説明

有機半導体素子の製造方法および有機半導体素子

【課題】良好な特性を有する複数の有機トランジスタを備えた有機半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】有機半導体素子10は、基板11と、基板11上に設けられ、各々が有機半導体材料を含む有機半導体領域4を有する複数の有機トランジスタ20と、を備えている。このうち有機半導体領域4は、少なくとも基板11を含む支持部材17によって支持されている。そして、有機半導体素子10の製造方法は、支持部材17を準備する工程と、支持部材17上に有機半導体材料を含む連続的な有機半導体層30を設ける工程と、有機半導体層30をパターニングして複数の有機半導体領域4を形成するパターニング工程と、を備えている。ここで、パターニング工程は、凹部42および凸部41を有する凹凸版40を準備する工程と、凹凸版40の凸部41を支持部材17上の有機半導体層30に当接させることにより有機半導体層30をパターニングする当接工程と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に設けられた複数の有機トランジスタを有する有機半導体素子、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料を用いた有機トランジスタに関する研究が盛んにおこなわれている。有機半導体材料は一般に、無機半導体材料に比べて低い温度で基板上に形成され得る。このため、基板として、フレキシブルなプラスチック基板などを利用することができる。このことにより、機械的衝撃に対する安定性を有し、かつ軽量な半導体素子を提供することが可能となる。また、印刷法等の塗布プロセスを用いて有機半導体材料を基板上に形成することができるので、無機半導体材料が用いられる場合に比べて、多数の有機トランジスタを基板上に効率的に形成することが可能となる。このため、半導体素子の製造コストを低くすることができる可能性がある。これらのことから、有機半導体材料は、有機ELや電子ペーパーなどの駆動回路、または電子タグなどに応用されることが期待されている。
【0003】
有機半導体材料を用いた有機トランジスタを製造する場合、基板上に、不連続に配置された複数の有機半導体領域を形成する必要がある。基板上にこのような複数の有機半導体領域を形成する方法として、例えば、インクジェット法によって有機半導体材料を基板上に不連続に設ける方法が知られている。この場合、インクジェット法によって基板上に設けられる有機半導体材料の配置を精密に画定するため、基板上に親疎水パターンを形成する、または基板上に隔壁を形成する等の手法が用いられる。しかしながら、これらの手法が用いられる場合、例えばスピンコート法やブレードコート法等で広範囲に有機半導体を塗布する場合に比べて、有機半導体領域の特性が劣化し、形成された有機半導体領域の移動度が低下することが考えられる。特に結晶性の高い低分子有機半導体材料を含む有機半導体材料を用いた場合、結晶が微小領域では十分に成長しないため、移動度の低下が顕著になる。
また、電子タグ等の電子回路の作製においては、複数の有機半導体領域のサイズ、ピッチが異なっている場合が多い。しかし、インクジェット法ではサイズやピッチの異なる有機半導体領域の形成は困難である。
【0004】
また、基板上に複数の有機半導体領域を形成する方法として、はじめに、基板上に有機半導体材料からなる有機半導体層を形成し、次に、有機半導体層上に、形成されるべき複数の有機半導体領域のパターンに対応するよう複数の保護部分を形成し、その後、有機半導体層のうち保護部分によりマスクされていない部分を非活性化する方法が提案されている(例えば、特許文献1乃至3参照)。非活性化の手法としては、プラズマ照射により非活性化する手法や、酸化剤により非活性化する手法などが提案されている。また、有機半導体層のうち不要な部分をレーザー光の照射により飛散させ、これによって複数の有機半導体領域を形成する方法も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
しかしながら、これらの方法のように有機半導体層を部分的に非活性化または除去することによって有機半導体領域を形成する場合、有機半導体領域が何らかのダメージを受け、この結果、有機半導体領域の特性が劣化してしまうことが考えられる。例えば、上述の保護部分をスクリーン印刷法によって形成する場合、スクリーン印刷法の精度が不十分であるため、有機半導体層のうち保護されるべき部分を完全に保護することができないことが考えられる。このため、有機半導体層のうち保護されるべき部分が部分的に損傷され、これによって、得られる有機半導体領域の特性が劣化することが考えられる。また、このような損傷の程度が有機半導体領域ごとに異なる場合、各有機トランジスタ間において特性が大きくばらついてしまうことも考えられる。
【0006】
また、上述の保護部分をフォトリソグラフィー法によって形成する場合、有機半導体層のうち保護されるべき部分がフォトレジストの溶媒などによって損傷されることが考えられる。また、有機半導体層のうち保護部分によりマスクされていない部分を非活性化する際、有機半導体層のうち保護されるべき部分が、被活性化のために用いられる材料に含まれる溶媒などによって損傷されることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2006/048092号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008/131836号パンフレット
【特許文献3】特開2008−270494号公報
【特許文献4】特開2008−277381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の課題を効果的に解決し得る有機半導体素子の製造方法および有機半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基板と、基板上に設けられ、各々が有機半導体材料を含む有機半導体領域を有する複数の有機トランジスタと、を備えた有機半導体素子の製造方法において、前記有機半導体領域は、少なくとも基板を含む支持部材によって支持されており、有機半導体素子の製造方法は、支持部材を準備する工程と、前記支持部材上に有機半導体材料を含む連続的な有機半導体層を設ける工程と、前記有機半導体層をパターニングして複数の有機半導体領域を形成するパターニング工程と、を備え、前記パターニング工程は、凹部および凸部を有し、凹部が前記有機半導体領域に対応するよう構成された凹凸版を準備する工程と、前記凹凸版の凸部を前記支持部材上の前記有機半導体層に当接させることにより前記有機半導体層をパターニングする当接工程と、を有することを特徴とする有機半導体素子の製造方法である。
【0010】
本発明の有機半導体素子の製造方法によれば、凹凸版の凸部を有機半導体層に当接させることにより、有機半導体層のパターニングが実施される。このため、パターニング工程の際、有機半導体層のうち後に各有機トランジスタの有機半導体領域となる部分が損傷することを防ぐことができる。このことにより、良好な特性を有する複数の有機半導体領域を形成することができる。
【0011】
本発明による有機半導体素子の製造方法において、好ましくは、前記凹凸版の前記凸部は、前記凸部の端面における表面エネルギーが前記支持部材の表面における表面エネルギーよりも大きくなるよう構成されている。
【0012】
本発明による有機半導体素子の製造方法において、前記有機半導体層と前記支持部材との間に、前記有機半導体層に接する改質材料が介在されていてもよい。この場合、前記改質材料は、前記凹凸版の前記凸部の端面における表面エネルギーが前記改質材料の表面における表面エネルギーよりも大きくなるよう構成されている。
【0013】
本発明による有機半導体素子の製造方法において、前記当接工程は、前記凹凸版のうち少なくとも凸部を加熱し、かつ凸部を前記有機半導体層に当接させる加熱圧着工程を含んでいてもよい。この場合、前記有機半導体材料は、低分子有機半導体材料を含んでいてもよく、また前記有機半導体材料は、高分子材料をさらに含んでいてもよい。
【0014】
本発明による有機半導体素子の製造方法において、前記当接工程は、前記凹凸版のうち少なくとも凸部上に溶媒が設けられた状態で凸部を前記有機半導体層に当接させ、これによって前記有機半導体層を部分的に前記溶媒中に溶解させる溶解工程を含んでいてもよい。この場合、前記溶解工程は、前記凹凸版のうち少なくとも凸部を加熱した状態で実施されてもよい。また、前記有機半導体材料は、低分子有機半導体材料を含んでいてもよい。
【0015】
本発明は、基板と、基板上に設けられた複数の有機トランジスタと、を備え、複数の有機トランジスタは各々、有機半導体材料を含む有機半導体領域を有し、複数の有機トランジスタのうち少なくとも1つの有機トランジスタの有機半導体領域の結晶軸は、前記少なくとも1つの有機トランジスタに近接する他の有機トランジスタのうちの少なくとも1つの有機トランジスタの有機半導体領域の結晶軸と少なくとも部分的に同一になっていることを特徴とする有機半導体素子である。
【0016】
本発明の有機半導体素子によれば、複数の有機トランジスタのうち一の有機トランジスタの有機半導体領域の結晶軸は、一の有機トランジスタに近接する他の有機トランジスタのうちの少なくとも1つの有機トランジスタの有機半導体領域の結晶軸と少なくとも部分的に同一になっている。このため、各有機トランジスタ間における特性のばらつきを小さくすることができる。
【0017】
本発明による有機半導体素子において、各有機トランジスタの有機半導体領域の結晶軸は、近接する他の有機トランジスタのうちの少なくとも1つの有機トランジスタの有機半導体領域の結晶軸と少なくとも部分的に同一になっていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、良好な特性を有する複数の有機トランジスタを備えた有機半導体素子およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態における有機半導体素子を示す断面図。
【図2】図2は、本発明の第1の実施の形態における有機半導体素子を示す平面図。
【図3】図3は、図1に示す有機半導体素子の有機トランジスタを拡大して示す断面図。
【図4】図4(a)〜(e)は、有機半導体素子の製造方法の概略を示す図。
【図5】図5(a)(b)は、本発明の第1の実施の形態において、支持部材上に有機半導体層を設ける工程を示す図。
【図6】図6(a)〜(c)は、本発明の第1の実施の形態において、有機半導体層をパターニングする工程を示す図。
【図7】図7(a)〜(d)は、凹凸版を作製する工程の一例を示す図。
【図8A】図8Aは、各有機トランジスタの有機半導体領域の結晶性の一例を模式的に示す図。
【図8B】図8Bは、各有機トランジスタの有機半導体領域の結晶性のその他の例を模式的に示す図。
【図9】図9(a)〜(d)は、比較の形態において、複数の有機半導体領域を支持部材上に設ける方法を示す図。
【図10】図10(a)〜(c)は、本発明の第2の実施の形態において、有機半導体層をパターニングする工程を示す図。
【図11】図11は、有機半導体素子の有機トランジスタの第1の変形例を示す図。
【図12】図12は、有機半導体素子の有機トランジスタの第2の変形例を示す図。
【図13】図13は、有機半導体素子の有機トランジスタの第3の変形例を示す図。
【図14】図14(a)は、実施例1により得られた有機半導体素子を示す平面図、図14(b)は、(b)は、実施例1により得られた有機半導体素子の移動度の測定結果を示す図。
【図15】図15(a)は、実施例2により得られた有機半導体素子を示す平面図、図15(b)は、(b)は、実施例2により得られた有機半導体素子の移動度の測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1の実施の形態
以下、図1乃至図8(a)〜(d)を参照して、本発明の第1の実施の形態について説明する。まず図1および図2により、本実施の形態における有機半導体素子10全体について説明する。
【0021】
有機半導体素子
図1は、有機半導体素子10を示す縦断面図であり、図2は、有機半導体素子10を示す平面図である。図1および図2に示すように、有機半導体素子10は、基板11と、基板11に設けられた複数の有機トランジスタ20と、を備えている。このうち各有機トランジスタ20は、有機半導体材料を含む有機半導体領域4を少なくとも有している。
【0022】
図1および図2に示すように、各有機半導体領域4は、互いに独立に配置されている。すなわち、各有機半導体領域4は、基板11上において不連続に配置されている。このため本実施の形態によれば、各有機半導体領域4の間に不活性化された有機半導体材料が存在している場合に比べて、有機トランジスタ20のOFF電流を小さくすることが可能となっている。
【0023】
基板11上に配置される各有機半導体領域4の寸法は特には限られないが、例えば図2に示す例において、有機半導体領域4の幅aは1μm〜1cmの範囲内となっている。また、近接する2つの有機半導体領域4間の間隔cも特には限られないが、例えば間隔cは1μm〜1cmの範囲内となっている。
【0024】
(基板)
有機半導体素子10の基板11のタイプは、製造される有機半導体素子10の用途等に応じて適宜決定され得るものであり、特に限定されるものではない。例えば、基板11は、可撓性を有するフレキシブル基板であってもよく、可撓性を有しないリジット基板であってもよい。基板11を構成する材料の具体例としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタラート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂等からなるものや、ガラス基板、SUS基板等を挙げることができる。また、基板11の表面に、表面の平滑性を向上させるための、熱硬化性樹脂や、光硬化性樹脂からなる平坦化層が形成されていても良い。
【0025】
基板11の厚みは、基板11の種類等に応じて適宜決定されるものであるが、好ましくは1mm以下となっており、より好ましくは1μm〜700μmの範囲内となっている。
【0026】
有機トランジスタ
次に図3を参照して、有機トランジスタ20について説明する。図3は、図1に示す有機半導体素子10の有機トランジスタ20を拡大して示す縦断面図である。図3に示すように、有機トランジスタ20は、基板11上に設けられたゲート電極12と、ゲート電極12を覆うよう基板11上に設けられたゲート絶縁層13と、一定の間隔を空けて対向するようゲート絶縁層13上に設けられたソース電極2およびドレイン電極3と、ソース電極2およびドレイン電極3を覆うよう設けられた有機半導体領域4と、を有している。有機半導体領域4は、ゲート絶縁層13側の下面4bと、下面4bの反対側にある上面4aとを含んでいる。有機トランジスタ20においては、有機半導体領域4のうちソース電極2とドレイン電極3との間に位置する部分が、電流の流れる通路となるチャネル領域となっている。
【0027】
後述するように、本実施の形態においては、はじめに基板11が準備され、次に基板11上にゲート電極12およびゲート絶縁層13が形成され、その後、ゲート絶縁層13上に有機半導体領域4が形成される。すなわち本実施の形態において、基板11、ゲート電極12およびゲート絶縁層13は、有機半導体領域4よりも先に設けられ、かつ、有機半導体領域4を下面4b側から支持するものとなっている。以下の説明において、これら基板11、ゲート電極12およびゲート絶縁層13の組み合わせを支持部材17と称する。
【0028】
以下、有機トランジスタ20の各構成要素についてそれぞれ詳細に説明する。
【0029】
(ゲート電極)
ゲート電極は、一般に、基板11上に所定のパターンで形成される。上記ゲート電極としては、所望の導電性を備える導電性材料からなるものであれば特に限定されるものではなく、ゲート電極を構成し得る様々な導電性材料を用いることができる。このような導電性材料としては、例えば、Ta、Ti、Al、Zr、Cr、Nb、Hf、Mo、Au、Ag、Pt、Mo−Ta合金、ITO、IZO等の無機材料、および、PEDOT/PSS等の導電性を有する有機材料を挙げることができる。
【0030】
ゲート電極12の厚みは、ゲート電極12を形成するために用いられる導電性材料の種類等に応じて、所望の導電性を達成できる範囲内で適宜決定されるものであるが、通常、10nm〜1μmの範囲内であることが好ましい。
【0031】
(ゲート絶縁層)
ゲート絶縁層13は、ソース電極2およびドレイン電極3とゲート電極12とを絶縁するために設けられるものである。ゲート絶縁層13を構成する材料としては、所望の絶縁性を有する絶縁性材料であれば特に限定されるものではない。このような絶縁性材料としては、例えば、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、カルド系樹脂、ビニル系樹脂、イミド系樹脂、ノボラック系樹脂、ポリパラキシレン等の有機材料や、SiO、SiN、Al等の無機材料を挙げることができる。なお、上記ゲート絶縁層に用いられる絶縁性材料は、1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。
【0032】
ゲート絶縁層13の厚みは、当該ゲート絶縁層を形成するために用いられる絶縁性材料の種類等に応じて、所望の絶縁性を達成できる範囲内で適宜決定されるものであるが、通常、10nm〜5μmの範囲内であることが好ましい。
【0033】
(ソース電極およびドレイン電極)
ソース電極2および上記ドレイン電極3を構成する材料としては、所望の導電性を有する導電性材料であれば特に限定されるものではない。このような導電性材料としては、例えば、Ta、Ti、Al、Zr、Cr、Nb、Hf、Mo、Au、Ag、Pt、Cu、Mo−Ta合金、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化インジウム亜鉛)等の無機材料、および、PEDOT/PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸)等の導電性を有する有機材料を挙げることができる。なお、ソース電極2およびドレイン電極3は、1種類の導電性材料から構成されていてもよく、2種類以上の導電性材料から構成されていてもよい。また、ソース電極2およびドレイン電極3において、同一の導電性材料が用いられていてもよく、互いに異なる導電性材料が用いられていてもよい。
【0034】
上述のように、ソース電極2とドレイン電極3との間にはチャネル領域が形成される。ソース電極2およびドレイン電極3は、チャネル領域の長さが好ましくは0.1μm〜1mmの範囲内となるよう、より好ましくは0.5μm〜200μmの範囲内となるよう、さらに好ましくは1μm〜100μmの範囲内となるよう配置される。
【0035】
ソース電極2およびドレイン電極3の厚みは、所望の電気抵抗を達成できるよう、使用される導電性材料の種類に応じて適宜設定されるが、好ましくは1nm〜1μmの範囲内となっており、より好ましくは10nm〜200nmの範囲内となっており、さらに好ましくは20nm〜100nmの範囲内となっている。
【0036】
(有機半導体領域)
有機半導体領域4は、上述のように有機半導体材料を含んでいる。有機半導体材料としては、有機トランジスタを構成し得る様々な材料が用いられ得るが、例えば、低分子有機半導体材料や高分子有機半導体材料が用いられ得る。
【0037】
〔低分子有機半導体材料〕
有機半導体領域4を構成する低分子有機半導体材料としては、例えば、π電子共役系の芳香族化合物、鎖式化合物、有機顔料、有機ケイ素化合物等を挙げることができる。より具体的には、ペンタセン、シリルエチン置換ペンタセンに代表されるペンタセン誘導体、アントラジチオフェン誘導体、ベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体、ジナフトチエノチオフェン誘導体等を挙げることができる。これらの低分子有機半導体材料のうち1種類のみが用いられてもよく、若しくは2種類以上が混合されて用いられてもよい。また、液晶性を有する低分子有機半導体材料が用いられてもよい。なお本実施の形態において、「低分子有機半導体材料」という用語は、例えば、分子量が10000未満の有機半導体材料を意味している。
【0038】
〔高分子有機半導体材料〕
有機半導体領域4を構成する高分子有機半導体材料としては、ポリピロール、ポリ(N−置換ピロール)、ポリ(3−置換ピロール)、ポリ(3,4−二置換ピロール)等のポリピロール類、ポリチオフェン、ポリ(3−置換チオフェン)、ポリ(3,4−二置換チオフェン)、ポリベンゾチオフェン等のポリチオフェン類、ポリイソチアナフテン等のポリイソチアナフテン類、ポリチエニレンビニレン等のポリチエニレンビニレン類、ポリ(p−フェニレンビニレン)等のポリ(p−フェニレンビニレン)類、ポリアニリン、ポリ(N−置換アニリン)等のポリアニリン類、ポリアセチレン等のポリアセチレン類、ポリジアセチレン、ポリアズレン等のポリアズレン類等、ポリスチレン、ポリスチレン誘導体、ポリメタクリル酸メチル樹脂類、ポリビニルカルバゾール類、ポリトリアリルアミン類を挙げることができる。これらの高分子有機半導体材料のうち1種類のみが用いられてもよく、若しくは2種類以上が混合されて用いられてもよい。また、液晶性を有する高分子有機半導体材料が用いられてもよい。なお本実施の形態において、「高分子有機半導体材料」という用語は、例えば、分子量が10000以上の有機半導体材料を意味している。
【0039】
有機半導体領域4の厚みtは、チャネル領域における所望の電気抵抗を達成できるよう、用いられる有機半導体材料の種類等に応じて適宜設定されるが、好ましくは1nm〜1μmの範囲内となっておより、より好ましくは5nm〜500nmの範囲内となっており、さらに好ましくは10nm〜300nmの範囲内となっている。
【0040】
(保護層)
なお図3において一点鎖線で示すように、有機トランジスタ20は、有機トランジスタ20の最表面に位置し、有機トランジスタ20のその他の構成要素を保護するよう設けられた保護層15をさらに有していてもよい。有機トランジスタ20が保護層15を有することにより、有機トランジスタ20の経時劣化を防止することができ、これによって、有機トランジスタ20および有機半導体素子10の耐久性を向上させることができる。
【0041】
保護層15を構成する材料は、有機半導体領域4が空気中に含有される水分、酸素等に曝露されることを防止または抑制できるものであれば特に限定されるものではない。このような材料としては、例えば、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、カルド系樹脂、ビニル系樹脂、ビニルアセテート系樹脂、イミド系樹脂、ノボラック系樹脂等の樹脂材料を挙げることができる。
【0042】
有機半導体素子の製造方法
次に、有機半導体素子10の製造方法について、図4(a)〜(e)乃至図6(a)〜(c)を参照して説明する。図4(a)〜(e)は、有機半導体素子10の製造方法の概略を示す図である。また図5(a)(b)は、支持部材17上に有機半導体層30を設ける工程を示す図であり、図6(a)〜(c)は、支持部材17上の有機半導体層30をパターニングする工程を示す図である。
【0043】
(支持部材の形成工程)
はじめに図4(a)に示すように、基板11を準備する。次に、図4(b)に示すように、基板11上にゲート電極12を形成し、その後、ゲート電極12を覆うようゲート絶縁層13を形成する。これによって、上述の支持部材17が形成される。
【0044】
ゲート電極12を形成する方法は、導電性材料を用いて予め定められた形状のゲート電極12を形成することができる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては、例えば、プラズマCVD法、熱CVD法、レーザーCVD法等のCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のドライプロセス、電解メッキ法、浸漬メッキ法、無電解メッキ法、ゾルゲル法、有機金属分解(MOD)法、スピンコート法、ダイコート法等のウェットプロセスを挙げることができる。
【0045】
ゲート絶縁層13を形成する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、はじめに、絶縁性材料を溶媒に溶解させることにより得られる塗布液を準備し、次に、ゲート電極12を覆うよう上記塗布液を塗布する方法が用いられ得る。塗布液を塗布する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、スピンコート法、ダイコート法等の塗布方法や、インクジェット法、スクリーン印刷法などの印刷方法が挙げられる。
【0046】
(ソース電極およびドレイン電極の形成工程)
次に図4(c)に示すように、支持部材17上にソース電極2およびドレイン電極3を形成する。ソース電極2およびドレイン電極3を形成する方法は、導電性材料を用いて予め定められた形状のソース電極2およびドレイン電極3を形成することができる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては、例えば、プラズマCVD法、熱CVD法、レーザーCVD法等のCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法、電解メッキ法、浸漬メッキ法、無電解メッキ法、ゾルゲル法、有機金属分解(MOD)法等を挙げることができる。
【0047】
なお、ソース電極2およびドレイン電極3は、同一の形成工程によって同時に形成されてもよく、または、異なる形成工程によって形成されてもよい。
【0048】
(有機半導体領域の形成工程)
次に図4(d)に示すように、ソース電極2およびドレイン電極3を覆うよう支持部材17上に、有機半導体材料を含む有機半導体層30を設け、その後、支持部材17上の有機半導体層30を部分的に除去する。すなわち、有機半導体層30をパターニングする。これによって、図4(e)に示すように有機半導体領域4が形成される。なお図4(d)(e)から明らかなように、支持部材17のうち有機半導体領域4側の面は、当該面上から有機半導体層30が部分的に除去される面となっている。以下、支持部材17のうち有機半導体領域4側の面を被除去面18と称する。なお本実施の形態においては、図4(e)に示すように、支持部材17の被除去面18はゲート絶縁層13の上面となっている。
【0049】
次に図5(a)(b)および図6(a)〜(c)を参照して、有機半導体領域4の形成工程について詳細に説明する。図5(a)は、支持部材17上に有機半導体層30を設ける工程を示す図であり、図5(b)は、支持部材17上に設けられた有機半導体層30の結晶粒を模式的に示す平面図である。図6(a)〜(c)は、支持部材17上の有機半導体層30をパターニングする工程を示す図である。
【0050】
〔有機半導体層の形成工程〕
はじめに有機半導体層30の形成工程について説明する。ここでは、図5(a)に示すように、基板11を含む支持部材17上に連続的な有機半導体層30を設ける。ここで「連続的」とは、有機半導体層30が、後に有機半導体領域4となる部分を複数含んでいることを意味している。この場合、支持部材17上の有機半導体層30は、支持部材17上の全面にわたって連続していてもよく、若しくは、支持部材17上の全面にわたって連続していなくてもよい。
【0051】
有機半導体層30を形成する方法は、支持部材17上に連続的に有機半導体層30を設けることができる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては、例えば、プラズマCVD法、熱CVD法、レーザーCVD法等のCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のドライプロセスが用いられてもよい。若しくは、はじめに、有機半導体材料を溶媒に溶解させることにより得られる塗布液を準備し、次に、ソース電極2およびドレイン電極3を覆うよう支持部材17上に上記塗布液を塗布し、その後、塗布液中の溶媒を蒸発させる方法が用いられてもよい。
【0052】
塗布液を塗布する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、スピンコート法、ダイコート法等の塗布方法や、インクジェット法、スクリーン印刷法などの印刷方法が挙げられる。
【0053】
有機半導体層30の形成工程において、環境条件は、好ましくは、支持部材17上に形成される有機半導体層30が、所望の大きさを有する単一または複数の結晶粒から構成されるよう設定される。ここで環境条件とは、CVD法やドライプロセスにより有機半導体層30を形成する際や、上記塗布液を塗布する際、および、塗布液中の溶媒を蒸発させる際の温度および圧力などに関する条件のことである。
【0054】
以下、有機半導体層30を構成する単一または複数の結晶粒の所望の大きさについて説明する。図5(b)は、有機半導体層30が複数の結晶粒31から構成されている例を示している。
【0055】
本実施の形態において、好ましくは、有機半導体層30をパターニングすることにより得られる複数の有機半導体領域4のうち少なくとも1つの有機半導体領域4と、当該少なくとも1つの有機半導体領域4に近接する他の有機半導体領域4とは、同一の結晶粒から構成される部分を少なくとも部分的に含んでいる。すなわち、有機半導体層30を構成する複数の結晶粒のうち少なくとも1つの結晶粒は、複数の有機半導体領域4にわたって広がることができる程度の大きさを有している。
【0056】
このような形態を実現するための結晶粒の大きさは、支持部材17上に形成される各有機半導体領域4の寸法や各有機半導体領域4間の間隔に応じて適宜設定される。例えば、有機半導体層30を構成する複数の結晶粒の平均粒径は100nm〜1mmの範囲内となっている。また、このような結晶粒径を実現するための環境条件や溶媒は、用いられる有機半導体材料に応じて適宜設定される。例えば、有機半導体材料としてTips−Pentaceneが用いられ、有機半導体層30の形成方法として塗布による方法が用いられる場合、溶媒としてメシチレンを用いる。
【0057】
なお有機半導体層30の結晶粒における平均粒径を測定するための方法は特には限定されないが、例えば電子後方散乱パターン(EBSP)法が用いられる。
【0058】
〔有機半導体層のパターニング工程〕
次に、支持部材17上の有機半導体層30をパターニングする工程について説明する。はじめに図6(a)に示すように、凹部42および凸部41を有する凹凸版40を準備する。この凹凸版40は、少なくとも凸部41の端面における表面エネルギーが、支持部材17の被除去面18の表面エネルギー、すなわちゲート絶縁層13の上面の表面エネルギーよりも大きくなるよう構成されている。例えば、凹凸版40は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの樹脂材料から構成されている。
【0059】
図6(a)において、凹凸版40の各凹部42の深さが符号bにより表されている。この深さbは、後述する当接工程において凹部42の底面が有機半導体層30に当接しないよう設定されており、例えば1μmに設定されている。また図6(a)において、各凹部42の幅が符号aにより表されており、各凸部41の幅が符号cにより表されている。
【0060】
(当接工程)
次に、有機半導体層30の上面に対して凹凸版40を押し付ける。これによって、図6(b)に示すように、凹凸版40のうち凸部41のみが有機半導体層30に当接する。また、凹凸版40のうち少なくとも凸部41を加熱する。なお凸部41の加熱は、凸部41が有機半導体層30に当接する前に開始されてもよく、若しくは、凸部41が有機半導体層30に当接した後に開始されてもよい。
以下の説明において、凸部41のみを有機半導体層30に当接させ、かつ少なくとも凸部41を加熱する工程を、加熱圧着工程と称する。
【0061】
次に、凹凸版40を有機半導体層30から遠ざける。ここで上述のように、凸部41の端面における表面エネルギーは、支持部材17の被除去面18の表面エネルギーよりも大きくなっている。このため、有機半導体層30のうち凹凸版40の凸部41が当接していた部分は、図6(c)に示すように、支持部材17から剥離される。図6(c)において、支持部材17から剥離されて凸部41に密着している剥離部分が符号35により示されている。
【0062】
このように本実施の形態によれば、支持部材17上の有機半導体層30が凹凸版40の凸部41によって加熱圧着されることにより、有機半導体層30がパターニングされる。このことにより、互いに独立に配置された複数の有機半導体領域4が支持部材17上に形成される。
【0063】
なお上述の加熱圧着工程において、凸部41を加熱する条件は、有機半導体層30のうち凸部41に当接した部分が凸部41からの熱によって所望の流動性を有するようになる限りにおいて、特に限られるものではない。なお「所望の流動性」とは、図6(c)に示すように凹凸版40を有機半導体層30から遠ざける際、有機半導体層30のうち凸部41によって加熱圧着された部分が、より大きな表面エネルギーを有する凸部41側に付着する程度の流動性を意味している。
【0064】
(凹凸版の作製方法)
なお図6(a)〜(c)から明らかなように、有機半導体層30のうち凸部41が当接しない部分、すなわち有機半導体層30のうち凹部42に対応する部分が、支持部材17上に残って有機半導体領域4となる部分となっている。従って、凹凸版40は、凹部42が有機半導体領域4に対応するよう構成されている。以下、このような凹部42を作製する方法の一例について、図8(a)〜(d)を参照して説明する。
【0065】
はじめに図7(a)に示すように、フォトレジスト46が設けられた支持基板45を準備する。フォトレジスト46のタイプが特に限られることはなく、ネガ型またはポジ型のいずれであってもよい。次に図7(b)に示すように、凹凸版40の凹部42に対応するパターンで残存部分46aが残るよう、フォトレジスト46に対する露光および現像を実施する。
【0066】
その後、図7(c)に示すように、支持基板45および残存部分46aを、支持基材48によって支持された樹脂材料47によって覆う。この際、各残存部分46a間の間隙に十分に樹脂材料47が充填されるよう、環境条件が適宜設定される。これによって、樹脂材料47に、残存部分46aの形状および配置に応じたパターンが付与される。樹脂材料47としては、上述のPDMSなどが用いられる。
【0067】
次に、樹脂材料47を支持基板45から取り外す。これによって、図7(d)に示すように、凸部41および凹部42を有する凹凸版40が得られる。
【0068】
上述の図7(b)において、各残存部分46aの幅が符号aで表され、各残存部分46aの高さが符号bで表され、近接する2つの残存部分46a間の間隔が符号cで表されている。上述の説明から明らかなように、残存部分46aの幅aは、凹凸版40の凹部42の幅aに対応しており、また凹部42の幅aは、有機半導体領域4の幅aに対応している。同様に、残存部分46a間の間隔cは、凹凸版40の凸部41の幅cに対応しており、また凸部41の幅cは、有機半導体領域4間の間隔cに対応している。このため、支持基板45上に形成される残存部分46aの形状および配置の精度が、凹凸版40の凸部41および凹部42の精度に反映され、従って有機半導体素子10の各有機半導体領域4の精度に反映されることになる。
ここで上述のように、支持基板45上の残存部分46aは、フォトリソグラフィー法により形成される。このため本実施の形態によれば、有機半導体素子10の各有機半導体領域4を、フォトリソグラフィー法に匹敵する精度で形成することが可能となる。また、凹凸版40の凹部42の深さbを、上述の当接工程において凹部42の底面が有機半導体層30に当接しないような深さに確実にすることができる。
【0069】
なお図7(a)〜(d)において、凹凸版40を作製する工程にフォトリソグラフィー工程が含まれる例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、凸部41および凹部42の形状および配置の精度が、有機半導体領域有機半導体素子10の各有機半導体領域4に求められる精度を満たす限りにおいて、凹凸版40の作製方法として様々な方法が用いられ得る。
【0070】
(有機半導体領域の結晶性)
次に図8Aを参照して、本実施の形態による有機半導体素子10の製造方法により得られる有機半導体素子10の各有機半導体領域4の結晶性について説明する。図8Aは、支持部材17上に形成される各有機半導体領域4を模式的に示す平面図である。
【0071】
上述のように、本実施の形態による有機半導体素子10の製造方法においては、はじめに、最終的に得られる有機半導体素子10を構成する基板11を含む支持部材17上に連続的な有機半導体層30が設けられ、次に、有機半導体層30をパターニングすることにより、各有機トランジスタ20の有機半導体領域4が得られる。このため、パターニング工程が実施される前に有機半導体層30が有していた結晶性を、各有機トランジスタ20の有機半導体領域4に引き継がせることが可能となっている。
【0072】
結晶性を引き継がせることの一例について、図8Aを参照して説明する。ここでは、図8Aに示される複数の有機トランジスタ20の有機半導体領域4のうち、1つの有機トランジスタ20の有機半導体領域4cと、この有機半導体領域4cに近接するその他の有機半導体領域4dとに着目する。また図8Aにおいて、パターニング工程が実施される前に有機半導体層30を構成していた複数の結晶粒のうちの1つの結晶粒31が点線で示されている。
【0073】
図8Aに示す結晶粒31は、有機半導体領域4cの一部分4c(1)と、有機半導体領域4dの一部分4d(1)とを構成している。このため、有機半導体領域4cの一部分4c(1)における結晶軸と、有機半導体領域4dの一部分4d(1)における結晶軸とは同一になっている。このように本実施の形態によれば、連続的な有機半導体層30をパターニングして有機半導体領域4を形成することにより、有機半導体層30が有していた結晶性を有機半導体領域4に引き継がせることができる。なお「結晶軸」とは、結晶面や回転に対する対称性などを系統的に示すために結晶内に想定する座標軸のことである。
【0074】
なお有機半導体領域4の結晶軸を測定するための方法は特には限定されないが、例えば上述のEBSP法が用いられる。
【0075】
ところで、結晶性を有する材料においては一般に、結晶中における電子や正孔などの荷電粒子の移動度に異方性があることが知られている。ここで本実施の形態によれば、有機半導体層30が有していた結晶性を有機半導体領域4に引き継がせることができる。このため、有機半導体領域4cの一部分4c(1)における結晶軸と、有機半導体領域4cに近接する有機半導体領域4dの一部分4d(1)における結晶軸とを同一にすることができる。このことにより、有機半導体層30が有していた結晶性を有機半導体領域4c,4dが引き継いでいない場合に比べて、有機半導体領域4cにおける移動度と有機半導体領域4dにおける移動度との差を小さくすることができる。この結果、有機半導体素子10に含まれる各有機半導体領域4における移動度を均一にすることができる。
【0076】
なお図8Aにおいては、少なくとも1組の隣接する有機半導体領域4において、その結晶軸が部分的に同一となっている例を示したが、結晶軸が部分的に同一となっている組み合わせがさらに多く存在していてもよい。例えば図8Bに示すように、有機半導体素子10に含まれる各有機トランジスタ20の有機半導体領域4の結晶軸が、近接する他の有機トランジスタ20の有機半導体領域4のうちの少なくとも1つの有機半導体領域4の結晶軸と少なくとも部分的に同一となっていてもよい。これによって、全ての有機半導体領域4について、隣接する有機半導体領域4のうちの少なくとも1つの有機半導体領域4との間での移動度の差を小さくすることができる。このことにより、有機半導体素子10に含まれる各有機半導体領域4における移動度をより均一にすることができる。
なお結晶軸が部分的に同一となっている組み合わせをより多く形成するための方法が特に限られることはなく、例えば、近接する2つの有機半導体領域4間の間隔cを小さくする方法が用いられてもよく、若しくは、有機半導体層30を構成する複数の結晶粒の平均粒径を大きくする方法が用いられてもよい。
【0077】
(移動度に関する本実施の形態の作用効果)
以上のように本実施の形態によれば、基板11を含む支持部材17上に設けられた連続的な有機半導体層30をパターニングすることにより、各有機トランジスタ20の有機半導体領域4が得られる。このため、パターニング工程が実施される前に有機半導体層30が有していた結晶性を、各有機トランジスタ20の有機半導体領域4に引き継がせることができる。このことにより、有機半導体素子10に含まれる各有機半導体領域4における移動度を均一にすることができる。
【0078】
また本実施の形態によれば、凹凸版40の凸部41によって有機半導体層30を部分的に加熱圧着することにより、有機半導体層30のパターニングが実施される。このため、パターニング工程において、エッチングのための溶液や、被活性化のための塗布液を用いる必要がない。従って、有機半導体領域4が、エッチングのための溶液や塗布液に含まれる溶媒によって損傷されることがない。これによって、各有機半導体領域4の特性がパターニング工程によって劣化することを防ぐことができ、この結果、各有機半導体領域4における移動度をより大きくすることができる。
【0079】
(精度に関する本実施の形態の作用効果)
また本実施の形態によれば、上述のように、パターニング工程の精度が、凹凸版40の凸部41および凹部42の形状および配置の精度によって定められる。このため、凹凸版40を精密に作製することにより、有機半導体素子10に含まれる各有機半導体領域4の精度を高めることができる。従って、有機半導体層上に所定のパターンで保護部分を設けることにより有機半導体層をパターニングする従来技術に比べて、有機半導体素子10に含まれる各有機半導体領域4を精度良く形成することができる。これによって、各有機半導体領域4を従来よりも精密に製造することや、近接する2つの有機半導体領域4間の間隔cを従来よりも小さくすることが可能となる。このことにより、有機半導体素子10の解像度をより高くすることができる。
【0080】
なお上述のように、近接する2つの有機半導体領域4間の間隔cを小さくすることは、近接する有機半導体領域4間において部分的に結晶軸が同一となっている組み合わせの数の増加を生じさせる。この結果、各有機半導体領域4における移動度がより均一になるという効果が期待される。
【0081】
比較の形態
次に、本実施の形態の効果を比較の形態と比較して説明する。図9(a)〜(d)は、比較の形態において、複数の有機半導体領域4を支持部材17上に設ける方法を示す図である。
【0082】
はじめに、凹部52および凸部51を有する凹凸版50を準備する。この凹凸版50は、本実施の形態における凹凸版40とは異なり、凸部51が支持部材17上に設けられる有機半導体領域に対応するよう構成されている。次に、図9(a)に示すように、所定の基板57上に設けられた有機半導体層56に対して凹凸版50を押し付ける。
【0083】
その後、凹凸版50を基板57から遠ざける。これによって、図9(b)に示すように、凹凸版50の各凸部51上に、有機半導体材料を含む有機半導体領域53が設けられる。
【0084】
その後、図9(c)に示すように、支持部材17に対して凹凸版50を押し付ける。次に、凹凸版50を支持部材17から遠ざける。これによって、図9(d)に示すように、支持部材17上に複数の有機半導体領域53が形成される。
【0085】
ここで比較の形態によれば、上述のように、有機半導体層56がまず基板57上に設けられる。次に、有機半導体層56が部分的に凹凸版50の凸部51によって剥離され、その後、剥離された有機半導体層が有機半導体領域53として支持部材17上に転写される。このように比較の形態においては、支持部材17上に複数の有機半導体領域53を形成するため、主に3つの工程が実施される必要がある。
【0086】
これに対して本実施の形態によれば、はじめに有機半導体層30が支持部材17上に設けられ、その後、有機半導体層30が部分的に凹凸版40の凸部41によって剥離され、これによって支持部材17上に複数の有機半導体領域4が形成される。すなわち本実施の形態によれば、主に2つの工程を実施することによって、支持部材17上に複数の有機半導体領域4を形成することができる。このため、より少ない工数で簡易に有機半導体素子10を製造することができる。
【0087】
また比較の形態によれば、有機半導体層56がまず基板57上に設けられる。すなわち、最終的に得られる有機半導体素子10を構成する基板11とは異なる部材の上で、有機半導体材料の結晶の成長が進行する。この場合、最終的に得られる有機半導体素子の各有機半導体領域53における結晶性を良好にするためには、最終的に得られる有機半導体素子を構成する基板11を含む支持部材17上に有機半導体領域53が設けられた後に、再び結晶の成長を進行させることが望ましい。しかしながら、微小な領域で再度結晶成長を進行させる場合、十分に結晶が成長せずに移動度が低下する、または、特性のばらつきが大きくなる、という結果が生じる傾向にある。
【0088】
これに対して本実施の形態によれば、連続的な有機半導体層30における結晶性が、最終的に得られる有機半導体素子10の各有機半導体領域4に引き継がれる。このため、理想的な結晶成長を可能にする支持部材17を準備し、この支持部材17上で有機半導体層30の結晶の成長を進行させることにより、最終的に得られる有機半導体素子10の各有機半導体領域4の結晶性を良好にすることができる。このことにより、比較の形態に比べて、良好な結晶性を有する有機半導体領域4を容易に得ることができる。
【0089】
また比較の形態を用い、微小な有機半導体領域53で再度結晶成長を進行させる場合、複数の有機半導体領域53において、近接する有機半導体領域53同士が同一の結晶性を有することはない。
【0090】
これに対して本実施の形態によれば、上述のように、パターニング工程が実施される前に有機半導体層30が有していた結晶性を、各有機トランジスタ20の有機半導体領域4に引き継がせることができる。このことにより、有機半導体素子10に含まれる各有機半導体領域4における移動度を均一にすることができる。
【0091】
なお上述の図6(c)において、有機半導体層30のうち凹凸版40の凸部41が当接していた部分が、支持部材17から剥離されて剥離部分35として凸部41上に付着している例を示した。しかしながら、凹凸版40の凸部41によって有機半導体層30を部分的に除去する態様が、図6(c)に示される態様に示されることはなく、様々な態様が考えられる。例えば、凹凸版40を構成する樹脂材料が、微細な隙間が多数形成された多孔質材料からなる場合、当該微細な隙間中に有機半導体材料が浸透または侵入することにより、有機半導体層30が部分的に除去されてもよい。
【0092】
(有機半導体材料の変形例)
また本実施の形態において、有機半導体領域4を構成する有機半導体材料として低分子有機半導体材料や高分子有機半導体材料が用いられる例を示した。この場合、好ましくは、有機半導体材料は、低分子有機半導体材料と高分子材料とを含んでいる。以下の説明において、低分子有機半導体材料と高分子材料とをともに含む材料のことを、低分子/高分子ハイブリッド材料と称する。なお「高分子材料」という用語は、分子量が10000以上の材料を意味している。また「高分子材料」には、上述の高分子有機半導体材料だけでなく、高分子絶縁材料など半導体としての性質を有さない高分子の材料も含まれる。
【0093】
以下、低分子/高分子ハイブリッド材料によって有機半導体材料を構成することの効果について説明する。
【0094】
一般に高分子有機半導体材料は、低分子有機半導体材料に比べて、他の部材との間における高い密着性を有している。このため有機半導体材料として高分子有機半導体材料が用いられる場合、有機半導体層30を部分的に支持部材17から剥離させるためには、凹凸版40の凸部41の端面における表面エネルギーを、支持部材17の被除去面18における表面エネルギーよりも十分に大きくする必要がある。
一方、有機半導体材料として低分子有機半導体材料が用いられる場合、凹凸版40の凸部41の端面における表面エネルギーと支持部材17の被除去面18における表面エネルギーとの差が小さい場合であっても、有機半導体層30を部分的に支持部材17から剥離させることが可能である。従って、必要とされる表面エネルギーの差に着目する場合、有機半導体材料として低分子有機半導体材料が用いられることが有利である。
【0095】
ところで、加熱圧着により有機半導体層30を部分的に支持部材17から剥離させる場合、上述のように、凸部41の端面における表面エネルギーを支持部材17の被除去面18における表面エネルギーよりも大きくするだけでなく、有機半導体層30に所望の流動性を持たせることが必要となる。ところで一般に高分子有機半導体材料などの高分子材料はガラス転移点を有している。このため、有機半導体材料中に高分子有機半導体材料などの高分子材料が含まれる場合、加熱圧着工程の際の凸部41の温度をガラス転移点近傍とすることにより、有機半導体層30に所望の流動性を持たせることが可能である。
一方、一般に低分子有機半導体材料はガラス転移点を有していない。このため、有機半導体材料として低分子有機半導体材料が用いられる場合、有機半導体層30を加熱したとしても、有機半導体材料のガラス状態を利用して有機半導体材料に所望の流動性を持たせることができないことが考えられる。
【0096】
ここで有機半導体材料として低分子/高分子ハイブリッド材料が用いられる場合、加熱圧着工程の際の凸部41の温度を高分子材料のガラス転移点以上の温度とすることにより、有機半導体層30に所望の流動性を持たせることが可能となる。また、凹凸版40の凸部41の端面における表面エネルギーと支持部材17の被除去面18における表面エネルギーとの差が小さい場合であっても、低分子有機半導体材料の作用により、有機半導体層30を部分的に支持部材17から剥離させることが可能となる。すなわち、有機半導体材料として低分子/高分子ハイブリッド材料を用いることにより、高分子材料が有する利点および低分子有機半導体材料が有する利点の両方を享受することができる。
【0097】
低分子/高分子ハイブリッド材料の具体的な構成が特に限られることはなく、様々な低分子有機半導体材料および高分子材料を適切な比率で混合することにより、低分子/高分子ハイブリッド材料が構成され得る。例えば、低分子有機半導体材料の一種であるペンタセンと、高分子材料の一種であるポリスチレンとを1:1の重量比で混合することにより、低分子/高分子ハイブリッド材料が構成され得る。
【0098】
(その他の変形例)
また本実施の形態において凹凸版40の凸部41の端面における表面エネルギーが支持部材17の表面における表面エネルギーよりも大きくなっている例を示した。この場合、このような表面エネルギーの差を実現するため、または、表面エネルギーの差を拡大させるため、凸部41の端面または支持部材17の表面に改質処理が施されていてもよい。
【0099】
改質処理の具体的な形態が特に限られることはなく、様々な改質処理が実施され得る。例えば、図示はしないが、有機半導体層30と支持部材17との間に、有機半導体層30に接する改質材料が介在されていてもよい。この改質材料は、凹凸版40の凸部41の端面における表面エネルギーが改質材料の表面エネルギーよりも大きくなるよう構成されている。または、表面エネルギーの差を拡大させるよう構成されている。従って、このような改質材料を有機半導体層30と支持部材17との間に介在させることにより、有機半導体層30のパターニングをより確実に実施することができる。
【0100】
また、有機半導体層30と支持部材17との間ではなく、有機半導体層30と凸部41との間に改質材料が介在されていてもよい。すなわち、凸部41の端面が改質材料によって構成されていてもよい。この場合、改質材料は、改質材料の表面エネルギーが、支持部材17の表面における表面エネルギーよりも大きくなるよう構成されている。また、改質材料を介在させることではなく、凸部41の端面または支持部材17の表面に対してプラズマ処理や液処理などを施すことによって、改質処理が実現されてもよい。
【0101】
第2の実施の形態
次に図10を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。図10に示す第2の実施の形態は、凹凸版の凸部上に設けられた溶媒中に有機半導体層を部分的に溶解させることによって、有機半導体層のパターニングが実施される点が異なるのみであり、他の構成は、図1乃至図8Bに示す第1の実施の形態と略同一である。図10に示す第2の実施の形態において、図1乃至図8Bに示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0102】
〔有機半導体層のパターニング工程〕
図10を参照して、支持部材17上の有機半導体層30をパターニングする工程について説明する。はじめに、凹部42および凸部41を有する凹凸版40を準備する。凹凸版40は、上述の第1の実施の形態における凹凸版40と略同一であるので、詳細な説明は省略する。
【0103】
次に図10(a)に示すように、凹凸版40の凸部41上に溶媒43を設ける。溶媒43としては、有機半導体層30に含まれる有機半導体材料を溶解し得る様々な溶媒が選択される。このため、溶媒43を凸部41上に設けることにより、凸部41の端面における表面エネルギーを、支持部材17の被除去面18における表面エネルギーよりも大きくすることができる。溶媒43としては、例えば、トルエン、ベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロホルム、テトラリン、キシレン、アニソール、ジクロロメタン、γブチロラクトン、ブチルセルソルブ、シクロヘキサン、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン、ジオキサンまたは、THF(テトラヒドロフラン)、PGME(propyleneglycol monomethyl ether)、PGMEA(propyleneglycol monomethyl ether acetate)、乳酸エチル、DMAc(N,N−dimethylacetamide)、MEK(methyl ethyl ketone)、MIBK(methyl isobutyl ketone)、IPA(iso propyl alcohol)、エタノール等が挙げられる。
【0104】
凹凸版40の凸部41上に溶媒43を設ける方法が特に限られることはなく、例えば、凸部41上に溶媒43を塗布する方法が用いられてもよく、または、溶媒中に凸部41を浸す方法が用いられてもよい。また図10(a)に示すように、凸部41上だけでなく凹部42の底面上に溶媒43が設けられていてもよい。
【0105】
(当接工程)
次に、有機半導体層30の上面に対して凹凸版40を押し付ける。これによって、図10(b)に示すように、凹凸版40のうち凸部41のみが、有機半導体層30との間に溶媒43が介在された状態で有機半導体層30に当接する。
【0106】
ここで上述のように、溶媒43として、有機半導体層30に含まれる有機半導体材料を溶解し得る溶媒が選択されている。このため、有機半導体層30のうち凹凸版40の凸部41が当接している部分は、凸部41上の溶媒43中に溶解される。これによって、凸部41上に、有機半導体材料が溶解した溶媒からなる混合溶媒が形成される。以下の説明において、凸部41上の溶媒43中に有機半導体材料を溶解させる工程を溶解工程と称する。なお溶解工程が実施される期間は、有機半導体層30のうち有機半導体領域4となるべき部分の有機半導体材料が溶媒43中に溶解されないよう、適宜設定される。
【0107】
次に、凹凸版40を有機半導体層30から遠ざける。これによって、図10(c)に示すように、有機半導体層30のうち凹凸版40の凸部41が当接していた部分が、混合溶媒44として有機半導体層30から部分的に除去される。
【0108】
このように本実施の形態によれば、支持部材17上の有機半導体層30が凹凸版40の凸部41上の溶媒43中に溶解されることにより、有機半導体層30がパターニングされる。このことにより、互いに独立に配置された複数の有機半導体領域4が支持部材17上に形成される。
【0109】
以上のように本実施の形態によれば、基板11を含む支持部材17上に設けられた連続的な有機半導体層30をパターニングすることにより、各有機トランジスタ20の有機半導体領域4が得られる。このため、上述の第1の形態の場合と同様に、有機半導体層30が有していた結晶性を、各有機トランジスタ20の有機半導体領域4に引き継がせることができる。このことにより、有機半導体素子10に含まれる各有機半導体領域4における移動度を均一にすることができる。また、有機半導体領域4が、エッチングのための溶液や塗布液に含まれる溶媒によって損傷されることがない。これによって、各有機半導体領域4の特性がパターニング工程によって劣化することを防ぐことができ、この結果、各有機半導体領域4における移動度をより大きくすることができる。
【0110】
また本実施の形態によれば、パターニング工程の精度が、凹凸版40の凸部41および凹部42の形状および配置の精度によって定められる。従って、上述の第1の形態の場合と同様に、従来技術に比べて、有機半導体素子10に含まれる各有機半導体領域4を精度良く形成することができる。このことにより、有機半導体素子10の解像度をより高くすることができる。
【0111】
(溶解工程の変形例)
上述の溶解工程の際、凹凸版40の凸部41を加熱してもよい。これによって、有機半導体層30を構成する有機半導体材料の流動性を高めることができ、また、溶媒43への有機半導体材料の溶解性を高めることができる。これによって、有機半導体層30のうち凹凸版40の凸部41が当接している部分を溶媒43中により確実に溶解させることができる。
【0112】
(有機半導体材料の変形例)
ところで、一般に塗布可能な低分子有機半導体材料は、高分子有機半導体材料に比べて、溶媒中への高い溶解性を有している。このため、有機半導体層30を構成する有機半導体材料に低分子有機半導体材料を包含させることにより、凸部41上の溶媒43中への溶解性を高めることができる。これによって、有機半導体層30のうち凹凸版40の凸部41が当接している部分を溶媒43中にさらに確実に溶解させることができる。
【0113】
(パターニング工程の変形例)
なお上述の各実施の形態において、パターニング工程の当接工程の際、凹凸版40のうち凸部41のみが有機半導体層30に当接される例を示した。ここで「凸部41のみ」という条件は、必ずしも凹凸版40の全体に対して厳格に適用される必要はなく、少なくとも凹凸版40の一部において適用されていればよい。例えば、基板11上に形成される複数の有機トランジスタ20のうち、隣り合う少なくとも2つの有機トランジスタ20に関して、それらに含まれる有機半導体領域4を形成するためのパターニング工程の当接工程の際、凹凸版40のうち凸部41のみが有機半導体層30に当接していればよい。これによって、基板11上に形成される複数の有機トランジスタ20のうち、隣り合う少なくとも2つの上述の有機トランジスタ20に関しては、上述の各実施の形態によってもたらされる効果を享受することができる。すなわち、所望の形状および性能を有する有機トランジスタ20を得ることができる。
【0114】
有機トランジスタの層構成の変形例
また上述の各実施の形態において、有機トランジスタ20が、基板11上に設けられたゲート電極12と、ゲート電極12を覆うよう基板11上に設けられたゲート絶縁層13と、一定の間隔を空けて対向するようゲート絶縁層13上に設けられたソース電極2およびドレイン電極3と、ソース電極2およびドレイン電極3を覆うよう設けられた有機半導体領域4と、を有する例を示した。すなわち、有機トランジスタ20がいわゆるボトムコンタクト・ボトムゲート型となっている例を示した。しかしながら、有機トランジスタ20のタイプがボトムコンタクト・ボトムゲート型に限られることはない。例えば、ボトムコンタクト・トップゲート型、トップコンタクト・ボトムゲート型またはトップコンタクト・トップゲート型の有機トランジスタ20においても、上述の各実施の形態による効果が発揮され得る。
【0115】
以下、有機トランジスタ20がボトムコンタクト・トップゲート型、トップコンタクト・ボトムゲート型またはトップコンタクト・トップゲート型となっている例について説明する。なお各タイプの有機トランジスタ20は、有機トランジスタ20の層構成が異なり、この結果、支持部材17を構成する構成要素および被除去面18を提供する構成要素が異なるのみであり、その他の点は、図1乃至図8Bに示す第1の実施の形態または図10に示す第2の実施の形態における有機トランジスタ20と略同一である。
【0116】
(有機トランジスタの第1の変形例)
はじめに図11を参照して、有機トランジスタ20の第1の変形例であって、有機トランジスタ20がボトムコンタクト・トップゲート型となっている例について説明する。図11に示すように、本変形例において、有機トランジスタ20は、一定の間隔を空けて対向するよう基板11上に設けられたソース電極2およびドレイン電極3と、ソース電極2およびドレイン電極3を覆うよう設けられた有機半導体領域4と、有機半導体領域4を覆うよう基板11上に設けられたゲート絶縁層13と、ゲート絶縁層13上に設けられたゲート電極12と、を有している。
【0117】
本変形例においても、上記各実施の形態の場合と同様に、連続的な有機半導体層30を部分的に除去することによりパターニング工程が実施される。この場合、連続的な有機半導体層30は、ソース電極2およびドレイン電極3を覆うよう基板11上に設けられる。そして、基板11上の有機半導体層30がパターニングされ、これによって、基板11上に複数の有機半導体領域4が形成される。従って、本変形例においては、基板11が、有機半導体領域4よりも先に設けられ、かつ、有機半導体領域4を下面4b側から支持する支持部材17となっている。また、基板11のうち有機半導体領域4側の面が被除去面18となっている。
【0118】
本変形例においても、凹凸版40の凸部41の端面の表面エネルギーが支持部材17の被除去面18の表面エネルギーよりも大きくなるよう、支持部材17および凹凸版40が構成されている。このため、凹凸版40の凸部41のみを有機半導体層30に当接させることにより、有機半導体領域4を損傷させることなく、有機半導体層30を精密にパターニングすることができる。
【0119】
(有機トランジスタの第2の変形例)
次に図12を参照して、有機トランジスタ20の第2の変形例であって、有機トランジスタ20がトップコンタクト・ボトムゲート型となっている例について説明する。図12に示すように、本変形例において、有機トランジスタ20は、基板11上に設けられたゲート電極12と、ゲート電極12を覆うよう基板11上に設けられたゲート絶縁層13と、ゲート絶縁層13上に設けられた有機半導体領域4と、一定の間隔を空けて対向するよう有機半導体領域4上に設けられたソース電極2およびドレイン電極3と、を有している。
【0120】
本変形例においても、上記各実施の形態の場合と同様に、連続的な有機半導体層30を部分的に除去することによりパターニング工程が実施される。この場合、連続的な有機半導体層30は、ゲート絶縁層13上に設けられる。そして、ゲート絶縁層13上の有機半導体層30がパターニングされ、これによって、ゲート絶縁層13上に複数の有機半導体領域4が形成される。従って、本変形例においては、基板11、ゲート電極12およびゲート絶縁層13の組み合わせが、有機半導体領域4よりも先に設けられ、かつ、有機半導体領域4を下面4b側から支持する支持部材17となっている。また、ゲート絶縁層13のうち有機半導体領域4側の面が被除去面18となっている。
【0121】
本変形例においても、凹凸版40の凸部41の端面の表面エネルギーが支持部材17の被除去面18の表面エネルギーよりも大きくなるよう、支持部材17および凹凸版40が構成されている。このため、凹凸版40の凸部41のみを有機半導体層30に当接させることにより、有機半導体領域4を損傷させることなく、有機半導体層30を精密にパターニングすることができる。
【0122】
(有機トランジスタの第3の変形例)
次に図13を参照して、有機トランジスタ20の第3の変形例であって、有機トランジスタ20がトップコンタクト・トップゲート型となっている例について説明する。図13に示すように、本変形例において、有機トランジスタ20は、基板11上に設けられた有機半導体領域4と、一定の間隔を空けて対向するよう有機半導体領域4上に設けられたソース電極2およびドレイン電極3と、ソース電極2およびドレイン電極3を覆うよう基板11上に設けられたゲート絶縁層13と、ゲート絶縁層13上に設けられたゲート電極12と、を有している。
【0123】
本変形例においても、上記各実施の形態の場合と同様に、連続的な有機半導体層30を部分的に除去することによりパターニング工程が実施される。この場合、連続的な有機半導体層30は、基板11上に設けられる。そして、基板11上の有機半導体層30がパターニングされ、これによって、基板11上に複数の有機半導体領域4が形成される。従って、本変形例においては、基板11が、有機半導体領域4よりも先に設けられ、かつ、有機半導体領域4を下面4b側から支持する支持部材17となっている。また、基板11のうち有機半導体領域4側の面が被除去面18となっている。
【0124】
本変形例においても、凹凸版40の凸部41の端面の表面エネルギーが支持部材17の被除去面18の表面エネルギーよりも大きくなるよう、支持部材17および凹凸版40が構成されている。このため、凹凸版40の凸部41のみを有機半導体層30に当接させることにより、有機半導体領域4を損傷させることなく、有機半導体層30を精密にパターニングすることができる。
【0125】
なお図示はしないが、図11に示す第1の変形例、図12に示す第2の変形例、および図13に示す第3の変形例においても、図3に示す有機トランジスタ20の場合と同様に、有機トランジスタ20がさらに保護層15を有していてもよい。
【実施例】
【0126】
以下、実施例を挙げることにより、本発明について具体的に説明する。
【0127】
(実施例1)
基板11として、厚さ約3000Å(300nm)の酸化ケイ素層が付した厚さ0.6mmのn−ヘビードープシリコンウエハを用いた。これは、n−ヘビードープシリコン部がゲート電極12として機能する一方、酸化ケイ素層はゲート絶縁層13として働くものであり、その静電容量は約11nF/cmであった。
【0128】
(ソース電極およびドレイン電極の形成工程)
次に、ゲート絶縁層13上に、CrおよびAuの積層膜を、W(幅)=700μm、L(長さ)=50μmの開口部を有するシャドウマスクを通して真空蒸着し、ソース電極2およびドレイン電極3を形成した。その後、ペンタフルオロベンゼンチオール(PFBT)を用いて、ソース電極2およびドレイン電極3の表面処理を行った。
【0129】
(有機半導体層の形成工程)
ソース電極2およびドレイン電極3を覆うよう、ゲート絶縁層13上に、有機半導体材料を1wt%で溶媒に溶解させた塗布液を、厚みが40nmとなるよう塗布した。有機半導体材料としては、6,13‐ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(TIPSペンタセン)を用いた。溶媒としては、キシレンを用いた。塗布方法としては、スピンコート法を用いた。スピンコート法における回転速度は1000rpmとし、塗布時間は30秒とした。その後、100℃の環境下で1分間の加熱乾燥処理を施し、これによって、ゲート絶縁層13上に有機半導体層30を形成した。
【0130】
(有機半導体層のパターニング工程)
凹凸版40の凸部41によって有機半導体層30を部分的に加熱圧着することにより、有機半導体層30をパターニングした。これによって、有機半導体領域4を含む複数の有機トランジスタ20を備えた有機半導体素子10を作製した。なお、用いられた凹凸版40において、凹部42の幅aは800μmとなっており、凸部41の幅cは3mmとなっており、凹部42の深さbは1μmとなっていた。
【0131】
(実施例2)
有機半導体材料として、6,13‐ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(TIPSペンタセン)とポリスチレンとを重量比1:1で混合することにより得られる材料を用いたこと以外は、実施例1の場合と同様にして、有機半導体素子10を作製した。
【0132】
(有機半導体素子の観察)
上記実施例1および2において作製した有機半導体素子10を観察し、所望のパターンを有する複数の有機半導体領域4が得られたかどうかを確認した。実施例1および2について、複数の有機半導体領域4が形成された支持部材17を上方から撮影した結果をそれぞれ図14(a)および図15(a)に示す。
【0133】
図14(a)および図15(a)に示すように、所望の形状を有する複数の有機半導体領域4が所望のパターンで支持部材17上に形成されていることが確認された。なお図14(a)に示すように、実施例1による有機半導体素子10においては、符号19で表される点線内に認められるように、有機半導体領域4以外の部分に有機半導体材料が残存していることが確認された。一方、実施例2による有機半導体素子10においては、このような有機半導体材料の残存が確認されなかった。実施例2によれば、有機半導体材料が、低分子有機半導体材料であるペンタセンだけでなく、高分子有機半導体材料であるポリスチレンをさらに含むことにより、加熱圧着工程の際の有機半導体材料の流動性が向上し、これによって、より高い精度で有機半導体層30のパターニングを実施することができたと考えられる。
【0134】
(トランジスタ特性評価)
上記実施例1および2において作製した有機半導体素子10について、有機半導体層30のパターニング工程が実施される前後のそれぞれにおいてトランジスタ特性評価を行った。トランジスタ特性評価は、KEITHLEY製 237HIGH VOLTAGE SOURCE MEASUREMENT UNITで行った。
【0135】
実施例1および2について、トランジスタ特性評価の結果をそれぞれ図14(b)および図15(b)に示す。なお図14(b)に示されるように、実施例1に関しては、ゲート電圧Vを上昇させながらの評価と、ゲート電圧Vを降下させながらの評価とを行った。
【0136】
図14(b)および図15(b)に示されるように、実施例1および2のいずれにおいても、パターニング工程が実施される前におけるON電流値と、パターニング工程が実施された後におけるON電流値とがほぼ等しくなっていた。また、実施例1および2のいずれにおいても、パターニング工程が実施された後におけるOFF電流値は、パターニング工程が実施される前におけるOFF電流値に比べて著しく低下していた。このことから、実施例1および2のいずれにおいても、有機半導体領域4を損傷させることなく有機半導体層30をパターニングすることができたと考えられる。
【符号の説明】
【0137】
2 ソース電極
3 ドレイン電極
4 有機半導体領域
10 有機半導体素子
11 基板
12 ゲート電極
13 ゲート絶縁層
15 保護層
17 支持部材
18 被除去面
20 有機トランジスタ
30 有機半導体層
31 結晶粒
40 凹凸版
41 凸部
42 凹部
43 溶媒
44 混合溶媒
45 支持基板
46 フォトレジスト
46a 残存部分
47 樹脂材料
48 支持基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、基板上に設けられ、各々が有機半導体材料を含む有機半導体領域を有する複数の有機トランジスタと、を備えた有機半導体素子の製造方法において、
前記有機半導体領域は、少なくとも基板を含む支持部材によって支持されており、
有機半導体素子の製造方法は、
支持部材を準備する工程と、
前記支持部材上に有機半導体材料を含む連続的な有機半導体層を設ける工程と、
前記有機半導体層をパターニングして複数の有機半導体領域を形成するパターニング工程と、を備え、
前記パターニング工程は、凹部および凸部を有し、凹部が前記有機半導体領域に対応するよう構成された凹凸版を準備する工程と、前記凹凸版の凸部を前記支持部材上の前記有機半導体層に当接させることにより前記有機半導体層をパターニングする当接工程と、を有することを特徴とする有機半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記凹凸版の前記凸部は、前記凸部の端面における表面エネルギーが前記支持部材の表面における表面エネルギーよりも大きくなるよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記有機半導体層と前記支持部材との間に、前記有機半導体層に接する改質材料が介在されており、
前記改質材料は、前記凹凸版の前記凸部の端面における表面エネルギーが前記改質材料の表面における表面エネルギーよりも大きくなるよう構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記当接工程は、前記凹凸版のうち少なくとも凸部を加熱し、かつ凸部を前記有機半導体層に当接させる加熱圧着工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記有機半導体材料は、低分子有機半導体材料を含むことを特徴とする請求項4に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記有機半導体材料は、高分子材料をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記当接工程は、前記凹凸版のうち少なくとも凸部上に溶媒が設けられた状態で凸部を前記有機半導体層に当接させ、これによって前記有機半導体層を部分的に前記溶媒中に溶解させる溶解工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記溶解工程は、前記凹凸版のうち少なくとも凸部を加熱した状態で実施されることを特徴とする請求項7に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記有機半導体材料は、低分子有機半導体材料を含むことを特徴とする請求項7または8に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項10】
基板と、
基板上に設けられた複数の有機トランジスタと、を備え、
複数の有機トランジスタは各々、有機半導体材料を含む有機半導体領域を有し、
複数の有機トランジスタのうち少なくとも1つの有機トランジスタの有機半導体領域の結晶軸は、前記少なくとも1つの有機トランジスタに近接する他の有機トランジスタのうちの少なくとも1つの有機トランジスタの有機半導体領域の結晶軸と少なくとも部分的に同一になっていることを特徴とする有機半導体素子。
【請求項11】
各有機トランジスタの有機半導体領域の結晶軸は、近接する他の有機トランジスタのうちの少なくとも1つの有機トランジスタの有機半導体領域の結晶軸と少なくとも部分的に同一になっていることを特徴とする請求項10に記載の有機半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−21190(P2013−21190A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154165(P2011−154165)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】