説明

接着剤組成物、接着シートおよび半導体装置の製造方法

【課題】 ウエハ固定機能とダイ接着機能とを同時に兼ね備えたダイシング・ダイボンディング用接着シートの接着剤層に用いられる接着剤組成物において、熱硬化前の溶融粘度および熱硬化後の貯蔵弾性率を適切に制御することにより、接着剤層の変形を抑制しつつ、ワイヤボンディング適性を維持し、得られる半導体パッケージの信頼性向上を図ること。
【解決手段】 本発明に係る接着剤組成物は、アクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)、および熱硬化剤(C)を含み、
熱硬化前の接着剤組成物の80℃における溶融粘度が1.0×10Pa・s以上であり、かつ、熱硬化後の接着剤組成物の170℃における貯蔵弾性率E’が1.0×10Pa以上であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハなどをダイシングし半導体チップを得て、半導体チップを有機基板やリードフレーム上にダイボンディングする工程で使用するのに特に適した接着剤組成物、および該接着剤組成物からなる接着剤層を有する接着シート、ならびに該接着シートを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン、ガリウムヒ素などの半導体ウエハは大径の状態で製造され、この半導体ウエハは、素子小片(半導体チップ)に切断分離(ダイシング)された後に次の工程であるボンディング工程に移されている。この際、半導体ウエハは予め粘着シートに貼着された状態でダイシング、洗浄、乾燥、エキスパンディング、ピックアップの各工程が加えられた後、次工程のボンディング工程に移送される。
【0003】
これらの工程の中でピックアップ工程とボンディング工程のプロセスを簡略化するために、ウエハ固定機能とダイ接着機能とを同時に兼ね備えたダイシング・ダイボンディング用接着シートが種々提案されている(たとえば、特許文献1〜4参照)。ダイシング・ダイボンディング用接着シートの接着剤層は、ウエハのダイシング時にはウエハを固定し、ダイシング時にウエハとともにダイシングされ、チップと同形状の接着剤に切断される。その後、チップのピックアップを行うと、チップ裏面に接着剤層が残着した状態でピックアップされる。チップ裏面に残着した接着剤層を介して、チップをリードフレーム等のチップ搭載部に載置し、接着剤層を熱硬化することで、ダイボンドが完了する。次いで、樹脂封止して半導体装置が得られる。その後、半田リフローなどにより半導体装置を所望の箇所に実装する。
【特許文献1】特開2000−017246号公報
【特許文献2】特開2008−133330号公報
【特許文献3】特開2009−203332号公報
【特許文献4】特開2009−030043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、半導体チップは接着剤層を介してリードフレームに固着されるが、近年接着剤層の変形による種々の不具合が指摘されるようになった。チップと同形状であるべき接着剤層が変形し、チップ端部において、チップと接着剤層との接触面積が減少し、チップとリードフレームとの間に隙間が発生することがある。チップとリードフレームとの間に隙間が発生すると、封止樹脂がこの隙間に浸入する。その結果、樹脂封止の充填具合が不均一になり、熱衝撃に対する耐性が低下し、チップクラックの要因となる。
【0005】
また、接着剤層が変形する結果、接着剤層の厚みが不均一になり、ダイボンドされたチップが傾くことがあった。チップが傾くと、ワイヤボンドが困難ないし不可能になり、半導体装置の製造歩留まりが低下する。
【0006】
このような接着剤層の変形による不具合は、特に半導体装置の小型化のために、チップが薄型化、微小化したために、近年に至って顕在化したと考えられる。チップを薄型化、微小化すると、ダイシングソーにより切断される接着剤層の割合が相対的に増加する。すなわち、ウエハが薄くなると、ウエハと接着剤層の全厚に対する接着剤層の相対厚が増加する。
【0007】
半導体ウエハをダイシングする際には、ウエハ表面に水を噴霧することで、ダイシング時に発生した熱や屑を除去している。しかし、水はウエハ表面に噴霧されるため、接着剤層における熱の除去効率は低い。切断される接着剤層の量が増加する結果、接着剤層で発生する摩擦熱も増大し、摩擦熱により接着剤層が溶融、変形するために、上記の問題が顕在化したと考えられる。
【0008】
接着剤層の溶融による変形を抑制するためには、接着剤層を構成する接着剤組成物の熱硬化前の溶融粘度を増大させることが有効であり、そのためには、接着剤組成物中のアクリル重合体の量を増加させればよい。しかし、アクリル重合体は、三次元的な高次構造の生成には寄与しないため、アクリル重合体の量を増加させると、接着剤組成物の熱硬化後の貯蔵弾性率が低下してしまう。また、アクリル重合体の量を増加させると、チップの固着に関与する成分、具体的にはエポキシ系熱硬化性樹脂の相対的な量が減少し、チップの固着が不十分になり、最終的に得られる半導体装置のパッケージ信頼性が低下することがある。
【0009】
このように、接着剤組成物の熱硬化前における溶融粘度の増加と、熱硬化後の貯蔵弾性率の維持は両立し難い特性であるため、接着剤層の変形を抑制しつつ、ワイヤボンディング適性を維持することは、困難であった。
【0010】
したがって、本発明は、ウエハ固定機能とダイ接着機能とを同時に兼ね備えたダイシング・ダイボンディング用接着シートの接着剤層に用いられる接着剤組成物において、熱硬化前の溶融粘度および熱硬化後の貯蔵弾性率を適切に制御することにより、接着剤層の変形を抑制しつつ、ワイヤボンディング適性を維持し、得られる半導体パッケージの信頼性向上を図ることを目的としている。
【0011】
上記課題を解決する本発明は、以下の要旨を要旨として含む。
(1)アクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)、および熱硬化剤(C)を含む接着剤組成物であって、
熱硬化前の接着剤組成物の80℃における溶融粘度が1.0×10Pa・s以上であり、かつ、熱硬化後の接着剤組成物の170℃における貯蔵弾性率E’が1.0×10Pa以上である接着用組成物。
【0012】
(2)上記(1)に記載の接着剤組成物をフィルム状に成膜してなるフィルム状接着剤組成物。
【0013】
(3)上記(2)に記載のフィルム状接着剤組成物からなる接着剤層が基材上に剥離可能に形成されてなる接着シート。
【0014】
(4)上記(3)に記載の接着シートの接着剤層に半導体ウエハを貼着し、該半導体ウエハをダイシングして半導体チップとし、該半導体チップ裏面に該接着剤層を固着残存させて基材から剥離し、該半導体チップをダイパッド部上、または別の半導体チップ上に該接着剤層を介して載置する工程を含む半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ダイシング・ダイボンディング用接着シートの接着剤層の変形を抑制しつつ、ワイヤボンディング適性を維持することができ、半導体パッケージの信頼性、歩留まりの向上が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、その最良の形態も含めてさらに具体的に説明する。本発明に係る接着剤組成物は、アクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)、および熱硬化剤(C)を含み、熱硬化前の溶融粘度および熱硬化後の貯蔵弾性率E’が特定範囲に制御されてなることを特徴としている。接着剤組成物には、さらに、各種物性を改良するため、必要に応じ他の成分が含まれていてもよい。まず、これら各成分について具体的に説明する。
【0017】
(A)アクリル重合体
接着剤組成物に十分な接着性および造膜性(シート加工性)を付与するためにアクリル重合体(A)が用いられる。アクリル重合体(A)としては、従来公知のアクリル重合体を用いることができる。
【0018】
アクリル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、1万〜200万であることが望ましく、10万〜150万であることがより望ましく、20万〜120万であることが最も好ましい。アクリル重合体(A)の重量平均分子量が低過ぎると接着剤層と基材との粘着力が高くなり、ピックアップ不良が起こることがあり、また、熱硬化前の接着剤組成物の溶融粘度が低下する傾向にある。一方、アクリル重合体(A)の重量平均分子量が高過ぎると、溶融粘度は増大するものの、チップ搭載部の凹凸へ接着剤層が追従できないことがあり、ボイドなどの発生要因になることがある。
【0019】
アクリル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−60〜50℃、さらに好ましくは−50〜40℃、特に好ましくは−40〜30℃の範囲にある。アクリル重合体(A)のガラス転移温度が低過ぎると接着剤層と基材との剥離力が大きくなってチップのピックアップ不良が起こることがある。一方、アクリル重合体(A)の重量平均分子量が高過ぎると、ウエハを固定するための接着力が不十分となるおそれがある。
【0020】
上記アクリル重合体(A)を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体が挙げられる。例えば、アルキル基の炭素数が1〜18であるアルキル(メタ)アクリレート、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられ;環状骨格を有する(メタ)アクリレート、例えばシクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレートなどが挙げられ;水酸基を有するヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられ;その他、エポキシ基を有するグリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中では、水酸基を有しているモノマーを重合して得られるアクリル重合体が、後述するエポキシ系熱硬化性樹脂(B)との相溶性が良いため好ましい。アクリル重合体を構成するモノマーとして、グリシジル(メタ)アクリレートを含有することにより、後述するエポキシ系熱硬化性樹脂と熱硬化剤との熱硬化による生成される三次元的な高次構造に取り込まれ、熱硬化後の接着剤組成物の貯蔵弾性率が高くなることがある。また、上記アクリル重合体(A)は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレンなどが共重合されていてもよい。
【0021】
(B)エポキシ系熱硬化性樹脂
エポキシ系熱硬化性樹脂(B)としては、種々のエポキシ樹脂を用いることができ、具体的には、多官能系エポキシ樹脂や、ビフェニル化合物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやその水添物、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂など、分子中に2官能以上有するエポキシ化合物が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
本発明の接着剤組成物には、アクリル重合体(A)100質量部に対して、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)が、好ましくは1〜1500質量部含まれ、より好ましくは10〜1000質量部、特に好ましくは100〜500質量部含まれる。エポキシ系熱硬化性樹脂(B)の含有量が1質量部未満であると十分な接着性が得られないことがあり、また、熱硬化後の接着剤組成物の貯蔵弾性率が低くなる傾向がある。一方、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)の含有量が1500質量部を超えると接着剤層と基材との剥離力が高くなり、ピックアップ不良が起こることがあり、また、アクリル重合体(A)の含有量が相対的に低下するため、熱硬化前の接着剤組成物の溶融粘度が低下する傾向にある。
【0023】
(C)熱硬化剤
熱硬化剤(C)は、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)に対する硬化剤として機能する。好ましい熱硬化剤(C)としては、1分子中にエポキシ基と反応しうる官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。その官能基としてはフェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基および酸無水物などが挙げられる。これらのうち好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基、酸無水物などが挙げられ、さらに好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基が挙げられる。
【0024】
フェノール系硬化剤の具体的な例としては、多官能系フェノール樹脂、ビフェノール、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、ザイロック型フェノール樹脂、アラルキルフェノール樹脂が挙げられる。アミン系硬化剤の具体的な例としては、DICY(ジシアンジアミド)が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0025】
熱硬化剤(C)の含有量は、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)100質量部に対して、0.1〜500質量部であることが好ましく、1〜200質量部であることがより好ましい。熱硬化剤(C)の含有量が少ないと硬化不足で接着性が得られないことがあり、また、熱硬化後の接着剤組成物の貯蔵弾性率が低くなる傾向がある。熱硬化剤(C)の含有量が過剰であると接着剤組成物の吸湿率が高まりパッケージ信頼性を低下させることがある。
【0026】
(その他の成分)
本発明に係る接着剤組成物は、上記アクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)および熱硬化剤(C)に加えて下記成分を含むことができる。
【0027】
(D)硬化促進剤
硬化促進剤(D)は、接着剤組成物の硬化速度を調整するために用いられる。好ましい硬化促進剤としては、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0028】
硬化促進剤(D)は、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)および熱硬化剤(C)の合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜1質量部の量で含まれる。硬化促進剤(D)を上記範囲の量で含有することにより、高温度高湿度下に曝されても優れた接着特性を有し、厳しいリフロー条件に曝された場合であっても高いパッケージ信頼性を達成することができる。硬化促進剤(D)の含有量が少ないと硬化不足で十分な接着特性が得られず、過剰であると高い極性をもつ硬化促進剤は高温度高湿度下で接着剤層中を接着界面側に移動し、偏析することによりパッケージの信頼性を低下させる。
【0029】
(E)カップリング剤
カップリング剤(E)は、接着剤組成物の被着体に対する接着性、密着性を向上させるために用いてもよい。また、カップリング剤(E)を使用することで、接着剤組成物を硬化して得られる硬化物の耐熱性を損なうことなく、その耐水性を向上することができる。
【0030】
カップリング剤(E)としては、上記アクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)などが有する官能基と反応する基を有する化合物が好ましく使用される。カップリング剤(E)としては、シランカップリング剤が望ましい。このようなカップリング剤としてはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0031】
カップリング剤(E)は、アクリル重合体(A)およびエポキシ系熱硬化性樹脂(B)の合計100質量部に対して、通常0.1〜20質量部、好ましくは0.2〜10質量部、より好ましくは0.3〜5質量部の割合で含まれる。カップリング剤(E)の含有量が0.1質量部未満だと上記の効果が得られない可能性があり、20質量部を超えるとアウトガスの原因となる可能性がある。
【0032】
(F)架橋剤
接着剤組成物の初期接着力および凝集力を調節するために、架橋剤を添加することもできる。架橋剤(F)としては有機多価イソシアネート化合物、有機多価イミン化合物などが挙げられる。
【0033】
上記有機多価イソシアネート化合物としては、芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物、脂環族多価イソシアネート化合物およびこれらの有機多価イソシアネート化合物の三量体、ならびにこれら有機多価イソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマー等を挙げることができる。
【0034】
有機多価イソシアネート化合物としては、たとえば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、3−メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアネート、トリメチロールプロパンアダクトトリレンジイソシアネートおよびリジンイソシアネートが挙げられる。
【0035】
上記有機多価イミン化合物としては、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネートおよびN,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミン等を挙げることができる。
【0036】
架橋剤(F)はアクリル重合体(A)100質量部に対して通常0.1〜50質量部、好ましくは1〜40質量部、より好ましくは10〜30質量部の比率で用いられる。架橋剤(F)の配合量を増加することで、組成物中に架橋構造が導入され、組成物の溶融粘度は増加する傾向にある。
【0037】
(G)エネルギー線重合性化合物
本発明の接着剤組成物において、エネルギー線重合性化合物が配合されていてもよい。エネルギー線重合性化合物(G)を硬化することで、接着剤組成物の接着力を低減でき、後述する基材からの接着剤層の剥離力を適宜に調整することが可能になる。エネルギー線重合性化合物(G)は、エネルギー線重合性基を含み、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化する。このようなエネルギー線重合性化合物(G)として具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレートおよびイタコン酸オリゴマーなどのアクリレート系化合物が挙げられる。また、エネルギー線重合性化合物(G)は、ジシクロペンタジエン骨格含有エネルギー線重合性化合物であってもよい。このような化合物は、分子内に少なくとも1つの重合性二重結合を有し、通常は、重量平均分子量が100〜30000、好ましくは300〜10000程度である。
【0038】
エネルギー線重合性化合物(G)の配合量は、特に限定はされないが、接着剤組成物の全量100質量部に対して、1〜50質量部程度の割合で用いることが好ましい。
【0039】
なお、上記アクリル重合体(A)およびエネルギー線重合性化合物(G)の性質を兼ね備えるものとして、主鎖または側鎖に、エネルギー線重合性基が結合されてなるエネルギー線硬化型粘着性重合体を用いてもよい。このようなエネルギー線硬化型粘着性重合体は、粘着性とエネルギー線硬化性とを兼ね備える性質を有する。
【0040】
(H)光重合開始剤
本発明の接着剤組成物が、前述したエネルギー線重合性化合物(G)等のエネルギー線硬化成分を含有する場合には、その使用に際して、紫外線等のエネルギー線を照射して、エネルギー線重合性化合物を硬化させる。この際、該組成物中に光重合開始剤(H)を含有させることで、重合硬化時間ならびに光線照射量を少なくすることができる。
【0041】
このような光重合開始剤(H)として具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、1,2−ジフェニルメタン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドおよびβ−クロールアンスラキノンなどが挙げられる。光重合開始剤(H)は1種類単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
光重合開始剤(H)の配合割合は、エネルギー線重合性化合物(G)100質量部に対して0.1〜10質量部含まれることが好ましく、1〜5質量部含まれることがより好ましい。0.1質量部未満であると光重合の不足で満足なピックアップ性が得られないことがあり、10質量部を超えると光重合に寄与しない残留物が生成し、接着剤組成物の硬化性が不十分となることがある。
【0043】
(汎用添加剤)
本発明の接着剤組成物には、上記の他に、必要に応じて各種添加剤が配合されてもよい。各種添加剤としては、熱可塑性樹脂、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、無機充填剤、顔料、染料などが挙げられる。
【0044】
(接着剤組成物)
本発明に係る接着剤組成物は、上記各成分を適宜の割合で混合して得られる。混合に際しては、各成分を予め溶媒で希釈しておいてもよく、また混合時に溶媒を加えてもよい。
【0045】
上記のような各成分からなる接着剤組成物は、熱硬化性であり、硬化前には適度な感圧接着性と形状保持性とを有する。そして熱硬化を経て最終的には耐衝撃性の高い硬化物を与えることができ、接着強度にも優れ、厳しい高温度高湿度条件下においても十分な接着特性を保持し得る。
【0046】
熱硬化前の接着剤組成物の80℃における溶融粘度は、1.0×10Pa・s以上であり、好ましくは2.0×10Pa・s以上、さらに好ましくは4.0×10Pa・s以上である。ここで、80℃における溶融粘度を規定した理由は、ブレードダイシング時の摩擦熱により、接着剤層が80℃程度までに加熱されることを考慮したものであるが、実際のダイシング時における接着剤層の温度が80℃に限定されることはない。熱硬化前の接着剤組成物の80℃における溶融粘度が上記範囲にあると、ダイシング時の摩擦により接着剤層が加熱された場合であっても、接着剤層の変形を抑制することができる。一方、溶融粘度が高すぎる場合には、感圧接着性が低下することがある。
【0047】
なお、接着剤組成物が、エネルギー線重合性化合物(G)等のエネルギー線硬化成分を含有する場合には、上記溶融粘度は、接着剤組成物のエネルギー線硬化前の溶融粘度であってもよく、エネルギー線硬化後の溶融粘度であってもよい。溶融粘度は、ダイシング時の接着剤層の変形を抑制することを目的として規定されたものであるので、実際のプロセスにおいては、ダイシング時の接着剤層の溶融粘度を意味する。したがって、ダイシングに先立って接着剤層のエネルギー線硬化を行う場合には、溶融粘度は、エネルギー線硬化後、熱硬化前の接着剤層の溶融粘度を意味する。また、貯蔵弾性率E’は、エネルギー線硬化後および熱硬化後の貯蔵弾性率E’を意味する。通常は、ダイシング前にエネルギー線硬化を行うことが多い。
【0048】
また、熱硬化後の接着剤組成物の170℃における貯蔵弾性率E’は、1.0×10Pa以上、好ましくは2.0×10Pa以上、さらに好ましくは5.0×10Pa以上の範囲にある。ここで、170℃における貯蔵弾性率E’を規定した理由は、ワイヤボンド時における接着剤層の温度を考慮したものであるが、実際のワイヤボンド時における接着剤層が170℃に限定されることはない。熱硬化後の接着剤組成物の170℃における貯蔵弾性率E’が上記範囲にあると、ワイヤボンド時に接着剤層が加熱された場合であっても、接着剤層の振動を抑制でき、ワイヤボンディングを安定して行うことができる。一方、貯蔵弾性率が高すぎる場合には、硬化性化合物が多量に含まれることを意味し、アクリル重合体(A)の相対的な割合が減少するため、熱硬化前の接着剤組成物の溶融粘度が低下する傾向にある。
【0049】
本発明の接着剤組成物は、アクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)および熱硬化剤(C)を含み、熱硬化前の溶融粘度および熱硬化後の貯蔵弾性率E’が特定範囲にある限り、各成分の組成比、各成分の物性、組成物の製法等は特に限定はされない。本発明で使用するアクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)および熱硬化剤(C)は何れも公知の範囲から適宜に選択され、その組成比も公知の範囲にある。しかし、アクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)および熱硬化剤(C)を含む公知の接着剤組成物では、本発明で規定する溶融粘度および貯蔵弾性率E’が同時に満足されることは無かった。本発明では、成分の組成比を公知の範囲において選択、特定することにより、上記した溶融粘度および貯蔵弾性率E’を達成した。しかしながら、接着剤組成物の溶融粘度および貯蔵弾性率E’は、使用する各成分の特性により変動するので、一義的に組成比を特定することは困難である。
【0050】
以下に、本発明で規定する溶融粘度および貯蔵弾性率E’を制御する具体的指針を説明するが、これらは接着剤組成物の物性を特定範囲に制御するための具体的手段の一例であり、何ら限定的に解釈されるべきではない。
【0051】
アクリル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が低下するにつれて、熱硬化前の接着剤組成物の溶融粘度が低下する傾向にある。
【0052】
また、接着剤組成物中のアクリル重合体(A)の含有割合が多くなると、熱硬化前の接着剤組成物の溶融粘度は増大する傾向にあるが、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)の相対的な割合が少なくなるため、熱硬化後の三次元的な高次構造の密度が低下し、貯蔵弾性率が低くなる傾向がある。
【0053】
接着剤組成物中のエポキシ系熱硬化性樹脂(B)の含有割合が少ない場合には、上記のように、熱硬化後の三次元的な高次構造の密度が低下し、貯蔵弾性率が低くなる傾向がある。一方、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)の含有割合が多くなると、アクリル重合体(A)の含有量が相対的に低下するため、熱硬化前の接着剤組成物の溶融粘度が低下する傾向にある。
【0054】
また、前述したように、接着剤組成物中の架橋剤(F)の配合量を増加することで、組成物中に架橋構造が導入され、組成物の溶融粘度は増加する。したがって、架橋剤の種類および配合量を適宜に選択することで、溶融粘度を調整することができる。
【0055】
(フィルム状接着剤組成物および接着シート)
本発明に係る接着剤組成物は、その形態は特に限定はされないが、取り扱い性等の観点から、フィルム状に成膜して用いることが好ましい。フィルム状の接着剤組成物は、単層品として使用することもできるが、通常は、フィルム状の接着剤組成物(以下、接着剤層と呼ぶ)を基材上に剥離可能に形成してなる接着シートとして用いることが好ましい。本発明に係る接着シートの形状は、テープ状、ラベル状などあらゆる形状をとり得る。
【0056】
接着シートの基材は、接着剤層が基材上に剥離可能に形成されていればよく、フィルム上に接着剤層を形成してもよく、粘着シート上に接着剤層を形成してもよい。
【0057】
接着シートの基材としては、たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルムなどの透明フィルムが用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。また、これらを着色したフィルム、不透明フィルムなどを用いることができる。
【0058】
本発明に係る接着シートは、各種の被着体に貼付され、被着体に所要の加工を施した後、接着剤層は、被着体に固着残存させて基材から剥離される。すなわち、接着剤層を、基材から被着体に転写する工程を含むプロセスに使用される。このため、基材の接着剤層に接する面の表面張力は、好ましくは40mN/m以下、さらに好ましくは37mN/m以下、特に好ましくは35mN/m以下である。下限値は通常25mN/m程度である。このような表面張力が低い基材は、材質を適宜に選択して得ることが可能であるし、また基材の表面に剥離剤を塗布して剥離処理を施すことで得ることもできる。
【0059】
基材の剥離処理に用いられる剥離剤としては、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系などが用いられるが、特にアルキッド系、シリコーン系、フッ素系の剥離剤が耐熱性を有するので好ましい。
【0060】
上記の剥離剤を用いて基材の表面を剥離処理するためには、剥離剤をそのまま無溶剤で、または溶剤希釈やエマルション化して、グラビアコーター、メイヤーバーコーター、エアナイフコーター、ロールコーターなどにより塗布して、常温もしくは加熱または電子線硬化させたり、ウェットラミネーションやドライラミネーション、熱溶融ラミネーション、溶融押出ラミネーション、共押出加工などで積層体を形成すればよい。
【0061】
また、接着シートの基材としては、たとえば、弱粘着力性の再剥離型粘着シートや、エネルギー線照射により粘着力が低下するエネルギー線硬化型粘着シートを用いることができる。
【0062】
基材の厚さは、通常は10〜500μm、好ましくは15〜300μm、特に好ましくは20〜250μm程度である。また、接着剤層の厚みは、通常は1〜500μm、好ましくは5〜300μm、特に好ましくは10〜150μm程度である。
【0063】
接着シートの製造方法は、特に限定はされず、基材上に、接着剤層を構成する組成物を塗布乾燥することで製造してもよく、また接着剤組成物を剥離フィルム上に塗布乾燥して、フィルム状の接着剤組成物を得て、これを上記基材に転写することで製造してもよい。なお、接着シートの使用前に、接着剤層を保護するために、接着剤層の上面に剥離フィルムを積層しておいてもよい。該剥離フィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリプロピレンフィルムなどのプラスチック材料にシリコーン樹脂などの剥離剤が塗布されているものが使用される。また、接着剤層の表面外周部には、リングフレームなどの他の治具を固定するために別途粘着剤層や粘着テープが設けられていてもよい。
【0064】
次に本発明に係る接着シートの利用方法について、該接着シートを半導体装置の製造に適用した場合を例にとって説明する。
【0065】
(半導体装置の製造方法)
本発明に係る半導体装置の製造方法は、上記接着シートの接着剤層に半導体ウエハを貼着し、該半導体ウエハをダイシングして半導体チップとし、該半導体チップ裏面に接着剤層を固着残存させて基材から剥離し、該半導体チップを有機基板やリードフレームのダイパッド部上、またはチップを積層する場合に別の半導体チップ上に該接着剤層を介して載置する工程を含む。
【0066】
以下、本発明に係る半導体装置の製造方法について詳述する。
本発明に係る半導体装置の製造方法においては、まず、表面に回路が形成され、裏面が研削された半導体ウエハを準備する。
【0067】
半導体ウエハはシリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハであってもよい。ウエハ表面への回路の形成はエッチング法、リフトオフ法などの従来より汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。次いで、半導体ウエハの回路面の反対面(裏面)を研削する。研削法は特に限定はされず、グラインダーなどを用いた公知の手段で研削してもよい。裏面研削時には、表面の回路を保護するために回路面に、表面保護シートと呼ばれる粘着シートを貼付する。裏面研削は、ウエハの回路面側(すなわち表面保護シート側)をチャックテーブル等により固定し、回路が形成されていない裏面側をグラインダーにより研削する。ウエハの研削後の厚みは特に限定はされないが、通常は20〜500μm程度である。
【0068】
その後、必要に応じ、裏面研削時に生じた破砕層を除去する。破砕層の除去は、ケミカルエッチングや、プラズマエッチングなどにより行われる。
【0069】
次いで、リングフレームおよび半導体ウエハの裏面側を本発明に係る接着シートの接着剤層上に載置し、軽く押圧し、半導体ウエハを固定する。次いで、接着剤層にエネルギー線重合性化合物(G)が配合されている場合には、接着剤層に基材側からエネルギー線を照射し、エネルギー線重合性化合物(G)を硬化し、接着剤層の凝集力を上げ、接着剤層と基材との間の接着力を低下させておく。照射されるエネルギー線としては、紫外線(UV)または電子線(EB)等が挙げられ、好ましくは紫外線が用いられる。次いで、ダイシングソーなどの切断手段を用いて、上記の半導体ウエハを切断し半導体チップを得る。この際の切断深さは、半導体ウエハの厚みと、接着剤層の厚みとの合計およびダイシングソーの磨耗分を加味した深さにする。接着剤層を本発明の接着剤組成物で構成することで、ダイシング時における接着剤層の変形を抑制することができる。なお、エネルギー線照射は、半導体ウエハの貼付後、半導体チップの剥離(ピックアップ)前のいずれの段階で行ってもよく、たとえばダイシングの後に行ってもよく、また下記のエキスパンド工程の後に行ってもよい。さらにエネルギー線照射を複数回に分けて行ってもよい。
【0070】
次いで必要に応じ、接着シートのエキスパンドを行うと、半導体チップ間隔が拡張し、半導体チップのピックアップをさらに容易に行えるようになる。この際、接着剤層と基材との間にずれが発生することになり、接着剤層と基材との間の接着力が減少し、半導体チップのピックアップ性が向上する。このようにして半導体チップのピックアップを行うと、切断された接着剤層を半導体チップ裏面に固着残存させて基材から剥離することができる。
【0071】
次いで接着剤層を介して半導体チップを、リードフレームのダイパッド上または別の半導体チップ(下段チップ)表面に載置する(以下、チップが搭載されるダイパッドまたは下段チップ表面を「チップ搭載部」と記載する)。チップ搭載部は、半導体チップを載置する前に加熱するか載置直後に加熱される。加熱温度は、通常は80〜200℃、好ましくは100〜180℃であり、加熱時間は、通常は0.1秒〜5分、好ましくは0.5秒〜3分であり、載置するときの圧力は、通常1kPa〜200MPaである。
【0072】
半導体チップをチップ搭載部に載置した後、必要に応じさらに加熱を行ってもよい。この際の加熱条件は、上記加熱温度の範囲であって、加熱時間は通常1〜180分、好ましくは10〜120分である。半導体チップをチップ搭載部に載置した後にワイヤボンディングを行う。この際、接着剤層は加熱され軟化するが、接着剤層を本発明の接着剤組成物で構成することで、ダイボンド時の振動が抑制され、ダイボンドを安定して行うことができる。
【0073】
また、載置後の加熱処理は行わずに仮接着状態としておき、パッケージ製造において通常行われる樹脂封止での加熱を利用して接着剤層を硬化させてもよい。このような工程を経ることで、接着剤層が硬化し、半導体チップとチップ搭載部とを強固に接着することができる。接着剤層はダイボンド条件下ではフィルム形状を維持しつつもある程度軟化しているため、チップ搭載部の凹凸にも十分に埋め込まれ、ボイドの発生を防止できパッケージの信頼性が高くなる。
【0074】
本発明の接着剤組成物および接着シートは、上記のような使用方法の他、半導体化合物、ガラス、セラミックス、金属などの接着に使用することもできる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、<溶融粘度>、<貯蔵弾性率>、<パッケージ信頼性>、<接着剤層の変形>および<ワイヤボンディング適性>は次のように評価した。
【0076】
<溶融粘度>
実施例、比較例で作成した接着シートの接着剤層(フィルム状接着剤組成物)を、厚さ0.2mmまで積層したのち、その後、直径10mmに打ち抜いたものをさらに厚さ15mmまで積層することで、測定用のサンプルを作成した。なお、接着剤層がエネルギー線重合性化合物(G)を含有する場合には、接着剤層を0.2mmまで積層したのちにエネルギー線(紫外線:230mW/cm、240mJ/cm)を照射し、エネルギー線重合性化合物を硬化し、その後、直径10mmに打ち抜いたものをさらに厚さ15mmまで積層することで、測定用のサンプルを作成した。次いで、キャピラリーレオメーター(島津製作所社製,CFT−100D)を用いて、試験開始温度50℃、昇温速度10℃/分、試験力50kgf、ダイ穴径0.5mmφ、ダイ長さ1.0mmの条件で溶融粘度を測定し、熱硬化前の接着剤組成物の80℃における溶融粘度を求めた。
【0077】
<貯蔵弾性率>
実施例、比較例で作成した接着シートの接着剤層(フィルム状接着剤組成物)を、厚さ0.2mmまで積層し、140℃の環境下に1時間放置し、エポキシ系熱硬化性樹脂を完全に硬化させた。その後、5mm×25mmに切断することで測定用サンプルを作成した。最終的に、5mm×25mm×0.2mmの直方体の測定用サンプルを得た。なお、接着剤層がエネルギー線重合性化合物(G)を含有する場合には、接着剤層を0.2mmまで積層し、エネルギー線(紫外線:230mW/cm、240mJ/cm)を照射した後、140℃の環境下に1時間放置し、エポキシ系熱硬化性樹脂を完全に硬化させた。その後、5mm×25mmに切断することで測定用サンプルを作成した。
次いで、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社製,DMA Q800)を用いて、試験開始温度0℃、試験終了温度300℃、昇温速度3℃/分、振動数11Hz、振幅20μmの条件で貯蔵弾性率E’を測定し、熱硬化後の接着剤組成物の170℃における貯蔵弾性率を求めた。
【0078】
<パッケージ信頼性>
(1)半導体チップの製造
ドライポリッシュ処理したシリコンウエハ(150mm径、厚さ75μm)の研磨面に、実施例および比較例の接着シートの貼付をテープマウンター(リンテック社製、Adwill RAD2500)により行い、ウエハダイシング用リングフレームに固定した。その後、紫外線照射装置(リンテック社製、Adwill RAD2000)を用いて接着シートの基材面から紫外線を照射(350mW/cm2、190mJ/cm2)した。次いで、ダイシング装置(ディスコ社製、DFD651)を使用して8mm×8mmおよび6mm×6mmのチップサイズにダイシングし、接着剤層を有するシリコンチップを作成した。ダイシングの際の切り込み量については、接着シートの基材を20μm切り込むようにした。続いて、この接着剤層を有するシリコンチップを、接着シート側よりニードルで突き上げてピックアップした。
【0079】
(2)チップ積層体の製造
基板として、銅箔張り積層板(三菱ガス化学株式会社製、CCL-HL832HS)の銅箔に回路パターンが形成され、パターン上にソルダーレジスト(太陽インキ製 PSR4000 AUS303)を有しているBT基板を用いた(株式会社日立超LSI製)。上記(1)で得た8mm角のチップ(1段目チップ)を接着剤層とともにピックアップし、BT基板上に、該接着剤層を介して120℃、250gf、0.5秒間の条件で圧着した。上記(1)で得た6mm角のチップ(2段目チップ)を接着剤層とともにピックアップし、1段目チップ上に、120℃、250gf、0.5秒間の条件で圧着し、次いで140℃で1時間加熱して、接着剤層を充分に熱硬化させた。
【0080】
(3)樹脂封止
その後、モールド樹脂(京セラケミカル株式会社製、KE-G1250)で封止厚400μmになるようにチップが搭載されたBT基板を封止した(封止装置:アピックヤマダ株式会社製 MPC-06M Trial Press)。その後、175℃で5時間かけてモールド樹脂を硬化させた。次いで、封止されたBT基板をダイシングテープ(リンテック株式会社製、Adwill D-510T)に貼付して、ダイシング装置(ディスコ社製、DFD651)を使用して12mm×12mmサイズにダイシングすることで表面実装性評価用の半導体パッケージを得た。
【0081】
(4)パッケージ信頼性の評価
得られた半導体パッケージを85℃、85%RH条件下に168時間放置し、吸湿させた後、最高温度260℃、加熱時間1分間のIRリフロー条件での加熱を3回行った(リフロー炉:相模理工製WL-15-20DNX型)。この際に、接合部の浮き・剥がれの有無、パッケージクラック発生の有無を、断面観察および走査型超音波探傷装置(日立建機ファインテック株式会社製Hye-Focus)により評価した。
【0082】
基板またはチップとの接合部に面積0.5mm2以上の剥離を観察した場合を剥離していると判断して、パッケージを25個試験に投入したときの接合部の浮き・剥がれ、パッケージクラックなどが発生していないサンプルの個数を数えた。
【0083】
<接着剤層の変形評価>
前記パッケージ信頼性評価の(1)および(2)と同様にしてチップ積層体を製造した。次いで、汎用の透明エポキシ樹脂でチップ積層体を埋包し、エポキシ樹脂を硬化後に、接着剤層の断面を観察できるように、樹脂封止されたチップ積層体を切断し、断面研磨した。得られたサンプルを顕微鏡観察して接着剤層の変形を評価した(キーエンス社製:VHX-1000)。サンプル20個中、チップ側面に対して接着剤層が内側に変形しているもの(エポキシ樹脂が1段目チップと2段目チップとの間の間隙または基板と1段目チップとの間の間隙に浸入したもの)を不良とし、変形が起きていないか、あるいはチップ側面に対して接着剤層が外側に変形しているものを良品として評価し、良品の個数を数えた。
【0084】
<ワイヤボンディング適性>
#2000研磨したTEGウエハ(日立超LSIシステムズ製;PHASE0(ポリイミド塗布、アルミパッド開口部80μm角、150mm径、厚さ350μm))の研磨面に、実施例および比較例の接着シートをテープマウンター(リンテック社製;Adwill RAD250)により貼付し、ウエハダイシング用リングフレームに固定した。その後、紫外線照射装置(リンテック社製、Adwill RAD2000)を用いて接着シートの基材面から紫外線を照射(350mW/cm、190mJ/cm)した。次いで、ダイシング装置(ディスコ社製、DFD651)を使用して8mm×8mmのチップサイズにダイシングし、接着剤層を有するチップを作成した。得られたチップを、BT基板上に、接着剤層を介して120℃、250gf、0.5秒間の条件で圧着し、次いで140℃で1時間加熱して、接着剤層を充分に熱硬化させた。次いで、ワイヤーボンダ((株)新川製;UTC-470(φ25μm Au線ワイヤー、K&S社製;486FC-2052-R34キャピラリー))を用いて180℃、0.01秒間、荷重25gf、超音波出力30PLSでチップと基板間を50本のワイヤーでボンディングし、ぐらつきや位置ズレなどなくボンディングが可能なワイヤーの個数を求めた。
【0085】
<接着剤組成物>
接着剤組成物を構成する各成分を下記に示す。
(A)アクリル重合体:n−ブチルアクリレート55質量部、メチルアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート20質量部、及び2−ヒドロキシエチルアクリレート15質量部からなる共重合体(重量平均分子量:90万、ガラス転移温度:−28℃)
(B)エポキシ系熱硬化性樹脂:
(B1)ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学社製:YL983U, エポキシ当量170g/eq)
(B2)フェニレン骨格型エポキシ樹脂(日本化薬社製:EPPN-502H, エポキシ当量167g/eq)
(C)熱硬化剤:
(C1)ノボラック型フェノール樹脂(昭和高分子製:BRG-556, フェノール性水酸基当量103g/eq)
(C2)ノボラック型フェノール樹脂;(旭有機材社製:PAPS-PN4, フェノール性水酸基当量103g/eq)
(D)硬化促進剤:2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、キュアゾール2PHZ-PW)
(E)カップリング剤:γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製:KBE-403)
(F)架橋剤:トリレンジイソシアナート系架橋剤 (東洋インキ社製:BHS-8515)
(G)エネルギー線重合性化合物:ジシクロペンタジエン骨格を有するエネルギー線硬化性化合物(日本化薬製:KAYARAD R-684)
(H)光重合開始剤:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製:イルガキュア184)
【0086】
(実施例および比較例)
上記各成分を表1に記載の量(固形分量)で配合し、接着剤組成物を得た。得られた接着剤組成物のメチルエチルケトン溶液(固形濃度61質量%)を、シリコーン処理された剥離フィルム(リンテック株式会社製、SP−PET381031)上に乾燥後20μmの厚みになるように塗布、乾燥(乾燥条件:オーブンにて100℃、1分間)した後に基材(ポリエチレンフィルム、厚さ100μm、表面張力33mN/m)と貼り合せて、接着剤層を基材上に転写することで接着シートを得た。
【0087】
【表1】

【0088】
得られた接着シートを用いて<溶融粘度>、<貯蔵弾性率>、<パッケージ信頼性>、<接着剤層の変形>および<ワイヤボンディング適性>を評価した。結果を表2に示す。
【表2】

【0089】
本発明の接着剤組成物を用いることで、ダイシング時およびダイボンド時の接着剤層の変形を抑制しつつ、ワイヤボンディング適性を維持することができ、半導体パッケージの信頼性、歩留まりが向上することが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)、および熱硬化剤(C)を含む接着剤組成物であって、
熱硬化前の接着剤組成物の80℃における溶融粘度が1.0×10Pa・s以上であり、かつ、熱硬化後の接着剤組成物の170℃における貯蔵弾性率E’が1.0×10Pa以上である接着用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の接着剤組成物をフィルム状に成膜してなるフィルム状接着剤組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のフィルム状接着剤組成物からなる接着剤層が基材上に剥離可能に形成されてなる接着シート。
【請求項4】
請求項3に記載の接着シートの接着剤層に半導体ウエハを貼着し、該半導体ウエハをダイシングして半導体チップとし、該半導体チップ裏面に該接着剤層を固着残存させて基材から剥離し、該半導体チップをダイパッド部上、または別の半導体チップ上に該接着剤層を介して載置する工程を含む半導体装置の製造方法。

【公開番号】特開2012−167174(P2012−167174A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28835(P2011−28835)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】