説明

新規乳酸菌および脂肪細胞分化促進用乳酸菌発酵産物

【課題】脂肪細胞の分化を促進する作用を有しながらも、日々安全で継続的に摂取することのできる脂肪細胞分化促進剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、麦の乳酸菌発酵産物を有効成分とする脂肪細胞分化促進剤、これを含む食品、飼料、化粧料および医薬組成物、ならびに乳酸菌の新規菌株に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な乳酸菌、および乳酸菌による植物素材の発酵産物を有効成分とする脂肪細胞分化促進剤に関し、詳しくは当該発酵産物を有効成分とし、未分化の脂肪細胞から脂肪細胞への分化促進作用により、小型脂肪細胞を増加させる性質を有する脂肪細胞分化促進剤に関する。特に、生活習慣病と関連するアディポサイトカイン類の分泌異常を改善することにより、メタボリックシンドローム、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧および動脈硬化などの疾患を幅広く予防、改善または治療するための食品、飼料、化粧料および医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活が豊かになった結果、カロリー摂取過剰となるとともに、運動不足も原因となり、肥満や糖尿病になる成人が急激に増加している。肥満、糖尿病、高脂血症および高血圧は「死の四重奏」とも呼ばれ、動脈硬化などの心血管疾患の最大の原因となっている。最近の研究では、メタボリックシンドローム、死の四重奏の上流には内臓脂肪蓄積が存在することが明らかになっている。肥満とは、脂肪細胞が過剰に脂肪を蓄積した状態をいい、合併症として高脂血症や動脈硬化症、さらには糖尿病をもたらすことが知られている。これまで脂肪細胞は、脂肪を蓄積するだけの組織であると考えられてきたが、近年では、脂肪細胞はレプチン、アディポネクチン、TNF-α、レジスチン、遊離脂肪酸をはじめとする様々なアディポサイトカインを分泌し、生体で最も活発な内分泌臓器であることが分かってきている。正常な脂肪細胞はインスリン感受性を獲得するアディポネクチンを分泌するが、肥満に陥り、脂肪細胞が脂肪を蓄積して肥大化すると、アディポネクチンの分泌が低下し、インスリン抵抗性を惹起するTNF−αやレジスチンの分泌が増加する。このことがインスリン抵抗性の原因となり、メタボリックシンドローム、糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満および動脈硬化などの疾患につながると考えられている。
【0003】
したがって、メタボリックシンドローム、糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満、動脈硬化などの疾患を予防、改善するためには、未分化の脂肪細胞の分化を促進し、正常な小型脂肪細胞を増やすことが重要である。医薬品である抗糖尿病薬や高脂血症治療薬は強い脂肪細胞分化促進作用を有しているが、これらの医薬品には強い副作用があり、継続的な使用には問題がある。そのため、未分化の脂肪細胞から小型脂肪細胞への分化を促進し、正常な小型脂肪細胞を増やすような作用を有する素材を、日々簡便に、安全な食品として摂取することが重要と考えられる。食品素材としてそのような観点から研究された例として、例えば特許文献1には、コショウ科コショウ属に属する南米原産の植物マティコの抽出物が脂肪細胞分化促進作用を有することが報告されている。
【0004】
麦は古くより食用に供されており、その安全性が確認されている。麦の若葉については、搾汁を飲用とすることや、粉末化して食品とすることが行われている。種子の外皮は「ふすま」などと呼ばれ、食物繊維を豊富に含むため、整腸作用を期待してシリアルなどの形態で食用に供されている。そして種子については、大麦はアルコール発酵によりビールなどに、小麦は粉砕してパン、うどん、ケーキなどに利用され、麦は今日の食生活になくてはならないものとなっている。
【0005】
これら日常的に食されている麦の、脂肪細胞分化抑制作用に関する検討も行われており、例えば特許文献2には、イネ科植物の種子から抽出される成分を有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤が報告されている。
【0006】
また、食品成分を発酵処理して生成される発酵産物に新たな機能を求めて様々な検討が行われている。例えば特許文献3には、玄麦を発酵処理した後に精麦処理し、分離したふすまを蒸煮、冷却または冷凍解凍、湿熱処理によるレジスタントスターチ生成したものと、前記小麦粒またはその粉砕物を混合した、消化酵素の抑制によるダイエット剤が報告されている。しかしながら、麦の発酵産物が脂肪細胞の分化促進作用を示すことはこれまで知られていない。
【0007】
【特許文献1】特開2006−28049号
【特許文献2】特開2005−247695号
【特許文献3】特開2005−245393号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来の課題を解消し、脂肪細胞の分化を促進する作用を有しながらも、日々安全で継続的に摂取することのできる脂肪細胞分化促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、脂肪細胞分化促進作用を有し、小型脂肪細胞を増加させることを目的として未分化脂肪細胞である3T3−L1細胞の分化促進を指標にスクリーニングを行った。その結果、麦を素材とした乳酸菌発酵産物からの抽出エキスが、脂肪細胞の分化促進作用を示すことを見出した。さらに検討を重ねて、特定の乳酸菌を用いた場合に極めて強力に未分化の脂肪細胞から脂肪細胞への分化が促進されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
(1)麦の乳酸菌発酵産物を有効成分とする脂肪細胞分化促進剤。
(2)乳酸菌が、ロイコノストック・メセンテロイデス RIE株(FERM P−21110)、ラクトバチルス・プランタラム AYA株(FERM P−21106)およびラクトバチルス・プランタラム AYB株(FERM P−21107)から選択される1種以上である、(1)に記載の脂肪細胞分化促進剤。
(3)麦の乳酸菌発酵産物として、小麦胚芽または小麦ふすまのロイコノストック・メセンテロイデス RIE株(FERM P−21110)、ラクトバチルス・プランタラム AYA株(FERM P−21106)またはラクトバチルス・プランタラム AYB株(FERM P−21107)による発酵産物を含む、(1)に記載の脂肪細胞分化促進剤。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の脂肪細胞分化促進剤を含む食品、飼料または化粧料。
(5)メタボリックシンドローム、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧または動脈硬化を予防または改善するためのものである、(4)に記載の食品、飼料または化粧料。
(6)(1)〜(3)のいずれかに記載の脂肪細胞分化促進剤を含む、メタボリックシンドローム、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧または動脈硬化を予防または治療するための医薬組成物。
(7)ロイコノストック・メセンテロイデス RIE株(FERM P−21110)。
(8)ラクトバチルス・プランタラム AYA株(FERM P−21106)。
(9)ラクトバチルス・プランタラム AYB株(FERM P−21107)。
【発明の効果】
【0011】
本発明の脂肪細胞分化促進剤は、未分化の前駆脂肪細胞の分化を促進することにより、正常な小型脂肪細胞を増やすことができる。そのため、肥大化脂肪細胞の増加に伴い引き起こされるメタボリックシンドローム、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満および動脈硬化などの生活習慣病に対して、予防、改善または治療効果を示す。しかも本発明の脂肪細胞分化促進剤は、低濃度においても強い活性を有するうえに、安全性が高いことから、様々な食品、化粧料、飼料および医薬組成物などに添加して利用可能であり、上記のような生活習慣病の予防、改善または治療のために有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の麦を乳酸菌発酵することにより得られる発酵産物(以下、本発明の発酵産物と称する場合もある)を有効成分とする脂肪細胞分化促進剤および新規乳酸菌について、詳細に説明する。
【0013】
(麦の乳酸菌発酵産物)
本発明で用いられる麦は、イネ科に属する植物であり、大麦、小麦、ライ麦およびオート麦などが使用できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、麦としては、全植物体を使用してもよいし、その花、穂、軸、茎、葉、種子、根、胚、胚乳、胚芽、糠、ふすま、籾殻などの各部位を使用してもよい。これらの各部位は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも麦胚芽および麦ふすま、特に小麦胚芽および小麦ふすまを、単独でまたは組み合わせて用いるのが、高い効果が得られるため好ましい。麦ふすまおよび麦胚芽としては、工業的に食用製粉工程の副産物として一般的に得られるものを用いることができる。麦ふすまおよび麦胚芽は、製粉工程から得られるそのままを用いても、蒸煮処理などにより付着菌を殺菌するなどの処理をしてから用いてもよい。
【0014】
本発明に用いる麦は、そのまま発酵処理に供することもできるが、処理の前にあらかじめ麦を粉砕や破砕することで表面積を増加させると、発酵を効率よく行うことができるため好ましい。粉砕や破砕する方法としては、例えば、スライサーやカッターで切削した後ブレンダ−、ミキサー、摩砕ミルで粉砕処理する方法などを使用できる。その際、水やエタノールなどを少量加えてもよい。本発明において、麦には、全植物体や全粒だけでなく、その粉砕物、麦の各部位およびその粉砕物、ならびにこれらの混合物も包含される。麦ふすまおよび麦胚芽を用いる場合は、通常、公知の粉砕装置を用いて、麦を粉砕することにより、胚芽、胚乳破砕物および種皮破砕物を含む混合物を得て、得られた混合物から公知の分級装置、例えば篩を用いてふすま画分または胚芽画分を得ることができる。
【0015】
本発明の発酵産物は、麦を乳酸菌によって発酵させて製造する。このとき用いる乳酸菌としては、例えば、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属またはぺディオコッカス(pediococcus)属に属し、麦に作用する菌株が挙げられる。例えば、乳酸菌として、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・フェルメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・デルブルキー(Lactobacillus delbruckii)、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ブツネリ(Lactobacillus buchneri)、ラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、ぺディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
上記乳酸菌の中でも、本発明者らが見出した新規乳酸菌である、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)RIE株、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)AYA株またはラクトバチルス・プランタラム AYB株を用いると、高い効果を有する発酵産物が得られるため好ましい。
【0017】
ロイコノストック・メセンテロイデス RIE株は、漬け物から分離された株であり、受託番号FERM P−21110として、2006年11月29日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託されている。ラクトバチルス・プランタラム AYA株は、パン生地から分離された株であり、受託番号FERM P−21106として、2006年11月29日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託されている。ラクトバチルス・プランタラム AYB株は、パン生地から分離された株であり、受託番号FERM P−21107として、2006年11月29日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託されている。
【0018】
新規乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデス RIE株の菌学的性質は以下の通りである。
MRS液体培地(DIFCO社)を用いて、30℃、18時間培養したときの菌の形態
(1)菌の形態 球菌
(2)グラム染色 陽性
(3)運動性 なし
(4)胞子 なし
(5)カタラーゼ なし
(6)通性嫌気性
(7)ブドウ糖の代謝 50%以上乳酸に転換する
(8)生育温度範囲 15℃〜45℃で生育を認める
(9)乳酸発酵 ヘテロ型
(10)乳酸の施光性 D
(11)炭水化物の発酵性 グリセロールは陰性、D-アラビノースは陰性、L-アラビノースは陽性、リボースは陽性、D-キシロースは陽性、ガラクトースは陽性、グルコースは陽性、フルクトースは陽性、マンノースは陽性、ラムノースは陰性、マンニトールは陽性、ソルビトールは陰性、αメチルDグルコシドは陽性、アミグダリンは陽性、エスクリンは陽性、サリシンは陽性、セロビオースは陽性、マルトースは陽性、ラクトースは陽性、メリビオースは陽性、シュクロースは陽性、トレハロースは陽性、イヌリンは陰性、メレジトースは陰性、ラフィノースは陽性、スターチは陰性、グルコン酸は陽性。
【0019】
新規乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムAYA株の菌学的性質は以下の通りである。MRS液体培地(DIFCO社)を用いて、30℃、18時間培養したときの菌の形態
(1)菌の形態 桿菌
(2)グラム染色 陽性
(3)運動性 なし
(4)胞子 なし
(5)カタラーゼ なし
(6)通性嫌気性
(7)ブドウ糖の代謝 50%以上乳酸に転換する
(8)生育温度範囲 15℃、30℃および35℃では生育を認めるが、45℃では生育を認めない
(9)乳酸発酵 ホモ型
(10)乳酸の施光性 DL
(11)炭水化物の発酵性 グリセロールは陽性、D-アラビノースは陰性、L-アラビノースは陽性、リボースは陽性、D-キシロースは陰性、ガラクトースは陽性、グルコースは陽性、フルクトースは陽性、マンノースは陽性、ラムノースは陽性、マンニトールは陽性、ソルビトールは陽性、αメチルDグルコシドは陰性、アミグダリンは陽性、エスクリンは陽性、サリシンは陽性、セロビオースは陽性、マルトースは陽性、ラクトースは陽性、メリビオースは陽性、シュクロースは陽性、トレハロースは陽性、イヌリンは陰性、メレジトースは陽性、ラフィノースは陽性、スターチは陰性、グルコン酸は陽性。
【0020】
新規乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムAYB株の菌学的性質は以下の通りである。MRS液体培地(DIFCO社)を用いて、30℃、18時間培養したときの菌の形態
(1)菌の形態 桿菌
(2)グラム染色 陽性
(3)運動性 なし
(4)胞子 なし
(5)カタラーゼ なし
(6)通性嫌気性
(7)ブドウ糖の代謝 50%以上乳酸に転換する
(8)生育温度範囲 15℃、30℃および35℃では生育を認めるが、45℃では生育を認めない
(9)乳酸発酵 ホモ型
(10)乳酸の施光性 DL
(11)炭水化物の発酵性 グリセロールは陽性、D-アラビノースは陰性、L-アラビノースは陽性、リボースは陽性、D-キシロースは陰性、ガラクトースは陽性、グルコースは陽性、フルクトースは陽性、マンノースは陽性、ラムノースは陰性、マンニトールは陽性、ソルビトールは陽性、αメチルDグルコシドは陰性、アミグダリンは陽性、エスクリンは陽性、サリシンは陽性、セロビオースは陽性、マルトースは陽性、ラクトースは陽性、メリビオースは陽性、シュクロースは陽性、トレハロースは陽性、イヌリンは陰性、メレジトースは陽性、ラフィノースは陽性、スターチは陰性、グルコン酸は陽性。
【0021】
小麦胚芽または小麦ふすまのRIE株、AYA株またはAYB株による発酵産物は、非常に高い脂肪細胞分化促進効果を有することからさらに好ましい。ここで、小麦胚芽または小麦ふすまのRIE株、AYA株またはAYB株による発酵産物には、RIE株による小麦胚芽の発酵産物、小麦ふすまの発酵産物、および小麦胚芽と小麦ふすまの混合物の発酵産物;AYA株による小麦胚芽の発酵産物、小麦ふすまの発酵産物、および小麦胚芽と小麦ふすまの混合物の発酵産物;AYB株による小麦胚芽の発酵産物、小麦ふすまの発酵産物、および小麦胚芽と小麦ふすまの混合物の発酵産物、RIE株、AYA株およびAYB株から選択される2種以上による小麦胚芽の発酵産物、小麦ふすまの発酵産物、および小麦胚芽と小麦ふすまの混合物の発酵産物;ならびにこれらの混合物が包含される。また、麦ふすまの乳酸菌発酵産物には麦全粒の発酵産物からふすま画分を分離したものも含まれ、麦胚芽の乳酸菌発酵産物には、麦全粒の発酵産物から胚芽画分を分離したものも含まれる。
【0022】
発酵処理は、麦、例えば、麦全粒、麦の各部位およびこれらの粉砕物、ならびにこれらの混合物に、乳酸菌を接触させることで行うことができる。処理を効率よく行い得るという点では、乳酸菌および麦を、予め水に分散させておくことが好ましい。加える水の量は、麦の全質量に対して、好ましくは等量〜5倍量、より好ましくは2〜3倍量である。水を加えることによって、乳酸菌の生育環境が好適になる。なお、発酵処理の前に麦に殺菌処理を行ってもよいし、麦中の成分を溶出させるために加熱処理を行ってもよい。加熱処理は、麦を、40℃〜120℃の範囲の温度で30分〜24時間加熱することによって行うことができる。その際、高い加熱温度にて短時間で処理することが好ましい。例えば、40℃〜60℃にて3時間〜24時間、または60℃〜120℃にて30分間〜3時間処理することが好ましい。
【0023】
本発明において麦を発酵させるために、麦に微生物を接触させる態様としては、例えば、麦に元から付着している乳酸菌をそのまま利用する態様、および麦に乳酸菌を添加する態様が挙げられる。高い脂肪細胞分化促進効果を有する発酵産物を得るためには、麦に乳酸菌を添加する態様が好ましい。
【0024】
麦に添加する乳酸菌量は、特に制限されないが、通常、麦100質量部当たり、乾燥乳酸菌体換算で0.005〜10質量部であり、好ましくは0.05〜5質量部である。用いる乳酸菌は、培養した乳酸菌を濾過や遠心分離により培地から分離したものを添加してもよいし、あらかじめ培地から分離後凍結乾燥して保存しておいたものを用いてもよい。
【0025】
乳酸菌発酵の際、発酵を促進するために、乳酸菌の好適な発酵を促進するような添加物を加えてもよい。そのような添加物として、グルタミン酸またはその塩、ならびにグルコース、スクロースおよびマルトースなどの糖が挙げられる。添加する量としては、麦および乳酸菌の合計質量に対して約0.1〜5%程度である。
【0026】
乳酸菌発酵の際、発酵を促進するために、乳酸菌に好適なpHに調節してもよい。pHは用いる乳酸菌の種類によっても異なるが、一般的には4.0〜7.0の範囲である。低いpHで発酵させた場合、発酵中の発酵液および発酵産物のpHを低く保つことができ、乳酸菌以外の夾雑する雑菌の繁殖を抑えることができるため好ましい。
【0027】
乳酸菌発酵は、発酵を促進するために、嫌気性条件で行うことが好ましい。嫌気性条件とするためには、発酵槽をただ密閉するだけでもよく、あるいは密閉した後さらに窒素や二酸化炭素などのガスで内部を満たすか、減圧してもよい。
【0028】
乳酸菌発酵の際の温度条件は、特に制限されないが、通常4〜60℃の条件である。温度条件は、発酵の容量などにより適宜設定すればよい。温度条件は、恒温槽、マントルヒーター、ジャケットなどにより調整することができる。また、発酵に要する時間も、発酵の容量などにより適宜設定すればよい。発酵時間は、一般的には、発酵温度が4〜20℃の場合、24時間〜14日間であり、20〜60℃の高温の場合、6〜72時間程度である。
【0029】
発酵終了後、糖または糖アルコールを添加することにより、発酵を停止させることができる。このような糖としては、オリゴ糖(マルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖など)、糖アルコール(ソルビトール、キシリトール、マルチトールなど)が挙げられる。これらの糖を添加することにより、例えば整腸作用や免疫賦活作用など、本発明の発酵産物に別の機能を付与することができる。発酵を停止させる場合、発酵液の温度を高温、例えば、80〜50℃にして停止させることもできる。
【0030】
発酵の停止後、発酵液をそのまま本発明の発酵産物として用いてもよいし、さらに必要に応じて遠心分離などによる濃縮操作および/または濾過等による固液分離や滅菌操作を行ってもよい。滅菌については、別途過熱式殺菌、加圧式殺菌等を併用してもよい。乳酸菌が生菌のまま使用に供される場合、本発明の発酵産物に乳酸菌の有する機能を付与することができる。
【0031】
このようにして得られた本発明の発酵産物は、そのまま用いてもよいが、必要に応じて当業者が通常用いる処理方法によって種々の態様にして使用することもできる。このような態様としては、例えば、上記のように発酵産物を遠心分離、濾過するなどして固液分離して、上清を回収することにより得られた発酵産物濃縮液、該発酵産物または該発酵産物濃縮液を濃縮処理した発酵産物ペースト、該発酵産物または該発酵産物濃縮液を必要に応じて賦形剤とともに乾燥・粉末化処理した粉末または発酵産物濃縮液末などが挙げられる。これらは、すべて本発明の発酵産物に包含される。
【0032】
さらに本発明において麦の乳酸菌発酵産物には、上記の発酵産物を水または有機溶媒を用いて抽出することによって得られる抽出物も包含される。抽出操作によって有効成分が濃縮され、さらに脂肪細胞分化促進活性を高めることができる。抽出方法としては、水または有機溶媒を抽出溶媒として用いる抽出方法であれば特に制限されないが、上記の発酵産物、発酵産物エキス、発酵ペースト、粉末または発酵産物エキス末(以下、発酵産物等と称する場合がある)を、水または有機溶媒中に浸漬、攪拌または還流する方法など公知の方法を挙げることができる。また、二酸化炭素などを用いる超臨界流体抽出法によって抽出することもできる。麦の乳酸菌発酵産物について、上記抽出物と抽出物以外のものを、それぞれ「発酵産物の抽出物」および「抽出前の発酵産物」と称して区別する場合があるが、いずれも本発明における麦の乳酸菌発酵産物に包含される。
【0033】
抽出に用いることができる有機溶媒は、特に制限されないが、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールおよびn−ブタノールなどの低級アルコール、ならびに1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールなどの室温で液体であるアルコール類;ジエチルエーテルおよびプロピルエーテルなどのエーテル類;酢酸ブチルおよび酢酸エチルなどのエステル類;アセトンおよびエチルメチルケトンなどのケトン類;ヘキサン;ならびにクロロホルムなどを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の有機溶媒の中では、操作性や環境に対する影響などの点から、室温で液体であるアルコール類、例えば、炭素原子数1〜4の低級アルコールを用いるのが好ましく、残留溶媒による安全性の観点からはエタノールを用いるのがより好ましい。
【0034】
本発明において有機溶媒には、これらの有機溶媒にさらに水性成分が含まれている含水有機溶媒も包含され、これを抽出に用いてもよい。抽出効率を高く保持する観点からは、上記含水有機溶媒中の水性成分の含有量は、通常80体積%以下、好ましくは65体積%以下、より好ましくは50体積%以下であるのが望ましい。
【0035】
この場合、水性成分としては、水および水溶性成分の水溶液などが挙げられ、上記有機溶媒と酸性水溶液、中性水溶液(もしくは水)、または塩基性水溶液とを混合することで、抽出条件をそれぞれ酸性条件、中性条件、または塩基性条件に調整することができる。
【0036】
具体的な抽出方法としては、上記発酵産物等を、常圧または加圧下で室温または加温した抽出溶媒中に加え浸漬や攪拌しながら抽出する方法や、抽出溶媒中で還流しながら抽出する方法などが挙げられる。その際、抽出温度は5℃から抽出溶媒の沸点以下の温度とするのが好ましい。抽出時間は使用する抽出溶媒の種類や抽出条件、含水有機溶媒の場合にはさらに水性成分含有量によって適宜設定することができるが、通常30分〜72時間程度である。還流操作により抽出を行う場合は、発酵産物等が変性や熱分解を起こさないように低沸点の有機溶媒を用いるのが好ましい。
【0037】
ついで、抽出液および残渣を含む混合物を、必要に応じて濾過または遠心分離などに供し、残渣である固形成分を除去して抽出液を得る。なお、除去した固形成分を再度、抽出溶媒を用いる抽出操作に供することもでき、さらにこの操作を何回か繰り返してもよい。
【0038】
このようにして得られた抽出物を液体のまま本発明の脂肪細胞分化促進剤として用いてもよく、さらに必要に応じて、濃縮または凍結乾燥やスプレードライなどの方法により、乾燥、粉末化して使用してもよい。具体的な濃縮、乾燥方法としては、特に制限されないが、例えば、濾過、遠心分離、遠心濾過、スプレードライ、スプレークール、ドラムドライ、真空乾燥、凍結乾燥などが挙げられ、これらを単独でまたは組み合わせて採用できる。その際、必要に応じて通常用いられる賦形剤を添加してもよい。
【0039】
本発明において脂肪細胞分化促進とは、未分化の脂肪細胞(前駆脂肪細胞)を脂肪細胞に分化させる作用をさす。ここで、脂肪細胞は、組織間に散在または脂肪組織を形成している多量の脂肪を含む細胞をさし、褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞に分類される。特に白色脂肪細胞は、皮下脂肪や内臓脂肪を構成する細胞であり、この白色脂肪組織において、未分化の脂肪細胞から小型脂肪細胞を増加させることが、メタボリックシンドローム、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化などの予防や治療に重要である。
【0040】
脂肪細胞の分化促進作用は、細胞分化マーカーであるGPDH(グリセロール−3−リン酸脱水素酵素)活性を測定することにより評価することができる。
【0041】
上記で得られた麦の乳酸菌発酵産物は、単独で脂肪細胞分化促進剤として、または他の成分を共に含有する脂肪細胞分化促進剤として、または食品、飼料、化粧料もしくは医薬組成物に配合して継続的に摂取すると、蓄積した内臓脂肪における肥大した脂肪細胞に起因するメタボリックシンドローム、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化などの疾患の予防、改善および治療効果が期待される。
【0042】
本発明の脂肪細胞分化促進剤は、通常の場合、抽出前の発酵産物の乾燥質量として、成人1日当たり0.01〜50gの範囲、好ましくは成人1日当たり0.1〜5gの範囲で摂取されるが、該脂肪細胞分化促進剤は安全性の高いものであるため、摂取量をさらに増やすこともできる。1日当たりの摂取量は、1回で摂取してもよいが、数回に分けて摂取してもよい。発酵産物の抽出物の乾燥質量としては、成人1日当たり0.001〜10gの範囲、好ましくは成人1日当たり0.01〜5gの範囲で摂取される。
【0043】
(脂肪細胞分化促進剤)
本発明の脂肪細胞分化促進剤には、有効成分である麦の乳酸菌発酵産物に加えて、本発明の効果を阻害しない限り、後述する添加剤、他の公知の脂肪細胞分化促進物質、脂肪蓄積抑制物質、脂肪分解促進物質、脂肪代謝改善物質などを単独または複数組み合わせて添加してもよい。
【0044】
本発明の脂肪細胞分化促進剤の形態は特に制限されないが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤、吸入剤などの経口剤、坐剤などの経腸製剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤などの皮膚外用剤、点滴剤、注射剤などの剤型としてもよい。これらのうちでは、経口剤とするのが好ましい。
【0045】
このような剤型の脂肪細胞分化促進剤は、上述した成分に、通常用いられる賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料などの添加剤を剤型に応じて配合し、常法に従って製造することができる。なお、液剤、懸濁剤などの液体製剤は、服用直前に水または他の適当な媒体に溶解または懸濁する形であってもよく、また錠剤、顆粒剤の場合には周知の方法でその表面をコーティングしてもよい。
【0046】
本発明の脂肪細胞分化促進剤が、上記添加剤や他の脂肪細胞分化促進物質、脂肪蓄積抑制物質、脂肪分解促進物質、脂肪代謝改善物質などを含む場合、有効成分である麦の乳酸菌発酵産物の含有量は、その剤型により異なるが、抽出前の発酵産物の乾燥質量として、通常は、0.01〜99質量%、好ましくは0.1〜80質量%、より好ましくは1〜75質量%の範囲であり、発酵産物の抽出物の乾燥質量としては、通常は、0.0001〜80質量%、好ましくは0.001〜50質量%、より好ましくは0.1〜40質量%の範囲であり、上述した成人1日当たりの有効成分の摂取量を摂取できるように、1日当たりの投与量が管理できる形にするのが望ましい。
【0047】
さらに、本発明の脂肪細胞分化促進剤には、医薬、食品、飼料の製造に用いられる種々の添加剤やその他種々の物質を共存させてもよい。このような物質や添加剤としては、各種油脂、生薬、アミノ酸、多価アルコール、天然高分子、ビタミン、ミネラル、食物繊維、界面活性剤、精製水、賦形剤、安定剤、pH調製剤、酸化防止剤、甘味料、呈味成分、酸味料、着色料および香料などが挙げられる。
【0048】
前記各種油脂としては、例えば大豆油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油などの植物油、牛脂、イワシ油などの動物油脂が挙げられる。
【0049】
前記生薬としては、例えば牛黄、地黄、枸杞子、ロイヤルゼリー、人参、鹿茸などが挙げられる。
【0050】
前記アミノ酸としては、例えばグルタミン、システイン、ロイシン、アルギニンなどが挙げられる。
【0051】
前記多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、糖アルコールなどが挙げられる。前記糖アルコールとして、例えば、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、マンニトールなどが挙げられる。
【0052】
前記天然高分子としては、例えばアラビアガム、寒天、水溶性コーンファイバー、ゼラチン、キサンタンガム、カゼイン、グルテンまたはグルテン加水分解物、レシチン、澱粉、デキストリンなどが挙げられる。
【0053】
前記各種ビタミンとしては、例えばビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンB群、ビタミンE(トコフェロール)の他に、ビタミンA、D、K、酪酸リボフラビンなどが含まれる。また、ビタミンB群には、ビタミンB1誘導体、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、さらにビオチン、パントテン酸、ニコチン酸、葉酸などの各種ビタミンB複合体が包含される。ビタミンB1誘導体には、チアミンまたはその塩、チアミンジスルフィド、フルスルチアミンまたはその塩、ジセチアミン、ビスブチチアミン、ビスベンチアミン、ベンフォチアミン、チアミンモノフォスフェートジスルフィド、シコチアミン、オクトチアミン、プロスルチアミンなどのビタミンB1の生理活性を有する全ての化合物が包含される。
【0054】
前記ミネラルとしては、例えばカルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄などが挙げられる。
【0055】
前記食物繊維としては、ガム類、マンナン、ペクチン、ヘミセルロース、リグニン、β−グルカン、キシラン、アラビノキシランなどが挙げられる。
【0056】
前記界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0057】
前記賦形剤としては、例えば白糖、ブドウ糖、コーンスターチ、リン酸カルシウム、乳糖、デキストリン、澱粉、結晶セルロース、サイクロデキストリンなどが挙げられる。
【0058】
また、他の公知の脂肪細胞分化促進物質、脂肪蓄積抑制物質、脂肪分解促進物質、脂肪代謝改善物質種々、または種々の機能性成分もしくは添加剤として、上記以外に、例えば、タウリン、グルタチオン、カルニチン、クレアチン、コエンザイムQ、グルクロン酸、グルクロノラクトン、トウガラシエキス、ショウガエキス、カカオエキス、ガラナエキス、ガルシニアエキス、テアニン、γ−アミノ酪酸、カプサイシン、カプシエイト、各種有機酸、フラボノイド類、ポリフェノール類、カテキン類、キサンチン誘導体、フラクトオリゴ糖などの難消化性オリゴ糖、ポリビニルピロリドンなどを配合することができる。
【0059】
これら添加剤の配合量は、添加剤の種類と所望すべき摂取量に応じて適宜決められるが、脂肪細胞分化促進剤の総量に対して、一般的には0.01〜90質量%の範囲であり、好ましくは0.1〜50質量%の範囲である。
【0060】
本発明の脂肪細胞分化促進剤は、脂肪細胞の分化を促進することにより、正常の小型脂肪細胞を増やしてアディポサイトカインの分泌を正常化させる作用を有し、メタボリックシンドローム、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満、動脈硬化などの疾患に対して、優れた予防、改善および治療効果を示す。また、安全性が高く長期間の継続的摂取が容易である。そのため、本発明の脂肪細胞分化促進剤は、メタボリックシンドローム、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満、動脈硬化などの生活習慣病に対する予防および改善のための食品、飼料および化粧料にも使用できる。さらに、本発明の脂肪細胞分化促進剤、食品、化粧料または飼料を、上述した摂取量を管理できる形態で摂取することにより、メタボリックシンドローム、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満、動脈硬化などの脂肪細胞の肥大化に関連する疾患、換言すれば、アディポサイトカインの分泌異常に関連する生活習慣病に対する予防方法および治療方法が提供される。
【0061】
(食品および飼料)
上述したように、本発明の脂肪細胞分化促進剤は、脂肪細胞の分化促進作用を有するうえ、食経験のある麦を原料としており、安全性が高く、風味もよい。さらに、様々な食品に添加しても食品自体の風味を阻害しないため、種々の食品に添加して継続的に摂取することができ、メタボリックシンドローム、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満、動脈硬化などの生活習慣病の予防および改善が期待される。
【0062】
本発明の食品は、上述した脂肪細胞分化促進剤を含有する。本発明において、食品には飲料も包含される。本発明の脂肪細胞分化促進剤を含有する食品には、脂肪細胞分化促進作用により健康増進を図る健康食品、機能性食品、特定保健用食品などの他、上記脂肪細胞分化促進剤を配合できる、全ての食品が含まれる。
【0063】
食品の具体例としては、経管経腸栄養剤などの流動食、錠菓、錠剤、チュアブル錠、錠剤、粉剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤およびドリンク剤などの製剤形態の健康食品および栄養補助食品;緑茶、ウーロン茶および紅茶などの茶飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料、発酵乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、牛乳ならびに精製水などの飲料;バター、ジャム、ふりかけおよびマーガリンなどのスプレッド類;マヨネーズ、ショートニング、カスタードクリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐、ヨーグルト、スープまたはソース類、菓子(例えば、ビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット)などが挙げられる。
【0064】
本発明の食品は、上記脂肪細胞分化促進剤のほかに、その食品の製造に用いられる他の食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、食物繊維、種々の添加剤(例えば呈味成分、甘味料、有機酸などの酸味料、安定剤、フレーバー)などを配合して、常法に従って製造することができる。
【0065】
本発明の食品において、脂肪細胞分化促進剤の含有量は、食品の形態により異なるが、抽出前の発酵産物の乾燥質量として通常は、0.001〜80質量%、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.1〜20質量%の範囲であり、発酵産物の抽出物の乾燥質量としては、通常は、0.0001〜80質量%、好ましくは0.001〜50質量%、より好ましくは0.01〜20質量%の範囲である。本発明の脂肪細胞分化促進剤は安全性の高いものであるため、食品におけるその含有量をさらに増やすこともできる。上述した、成人1日当たりの脂肪細胞分化促進剤(発酵産物の乾燥質量として)の摂取量を飲食できるよう、1日当たりの摂取量が管理できる形にするのが好ましい。
【0066】
本発明の食品は、上述したとおり、未分化の脂肪細胞を脂肪細胞に分化させる作用を有し、アディポネクチンなどのアディポサイトカインの分泌を正常化させるため、メタボリックシンドローム、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満、動脈硬化などの生活習慣病に対して優れた予防および改善作用を奏する上に、安全性が高く副作用の心配がない。また、本発明の脂肪細胞分化促進剤は風味がよく、様々な食品に添加してもその食品の風味を阻害しないため、得られる食品は長期間の継続的摂取が容易であり、優れたメタボリックシンドローム、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満、動脈硬化などの予防および改善作用が期待される。なお、本発明の食品を、上述した成人1日当たりの脂肪細胞分化促進剤(発酵産物の乾燥質量として)の摂取量を管理できる形態で飲食することにより、該食品を用いる、メタボリックシンドローム、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満、動脈硬化などの生活習慣病に対する予防方法および改善方法が提供される。
【0067】
さらに本発明の脂肪細胞分化促進剤は、人用の食品のみならず、家畜、競走馬、ペットなどの飼料にも配合することができる。飼料は、対象が人以外であることを除き食品とほぼ等しいことから、上記の食品に関する記載は、飼料についても同様に当てはめることができる。
【0068】
(化粧料)
上述したように、本発明の脂肪細胞分化促進剤は、脂肪細胞の分化促進作用を有する上、食経験のある麦を原料としており、安全性が高いため、化粧料素材として使用することもできる。継続的に適用することができるため、肥満や蜂巣炎などの予防および改善が期待される。
【0069】
化粧料としては特に限定されないが、機能面からは、例えばフェイスまたはボディ用乳液、化粧液、クリーム、ローション、エッセンス、パック、シートなどが好ましい。添加量は、特に限定されないが、一例としてあげると、化粧料基材の重量に対して、抽出前の発酵産物の乾燥質量として通常は、0.001〜80質量%、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.1〜20質量%の範囲であり、発酵産物の抽出物の乾燥質量としては、通常は、0.0001〜60質量%、好ましくは0.001〜40質量%、より好ましくは0.01〜20質量%の範囲が適当である。
【0070】
(医薬組成物)
本発明の脂肪細胞分化促進剤は、メタボリックシンドローム、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満、動脈硬化などの疾患に対して優れた予防、改善および治療効果を有することから、上記の疾患を予防または治療するための医薬組成物とすることもできる。すなわち、本発明の医薬組成物は、上述の本発明の脂肪細胞分化促進剤を含むものであり、換言すれば、本発明の医薬組成物は、上述の麦を乳酸菌発酵することにより得られる発酵産物(麦の乳酸菌発酵産物)を有効成分として含むものである。
【0071】
本発明の医薬組成物に関し、有効成分である、麦の乳酸菌発酵産物の配合量、その摂取量(投与量)、その他の活性成分、機能性成分および添加剤、それらの配合量、剤形などについては、脂肪細胞分化促進剤について記載したのと同様である。
【0072】
本発明の医薬組成物を投与することにより、未分化の脂肪細胞が分化し、正常な小型脂肪細胞が増加するため、アディポサイトカインの分泌が正常化し、メタボリックシンドローム、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満、動脈硬化などの脂肪細胞の肥大化に関連する疾患、換言すれば、アディポサイトカイン類の分泌異常に関連する疾患を治療または予防することができる。また、本発明の医薬組成物は、安全性が高く副作用の心配がないため、長期間の継続的投与が可能であり、優れたメタボリックシンドローム、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満、動脈硬化などの予防および治療効果が期待される。
【0073】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0074】
(麦の処理)
麦として小麦を用い、ふすま部、胚芽部の乾燥物を、それぞれミキサーを用いて粉砕した。各粉砕物は、オートクレーブを用いて滅菌処理を行った後、後述の発酵処理に使用した。
【0075】
(乳酸菌の培養)
本発明の新規乳酸菌、ロイコノストック・メセンテロイデス RIE株(FERM P−21110)、ラクトバチルス・プランタラム AYA株(FERM P−21106)およびラクトバチルス・プランタラム AYB株(FERM P−21107)の培養を以下の方法で行った。
【0076】
5mLのGYP培地にRIE株、AYA株、AYB株を別個に白金耳で植菌し、30℃、48時間培養した(前培養)。ついで、30mLのGYP培地に前培養液1mLを植菌し、30℃、24時間前培養した(本培養)。得られた本培養液を遠心分離(5000rpm、15分)し、菌体を沈殿から回収した。菌体を滅菌水で2回洗浄後、遠心分離(5000rpm、15分)し、菌体を滅菌水で3mLにメスアップし、菌体液とした。
【0077】
GYP培地の組成を以下に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
(実施例1)
小麦の各部位ごとに表2の組成で素材液を調製し、これに上記RIE株の菌体液0.4mLを植菌して、30℃、48時間培養した。培養終了後、加熱処理(121℃、15分)を行った。
【0080】
【表2】

【0081】
培養終了後、培養液を遠心分離(7000rpm、5分、4℃)し、沈殿物を分離回収した。ついでこの沈殿を凍結乾燥し、エタノール10mLに懸濁して、室温で24時間振とうして抽出を行った。遠心分離(7000rpm、5分、4℃)し、上清を0.45μmのフィルター処理し、凍結乾燥したものを抽出物として得た。
【0082】
(実施例2)
RIE株のかわりにAYA株を用いて、実施例1と同様の方法で、小麦ふすま、小麦胚芽の粉砕物を用いて発酵処理を行い、抽出物を調製した。
【0083】
(実施例3)
RIE株のかわりにAYB株を用いて、実施例1と同様の方法で、小麦ふすま、小麦胚芽の粉砕物を用いて発酵処理を行い、抽出物を調製した。
【0084】
(比較例1)
実施例1において、小麦各部位の粉砕物に代えて、マイタケのかさ部粉砕物を表3にしたがって調製して用いた以外は、実施例1と同様にしてRIE株を用いて発酵処理を行い、発酵産物の抽出物を調製した。
【0085】
【表3】

【0086】
(比較例2)
実施例2において、小麦各部位の粉砕物に代えて、マイタケのかさ部粉砕物を表3にしたがって調製して用いた以外は、実施例2と同様にしてAYA株を用いて発酵処理を行い、発酵産物の抽出物を調製した。
【0087】
(比較例3)
実施例1において、小麦各部位の粉砕物を用いず、滅菌水10gにRIE株、AYA株の菌体液それぞれ0.4mLを植菌して、30℃、48時間培養したものから抽出物を調製し、比較例3とした。
【0088】
(試験例1)細胞分化活性確認試験
(1)脂肪細胞への分化・培養
未分化脂肪細胞である3T3−L1細胞を、24ウェルプレートに各ウェル5×10細胞となるよう播種し(1mL)、分化誘導培地(0.5mM 1−メチル−3−イソブチルキサンチン、0.25μM デキサメタゾン、10μg/mL インスリンを含む10%FCS添加DMEM培地)0.5mLを添加して2日間培養し、脂肪細胞に分化誘導した。その後、成熟促進培地(5μg/mL インスリンを含む10%FCS添加DMEM培地)0.5mLに変えて7日間培養した。
【0089】
この際、上記分化誘導培地および成熟促進培地に、実施例1、2、3、比較例1、2、3で得られた抽出物を乾燥重量あたり、100、200μg/mLとなるように添加し、培養終了後、細胞分化マーカーであるGPDH(グリセロール−3−リン酸脱水素酵素)活性の測定を、GPDH測定キット(株式会社ホクドー)を用いて行った。
【0090】
(2)GPDH活性の測定
培養終了後、ウェルをPBS(−)0.5mLで3回洗浄し、その後、酵素抽出液を0.5mL加え、ピペッティングにより、細胞をウェル底から剥がした。ついで、剥がした細胞をサンプリングチューブに酵素抽出液ごと入れ、このサンプリングチューブを液体窒素に約10分間浸し、内容物を凍結させた。その後、このサンプリングチューブを37℃に設定したウォーターバスに浸し、内容物を融解させた。この凍結融解を計3回繰り返して行い、細胞を破砕させ、得られた破砕液を15,000rpm、5分、4℃遠心分離し、上清を回収した。回収した上清を検体として用いた。
【0091】
反応基質溶液100μLを96ウェルプレートに入れ、25℃で約5分間加温した。ついで、この96ウェルプレートに上記検体50μLを入れ、よく撹拌した後、340nmでの吸光度の減少を経時的に(1分置きに10分間)測定し、1分間当たりの吸光度の変化量を求めた。求めた吸光度の変化量を、下記式に当てはめ、GPDH活性を決定した。その結果を、対照群(抽出物、乳酸菌いずれも加えないウェル)を100%としたときの相対値で表4に示す。
【0092】
GPDH活性(U/mL)=ΔO.D.(340nm)/分×0.482
【0093】
【表4】

【0094】
表4から明らかなように、乳酸菌単独では脂肪細胞の分化促進活性は示さなかった。しかしながら本発明の乳酸菌による麦の発酵産物は、高い分化促進活性を示し、しかもRIE株、AYA株を用いて発酵を行うと、極めて高い分化促進作用を示すことが明らかとなった。一方、マイタケを乳酸菌を用いて発酵したものは、脂肪分化促進活性を示さなかった。
【0095】
(実施例4)錠剤の製造
実施例1と同様にして得られた小麦ふすまのRIE株による発酵産物からの抽出物20g、結晶セルロース(旭化成)73.8gおよびポリビニルピロリドン(BASF)5gを混合し、これにエタノール30mLを添加して、湿式法により常法にしたがって顆粒を製造した。この顆粒を乾燥した後、ステアリン酸マグネシウム1.2gを加えて打錠用顆粒末とし、打錠機を用いて打錠し、1錠が1gの錠剤100個を製造した(1錠あたり、抽出物0.2g含む)。
【0096】
(実施例5)顆粒剤の製造
実施例2と同様にして得られた小麦ふすまのAYA株による発酵産物からの抽出物10g、乳糖(DMV)170gおよび結晶セルロース(旭化成)60gを混合し、これにエタノール130mLを添加し、練合機を用いて通常の方法で5分間練合した。練合終了後、10メッシュで篩過し、乾燥機中にて50℃で乾燥した。乾燥後、整粒し、顆粒剤240gを得た。これを1包4gとなるように個別包装した(1包あたり、抽出物0.167g含む)。
【0097】
(実施例6)シロップ剤の製造
精製水400gを煮沸し、これをかき混ぜながら、白糖750gおよび実施例2と同様にして得られた小麦胚芽とAYA株の乳酸菌発酵産物からの抽出物1gを加えて溶解し、熱時に布ごしし、これに精製水を加えて全量1000mLとし、シロップ剤を製造した(20mLあたり、抽出物0.02g含む)。
【0098】
(実施例7)クリーム剤の製造
以下の組成でクリーム剤を製造した。
【0099】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦の乳酸菌発酵産物を有効成分とする脂肪細胞分化促進剤。
【請求項2】
乳酸菌が、ロイコノストック・メセンテロイデス RIE株(FERM P−21110)、ラクトバチルス・プランタラム AYA株(FERM P−21106)およびラクトバチルス・プランタラム AYB株(FERM P−21107)から選択される1種以上である、請求項1に記載の脂肪細胞分化促進剤。
【請求項3】
麦の乳酸菌発酵産物として、小麦胚芽または小麦ふすまのロイコノストック・メセンテロイデス RIE株(FERM P−21110)、ラクトバチルス・プランタラム AYA株(FERM P−21106)またはラクトバチルス・プランタラム AYB株(FERM P−21107)による発酵産物を含む、請求項1に記載の脂肪細胞分化促進剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の脂肪細胞分化促進剤を含む食品、飼料または化粧料。
【請求項5】
メタボリックシンドローム、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧または動脈硬化を予防または改善するためのものである、請求項4に記載の食品、飼料または化粧料。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の脂肪細胞分化促進剤を含む、メタボリックシンドローム、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧または動脈硬化を予防または治療するための医薬組成物。
【請求項7】
ロイコノストック・メセンテロイデス RIE株(FERM P−21110)。
【請求項8】
ラクトバチルス・プランタラム AYA株(FERM P−21106)。
【請求項9】
ラクトバチルス・プランタラム AYB株(FERM P−21107)。

【公開番号】特開2008−179595(P2008−179595A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63884(P2007−63884)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(301049744)日清ファルマ株式会社 (61)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】