説明

操舵装置

【課題】補助操作によるステアリングの操作入力の0点学習を正確に行うことができる操舵装置を提供する。
【解決手段】操舵装置1は、通常の回転操作(主操作)と車両前後方向に押し引きする操作(補助操作)とが実施可能なステアリング2と、このステアリング2を押し引き方向に駆動する押し引き反力アクチュエータ8と、操舵ECU9と、シフトレバーの位置を検出するシフトセンサと、車両の車速を検出する車速センサと、エンジンを始動するためのイグニッションスイッチとを備えている。操舵ECU9は、シフトレバーの位置がPレンジにあるとき、イグニッションスイッチがOFFであるとき、車両の車速がゼロであるときに、ステアリング2の押し引き位置を基準位置(中立位置)に戻すように押し引き反力アクチュエータ8を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵を行う操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の操舵装置としては、例えば特許文献1に記載されているように、ステアリングホイールを回転操作(主操作)することにより前輪を転舵させると共に、ステアリングホイールを車両前後方向にスライドさせる操作(補助操作)を行うことによっても前輪を転舵させるようにしたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−264512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術のように主操作及び補助操作が実施可能なステアリングホイールを備えた操舵装置において、補助操作によって車両を操舵する操作子がタイヤ等の動作対象とメカ的に繋がっていない場合には、以下の問題点が存在する。即ち、車両の停止時にステアリングホイールの位置が補助操作の中立位置(N点位置)からずれていると、補助操作によるステアリングホイールの操作入力(操作量や操作力)の0点補正(0点学習)を行う際に、誤学習されるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、補助操作によるステアリングの操作入力の0点学習を正確に行うことができる操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両に搭載され、回転させる操作である主操作と主操作による回転方向とは異なる方向に対する操作である補助操作とが実施可能なステアリングを備えた操舵装置において、補助操作によるステアリングの動作方向に対してステアリングを駆動するアクチュエータ手段と、車両の停止時にステアリングを補助操作の基準位置に戻すように、アクチュエータ手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
このように本発明の操舵装置においては、車両の停止時にステアリングを補助操作の基準位置に戻すことにより、その後のドライバによる補助操作に対して違和感を与えることが無い。また、車両の停止時にはステアリングが補助操作の基準位置に存在することになるため、補助操作によるステアリングの操作入力の0点補正(0点学習)を正確に行うことができる。
【0008】
好ましくは、車両の停止時は、シフトレバーの位置がPレンジにあるとき、イグニッションスイッチがOFFであるとき、車速が0であるときの何れかである。これにより、車両が確実に停止するようになる。
【0009】
また、好ましくは、ステアリングが補助操作の基準位置に戻ったときに、ステアリングの補助操作をロックする手段を更に備える。この場合には、車両の停止時にステアリングが補助操作の基準位置に戻ったときに、ステアリングの補助操作が不必要に行われることが防止される。
【0010】
さらに、好ましくは、ステアリングが補助操作の基準位置に戻っていないときに、車両の起動を禁止する手段を更に備える。この場合には、補助操作によるステアリングの操作入力の0点学習が誤った状態でステアリングの補助操作が行われることが防止される。
【0011】
また、好ましくは、補助操作は、ステアリングを押し引き又は揺動させる操作である。この場合には、ステアリングを主操作による回転方向とは異なる方向に簡単に操作することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、補助操作によるステアリングの操作入力の0点学習を正確に行うことができる。これにより、0点の誤学習による動作不良の発生を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係わる操舵装置の一実施形態の主要部を備えた車両を示す概略図である。
【図2】本発明に係わる操舵装置の一実施形態の一部構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示した車両停止処理部により実行される処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図4】図2に示した車両起動処理部により実行される処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図5】図3に示した処理手順の変形例を示すフローチャートである。
【図6】図1に示した操舵装置の変形例を備えた車両を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係わる操舵装置の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一または同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明に係わる操舵装置の一実施形態の主要部を備えた車両を示す概略図である。同図において、本実施形態の操舵装置1は、通常の回転させる操作(主操作)と車両前後方向に押し引きする操作(補助操作)とが実施可能なステアリング2を備えている。主操作は、各前輪3を転舵させるための操作である。補助操作は、ここでは各後輪4を転舵させるための操作である。なお、各後輪4は、ステアリング2と機械的に接続されておらず、図示しないモータにより転舵するように構成されている。
【0016】
また、操舵装置1は、舵角センサ5と、操舵機構6と、押し引きセンサ7と、押し引き反力アクチュエータ8とを備えている。舵角センサ5は、主操作によるステアリング2の操舵角を検出するセンサである。操舵機構6は、主操作によるステアリング2の操舵出力を各前輪3に伝達する機構である。
【0017】
押し引きセンサ7は、補助操作によるステアリング2の押し引きストロークまたは押し引き力を検出するセンサである。押し引き反力アクチュエータ8は、ステアリング2の補助操作が行われたときにステアリング2に対して押し引き反力を与えるように、ステアリング2を押し引き方向に駆動するものである。このとき、押し引き反力アクチュエータ8としては、押し引きセンサ7が付いたモータを用いても良い。
【0018】
さらに、操舵装置1は、CPU、ROMやRAM等のメモリ、入出力回路等により構成された操舵ECU(Electronic Control Unit)9を備えている。
【0019】
図2は、本発明に係わる操舵装置の一実施形態の一部構成を示すブロック図である。同図において、操舵ECU9には、上記の舵角センサ5、押し引きセンサ7及び押し引き反力アクチュエータ8が接続されている。また、操舵ECU9には、シフトレバーの位置を検出するシフトセンサ10と、車両の車速を検出する車速センサ11と、エンジンを始動するためのイグニッションスイッチ12と、後輪4の転舵角を検出する後輪転舵角センサ13と、ドライバに対して表示や音声等により警告を行うための警告器14とが接続されている。
【0020】
操舵ECU9は、車両停止処理部15と、車両起動処理部16とを有している。車両停止処理部15は、押し引きセンサ7、シフトセンサ10、車速センサ11及びイグニッションスイッチ12の出力信号を入力し、所定の処理を行い、押し引き反力アクチュエータ8を制御する。車両起動処理部16は、押し引きセンサ7、イグニッションスイッチ12及び後輪転舵角センサ13の出力信号を入力し、所定の処理を行い、押し引き反力アクチュエータ8及び警告器14を制御する。
【0021】
図3は、車両停止処理部15により実行される処理手順の詳細を示すフローチャートである。同図において、まず押し引きセンサ7の出力信号(検出信号)に基づいて、ステアリング2に操舵反力が発生しているかどうかを判断する(手順S51)。
【0022】
ステアリング2に操舵反力が発生していると判断されたときは、シフトセンサ10の出力信号(検出信号)に基づいて、シフトレバーの位置がP(パーキング)レンジにあるかどうかを判断する(手順S52)。シフトレバーの位置がPレンジにあると判断されたときは、ステアリング2の押し引き位置を基準位置(中立位置)に戻すように押し引き反力アクチュエータ8を制御する(手順S53)。
【0023】
シフトレバーの位置がPレンジでないと判断されたときは、イグニッションスイッチ12の出力信号がOFF信号であるかどうかを判断する(手順S54)。イグニッションスイッチ12の出力信号がOFF信号であると判断されたときは、ステアリング2の押し引き位置を基準位置に戻すように押し引き反力アクチュエータ8を制御する(手順S53)。
【0024】
イグニッションスイッチ12の出力信号がOFF信号でない(ON信号である)と判断されたときは、車速センサ11の出力信号(検出信号)に基づいて、車両の車速がゼロであるかどうかを判断する(手順S55)。車両の車速がゼロであると判断されたときは、ステアリング2の押し引き位置を基準位置に戻すように押し引き反力アクチュエータ8を制御する(手順S53)。車両の車速がゼロでないと判断されたときは、手順S51に戻る。
【0025】
図4は、車両起動処理部16により実行される処理手順の詳細を示すフローチャートである。同図において、まず車両システム起動要求があったかどうかを判断する(手順S61)。このとき、イグニッションスイッチ12の出力信号がON信号になったかどうかを判断することで、車両システム起動要求の有無を判断する。
【0026】
車両システム起動要求があったと判断されたときは、押し引きセンサ7の検出信号に基づいて、ステアリング2の押し引き位置が基準位置の範囲内にあるかどうかを判断する(手順S62)。ステアリング2の押し引き位置が基準位置の範囲内にないと判断されたときは、ステアリング2の押し引き位置が基準位置からずれている旨を警告器14によりドライバに報知し(手順S63)、手順S62に戻る。
【0027】
ステアリング2の押し引き位置が基準位置の範囲内にあると判断されたときは、車両システムを起動する(手順S64)。具体的には、エンジンが始動され、車両の発進が可能となる。
【0028】
続いて、ステアリング2の補助操作における操作力や操作量の0点補正(0点学習)を行い、ステアリング2のイニシャルチェックを実施する(手順S65)。
【0029】
続いて、後輪転舵角センサ13の出力信号(検出信号)を取得し(手順S66)、ステアリング2の押し引き位置が現在の後輪4の転舵角に対応(合致)した位置になるように押し引き反力アクチュエータ8を制御する(手順S67)。
【0030】
以上において、押し引き反力アクチュエータ8は、補助操作によるステアリング2の動作方向に対してステアリング2を駆動するアクチュエータ手段を構成する。シフトセンサ10、車速センサ11、イグニッションスイッチ12及び操舵ECU9の車両停止処理部15における上記手順S52〜S55は、車両の停止時にステアリング2を補助操作の基準位置に戻すように、アクチュエータ手段8を制御する制御手段を構成する。
【0031】
また、押し引きセンサ7及び操舵ECU9の車両起動処理部16における上記手順S62,S63は、ステアリング2が補助操作の基準位置に戻っていないときに、車両の起動を禁止する手段を構成する。
【0032】
以上のように本実施形態にあっては、車両が停止した時にステアリング2の押し引き位置を基準位置(中立位置)に戻すと共に、ステアリング2の押し引き位置が基準位置の範囲内にないときは、車両システムの起動を禁止するようにしたので、その後にステアリング2の補助操作における操作力や操作量の0点学習を行う際には、ステアリング2の押し引き位置は基準位置の範囲内に存在することになる。これにより、操作力や操作量の0点学習が正確に行えるようになるため、0点誤学習による動作不良の発生を防止することができる。その結果、ステアリング2のイニシャルチェック時の障害が回避可能となる。
【0033】
また、車両システムを起動する際には、ステアリング2の押し引き位置が基準位置の範囲内にあるため、ステアリング2の補助操作を行うときに、ドライバに対して違和感を与えることが無い。
【0034】
図5は、車両停止処理部15により実行される処理手順の変形例を示すフローチャートである。同図において、手順S53が実行された後、押し引きセンサ7の検出信号に基づいて、ステアリング2の押し引き位置が基準位置に戻ったかどうかどうかを判断する(手順S56)。ステアリング2の押し引き位置が基準位置に戻っていないと判断されたときは、手順S53に戻る。
【0035】
ステアリング2の押し引き位置が基準位置に戻ったと判断されたときは、ステアリング2を押し引き方向に対して機械的にロックする(手順S57)。例えば、電磁ソレノイドを制御して、電磁ソレノイドのプランジャに取り付けられたストッパを突き出すことで、ステアリング2の押し引き動作が出来ないようにする。
【0036】
上記の手順S56,S57は、ステアリング2が補助操作の基準位置に戻ったときに、ステアリング2の補助操作をロックする手段を構成する。
【0037】
このようにステアリング2の押し引き位置が基準位置に戻ったときに、ステアリング2の押し引き動作を機械的にロックすることにより、ステアリング2の補助操作が不用意に行われることを防止できる。
【0038】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、ステアリング2を車両前後方向に押し引きする操作を補助操作としたが、ステアリング2の補助操作としては、例えば図6に示すように、ステアリング2を左右方向に揺動(傾動)させる操作としても良い。この場合には、補助操作によるステアリング2の揺動角または揺動トルクを検出する揺動センサ21と、ステアリング2の補助操作が行われたときにステアリング2に対して揺動反力を与えるように、ステアリング2を揺動方向に駆動する揺動反力アクチュエータ22とを設けるようにする。そして、車両の停止時に、ステアリング2の揺動位置を基準位置(中立位置)に戻すように揺動反力アクチュエータ22を制御する。
【0039】
また、ステアリング2の補助操作としては、上述した押し引き操作や揺動操作以外にも、主操作によるステアリング2の通常の回転方向とは異なる方向に対する操作であれば良い。
【0040】
また、上記実施形態では、補助操作においてステアリング2を戻す基準位置を補助操作の中立位置としたが、基準位置としては特に中立位置でなくても良い。
【0041】
また、上記実施形態では、車両システム起動が要求された際に、ステアリング2の押し引き位置が基準位置の範囲内にないときには、エンジンの始動を禁止するようにしたが、エンジンの始動は禁止せずに、車両の発進やステアリング2の補助操作を禁止するようにしても良い。
【0042】
さらに、上記実施形態では、ステアリング2の補助操作により後輪4を転舵させるようにしたが、補助操作による動作対象としては、特にそれには限られず、例えば車両の加減速等を調整するものであっても良い。
【符号の説明】
【0043】
1…操舵装置、2…ステアリング、7…押し引きセンサ、8…押し引き反力アクチュエータ(アクチュエータ手段)、9…操舵ECU、10…シフトセンサ(制御手段)、11…車速センサ(制御手段)、12…イグニッションスイッチ(制御手段)、15…車両停止処理部(制御手段)、16…車両起動処理部、21…押し引きセンサ、22…揺動反力アクチュエータ(アクチュエータ手段)。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、回転させる操作である主操作と前記主操作による回転方向とは異なる方向に対する操作である補助操作とが実施可能なステアリングを備えた操舵装置において、
前記補助操作による前記ステアリングの動作方向に対して前記ステアリングを駆動するアクチュエータ手段と、
前記車両の停止時に前記ステアリングを前記補助操作の基準位置に戻すように、前記アクチュエータ手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする操舵装置。
【請求項2】
前記車両の停止時は、シフトレバーの位置がPレンジにあるとき、イグニッションスイッチがOFFであるとき、車速が0であるときの何れかであることを特徴とする請求項1記載の操舵装置。
【請求項3】
前記ステアリングが前記補助操作の基準位置に戻ったときに、前記ステアリングの前記補助操作をロックする手段を更に備えることを特徴とする請求項1または2記載の操舵装置。
【請求項4】
前記ステアリングが前記補助操作の基準位置に戻っていないときに、前記車両の起動を禁止する手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の操舵装置。
【請求項5】
前記補助操作は、前記ステアリングを押し引き又は揺動させる操作であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の操舵装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−148328(P2011−148328A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9078(P2010−9078)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】