説明

操舵制御装置及びその方法

【課題】互いに干渉しない独立した二つの操舵機構を有する操舵制御装置において、転舵輪の転舵応答性を高くする。
【解決手段】操舵制御装置は、転舵輪11L,11Rの目標転舵角を算出する反力モータECU50と、転舵輪11L,11Rの実転舵角を検出する操舵角センサ3と、目標転舵角と実転舵角との差分を基に、駆動電流値を算出する転舵指令電流演算部と、駆動電流値を、第1及び第2転舵モータ32,43それぞれを駆動する第1及び第2モータ駆動電流値に配分する転舵電流配分演算部と、第1モータ駆動電流値を基に第1転舵モータ32を駆動制御すると共に、第2モータ駆動電流値を基に第2転舵モータ43を駆動制御する第1及び第2転舵モータECU60,70と、目標転舵角と実転舵角との差分を基に、第1モータ駆動電流値を増加補正する応答遅れ補償電流演算部及び加算器とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操向輪を転舵する操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、操舵制御装置を開示している。
特許文献1に開示の操舵制御装置は、二つのラック・アンド・ピニオン機構(以下、ラック・ピニオンと言う。)を備えた、いわゆるデュアルピニオンタイプの電動式パワーステアリング装置である。すなわち、この装置は、ラックバーのラック歯にピニオン歯を介して噛合する第1及び第2のピニオン軸を有する。そして、この装置は、ステアリングホイールに連係される第1ピニオン軸にトルクを付与する第1電動モータを接続し、第2ピニオン軸に第2電動モータを接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−243988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、互いに噛み合うピニオン歯とラック歯との間にはいわゆる噛み合い隙間が存在するため、2つのピニオン軸それぞれからラックバーに回転トルクを伝達すると、ラックバーには噛み合い隙間が減少する方向に捩れる(回転する)力が作用する。
かかるラックバーの捩れにより、一方のラック・ピニオン機構の噛み合い位置が他方のラック・ピニオン機構にとって適正な噛み合い位置とはならなくなってしまう。この結果、他方のラック・ピニオン機構において操舵補助力の伝達ロスが生じてしまうといった問題があった。
本発明の課題は、操舵補助力の伝達ロスの発生を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は、第1操舵機構及び第2操舵機構を有する。ここで、第1操舵機構は、ラックバーと係合するピニオン軸に回転力を付与する第1電動モータを有する。第2操舵機構は、一対の圧力室に発生した差圧に基づいて、ラックバーに対し該ラックバーの軸方向に推進力を付与するパワーシリンダ、一対の圧力室の各圧力室に選択的に作動油を供給するポンプ及び該ポンプを駆動する第2電動モータを有する。
【0006】
さらに、本発明は、転舵輪の目標転舵角を算出すると共に、転舵輪の実転舵角を検出し、目標転舵角と実転舵角との差分を基に、第1及び第2電動モータによって発生する駆動トルクの合計である合計トルクを算出する。また、本発明は、合計トルクを、第1電動モータによって発生する第1モータ駆動トルクと第2電動モータによって発生する第2モータ駆動トルクとに配分する。また、本発明は、第1モータ駆動トルクに基づいて第1電動モータを駆動制御すると共に、第2モータ駆動トルクに基づいて第2電動モータを駆動制御する。
そして、本発明は、目標転舵角と実転舵角との差分に応じて、配分した第1モータ駆動トルクを増加補正する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第2操舵機構により、一方のラックの軸方向に荷重を伝達するようにしたためラックに捩れが発生することがなくなり、他方のラック・ピニオン機構において操舵補助力の伝達ロスを低減できる。
また、本発明によれば、目標転舵角と実転舵角との差分を基に、第1電動モータによって発生する第1モータ駆動トルクを増加補正することで、第1電動モータが駆動する第1操舵機構の応答性を高くすることができる。
これにより、本発明によれば、目標転舵角に対する転舵輪の転舵応答性を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態の操舵制御装置の構成を示す図である。
【図2】各ECUの処理の説明に使用した図である。
【図3】第1の実施形態における応答遅れ補償電流演算部の構成を示す。
【図4】転舵目標応答角と転舵実角との差分と、応答遅れ補償電流との関係からなる応答遅れ補償電流マップを示す図である。
【図5】第1の実施形態の作用、効果の説明に使用した図である。
【図6】第1の実施形態の作用、効果の説明に使用した他の図である。
【図7】転舵目標応答角と転舵実角との差分と、応答遅れ補償電流との関係からなる他の応答遅れ補償電流マップを示す図である。
【図8】第2の実施形態における応答遅れ補償電流演算部の構成を示す図である。
【図9】転舵実角が転舵目標応答角に追従していないときのそれら値の関係を示す図である。
【図10】転舵実角が転舵目標応答角に過剰に追従するときのそれら値の関係を示す図である。
【図11】第3の実施形態における応答遅れ補償電流演算部の構成を示す図である。
【図12】舵角指令角速度とゲインK2との関係からなる角速度ゲインマップを示す図である。
【図13】第4の実施形態における応答遅れ補償電流演算部の構成を示す図である。
【図14】転舵負荷とゲインK3との関係からなる転舵負荷ゲインマップを示す図である。
【図15】第5の実施形態における応答遅れ補償電流演算部の構成を示す図である。
【図16】車速、転舵角、及びゲインK4の関係からなる車速及び転舵角ゲインマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
(構成)
第1の実施形態は、本発明を適用した操舵制御装置である。
図1は、操舵制御装置の構成を示す。図1に示すように、本実施形態では、車両のラック・ピニオン式ステアリング装置に操舵制御装置を適用している。この操舵制御装置は、ステアリングホイール1と転舵輪11L,11Rとが機械的に切り離され、ステアリングホイール1の操舵角に基づいて転舵輪11L,11Rが転舵される、いわゆるステアバイワイヤ式のステアリング装置でもある。
この車両では、ステアリングホイール1がステアリング軸2(第1操舵軸)に連係している。この車両は、ステアリング軸2に操舵角センサ3、トルクセンサ4、反力発生モータ5及びクラッチ6を有する。
【0010】
操舵角センサ3は、ステアリング軸2の回転角を検出することにより、ステアリングホイール1の操舵角を検出する。トルクセンサ4は、ステアリング軸2に入力されるトルクを検出する。操舵角センサ3及びトルクセンサ4は、検出した操舵角及びトルクを反力モータECU50に出力する。
反力発生モータ5は、操舵反力を発生させる。後述のように、反力モータECU50が反力発生モータ5を駆動制御する。反力発生モータ5は、所定の減速機構を介してステアリング軸2に連係している。これにより、反力発生モータ5は、減速機構及びステアリング軸2を介してステアリングホイール1に操舵反力を付与する。反力発生モータ5及び減速機構は反力アクチュエータを構成する。
【0011】
クラッチ6は、フェールセーフ手段としての動力断続機構である。クラッチ6は、ステアリング軸2(第1操舵軸)とピニオン軸13(第2操舵軸)とを機械的に断続可能にする。クラッチ6は、第1操舵機構30又は第2操舵機構40の少なくとも一方が正常動作しなくなった場合に、ステアリング軸2とピニオン軸13とを機械的に連結する。なお、クラッチ6は、第1操舵機構30又は第2操舵機構40の両方が正常に作動している通常時には解放して(ステアリング軸2とピニオン軸13との機械的接続を切断して)いる。以下では、クラッチ6は解放されているものとして説明する。
【0012】
また、この車両では、転舵輪11L,11Rがラックバー(転舵ラック)12に連係している。ラックバー12は、軸方向の所定範囲にラック歯(ラックギヤ)12aを有する。ラック歯12aには、ピニオン軸13のピニオン歯(ピニオンギヤ)13aが噛合している。これにより、ピニオン軸13は、ピニオン歯13aを介してラックバー12に連係し、該ピニオン軸13の回転に伴ってラックバー12を軸方向に移動させて、転舵輪11L,11Rを転舵駆動する。
【0013】
このピニオン軸13は、転舵角センサ14を有する。転舵角センサ14は、転舵輪11L,11Rの転舵実角(実際の転舵角であり、実転舵角ともいう)を検出する。具体的には、転舵角センサ14は、ピニオン軸13の回転角を検出する。転舵角センサ14は、検出した回転角を後述の第1転舵モータECU60に出力する。
つまり、ピニオン軸13の回転角と転舵輪11L,11Rの転舵実角との関係は、ラックバー12のラック歯12aとピニオン歯13aとのギヤ比によって一意に決まる。このことから、ピニオン軸13の回転角は転舵実角であり、転舵角センサ14は、ピニオン軸13の回転角を検出して、検出した回転角、すなわち転舵実角を第1転舵モータECU60に出力している。
【0014】
なお、転舵角センサ14は、ピニオン軸13自体の回転角を検出するものに限られない。前述のように、ピニオン軸13の回転角と転舵輪11L,11Rの転舵実角との関係は、ラックバー12のラック歯12aとピニオン歯13aとのギヤ比によって一意に決まる。このことから、ピニオン軸13自体の回転角に応じて一意に決まる値を検出できれば良く、例えば、転舵角センサ14をラックバー12の移動量を検出するセンサとし、そのセンサが、ラックバー12の移動量を基に、転舵輪11L,11Rの転舵実角を検出することもできる。
【0015】
また、この車両は、路面反力センサ21R,21L、及び車速センサ22を有する。この車両では、路面反力センサ21R,21Lを左右前輪11L,11Rのハブ部に設けている。路面反力センサ21R,21Lは、路面から転舵輪11L,11Rに入力する横力を検出することにより、路面からの反力を検出する。路面反力センサ21R,21Lは、検出した反力を反力モータECU50に出力する。
車速センサ22は、例えば左右前輪11L,11Rの回転数から車速を検出する。車速センサ22は、検出した車速を反力モータECU50に出力する。
【0016】
第1操舵機構30は、ピニオン軸13に対して回転力を付与し、左右前輪11L,11Rを転舵駆動する。
第1操舵機構30は、図1に示すように、減速器31、第1転舵モータ32、及びモータ回転角センサ33を有する。減速器31は、ピニオン軸13の外周に設けられたウォームホイール35と、第1転舵モータ32の駆動軸と同軸上に設けられたウォームホイール35とギヤ結合したウォームシャフト36とを有する。これにより、第1転舵モータ32は、減速器31を介してピニオン軸13に連係している。
【0017】
この車両は、第1転舵モータ32の内部に、第1転舵モータ32の回転角を検出する、例えばレゾルバ等のモータ回転角センサ33を有する。モータ回転角センサ33は、検出した第1転舵モータ32の回転角を第1転舵モータECU60に出力する。前述のように減速器31を介してピニオン軸13に第1転舵モータ32が連係しているため、第1転舵モータ32の回転角とピニオン軸13の回転角との関係は、減速器31の減速比によって一意に決まる。このため、例えば、第1転舵モータECU60が、第1転舵モータ32の回転角を基に、転舵輪11L,11Rの転舵実角を算出することもできる。
【0018】
このような構成の第1操舵機構30は、第1転舵モータ32が後述する第1転舵モータECU60によって制御されて回転駆動することにより、ピニオン軸13を回転駆動して、左右前輪11L,11Rを転舵駆動する。
なお、減速器31は、以上のような構成とされることで、限られたスペースの中で十分な減速比が得られるようになっている。また、ウォームホイール35の歯部を樹脂製とすることで、ウォームシャフト36との噛み合いによって生じうるギヤノイズを抑制することもできる。
【0019】
また、この車両では、ラックバー12は、第2操舵機構40に連係している。第2操舵機構40は、操舵角センサ3の検出値を基に、ラックバー12を軸方向に駆動させることによって左右前輪11L,11Rを転舵駆動する。
具体的には、第2操舵機構40は、図1に示すように、パワーシリンダ41、オイルポンプ42、及び第2転舵モータ43を有する。
パワーシリンダ41は、ラックバー12の外周側に該ラックバー12を囲繞するように設けられた円筒状のシリンダチューブ41aと、ラックバー12の外周に嵌着されたピストン41bとを有する。パワーシリンダ41は、ピストン41bによってシリンダチューブ41a内の空間を二室に隔成して、一対の圧力室P1,P2を形成している。
【0020】
パワーシリンダ41は、一対の圧力室P1,P2に発生した差圧に基づきラックバー12に推進力を付与する。また、オイルポンプ42は、各配管44a,44bを介して各圧力室P1,P2に接続される一対の吐出口45a,45bを有する。これにより、オイルポンプ42は、後述する第2転舵モータECU70によって回転方向及び回転数が制御される第2転舵モータ43の駆動によって、正逆回転して各圧力室P1,P2に選択的に作動油を供給する。オイルポンプ42は例えば周知の可逆式ポンプ(正逆回転することにより、吐出方向を選択的に可変なポンプ)である。
オイルポンプ42による圧力室P1,P2への選択的な作動油の供給により、パワーシリンダ41の各圧力室P1,P2間に差圧が発生する。この差圧により、ラックバー12に推進力が発生する。この結果、ラックバー12が、軸方向に移動して、左右前輪11L,11Rを転舵駆動する。
【0021】
また、第2操舵機構40は、各配管44a,44bの間に、各圧力室P1,P2同士を直接的に連通させる連通路44cを有する。さらに、第2操舵機構40は、連通路44cの途中に、いわゆるフェールセーフバルブ46を有する。フェールセーフバルブ25は、例えば、第2転舵モータECU70や第2転舵モータ43が正常動作しない場合等の緊急時に開弁して、両圧力室P1,P2を連通させる。これにより、第2操舵機構40が正常動作しなくクラッチ6が接続された際には、運転者は、ステアリングホイール1を操舵して、左右前輪11L,11Rを転舵することができる。
【0022】
操舵制御装置は、操舵制御装置のシステム全体を制御するものとして、反力モータECU(反力制御部)50、第1転舵モータECU(第1転舵制御部)60、及び第2転舵モータECU(第2転舵制御部)70を有する。反力モータECU50、第1転舵モータECU60、及び第1転舵モータECU70は、相互に通信可能となっており、各ECU50、60、70に入力するデータを、相互に送信及び受信することで共有している。
反力モータECU50は、操舵角センサ3、反力センサ21L,21R、車速センサ22の検出値等を基に、反力発生モータ5を駆動制御する。
【0023】
具体的には、反力モータECU50は、転舵輪11L,11Rが路面から受けるいわゆる路面反力に基づいた操舵反力をステアリングホイール1に付与する。ここで、操舵反力とは、ステアリングホイール1と転舵輪11L,11Rとが機械的に接続された一般的な(ステアバイワイヤ式ではない)ステアリング装置において、転舵輪11L,11Rが路面から受ける路面反力に起因してステアリングホイール1に発生する反力である。
【0024】
具体的には、反力モータECU50は、反力センサ21L,21Rが検出した路面反力や操舵角センサ3が検出した操舵角、車速センサ22が検出した車速等を基に、操舵反力を算出する。そして、反力モータECU50は、算出した操舵反力が発生するように反力発生モータ5を駆動制御する。
このように、ステアリングホイール1に操舵反力を付与することで、運転者は、一般的なステアリング装置と同様の操舵フィーリングを得ることができる。
また、第1転舵モータECU60は、転舵角センサ14が検出した転舵実角と後述する転舵指令を基に、第1転舵モータ32を駆動制御する。さらに、第2転舵モータECU70は、他のECU50,60からの情報等を基に、第2転舵モータ43を駆動制御する。
【0025】
図2を用いて、各ECU50,60,70の処理を具体的に説明する。ここでは、通常時のECU50,60,70の処理を説明する。ここでいう通常時とは、第1及び第2転舵モータECU60,70が共に正常に機能している状態にあり、クラッチ6が連結されていない状態のときである。
反力モータECU50は、操舵角センサ3が検出した操舵角を基に、転舵輪11L,11Rの目標転舵角である転舵指令角を算出する。具体的には、反力モータECU50は、予め記憶した操舵角に対する転舵指令角のマップを参照して、操舵角に対応する転舵指令角を算出する。
【0026】
なお、操舵角に対する転舵指令角の算出方法は、これに限らず、例えば操舵角に対して予め定められた比を乗算して転舵指令角を算出することとすることもできる。また、その算出方法は、車速に応じて操舵角に対する転舵指令角を変更することとすることもできる。
反力モータECU50は、算出した転舵指令角を第1転舵モータECU60に出力する。
図2に示すように、第1転舵モータECU60は、転舵指令電流演算部61、転舵電流配分演算部62、応答遅れ補償電流演算部80、及び加算器63を有する。
第1転舵モータECU60では、反力モータECU50が算出した転舵指令角及び転舵角センサ14が検出した転舵実角を転舵指令電流演算部61及び応答遅れ補償電流演算部80に入力する。
【0027】
転舵指令電流演算部61は、転舵指令角及び転舵実角を基に、車輪11L,11Rの転舵角を転舵指令角と一致させる転舵指令電流を算出する。例えば、転舵指令電流演算部61は、転舵指令角と転舵実角との偏差が零になるような転舵指令電流を算出する。転舵指令電流演算部61は、算出した転舵指令電流を転舵電流配分演算部62に出力する。転舵指令電流は、第1転舵モータ32及び第2転舵モータ43を駆動する駆動電流値相当である。
【0028】
なおここで、転舵指令電流演算部61は、転舵指令角と転舵実角との偏差に応じた転舵トルク(第1転舵モータ32及び第2転舵モータ43の合計駆動トルク)が発生するように、転舵指令電流を算出している。すなわち、転舵指令電流演算部61は、転舵指令角と転舵実角との偏差に予め定められた所定のゲインαを乗算することによって転舵トルクを算出し、算出した転舵トルクに予め定められた所定のゲインβを乗算することによって転舵指令電流を算出している。
【0029】
すなわち、一般的に、モータに供給する電流値とモータの駆動トルク(発生トルク)とには相関関係がある。そのため、転舵トルクに対して予め定められた所定のゲインβを乗算して転舵指令電流を算出することができる。このように、転舵トルクと転舵指令電流とには相関関係があるため、転舵指令電流演算部61は、転舵トルクを算出する転舵トルク算出部(トルク算出手段)であるとも言える。
【0030】
なお、本実施形態では、転舵指令電流演算部61が転舵指令角と転舵実角との偏差に予め定められた所定のゲインα及び所定のゲインβを乗算することによって、転舵指令角と転舵実角との偏差から直接転舵指令電流を算出している。しかし、これに限らず、転舵指令角と転舵実角との偏差に予め定められた所定のゲインαを乗算することによって転舵トルクを算出する転舵トルク算出部を設けて、転舵指令電流演算部61が、その転舵トルク算出部が算出した転舵トルクに、予め定められた所定のゲインβを乗算して転舵指令電流を算出することもできる。
【0031】
転舵電流配分演算部62は、予め設定されている電流配分比率に従い、転舵指令電流を、第1転舵モータ32を駆動するための転舵指令電流と第2転舵モータ43を駆動するための転舵指令電流とに配分する演算を行う。例えば、第1モータ転舵指令電流と第2モータ転舵指令電流との比率が5:5となるように電流配分比率を予め設定している。なお、前述の通り、モータに供給する電流とモータの駆動トルクとには相関関係がある。そのため、転舵電流配分演算部62は、転舵トルクを配分するトルク配分手段であるとも言える。
【0032】
以下の説明では、第1転舵モータ32を駆動するための転舵指令電流を第1モータ転舵指令電流と称し、第2転舵モータ43を駆動するための転舵指令電流を第2モータ転舵指令電流と称する。
転舵電流配分演算部62は、算出した第1モータ転舵指令電流を加算器63に出力する。また、転舵電流配分演算部62は、算出した第2モータ転舵指令電流を第2転舵モータECU70に出力する。
【0033】
図3は、応答遅れ補償電流演算部80の構成を示す。図3に示すように、応答遅れ補償電流演算部80は、転舵目標応答角演算部81、減算器82、及び応答遅れ補償電流マップ83を有する。
応答遅れ補償電流演算部80では、第1転舵モータECU60が算出した転舵指令角を転舵目標応答角演算部81に入力し、 転舵角センサ14が検出した転舵実角を減算器82に入力する。
【0034】
転舵目標応答角演算部81は、ローパスフィルターである。転舵目標応答角演算部81は、入力された転舵指令角にローパスフィルターの処理を施して転舵目標応答角として出力する。よって、転舵目標応答角は、転舵指令角に対して所望の応答特性を持った値となる。転舵目標応答角演算部81は、転舵目標応答角を減算器82に出力する。
なお、転舵指令角に対する転舵目標応答角の応答特性は、運転者の感覚や所望の車両挙動に応じて予め設計された所望の応答特性であり、適宜変更可能な応答特性である。
減算器82は、転舵目標応答角から転舵実角を減算して、転舵目標応答角と転舵実角との差分を出力する。減算器82は、その差分を応答遅れ補償電流マップ83に出力する。
応答遅れ補償電流マップ83は、転舵目標応答角と転舵実角との差分と、応答遅れ補償電流との関係を示すマップである。
【0035】
図4は、そのマップの例を示す。図4に示すように、マップでは、転舵目標応答角と転舵実角(実際の転舵角)との差分が増加すると、応答遅れ補償電流も増加する。そして、転舵目標応答角と転舵実角との差分がある大きさになると、応答遅れ補償電流は一定値に収束する。すなわち、転舵指令角に対して所望の応答特性を持つ転舵目標応答角と実際の転舵角である転舵実角との差分が大きいほど応答遅れ補償電流が大きくなる。
【0036】
なお、本実施形態では、転舵指令角に対して所望の応答特性を持つ転舵目標応答角と、転舵実角と、に応じて応答遅れ補償電流を算出している。しかし、これは、転舵指令角と転舵実角との差分を所望の応答特性とすることに等しいため、応答遅れ補償電流は、転舵指令角と転舵実角との差分に基づいて算出される値であると言える。
このようなマップを基に、転舵目標応答角と転舵実角との差分に対応する応答遅れ補償電流を得る。
第1転舵モータECU60は、マップを基に得た応答遅れ補償電流を加算器63に出力する。
加算器63は、転舵電流配分演算部62が出力した第1モータ転舵指令電流に応答遅れ補償電流を加算する。
【0037】
第1転舵モータECU60は、加算器63において応答遅れ補償電流を加算した第1モータ転舵指令電流を基に、第1転舵モータ32を駆動制御する。
なお、前述のようにモータへの供給電流(第1モータ転舵指令電流)とモータの駆動トルクとには相関関係があるため、第1モータ転舵指令電流に応答遅れ補償電流を加算することは、第1転舵モータ32の駆動トルクを増大させることに等しい。このため、前述の応答遅れ補償電流演算部80は、第1モータ転舵指令電流を補正することにより第1転舵モータ32の駆動トルクを補正する駆動トルク補正手段であると言える。
【0038】
一方、第2転舵モータECU70は、第1転舵モータECU60(転舵電流配分演算部62)から入力される第2モータ転舵指令電流を基に、第2転舵モータ43を駆動制御する。
この第1及び第2転舵モータ32,43の駆動制御により、ラックバー12が駆動されて、車輪11L,11Rが転舵する。
通常時には、以上のような処理を各ECU50,60,70が行っている。
一方、第1転舵モータECU60は、第2操舵機構40が正常動作していなくクラッチ6が連結された状態では、トルクセンサ4が検出した運転者の操舵トルクに応じて第1転舵モータ32を駆動制御する。これにより、第1転舵モータ32の回転力で、ラックバー12が駆動してステアリングホイール1から入力された操舵力を補助する。また、このとき、第2操舵機構40の駆動源となる第2転舵モータ43を停止させる。
【0039】
また、第2転舵モータECU70は、第1操舵機構30が正常動作していなくクラッチ6が連結された場合では、トルクセンサ4が検出した運転者の操舵トルクに応じて第2転舵モータ43を駆動制御する。これにより、各圧力室P1,P2間の差圧に基づく操舵補助力で、ラックバー12を駆動してステアリングホイール1から入力された操舵力を補助する。また、このとき、第1操舵機構30の駆動源となる第1転舵モータ32を停止させる。
また、第2転舵モータECU70は、第2転舵モータ43が正常動作していない場合等の緊急時にフェールセーフバルブ25を開弁して、両圧力室P1,P2を連通させるよう制御する。
【0040】
(動作及び作用)
(通常時の動作及び作用)
通常時には、操舵制御装置は、操舵角センサ3の検出値等を基に、転舵指令角を算出する。ここで、通常時にはクラッチ6が連結されていないことから、ステアリング軸2の回転力はピニオン軸13に直接伝達されることはなく、操舵角センサ3がそのステアリング軸2の回転角を検出する。
そして、操舵制御装置は、算出した転舵指令角及び転舵角センサ14が検出した転舵実角を基に、車輪11L,11Rの転舵角を転舵指令角に一致させる転舵指令電流を算出する。
続いて、操舵制御装置は、算出した転舵指令電流を基に、予め設定されている電流配分比率に従い、第1及び第2転舵モータ32,43をそれぞれ駆動する第1及び第2モータ転舵指令電流を算出する。
【0041】
一方、操舵制御装置は、転舵指令角にローパスフィルターの処理を施して転舵目標応答角を得る。また、操舵制御装置は、転舵目標応答角と転舵実角との差分に対応する応答遅れ補償電流を得る。そして、操舵制御装置は、第1モータ転舵指令電流に応答遅れ補償電流を加算する。
これにより、操舵制御装置は、加算器63において応答遅れ補償電流を加算した第1モータ転舵指令電流を基に、第1転舵モータ32を駆動制御する。その一方で、操舵制御装置は、第2モータ転舵指令電流を基に、第2転舵モータ43を駆動制御する。
この第1及び第2転舵モータ32,43の駆動制御により、第1及び第2操舵機構30,40を介してラックバー12が駆動されて、車輪11L,11Rが転舵する。
【0042】
なお、ステアリングホイール1の操舵角と転舵指令角との関係は常に一定でなくとも良い。例えば、操舵制御装置は、高速走行時のように大きな転舵角を必要としない、換言すれば、大きな転舵が操舵フィーリングの悪化に繋がる等の場合、ステアリングホイール1の操舵角に対し転舵指令角が小さくなるように制御することもできる。また、反対に、操舵制御装置は、特に駐車を行う場合など、低速走行時であって大きな転舵角を必要とする場合には、ステアリングホイール1の操舵角に対して転舵指令角が大きくなるように制御することもできる。
【0043】
図5は、転舵指令電流に加算する応答遅れ補償電流をOFF(零)としたときの転舵指令角、転舵目標応答角、及び転舵実角の関係を示す。図5に示すように、転舵初期(切り始めやと切り返し時)においての転舵実角が転舵目標応答角に対して応答が遅れる転舵応答遅れが目立つ。
これに対して、本実施形態では、転舵電流配分演算部62から出力される第1モータ転舵指令電流に応答遅れ補償電流を加算することで、転舵目標応答角に追従するように転舵実角の応答性を向上させることができる。
【0044】
すなわち、第1モータ転舵指令電流に応答遅れ補償電流を加算することで、第1転舵モータ32が、応答遅れ補償電流を加算していない本来の第1モータ転舵指令電流に対して高応答で駆動するようになる。
この結果、第1操舵機構30、さらにはラックバー12も高応答で駆動されて、車輪11L,11Rが転舵する。これにより、応答遅れ補償電流を加算していない場合よりも高い応答で転舵するため、結果として、転舵実角が、転舵指令角である転舵目標応答角に対して高応答で追従するようになる。
【0045】
図6は、転舵指令電流(配分前、図6(a))、第1及び第2モータ転舵指令電流(図6(b)及び(c))、転舵指令角(図6(d))、及び転舵実角(図6(d))の関係を示す。
この図6に示すように、操舵制御装置では、予め設定されている電流配分比率に従い、転舵指令電流を第1及び第2モータ転舵指令電流に配分している(図6(a)〜(c))。そして、操舵制御装置では、第1モータ転舵指令電流に応答遅れ補償電流を加算している(図6(b))。この結果、図6(d)に示すように、応答遅れ補償電流を加算している場合の転舵実角(応答遅れ補償ありの転舵実角)は、応答遅れ補償電流を加算していない転舵実角(応答遅れ補償なしの転舵実角)と比べて、転舵指令角に対して高応答で追従するようになる。
【0046】
ここで、この実施形態では、第1モータ転舵指令電流に応答遅れ補償電流を加算している。これに対して、第2モータ転舵指令電流に応答遅れ補償電流を加算することも考えられる。
しかし、第2モータ転舵指令電流は、第2転舵モータ43を駆動制御するものである。そして、第2転舵モータ43は、第2操舵機構40を構成するパワーシリンダ41の各圧力室P1,P2間に差圧を発生するモータである。すなわち、第2転舵モータ43は、油圧制御するモータとなる。
【0047】
そのため、第2転舵モータ43が高応答で駆動するようになっても、油圧制御することで、歯車要素(又は固体部材同士の連結)で動作する第1操舵機構30と比較して安定性が低いため、転舵実角の高応答を安定して得られない恐れがある。また、油圧制御では、安定性の向上や高応答化には限界がある。
これに対して、本実施形態のように、第1転舵モータ32が駆動源となる第1操舵機構30では、歯車要素で動作するために安定した応答となるため、転舵実角の高応答を安定して得ることができる。この結果、第1及び第2転舵モータ32,43による駆動系全体でも、ラックバー12を安定かつ高応答で駆動でき、転舵実角を安定かつ高応答で変化させることができる。
【0048】
また、操舵制御装置では、ステアバイワイヤ方式を採用することでステアリングホイール1と転舵輪11L,11Rとの機械的なリンクを廃して両者を分離した構造となっている。そのため、操舵制御装置は、運転者による操舵にとらわれず、自由な転舵制御を行うことができる。言い換えれば、ステアリングホイール1からの操舵入力(操舵角)に対してピニオン軸13の操舵出力(転舵角)が可変となるように構成することで、操舵制御装置は、車両の走行環境に応じた適切な操舵制御を実現できる。例えば、操舵制御装置は、車速情報などを制御の要素として取り込むことにより、高速走行を行う場合や駐車を行う場合など、車両の走行環境に応じた適切な操舵制御を実現できる。
【0049】
(正常動作しないときの動作及び作用)
操舵制御装置は、第1及び第2操舵機構30,40のうち少なくとも一方が正常動作しない場合には、クラッチ6を連結して、ステアリングホイール1から入力された操舵力をピニオン軸6に直接伝達することを可能にする。このとき、さらに、操舵制御装置は、正常に作動している方の操舵機構をいわゆる操舵補助として機能させる。
これにより、操舵制御装置は、正常動作していない時にクラッチ6を介して第1及び第2操舵軸2,7を連結し、ステアリングホイール1によって運転者が直接転舵することを可能にすることで、正常動作していない時の操舵の自由度を高めることができる。
【0050】
しかも、操舵制御装置は、第1及び第2操舵機構30,40の双方が正常動作しなくなってはじめてクラッチ6を連結させるのではなく、該両操舵機構30,40のうちの一方が正常動作しなくなった段階でクラッチ6を連結させている。
これにより、操舵制御装置は、両操舵機構30,40が別々に正常動作しなくなった場合において、リスクを抑えることができる。
また、操舵制御装置は、正常動作しなくなったと判断した操舵機構においては、その操舵機構の駆動源となる転舵モータを停止させている。すなわち、操舵制御装置は、第1操舵機構30が正常動作しない場合には、第1転舵モータ32を停止させている。また、操舵制御装置は、第2操舵機構40が正常動作しない場合には、第2転舵モータ43を停止させている。
【0051】
これにより、操舵制御装置は、正常動作しない操舵機構における転舵モータの不必要な作動の防止を図れると共に、余計な電力消費を抑制できる。
また、操舵制御装置は、第2操舵機構40について、パワーシリンダ41の両圧力室P1,P2の差圧によりラックバー12に推進力を付与することによって操舵力を補助する構成としている。
このように第2操舵機構40を流体圧により操舵力を補助する構成としたことで、操舵制御装置は、第2操舵機構40が操舵力を補助する際にラックバー12の捩れを招来することがない。
このため、操舵制御装置では、ピニオン軸13とラックバー12との噛み合いに支障を来す恐れがない。これにより、操舵制御装置は、ピニオン軸13とラックバー12との間における操舵力の伝達ロスの発生を防止できる。
【0052】
また、操舵制御装置では、ラックバー12の捩れを回避することで、ピニオン軸13とラックバー12との噛み合いについて余計な負荷を与える恐れもない。これにより、操舵制御装置は、かかるラック・ピニオン機構の耐久性の低下を抑制できる。
また、第2操舵機構40では、フェールセーフバルブ46によりパワーシリンダ41の両圧力室P1,P2の連通及び遮断を行うことが可能となっている。
そのため、第2操舵機構40が正常動作しない場合には、フェールセーフバルブ46によって両圧力室P1,P2を連通させることで、作動油の大半を、オイルポンプ42を通過させずに両圧力室P1,P2間を行き来させることができる。これにより、オイルポンプ42の慣性の影響を回避することが可能になり、この結果、作動油の流動抵抗が低減されて、両圧力室P1,P2間の作動油の行き来をより円滑に行うことができる。
【0053】
なお、この実施形態では、反力モータECU50は目標転舵角算出手段に対応する。転舵角センサ14は実転舵角検出手段に対応する。転舵指令電流演算部61はトルク算出手段又は駆動電流値算出手段に対応する。転舵電流配分演算部62はトルク配分手段又は駆動電流値配分手段に対応する。加算器63及び応答遅れ補償電流演算部80は駆動トルク補正手段又は駆動電流値補正手段に対応する。第1及び第2転舵モータECU60,70はモータ制御手段に対応する。
また、この実施形態では、転舵指令角は目標転舵角に対応する。転舵実角は実転舵角に対応する。配分前の転舵指令電流は駆動電流値に対応する。第1及び第2モータ転舵指令電流はそれぞれ第1及び第2モータ駆動電流値に対応する。
【0054】
(第1の実施形態の効果)
(1)操舵制御装置は、第1操舵機構及び第2操舵機構を有する。第1操舵機構は、ラックバーと係合するピニオン軸に回転力を付与する第1電動モータを有する。また、第2操舵機構は、一対の圧力室に発生した差圧に基づいて、ラックバーに対し該ラックバーの軸方向に推進力を付与するパワーシリンダ、一対の圧力室の各圧力室に選択的に作動油を供給するポンプ及び該ポンプを駆動する第2電動モータを有する。
【0055】
さらに、目標転舵角算出手段は、転舵輪の目標転舵角を算出すると共に、実転舵角検出手段が転舵輪の実転舵角を検出する。また、トルク算出手段が、目標転舵角と実転舵角との差分を基に、第1及び第2電動モータによって発生する駆動トルクの合計である合計トルクを算出する。また、トルク配分手段は、合計トルクを、第1電動モータによって発生する第1モータ駆動トルクと第2電動モータによって発生する第2モータ駆動トルクとに配分する。また、モータ制御手段は、第1モータ駆動トルクに基づいて第1電動モータを駆動制御すると共に、第2モータ駆動トルクに基づいて第2電動モータを駆動制御する。
これにより、操舵制御装置は、第2操舵機構により、一方のラックの軸方向に荷重を伝達するようにしたためラックに捩れが発生することがなくなり、他方のラック・ピニオン機構において操舵補助力の伝達ロスを低減できる。
【0056】
(2)駆動トルク補正手段は、目標転舵角と実転舵角との差分に応じて、配分した第1モータ駆動トルクを増加補正する。
これにより、操舵制御装置は、第1電動モータが駆動する第1操舵機構の応答性を高くすることができる。
この結果、操舵制御装置は、目標転舵角に対する転舵輪の転舵応答性を高くすることができる。
(3)第1操舵機構は、ラックバーにラック歯が噛合するピニオン軸に第1電動モータの回転力を付与する。
操舵制御装置では、このような第1操舵機構のギヤ結合により第1電動モータの回転力をラックバーの横方向の推進力に効率良く変換できるため、転舵輪の転舵高応答性を効率良く実現できる。
【0057】
(4)トルク算出手段は、目標転舵角と実転舵角検出手段が検出した実転舵角との差分を基に、第1及び第2電動モータによって発生する合計トルクに応じた駆動電流値を算出する駆動電流値算出手段である。
また、トルク配分手段は、駆動電流値算出手段が算出した駆動電流値を、第1電動モータを駆動する第1モータ駆動電流値と第2電動モータを駆動する第2モータ駆動電流値とに配分することにより、第1電動モータによって発生する第1モータ駆動トルクと第2電動モータによって発生する第2モータ駆動トルクとに配分する駆動電流値配分手段である。
【0058】
そして、駆動トルク補正手段は、目標転舵角算出手段が算出した目標転舵角と実転舵角検出手段が検出した実転舵角との差分に応じて、駆動電流値配分手段が配分した第1モータ駆動電流値を増加補正することによって、第1モータ駆動トルクを増加補正する駆動電流値補正手段である。
これにより、操舵制御装置は、第1電動モータを駆動する第1モータ駆動電流値を補正することで、第1モータ駆動トルクを補正することができる。
【0059】
(5)駆動電流値補正手段は、目標転舵角算出手段が算出した目標転舵角に対して所定の応答特性を有する転舵目標応答角を算出する。また、駆動電流値補正手段は、算出した転舵目標応答角と実転舵角検出手段が検出した実転舵角との差分に応じて、第1電動モータの応答を補償する応答遅れ補償駆動電流値を算出する。そして、駆動電流値補正手段は、算出した応答遅れ補償駆動電流値を第1モータ駆動電流値に加算することで第1モータ駆動電流値の増加補正をする。
操舵制御装置は、このように応答遅れ補償駆動電流値を第1モータ駆動電流値に加算して第1モータ駆動電流値を増加補正できる。
【0060】
(6)目標転舵角算出手段は、自車両状態を基に、転舵輪の目標転舵角を算出する。
これにより、操舵制御装置は、自車両状態を基に転舵制御する転舵輪の転舵応答性を高くすることができる。
(7)目標転舵角算出手段は、ステアリングホイールの操舵角を基に、転舵輪の目標転舵角を算出する。
これにより、操舵制御装置は、ステアリングホイールの操舵角を基に転舵制御する転舵輪の転舵応答性を高くすることができる。
【0061】
(第1の実施形態の変形例)
(1)図7に示すような応答遅れ補償電流マップ83を用いることもできる。図7に示すように、このマップでは、転舵目標応答角と転舵実角との差分が増加すると、応答遅れ補償電流も増加する。そして、このマップでは、転舵目標応答角と転舵実角との差分が零から所定値(予め設定したしきい値)の間にある場合、応答遅れ補償電流を零とする不感帯を設ける。これにより、転舵目標応答角と転舵実角との差分が所定値以上となったときに、応答遅れ補償電流が第1モータ転舵指令電流に加算されることになる。
【0062】
すなわち、駆動電流値補正手段は、転舵目標応答角と実転舵角検出手段が検出した実転舵角との差分が予め設定したしきい値以上である場合、応答遅れ補償駆動電流値を第1モータ駆動電流値に加算する。
これにより、操舵制御装置では、第1モータ駆動電流値の増加補正処理に不感帯を設けることができる。
この結果、操舵制御装置は、自車両の直進走行時等において、外乱等により不用意に変動する実転舵角に対応して第1モータ駆動電流値を増加補正してしまうのを防止できる。
これにより、操舵制御装置は、不用意に転舵応答が高くなるのを防止でき、転舵輪が振動してしまうようなことも防止できる。
【0063】
(2)操舵角センサ3やトルクセンサ4、反力センサ21L,21Rの検出値以外の他の車両状態を示す情報を基に、転舵指令角を算出することもできる。例えば、自車速を検出する車速センサ22の検出値や自車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ23(図1参照)の検出値を基に、転舵指令角を算出することもできる。例えば、ヨーレイトセンサ23が検出したヨーレイトを基に、転舵指令角を算出して転舵輪11L,11Rを転舵制御して、自車両の旋回応答性が所望の応答性になるようにする。このとき、必要に応じて、他の検出値、例えば、自車速や横加速度等を参照して、転舵指令角を算出することもできる。
【0064】
例えば、ヨーレイトセンサ23が検出したヨーレイトを基に、緊急操舵時の車両安定性と車両応答性とを比較考量し、転舵輪11L,11Rの転舵制御の応答が所望の応答になるような転舵指令角を算出する。
すなわち、操舵制御装置は、目標転舵角算出手段は、自車両のヨーレイトを基に、転舵輪の目標転舵角を算出する。
これにより、自車両のヨーレイトを基に転舵制御する転舵輪の転舵応答性を高くすることができる。
【0065】
(3)第1操舵機構30が正常に作動している場合に、第2操舵機構40を作動させないようにすることもできる。例えば、高速走行時等の操舵力補助を必要としない場合には、第2操舵機構40を停止する。また、反対に、低速走行時等の操舵力補助が必要とされる場合には、加えて第2操舵機構40を作動させて、操舵力補助機能を十分に発揮させる。
【0066】
(第2の実施形態)
(構成)
第2の実施形態も、本発明を適用した操舵制御装置である。
第2の実施形態の操舵制御装置の構成は、基本的には、前記第1の実施形態の操舵制御装置の構成と同じである。以下の説明では、第2の実施形態の操舵制御装置において、前記第1の実施形態の操舵制御装置の構成と同一符号を付してある構成については、特に言及しない限りは同一である。
図8は、第2の実施形態における応答遅れ補償電流演算部80の構成を示す。図8に示すように、第2の実施形態における応答遅れ補償電流演算部80は、さらに、転舵目標応答角速度演算部91、転舵実角速度演算部92、オーバーシュート判定部93、及び乗算器94を有する。
【0067】
転舵目標応答角速度演算部91には、転舵目標応答角演算部81が算出した転舵目標応答角が入力されており、転舵目標応答角速度演算部91は、この転舵目標応答角を基に、その角速度である転舵目標応答角速度を算出する。例えば、転舵目標応答角速度演算部91は、転舵目標応答角の現在値と前回値との差分をサンプリング時間で割り転舵目標応答角速度を算出する。転舵目標応答角速度演算部91は、算出した転舵目標応答角速度をオーバーシュート判定部93に出力する。
【0068】
転舵実角速度演算部92には、転舵実角が入力されており、転舵実角速度演算部92は、この転舵実角を基に、その角速度である転舵実角速度を算出する。例えば、転舵実角速度演算部92は、転舵実角の現在値と前回値との差分をサンプリング時間で割り転舵実角速度を算出する。転舵実角速度演算部92は、算出した転舵実角速度をオーバーシュート判定部93に出力する。
【0069】
オーバーシュート判定部93は、転舵目標応答角速度及び転舵実角速度を基に、オーバーシュート判定をする。具体的には、オーバーシュート判定部93は、転舵実角速度の絶対値が転舵目標応答角速度の絶対値以上の場合(|転舵実角速度|≧|転舵目標応答角速度|)、オーバーシュートしていると判定する。オーバーシュート判定部93は、オーバーシュートしていると判定した場合、ゲインK1を1.0未満に設定する(K1<1.0)。また、オーバーシュート判定部93は、その他の場合(|転舵実角速度|<|転舵目標応答角速度|)、オーバーシュートしていないと判定する。オーバーシュート判定部93は、オーバーシュートしていないと判定した場合、ゲインK1を1.0に設定する(K1=1.0)。
【0070】
オーバーシュート判定部93は、設定したゲインK1を乗算器94に出力する。
乗算器94には、応答遅れ補償電流マップ83から得た応答遅れ補償電流が入力されており、乗算器94は、この応答遅れ補償電流にゲインK1を乗算する(応答遅れ補償電流×K1)。これにより、応答遅れ補償電流演算部80は、オーバーシュートしていると判定されている場合(|転舵実角速度|≧|転舵目標応答角速度|)、ゲインK1により応答遅れ補償電流を小さく補正する。また、オーバーシュートしていないと判定されている場合(|転舵実角速度|<|転舵目標応答角速度|)、応答遅れ補償電流マップ83から得た応答遅れ補償電流を補正することなく維持する。
そして、第1転舵モータECU60は、このようにして得た応答遅れ補償電流を、前記第1の実施形態と同様に、転舵電流配分演算部62が出力した第1モータ転舵指令電流に加算する。
【0071】
(動作及び作用)
以上のように、特に、第2の実施形態では、操舵制御装置は、転舵目標応答角速度及び転舵実角速度を基に、オーバーシュート判定をし、その判定結果を基に、第1モータ転舵指令電流に加算する応答遅れ補償電流を補正している。
図9は、転舵実角が転舵目標応答角に追従していないときのそれら値の関係を示す。これに対して、図10は、転舵実角が転舵目標応答角に追従し過ぎ、すなわち転舵実角が転舵目標応答角を追い抜こうとするオーバーシュート気味のときのそれら値の関係を示す。
このようにオーバーシュート気味にあるときには、本実施形態では、操舵制御装置は、ゲインK1を1.0未満(例えばK=0.5)にし応答遅れ補償電流を小さく補正しており、転舵目標応答角に対して転舵実角がオーバーシュートするのを防止している。
【0072】
(第2の実施形態の効果)
(1)目標転舵角速度算出手段は、目標転舵角算出手段が算出した目標転舵角を基に、目標転舵角の角速度である目標転舵角速度を算出する。また、実転舵角速度算出手段は、実転舵角検出手段が検出した実転舵角の角速度である実転舵角速度を算出する。
そして、駆動電流値補正手段は、実角速度算出手段が算出した実転舵角速度の絶対値が、目標転舵角速度算出手段が算出した目標転舵角速度の絶対値よりも大きいとき、応答遅れ補償駆動電流値を減少補正する。
これにより、操舵制御装置は、目標転舵角に追従する実転舵角がオーバーシュートするのを防止できる。
【0073】
(第3の実施形態)
(構成)
第3の実施形態も、本発明を適用した操舵制御装置である。
第3の実施形態の操舵制御装置の構成は、基本的には、前記第1の実施形態の操舵制御装置の構成と同じである。以下の説明では、第3の実施形態の操舵制御装置において、前記第1の実施形態の操舵制御装置の構成と同一符号を付してある構成については、特に言及しない限りは同一である。
図11は、第3の実施形態における応答遅れ補償電流演算部80の構成を示す。図11に示すように、第3の実施形態における応答遅れ補償電流演算部80は、さらに、転舵指令角速度演算部101、角速度依存マップ102、及び乗算器103を有する。
【0074】
転舵指令角速度演算部101は、転舵指令角が入力されており、この転舵指令角を基に、その角速度である転舵指令角速度を算出する。例えば、転舵指令角速度演算部101は、転舵指令角の現在値と前回値との差分をサンプリング時間で割り転舵指令角速度を算出する。転舵指令角速度演算部101は、算出した転舵指令角速度を角速度ゲインマップに出力する。
【0075】
角速度ゲインマップは、転舵指令角速度とゲインK2との関係を示すマップである。
図12は、そのマップの例を示す。図12に示すように、マップでは、転舵指令角速度が小さいと、ゲインK2が1.0の一定値になる。そして、転舵指令角速度が大きくなりある値に達し、それ以降で転舵指令角速度が大きくなると、ゲインK2が小さくなっていく(K2<1.0)。そして、転舵指令角速度がさらに大きくなりある値に達すると、ゲインK2がある小さい値で一定値になる(K2<1.0)。
【0076】
このようなマップを基に、転舵指令角速度に対応するゲインK2を得る。
乗算器103には、応答遅れ補償電流マップ83から得た応答遅れ補償電流が入力されており、乗算器103は、この応答遅れ補償電流にゲインK2を乗算する(応答遅れ補償電流×K2)。これにより、応答遅れ補償電流演算部80は、転舵指令角速度が大きくなると、ゲインK2により応答遅れ補償電流を小さくする補正をする。
そして、第1転舵モータECU60は、このようにして得た応答遅れ補償電流を、前記第1の実施形態と同様に、転舵電流配分演算部62が出力した第1モータ転舵指令電流に加算する。
【0077】
(動作及び作用)
以上のように、特に、第3の実施形態では、操舵制御装置は、転舵指令角速度を基に、第1モータ転舵指令電流に加算する応答遅れ補償電流を補正している。
ここで、通常、転舵初期、すなわち転舵指令角速度が小さいときに、転舵応答遅れが大きくなる傾向を示す。
これに対して、本実施形態では、操舵制御装置は、転舵指令角速度が小さいときには、応答遅れ補償電流を大きくしており(より1.0に近づけるので)、これにより、転舵初期に転舵目標応答角に追従する転舵実角の応答性を高くし、転舵初期の転舵応答遅れを抑制できる。
【0078】
(第3の実施形態の効果)
(1)目標転舵角速度算出手段は、目標転舵角算出手段が算出した目標転舵角を基に、前記目標転舵角の角速度である目標転舵角速度を算出する。そして、駆動電流値補正手段は、目標転舵角速度算出手段が算出した目標転舵角速度が小さいとき、該目標転舵角速度が大きいときよりも、応答遅れ補償駆動電流値を大きくする。
これにより、操舵制御装置は、転舵初期での目標転舵角に追従する実転舵角の応答性を高くすることができる。
【0079】
(第4の実施形態)
(構成)
第4の実施形態も、本発明を適用した操舵制御装置である。
第4の実施形態の操舵制御装置の構成は、基本的には、前記第1の実施形態の操舵制御装置の構成と同じである。以下の説明では、第4の実施形態の操舵制御装置において、前記第1の実施形態の操舵制御装置の構成と同一符号を付してある構成については、特に言及しない限りは同一である。
図13は、第4の実施形態における応答遅れ補償電流演算部80の構成を示す。図13に示すように、第4の実施形態における応答遅れ補償電流演算部80は、さらに、転舵負荷ゲインマップ111、及び乗算器112を有する。
【0080】
転舵負荷ゲインマップ111は、転舵負荷とゲインK3との関係を示すマップである。ここで、転舵負荷は、路面反力又は転舵トルクを基に得る。なお、路面反力は、路面反力センサから得た値(左右個別か左右合計値か、どちらも可)である。また、転舵トルクは、第1転舵モータ32又は第2転舵モータ43の実電流に定数(例えばトルク定数)を掛けた値である。
【0081】
図14は、転舵負荷ゲインマップ111のマップの例を示す。図14に示すように、マップでは、転舵負荷が小さいと、ゲインK3が1.0の一定値になる。そして、転舵負荷が大きくなりある値に達し、それ以降で転舵負荷が大きくなると、ゲインK3が大きくなっていく(K3>1.0)。そして、転舵負荷がさらに大きくなりある値に達すると、ゲインK3がある大きい値で一定値になる(K3>1.0)。
【0082】
このようなマップを基に、転舵負荷に対応するゲインK3を得る。
乗算器112には、応答遅れ補償電流マップ83から得た応答遅れ補償電流が入力されており、乗算器112は、この応答遅れ補償電流にゲインK3を乗算する(応答遅れ補償電流×K3)。これにより、応答遅れ補償電流演算部80は、転舵負荷が大きくなると、ゲインK3により応答遅れ補償電流を大きくする補正をする。
そして、第1転舵モータECU60は、このようにして得た応答遅れ補償電流を、前記第1の実施形態と同様に、転舵電流配分演算部62が出力した第1モータ転舵指令電流に加算する。
【0083】
(動作及び作用)
以上のように、特に、第4の実施形態では、操舵制御装置は、転舵負荷を基に、第1モータ転舵指令電流に加算する応答遅れ補償電流を補正している。
ここで、通常、転舵負荷が大きいとき、転舵応答遅れが大きくなる傾向を示す。
これに対して、本実施形態では、操舵制御装置は、転舵負荷が大きいときに、応答遅れ補償電流を大きくしており、これにより、転舵目標応答角に追従する転舵実角の応答性を高くし、転舵負荷が大きいときでも転舵応答遅れを抑制できる。
【0084】
(第4の実施形態の効果)
(1)転舵輪負荷検出手段は、転舵輪に外部からかかる負荷を検出する。そして、駆動電流値補正手段は、転舵輪負荷検出手段が検出した負荷が大きいとき、該負荷が小さいときよりも、応答遅れ補償駆動電流値を大きくする。
これにより、操舵制御装置は、転舵負荷にかかわらず、目標転舵角に追従する実転舵角の応答性を高くすることができる。
【0085】
(第5の実施形態)
(構成)
第5の実施形態も、本発明を適用した操舵制御装置である。
第5の実施形態の操舵制御装置の構成は、基本的には、前記第1の実施形態の操舵制御装置の構成と同じである。以下の説明では、第5の実施形態の操舵制御装置において、前記第1の実施形態の操舵制御装置の構成と同一符号を付してある構成については、特に言及しない限りは同一である。
図15は、第5の実施形態における応答遅れ補償電流演算部80の構成を示す。図15に示すように、第5の実施形態における応答遅れ補償電流演算部80は、さらに、車速及び転舵角ゲインマップ121、及び乗算器122を有する。
車速及び転舵角ゲインマップ121は、車速、転舵指令角、及びゲインK4の関係を示すマップである。
【0086】
図16は、そのマップの例を示す。図16に示すように、マップでは、転舵指令角が小さいと、ゲインK4が小さい値で一定値になる。そして、転舵指令角が大きくなりある値に達し、それ以降で転舵指令角が大きくなると、ゲインK4が大きくなっていく。そして、転舵指令角がさらに大きくなりある値に達すると、ゲインK4がある大きい値で一定値になる。また、このマップでは、車速が大きくなるほど、ゲインK4が大きくなる。このマップでは、転舵指令角が小さく、かつ車速が大きいときに、ゲインK4が1.0になる。
【0087】
このようなマップを基に、車速及び転舵指令角に対応するゲインK4を得る。
乗算器122には、応答遅れ補償電流マップ83から得た応答遅れ補償電流が入力されており、乗算器122は、この応答遅れ補償電流にゲインK4を乗算する(応答遅れ補償電流×K4)。これにより、応答遅れ補償電流演算部80は、転舵指令角が大きかったり、車速が大きかったりしたとき、応答遅れ補償電流をゲインK4により大きくする補正をする。
そして、第1転舵モータECU60は、このようにして得た応答遅れ補償電流を、前記第1の実施形態と同様に、転舵電流配分演算部62が出力した第1モータ転舵指令電流に加算する。
【0088】
(動作及び作用)
以上のように、特に、第5の実施形態では、操舵制御装置は、車速及び転舵指令角を基に、第1モータ転舵指令電流に加算する応答遅れ補償電流を補正している。
ここで、通常、車速が大きいとき、又は車速と転舵指令角とが共に大きいとき、転舵応答遅れが大きくなる傾向を示す。
これに対して、本実施形態では、操舵制御装置は、車速や転舵指令角が大きいときに、応答遅れ補償電流を大きくしており、これにより、転舵目標応答角に追従する転舵実角の応答性を高くし、車速や転舵指令角が大きいときの転舵応答遅れを抑制できる。
【0089】
(第5の実施形態の効果)
(1)車速検出手段は、自車両の車速を検出する。そして、駆動電流値補正手段は、車速検出手段が検出した車速が大きいとき、該車速が小さいときよりも、応答遅れ補償駆動電流値を大きくする。
これにより、操舵制御装置は、自車両の車速にかかわらず、目標転舵角に追従する実転舵角の応答性を高くすることができる。
(2)駆動電流値補正手段は、実転舵角検出手段が検出した実転舵角が大きいとき、該実転舵角が小さいときよりも、応答遅れ補償駆動電流値を大きくする。
これにより、操舵制御装置は、転舵輪の実転舵角にかかわらず、目標転舵角に追従する実転舵角の応答性を高くすることができる。
(第5の実施形態の変形例)
転舵実角が転舵指令角とほぼ同様な変化を示すことから、操舵制御装置は、転舵指令角に換えて転舵実角を用いて、ゲインK4を設定することもできる。
【符号の説明】
【0090】
1 ステアリングホイール、2,7 操舵軸、12 ラックバー、13 ピニオン軸、14 転舵角センサ(実転舵角検出手段)、30 第1操舵機構、32 第1転舵モータ、33 モータ回転角センサ、40 第2操舵機構、41 パワーシリンダ、42 オイルポンプ、43 第2転舵モータ、50 反力モータECU(目標転舵角算出手段)、60 第1転舵モータECU(モータ制御手段)、61 転舵指令電流演算部(トルク算出手段、駆動電流値算出手段)、62 転舵電流配分演算部(トルク配分手段、駆動電流配分手段)、70 第2転舵モータECU(モータ制御手段)、80 応答遅れ補償電流演算部(駆動電流値補正手段、駆動トルク補正手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵輪に連係され、軸方向の移動に伴い前記転舵輪を転舵させるラックバーと、
前記ラックバーと係合し、該ラックバーの軸方向の移動に伴い回転するピニオン軸と、
前記ピニオン軸に回転力を付与する第1電動モータを有する第1操舵機構と、
一対の圧力室に発生した差圧に基づいて、前記ラックバーに対し該ラックバーの軸方向に推進力を付与するパワーシリンダ、前記一対の圧力室の各圧力室に選択的に作動油を供給するポンプ及び該ポンプを駆動する第2電動モータを有する第2操舵機構と、
前記転舵輪の目標転舵角を算出する目標転舵角算出手段と、
前記転舵輪の実転舵角を検出する実転舵角検出手段と、
前記目標転舵角算出手段が算出した目標転舵角と前記実転舵角検出手段が検出した実転舵角との差分を基に、前記第1及び第2電動モータによって発生する駆動トルクの合計である合計トルクを算出するトルク算出手段と、
前記トルク算出手段が算出した合計トルクを、前記第1電動モータによって発生する第1モータ駆動トルクと前記第2電動モータによって発生する第2モータ駆動トルクとに配分するトルク配分手段と、
前記第1モータ駆動トルクに基づいて前記第1電動モータを駆動制御すると共に、前記第2モータ駆動トルクに基づいて前記第2電動モータを駆動制御するモータ制御手段と、
前記目標転舵角と前記実転舵角との差分に応じて、前記トルク配分手段によって配分された第1モータ駆動トルクを増加補正する駆動トルク補正手段と、
を備えることを特徴とする操舵制御装置。
【請求項2】
前記トルク算出手段は、目標転舵角と前記実転舵角検出手段が検出した実転舵角との差分を基に、前記第1及び第2電動モータによって発生する合計トルクに応じた駆動電流値を算出する駆動電流値算出手段であり、
前記トルク配分手段は、前記駆動電流値算出手段が算出した駆動電流値を、前記第1電動モータを駆動する第1モータ駆動電流値と前記第2電動モータを駆動する第2モータ駆動電流値とに配分することにより、前記第1電動モータによって発生する第1モータ駆動トルクと前記第2電動モータによって発生する第2モータ駆動トルクとに配分する駆動電流値配分手段であり、
前記モータ制御手段は、前記第1モータ駆動電流値に基づいて前記第1電動モータを駆動制御すると共に、前記第2モータ駆動電流値に基づいて前記第2電動モータを駆動制御することにより、前記第1モータ駆動トルクに基づいて前記第1電動モータを駆動制御すると共に、前記第2モータ駆動トルクに基づいて前記第2電動モータを駆動制御するものであり、
前記駆動トルク補正手段は、前記目標転舵角算出手段が算出した目標転舵角と前記実転舵角検出手段が検出した実転舵角との差分に応じて、前記駆動電流値配分手段が配分した前記第1モータ駆動電流値を増加補正することによって、前記第1モータ駆動トルクを増加補正する駆動電流値補正手段であること
を特徴とする請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記駆動電流値補正手段は、前記目標転舵角算出手段が算出した目標転舵角に対して所定の応答特性を有する転舵目標応答角を算出し、算出した転舵目標応答角と前記実転舵角検出手段が検出した実転舵角との差分に応じて、前記第1電動モータの応答を補償する応答遅れ補償駆動電流値を算出し、算出した前記応答遅れ補償駆動電流値を前記第1モータ駆動電流値に加算することで前記第1モータ駆動電流値の増加補正をすることを特徴とする請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記駆動電流値補正手段は、前記転舵目標応答角と前記実転舵角検出手段が検出した実転舵角との差分が予め設定したしきい値以上である場合、前記応答遅れ補償駆動電流値を前記第1モータ駆動電流値に加算することを特徴とする請求項3に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記目標転舵角算出手段が算出した目標転舵角を基に、前記目標転舵角の角速度である目標転舵角速度を算出する目標転舵角速度算出手段と、前記実転舵角検出手段が検出した実転舵角の角速度である実転舵角速度を算出する実転舵角速度算出手段と、を備え、
前記駆動電流値補正手段は、前記実角速度算出手段が算出した実転舵角速度の絶対値が、前記目標転舵角速度算出手段が算出した目標転舵角速度の絶対値よりも大きいとき、前記応答遅れ補償駆動電流値を減少補正することを特徴とする請求項3又は4に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記目標転舵角算出手段が算出した目標転舵角を基に、前記目標転舵角の角速度である目標転舵角速度を算出する目標転舵角速度算出手段を備え、
前記駆動電流値補正手段は、前記目標転舵角速度算出手段が算出した目標転舵角速度が小さいとき、該目標転舵角速度が大きいときよりも、前記応答遅れ補償駆動電流値を大きくすることを特徴とする請求項3〜5の何れか1項に記載の操舵制御装置。
【請求項7】
前記転舵輪に外部からかかる負荷を検出する転舵輪負荷検出手段を備え、
前記駆動電流値補正手段は、前記転舵輪負荷検出手段が検出した負荷が大きいとき、該負荷が小さいときよりも、前記応答遅れ補償駆動電流値を大きくすることを特徴とする請求項3〜6の何れか1項に記載の操舵制御装置。
【請求項8】
自車両の車速を検出する車速検出手段を備え、
前記駆動電流値補正手段は、前記車速検出手段が検出した車速が大きいとき、該車速が小さいときよりも、前記応答遅れ補償駆動電流値を大きくすることを特徴とする請求項3〜7の何れか1項に記載の操舵制御装置。
【請求項9】
前記駆動電流値補正手段は、前記実転舵角検出手段が検出した実転舵角が大きいとき、該実転舵角が小さいときよりも、前記応答遅れ補償駆動電流値を大きくすることを特徴とする請求項8に記載の操舵制御装置。
【請求項10】
前記目標転舵角算出手段は、自車両状態を基に、前記転舵輪の目標転舵角を算出することを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の操舵制御装置。
【請求項11】
前記目標転舵角算出手段は、自車両のヨーレイトを基に、前記転舵輪の目標転舵角を算出することを特徴とする請求項10に記載の操舵制御装置。
【請求項12】
前記目標転舵角算出手段は、ステアリングホイールの操舵角を基に、前記転舵輪の目標転舵角を算出することを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の操舵制御装置。
【請求項13】
転舵輪に連係され、軸方向の移動に伴い前記転舵輪を転舵させるラックバーと、
前記ラックバーと係合し、該ラックバーの軸方向の移動に伴い回転するピニオン軸と、
前記ピニオン軸に回転力を付与する第1電動モータを有する第1操舵機構と、
一対の圧力室に発生した差圧に基づいて、前記ラックバーに対し該ラックバーの軸方向に推進力を付与するパワーシリンダ、前記一対の圧力室の各圧力室に選択的に作動油を供給するポンプ及び該ポンプを駆動する第2電動モータを有する第2操舵機構と、を有する操舵制御装置の操舵制御方法であって、
前記転舵輪の目標転舵角を算出すると共に、前記転舵輪の実転舵角を検出する第1ステップと、
前記目標転舵角と前記実転舵角との差分を基に、前記第1及び第2電動モータによって発生する駆動トルクの合計である合計トルクを算出する第2ステップと、
前記合計トルクを、前記第1電動モータによって発生する第1モータ駆動トルクと前記第2電動モータによって発生する第2モータ駆動トルクとに配分する第3ステップと、
前記目標転舵角と前記実転舵角との差分に応じて、前記第1モータ駆動トルクを増加補正する第4ステップと、
前記第1モータ駆動トルクに基づいて前記第1電動モータを駆動制御すると共に、前記第2モータ駆動トルクに基づいて前記第2電動モータを駆動制御する第5ステップと、
を有することを特徴とする操舵制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−37394(P2011−37394A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187987(P2009−187987)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】