説明

接着シート

【課題】簡便な方法で接着を実施させることができ、しかも、接着信頼性の低下を抑制させ得る接着シートの提供を課題としている。
【解決手段】本発明に係る接着シートは、シート状に形成されており、両面を被着体に熱接着させて用いられるべく、表面が熱接着可能な樹脂組成物によって形成されている接着シートであって、フェルト状のシート基材に樹脂組成物が含浸されてなる基材層が備えられており、しかも、加熱されることによって前記基材層の厚みを増大させてシート厚みを増大させうるように該基材層に含浸されている前記樹脂組成物には発泡剤が含有されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着シートに関し、特に詳しくは、両面を被着体に接着させるべく用いられる接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータやジェネレータなどの回転電機に用いられるステータコアには、電磁鋼板を積層させた積層体が用いられたりしており、該ステータコアに形成されているスロットの内壁面においては、電磁鋼板の端面が露出して電磁鋼板どうしの間のくぼみによって微細な凹凸が形成されたりしている。
また、導体コイルは、通常、巻線が束ねられた状態となっており線間のくぼみによって表面に凹凸が形成されている。
そのため、このような凹凸を有するものどうしの接着に適した液状の接着剤がステータコアと導体コイルとの接着に用いられておりステータコアのスロットに導体コイルを収容させた後に、該スロット内にワニスを充填して、該ワニスを硬化させることによってステータコアと導体コイルとの接着が実施されたりしている(例えば、下記特許文献1)。
【0003】
しかし、この特許文献1にも記載されているように、ワニスを用いる方法は、必要箇所以外への付着を生じやすいことなどから、煩雑な作業を伴うおそれを有する。
また、近年、電気・電子機器には小型化が求められ、スロットへの導体コイルの占積率向上が求められており、スロット内壁と導体コイルとの間の間隙が狭くなる傾向から、ワニスの充填作業がより困難な状況になっている。
例えば、下記特許文献2には、平角導体によってU字状に形成されたセグメントをスロット内に収容させて該セグメントによって導体コイルを形成させることが記載されており、このような平角導体が用いられることによって高い占積率で導体コイルをスロット内に収容させうることが記載されている。
このような場合においては、断面円形の巻線を束ねた導体コイルと違って素線間に殆ど隙間が形成されないことからスロット内に収容された導体コイルにワニスを含浸させることは困難である。
【0004】
このような回転電機におけるステータコアと導体コイルとの接着に限らず、狭い箇所における接着には、シート状の接着剤(接着シート)を用いることが有利であり、ステータコアと導体コイルのような被着体どうしを、接着シートを介して接着させる方法は、接着に要する手間もワニスを使用する場合に比べて一般に手軽である。
しかし、その両面を被着体に接着させるべく形成された接着シートは、優れた接着強度で被着体どうしを接着させるためには、通常、接着時において厚み方向に加圧する必要があり、例えば、ステータコアや導体コイルのような表面に凹凸を有するものの接着においては、接着シートを無加圧で被着体の表面形状に追従させることが困難で接着信頼性を十分確保することが困難である。
【0005】
この点に関し、ステータコアや導体コイルといった表面に凹凸を有する被着体の間に接着シートを介装させた状態でこの接着シートを被着体の表面形状に追従するような形で加圧することは実際上困難である。したがって、従来の接着シートにおいては、簡便な方法で表面の凹凸に対する追従性に優れた接着を実施させることが困難であるという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−61396号公報
【特許文献2】特開2007−89272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような問題に対して、例えば、加熱することで発泡を生じて体積を増大させるべく発泡剤を含有させた樹脂組成物を用いて接着シートを形成させ、当該接着シートを、ステータコアのスロット内壁と導体コイルとの間のような狭小な箇所に介装させた状態で加熱発泡させることによってその表面を被着体表面の凹凸に追従させることが考えられる。
このような方法は、接着に多大な手間を必要とすることなく簡便に被着体表面への接着性の改善を図りうる。
しかし、その一方で単に発泡させるだけでは、当該発泡による強度低下の問題が発生するおそれがあり、接着信頼性を低下させるおそれを有する。
例えば、前記発泡性樹脂組成物からなる中間層を形成させた接着シートをスロット内壁と導体コイルとの間に介装させて発泡させ、この接着シートの表面をスロット内壁と導体コイル表面とにそれぞれ接着させた場合に、ステータコアと導体コイルとが離間する方向への引き剥がし応力や、横方向に位置ずれを生じさせるようなせん断応力が加えられると、発泡された中間層において凝集破壊がされやすくなる。
すなわち、接着表面での剥離が抑制される一方で発泡による強度低下が発生するおそれを有する。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、簡便な方法で接着を実施させることができ、しかも、接着信頼性の低下を抑制させ得る接着シートの提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る接着シートは、シート状に形成されており、両面を被着体に熱接着させて用いられるべく、表面が熱接着可能な樹脂組成物によって形成されている接着シートであって、フェルト状のシート基材に樹脂組成物が含浸されてなる基材層が備えられており、しかも、加熱されることによって前記基材層の厚みを増大させてシート厚みを増大させうるように該基材層に含浸されている前記樹脂組成物には発泡剤が含有されていることを特徴としている。
【0010】
なお、“接着シートに基材層が備えられている”とは接着シートに他層との積層構造が形成されている場合のみならず接着シートが基材層のみによって形成されている場合をも含むことを意図している。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る接着シートは、発泡剤を含有する樹脂組成物がシート基材に含浸された基材層を備えていることから加熱による発泡を前記樹脂組成物に発生させることができ接着シートの厚みを増大させうる。
したがって、表面に凹凸を有する被着体であっても加熱するという簡便なる方法で良好なる接着状態を形成させ得る。
また、前記樹脂組成物が含浸されているシート基材がフェルト状であることから、加熱による発泡時には、前記シート基材の繊維間に気泡を形成させ得る。
したがって、このフェルト状のシート基材自体も発泡によって厚みが増大され、該シート基材を構成する繊維によって気泡を囲む気泡膜が補強され発泡後における強度低下を抑制させ得る。
【0012】
すなわち、本発明によれば、簡便な方法で接着を実施させることができ、しかも、接着信頼性の低下を抑制させ得る接着シートが提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】自動車用駆動モータの構造(ステータ、ロータ)を示す断面図。
【図2】ステータコアのスロットに収容された導体コイルの様子を示す断面図。
【図3】本実施形態に係る接着シートの一例を示す断面図。
【図4】本発明とは異なる接着シートにおける発泡の様子を示す断面図。
【図5】本実施形態に係る接着シートの発泡の様子を示す断面図。
【図6】本実施形態に係る接着シートの他例を示す断面図。
【図7】接着シートの評価方法(テストピース作製方法)を示す図。
【図8】接着シートの評価結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について(添付図面に基づき)説明する。
まず、本実施形態の接着シートが用いられる実施の態様として、回転電機である自動車用の駆動モータにおけるステータコアのスロット内壁と導体コイルとの接着に用いる場合を例に説明する。
まず、はじめに、この自動車用駆動モータについて説明する。
図1は、本実施形態における接着シートによって接着がなされる前のスロットと導体コイルとを有する駆動モータを表しており、回転軸を垂直方向に向けて配した駆動モータのステータとロータとを上面側から見た様子を示すもので、回転軸に対して垂直となる平面でステータコアの上端面よりもわずかに上側を切断した様子を示すものである。
また、図2は、図1において記号「A」で示されている破線で囲まれた領域を拡大した拡大図であり、記号「B」で示されている破線で囲まれた領域を拡大した拡大図を併せて図中に示している。
そして、図3は、ステータ内壁と導体コイルとの間に介装されてこれらの接着に用いられる接着シート51を示す断面図である。
【0015】
この図1、2に示されているようにこの駆動モータの中心部には、細長い円柱形状を有する回転軸10が配され、該回転軸10の外周側にはロータコアが周設されている。
該ロータコア20は、前記回転軸10が挿通される貫通孔を上端側から下端側に貫通させた全体略円筒形状に形成されており、前記回転軸10とロータコア20とは、固定一体化されて前記回転軸10周りに回転可能な状態で駆動モータに備えられている。
【0016】
本実施形態の駆動モータには、この回転軸10周りに、前記ロータコアを包囲するステータコア30が備えられており、該ステータコア30は、本実施形態においては、4層型セグメント順次接合ステータコイル(図示せず)が導体コイルとして装着されている。
前記ステータコア30は、前記ロータコア20の外径よりも僅かに大きな内径を有する全体略円筒形状に形成されており、その円筒形状の中空領域にロータコア20が収容されており、前記ステータコア30の内周面と前記ロータコア20の外周面との間には僅かな空隙部が形成されている。
【0017】
前記ステータコア30の内周面側には、複数条のスロット31が形成されており、この複数条のスロット31は、前記回転軸10の延在方向(上下方向)に沿って延在されており、しかも、隣接するスロット31どうしが互いに略平行して配設されている。
そして、ステータコア30の内周面側には、このスロット31によって、ステータコア30の上端側から下端側にいたる長さ(ステータコア30の全長)を有する直線状の開口部31aが互いに略平行して複数形成されている。
また、スロット31は、ステータコア30を長さ方向(上下方向)に貫通する状態で形成されており、ステータコア30の上端面側には、スロット31の断面形状と同形状の開口部31bが形成されており、下端面側にも同形の開口部が形成されている。
さらに、ステータコア30の内周面から外周側に向けてのスロット31の深さは、全てのスロット31において略同一深さとされている。
【0018】
前記ステータコア30は、隣接するスロットとスロットとの間が板状となるように形成されている。
言い換えれば、スロットどうしの間に板状のティース32が形成されており、該ティース32は、ステータコア30の内周面側(回転軸10方向)に向けて突出した状態で複数形成されている。
該ティース32は、突出方向先端部に他部よりも広幅に形成された広幅部32aを有しており、スロット31の延在方向(回転軸10の延在方向)に垂直な平面による断面が略T字状となる形状を有している。
このロータコア20やステータコア30の形成には、特に限定されるものではないが、例えば、電磁鋼板を前記回転軸10の軸方向に積層させた積層体などを用いることができる。
【0019】
このステータコア30のスロット31には、U字状のセグメントの脚部40がそれぞれ4本ずつ収容されており、前記セグメントは、平角導体41と、その表面にエナメルワニスによって形成された絶縁被膜42とによって構成されている。
該U字状のセグメントは、そのU字状の頭部をステータコア30の上端側に位置させ、その脚部をステータコア30の上端側の開口部31bから挿入させており、その下端部を前記ステータコア30の下端側の開口部から突出させている。
本実施形態においては、この突出させた脚部先端を別のスロットから突出している脚部先端と連結させることによって、複数のティース32の間をステータコア30の上端側から下端側、下端側から上端側へと縫うようにして連続する導体が形成されている。
すなわち、このステータコア30と複数のセグメントによって形成されているステータは、セグメントの頭部によって形成されたコイルエンドが上端側に配され、脚部どうしの連結部によって形成されたコイルエンドが下端側に配された状態となっている。
また、各スロット31には、内側から外向きに一列に並んだ状態で計4本の脚部が収容されている。
【0020】
そして、この4本の脚部を全周取り巻いて束ねるようにして本実施形態の接着シート51が配されている。
より詳しくは、本実施形態の接着シート51は、4本の脚部を束ねた状態で導体コイルに仮接着されており、スロット内壁31cとの間に僅かな間隙部CLを形成させた状態で導体コイルの表面とスロット内壁との間に介装されている。
【0021】
この接着シート51は、その使用前における断面構造を図3に示すように、加熱することで軟化されて接着可能な状態になるとともに発泡して体積を増大させ得るように発泡剤を含有する樹脂組成物がフェルト状のシート基材に含浸された基材層51bを備えている。
本実施形態においては、前記シート基材に含浸されている樹脂組成物51rを発泡させることにより、この樹脂組成物をスロット内壁31cや導体コイルの表面に接着させてステータコア30と導体コイルとの接着を行うべく前記基材層51bのみによって形成されており、この基材層51bの外側には他の層が設けられていない。
【0022】
このシート基材は、含浸させた樹脂組成物の発泡にともなって、厚みを増大させ得るように形成されていることが重要であり、例えば、図4(本発明外の事例)に示すように、緊密に織られた布51xなどにおいては、発泡剤を含有する樹脂組成物51yを含有させても、発泡による樹脂組成物の見かけ上の体積増加が生じる際に、この体積増加分が布51xの外側に漏出する結果、繊維によって補強されない気泡が布51xの外側部分に多く形成されてしまい発泡後の接着シート51”に強度低下を生じるおそれを有する。
【0023】
一方で、本実施形態においては、フェルト状のシート基材51aが用いられることから、図5(本発明の事例)に示すように、シート基材を構成する繊維間を発泡剤の発泡によって容易に離間させることができる。
すなわち、含浸させた樹脂組成物51rが発泡する際に、シート基材51aの繊維密度が粗くなってその厚みが増大されることによって気泡がシート基材51aの内部に形成され、形成された気泡の周囲をシート基材51aの繊維が取り巻く状態となる。
このことによって、気泡膜の強度が繊維によって補強された状態となり、発泡後の接着シート51’における強度低下が抑制されることとなる。
【0024】
このような機能を発揮させるためには、シート基材51aは、適度な繊度の繊維によって適度な繊維密度(空隙率)で形成されていることが好ましく、例えば、繊度1dtex〜5dtex、カット長5mm〜20mmの繊維によって、0.1mm厚みにおける坪量が10g/m2〜60g/m2のものなどが好適である。
したがって、例えば、0.2mm厚みのシート基材であれば、上記繊度の繊維によって、坪量が20g/m2〜120g/m2となるように形成されたものが好適である。
【0025】
前記シート基材に用いられる繊維は、その種類が特に限定されるものではなく、例えば、木綿、羊毛、絹などの天然繊維、ポリエチレン樹脂繊維、ポリプロピレン樹脂繊維、ポリエステル樹脂繊維、ポリフェニレンスルフィド樹脂繊維、ポリアミド樹脂繊維、ポリイミド樹脂繊維、フッソ樹脂繊維などの合成樹脂繊維、カーボンファイバー、ガラスファイバー、ロックウール、金属繊維などの無機繊維を挙げることができ、これらは、単独、又は複数種類組み合わせて前記シート基材の形成に用いることができる。
ただし、発泡剤の発泡開始温度や、シート基材に含浸される樹脂組成物の軟化温度において繊維が軟化してしまうと樹脂組成物の発泡において繊維の切断が生じてしまう可能性があることから、軟化温度の低い樹脂を原料とする繊維を用いると、樹脂組成物に用いるベース樹脂や発泡剤の種類に制約が加えられるばかりでなく接着温度にも制約が加えられことになる。
このようなことから、用いる繊維としては、ポリエステル樹脂繊維、ポリフェニレンスルフィド樹脂繊維などが好適である。
【0026】
このような、シート基材51aに含浸される樹脂組成物としては、たとえば、発泡剤を含有し、熱接着が可能なものが挙げられ、自動車用駆動モータなどの優れた耐熱性が求められる用途においては、熱硬化性樹脂をベース樹脂とした熱硬化性樹脂組成物であることが好ましい。
このような熱硬化性樹脂組成物としては、エポキシ樹脂をベースポリマーとした熱硬化性樹脂組成物を挙げることができる。
例えば、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤などを前記発泡剤とともに含有するものが挙げられる。
【0027】
前記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ヒンダトイン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン/フェノールエポキシ樹脂、脂環式アミンエポキシ樹脂、脂肪族アミンエポキシ樹脂及びこれらにCTBN変性やハロゲン化などといった各種変性を行ったエポキシ樹脂が挙げられる。
これらは単独または複数混合して前記熱硬化性樹脂組成物に含有させることができる。
【0028】
前記硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、脂肪族ポリアミド等のアミド系硬化剤;ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、アンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン、等のアミン系硬化剤;ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、p−キシレンノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤;酸無水物系硬化剤などが挙げられこれらは単独または複数混合して前記熱硬化性樹脂組成物に含有させることができる。
【0029】
前記硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−メチル−4−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン類;トリブチルポスフィン、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;などが挙げられこれらは単独または複数混合して前記熱硬化性樹脂組成物に含有させることができる。
【0030】
前記発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素アンモニウム、アジド類などの無機系発泡剤や、トリクロロモノフルオロメタンなどのフッ化アルカン、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系化合物、パラトルエンスルホニルヒドラジドなどのヒドラジン系化合物、p−トルエンスルホニルセミカルバジドなどのセミカルバジド系化合物、5−モルホリル−1,2,3,4−チアトリアゾールなどのトリアゾール系化合物、N,N’−ジニトロソテレフタルアミドなどのN−ニトロソ化合物などの有機系発泡剤などの他に炭化水素系溶剤をマイクロカプセル化させたマイクロカプセル化発泡剤などが挙げられる。
なお、本実施形態においては、前記発泡剤は、樹脂組成物のベース樹脂の軟化点近傍あるいはそれ以上の温度で気体を発生させるものが好ましい。
【0031】
なかでも、炭化水素系溶剤をマイクロカプセル化させたマイクロカプセル化発泡剤は、エポキシ樹脂をはじめとする多くの種類の樹脂に対して物性に与える影響が小さく、例えば、樹脂組成物の硬化を阻害させたり、加熱老化特性を低下させたりするような悪影響を与えることを抑制させることができる点において好適である。
【0032】
この発泡剤の配合量については、特に限定が加えられるものではないが、発泡倍率を過度に高めすぎると繊維による気泡膜の補強効果が有効に作用せずに、発泡後の接着シートの強度低下を十分抑制させることが困難となるおそれを有する。
したがって、接着シートの発泡倍率(発泡後の厚み÷発泡前の厚み)は、7倍以下とされることが好ましく、発泡剤の配合量もこのような観点から選択されることが好ましい。
【0033】
なお、熱硬化性樹脂組成物の軟化温度(T1)と、発泡剤の発泡開始温度(T2)との関係については、必ずしも、「T1≦T2」の条件を満足させる必要はなく、接着時における加熱温度(Th)を「T1≦Th、且つT2≦Th」の条件を満足させるように設定すればよい。
ただし、発泡剤の発泡開始時においてすでに熱硬化性樹脂組成物が軟化状態となっている方が良好なる接着状態を形成させやすい点において好適である。
したがって、「T1≦T2」の条件を満足させることが好ましい。
また、この熱硬化性樹脂組成物の熱硬化反応温度(Tr)と加熱温度(Th)とは、「Tr≦Th」の条件を満足させることが重要である。
【0034】
なお、樹脂組成物の軟化温度(T1)については、通常、ベースポリマーの軟化温度と同じであり、例えば、ベースポリマーがエポキシ樹脂である場合には、JIS K 7234の環球法によって測定されうる。
ここで、熱硬化性樹脂組成物のベースポリマーがエポキシ樹脂である場合には接着シート51の接着可能となる温度は、通常、上記軟化点によって与えられる。
また、熱硬化反応温度(Tr)については、熱硬化性樹脂組成物を、示差走査熱量計(DSC)にかけて、10℃/分の昇温速度条件にて熱硬化反応による発熱量の変化を測定し、得られるチャートがベースラインから離れて発熱ピークを示し始める温度を求めることによって確認することができる。
【0035】
なお、本発明においては、樹脂組成物を、エポキシ樹脂をベース樹脂とする熱硬化性樹脂組成物に限定するものではなく、ベース樹脂に、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂を採用することも可能であり、この場合には、通常、その融点を上記軟化点として発泡剤の種類や接着時の加熱温度を適宜選択することができる。
【0036】
このような樹脂組成物を前記シート基材に含浸させて接着シートを作製する方法としては、特に限定されることなく、例えば、樹脂組成物を、有機溶媒などに分散させて樹脂ワニスを作製し、該樹脂ワニスをシート基材に含浸させた後に乾燥を行う方法や、樹脂組成物をその軟化温度以上、発泡温度以下に加熱してシート基材に含浸させた後に冷却を行う方法などが挙げられる。
また、ワニス含浸時において、一旦シート基材を減圧させた後にワニスを含浸させ、その後、常圧に戻すことによってシート基材中における気泡の混入を抑制することができる。
【0037】
また、加熱による軟化状態で樹脂組成物をシート基材に含浸させる場合において、樹脂組成物が十分に軟化せずに、シート基材の繊維間の空隙に樹脂組成物を十分に含浸させることが困難になる場合には、例えば、プレスなどの加圧手段によって含浸を加勢することができる。
例えば、樹脂組成物によってシートを作製し、このシートとシート基材とを重ね合わせた状態で、熱プレスを行ってシート基材に樹脂組成物を含浸させることができ、真空プレスなどを用いることによってシート基材中への含浸性(気泡の混入防止)の向上を図ることも可能である。
【0038】
この熱プレスによる方法は、有機溶媒を使用する方法に比べて、残留溶媒などの問題を発生させるおそれも低く好適であるといえる。
また、熱プレスによる方法では、シート基材の一面側と他面側とに異なる樹脂組成物を含浸させることも容易に実施可能である。
例えば、異なる樹脂組成物によってそれぞれシートを作製し、このシートの間にシート基材を挟んで真空プレスを用いた熱プレスを実施することで、一面側と他面側とに異なる樹脂組成物を含浸させることができる。
【0039】
例えば、一面側に含浸させる樹脂組成物に、タッキファイヤーなどと呼ばれるポリエチレン系樹脂、キシレン樹脂、水添石油樹脂、エステルガム、クマロン樹脂などの粘着成分を含有させて表面粘着性を発揮させることで、仮接着などが容易に実施可能となる。
また、樹脂組成物のベース樹脂の一部、又は、全部を先述のCTBN変性エポキシ樹脂などとすることによって表面粘着性を付与させることも可能である。
【0040】
本実施形態のごとく自動車用駆動モータのスロット内壁と導体コイルとの接着に用いられるような場合においては、スロット内に導体コイルを収容させた後のスロット内壁と導体コイルとの隙間が狭く接着シートを後から挿入することが困難となるおそれがあることから、上記のごとく導体コイル側に予め接着シートを仮接着させておいて、この導体コイルをスロット内に収容させることで接着シートが自動的に介装されるようにすることが好ましい。
【0041】
しかも、このような介装方法とすることで、例えば、ステータコア30にセグメントを挿入する際に、この接着シート51で個々のスロット31内に収容される4本の脚部をそれぞれの収容状態と同様に束ね、全てのU字状セグメントがステータコア30に装着される状態(脚部先端を連結させる前の導体コイルの形態)を予め作製しておいて、このセグメントの集合体を一度にステータコア30に装着させることができる。
【0042】
したがって、個々のセグメントを順次スロットに挿入する場合に比べて作業を簡略化させることができ、このような接着シート51を用いることで自動車用駆動モータの製造に要する手間を削減し得る。
なお、このとき接着シートの他面(スロット内壁側)が非粘着性とされていることでスロット31の内壁31cとの滑りも良好となって自動車用駆動モータの製造における作業性がより一層良好となる。
【0043】
また、一面側に含浸させる樹脂組成物と他面側に含浸させる樹脂組成物の軟化温度を異ならせたり、熱硬化反応の反応温度を異ならせたりして、この温度の違いを利用して、導体コイル表面への熱接着を行わせることも可能である。
すなわち、一面側だけを接着可能な状態として導体コイル(U字状セグメント)の表面に接着させることで、一面側にのみ粘着性を付与した場合と同様に被着体どうしの間に接着シートを介装させる作業を簡便に実施させ得る。
【0044】
なお、本実施形態においては、基材層のみで接着シートを構成する場合を例示しているが、上記のような使用方法を目的として、一面側に粘着剤層を設けることも可能である。
例えば、図6に示すように、接着シート51の一方の表面にアクリル樹脂系粘着剤やゴム系粘着剤などを用いた粘着剤層51cを形成させて粘着性を付与することも可能である。
すなわち、接着シート51を粘着シート52の基材として利用することも可能である。
【0045】
このような接着シート51や粘着シート52を用いたステータコア30と導体コイルとの接着は、例えば、次のようにして実施されうる。
まず、スロット31に収容される状態に束ねられた4本のU字状セグメントの脚部に、接着シート51の一面側を接着させて巻きかけて仮接着を行う。
前記粘着シート52であれば、その粘着剤層51cが内側となるように巻きかけて仮接着を行う。
このことによって、予め4本のU字状セグメントを固定した状態としておいて、この接着シート51(あるいは、粘着シート52)によって固定されている脚部をスロット31へ挿入する。
その状態で加熱を行い、シート基材に含浸されている樹脂組成物を接着可能な状態とするとともに含有されている発泡剤によって発泡を生じさせ接着シート51の厚みを増大させる。
【0046】
このとき、先の図5(断面図)に例示するように、加熱されて発泡された樹脂組成物51rは、シート基材の繊維間に気泡を形成させシート基材51aの厚み自体を増大させながら接着シートの厚みを増大させる。
そして、厚みの増大が、発泡前の接着シート51(あるいは粘着シート52)とスロット内壁31cとの間の間隙部CLの厚みを超えた状態において、発泡剤による発泡作用によって外向きに加圧され、導体コイルの表面とスロット内壁31cとにそれぞれ圧接されることとなる。
このとき、粘着シート52においては、シート基材51aに含浸されている樹脂組成物が導体コイルの表面とスロット内壁31cとにそれぞれ熱接着されるようにすることが好ましい。したがって、前記粘着剤層51cを、ある程度の薄さで形成させておくことが好ましい。
【0047】
なお、図2に示す事例では、接着シート51は、発泡前にすでに導体コイルの表面に接着されているが、このときは仮接着であり、導体コイルの表面の凹凸には十分な追従がなされていない。
しかし、このように加熱発泡による加圧によって、導体コイルの表面やスロット内壁31cに凹凸が形成されていたとしても、これらへの追従が背面側から加勢されることとなり、シート基材51aに含浸されていた樹脂組成物が細かな凹部にまで進入して良好なる接着状態で接着されることとなる。
例えば、隣接する導体コイルの間に形成された凹部Vにも樹脂組成物が進入されて良好なる接着状態で接着されうる。
したがって、粘着シート52においては、例えば、粘着剤層51cを形成する粘着剤の量が、導体コイルの間に形成されている凹部Vに流入可能な量とされることで、シート基材51aに含浸されている樹脂組成物を導体コイルの表面に接着させることができ、発泡前の接着力に比べて、より強固な接着力を発泡後に発揮させ得る。
【0048】
しかも、接着シート内に形成される気泡は、周囲が繊維によって強化されており、発泡による強度低下が防止されている。
したがって、介装状態で加熱するという簡便な手段を採用しつつも、表面接着力と凝集破壊強度に優れた信頼性の高い接着が実施されうる。
【0049】
本実施形態の接着シートは、上記に示したように、狭小なる箇所における接着に適しており、しかも、簡便な方法で信頼性の高い接着を実施させうることから自動車用駆動モータなどの回転電機におけるステータコアのスロット内壁と導体コイルとの接着に好適なものであるといる。
なお、本実施形態においては、本発明の効果がより顕著に発揮されうる点において、駆動モータなどの回転電機のステータコアと導体コイルとの接着方法に用いる場合を例に接着シートを説明しているが、本発明においては接着シートの用途をこのような用途に限定するものではない。
【0050】
また、本実施形態においては、基材層のみによって形成された接着シートと、粘着剤層とともに粘着シートを構成する接着シートとを例示しているが、このような態様以外に種々の態様で本発明の接着シートを利用することができる。
例えば、シート基材に含浸させる樹脂組成物と同様の配合で、発泡剤を含有していない非発泡性の樹脂組成物を用いて、基材層の外側に、さらに、非発泡層を形成させる場合も本発明の意図する範囲である。
例えば、非発泡層/基材層/非発泡層の3層の積層構造を有する接着シートであっても、この基材層にフェルト状のシート基材が採用されており、該シート基材に含浸させた樹脂組成物が発泡されることによって接着シートの厚みが増大されるような態様においても、基材層に気泡が形成された場合に、シート基材の繊維による補強作用によって、その強度低下が防止される点においては上記例示の基材層のみの接着シートと同様である。
【0051】
なお、このような場合のみならず種々の変更を加えることができ、従来公知の接着シートにかかる技術事項を、本発明の効果が著しく損なわれない範囲において、本発明に採用することができる。
【実施例】
【0052】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
(接着シートの作製)
(比較例1)
エポキシ樹脂をベース樹脂とし、発泡剤を含有することによって約6倍の発泡倍率で発泡可能となった熱接着性の樹脂組成物(下記参照)によって25μm厚みのポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)フィルムの両面にそれぞれ60μmの樹脂層を形成させ、樹脂層(60μm)/PENフィルム(25μm)/樹脂層(60μm)の3層構造の接着シートを作製した。

<樹脂組成物の配合内容>
エポキシ樹脂・・ 100重量部
硬化剤・・・・・・・ 4重量部
発泡剤・・・・・・・ 9重量部
【0054】
(比較例2)
比較例1において用いた約6倍の発泡倍率での発泡が可能な樹脂組成物によって25μm厚みのPENフィルムの両面にそれぞれ30μmの樹脂層を形成させ、さらに、その外側に、発泡剤の減量(9重量部⇒3重量部)によって約3倍の発泡倍率で発泡可能な樹脂組成物によって30μmの樹脂層を形成させ、樹脂層(30μm:約3倍発泡)/樹脂層(30μm:約6倍発泡)/PENフィルム(25μm)/樹脂層(30μm:約6倍発泡)/樹脂層(30μm:約3倍発泡)の5層構造の接着シートを作製した。
【0055】
(実施例1)
上記比較例において用いられている約6倍の発泡倍率での発泡が可能な樹脂組成物を、約100μm厚みのフェルト状シート基材(阿波製紙社製、商品名「PET−30G」、繊度約3dtex、カット長約10mm繊維によって坪量約30g/m2となるように形成されたもの)に対して、熱プレスで含浸させ接着シートを作製した。
【0056】
(評価)
これらの接着シートには、図7に示すような形でテストピースを作製した。
すなわち、幅10mm、厚み1.5mmの短冊状の鋼板を2枚用意し、一方の鋼板P1には、表面脱脂処理を施し、他方の鋼板には、さらに両面テープTを介してポリフェニレンスルフィド(PPS)フィルム(東レ社製、商品名「トレリナ」、厚み100μm)を貼り付けた。
このPPSフィルムを貼り付けた鋼板P2の一端部に10mm×10mmの大きさに切断した接着シートを仮接着した。
このとき、鋼板P2の端縁から僅かに中央側の位置に接着シートを仮接着してスペーサSを当接させる場所を確保した。
そして、PPSフィルムの貼り付けられていない鋼板P1の端縁と、約10mmはなれた内側とにそれぞれスペーサSを配し、このスペーサSの間に接着シートが挟み込まれるように上からもう一方の鋼板P2を重ね合わせ、この重ね合わせ部分を、LION社製クリップ(No.54)で挟み固定した。
【0057】
この試料を150℃のオーブンに入れて10分間加熱し、その後、室温になるまで冷却を行った後にクリップを取り去り、鋼板P1、P2の端部を引張り試験機のチャックに挟み込んで引張り速度200mm/分での引張り試験を実施した。
このときの最大応力をそれぞれの接着シートの接着力として判定した。
この評価を、スペーサSの高さh(ギャップ)を変更して複数回実施した。
スペーサSの高さhを変更することによって、接着シートの下面と鋼板P1との間の距離を変化させた場合の接着力の違いを、図8(a)〜(c)に示す。
【0058】
なお、ギャップ“0”とは、スペーサを用いずに、2枚の鋼板P1、P2の間に接着シートを挟み込んで、クリップ止めしたものをオーブン中で加熱した試料の測定結果であり、比較例1、2では、クリップの締め付け力によって樹脂組成物のフローが発生して接着力低下を生じてしまっている。
一方で、実施例1の接着シートは、シート基材によって樹脂フローが抑制され良好なる接着状態が確保されている。
【0059】
この比較例1、2、実施例1の接着シートは、いずれも厚みが約150μmであり、発泡前の状態自体は殆ど差が見られない。
ここで図8に示される結果からは、比較例1、2では、接着シートの厚みの2倍となるギャップ(h=300μm)から接着力の低下が見られ、3倍を超える500μmでは接着力を大きく低下させている。
これに対して実施例1の接着シートにおいては、厚みの3倍となる450μmでも接着力の低下が見られず、500μmまでは高い接着力が確保されている。
【0060】
このことからも本発明によれば、簡便な方法で接着を実施させることができ、しかも、接着信頼性の低下を抑制させ得る接着シートが提供され得ることがわかる。
【符号の説明】
【0061】
10 回転軸
20 ロータコア
30 ステータコア
31 スロット
31a 開口部
31b 開口部
31c スロット内壁
32 ティース
32a 広幅部
40 脚部
41 平角導体
42 絶縁被膜
51 接着シート
51” 接着シート
51a シート基材
51b 基材層
51c 粘着剤層
51r 樹脂組成物
51x 布
51y 樹脂組成物
CL 間隙部
P1 鋼板
P2 鋼板
S スペーサ
T 両面テープ
V 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状に形成されており、両面を被着体に熱接着させて用いられるべく、表面が熱接着可能な樹脂組成物によって形成されている接着シートであって、
フェルト状のシート基材に樹脂組成物が含浸されてなる基材層が備えられており、しかも、加熱されることによって前記基材層の厚みを増大させてシート厚みを増大させうるように該基材層に含浸されている前記樹脂組成物には発泡剤が含有されていることを特徴とする接着シート。
【請求項2】
前記基材層に含浸されている樹脂組成物が、前記発泡剤の発泡開始温度において熱接着可能な樹脂組成物であり、該樹脂組成物の含浸された前記基材層のみによって形成されている請求項1記載の接着シート。
【請求項3】
前記熱接着可能な樹脂組成物がベース樹脂にエポキシ樹脂が用いられた熱硬化性樹脂組成物である請求項1又は2記載の接着シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−261031(P2010−261031A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91452(P2010−91452)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】