説明

放熱性、耐傷付き性及び導電性に優れたプレコートアルミニウム合金板

【課題】プレス成形性、放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板を提供すること。
【解決手段】Al−Mg−Cu系アルミニウム合金板よりなる基板10と、基板10の一方の面に形成した潤滑性塗膜2と、基板10の他方の面に形成された放熱性塗膜3とよりなる。潤滑性塗膜2は、インナーワックスを含有させた第1の有機樹脂系塗料を塗布して硬化させることにより形成してあり、放熱性塗膜3は、酸化チタン、カーボンブラック、シリカ、酸化ジルコニウムの1種または2種以上よりなる放熱性物質35を含有させた第2の有機樹脂系塗料を塗布して硬化させることにより形成してある。潤滑性塗膜2には、酸化チタン、カーボンブラック、シリカ、酸化ジルコニウムの1種または2種以上よりなる放熱性物質を含有させていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板とそのプレス加工方法に関する。特に、パソコン、CD−ROMドライブ、PDP(プラズマディスプレイパネル)バックパネルなどの筐体、ハイブリッド自動車や電気自動車のインバーター及びECUの筐体、あるいは、電池ケース等に好適に採用され、優れた放熱効果を実現しうる一方、プレス加工時において、塗膜割れや塗膜剥離の発生が有利に防止され、きわめて優れた成形性を実現する両面プレコートアルミニウム合金板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高機能化、高性能化に伴い、電子部品周辺で発生する熱量が増大する傾向にあり、電子部品筐体内部からの熱の放出対策が課題となっている。一方で、小型化、省スペース化の要求から、従来から用いられているファン付きヒートシンクの採用も現実的ではない。
また、電子機器の小型化、軽量化及び形状の複雑化から、高強度のアルミニウム合金を用いながらも優れたプレス加工性及び加工技術が要求されつつある。
したがって、電子部品筐体内の熱をより効率的に放出するために筐体を構成する材料自体に放熱機能を持たせながらも、高強度かつ高プレス成形性の実現が所望されるに至った。
【0003】
例えば、基盤表裏面に導電性フィラーを含有しない放熱性塗膜が被覆された塗装体を用いた場合に、これを用いない場合に比べ、所定の放熱評価装置内の温度を2.6℃以上低下させ得るもの(特許文献1)、アルミニウム板の片面に、有機樹脂微粒子を含有する有機樹脂皮膜を設けたもの(特許文献2)、カーボンブラック、酸化チタン及び亜鉛華を特定量含有し、熱放射率を65%以上としたもの(特許文献3)、一方の面に潤滑性塗膜を、他方の面に導電性塗膜を形成することにより、高い成形性と導電性を実現したもの(特許文献4)、酸化チタン、カーボンブラックを含有する下塗り層の上に樹脂ビーズを分散させた上塗り層を設け、他方の面に導電性塗膜を被覆することにより、優れた放熱性、耐傷つき性及び導電性を実現しようとしたもの(特許文献5)などがある。
【0004】
しかしながら、電子機器筐体等に用いられるアルミニウム合金板としては、特に、その成形性と放熱性が重要であるが、未だ改善の余地があり、その特性をさらに向上させることが必要である。
【0005】
【特許文献1】特開2004−74145号公報
【特許文献2】特開2002−149083号公報
【特許文献3】特開2004−160979号公報
【特許文献4】特開2004−093964号公報
【特許文献5】特開2003−311791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、プレス成形性、放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、Al−Mg−Cu系アルミニウム合金板よりなる基板と、該基板の一方の面に形成した潤滑性塗膜と、上記基板の他方の面に形成した放熱性塗膜とよりなり、
上記潤滑性塗膜は、ベース樹脂100重量部に対して、インナーワックスを0.2〜5.0重量部含有させた第1の有機樹脂系塗料を塗布して硬化させることにより形成してあり、
上記放熱性塗膜は、ベース樹脂100重量部に対して、必須の放熱性物質として、酸化チタンを3〜60重量部とカーボンブラックを0.2〜15重量部含有させた第2の有機樹脂系塗料を塗布して硬化させることにより形成してあることを特徴とするプレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板にある(請求項1)。
【0008】
本発明の両面プレコートアルミニウム合金板は、上記基板として、Al−Mg−Cu系アルミニウム合金板を積極的に採用する。これにより、Al−Mg−Cu系アルミニウム合金の高強度でかつ優れた成形性を有する特性を生かし、電子機器筐体等に最適な小型軽量化を実現することができる。
【0009】
また、上記両面プレコートアルミニウム合金板は、上記基板の一方の面に、特に金型との潤滑性(成形性)に優れた上記潤滑性塗膜を設け、他方の面に特に放熱性を重視した上記放熱性塗膜を設けている。そして、この構成を用いることによって、優れた放熱性と優れた成形性を十分に得ることができるのである。
すなわち、後述する加工方法にもあるように、成形時に特に潤滑性能が必要な側に上記潤滑性塗膜を配置して加工することによって、上記インナーワックスの潤滑作用によって非常に優れた成形性を確保することができる。そして、一方、放熱性については、上記放熱性塗膜に含有される放熱性物質の作用によって優れた放熱性をも確保することができる。
【0010】
上記放熱性塗膜には、必須の放熱性物質として、上記特定量の酸化チタンとカーボンブラックとを選択している。これにより、放熱性塗膜における適度な成形性および塗膜の健全性を維持しつつ非常に優れた放熱性を確保することができるのである。
また、上記潤滑性塗膜に含有させるインナーワックスの量も、上記特定の量に限定している。これにより、塗膜の健全性を維持しつつ非常に優れた成形性を確保することができるのである。
【0011】
第2の発明は、加工穴を有するダイスと、上記加工穴に挿入可能なポンチとにより第1の発明の両面プレコートアルミニウム合金板をプレス加工する方法において、
上記両面プレコートアルミニウム合金板における上記潤滑性塗膜が形成された面を上記ダイス側に位置させ、上記放熱性塗膜が形成された面を上記ポンチ側に位置させることを特徴とするプレス加工方法にある(請求項14)。
【0012】
このプレス加工方法によれば、上記のごとく、上記両面プレコートアルミニウム合金板における上記潤滑性塗膜が形成された面をダイス側に位置させ、放熱性塗膜側をポンチ側に位置させてプレス加工する。そのため、得ようとするプレス品が例えば筐体の場合に、その内面側すなわち熱源側に放熱性塗膜を配置することができ、放熱性すなわち熱吸収性に優れた筐体を得ることができる。また、筐体外面側すなわちプレス加工の際のダイスと接する側に潤滑性塗膜を配置することができ、プレス成形性に優れ、かつ潤滑性塗膜中に含まれる樹脂ビーズにより塗膜の傷付きを防止することができ、意匠性にも優れた筐体を得ることができる。さらに、アルミニウム合金板よりなる基板と上記潤滑性塗膜との間に顔料不含の塗膜を配置した場合には、潤滑性塗膜の密着性をさらに高めることができ、よりいっそう塗膜割れや塗膜剥離、欠損等の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の両面プレコートアルミニウム合金板においては、上記のごとく、上記第1の有機樹脂系塗料として、ベース樹脂100重量部に対して、インナーワックスを0.2〜5.0重量部含有させたものを用いる。
上記インナーワックスの含有量が上記ベース樹脂100重量部に対し0.2重量部未満では成形性が低下し、インナーワックスの含有量がベース樹脂100重量部に対して5.0重量部を超える場合には、成形時に板同士がくっついた状態になるブロッキングが発生してトラブルが生じやすくなるおそれがある。
なお、上記インナーワックスとしては、例えば、ラノリン、カルナバ、ポリエチレン等がある。
【0014】
また、上記第2の有機樹脂系塗料としては、上記ベース樹脂100重量部に対して、必須の放熱性物質として、酸化チタンを3〜60重量部とカーボンブラックを0.2〜15重量部含有させたものを用いる。
上記放熱性物質としての酸化チタンの含有量が上記ベース樹脂100重量部に対して3重量部未満の場合には放熱性が十分に得られないおそれがあり、一方、60重量部を超える場合には、プレス成形時に塗膜から酸化チタンが脱落する割合が増加するおそれがある。また放熱性物質としてのカーボンブラックの含有量が上記ベース樹脂100重量部に対して0.2重量部未満では放熱性が十分に得られないおそれがあり、一方、15重量部を超える場合には、プレス成形時に塗膜からカーボンブラックが脱落する割合が増加するおそれがある。
なお、酸化チタンおよびカーボンブラックという必須の放熱性物質の他に、シリカ、酸化ジルコニウム等の他の放熱性物質を含有させることも可能である。
【0015】
また、上記第1の有機樹脂系塗料は、数平均分子量5000〜30000のポリエステル樹脂よりなるベース樹脂を主成分として含有するポリエステル樹脂系塗料を用いてなり、硬化後の上記潤滑性塗膜の膜厚が1〜40μmであることが好ましい(請求項2)。
上記ポリエステル樹脂の数平均分子量が5000未満では塗膜が硬くなりすぎるため、成形性が悪くなり、一方、数平均分子量が30000を超える場合には塗膜が軟らかく耐傷つき性が低下するおそれがある。
上記潤滑性塗膜の硬化後の膜厚が1μm未満では成形性が低下し、40μmを超える場合にはコストの上昇を招くおそれがある。
【0016】
また、上記第2の有機樹脂系塗料は、数平均分子量5000〜30000のポリエステル樹脂よりなるベース樹脂を主成分として含有するポリエステル樹脂系塗料を用いてなり、硬化後の上記放熱性塗膜の膜厚が0.5〜40μmであることが好ましい(請求項3)。
上記ポリエステル樹脂の数平均分子量が5000未満では塗膜が硬くなりすぎるため、成形性が悪くなり、一方、数平均分子量が30000を超える場合には塗膜が軟らかく耐傷つき性が低下するおそれがある。
上記放熱性塗膜の硬化後の膜厚が0.5μm未満の場合には放射率が低く、放熱性が劣るという問題があり、一方、40μmを超える場合には、コストの上昇を招くおそれがある。
【0017】
また、上記潤滑性塗膜には、酸化チタン、カーボンブラック、シリカ、酸化ジルコニウムの1種または2種以上よりなる放熱性物質を含有させていることが好ましい(請求項4。すなわち、上記放熱性物質を、上記放熱性塗膜だけでなく、上記潤滑性塗膜にも含有させることが好ましい。これにより、放熱性をさらに高めることができる。
【0018】
また、上記放熱性塗膜には、導電性物質を含有させていることが好ましい(請求項5)。これにより、上記放熱性塗膜は、放熱性に加えて導電性にも優れたものとなり、導電性が要求される用途への適用も可能となる。また、導電性物質は、一般に放熱性にも優れる場合が多いので、放熱性向上効果も高めることができる。
【0019】
また、上記放熱性塗膜には、粒子状合成樹脂よりなる樹脂ビーズを含有させていることが好ましい(請求項6)。この場合には、上記樹脂ビーズの存在によって耐傷付き性を格段に向上させることができる。
【0020】
また、上記第2の有機樹脂系塗料には、0.2〜5μmの平均厚さ及び2〜50μmの平均長径を有する鱗片状のNiフィラー、または1〜40μmの平均粒径を有する球状のNiフィラーの1種又は2種よりなる導電性物質が含有されており、その含有量は、上記ベース樹脂100重量部に対して1〜70重量部であることが好ましい(請求項7)。
【0021】
上記燐片状のNiフィラーの平均厚みが0.2μm未満もしくは平均長径が2μm未満の場合には導電性が不足し、一方、平均厚みが5μmを超える場合もしくは平均長径が50μmを超える場合には鱗片状Niフィラーが塗膜から脱落する割合が増加するおそれがある。
上記球状Niフィラーの平均粒径が1μm未満の場合には導電性が不足し、40μmを超える場合には球状Niフィラーがプレス成形時に塗膜から脱落する割合が増加するおそれがある。
上記導電性物質の含有量(上記2種含有させる場合にはその合計)が、ベース樹脂100重量部に対して1重量部未満の場合には導電性が不足し、70重量部を超える場合にはプレス成形時に導電性物質が塗膜から脱落する割合が増加するおそれがある。
【0022】
また、上記第2の有機樹脂系塗料には、粒径1〜120μmであると共に上記放熱性塗膜の膜厚の1〜3倍の粒径を有する粒子状合成樹脂よりなる樹脂ビーズが含有されており、その含有量は、上記ベース樹脂100重量部に対して1〜100重量部であることが好ましい(請求項8)。
【0023】
上記樹脂ビーズの粒径が1μm未満の場合には耐傷つき性が不足し、120μmを超える場合には、塗膜から樹脂ビーズが脱膜する割合が増加するおそれがある。
上記樹脂ビーズの粒径が上記放熱性塗膜の膜厚の1倍未満の場合には耐傷つき性が十分に得られない場合があり、一方、上記放熱性塗膜の膜厚の3倍を超える場合には塗膜から樹脂ビーズが脱落する割合が増加するおそれがある。
上記樹脂ビーズの含有量が、上記ベース樹脂100重量部に対して1重量部未満の場合には耐傷つき性が増大し、100重量部を超える場合には塗膜から樹脂ビーズが脱落する割合が増加するおそれがある。
【0024】
また、上記第2の有機樹脂系塗料には、インナーワックスが含有されており、その含有量は、上記ベース樹脂100重量部に対して0.5〜5.0重量部であることが好ましい(請求項9)。
この場合には、上記放熱性塗膜側の成形性も格段に向上させることができる。上記インナーワックスの含有量が上記ベース樹脂100重量部に対し0.5重量部以下ではインナーワックスによる上記放熱性塗膜側の成形性向上効果が少なく、5.0重量部を超える場合にはコストの上昇を招くおそれがある。
【0025】
また、上記基板の表面には、基板と塗膜との密着性を向上させる下地処理層が形成されていることが好ましい(請求項10)。
この場合には、上記下地処理層の存在によって、基板と塗膜の密着性を高めることができるので、優れた成形性を確保することができる。
上記下地処理層としては、クロム酸クロメートやリン酸クロメート等によるクロメート処理、クロム化合物以外のリン酸チタンやリン酸ジルコニウム、リン酸モリブデン、リン酸亜鉛等によるノンクロメート処理等の従来からの化学皮膜処理、化成処理等により形成することができる。
【0026】
また上記潤滑性塗膜と上記基板との間には、顔料不含の第3の有機樹脂系塗料を塗布して硬化させることにより形成した中間塗膜層を有していることが好ましい(請求項11)。この場合には、上記中間塗膜層の存在によって、成形時の塗膜の追従性が向上し、さらに成形性を高めることができる。
また、上記下地処理層を設けた場合には、基板と上記中間塗膜層との間に上記下地処理層が存在することとなる。
【0027】
また、上記第3の有機樹脂系塗料は、数平均分子量5000〜30000のポリエステル樹脂よりなるベース樹脂を主成分として含有するポリエステル樹脂系塗料を用いてなり、硬化後の上記中間塗膜層の膜厚が1〜20μmであることが好ましい(請求項12)。
上記第3の有機樹脂系塗料における上記ポリエステル樹脂の数平均分子量が5000未満では塗膜が硬くなりすぎるため、成形性が悪くなり、一方、数平均分子量が30000を超える場合には塗膜が軟らかく塗膜が剥離するおそれがある。
上記中間塗膜層の膜厚が1μm未満の場合には、成形時における塗膜の追従性が不足して成形性が低下するおそれがあり、20μmを超える場合には、コスト上昇を招くおそれがある。
【0028】
また、上記基板は、Mg:4.0〜5.5%(質量%、以下同じ)、Cu:0.25〜0.45%を含有し、残部は不可避的不純物とAlとからなると共に、JIS5号試験片による引張強さが250〜350MPa、耐力が80〜190MPa、伸びが20〜40%であることが好ましい(請求項13)。
【0029】
Mg含有量が4.0%未満の場合には、所定の強度が得にくくなるというおそれがあり、一方、5.5%を超える場合には、熱間圧延がしにくくなるおそれがある。
Cu含有量が0.25%未満の場合には、所定の強度が得にくくなるというおそれがあり、一方、0.45%を超える場合には、成形性が劣り、かつ耐食性も劣るおそれがある。
【0030】
上記引張強さが250MPa未満の場合には、筐体として充分な引張強度を得られないがために、成形はできるものの、その後の衝撃等で割れやすくなるおそれがあり、一方、350MPaを超える場合には、プレス加工時に割れやすくなるおそれがある。
上記耐力が80MPa未満の場合には、筐体として充分な耐力を得られないがために、成形はできるもののその後の衝撃等で変形しやすくなるおそれがあり、一方、190MPaを超える場合には、プレス加工時に割れやすくなるおそれがある。
上記伸びが20%未満の場合には、プレス加工時に割れやすくなるおそれがあり、一方、40%を超える場合には、成形はできるものの、軟らかすぎることから、その後の衝撃で変形しやすくなるおそれがある。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってのみ限定されるものではない。
本例では、本発明の実施例及び比較例として複数種類の試料(両面プレコートアルミニウム合金板)を作製しその特性を評価した。
【0032】
各試料を作製するに当たっては、まず、基板として、Mg:4.0〜5.5%(質量%、以下同じ)、Cu:0.25〜0.45%を含有し、JIS5号試験片による引張り強さが250〜350MPa、耐力が80〜190MPa、伸びが20〜40%を満たす厚さ1mmのアルミニウム合金板を使用した。
【0033】
また、上記基板には、塗装前の下地処理を施した。具体的には、市販のアルカリ系脱脂剤で上記基板を脱脂後、リン酸クロメート浴中でリン酸クロメート処理を実施した。クロメート皮膜量は皮膜中のCr含有量として20±5mg/m2である。
【0034】
塗装処理は、下地処理後の上記基板の一方の面に対して所定の塗料をバーコーターを用いて塗布し、アルミニウム表面の温度が230℃になるよう240℃のオーブンの中で60秒焼付、硬化することにより各塗膜を形成した。また、同様に他方の面に対しても所定の塗料をバーコーターを用いて塗布し、アルミニウム表面の温度が230℃になるよう240℃のオーブンの中で60秒焼付、硬化することにより各塗膜を形成した。
なお、形成された塗膜は表1および表2に示す。
【0035】
また、作製した試料(両面プレコートアルミニウム合金板1)の代表的な構成を図1に示す。同図に示すごとく、各試料は、Al−Mg−Cu系アルミニウム合金板よりなる基板10と、該基板10の一方の面に形成した潤滑性塗膜2と、上記基板10の他方の面に形成された放熱性塗膜3とよりなる。潤滑性塗膜2は、インナーワックスを含有させた第1の有機樹脂系塗料を塗布して硬化させることにより形成してあり、放熱性塗膜3は、酸化チタンとカーボンブラックよりなる放熱性物質35を含有させた第2の有機樹脂系塗料を塗布して硬化させることにより形成してある。また、各塗膜2、3は、基板10の表面に形成された化成皮膜層8を介して形成してある。なお、各塗膜2、3内には、Niフィラーや樹脂ビーズを含有させる場合もある(図示略)。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
本例では、各試料について、プレス成形性、放熱性(赤外線積分放射率)、導電性、および耐傷つき性についての評価を実施し、それぞれレベル3以上を合格とした。
<プレス成形性>
潤滑性塗膜が形成された側の面をダイス側に位置させ、下記の条件で深絞り加工を施し、ダイス側の面に塗膜割れの発生しない最大の深さを成形高さと定義しプレス成形性の評価を行った。
(加工条件)
ダイス径:φ52.8mm、ポンチ径:φ50mm、ポンチ肩部の曲率半径:5mm、板押えダイス肩部の曲率半径:5mm、板押え力:34kN、潤滑油:使用せず。
(評価基準)
レベル1:12mm以下、レベル2:12mm超え13mm以下、レベル3:13mm超え14mm以下、レベル4:14mm超え15mm以下、レベル5:15mm超え
【0039】
<赤外線積分放射率>
赤外線積分放射率は、PERKIN ELMER FT-IR Spectrometer 1725Xを用い、波長が2.5〜25μmの範囲で、各波長の赤外線反射率を測定し、各波長の入射光から反射光を差し引いたものを各波長の吸収率≒反射率と定義した。各波長の反射率を波長が2.5〜25μmの範囲で積分し赤外線積分放射率とした。評価基準は以下の通りであり、レベル3以上を合格とした。
(評価基準)
レベル1:60%未満、レベル2:60%以上70%未満、レベル3:70%以上80%未満、レベル4:80%以上90%未満、レベル5:90%以上
【0040】
<導電性>:導電性塗装板の評価に使用
塗装板の塗膜の一部をスクレイパーで削り落とし、アルミニウム素地に直接にテスターの一方の端子を接続し、もう一方の端子には、先端が球状で、自重100gの銅製電極を接続し、塗装板に垂直に接触するよう、補助具で電極を支持した。そのときの電気抵抗値を読み取り評価に用いた。評価基準は以下の通りであり、レベル3以上を合格とした。
(評価基準)
レベル1:1000Ω以上、レベル2:500Ω以上1000Ω未満、レベル3:50Ω以上500Ω未満、レベル4:10Ω以上50Ω未満、レベル5:10Ω未満
【0041】
<耐傷つき性>:耐傷つき性塗装板の評価に使用
バウデン試験にて、荷重500g、1/4インチの鋼球を100回摺動させたときの摺動痕跡の幅を評価に用いた。評価基準は、以下の通りであり、レベル2以上を合格とした。
(評価基準)
レベル1:1.0mm以上、レベル2:0.5mm以上1.0mm未満、レベル3:0.3mm以上0.5mm未満、レベル4:0.1mm以上0.3mm未満、レベル5:0.1未満
【0042】
【表3】

【0043】
評価の結果は表3に示すとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例における、両面プレコートアルミニウム合金板の構成を示す説明図。
【符号の説明】
【0045】
1 プレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板
10 基板
2 潤滑性塗膜
3 放熱性塗膜
35 放熱性物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al−Mg−Cu系アルミニウム合金板よりなる基板と、該基板の一方の面に形成した潤滑性塗膜と、上記基板の他方の面に形成した放熱性塗膜とよりなり、
上記潤滑性塗膜は、ベース樹脂100重量部に対して、インナーワックスを0.2〜5.0重量部含有させた第1の有機樹脂系塗料を塗布して硬化させることにより形成してあり、
上記放熱性塗膜は、ベース樹脂100重量部に対して、必須の放熱性物質として、酸化チタンを3〜60重量部とカーボンブラックを0.2〜15重量部含有させた第2の有機樹脂系塗料を塗布して硬化させることにより形成してあることを特徴とするプレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板。
【請求項2】
請求項1において、上記第1の有機樹脂系塗料は、数平均分子量5000〜30000のポリエステル樹脂よりなるベース樹脂を主成分として含有するポリエステル樹脂系塗料を用いてなり、硬化後の上記潤滑性塗膜の膜厚が1〜40μmであることを特徴とするプレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記第2の有機樹脂系塗料は、数平均分子量5000〜30000のポリエステル樹脂よりなるベース樹脂を主成分として含有するポリエステル樹脂系塗料を用いてなり、硬化後の上記放熱性塗膜の膜厚が0.5〜40μmであることを特徴とするプレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、上記潤滑性塗膜には、酸化チタン、カーボンブラック、シリカ、酸化ジルコニウムの1種または2種以上よりなる放熱性物質を含有させていることを特徴とするプレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、上記放熱性塗膜には、導電性物質を含有させていることを特徴とするプレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、上記放熱性塗膜には、粒子状合成樹脂よりなる樹脂ビーズを含有させていることを特徴とするプレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項において、上記第2の有機樹脂系塗料には、0.2〜5μmの平均厚さ及び2〜50μmの平均長径を有する鱗片状のNiフィラー、または1〜40μmの平均粒径を有する球状のNiフィラーの1種又は2種よりなる導電性物質が含有されており、その含有量は、上記ベース樹脂100重量部に対して1〜70重量部であることを特徴とするプレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項において、上記第2の有機樹脂系塗料には、粒径1〜120μmであると共に上記放熱性塗膜の膜厚の1〜3倍の粒径を有する粒子状合成樹脂よりなる樹脂ビーズが含有されており、その含有量は、上記ベース樹脂100重量部に対して1〜100重量部であることを特徴とするプレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項において、上記第2の有機樹脂系塗料には、インナーワックスが含有されており、その含有量は、上記ベース樹脂100重量部に対して0.5〜5.0重量部であることを特徴とするプレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項において、上記基板の表面には、基板と塗膜との密着性を向上させる下地処理層が形成されていることを特徴とするプレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項において、上記潤滑性塗膜と上記基板との間には、顔料不含の第3の有機樹脂系塗料を塗布して硬化させることにより形成した中間塗膜層を有していることを特徴とするプレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板。
【請求項12】
請求項11において、上記第3の有機樹脂系塗料は、数平均分子量5000〜30000のポリエステル樹脂よりなるベース樹脂を主成分として含有するポリエステル樹脂系塗料を用いてなり、硬化後の上記中間塗膜層の膜厚が1〜20μmであることを特徴とするプレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項において、上記基板は、Mg:4.0〜5.5%(質量%、以下同じ)、Cu:0.25〜0.45%を含有し、残部は不可避的不純物とAlとからなると共に、JIS5号試験片による引張強さが250〜350MPa、耐力が80〜190MPa、伸びが20〜40%であることを特徴とするプレス成形性及び放熱性に優れた両面プレコートアルミニウム合金板。
【請求項14】
加工穴を有するダイスと、上記加工穴に挿入可能なポンチとにより請求項1〜13のいずれか1項に記載の両面プレコートアルミニウム合金板をプレス加工する方法において、
上記両面プレコートアルミニウム合金板における上記潤滑性塗膜が形成された面を上記ダイス側に位置させ、上記放熱性塗膜が形成された面を上記ポンチ側に位置させることを特徴とするプレス加工方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−312243(P2006−312243A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134946(P2005−134946)
【出願日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】