説明

放電負荷用電源装置

【課題】 簡単な回路構成でもって、交流入力電圧のほぼ2倍のトリガ電圧を与えると共に、アーク放電に移行し難い程度の小さいトリガ電力を与えること。
【構成】 放電負荷の放電開始時に定常放電電圧よりも高いトリガ電圧を前記放電負荷に印加する放電負荷用電源装置において、 前記全波整流回路の正極側直流端子は、逆流防止用素子を介して一方の出力側端子に接続され、前記全波整流回路の一方の交流入力端子と前記一方の出力側端子との間に、前記フィルタ用コンデンサのキャパシタンスCfよりも小さなキャパシタンスCtを有するブースト用コンデンサが接続され、前記一方の出力側端子と他方の出力側端子との間に、前記フィルタ用コンデンサのキャパシタンスCfよりも小さなキャパシタンスを有するトリガ用コンデンサが接続され、放電負荷の放電開始時には、前記トリガ用コンデンサの電圧を放電負荷に供給する放電負荷用電源装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリガ電圧の印加によって放電状態に至る放電負荷に、定常電圧よりも高いトリガ電圧とその後に定常放電電力を供給する放電用電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放電エネルギーを利用する放電負荷として、各種のレーザ、放電灯、ストロボ装置、放電加工装置、光ファイバの融着接続装置、薄膜を形成するスパッタ装置などがあり、非常に広い分野において放電負荷が使用されている。その放電は、不活性ガスのような特定のガス中、あるいは大気中などで発生されるが、放電の発生時には高い電圧をトリガ電圧(以下ではトリガ電圧という。)として放電負荷の放電電極間に印加する必要がある。このとき、トリガ電力は放電電力に比べてかなり小さいが、トリガ電力を供給する能力が不足すると、トリガ時の漏れ電流によって放電電極間の電圧が上昇せず、放電状態に至らないことがある。しかし一旦、放電電極間に放電が発生すると、放電の発生時のトリガ電圧に比べて低い電圧で放電が維持されるので、必要な大きさの放電電流を流すことができる電力を供給すればよい。
【0003】
このような放電用電源装置の従来例の1例について、図6によって説明する。図6において、入力側整流回路51は3相交流電圧を整流して直流電力に変換し、インバータ回路52はその直流電圧を数kHz〜数10kHzの高周波交流電圧に変換する。インバータ回路52は周知のものであり、通常、パルス幅制御(オン時間比率制御)される。トランス53は、インバータ回路52から1次巻線53aに印加された高周波交流電圧を所定の変圧比で昇圧された交流電圧を2次巻線53bに現出する。2次巻線53bの交流電圧は、出力側の全波整流回路54によって直流電圧に変換され、コンデンサ55で平滑化されて、放電負荷56に印加される。放電負荷56は、通常、一方の端子は接地され、負の電圧が印加される。
【0004】
このような構成の従来の放電用電源装置において、商用交流入力電圧をAC200Vとすれば、入力側整流回路51の整流電圧はほぼ260Vとなる。定常放電電圧を500Vとすれば、トランス53の2次巻線53bと1次巻線53aとの巻数比、つまり昇圧比nは約2でよいが、必要なトリガ電圧を1000Vとすると、この1000Vのトリガ電圧を発生するためには、前記昇圧比nは4程度必要である。
【0005】
この従来の放電用電源装置の動作説明を行うと、放電開始時にはインバータ回路52が最大のパルス幅で制御され、1000Vのトリガ電圧を発生する。放電負荷56がこの1000Vのトリガ電圧でトリガされて、定常の放電状態に移行したとすれば、放電負荷56の不図示の放電電極間電圧である定常放電電圧は500V程度に低下する。したがって、インバータ回路52のオン時間比率(パルス幅)を小さくしなければならない。しかし、インバータ回路52のオン時間比率を小さくすると、インバータ回路52の出力電流のピーク値が増加し、実効値が増加するから、インバータ回路52のスイッチング素子であるIGBT又はFETの電力損失が大きくなり、その発熱やトランス53の巻線損失が増加するという問題が生じる。
【0006】
図6の従来の放電用電源装置の欠点を除去するために、図7に示す装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。図6で用いた記号と同一の記号は、同じ名称の部材を示すものとする。この従来装置は2次巻線53bとは別に、500V程度のトリガ電圧供給用の第2の2次巻線53cをトランス3に設け、その第2の2次巻線53cの電圧をトリガ用整流器57で整流し、抵抗58を通してバイパスダイオード59の両端にほぼ500Vの電圧を印加する。バイパスダイオード59の両端の500Vの電圧は、全波整流回路54の整流電圧500Vに重畳され、放電負荷56にほぼ1000Vの電圧を供給する。
【0007】
このような電源装置では、トリガ電圧の印加によって放電が開始し、定常放電に移行するときにバイパスダイオード59が導通し、第2の2次巻線53cが短絡されるので、短絡電流を制限するための抵抗58が必要になる。この抵抗58は、定常放電時には無駄な電力を消費することになり、効率の低下と、発熱を招くことになる。
【0008】
以上の説明から分かるように、従来の放電用電源装置では、その構成及び制御が複雑になり、電力損失の増加、コストアップになるなど種々の欠点がある。
【特許文献1】米国特許第5717293
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、簡単な回路構成で、しかもインバータ回路の簡便な通常の制御方法で、放電開始時には放電を発生させるのに必要な値のトリガ電圧を供給し、しかもアーク放電に移行し難い程度のトリガエネルギーを供給することができ、放電が発生して放電状態に至ったときには、定常放電状態を維持するのに必要な直流電力を供給することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、前記課題を解決するために、複数個の整流素子をフルブリッジ構成に接続してなり、交流源からの交流電力を直流電力に変換するブリッジ整流回路と、そのブリッジ整流回路の正極側直流端子と負極側直流端子との間に接続されたフィルタ用コンデンサとから構成される全波整流回路を備えて、放電負荷の放電開始時に定常放電電圧よりも高いトリガ電圧を前記放電負荷に印加する放電負荷用電源装置において、前記全波整流回路の正極側直流端子は、第1の逆流防止用素子を介して一方の出力側端子に接続され、前記全波整流回路の負極側直流端子は、第2の逆流防止用素子を介して他方の出力側端子に接続され、前記全波整流回路の一方の交流入力端子と双方の前記出力側端子との間に、前記フィルタ用コンデンサのキャパシタンスCfよりも小さなキャパシタンスCtを有する第1、第2のトリガ用コンデンサがそれぞれ接続され、前記放電負荷の放電開始時には、前記第1と第2のトリガ用コンデンサとの電圧を重畳してなるトリガ電圧を前記放電負荷に供給することを特徴とする放電負荷用電源装置を提供するものである。
【0011】
第2発明は、前記課題を解決するために、複数個の整流素子をフルブリッジ構成に接続してなり、交流源からの交流電力を直流電力に変換するブリッジ整流回路と、そのブリッジ整流回路の正極側直流端子と負極側直流端子との間に接続されたフィルタ用コンデンサとから構成される全波整流回路を備えて、放電負荷の放電開始時に定常放電電圧よりも高いトリガ電圧を前記放電負荷に印加する放電負荷用電源装置において、前記全波整流回路の正極側直流端子は、逆流防止用素子を介して一方の出力側端子に接続され、前記全波整流回路の一方の交流入力端子と前記一方の出力側端子との間に、前記フィルタ用コンデンサのキャパシタンスCfよりも小さなキャパシタンスCtを有するブースト用コンデンサが接続され、前記一方の出力側端子と他方の出力側端子との間に、前記フィルタ用コンデンサのキャパシタンスCfよりも小さなキャパシタンスを有するトリガ用コンデンサが接続され、前記トリガ用コンデンサは、前記全波整流回路の交流入力端子間の電圧の2倍程度の電圧に充電され、前記放電負荷の放電開始時には、前記トリガ用コンデンサの電圧をトリガ電圧として前記放電負荷に供給することを特徴とする放電負荷用電源装置を提供するものである。
【0012】
第3の発明は、複数個の整流素子をフルブリッジ構成に接続してなり、交流源からの交流電力を直流電力に変換するブリッジ整流回路と、そのブリッジ整流回路の正極側直流端子と負極側直流端子との間に接続されたフィルタ用コンデンサとから構成される全波整流回路を備えて、放電負荷の放電開始時に定常放電電圧よりも高い電圧を前記放電負荷に印加する放電負荷用電源装置において、前記全波整流回路の正極側直流端子又は負極側直流端子の一方は、互いに直列接続された第1、第2の逆流防止用素子を介して一方の出力側端子に接続され、前記第1の逆流防止用素子と第2の逆流防止用素子との接続点と、前記全波整流回路の一方の交流入力端子との間に、前記フィルタ用コンデンサのキャパシタンスCfよりも小さなキャパシタンスCtを有するブースト用コンデンサを備え、前記一方の出力側端子と他方の出力側端子との間に、前記フィルタ用コンデンサのキャパシタンスCfよりも小さなキャパシタンスを有するトリガ用コンデンサが接続され、前記トリガ用コンデンサは、前記全波整流回路の交流入力端子間の電圧の2倍程度の電圧に充電され、前記放電負荷の放電開始時には、前記トリガ用コンデンサの電圧をトリガ電圧として前記放電負荷に供給することを特徴とする放電負荷用電源装置を提供する。
【0013】
第4の発明は、前記第3の発明において、前記互いに直列になるように接続された2個の逆流防止用素子に跨って並列にバイパス用素子を接続したことを特徴とする放電負荷用電源装置を提供する。
【0014】
第5の発明は、前記第1の発明ないし前記第4の発明のいずれかにおいて、前記ブリッジ整流回路は、単相又は多相のブリッジ回路構成であることを特徴とする放電負荷用電源装置を提供する。
【0015】
第6の発明は、前記第1の発明ないし前記第5の発明のいずれかにおいて、前記交流源を構成するインバータ回路とその制御回路と、前記フィルタ用コンデンサの電圧を検出する電圧検出器と、前記電圧検出器による検出電圧と基準電圧とを比較してその差に対応する誤差増幅信号を出力する誤差増幅器と、前記誤差増幅器の出力を前記制御回路の入力とし、前記フィルタ用コンデンサの電圧の最大設定電圧を越えないように、前記制御回路が前記インバータ回路を制御することを特徴とする放電負荷用電源装置を提供する。
【0016】
第7の発明は、前記第1の発明ないし前記第5の発明のいずれかにおいて、前記交流源を構成するインバータ回路とその制御回路と、前記放電負荷の電圧を検出する第1の電圧検出器と、前記フィルタ用コンデンサの電圧を検出する第2の電圧検出器と、前記第1の電圧検出器による第1の検出電圧と第1の基準電圧とを比較してその差に対応する第1の誤差増幅信号を出力する第1の誤差増幅器と、前記第2の電圧検出器による第2の検出電圧と前記第1の基準電圧よりも低い第2の基準電圧とを比較してその差に対応する第2の誤差増幅信号を出力する第2の誤差増幅器と、前記第1の誤差増幅器と前記第2の誤差増幅器との出力のOR論理を行うOR回路とを備え、前記OR回路の出力を前記制御回路の入力とし、前記放電負荷の電圧と前記フィルタ用コンデンサの電圧の両方とも最大設定電圧を越えないように、前記制御回路が前記インバータ回路を制御することを特徴とする放電負荷用電源装置を提供する。
【0017】
第8の発明は、前記第1の発明ないし前記第7の発明のいずれかにおいて、放電開始前の前記放電負荷の漏れ電流をItとし、前記交流入力端子AとBとの間の交流電圧の値をE、その1周期をTとするとき、前記トリガ用コンデンサのキャパシタンスCtは、Ct>It×T/Eを満足する値を有することを特徴とする放電負荷用電源装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡単な回路構成で、しかもインバータ回路の簡便な通常の制御方法で、確実に放電負荷を放電させることができると共に、アーク放電に移行し難いトリガ電圧を供給することができる。
前記第1の発明によれば、非常に簡単な回路構成で電源電圧の2倍程度の電圧をトリガ電圧として放電負荷に印加して、確実に放電させることができる。フィルタ用コンデンサに比べてキャパシタンスが大幅に小さいトリガ用コンデンサからトリガ電圧を与えるので、アーク放電に移行し難い。また、整流素子や逆流防止用素子には交流入力端子間の電圧が印加される程度なので、耐圧の低いダイオードを用いることができる。
【0019】
前記第2の発明によれば、非常に簡単な回路構成で電源電圧の2倍程度の電圧をトリガ電圧として放電負荷に印加して、確実に放電させることができる。フィルタ用コンデンサに比べてキャパシタンスが大幅に小さいトリガ用コンデンサからトリガ電圧を与えるので、アーク放電に移行し難い。また、整流素子や逆流防止用素子には交流入力電圧が印加される程度なので、耐圧の低いダイオードを用いることができる。
【0020】
前記第3の発明の放電用電源装置によれば、前記第1の発明で得られる効果の他に、逆流防止用素子による電力損失を半減することができる。
【0021】
前記第4の発明の放電用電源装置によれば、前記第1〜第3の発明で得られる効果の他に、ダイオードでもってトリガ用コンデンサの充電電圧を確実に保持できるので、放電負荷を確実にトリガさせることができる。
【0022】
前記第5の発明の放電用電源装置によれば、前記第1〜第4の発明で得られる効果の他に、単相又は多相に対応することができる。
【0023】
前記第6の発明の放電用電源装置によれば、前記第1〜第5の発明で得られる効果の他に、放電負荷に洩れ電流が大きい現象が発生した場合にも、簡単な回路構成でもってインバータ回路の出力電圧を制限することができるので、全波整流回路を構成するダイオードが破壊されることがない。
【0024】
前記第7の発明の放電用電源装置によれば、前記第1〜第5の発明で得られる効果の他に、放電負荷に洩れ電流が大きい現象が発生した場合にも、インバータ回路の出力電圧を制限することができるので、全波整流回路を構成するダイオードが破壊されることがない。
【0025】
前記第8の発明の放電用電源装置によれば、前記第1〜第7の発明で得られる効果の他に、トリガ用コンデンサのキャパシタンスを適切な値に設定できるので、放電負荷をより確実にトリガすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
[実施形態1]
先ず、本発明を実施するための最良の実施形態1について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態である放電用電源装置100を示す。図1によって放電用電源装置100を説明すると、入力側整流回路1は3相交流電圧を整流して直流電力に変換する一般的な3相フルブリッジ構成のものである。インバータ回路2はその直流電圧を数kHz〜数10kHzの高周波交流電圧に変換する。インバータ回路2は、MOSFET又はIGBTのようなスイッチング半導体素子を周知のフルブリッジ構成、又はハーフブリッジ構成にしたものなどであり、パルス幅制御(オン時間比率制御)されて、直流電力を単相の高周波電力に変換する。トランス3は、インバータ回路2から1次巻線3aに印加された高周波交流電圧を所定の変圧比で昇圧された交流電圧を2次巻線3bに現出する。2次巻線3bの交流電圧は、4個の整流素子4A〜4Dをブリッジに接続してなるブリッジ整流回路4によって全波整流され、フィルタ用コンデンサ5で平滑化される。ここで、ブリッジ整流回路4とフィルタ用コンデンサ5とは一般的な回路構成の全波整流回路6を構成する。
【0027】
全波整流回路6は、トランス3の2次巻線3bの両端子に対応する交流入力端子AとBとを有すると共に、正極側直流端子aと負極側直流端子bとを有する。そして、正極側直流端子aと出力側端子T1との間に逆流防止用素子7、負極側直流端子bと出力側端子T2との間に逆流防止用素子8がそれぞれ全波整流回路6の極性と同方向になる向きに直列接続される。ここで、ブリッジ整流回路4の整流素子4A〜4D、逆流防止用素子7と8は、耐圧及び電流容量などの関係からそれぞれ単一のダイオードから構成されてもよいし、複数のダイオードを直列接続又は並列接続、あるいは直並列接続されたものからなってもよい。以下に述べる別の実施形態においても同様である。
【0028】
交流入力端子Aと出力側端子T1との間、つまり、全波整流回路6の整流素子4Aと逆流防止用素子7とに跨ってトリガ用コンデンサ9が接続される。同様に、トリガ用コンデンサ10が交流入力端子Aと出力側端子T2との間、つまり、全波整流回路6の整流素子4Bと逆流防止用素子8とに跨って接続される。トリガ用コンデンサ9と10のキャパシタンスCtは、全波整流回路6のフィルタ用コンデンサ5のキャパシタンスCfに比べて十分に小さい値に選定される。好ましくは、キャパシタンスCtはキャパシタンスCfの数十分の1から数百分の1の範囲内で選定されるのがよい。この理由については後述する動作説明から明らかになる。ここで、逆流防止用素子7と8、トリガ用コンデンサ9と10は実施形態1の大切な構成要素である。
【0029】
出力側端子T1とT2との間には電圧検出器11が接続され、出力側端子T1とT2間の電圧を検出してその検出電圧を制御回路12に与える。また、出力側端子T1と放電負荷13との間には負荷電流を検出する電流検出器14が接続されている。制御回路12は、放電負荷13に印加される電力、電圧、電流などが設定電力、設定電圧、又は電流が設定電流に維持、あるいは制限されるように、インバータ回路2をパルス幅制御する通常のパルス幅制御回路である。ここで、放電負荷13は各種のレーザ装置、放電灯、ストロボ装置、放電加工装置、光ファイバの融着接続装置、薄膜を形成するスパッタ装置などがあげられ、通常、定電力制御、または定電流制御される。放電負荷13と電流検出器14との接続点が接地されている。
【0030】
次にこの放電負荷用電源装置100の動作について説明する。なお、以下の説明では整流素子などの電圧降下を無視する。先ず、トランス3の2次巻線3bに交流入力端子AがBに対して正の極性の電圧Eが発生しているものとすれば、交流入力端子Aからブリッジ整流回路4の整流素子4A、フィルタ用コンデンサ5、整流素子4Dを通して電流が流れると同時に、トリガ用コンデンサ10、逆流防止用素子8、整流素子4Dを通して交流入力端子Bへ電流が流れる。この電流によって、キャパシタンスCtの小さいトリガ用コンデンサ10は図示極性で電圧Eに充電される。このとき、フィルタ用コンデンサ5も図示極性で電圧Eに充電される。
【0031】
次に、トランス3の2次巻線3bに交流入力端子BがAに対して正の極性の電圧Eが発生しているものとすれば、交流入力端子Bからブリッジ整流回路4の整流素子4C、フィルタ用コンデンサ5、整流素子4Bを通して電流が流れると同時に、整流素子4C、逆流防止用素子7、トリガ用コンデンサ9を通して交流入力端子Aに電流が流れる。この電流によって、キャパシタンスCtの小さいトリガ用コンデンサ9は図示極性で電圧Eに充電される。したがって、出力側端子T1とT2間にはトリガ用コンデンサ9、10の電圧Eを加算した電圧2Eが印加される。しかし、この半サイクルにおいても、逆流防止用素子7の逆流防止作用によって、トリガ用コンデンサ9の電荷がフィルタ用コンデンサ5に放電されることはなく、フィルタ用コンデンサ5は電圧Eに保持される。
【0032】
この直列加算された電圧2Eが放電負荷13に印加され、トリガ、つまりストライクされて放電負荷13に初期放電が発生すると、発生したプラズマにより放電負荷13のインピーダンスが低下するために、キャパシタンスの小さなトリガ用コンデンサ9、10は短時間で放電される。したがって、トリガ用コンデンサ9、10はその短時間後には継続して電流を供給できず、代わって逆流防止用素子7と8とが導通して、フィルタ用コンデンサ5から電力を供給して放電負荷13の放電を継続させる。
【0033】
図1では、トリガ用コンデンサ9と10の一方の端子を交流入力端子Aに接続したが、それら一方の端子を交流入力端子Bに接続しても勿論よい。この場合には、交流入力端子Aが交流入力端子Bに対して正極性であるとき、電流は交流入力端子Aから整流素子4A、逆流防止用素子7、トリガ用コンデンサ9を通して交流入力端子Bに流れ、また、交流入力端子Bが交流入力端子Aに対して正極性であるとき、電流は交流入力端子Bからトリガ用コンデンサ10、逆流防止用素子8、整流素子4Bを通して交流入力端子Aに流れる。したがって、図1の場合と全く同様に、トリガ用コンデンサ9と10は双方共、交流入力端子AとBとの交流電圧Eに充電され、放電負荷13には2Eに等しいトリガ電圧が印加される。
【0034】
ここで、実際の放電負荷では漏れ電流Itが流れるので、トリガ用コンデンサ9、10は各サイクルで交流電圧Eに達することはできず、各サイクルで前述のような動作を繰り返すことによって、トリガ用コンデンサ9、10は2次巻線3bの交流電圧Eまで徐々に充電される。トリガ用コンデンサ9、10が電圧Eまで充電されると、トリガ用コンデンサ9と10の電圧が重畳された電圧2Eが放電負荷13に印加され、放電負荷13はトリガされる。そして、全波整流器6が全波整流動作を行って放電電力を供給する。なお、トリガ用コンデンサ9、10の電荷は、逆流防止用素子7、8によってフィルタ用コンデンサ5には放電されない。この場合、出力側端子T1とT2との間の電圧が2Eに達しない前にトリガされて、定常放電状態に移行することもある。
【0035】
トリガ用コンデンサ9、10が電圧Eまで充電される時間は、トリガ用コンデンサ9、10のキャパシタンスの大きさに左右され、トリガ用コンデンサ9、10のキャパシタンスが小さいほど充電時間は短くて済む。電圧2Eは、放電負荷13の不図示の放電電極間に放電を起させる十分な電圧値とエネルギーをもつものであり、放電電極間を確実にトリガして放電状態に至らせることができなければならない。その放電の開始によって放電電極間の気体はプラズマ化する。放電電極間に存在するプラズマによって、放電電極間のインピーダンスは低下し、その放電電圧も当然に小さくなる。したがって、定常の放電状態になると、放電負荷13の電圧はEになる。
【0036】
ここで、トリガ用コンデンサ9、10のキャパシタンスCtが小さ過ぎると、放電負荷13を流れる漏れ電流Itによって、トリガ用コンデンサ9、10を電圧Eまで充電することができないので、放電負荷13の不図示の放電電極間に放電を開始させることができない。次に、トリガ用コンデンサ9、10の最低限必要なキャパシタンスCtを求める。放電開始前の放電負荷13の漏れ電流をItとし、トランス3の2次巻線3bの高周波交流電圧の1周期をTとすると、その1周期Tにおける漏れ電流Itによる漏れ電荷量Qは、Q=It×Tとなる。この電荷量Qが漏れ電流Itとしてすべて放電されるとき、トリガ用コンデンサ9、10の充電電圧の低下する電圧値ΔVが電圧Eよりも小さくなければ、トリガ用コンデンサ9、10のそれぞれの充電電圧を電圧Eに向けて上昇させることができない。したがって、ΔV=Q/Ct<Eの式が成り立ち、この式はCt>Q/E=It×T/Eとなる。
【0037】
前記式から、トリガ用コンデンサ9、10のキャパシタンスCtがIt×T/Eよりも小さいと、漏れ電流Itの影響で、トリガ用コンデンサ9、10が電圧Eまで達しないので、トリガ電圧が2Eまで上昇できず、放電負荷13を放電状態に至らせることが難しくなる場合もある。したがって、トリガ用コンデンサ9、10のキャパシタンスCtは、Ct>It×T/Eの式を満足する値でなければならない。しかし、実際上では電力損失やトリガに要する時間を考慮しなければならないので、確実に、しかも短い時間で放電負荷13を放電状態に至らせるには、トリガ用コンデンサ9、10のキャパシタンスCtは、It×T/Eの1.5倍以上であることが好ましい。トリガ用コンデンサ9、10のキャパシタンスCtをIt×T/Eの1.5倍以上の値に選ぶことによって、高周波交流電圧の各サイクルでトリガ用コンデンサ9、10の充電電圧は確実に上昇し、短い所要時間で放電負荷13はトリガされる。放電負荷13がトリガされ、放電負荷13に放電が発生すると、放電負荷13の電圧は低下し、全波整流回路6が全波整流動作を行って放電負荷13に電力を供給する。
【0038】
また、他方ではトリガ用コンデンサ9、10のキャパシタンスCtが大き過ぎると、放電負荷13が定常放電状態に至ったときに、トリガ用コンデンサ9又は10を通して放電負荷13に供給される時間が長くなり、つまり全波整流回路6が半波倍電圧整流動作を行う期間が長くなる。全波整流回路6が半波倍電圧整流動作を行うと、全波整流動作よりも高い出力電圧(2E)となるので、インバータ回路2がパルス幅を絞って狭いパルス幅で動作することになる。その狭いパルス幅で必要な放電電流を流すので、電流のピーク値は急激に大きくなり、インバータ回路2において電流容量の大きなスイッチング半導体素子が必要となるばかりでなく、電力損失が大きくなる。したがって、トリガ用コンデンサ9、10のキャパシタンスCtは、前記キャパシタンスを目安に必要最小限の値を上限値にすることが好ましい。このように、トリガ用コンデンサ9、10のキャパシタンスCtがIt×T/Eよりも大きく、好ましくはIt×T/Eの1.5倍よりも大きければ、確実に放電負荷13をトリガできる。
【0039】
以上から明らかなように、この実施形態1の放電負荷用電源装置100の大きな特徴は、キャパシタンスの小さなトリガ用コンデンサ9、10の直列加算電圧2Eによってトリガされて初期放電が発生すること、つまり直列接続されたトリガ用コンデンサ9、10のキャパシタンスはそれぞれのキャパシタンスCtの1/2となるから、そのCt/2のキャパシタンスから放電される電気エネルギーは小さく、アーク放電に移行し難いことにある。好ましくは、トリガ用コンデンサ9、10のキャパシタンスCtは、前述したようにフィルタ用コンデンサ5のキャパシタンスCfの数十分の1から数百分の1と小さいから、トリガ電力は十分に小さく、アーク放電に移行し難い。
【0040】
他方、放電電力の供給はフィルタ用コンデンサ5から供給され、そのキャパシタンスCfを必要十分に大きくできるので、リプル電圧を小さくでき、品質の高い成膜などの加工作業が行える。更にまた、トリガ用コンデンサ9、10の直列加算電圧2Eを逆流防止用素子7と8、及びブリッジ整流回路4の整流素子4Aと4B又は4Cと4Dで分担するだけであるので、ほぼE程度の逆耐圧を最低限持てばよく、したがって、順方向電圧降下の小さいダイオードを用いることができ、電力損失を小さくできると共に、経済的でもある。
【0041】
[実施形態2]
次に、図2によって第2の実施形態である放電負荷用電源装置200について説明する。図2において、図1で用いた記号と同じ記号は同一の名称の部材を示すものとする。放電負荷用電源装置200では、出力側端子T1とT2との間にトリガ用コンデンサ15が接続されている。図1のコンデンサ9は、この回路では倍電圧用、すなわち昇圧するためのブースト用コンデンサ9’として機能する。ブースト用コンデンサ9’及びトリガ用コンデンサ15のキャパシタンスCtは、フィルタ用コンデンサ5のキャパシタンスCfに比べて十分に小さい値、好ましくはキャパシタンスCfの数十分の1から数百分の1の範囲内で選定される。また、前述式から、キャパシタンスCtはIt×T/Eよりも大きくなければならない。
【0042】
次にこの放電負荷用電源装置200の動作について説明する。なお、以下の説明では整流素子などの電圧降下を無視する。先ず、トランス3の2次巻線3bに交流入力端子BがAに対して正の極性の電圧Eが発生しているものとすれば、交流入力端子Bからブリッジ整流回路4の整流素子4C、フィルタ用コンデンサ5、整流素子4Bを通して電流が流れてフィルタ用コンデンサ5は図示極性で電圧Eに充電される。同時に、整流素子4C、逆流防止用素子7、ブースト用コンデンサ9’を通して交流入力端子Aに電流が流れる。この電流によって、キャパシタンスCtの小さいブースト用コンデンサ9’は図示極性で電圧Eに充電される。
【0043】
次に、トランス3の2次巻線3bに交流入力端子AがBに対して正の極性の電圧Eが発生しているものとすれば、交流入力端子Aからブリッジ整流回路4の整流素子4A、フィルタ用コンデンサ5、整流素子4Dを通して電流が流れてフィルタ用コンデンサ5は図示極性で電圧Eに充電される。同時に、ブースト用コンデン9’、トリガ用コンデンサ15、整流素子4Dを通して交流入力端子Bへ電流が流れる。この電流によって、キャパシタンスCtの小さいトリガ用コンデンサ15は、トランス3の2次巻線3bの電圧Eとブースト用コンデン9’の電圧Eが加算され、図示極性で電圧2Eに充電される。しかし、この半サイクルにおいても、逆流防止用素子7の逆流防止作用によって、ブースト用コンデンサ9’の電荷がフィルタ用コンデンサ5に放電されることはなく、フィルタ用コンデンサ5は電圧Eに保持される。
【0044】
このトリガ用コンデンサ15の電圧2Eが放電負荷13に印加され、トリガ、つまりストライクされて放電負荷13に初期放電が発生すると、発生したプラズマにより放電負荷13のインピーダンスが低下するために、キャパシタンスの小さなトリガ用コンデンサ15は短時間で放電される。したがって、トリガ用コンデンサ15はその短時間後には継続して電流を供給できず、代わって逆流防止用素子7が導通して、フィルタ用コンデンサ5から電力を供給して放電負荷13の放電を継続させる。
この放電負荷用電源装置200にあっても、トリガ時での最初のトリガエネルギーがキャパシタンスの小さなブースト用コンデンサ9’、トリガ用コンデンサ15から供給されるので、トリガエネルギーを小さくでき、アーク放電に移行し難いにもかかわらず、フィルタ用コンデンサ5のキャパシタンスを必要十分な大きさにでき、かつ電圧Eに保持できるので、リプル電圧を抑制することができる。また、この放電負荷用電源装置200では、ブリッジ整流回路4の整流素子4A〜4Dは勿論のこと、逆流防止用素子7にも交流入力端子A−B間の電圧Eが印加されるだけであるので、特別に高耐圧のダイオードを用いる必要はなく、その順方向電圧降下の比較的小さいものを使用することができ、電力損失の軽減が可能である。また、この実施形態では逆流防止用素子の必要個数を最小限にできる。
【0045】
[実施形態3]
次に、図3によって第3の実施形態である放電負荷用電源装置300について説明する。図3において、図1、図2で用いた記号と同じ記号は同一の名称の部材を示すものとする。放電負荷用電源装置300では、4個の整流素子4A〜4Dをブリッジに接続してなるブリッジ整流回路4とフィルタ用コンデンサ5とからなる全波整流回路6の正極側直流端子aと出力側端子T1との間に、互いに直列接続された逆流防止用素子7と8’とが接続されると共に、逆流防止用素子7と8’との接続点と交流入力端子Aとの間にブースト用コンデンサ9’が接続され、出力側端子T1とT2との間にはトリガ用コンデンサ15が接続されている。ブースト用コンデンサ9’及びトリガ用コンデンサ15のキャパシタンスCtは、フィルタ用コンデンサ5のキャパシタンスCfに比べて十分に小さい値、好ましくはキャパシタンスCfの数十分の1から数百分の1の範囲内で選定される。また、前述式から、キャパシタンスCtはIt×T/Eよりも大きくなければならない。そして、逆流防止用素子7と8’とに跨ってバイパス用素子16が接続されている。
【0046】
次に、放電負荷用電源装置300の動作説明を行う。先ず、交流入力端子BがAに対して正の極性となる電圧Eが発生しているものとすれば、交流入力端子Bからブリッジ整流回路4の整流素子4C、フィルタ用コンデンサ5、整流素子4Bを通して電流が流れると同時に、整流素子4C、逆流防止用素子7、ブースト用コンデンサ9’を通して交流入力端子Aへ電流が流れる。この電流によって、フィルタ用コンデンサ5、ブースト用コンデンサ9’は図示極性で電圧Eにそれぞれ充電される。また、同時に整流素子4C、バイパス用素子16、トリガ用コンデンサ15、整流素子4Bを通して交流入力端子Aへ電流が流れ、トリガ用コンデンサ15の電圧は電圧Eに保持される。
【0047】
次に、交流入力端子AがBに対して正の極性となる電圧Eが発生しているものとすれば、交流入力端子Aからブリッジ整流回路4の整流素子4A、フィルタ用コンデンサ5、整流素子4Dを通して交流入力端子Bへ電流が流れてフィルタ用コンデンサ5を図示極性に電圧Eまで充電すると同時に、交流入力端子Aからブースト用コンデンサ9’、逆流防止用素子8’、トリガ用コンデンサ15、整流素子4Dを通して交流入力端子Bに電流が流れる。これによって、トリガ用コンデンサ15は、交流入力端子A−B間の電圧Eにブースト用コンデンサ9’の電圧Eを重畳した電圧2Eまで充電される。トリガ用コンデンサ15の電圧2Eは、逆流防止用素子8’の働きによってブースト用コンデンサ9’に放電されることはなく、また、バイパス用素子16の一方向性によってフィルタ用コンデンサ5に放電されることも無い。
【0048】
この電圧2Eが放電負荷13に印加され、放電負荷13をトリガ、つまりストライクして放電負荷13に初期放電が発生すると、発生したプラズマにより放電負荷13のインピーダンスが低下するために、キャパシタンスの小さなブースト用コンデンサ9’、トリガ用コンデンサ15は短時間で放電される。したがって、ブースト用コンデンサ9’、トリガ用コンデンサ15はその短時間後には継続して電流を供給できず、代わってバイパス用素子16が導通して、フィルタ用コンデンサ5から電力を供給して放電負荷13の放電を継続させる。この放電負荷用電源装置300にあっても、トリガ時での最初のトリガエネルギーがキャパシタンスの小さなブースト用コンデンサ9’、トリガ用コンデンサ15から供給されるので、アーク放電に移行し難いにもかかわらず、フィルタ用コンデンサ5のキャパシタンスを必要十分な大きさにできるので、リプル電圧を抑制することができる。
【0049】
また、この放電負荷用電源装置300では、ブリッジ整流回路4の整流素子4A〜4Dは勿論のこと、逆流防止用素子7と8’にも交流入力端子A−B間の電圧Eが印加されるだけであるので、耐圧はほぼ電圧E以上であればよく、特別に高耐圧のダイオードを用いる必要はない。さらに、この放電負荷用電源装置300では、逆流防止用素子7と8’とに並列にバイパス用素子16を接続しているので、電力損失を軽減できる。例えば、逆流防止用素子7、8’が2個のダイオードであって、それらの順方向電圧降下が約1.4Vとし、主放電電流が100Aとすると、140Wの電力損失が発生するが、バイパス用素子16を備えているために、1個のダイオードの順方向電圧降下は約0.7Vであるから、主放電電流が100Aとすると、70Wの電力損失が発生するだけであるので、電力損失を1/2にすることができる。
【0050】
[実施形態4]
次に、図4によって第4の実施形態である放電負荷用電源装置400について説明する。図4において、図1〜図3で用いた記号と同じ記号は同一の名称の部材を示すものとする。放電負荷用電源装置400では、インバータ回路2は直流電力を高周波の3相交流電力に変換する3相のインバータ回路であり、MOSFET又はIGBTのようなスイッチング素子を3相ブリッジ構成に接続してなる一般的なものである。インバータ回路2の交流電力は、3相の変圧器3によって所望の電圧に変換される。変圧器3は一般的な構成のものであり、例えば、1次巻線と2次巻線とがスター結線(Y−Y結線)されたものである。ブリッジ整流回路4は、6個の整流素子4A〜4Fをブリッジに接続してなる通常の回路構成のものである。ブリッジ整流回路4とフィルタ用コンデンサ5とは3相の全波整流回路6を構成する。全波整流回路6は3相の交流入力端子A、B、Cを備えると共に、正極側直流端子aと負極側直流端子bとを有する。
【0051】
全波整流回路6の正極側直流端子aと出力側端子T1との間に逆流防止用素子7と8’とが互いに直列に、全波整流回路6の向きと同方向に接続されている。逆流防止用素子7と8’との接続点と、交流入力端子Aとの間にブースト用コンデンサ9’が接続されており、逆流防止用素子7と8’とをバイパスするバイパス用素子16が逆流防止用素子7と8’とに跨って並列に接続されている。トリガ用コンデンサ15は、図2、図3に示したコンデンサ15と同様な働きを行うものである。この放電負荷用電源装置400における逆流防止用素子7と8’及びブースト用コンデンサ9’などの動作は、放電負荷用電源装置300の動作と基本的に同じであるので詳しく説明しないが、交流入力端子Bが交流入力端子Aに対して正極で電圧Eを発生しているものとすると、交流入力端子Bから整流素子4C、逆流防止用素子7、ブースト用コンデンサ9’を通して交流入力端子Aに電流が流れ、図示極性でブースト用コンデンサ9’が電圧Eまで充電される。
【0052】
また、交流入力端子Cが交流入力端子Aに対して正極で電圧Eを発生しているものとすると、交流入力端子Cから整流素子4E、逆流防止用素子7、ブースト用コンデンサ9’を通して交流入力端子Aに電流が流れ、図示極性でブースト用コンデンサ9’が電圧Eまで充電される。なお、逆流防止用素子7と8’との接続点と交流入力端子Bとの間、逆流防止用素子7と8’との接続点と交流入力端子Cとの間に、ブースト用コンデンサ9’と同様なトリガ用コンデンサをそれぞれ接続しても勿論よい。したがって、この実施形態でも、交流入力端子Aの電圧がEになるときには、その電圧Eにブースト用コンデンサ9’の電圧Eが重畳された電圧2Eが放電負荷13に印加される。この実施形態でも、ブースト用コンデンサ9’及びトリガ用コンデンサ15のキャパシタンスCtは、フィルタ用コンデンサ5のキャパシタンスCfに比べて十分に小さい値、好ましくはキャパシタンスCfの数十分の1から数百分の1の範囲内で選定される。また、前述式から、キャパシタンスCtはIt×T/Eよりも大きくなければならない。
【0053】
[実施形態5]
次に、図5によって第5の実施形態である放電負荷用電源装置500について説明する。図5において、図1〜図3で用いた記号と同じ記号は同一の名称の部材を示すものとする。放電負荷用電源装置500では、図3、図4同様な単相のブリッジ整流回路4の負極側直流端子bと出力側端子T2との間に、逆流防止用素子8とトリガ用コンデンサ15とが接続されている。また、出力側端子T1と交流入力端子Bとの間にブースト用コンデンサ10’が接続されている。したがって、トリガ用コンデンサ15はフィルタ用コンデンサ5と直列に接続されている。更に、フィルタ用コンデンサ5の電圧を検出する第2の電圧検出器17が接続されている。出力側端子T1−T2間の電圧を検出する第1の電圧検出器11は、互いに直列接続された抵抗R1とR2とからなり、第2の電圧検出器17は互いに直列接続された抵抗R3とR4とからなる。この実施形態でも、ブースト用コンデンサ10’及びトリガ用コンデンサ15のキャパシタンスCtは、フィルタ用コンデンサ5のキャパシタンスCfに比べて十分に小さい値、好ましくはキャパシタンスCfの数十分の1から数百分の1の範囲内で選定される。また、前述式から、キャパシタンスCtはIt×T/Eよりも大きくなければならない。
【0054】
この実施形態では、放電電圧が負極性なので、電圧の極性を反転する極性反転回路が使用される。第1の電圧検出器11の抵抗R1とR2との接続点には、第1の電圧検出信号を極性反転する第1の極性反転回路18、第2の電圧検出器17の抵抗R3とR4との接続点には、第2の電圧検出信号を極性反転する第2の極性反転回路19が接続されている。それぞれの極性反転回路18、19によって反転された正極性の電圧検出信号をそれぞれの基準電圧と比較する第1、第2の誤差増幅回路20、21を備える。第1の誤差増幅回路20は、第1の基準電圧源22における電圧2E(例えば、1000V)に対応する基準電圧と前記第1の電圧検出信号とを比較して、それら差分の電圧に比例する電圧を出力する。第2の誤差増幅回路21は、第2の基準電圧源23における電圧E(例えば、500V)に対応する基準電圧と前記第2の電圧検出信号とを比較して、それら差分の電圧に比例する電圧を出力する。ここで、第2の基準電圧は第1の基準電圧よりも低い値、好ましくは第1の基準電圧のほぼ1/2に設定される。それらの出力信号はダイオード構成のOR回路24を通して制御回路12に入力される。また、制御回路12の入力側はプルアップ抵抗25を通して制御電源26に接続されている。
【0055】
次に放電負荷用電源装置500の動作について説明する。通常の動作状態において、ダイオードOR回路24は、第1、第2の誤差増幅回路20、21が出力する誤差増幅信号をOR論理して、低レベルのものを優先する。もし、第2の電圧検出器17、第2の誤差増幅回路21など第2の回路系が存在しないとし、トリガ前の洩れ電流が大きい現象が発生したとすれば、ブースト用コンデンサ10’、トリガ用コンデンサ15の電圧は上昇するのに時間がかかり、第1の電圧検出信号と第1の基準電圧との差分は大きくなる。したがって、第1の誤差増幅回路20は出力電圧を第1の基準電圧に対応する電圧まで上昇させるような信号を制御回路12に入力する。これによって、インバータ回路2は出力電圧を上昇させるようパルス幅制御されるが、トリガ時における電力供給能力はブースト用コンデンサ10’のキャパシタンスで決まるために、そのパルス幅を広げても出力側端子T1−T2間の電圧は2Eにならない。このような動作を続けていると、ブリッジ整流回路4には電圧制限要素が無いので、ブリッジ整流回路4が電圧不足分を補うように電圧上昇し、フィルタ用コンデンサ5及び整流素子4A〜4Dの定格電圧を越えて、これらを破壊させることがある。
【0056】
したがって、放電負荷用電源装置500では、このような問題を解決するために、第2の電圧検出器17がフィルタ用コンデンサ5の電圧を検出し、その検出電圧と基準電圧とを第2の誤差増幅回路21とを比較している。前述のように、トリガ前の洩れ電流が大きくなれば、インバータ回路2は出力電圧を上昇させるようパルス幅制御されるので、フィルタ用コンデンサ5は基準電圧に達し、第2の誤差増幅回路21の出力信号は低レベルとなる。この結果、OR回路24が導通するので、制御回路12の入力はプルアップ抵抗25の電圧降下によって低レベルとなる。これに伴い、インバータ回路2はその出力のパルス幅を絞って狭くし、フィルタ用コンデンサ5の電圧をその第2の基準電圧に対応する電圧(例えば、500V)に維持する。したがって、必要以上に電圧上昇が起こらず、フィルタ用コンデンサ5及び整流素子4A〜4Dの定格電圧を越えることは勿論無くなる。ただしこの場合には、トリガ電圧は2Eよりも低い値になる。また、実施形態1〜4と同様に、この放電負荷用電源装置500においても電流検出回路14によって放電負荷13を流れる電流を検出して、過電流保護などを行っている。
【0057】
また、簡単な方法としてフィルタ用コンデンサ5の電圧を検出する第2の電圧検出器17、第2の誤差増幅回路21の回路のみでもよい。第1の電圧検出器11、第1の極性反転回路18、第1の誤差増幅回路20、OR回路24が不要となる。この場合、フィルタ用コンデンサ5のみの電圧を制限するか、又は制御する。トリガ用コンデンサの電圧は、フィルタ用コンデンサ5の電圧のほぼ2倍程度に自動的になる。トリガ用コンデンサの電圧は直接制御されないので、レギュレーション(電流による電圧降下)があるが、トリガ電圧は精度が重要でないので、十分に実用的である。
【0058】
以上述べたように、本発明によれば、定常の放電状態、例えばプラズマ状態のときの電圧よりも高い電圧、特に2倍程度の電圧を簡単な回路構成で発生させることができる。そして、トリガ時の電気エネルギーはフィルタ用コンデンサに比べて大幅に小さなキャパシタンスを有するトリガ用コンデンサから供給されるから、アーク放電に移行する危険性を極めて小さくできる。さらに、トリガ電圧が入力電圧Eの2倍の電圧2Eであっても、整流素子、逆流防止用素子、バイパス用素子として用いられるダイオードには電圧E程度の逆電圧がかかるだけであり、部品選定の上で有利であり、順方向電圧降下の比較的小さなダイオードを使用できるので、それらの電力損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の1実施形態である放電用電源装置100を示す図である。
【図2】本発明の他の1実施形態である放電用電源装置200を示す図である。
【図3】本発明の他の1実施形態である放電用電源装置300を示す図である。
【図4】本発明の他の1実施形態である放電用電源装置400を示す図である。
【図5】本発明の他の1実施形態である放電用電源装置500を示す図である。
【図6】従来の放電用電源装置の一例を示す図である。
【図7】従来の放電用電源装置の他の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1・・・入力側整流回路
2・・・インバータ回路
3・・・トランス
4・・・ブリッジ整流回路
5・・・フィルタ用コンデンサ
6・・・全波整流回路
7、8、8’・・・逆流防止用素子
9、10・・・トリガ用コンデンサ
9’、10’・・・ブースト用コンデンサ
11・・・電圧検出回路
12・・・インバータ回路2の制御回路
13・・・放電負荷
14・・・電流検出回路
15・・・トリガ用コンデンサ
16・・・バイパス用素子
17・・・第2の電圧検出回路
18、19・・・第1、第2の極性反転回路
20、21・・・第1、第2の誤差増幅回路
22、23・・・第1、第2の基準回路
24・・・OR回路
25・・・抵抗
26・・・制御電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の整流素子をフルブリッジ構成に接続してなり、交流源からの交流電力を直流電力に変換するブリッジ整流回路と、該ブリッジ整流回路の正極側直流端子と負極側直流端子との間に接続されたフィルタ用コンデンサとから構成される全波整流回路を備えて、放電負荷の放電開始時に定常放電電圧よりも高いトリガ電圧を前記放電負荷に印加する放電負荷用電源装置において、
前記全波整流回路の正極側直流端子は、第1の逆流防止用素子を介して一方の出力側端子に接続され、
前記全波整流回路の負極側直流端子は、第2の逆流防止用素子を介して他方の出力側端子に接続され、
前記全波整流回路の一方の交流入力端子と双方の前記出力側端子との間に、前記フィルタ用コンデンサのキャパシタンスCfよりも小さなキャパシタンスCtを有する第1、第2のトリガ用コンデンサがそれぞれ接続され、
前記放電負荷の放電開始時には、前記第1と第2のトリガ用コンデンサとの電圧を重畳してなるトリガ電圧を前記放電負荷に供給することを特徴とする放電負荷用電源装置。
【請求項2】
複数個の整流素子をフルブリッジ構成に接続してなり、交流源からの交流電力を直流電力に変換するブリッジ整流回路と、該ブリッジ整流回路の正極側直流端子と負極側直流端子との間に接続されたフィルタ用コンデンサとから構成される全波整流回路を備えて、放電負荷の放電開始時に定常放電電圧よりも高いトリガ電圧を前記放電負荷に印加する放電負荷用電源装置において、
前記全波整流回路の正極側直流端子は、逆流防止用素子を介して一方の出力側端子に接続され、
前記全波整流回路の一方の交流入力端子と前記一方の出力側端子との間に、前記フィルタ用コンデンサのキャパシタンスCfよりも小さなキャパシタンスCtを有するブースト用コンデンサが接続され、
前記一方の出力側端子と他方の出力側端子との間に、前記フィルタ用コンデンサのキャパシタンスCfよりも小さなキャパシタンスを有するトリガ用コンデンサが接続され、
前記トリガ用コンデンサは、前記全波整流回路の交流入力端子間の電圧の2倍程度の電圧に充電され、前記放電負荷の放電開始時には、前記トリガ用コンデンサの電圧をトリガ電圧として前記放電負荷に供給することを特徴とする放電負荷用電源装置。
【請求項3】
複数個の整流素子をフルブリッジ構成に接続してなり、交流源からの交流電力を直流電力に変換するブリッジ整流回路と、該ブリッジ整流回路の正極側直流端子と負極側直流端子との間に接続されたフィルタ用コンデンサとから構成される全波整流回路を備えて、放電負荷の放電開始時に定常放電電圧よりも高い電圧を前記放電負荷に印加する放電負荷用電源装置において、
前記全波整流回路の正極側直流端子又は負極側直流端子の一方は、互いに直列接続された第1、第2の逆流防止用素子を介して一方の出力側端子に接続され、
前記第1の逆流防止用素子と第2の逆流防止用素子との接続点と、前記全波整流回路の一方の交流入力端子との間に、前記フィルタ用コンデンサのキャパシタンスCfよりも小さなキャパシタンスCtを有するブースト用コンデンサを備え、
前記一方の出力側端子と他方の出力側端子との間に、前記フィルタ用コンデンサのキャパシタンスCfよりも小さなキャパシタンスを有するトリガ用コンデンサが接続され、
前記トリガ用コンデンサは、前記全波整流回路の交流入力端子間の電圧の2倍程度の電圧に充電され、前記放電負荷の放電開始時には、前記トリガ用コンデンサの電圧をトリガ電圧として前記放電負荷に供給することを特徴とする放電負荷用電源装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記互いに直列になるように接続された2個の逆流防止用素子に跨って並列にバイパス用素子を接続したことを特徴とする放電負荷用電源装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかにおいて、
前記ブリッジ整流回路は、単相又は多相のブリッジ回路構成であることを特徴とする放電負荷用電源装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかにおいて、
前記交流源を構成するインバータ回路とその制御回路と、
前記フィルタ用コンデンサの電圧を検出する電圧検出器と、
前記電圧検出器による検出電圧と基準電圧とを比較してその差に対応する誤差増幅信号を出力する誤差増幅器と、
前記誤差増幅器の出力を前記制御回路の入力とし、前記フィルタ用コンデンサの電圧の最大設定電圧を越えないように、前記制御回路が前記インバータ回路を制御することを特徴とする放電負荷用電源装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれかにおいて、
前記交流源を構成するインバータ回路とその制御回路と、
前記放電負荷の電圧を検出する第1の電圧検出器と、
前記フィルタ用コンデンサの電圧を検出する第2の電圧検出器と、
前記第1の電圧検出器による第1の検出電圧と第1の基準電圧とを比較してその差に対応する第1の誤差増幅信号を出力する第1の誤差増幅器と、
前記第2の電圧検出器による第2の検出電圧と前記第1の基準電圧よりも低い第2の基準電圧とを比較してその差に対応する第2の誤差増幅信号を出力する第2の誤差増幅器と、
前記第1の誤差増幅器と前記第2の誤差増幅器との出力のOR論理を行うOR回路とを備え、
前記OR回路の出力を前記制御回路の入力とし、前記放電負荷の電圧と前記フィルタ用コンデンサの電圧の両方とも最大設定電圧を越えないように、前記制御回路が前記インバータ回路を制御することを特徴とする放電負荷用電源装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかにおいて、
放電開始前の前記放電負荷の漏れ電流をItとし、前記交流入力端子AとBとの間の交流電圧の値をE、その1周期をTとするとき、前記トリガ用コンデンサのキャパシタンスCtは、Ct>It×T/Eを満足する値を有することを特徴とする放電負荷用電源装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−180661(P2006−180661A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373291(P2004−373291)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000103976)オリジン電気株式会社 (223)
【Fターム(参考)】