説明

有機トランジスタ材料およびこれを用いた有機トランジスタ

【課題】高い移動度を有し、安定に動作し、塗布成膜が可能な有機半導体化合物の提供。
【解決手段】下記式(1)で表される構成単位を有する、数平均分子量が10〜10である重合体による。


(式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素またはアルキルであり、m1及びm2はそれぞれ独立に1〜4の整数であり、Tは下記式(2−1)、(2−2)及び(2−3)から選ばれるチオフェン縮合環を含む基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規有機トランジスタ材料およびこれを用いた薄膜、有機半導体膜および有機トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からトランジスタ用の無機半導体材料としてシリコンが用いられてきた。シリコンからなる薄膜を基板上に形成する際に、高温および高真空プロセスが必須である。高温プロセスを要するために、プラスチックを基板として用いることは難しい。そのためトランジスタを組み込んだ製品に対して、可撓性を付与したり、軽量化を達成したりすることはできない。また、高真空プロセスを要するため、トランジスタを組み込んだ製品の大面積化および低コスト化が困難である。
そこで、近年、有機半導体材料を用いた有機トランジスタ(以下「有機FET」とも記す。この有機FETの分類に、有機薄膜トランジスタ(以下「有機TFT」とも記す。)も含まれる。)に関する研究が活発に行われている。
【0003】
有機半導体材料は、シリコンのような無機半導体材料と比べて、作製プロセス温度が著しく低減できるため、プラスチック基板上等に薄膜を形成することが可能となる。さらに、有機半導体材料は、構造を改良することで、溶媒への溶解性が改善されることから、例えば、インクジェット装置を用いた塗布法により薄膜形成することができる。そのため、半導体デバイスを組み込んだ製品の大面積化および低コスト化が可能となる、
【0004】
このように、有機半導体材料は、無機半導体材料と比べて、大面積化、可撓性、軽量化、低コスト化等の点で有用であるため、これらの特性を生かした有機半導体製品への応用が盛んに行われている。例えば、情報タグ、電子人工皮膚シートやシート型スキャナー等の大面積センサー、液晶ディスプレイ、電気泳動型ディスプレイ(電子ペーパー)および有機ELパネル等のディスプレイなどへの応用である。有機半導体材料を用いた有機薄膜トランジスタに要求される主な素子特性は以下の通りである。
【0005】
(1)オンオフ比(オン電流/オフ電流)が大きく、オフ電流が小さい。
(2)閾値電圧が低い。
(3)遮断周波数が高い。
(4)大気下での経時劣化が小さく、安定に動作する。
(5)有機薄膜トランジスタの特性のバラツキが小さい。
【0006】
これらの素子特性を満足するために、有機半導体材料に要求される特性は、以下の通りである。
(i)電界効果移動度(μ)が高い。
(ii)成膜性が優れており、薄膜形成プロセスが容易である。
(iii)酸素および水分に対して耐性があり大気下で安定である。
【0007】
特に、(i)の電界効果移動度(以下「移動度」とも記す。)が高いことが大前提となる。この観点から、近年、アモルファスシリコンに匹敵する電界効果移動度を有する有機半導体材料が次々に報告されている。また、(ii)における薄膜形成プロセスとしては、真空蒸着法および塗布法がある。真空蒸着法の場合、薄膜形成プロセスの容易さという観点から、高温よりも室温で蒸着できる方が好ましい。また、塗布法を利用できる場合は、真空蒸着法より、さらに好ましい。成膜性に優れているということは、前記薄膜形成プロセスにおいて、ソース・ドレイン電極とゲート絶縁膜との密着性が良好であり、均一かつ連続的な薄膜を形成できることを意味している。
【0008】
有機半導体材料は、低分子系(オリゴマーも含む)と高分子系とに大別される。低分子系有機半導体材料としては、例えば、ペンタセンが挙げられる。ペンタセンを用いた有機FETは、高い移動度を有することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、ペンタセンは、酸素に対する親和性が高いため、ペンタセンを用いた有機FETは、大気中で安定に動作できないことが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。ペンタセン薄膜の形成方法として、塗布法、例えば、トリクロロベンゼンの希薄溶液中でペンタセン結晶を形成させる方法が報告されているが(例えば、特許文献1参照)、製造方法が難しく、特性のバラツキが少ない安定した有機FETを得ることは困難である。有機FET特性の低下およびバラツキは結晶粒界に起因している。そのため、特性のバラツキが少ない安定した有機FETを得るためには、ペンタセン薄膜の形成方法として、高真空プロセスである真空蒸着法が必須であり、大面積化や低コスト化が問題となる。
【0009】
そこで、結晶粒界の影響がなく、かつ有機溶媒に可溶な低分子系有機半導体材料として、液晶性を利用した液晶有機半導体が提案されている(例えば、非特許文献3参照)。液晶有機半導体は、公知の方法を利用した配向制御によって移動度を高くすることができる。しかしながら、その移動度の値は低く、不充分である。また、一般的に、液晶有機半導体は液晶相を示す温度範囲が室温より高いことから、室温では結晶状態となる。そのため、液晶有機半導体は、液晶相を示す温度範囲では安定なキャリア輸送性を示すものの、室温では結晶粒界の影響で安定なキャリア輸送性を示さない(例えば、非特許文献4参照)。
【0010】
高分子系有機半導体材料を利用した有機FETとしては、例えば、ポリチオフェンを用いた有機FETが開示されている(特許文献2参照)。前記有機FETは、溶液塗布で容易に薄膜形成できるという点で成膜性に優れているが、オンオフ比が400以下と非常に低く、充分なFET特性を得るには至っていない。ポリチオフェンは、大気下では酸化的にドーピングを受けやすく、大気中での素子の劣化が大きく、FET特性の劣化の観点からも十分ではない。
【0011】
そこで、移動度ならびにオンオフ比を改良するために、チオフェン環以外の複素芳香族環としてチアゾール環を含有した共重合体を用いた有機FETが開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、ポリチオフェンと比べると、オンオフ比はやや改善されているが、移動度の値は低く、経時劣化は大きく、充分なFET特性を得るには至っていない。
また、チアゾール環が部分的に連続した構造を用いた重合体ならびに共重合体を用いた有機FETが開示されている(特許文献4参照)。しかしながら、FET特性のうち、経時劣化は小さく抑えられているが、オンオフ比ならびに移動度が低く、充分なFET特性を得るには至っていない。
このようなことから、高移動度でかつオンオフ比が大きく、さらに大気下での経時的劣化が小さく、安定に動作し、充分にFET特性が発揮される材料が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−281180号公報
【特許文献2】US6107117号公報
【特許文献3】EP1953155号公報
【特許文献4】国際公開WO2005/070994号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Yen-Yi Lin.,IEEE Transaction on Electron Device,Vol.44,No8 p.1325(1997)
【非特許文献2】D. Kumaki,Applied Physics Letters,Vol.92,p.093309(2008)
【非特許文献3】M.Funahashi,Applied Physics Letters,Vol.73 No.25,p.3733(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、高い移動度を有し、大気中で安定に動作し、かつ溶液を用いた塗布成膜が可能な重合体およびこれを用いた有機FET素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、電子供与性部分であり、平面性が高いチオフェン縮合環と電子受容性部分であるチアゾールが部分的に連続した構造とを含有する重合体によれば、室温での溶液塗布法による成膜が容易でかつ、大気中で安定した性能を発揮する有機FETの製造が可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は以下の構成である。
[1] 下記式(1)で表される構成単位を有する、数平均分子量が10〜10である重合体。


(式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜22のアルキルであり、前記炭素数1〜22のアルキル中の任意の−CH2−は、−O−に置き換えられていてもよく、任意の水素は、フッ素に置き換えられてもよく、m1及びm2はそれぞれ独立に1〜4の整数であり、Tは下記式(2−1)、(2−2)及び(2−3)から選ばれるチオフェン縮合環を含む基であり、前記チオフェン縮合環を含む基中、R及びRは、それぞれ独立に水素または炭素数1〜21のアルキルであり、前記炭素数1〜21のアルキル中の任意の−CH2−は、−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−または−C≡C−に置き換えられていてもよく、前記チオフェン縮合環を含む基中の炭素はSiで置き換えられてもよく、任意の水素は、フッ素に置き換えられてもよく、Zは下記式(3−1)、(3−2)及び(3−3)から選ばれる含窒素芳香族複素環を含む基であり、前記含窒素芳香族複素環を含む基中、R及びRはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜23のアルキルであり、m3は1または2である。




[2] 前記式(2−1)、(2−2)及び(2−3)から選ばれるチオフェン縮合環を含む基における、R及びRは、それぞれ独立に水素及び炭素数1〜12のアルキルから選ばれる基である前記[1]項記載の重合体。
[3] 前記式(2−1)、(2−2)及び(2−3)から選ばれるチオフェン縮合環を含む基における、R及びRのすべてが水素及び炭素数1〜12のアルキルから選ばれる同一の基である前記[1]項記載の重合体。
[4] 前記式(3−1)、(3−2)及び(3−3)から選ばれる含窒素芳香族複素環を含む基における、R及びRのすべてが水素及び炭素数1〜17のアルキルから選ばれる同一の基である前記[1]項記載の重合体。
[5] 式(1)におけるR及びRのすべてが水素及び炭素数1〜12のアルキルから選ばれる同一の基である前記[1]項記載の重合体。
[6] 前記[1]〜[5]のいずれか1項記載の重合体から形成される薄膜。
[7] 前記[6]項記載の薄膜からなる有機半導体。
[8] 前記[7]項記載の有機半導体を用いた有機トランジスタ。
【発明の効果】
【0017】
本発明の重合体は、高い移動度を有し、薄膜形成が容易で成膜性に優れているため、有機半導体材料として有用である。本発明の重合体によれば、有機FETの製造において、溶液塗布法により安定した薄膜形成が可能である。
また、本発明の重合体を用いた有機FETは、オンオフ比が大きく、閾値電圧が低く、しかも大気中で安定に動作して経時劣化が小さい等優れた特性を有している。さらに本発明の重合体を用いた有機FETは、前記特性のバラツキが少ない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は、ボトムゲート−ボトムコンタクト型の有機FET素子の断面形状を示す模式図であり、(b)は、ボトムゲート−トップコンタクト型の有機FET素子の断面形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明について具体的に説明する。
本発明の重合体は、下記式(1)で表される構成単位を有しており、数平均分子量が10〜106であることを特徴とする。


【0020】
式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜22のアルキルである。前記炭素数1〜22のアルキル中の任意の−CH2−は、−O−に置き換えられていてもよく、任意の水素は、フッ素に置き換えられてもよい。炭素数1〜22のアルキルとしては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、ヘンイコシル、ドコシルが挙げられ、なかでも、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシルが好ましく、特にメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルが好ましい。
また、m1及びm2はそれぞれ独立に1〜4の整数である。
【0021】
上記式(1)におけるR及びRのそれぞれが独立して水素及び炭素数1〜12のアルキルから選ばれる基であることが好ましく、R及びRのすべてが水素及び炭素数1〜12のアルキルから選ばれる同一の基であることが更に好ましい。
【0022】
また、Tは下記式(2−1)、(2−2)及び(2−3)から選ばれるチオフェン縮合環を含む基であり、前記チオフェン縮合環を含む基中、R及びRは、それぞれ独立に水素または炭素数1〜21のアルキルであり、前記炭素数1〜21のアルキル中の任意の−CH2−は、−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−または−C≡C−に置き換えられていてもよく、基中の炭素はSiで置き換えられてもよい。任意の水素は、フッ素に置き換えられてもよい。


炭素数1〜21のアルキルとしては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、ヘンイコシルが挙げられ、なかでも、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシルが好ましく、特にメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルが好ましい。
【0023】
上記式(2−1)、(2−2)及び(2−3)から選ばれるチオフェン縮合環を含む基における、R及びRのそれぞれが独立して水素及び炭素数1〜12のアルキルから選ばれる同一の基であることが好ましい。
【0024】
また、Zは下記式(3−1)、(3−2)及び(3−3)から選ばれる含窒素芳香族複素環を含む基であり、前記含窒素芳香族複素環を含む基中、R及びRはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜23のアルキルであり、m3は1また2である。



炭素数1〜23のアルキルとしては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、ヘンイコシル、ドコシル、トリコシルが挙げられ、なかでも、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシルが好ましく、特にメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシルが好ましい。
【0025】
式(3−1)、(3−2)及び(3−3)から選ばれる含窒素芳香族複素環を含む基における、R及びRのすべてが水素及び炭素数1〜17のアルキルから選ばれる同一の基であることが好ましい。
【0026】
式(1)において、RまたはRが、炭素数1〜12のアルキルであり、(2−1)、(2−2)及び(2−3)において、RまたはRが、炭素数1〜12のアルキルであり、(3−1)、(3−2)及び(3−3)において、RまたはRが、炭素数1〜17のアルキルであると、後述する溶媒への溶解性の点で好ましく、溶液塗布法による安定した薄膜形成および成膜性の点で好ましい。
【0027】
式(1)として、より具体的には、例えば式(a−1)〜(a−18)が挙げられる。
【0028】

【0029】

【0030】

【0031】
式(a−1)〜(a−18)において、R、R、RまたはRが、炭素数1〜12のアルキルであり、RまたはRが、炭素数1〜17のアルキルであり、m1またはm2は1〜4の整数であり、m4は1〜3の整数である。
【0032】
本発明の重合体は、後述する有機FETに使用する場合には、通常成膜をするために、重合体を溶媒に溶解して塗布する。本発明の重合体の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」という)によるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)で1×10〜1×10の範囲である。重合体の分子量が高いほど、均一性に優れた膜が得られるが、重合体の分子量が1×10を越えると溶媒への溶解性が低下する恐れがある。成膜性及び素子を形成した場合の特性向上の観点から、本発明の重合体の分子量は、好ましくは5×10〜1×10の範囲であり、更に好ましくは5×10〜5×10の範囲である。
【0033】
<本発明の重合体のFET特性>
本発明の重合体は、高い移動度を有している。また、前記重合体を用いた有機FETのゲート電圧によるドレイン電流のオンオフ比(オン電流/オフ電流)も高い数値を示す。したがって、本発明の重合体は有機半導体材料として優れた性質を有する。
本発明の重合体は、薄膜形成プロセスが容易であり、かつ成膜性に優れている。そのため、溶液塗布法を適用して、好適に均一かつ連続的な薄膜を形成することができる。したがって、本発明の重合体を用いれば、高い移動度を保持した有機半導体膜、およびこれを利用した特性の優れた有機FETの作製が実現できる。特に溶液塗布法を適用すれば、大面積で、特性の優れた有機FET等を低コストで作製できる。用途によって移動度の最適値は異なるが、有機半導体材料に要求される移動度としては一般に、移動度(μFET)が10-3cm2/V・s以上である。移動度(μFET)は、ドレイン電圧(VD)を固定し、ゲート電圧(VG)を変化させることによって得られる伝達特性の曲線を用いて、下記式(i)を用いることで求めることができる。
【0034】



式(i)中、Cinはゲート絶縁膜の単位面積当たりの電気容量(F/cm2)、IDはドレイン電流(A)、Lはチャネル長(cm)、Wはチャネル幅(cm)、VTHは閾値電圧(V)である。なお、本願において移動度(μFET)は、後述する実施例における測定方法で得られる値である。
【0035】
本発明の薄膜は、本発明の重合体から形成される。
本発明の重合体は、例えば、窒素雰囲気下で、下記式(4)〜(6)で表される化合物の少なくとも1つと下記式(7)で表される化合物の少なくとも1つとをN,N’−ジメチルホルムアミドに加え、この混合溶液に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを触媒として加えて、加熱攪拌して反応させることにより製造することができる。テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムは下記式(4)〜(6)で表される化合物に対して0.2〜10モル%の範囲で使用するのが好ましい。反応温度は、通常、室温〜150℃であり、好ましくは、50〜120℃であり、より好ましいのは80〜120℃である。反応時間は、通常1〜48時間であり、好ましくは3〜24時間であり、より好ましくは、6〜24時間である。
【0036】


【0037】
式(4)〜(7)中、R、R、R、R、R、Rは、式(1)、(2−1)、(2−2)、(2−3)、(3−1)、(3−2)、(3−3)の場合と同義である。Rはメチルまたはブチルである。
【0038】
本発明の重合体の製造方法の具体例として、既知の方法で、式(4)で表される化合物の一例である2,5−ビス(トリメチルスタンニル)−チエノ[3,2−b]チオフェンと、式(7)で表される化合物の一例である5,5’−ジブロモ−4,4’−ジヘプタデシル−2,2’−ビチアゾールを合成し、2,5−ビス(トリメチルスタンニル)−チエノ[3,2−b]チオフェンと5,5’−ジブロモ−4,4’−ジヘプタデシル−2,2’−ビチアゾールとをN,N’−ジメチルホルムアミドに加えた溶液に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを触媒として加えて、加熱攪拌して反応させることにより、下記スキームで表される重合体を製造する方法が挙げられる。重合において、式(4)〜(6)で表される化合物を複数用いるか、式(7)で表される化合物を複数用いて、共重合体を製造することもできるし、式(4)〜(6)で表される化合物を複数用い、式(7)で表される化合物を複数用いて、共重合体を製造することもできる。


【0039】
以下、重合体の製造方法を使用する2,5−ビス(トリメチルスタンニル)−チエノ[3,2−b]チオフェンおよび5,5’−ジブロモ−4,4’−ジヘプタデシル−2,2’−ビチアゾールについて詳細に説明する。2,5−ビス(トリメチルスタンニル)−チエノ[3,2−b]チオフェンは、下記スキームの工程を経て合成することができる。



チエノチオフェンをテトラヒドロフランに溶かした溶液に、ノルマルブチルリチウム/ヘキサン溶液およびトリメチルスズクロリドを加えて反応させることにより化合物(A)を得る。得られた化合物(A)と2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェンとをN,N’−ジメチルホルムアミドに溶かした溶液にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを加え、窒素雰囲気下で加熱反応させることにより化合物(B)を得る。次いで得られた化合物(B)をテトラヒドロフランに溶かした溶液に、ノルマルブチルリチウム/ヘキサン溶液およびトリメチルスズクロリドを加えて反応させることにより化合物(C)を得る。
【0040】
5,5’−ジブロモ−4,4’−ジヘプタデシル−2,2’−ビチアゾールは、下記スキームの工程を経て合成することができる。



1−ブロモ−2−ノナデカノンをエタノールに溶かした溶液に、ルベアン酸を加えて加熱還流させることにより4,4’−ジヘプタデシル−2,2’−ビチアゾールを得る。得られた4,4’−ジヘプタデシル−2,2’−ビチアゾールをクロロホルムに溶かした溶液に臭素を加え加熱還流させることにより5,5’−ジブロモ−4,4’−ジヘプタデシル−2,2’−ビチアゾールを得る。
合成した化合物の同定は、核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)(使用機器:FT−NMR VARIAN NMRSYSTEM(VARIAN(株)製)、溶媒:CDCl3)の測定によって行うことができる。
【0041】
本発明の有機半導体は、本発明の薄膜から形成される。
本発明の薄膜は、上述した平面性が高いチオフェン縮合環と電子受容性部分であるチアゾールが部分的に連続した構造とを含有する重合体から形成される。薄膜の厚みは、目的に応じて適宜決定することができる。薄膜の形成方法には、公知の種々の成膜方法を適用することができる。成膜方法の具体例としては、溶液塗布法が挙げられる。溶液塗布法を用いる場合は、例えば、本発明の重合体を溶媒に溶解した溶液を用いることによって、スピンコート法、ブレードコート法、ディッピング法、スプレーコート法、ロールコート法、ダイコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法のいずれの方法を採用してもよい。溶媒としては、極性溶媒および無極性溶媒のいずれを用いてもよい。これらの成膜方法の中でも、特に、溶液塗布法を適用すると、大面積の薄膜を効率的に形成することができる。また、溶液塗布法による薄膜形成工程を含む有機FETの製造は、製造工程の単純化、製造効率の向上に寄与する。また、高真空プロセスの必要性がなく製造できるので、大面積化、低コスト化および工程変更の対応性の向上に寄与する。さらに高温プロセスの必要性がなく製造できるので、基板材料にプラスチックを用いることができ、製品に可撓性を付与することや、製品の軽量化を達成できる。
【0042】
本発明の有機FETは、本発明の薄膜からなる有機半導体を用いることで得られる。本発明の有機半導体は、上記薄膜からなる。よって本発明の薄膜と同様の方法で形成することができる。
【0043】
具体的な溶媒としては、例えば、クロロホルムや1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化アルキル系溶媒、トルエン、キシレン、1,2−ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒、テトラヒドロフランやジオキサン等の環状エーテル系溶媒を挙げられる。上記方法のいずれかを用いて有機半導体膜を形成後、真空下または窒素雰囲気下において、適切な熱処理を行って、分子の配向性およびグレイン(分子の配向の揃った分子鎖の集合体)サイズを大きくし、トランジスタの性能を改善することができる。有機FETの場合、有機半導体膜の形態は、原子間力顕微鏡(AFM)または走査型電子顕微鏡(SEM)による観察結果、およびX線回折の結果により確認することができる。
【0044】
<有機トランジスタ>
本発明の薄膜から形成される有機半導体を用いて、有機FETを構成することができる。有機FETは、一般的に、ガラスやプラスチック等の支持基板、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、ゲート絶縁膜および有機半導体からなる。前記有機半導体として、本発明の重合体から形成される薄膜を用いることができる。有機FETに使用する有機半導体である薄膜の厚さは、通常30〜500nmであり、好ましくは30〜300nmであり、より好ましくは50〜100nmである。
有機FETは、ゲート電極に印加する電圧を制御することによって、ゲート絶縁膜上の有機半導体界面にキャリアを誘起し、ソース電極およびドレイン電極に流れる電流を制御し、スイッチング動作を行う。
【0045】
有機FETには、ボトムゲート−ボトムコンタクト型、ボトムゲート−トップコンタクト型およびトップゲート型等があり、いずれを採用してもよい。また、縦型の有機FETを採用してもよい。電極と有機半導体間のキャリア注入の観点からは、トップコンタクト型の方が、ボトムコンタクト型よりも容易である。
【0046】
図1(a)および(b)に、それぞれボトムゲート−ボトムコンタクト型の有機FETおよびボトムゲート−トップコンタクト型の有機FETの断面形状を示す。これらの有機FETは、それぞれソース電極1、ドレイン電極2、ゲート電極3、有機半導体膜4およびゲート絶縁膜5から構成される。
【0047】
ゲート電極の材料としては、例えば、Al、Ta、Mo、Nb、Cu、Ag、Au、Pt、In、Ni、Nd、Cr、ポリシリコン、アモルファスシリコン、ハイドープ等のシリコン、錫酸化物、酸化インジウムまたはインジウム錫化合物(Indium Tin Oxide:ITO)等の無機材料、またはドープされた導電性高分子等の有機材料が挙げられ、いずれを用いてもよい。また、ゲート絶縁膜の材料としては、SiO2、SiN、Al23またはTa25等の無機材料、ポリイミドまたはポリカーボネート等の高分子材料を採用することができる。
【0048】
ゲート絶縁膜の表面は、公知の表面処理、例えば、ヘキサメチルジシラザン処理(HMDS処理)またはオクタデシルトリクロロシラン処理(OTS処理)やオクタデシルトリエトキシシラン(ODSE処理)を行うことができる。HMDS処理やOTS処理またはODSE処理を行うと、一般に、有機FET層を構成する結晶粒径の増大、結晶性の向上、分子配向の向上などが見られ、結果として移動度およびオンオフ比が向上し、閾値電圧が低下する傾向がある。
ソース電極およびドレイン電極の材料としては、ゲート電極と同種の材料を用いることができ、ゲート電極の材料と同じであっても異なっていてもよく、異種材料を積層してもよい。また、キャリアの注入効率を上げるために、これらの電極に表面処理を施してもよい。例えば、硫黄化合物を用いた表面処理がある。
【0049】
上記有機FETは、液晶表示素子やEL素子としても用いることができる。また、化合物の薄膜を含む有機FET測定用セルを作製し、ゲート電圧を変化させながらソース・ドレイン電極間の電流/電圧曲線を測定すると、ドレイン電流/ゲート電圧曲線から電界効果移動度を求めることができる。さらに、ゲート電圧によるドレイン電流のオン/オフ動作を観測することもできる。
【0050】
上記有機FETは、本発明の化合物から形成される膜を有機半導体膜として用いているので、各特性に優れる。例えば、上記有機FETは、キャリア移動度も高く、通常10-3cm2/V・s以上であり、好ましくは10-2cm2/V・s以上であり、特に好ましくは10-1cm2/V・s以上である。上限値は、特に限定されないが、10cm2/V・s以下である。さらに、上記有機FETは、閾値電圧が低く、通常20V以下であり、好ましくは10V以下であり、特に好ましくは5V以下である。下限値は、特に限定されないが、−20V以上である。また、上記有機FETは、オンオフ比が大きく、通常102以上であり、好ましくは103以上であり、特に好ましくは105以上である。上限値は、特に限定されないが、108以下である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
合成した化合物の同定は、核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)(使用機器:FT−NMR VARIAN NMRSYSTEM(VARIAN(株)製)、溶媒:CDCl3)の測定によって行った。
重合体の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を測定した。(使用機器:日本分光株式会社製、JASCO GULLIVER 1500 (インテリジェント示差屈折率計 RI-1530)、測定条件;カラム:東ソー製カラムG4000HXL、G3000HXL、G2500HXLおよびG2000HXLの4本をこの順序に接続して使用。カラム温度:40℃、展開溶剤:THF、流量:1ml/min、標準物質:分子量既知のポリスチレン)
【0052】
[実施例1]
<重合体の合成>
重合体(E)の合成は、下記スキームによる。
【0053】


【0054】
化学式(A)の2,5−ビス(トリメチルスタンニル)−チエノ[3,2−b]チオフェンの合成
窒素雰囲気下で、チエノ[3,2−b]チオフェン(10g、71mmol)、THF(100ml)の混合溶液に、2.6Mのn−ブチルリチウムヘキサン溶液(60ml、156mmol)を−78℃で添加した。反応混合物を−78℃で1時間、攪拌した後、室温まで上昇させ、1時間、攪拌後、再度、−78℃に冷却し、トリメチルスズクロライド(30g、150mmol)のTHF(50ml)溶液を添加した。反応混合物を−78℃で30分間、攪拌した後、室温下で一晩攪拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。得られた濃縮物をベンゼン(500ml)に再溶解させ、飽和NHCl水、次いで、水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾別後、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。残留物をエタノールで再結晶させ、精製し、無色の結晶17.5g(収率52%)を得た。
【0055】
H NMR(500MHz, CDCl)7.25(s,2H),0.38(s,18H)
【0056】
化学式(B)の2,5−ビス(3−ヘキシルチオフェン−2−イル)−チエノ[3,2−b]チオフェンの合成
2,5−ビス(トリメチルスタンニル)−チエノ[3,2−b]チオフェン (9.0g、19.3mmol)、2−ブロモ−3−ヘキシルチオフェン (9.5g、38.6mmol)、ジメチルホルムアミド 90ml、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0.069g,0.06mmol)の混合溶液を90℃で24時間、攪拌した。
これにジエチルエーテル200mlを加えて、抽出し、ジエチルエーテル層を水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾別後、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。残留物をカラムクロマトグラフィーで精製し、黄色固体4.26g(収率 47%)を得た。
【0057】
H NMR(500MHz, CDCl)7.23(s,1H),7.20(d,1H),6.95(d,1H),2.77(t,2H),1.65(m,2H),1.27−1.40(m,6H),0.88(t,3H)
【0058】
化学式(C)の2,5−ビス(3−ヘキシルー5−トリメチルスタニルチオフェン−2−イル)−チエノ[3,2−b]チオフェンの合成
窒素雰囲気下で、2,5−ビス(3−ヘキシルチオフェン−2−イル)−チエノ[3,2−b]チオフェン(2g、4.23mmol)、THF(20ml)の混合溶液に、2.6Mのn−ブチルリチウムヘキサン溶液(4ml、10.4mmol)を−78℃で添加した。反応混合物を−78℃で1時間、攪拌した後、室温まで上昇させ、1時間、攪拌後、再度、−78℃に冷却し、トリメチルスズクロライド(3.39g、17mmol)のTHF(5ml)溶液を添加した。反応混合物を−78℃で30分間、攪拌した後、室温下で一晩攪拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。ベンゼン(200ml)に再溶解させ、飽和NHCl水、次いで、水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾別後、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。残留物をエタノールで再結晶させ、精製し、無色の結晶1.1g(収率 32.5%)を得た。
【0059】
H NMR(500MHz, CDCl)7.21(s,1H),7.02(s,1H),7.02(s,1H),2.80(s,2H),1.65(m,2H)
,1.30−1.40(m,6H),0.88(s,3H),0.39(s,3H)
【0060】
化学式(D)の5,5’−ジブロモ−4,4’−ジデシル−2,2’−ビチアゾールの合成
【0061】


【0062】
4,4’−ジヘプタデシル−2,2’−ビチアゾールの合成
1−ブロモ−2−ノナデカノン(5g,13.8mmol)、ルベアン酸(0.83g,6.9mmol)、エタノール(15ml)の混合溶液を、還流温度まで加熱し、4時間、攪拌した。室温まで冷却させた後、冷蔵庫内で一晩静置後、生じた固体を濾過し、冷メタノールで洗浄後、真空乾燥した。生成物をエタノールで再結晶させ、精製し、茶褐色固体3.1g(収率70%)を得た。
【0063】
H NMR(500MHz, CDCl)δ 6.97(s,1H),2.84(t,2H),1.76(q,2H),1.26−1.36(m,28H),0.88(t,3H)
【0064】


【0065】
化学式(D)の5,5’−ジブロモ−4,4’−ジヘプタデシル−2,2’−ビチアゾールの合成
4,4’−ジヘプタデシル−2,2’−ビチアゾール(3.0g,4.65mmol)、脱水クロロホルム(100ml)の混合溶液に、臭素(1.0g,12.5mmol)のクロロホルム(15ml)溶液を添加した。還流温度で、4時間攪拌した。室温まで冷却後、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、残留物をカラムクロマトグラフィーで精製し、薄黄白色固体として化合物1.7g(収率46%)得た。
【0066】
H NMR(500MHz, CDCl)δ 2.74(t,2H),1.70(q,2H),1.26−1.36(m,28H),0.88(t,3H)
【0067】
重合体(E)の合成



化合物2,5−ビス(3−ヘキシル−5−トリメチルスタニルチオフェン−2−イル)−チエノ[3,2−b]チオフェン(0.399g、0.5mmol)、5,5’−ジブロモ−4,4’−ジヘプタデシル−2,2’−ビチアゾール(0.402g、0.5mmol)、ジメチルホルムアミド(15ml)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0.018g,0.015mmol)を混合し、90℃で24時間、攪拌した。反応後、大過剰のメタノールに注ぎ入れ、生成した固体を濾別し、水、メタノールの順で洗浄し、減圧乾燥させた。残留物をソックレー抽出(抽出溶媒:メタノール次いで、アセトン)で抽出し、赤黒色固体を0.35g(収率 62%)を得た。
【0068】
GPC(THF,40℃) Mn(9,600g/mol),Mw(15,800g/mol)。
【0069】
<有機FETの作製とFETの性能測定>
【0070】
[実施例2]
(I)有機FETの作製
絶縁膜としてSiO2(膜厚は500nm)を用い、ゲート電極としてハイドープのn型Siウエハ(株式会社セミテック製)を用いた。絶縁膜表面をODSE(オクタデシルトリエトキシシラン)で処理を行った。処理方法は浸漬で行った(浸漬時間:60分間、乾燥:40℃、15分)。実施例1の重合体(E)を0.4質量%の濃度になるように1,2−ジクロロベンゼンで溶解し、これをODSE処理を行った絶縁膜にスピンコート法により塗布し、有機半導体膜を形成した。得られた有機半導体膜上に、Au(50nm)を用いて、ソース電極およびドレイン電極を真空蒸着法により形成してトップコンタクト型の有機FETを作製した(図(b)参照)。
。チャネル長(L)は100μmとし、チャネル幅(W)は1.5mmとした。
【0071】
(II)FETの性能測定
<<移動度(μFET)および閾値電圧(VTH)の測定>>
上記(I)で作製されたトップコンタクト型の有機FETの移動度(μFET)および閾値電圧(VTH)を以下のとおり測定した。
測定温度は室温(25℃)とし、測定環境は大気下とした。
半導体パラメーターアナライザー(B1500A:アジレントテクノロジー製)を用いて、ドレイン電圧(VD=−100V)を固定し、ゲート電圧(VG)を+20V〜−100Vまで0.2V刻みで変化させることによって、伝達特性の評価を行った。この伝達特性の曲線から上記式(i)により、移動度(μFET)および閾値電圧(VTH)を算出した。
その結果、移動度(μFET)=1.2×10-2cm2/V・sであり、閾値電圧(VTH)=−17Vであった。結果を表1に示す。
<<オンオフ比の算出>>
上述の条件で測定された伝達特性から、IDの絶対値|ID |の、最大値(|IDmax|)および最小値(|IDmin|)を計測し、その比である|IDmax|/|IDmin|をオンオフ比として算出した。その結果、上記(I)で作製されたトップコンタクト型の有機FETのオンオフ比は、7.0×10であった。結果を表1に示す。有機半導体材料のオンオフ比は、103以上であることが望ましい。
【0072】
また、大気下で15日間放置後、上記特性を再度測定した結果、移動度(μFET)=1.1×10-2cm2/V・sであり、オンオフ比は、2.0×10であり、閾値電圧(VTH)=−1.4Vであり、初期値とほぼ同等であり、大気下で安定であることを確認した。
【0073】
[比較例1]
<有機FETの作製とFETの性能測定>
(I)有機FETの作製
比較する重合体として、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(アルドリッチ社製)に変えた他は、実施例2と同様にしてトップコンタクト型の有機FETを作製した。
(II)FETの性能測定
上記(I)で作製されたトップコンタクト型の有機FETの性能を実施例2と同様にして測定した。その結果、移動度(μFET)=3.2×10-3cm2/V・s、閾値電圧(VTH)=3V、オンオフ比=2.0×10であった。
また、大気下で15日間放置後、上記特性を再度測定した結果、移動度(μFET)=2.4×10-3cm2/V・sであり、オンオフ比は、2.0×10であり、閾値電圧(VTH)=81Vであり、オンオフ比の減少および閾値電圧の上昇が見られ、大気下でのFET性能の低下を確認した。
【0074】
[比較例2]
<重合体の合成>
比較する重合体として、EP1993105記載の実施例に従って、式(F)で表される構成単位を有する重合体を合成した。


【0075】
<有機FETの作製とFETの性能測定>
[実施例3]
(I)有機FETの作製
重合体(E)を重合体(F)に変えて、トップコンタクト型の有機FETを作製した。このとき、重合体(F)を1,2−ジクロロベンゼンに0.4質量%の濃度になるように120℃以上に加熱して溶解して、実施例2と同様にしてトップコンタクト型の有機FETを作製した。
(II)FETの性能測定
上記(I)で作製されたトップコンタクト型の有機FETの性能を実施例2と同様にして測定した。その結果、移動度(μFET)=5.5×10-4cm2/V・s、閾値電圧(VTH)=−17V、オンオフ比=8.8×10であった。また、大気下で15日間放置後、上記特性を再度測定した結果、移動度(μFET)=9.8×10-5cm2/V・sであり、オンオフ比は、1.6×10であり、閾値電圧(VTH)=−16Vであり、移動度の減少が見られ、大気下でのFET性能の低下を確認した。
【0076】
【表1】

【符号の説明】
【0077】
1 ソース電極
2 ドレイン電極
3 ゲート電極
4 有機半導体膜
5 ゲート絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構成単位を有する、数平均分子量が10〜10である重合体。

(式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜22のアルキルであり、前記炭素数1〜22のアルキル中の任意の−CH2−は、−O−に置き換えられていてもよく、任意の水素は、フッ素に置き換えられてもよく、m1及びm2はそれぞれ独立に1〜4の整数であり、Tは下記式(2−1)、(2−2)及び(2−3)から選ばれるチオフェン縮合環を含む基であり、前記チオフェン縮合環を含む基中、R及びRは、それぞれ独立に水素または炭素数1〜21のアルキルであり、前記炭素数1〜21のアルキル中の任意の−CH2−は、−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−または−C≡C−に置き換えられていてもよく、前記チオフェン縮合環を含む基中の炭素はSiで置き換えられてもよく、任意の水素は、フッ素に置き換えられてもよく、Zは下記式(3−1)、(3−2)及び(3−3)から選ばれる含窒素芳香族複素環を含む基であり、前記含窒素芳香族複素環を含む基中、R及びRはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜23のアルキルであり、m3は1または2を表す。)




【請求項2】
前記式(2−1)、(2−2)及び(2−3)から選ばれるチオフェン縮合環を含む基における、R及びRは、それぞれ独立に水素及び炭素数1〜12のアルキルから選ばれる基である請求項1記載の重合体。
【請求項3】
前記式(2−1)、(2−2)及び(2−3)から選ばれるチオフェン縮合環を含む基における、R及びRのすべてが水素及び炭素数1〜12のアルキルから選ばれる同一の基である請求項1記載の重合体。
【請求項4】
前記式(3−1)、(3−2)及び(3−3)から選ばれる含窒素芳香族複素環を含む基における、R及びRのすべてが水素及び炭素数1〜17のアルキルから選ばれる同一の基である請求項1記載の重合体。
【請求項5】
式(1)におけるR及びRのすべてが水素及び炭素数1〜12のアルキルから選ばれる同一の基である請求項1記載の重合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の重合体から形成される薄膜。
【請求項7】
請求項6記載の薄膜からなる有機半導体。
【請求項8】
請求項7記載の有機半導体を用いた有機トランジスタ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−136921(P2011−136921A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296608(P2009−296608)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】