説明

搬送監視装置および搬送監視方法

【課題】被搬送物と撮像部との間に透明体が介在する監視環境にあっても、被搬送物の搬送状態を高精度に管理可能な装置及び方法を提供する。
【解決手段】第1の搬送監視装置10Aは、透明体1越しに被搬送物2の搬送状態を監視し、被搬送物2及び搬送部3の画像を取得する撮像部11と、撮像部11が取得した画像のベクトルデータを演算する演算部12と、被搬送物2及び搬送部3のモデルデータを記憶する記憶部13,14と、画像中の被搬送物2及び搬送部3の位置を抽出する位置抽出部15,16と、被搬送物2及び搬送部3の相対的位置を算出する相対位置算出部17と、被搬送物2及び搬送部3の正常な相対的位置関係を記憶する記憶部18と、相対位置算出部17が算出した相対位置が正常か否かを判定する判定部19と、判定部19での判定結果に応じて所定の警告を発する警告部20とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は搬送状態に異常が無いかを監視する装置および方法に係り、特に、被搬送物の搬送状態を透明体越しに監視する場合であっても、精度の高い管理を可能とする搬送監視装置および搬送監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の搬送監視装置は、放射性物質や化学物質をベルトコンベアやロボットハンド等で自動搬送する場合、それら対象物はグローブボックス内等、作業者の安全のため通常の作業空間とは隔離され、放射性物質や化学物質に直接曝された区域内(汚染区域内)で管理される。ただ、搬送経路の逸脱による搬送装置の停止など搬送状態に異常が起こると、汚染区域内での作業が発生し搬送装置の復旧に多くの労力を要することになる。従来、このような異常搬送の監視においては、ハードリミット(リレースイッチやフォトセンサなど)による検出が主流であり、監視対象が実際に異常を来たした後に検出される事後保全となっていた。
【0003】
また、そのような異常搬送が発生する前の予兆を監視するために、異常搬送が発生しやすい箇所にはガラス等の透明体を介した覗き窓や監視カメラも設置されており、直接目視もしくは間接目視で監視員が搬送状態を監視している。そして多くの場合、監視箇所が複数であるため、作業人員圧縮のため、集中監視室などにおいて一人で複数のカメラ映像を監視している。
【0004】
上述したような従来の搬送監視装置の一例としては、例えば、特開2009−216503号公報(特許文献1)に記載されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−216503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の搬送監視装置および搬送方法では、監視箇所が多数である場合や、異常現象が微小である場合では、監視員の疲労蓄積の要因となり、異常搬送の見逃しが発生する要因が潜んでいる。また、監視カメラの設置条件として、汚染区域に設置した場合、汚染によりカメラの寿命が短縮され、交換頻度の増加による監視コストの増加や廃棄物の増加が考えられ、好ましくない。さらに、機器交換等の保守作業が発生すると汚染区域での作業が生じ、被ばく等、作業員への負荷が増加するといった課題もあった。このような観点から汚染区域外から監視できるシステムおよび方法の構築が望まれている。
【0007】
ところが、汚染区域外の作業空間に監視カメラを設置することを考えると、覗き窓などが設置されている場所に設置することになり、監視カメラと被搬送物の間にガラスなどの汚染物質から汚染を遮蔽するための透明な物体(透明体)を介して被搬送物を撮像せざるを得ない。この場合、透明体への背景の写りこみや屈折率の違いによる歪みなど視覚的な監視条件を低下させる要因が潜んでいる。特に、放射性物質を扱う場合、放射能の遮蔽性の観点から厚い鉛ガラスを利用することが多く、高屈折率による像の歪みや鉛ガラスの着色による鮮明度の低下などが監視員の目の疲労を招く恐れがあった。
【0008】
そこで、本発明は、上述した課題を解決するために、被搬送物と撮像部との間にガラス等の透明体が介在する監視環境にあることによって、背景の映り込み、屈折率の違いによる像の歪み、透明体の着色による画像の鮮明度の低下など、監視映像を悪化させる条件が潜んでいたとしても、被搬送物の搬送状態を高精度に管理できる搬送監視装置および搬送監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る搬送監視装置は、上述した課題を解決するため、透明体越しに被搬送物の搬送状態を監視する搬送監視装置において、少なくとも前記被搬送物を含む像を画像として取得する撮像手段と、前記撮像手段によって取得された前記被搬送物の画像の信号強度の勾配量を示すベクトルデータを演算するベクトルデータ演算手段と、前記ベクトルデータに基づいて画像中の前記被搬送物の位置を抽出する被搬送物位置抽出手段とを具備することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る搬送監視方法は、上述した課題を解決するため、透明体越しに被搬送物の搬送状態を監視する搬送監視方法であって、少なくとも前記被搬送物を含む像を画像として取得するステップと、取得された前記被搬送物の画像の信号強度の勾配量を示すベクトルデータを演算するステップと、前記ベクトルデータに基づいて画像中の前記被搬送物の位置を抽出するステップとを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被搬送物と撮像部との間にガラス等の透明体が介在する監視環境にあることによって、背景の映り込み、屈折率の違いによる像の歪み、透明体の着色による画像の鮮明度の低下など、監視映像を悪化させる条件が潜んでいたとしても、被搬送物の搬送状態を高精度に管理できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る搬送監視装置の構成を概略的に示した概略図。
【図2】画像内に表示される境界線の抽出について、(a)は撮像部によって取得される原画像の一例を示す説明図、(b)は(a)に示される原画像に対して二値化処理を施した画像により抽出された境界線を示す説明図、(c)は(a)に示される原画像に対して画素間の回転ベクトルを用いるベクトル処理により抽出されたという説明図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る搬送監視装置の構成を概略的に示した概略図。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る搬送監視装置の構成を概略的に示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る搬送監視装置および搬送方法の実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
【0014】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る搬送監視装置の一例である第1の搬送監視装置10Aの構成を概略的に示した概略図である。ここで、符番1はガラス等の透明な物質(以下、「透明体」と称する。)、符番2は被搬送物、符番3はベルトコンベア等の被搬送物2を搬送する搬送装置の搬送部である。
【0015】
第1の搬送監視装置10Aは、図1に示されるように、透明体1越しに被搬送物2の搬送状態を監視する装置である。透明体1は、被搬送物2がどのような物質なのかによって異なる。例えば、被搬送物2が放射性物質の場合には放射能を遮蔽する能力の高い鉛を配合したガラス(鉛ガラス)等を使用する、被搬送物2が非放射性物質の場合にはアクリル板等を使用する、といった具合に監視対象となる被搬送物2および搬送部3に応じて適宜選択できる。
【0016】
図1に示される第1の搬送監視装置10Aは、撮像部11と、ベクトルデータ演算部12と、被搬送物モデル記憶部13と、搬送部モデル記憶部14と、被搬送物位置抽出部15と、搬送部位置抽出部16と、相対位置算出部17と、正常位置記憶部18と、正否判定部19と、警告伝達部20と、を具備する。
【0017】
撮像部11は、透明体1越しに被搬送物2および搬送部3の像を撮像する機能を有し、撮像した被搬送物2および搬送部3の像を画像データとして、ベクトルデータ演算部12へ出力する。
【0018】
ベクトルデータ演算部12は、撮像部11によって撮像され、得られた被搬送物2および搬送部3を含む画像に対して信号強度の勾配量を示すベクトルデータを演算する数式情報およびこの数式を用いて当該ベクトルデータを演算する機能を有する。ベクトルデータ演算部12の演算結果として得られるベクトルデータは、画像領域内の画素間の信号強度の差分として与えられ、次式(1)で表すことができる。
【数1】

【0019】
被搬送物モデル記憶部13は、被搬送物2をモデル化したモデルデータを記憶する記憶領域であり、当該領域には、予め被搬送物2のモデルデータが記憶される。また、搬送部モデル記憶部14は、被搬送物2を搬送する搬送部3をモデル化したモデルデータを記憶する記憶領域であり、予め搬送部3のモデルデータが記憶される。
【0020】
ここで、モデルデータとは、例えば、三次元CADによって作成された三次元CADモデル等の比較基準物を構成するデータをいう。その形態は種々考えられ、例えば、被搬送物2および搬送部3の全体の立体形状を示す三次元CADモデル(モデルデータ)の場合もあるし、搬送物2および搬送部3の全体または一部が円や線分等の単純な幾何学形状で表現できる場合には、同形状のみを示す二次元CADモデルの場合もある。同形状のみを記憶させておくことは、記憶容量の低減および比較評価の演算量の低減に繋がる点で有益である。
【0021】
また、被搬送物モデル記憶部13および搬送部モデル記憶部14に予め記憶させておくモデルデータは、透明体1の屈折率の違い等を考慮した二次元像を予め記憶させておいてもできる。例えば、透明体1を介して被搬送物2および搬送部3を撮像した場合、透明体1の屈折率の違いなどの影響で実際の形状に対して像が歪んでしまうことが多々ある。そこで、一例として、被搬送物2が放射性物質等であれば、放射能の遮蔽能力の高い鉛ガラス等を採用した透明体1の屈折率および撮像部11の設置位置を考慮した二次元像を事前に記憶しておくことで、被搬送物2および搬送部3の位置抽出の精度を高めることができる。
【0022】
被搬送物位置抽出部15は、モデルデータをベクトルデータに変換する機能と、ベクトルデータを対比して最も一致度の高い領域(位置)を抽出する機能とを有する。被搬送物位置抽出部15は、被搬送物モデル記憶部13に記憶される被搬送物2のモデルデータおよびベクトルデータ演算部12から入力されるベクトルデータに基づいて、撮像部11によって取得された画像中の被搬送物2の位置を抽出する。
【0023】
搬送部位置抽出部16は、実質的な機能は被搬送物位置抽出部15と同様であるが、被搬送物位置抽出部15とは抽出対象が異なる。すなわち、搬送部位置抽出部16は、モデルデータをベクトルデータに変換する機能と、ベクトルデータを対比して最も一致度の高い領域(位置)を抽出する機能とを有し、搬送部モデル記憶部14に記憶される搬送部3のモデルデータおよびベクトルデータ演算部12から入力されるベクトルデータに基づいて、撮像部11によって取得された画像中の搬送部3の位置を抽出する。
【0024】
相対位置算出部17は、二つの位置について、相対的な位置関係を算出する機能を有する。相対位置算出部17は、被搬送物位置抽出部15によって抽出された被搬送物2の位置および搬送部位置抽出部16によって抽出された搬送部3の位置から相対的な位置関係を算出する。
【0025】
正常位置記憶部18は、被搬送物2の位置および搬送部3の位置の相対位置関係について正常な位置関係を記憶する。
【0026】
正否判定部19は、相対位置算出部17によって算出された被搬送物2の位置および搬送部3の位置の相対位置と正常位置記憶部18が記憶している被搬送物2の位置および搬送部3の位置の相対位置とが正常な位置関係であるか否かを判定する。
【0027】
警告伝達部20は、正否判定部19によって判定された結果に基づいて、正常な位置関係にない、すなわち、異常の場合に警告を発報する。
【0028】
続いて、第1の搬送監視装置10Aが行う搬送監視手順(以下、「第1の搬送監視手順」と称する。)について説明する。
【0029】
第1の搬送監視装置10Aでは、まず、撮像部11が透明体1越しに被搬送物2および搬送部3を撮像し、撮像によって得られた画像に係る画像データが撮像部11からベクトルデータ演算部12へ出力される。ベクトルデータ演算部12に撮像部11からの画像データが入力されると、ベクトルデータ演算部12によって、入力された画像データに基づき、撮像部11で得られた画像の信号強度の勾配量を示すベクトルデータが演算される。
【0030】
上述した式(1)から得たベクトルRi,jの大きさは画素間の信号強度の勾配の強度を示す。ベクトルの方向は画素間の連結性を示す。すなわちベクトルRi,jは画素間の信号強度の勾配に対する直行成分を示しており、回転ベクトルとも称される量である。
【0031】
図2(a)〜図2(c)は、画像内に表示される境界線抽出にあたり信号強度の絶対量を用いる場合とベクトル量を用いる場合とを対比して示す図である。
【0032】
図2(a)は撮像部11によって取得される原画像データの一例を示す説明図であり、図2(b)は、図2(a)に示される原画像データから信号強度の比較により得られた目標の境界線(境界データ)を示す説明図である。また、図2(c)は、図2(a)に示される原画像データに対し、画素間の回転ベクトルを用いる手法(ベクトル処理)によって抽出された境界線(境界データ)を示す説明図である。
【0033】
図2(b)に示される境界データの場合には、濃淡閾値処理(二値化処理)によって得られるデータである。濃淡閾値処理(二値化処理)によって得られるデータは、明るさの変動によって境界線がたやすく変化してしまうため、ロバスト性があるデータとはいえない。これは境界抽出の閾値が固定であることに因って生じる宿命的な不具合である。
【0034】
一方、図2(c)に示されるベクトル処理によって抽出された境界データの場合には、図2(b)に示される境界データのように、明るさの変動に左右されることなく、視野内における境界線の位置を安定的に検出することが可能になる。
【0035】
このように、本実施形態に係る搬送監視装置および搬送監視方法では、画像の明るさの変化に対して高い安定性がある。これは、画素間の回転ベクトルを用いる手法が、画素の明るさの相対的な関係に基づく処理方法であって、ベクトル情報を得るために閾値を必要としないことに因るものである。故に、境界が不鮮明であっても境界線を抽出でき、かつ、画素のサイズ以下の精度を得られるという利点がある。
【0036】
ベクトルデータ演算部12で得られたベクトルデータは、被搬送物位置抽出部15および搬送部位置抽出部16に入力される。そして、被搬送物位置抽出部15ではベクトルデータ演算部12から入力されたデータと被搬送物モデル記憶部13に記憶されている被搬送物2とのモデルデータとが比較され評価される。同様に、搬送部位置抽出部16ではベクトルデータ演算部12から入力されたデータと搬送部モデル記憶部14に記憶されている搬送部3とのモデルデータとが比較され評価される。
【0037】
すなわち、被搬送物位置抽出部15および搬送部位置抽出部16では、まず、被搬送物モデル記憶部13および搬送部モデル記憶部14に記憶されているモデルデータを読み出し、上述した式(1)を用いてベクトル演算してベクトルデータに変換する。そして、ベクトルデータ演算部12から入力されたベクトルデータとモデルデータからベクトル変換して得られたベクトルデータとを対比して画像中で最も一致度の高い位置を被搬送物2の位置および搬送部3の位置として抽出する。例えば、各箇所(各画素)のベクトルの方向の一致度を計算し、その和を比較することで、画像上でどの位置に存在する可能性が高いかを評価することができる。
【0038】
また、被搬送物位置抽出部15および搬送部位置抽出部16は、モデルデータに対応する全部を画像中で確認することができなくても、確認できた一部の特徴に基づいて、被搬送物2の位置および搬送部3の位置を抽出することができる。
【0039】
さらに、被搬送物位置抽出部15および搬送部位置抽出部16の機能として、被搬送物2および搬送部3についての三次元CADデータのような三次元モデルから撮像部11の設置位置に基づいて二次元への投影像を生成する機能を持たせることもできる。この場合、被搬送物位置抽出部15および搬送部位置抽出部16は、被搬送物モデル記憶部13および搬送部モデル記憶部14に予め記憶される三次元モデルを読み出し、当該三次元モデルから撮像部11の設置位置に基づいて二次元への投影像を生成した後、上述の式(1)で示されるベクトル演算によるベクトル処理を行うことによって、ベクトルデータの一致度の比較評価を容易化することができる。
【0040】
さらにまた、被搬送物位置抽出部15および搬送部位置抽出部16の機能として、モデルデータに対してアフィン変換等の幾何変換を実施する機能を持たせることもできる。この場合、被搬送物位置抽出部15および搬送部位置抽出部16は、幾何変換時の各パラメータに対する一致度を評価することができるので、見え方の回転、拡大縮小にも対応できる。つまり、被搬送物2および搬送部3の見え方が予め特定されていなくても良い点で有益である。
【0041】
被搬送物位置抽出部15および搬送部位置抽出部16において、被搬送物2の位置と搬送部3の位置とがそれぞれ抽出されると、抽出された結果が相対位置算出部17へ入力され、被搬送物2と搬送部3との間の相対的な位置関係が算出される。そして、算出された位置関係の情報は、正否判定部19に入力され、正常位置記憶部18に記憶されている正常状態の位置関係に基づいて、正常か否(異常)かが判定される。
【0042】
正否判定部19で被搬送物2と搬送部3との間の相対的な位置関係が正常か否かの判定結果は、正否判定部19から出力されて警告伝達部20へ入力される。そして、警告伝達部20で、現在の搬送状態が正常なのか異常なのかが監視員へ伝達される。警告の伝達方法としては、監視映像への表示やアラーム等の音による伝達によって実現することができる。
【0043】
尚、警告伝達部20は監視員に対する警告のみならず、搬送部3へ制御信号を送るように構成し、搬送を自動的に停止するようにすることも可能である。また、警告伝達部20に被搬送物2と搬送部3の間の位置の履歴を記録・管理する位置履歴管理機能を持たせた場合には、記録された履歴の変動を解析することによって、異常搬送へ繋がる予兆を検出することも可能となり、検出した予兆に基づいて、監視員および搬送部3に警告することもできる。また、警告の際には、例えば、点灯させる警告灯の色彩を変えて異常の予兆を検出した段階なのか現在の異常発生を検出した段階なのかを区別して監視員に伝達することもできる。
【0044】
第1の搬送監視装置10Aおよび第1の搬送監視装置10Aを適用した搬送監視方法によれば、ガラス等の透明体1が被搬送物2と撮像部11との間に距離を隔てて介在する場合であっても、被搬送物2および搬送部3の位置抽出のための特徴量にベクトルデータを用いることで、透明体1への移り込みや透明体1の着色などの影響に対してロバストに抽出処理を実行することができる。
【0045】
また、介在する透明体1の屈折率を予め入力しておくことで、歪みによる見え方の変化の影響を軽減することができる。これらから、精度の高い位置関係の管理および異常警告が可能となり、監視員の負荷を低減することができる。また、汚染区域外の監視を実現することができ、機器消耗・交換数の低減、汚染区域内での作業量の低減を図ることができる。
【0046】
尚、第1の搬送監視装置10Aが具備する被搬送物モデル記憶部13、搬送部モデル記憶部14および正常位置記憶部18は、それぞれ独立した記憶手段として構成されているが、単一の記憶手段に各記憶部13,14,18が記憶する情報をそれぞれ読み出し可能に記憶する構成としても良い。必要な情報が読み出し可能であれば、記憶部13,14,18の構成は任意である。
【0047】
また、第1の搬送監視手順において、被搬送物2の位置を抽出するステップと搬送部3の位置を抽出するステップについては、並行して処理が実行されても良いし、何れかを先行させて処理を順次実行しても良い。
【0048】
[第2の実施形態]
図3は、本発明の第2の実施形態に係る搬送監視装置の一実施例である第2の搬送監視装置10Bの構成を概略的に示した概略図である。
【0049】
図3に示される第2の搬送監視装置10Bは、図1に示される第1の搬送監視装置10Aに対して、被搬送物2に対し指向性のある照明光を照射する照明部31と、撮像部11と照明部31とを同期させる同期部32と、撮像部11により画像を取得するタイミングを制御する撮像制御部33とをさらに具備する点で相違するが、その他の点は実質的に相違しない。そこで、本実施形態では、照明部31、同期部32および撮像制御部33を中心に説明し、第1の搬送監視装置10Aの構成要素と実質的に相違しない構成要素については同じ符号を付して説明を省略する。
【0050】
図3に示されるように、第2の搬送監視装置10Bは、第1の搬送監視装置10Aの撮像部11、ベクトルデータ演算部12、被搬送物モデル記憶部13、搬送部モデル記憶部14、被搬送物位置抽出部15、搬送部位置抽出部16、相対位置算出部17、正常位置記憶部18、正否判定部19、および警告伝達部20に加えて、照明部31、同期部32および撮像制御部33をさらに具備する。
【0051】
照明部31は、被搬送物2に対し指向性のある照明光を照射する構成要素である。第2の搬送監視装置10Bは、照明部31を具備することによって、被搬送物2および搬送部3が多面構造の立体であれば、ある面に集中的に照明光を照射することによって構造の境界線を抽出しやすくすることができる。
【0052】
尚、照明部31から照射される照明光の光源の種類は指向性の有無によって限定されることはない。例えば、LED光源を利用する場合、照明の設置位置および配置、設置傾斜、絞り等の調整によって指向性を与えることも可能である。照明部31の構成全体として照射光に所望の指向性を持たせることが可能な限り、光源の種類や設置位置等は何ら限定されない。
【0053】
また、照明部31は、それぞれ波長の異なる複数の照明光を適宜切り替えることができる機能(照射光波長切替機能)を有していても良い。この場合、第2の搬送監視装置10Bは、予め設定される複数種類の波長の光を適宜切り替えて照明光として照射することができるので、被搬送物2と撮像部11との間に介在しているガラス等の透明体1の種類が設備改修等によって変更された場合においても、最も透過性の良い波長を選択して照射することができ、画像の鮮明度を維持または向上させることができる。
【0054】
同期部32は、撮像部11と照明部31とを同期させる機能を有する構成要素である。また、撮像制御部33は、撮像部11で画像を取得するタイミングを制御する機能を有する構成要素である。第2の搬送監視装置10Bは、同期部32および撮像制御部33を具備することによって、撮像部11が画像を取り込むタイミングと照明部31が点灯して照明光を発するタイミングとを同期させて動作させることができる。
【0055】
また、撮像制御部33は、取得する画像の枚数を絞り込む制御をすることができる。例えば、ある一定間隔の時間で搬送される被搬送物2に対しては、その一定の時間間隔で撮像部11が撮像するように撮像制御部33を設定しておくことも可能である。
【0056】
続いて、第2の搬送監視装置10Bが行う搬送監視手順(以下、「第2の搬送監視手順」と称する。)について説明する。
【0057】
第2の搬送監視手順は、第1の搬送監視手順に対して、撮像制御部33が撮像部11による被搬送物2および搬送部3の撮像を行うタイミングを制御するステップ(以下、「撮像タイミング制御ステップ」と称する。)と、同期部32が撮像制御部33の制御タイミング、すなわち、撮像部11による被搬送物2および搬送部3の撮像タイミングに同期させて照明部31を点灯させるステップ(以下、「撮像・点灯同期ステップ」と称する。)をさらに備える点で異なるものの他の処理ステップについては実質的に異ならないので、これらのステップについては説明を省略する。
【0058】
第2の搬送監視手順では、撮像部11が被搬送物2および搬送部3を撮像するステップを実行する前に、撮像タイミング制御ステップと撮像・点灯同期ステップとを実行する。すなわち、撮像制御部33が撮像部11による被搬送物2および搬送部3の撮像を行うタイミングを制御し、同期部32が撮像制御部33の制御タイミングに同期させて照明部31を点灯させる。
【0059】
また、被搬送物2と撮像部11との間に介在している透明体1の種類が変更された場合、照射光波長切替機能を有する照明部31を備える第2の搬送監視装置10Bでは、最も透過性の良い波長を選択し照射することで画像の鮮明度を維持または向上させることができる。
【0060】
第2の搬送監視手順を実行することにより、被搬送物2および搬送部3の位置を抽出するための画像を取得するときのみ照明部31を点灯させることができ、通常の環境光のみの監視映像に与える影響を軽減することができる。また、照明部31が点灯している時間が短い場合は、その間の映像のフレームを間引くことによって、監視員は照明部31が点灯していることを感じないで、環境光のみの状態で監視を続けることができる。勿論、照明部31が常に点灯している方が監視員にとって監視しやすい映像である場合は、常時点灯させることもできる。
【0061】
第2の搬送監視装置10Bおよび第2の搬送監視装置10Bを用いた搬送監視方法によれば、照明部31が指向性のある照明光を照射することで、被搬送物2および搬送部3の境界線を鮮明にし、それぞれの位置の抽出精度を向上させることができる。
【0062】
また、照明の波長を切り替えることができ、被搬送物2と撮像部3の間に介在している透明体1の種類が変更されても柔軟に対応できる。さらに、被搬送物2および搬送部3の位置を抽出するための画像を取得するときのみに照明光を点灯させることができ、元の環境光(照明光が点灯していない状態)のみの状態の監視映像に与える影響を最小限に抑えることができる。
【0063】
尚、第2の搬送監視装置10Bは、撮像部11を制御する撮像制御部33を具備しているが、照明部31が点灯制御機能を有する場合、または、照明部31の点灯タイミングを制御する点灯制御部(図示せず)を備える場合には、撮像制御部33を具備しない構成も採用できる。照明部31が点灯制御機能を有する、または、照明部31の点灯タイミングを制御する点灯制御部を備える構成を採用して第2の搬送監視装置10Bを構成する場合には、照明部31を点灯させたと同時に撮像部11を作動させて画像を取得するという図3に示される第2の搬送監視装置10Bとは逆の動作制御も可能である。
【0064】
[第3の実施形態]
図4は、本発明の第3の実施形態に係る搬送監視装置の一実施例である第3の搬送監視装置10Cの構成を概略的に示した概略図である。
【0065】
図4に示される第3の搬送監視装置10Cは、図1に示される第1の搬送監視装置10Aに対して、特定の偏光のみを通す偏光部41をさらに具備する点で相違するが、その他の点は実質的に相違しない。そこで、本実施形態では、偏光部41を中心に説明し、第1の搬送監視装置10Aの構成要素と実質的に相違しない構成要素については同じ符号を付して説明を省略する。
【0066】
図4に示されるように、第3の搬送監視装置10Cは、第1の搬送監視装置10Aの撮像部11、ベクトルデータ演算部12、被搬送物モデル記憶部13、搬送部モデル記憶部14、被搬送物位置抽出部15、搬送部位置抽出部16、相対位置算出部17、正常位置記憶部18、正否判定部19、および警告伝達部20に加えて、特定の偏光のみを通す偏光部41をさらに具備する。この偏光部41は、撮像部11に入る光を特定の偏光のみとする偏光処理が施される。構成要素であり、例えば、偏光フィルタや撮像部11で使用されるレンズを偏光レンズとすること等によって実現される。
【0067】
続いて、第3の搬送監視装置10Cが行う搬送監視手順(以下、「第3の搬送監視手順」と称する。)について説明する。
【0068】
第3の搬送監視手順は、第1の搬送監視手順と同様に撮像部11において被搬送物2および搬送部3の画像が取得される点で共通であるが、第3の搬送監視手順では、撮像部11に入射する光に対して偏光処理が施されている点で相違する。第3の搬送監視装置10Cが具備する偏光部41の偏光処理によって、第3の搬送監視装置10Cおよび第3の搬送監視手順では、ガラス等の透明体1における映り込みを低減することができる。
【0069】
第3の搬送監視装置10Cおよび第3の搬送監視装置10Cを用いた搬送監視方法によれば、ガラス等の透明体1における映り込みを低減することができるので、被搬送物2および搬送部3の境界線を抽出する性能(境界線抽出性能)が向上し、それぞれの位置を抽出する精度の向上を図ることができる。その結果、監視員への誤警告を低減することができる。
【0070】
以上、搬送監視装置10A,10B,10Cおよび当該搬送監視装置10A,10B,10Cを用いた搬送監視方法によれば、撮像部11から出力された画像の信号強度の勾配量を示すベクトルデータを利用することで、ガラス等の透明体1への映り込みにより画像の輝度が変動する場合や、ガラス等の透明体1の着色により画像の鮮明度が低下する場合においても、ロバストに被搬送物2および搬送部3の位置を抽出することができる。
【0071】
また、抽出した位置関係の履歴を管理することにより、実際に異常事象が発生する前に予兆を抽出することができ、かつ、搬送状態の異常に対する警告を自動的に発することができるので、監視員の負荷を低減することができる。
【0072】
尚、本発明は上記の各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化しても良い。例えば、本発明の実施形態として記載した透明体1は鉛ガラス等のガラスに限らず、例えば、アクリル板など他の透明な透明体1でも良い。
【0073】
また、上記の各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良いし、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0074】
1 透明体
2 被搬送物
3 搬送部
10A,10B,10C 搬送監視装置
11 撮像部(撮像手段)
12 ベクトルデータ演算部(ベクトルデータ演算手段)
13 被搬送物モデル記憶部(被搬送物モデル記憶手段)
14 搬送部モデル記憶部(搬送部モデル記憶手段)
15 被搬送物位置抽出部(被搬送物位置抽出手段)
16 搬送部位置抽出部(搬送部位置抽出手段)
17 相対位置算出部(相対位置算出手段)
18 正常位置記憶部(正常位置記憶手段)
19 正否判定部(判定手段)
20 警告伝達部(警告手段)
31 照明部(照明手段)
32 同期部(同期手段)
33 撮像制御部(撮像制御手段)
41 偏光部(偏光手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明体越しに被搬送物の搬送状態を監視する搬送監視装置において、
少なくとも前記被搬送物を含む像を画像として取得する撮像手段と、
前記撮像手段によって取得された前記被搬送物の画像の信号強度の勾配量を示すベクトルデータを演算するベクトルデータ演算手段と、
前記ベクトルデータに基づいて画像中の前記被搬送物の位置を抽出する被搬送物位置抽出手段とを具備することを特徴とする搬送監視装置。
【請求項2】
透明体越しに被搬送物の搬送状態を監視する搬送監視装置において、
被搬送物をモデル化したモデルデータを記憶する被搬送物モデル記憶手段と、
前記被搬送物を搬送する搬送部をモデル化したモデルデータを記憶する搬送部モデル記憶手段と、
少なくとも前記被搬送物および前記搬送部を含む像を画像として取得する撮像手段と、
前記撮像手段によって取得された前記被搬送物および前記搬送部の画像の信号強度の勾配量を示すベクトルデータを演算するベクトルデータ演算手段と、
前記被搬送物モデル記憶手段に記憶された被搬送物のモデルデータと前記ベクトルデータとに基づいて画像中の前記被搬送物の位置を抽出する被搬送物位置抽出手段と、
前記搬送部モデル記憶手段に記憶された搬送部のモデルデータと前記ベクトルデータとに基づいて画像中の搬送部の位置を抽出する搬送部位置抽出手段と、
前記被搬送物位置抽出手段が抽出した被搬送物の位置と前記搬送部位置抽出手段が抽出した搬送部の位置との相対的な位置関係を算出する相対位置算出手段と、
前記被搬送物の位置および前記搬送部の位置の相対的な位置関係が正常な場合の相対的位置関係を記憶する正常位置記憶手段と、
前記相対位置算出手段が算出した相対位置関係と前記正常位置記憶手段において記憶されている正常な位置関係とを対比し、前記相対位置算出手段により算出された相対位置が正常な位置関係か否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により判定された結果に応じて所定の警告を発する警告手段とを具備することを特徴とする搬送監視装置。
【請求項3】
前記撮像手段に特定の偏光のみを通す偏光手段をさらに具備することを特徴とする請求項1又は2記載の搬送監視装置。
【請求項4】
前記被搬送物および前記搬送部に対し指向性のある照明光を照射する照明手段をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の搬送監視装置。
【請求項5】
前記撮像手段と前記照明手段とを同期させる同期手段と、
前記撮像手段により画像を取得するタイミングを制御する撮像制御手段と、をさらに具備し、前記照明手段は前記同期手段により前記撮像手段が画像を取得する時のみ点灯するように制御されることを特徴とする請求項4記載の搬送監視装置。
【請求項6】
透明体越しに被搬送物の搬送状態を監視する搬送監視方法であって、
少なくとも前記被搬送物を含む像を画像として取得するステップと、
取得された前記被搬送物の画像の信号強度の勾配量を示すベクトルデータを演算するステップと、
前記ベクトルデータに基づいて画像中の前記被搬送物の位置を抽出するステップとを具備することを特徴とする搬送監視方法。
【請求項7】
請求項2乃至5の何れか1項に記載される何れかの搬送監視装置を用いて被搬送物を監視する方法であって、
撮像手段によって、少なくとも前記被搬送物および前記搬送部を含む像を画像として取得するステップと、
前記撮像手段によって取得された前記被搬送物および前記搬送部の画像の信号強度の勾配量を示すベクトルデータをベクトルデータ演算手段によって演算するステップと、
被搬送物モデル記憶手段に記憶された被搬送物のモデルデータと前記演算ステップで演算されたベクトルデータとに基づいて画像中の前記被搬送物の位置を被搬送物位置抽出手段によって抽出するステップと、
搬送部モデル記憶手段に記憶された搬送部のモデルデータと前記演算ステップで演算されたベクトルデータとに基づいて画像中の搬送部の位置を搬送部位置抽出手段によって抽出するステップと、
前記被搬送物位置抽出ステップおよび搬送部位置抽出ステップで抽出された被搬送物の位置と搬送部の位置との相対的な位置関係を相対位置算出手段によって算出するステップと、
算出された被搬送物の位置と搬送部の位置との相対的な位置関係と正常位置記憶手段において記憶されている正常な位置関係とを対比し、算出された相対位置が正常な位置関係か否かを判定手段によって判定するステップと、
前記判定ステップの判定結果に応じて警告手段が所定の警告を発するステップとを具備することを特徴とする搬送監視方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−96011(P2011−96011A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249428(P2009−249428)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】