であり、接着剤層とダイシングテープの位置ずれを抑制可能な接着シートを提供すること。
【解決手段】 剥離基材1と、該剥離基材1上に配置された所定の平面形状を有する接着剤層2、及び、該接着剤層2を覆い且つ該接着剤層2の周囲で剥離基材1に接するように形成された粘着フィルム3からなる、所定の形状を有する積層体4と、を備え、剥離基材1上に複数の積層体4が剥離基材1の長尺方向に分散配置された接着シートであって、接着剤層2の波長200〜800nmの光線透過率が10〜90%であり、且つ、波長200〜400nmの領域での分光透過率が85%以下である、接着シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着シート及びその製造方法、並びに、半導体装置の製造方法及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル関連機器の多機能化及び軽量小型化の要求が急速に高まりつつある。これに伴い、半導体素子の高密度実装に対するニーズは年々強まり、特に半導体素子を積層するスタックドマルチチップパッケージ(以下、「スタックドMCP」という)の開発がその中心を担っている。
【0003】
スタックドMCPの技術開発は、パッケージの小型化と多段積載という相反する目標の両立にある。そのため、特に半導体素子に使用されるシリコンウェハの厚さは薄膜化が急速に進み、ウェハ厚さ100μm以下のものが積極的に使用、検討されている。また、多段積載は、パッケージ作製工程の複雑化を引き起こすため、パッケージ作製工程の簡素化、及び、多段積載によるワイヤーボンディングの熱履歴回数の増加に対応した作製プロセス、材料の提案が求められている。
【0004】
このような状況の中、スタックドMCPの接着部材としては、従来からペースト材料が用いられてきた。しかし、ペースト材料では、半導体素子の接着プロセスにおいて樹脂のはみ出しが生じたり、膜厚精度が低いといった問題がある。これらの問題は、ワイヤーボンディング時の不具合発生やペースト剤のボイド発生等の原因となるため、ペースト材料を用いた場合では、上述の要求に対処しきれなくなってきている。
【0005】
こうした問題を改善するために、近年、ペースト材料に代えてフィルム状の接着剤が使用される傾向にある。フィルム状の接着剤はペースト材料と比較して、半導体素子の接着プロセスにおけるはみ出し量を少なく制御することが可能であり、且つ、フィルムの膜厚精度を高めて、膜厚のばらつきを小さくすることが可能であることから、特にスタックドMCPへの適用が積極的に検討されている。
【0006】
このフィルム状接着剤は、通常、接着剤層が剥離基材上に形成された構成を有しており、その代表的な使用方法の一つにウェハ裏面貼付け方式がある。ウェハ裏面貼り付け方式とは、半導体素子の作製に用いられるシリコンウェハの裏面にフィルム状接着剤を直接貼付ける方法である。この方法では、半導体ウェハに対するフィルム状接着剤の貼付けを行った後、剥離基材を除去し、接着剤層上にダイシングテープを貼り付ける。その後、ウェハリングに装着させて所望の半導体素子寸法にウェハを接着剤層ごと切削加工する。ダイシング後の半導体素子は裏面に同じ寸法に切り出された接着剤層を有する構造となっており、この接着剤層付きの半導体素子をピックアップして搭載されるべき基板に熱圧着等の方法で貼り付ける。
【0007】
この裏面貼付け方式に用いられるダイシングテープは、通常、粘着剤層が基材フィルム上に形成された構成を有しており、感圧型ダイシングテープとUV型ダイシングテープとの2種類に大別される。ダイシングテープに要求される機能としては、ダイシング時には、ウェハ切断に伴う負荷によって半導体素子が飛散しない十分な粘着力が求められ、ダイシングした各半導体素子をピックアップする際には、各素子への粘着剤残りが無く、接着剤層付きの半導体素子がダイボンダー設備で容易にピックアップできることが求められる。
【0008】
また、パッケージ作製工程の短縮化の要望から、更にプロセス改善の要求が高まっている。従来のウェハ裏面貼付け方式では、ウェハへフィルム状接着剤を貼付けた後、ダイシングテープを貼付けるという2つの工程が必要であったことから、このプロセスを簡略化するために、フィルム状接着剤とダイシングテープとの両方の機能を併せ持つ接着シート(ダイボンドダイシングシート)が開発されている。この接着シートとしては、フィルム状接着剤とダイシングテープとを貼り合わせた構造を持つ積層タイプ(例えば、特許文献1〜3参照)や、一つの樹脂層で粘着剤層と接着剤層との両方の機能を兼ね備えた単層タイプ(例えば、特許文献4参照)がある。
【0009】
また、このような接着シートを、半導体素子を構成するウェハの形状にあらかじめ加工しておく方法(いわゆるプリカット加工)が知られている(例えば特許文献5及び6参照)。かかるプリカット加工は、使用されるウェハの形状に合わせて樹脂層を打ち抜き、ウェハを貼り付ける部分以外の樹脂層を剥離しておく方法である。
【0010】
かかるプリカット加工を施す場合、積層タイプの接着シートは一般的に、フィルム状接着剤において接着剤層をウェハ形状に合わせてプリカット加工し、それとダイシングテープとを貼り合わせた後、このダイシングテープに対してウェハリング形状に合わせたプリカット加工を施すことによって作製される。また、単層タイプの接着シートは一般的に、剥離基材上に接着剤層と粘着剤層の両方の機能を有する樹脂層(以下、「粘接着層」という)を形成し、この粘接着層に対してプリカット加工を行い、樹脂層の不要部分を除去した後に基材フィルムと貼り合わせる等の方法により作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3348923号公報
【特許文献2】特開平10−335271号公報
【特許文献3】特許第2678655号公報
【特許文献4】特公平7−15087号公報
【特許文献5】実公平6−18383号公報
【特許文献6】登録実用新案3021645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した積層タイプの接着シートを作製する場合のプリカット加工において、ダイシングテープにプリカット加工を施す際には、接着剤層の端部をセンサ等で位置認識し、接着剤層とダイシングテープの貼り付け位置にずれを生じさせない機構が広く採用されている。一方で、接着剤層の薄膜化が進んでおり、接着剤層の位置認識の際、センサの誤作動が発生し、ダイシングテープのプリカット加工で接着剤層とダイシングテープの位置がずれてしまうという問題がある。
【0013】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ダイシングテープのプリカット加工時にセンサによる接着剤層の位置認識を容易とすることが可能であり、接着剤層とダイシングテープの位置ずれを抑制可能な接着シート及びその製造方法、並びに、上記接着シートを用いた半導体装置の製造方法及び半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、剥離基材と、該剥離基材上に配置された所定の平面形状を有する接着剤層、及び、該接着剤層を覆い且つ該接着剤層の周囲で上記剥離基材に接するように形成された粘着フィルムからなる、所定の形状を有する積層体と、を備え、上記剥離基材上に複数の上記積層体が上記剥離基材の長尺方向に分散配置された接着シートであって、上記接着剤層の波長200〜800nmの光線透過率が10〜90%であり、且つ、波長200〜400nmの領域での分光透過率が85%以下である、接着シートを提供する。
【0015】
かかる接着シートは、接着剤層の端部を検出するセンサから発光される光線の透過率を低下させ、接着剤層の端部の位置認識を容易とすることが可能である。そのため、接着剤層を薄膜化した場合であっても、ダイシングテープである粘着フィルムのプリカット加工の際に接着剤層の位置認識でのセンサの誤作動が防止され、接着剤層と粘着フィルムの位置ずれが十分に抑制される。
【0016】
また、本発明の接着シートにおいて、上記接着剤層は、(A)ポリエーテル系化合物、顔料、染料及び光吸収剤からなる群より選択される少なくとも一種の光透過率調整成分と、(B)熱重合性成分と、(C)官能性モノマーを構成単位として含む重量平均分子量が10万以上である高分子量成分と、を含有することが好ましい。これにより、粘着フィルムのプリカット加工の際に接着剤層の位置認識でのセンサの誤作動がより十分に防止されるとともに、接着剤層は優れた接着強度が得られる。
【0017】
また、本発明の接着シートにおいて、上記ポリエーテル系化合物は、芳香族ポリエーテルイミド、芳香族ポリエーテルアミドイミド及び芳香族ポリエーテルアミドからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。これにより、接着剤層の接着強度をより向上させることができる。
【0018】
また、本発明の接着シートにおいて、上記(C)高分子量成分は、エポキシ基含有モノマー単位の含有量が0.5〜50質量%であるグリシジル基含有(メタ)アクリル共重合体であることが好ましい。これにより、接着剤層の接着強度をより向上させることができる。
【0019】
また、本発明の接着シートにおいて、上記接着剤層は、25℃での貯蔵弾性率が10〜10000MPaであり、且つ、260℃での硬化後の貯蔵弾性率が0.5〜1000MPaであることが好ましい。これにより、プリカットの加工性が十分に確保されるとともに、該接着シートを用いて作製された半導体装置の信頼性を良好なものとすることができる。
【0020】
更に、本発明の接着シートにおいて、上記接着剤層の厚さが15μm以下であることが好ましい。本発明の接着シートによれば、接着剤層の厚さを15μm以下に薄膜化した場合であっても、粘着フィルムのプリカット加工の際に接着剤層の位置認識でのセンサの誤作動が防止され、接着剤層と粘着フィルムの位置ずれが十分に抑制される。
【0021】
本発明はまた、上記本発明の接着シートの製造方法であって、剥離基材上に接着剤層を積層する第1の積層工程と、上記接着剤層の上記剥離基材に接する側と反対側の面から上記剥離基材に達するまで上記接着剤層に対して切り込みを入れ、切り込まれた外周部分の接着剤層を除去し、所定の平面形状を有する接着剤層を形成する第1の切断工程と、上記所定の平面形状を有する接着剤層及び上記剥離基材を覆うように、粘着フィルムを積層する第2の積層工程と、上記粘着フィルムの上記剥離基材側と反対側の面から上記剥離基材に達するまで上記粘着フィルムに対して切り込みを入れ、切り込まれた外周部分の粘着フィルムを除去し、上記所定の平面形状の接着剤層と、該接着剤層を覆い且つ該接着剤層の周囲で上記剥離基材に接する粘着フィルムとからなる、所定の形状を有する積層体を形成する第2の切断工程と、を含む接着シートの製造方法を提供する。
【0022】
かかる接着シートの製造方法によれば、第2の切断工程において、接着剤層の端部を検出するセンサから発光される光線の透過率を低下させ、接着剤層の端部の位置認識を容易とすることが可能である。そのため、接着剤層を薄膜化した場合であっても、ダイシングテープである粘着フィルムのプリカット加工の際に接着剤層の位置認識でのセンサの誤作動が防止され、接着剤層と粘着フィルムの位置ずれが十分に抑制された接着シートを得ることができる。
【0023】
本発明はまた、上記本発明の接着シートにおける上記積層体を上記剥離基材から剥離し、上記積層体を、上記接着剤層側の面から半導体ウェハに貼り付けて積層体付き半導体ウェハを得る貼り付け工程と、上記積層体付き半導体ウェハを、少なくとも上記接着剤層と上記粘着フィルムとの界面まで切削部材で切削し、上記半導体ウェハを所定の大きさの半導体素子に切断するダイシング工程と、上記粘着フィルムから上記半導体素子を上記接着剤層と共にピックアップし、接着剤層付き半導体素子を得るピックアップ工程と、上記接着剤層付き半導体素子における上記半導体素子を、上記接着剤層を介して被着体に接着する接着工程と、を含む半導体装置の製造方法を提供する。ここで、上記被着体は、半導体素子搭載用の支持部材又は別の半導体素子であることが好ましい。
【0024】
本発明は更に、上記本発明の半導体装置の製造方法により製造された半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ダイシングテープのプリカット加工時にセンサによる接着剤層の位置認識を容易とすることが可能であり、接着剤層とダイシングテープの位置ずれを抑制可能な接着シート及びその製造方法、並びに、上記接着シートを用いた半導体装置の製造方法及び半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の接着シートの好適な一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1に示す接着シートを図1のX−X’線に沿って切断した場合の断面図である。
【図3】(a)〜(d)は、本発明の接着シートの製造方法の好適な一実施形態を示す一連の工程図である。
【図4】(e)〜(h)は、本発明の接着シートの製造方法の好適な一実施形態を示す一連の工程図である。
【図5】本発明の接着シートにおける積層体を半導体ウェハ及びウェハリングに圧着した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0028】
<接着シート>
本発明の接着シートは、剥離基材と、該剥離基材上に配置された所定の平面形状を有する接着剤層、及び、該接着剤層を覆い且つ該接着剤層の周囲で上記剥離基材に接するように形成された粘着フィルムからなる、所定の形状を有する積層体と、を備え、上記剥離基材上に複数の上記積層体が上記剥離基材の長尺方向に分散配置された接着シートであって、上記接着剤層の波長200〜800nmの光線透過率が10〜90%であり、且つ、波長200〜400nmの領域での分光透過率が85%以下であることを特徴とするものである。
【0029】
本発明の接着シートは、上述したプリカット加工が施された接着シートである。そして、本発明の接着シートにおいては、接着剤層部分の波長200〜800nmの光線透過率及び200〜400nmの領域での分光透過率が上記範囲内であることにより、ダイシングテープとしての粘着フィルムのプリカット加工時に、センサから発光される光線の接着剤層における透過率を低下させ、接着剤層の端部の検出を容易とすることが可能となり、接着剤層と粘着フィルムの位置ずれ等の不良を十分に抑制することができる。
【0030】
図1は、本発明の接着シートの好適な一実施形態を示す平面図であり、図2は、図1に示す接着シートを図1のX−X’線に沿って切断した場合の断面図である。図1及び図2に示すように、接着シート10は、剥離基材1と、該剥離基材1上に配置された所定の平面形状を有する接着剤層2、及び、該接着剤層2を覆い且つ該接着剤層2の周囲で剥離基材1に接するように形成された粘着フィルム3からなる、所定の形状を有する積層体4と、を備えており、剥離基材1上に複数の積層体4が剥離基材1の長尺方向に分散配置された構造を有している。また、積層体4の周囲には、粘着フィルム3が残存している。更に、この粘着フィルム3は、基材フィルム8に粘着剤層7を設けたものとなっている。
【0031】
接着シート10において、接着剤層2及び粘着フィルム3は、所定の平面形状となるようにプリカット加工が施されている。粘着フィルム3のプリカット加工時には、センサによって、接着剤層2の端部6の位置が検出され、その検出結果に基づいて、粘着フィルム3にプリカット加工が施されることとなる。このとき、接着剤層2の波長200〜800nmの光線透過率及び200〜400nmの領域での分光透過率が本願特定の条件を満たしていることにより、接着剤層2が薄膜化された場合であっても、センサによる接着剤層2の位置認識を容易とすることができ、接着剤層2とダイシングテープ3の位置ずれが十分に抑制されることとなる。
【0032】
接着シート10において、上記接着剤層2は、上記剥離基材1を剥離した後に上記積層体4を貼り付けるべき被着体の平面形状に合致する所定の平面形状を有していることが好ましい。
【0033】
上記被着体としては、例えば半導体ウェハが挙げられるが、この半導体ウェハの平面形状に合致する平面形状を接着剤層2が有していることにより、半導体ウェハをダイシングする工程が容易となる傾向がある。なお、接着剤層2の平面形状は、半導体ウェハの平面形状に完全に一致している必要はなく、例えば、半導体ウェハの平面形状と相似であってもよく、半導体ウェハの平面形状の面積よりもやや大きくてもよい。
【0034】
接着シート10において、粘着フィルム3は、基材フィルム8上に粘着剤層7を形成した構造を有している。上記粘着剤層7は、上記剥離基材1を剥離した後に上記接着剤層2を貼り付けるべき被着体及び上記接着剤層2に対して室温(25℃)で粘着性を有することが好ましい。これにより、半導体ウェハをダイシングする際に半導体ウェハが十分に固定され、ダイシングが容易となる。また、半導体ウェハをダイシングする際にウェハリングを用い、このウェハリングに粘着剤層7が密着するように積層体4の貼り付けを行った場合、ウェハリングへの粘着力が十分に得られてダイシングが容易となる。
【0035】
また、接着剤層2がウェハリングに直接貼り付けられる場合には、接着剤層2の粘着力は、ウェハリングから容易に剥離できる程度の低い粘着力に調整する必要が生じるが、粘着剤層7をウェハリングに貼り付けることにより、このような粘着力の調整が不要となる。したがって、接着剤層2には十分に高い粘着力を持たせるとともに、粘着剤層7にはウェハリングを容易に剥離できる程度の十分に低い粘着力を持たせることにより、半導体ウェハのダイシング作業及びその後のウェハリングの剥離作業をより効率的に行うことが可能となる。更に、粘着剤層7の粘着力を十分に低く調整することができるため、剥離基材1と粘着剤層7との間に剥離起点を作り出しやすくなり、剥離基材1からの接着剤層2及び粘着剤層7の剥離が容易となって剥離不良の発生をより十分に抑制することが可能となる。
【0036】
更に、上記粘着剤層7は、高エネルギー線の照射により上記接着剤層2に対する粘着力が低下することが好ましい。これにより、接着剤層2を粘着剤層7から剥離する際において、紫外線、電子線、放射線等の高エネルギー線を照射することにより、剥離が容易に可能となる。
【0037】
接着シート10において、接着剤層2は、25℃での貯蔵弾性率が10〜10000MPaであり、且つ、260℃での硬化後の貯蔵弾性率が0.5〜1000MPaであることが好ましい。25℃での硬化前の接着剤層2の貯蔵弾性率が上記範囲であると、プリカットの加工性を確保しやすくなる。また、260℃での完全に硬化せしめた接着剤層2の貯蔵弾性率が上記範囲であると、半導体装置の信頼性に優れる。この貯蔵弾性率は、例えば、動的粘弾性測定装置(レオロジ社製、商品名:DVE−V4)を使用し、接着剤層2の硬化物に引張荷重をかけて、周波数10Hz、昇温速度5〜10℃/minの条件で−70℃から300℃まで測定する、温度依存性測定モードによって測定できる。
【0038】
本実施形態に係る接着シート10は、上述のように、剥離基材1と、該剥離基材1上に配置され、所定の平面形状を有した接着剤層2と、該接着剤層2の周囲で上記剥離基材1に接するよう形成された粘着フィルム3とが順次積層された構成を有している。本実施形態において、接着剤層2と粘着フィルム3とを積層したものを積層体4という。上記接着剤層2及び粘着フィルム3からなる積層体4は、所定の形状に切断されており、剥離基材1上に部分的に積層され、上記積層体4は、複数個、剥離基材1の長さ方向に分散配置されている。更に、剥離基材1には、積層体4の形状の周縁に沿って、接着剤層2側の面から剥離基材1の厚み方向に切り込み部(以下、「切り込み部A」ともいう」がウェハリング形状に合致した形にプリカットされている。
【0039】
ここで、積層体4の上記所定の形状とは、剥離基材1上に積層体4が部分的に積層された状態となり、上記接着剤層2の所定の平面形状が半導体ウェハ等の被着体の平面形状よりも大きい平面形状であれば、特に制限されないが、例えば、円形、略円形、四角形、五角形、六角形、八角形、ウェハ形状(円の外周の一部が直線である形状)等の、半導体ウェハへの貼付が容易な形状であることが好ましい。これらの中でも、半導体ウェハ搭載部以外の無駄な部分を少なくするために、円形やウェハ形状が好ましい。
【0040】
半導体ウェハのダイシングを行う際には、通常、ダイシング装置での取り扱いのためにウェハリングが用いられる。この場合、接着シート10から剥離基材1を剥離し、粘着フィルム3にウェハリングを貼り付け、その内側に半導体ウェハを貼り付ける。ここで、ウェハリングは、円環状や四角環状等の枠となっており、接着シート10における積層体4の粘着フィルム3は、更にこのウェハリングに合致する平面形状を有していることが好ましい。
【0041】
粘着フィルム3は、基材フィルム8と該基材フィルム8上に形成された粘着剤層7とで構成されている。粘着剤層7は、室温(25℃)で半導体ウェハやウェハリング等の被着体を十分に固定することが可能であり、且つ、ウェハリング等に対してはダイシング後に剥離可能な程度の粘着性を有していることが好ましい。該粘着剤層7の高エネルギー線照射前の粘着力は3.0〜150N/mであることが好ましく、30〜100N/mであることがより好ましい。150N/mを越えるとウェハリングから剥がし難く、作業性が低下する。3.0N/m未満であるとウェハリングに対する保持力が不足し、半導体装置の製造工程において支障をきたす恐れがある。
【0042】
以下、接着シート10を構成する各層について詳細に説明する。
【0043】
本実施形態における剥離基材1は、接着シート10の使用時にキャリアフィルムとしての役割を果たすものである。かかる剥離基材1としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリビニルアセテートフィルム等のポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリイミドフィルム等のプラスチックフィルム等を使用することができる。また、紙、不織布、金属箔等も使用することができる。
【0044】
また、剥離基材1の接着剤層2側の面は、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の離型剤で表面処理されていることが好ましい。
【0045】
剥離基材1の厚さは、使用時の作業性を損なわない範囲で適宜選択することができるが、10〜500μmであることが好ましく、20〜100μmであることがより好ましく、25〜50μmであることが特に好ましい。
【0046】
本実施形態における接着剤層2は、波長200〜800nmの光線透過率が10〜90%であり、且つ、波長200〜400nmの領域での分光透過率が85%以下であることが必要である。ここで、接着剤層2の波長200〜800nmの光線透過率は10〜90%であるが、20〜80%であることがより好ましく、30〜60%であることが特に好ましい。この光線透過率が10%未満であると、位置認識用のセンサの検出下限界をこえてしまい、90%を超えると、接着剤層の位置認識でのセンサの誤作動が生じやすくなる。また、接着剤層2の波長200〜500nmの領域での分光透過率は85%以下であるが、70%以下であることがより好ましく、60%以下であることが特に好ましい。この分光透過率が85%を超えると、接着剤層の位置認識でのセンサの誤作動が生じやすくなる。
【0047】
接着剤層2は、(A)ポリエーテル系化合物、顔料、染料及び光吸収剤からなる群より選択される少なくとも一種の光透過率調整成分と、(B)熱重合性成分と、(C)官能性モノマーを構成単位として含む重量平均分子量が10万以上である高分子量成分と、を含有する層であることが好ましい。
【0048】
上記(A)光透過率調整成分の一種であるポリエーテル系化合物は、アミド基(−NHCO−)、エステル基(−CO−O−)、イミド基(−NR、ただしRはそれぞれ−CO−である)、エーテル基(−O−)又はスルホン基(−SO−)を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。特に、アミド基、エステル基、イミド基又はエーテル基を有する熱可塑性樹脂であることがより好ましい。このようなポリエーテル系化合物として具体的には、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリエーテル、芳香族ポリエーテルアミドイミド、芳香族ポリエーテルアミド、芳香族ポリエステルイミド及び芳香族ポリエーテルイミド等が挙げられる。
【0049】
これらの中で、芳香族ポリエーテルアミドイミド、芳香族ポリエーテルイミド及び芳香族ポリエーテルアミドが、接着性の点から好ましい。
【0050】
上記の樹脂はいずれも、塩基成分である芳香族ジアミン又はビスフェノール等と、酸成分であるジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸若しくは芳香族塩化物又はこれらの反応性誘導体とを重縮合させて製造することができる。すなわち、アミンと酸との反応に用いられている公知の方法で製造することができ、諸条件等についても特に制限はない。芳香族ジカルボン酸、芳香族トリカルボン酸又はこれらの反応性誘導体とジアミンとの重縮合反応については、公知の方法が用いられる。
【0051】
芳香族ポリエーテルイミド、芳香族ポリエーテルアミドイミド又は芳香族ポリエーテルアミドの合成に用いられる塩基成分としては、特に制限はないが、例えば、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)]ヘキサフルオロプロパン等のエーテル基を有する芳香族ジアミン;4,4’−メチレンビス(2,6−ジイソプロピルアミン)等のエーテル基を有しない芳香族ジアミン;1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサン等のシロキサンジアミン;及び1,12−ジアミノドデカン、1,6−ジアミノヘキサン等のα,ω−ジアミノアルカンが好適に用いられる。
【0052】
芳香族ポリエーテルイミド、芳香族ポリエーテルアミドイミド又は芳香族ポリエーテルアミドの合成に用いられる酸成分としては、例えば、(a)無水トリメリット酸、無水トリメリット酸クロライド等の無水トリメリット酸の反応性誘導体、ピロメリット酸二無水物等の単核芳香族トリカルボン酸無水物又は単核芳香族テトラカルボン酸二無水物、(b)ビスフェノールAビストリメリテート二無水物、オキシジフタル酸無水物等の多核芳香族テトラカルボン酸二無水物、(c)テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド等のフタル酸の反応性誘導体等の芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0053】
本実施形態においては、ポリエーテル系化合物が5質量%減少する温度が300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることがさらに好ましい。ポリエーテル化合物が5質量%減少する温度が300℃未満の場合、被着体に接着剤層2を接着する際の熱や、半導体素子製造工程での熱でアウトガスが生じやすい傾向がある。なお、ポリエーテル系化合物が5質量%減少する温度は、示差熱天秤(セイコー電子工業社製、商品名:TG/DTA220)により、昇温速度10℃/分で測定して求められる。
【0054】
(A)光透過率調整成分としてポリエーテル系化合物を用いる場合、その使用量は、(B)熱重合性成分100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、1〜30質量部であることがより好ましく、2〜10質量部であることが特に好ましい。使用量がこの範囲にあると、接着剤層2の貯蔵弾性率が確保でき、また高温での耐半田リフロー性が良好なものとなる傾向にあるとともに、接着剤層2における波長200〜400nmの領域の分光透過率を、より確実に85%以下まで低下させることができる。
【0055】
(A)光透過率調整成分である顔料及び染料については、プリカット加工時にセンサから発する光線を吸収する性質があるものであれば特に制限はないが、例えば、顔料であればアゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、レーキ系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサンジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの顔料が挙げられる。また、染料であれば、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、カルボニル系、インジゴ系、キノンイミン系、メチン系、キノリン系、ニトロ系などの染料が挙げられる。
【0056】
(A)光透過率調整成分として顔料及び/又は染料を用いる場合、その使用量は、(B)熱重合性成分100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましく、0.3〜10質量部であることがより好ましく、0.5〜5質量部であることが特に好ましい。使用量がこの範囲にあると、接着剤層2の貯蔵弾性率が確保できるとともに、接着剤層2における波長200〜400nmの領域の分光透過率を、より確実に85%以下まで低下させることができる。
【0057】
(A)光透過率調整成分である光吸収剤については、プリカット加工時にセンサから発する光線を吸収する性質があるものであれば特に制限はないが、例えば、パラメトキシケイ皮酸2エチルヘキシル(オクチル)、パラジメチルアミノ安息香酸2エチルヘキシル(オクチル)、オキシベンゾン、サリチル酸2エチルヘキシル(オクチル)、4−tert−ブチル−4−メトキシ−ベンゾイルメタン、サリチル酸フェニルシノキサート、パラアミノ安息香酸エステル2−(2−ヒドロキシー5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、グアイアズレンなどのベンゼン系化合物やフェノール系化合物が挙げられる。
【0058】
(A)光透過率調整成分として光吸収剤を用いる場合、その使用量は、(B)熱重合性成分100質量部に対して、0.01〜20質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましく、0.3〜5質量部であることが特に好ましい。使用量がこの範囲にあると、接着剤層2における波長200〜400nmの領域の分光透過率を、より確実に85%以下まで低下させることができる。
【0059】
これらのポリエーテル系化合物、顔料、染料及び光吸収剤は、1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0060】
接着剤層2に用いられる(B)熱重合性成分としては、熱により重合するものであれば特に制限は無く、例えば、グリシジル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、水酸基、カルボキシル基、イソシアヌレート基、アミノ基、アミド基等の官能基を持つ化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、接着シート10としての耐熱性を考慮すると、熱によって硬化して接着作用を及ぼす熱硬化性樹脂を使用することが好ましい。
【0061】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、作業性、信頼性に優れる接着シート10が得られる点で、エポキシ樹脂を使用することが好ましい。
【0062】
エポキシ樹脂は、硬化して接着作用を有するものであれば特に限定されない。かかるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ等の二官能エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂等を使用することができる。また、多官能エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、複素環含有エポキシ樹脂又は脂環式エポキシ樹脂等、一般に知られているものを使用することができる。
【0063】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン株式会社製のエピコートシリーズ(エピコート807、エピコート815、エピコート825、エピコート827、エピコート828、エピコート834、エピコート1001、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009)、ダウケミカル社製のDER−330、DER−301、DER−361、及び、東都化成株式会社製のYD8125、YDF8170等が挙げられる。
【0064】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン株式会社製のエピコート152、エピコート154、日本化薬株式会社製のEPPN−201、ダウケミカル社製のDEN−438等が挙げられる。
【0065】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂である日本化薬株式会社製のEOCN−102S、EOCN−103S、EOCN−104S、EOCN−1012、EOCN−1025、EOCN−1027や、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂である東都化成株式会社製のYDCN700−10等が挙げられる。
【0066】
多官能エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン株式会社製のEpon 1031S、チバスペシャリティーケミカルズ社製のアラルダイト0163、ナガセケムテックス株式会社製のデナコールEX−611、EX−614、EX−614B、EX−622、EX−512、EX−521、EX−421、EX−411、EX−321等が挙げられる。
【0067】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン株式会社製のエピコート604、東都化成株式会社製のYH−434、三菱ガス化学株式会社製のTETRAD−X及びTETRAD−C、住友化学株式会社製のELM−120等が挙げられる。
【0068】
複素環含有エポキシ樹脂としては、チバスペシャリティーケミカルズ社製のアラルダイトPT810、UCC社製のERL4234、ERL4299、ERL4221、ERL4206等が挙げられる。
【0069】
脂環式エポキシ樹脂としては、ダイセル化学工業(株)製のエポリードシリーズ、セロキサイドシリーズ等が挙げられる。
【0070】
これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0071】
エポキシ樹脂を使用する際は、エポキシ樹脂硬化剤を使用することが好ましい。エポキシ樹脂硬化剤としては、通常用いられている公知の硬化剤を使用することができ、例えば、アミン類、ポリアミド、酸無水物、ポリスルフィド、三フッ化ホウ素、ジシアンジアミド、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSのようなフェノール性水酸基を1分子中に2個以上有するビスフェノール類、フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂及びクレゾールノボラック樹脂等のフェノール樹脂等が挙げられる。これらの中でも特に、吸湿時の耐電食性に優れる点で、フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂及びクレゾールノボラック樹脂等のフェノール樹脂が好ましい。なお、本発明においてエポキシ樹脂硬化剤とは、エポキシ基に触媒的に作用し架橋を促進するような、いわゆる硬化促進剤と呼ばれるものも含む。
【0072】
上記エポキシ樹脂硬化剤としてのフェノール樹脂の中で好ましいものとしては、例えば、大日本インキ化学工業株式会社製の商品名:フェノライトLF4871、フェノライトLF2822、フェノライトTD−2090、フェノライトTD−2149、フェノライトVH−4150、フェノライトVH4170、明和化成株式会社製の商品名:H−1、ジャパンエポキシレジン株式会社製の商品名:エピキュアMP402FPY、エピキュアYL6065、エピキュアYLH129B65、及び、三井化学株式会社製の商品名:ミレックスXL、ミレックスXLC、ミレックスRN、ミレックスRS、ミレックスVR等が挙げられる。
【0073】
(C)官能性モノマーを構成単位として含む重量平均分子量が10万以上である高分子量成分のうち好ましいものの一つとして、官能性モノマーを構成単位として含む重合体が挙げられる。かかる重合体における官能基としては、例えば、グリシジル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、水酸基、カルボキシル基、イソシアヌレート基、アミノ基、アミド基等が挙げられ、中でもグリジシル基が好ましい。より具体的には、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレート等の官能性モノマーを構成単位として含有するグリシジル基含有(メタ)アクリル共重合体等が好ましく、さらにこれらは、接着剤層2の構成原料として用いられる、硬化前のエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と非相溶であることが好ましい。
【0074】
上記官能性モノマーを構成単位として含む重合体であって、重量平均分子量が10万以上である高分子量成分としては、例えば、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレート等の官能性モノマーを構成単位として含有し、かつ重量平均分子量が10万以上であるグリシジル基含有(メタ)アクリル共重合体等が挙げられ、その中でも硬化前のエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と非相溶であるものが好ましい。
【0075】
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル共重合体としては、例えば、グリシジル基含有(メタ)アクリルエステル共重合体、グリシジル基含有アクリルゴム等を使用することができ、グリシジル基含有アクリルゴムがより好ましい。本発明でいうグリシジル基含有アクリルゴムとは、アクリル酸エステルを主成分とし、主として、ブチルアクリレートとアクリロニトリル等の共重合体や、エチルアクリレートとアクリロニトリル等からなるグリシジル基を含有する共重合体である。
【0076】
上記官能性モノマーとは、官能基を有するモノマーのことをいい、このようなモノマーとしては、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレート等を使用することが好ましい。重量平均分子量が10万以上であるグリシジル基含有(メタ)アクリル共重合体として具体的には、例えば、ナガセケムテックス株式会社製のHTR−860P−3(商品名)等が挙げられる。
【0077】
(C)高分子量成分において、上記グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有モノマー単位の量は、加熱により硬化して網目構造を効果的に形成する観点から、モノマー全量を基準として0.5〜50質量%であることが好ましい。また、十分な接着力を確保できるとともに、ゲル化を防止することができるという観点からは、0.5〜6.0質量%であることがより好ましく、0.8〜5.0質量%であることがさらに好ましく、1.0〜4.0質量%であることが特に好ましい。
【0078】
(C)高分子量成分は、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有モノマーと、エポキシ基含有モノマー以外の官能性モノマーとを共重合させたものであってもよい。エポキシ基含有モノマー以外の上記官能性モノマーとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、本発明において、エチル(メタ)アクリレートとは、エチルアクリレート又はエチルメタクリレートを示す。エポキシ基含有モノマー以外の官能性モノマーを組み合わせて使用する場合の混合比率は、グリシジル基含有(メタ)アクリル共重合体のTgを考慮して決定し、Tgが−10℃以上となるように調整することが好ましい。Tgが−10℃以上であると、未硬化状態での接着剤層2のタック性が適当であり、取り扱い性が良好なものとなる傾向にある。
【0079】
上記官能性モノマーを重合させて、官能性モノマーを構成単位として含む重量平均分子量が10万以上である高分子量成分を製造する場合、その重合方法としては特に制限はなく、例えば、パール重合、溶液重合等の方法を使用することができる。官能性モノマーを構成単位として含む高分子量成分の重量平均分子量は、10万以上であるが、30万〜300万であることが好ましく、50万〜200万であることがより好ましい。重量平均分子量がこの範囲にあると、シート状又はフィルム状としたときの強度、可とう性、及びタック性が適当であり、また、フロー性が適当であるため、配線の回路充填性が確保できる傾向にある。
【0080】
なお、本発明において、重量平均分子量とは、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーで測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値を示す。
【0081】
また、官能性モノマーを構成単位として含む重量平均分子量が10万以上である高分子量成分の使用量は、(B)熱重合性成分100質量部に対して、10〜400質量部であることが好ましい。使用量がこの範囲にあると、貯蔵弾性率及び成型時のフロー性抑制が確保でき、また高温での取り扱い性が良好なものとなる傾向にある。また、(C)高分子量成分の使用量は、(B)熱重合性成分100質量部に対して、15〜350質量部であることがより好ましく、20〜300質量部であることが特に好ましい。
【0082】
また、熱で硬化する接着剤層2の貯蔵弾性率を大きくするために、例えば、エポキシ樹脂等の(B)熱重合性成分の使用量を増やしたり、グリシジル基濃度の高いエポキシ樹脂又は水酸基濃度の高いフェノール樹脂を使用する等してポリマー全体の架橋密度を上げたり、無機フィラーを添加するといった方法を用いることができる。接着剤層2の貯蔵弾性率を大きくするための無機フィラーについては、後述する。
【0083】
また、接着剤層2には、その取り扱い性向上、熱伝導性向上、溶融粘度の調整、チキソトロピック性付与、及び、上述した貯蔵弾性率の向上等を目的として、無機フィラーを添加することもできる。無機フィラーとしては、特に制限はないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミウイスカ、窒化ほう素、結晶性シリカ、非晶性シリカ等が挙げられる。なお、無機フィラーの形状は特に制限されるものではない。これらの中でも、熱伝導性向上のためには、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ほう素、結晶性シリカ、非晶性シリカが好ましい。また、溶融粘度の調整やチキソトロピック性の付与の目的には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、結晶性シリカ、非晶性シリカなどが好ましい。これらの無機フィラーは、1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0084】
また、無機フィラーの平均粒径は0.005μm〜1.0μmであることが好ましく、これより小さくても大きくても接着性が低下する可能性がある。
【0085】
無機フィラーを用いる場合の配合量は、接着剤層2の固形分全量を基準として1〜20質量%であることが好ましい。この配合量が1質量%未満では無機フィラーの添加効果が得られない傾向があり、20質量%を超えると、接着剤層2の貯蔵弾性率の過剰な上昇、接着性の低下、ボイド残存による電気特性の低下等の問題を起こす傾向がある。
【0086】
接着剤層2の厚さは、半導体素子搭載用の支持部材等の被着体への接着性は十分に確保しつつ、半導体ウェハへの貼り付け作業及び貼り付け後のダイシング作業に影響を及ぼさない範囲であることが望ましい。かかる観点から、接着剤層2の厚さは、1〜300μmであることが好ましく、1〜75μmであることがより好ましく、1〜20μmであることが特に好ましい。厚さが1μm未満であると、十分なダイボンド接着力を確保することが困難となる傾向があり、300μmを超えると、貼り付け作業やダイシング作業への影響等の不具合が生じる傾向がある。
【0087】
また、半導体装置の軽量小型化の観点からは、接着剤層2の厚さは、15μm以下であることが好ましく、1〜15μmであることがより好ましく、3〜15μmであることが特に好ましい。従来の接着剤層では、厚さを15μm以下にした場合、プリカット加工時のセンサによる接着剤層の位置認識が困難となる傾向があったが、本発明によれば、接着剤層2の厚さを15μm以下に薄膜化した場合であっても、センサによる接着剤層の位置認識が容易となる。
【0088】
本実施形態の接着シート10を構成する粘着フィルム3としては、基材フィルム8と粘着剤層7とから構成されたものを用いることができる。
【0089】
基材フィルム8には、剥離基材1に用いたフィルム又はシートと同様のものを用いることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリビニルアセテートフィルム等のポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリイミドフィルム等のプラスチックフィルム等が挙げられる。更に、基材フィルム8は、これらのフィルムが2層以上に積層されたものであってもよい。
【0090】
粘着剤層7は、高エネルギー線の照射により重合する高エネルギー線重合性成分を含有することが好ましい。これにより、半導体ウェハ等の被着体に接着剤層2を貼り付けた後、ダイシングを行う前に放射線等の高エネルギー線を照射してダイシング時の粘着力を向上させることや、逆にダイシングを行った後に放射線等の高エネルギー線を照射して粘着力を低下させることでピックアップを容易にすることができる。本発明において、このような高エネルギー線重合性成分としては、従来の高エネルギー線重合性のダイシングシートに使用されていた化合物を特に制限なく使用することができる。
【0091】
粘着剤層7に用いられる高エネルギー線重合性成分としては、例えば、放射線重合性成分が挙げられる。放射線重合性成分としては、特に制限されないが、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、ペンテニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、スチレン、ジビニルベンゼン、4−ビニルトルエン、4−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、1,3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、1,2−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、メチレンビスアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、トリス(β−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリアクリレート等を使用することができる。
【0092】
また、粘着剤層7には、光重合開始剤(例えば、放射線等の高エネルギー線の照射によって遊離ラジカルを生成するようなもの)を添加することもできる。かかる光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、N,N’−テトラメチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、N,N’−テトラエチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4−メトキシ−4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパノン−1、2,4−ジエチルチオキサントン、2−エチルアントラキノン、フェナントレンキノン等の芳香族ケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン、ベンジルジメチルケタール等のベンジル誘導体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジ(m−メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2−(o−フルオロフェニル)−4,5−フェニルイミダゾール二量体、2−(o−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(p−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2,4−ジ(p−メトキシフェニル)−5−フェニルイミダゾール二量体、2−(2,4−ジメトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体、9−フェニルアクリジン、1,7−ビス(9,9’−アクリジニル)ヘプタン等のアクリジン誘導体等が挙げられる。
【0093】
また、粘着剤層7の厚さは、10〜500μmであることが好ましく、25〜200μmであることがより好ましく、50〜150μmであることが特に好ましい。
【0094】
本実施形態の接着シート10は、以上説明したような剥離基材1、接着剤層2及び粘着フィルム3を備えるものである。本実施形態の接着シート10において、剥離基材1には、接着剤層2と粘着フィルム3とからなる層体の平面形状の周縁に沿って、剥離基材1の接着剤層2側の面から剥離基材1の厚み方向に切り込み部A、及び、剥離基材1の粘着フィルム3側の面から剥離基材1の厚み方向に切り込み部Bが形成されている。
【0095】
<接着シートの製造方法>
上記接着シートの製造方法について説明する。本発明の接着シートの製造方法は、剥離基材上に接着剤層を積層する第1の積層工程と、上記接着剤層の上記剥離基材に接する側と反対側の面から上記剥離基材に達するまで上記接着剤層に対して切り込みを入れ、切り込まれた外周部分の接着剤層を除去し、所定の平面形状を有する接着剤層を形成する第1の切断工程と、上記所定の平面形状を有する接着剤層及び上記剥離基材を覆うように、粘着フィルムを積層する第2の積層工程と、上記粘着フィルムの上記剥離基材側と反対側の面から上記剥離基材に達するまで上記粘着フィルムに対して切り込みを入れ、切り込まれた外周部分の粘着フィルムを除去し、上記所定の平面形状の接着剤層と、該接着剤層を覆い且つ該接着剤層の周囲で上記剥離基材に接する粘着フィルムとからなる、所定の形状を有する積層体を形成する第2の切断工程と、を含む方法である。
【0096】
図3(a)〜(d)及び図4(e)〜(h)は、本発明の接着シートの製造方法の好適な一実施形態を示す一連の工程図である。本実施形態の接着シートの製造方法においては、まず、図3(a)に示すように、長尺の剥離基材1上の全面に長尺の接着剤層2を積層する(第1の積層工程)。次に、図3(b)に示すように、プリカット刃15又はそれに相当する部材を用いて、接着剤層2の剥離基材1に接する側と反対側の面F1から剥離基材1に達するまで切り込みを入れ、切り込み部Aを環状に形成して所定の形状にプリカット加工を施す。その後、図3(c)に示すように、プリカット加工を施した接着剤層2の不要部分を剥離除去する。これにより、図3(c)及び(d)に示すように、剥離基材1上に、該剥離基材1の長尺方向に島状に分散配置された所定の平面形状を有する接着剤層2を形成する(第1の切断工程)。
【0097】
次に、図4(e)に示すように、接着剤層2及び露出している剥離基材1の全体を覆うように粘着フィルム3を積層する(第2の積層工程)。次いで、図4(f)に示すように、粘着フィルム3に対してプリカット刃15等を用いて剥離基材1に達するまで切り込みを入れ、切り込み部Bを環状に形成してプリカット加工を施す。このとき、センサにより接着剤層2の端部の位置を検出することにより、該接着剤層2と同心円状に粘着フィルム3の円形プリカット加工を行う。その後、図4(g)に示すように、プリカット加工を施した粘着フィルム3の不要部分を剥離除去する。これにより、図4(h)に示すように、剥離基材1上に、接着剤層2及び粘着フィルム3からなる積層体4を形成する(第2の切断工程)。以上により、図1及び2に示したものと同様の構造を有する接着シート10が作製される。
【0098】
第1の積層工程においては、まず、接着剤層2を構成する材料を溶剤に溶解又は分散して接着剤層形成用ワニスとし、これを剥離基材1上に塗布後、加熱により溶剤を除去する。
【0099】
一方、第2の積層工程において積層する粘着フィルム3は、まず、粘着剤層7を構成する材料を溶剤に溶解又は分散して粘着剤層形成用ワニスとし、これを基材フィルム8上に塗布し、加熱により溶剤を除去することで得られる。なお、基材フィルム(支持フィルム)上に粘着剤層7を形成した後、該粘着剤層7上に別の基材フィルムを貼り合わせてもよい。その場合、第2の積層工程において粘着フィルム3を積層する際には、一方の基材フィルム(支持フィルム)を剥離して積層を行う。
【0100】
ここで、接着剤層形成用ワニス及び粘着剤層形成用ワニスの調製に使用する上記溶剤としては、各構成材料を溶解又は分散することが可能なものであれば特に限定されないが、層形成時の揮発性等を考慮すると、例えば、メタノール、エタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン等の比較的低沸点の溶媒を使用するのが好ましい。また、塗膜性を向上させる等の目的で、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、シクロヘキサノン等の比較的高沸点の溶媒を使用することもできる。これらの溶媒は、1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、ワニスを調製した後、真空脱気等によってワニス中の気泡を除去することもできる。
【0101】
第1の積層工程における接着剤層形成用ワニスの剥離基材1への塗布方法、及び、第2の積層工程における粘着剤層形成用ワニスの基材フィルム8への塗布方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、バーコート法、カーテンコート法、ダイコート法等を用いることができる。
【0102】
また、接着剤層2と粘着フィルム3との貼り合わせは、従来公知の方法によって行うことができ、例えば、ラミネーター等を用いて行うことができる。
【0103】
以上、本発明の接着シート及び接着シートの製造方法の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0104】
<半導体装置の製造方法>
本発明の接着シートを用いて半導体装置を製造する方法について説明する。本発明の半導体装置の製造方法は、上記本発明の接着シートにおける上記積層体を上記剥離基材から剥離し、上記積層体を、上記接着剤層側の面から半導体ウェハに貼り付けて積層体付き半導体ウェハを得る貼り付け工程と、上記積層体付き半導体ウェハを、少なくとも上記接着剤層と上記粘着フィルムとの界面まで切削部材で切削し、上記半導体ウェハを所定の大きさの半導体素子に切断するダイシング工程と、上記粘着フィルムから上記半導体素子を上記接着剤層と共にピックアップし、接着剤層付き半導体素子を得るピックアップ工程と、上記接着剤層付き半導体素子における上記半導体素子を、上記接着剤層を介して被着体に接着する接着工程と、を含む方法である。ここで、上記被着体としては、半導体素子搭載用の支持部材、別の半導体素子が挙げられる。
【0105】
本発明の接着シート10は、剥離基材1がキャリアフィルムの役割を果たしており、2つのロール及び楔状の部材とに支持されながら、その一端が円柱状の巻芯に接続された状態で巻回され第1のロールを形成し、他端が円柱状の巻芯に接続された状態で巻回され第2のロールを形成している。そして、第2のロールの巻芯には、当該巻芯を回転させるための巻芯駆動用モータが接続されており、接着シート10における積層体4が剥離された後の剥離基材1が所定の速度で巻回されるようになっている。
【0106】
まず、巻芯駆動用モータが回転すると、第2のロールの巻芯が回転し、第1のロールの巻芯に巻回されている接着シート10が第1のロールの外部に引き出される。そして、引き出された接着シート10は、移動式のステージ上に配置された円板状の半導体ウェハ及びそれを囲むように配置されたウェハリング上に導かれる。
【0107】
次に、剥離基材1から、接着剤層2及び粘着フィルム3からなる積層体4が剥離される。このとき、接着シート10の剥離基材1側から楔状の部材が当てられており、剥離基材1は部材側へ鋭角に曲げられ、剥離基材1と積層体4との間に剥離起点が作り出されることとなる。更に、剥離起点がより効率的に作り出されるように、剥離基材1と積層体4との境界面にエアーが吹き付けられている。
【0108】
このようにして剥離基材1と積層体4との間に剥離起点が作り出された後、粘着フィルム3の粘着剤層7がウェハリングと密着し、接着剤層2が半導体ウェハと密着するように積層体4の貼り付けが行われる。このとき、ロールによって積層体4は、図5に示すように半導体ウェハ11及びウェハリング12に圧着されることとなる。そして半導体ウェハ11及びウェハリング12上への積層体4の貼り付けが完了する。
【0109】
以上のような手順により、半導体ウェハ11への積層体4の貼り付けを、自動化された工程で連続して行うことができる。このような半導体ウェハ11への積層体4の貼り付け作業を行う装置としては、例えば、リンテック株式会社製のRAD−2500(商品名)等が挙げられる。
【0110】
そして、このような工程により積層体4を半導体ウェハ11に貼り付ける場合、接着シート10を用いることにより、剥離基材1と積層体4との間の剥離起点(剥離基材1と粘着剤層7との間の剥離起点)を容易に作り出すことができ、剥離不良の発生を十分に抑制することができる。
【0111】
次に、上記の工程により積層体4が貼り付けられた半導体ウェハ11を、切削部材、例えばダイシング刃により必要な大きさにダイシングして、接着剤層2が付着した半導体素子を得る。ここで更に、洗浄、乾燥等の工程を行ってもよい。このとき、接着剤層2及び粘着剤層7により半導体ウェハ11は基材フィルム8に十分に粘着保持されているので、上記各工程中に半導体ウェハ11やダイシング後の半導体素子が脱落することが十分に抑制される。
【0112】
次に、放射線等の高エネルギー線を粘着剤層7に照射し、粘着剤層7を重合硬化させる。この際、高エネルギー線照射と同時に又は照射後に、硬化反応を促進する目的で更に加熱を行っても良い。粘着剤層7への高エネルギー線の照射は、粘着剤層7の接着剤層2が設けられていない側の面から行う。
【0113】
高エネルギー線照射後、ピックアップすべき半導体素子を、例えば吸引コレットによりピックアップする。この際、ピックアップすべき半導体素子を粘着剤層7の下面から、例えば針扞等により突き上げることもできる。粘着剤層7を硬化させることにより、半導体素子のピックアップ時において、接着剤層2と粘着剤層7との界面で剥離が生じやすくなり、接着剤層2が半導体素子の下面に付着した状態でピックアップされることとなる。そして、接着剤層2が付着した半導体素子を、接着剤層2を介して半導体素子搭載用の支持部材に載置し、加熱を行う。加熱により接着剤層2は接着力が発現し、半導体素子と半導体素子搭載用支持部材との接着が完了する。その後、必要に応じてワイヤボンド工程や封止工程等を経て、半導体装置が製造される。
【0114】
<半導体装置>
本発明の半導体装置は、半導体素子搭載用の支持部材となる有機基板上に半導体素子が、接着剤層2を介して積層されている。また、有機基板には、回路パターン及び端子が形成されており、この回路パターンと半導体素子とが、ワイヤボンドによってそれぞれ接続されている。そして、これらが封止材により封止され、半導体装置が形成されている。この半導体装置は、上述した本発明の半導体装置の製造方法により、本発明の接着シート10を用いて製造されるものである。
【0115】
以上、本発明の半導体装置の製造方法及び半導体装置の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0116】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0117】
(実施例1〜5及び比較例1)
[半導体用接着シートの作製]
(A)光透過率調整成分としてのポリエーテル系化合物、顔料、染料及び光吸収剤と、(B)熱重合性成分としてのエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤と、カップリング剤とを、下記表1に示す組成(配合単位は質量部)で配合してなる組成物に、シクロヘキサノンを加えて攪拌混合し、さらにビーズミルを用いて90分間混練した。これに、(C)高分子量成分を混合してワニスを得、真空脱気した。真空脱気後のワニス(不揮発分:15質量%)を、剥離基材としての長さ460m、幅300mm、厚さ50μmの離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、商品名:ピューレックスA31、PETフィルム)上に塗布し、140℃で5分間加熱乾燥して、膜厚が5μmの未硬化状態の接着剤層を形成した(第1の積層工程)。
【0118】
【表1】



【0119】
なお、表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
ポリエーテル系化合物:酸成分としての無水トリメリット酸3.2質量部と、塩基成分としての2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン3.1質量部とを重縮合させてなるポリエーテル系化合物
顔料:C.I.Pig Black 7(三菱化学社製)
染料:フタロシアニンブルー系染料(大日精化社製、商品名:クロモファイン・フタロシアニンブルー)
光吸収剤:ベンゾトリアゾール
エポキシ樹脂:YDCN−700−10(商品名、東都化成社製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂硬化剤:ミレックスXLC−LL(商品名、三井化学社製、フェノール樹脂)
高分子量成分:HTR−860P−3(商品名、ナガセケムテックス社製、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートに由来するモノマー単位を2〜6質量%有するアクリルゴム、重量平均分子量80万)
カップリング剤:NUC A−1160(商品名、GE東芝社製、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン)
【0120】
次に、得られた接着剤層に対して、切り込みが剥離基材に達するまで、直径210mm(φ)の円形プリカット加工を行い、不要な接着剤層を除去した(第1の切断工程)。
【0121】
粘着フィルムは以下の手順で作製した。まず、放射線重合性成分としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬(株)製、商品名:カヤラッドDPHA)63質量%、光重合開始剤として2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル−2−モルフォリノプロパン−1−オン(Ciba Speciality Chemicals社製、商品名:イルガキュア907)5質量%、及び、ワニス調整用溶媒としてシクロヘキサノン32質量%を配合し、60分間以上攪拌混合して、粘着剤層形成用ワニスを調製した。この粘着剤層形成用ワニスを、膜厚38μmの支持フィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、商品名:テイジンピューレックスA53)上に塗布し、110℃で10分間加熱乾燥を行い、膜厚10μmの粘着剤層を形成した。次いで、得られた粘着剤層上に、基材フィルムとしてのポリエチレン製フィルム(膜厚100μm)を貼り合せ、支持フィルム付き粘着フィルムを得た。
【0122】
その後、不要部分を除去した接着剤層及び剥離基材上に、支持フィルム付き粘着フィルムを、支持フィルムを剥離しながら粘着剤層が接着剤層と接するように、室温、線圧1kg/cm、速度0.5m/分の条件で貼付けた(第2の積層工程)。
【0123】
そして、粘着フィルムに対して、切り込みが剥離基材に達するまで、接着剤層と同心円状に直径290mm(φ)の円形プリカット加工を行い、粘着フィルムの不要部分を除去した(第2の切断工程)。この第2の切断工程におけるプリカットは、接着剤層の端部をセンサにより位置認識することにより行った。これにより、図1及び2に示すような構造を有する半導体用接着シートを得た。
【0124】
(接着シートの特性評価)
実施例1〜5及び比較例1で作製した半導体用接着シートの特性を、以下に示す各項目によって評価した。評価結果を表2に示す。
【0125】
[光線透過率]
接着シートにおける接着剤層を25mm×50mmに切り出し、0.4mm厚の透明ガラス板に、60℃ホットプレート上で、ゴムローラを用いて2kgfの圧力で、シワ・気泡の発生がないように貼り付けた。これを測定サンプルとして、接着剤層の波長200〜800nmの光線透過率、及び、波長200〜400nmの領域での分光透過率を、分光光度計(島津製作所製、商品名:LC−4000)を用いて測定した。
【0126】
[弾性率(貯蔵弾性率)]
上記ポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布した後の状態における接着剤層の貯蔵弾性率を、動的粘弾性測定装置(レオロジー社製、DVE−V4)を用いて測定した(サンプルサイズ:長さ20mm、幅4mm、膜厚20μm、温度範囲:−60〜150℃、昇温速度:5℃/min、引張りモード、10Hz、自動静荷重)。
【0127】
[接着強度]
接着シートにおいて、接着剤層及び粘着フィルムからなる積層体を剥離基材から剥離し、該積層体の接着剤層側の面を、ダイシング加工すべき半導体ウェハに貼着した。次いで、半導体ウェハをダイシングし、洗浄及び乾燥を行った後、接着剤層付き半導体素子をピックアップし、半導体素子を接着剤層を介して被着体である42アロイリードフレーム(大日本印刷社製)に貼り付け、半導体装置を作製した。得られた半導体装置のダイシェア強度(接着強度)を、DAGE社製のD−4000(商品名)を用いて測定した。
【0128】
[プリカット品歩留り]
接着シートの作製において、長さ460m×幅300mmの剥離基材上に、上述した第1の積層工程、第1の切断工程、第2の積層工程及び第2の切断工程を経て、接着剤層及び粘着フィルムからなる積層体300枚を形成した。形成した積層体300枚について、接着剤層と粘着フィルムとの位置ずれが5mm未満である場合を良品、位置ずれが10mm以上である又はプリカットされていない場合を不良品として、下記式によりプリカット品歩留り(%)を求めた。
プリカット品歩留り(%)={良品の数/300(積層体の全枚数)}×100
【0129】
【表2】



【符号の説明】
【0130】
1…剥離基材、2…接着剤層、3…粘着フィルム、4…積層体、7…粘着剤層、8…基材フィルム、10…接着シート、11…半導体ウェハ、12…ウェハリング。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離基材と、
該剥離基材上に配置された所定の平面形状を有する接着剤層、及び、該接着剤層を覆い且つ該接着剤層の周囲で前記剥離基材に接するように形成された粘着フィルムからなる、所定の形状を有する積層体と、
を備え、前記剥離基材上に複数の前記積層体が前記剥離基材の長尺方向に分散配置された接着シートであって、
前記接着剤層の波長200〜800nmの光線透過率が10〜90%であり、且つ、波長200〜400nmの領域での分光透過率が85%以下である、接着シート。
【請求項2】
前記接着剤層が、(A)ポリエーテル系化合物、顔料、染料及び光吸収剤からなる群より選択される少なくとも一種の光透過率調整成分と、(B)熱重合性成分と、(C)官能性モノマーを構成単位として含む重量平均分子量が10万以上である高分子量成分と、を含有する、請求項1記載の接着シート。
【請求項3】
前記ポリエーテル系化合物が、芳香族ポリエーテルイミド、芳香族ポリエーテルアミドイミド及び芳香族ポリエーテルアミドからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項2記載の接着シート。
【請求項4】
前記(C)高分子量成分が、エポキシ基含有モノマー単位の含有量が0.5〜50質量%であるグリシジル基含有(メタ)アクリル共重合体である、請求項2又は3記載の接着シート。
【請求項5】
前記接着剤層は、25℃での貯蔵弾性率が10〜10000MPaであり、且つ、260℃での硬化後の貯蔵弾性率が0.5〜1000MPaである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項6】
前記接着剤層の厚さが15μm以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の接着シートの製造方法であって、
剥離基材上に接着剤層を積層する第1の積層工程と、
前記接着剤層の前記剥離基材に接する側と反対側の面から前記剥離基材に達するまで前記接着剤層に対して切り込みを入れ、切り込まれた外周部分の接着剤層を除去し、所定の平面形状を有する接着剤層を形成する第1の切断工程と、
前記所定の平面形状を有する接着剤層及び前記剥離基材を覆うように、粘着フィルムを積層する第2の積層工程と、
前記粘着フィルムの前記剥離基材側と反対側の面から前記剥離基材に達するまで前記粘着フィルムに対して切り込みを入れ、切り込まれた外周部分の粘着フィルムを除去し、前記所定の平面形状の接着剤層と、該接着剤層を覆い且つ該接着剤層の周囲で前記剥離基材に接する粘着フィルムとからなる、所定の形状を有する積層体を形成する第2の切断工程と、
を含む接着シートの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の接着シートにおける前記積層体を前記剥離基材から剥離し、前記積層体を、前記接着剤層側の面から半導体ウェハに貼り付けて積層体付き半導体ウェハを得る貼り付け工程と、
前記積層体付き半導体ウェハを、少なくとも前記接着剤層と前記粘着フィルムとの界面まで切削部材で切削し、前記半導体ウェハを所定の大きさの半導体素子に切断するダイシング工程と、
前記粘着フィルムから前記半導体素子を前記接着剤層と共にピックアップし、接着剤層付き半導体素子を得るピックアップ工程と、
前記接着剤層付き半導体素子における前記半導体素子を、前記接着剤層を介して被着体に接着する接着工程と、
を含む半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記被着体が、半導体素子搭載用の支持部材又は別の半導体素子である、請求項8記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9記載の半導体装置の製造方法により製造された半導体装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−111530(P2011−111530A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269072(P2009−269072)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】