説明

既製杭埋め込み用掘削ヘッド

【要 約】
【課 題】 埋設する杭の外径に対する拡大球根径の拡大率を大きくすることが出来るとゝもに、縮径状態および拡径状態のいづれの場合にあっても、排土中の大きな礫を破砕できる既製杭埋め込み用掘削ヘッドを提供することにある。
【解決手段】 中心軸1の周囲に装着した螺旋状のスパイラル翼2の下方部に、正回転時には前記スパイラル翼の外径Rより内側に収納され、逆回転時には前記スパイラル翼の外径より突出する拡大掘削刃6を前記中心軸に対して回動可能に取り付け、該拡大掘削刃の腕部12および先端部にそれぞれローラカッタ14,16を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としコンクリート製の円筒形又は円柱形の既製杭を地中に設置する際に使
用する掘削ヘッドに関し、特に地中に設置される既製杭の下端部に拡大球根を築造するた
めの拡大掘削刃を備えた既製杭埋め込み用の掘削ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
既製杭を地中に設置する方法として、中心軸の先端に掘削ヘッドを固定したスパイラル
翼を中空の既製杭内に挿入しておき、この掘削ヘッドを中空杭の下端から突出させて杭下
部の地盤を掘削しつつ地中に圧入する中掘り工法と、中心軸の先端に掘削ヘッドを固定し
たスパイラル翼により既製杭挿入孔を地盤中に形成し、その既製杭挿入孔内にセメントミ
ルクを充填した後既製杭を挿入するプレボーリング工法とがある。
【0003】
上記いずれの工法においても、埋設した既製杭の下端を地中の支持地盤に支持させるた
め、既製杭の下端に杭径より大きい径の拡大球根をセメントミルクによって築造する方法
があるが、この拡大球根を築造する手段として、例えば特開平11ー350473号公報
に開示されているような拡大掘削刃を備えた掘削ヘッドが使用されている。
【0004】
前記特開平11ー350473号公報に開示されている掘削ヘッドAは、図4に示すよ
うに、中心軸51の周囲に螺旋状のスパイラル翼52を固定し、このスパイラル翼52の
一部を切り欠いて形成した支持部53に拡大掘削刃54を垂直な枢軸55を介して回動可
能となるように取り付けている。
【0005】
この拡大掘削刃54は、掘削ヘッドAがスパイラル翼52の旋回によって堀進する方向
に回転(正回転)することによって、地盤の抵抗によりスパイラル翼52の外周の回転半
径より内側の縮径状態となり、掘削ヘッドAが逆回転、即ちスパイラル翼52の回転によ
って後退する方向に逆回転することによって、地盤の抵抗によりスパイラル翼52の外周
の回転半径より外側の拡径状態となるように構成されている。
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3110253号公報
【特許文献2】特開平11−62452号公報,
【特許文献3】特開平11−350473号公報,
【特許文献4】特開2005ー290941号公報,
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、前記の特開平11ー350473号公報に開示されてい拡大掘削刃54
は、掘削ヘッドAが正回転時にスパイラル翼52の外周の回転半径より内側に水平状態に
収納され、掘削ヘッドAが逆回転時にスパイラル翼52の外周の回転半径より外側に水平
状態に突出する状態となる。すなわち、拡大掘削刃54は、掘削ヘッドAが正回転する場
合も逆回転する場合も、その枢軸部55を回転中心として前記中心軸51の周囲にほゞ水
平に回動する構成となっている。
【0008】
具体的には、前記拡大掘削刃54の中心軸51に対する取付角度は中心軸51の中心軸
線に対しほゞ90°であるのに対し、前記スパイラル翼52の中心軸51に対する取付角
度はほゞ110°であり、拡大掘削刃54とスパイラル翼52とでは中心軸51に対する
取付角度がそれぞれ異っている。そのため、拡大掘削刃54が収納されている状態で掘削
ヘッドAが正回転(掘進,排土する回転方向)時にあっては、この拡大掘削刃54に掘削
した排土をスムーズに押し上げる機能はなく、むしろスムーズな排土を阻害する恐れすら
あると言える。
【0009】
また、前記掘削ヘッドAが逆回転して拡大掘削刃54を最大に開かせ、埋設する杭の外
径に対する拡大球根径の拡大率を大きくしようとして、拡大掘削刃54の腕部を長くする
ことも考えられるが、収納時(縮径状態時)にスペースの関係もあり限度がある。したが
って、腕部を長くしても意味がないといった問題点もある。
【0010】
本発明は上記のような従来の問題点に鑑み、拡大掘削刃の腕部を長くすることで埋設す
る杭の外径に対する拡大球根径の拡大率を大きくすることが出来るとゝもに、縮径状態お
よび拡径状態のいづれの場合にあっても、排土中の大きな礫を破砕できる構成とすること
で、掘削,排土効果を高めた既製杭埋め込み用掘削ヘッドを提供することを目的としてな
されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための請求項1に記載の本発明は、中心軸の周囲に螺旋状のスパ
イラル翼を、下端に掘削用ビットをそれぞれ備えるとゝもに、前記スパイラル翼と掘削用
ビットとの間にあって、正回転時には前記スパイラル翼の外径より内側に収納され、逆回
転時には前記スパイラル翼の外径より突出する拡大掘削刃を前記中心軸に対して回動可能
に取り付け、該拡大掘削刃の腕部および先端部にそれぞれローラカッタを備えたことを特
徴とする。
【0012】
また、上記の目的を達成するための請求項2に記載の本発明は、前記請求項1の構成に
加え、前記拡大掘削刃が前記中心軸に対して左右対称に取り付けられ、逆回転時には前記
拡大掘削刃が最大で前記スパイラル翼とほぼ同じ角度で開き、正回転時には前記中心軸の
周囲に前記スパイラル翼とほぼ同じ角度で螺旋状に収納されることを特徴とする。
【0013】
更に、上記の目的を達成するための請求項3に記載の発明は、正回転しながら掘削ヘッ
ドを引き上げる際に、前記中心軸の周囲に収納されている前記拡大掘削刃の腕部に装着し
た前記ローラカッタが、排土に接触して自在に回転する構成としたことを特徴とする。そ
して、請求項4に記載の本願発明は、前記拡大掘削刃に、前記スパイラル翼より外側に水
及び/又はセメントミルク等の高圧流体を噴射させるための高圧流体噴射用のノズルを備
えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、請求項1に記載のように、中心軸に対して回動可能に取り付けた拡
大掘削刃の腕部および先端部にそれぞれローラカッタを備えることで、掘削ヘッドの正回
転および逆回転時における拡大掘削刃の縮径状態および拡径状態のいづれの場合にあって
も、拡大掘削刃はその腕部に設置したローラカッタが掘削土と接触して掘削土中の礫を破
砕できる。
【0015】
また、本願発明は請求項2に記載のように、拡大掘削刃が逆回転時には最大で前記スパ
イラル翼とほぼ同じ角度で開き、正回転時には拡大掘削刃が中心軸の周囲に前記スパイラ
ル翼とほぼ同じ角度で螺旋状に収納されることで、掘削土の撹拌や排土をスムーズに行な
うことができる。
【0016】
更に、本願発明は請求項3に記載のように、正回転しながら掘削ヘッドを引き上げる際
に、中心軸の周囲に収納される前記拡大掘削刃にあってその腕部に装着した前記ローラカ
ッタが、排土と接触しながら自在に回転する構造とすることで、排土中に含まれる大きな
礫を容易に破砕出来、より一層掘削孔内の排土をスムーズに行うことができる。
【0017】
そして、本願発明においては、請求項4に記載のように、前記拡大掘削刃に、前記スパ
イラル翼より外側に水及び/又はセメントミルク等の高圧流体を噴射させるための高圧流
体噴射用のノズルを備えたことにより、このノズルからの掘削ジェット水により拡大掘削
刃の先端より更に外側を掘削することができ、より径の大きな拡大球根形成部を造成する
ことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に本発明の実施の形態を図面に示した実施例に基づいて説明すると、図において、A
は本発明に係る掘削ヘッドで、中心軸1の外周には上下に分けて上部スパイラル翼2(螺
旋ピッチ約1/4)と下部スパイラル翼3(螺旋ピッチ約1/2)とがそれぞれ設けられ
ており、前記中心軸1の上端にはスパイラルオーガBとの継手部4が、前記下部スパイラ
ル翼3の下端には掘削用ビット5がそれぞれ設けられている。
【0019】
6,6は前記上部スパイラル翼2と下部スパイラル翼3との間に設置した一対の拡大掘
削刃で、図2に示すように、前記中心軸1の直径線上にそれぞれ設置されている。詳しく
は、この拡大掘削刃6は、前記上部スパイラル翼2および下部スパイラル翼3が正回転す
る時(ただし、図2は図1のXーX線方向から見た図であるため、正回転と逆回転はそれ
ぞれ逆向きとなっている)、すなわち掘削ヘッドAが地盤内で前進する方向へ回転する時
に、周囲の土砂の抵抗によって前記中心軸1の周囲に上部スパイラル翼2とほぼ同じ角度
で倒され、上部及び下部スパイラル翼2,3の外径Rより内側に螺旋状に収納された縮径
状態となる(図1及び図2の右半分の図を参照)。
【0020】
反対に、上部スパイラル翼2および下部スパイラル翼3が逆回転する時、すなわち、掘
削ヘッドAが地盤内で後退する方向へ回転する時には、周囲の土砂の抵抗によって拡大掘
削刃6が最大で上部スパイラル翼2とほぼ同じ角度に開き、上部スパイラル翼2,下部ス
パイラル翼3の外径Rより外側に突出された拡径状態となるように構成されている(図1
及び図2の左半分の図を参照)。
【0021】
詳述すると、前記拡大掘削刃6は、その基端部において上部スパイラル翼2の一部を切
り欠いて形成した取付部7の支持部材8に回動可能となるように枢着されている。すなわ
ち、前記拡大掘削刃6の基端部には一対の平行な軸受部材9,9が突設しており、この軸
受部材9,9間に前記支持部材8を挿入し、この支持部材8と前記軸受部材9,9に拡大
頭部を有する枢軸10を貫通させ、該枢軸10の下端に下端側の軸受部材9側からボルト
11を締め付けることで、前記拡大掘削刃6は前記枢軸10を中心として回動自在となる
ように枢着されている。
【0022】
12は前記拡大掘削刃6の腕部で、該腕部12に形成した上下方向に貫通する貫通穴1
3内にはローラカッタ14が回転軸15,15により回転自在となるように枢着されてい
る。16は前記拡大掘削刃6の先端部に設置したローラカッタで、該ローラカッタ16は
腕部12の先端部にあって、掘削ヘッドAの逆回転時、即ち拡大掘削刃6が起き上がって
周囲を拡大掘削する回転方向(黒矢印)の前方側に片寄せて突設されており、その後方側
の腕部先端部に必要に応じて水又はセメントミルクを噴射させるためのノズル17が腕部
12の先端側延長方向に向けて装着されている。
【0023】
前記腕部12,一方の軸受部材9aおよび枢軸10には前記ノズル17に連通する給液
路(図示せず)がそれぞれ形成されている。また前記中心軸1は中空筒状に形成されてお
り、中心軸1内に挿入した内筒1aと連通する給液路(図示せず)が中心軸1の下端に開
口したノズル18に連通している。
【0024】
このように構成される掘削ヘッドAを先端に固定したスパイラルオーガBを中空の既製
杭内に挿入しておき、この掘削ヘッドを中空杭の下端から突出させ、杭下部の地盤を掘削
しつつ地中に圧入する中掘り工法に適用する場合、杭先端部の拡大球根部19を地中に形
成するに際し、図3(a)に示すように、図1および図2の右半部に示す状態で、掘削ヘ
ッドAを正回転させて排土しつつ、支持層地盤を球根先端部まで掘削ヘッド径Rで掘削(
正回転による予備掘削)する(水の噴射圧を併用する場合は、5MPa程度の比較的低い
噴射圧で用いる)。
【0025】
支持層地盤を球根先端部まで予備切削した後、図3(b)に示すように、図1および図
2の左半部に示す状態で掘削ヘッドAを逆回転させ、開かせた拡大掘削刃Aで球根先端部
から例えば1.3D(Dは杭径)程度の拡翼径で引上げながら、拡大掘削(逆回転による
予備掘削)する(水の噴射圧を併用する場合は、5〜10MPa程度の中低度の噴射圧で
用いる。)
【0026】
次いで、図3(c)に示すように、掘削ヘッドAを正回転させ、拡大掘削刃Aが拡大球
根形成予定部の底部に達するまで高圧ジェット噴射(例えば20MPa程度)しながら降
下させ、拡大球根を築造する。更に、図3(d)に示すように、掘削ヘッドAを逆回転さ
せ、拡大掘削刃Aの先端からの高圧ジェット噴射(例えば20MPa程度)で、拡大球根
下部を再築造する。
【0027】
そして、図示しないが、掘削ヘッドAを逆回転させつつ、ノズル18よりセメントミル
クを注入しつつ球根形成予定部上部まで上昇させ、つぎに正回転に切り換えて拡大掘削刃
Aを収納させた状態で回転させながら拡大球根部19内から掘削ヘッドAを引抜く。その
後既製杭を拡大球根部内に挿入し、設計された杭先端部まで到達せしめることで、中掘り
工法が終了する。
【0028】
なお、高圧流体噴射ノズルの使用は、土質条件や掘削ヘッドの種類に応じて、適宜使用
できる。また、本願既製杭埋め込み用掘削ヘッドが、既製杭挿入孔(図示せず)を地盤中
に形成し、その既製杭挿入孔内にセメントミルクを充填した後既製杭を挿入するプレボー
リング工法にも使用できるものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態を示す掘削ヘッドの正面図で、右半部は拡大掘削刃が収納された縮径状態を、左半部は拡大掘削刃が開いた拡径状態をそれぞれ示す図。
【図2】図1のXーX線断面矢視図であり、右半部は拡大掘削刃が収納された縮径状態を、左半部は拡大掘削刃が開いた拡径状態をそれぞれ示す図。
【図3】本発明の掘削ヘッドを使用したスパイラルオーガによる掘削工法の工程説明図。
【図4】従来の掘削ヘッドの一部を切り欠いた正面図(a)と、同正面図(a)のYーY線断面矢視図。
【符号の説明】
【0030】
A 掘削ヘッド
1 中心軸
2 上部スパイラル翼
3 下部スパイラル翼
4 継手部
5 掘削用ビット
6 拡大掘削刃
7 取付部
8 支持部材
9 軸受部材
10 枢軸
11 ボルト
12 腕部
13 貫通穴
14,16 ローラカッタ
17,18 ノズル
19 拡大球根部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸の周囲に螺旋状のスパイラル翼を、下端に掘削用ビットをそれぞれ備えるとゝも
に、前記スパイラル翼と掘削用ビットとの間にあって、正回転時には前記スパイラル翼の
外径より内側に収納され、逆回転時には前記スパイラル翼の外径より突出する拡大掘削刃
を前記中心軸に対して回動可能に取り付け、該拡大掘削刃の腕部および先端部にそれぞれ
ローラカッタを備えたことを特徴とする既製杭埋め込み用掘削ヘッド。
【請求項2】
前記拡大掘削刃が前記中心軸に対して左右対称に取り付けられ、逆回転時には前記拡大
掘削刃が最大で前記スパイラル翼とほぼ同じ角度で開き、正回転時には前記中心軸の周囲
に前記スパイラル翼とほぼ同じ角度で螺旋状に収納されることを特徴とする請求項1記載
の既製杭埋め込み用掘削ヘッド。
【請求項3】
正回転しながら掘削ヘッドを引き上げる際に、前記中心軸の周囲に収納されている前記
拡大掘削刃の腕部に装着した前記ローラカッタが、排土に接触して自在に回転する構成と
したことを特徴とする請求項1又は2記載の既製杭埋め込み用掘削ヘッド。
【請求項4】
前記拡大掘削刃に、前記スパイラル翼より外側に水及び/又はセメントミルク等の高圧
流体を噴射させるための高圧流体噴射用のノズルを備えたことを特徴とする請求項1,2
又は3記載の既製杭埋め込み用掘削ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−127213(P2009−127213A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300722(P2007−300722)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000201504)前田製管株式会社 (35)
【Fターム(参考)】