説明

携帯可能電子媒体処理システムと携帯可能電子媒体の製造方法と携帯可能電子媒体の発行方法

【課題】 この発明は、ICカードへのデータ書き込み、読み出しにかかる時間を短縮することができ、ICカードの製造時間を短縮することができる。
【解決手段】 この発明は、ICカードの製造装置において、同一ロットの先頭のICカードに対して、供給クロックの限界値を測定し、このクロック周波数を用いて、1枚目及び2枚目以降のICカードを製造するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般にICカードと称される携帯可能電子媒体を扱う携帯可能電子媒体処理システムと携帯可能電子媒体の製造方法と携帯可能電子媒体の発行方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICカードと端末間のデータ通信において、データ通信中の通信レート(ボーレート)は一定である。(特許文献1参照)
従来は、端末とICカードとが、シリアルインターフェースにより接続され、カードに基本プログラムを転送して、ICカード内に記憶する製造処理(発行前処理)と、カードにアプリケーションプログラムを転送して、ICカード内に記憶する発行処理とが、所定の周波数の供給クロックに基づいて行われている。
【0003】
しかし、この供給クロックとしては、3.5MHzあるいは4.9MHzの基本的な周波数であり、高速化の余地を残している。
【0004】
このため、たとえば、所定枚数(一千万枚)のロット単位で製造されている同一特性のICカードを処理する際に、1枚ずつの供給クロックの差が少なくてもまとまることにより、処理にかかる時間の短縮が図れるものである。
【特許文献1】特開平1−213774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、同一特性の所定枚数単位の携帯可能電子媒体を処理する際に、1枚ずつの携帯可能電子媒体に対するデータ書き込み、読み出しにかかる時間を短縮することができ、所定枚数単位の携帯可能電子媒体の製造時間あるいは発行時間を短縮することができることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の携帯可能電子媒体取扱システムは、携帯可能電子媒体と、この携帯可能電子媒体とシリアルなデータ転送により接続される端末とからなるものにおいて、同一特性の所定枚数単位の上記携帯可能電子媒体を処理する際に、1枚目の携帯可能電子媒体に対する供給クロックの限界値の周波数を判断する判断手段と、この判断手段により判断された限界値の周波数の供給クロックに基づいて、上記端末と1枚目及び2枚目以降の上記携帯可能電子媒体との間のデータ転送を行う処理手段とを有する。
【0007】
この発明の携帯可能電子媒体の製造方法は、少なくともメモリと制御素子からなる回路素子を内蔵した携帯可能電子媒体の上記メモリに対して、外部機器からの基本プログラムのダウンロードを行うことにより、携帯可能電子媒体を製造するものであって、上記回路特性が一定な所定枚数単位の携帯可能電子媒体の1枚目に対する基本プログラムのダウンロードを行う際に、基準クロックから徐々にクロックの周波数を上げていき,供給クロックの周波数の限界値を測定し、この測定した限界値の周波数の供給クロックに基づいて基本プログラムのダウンロードを行い、2枚目以降の携帯可能電子媒体に対しても上記測定した限界値の周波数の供給クロックに基づいて基本プログラムのダウンロードを行うものである。
【0008】
この発明の携帯可能電子媒体の発行方法は、少なくとも基本プログラムが記憶されているメモリとこの基本プログラムにより作動する制御素子からなる回路素子を内蔵した携帯可能電子媒体の上記メモリに対して、外部機器からのアプリケーションプログラムのダウンロードを行うことにより、携帯可能電子媒体を発行するものであって、上記回路特性が一定な所定枚数単位の携帯可能電子媒体の1枚目に対するアプリケーションプログラムのダウンロードを行う際に、基準クロックから徐々にクロックの周波数を上げていき,供給クロックの周波数の限界値を測定し、この測定した限界値の周波数の供給クロックに基づいてアプリケーションプログラムのダウンロードを行い、2枚目以降の携帯可能電子媒体に対しても上記測定した限界値の周波数の供給クロックに基づいてアプリケーションプログラムのダウンロードを行うものである。
【発明の効果】
【0009】
以上詳述したように、この発明によれば、同一特性の所定枚数単位の携帯可能電子媒体を処理する際に、1枚ずつの携帯可能電子媒体に対するデータ書き込み、読み出しにかかる時間を短縮することができ、所定枚数単位の携帯可能電子媒体の製造時間あるいは発行時間を短縮することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照してこの発明のICカード処理システム(携帯可能電子媒体処理システム)を説明する。
このICカード処理システムは、図1に示すように、端末(パソコン:PC)1とこの端末1と無線(非接触式)あるいはコネクタ(接触式)等で接続されるICカード2とから構成されている。
【0011】
端末1は、端末1の全体を制御する制御部3、制御用のプログラムが記憶されているメモリ(ROM)4、処理単位(ロット)ごとに測定される供給クロックの周波数の限界値等のデータ記憶用のRAM5、ICカード2とのインターフェースを行うICカードインターフェース部6、図示しない発振器からの信号に基づいて基準クロックを生成する基準クロック生成部7、基準クロックを分周して種々の周波数の供給クロックを出力するクロック出力部8、電源部9、操作指示を行うキーボード等の操作部(図示しない)、操作案内等が表示される表示部(図示しない)、図示しない収納部に収納されている製造前のICカード2を1枚ずつ取り出して搬送して上記ICカードインターフェース部6に対向させる搬送部10により構成されている。
【0012】
ICカードインターフェース部6には、ICカード2とデータの入出力を行うデータ入出力部11、ICカード2に電源を供給する電源出力部12、ICカード2に基準クロックを出力する基準クロック出力部13、ICカード2にリセット信号を出力するリセット信号出力部14を有する。
【0013】
ICカード2は、図2に示すように、ICカード2の全体を制御するCPU(制御素子)21、カード内部動作の制御用のプログラムが記憶されている(プログラムメモリ)22、端末1と交換する電文の送受信バッファとCPU21の処理中のデータの一時格納バッファとして利用されるRAM(ワーキングメモリ)23、EEPROM等で構成されるデータメモリ24、リーダライタ3とのデータのやり取りを行うインターフェース部25、マスクROM22の記憶テーブル22aに格納されている通信レート切換えアルゴリズムに基づいて上記インターフェース部25により受信した基準クロックを分周した通信レートのクロックを出力するクロック出力部26により構成されている。上記インターフェース部25には、端末1とデータの入出力を行うデータ入出力部31、端末1からの電源が供給される電源入力部32、端末1からの基準クロックが供給される基準クロック入力部33、端末1からのリセット信号が供給されるリセット信号入力部34を有する。
【0014】
次に、上記のような構成において、ICカード2の製造処理(発行前の基本の制御プログラムの設定処理)について、図3に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
たとえば今、ロット単位の先頭(1枚目)のICカード2が図示しない収納部から取り出されて搬送される。この後、製造前のICカード2が、インターフェース部6に対向することにより、このICカード2へ端末1からの電源とクロックが供給される(ST1)。
【0015】
すなわち、端末1の制御部5はまず3.5MHz系の制御信号をクロック出力部8へ出力する。これにより、クロック出力部8は3.5MHzのクロックを生成し、インターフェース部6に出力する。この結果、インターフェース部6は、制御部5からの制御信号により3.5MHzの供給クロックをICカード2へ送信する。
【0016】
また、端末1の制御部5は活性化を判断し、インターフェース部6に出力する。この結果、インターフェース部6は、制御部5からの制御信号によりリセット解除信号がオンされる(ST2)。
【0017】
この活性化に対する応答(ATR;アンサーツウリセット)がICカード2から供給されると、端末1の制御部5はあらかじめ製造者によって3.5MHz系か4.9MHz系かの設定に応じて基準のクロックの切換えが必要か否かを判断する(ST3)。この判断の結果、基準のクロックの切換えが必要と判断された場合、端末1の制御部5は4.9MHz系の制御信号をクロック出力部8へ出力する。これにより、クロック出力部8は4.9MHzのクロックを生成し、インターフェース部6に出力する。この結果、インターフェース部6は、制御部5からの制御信号により4.9MHzの供給クロックをICカード2へ送信する(ST4)。
【0018】
上記ステップ3において、基準のクロックの切換えが必要なしと判断され、3.5MHzの供給クロックαがICカード2へ送信されている状態において、端末1の制御部5はインターフェース部6により自己診断用コマンド(DES:Data Encryption Stam)をICカード2のCPU21ヘ送信する(ST5)。
【0019】
自己診断用コマンドは、DESの演算を含む処理をICカード2に行わせるコマンドであり、ICカード2への供給クロックの周波数を上げていく場合に最も影響する処理である。
【0020】
上記ステップ5の送信に応答して、ICカード2のCPU21は供給される自己診断用コマンドを実行し、この実行結果としての応答レスポンスを端末1の制御部5に返送する。
【0021】
これにより、端末1の制御部5は供給される応答レスポンスとして正常レスポンスを受信した際(ST6)、供給クロックの周波数を100kHz上げる(α+100kHz)制御信号をクロック出力部8へ出力する。これにより、クロック出力部8は3.6MHzのクロックを生成し、インターフェース部6に出力する。この結果、インターフェース部6は、制御部5からの制御信号により3.6MHzの供給クロックをICカード2へ送信する(ST7)。
【0022】
この3.6MHzの供給クロックがICカード2へ送信されている状態において、端末1の制御部5はインターフェース部6により自己診断用コマンドをICカード2のCPU21ヘ送信する(ST8)。
【0023】
この送信に応答して、ICカード2のCPU21は供給される自己診断用コマンドを実行し、この実行結果としての応答レスポンスを端末1の制御部5に返送する(ST9)。
【0024】
以後、ステップ9により端末1の制御部5は供給される応答レスポンスとして正常レスポンスを受信するごとに、供給クロックの周波数を100kHzずつ上げる。
【0025】
上記ステップ9により端末1の制御部5は供給される応答レスポンスとして異常レスポンスを受信した際に、供給クロックの周波数をマージンとして100kHz下げて、最終的な供給クロックβに決定する(ST10)。
【0026】
この後、この決定した供給クロックβにより、端末1の制御部5と1枚目のICカード2のCPU21との間のデータ通信が行われ、ICカード2へのデータの書き込み、読出しが行われる(ST11)。
【0027】
また、上記ステップ6により端末1の制御部5は供給される応答レスポンスとして異常レスポンスを受信した際に、異常カードと判定する(ST12)。
【0028】
上記同ロットの(2枚目以降の)ICカード2に対しては、上記ステップ1、2と同じに、電源の供給、クロックの供給、活性化の後(ST13、14)、すぐに供給クロックの周波数をβに切換え、ステップ11と同様に、ICカード2へのデータの書き込み、読出しが行われる(ST15)。
【0029】
上記したように、今から製造するICカードの同一ロットに対し、先頭のICカードへ電源、クロックを供給しICカードを活性化する。活性化後にICカードヘの供給クロックを切り替える必要がある場合はここで切り換える。この時のICカードヘの供給クロックの周波数をαとする。
【0030】
次に、ICカードへ自己診断用コマンドを送信し、ICカードから正常なレスポンスを受信できたことを確認する。次に、ICカードヘの供給クロックの周波数を「α+100kHz」程度に上げ、再度自己診断用コマンドを送信する。正常にレスポンスが返ってきた場合は、同様にICカードヘの供給クロックを100kHzずつ上げていき、レスポンス受信に異常が発生した時点からマージンとして100kHz下げた周波数でICカードへのデータ書き込み、読み出しを行う。この供給クロックの周波数をβとする。同ロットの(2枚目以降の)ICカードに対しては、活性化後すぐに供給クロックの周波数をβに切り替え、製造を行うものである。
【0031】
上記したように、ICカードの製造装置において、同一ロットの先頭カードに対して、供給クロックの限界値を測定し、このクロック周波数を用いて2枚目以降を製造するものである。これにより、ICカードへのデータ書き込み、読み出しにかかる時間を短縮することができ、ICカードの製造時間を短縮することができる。
【0032】
また、製造装置のCPU動作クロックとICカードヘの供給クロックを同期させることで、ICカードヘの供給クロックの周波数の上げ幅に関係なく、ICカードとの通信を維持できる。
【0033】
なお、上記実施例では、ICカードの製造装置について説明したが、これに限らず、ICカードの発行装置であっても同様に実施できる。この場合、端末からICカードへ基本プログラムがダウンロードされる代わりに、ユーザデータとしてのアプリケーションデータがダウンロードされる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施形態を説明するためのICカード取扱システムの概略構成を示すブロック図。
【図2】ICカードの内部構成を説明するためのブロック図。
【図3】端末とICカードの通信処理を説明するためのフローチャート。
【符号の説明】
【0035】
1…端末、2…ICカード、3…制御部、21…CPU、4、22…ROM、5、23…RAM、6、25…インターフェース部、8、26…クロック出力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯可能電子媒体と、この携帯可能電子媒体とシリアルなデータ転送により接続される端末とからなる携帯可能電子媒体処理システムにおいて、
同一特性の所定枚数単位の上記携帯可能電子媒体を処理する際に、1枚目の携帯可能電子媒体に対する供給クロックの限界値の周波数を判断する判断手段と、
この判断手段により判断された限界値の周波数の供給クロックに基づいて、上記端末と1枚目及び2枚目以降の上記携帯可能電子媒体との間のデータ転送を行う処理手段と、
を具備したことを特徴とする携帯可能電子媒体処理システム。
【請求項2】
上記判断手段が、
第1の周波数の供給クロックとこの第1の周波数の供給クロックに基づく自己診断コマンドを、上記端末から携帯可能電子媒体に送信する第1の送信手段と、
この第1の送信手段により送信される自己診断コマンドを上記第1の周波数の供給クロックに基づいて受信する第1の受信手段と、
この第1の受信手段により受信した自己診断コマンドにより自己診断を実行する第1の実行手段と、
この第1の実行手段による自己診断の結果を上記端末からの第1の周波数の供給クロックに基づいて応答電文として上記携帯可能電子媒体から端末へ送信する第2の送信手段と、
この第2の送信手段により送信される応答電文の内容が正常ステータスの際に、上記第1の周波数よりも高い第2の周波数の供給クロックに基づく自己診断コマンドを、上記端末から携帯可能電子媒体に送信する第3の送信手段と、
この第3の送信手段により送信される自己診断コマンドを上記第2の周波数の供給クロックに基づいて受信する第2の受信手段と、
この第2の受信手段により受信した自己診断コマンドにより自己診断を実行する第2の実行手段と、
この第2の実行手段による自己診断の結果を上記端末からの第2の周波数の供給クロックに基づいて応答電文として上記携帯可能電子媒体から端末へ送信する第4の送信手段と、
この第4の送信手段により送信される応答電文の内容が正常ステータスの際に、上記第3の送信手段と、第2の受信手段と、第2の実行手段と、第4の送信手段とが繰り返され、上記第4の送信手段により送信される応答電文の内容が異常ステータスの際に、直前の正常ステータスに対応する供給クロックの周波数を限界値と判断する処理手段と、
を具備したことを特徴とする請求項1に記載の携帯可能電子媒体処理システム。
【請求項3】
少なくともメモリと制御素子からなる回路素子を内蔵した携帯可能電子媒体の上記メモリに対して、外部機器からの基本プログラムのダウンロードを行うことにより、携帯可能電子媒体を製造する携帯可能電子媒体の製造方法であって、
上記回路特性が一定な所定枚数単位の携帯可能電子媒体の1枚目に対する基本プログラムのダウンロードを行う際に、基準クロックから徐々にクロックの周波数を上げていき,供給クロックの周波数の限界値を測定し、この測定した限界値の周波数の供給クロックに基づいて基本プログラムのダウンロードを行い、
2枚目以降の携帯可能電子媒体に対しても上記測定した限界値の周波数の供給クロックに基づいて基本プログラムのダウンロードを行うこと、
を特徴とする携帯可能電子媒体の製造方法。
【請求項4】
少なくとも基本プログラムが記憶されているメモリとこの基本プログラムにより作動する制御素子からなる回路素子を内蔵した携帯可能電子媒体の前記メモリに対して、外部機器からのアプリケーションプログラムのダウンロードを行うことにより、携帯可能電子媒体を発行する携帯可能電子媒体の発行方法であって、
上記回路特性が一定な所定枚数単位の携帯可能電子媒体の1枚目に対するアプリケーションプログラムのダウンロードを行う際に、基準クロックから徐々にクロックの周波数を上げていき,供給クロックの周波数の限界値を測定し、この測定した限界値の周波数の供給クロックに基づいてアプリケーションプログラムのダウンロードを行い、
2枚目以降の携帯可能電子媒体に対しても上記測定した限界値の周波数の供給クロックに基づいてアプリケーションプログラムのダウンロードを行うこと、
を特徴とする携帯可能電子媒体の発行方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−252038(P2006−252038A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65870(P2005−65870)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】