説明

新規な抗老化ペプチド、並びにそれを含む化粧品及び/または製薬組成物

本発明は、化粧品及び皮膚科学の分野に関する。本発明は、サーカディアンリズムを回復するための、及び皮膚細胞の生物時計を再同調するための、一般式(I):R−(AA)−X−Ser−Thr−Pro−X−(AA)−Rのペプチド化合物に関し、並びに老化の効果を予防及び修正するための化粧品及び/または製薬におけるそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品及び皮膚科学の分野に関する。本発明は、サーカディアンリズムを回復するための、及び皮膚細胞の生物時計を再同調するための、一般式(I):R−(AA)−X−Ser−Thr−Pro−X−(AA)−Rのペプチド化合物に関し、並びに老化の効果を予防及び修正するための化粧品及び/または製薬におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
表皮の第一の機能は、外的環境と内的媒体の間にバリアを形成することである。この役目を実施するのは、表皮の再外層である角質層である。それは、分化の最終段階ではケラチノサイト、すなわち可撓性で不透過性である厚い細胞間接合剤により互いに接合されているコルネオサイトから形成される。皮膚である物理的バリアは、ヒトが数多くのタイプの攻撃に対して自分自身を保護することを可能にする。これらの攻撃は、各種の固有の起源を有し、例えば年齢的な老化、または疲労状態の間で生じる生化学的変化、ストレスまたはホルモン変化、例えば妊娠中のもの等が存在する。他の攻撃は起源が外的なもの、例えば汚染、日光、疾患等である。これらの攻撃に応答して、皮膚の外観は変化し、シワ及び小じわの出現、色素過剰または脱色の領域、乾燥または皮膚の脱水、表皮の日焼け、弾力線維症、欠陥、加齢領域等が観察される。これらの変化は、細胞の再生、細胞の接着、並びにコラーゲン、エラスチン、及び他のタンパク質の合成の機能に対する改変によって引き起こされ、究極的には皮膚の保護的バリア機能の減少と、その魅力的でない外観を導く。
【0003】
全ての他の器官と同様に、皮膚は周期的な変化の影響を受ける。それは各種の通常はラージスケールの生物学的サイクルを調節するサーカディアンリズム及び概日リズムの明確な組織体の根本を表す(F. Henry等, Rev Med Liege; 57: 10: 661-665)。ヒトでは、これらの皮膚のリズムは、一日の間で皮膚が環境に関する各種の保護機能を促進することを示唆する。朝と晩の間で、それは皮膚の細胞の再生を促進し、各種の代謝合成経路を促進する。
【0004】
良好な健康状態の観点では、生物がその環境と調和して生きている場合、生物学的リズムは同調している。対照的に、生物学的リズムに対する乱れは、「失調」と証される特定数の疾患で出現しているであろう(Reinberg及びTouitou, 1996)。失調とは、以前では同調していた二つ(またはより多い)のリズムが変化して、同じ周波数及び/または頂点位相関係をもはや有さなくなり、通常の関係とは異なる一時的な関係を示す状態である。失調は外的な起源を有する場合もあり、かくして環境の変化に依存し、例えば五つのタイムゾーンを通過する子午線を横切るフライト(「時差ぼけ」)の間、または徹夜労働の場合に生じる。内的な起源の失調は、環境因子に依存しない。それは、加齢または特定数の疾患、例えば鬱またはある種のガンで生じる。これらの失調の問題は、各種の治療によって治癒させることができる:例えば、季節性の鬱を治療するための強力な光の投与、またはメラトニンの投与が挙げられる(Dijk等, 1995; Eastman et Miescke, 1990; Palm等, 1995; Schochat等, 1998; Touitou等, 1998)。化粧品では、処置の効果はそれが投与される一日の時間に従って最適化できることが周知である。例えばデイクリームは、一日の間の外的な攻撃に対して皮膚を保護することが可能である一方、ナイトクリームは、細胞の再生と代謝を増大することにより一日の間で与えられたいずれかのダメージを皮膚が修復することを可能にする。更に、加齢は、振幅の減少と相のリードに向けた傾向と共に、生物学的リズムの変化を伴うことが示されている(Weinert D., Chronobiol. Int. 2000; 17: 261-83)。更に、概日時計はこの同じ老化プロセスによって改変されることも示されている。しかしながら現在のところ、皮膚を「リスタート」させる、またはその概日時計を復活させる、または生物時計を再同調させることが可能な治療は存在しない。そのような治療は、時差、夜間労働等から皮膚を回復させ、加齢によって引き起こされる兆候に対して打ち消すように機能することが可能であろう。
【0005】
驚くべきことに、本出願人は、以下の一般式:R−(AA)−X−Ser−Thr−Pro−X−(AA)−Rのペプチド化合物が、サーカディアンリズムを回復し、皮膚細胞の生物時計を再同調する特性を有することを発見した。そのような効果を得るためのそのようなペプチド化合物は、当該技術分野の文献に記載されていない。更にこれらのペプチド化合物は、サーカディアンサイクルの調節に関与するClock(circadian locomotor output cycles kaput)タンパク質の直接または関節のいずれかのアクチベーター剤であるという事実によって特徴づけされる。その結果本発明は、Clockアクチベーターであるペプチド化合物に関し、サーカディアンリズムを回復し、皮膚細胞の生物時計を再同調するための、または加齢によって引き起こされる兆候を予防または修正するための、化粧品及び製薬組成物におけるそれらの使用に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,291,429号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】F. Henry等, Rev Med Liege; 57: 10: 661-665
【非特許文献2】Weinert D., Chronobiol. Int. 2000; 17: 261-83
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
概日時計は、一連の遺伝子、特にPer-1(period)、Clock、及びBMAL-1(脳及び筋肉ARNt様タンパク質)遺伝子を含むネガティブ調節ループによって制御されていることが長い間知られていた。当該技術分野では以前に、数多くの出願がClock、Per-1及びBMAL-1遺伝子によって生産されるヌクレオチド及び/またはタンパク質の使用に関して提案している。例えば、睡眠サイクルまたは生理学的若しくは内分泌プロセスを再同調するための、あるいは時差ぼけ等の後の身体の再同調のための、Clock遺伝子の産物の使用を記載する米国特許第6,291,429号を参照。しかしながら、皮膚の内部生物時計を回復するための特異的なClockアクチベーターペプチドの使用を記載する当該技術分野の文献は存在しない
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一に、本発明は、サーカディアンリズムを回復し、皮膚細胞の生物時計を再同調することが可能であることを特徴とする、以下の式(I)のペプチド化合物に関する:
−(AA)−X−Ser−Thr−Pro−X−(AA)−R
[式中、
はトレオニン、セリン、またはゼロに等しく;
はイソロイシン、ロイシン、バリン、アラニン、グリシン、またはゼロに等しく;
AAはプロリンを除くいずれかのアミノ酸またはその誘導体であり、n及びpは0から4の間の整数であり;
は遊離した、またはアセチル基、ベンゾイル基、トシル基、またはベンジルオキシカルボニル基から選択できる保護基によって置換された、N末端アミノ酸の第一級アミン官能基であり;
はCからC20アルキル鎖またはNH、NHYまたはNYY(式中、YはCからCアルキル鎖である)から選択できる保護基によって置換された、C末端アミノ酸のカルボキシル官能基のヒドロキシル基であり;
前記一般式(I)の配列は3から13アミノ酸残基から形成され;
前記一般式(I)の配列はアミノ酸X及びXにおける他の化学的に同等なアミノ酸での置換を含んでも良い]。
【0010】
第二に、本発明は、一般式(I)のペプチド化合物を含む化粧品組成物に関する。
【0011】
第三に、本発明は、一般式(I)のペプチド化合物を含む化粧品組成物の使用に関する。
【0012】
最後第四に、本発明は、一般式(I)のペプチド化合物を含む組成物の補助で実施される美容処理方法に関する。
【0013】
本発明の第一の目的は、サーカディアンリズムを回復し、皮膚細胞の生物時計を再同調することが可能であることを特徴とする、以下の一般式(I)のペプチド化合物に関する:
−(AA)−X−Ser−Thr−Pro−X−(AA)−R
[式中、
はトレオニン、セリン、またはゼロに等しく;
はイソロイシン、ロイシン、バリン、アラニン、グリシン、またはゼロに等しく;
AAはプロリンを除くいずれかのアミノ酸またはその誘導体であり、n及びpは0から4の間の整数であり;
は遊離した、またはアセチル基、ベンゾイル基、トシル基、またはベンジルオキシカルボニル基から選択できる保護基によって置換された、N末端アミノ酸の第一級アミン官能基であり;
はCからC20アルキル鎖またはNH、NHYまたはNYY(式中、YはCからCアルキル鎖である)から選択できる保護基によって置換された、C末端アミノ酸のカルボキシル官能基のヒドロキシル基であり;
前記一般式(I)の配列は3から13アミノ酸残基から形成され;
前記一般式(I)の配列はアミノ酸X及びXにおける他の化学的に同等なアミノ酸での置換を含んでも良い]。
【0014】
本発明に係るペプチド化合物は、サーカディアンリズムの遺伝子産物のアクチベーターであることを特徴とする。「サーカディアンリズムの遺伝子」はClock、Per-1及びBMAL-1遺伝子を意味する。
【0015】
変性に対する耐性を改良するために、本発明に係るペプチドの保護化形態を使用することが必要であっても良い。もちろん保護の形態は、生物学的に適合可能な形態でなければならず、化粧品または医薬の分野内での使用に適合しなければならない。生物学的に適合可能な保護の数多くの形態が考慮される。それらは当業者に周知であり、例えばアミノ末端のアセチル化が挙げられる。さもなければ、YがCからCアルキル鎖であるNYY基でのアミド化、またはアルキル基を使用してカルボキシル末端のヒドロキシル官能基を保護するエステル化が挙げられる。更にペプチドの両末端を保護することも可能である。かくして特定の実施態様では、ペプチド化合物はアミノ末端のアセチル化によって保護される。
【0016】
好ましくはペプチド化合物は、以下の配列の一つを有する:
(配列番号1)Tyr−Val−Ser−Thr−Pro−Tyr−Asn−NH
(配列番号2)Val−Ser−Thr−Pro−Glu−NH
(配列番号3)Ser−Thr−Pro−NH
(配列番号4)Leu−His−Ser−Thr−Pro−NH
(配列番号5)Arg−His−Ser−Thr−Pro−Glu−NH
(配列番号6)His−Ser−Thr−Pro−Glu−NH
【0017】
特定の実施態様では、ペプチド化合物の配列は、配列番号3の配列、即ちSer−Thr−Pro−NHである。
【0018】
別の特定の実施態様では、ペプチド化合物の配列は、配列番号4の配列、即ちLeu−His−Ser−Thr−Pro−NHである。
【0019】
かくして本発明は、配列番号1から配列番号6の配列のペプチドが一箇所でまたは二箇所で保護されていることを特徴とする、上述のペプチド化合物に関する。
【0020】
本発明は更に、これらの配列の相同形態に関する。用語「相同な」は、本発明によれば、配列番号1から配列番号6の配列から選択される前記ペプチドオ配列と少なくとも50%、または好ましくは少なくとも80%、更により好ましくは少なくとも90%同一であるいずれかのペプチド配列を意味する。「少なくともX%同一であるペプチド配列」は、二つの配列の最適なアライメントの後に得られる、比較される二つの配列のアミノ酸残基の間の同一性のパーセンテージを表すと解される。最適なアライメントは、NCBIサイトで入手可能なITソフトウェアBLAST PまたはT BLAST Nによって使用されるもののような部分的相同性のアルゴリズムの補助で得られる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
用語「相同な」は、化学的に同等なアミノ酸の置換によって、即ち同じ特徴を有する別の残基での一つの残基の置換によって、配列番号1から配列番号6の配列のペプチドの配列とは異なるペプチドを表すこともできる。かくして従来の置換は、Ala、Val、Leu及びIleの間;Ser及びThrの間;酸性残基Asp及びGluの間、Asn及びGlnの間;並びに塩基性残基Lys及びArgの間;または芳香族残基Phe及びTyrの間で実施される。
【0022】
用語「ペプチド」または「ペプチド化合物」は、ペプチド結合または修飾ペプチド結合によって互いに結合した二つ以上のアミノ酸の配列を表す。
【0023】
「ペプチド」または「ペプチド化合物」は、タンパク質分解的にまたは合成的に得られた、上述の本発明の天然または合成ペプチドまたはその断片の少なくとも一つ、あるいは上述のペプチドの配列によって全部または一部が形成されている配列を有するいずれかの天然または合成ペプチドを意味すると解されなければならない。
【0024】
本発明に係る一般式(I)のペプチドは、従来の化学合成(固相でまたは均一な液相で)によって、または酵素的合成(Kullman等, J. Biol. Chem. 1980, 225, 8234)によってのいずれかで、構成的アミノ酸またはその誘導体から得ることができる。
【0025】
本発明に係るペプチドは、天然起源または合成起源を有することができる。本発明によれば、ペプチドは好ましくは化学合成によって得られる。
【0026】
最後に、活性成分は、単一のペプチド、またはペプチド若しくはペプチドの誘導体及び/またはアミノ酸誘導体から形成された誘導体の混合物であることができる。
【0027】
本発明に係るペプチド化合物は、医薬として使用できる。
【0028】
本発明の第二の目的は、一般式(I)の前記ペプチド化合物を含む化粧品組成物に関する。本発明に係る組成物は好ましくは、化粧品または皮膚科学的に許容可能な媒体を含む局所適用に適合した形態で存在する。「化粧品的または皮膚科学的に許容可能」は、毒性、寛容性、不安定性、アレルギー反応等の危険がなく、皮膚またはヒトの皮膚付属物と接触する使用に適した媒体を意味する。前記ペプチド化合物は好ましくは、約0.0005から500ppmの間の濃度で、好ましくは0.01から5ppmの間の濃度で組成物中に存在する。本発明に係る組成物では、水、グリセロール、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、エトキシル化若しくはプロポキシル化ジグリコール、環状ポリオール、ワセリン、植物オイル、またはこれらの溶媒のいずれかの混合物といった一つ以上の化粧品的または皮膚科学的に許容可能な溶媒中に事前に溶解される。
【0029】
また更なる有利な実施態様によれば、本発明に係る活性成分は、リポソームのような化粧品または製薬ベクターに事前に溶解され、あるいは紛体有機ポリマー、タルク及びベントナイトのような無機支持体に吸着され、より一般的にはいずれかの生理学的に許容可能なベクター内に溶解され、またはそこに固定化される。
【0030】
皮膚に適用される組成物は、水性または親アルコール性溶液、水中油型または油注水型エマルション、ミクロエマルション、水性または無水ゲル、漿液、またはベシクルの分散物、パッチ、クリーム、スプレー、膏薬、軟膏、ローション、ゲル、溶液、懸濁物等の形態で存在できる。前記組成物はまた、特に睫、眉毛、若しくは毛髪にブラシ若しくはクシによって適用されるシャンプー、染料、またはマスカラの形態で、あるいはワニスのような爪のケア処置物の形態で皮膚付属物に適用できる。
【0031】
特定の実施態様では、本発明に係る組成物は更に、前記ペプチド活性成分の作用を促進する少なくとも一つの更なる活性成分を含む。非制限的な例として以下のクラスの成分が含まれる:他のペプチド活性剤、植物抽出物、治癒剤、抗老化剤、抗シワ剤、鎮静剤、抗ラジカル剤、抗UV剤、皮膚巨大分子の合成若しくはエネルギー代謝の刺激剤、水和剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗炎症剤、麻酔剤、皮膚分化、色素沈着若しくは脱色の調節剤、爪または毛髪成長の刺激剤等。抗ラジカル剤、または抗酸化剤、または真皮巨大分子の合成の刺激剤、あるいはエネルギー代謝の刺激剤が好ましくは使用される。
【0032】
更に、増粘剤、乳化剤、湿潤剤、及び皮膚軟化剤、香料、抗酸化剤、皮膜形成剤、キレート剤、金属イオン封鎖剤、コンディショニング剤等といった添加剤が、前記組成物に添加できる。
【0033】
いずれの場合でも、これらの添加剤並びにその量が、本発明に係る組成物の所望される有利な特性に対して有害とならないように選択されることが、当業者により確認されるであろう。例えばこれらの添加剤は、組成物の全重量の0.01から20%に対応して良い。本発明の組成物がエマルションである場合、脂肪相は、前記組成物の全重量に基づいて5から80重量%、好ましくは5から50重量%であることができる。前記組成物で使用される乳化剤及び共乳化剤は、考慮される分野で従来使用されるものから選択されよう。例えばそれらは、前記組成物の全重量に基づいて0.3から30重量%の割合で使用できる。
【0034】
本発明の第三の目的は、Clockアクチベーター活性成分としての前記ペプチド化合物の使用に関する。「Clockアクチベーター」ペプチドは、Clockタンパク質合成を増大することによって(Clock遺伝子発現の直接的または間接的な調節によって)、またはClock タンパク質の安定化、若しくはRNAメッセンジャージャー転写産物の安定化のような他の生物学的プロセスによってのいずれかで、Clock活性を増大することが可能ないずれかの生物学的に活性なペプチドまたは誘導体を意味する。
【0035】
本発明の別の目的は、サーカディアンリズムを回復し、皮膚細胞の生物時計を再同調するための本発明に係る組成物の使用に関する。
【0036】
本発明の特定の実施態様は、細胞の再生を活性化し、細胞の代謝を刺激するための組成物の使用である。とりわけ本発明は、時差ぼけ及び/または夜間労働によって引き起こされる不調を減少するための組成物の使用からなる。本発明は有利には、特に夜間での美容処理の形態で適用することによる、皮膚の時間生物学を念頭に置くことを企図した組成物における前記ペプチド化合物の使用に関する。
【0037】
本発明の別の実施態様は、皮膚の老化の兆候を予防または処理するための組成物の使用からなる。「皮膚の老化の兆候」は、加齢によって引き起こされる皮膚上のいずれかの視覚的な発現を含むがこれらに制限されない。特にこれは、シワ、小じわ、皮膚のひび割れ、大きな穴、不完全性、張りの欠如、脱色、加齢領域、角化症、コラーゲンの欠如、及び真皮と表皮に対する他の変化等を意味する。「皮膚の老化の兆候」は更に、加齢によって引き起こされる皮膚及び皮膚付属物の外的な外観に対するいずれかの変化、例えば角質層の表面の荒れ、小じわ及びシワを意味するが、更に変更された外的な外観内で全身的には影響しない皮膚に対するいずれかの内的な変化、例えば紫外線(UV)照射に対する曝露に続く真皮の日焼けまたは皮膚のいずれかの他の内的な分解をも意味する。とりわけ本発明は、皮膚の疲労の兆候を減少するための上述の組成物の使用に関する。
【0038】
本発明の更なる目的は、サーカディアンリズムの失調と関連する病理を予防または打ち消すための製薬組成物の調製のための有効量の本発明に係るペプチド活性成分の使用に関する。
【0039】
本発明の最後の目的は、有効量のペプチド活性成分を含む組成物を、サーカディアンリズムの回復、及び細胞の生物時計の再同調のために皮膚または皮膚付属物に局所適用することを特徴とする美容処理方法に関する。
【0040】
更にこの美容処理方法は、皮膚の抗老化効果を有するために、皮膚のサーカディアンリズムを念頭に置くように睡眠に至る前に前記組成物を適用することを特徴とする。実際夜間で皮膚は、再生機能、並びに代謝合成プロセスを促進する。従って、皮膚の生物学的リズムを念頭に置くことによって、上述の組成物の適用は、細胞の再生を刺激する抗老化効果、及びかくして老化の兆候を減少する再生効果を得ることが可能である。
【0041】
以下の実施例は、本発明によって記載されたペプチド化合物の効力を記載して説明する。言及される美容製剤は本発明の代表物であるが、単に例示としてのみ記載されるものであり、本発明を制限するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0042】
実施例1:培養線維芽細胞におけるClockタンパク質の発現に対する配列番号2のペプチドの活性化効果の説明
配列番号2のペプチドの活性化効果の研究を、培養線維芽細胞におけるウエスタンブロットによりClockタンパク質の発現を評価することによって実施した。ウエスタンブロッティングの方法は、細胞内のClockタンパク質のレベルを評価することが可能な半定量的な方法である。
【0043】
プロトコール
1%に希釈した(10−4M溶液から)配列番号2のペプチドの存在下または不存在下で、5%COを含む湿潤環境中で37℃で18時間100mmの直径を有する容器中で培養線維芽細胞を培養する。細胞をすすぎ、プロテアーゼインヒビターのカクテル(Sigma)の存在下で抽出バッファー(20mM TRIS、150mM NaCl、10mM EDTA、0.2%トリトン×10)の補助で支持体から細胞を取り出す。かくして抽出されたタンパク質を10000rpmで4℃で10分間遠心分離し、その後BCAタンパク質定量キット(Pierce)によって定量する。細胞溶解物を変性バッファーと混合し、SDS−PAGE電気泳動に供する。使用されたゲルは4−12%Nupage(Invitrogen)である。次いでタンパク質をニトロセルロース膜(Pal corporation)に移す。膜を環境温度で2時間5%PBS-ミルク及び0.1%Tween 20で飽和し、次いで1/1000に希釈した抗Clock一次抗体(ABcan)で4℃で一晩インキュベートし、その後1/5000に希釈した抗ウサギ二次抗体Iggy-ペルオキシダーゼでインキュベートする。視覚化を化学発光基質によって実施した。細胞中に存在するタンパク質の定量評価を、ケミイメージャーソフトウェア(Alpha innotech Corporation USA)を使用して実施した。処理を受けていないコントロール条件と比較したタンパク質の量を、発光強度のパーセンテージとして表す。
【0044】
結果
ウエスタンブロットによって得られた結果は、1%に希釈した配列番号2のペプチドによる処理が、培養線維芽細胞中のClockタンパク質の量を増大することを示す。この結果は以下の表に要約されている。
【0045】
【表1】

【0046】
この実験を数多くの回数で実施し、スチューデント統計t検定によって、Clockタンパク質の発現の増大は有意である(p=0.0445)であることを示した。
【0047】
結論:
配列番号2のペプチドは、培養真皮細胞におけるClockタンパク質の発現を増大することが可能である。
【0048】
実施例2:皮膚生検におけるClock、Per-1及びBMAL-1タンパク質の発現に対する配列番号3のペプチドの活性化効果の説明
配列番号3のペプチドの活性化効果の究を、ex vivoで皮膚生検におけるClock、Per-1及びBMAL-1タンパク質の発現を評価することによって実施した。
【0049】
プロトコール
イムノブロッティングによるex vivoでの研究は、皮膚サンプル中のClock、Per-1及びBMAL-1タンパク質の発現を評価することが可能である。ヒト皮膚のサンプルを気相/液相界面で培養する。1%に希釈した(10−4M溶液から)配列番号3のペプチドをこれらのサンプルに48時間に亘り局所適用する。
【0050】
配列番号3のペプチドで処理していない皮膚サンプルは、コントロールとして機能する。皮膚サンプルを10%ホルムアルデヒドで固定化し、パラフィンに埋没させる。次いで3μmの切片をミクロトームで作製する。パラフィンの除去と抗原性部位の脱マスキングの後、イムノラベリングを実施する。Clockタンパク質についてのイムノラベリングを、1/250に希釈した抗体(ABcan)と1/50に希釈し蛍光色素に接合した二次抗体によって実施する。
【0051】
Per-1タンパク質についてのイムノラベリングを、1/100に希釈したポリクローナル抗体(Cosmobio)と1/50に希釈し蛍光色素に接合した二次抗体によって実施する。
【0052】
BMAL-1についてのイムノラベリングを、1/120に希釈したポリクローナル抗体(Cosmobio)と1/50に希釈し蛍光色素に接合し他に字抗体によって実施する。
【0053】
次いでスライドを適切な媒体に載せ、蛍光顕微鏡下で観察する(Nikon Eclipse E600)。
【0054】
結果:
得られた結果により、配列番号3のペプチドで処理された皮膚は、非処理皮膚のものよりも大きい、Clock、PER-1及びBMAL-1タンパク質の量を発現することが示された。
【0055】
ラベリングの半定量的評価を顕微鏡観察により実施し、以下の表に要約されている。
【0056】
【表2】

【0057】
結論:
配列番号3のペプチドの投与は、照射されていない処理皮膚においてClock、PER-1及びBMAL-1タンパク質の発現を増大することが可能である。
【0058】
実施例3:老化の間の皮膚生検におけるClockタンパク質の発現に対する配列番号3のペプチドの活性化効果の説明
配列番号3のペプチドの活性化効果の研究を、培養の間で人工的に老化させた皮膚モデルにおけるClockタンパク質の発現を評価することによって実施した。分析を62時間及び134時間の培養の後に実施した。
【0059】
プロトコール
イムノラベリングによるex vivoでの研究は、培養の間で老化した皮膚サンプルにおけるClockタンパク質の発現を評価することが可能である。ヒト皮膚のサンプルを、気相/液相界面で62時間及び134時間に亘り培養する。1%に希釈した(10−4M溶液から)配列番号3のペプチドを、実験に期間の間の一日当たり二度の速度でこれらのサンプルに局所適用する。
【0060】
配列番号3のペプチドで処理していない皮膚サンプルは、コントロールとして機能する。皮膚サンプルを10%ホルムアルデヒドで固定化し、パラフィンに埋没させる。次いで3μmの切片をミクロトームで作製する。パラフィンの除去と抗原性部位の脱マスキングの後、イムノラベリングを実施する。Clockタンパク質についてのイムノラベリングを、1/250に希釈した抗ウサギ抗体(ABcan)と1/50に希釈し蛍光色素に接合した二次抗体によって実施する。
【0061】
次いでスライドを適切な媒体に載せ、蛍光顕微鏡下で観察する(Nikon Eclipse E600)。
【0062】
結果:
得られた結果により、Clockタンパク質のラベリング(必須に表皮)は、非処理コントロールスライドと比較して62時間の培養の後増加することが示された。134時間後にClockタンパク質のラベリングは、非処理コントロール皮膚と比較して大きく増加しているため、このラベリングは経時的に継続する。以下の表はラベリングの視覚的評価を与える。
【0063】
【表3】

【0064】
結論:
配列番号3のペプチド化合物の適用は、培養の間で人工的に老化した処理済皮膚生検におけるClockタンパク質の発現を増大することが可能である。
【0065】
実施例4:培養線維芽細胞に対する配列番号3のペプチドの抗老化効果の説明
配列番号3のペプチドの抗老化効果の研究を、短期的及び長期的に培養した線維芽細胞に対するβ−ガラクトシダーゼの活性を評価することによって実施した。実際、β−ガラクトシダーゼは初老の細胞に存在することが知られている一方、β−ガラクトシダーゼ活性は、初老前の不活発なまたは不死の細胞では見出されないことが既知である。
【0066】
プロトコール
8穴ラブテックで培養された線維芽細胞を、1%に希釈した(10−4M溶液から)配列番号3のペプチドの存在下または不存在下で、2週間(短期的効果)または7週間(長期的効果)維持する。処理を一日一度で実施する。非処理だが、実験の必要条件に依存して2週または7週間培養を維持した細胞は、コントロールとして機能する。ラベリングの実施日に、細胞をすすぎ、混合物(2%グルタルアルデヒド−2%ホルムアルデヒド)中で3分間固定化する。細胞をすすぎ、X−gal(β−ガラクトシダーゼの基質)として一般的に既知である300μlの5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルb-D-ガラクトシダーゼを適用する。COの存在下のインキュベーター中で24時間のインキュベーションを実施し、次いで細胞をすすぎ、ラブテックを迅速に適切な媒体中に配置する。透過型顕微鏡下で観察を実施する。原理は単純である:細胞が初老でありβ−ガラクトシダーゼを含む場合、X−galである基質は青色で不溶性の産物に切断される。
【0067】
結果:
β−ガラクトシダーゼ活性を、その青色発色により非処理コントロール細胞で測定する。β−ガラクトシダーゼ活性は、配列番号3のペプチドで処理された細胞において大きく減少していた。この効果は、短期間(2週間の実験)で処理された細胞、並びに長期間で処理された細胞の両者で観察され、後者では細胞は7週間の連続で処理されている。
【0068】
結論:
配列番号3のペプチドの投与は、2週または7週間の人工的に老化された培養線維芽細胞に対する抗老化効果を示すことが可能である。
【0069】
実施例5:抗老化クリームの調製
【表4】

【0070】
方法:
A相を調製し、65−70℃に溶融する。C相を65−70℃に加熱する。B相をA相に添加し、直後にA相がB相に乳化する。約45℃で、D相を添加することによりカーボマーを中和する。次いでE相をわずかに攪拌しながら添加し、ついで25℃に冷却を実施する。次いで所望であればF相を添加する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーカディアンリズムを回復し、皮膚細胞の生物時計を再同調することが可能であることを特徴とする、以下の一般式(I)のペプチド化合物:
−(AA)−X−Ser−Thr−Pro−X−(AA)−R
[式中、
はトレオニン、セリン、またはゼロに等しく;
はイソロイシン、ロイシン、バリン、アラニン、グリシン、またはゼロに等しく;
AAはプロリンを除くいずれかのアミノ酸またはその誘導体であり、n及びpは0から4の間の整数であり;
は遊離した、またはアセチル基、ベンゾイル基、トシル基、またはベンジルオキシカルボニル基から選択できる保護基によって置換された、N末端アミノ酸の第一級アミン官能基であり;
はCからC20アルキル鎖またはNH、NHYまたはNYY(式中、YはCからCアルキル鎖である)から選択できる保護基によって置換された、C末端アミノ酸のカルボキシル官能基のヒドロキシル基であり;
前記一般式(I)の配列は3から13アミノ酸残基から形成され;
前記一般式(I)の配列はアミノ酸X及びXにおける他の化学的に同等なアミノ酸での置換を含んでも良い]。
【請求項2】
アミノ末端のアセチル化によって保護されていることを特徴とする、請求項1に記載のペプチド化合物。
【請求項3】
以下の式:
(配列番号1)Tyr−Val−Ser−Thr−Pro−Tyr−Asn−NH
(配列番号2)Val−Ser−Thr−Pro−Glu−NH
(配列番号3)Ser−Thr−Pro−NH
(配列番号4)Leu−His−Ser−Thr−Pro−NH
(配列番号5)Arg−His−Ser−Thr−Pro−Glu−NH
(配列番号6)His−Ser−Thr−Pro−Glu−NH
の一つに対応することを特徴とする、請求項1または2に記載のペプチド化合物。
【請求項4】
医薬として使用することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のペプチド化合物。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載のペプチド化合物を活性成分として含む化粧品組成物。
【請求項6】
化粧品的に許容可能な媒体を含む局所適用に適合した形態で存在することを特徴とする、請求項5に記載の化粧品組成物。
【請求項7】
前記ペプチド化合物が、約0.0005から500ppmの間の濃度、好ましくは0.01から5ppmの間の濃度で組成物中に存在することを特徴とする、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
前記ペプチド活性成分が、水、グリセロール、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、エトキシル化若しくはプロポキシル化ジグリコール、環状ポリオール、ワセリン、植物オイル、またはこれらの溶媒のいずれかの混合物といった一つ以上の溶媒中に溶解されていることを特徴とする、請求項5から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記ペプチド活性成分の作用を促進する少なくとも一つの活性成分を更に含むことを特徴とする、請求項5から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記活性成分が、抗ラジカル剤、または抗酸化剤、または真皮巨大分子の合成の刺激剤、あるいはエネルギー代謝の刺激剤であることを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
Clockアクチベーター活性成分としての、請求項1から3のいずれか一項に記載のペプチド化合物の使用。
【請求項12】
サーカディアンリズムを回復し、皮膚細胞の生物時計を再同調するための、請求項1から3のいずれか一項に記載のペプチド化合物と化粧品的に許容可能な媒体とを含む化粧品組成物の使用。
【請求項13】
前記組成物が、細胞の再生を活性化する、及び細胞の代謝を刺激することが可能であることを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記組成物が、時差ぼけ及び/または夜間労働によって引き起こされる不調を減少することが可能であることを特徴とする、請求項12に記載の組成物の使用。
【請求項15】
前記組成物が、特に夜間での美容処置の形態での適用によって、皮膚の時間生物学を念頭において企図されることを特徴とする。請求項12に記載の組成物の使用。
【請求項16】
前記組成物が、皮膚の老化の兆候を予防または処理する、及び皮膚の疲労の兆候を減少することが可能であることを特徴とする、請求項12に記載の組成物の使用。
【請求項17】
サーカディアンリズムの失調と関連した病理を予防または打ち消すための製薬組成物を調製するための、請求項1から4のいずれか一項に規定された有効量のペプチド活性成分の使用。
【請求項18】
請求項1から3のいずれか一項に規定された有効量のペプチド活性成分を含む組成物を、サーカディアンリズムを回復するため、及び細胞の生物時計を再同調するために、処理される皮膚または皮膚付属物に局所適用することを特徴とする美容処理方法。
【請求項19】
前記組成物が、皮膚のサーカディアンリズムを念頭に置くように、睡眠に至る前に適用されることを特徴とする、請求項18に記載の美容処理方法。
【請求項20】
前記組成物が、皮膚の老化の兆候を予防または処理するために、眠りに至る前に適用されることを特徴とする、請求項18または19に記載の美容処理方法。

【公表番号】特表2012−514625(P2012−514625A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544898(P2011−544898)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際出願番号】PCT/FR2010/000006
【国際公開番号】WO2010/079284
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(511152485)アイエスピー・インヴェストメンツ・インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】