説明

新規なサッカロスリックス株およびそれに由来する抗生物質、すなわち、ムタクチマイシンおよびアルドガマイシン

本発明は、2004年2月16日にCNCMに番号I−3160として寄託された新規なサッカロスリックス・アクチノミセテ(Saccharothrix actinomycete)SA103株またはその突然変異株;該株の選択のための方法および培地;ならびに該SA103株培養物からの培養液、活性濃縮物および活性化合物の製造方法に関する。本発明はまた、該製造方法によって得ることができる活性化合物、すなわち、新規なムタチマイシン(mutatimycin)およびアルドガマイシン、該活性化合物を含んでなる医薬組成物、ならびに医薬および植物薬におけるその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、2004年2月6日にCNCMに番号I−3160として寄託された新規な放線菌株サッカロスリックス(Saccharothrix)SA103またはその突然変異株、該株を選択するための方法および培地、該SA103株の培養物から培養培地、活性濃縮物および活性化合物を製造する方法に関する。本発明はまた、この製造方法によって得ることができる活性化合物、特に新規なムタクチマイシンおよびアルドガマイシン、これらの活性化合物を含んでなる医薬組成物、ならびに医学および植物薬の分野におけるそれらの使用に関する。
【0002】
抗微生物剤は、ヒトの健康、獣医学、植物病理学、食品工業、皮や木材の処置など多くの分野で広く用いられている。これらの薬剤の大部分のものは微生物によって生産されたものであり、なかでも放線菌が最も重要である。
【0003】
新規な抗微生物剤、特に抗菌抗生物質が常に探し求められている。
実際、細菌はその本領により指数関数的に増殖し、これにより遺伝子の突然変異によって抗生物質耐性となる機会を高めることが知られている。
【0004】
動物の領域、特にヒト、または植物で、また、食品工業や皮革工業でも、抗生物質の使用が不適切であれば、細菌の突然変異能が高まり、抗生物質耐性となる。
この問題の解決策の1つは、分別を持って抗生物質を投与することであるのは明白であるが、この解決策は予防策でしかない。
【0005】
よって、当技術分野の現状では、新規な抗生物質を開発する必要がある。この目的で、研究者らは極限環境微生物に着目してきた。
【0006】
本発明者らはこれによりアルジェリアのサハラ以南の土壌に存在する新規な放線菌株サッカロスリックスSA103を単離し、これを2004年2月16日にCNCM(Collection National de Cultures de Microorgansimes)に番号I−3160として寄託した。
【0007】
本発明者らはまた、この株がアントラサイクリン種の活性化合物(そのいくつか、詳しくはムタクチマイシン(PR、F、G)はこれまでに確認されたことのないものであった)、また、アントラサイクリン種の活性化合物、詳しくはアルドガマイシン(G、HおよびP10b)を産生することも発見した。これらの活性化合物は、特にグラム陽性菌に対する抗菌活性と、抗ウイルス活性、抗増殖活性および抗癌活性を有する。
【0008】
よって、本発明者らは、2004年2月16日にCNCMにI−3160として登録されたサッカロスリックスSA103株からこれらの化合物を得る方法を開発し、その方法は実施が簡単であるという利点を持っている。従って、サッカロスリックス株から得られたこれらの抗生物質化合物はヒトおよび動物の双方で実質的な医薬として注目され、また、植物衛生としても注目され、工業規模での生産が可能である。
【0009】
これがまさに本発明の目的である。
よって、本発明の主要な課題は、2004年2月16日にCNCMにI−3160として登録された放線菌株サッカロスリックスSA103またはその突然変異株である。
【0010】
本願において「突然変異株」、「変異体株」または「変異体」は、下記の活性化合物の少なくとも1つを産生する能力を保存することによりサッカロスリックスSA103株からの選択的突然変異により得ることができるサッカロスリックス株を等しく意味する。この突然変異技術は当業者に公知のものであり、サッカロスリックスSA103株を放射線などの物理的突然変異誘発剤、または例えばアクリフラビンなどの化学突然変異誘発剤の存在下に置いた後、適当な培地において、抗生物域(例えば最小阻害濃度法、すなわちMICなどの微生物阻害法)を用いることで残存する目的の突然変異株を選択することからなる。
【0011】
本発明のサッカロスリックスSA103株は、本願の「実施例」の部分に記載されている。
本発明のサッカロスリックスSA103株またはその突然変異株の1つは、放線菌の増殖に一般に用いられる種々の栄養物質を含有する培地で培養する。例えば、炭素源としては、グルコース、グリセリン、スクロース、デンプン、マルトース、または動物油もしくは植物油が使用できる。窒素源としては、例えば、ダイズ粉末、肉抽出物、酵母抽出物、ペプトン、トウモロコシ浸漬水、コットンケークまたは魚油などの有機窒素が使用できる。例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウムまたはリン酸アンモニウムなどの無機窒素も使用できる。必要であれば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、またはMg++、Ca++、Zn++、Fe++、Cu++、Mn++もしくはNi++などの二価金属塩、およびアミノ酸またはビタミンを添加することもできる。
【0012】
本発明のさらなる課題は、本発明の放線菌株サッカロスリックスSA103および/または少なくとも1つのその突然変異株を選択する方法であり、その方法は、下記の工程:
a)前記の株および/または少なくとも1つのその突然変異株を含む可能性のある生体サンプルを適当な選択培地と接触させる工程;
b)前記の株および/または少なくとも1つのその突然変異株を単離する工程
を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明のさらなる課題は、本発明の放線菌株サッカロスリックスSA103を単離するのに適当な選択培地である。
本願では、好適な選択培地は、少なくとも本発明の放線菌株サッカロスリックスSA103は発達可能であるが、サッカロスリックスSA103株とは異なる少なくとも1つの株の増殖または真菌などの別の微生物の増殖を妨げる手段による任意の培地を意味し、好ましくは本発明の選択培地は、本発明のサッカロスリックスSA103株とは異なる総ての株の増殖またはその突然変異株の増殖を妨げる働きをする。
【0014】
このような選択培地は、上記で定義したような種々の栄養物質と、例えば、本発明のサッカロスリックスSA103株および/または少なくとも1つのその突然変異株のみが耐性となる抗菌薬、および/または急速な増殖が本発明の株の増殖を邪魔する、さらには妨げる真菌を排除する抗真菌薬などの少なくとも1種類の薬剤を含んでなる。
【0015】
本発明のサッカロスリックスSA103株を単離するのに適当な選択培地の例としては、好ましくは約0.005%の割合のリゾチーム、好ましくは約10mg/lの割合のサイクロセリンもまた含んでなる腐植−ビタミンBゲロースに相当するMIS培地が挙げられる。なお、この培地のpHは約8.5〜約9の間である。
【0016】
本発明の放線菌株SA103を単離するのに適当な選択培地の別の好ましい例としては、好ましくは約0.005%の割合のリゾチーム、好ましくは約10mg/lの割合のサイクロセリン、好ましくは約10mg/lの割合のペニシリン、好ましくは約5mg/lの割合のリファンピシンもまた含んでなるHV−ビタミンB培地がある。なお、この培地の約8.5〜約9の間である。
【0017】
本発明の適当な選択培地の選択性は、前記の培地に、特に、好ましくは約0.001%の割合のアジ化ナトリウム、好ましくは約0.01%の割合の亜テルル酸カリウム、および/または好ましくは約0.001%の割合のクリスタルバイオレットなど、本発明のSA103株が耐性となる他の選択物質を添加することによって強化することができる。
【0018】
本発明の適当な選択培地に添加可能な抗真菌薬の例としては、アクチジオンおよび/またはナイスタチンが挙げられる。
本発明のサッカロスリックスSA103株の突然変異株を選択する場合、当業者に周知のように、選択培地は、単一のアミノ酸が添加された培養培地からなってもよい。
【0019】
本発明者らが単離に成功した本発明のSA103株は極めて希少な株である。実際、分析した120を超えるサンプルで、例えば上述の抗生物質などの選択物質を用いて、または用いずにただ1個のコロニーが同定された。
【0020】
本発明のさらなる課題は、本発明の放線菌株サッカロスリックスSA103および/または少なくとも1つのその突然変異株の培養物から培養培地を調製する方法であり、その方法は下記の工程:
a)前記の株を栄養培地で発酵させて培養培地を得る工程;
b)場合によっては、工程a)で得られた培養培地を分離する工程
を含むことを特徴とする。
【0021】
他の抗生物質の生産の場合と同様に、液体培地での好気性発酵が好ましく、本発明のサッカロスリックスSA103株からの活性化合物の生産は、この株の増殖に有利ないずれの温度で行ってもよく、すなわち、周囲温度〜43℃の範囲である。25℃〜32℃の間の温度を用いるのが好ましい。いっそう好ましくは、温度は30℃である。この培養を数日、例えば、2日〜10日間続けることができる。通常、pHはややアルカリ性であるが、厳密なpHは使用する培養培地によって異なる。この株を、ゲロース上で増殖(特に傾斜培養)させた後に採取し、場合によっては低温で保存し、培養培地を得るために、本発明のサッカロスリックスSA103株の増殖に関して上記したものと同様の栄養物質からなる通常の液体培地に攪拌しながら接種する。
【0022】
発酵はエルレンマイヤーフラスコで、また、種々の容積の工業用または実験用ファーメンターで行うことができる。発酵を容器で行う場合、傾斜培養物または平板培養物のサンプル、または生物の凍結乾燥培養物を栄養培地に接種することにより栄養培地中で接種株を作製することが望ましい。このようにして接種株が得られた後、これを活性化合物の大規模生産用の発酵槽の培地に無菌的に移す。適当な微生物増殖が得られる限り、接種株を生産する培地は発酵槽で用いるものと同じであっても異なっていてもよい。
【0023】
本発明の栄養培地は一般に、上記のような本発明のサッカロスリックスSA103株の培養培地と同じ種類の栄養物質(炭素源、窒素源など)を含む。また、液体パラフィン、大豆油、グリースまたはシリコーンなどの消泡剤を含んでもよい。
培養培地を分離する任意の工程b)は、当業者に周知のいずれかの方法により、単独で、または例えば、遠心分離、濾過または低温殺菌などの他の分離方法と組み合わせて行うことができる。
よって好ましくは、本発明の培養培地を製造する方法は、任意の工程b)で行う分離は遠心分離および/または濾過および/または低温殺菌であることを特徴とする。
【0024】
本発明のさらなる課題は、本発明の方法によって得ることができる培養培地である。
本発明の製造方法によって得られる培養培地を用い、活性化合物を抽出する。この目的で、例えば、限定されるものではないが、n−ブタノール、酢酸エチル、ジクロロメタン、n−プロパノールまたは2−プロパノールなどの有機溶媒が用いられる。
【0025】
この抽出工程の後、場合によっては、その活性濃縮物中の多くの極性不純物を除去し、これにより次のHPLCによる活性濃縮物の最終精製を容易にするためにこの有機相を脱水してもよい。この目的で、無水硫酸ナトリウムもしくは硫酸マグネシウム、および/または有機相の真空乾燥を行うことができる。ゲル(架橋デキストランゲル)上での濾過、セルロースカラムクロマトグラフィー、イオン交換樹脂または薄層クロマトグラフィー(シリカゲル)の使用も考えられる。
【0026】
このような方法は当業者に周知のものであり、当業者ならば、本発明のサッカロスリックスSA103株の培養培地から活性濃縮物を回収するために最も好適な方法で種々の技術を単独で、または組み合わせていかに用いればよいかを知っている。
【0027】
よって、本発明のさらなる課題は、本発明の培養培地から活性濃縮物を製造する方法であり、その方法は下記の工程:
a)培養培地を有機溶媒で有機抽出する工程;
b)場合によっては、得られた有機相を脱水し、かつ/または真空乾燥する工程;
c)場合によっては、活性濃縮物を懸濁液とし、好ましくは得られた懸濁液を濾過し、有機抽出および脱水の工程a)およびb)を繰り返す工程
を含むことを特徴とする。
【0028】
本発明の方法によって得ることができる活性濃縮物は、本発明のさらなる課題である。
これにより得られる活性濃縮物は、次に、可視光線/紫外線吸収スペクトル、赤外線吸収スペクトル、H−NMRスペクトルおよび13C−NMRスペクトル、質量分析、また、クロマトグラフィー分析(シリカゲルまたはデキストランゲルクロマトグラフィーカラム、イオン交換樹脂、液相クロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィーまたはHPLCなど)などの機器分析によって同定する。これは得られた活性濃縮物中に存在し得る種々の活性化合物(「活性画分」とも呼ばれる)を特性決定し、生産する助けとなる。
【0029】
よって、本発明のさらなる課題は、好ましくは薄層クロマトグラフィーおよび/または低圧液体クロマトグラフィーの後に逆相高速液体クロマトグラフィー(逆相HPLC)により、本発明の活性濃縮物から活性化合物を製造する方法である。
【0030】
従って、本発明の製造方法によって得ることができる活性化合物は、HPLCクロマトグラフィーによって得られる溶出液に相当し、実質的に純粋である。
活性濃縮物から活性化合物を分離するためには、HPLCクロマトグラフィーによる精製は避けて通れない。薄層クロマトグラフィーおよび/またはセファデックスLH20型などの定圧液体は、多くの不純物を除去した活性濃縮物を得、それにより次に続くHPLCクロマトグラフィーによる精製を容易にする役割を果たす。
【0031】
好ましくは、本発明の活性化合物を製造する方法は、活性化合物が、ムタクチマイシンP11、ムタクチマイシンPR、ムタクチマイシンGもしくはムタクチマイシンFなどのムタクチマイシン、またはアルドガマイシンG、アルドガマイシンHもしくはアルドガマイシンP10bなどのアルドガマイシン、またはこれらの活性化合物の医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物であることを特徴とする。
【0032】
ムタクチマイシンP11は下式:
【化1】

を有する。
【0033】
これは、「Registry」ベースにRN138689−81−3として登録されている既知のムタクチマイシンCと一致することが確認されている。
ムタクチマイシンPRは下式:
【化2】

を有する。
ムタクチマイシンFは下式:
【化3】

を有する。
ムタクチマイシンGは下式:
【化4】

を有する。
アルドガマイシンG(またはP10a)は下式:
【化5】

を有する。
下記の立体化学式:
【化6】

を有するアルドガマイシンは既知のものであり、「Registry」ベースにRN107745−56−2として登録されている。
【0034】
アルドガマイシンH(またはP8)は下式:
【化7】

を有する。
アルドガマイシンP10b(またはスワルパマイシンB)は下式:
【化8】

を有する。
本発明のさらなる課題は、活性化合物が下式:
【化9】

を有するムタクチマイシンPRであることを特徴とする、本発明の製造方法によって得ることができる活性化合物、またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物である。
【0035】
本発明のさらなる課題は、活性化合物が下式:
【化10】

を有するムタクチマイシンFであることを特徴とする、本発明の製造方法によって得ることができる活性化合物またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物である。
【0036】
本発明のさらなる課題は、活性化合物が下式:
【化11】

を有するムタクチマイシンGであることを特徴とする、本発明の製造方法によって得ることができる活性化合物またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物である。
【0037】
本発明のさらなる課題は、活性化合物が下式:
【化12】

を有するアルドガマイシンGであることを特徴とする、本発明の製造方法によって得ることができる活性化合物またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物である(ただし、下記の立体化学式:
【化13】

を有するアルドガマイシンGは除く)。
【0038】
本発明のさらなる課題は、アルドガマイシンGが下記の立体化学式:
【化14】

を有することを特徴とする、本発明の製造方法によって得ることができる活性化合物、またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物である。
【0039】
本発明のさらなる課題は、活性化合物が下式:
【化15】

を有するアルドガマイシンHであることを特徴とする、本発明の製造方法によって得ることができる活性化合物、またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物である。
【0040】
好ましくは、アルドガマイシンHは下記の立体化学式:
【化16】

を有するか、またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物である。
【0041】
本発明のさらなる課題は、活性化合物が下式:
【化17】

を有するアルドガマイシンP10bであることを特徴とする、本発明の製造方法によって得ることができる活性化合物、またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物である。
【0042】
好ましくは、アルドガマイシンP10bは下記の立体化学式:
【化18】

を有するか、またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物である。
【0043】
本発明のムタクチマイシンPR、ムタクチマイシンF、ムタクチマイシンG、アルドガマイシンG、アルドガマイシンまたはアルドガマイシンP10bは、例えば、化学法または酵素法などの当業者に公知のいずれかの方法によって得ることができる。好ましくは、上記のように本発明のサッカロスリックスSA103からの発酵を含む製造方法が使用される。
【0044】
本発明のさらなる課題は、ムタクチマイシンP11、ムタクチマイシンPR、ムタクチマイシンFもしくはムタクチマイシンG、またはアルドガマイシンG、アルドガマイシンHまたはアルドガマイシンP10bなどのアルドガマイシンから選択される少なくとも2つの活性化合物の活性混合物である。
【0045】
場合によっては、本発明の活性混合物は、ムタクチマイシンP11,ムタクチマイシンPR、ムタクチマイシンFもしくはムタクチマイシンG、またはアルドガマイシンG、アルドガマイシンHもしくはアルドガマイシンP10bなどのアルドガマイシン、および当業者に公知の抗菌活性、抗ウイルス活性、抗増殖活性または抗癌活性を有する他の活性化合物から選択される少なくとも2つの活性化合物を含み得る。
【0046】
本発明の活性化合物は単独で、または、例えば、グラム陽性菌の増殖を妨げるまたは数を減らすために他の微生物薬と組み合わせて使用することができる。よって、これらの化合物は、医学的見地から、特に抗菌目的、抗ウイルス目的または抗癌目的で有用である。
【0047】
本発明のさらなる課題は、ムタクチマイシンPR、ムタクチマイシンF、ムタクチマイシンGまたはアルドガマイシンG、アルドガマイシンHもしくはアルドガマイシンP10bなどの、治療上有効な量の本発明の活性化合物と医薬上許容される賦形剤を含有する医薬組成物である。
【0048】
これらの医薬組成物は、投与様式に対して医薬上適当ないずれの形態でも製造することができる。このような組成物の例は、錠剤、カプセル剤、丸薬、散剤および顆粒剤などの経口投与用の固形組成物、溶液、懸濁液、シロップなどの経口投与用の液体組成物、ならびに無菌溶液、懸濁液またはエマルションなどの非経口投与用の製剤を含む。
【0049】
本発明の活性化合物は、医薬上許容される限り、当業者に周知の、このような塩を形成するための試薬と付加塩を形成する。
【0050】
本発明の活性化合物の好ましい使用量は、用いる特定の活性化合物、処方する特定の組成物、適用様式および特定の部位、宿主および処置する疾病によって異なる。一般に、本発明の活性化合物は、腹腔内、静脈内、皮下または局所的方法によって注射されるか、または経口投与される。当業者は、例えば、年齢、体重、性別、食生活、投与時間、排泄速度、患者の症状、医薬品の組合せ、反応感受性、および疾病の重篤度など、医薬品の作用を改質する種々の因子を考慮する。投与は継続的に行うこともできるし、最大許容量で周期的に行うこともできる。
【0051】
抗菌薬として用いるためには、これらの活性化合物は一般に有効成分の濃度が処置する特定の生物の最小阻害濃度よりも高くなるように投与されるということを注記しておかねばならない。
【0052】
よって、本発明の課題は、医薬品として用いるための、ムタクチマイシンPR、ムタクチマイシンF、ムタクチマイシンGまたはアルドガマイシンG、アルドガマイシンHまたはアルドガマイシンP10bなどの本発明の活性化合物である。
【0053】
本発明のさらなる課題は、連鎖球菌などのグラム陽性菌が関わる感染、新生児感染、泌尿器感染、心内膜炎、肺炎、髄膜炎、耳炎、リステリア症、ジフテリア、結核またはらい病の予防および/または処置を目的とする抗生物質の製造のための、本発明の医薬組成物の使用である。
【0054】
本発明のさらなる課題は、本発明の医薬組成物によって、連鎖球菌などのグラム陽性菌が関わる感染、新生児感染、泌尿器感染、心内膜炎、肺炎、髄膜炎、耳炎、リステリア症、ジフテリア、結核またはらい病の予防および/または処置を目的とする抗生物質の製造のための、本発明の医薬組成物の使用である。
【0055】
さらなる課題は、後天性免疫不全症候群(AIDS)ウイルス、ワクチンウイルス、コロナウイルス、パピローマウイルス、パルボウイルス、ヒツジカタル熱ウイルス、デング熱ウイルス、エボラウイルスに関わる感染、またはインフルエンザ、天然痘、麻疹、風疹、水痘、A型、B型、C型、D型もしくはE型肝炎、単球増加症、黄熱、脳炎またはヘルペスの予防および/または処置を目的とする抗ウイルス医薬品の製造のための、本発明の医薬組成物の使用である。
【0056】
本発明のさらなる課題は、本発明の医薬組成物を用いて、後天性免疫不全症候群(AIDS)ウイルス、ワクチンウイルス、コロナウイルス、パピローマウイルス、パルボウイルス、ヒツジカタル熱ウイルス、デング熱ウイルス、エボラウイルスに関わる感染、またはインフルエンザ、天然痘、麻疹、風疹、水痘、A型、B型、C型、D型もしくはE型肝炎、単球増加症、黄熱、脳炎またはヘルペスを処置および/または予防する方法である。
【0057】
本発明のさらなる課題は、肺、子宮、乳房もしくは卵巣の癌、結腸直腸癌、白血病などの癌に罹患している患者、または前立腺、膀胱、皮膚、脳、咽喉の腫瘍に罹患している患者の予防および/または処置を目的とする抗癌医薬品の製造のための、本発明の医薬組成物の使用である。
【0058】
本発明のさらなる課題は、本発明の医薬組成物を用いて、肺、子宮、乳房もしくは卵巣の癌、結腸直腸癌、白血病などの癌に罹患している患者、または前立腺、膀胱、皮膚、脳、咽喉の腫瘍に罹患している患者を処置および/または予防する方法である。
【0059】
本発明のさらなる課題は、ムタクチマイシンPR、ムタクチマイシンF、ムタクチマイシンGまたはアルドガマイシンG、アルドガマイシンHもしくはアルドガマイシンP10bなどの本発明の活性化合物を含んでなる医薬品を用いて、植物の病害を予防および処置する方法である。
【0060】
ムタクチマイシンPR、ムタクチマイシンF、ムタクチマイシンGまたはアルドガマイシンG、アルドガマイシンHもしくはアルドガマイシンP10bなどの本発明の活性化合物はまた、食品工業、皮革工業または木材工業における処置のためにも使用できる。
【0061】
それらはまた、衛生目的、例えば、手洗いの目的、また、種々の実験器具、歯科用器具および医療器具またはその他の汚染材料を消毒する目的でも有用である。
【0062】
以下の図の説明および実施例は本発明の説明を意図したものであって、その範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0063】
実施例1: 材料および方法
1.1.微生物
本発明の放線菌生産株サッカロスリックスSA103は、アルジェリア(サハラ)の乾燥地方の土壌から、土壌サンプルを無菌蒸留水に懸濁させ、アクチジオン50ウイルスg/mlを含有する腐食−ビタミンBゲロース上に付着させることによって単離した。SA103株の純粋培養物を凍結乾燥により保存した。これをまた、実験室で用いるため、ISP No.2傾斜培地(Shirling and Gottlieb, Int. J. Syst. Bacteriol. 16:313-340, 1996)上、6℃で維持した。
【0064】
1.2.分類
SA103株の分類学的特徴を、Shirling and Gottlieb (1996) and in Waksman (“The Actinomycetes”, Vol. II, The Williams, & Wilkins Co.. Baltimore, 1961)に記載の種々の培地上で培養することにより判定した。形態学的特徴は、30℃で14日間増殖させた後に判定した。色の名称およびグレードの名称は、ISCC−NBSシステム(“Inter Society Colour Council” for the “National Bureau of Standards”)を用いて判定した。菌糸と胞子の形態の詳細な観察は、走査電子顕微鏡(日立、モデルS−450)により行った。生理学的特性はGood fellow (J. Gen. Microbiol. 69:33-90, 1971)およびWaksman (1961)の方法を用いて調べた。
【0065】
細胞壁のジアミノピメリン酸の異性体の種類および糖の全細胞組成は、Becker et al. (Appl. Microbiol. 12:421-423, 1964)およびLechevalier and Lechevalier (“In the Actinomycetales” Ed. H. Prauser, pp.311-316, Fisher Verlag, Jena, 1970)の方法により判定した。リン脂質およびミコール酸は、Minnikin et al. (Int. J Syst. Bacteriol. 27:104-107, 1977; J. Chromatography 188:221-233, 1980)の手法により分析した。
【0066】
1.3.発酵
成熟傾斜培養物から採取したSA103株のサンプルを、0.4%グルコース、1%麦芽抽出物および0.4%酵母抽出物を含有する無菌培養培地(滅菌前にpH7.2の調整)50mlの入ったエルレンマイヤーフラスコに接種し、30℃にて回転攪拌機(250rpm)上で2日間培養した。抗生物質を生産するため、培養培地3mlを、上記培地が100mlずつ入った500mlエルレンマイヤーフラスコに移し、同じ条件を用いて10日間培養した。総抗菌活性の生成を栄養ゲロース上で、枯草菌(Bacillus subtilis) ATCC6633に対するゲロース拡散試験によって行った。30℃で24時間インキュベーションした後に増殖阻害を調べた。抗微生物活性は、阻止域の直径を測定することによって調べた。菌糸の乾重は、ホモジナイズした培養培地1mlを入れ、105℃で24時間乾燥させたエッペンドルフ管にて測定した(Pfefferle et al. J. Biotech. 80:135-142, 2000)。
【0067】
1.4.抗生物質の精製
SA103株による抗菌抗生物質の生産は、液体培地MS+デンプン(1%)+酵母抽出物(0.3%)、pH7.2で行った(500mlエルレンマイヤーフラスコ当たり培地100ml、250rpmで攪拌、30℃でインキュベーション)。動態から、SA103株は指数増殖期(1日目)の開始時から抗生物質を生産し始め、この生産が定常期の開始時まで続き、その後、安定化した後、減数期の際に低下する(図1参照)。
【0068】
全部で8リットルの培養物を準備した。この濾液をn−ブタノールで抽出した。目的の抗菌抗生物質を含有するブタノール抽出液を保持した。
【0069】
この赤色のブタノール抽出液をRotavaporで濃縮した。この抽出液のアリコートを、まず、移動相として再蒸留水中メタノール(80%)を用いて、セファデックスLH20カラムに送り込んだ。しかし、抗生物質の分離(裸眼による視認とアンチバイオグラフィーによる可視化)は決定的なものではなかった。よって、この工程は除外し、ブタノール抽出液を、C18カラムと均一濃度条件(水中63%メタノール)、流速1.5ml/分、220nmでの検出を用いて逆相HPLCによりそのまま精製した。プロフィール上で得られた総てのピークに相当する画分をそれぞれ回収し、濃縮し、枯草菌に対して試験した。次の7画分(7ピーク)で活性があることが分かった:明赤色の4画分(P11、PR、FおよびG)および無色の3画分(P8、P10aおよびP10b)。これらの抗生物質を、これまでと同じ条件で3〜4回再注入した後、HPLCにより精製した。
【0070】
実施例2: 結果および考察−生産株の分類学的特性決定
2.1.株の形態
SA103株は、線形または柔軟な胞子鎖に分断された十分発達した桃色の好気性菌糸を形成した。これらの胞子は棒状で、大きさは1.9〜2.9×0.6〜0.7ミクロンで、平滑な表面を持っている(図1)。内生胞子、強膜顆粒、束状体および鞭毛胞子は観察されなかった。基底菌糸は褐色がかった赤色から深紅で、断片はほとんど見られなかった。この株は特徴的な暗赤色の色素を豊富に生産し、これが抗菌抗生物質に相当することが明らかになった。
【0071】
2.2.構造的特徴
表1は種々の培養支持体上でのSA103株の培養の特徴を示す。株の増殖は酵母抽出物ならびに麦芽抽出物ゲロース、ベネットゲロースおよび栄養ゲロース上では盛んであるが、オートミールゲロースおよび無機塩−デンプンゲロース上ではそれほどでもない。菌糸の色は好気性菌糸では黄色がかった桃色から薄い赤色がかった褐色までの範囲であり、基底菌糸では褐色がかった橙色から濃暗赤色までの範囲であった。この株は、用いた菌糸の総てで暗赤色または褐色がかった橙色の水溶性色素を生産したが、メラノイド色素は見られなかった。
【0072】
最も違いの少ない種はサッカロスリックス・シリンゲ(Saccharothrix syringae)であり、白桃食がかった好気性菌糸、基底菌糸および紫−赤−褐色の水溶性色素を持っていた。
【0073】
2.3.化学的分類
化学的分類研究から、メソ−ジアミノピメリン酸が存在し、グリシンが存在しないことが示された(III型の細胞壁)。細胞全体の糖モチーフはラムノースおよびガラクトースからなっており(E型の細胞糖)(Kroppendstedt, “The genus Nocardiopsis. In the Procaryotes”Ed., A. Balows et al., pp.1139-1159, Springer Verlag, Berlin, 1192)、特徴的なリン脂質はホスファチジル−エタノールアミンであった(P11型のリン脂質)。ミコール酸は検出されなかった。
【0074】
2.4.株の生理学
生理学的試験の結果を表2に示す。
この株は、ほとんどの糖類を含む数種類の有機化合物(カゼイン、ゼラチン、ツィーン80、デンプン、チロシンなど)を使用できる。これに対して、マンニトールを除き、オースのアルコール誘導体(イノシトール、アドニトール、ダルシトール、エリトリトールおよびソルビトール)は分解されない。この株は20℃および48℃(最適な30℃)、pH5および9(最適な7〜8の間)で増殖可能である。また、リゾチームとクリスタルバイオレットには耐性があるが、ペニシリンとリファンピシンを除き、試験した抗生物質(11)には感受性である。
【0075】
SA103株はSa.シリンゲと、ラクトースは分解できるがヒポキサンチンと酪酸ナトリウムは分解できないこと、エリスロマイシン、ゲンタマイシン、オキシテトラサイクリンおよびバンコマイシンに感受性であること、ペニシリン、リファンピシンおよびクリスタルバイオレットに耐性があること、ならびにpH5で増殖することによって識別される。
【0076】
よって、SA103株は、サッカロスリックスの新規な種、あるいはおそらくはSa.シリンゲの新規な亜種であり得る。
【0077】
2.5.分類
上記の形態的特性および化学的特性を基づけば、SA103株はサッカロスリックス属に属すものと結論付けられた(Labeda, et al, Int. J. Syst. Bacteriol. 34 :426-431, 1984)。最も近縁な種サッカロスリックス・シリンゲNRRL B−16 468に比べ、このSA103株は、ラクトースは分解できるがヒポキサンチンと酪酸ナトリウムは分解できないこと、エリスロマイシン、ゲンタマイシン、オキシテトラサイクリンおよびバンコマイシンに感受性であること、ペニシリン、リファンピシン、クリスタルバイオレットおよびナトリウムアゾチドに耐性があること、ならびにpH5.0で増殖することで異なる。よって、この株をサッカロスリックス種SA103と呼称した。
【0078】
2.6.発酵
サッカロスリックス種SA103による抗菌活性の生産の経時的変動を図1に示す。枯草菌に対する生物活性の生成は1日目に始まり、4日目にピークに達した後、安定する。バイオマスは最初の3日で増大し、安定となった後、8日目に低下した。pH動態は、1日目に急激に上昇した後、中性となり、発酵の終了時に上昇することが示された。一般に、微生物による二次代謝産物の生産は定常期に始まるが、本ケースでは、生物活性の生成は増殖と強い相関があり、経時的変動の全過程で見られた。同様の経時的生産動態が、サッカロスリックス種SA233によるジチオロピロロン抗生物質の生産についても (Lamari et al., J. Antibiotics 55:696-701, 2002)、ストレプトミセス・クラブリゲルス(Streptomyces clavuligerus)によるクラブラン酸の生産についても見られた(Lebrihi et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 26:130-135, 1987)。
【0079】
2.7.抗生物質の構造の決定
抗生物質の単離および精製の種々の工程を図2にまとめている。
【0080】
2.7.1.アントラサイクリン系抗生物質
抗生物質P11、PR、FおよびGは中性pHでは明赤色、酸性pHでは黄色、塩基性pHでは青紫色である。P11が主要な抗生物質であり、PRは副次的な抗生物質である。これらの抗生物質を以下の直腸鏡検査:UV可視光、赤外、質量分析、ならびにプロトンおよび炭素13のNMR(相関研究を伴う)の対象とした。また、溶解度、CCMによるRfの測定および元素分析(P11に関しては後者のみ)などの補助試験も行った。
【0081】
P11分子のムタクチマイシンCとしての同定
このP11分子の分子量は530であり、化学式はC273011である。UV−可視光(MeOH)で得られた最大値は、219、234、250、287、478、496および531mmである。このスペクトルはアントラサイクリン系の抗生物質のものと同様であり、また、色はpHが異なれば変化する。赤外スペクトルは芳香基、ヒドロキシル基、メチル基およびメトキシル基の存在を示唆する。さらに、プロトンおよび炭素13のNMRによる詳細研究(化学シフト、スピン−スピン結合定数、シグナル強度およびH−H cosy 45、H−13C HMCQおよびH−13C HMBC相関)を行った後、最終的な構造を解明した。このようにしてP11分子は、放線菌種の突然変異株によって分泌されることが知られているムタクチマイシンCとして同定された。ムタクチマイシンCは、オース(6−デオキシ−3−O−メチル−α−マンノピラノシド)と(炭素C7を介して)結合したアントラサイクリン核(2つのベンゼン環の間にキノン環を含む4つの隣接する環)からなる。P11は水、メタノール、n−ブタノール、エタノール、1−プロパノールおよびアセトンにおける溶解度が高く、n−ヘキサンおよびトルエンに不溶である。
【0082】
新規なムタクチマイシンの化学構造の決定
ムタクチマイシンPR
この副次的なPR分子の分子量は662であり、式C323815に相当する。UV−可視光で得られた最大値および赤外バンドP11の場合と同一であり、マスフラグメントはこの2つの抗生物質間でかなりの類似性があり、化学構造が極めて似ていることを示唆している。PRは水、メタノールおよびエタノールにおける溶解度が高く、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、n−ヘキサンおよびトルエンには不溶である。プロトンおよび炭素13のNMRはPRの構造の解明に役立ち、その構造はP11(ムタクチマイシンC)に近いことが分かり、唯一の違いは1つ目のベンゼン環の炭素と(−OCHの位置で)結合した第二のオースが存在することである。この第二のオースは6−デオキシ−マンノピラノシド(メチルが存在しないことで最初のものとは異なる)である。この構造により、PR分子はアントラサイクリン系に、そしてムタクチマイシン群に属す。しかし、これは既知のどのムタクチマイシンとも異なり、従って、この群の新規な抗生物質に当たり、ムタクチマイシンPRと呼ぶ。
【0083】
ムタクチマイシンF
抗生物質Fの分子量は516(従って、P11よりも14小さい)、分子式C262811に相当する。そのUV−可視光および赤外スペクトルならびにマスフラグメントはP11およびPRのものと極めて類似している。従って、このことはこの3つの分子の間で強い類似性があることを示唆している。この化合物Fは水、n−ブタノール、1−プロパノールおよびエタノールに可溶で、n−ヘキサンおよびトルエンには不溶である。プロトンおよび炭素13のNMRはこの分子の構造の解明に役立ち、その構造はP11(ムタクチマイシンC)に極めて類似していることが分かり、唯一の違いはマンノピラノシル残基の炭素C3上に、−OCH3基の代わりにOHが存在することである。この抗生物質Fは既知のどのムタクチマイシンとも異なり、新規な分子に当たり、ムタクチマイシンFと呼ぶ。
【0084】
ムタクチマイシンG
この分子の分子量は502であり、式C252611に相当する。UV−可視光および赤外スペクトル、ならびにマスフラグメントにおいて、G、F、PRおよびP11間の強い類似性が見られた。生成物Gは水、n−ブタノール、1−プロパノール、メタノールおよびエタノールに可溶で、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、n−ヘキサンおよびトルエンには不溶である。プロトンおよび炭素13のNMRはこの分子の構造の解明に役立ち、その構造はPRと極めて類似していることが分かり、唯一の違いはアントラサイクリン核の4番目の環の炭素C7に結合した第二のオースが存在しないことである。従って、この抗生物質Gはムタクチマイシン群の新規な分子に当たり、よって、ムタクチマイシンGと呼ぶ。
【0085】
2.7.2.マクロライド系抗生物質
抗生物質P8、P10aおよびP10bは無色である。P8はサッカロスリックス種SA103によって生産される、P11(ムタクチマイシンC)に次ぐ主要分子である。この3種類の抗生物質はメタノール、n−ブタノール、エタノール、1および2−プロパノール(propnol)、酢酸エチル、アセトン、クロロホルムおよびジクロロメタンにおいては溶解度が高いが、水およびn−ヘキサンには不溶である。これらの抗生物質も上記のムタクチマイシンと同じ分光光度分析の対象としたところ、それらの化学構造の決定に至るのに役立った。
【0086】
P10aのアルドガマイシンGとしての同定
抗生物質P10aの分子量は740であり、分子式C375615に相当する。UV−可視光スペクトルはアルドガマイシンのものと極めて類似しており、216nmにピークを、そして245nmと278nmにショルダーを示した。赤外スペクトルは、メチル基、メトキシル基、ヒドロキシル基およびカーボネート官能基の存在を示すいくつかの吸収バンドを示す。P10aはn−ブタノール、1および2−プロパノール、メタノール、ジクロロメタン、酢酸エチル、クロロホルム、アセトンおよびエタノールに可溶で、n−ヘキサン、トルエンおよび水には不溶である。このようにP10a分子は、ストレプトミセス・アビジニー(Streptomyces avidinii)によって分泌されることが知られているアルドガマイシンGとして同定された。アルドガマイシンGは中性のマクロライドであり、そのラクトン環は、2つのメチル化糖、C14位にミシノエ、およびC5位にアルドガロースが結合されている16個の原子を含む。
【0087】
新規なマクロライドの化学構造の決定
アルドガマイシンH
抗生物質P8の分子量は714であり、分子式C365814に相当する。その物理化学的特性はP10a(アルドガマイシンG)のものと極めて類似している。しかし、P10bのUV−可視光スペクトルは245nmと278nmでより低い吸光強度を示し、その赤外スペクトルは、アルドガマイシンGの場合のカーボネート基に特徴的な1800cm−1における吸収バンドをもはや含んでいない。生成物P8は、その分光分析データを総て解析した後、アルドガマイシンEと類似しているが、アルドガロース糖上のカーボネート官能基が存在しない(この場合は加水分解されている)ことで異なる、Hと呼ばれる新規なアルドガマイシンであると同定された。
【0088】
スワルパマイシンB
P10b分子はHPLCによりP10b生成物から分離することができなかったので、複合体の形で生成物P10bと同時に分析した。その分子量は698であり、化学式はC365813である。プロトンおよび炭素13のNMR分析は最終的な構造を解明するのに役立った。そして、P10aはP8およびスワルパマイシンに極めて類似した化学構造を有する。
【0089】
抗生物質の微生物学的活性
ムタクチマイシンP11、PR、FおよびG、ならびにマクロライドP8、P10(aおよびb)の微生物学的活性は主としてグラム陽性菌に対するものである。最も感受性の高い細菌はミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)と肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)(感受性のある唯一のグラム陰性菌である)である。
【0090】
最小阻害濃度(minimum inhibiting concentration)(MIC)は、M.ルテウスおよび肺炎桿菌では5μg/mlであり、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus) CIP 53156では10μg/ml、枯草菌では40μg/ml、リステリア菌(Listeria monocytogenes)では50μg/mlであり、スメグマ菌(Mycobacterium smegmatis)では75μl/mlである。新規な分子PR、FおよびGは同じ微生物(リステリア菌以外)に
対して活性がある。
【0091】
黄色ブドウ球菌CIP 7625、グラム陰性菌の大腸菌(Escherichia coli)、シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)病原型シリンゲおよびアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefasciens)、ならびに酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)および糸状菌ムコール・ロマニアヌス(Mucor romannianus)に対して作用を持つ分子はなかった。
【0092】
マクロライド(アルドガマイシンGおよびH)およびスワルパマイシンBの活性はムタクチマイシンの活性よりも大きい。実際、MICは肺炎桿菌では0.1μg/mlに過ぎず、枯草菌、ミクロコッカス・ルテウスおよび黄色ブドウ球菌CIP 53156では1μg/mlであり(これらは最も感受性が高い)、リステリア菌およびスメグマ菌ではそれぞれ30および50μg/mlである。グラム陰性菌(肺炎桿菌を除く)および真菌は耐性である。
【0093】
供試生物 MIC(μg/ml)
(スワルパマイシン)
枯草菌ATCC 6633 1
ミクロコッカス・ルテウスATCC 9314 1
黄色ブドウ球菌CIP 7625 >100
黄色ブドウ球菌CIP 53156 1
リステリア菌CIP 82110 30
スメグマ菌ATCC 607 50
肺炎桿菌CIP 82.91 0.1
大腸菌ATCC 10536 >100
シュードモナス・シリンゲNo2410 >100
アグロバクテリウム・ツメファシエンスNo2410 >100
ムコール・ロマニアヌスNRRL 1829 >100
サッカロミセス・セレビシエATCC 4226 >100
【0094】
供試生物 MIC(μg/ml)
(アルドガマイシンH)
枯草菌ATCC 6633 10
ミクロコッカス・ルテウスATCC 9314 1
黄色ブドウ球菌CIP 7625 >100
黄色ブドウ球菌CIP 53156 5
リステリア菌CIP 82110 >100
スメグマ菌ATCC 607 20
肺炎桿菌CIP 82.91 0.5
大腸菌ATCC 10536 >100
シュードモナス・シリンゲNo2410 >100
アグロバクテリウム・ツメファシエンスNo2410 >100
ムコール・ロマニアヌスNRRL 1829 >100
サッカロミセス・セレビシエATCC 4226 >100
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
【表3】

【0098】
【表4】

【0099】
【表5】


【0100】
【表6】


【0101】
【表7】

【0102】
【表8】


【0103】
【表9】

【0104】
【表10】

【0105】
【表11】


【0106】
【表12】

【0107】
【表13】


【0108】
【表14】


【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】サッカロスリックス種SA103株の発酵特性
【図2】サッカロスリックス種SA103株の活性産物の単離および精製

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2004年2月16日にCNCMに番号I−3160として寄託された放線菌株サッカロスリックスSA103またはその突然変異株。
【請求項2】
請求項1に記載の放線菌株サッカロスリックスSAおよび/または少なくとも1つのその突然変異株を選択する方法であって、下記の工程:
a)前記の株および/または少なくとも1つのその突然変異株を含む可能性のある生体サンプルを適当な選択培地と接触させる工程;
b)前記の株および/または少なくとも1つのその突然変異株を単離する工程
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の放線菌株サッカロスリックスSA103および/または少なくとも1つのその突然変異株を単離するのに適当な選択培地。
【請求項4】
請求項1に記載の放線菌株サッカロスリックスSA103および/または少なくとも1つのその突然変異株の培養物から培養培地を調製する方法であって、下記の工程:
a)前記の株を栄養培地で発酵させて培養培地を得る工程;
b)場合によっては、工程a)で得られた培養培地を分離する工程
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項5】
任意の工程b)で行われる分離が遠心分離および/または濾過および/または低温殺菌である、請求項4に記載の培養培地調製方法。
【請求項6】
請求項4および5のいずれかに記載の方法によって得ることができる培養培地。
【請求項7】
請求項6に記載の培養培地から活性濃縮物を製造する方法であって、下記の工程:
a)培養培地を有機溶媒で有機抽出する工程;
b)場合によっては、得られた有機相を脱水し、かつ/または真空乾燥する工程;
c)場合によっては、活性濃縮物を懸濁液とし、好ましくは得られた懸濁液を濾過し、有機抽出および脱水の工程a)およびb)を繰り返す工程
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項7の方法によって得ることができる活性濃縮物。
【請求項9】
好ましくは薄層クロマトグラフィーおよび/または低圧液体クロマトグラフィーの後に逆相高速液体クロマトグラフィー(逆相HPLC)により、請求項8に記載の活性濃縮物から活性化合物を製造する方法。
【請求項10】
活性化合物がムタクチマイシンP11、ムタクチマイシンPR、ムタクチマイシンGもしくはムタクチマイシンFなどのムタクチマイシン、またはアルドガマイシンG、アルドガマイシンHもしくはアルドガマイシンP10bなどのアルドガマイシン、またはこれらの活性化合物の医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物である、請求項9に記載の活性化合物の製造方法。
【請求項11】
活性化合物が下式:
【化1】

を有するムタクチマイシンPRである、請求項9および10のいずれかに記載の製造方法によって得ることができる活性化合物、またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物。
【請求項12】
活性化合物が下式:
【化2】

を有するムタクチマイシンFである、請求項9および10のいずれかに記載の製造方法によって得ることができる活性化合物、またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物。
【請求項13】
活性化合物が下式:
【化3】

を有するムタクチマイシンGである、請求項9および10のいずれかに記載の製造方法によって得ることができる活性化合物、またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物。
【請求項14】
活性化合物が下式:
【化4】

を有するアルドガマイシンGである、請求項9および10のいずれかに記載の製造方法によって得ることができる活性化合物、またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物(ただし、下記の立体化学式:
【化5】

を有するアルドガマイシンGは除く)。
【請求項15】
アルドガマイシンGが下記の立体化学式:
【化6】

を有する請求項14に記載の活性化合物、またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物。
【請求項16】
活性化合物が下式:
【化7】

を有するアルドガマイシンHである、請求項9および10のいずれかに記載の製造方法によって得ることができる活性化合物、またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物。
【請求項17】
アルドガマイシンHが下記の立体化学式:
【化8】

を有する、請求項16に記載の活性化合物、またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物。
【請求項18】
活性化合物が下式:
【化9】

を有するアルドガマイシンP10bである、請求項9および10のいずれかに記載の製造方法によって得ることができる活性化合物、またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物。
【請求項19】
アルドガマイシンP10bが下記の立体化学式:
【化10】

を有する、請求項16に記載の活性化合物、またはその医薬上許容される付加塩、異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および混合物。
【請求項20】
治療上有効な量の請求項11〜19のいずれか一項に記載の活性化合物と医薬上許容される賦形剤を含有する医薬組成物。
【請求項21】
医薬品としての使用のための、請求項11〜19のいずれか一項に記載の活性化合物。
【請求項22】
連鎖球菌などのグラム陽性菌が関わる感染、新生児感染、泌尿器感染、心内膜炎、肺炎、髄膜炎、耳炎、リステリア症、ジフテリア、結核またはらい病の予防および/または処置を目的とする抗生物質の製造のための、請求項20に記載の医薬組成物の使用。
【請求項23】
後天性免疫不全症候群(AIDS)ウイルス、ワクチンウイルス、コロナウイルス、パピローマウイルス、パルボウイルス、ヒツジカタル熱ウイルス、デング熱ウイルス、エボラウイルスに関わる感染、またはインフルエンザ、天然痘、麻疹、風疹、水痘、A型、B型、C型、D型もしくはE型肝炎、単球増加症、黄熱、脳炎またはヘルペスの予防および/または処置を意図した抗ウイルス医薬品の製造のための、請求項20に記載の医薬組成物の使用。
【請求項24】
肺、子宮、乳房もしくは卵巣の癌、結腸直腸癌、白血病などの癌に罹患している患者、または前立腺、膀胱、皮膚、脳、咽喉の腫瘍に罹患している患者の予防および/または処置を意図した抗癌医薬品の製造のための、請求項20に記載の医薬組成物の使用。
【請求項25】
請求項11〜19のいずれか一項に記載の活性化合物を含んでなる植物薬を用いて植物の病害を予防または処置する方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−500035(P2008−500035A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−514012(P2007−514012)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【国際出願番号】PCT/FR2005/001291
【国際公開番号】WO2005/118777
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(503095376)アンスティテュ ナシオナル ポリテクニク ドゥ トゥールーズ (4)
【Fターム(参考)】