説明

搬送装置及び真空装置

【課題】高温環境下において搬送物を確実に保持して高速搬送を図るとともに、搬送物の搬送時におけるダストをできるだけ少なくする技術を提供する。
【解決手段】本発明の搬送装置50は、複数のアームを有する伸縮自在なリンク機構20と、その動作先端部において第3の左アーム3L、第3の右アーム3Rを介して連結され、基板10を載置するための載置部5とを備え、載置部5には、基板10の側部と当接して係止する係止部5a、5bが設けられる。第3の左アーム3L、第3の右アーム3Rの先端部には、第3の左アーム3L、第3の右アーム3Rに設けられた凸状の駆動支持部31L、31Rと、凸状の駆動支持部31L、31Rによって駆動される従動機構部6とを備える付勢手段9が設けられる。従動機構部6は、凸状の駆動支持部31L、31Rと係合摺動可能な長孔62を有する従動部61と、従動部61の長孔62内における凸状の駆動支持部31L、31Rの移動に応じて載置部5の係止部5a、5bに向って案内移動される付勢部6aとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば基板等の搬送物を搬送する搬送装置に関し、特に、半導体製造装置等の複数のプロセスチャンバを備えた真空装置に好適な搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造等の分野においては、従来から図9及び図10に示すような基板搬送装置101が用いられている。
この基板搬送装置101は、駆動部102と、この駆動部102に連結され複数のアームからなるアーム部103と、このアーム部103の先端に連結されたエンドエフェクタ104とを有しており、エンドエフェクタ104の上面で基板Wの裏面を支持し、複数のプロセスチャンバ(図示せず)間で基板Wの受け渡しを行うように構成されている。
【0003】
エンドエフェクタ104は、一般には、セラミックスやステンレス鋼などで製作されている。従って、アーム部103を高速で伸縮動作や旋回動作させるとエンドエフェクタ104も高速で動作するので、基板Wに加わる加速度の影響で基板Wがエンドエフェクタ104上で滑ってしまい、基板Wを正しい位置に搬送できない問題がある。
【0004】
加えて、従来技術では、基板Wがエンドエフェクタ104上を滑る際に発生するダストが、基板Wの表面を汚染してしまう問題がある。
そこで、図10に示すように、エンドエフェクタ104の上面に複数の保持部105を設け、基板W裏面の所定箇所で接触することも提案されている。
【0005】
この保持部105は一般にゴムやエラストマー等の樹脂系弾注材料で形成されているので、基板Wの裏面の滑りを抑制し、滑り止めパッドとして機能している。これにより、エンドエフェクタ104の上面において基板Wは滑ることなく安定した搬送姿勢で保持される(例えば特許文献1参照)。
【0006】
ここで、エラストマー等の樹脂系弾性材料で形成された保持部105は、基板Wや周囲の雰囲気温度が比較的低い(例えば200℃以下)場合には、効率よく基板Wの滑りは抑制されるが、当該温度が高い(例えば300〜500℃)場合には、保持部105が熱による変質や変形で、基板Wの滑りを抑制できなくなる問題がある。
【0007】
一方、当該温度が比較的低い(例えば200℃以下)場合でも、基板Wが保持部105の粘着力で貼り付き、エンドエフェクタ104から基板Wが適正に離れなくなることがある。例えば、プロセスチャンバ内のステージに基板Wを受け渡す際、保持部105から基板Wが離れず割れてしまう問題や、正しい位置に基板Wが搬送できない問題がある。
【0008】
さらに、原理的に保持部105と基板Wとの間の摩擦力により基板Wの滑りを抑制しているので、双方の物質で決まる最大静止摩擦力を超えるような加速度が基板Wに加わると、基板Wはエンドエフェクタ104上で滑ってしまう。従って、基板搬送装置101の動作速度は保持部105と基板Wとの間の最大静止摩擦力を超えて大きくすることができないという問題がある。
【特許文献1】特開2002−353291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、搬送物や周囲の雰囲気温度が比較的低い環境下においても当該温度が高い環境下においても搬送物を確実に保持して高速搬送を図ることにある。
また、本発明の他の目的は、搬送物の搬送時におけるダストをできるだけ少なくする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明は、駆動源からの動力が伝達される複数のアームを有する伸縮自在なリンク機構と、前記リンク機構の動作先端部において駆動リンク部を介して連結され、搬送物を載置するための載置部とを備え、前記載置部には、当該搬送物の側部と当接して係止するための係止部が設けられるとともに、前記リンク機構の駆動リンク部にはスライド機構による付勢手段が設けられ、前記付勢手段は、前記リンク機構の駆動リンク部に設けられた駆動支持部と、当該駆動支持部によって駆動される従動機構部とを備え、前記従動機構部は、前記駆動支持部と係合摺動可能な長溝状摺動部を有する従動部と、当該従動部に連結され当該従動部の長溝状摺動部内における前記駆動支持部の移動に応じて前記載置部の係止部に向かう方向に沿って案内移動される付勢部とを有する搬送装置である。
本発明では、前記付勢手段は、回転方向が反対方向である一対の隣接するリンク部材にそれぞれ凸状の前記駆動支持部が設けられ、かつ、前記従動機構部には、前記一対の隣接するリンク部材にそれぞれ設けられた当該凸状の駆動支持部と係合する長溝状摺動部を有する従動部と、凸状の前記付勢部を有することも効果的である。
本発明では、前記付勢手段は、回転方向が反対方向である一対の隣接するリンク部材の一方に支軸を中心として回動自在の従動部が設けられるとともに、前記一対の隣接するリンク部材の他方に凸状の前記駆動支持部が設けられ、前記一対の隣接するリンク部材の他方に設けられた当該凸状の駆動支持部と、前記従動部に設けられた長溝状摺動部とが係合摺動するように構成されていることも効果的である。
本発明では、前記従動機構部は、前記従動部と前記付勢部とが一体的に構成されていることも効果的である。
本発明では、前記従動機構部は、前記従動部と前記付勢部とが分離され、前記従動部側に設けられた駆動当接部と前記付勢部側に設けられた従動当接部とが、前記従動部の移動に伴って当接して動力を伝達するように構成されていることも効果的である。
本発明では、前記従動機構部の付勢部側には、前記従動部に対する付勢力を調整するための付勢力調整部材を有することも効果的である。
本発明では、前記付勢手段の従動機構部の付勢部には、当該付勢部の付勢力を減勢させるための減勢部材を有することも効果的である。
本発明では、前記従動機構部の従動部の長溝状摺動部は、長孔であることも効果的である。
また、本発明は、真空槽と、上述した搬送装置とを有し、前記搬送装置の載置部が前記真空槽内に対して搬入及び搬出するように構成されている真空装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明にあっては、リンク機構の動作先端部にスライド機構によって動作する付勢手段を設け、その従動機構部の付勢部と載置部の係止部によって搬送物を機械的に把持して保持するようにしたので、載置部上面での搬送物の滑りを抑制して(原理的には滑り無しで)、搬送物の高速搬送を実現することができる。
【0012】
また、付勢手段を含めて全ての部材を金属で作製することにより、搬送物や周囲の雰囲気温度が比較的低い環境下のみならず、搬送時の温度が高い(例えば300〜500℃)場合であっても熱変質や変形無しに搬送物の滑りを抑制することができる。
【0013】
さらに、付勢手段は、駆動リンク部に設けた例えば凸状の駆動支持部とこれに係合摺動可能な長溝状摺動部を有する従動部によって動力を伝達するように構成されているので、簡素な構成で小型の搬送装置を提供することができる。
さらにまた、搬送物を把持する部分には摺動する部分が無いので、搬送物を汚染するダストの発生を低減することができる。
【0014】
一方、本発明において、付勢手段の従動機構部が、従動部と付勢部とが分離され、従動部側に設けられた駆動当接部と付勢部側に設けられた従動当接部とが、従動部の移動に伴って当接して動力を伝達するように構成されている場合には、従動機構部の付勢部に設けられた従動当接部を適切な力で従動部の駆動当接部に押し付けて密着させることができるので、従動機構部を例えばガイド部材に沿って確実に高精度で基板搬送方向下流側に移動させることができる。
【0015】
また、本発明において、付勢手段の従動機構部の付勢部に付勢力を減勢させるための減勢部材を有する場合には、装置構成や搬送物の大きさ等に応じて最適の力で搬送物を確実に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る搬送装置の実施の形態の構成を示す平面図である。
図1に示すように、本実施の形態の搬送装置50は、例えば真空処理槽内において搬送物である基板10の搬送を行う所謂フロッグレック方式のもので、以下に説明するリンク機構20を駆動するための鉛直方向に同心状に配設した第1及び第2の駆動軸11、12を有している。
【0017】
これら各駆動軸11、12は、独立した第1及び第2の駆動源M1、M2からそれぞれ時計回り方向又は反時計回り方向の回転動力が伝達されるように構成されている。
第1の駆動軸11には第1の左アーム1Lの一方の端部(基端部)が固定され、第2の駆動軸12の一方の端部(基端部)には、第1の右アーム1Rが固定されている。
【0018】
第1の左アーム1Lの他方の端部(先端部)には、第2の左アーム2Lの一方の端部(基端部)が、支軸21Lを中心として水平方向に回転自在に取り付けられている。
第1の右アーム1Rの他方の端部(先端部)には、第2の右アーム2Rの一方の端部(基端部)が、支軸21Rを中心として水平方向に回転自在に取り付けられている。
【0019】
本実施の形態では、これら第1の左アーム1L及び第1の右アーム1Rは、直線状に形成され、同一の支点間距離を有するように構成されている。
第2の左アーム2Lは、直線状に形成され、その他方の端部(先端部)には、第3の左アーム3Lの一方の端部(基端部)が、固定ねじ22Lで固定されている。
第2の右アーム2Rは、直線状に形成され、その他方の端部(先端部)には、第3の右アーム3Rの一方の端部(基端部)が、固定ねじ22Rで固定されている。
【0020】
ここで、第3の左アーム3L、第3の右アーム3Rは、駆動リンク部を構成するもので、ほぼ「く」字状に形成されており、それぞれの屈曲部分の凸部がリンク外方側に向けられて配置されている。
また、第3の左アーム3Lの他方の端部(先端部)は、後述する動力伝達機構4の表面に設けられた支軸23Lを中心として水平方向に回転自在に取り付けられている。
【0021】
一方、第3の右アーム3Rの他方の端部(先端部)は、後述する動力伝達機構4の例えば表面側に設けられた支軸23Rを中心として水平方向に回転自在に取り付けられている。
本実施の形態においては、第2の左アーム2Lの支軸21Lから第3の左アーム3Lの支軸23Lの支点間距離と第2の右アーム2Rの支軸21Rから第3の右アーム3Rの支軸23Rの支点間距離は、同一の距離を有するように構成されている。
【0022】
また、動力伝達機構4は、例えば矩形薄型箱形状のハウジング内に互いに噛み合う一対の歯車を有している(図示せず)。
これらの歯車は同一の歯数を有し、それぞれの回転軸が、上述した支軸23L、23Rに固定され、これにより、姿勢制御機構として作用すべく逆方向に同一速度で回転するように構成されている。
これら支軸23L、23Rは、基板10の搬送方向に対して直交する方向に近接して配置されている。
【0023】
本発明の場合、特に限定されることはないが、バランスよく搬送物を保持する観点からは、第1及び第2の駆動軸11、12の回転中心軸線を通り基板搬送方向(矢印P方向)に対して直交する位置に支軸23L、23Rを配置するように構成することが好ましい。
【0024】
動力伝達機構4の基板搬送方向下流側には、所謂エンドエフェクタである載置部5が設けられている。
この載置部5には、所定の間隔をおいて設けた支持部材5L、5Rが設けられている。
【0025】
ここで、支持部材5L、5Rの基板搬送方向下流側の端部には、基板10の側部と当接可能な凸部形状の係止部5a、5bがそれぞれ設けられている。
一方、本実施の形態においては、以下に説明するスライド機構による付勢手段9が設けられている。
【0026】
図2(a)は、本実施の形態における付勢手段の全体を示す構成図、図2(b)は、図2(a)のA−A線断面図である。
図2(a)に示すように、本実施の形態においては、第3の左アーム3Lと第3の右アーム3Rはその先端部がそれぞれ半円形状に形成されている。そして、第3の左アーム3L及び第3の右アーム3Rの表側面30L、30Rにそれぞれ凸状の駆動支持部31L、31R(以下単に「駆動凸部」という。)が設けられ、これら駆動凸部31L、31Rと従動機構部6とによって付勢手段9が構成されている。
【0027】
本実施の形態では、駆動凸部31L、31Rは、好ましくはステンレス等の金属材料からなり、第3の左アーム3Lの支軸23Lと、第3の右アーム3Rの支軸23Rから所定の距離だけ離れた位置に設けられている。この場合、駆動凸部31L、31Rは、第3の左アーム3L及び第3の右アーム3Rの支軸23L、23Rより基板搬送方向下流側に配置されている。
【0028】
なお、本例では、第3の左アーム3Lと第3の右アーム3Rの各駆動凸部31L、31Rは、第1及び第2の駆動軸11、12の回転中心軸線を通り基板搬送方向に延びる直線に対して線対称となるように設けられている。
本実施の形態の駆動凸部31L、31Rは、後述する従動部61の長孔(長溝状摺動部)62と係合するもので、同一の構成を有している。
【0029】
図2(b)に示すように、各駆動凸部31L、31Rは、第3の左アーム3L及び第3の右アーム3Rの表側面30L、30Rに立設された支軸32L、32Rを中心として水平方向に回動自在に支持された円筒状の回転軸33L、33Rを有している。
【0030】
各回転軸33L、33Rの上部には、各回転軸33L、33Rより若干径の大きな例えば円板状の支持部34L、34Rが設けられている。
一方、本実施の形態の従動機構部6は、好ましくはステンレス等の金属部材から構成されるもので、直線棒状の本体部60を有している。
【0031】
従動機構部6の本体部60の一端部には、例えば本体部60に対して直交する方向に延びる長方形平板状の従動部61が取り付けられている。この従動部61には、例えばその幅方向の中央領域に、従動部61の長手方向に沿って直線状に延びる長孔62が形成されている。
【0032】
図2(b)に示すように、従動部61の長孔62は、その幅が、上述の駆動凸部31L、31Rの回転軸33L、33Rの直径より若干大きく、かつ、支持部34L、34Rの径より小さくなるように設定されている。
【0033】
また、従動部61の長孔62の長さは、第3の左アーム3Lと第3の右アーム3Rの回転に伴って移動する駆動凸部31L、31R間の最大距離より長くなるように設定されている。
このような構成により、第3の左アーム3Lと第3の右アーム3Rを回転させると、各駆動凸部31L、31Rの駆動軸33L、33Rが、従動部61の長孔62内において係合摺動しつつその基板搬送方向上流又は下流側の開口縁部を押圧するようになっている。
【0034】
従動機構部6の本体部60の他端部には、凸状(例えばピン形状)の付勢部6aが取り付けられている。この付勢部6aの先端部は、ダストの発生を防止するための例えばPTFE(ポリ4フッ化エチレン樹脂)等の耐熱性の樹脂材料からなるコーティングを施すこともできる。
【0035】
本実施の形態では、図2(b)に示すように、第3の左アーム3Lと第3の右アーム3Rの各駆動凸部31L、31Rを、従動機構部6の従動部61の長孔62に係合させた状態で、例えば載置部5の表側面に設けたガイド部材63によって案内されることにより、従動機構部6の本体部60が基板搬送方向又はその反対方向に直線移動するように構成されている。
【0036】
次に、図3(a)(b)を用いて、本発明の動作原理及び構成を詳細に説明する。
以下、第3の左アーム3Lの支軸23Lと駆動凸部31Lの支軸32Lとの間の距離、及び第3の右アーム3Rの支軸23Rと駆動凸部31Rの支軸32Rとの間の距離をそれぞれrとした場合を考える。
【0037】
本発明の実施の形態では、リンク機構20が伸びた状態において、図3(a)に示すように、第3の左アーム3L及び第3の右アーム3Rの先端部のなす角度が例えば180度より大きくなるように設定する。
【0038】
この状態において、従動機構部6の従動部61の長孔62に係合させた第3の左アーム3Lと第3の右アーム3Rの各駆動凸部31L、31Rが、当該長孔62内において両端部に位置するように、従動部61の長孔62の大きさ、各駆動凸部31L、31Rの位置を定める。
【0039】
そして、従動機構部6の基板搬送方向下流側の付勢部6aが、搬送すべき基板10の側部と接触しないように、従動機構部6の基準長さ(ここでは、付勢部6aの先端部から駆動凸部31L、31Rの支軸32L、32Rまでの距離)を設定する。
【0040】
本例では、例えば各駆動凸部31L、31Rが、第3の左アーム3L及び第3の右アーム3Rの支軸23L、23Rより基板搬送方向に対して直交する方向で外方側に位置するように構成する(基板搬送方向に対する角度θ1)。
【0041】
一方、リンク機構20が縮んだ状態においては、図3(b)に示すように、第3の左アーム3L及び第3の右アーム3Rの先端部のなす角度が例えば180度より小さくなるように設定する。
この状態では、駆動凸部31L、31Rが、それぞれ第3の左アーム3L又は第3の右アーム3Rの支軸23L、23Rを中心として互いに接近する方向に回転移動している。
【0042】
ここで、基板搬送方向に対する角度θ0が、リンク機構20が伸びた状態における基板搬送方向に対する角度θ1より絶対値で小さくなるように、例えば、各駆動凸部31L、31Rが、第3の左アーム3L及び第3の右アーム3Rの支軸23L、23Rより基板搬送方向の垂直方向の内方側に位置するように、上述した各部材の大きさ・形状・位置を設定する。
【0043】
このような構成において、第3の左アーム3L及び第3の右アーム3Rの縮み方向への回転させると、各駆動凸部31L、31Rが基板搬送方向下流側に移動して従動部61の長孔62の開口縁部を押圧し、従動機構部6が基板搬送方向下流側に移動して、付勢部6aと搬送すべき基板10の側部との距離が小さくなる(r・cosθ0>r・cosθ1、すなわち、d<D)。
【0044】
その結果、従動機構部6の基板搬送方向下流側の部分(付勢部6a)が、搬送すべき基板10の側部と接触し、基板10の側部に対し、載置部5の係止部5a、5bに向かう方向の力Fが作用し、これにより、当該基板10に対して基板搬送方向に関して上流及び下流側から押圧力が働き、載置部5上において基板10が保持(把持)される。
【0045】
このようなリンク機構20の縮み状態においては、第1の左アーム1L及び第1の右アーム1Rを同一の方向へ回転させることにより、基板10を保持した状態で旋回動作を行うことができる。
【0046】
図4(a)〜(c)は、本実施の形態における搬送装置の動作を示す説明図である。
ここでは、搬送室7から処理室8内に基板10を搬入する場合を例にとって説明する。なお、搬送室7及び処理室8は、図示しない真空排気系に接続されている。また、搬送室7と処理室8間には図示しないゲートバルブが接続されており、そのゲートバルブが開いた後、搬入、搬出動作を行う。
【0047】
まず、図4(a)に示すように、上述した如くリンク機構20を縮ませて基板10を保持した状態で載置部5の係止部5a、5bを処理室8側に向ける。
この状態から第1の左アーム1Lを時計回り方向へ回転させるとともに、第1の右アーム1Rを反時計回り方向へ回転させることにより、リンク機構20の伸び動作が開始され、図4(b)に示すように、基板10は処理室8に向って直進する。
【0048】
さらに、リンク機構20の伸び動作を継続することにより、図4(c)に示すように、基板10を処理室8内に搬入する。
この状態では、図3(a)を用いて説明したように、従動機構部6の付勢部6aと基板10の側部とが接触しない状態となるため、処理室8に設置されている図示しない昇降機構によって基板10を支持して上昇させることにより、基板10を搬送装置50の載置部5から離脱させることができる。
【0049】
なお、従動機構部6の付勢部6aと基板10の側部との接触を解除するタイミングは、リンク機構20が伸び切った状態と同時でもよいし、リンク機構20が伸び切る前(直前)であってもよく、本発明が適用される搬送装置及び真空装置の大きさや配置構成に応じて適宜変更することができる。
【0050】
その後、第1の左アーム1Lを反時計回り方向へ回転させるとともに、第1の右アーム1Rを時計回り方向へ回転させてリンク機構20の縮み動作を行うことにより、載置部5を搬送室7内に戻して上述した状態にすることができる。
【0051】
以上述べたように本実施の形態にあっては、リンク機構20の動作先端部にスライド機構によって動作する付勢手段9を設け、基板搬送方向下流側に移動する従動機構部6の付勢部6aと係止部5a、5bによって基板10を機械的に把持して保持するようにしたので、載置部5上面での基板10の滑りを抑制して(原理的には滑り無しで)、基板10の高速搬送を実現することができる。
【0052】
また、従動機構部6を含めて全ての部材を金属で作製することにより、搬送物や周囲の雰囲気温度が比較的低い環境下のみならず、搬送時の温度が高い(例えば300〜500℃)場合であっても熱変質や変形無しに基板10の滑りを抑制することができる。
さらに、従動機構部6の付勢部6aは凸状の部材であり、基板10を把持する部分には摺動部が無いので、基板10を汚染するダストの発生を低減することができる。
【0053】
図5〜図7は、本発明の他の実施の形態を示すもので、以下、上述した実施の形態と対応する部分には共通の符号を付しその詳細な説明を省略する。
図5は、付勢手段の従動機構部に、当該付勢部の付勢力を減勢させるための減勢部材を有する例を示すものである。
【0054】
図5に示すように、本実施の形態では、付勢部6aの支持部64が本体部60の延びる方向に沿って移動するように構成され、これら本体部60の先端部と付勢部6aとの間の支持部64の周囲には、圧縮コイルばね(減勢部材)65が装着されている。そして、付勢部6aの先端部に本体部60方向への力が作用した場合に圧縮コイルばね65の弾性力に抗して付勢部6aが本体部60方向へ移動するように構成されている。
【0055】
このような構成を有する本実施の形態によれば、基板10を保持(把持)する際に基板10に対する付勢力を調整することができるので、種々の搬送物や装置構成に応じて設計の自由度が大きくなり汎用性が高くなるというメリットがある。その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
【0056】
図6は、本発明の更なる他の実施の形態の要部を示す部分断面側面図で、動力伝達機構4の下方に第3の左アーム3Lと第3の右アーム3Rが位置するように構成したものである。
図6に示すように、本実施の形態においては、動力伝達機構4の下方に設けられた第3の左アーム3Lと第3の右アーム3Rの先端部に、上述した構成の従動機構部6が配設され、その本体部60が基板搬送方向に沿って直進移動するように構成されている。
【0057】
従動機構部6の本体部60の先端部には、減勢部材6bが取り付けられている。この減勢部材6bは、例えばステンレス等の金属からなる板状の弾性材料から構成され、本体部60の先端部から上方に向けて配設されている。
【0058】
そして、減勢部材6bの先端部には例えば凹部形状の付勢部6cが設けられ、この付勢部6cが、載置部5に設けた孔部5cを介して載置部5上に突出して、従動機構部6の移動に伴い、基板10の側部に対して付勢部6cの凹面部分が当接又は離間するように構成されている。
このような構成を有する本実施の形態によれば、上記実施の形態同様基板10を保持(把持)する際に基板10に対する付勢力を調整することができる。
【0059】
加えて、本実施の形態によれば、例えば、米国特許6,364,599B1の図22や図23に示されている上側のエンドエフェクタと下側のエンドエフェクタの上下間隔を小さくしたアーム機構の下側アームのウエハ把持機構として使用することができる。なお、このアーム機構の上側アームのウエハ把持機構として前述した図2(a)(b)及び図3(a)(b)の構成を使用できる。その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
【0060】
図7は、本発明の更なる他の実施の形態の要部を示す構成図で、当該付勢部の付勢力を減勢させるための減勢部材を有する他の例を示すものである。
図7に示すように、本実施の形態は、図5に示す実施の形態の変形例であり、従動機構部6の本体部60の先端部に、例えば本体部60の延びる方向と直交する方向に延びる直線棒状の取付部材67が固定され、この取付部材67の両端部に、例えばステンレス等の金属からなる帯状リング状の二つの減勢付勢部6d、6eが、取付部材67から基板搬送方向下流側に突出するように取り付けられている。
【0061】
ここで、二つの減勢付勢部6d、6eは、同一の大きさ及び形状に形成され、上記第1及び第2の駆動軸11、12の回転中心軸線を通り基板搬送方向に延びる直線に対して線対称となるように配置されている。
【0062】
このような構成を有する本実施の形態によれば、図5に示す実施の形態と同様基板10を保持(把持)する際に基板10に対する付勢力を調整することができることに加え、基板搬送方向に対して線対称に配置された二つの減勢付勢部6d、6eによって基板10を付勢するため、バランス良く基板10を保持(把持)することができるというメリットがある。
【0063】
なお、本実施の形態では、図6に示す実施の形態のように、第3の左アーム3Lと第3の右アーム3R並びに従動機構部6を動力伝達機構4の下方に位置するように構成することも可能である。
【0064】
この場合は、図6に示す実施の形態と同様に載置部5に孔部(図示せず)を設け、この孔部を介して取付部材67及び減勢付勢部6d、6eを載置部5の上方に位置させ、基板10の側部に対して減勢付勢部6d、6eが当接又は離間するように構成するとよい。
【0065】
このような本実施の形態によれば、例えば、米国特許6,364,599B1の図22や図23に示されている上側のエンドエフェクタと下側のエンドエフェクタの上下間隔を小さくしたアーム機構の下側アームのウエハ把持機構として使用できるというメリットがある。なお、このアーム機構の上側アームのウエハ把持機構として前述した図7の構成そのものを使用することができる。その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
【0066】
図8(a)(b)は、本発明の更なる他の実施の形態の要部を示す構成図で、図8(a)は、リンク機構20が伸びた状態を示すもの、図8(b)は、リンク機構20が縮んだ状態を示すを示すものである。
図8(a)(b)に示すように、本実施の形態では、従動部61Aには、従動部61Aの第3の右アーム3R側に対応する領域にのみ長孔62Aが設けられている。
【0067】
この従動部61Aは、第3の左アーム3Lの表側面30Lに設けた支軸35を中心として水平方向に回動自在に支持されている。本例では、支軸35は、上述した駆動凸部31Lと同じ位置に設けられ、これにより従動部61Aが一方の端部(左側の端部)を中心として回動するように構成されている。
【0068】
従動部61Aの長孔62Aは、従動部61Aの長手方向に沿って直線状に延びるように形成され、第3の右アーム3Rに設けた駆動凸部31R(回転軸33R)と係合するように構成されている。
【0069】
また、本実施の形態の従動部61Aは、従動機構部6Aの本体部60と分離されている。そして、従動部61Aの基板搬送方向下流側の部位には、基板搬送方向に対して直交する方向に延び所定の大きさを有する駆動当接部61aが設けられている。
一方、従動機構部6Aの本体部60の付勢部6aと反対側の端部には、上述した従動部61Aの駆動当接部61aと当接する従動当接部60aが設けられている。
【0070】
また、従動機構部6Aの本体部60の付勢部6aと反対側の端部には支持部60bが設けられ、この支持部60bと上述したガイド部材63との間には、当該本体部60の周囲に圧縮コイルばね66が装着されている。
【0071】
このような構成において、図8(a)に示す伸び状態から第3の左アーム3L及び第3の右アーム3Rを縮み方向への回転させると、従動部61Aが支軸35を中心として時計回り方向に回転するとともに、駆動凸部31Rが反時計回り方向に回転し、これにより従動部61Aが基板搬送方向下流側に移動する。
【0072】
そして、従動部61Aの駆動当接部61aが従動機構部6Aの本体部60の従動当接部60aに当接しこれを基板搬送方向下流側に付勢することにより、従動機構部6Aが圧縮コイルばね66の弾性力に抗して基板搬送方向下流側に移動する。
【0073】
その結果、従動機構部6Aの基板搬送方向下流側の付勢部6aが、搬送すべき基板10の側部と接触し、基板10の側部に対し、載置部5の係止部5a、5bに向かう方向の力Fが作用し、これにより、当該基板10に対して基板搬送方向に関して上流及び下流側から押圧力が働き、載置部5上において基板10が保持(把持)される。
【0074】
このような構成を有する本実施の形態によれば、従動機構部6Aの付勢部6aに設けられた従動当接部60aを適切な力で従動部61Aの駆動当接部61aに押し付けて密着させることができるので、従動機構部6Aを例えばガイド部材63に沿って確実に高精度で基板搬送方向下流側に移動させることができる。
【0075】
加えて、本実施の形態によれば、従動部61Aと本体部60が分離しているので、付勢部6aが基板10の側部と接触する部分の近傍のみで本体部60をスライドさせることができ、ガイド部材63と本体部60の摺動によるダストの発生を低減させることができるというメリットがある。その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
【0076】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上述の実施の形態においては、駆動凸部と、従動部を貫通する長孔とを組み合わせて動力伝達を行うようにしたが、本発明はこれに限られず、駆動凸部に係合し摺動して動力伝達を行う構成である限り、従動側として凹部状の溝を用いることもできる。
【0077】
また、付勢手段のスライド機構に関し、駆動凸部の形状、長溝状摺動部の大きさ等については、本発明を適用する搬送装置に応じて適宜変更をすることができる。
さらに、本発明は種々のリンク機構を有する搬送装置及び複数の処理室を有する真空装置に適用することができるものである。
さらにまた、それぞれ相対的に平行移動する複数の隣接リンク部に駆動凸部を形成し、当該駆動凸部によって従動機構部を移動させ上述した動作によって搬送物を保持するように構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る搬送装置の実施の形態の構成を示す平面図
【図2】(a):同実施の形態における付勢手段の全体を示す構成図、(b):同実施の形態における付勢手段の従動機構部を示す構成図(図2(a)のA−A線断面図)
【図3】(a)(b):本発明の動作原理及び構成を詳細に示す説明図
【図4】(a)〜(c):本発明の実施の形態における搬送装置の動作を示す説明図
【図5】本発明の他の実施の形態の要部を示す構成図
【図6】本発明の更なる他の実施の形態の要部を示す部分断面側面図
【図7】本発明の更なる他の実施の形態の要部を示す構成図
【図8】(a)(b):本発明の更なる他の実施の形態の要部を示す構成図
【図9】従来技術に係る搬送装置の概略構成図
【図10】従来技術に係る搬送装置の要部概略構成図
【符号の説明】
【0079】
1L…第1の左アーム、1R…第1の右アーム、2L…第2の左アーム、2R…第2の右アーム、3L…第3の左アーム(駆動リンク部)、3R…第3の右アーム(駆動リンク部)、4…動力伝達機構、5…載置部、5a、5b…係止部、6…従動機構部、6a…付勢部、7…搬送室、8…処理室、9…付勢手段、10…基板(搬送物)、20…リンク機構、31L,31R…駆動凸部(凸状の駆動支持部)、50…搬送装置、61…従動部、62…長孔(長溝状摺動部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの動力が伝達される複数のアームを有する伸縮自在なリンク機構と、
前記リンク機構の動作先端部において駆動リンク部を介して連結され、搬送物を載置するための載置部とを備え、
前記載置部には、当該搬送物の側部と当接して係止するための係止部が設けられるとともに、
前記リンク機構の駆動リンク部にはスライド機構による付勢手段が設けられ、
前記付勢手段は、前記リンク機構の駆動リンク部に設けられた駆動支持部と、当該駆動支持部によって駆動される従動機構部とを備え、
前記従動機構部は、前記駆動支持部と係合摺動可能な長溝状摺動部を有する従動部と、当該従動部に連結され当該従動部の長溝状摺動部内における前記駆動支持部の移動に応じて前記載置部の係止部に向かう方向に沿って案内移動される付勢部とを有する搬送装置。
【請求項2】
前記付勢手段は、回転方向が反対方向である一対の隣接するリンク部材にそれぞれ凸状の前記駆動支持部が設けられ、かつ、前記従動機構部には、前記一対の隣接するリンク部材にそれぞれ設けられた当該凸状の駆動支持部と係合する長溝状摺動部を有する従動部と、凸状の前記付勢部を有する請求項1記載の搬送装置。
【請求項3】
前記付勢手段は、回転方向が反対方向である一対の隣接するリンク部材の一方に支軸を中心として回動自在の従動部が設けられるとともに、前記一対の隣接するリンク部材の他方に凸状の前記駆動支持部が設けられ、前記一対の隣接するリンク部材の他方に設けられた当該凸状の駆動支持部と、前記従動部に設けられた長溝状摺動部とが係合摺動するように構成されている請求項1記載の搬送装置。
【請求項4】
前記従動機構部は、前記従動部と前記付勢部とが一体的に構成されている請求項1乃至3のいずれか1項記載の搬送装置。
【請求項5】
前記従動機構部は、前記従動部と前記付勢部とが分離され、前記従動部側に設けられた駆動当接部と前記付勢部側に設けられた従動当接部とが、前記従動部の移動に伴って当接して動力を伝達するように構成されている請求項1乃至4のいずれか1項記載の搬送装置。
【請求項6】
前記従動機構部の付勢部側には、前記従動部に対する付勢力を調整するための付勢力調整部材を有する請求項5記載の搬送装置。
【請求項7】
前記付勢手段の従動機構部の付勢部には、当該付勢部の付勢力を減勢させるための減勢部材を有する請求項1乃至6のいずれか1項記載の搬送装置。
【請求項8】
前記従動機構部の従動部の長溝状摺動部は、長孔である請求項1乃至7のいずれか1項記載の搬送装置。
【請求項9】
真空槽と、
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の搬送装置とを有し、
前記搬送装置の載置部が前記真空槽内に対して搬入及び搬出するように構成されている真空装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−115727(P2010−115727A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288785(P2008−288785)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】