説明

放射線画像検出装置

【課題】本発明の目的は、耐衝撃性に優れ、画像欠陥の発生を防止した高画質の放射線画像検出装置を提供することにある。
【解決手段】2次元的に配列された光電変換素子を含むセンサー基板と、前記センサー基板上に配置された保護層と、前記保護層上に配置され表面を平坦化する下引層と、前記下引層上に配置された蛍光体を含むシンチレータ層と、前記シンチレータ層上に配置された耐湿保護層を有し、前記下引層にガラス転移温度が−30℃〜90℃の樹脂を含有することを特徴とする放射線画像検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療診断装置、非破壊検査機器等に用いられる放射線画像検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エックス線画像のような放射線画像は医療現場において病状の診断に広く用いられている。特に、増感紙−フィルム系による放射線画像は、長い歴史のなかで高感度化と高画質化が図られた結果、高い信頼性と優れたコストパフォーマンスを併せ持った撮像システムとして、今なお、世界中の医療現場で用いられている。しかしながらこれら画像情報はいわゆるアナログ画像情報であって、近年発展を続けているデジタル画像情報のような、自由な画像処理や瞬時の電送が出来ない。
【0003】
そして、近年ではコンピューテッドラジオグラフィ(computed radiography:CR)やフラットパネル型放射線ディテクタ(flat panel detector:FPD)等に代表されるデジタル方式の放射線画像検出装置が登場している。これらは、デジタルの放射線画像が得られ、陰極管や液晶パネル等の画像表示装置に画像を表示することが可能なので、必ずしも写真フィルム上への画像形成を必要としない。その結果、これらのデジタル方式の放射線画像検出装置は、銀塩写真方式による画像形成の必要性を低減させ、病院や診療所での診断作業の利便性を大幅に向上させている。
【0004】
ここで、コンピューテッド・ラジオグラフィ(CR)は、イメージングプレートで読取った放射線画像をレーザースキャニングで読み出してデジタル化しているが、読出し工程が必要であり、また、鮮鋭性が十分でなく空間分解能も十分ではない。
【0005】
一方、デジタルの放射線画像が直接得られるデジタル放射線画像技術として開発されてきているフラットパネル型放射線ディテクタ(FPD)には、GdSやCsIなどのシンチレータによって放射線を光に変換後フォトダイオードにより電荷へ変換するシンチレータ方式と、Seを代表とするエックス線検出素子によりエックス線を直接電荷へ変換する方式がある。本発明は、前者のシンチレータ方式のFPDに関するものである。
【0006】
シンチレータ方式のFPDとしては、例えば、特許文献1は、シンチレータパネルと、薄膜トランジスタ(TFT)および電荷結合素子(CCD)による光電変換素子との組み合わせであるFPDを開示している。
【0007】
特許文献2には、センサー基板の凹凸や、シンチレータの柱状結晶先端部の凹凸を平坦化するために、ポリイミドを使用した平坦化層を設ける技術が開示されている。すなわち、センサー基板には、フォトダイオード等の光電変換素子とスイッチング素子であるTFTが2次元配置されているが、フォトダイオードとTFTは、層厚が違い両者の間で凹凸を生じている。このような凹凸のあるセンサー基板上にシンチレータ層を形成すると、結晶性が乱れ実質的な開口率が低下する。また、シンチレータ層の表面側も柱状結晶の成長度合いによって凹凸が生じている。特許文献2は、このような凹凸を無くすために平坦化層を設けているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−114456号公報
【特許文献2】特開2006−17742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の技術では、平坦化層に硬い樹脂であるポリイミドを使用していることから、蒸着や塗布時、あるいは輸送時に衝撃が加わった際に、光電変換素子、蛍光体等がダメージを受け易く、画質が劣化するという問題点があった。
【0010】
本発明は上記に鑑み成されたものであり、本発明の目的は、耐衝撃性に優れ、画像欠陥の発生を防止した高画質の放射線画像検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
1.2次元的に配列された光電変換素子を含むセンサー基板と、前記センサー基板上に配置された保護層と、前記保護層上に配置され表面を平坦化する下引層と、前記下引層上に配置された蛍光体を含むシンチレータ層と、前記シンチレータ層上に配置された耐湿保護層とを有し、前記下引層にガラス転移温度が−30℃〜90℃の樹脂を含有することを特徴とする放射線画像検出装置。
2.前記下引層に含まれる樹脂がポリウレタンまたはポリエステルであることを特徴とする前記1に記載の放射線画像検出装置。
3.前記下引層の厚みが4μm〜100μmであることを特徴とする前記1または2に記載の放射線画像検出装置。
4.前記シンチレータ層上に前記シンチレータ層上面を平坦化する平坦化層を有することを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の放射線画像検出装置。
5.前記耐湿保護層が前記シンチレータ層上面を平坦化する材料で構成されることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の放射線画像検出装置。
6.前記耐湿保護層に含まれる樹脂がポリパラキシリレンであることを特徴とする前記1に記載の放射線画像検出装置。
7.前記シンチレータ層が気相堆積法により形成されることを特徴とする前記1〜6のいずれか1項に記載の放射線画像検出装置。
8.前記シンチレータ層がセシウムハライド系蛍光体を含むことを特徴とする前記1〜7のいずれか1項に記載の放射線画像検出装置。
9.前記セシウムハライド系蛍光体が賦活剤としてタリウムを含有することを特徴とする前記8に記載の放射線画像検出装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐衝撃性に優れ、画像欠陥の発生を防止した高画質の放射線画像検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】放射線画像検出装置100の概略構成を示す一部破断斜視図
【図2】放射線画像検出装置の層構成を示す概略断面図
【図3】図3(a)は蒸着装置61の概略構成を示す側面図、図3(b)は図3(a)のA−A視図
【発明を実施するための形態】
【0014】
放射線検出システムにおいては、放射線発生器で発生させた放射線を被写体に照射し、被写体を透過した放射線を放射線画像検出装置に入射させる。放射線画像検出装置は、被写体からの放射線情報を検出し、デジタルの画像信号に変換して出力する。使用される放射線は、例えば、波長が1×10−10m程度のエックス線である。
【0015】
放射線画像検出装置により変換された画像信号は、各種画像処理を行った上、画像表示部で表示したり、各種プリンタにて媒体上に出力される。またこの画像信号をメモリに保存したり、ネットワークを介して他の部署に送信することもできる。
【0016】
以下、このような放射線画像検出装置の本発明に係る概略構造について図1を用いて説明する。放射線画像検出装置100は、照射された放射線を受けて放射線情報をデジタル画像信号に変換する撮像パネル110を有している。
【0017】
撮像パネル110は、放射線の照射により蛍光発光を行うシンチレータ部111と、その下方に設けられシンチレータ部111で発生した蛍光を光電変換する光電変換部112とを基板113上に形成したものである。光電変換部112は、図1に示すように、格子状に2次元配置されており、個々の光電変換素子が放射線画像の1画素に対応するものである。なお、以下の説明では、光電変換部112と基板113とを共に説明する時は、まとめてセンサー基板と呼ぶ。
【0018】
放射線画像検出装置100は、さらに、放射線画像検出装置100の動作を制御する制御回路120、撮像パネル110で変換された画像信号を記憶するメモリ部130、放射線画像検出装置100の動作を切り換える操作部140、放射線画像の撮影準備完了やメモリ部130への画像信号の書込みを表示する表示部150、撮像パネル110より画像信号を得るために必要な電力供給を行う電源部160、放射線画像検出装置100と外部の画像処理部との間で通信を行うための通信用のコネクタ170、およびこれらを収納する筐体180より構成される。
【0019】
ここで、放射線画像検出装置100に電源部160を設けるとともに放射線画像の画像信号を記憶するメモリ部130を設け、コネクタ170を介して放射線画像検出装置100を着脱自在にしておけば、放射線画像検出装置100を持ち運びできる可搬構造とすることができる。
【0020】
筐体180は、アルミニウムやアルミニウム合金等の軽量で耐久性を有する素材で構成される。筐体180の放射線入射面側は、カーボン繊維等の放射線を透過し易い材料で形成される。また、放射線入射面とは逆側にあたる背面側には鉛板等の放射線吸収材料を設け、放射線画像検出装置100を透過した放射線や、放射線画像検出装置100の構成素材が放射線吸収により発生する2次放射線の装置外への漏洩を防止する。
【0021】
図2は本発明の放射線画像検出装置における撮像パネル110の層構成を示す断面図である。図において、放射線は図の上方から入射する。撮像パネル110は、上述したように大別してシンチレータ部111と光電変換部112と基板113からなる。シンチレータ部111は、図の上方放射線入射方向から順に、耐湿保護層10、(平坦化層11)、反射層12、(酸化物層13)、シンチレータ層14からなり、光電変換部112は、平坦化のための下引層20、保護層21、光電変換素子層22、コンデンサやトランジスタを有する出力層23、および基板113からなる構成である。なお、層構成の説明では、放射線入射方向から説明したが、実際の製造においては、基板113側から順次上方に向かって各層が形成される。また、上記説明でカッコ書きした層は設けるほうがよいけれども必須ではない層である。
【0022】
光電変換素子層22は、透明電極22aと、透明電極22aを透過して入光した電磁波により励起されて電荷を発生する電荷発生層22bと、透明電極22aに対しての対極となる対電極22cとから構成されており、下引層20側からこの順に配置される。
【0023】
次に、放射線画像検出装置100の作用について説明する。まず、放射線画像検出装置100に入射された放射線は、撮像パネル110のシンチレータ部111側から光電変換部112側に向けて入射する。シンチレータ部111に入射された放射線は、シンチレータ層14が放射線のエネルギーを吸収し、その強度に応じた電磁波(光)を発光する。発光された電磁波のうち、光電変換部112に入射される電磁波は、光電変換部112の下引層20、保護層21、透明電極22aを貫通し、電荷発生層22bに到達する。そして、電荷発生層22bにおいて電磁波は吸収され、その強度に応じて正孔と電子のペア(電荷分離状態)が形成される。
【0024】
その後、発生した電荷は、電源部160によるバイアス電圧の印加により生じる内部電界によりそれぞれ異なる電極(透明電極22aおよび対電極22c)へ運ばれ、光電流となって流れる。
【0025】
対電極22c側に運ばれた正孔は、画像信号の出力層23に設けられるコンデンサに蓄積され、蓄積された正孔は、コンデンサに接続されているトランジスタを駆動させて画像信号を出力し、出力された画像信号はメモリ部130に記憶される。
【0026】
続いて、各層について、詳しく説明する。
【0027】
(基板)
本発明に係る基板は、各種のガラス、高分子材料、金属等を用いることができる。例えば、石英、ホウ珪酸ガラス、化学的強化ガラスなどの板ガラス、サファイア、チッ化珪素、炭化珪素などのセラミック基板、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、ガリウム燐、ガリウム窒素など半導体基板、また、セルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセテートフィルム、ポリカーボネートフィルム、炭素繊維強化樹脂シート等の高分子フィルム(プラスチックフィルム)、アルミニウムシート、鉄シート、銅シート等の金属シートあるいは該金属酸化物の被覆層を有する金属シートなどを用いることができる。
【0028】
(光電変換素子層、出力層)
光電変換素子層22は、層構成としては、上述のように透明電極22aと、電荷発生層22bと、対電極22cとからなり格子状に2次元配列されている。一方、出力層23には、光電変換素子層22の各画素に対応したコンデンサとトランジスタが設けられ、その周囲に取り出し配線や配線接続部が設けられている。光電変換素子層22および出力層23は基板上に公知の方法で製造される。
【0029】
(保護層)
上記光電変換素子層22上にはデバイス特性の安定化のために保護層21が配置される。保護層の厚みは、光の散乱が抑えられる点から、0.2〜5.0μmであるのが好ましく、より好ましくは0.5〜4.0μmが、特には0.7〜3.5μmであるのが好ましい。
【0030】
保護層としては、無機膜または有機膜を用いることができる。無機膜としてはSiNが好ましく、有機膜に用いられる有機樹脂としては、ポリウレタン、塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルアセタール、ポリエステル、セルロース誘導体(ニトロセルロース等)、ポリイミド、ポリアミド、ポリパラキシリレン、スチレン−ブタジエン共重合体、各種の合成ゴム系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、アクリル系樹脂、尿素ホルムアミド樹脂等が挙げられる。なかでもポリウレタン、ポリエステル、塩化ビニル系共重合体、ポリビニルブチラール、ニトロセルロース、ポリイミド、ポリパラキシリレンを使用することが好ましい。このような保護層は、溶剤に溶解した樹脂を塗布、乾燥して形成したり、CVD法により形成される。
【0031】
(下引層)
本発明においては、保護層とシンチレータ層の間に、光電変換部112表面の凹凸を平坦化するための下引層を設けている。なお、シンチレータ層の下引層と反対側の面に平坦化層を設けることも可能である。この平坦化層は、シンチレータ層の柱状結晶先端部の凹凸を平坦化するために設けるもので、材料、性質は以下に説明する下引層と同様である。
【0032】
本発明の目的である耐衝撃性、画像欠陥の発生を防止するためには、下引層に用いられる樹脂のガラス転移温度(Tg)が−30℃〜90℃であることが必要であり、−20℃〜70℃であるのがより好ましく、0℃〜50℃であるのが特に好ましい。
【0033】
樹脂としては、具体的には、ポリウレタン、塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアセタール、ポリエステルが挙げられる。なかでもポリウレタン、ポリエステル、塩化ビニル系共重合体、ポリビニルブチラールを使用することが好ましく、ポリウレタン、ポリエステルを使用することが特に好ましい。
【0034】
上記したガラス転移温度(Tg)を持つ有機樹脂は市販されており、容易に入手可能である。また使用するモノマーの種類を適宜選択することでも容易に合成可能である。例えばモノマーとして芳香族環やシクロヘキシル環を持つモノマーを選択することでTgは高くなる傾向にあり、逆に脂肪族のモノマーを選択することでTgは低くなる傾向にある。また芳香族環やシクロヘキシル環を持つモノマーと脂肪族のモノマーの共重合比率を変化させることでもTgを変化させることができる。またポリウレタンの場合はポリエステルポリオールの作成に用いるモノマーの分子骨格の他に、使用するイソシアネートの比率を高くすることでもTgを高くすることが可能である。なお、下引層の表面性やヤング率を制御するために必要に応じてマット剤やフィラーを添加しても良い。
【0035】
下引層の厚みは4.0μm〜100μmであるのが好ましく、より好ましくは4.0μm〜50μmであり、特には4.0μm〜20μmであるのが好ましい。下引層の厚みは、4.0μm以上であるのが耐衝撃性向上の点から好ましく、100μm以下であるのが鮮鋭性向上の点から好ましい。
【0036】
また、保護層上に下引層を設ける手段としては、貼合法、塗設法などの手段がある。このうち貼合法は加熱、加圧ローラを用いて行い、加熱条件は約80〜150℃、加圧条件は4.90×10〜2.94×10N/cm、搬送速度は0.1〜2.0m/sが好ましい。
【0037】
(シンチレータ層)
シンチレータ層(蛍光体層)は、放射線の照射により蛍光を発するシンチレータ(蛍光体)から成る層である。すなわち、シンチレータとは、エックス線等の入射された放射線のエネルギーを吸収して、波長が300nmから800nmの電磁波、すなわち、可視光線を中心に紫外光から赤外光にわたる電磁波(光)を発光する蛍光体をいう。
【0038】
蛍光体として柱状結晶を用いる場合、柱状結晶の柱径は2.0〜20μmが好ましく、3.0〜15μmがより好ましい。またシンチレータ層の膜厚は、100〜1000μmであることが好ましく、より好ましくは120〜800μm、特に好ましくは140〜600μmである。
【0039】
本発明においては、シンチレータ層の充填率は70〜90%であることが好ましく、より好ましくは72〜88%、特に好ましくは75〜85%である。ここで充填率とはシンチレータ層の実際の質量を、理論密度と見かけの体積で割った値をさす。シンチレータ層の充填度を制御するには、蒸着時の基板温度の制御や、蒸着速度や、Ar等のキャリアガスの導入量を調整することにより真空度を制御することで行うことができる。塗布法による場合は蛍光体と結合剤の比率を調整したり、カレンダリング時の温度、圧力、速度を調整することにより行うことができる。
【0040】
また、シンチレータ層の充填率の変動係数は、20%以下であり、好ましくは10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下である。これにより輝度、鮮鋭性を向上し、さらに温度変動に伴う画像欠陥の発生を防止することができる。充填率の変動係数は小さければ小さいほど好ましいが、通常は0.1%以上である。
【0041】
充填率の変動係数は、シンチレータ層における蛍光体の充填率のばらつきの程度を示す指標値となるものである。充填率の変動係数は、シンチレータ層上で縦、横を10分割し生成した100区画で充填率を測定し、各測定区画における充填率から求めた平均充填率Dav、充填率の標準偏差Ddevを用いて下記式により算出する。
【0042】
充填度の変動係数=Ddev/Dav(%)
ここで、Ddev:充填率の標準偏差
av :平均充填率
充填率の変動係数を20%以下にするためには、シンチレータ層の製造装置において用いる蒸発源の配置を制御することで行うことができる。例えば、複数の蒸発源を円の円周上に配置することで行うことができるが、さらに円の中心部にも蒸発源が配置されることがより好ましい。さらに複数の蒸発源が半径の異なる複数の同心円の円周上に配置されることがより好ましい。また塗布法によりシンチレータ層を形成する場合には、塗布時に用いる塗布装置のスリット形状を精密研磨により制御することにより行うことができる。
【0043】
(シンチレータ層、蛍光体)
シンチレータ層を形成する蛍光体材料としては、種々の公知の蛍光体材料を使用することができるが、セシウムハライド系蛍光体であるヨウ化セシウム(CsI)が好ましい。ヨウ化セシウム(CsI)は、エックス線から可視光への変換率が比較的高く、蒸着によって容易に蛍光体を柱状結晶構造に形成できるため、光ガイド効果により結晶内での発光光の散乱が抑えられ、シンチレータ層の厚さを厚くすることが可能である。
【0044】
但し、CsIのみでは発光効率が充分でないために、各種の賦活剤が添加される。例えば、特公昭54−35060号の如く、CsIとヨウ化ナトリウム(NaI)を任意のモル比で混合したものが挙げられる。また、例えば特開2001−59899号公報に開示されているように、CsIを蒸着で、インジウム(In)、タリウム(Tl)、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、ナトリウム(Na)などの賦活物質をスパッタで同時形成することができる。
【0045】
また、タリウムを含有するCsIのシンチレータ層を形成するための原材料としては、1種類以上のタリウム化合物を含む添加剤とヨウ化セシウムとが、好ましく用いられる。タリウム賦活ヨウ化セシウム(CsI:Tl)は400nmから750nmまでの広い発光波長を持つことから好ましい。
【0046】
1種類以上のタリウム化合物を含有するタリウム化合物としては、種々のタリウム化合物(+Iと+IIIの酸化数の化合物)を使用することができる。好ましいタリウム化合物は、臭化タリウム(TlBr)、塩化タリウム(TlCl)、またはフッ化タリウム(TlF、TlF)等である。
【0047】
また、タリウム化合物の融点(常温常圧下における融点)は、発光効率の面から、400〜700℃の範囲内にあることが好ましい。また、タリウム化合物の分子量は206〜300の範囲内にあることが好ましい。
【0048】
シンチレータ層において、当該賦活剤の含有量は目的性能等に応じて最適量にすることが望ましいが、ヨウ化セシウムの含有量に対して、0.01〜20モル%であるのが好ましく、0.05〜5モル%であるのがより好ましい。
【0049】
さらに、本発明においては、上記したCsI:Tl以外にも各種のものが利用可能である。他の一例として、
基本組成式(I):MX・aMIIX’・bMIIIX”:zA
で示されるアルカリ金属ハロゲン化物系蛍光体が利用可能である。
【0050】
上記式において、MはLi、Na、K、RbおよびCsからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、ZnおよびCdからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ土類金属または二価金属を表し、MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、GaおよびInからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素または三価金属を表す。また、X、X’およびX”はそれぞれ、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも一種のハロゲンを表し、Aは、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、TlおよびBiからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素または金属を表す。また、a、bおよびzはそれぞれ、0≦a<0.5、 0≦b<0.5、 0<z<1.0の範囲内の数値を表す。
【0051】
また、上記基本組成式(I)中のMとしては少なくともCsを含んでいることが好ましく、Xとしては少なくともIを含んでいることが好ましく、Aとしては特にTlまたはNaであることが好ましい。zは1×10−4≦z≦0.1の範囲内の数値であることが好ましい。
【0052】
また、
基本組成式(II):MIIFX:zLn
で示される希土類賦活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系蛍光体も好ましい材料である。
【0053】
上記式において、MIIはBa、SrおよびCaからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ土類金属を表し、LnはCe、Pr、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Nd、Er、TmおよびYbからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素を表す。Xは、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも一種のハロゲンを表す。また、zは、0<z≦0.2の範囲内の数値を表す。なお、上記式中のMIIとしては、Baが半分以上を占めることが好ましい。Lnとしては、特にEuまたはCeであることが好ましい。
【0054】
また、他に、LnTaO:(Nb、Gd)系、LnSiO:Ce系、LnOX:Tm系(Lnは希土類元素である)、GdS:Tb、GdS:Pr、Ce、ZnWO、LuAlO:Ce、GdGa12:Cr、Ce、HfO等を挙げることができる。
【0055】
(反射層)
反射層は、シンチレータ層の蛍光体から発した光を反射して、光の取り出し効率を高めるためのものである。当該反射層は、シンチレータ層からの光を反射すると同時に放射線透過性を有し、Al、Ag、Cr、Cu、Ni、Ti、Mg、Rh、PtおよびAuからなる元素群の中から選ばれるいずれかの元素を含む材料により形成されることが好ましい。特に、上記の元素からなる金属薄膜、例えば、Ag膜、Al膜などを用いることが好ましい。また、このような金属薄膜を2層以上形成するようにしても良い。
【0056】
なお、反射層の厚さは、発光光取り出し効率の観点から、0.005〜0.3μm、より好ましくは0.01〜0.2μmであることが好ましい。
【0057】
(酸化物層)
反射層とシンチレータ層の間にはさらに少なくとも1層からなる酸化物層を設けても良い。酸化物層を設けることで反射率が向上し、輝度向上の効果がある。
【0058】
酸化物層としては金属酸化物を含むことが好ましく、SiO、TiOなどが挙げられる。酸化物層は、複数の酸化物層からなることがより好ましい。酸化物層の厚さは、輝度向上、腐食防止の観点から0.005〜0.3μmが好ましく、より好ましくは0.01〜0.2μmである。
【0059】
(耐湿保護層)
耐湿保護層は、シンチレータ層を湿気から保護を主眼とするものである。すなわち、ヨウ化セシウム(CsI)は、吸湿性が高く露出したままにしておくと空気中の水蒸気を吸湿して潮解してしまうため、これを防止することを主眼とする。本発明においては、耐湿保護層は、単にシンチレータ層を覆うのみならず、センサー基板の保護層や下引層も含めて全体を覆うように構成されることが望ましい。
【0060】
当該耐湿保護層は種々の材料を用いて形成することができるが、最も好適には、CVD法によりポリパラキシリレン膜を形成することである。すなわち、撮像パネル110の少なくとも上面と端面を覆うようにポリパラキシリレン膜を形成し、耐湿保護層とすることができる。ポリパラキシリレンは、非常に低い透湿性を示し、隙間浸透性にも優れているので、CVD法で膜形成することにより、本発明の耐湿保護膜として好適である。
【0061】
また、耐湿保護層は、耐湿保護層用の塗布液を前記シンチレータ層の表面に直接塗布して形成してもよく、また、予め別途形成した耐湿保護層を前記蛍光体層に接着したり、包み込むことにより封止してもよい。予め別途形成した耐湿保護層として有機フィルムを用いる場合、その構成例としては、保護層(最外層)/防湿層/熱溶着層(最内層)の構成を有した多層積層材料が挙げられる。また、上記各層は必要に応じて多層とすることも可能である。
【0062】
上記の有機フィルムを保護フィルムとして用いる場合、保護フィルムによって撮像パネル110が真空封止されていることが好ましい。真空封止は、撮像パネル110の上面と底面に保護フィルムを密着させ、真空装置で減圧したのち、2枚の保護フィルムの端面を熱融着させることで可能である。
【0063】
さらには、耐湿保護層は、蒸着法やスパッタリング法などにより、SiC、SiO、SiN、Alなどの無機物質を積層して形成してもよい。
【0064】
上記耐湿保護層の厚さは、空隙部の形成性、シンチレータ層の耐湿保護性、鮮鋭性、防湿性、作業性等を考慮し、12μm以上、100μm以下が好ましく、さらには20μm以上、60μm以下が好ましい。
【0065】
耐湿保護層のヘイズ率は、鮮鋭性、放射線画像ムラ、製造安定性、作業性等を考慮し、3%以上、40%以下であることが好ましく、更には3%以上、10%以下であることがより好ましい。ヘイズ率は、曇りの度合いを表す指標(数値が大きくなると、曇りの度合いも大きくなる)であり、全光線透過率に対する散乱光透過率の割合(%)で表された値である。
【0066】
耐湿保護層の光透過率は、光電変換効率、シンチレータ発光波長等を考慮し、550nmで70%以上あることが好ましいが、99%以上の光透過率のフィルムは工業的に入手が困難であるため、実質的に99〜70%が好ましい範囲となる。
【0067】
耐湿保護層の透湿度はシンチレータ層の保護性、潮解性等を考慮し、50g/m・day(40℃・90%RH)(JIS Z0208に準じて測定、以下同様)以下が好ましく、更には10g/m・day(40℃・90%RH)以下が好ましいが、0.01g/m・day(40℃・90%RH)以下の透湿度のフィルムは工業的に入手が困難であるため、実質的に0.01g/m・day(40℃・90%RH)以上、50g/m・day(40℃・90%RH)以下が好ましく、さらには0.1g/m・day(40℃・90%RH)以上、10g/m・day(40℃・90%RH)以下が好ましい範囲となる。
【0068】
シンチレータ層上に配置される耐湿保護層や反射層については、耐湿保護層、反射層の順でもよいし、反射層、耐湿保護層の順に配置されても良い。また耐湿保護層は反射層を兼ねたものであっても良い。さらには、耐湿保護層に平坦化層の機能を持たせることもできる。
【0069】
(シンチレータ層の作製方法)
本発明においては、基板上にフォトダイオードやトランジスタ(TFT)等からなる画素が2次元状に形成された光電変換部を形成した後、保護層および下引層を介してシンチレータ層を設け、さらにその上に耐湿保護層や反射層を配置することで、放射線画像検出装置とする。
【0070】
本発明のシンチレータ層を作製する作製方法の具体例について、図を参照しながら説明する。図3は、本発明の放射線画像検出装置の作製に用いる蒸着装置61の概略構成を示す図面である。図3に示すように、蒸着装置61は真空容器62を備えており、真空容器62には真空容器62の内部の排気および大気の導入を行う真空ポンプ66が備えられている。真空容器62の内部の上面付近には、基板Bを保持する基板ホルダ64が設けられている。なお、基板Bという用語は、蒸着装置61において一般的な説明を行う際に用いる。
【0071】
センサー基板は、公知の方法で作製されるが、基板113上に、アモルファスシリコンからなるフォトダイオード(光電変換素子)、TFT、およびAlの配線からなる画素サイズ160μm×160μmの画素を2次元的に配置して光電変換部112を構成したものである。
【0072】
このセンサー基板上に保護層21、下引層20を設けた後、シンチレータ層14を気相堆積法によって形成する。気相堆積法としては、蒸着法、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法その他を用いることができるが、本発明では特に蒸着法が好ましい。
【0073】
基板ホルダ64は、センサー基板のうち前記シンチレータ層14を形成する面が真空容器62の底面に対向し、かつ真空容器62の底面と平行となるようにセンサー基板を保持する構成となっている。
【0074】
また、基板ホルダ64には、基板Bを加熱する加熱ヒーター(図示せず)を備えることが好ましい。この加熱ヒーターで基板Bを加熱することによって、基板Bの基板ホルダ64に対する密着性の強化や、前記蛍光体の膜質調整を行う。また、基板Bの表面の吸着物を離脱・除去し、基板Bの表面と後述する蛍光体との間に不純物層が発生することを防止する。
【0075】
また、加熱手段として温媒または熱媒を循環させるための機構(図示せず)を有していてもよい。この手段は蛍光体の蒸着時における基板Bの温度を50〜150℃といった比較的低温に保持して蒸着する場合に適している。
【0076】
また、加熱手段としてハロゲンランプ(図示せず)を有していてもよい。この手段はシンチレータの蒸着時における基板Bの温度を150℃以上といった比較的高温に保持して蒸着する場合に適している。
【0077】
さらに、基板ホルダ64には、基板Bを水平方向に回転させる基板回転機構65が設けられている。基板回転機構65は、基板ホルダ64を支持すると共に基板Bを回転させる基板回転軸67および真空容器62の外部に配置されて基板回転軸67の駆動源となるモータ(図示せず)から構成されている。
【0078】
また、真空容器62の内部の底面付近には、基板Bに垂直な中心線を中心とした円の円周上の互いに向かい合う位置に蒸発源63a、63bが配置されている。この場合において、基板Bと蒸発源63a、63bとの間隔は100mm〜1500mmとされるのが好ましく、より好ましくは200mm〜1000mmである。また、基板Bに垂直な中心線と蒸発源63a、63bとの間隔は100mm〜1500mmとされるのが好ましく、より好ましくは200mm〜1000mmである。
【0079】
なお、本発明の蒸着装置においては、3個以上の多数の蒸発源を設けることも可能であり、各々の蒸発源は等間隔に配置してもよく、間隔を変えて配置してもよい。また、基板Bに垂直な中心線を中心とした円の半径は任意に定めることができる。本発明においては複数の蒸発源が円の円周上に配置されることが好ましいが、さらに円の中心部にも蒸発源63cを配置することや複数の同心円上に複数の蒸発源を配置することで、FPD等の大サイズのパネルに使用する場合でも、シンチレータ層の蛍光体の充填率の変動係数を20%以下とすることができ、耐衝撃性や耐湿性を良好にすることができる。
【0080】
蒸発源63a、63b、63cは、蛍光体を収容して抵抗加熱法で加熱するため、ヒーターを巻いたアルミナ製のるつぼから構成しても良いし、ボートや、高融点金属からなるヒーターから構成しても良い。また、蛍光体を加熱する方法は、抵抗加熱法以外に電子ビームによる加熱や、高周波誘導による加熱等の方法でも良いが、本発明では比較的簡単な構成で取り扱いが容易、安価、かつ、非常に多くの物質に適用可能である点から直接電流を流し抵抗加熱する方法や、周りのヒーターでるつぼを間接的に抵抗加熱する方法が好ましい。また、蒸発源63a、63b、63cは分子源エピタキシャル法による分子線源でも良い。
【0081】
また、蒸発源63a、63b、63cと基板Bとの間には、蒸発源63a、63b、63cから基板Bに至る空間を遮断するシャッタ68が水平方向に開閉自在に設けられており、このシャッタ68によって、蒸発源63a、63b、63cにおいて蛍光体の表面に付着した目的物以外の物質が蒸着の初期段階で蒸発し、基板Bに付着するのを防ぐことができるようになっている。
【0082】
以上の蒸着装置61を用いた製造方法によれば、複数の蒸発源63a、63b、63cを設けることによって蒸発源63a、63b、63cの蒸気流が重なり合う部分が整流化され、基板Bの表面に蒸着する蛍光体の結晶性を均一にすることができる。このとき、多数の蒸発源を設けるほど多くの箇所で蒸気流が整流化されるため、より広範囲において蛍光体の結晶性を均一にすることができる。また、蒸発源63a、63bを基板Bに垂直な中心線を中心とした円の円周上に配置することによって、蒸気流の整流化によって結晶性が均一になるという作用を、基板Bの表面において等方的に得ることができる。
【0083】
また、基板回転機構65によって基板Bを回転しながら後述する蛍光体の蒸着を行うことによって、基板Bの表面により均一に蛍光体を蒸着させることができる。
【0084】
以上説明した蒸着装置61によりシンチレータ層を形成する。まず、基板ホルダ64にセンサー基板を取付ける。また、真空容器62の底面付近において、蒸発源63(63a、63b、63c)を配置し、蒸発させるべき蛍光体(ヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを含む混合物)を載置する。
【0085】
次いで、真空ポンプ66を作動させて真空容器62の内部を排気し、真空容器62の内部を0.1Pa以下の真空雰囲気下にする。ここでいう「真空雰囲気下」とは、100Pa以下の圧力雰囲気下のことを意味し、0.1Pa以下の圧力雰囲気下であるのが好適である。
【0086】
その後、アルゴン等の不活性ガスを真空容器62の内部に導入し、当該真空容器62の内部を0.1Pa〜5Paの真空雰囲気下に維持する。そして、基板ホルダ64のヒーターと基板回転機構65のモータとを駆動させ、基板ホルダ64に取付け済みのセンサー基板を蒸発源63に対向させた状態で加熱しながら回転させる。
【0087】
この状態において、電極から蒸発源63に電流を流し、ヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを含む混合物を700〜800℃程度で所定時間加熱してその混合物を蒸発させる。
【0088】
その結果、センサー基板の表面に無数の柱状結晶体が順次成長して所望の厚さのシンチレータ層14が形成される。
【0089】
蒸発源63を加熱する温度としては、500℃〜800℃が好ましく、特に630℃〜750℃が好ましい。基板温度は100℃〜250℃が好ましく、特に150℃〜250℃とするのが好ましい。基板温度をこの範囲とすることで、柱状結晶の形状が良好となり、輝度特性が向上する。
【0090】
なお、センサー基板の表面に蛍光体を成長させる工程を複数回に分けて行ってシンチレータ層を形成することも可能である。また、蒸着法においては、蒸着時、必要に応じて、被蒸着体を冷却あるいは加熱しても良い。さらに、蒸着終了後、シンチレータ層を加熱処理(アニール)しても良い。また、蒸着法においては必要に応じてO、Hなどのガスを導入して蒸着する反応性蒸着を行っても良い。
【実施例】
【0091】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0092】
(センサー基板の作成)
厚さ0.7mmのガラス基板上の430mm×430mmの領域に、アモルファスシリコンからなるフォトダイオード(光電変換素子)、TFT、及びAlの配線からなる、画素サイズ160μm×160μmの画素を2次元的に配置して光電変換部を作成した。また、ガラス基板の周囲の領域には、光電変換素子層から読み出される光電変換情報を読み出すIC等の配線部材と電気的に接続するための、Alの取り出し配線および配線接続部を設けた。その後センサー基板上にSiNからなる保護層を設けた。次いで下記の下引層を配線接続部が形成された領域を除いて形成し、センサー基板を得た。
【0093】
(下引層の作製)
ポリウレタン樹脂(ポリカプロラクトン含有 Tg:20℃) 100質量部
ヘキサメチレンジイソシアナート 3質量部
フタロシアニンブルー 0.1質量部
メチルエチルケトン(MEK) 100質量部
トルエン 100質量部
上記処方を混合し、ビーズミルにて15時間分散し、下引層塗設用の塗布液を得た。
【0094】
この塗布液を上記光電変換部112の保護層21上に乾燥膜厚が2.5μmになるように押し出しコーターで塗布した。
【0095】
(シンチレータ層の形成)
基板回転機構を備えた基板ホルダに保護層と下引層を設けた前記センサー基板を設置した。次に、蛍光体原料(CsI:0.8Tlモル%)を蒸着材料として蒸発源るつぼに充填し、8個の蒸発源るつぼを真空容器の内部の底面付近であって、基板に垂直な中心線を中心とした円の円周上に配置した。このとき、基板と蒸発源との間隔を400mmに調節すると共に、基板に垂直な中心線と蒸発源との間隔を300mmに調節した。さらに、8個の遮蔽板を、蒸発源と基板のうち蒸発源に対向する面の中心点とを結ぶ線分上に、遮蔽板の上端部分が接する高さおよび位置となるように配置し、蛍光体が基板に蒸着する際の入射角の範囲を制限するようにした。次に、4個の蒸発源るつぼを真空容器の内部の底面付近であって、基板に垂直な中心線を中心とした円の円周上に配置した。このとき、基板と蒸発源との間隔を400mmに調節すると共に、基板に垂直な中心線と蒸発源との間隔を150mmに調節した。さらに真空容器の内部の底面付近であって、基板に垂直な中心線を中心とした円の中心に1個の蒸発源るつぼを配置した。
【0096】
続いて真空容器の内部を一旦排気し、Arガスを導入して0.02Paに真空度を調整した後、10rpmの速度で基板を回転させながら基板の温度を50℃に保持した。次いで、抵抗加熱によりるつぼ内を所定の温度に上昇させて蛍光体を蒸着開始したのち基板温度を200℃まで上昇させ、蛍光体層(CsI:0.8Tlモル%)の膜厚が470μmとなったところで蒸着を終了させた。
【0097】
(放射線画像検出装置の作成)
蒸着が終了し、シンチレータ層が形成されたシンチレータプレート上にアルミニウムをスパッタすることで反射層(0.1μm)を形成し、その上にCVD法により耐湿保護層としてポリパラキシリレン膜(30μm)を形成し、放射線画像検出装置(装置101)を作成した。
【0098】
(装置102〜116)
装置101の作製において、下引層の厚さ、下引層に使用するバインダー種類、下引層に使用するバインダーのガラス転移温度(Tg)を表1に示すように変更したこと以外は装置101と同様にして作製した。
【0099】
以上の放射線画像検出装置の画像欠陥、耐衝撃性、鮮鋭性を、後述する方法で評価した。
【0100】
《評価》
〈画像欠陥の評価〉
12bitの出力データより発生した画像欠陥数を計測した。ここでの画像欠陥は画像の平均シグナルの90%以下、110%以上のシグナルを示す画素のことである。画像欠陥数は、500ピクセル×500ピクセルあたりの個数を計測した。
【0101】
〈耐衝撃性の評価〉
放射線画像検出装置に対して20cm離れた高さ位置から500gの鉄球を落下させた後、放射線画像検出装置について目視評価した。その後、管電圧80kVpのX線を基板の裏面側から照射し得られたFPD上の画像を出力装置よりプリントアウトし、得られたプリント画像を目視にて以下に示す基準にしたがって耐衝撃性の評価を行った。評価は0.5ランク刻みで行った。
5:ひび割れがなく、また、均一な画像である。
4:ひび割れがなく、画質的にほとんど気にならないレベルである。
3:ひび割れが見られ、画欠が確認されるが、実用上許容できるレベルである。
2:ひび割れが見られ、明らかな画欠が認められ、実用上問題が発生するレベルである。
1:ひび割れが多数見られ、画欠が多く、実用上問題が発生するレベルである。
【0102】
〈鮮鋭性の評価〉
鉛製のMTFチャートを通して管電圧80kVpのX線をFPDの放射線入射面側に照射し、画像データを検出しハードディスクに記録した。その後、ハードディスク上の記録をコンピュータで分析して当該ハードディスクに記録されたX線像の変調伝達関数MTF(空間周波数1サイクル/mmにおけるMTF値)を鮮鋭性の指標とした。表中、MTF値が高いほど鮮鋭性に優れていることを示す。MTFはModulation Transfer Functionの略号を示す。試料101の鮮鋭性(MTF値)を100とする相対値にて示す。
【0103】
評価結果を表1に示す。この表1から、本発明の放射線画像検出装置は、画像欠陥の発生が少なく、耐衝撃性に優れることが分かる。なお、上記実施例では下引層単独の効果を確認するためにシンチレータ層の上面には平坦化層を設けなかったが、下引層と同様の材料を平坦化層に用いれば同様の効果を発揮できることは明らかである。
【0104】
【表1】

【符号の説明】
【0105】
10 耐湿保護層
11 平坦化層
12 反射層
13 酸化物層
14 シンチレータ層
20 下引層
21 保護層
22 光電変換素子層
22a 透明電極
22b 電荷発生層
22c 対電極
23 出力層
61 蒸着装置
62 真空容器
63、63a、63b、63c 蒸発源
64 基板ホルダ
65 基板回転機構
66 真空ポンプ
67 基板回転軸
68 シャッタ
100 放射線画像検出装置
110 撮像パネル
111 シンチレータ部
112 光電変換部
113 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元的に配列された光電変換素子を含むセンサー基板と、前記センサー基板上に配置された保護層と、前記保護層上に配置され表面を平坦化する下引層と、前記下引層上に配置された蛍光体を含むシンチレータ層と、前記シンチレータ層上に配置された耐湿保護層とを有し、前記下引層にガラス転移温度が−30℃〜90℃の樹脂を含有することを特徴とする放射線画像検出装置。
【請求項2】
前記下引層に含まれる樹脂がポリウレタンまたはポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の放射線画像検出装置。
【請求項3】
前記下引層の厚みが4μm〜100μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の放射線画像検出装置。
【請求項4】
前記シンチレータ層上に前記シンチレータ層上面を平坦化する平坦化層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線画像検出装置。
【請求項5】
前記耐湿保護層が前記シンチレータ層上面を平坦化する材料で構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線画像検出装置。
【請求項6】
前記耐湿保護層に含まれる樹脂がポリパラキシリレンであることを特徴とする請求項1に記載の放射線画像検出装置。
【請求項7】
前記シンチレータ層が気相堆積法により形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の放射線画像検出装置。
【請求項8】
前記シンチレータ層がセシウムハライド系蛍光体を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の放射線画像検出装置。
【請求項9】
前記セシウムハライド系蛍光体が賦活剤としてタリウムを含有することを特徴とする請求項8に記載の放射線画像検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−38912(P2011−38912A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187018(P2009−187018)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】