説明

有機無機複合体、その製造方法およびこれを用いた半導体装置

【課題】 低誘電率でしかも機械的強度の高く、平坦性の高い絶縁膜を形成できる有機無機複合体、その製造方法およびその複合体を用いた半導体装置を提供する。
【解決手段】 金属−酸素結合による架橋構造を有する有機無機複合体において、下記一般式(1)で示される化合物を有することを特徴とする有機無機複合体。


式中、Mは金属又はシリコン、Xは架橋に関与する−O−結合又はOH基であり、R1は炭素数8〜20の炭素原子含有分子鎖基であり、R2はメチル、エチル、プロピル、又はフェニル基のいずれかの基を表し、n1、n2は0、1、または2のいずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合体、その製造方法およびこれを用いた半導体装置に係り、特に低誘電率の有機無機複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータなどの電子機器の著しい進展に伴い、半導体装置の微細化による高速化、軽量小型化、低消費電力化への要求が高まっている。これらの要求に応えて、近年ULSI(超大規模集積回路)での微細化、高集積化が進められており、この実現手段のひとつに、マイクロプロセッサなどの配線多層化による高集積化があげられる。
そしてこの配線多層化におけるもっとも大きな課題が層間絶縁膜の機能の向上である。層間絶縁膜には、高絶縁性、配線間容量の低減、微細な配線スペースヘの確実な成膜、表面の平坦化などの高機能が要求され、種々の検討がなされてきており、なかでも低誘電率化は大きな課題である。
【0003】
また、半導体装置の表面を被覆保護する目的で形成されるパッシベーション膜についても、耐湿性等の機能とともに、この上層にボンディングパッドが形成される場合あるいは、再配列配線を形成するような場合にはこの膜と下層配線との間の寄生容量が駆動速度低下の深刻な原因となるため、低誘電率化が求められている。
【0004】
現在、層間絶縁膜・配線間絶縁膜、パッシベーション膜に主として使用されている絶縁材料は、酸化シリコンSiO2であり、比誘電率kはおよそ4.0である。そして低誘電
率化を求めて、フッ素ドープ酸化シリコン(k:約3.7)、有機高分子材料(k:2.0〜2.7)等の新材料が検討されている。また、低誘電率化を求めて、シリコンポリマーなど種々の研究がなされている(特許文献1参照)。
しかしながら、さらなる高速化・高集積化が進むにつれて、これらの材料では誘電率が十分ではなく、さらなる低誘電率化が課題となっている。
【0005】
このような状況の中で、ガス中蒸発法も提案されている。ガス中蒸発法で成膜したシリコン超微粒子酸化膜(SiOx超微粒子膜)は、ナノポーラス膜であり、比誘電率1.83という極めて低い誘電率のものも得られている。しかしながら、このナノポーラス膜は、吸湿性が高く、使用環境下での比誘電率の増加が大きく、脆性のために取り扱いが難しい上、成膜工程も工数が多く煩雑で、実用に供し得る程度のものではなかった。また、高温下での形成となり、成膜時の熱により半導体装置の下地配線の劣化を生じたりするなどの問題もあった。
【0006】
さらにまた、上述した膜は、空隙がランダムに形成された構造であって層間絶縁膜として用いようとすると、機械的強度が著しく低く、破損しやすく、半導体素子の信頼性低下の原因となっていた。
また、半導体装置の層間絶縁膜、パッシベーション膜などとして用いる場合、温度変化や、機械的衝撃に対する緩衝作用も重大な課題であり、CMP耐性が、半導体装置全体としての歩留まりに大きな影響を与えるものとなっている。
【特許文献1】特開2002−167438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように従来の絶縁膜では、層間絶縁膜等の半導体装置用として実用に供し得る程度の物性値をもたせようとすると、十分に誘電率を下げることができず、また、誘電率を上
げようとすると、耐熱性あるいは機械的強度が充分に得られないという問題があった。
特に、層間絶縁膜として用いる場合にはCMP(Chemical Mechanical Polishing)等
を用いて表面レベルの平坦化を行なうことが多い。しかしながらCMP工程においては研磨に絶え得る強度と靱性が必要である。
また、半導体装置は、製造工程中のみならず、特に大電流用途に用いられるデバイスでは、使用時においても、高温環境あるいは温度変化を受けやすく、配線パターンあるいは半導体装置にストレスを与えることとなり、半導体装置の劣化を生じ易いという問題もあった。
さらに、絶縁膜材料の製造方法における前駆体は、有機溶媒を含有することを特徴としているが、有機溶媒の特性によってはスピンコート法で絶縁膜を形成した場合、平坦性が得られない問題と、より低い誘電率が得られないという問題があった。
【0008】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたもので、その目的は、低誘電率でしかも機械的強度の高く、平坦性の高い絶縁膜を形成できる有機無機複合体を提供すること、その製造方法およびその複合体を用いた半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は下記(1)〜(29)により達成された。
(1)金属−酸素結合による架橋構造を有する有機無機複合体において、下記一般式(1)で示される化合物を有することを特徴とする有機無機複合体。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Mは金属又はシリコン、Xは架橋に関与する−O−結合又はOH基であり、R1
は炭素数8〜20の炭素原子含有分子鎖基であり、R2はメチル、エチル、プロピル、又
はフェニル基のいずれかの基を表し、n1、n2は0、1、または2のいずれかである。)
【0012】
(2)前記Mはシリコンであることを特徴とする前記(1)に記載の有機無機複合体。
【0013】
(3)前記一般式(1)においてR1はポリメチレン基であることを特徴とする前記(1
)に記載の有機無機複合体。
【0014】
(4)前記ポリメチレン基が下記一般式(2)で表されることを特徴とする前記(3)に記載の有機無機複合体。
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、nは整数を表す。)
【0017】
(5)前記化合物が、下記一般式(3)で示される化合物であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の有機無機複合体。
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、Xは架橋に関与する−O−結合又はOH基であり、n1、n2は0、1、または2のいずれかである。)
【0020】
(6)前記一般式(1)においてR1はベンゼン環を含む炭化水素基であることを特徴と
する前記(1)または(2)に記載の有機無機複合体。
【0021】
(7)前記炭化水素基が下記一般式(4)で表されることを特徴とする前記(6)に記載の有機無機複合体。
【0022】
【化4】

【0023】
(8)前記一般式(4)において、n、mが1〜20の整数の範囲にあることを特徴とする前記(7)に記載の有機無機複合体。
【0024】
(9)前記一般式(4)において、n、mが各々2であることを特徴とする前記(8)に記載の有機無機複合体。
【0025】
(10)前記化合物が、下記一般式(5)で示される化合物であることを特徴とする前記(1)、(2)、(6)、(7)、(8)および(9)のいずれかに記載の有機無機複合体。
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、Xは架橋に関与する−O−結合又はOH基であり、n1、n2は0、1、または2のいずれかである。)
【0028】
(11)さらに、下記一般式(6)で示される化合物を有することを特徴とする前記(1)に記載の有機無機複合体。
【0029】
4-n3 − M − (R3n3 ・・・(6)
【0030】
(式中、Mは金属又はシリコン、Xは架橋に関与する−O−結合又はOH基であり、R3
は炭素数1〜50の炭素原子含有分子鎖基であり、n3は1、2または3のいずれかである。)
【0031】
(12)前記一般式(6)で示される化合物の含有量が、前記一般式(1)で示される化合物と前記一般式(6)で示される化合物の合計量に対して5〜20質量%であることを特徴とする前記(11)に記載の有機無機複合体。
【0032】
(13)前記(1)乃至(12)のいずれかに記載の有機無機複合体を製造する方法であって、
複数の架橋性シリル基と、これに共有結合せしめられた炭素原子とを有する有機無機複合架橋性化合物とを含む混合物からなる前駆体を調整する工程と、
前記前駆体を基体上に成膜する工程と、
前記架橋性シリル基を加水分解/縮合させ、有機無機複合体を形成する縮合工程とを含むことを特徴とする有機無機複合体の製造方法。
【0033】
(14)前記前駆体は、沸点が100℃〜130℃の溶媒を含むことを特徴とする前記(13)に記載の有機無機複合体の製造方法。
【0034】
(15)前記縮合工程は、前記架橋性シリル基に対して0.5〜1.5当量の水を添加する工程を含むことを特徴とする前記(13)に記載の有機無機複合体の製造方法。
【0035】
(16)前記縮合工程は、さらに触媒を添加する工程を含むことを特徴とする前記(15)に記載の有機無機複合体の製造方法。
【0036】
(17)前記触媒はブレンステッド酸であることを特徴とする前記(16)に記載の有機無機複合体の製造方法。
【0037】
(18)前記前駆体溶液は、少なくとも下記一般式(7)で示される化合物を有することを特徴とする前記(13)乃至(17)のいずれかに記載の有機無機複合体の製造方法。
【0038】
【化6】

【0039】
(式中、Mは金属又はシリコンであり、R1は炭素数8〜20の炭素原子含有分子鎖基で
あり、R2はメチル、エチル、プロピル、又はフェニル基のいずれかの基を表し、R5はCl、OCH3、OC25、OC65、OH又はOCOCH3基のいずれかの基を表し、n1、n2は0、1、または2のいずれかである)
【0040】
(19)前記一般式(7)においてR1は下記一般式(4)で表されることを特徴とする
前記(18)に記載の有機無機複合体の製造方法。
【0041】
【化7】

【0042】
(20)前記一般式(4)の構造がp体であることを特徴とする前記(19)に記載の有機無機複合体の製造方法。
【0043】
(21)前記一般式(7)においてR1は−(CH28− で表されるオクタメチレンで
あることを特徴とする前記(18)に記載の有機無機複合体の製造方法。
【0044】
(22)前記一般式(7)において、R2はメチル基を、R5はOCH3またはOC25
を表すことを特徴とする前記(18)に記載の有機無機複合体の製造方法。
【0045】
(23)前記前駆体溶液は、さらに下記一般式(8)で示される化合物を有することを特徴とする前記(18)に記載の有機無機複合体の製造方法。
【0046】
54-n3 − M − (R3n3 ・・・(8)
【0047】
(式中、Mは金属又はシリコンであり、R3は炭素数1〜50の炭素原子含有分子鎖基で
あり、R5はCl、OCH3、OC25、OC65、OH又はOCOCH3基のいずれかの
基を表し、n3は1、2または3のいずれかである)
【0048】
(24)前記一般式(8)で示される化合物の含有量が、前記一般式(7)で示される化合物と前記一般式(8)で示される化合物の合計量に対して5〜20質量%であることを特徴とする前記(23)に記載の有機無機複合体の製造方法。
【0049】
(25)前記(1)乃至(12)のいずれかに記載のシリコン−酸素結合による架橋構造有機無機複合体を用いたことを特徴とする半導体装置。
【0050】
(26)半導体基板または半導体基板上に形成された第1の配線導体と、第2の配線導体との間に介在せしめられる層間絶縁膜を具備し、
前記層間絶縁膜が、前記シリコン−酸素結合による架橋構造を有する有機無機複合体で構成されたことを特徴とする前記(25)に記載の半導体装置。
【0051】
(27)素子形成のなされた半導体基板表面にパッシベーション膜を形成してなり、前記パッシベーション膜が、前記シリコン−酸素結合による架橋構造を有する有機無機複合体で構成されたことを特徴とする前記(25)または(26)に記載の半導体装置。
【0052】
かかる構成によれば、R1における炭素数を8乃至20としたとき、分子中の直鎖の部
分の長さが長くなると、空孔径が大きくなり、空孔率を高めることができ、低誘電率の有機無機複合体を得ることができる。またこの有機無機複合体によれば、均一に空孔が形成され、骨格強度が高く応力により変形しにくい低誘電率薄膜を構成することができる。空孔が不均一である場合、応力歪を生じ易く、より変形しやすいだけでなく、クラックの発生点となりやすいという問題がある。半導体装置の製造工程においては、成膜後、研磨時の応力、あるいは後続工程におけるやCVDやエッチングにおいて応力を受け易いプロセスが多い。また実装工程においても、樹脂封止工程あるいはハンダリフロー時の熱など複数回の熱工程を経ることが多い。さらには製品となった後は、使用時の温冷繰り返しなどによる応力もある。
【0053】
このような状況の中でCMP工程に耐え得る程度の強度を持ち、空隙率が十分に高く低誘電率となっている。
さらにまた、高度の靭性をもつため、温度変化に際しても、機械的衝撃に対する緩衝作用も大きく、温度変化を受けやすい場所でも信頼性の高い構造体あるいは構造体薄膜を提
供することが可能となる。また、十分な架橋密度を有する有機無機複合体であるため、環境変化に対する大きな寸法変化が見られず、強度変化も少ない。
【0054】
本発明の有機無機複合体は、下記一般式(1)で示される化合物を含む。
【0055】
【化8】

【0056】
式中、Mは金属又はシリコン、Xは架橋に関与する−O−結合又はOH基であり、R1
は炭素数8〜20の炭素原子含有分子鎖基であり、R2はメチル、エチル、プロピル、又
はフェニル基のいずれかの基を表し、n1、n2は0、1、または2のいずれかである。R2がXの架橋に関与する場合は、R1と同様に、炭素数20より大きくなると耐熱性が低下したり、空隙が大きすぎて強度が低下したり、骨格が曲がりやすくなり、径の不均一化が生じてしまい、空隙分布が均一とならず、十分な強度あるいは靱性を得ることができない。一方、炭素数が8に満たないと分子直鎖が短すぎて、良好な多面体構造を形成できない。また、R2がヘテロ原子を有している場合は、酸あるいは熱による切断の可能性があ
るが、炭化水素化合物はこれら酸あるいは熱による攻撃を受けにくく極めて安定である。ここで炭化水素基としては、アルキレン鎖、含芳香族鎖などがあげられる。
【0057】
かかる構造によれば、誘電率としては、3.0以下の値を得ることができ、CMP耐性を持つ強度を有し、良好にCMPを行なうことができる。
【0058】
また望ましくはこの有機無機複合体において、前記Mはシリコンである。シリコンは強酸、高温高湿度環境下でも安定であり、半導体装置中で悪影響を与えることがないため、有効である。
【0059】
なお、金属−酸素結合としては、シリコン酸素結合の他、アルミニウム−酸素結合、チタン−酸素結合、ジルコニウム−酸素結合などの場合も有効であり、これらは強酸、高温高湿度環境下でも安定である。
また、シリコン−酸素結合を主として使用し、金属−酸素結合あるいはリン−酸素結合、ホウ素−酸素結合などを併用してもよい。シリコンと金属元素などとの原子比率は全金属原子100モル%とした場合、50モル%以上であるようにするのが望ましい。
【0060】
また、本発明の有機無機複合体は、一般式(1)で表される化合物におけるR1が炭化
水素基であるものを含む。
1が炭化水素基であることにより、柔軟化、膜物性を制御する分子鎖であり、炭素原
子がない場合には不安定である。
【0061】
本発明の有機無機複合体の一つとして、一般式(1)においてR1の炭化水素基が下記
一般式(2)で表される結合基(炭化水素基)であるものが好ましい。
【0062】
【化9】

【0063】
一般式(2)で表される結合基において、nは8〜20の範囲にあるのが好ましい。R1に分岐がある場合には、架橋間を結ぶ結合が切断される可能性がある。これに対し本発
明の上記構成では、R1が直鎖状のポリメチレン鎖であるため、種々の外的因子に対して
安定であり、炭化水素鎖の疎水性により、作成膜の耐湿特性が向上して絶縁膜として有効になる。
【0064】
また、安定性のみならず、直鎖状ポリメチレン鎖が多少の屈曲可能な構造であるために、膜に適度の柔軟性を付与することが可能であり、靱性が向上する。これら調整は主としてポリメチレン鎖の分子長を調整することによって達成可能である。ポリメチレン鎖の両末端にシリコン−酸素架橋を導入するための原料としては、種々のビス(加水分解性シリル)ポリメチレンが知られており、例えばポリメチレンがオクタメチレンのものは市販されている(ゲレスト社製:Ge1est)。
【0065】
この他、両末端が不飽和結合となっている1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン、1,13−テトラデカジエンなどにヒドロシリル化反応を行なうことにより、R1がオ
クタメチレン、デカメチレン、テトラデカメチレンに対応する原料を容易に合成することができ、炭素数が20までのポリメチレン鎖であればいずれも合成可能である。
さらにまたポリメチレン基の炭素数として、上述したように8〜20が望ましく、耐熱性、靱性、耐水性いずれに対しても満足できる性能を示すことができる。特に炭素数が8〜12のものがよい。
【0066】
また、一般式(1)におけるR1がオクタメチレン、R2はメチル基であり、下記一般式(3)で表される化合物が望ましい。
【0067】
【化10】

【0068】
式中、Xは架橋に関与する−O−結合又はOH基であり、n1、n2は0、1、または2のいずれかである。
【0069】
これにより、メチレン基が8連鎖した構造体であるため、さらに原料を容易に入手することができる。
ポリメチレン基の両末端にSi−O架橋構造を有する構造体は、絶縁体の基本架橋構造体として極めて安定かつ有用である。この有機無機複合体は、複数の種類の分子を混合したものであってもよい。例えば、n1=1の有機無機複合体と、n2=2の有機無機複合体とを混合して用いることにより、架橋密度等の調整が可能であり、その結果、膜の空隙分布、空隙形状および空隙構造、靭性(柔軟性)などを調整することが可能となる。
また有機鎖長、置換基の種類などの異なった有機無機複合構造体を混合することによっても物性を調整できる。
【0070】
また、本発明の別の有機無機複合体として、一般式(1)においてR1の炭化水素基が下記一般式(4’)で示される構造体であるものも好ましい。
【0071】
−R’−C64−R”− (o/m/p)いずれも可 (4’)
【0072】
上記一般式(4’)における R’、R”はポリメチレン鎖であり、炭素数が1〜20
の範囲にあるようにする。
R’、R”に分岐がある場合には、架橋間を結ぶ結合が切断される可能性がある。空隙の大きさの調整は主としてポリメチレン鎖分子長を調整することによって達成可能である。
【0073】
この場合、ポリメチレン鎖の両末端にシリコン−酸素架橋を導入するための原料としては、1,4−ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼンが市販されている(ゲレスト社製:Ge1est)。この他、両末端が不飽和結合となっているジビニルベンゼンなどにヒドロシリル化反応を行なうことにより原料を容易に合成することができる。
【0074】
上記した具体的化合物の代表例としては下記一般式(5)で表される化合物が好ましい。
【0075】
【化11】

【0076】
(式中、Xは架橋に関与する−O−結合又はOH基であり、n1、n2は0、1、または2のいずれかである)
上記の化合物は出発物質がジビニルベンゼンであるため、原料の入手が容易である。
【0077】
さらに、本発明の有機無機複合体は、下記一般式(6)で示される化合物を含有することが好ましい。
【0078】
4-n3 − M − (R3n3 ・・・(6)
【0079】
(式中、Mは金属又はシリコン、Xは架橋に関与する−O−結合又はOH基であり、R3
は炭素数1〜50の炭素原子含有分子鎖基であり、n3は1、2または3のいずれかである。)
【0080】
本発明の有機無機複合体において、前述の一般式(1)で示される化合物の炭素総数が多くなれば、架橋密度が下がり、分子内の空間が増大するため、空孔率が高くなり、低誘電率となる。
それに、さらに上記一般式(6)で示される化合物を加えることにより、前述の一般式(1)で示される化合物だけで構成されているものよりも、架橋密度がより下がることより、分子内の空間がより増大するため、空孔率がより高くなり、より低誘電率となる。
また、一般式(6)で示される化合物のR基は疎水性であり、架橋点のシラノール基は親水性であるため、疎水性のR基を中心にシラノール基が離れるように位置しやすくなるため、均一な空間を形成しやすいと考えられる。
また、R基の疎水性のために、空間が開いていても、水分が入り込み難く、誘電率が悪化し難いと考えられる。
本発明の有機無機複合体は、大部分を、一般式(1)で示される化合物とすることにより、機械的強度を極端に低下させず、空孔率を高くする(低誘電率化)ことが出来る。
【0081】
前記一般式(6)で示される化合物の含有量は、特に限定されないが、前記一般式(1)で示される化合物と前記一般式(6)で示される化合物の合計量に対して、5〜20質
量%であることが好ましい。
【0082】
本発明の有機無機複合体の製造方法は、複数の架橋性シリル基と、これに共有結合せしめられた炭素原子とを有する有機無機複合架橋性化合物とを含む混合物からなる前駆体を調整する工程と、前記前駆体を基体上に成膜する工程と、前記架橋性シリル基を縮合させ、有機無機複合体を形成する縮合工程とを含むことを特徴とする。
【0083】
ここで、本発明の有機無機複合体は、前記前駆体を基体上に成膜する工程において、前駆体の塗布液中の溶媒としては、特に限定されないが、その沸点が100℃〜130℃の有機溶媒を使用することが好ましい。沸点が100℃〜130℃の有機溶媒を使用することにより、スピンコート法での絶縁膜の形成において、塗布液中において最適な加水分解、脱水縮合の反応が進行し、スピンコート時において適度な粘度を保持することにより塗布膜の平坦性を得ることができる。
溶媒の沸点が100℃以上であれば、スピンコートによる塗布時の放射状のスジの発生が確実に防止され、塗布膜の平坦性が保証される。また、前駆体の溶媒の沸点が130℃以下であると、塗布液に含まれる前駆体の相溶性が良くなり、均質な塗布膜が得られる。
沸点が100℃〜130℃の有機溶媒としては、1-ブタノール、iso-ブタノールなどがあげられる。
【0084】
複数の架橋性シリル基すなわち、加水分解性シリル基と、これに共有結合した炭素原子を有する有機無機複合架橋性化合物を用い、加水分解とこれに続く脱水縮合反応により、Si−Oからなる架橋体を形成する。ここで加水分解性シリル基とは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、フェノキシなどのアルコキシ基が直接シリコン原子に結合したアルコキシシリル基、塩素などのハロゲンがシリコン原子に結合したハロゲン化シリル基、さらにアセトキシ基などのカルボキシシリル基などがあげられる。さらに、予め加水分解されたシラノール基、シラノレート基を用いることができ、この場合には加水分解は不要であり、縮合反応のみを行なえばよい。
【0085】
前記縮合工程は、前記架橋性シリル基が、等当量系で縮合反応を生じるに必要な量の触媒を添加する工程を含むことが好ましい。
【0086】
架橋反応工程では、下地材料などにダメージを与えない任意の温度範囲で加温することにより、目的とする膜を得ることができる。具体的には、室温から500℃程度までの任意の温度を挙げることができ、溶媒を充分に飛ばしかつ加水分解縮合するには好ましくは300℃以上であり、アルミ配線を用いる材料に適用する場合には400℃以下が望ましい。
本工程における加温の際にはオーブンによる加圧加熱など、公知の方法が使用可能である。また本方法を行なう際、加水分解・縮合を効率的に行なうため、あらかじめ前駆体混合溶液に水を添加しても良いし、また水蒸気下で加熱するようにしてもよい。
【0087】
また、架橋構造体の生成を加速するため、あらかじめ反応系内に触媒として塩酸、硫酸、リン酸などの酸を添加しておくようにしてもよい。また架橋構造化は、塩基によっても加速されるため、例えばアンモニア、水酸化ナトリウムなどの塩基触媒を用いることも可能である。望ましくは、前記触媒は酸、特に望ましくはブレンステッド酸である。酸触媒を用いることにより、均一な骨格構造をもつ有機無機複合体を形成することができる。
【0088】
前記縮合工程は、前記架橋性シリル基に対して0.5〜1.5当量の水を添加する工程を含むことを特徴とする。
さらに前記縮合工程は、触媒を添加する工程を含む。なお、この際触媒を水溶液状態で適量の水が存在するように触媒量を調整して添加しても良い。
ここで触媒としては酸を用いるのが望ましい。また、望ましくは、このブレンステッド酸触媒が水溶液であり、濃度N(規定)が0.1≦N≦3の範囲にある。
望ましくは、前記前駆体溶液は、下記一般式(7)で示される化合物を含む。
【0089】
【化12】

【0090】
式中、Mは金属又はシリコン、R1は炭素数8〜20の炭素原子を含む分子鎖基であり
、R2はメチル、エチル、プロピル、又はフェニル基のいずれかの基を表し、R5はCl、OCH3、OC25、OC65、OH又はOCOCH3基のいずれかの基を表し、n1、n2は0、1、または2のいずれかである。
【0091】
前記Mはシリコンであることが好ましい。又、前記一般式(7)におけるR1は炭化水
素基が好ましく、下記一般式(4)又は下記一般式(2)で表される置換基である、ポリメチレン基、またはベンゼン環を含む炭化水素基が更に好ましい。
【0092】
【化13】

【0093】
【化14】

【0094】
上記一般式(4)におけるn、mは1〜20の範囲が好ましく、一般式(2)におけるnは8〜20の範囲をとるものとする。
一般式(7)で表される具体的な化合物としては一般式(5’)及び一般式(3’)で示される化合物が好ましい。
【0095】
【化15】

【0096】
【化16】

【0097】
式中、R5はOCH3またはOC25基を表し、n1、n2は0、1、または2のいずれかである。
なお、ここで架橋工程は100〜300℃で行い、その後、未反応で残留している架橋性シリル基を完全に反応させるため比較的高温(例えば300〜500℃)でエージングを行なうのが望ましい。
【0098】
さらに、前記前駆体溶液は、下記一般式(7)で示される化合物に加えて、下記一般式(8)で示される化合物を含有することが好ましい。
【0099】
54-n3 − M − (R3n3 ・・・(8)
【0100】
(式中、Mは金属又はシリコンであり、R3は炭素数1〜50の炭素原子含有分子鎖基で
あり、R5はCl、OCH3、OC25、OC65、OH又はOCOCH3基のいずれかの
基を表し、n3は1、2または3のいずれかである。)
【0101】
前記一般式(8)で示される化合物の含有量は、特に限定されないが、前記一般式(7)で示される化合物と前記一般式(8)で示される化合物の合計量に対して5〜20質量%であることが好ましい。
【0102】
この有機無機複合体を使用温度以上の高温で加熱することが望ましい。加熱方法としては、通常の熱源による熱風加熱の他、遠赤外線加熱、電磁誘導加熱、マイクロ波加熱などでも良い。また併用してもよい。また、これらの工程において得られた膜は、必要に応じて水洗いしてもよい。その際用いる水は蒸留水、イオン交換水など金属イオンを含まないものが好ましい。さらに、このようにして膜を得た後に、紫外線や電子線を照射し、さらに架橋させるようにしてもよい。膜厚は、0.1μm〜50μm、好ましくは0.5μm〜5.0μmの範囲である。
【0103】
本発明の半導体装置は、半導体基板または半導体基板上に形成された第1の配線導体と、第2の配線導体との間に介在せしめられる層間絶縁膜を具備し、前記層間絶縁膜が、シリコン−酸素結合による架橋構造体と、これに共有結合した炭素原子とを含む有機無機複合体で構成されたことを特徴とする。
【0104】
かかる構成によれば、層間絶縁膜の誘電率の低減を図ることが可能となるため、層間容量の低減をはかり、高速駆動の半導体装置を提供することが可能となる。また、耐湿性も高いものとなる。
さらに、低温下での形成が可能であるため、下地に影響を与えることなく信頼性の高い膜を形成することが可能となる。
【0105】
本発明の半導体装置は、素子形成のなされた半導体基板表面にパッシベーション膜を形成してなり、前記パッシベーション膜が、シリコン−酸素結合による架橋構造体と、これに共有結合した炭素原子とを有する有機無機複合体で構成されたことを特徴とする。
かかる構成によれば、極めて耐湿性に優れ信頼性の高い有効な膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0106】
本発明により、非誘電率が小さく、耐湿性が高くかつ可撓性が高く機械的特性に優れ、空孔率が高くかつ骨格密度の高く、独立空孔構造の有機無機複合体を提供することが可能となる。又、耐湿性、および機械的強度が高く低誘電率の絶縁膜を備え、信頼性の高い半導体装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0107】
第1の実施の形態
以下、本発明の半導体装置の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の第1の実施形態として、この低誘電率薄膜を層間絶縁膜として用いたMOSFETを含む半導体集積回路を備えた半導体装置について説明する。
【0108】
本実施の形態では、後述するような架橋性前駆体を用意し、この架橋性前駆体である架橋性シリル基に対して、0.5〜1.5当量の水が存在するように触媒量を調整して添加したブレンステッド酸触媒を加えて縮合反応を生ぜしめ、シリコン酸素結合による架橋構造体と、これに共有結合した炭素原子とを含み、空孔が独立構造を有する低誘電率薄膜を形成し、図1に示すように、これを層間絶縁膜7として半導体装置を形成する。
【0109】
この半導体装置は、図1に示すように、素子分離のための絶縁膜2を形成したシリコン基板1にMOSFETなどの素子領域を形成するとともに、表面に多層配線を形成してなるもので、この層間絶縁膜7として、本実施の形態で示した1,4−ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン又は1,8−ビス(ジエトキシメチルシリル)オクタンを用いて半導体装置表面で縮合反応を生ぜしめ、形成した低誘電率薄膜を用いたことを特徴とするものである。
【0110】
この半導体装置は、4インチおよび6インチのシリコン基板1表面に形成されたゲート酸化膜3を介して形成されたゲート電極4と、低濃度不純物拡散領域5a、5b、高濃度不純物拡散領域6a、6bからなるLDD構造のソース・ドレイン領域とで構成されたMOSFETと、ソース・ドレイン領域の一方にコンタクトする第1層配線8と、本発明の低誘電率薄膜からなる層間絶縁膜に形成した、コンタクトホール9を介して形成された第2層配線10とを具備してなるものである。11はこの半導体装置を被覆するように形成された膜である。
【0111】
図2(a)〜図2(e)にこの半導体装置の製造工程について説明する。
まず、シリコン基板1表面にゲート酸化膜3を介して形成されたゲート電極4を形成する。そして、このゲート電極4をマスクとして不純物拡散を行いソース・ドレイン領域を構成する低濃度不純物拡散領域5a、5bを形成する(図2(a))。
【0112】
続いて、CVD法によりこの上層に酸化シリコン膜を形成し、異方性エッチングを行い、ゲート電極の側壁にサイドウォール3sを形成する(図2(b))。
【0113】
そして、このサイドウォール3sの形成されたゲート電極4をマスクとして高濃度の不純物拡散を行い、高濃度不純物拡散領域6a、6bを形成し、LDD構造のソース・ドレイン領域を形成する(図2(c))。
次に、層間絶縁膜7として本発明の方法を用いて、独立空孔構造の低誘電率薄膜を形成する。そして、この低誘電率薄膜からなる層間絶縁膜にフォトリソグラフィによりコンタクトホール9を形成した(図2(d))。
【0114】
この後、図2(e)に示すように第2層配線10を形成した。そして、最後に同様の方
法を用いて膜11としてこの低誘電率薄膜を形成した。
【0115】
この方法によれば、CMPが可能となる強度を持ち靭性が高く、機械的強度の高い低誘電率薄膜を低温下で形成することができ、成膜時および使用時において、膜自体のみならず、上層および下層の膜へのストレスを緩和する緩衝膜としても作用し、信頼性の高い半導体装置を提供することが可能となる。
[実施例]
【0116】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
作成した層間絶縁膜は下記の4つの方法で評価した。
(1)強度評価
ナノインデンテータ(MTS System Corp. 製、Nano Indenter)を用い、ヤング率を測定した。
【0117】
(2)耐熱性評価
TGA(セイコーインスツルメンツ製 EXSTRA6200)で、窒素雰囲気下で1%重量減少時の温度を測定した。
【0118】
(3)誘電率評価
平滑に調製した膜を、インピーダンス測定器(ヒューレットパッカード製、HP4195A)を用い、周波数100KHzでの誘電率を測定した。
【0119】
(4)CMP耐性評価
研磨機として、6インチ仕様の定盤/1ヘッドの枚葉式CMP装置を使用し、基板吸着パッドを取り付けたホルダーに基板をセットし、CMPパッド(IC1000/Suba400;ロデール・ニッタ製)に、膜面を下にして前記ホルダーを載せ、加工荷重を6900Pa(1psi=6895Pa)に設定した。CMPパッドに研磨液(C1010;昭和電工製)を150cc/minの速度で滴下しながら、定盤およびヘッド回転数を50rpmで1分間研磨した。研磨後のウエハを純水で良く洗浄し、乾燥した。
このようにしてCMPにより研磨した後のウエハ表面を光学および電子顕微鏡で観察した。
クラック・はがれの発生 なし・・・○、有・・・×
【0120】
(5)空孔率
BET理論により比表面積を求め、得られた比表面積からDH(Dollimore & Heal Method)法を適用して細孔径分布を計算し、得られた細孔径分布をスムージング処理し、そ
の積分値を細孔容積ΣVpとし、この細孔容積ΣVpの層間絶縁膜の体積に対する百分率で示した。
【0121】
(6)成膜均一性の評価
成膜乾燥後に目視で評価した。
均一に膜が形成されたと判断できたもの;○
波打ち、色むら、すじ等の不均一性が観察されたもの;(表中で記載)
【実施例1】
【0122】
1,4−ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン1.0gを1−ブタノール1.0gに溶解し、1−ブタノール溶液を作成した。
一方、1N塩酸0.2gを1−ブタノール1.0gに加えた。この両者を合わせて氷冷しながら30秒間撹拌し、前駆体溶液を調製した。この前駆体溶液をスピンコート法によ
り前記半導体装置表面に塗布した。ここでは30秒間で3000rpmまで回転速度を上げ、3000rpmに到達した時点で10秒間保持した。120℃で1時間養生し、そして400℃の窒素雰囲気中で30分焼成した。その結果、厚さ2μmの透明な低誘電率薄膜を形成した。
【0123】
さらに、1psiの圧力下でCMPを行ったところ、膜のはがれ等もなく平滑に仕上げることが出来、CMP耐性を有することが確認された。
【0124】
この構成によれば、層間絶縁膜7の誘電率が低いため、第1層配線と第2層配線との間に形成される寄生容量は小さく抑えられ高速駆動可能な半導体装置を提供することが可能となる。
【実施例2】
【0125】
(二官能前駆体の合成)
1,7−オクタジエン(和光純薬製)11.0gと、ジエトキシメチルシラン(信越シリコン社製)26.9gのトルエン溶液に、塩化白金酸(和光純薬製)とジビニルテトラメチルジシロキサン(Ge1est社製)から調製したカルステッド触媒(Karsted:USP3775452)溶液0.05mmolを混合し、30℃の窒素雰囲気下で24時間撹拌した。このようにして得られた反応混合物を蒸留にて精製し、1,8−ビス(ジエトキシメチルシリル)オクタンを得た。構造は1H−NMR(Bruker製 核磁気共鳴分光機 DRX−300)で確認した。
【0126】
そして、前述の工程により形成した二官能前駆体である1,8−ビス(ジエトキシメチルシリル)オクタン1.0gを1−ブタノール1.0gに溶解し、1−ブタノール溶液を調製した。
【0127】
一方、1N塩酸0.2gを1−ブタノール1.0gに加えた。この両者を併せて氷冷しながら30秒間撹拌し、前駆体溶液を調製した。この前駆体溶液をスピンコート法により前記半導体装置表面に塗布し、室温(20℃)にて2時間養生して、厚さ2μmの透明な低誘電率薄膜を形成した。
【0128】
そして、第2層配線10を形成したのち、最後に同様の方法を用いて膜11としてこの低誘電率薄膜を形成した。この構成によれば、層間絶縁膜7の誘電率が低いため、第1層配線と第2層配線との間に形成される寄生容量は小さく抑えられ高速駆動可能な半導体装置を提供することが可能となる。
さらに縮合反応の更なる進行、溶媒の蒸発を企図した架橋固定化反応では、窒素フロー下において400℃30分間焼成することが望ましい。
【実施例3】
【0129】
実施例2において合成した二官能前駆体である1,8−ビス(ジエトキシメチルシリル)オクタン0.45gおよびn−オクチルトリエトキシシラン0.05gを1−ブタノール4.5gに溶解し、溶液を調製した。
一方、1N塩酸0.1gを前記溶液に加え、室温で10分間撹拌し、前駆体溶液を調製した。この前駆体溶液をスピンコート法により前記半導体装置表面に塗布し、室温(20℃)にて1時間養生して、無色透明で弾力性をもつ低誘電率薄膜を形成した。
【0130】
そして、第2層配線10を形成したのち、最後に同様の方法を用いて膜11としてこの低誘電率薄膜を形成した。この構成によれば、層間絶縁膜7の誘電率が3.01となり、第1層配線と第2層配線との間に形成される寄生容量は小さく抑えられ高速駆動可能な半導体装置を提供することが可能となる。
さらに縮合反応の更なる進行、溶媒の蒸発を企図した架橋固定化反応では、窒素フロー下において425℃、30分間焼成することが望ましい。
【実施例4】
【0131】
前記実施例2において、1−ブタノールの代わりにiso−プロパノール前駆体溶液を形成したほかは前記実施例2と同様にして層間絶縁膜7を形成した。
4インチ基板の場合は半導体装置表面に塗布後、塗布膜表面が均一で、平坦な膜が得られた。6インチ基板の場合は半導体装置表面に塗布後、外周縁部から5mm程度内側の部分において、部分的に塗布厚が厚くなり、また波打ちが生じていたが、それ以外は均一な膜が得られた。
【実施例5】
【0132】
前記実施例2において、1−ブタノールの代わりに1−ヘキサノール前駆体溶液を形成したほかは前記実施例2と同様にして層間絶縁膜7を形成した。
4インチ基板の場合は半導体装置表面に塗布後、塗布膜表面が均一で平坦な膜が得られた。6インチ基板の場合は半導体装置表面に塗布後、外周縁部から5mm程度内側の部分において、外周縁部に向けて連続的に塗布厚が厚くなっていると思われる色ムラが見られたが、それ以外は均一な膜が得られた。
(比較例1)
【0133】
実施例2において、1,8−ビス(ジエトキシメチルシリル)オクタンの代わりに1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン前駆体溶液を調製したほかは実施例2と同様にして層間絶縁膜7を形成した。
この場合は半導体装置表面に塗布後、1psiの圧力下でCMPを行ったところCMP耐性を持たない脆い膜となってしまい、光学顕微鏡で観察できる0.3mm2ぐらいのレ
ベルの膜のはがれが多数観察できた。
【0134】
以上のようにして形成した実施例1〜5および比較例1の方法で形成した層間絶縁膜について前述した6つの評価方法で評価を行なった。この評価結果を次表に示す。
【0135】
【表1】

【0136】
上記表1から明らかなように、実施例1〜3の層間絶縁膜は低誘電率でかつクラックやはがれのない信頼性の高いものとなっている。また耐熱性やヤング率についても層間絶縁膜として、あるいはパッシベーション膜として有効な値を得ることができた。
これに対し、比較例1の層間絶縁膜はクラックやはがれが生じてしまい、層間絶縁膜として必要な機械的強度が十分ではなかった。
【0137】
なお、前駆体溶液の組成については、前記実施形態の組成に限定されることなく、適宜
調製可能である。ただし、シリル基を加水分解するための触媒をブレンステッド酸で構成したが、ブレンステッド酸に限定されることなく、宜変使用可能である。また、脱水縮合にブレンステッド酸をもちいたが、ブレンステッド酸に限定されることなく、宜変使用可能である。さらに、前駆体溶液の形成に際しては、加熱により予備架橋を行なうようにしてもよい。
また、成膜後加熱焼成してもよく、加熱雰囲気は窒素雰囲気中が望ましい。
また、加熱工程を追加することにより、耐熱性、耐湿性が向上し、リーク電流の低減を図ることが可能となる。
【0138】
〔第2の実施の形態〕
なお、前記第1の実施形態では、スピンコート法によって低誘電率薄膜を形成したが、前駆体溶液に浸せきすることによって行ってもよい。また、前駆体溶液に浸漬して成膜する、ディップコート法を用いてもよい。
【0139】
すなわち、基板を、前駆体溶液の液面に対して所望の速度で下降させて溶液中に沈め、静置する。そして所望の時間経過後再び、基板を垂直に所望の速度で上昇させて溶液から取り出す。そして、必要に応じて、加熱焼成することにより、有機無機複合体を形成する。
【0140】
なお、前記実施の形態では、半導体装置の層間絶縁膜への有機無機複合膜の適用例について説明したが、シリコンデバイスのみならず、HBT、半導体レーザなど化合物半導体を用いたデバイス、マイクロ波ICなどの高周波デバイス、フィルムキャリアなどを用いたマイクロ波伝送線路あるいは多層プリント基板、などにも適用可能である。
また、本発明の低誘電率薄膜は、膜としてのみならずバルク体あるいはテープ状体として形成し、半導体装置に貼着するものに対しても有効である。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の低誘電率薄膜は、シリコンデバイス、HBT、化合物半導体を用いたデバイス、高周波デバイス、マイクロ波伝送線路あるいは多層プリント基板などに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明の実施の形態の半導体装置を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の半導体装置の製造工程図である。
【符号の説明】
【0143】
1 シリコン基板
2 絶縁膜
3 ゲート酸化膜
4 ゲート電極
5a,5b 低濃度不純物拡散領域(ソース・ドレイン領域)
6a,6b 高濃度不純物拡散領域(ソース・ドレイン領域)
7 層間絶縁膜
8 第1層配線
9 コンタクトホール
10 第2層配線
11 膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属−酸素結合による架橋構造を有する有機無機複合体において、下記一般式(1)で示される化合物を有することを特徴とする有機無機複合体。
【化1】

(式中、Mは金属又はシリコン、Xは架橋に関与する−O−結合又はOH基であり、R1
は炭素数8〜20の炭素原子含有分子鎖基であり、R2はメチル、エチル、プロピル、又
はフェニル基のいずれかの基を表し、n1、n2は0、1、または2のいずれかである。)
【請求項2】
前記Mはシリコンであることを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合体。
【請求項3】
前記一般式(1)においてR1はポリメチレン基であることを特徴とする請求項1に記
載の有機無機複合体。
【請求項4】
前記ポリメチレン基が下記一般式(2)で表されることを特徴とする請求項3に記載の有機無機複合体。
【化2】

(式中、nは整数を表す。)
【請求項5】
前記化合物が、下記一般式(3)で示される化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機無機複合体。
【化3】

(式中、Xは架橋に関与する−O−結合又はOH基であり、n1、n2は0、1、または2のいずれかである。)
【請求項6】
前記一般式(1)においてR1はベンゼン環を含む炭化水素基であることを特徴とする
請求項1または2に記載の有機無機複合体。
【請求項7】
前記炭化水素基が下記一般式(4)で表されることを特徴とする請求項6に記載の有機無機複合体。
【化4】

【請求項8】
前記一般式(4)において、n、mが1〜20の整数の範囲にあることを特徴とする請求項7に記載の有機無機複合体。
【請求項9】
前記一般式(4)において、n、mが各々2であることを特徴とする請求項8に記載の有機無機複合体。
【請求項10】
前記化合物が、下記一般式(5)で示される化合物であることを特徴とする請求項1、2、6,7、8および9のいずれかに記載の有機無機複合体。
【化5】

(式中、Xは架橋に関与する−O−結合又はOH基であり、n1、n2は0、1、または2のいずれかである。)
【請求項11】
さらに、下記一般式(6)で示される化合物を有することを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合体。
4-n3 − M − (R3n3 ・・・(6)
(式中、Mは金属又はシリコン、Xは架橋に関与する−O−結合又はOH基であり、R3
は炭素数1〜50の炭素原子含有分子鎖基であり、n3は1、2または3のいずれかである。)
【請求項12】
前記一般式(6)で示される化合物の含有量が、前記一般式(1)で示される化合物と前記一般式(6)で示される化合物の合計量に対して5〜20質量%であることを特徴とする請求項11に記載の有機無機複合体。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかに記載の有機無機複合体を製造する方法であって、
複数の架橋性シリル基と、これに共有結合せしめられた炭素原子とを有する有機無機複合架橋性化合物とを含む混合物からなる前駆体を調整する工程と、
前記前駆体を基体上に成膜する工程と、
前記架橋性シリル基を加水分解/縮合させ、有機無機複合体を形成する縮合工程とを含むことを特徴とする有機無機複合体の製造方法。
【請求項14】
前記前駆体は、沸点が100℃〜130℃の溶媒を含むことを特徴とする請求項13に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項15】
前記縮合工程は、前記架橋性シリル基に対して0.5〜1.5当量の水を添加する工程を含むことを特徴とする請求項13に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項16】
前記縮合工程は、さらに触媒を添加する工程を含むことを特徴とする請求項15に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項17】
前記触媒はブレンステッド酸であることを特徴とする請求項16に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項18】
前記前駆体溶液は、少なくとも下記一般式(7)で示される化合物を有することを特徴とする請求項13乃至17のいずれかに記載の有機無機複合体の製造方法。
【化6】

(式中、Mは金属又はシリコンであり、R1は炭素数8〜20の炭素原子含有分子鎖基で
あり、R2はメチル、エチル、プロピル、又はフェニル基のいずれかの基を表し、R5はCl、OCH3、OC25、OC65、OH又はOCOCH3基のいずれかの基を表し、n1、n2は0、1、または2のいずれかである)
【請求項19】
前記一般式(7)においてR1は下記一般式(4)で表されることを特徴とする請求項
18に記載の有機無機複合体の製造方法。
【化7】

【請求項20】
前記一般式(4)の構造がp体であることを特徴とする請求項19に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項21】
前記一般式(7)においてR1は−(CH28− で表されるオクタメチレンであるこ
とを特徴とする請求項18に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項22】
前記一般式(7)において、R2はメチル基を、R5はOCH3またはOC25基を表す
ことを特徴とする請求項18に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項23】
前記前駆体溶液は、さらに下記一般式(8)で示される化合物を有することを特徴とする請求項18に記載の有機無機複合体の製造方法。
54-n3 − M − (R3n3 ・・・(8)
(式中、Mは金属又はシリコンであり、R3は炭素数1〜50の炭素原子含有分子鎖基で
あり、R5はCl、OCH3、OC25、OC65、OH又はOCOCH3基のいずれかの
基を表し、n3は1、2または3のいずれかである)
【請求項24】
前記一般式(8)で示される化合物の含有量が、前記一般式(7)で示される化合物と前記一般式(8)で示される化合物の合計量に対して5〜20質量%であることを特徴とする請求項23に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項25】
請求項1乃至12のいずれかに記載のシリコン−酸素結合による架橋構造有機無機複合体を用いたことを特徴とする半導体装置。
【請求項26】
半導体基板または半導体基板上に形成された第1の配線導体と、第2の配線導体との間に介在せしめられる層間絶縁膜を具備し、
前記層間絶縁膜が、前記シリコン−酸素結合による架橋構造を有する有機無機複合体で構成されたことを特徴とする請求項25に記載の半導体装置。
【請求項27】
素子形成のなされた半導体基板表面にパッシベーション膜を形成してなり、前記パッシベーション膜が、前記シリコン−酸素結合による架橋構造を有する有機無機複合体で構成されたことを特徴とする請求項25または26に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−28473(P2006−28473A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354497(P2004−354497)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】