有機薄膜トランジスタとその製造方法
【課題】高性能でばらつきの少ない有機薄膜トランジスタとその簡便な製造方法の提供。
【解決手段】(1)基板上にソース電極、ドレイン電極、及びソース電極とドレイン電極の間のチャネル部を構成するインクジェット法で形成された有機半導体層を有し、前記チャネル部は、平面視において前記有機半導体層の輪郭の最大幅Rを与える線分の中点を含まず、チャネル長Lが、前記最大幅Rに対し「L<R/2」を満たす有機薄膜トランジスタ。
(2)前記有機半導体層では、前記輪郭から中点に向かって結晶粒が配向しており、前記ソース電極領域から成長した結晶粒と、ドレイン電極領域から成長した結晶粒とが衝突して形成される結晶粒界αが前記チャネル部に無い(1)記載の有機薄膜トランジスタ。
(3)有機半導体材料を含むインクを用い、インクジェット法により有機半導体層を形成する有機薄膜トランジスタの製造方法。
【解決手段】(1)基板上にソース電極、ドレイン電極、及びソース電極とドレイン電極の間のチャネル部を構成するインクジェット法で形成された有機半導体層を有し、前記チャネル部は、平面視において前記有機半導体層の輪郭の最大幅Rを与える線分の中点を含まず、チャネル長Lが、前記最大幅Rに対し「L<R/2」を満たす有機薄膜トランジスタ。
(2)前記有機半導体層では、前記輪郭から中点に向かって結晶粒が配向しており、前記ソース電極領域から成長した結晶粒と、ドレイン電極領域から成長した結晶粒とが衝突して形成される結晶粒界αが前記チャネル部に無い(1)記載の有機薄膜トランジスタ。
(3)有機半導体材料を含むインクを用い、インクジェット法により有機半導体層を形成する有機薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体を利用した薄膜トランジスタの研究開発が盛んに行なわれている。有機薄膜トランジスタの主な利点は、製造工程において、真空プロセスや高温プロセスの代わりに、印刷・塗布法のような生産性に優れたプロセスを用いることができ、製造コストを抑えることができること、大面積化やフレキシブル基板への適応の可能性などが挙げられる。
印刷・塗布法の中でも、インクジェット法に代表される液滴塗布法は、基板の所定の位置にのみ液滴を滴下させるため、材料を無駄なく利用することができ、他の方法に必要な不要部分の材料除去プロセスがいらないので、工程を簡略化することができる。
従来、インクジェット法による有機半導体層の形成には、有機溶剤への溶解性が比較的高い高分子材料が用いられてきた。しかし、このような可溶性の高分子有機半導体材料はキャリア移動度が低いという問題がある。
有機半導体層のキャリア移動度は、形成される有機半導体材料膜中における分子の配列により決まってくるが、可溶性の高分子材料は分子の配向状態の秩序性(結晶性)が充分高くないためキャリア移動度が低い。また、分子間力を高めることによって高次の秩序性を持たせた結晶性高分子材料では、高いキャリア移動度のものも報告されているが、分子間力の要因となる自己凝集力により、一般有機溶剤に対する溶解性が乏しいという問題がある。このように高分子材料では一般的にキャリア移動度と溶解性の両立は難しい。
【0003】
一方、真空蒸着法のようなドライプロセスによる低分子系材料を用いた有機半導体膜が多数報告されている。これらは高い結晶性薄膜となりやすく、キャリア移動度が大きいことが知られている。
最近になって、有機溶剤に対する溶解性を向上させた塗布型の低分子材料も開発されており(非特許文献1、2参照)、ウェットプロセスによって高い結晶性を有する有機半導体層が形成され、キャリア移動度が大きいことが報告されている。
しかし、非特許文献1、2に示される低分子系有機半導体材料を用い、該文献に記載の遠心塗工法やブレード塗工法に代えて、仮にインクジェット法により塗布製膜して有機半導体層を形成したとしても、良好な特性を得ることは難しい。
一般に、インクジェット法のような微小液滴塗布法により滴下された液滴は、溶媒が気化蒸発して乾燥する過程において、液滴周縁部における蒸発が中央部における蒸発よりも速く、不均一な膜プロファイルを与えることが知られている(非特許文献3参照)。
加えて、分子量の小さい低分子材料は、一般に材料自身の凝集力が強いため、インクジェット法で吐出された微小液滴の場合、溶媒蒸発が即座に進行して過飽和度が上昇し、核生成が多数生じ、サブミクロンサイズの微小な結晶核の集合体が分散した状態になりやすいことが知られている(特許文献1参照)。そのため、膜としての均一性及び連続性が得られなかったり、有機半導体層の結晶性を向上させることができないため、特性を発現させることが困難であるという課題がある。
【0004】
上記の課題に対して、例えば特許文献2では、有機半導体膜の形成領域を囲む隔壁層を設け、滴下した液体の一部分を早く乾燥させることでドメイン境界のない薄膜結晶を製造する方法を開示している。しかしながら、上記隔壁層を設ける方法は、製造工程の増加や複雑化を招くことが懸念される。また、前記特許文献1では、一つの種結晶から大きな結晶ドメインを形成する技術的な情報が十分開示されているとは言い難い。さらに、一般に有機半導体材料は結晶構造に異方性を有しており、結晶軸の向きが異なると移動度も変化するため、一つの種結晶から大きな結晶ドメインを成長させた場合、トランジスタ素子間の特性のばらつきが大きくなることも懸念される。
結晶性低分子有機半導体材料を溶液から結晶成長させ半導体層を形成する方法で、結晶粒を高配向させる方法としては、例えば、特許文献3に、ソース電極又はドレイン電極の一方に複数個の凹部を設けて溶液の乾燥に異方性を持たせることで、結晶粒が配向した有機半導体層を製造する方法が開示されている。この方法では、溶液が乾燥する方向に結晶粒を配向させることができるが、チャネル部の電流が流れる方向に結晶粒界ができることを防ぐことはできず、移動度の低下やトランジスタ素子間の特性のばらつきを招く可能性がある。また、電極に微細な構造を形成する必要があるため製造工程が複雑化するという課題がある。また、前記特許文献2では、インクジェット法のような微小液滴塗布法においても、その有効性を発揮しうるかどうか不明である。
【0005】
これに対し、非特許文献4では、ソース電極及びドレイン電極の形状を円形にすることで、結晶粒を溶媒の乾燥方向に配向できることが示されている。この方法では、インクジェット法を用いて有機半導体層を形成しているが、電極形状が同心円である特有の方法のため、電極形状が変わった場合に同じ効果を発揮できるとは言えない。また、トランジスタを集積化して電子デバイスに応用する際には、電極の形成方法や配線方法を複雑にする可能性がある。
また、上述した文献のいずれにも、溶液から結晶膜を形成する過程において生じる結晶粒界を確実に低減する方法については何ら言及されていない。
以上のように、インクジェット法により簡便に有機半導体層を形成し、特性の優れた、ばらつきの少ない有機薄膜トランジスタを得ることについては、いまだ十分な解決手段は提示されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、高性能でばらつきの少ない有機薄膜トランジスタとその簡便な製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、次の1)〜4)の発明によって解決される。
1) 基板上にソース電極、ドレイン電極、及びソース電極とドレイン電極の間のチャネル部を構成する有機半導体層を有し、前記チャネル部は、平面視において前記有機半導体層の輪郭の最大幅Rを与える線分の中点を含まず、チャネル長Lが、前記最大幅Rに対し「L<R/2」を満たすことを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
2) 前記有機半導体層では、前記輪郭から中点に向かって結晶粒が配向しており、前記ソース電極領域から成長した結晶粒と、ドレイン電極領域から成長した結晶粒とが衝突して形成される結晶粒界αが前記チャネル部に無いことを特徴とする1)記載の有機薄膜トランジスタ。
3) 前記ソース電極及びドレイン電極が、チオール化合物により表面修飾されていることを特徴とする1)又は2)記載の有機薄膜トランジスタ。
4) 有機半導体材料を含むインクを用い、インクジェット法により有機半導体層を形成することを特徴とする1)〜3)のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、チャネル部に、ソース電極領域から成長した結晶粒と、ドレイン電極領域から成長した結晶粒とが衝突して形成される結晶粒界αがなく、結晶粒が高配向した有機半導体層をインクジェット法で作製することができ、高性能でばらつきの少ない有機薄膜トランジスタとその簡便な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】有機薄膜トランジスタの一例の概略構造を示す図。(A)ボトムコンタクトボトムゲート型、(B)ボトムコンタクトトップゲート型、(C)トップコンタクトボトムゲート型、(D)トップコンタクトトップゲート型。
【図2】インクジェット塗布装置及び、微小液滴の挙動を観察するための装置を示す図。(A)概略図、(B)高速度カメラユニット及び照明手段12を、液滴の飛翔方向から約45度の角度をもって配置し、液滴が着弾する基板9上でピントを合わせるようにした図、(C)高速度カメラユニットとインクジェットヘッドを基板9の真上に並列に配置した図、(D)高速度カメラユニットと照明手段12を液滴の飛翔方向に対して垂直に配置した図。
【図3】インクジェット法で吐出された微小液滴の乾燥過程の様子を、図2(C)の配置により実際に観察した例を示す図。(1)から(4)へ変化する。
【図4】インクジェット法で吐出された微小液滴の乾燥過程及び結晶成長の様子の説明図。(A−1)〜(A−4)は乾燥過程及び結晶成長の様子を実際に捉えた偏光顕微鏡写真の一部、(B−1)〜(B−4)はその模式図、(C−1)〜(C−4)は液滴を真横からみた模式図。
【図5】結晶粒界αの発生する部位16をチャネル部として使用せず、結晶粒が高配向した領域15をチャネル部とするトランジスタの一例の説明図。(A)は中心に向かって結晶粒が配向した結晶膜の偏光顕微鏡写真(実施例2)上に、結晶膜の輪郭14を示すための点線を描いた図、(B)はソース電極3及びドレイン電極4と、輪郭14内の結晶膜との関係を示す模式図、(C)はそれを真横からみた模式図。
【図6】絶縁層2、ソース電極3、ドレイン電極4及び基板6上にインクを滴下した場合の乾燥過程の模式図。(A)〜(D)は乾燥の進行に伴う変化を示す図。(E)は実際に作製したトランジスタの偏光顕微鏡写真(実施例1)。
【図7】比較例1の結晶薄膜の偏光顕微鏡写真を示す図。
【図8】比較例2の結晶薄膜の偏光顕微鏡写真を示す図。
【図9】比較例3の結晶薄膜の偏光顕微鏡写真を示す図。
【図10】実施例2で作製した電極パターンの模式図。
【図11】比較例4で作製した電極パターンの模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明者らは、インクジェット法で吐出される微小液滴の乾燥過程と低分子有機半導体の結晶化の様子を高速度カメラによって捉え、有機半導体層が形成される過程をリアルタイムで観察することにより、良好なキャリア移動度を示す高性能の有機薄膜トランジスタに寄与する重要な因子を見出した。
すなわち、後述する図4(インクジェット法で吐出された微小液滴の乾燥過程及び結晶成長の様子を説明するための図)に示すように、インクジェット法で吐出され滴下されたインク13は、平面視におけるインクの周辺部から有機半導体の析出が始まり、その輪郭14から中心に向かって結晶成長が進行する。したがって、15で示される領域は、結晶粒が高配向しており、輪郭からそれぞれ成長してきた結晶が衝突する中心16は、大きな結晶粒界が発生する部位となる。
そこで、後述する図5に示すように、ソース電極領域から成長した結晶粒と、ドレイン電極領域から成長した結晶粒とが衝突して形成される境目(結晶粒界α)の発生する部位16をチャネル部として使用せず、結晶粒が高配向した領域15をチャネル部とするトランジスタを作製することにより、従来技術の問題点を改善できることがわかった。
つまり、インクの自然な乾燥過程によって結晶粒が高配向した領域を選択的にチャネル部として用い、チャネル部の結晶粒界αをなくすことにより、性能の低下やばらつきの発現を確実に回避することができる。その結果、高性能で、ばらつきの少ない有機薄膜トランジスタとその簡便な製造方法を提供することができる。
【0011】
本発明で用いる有機半導体材料としては、塗布型低分子有機半導体材料が好適である。特に下記(式1)に示すような、有機溶媒への溶解性を付与する溶解性基を有する芳香族化合物が好ましい。
【化1】
(式中、Arは複素環を含んでもよいアリール基、ポルフィリン環基、発色性アゾ残基等のπ型共役性基又は芳香族基を表し、RはArに結合する溶解性基を表し、n、mは自然数である。)
溶解性基としては例えば、アルキル基、アルコキシ基、チオアルキル基、トリアルキルシリル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリル基、アルアリル基、アリルアルキル基、アリロキシ基、パーフロロアルキル基、パーフロロアルケニル基、アルキルカルボニル基、アルキルカルボキシル基などが挙げられる。
【0012】
芳香族基であるArは、複素環を含んでもよい多環縮合などが挙げられ、具体例としては例えば、下記[化2]などを部分構造として有するものが挙げられる。
【化2】
【0013】
溶解性基であるRの具体例としては、例えば下記〔化3〕に示す官能基が挙げられる。ここで、a,b,cは、それぞれ独立に1〜30の整数である。溶解性の効果と汎用性の面から1〜22の整数の範囲がより好ましい。なお、〔化3〕中の「*」は、ここに前記Arが結合するという印である。
【化3】
【0014】
塗布型低分子有機半導体材料の具体例としては以下のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化4】
【0015】
次に、本発明の有機薄膜トランジスタの構造について図を参照しつつ説明する。
図1は有機薄膜トランジスタの一例の概略構造を示す図であるが、基板6上に絶縁層2により空間的に分離された第一の電極3、第二の電極4及び第三の電極5が設けられており、第三の電極5への電圧印加により、有機半導体層1を流れる電流を制御することができる。以下、第一の電極3をソース電極、第二の電極4をドレイン電極、第三の電極5をゲート電極と呼ぶ。図1(A)はボトムコンタクトボトムゲート型のもの、図1(B)はボトムコンタクトトップゲート型のもの、図1(C)はトップコンタクトボトムゲート型のもの、図1(D)はトップコンタクトトップゲート型のもので、いずれも電界効果型トランジスタ(FET)である。
また、本発明の有機薄膜トランジスタは、必要に応じて各電極からの引き出し電極を設けることができる。さらに、水分、大気及びガスからの保護、又はデバイスの集積の都合上の保護等のため、必要に応じて保護層を設けることもできる。
【0016】
基板6としては、例えば、金属基板、ガラス基板、プラスチック基板、シリコン基板等が挙げられる。一連の製造工程において寸法変化が少ない基板は製造工程を容易にすることができる。また、導電性基板を用いることにより、ゲート電極を兼ねたり、さらには、ゲート電極と導電性基板とを積層した構造にすることもできる。
プラスチック基板を用いると、完成するデバイスにフレキシビリティ、軽量化、安価、耐衝撃性などの特性を与えることができる。
プラスチック基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなる基板が挙げられる。
【0017】
絶縁層2には無機又は有機の種々の絶縁層材料を用いることができる。
無機絶縁層材料としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル等が挙げられる。
また、有機絶縁層材料としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、無置換又はハロゲン置換ポリパラキシリレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン、ポリメチルメタクリレート、シルセスキオキサン、ポリビニルブチラール等が挙げられる。
なお、絶縁性を向上させるために、有機材料に無機材料を添加してもよい。
絶縁層の作製方法は、その種類に応じて適宜選択できる。例えば、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、蒸着法、スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、ブレードコート法、バーコート法、印刷法、ディスペンサ法、インクジェット法などを用いることができる。
【0018】
ソース電極3、ドレイン電極4、及びゲート電極5の材料は、導電性材料であれば特に限定されない。
具体例としては、金、白金、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、銀、チタン、鉄、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの合金、インジウム酸化物などの導電性金属酸化物、あるいは、ドーピング等で導電率を向上させた無機半導体及び有機半導体、例えば、シリコン、ゲルマニウム、グラファイト、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチエニレンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体などが挙げられる。
また、ソース電極3とドレイン電極4は、有機半導体層1との接触面において電気抵抗の少ない材料で形成することが望ましい。
【0019】
電極の形成方法としては、上記材料を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて導電性薄膜を形成し、公知のフォトリソグラフィー法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅等の金属箔上に熱転写法、インクジェット法等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。
また、導電性ポリマーの溶液又は分散液、あるいは導電性微粒子分散液を直接インクジェット法でパターニングしても良いし、塗工膜からリソグラフィーやレーザーアブレーション等により形成しても良い。さらに、導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペースト等を、凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等の印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
【0020】
次に、インクジェット法を用いて有機半導体層1を形成する方法について説明する。
インクジェット法で用いる溶媒には、インクジェットのノズルから液滴を安定に吐出させることができる有機溶媒を選択する。安定に吐出させるためには、少なくとも、溶媒の乾燥速度と、溶質の溶解度に対するインクの溶質濃度の二点から検討する必要がある。
乾燥速度については、過度に高い蒸気圧、すなわち、沸点が比較的低い溶媒は、インクジェットのノズル周辺での急激な溶媒乾燥によって溶質が析出し、ノズルの目詰まりが生じるという問題が発生するため、工業的製造において不適切である。したがって、一般にインクジェット法に用いる溶媒は高沸点のものが良いとされているが、本発明では、少なくとも150℃以上の沸点を有する溶媒を含むことが望ましい。さらに望ましくは、少なくとも200℃以上の沸点を有する溶媒を含むことである。
また、インク溶媒に対する溶質の溶解度としては、本発明で用いられる有機半導体材料を0.1重量%以上溶解させる溶媒が望ましい。さらに望ましくは0.5重量%以上溶解させる溶媒である。このような溶媒としては、クメン、シメン、メシチレン、2,4−トリメチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、アミルベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、ニトロベンゼン、ベンゾニトリル、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、テトラリン、1,5−ジメチルテトラリン、シクロヘキサノン、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0021】
図2(A)に、インクジェット塗布装置及び、微小液滴の挙動を観察するための装置の概略図を示す。インクジェット塗布装置は、インクジェットヘッド7、電圧印加コントローラ(図示せず)、及びステージ8からなる。微小液滴の挙動を観察装置は、ズームレンズ10とCMOSイメージセンサ収納のカメラ本体11からなる高速度カメラユニット、撮影コントローラ(図示せず)、及び照明手段12からなる。
インクジェットヘッド7から吐出される微小液滴の着弾の様子、及び、乾燥過程を観察する場合には、図2(B)のように、高速度カメラユニット及び照明手段12を、液滴の飛翔方向から約45度の角度をもって配置し、液滴が着弾する層9上でピントを合わせるようにする。
一般に、インクジェット法で用いられる微小液滴の液量は数ピコリットルオーダーであり、液滴のサイズは数十ミクロンとなる。
ズームレンズ10は最大1000倍まで拡大することができるため、液滴の微小な変化を詳細に観察することができる。
【0022】
また、カメラ本体11は最大24000fpsの解像度で録画することが可能であり、吐出された微小液滴の乾燥過程を撮影することで、乾燥時間を調べることができる。また微小液滴の挙動だけでなく、溶質である半導体材料の析出や結晶化の様子も録画することができる。高速度カメラユニット及び照明手段12に偏光子を入れて偏光観察し、結晶の異方性を調べることもできる。
安定にインクを吐出するための印加電圧の条件は、液滴の飛翔状態を観察することにより決めることができる。
また、図2(C)のように、高速度カメラユニットとインクジェットヘッドを液滴が着弾する層9の真上に並列に配置すれば、インクが層9上に着弾した後、ステージ8を移動させ、着弾したインクをカメラの視野に移動させて、直上から乾燥過程や結晶成長の様子を観察することもできる。
また、図2(D)のように、高速度カメラユニットと照明手段12を液滴の飛翔方向に対して垂直に配置し、照明手段12の光源をストロボ発光するLEDとすれば、インクジェットヘッド7に印加する電気信号と同期した信号を光源に送ることにより、インクの吐出とLEDの発光を同期させることが可能である。この状態で、一定の周波数でインクを吐出し、飛翔中の液滴の影をカメラで撮影する。この飛翔液滴の形状を球形として見積もることにより液量を計算することができる。液量を見積もる方法としては、上記の他に、インクの滴下数とインクの重量から一滴当たりの重量及び体積を計算してもよい。
【0023】
通常、ディスペンサ等により滴下される液量はマイクロリットルオーダーであり、インクジェット法で用いられる液量(体積)はそれより6桁ほど小さい量である。また、液滴の表面積で比較すると4桁の違いがあるため、液滴周辺の雰囲気(蒸気圧や気化した溶媒の拡散速度)は大きく異なる。したがって、マイクロリットルオーダーの液滴の乾燥時間からピコリットルオーダーの微小液滴の乾燥時間を見積もる場合には、乾燥するときの溶媒雰囲気が同じになるように注意する必要がある。
また、液滴の重量減少から乾燥時間を見積もる場合には、測定精度の問題を考慮する必要がある。したがって、上記の評価には測定上困難な点が多くある。
しかしながら、本装置では、微小液滴の着弾後の様子をその場で観察できることから、実際のインクの乾燥時間を測定することができる。また、乾燥に伴う溶質の析出や結晶化の過程を直に観察できることから、微小液滴そのものの挙動を正確に把握することが可能である。
【0024】
一般に、溶液から良質な結晶を得るためには、溶媒蒸発による過飽和状態での結晶核の発生後に、更なる結晶核の生成よりも結晶成長の方が優先的に生じる状態にすればよいことが知られている。微小液滴において、このような状態を実現するためには、溶媒の乾燥速度をできるだけ落として、結晶核が生成する過飽和状態に緩やかにもっていくことや、結晶核が生じた後により大きな結晶ドメインが形成されるようにゆっくり成長させるのがよいと考えられる。これは、使用する溶媒や微小液滴が着弾する表面の濡れ性、そして、溶質の溶解度やインクの溶質濃度もまた、適切にコントロールする必要があることを意味している。
例えば、液滴の表面エネルギーよりも着弾表面のエネルギーが極端に小さい場合には、乾燥過程において半導体材料が結晶化して基板を被覆していくよりも前に液滴が収縮していくため、液滴の乾燥と共に液滴中心に溶質が移動して限りなく一点に集まってしまう。この様子を図3に示す。すなわち、インクジェット法で吐出された微小液滴の乾燥過程の様子を、図2(C)の配置で実際に観察した例について、図3(1)〜(4)に示す。
このようにして出来たものは、溶質の微結晶が無秩序に集合した状態であり、不連続な微結晶間をキャリアが伝導できなかったり、ソース電極とドレイン電極を連続的に被覆することができなかったりするため特性を発現できない。このような現象は、低分子化合物同士の凝集力の方が基板と低分子化合物が結合する力よりも大きいことや、溶質が低分子化合物であるインクは粘度が低いため、表面の濡れ性に応じた液滴の形態変化が大きいことが原因であると考えられる。
【0025】
上記のように極端に表面エネルギーが小さくなく、インク着弾後に液滴の形態が保持される場合には、液滴の周辺部で溶媒の蒸発が先に進み、先に飽和濃度に達して結晶が析出し始めることが確認される。この様子を図4に示す。(A−1)〜(A−4)は、インクジェット法で吐出された微小液滴の乾燥過程及び結晶成長の様子を、図2(C)の配置で実際に観察した結果である。(B−1)〜(B−4)は、インク液滴の乾燥及び結晶成長の様子の模式図であり、(C−1)〜(C−4)は、インク液滴を真横からみた様子の模式図である。インクジェット法で塗布されたインクの形状は、インクに対する濡れ性がほぼ均一な単一表面の場合、平面視でほぼ円形となる。また、複数種の表面にまたがって塗布される場合も、濡れ性に大きな差が無い場合には、概ね円形又は楕円形となる。このような場合には、液滴の周辺部での溶媒の蒸発が先に進み、溶質濃度が先に飽和濃度に達して結晶が析出し始める。その後、溶媒の蒸発と結晶成長が進行するにつれ、液滴の周辺から中心部に向かって結晶が成長していく様子が確認できる。これは、低分子化合物の自己凝集力が強いためで、安定な結晶核が形成され析出が始まると、溶液中の分子が次々に結晶に取り込まれ大きな結晶へと成長していくからである。その結果、放射状に配向した結晶膜が得られることがわかった。
【0026】
このようにして形成された結晶膜では、結晶膜の輪郭から中心に向かう領域15は結晶粒が高配向していることがわかる。そして、周辺から成長してきた結晶が衝突する中心には明確な結晶粒界αが発生する。このような部位は、微視的には膜の連続性を損なう空隙や分子配列の乱れた箇所であって、キャリアトラップの原因となり、キャリア伝導がスムーズに行えない原因となる。また、周辺部から結晶が成長すると、溶液中の分子は周辺部に向かって取り込まれていくため中心部の溶質が足りなくなり、明確な不連続領域を作る場合もある。溶質が低分子化合物の場合は、インク中の溶媒やその他の不純物と溶質分子が相互作用する力よりも、溶質分子同士の相互作用の方が強いため、結晶成長の過程で溶媒分子や不純物は中心部に取り残されやすくなる。このような残留溶媒や不純物は電荷移動を阻害すると考えられ、移動度の低下や素子間の特性ばらつきの原因となると考えられる。
本発明においては、上記のようなインクの自然な乾燥過程によって、結晶粒が高配向した領域を選択的にチャネル部として用いることで、チャネル部での結晶粒界αや不純物の影響を低減させ、性能の低下やばらつきの発現を確実に回避することができる。
【0027】
前記図3に示すような凝集物の形成を避け、図4に示すような連続的な結晶膜を作製するには、インクの極端な弾きを抑える必要がある。各種表面の濡れ性を測定する手段としては、溶媒の接触角の測定が挙げられる。そこで、濡れ性の異なる各種表面におけるインク溶媒の接触角を測定した。その結果を表1に示す。溶媒の接触角は協和界面科学社製DropMaster500により測定した。測定用基板には熱酸化膜付きのシリコンウェハーを用い各種表面処理を施した。
パリレン膜は第三化成社製diXCを、ポリイミド膜は京セラケミカル社製CT4112を、ナノ銀はアルバックマテリアル社製L−Ag1TeHを用いた。Au及びAgは真空蒸着法により形成した。また、PhTSはフェニルトリクロロシラン(東京化成工業社製)、HMDSはヘキサメチルジシラザン(東京応化工業社製)、C8TSはオクチルトリクロロシラン(東京化成工業社製)、C18TSはオクタデシルトリクロロシラン(東京化成工業社製)、FC8TSはパーフルオロオクチルトリクロロシラン(セントラル薬品社製)、PFBTはパーフルオロベンゼンチオール(シグマアルドリッチ社製)、PFDTはパーフルオロデカンチオール(シグマアルドリッチ社製)を表す。
【0028】
【表1】
【0029】
上記の各種表面上に、低分子有機半導体材料を溶解させたインクを吐出させたときの、連続的な結晶膜の形成の可否を調べた。その結果、溶媒の接触角が70度を越える表面では、図3(4)のような凝集物ができてしまい、綺麗な結晶膜を形成できなかった。したがって、インクが着弾する表面のインク溶媒に対する接触角は70度以下が好ましいことがわかった。C18TS処理表面よりも濡れやすい表面、すなわち、インク溶媒の接触角が55度よりも小さい場合には、特に安定して連続膜を作製することができた。
図1(A)(B)のボトムコンタクト型の素子を作製する場合には、インクの着弾表面が複数にまたがるため、濡れ性の違いに注意する必要がある。
そこで、絶縁層2、ソース電極3、ドレイン電極4及び基板6の各種表面の組み合わせにおいて、低分子有機半導体材料を溶解させたインクを吐出させたときの連続的な結晶膜の形成の可否を調べた。
その結果を表2に示す。「◎、○、×」は連続的な結晶膜の形成度合いの評価結果であり、評価基準は次のとおりである。
×:作製できなかった場合
○:作製できた場合
◎:より安定に作製できた場合
【0030】
【表2】
【0031】
表1の結果からもわかるように、表面修飾を施していない金属表面は有機溶媒を濡らしやすいため、大部分のインクが電極上へ移動してしまい、ソース・ドレイン電極間に連続膜が形成できなかった。したがって、前記図1(A)(B)のような2種類の表面(電極とチャネル部)にインクを着弾させることになる場合には、電極表面のインク溶媒に対する接触角は10度以上であることが好ましいことがわかった。
上記の理由から、絶縁層2、ソース電極3、ドレイン電極4及び基板6のインク溶媒に対する濡れ性が適切でない場合は、それらの表面を修飾することにより濡れ性を制御するとよい。表面処理材料は処理する表面との相互作用により適宜選択される。
絶縁層の表面処理材料としては、例えばシランカップリング材料が挙げられ、具体的には、HMDS、アルキルトリクロロシラン、アルキルトリメトキシシラン、アルキルトリエトキシシラン、パーフルオロアルキルエチルトリクロロシラン、パーフルオロアルキルエチルトリメトキシシラン、パーフルオロアルキルエチルトリメトキシシラン、アミノアルキルトリクロロシラン、ヒドロキシアルキルトリクロロシラン、フェニルアルキルトリクロロシラン等が挙げられる。また、電極の表面処理材料としては、例えばチオール化合物が挙げられ、具体的には、飽和又は不飽和アルキルチオール、パーフルオロアルキルチオール、置換又は無置換のベンゼンチオールなどが挙げられる。
【0032】
このようにインク溶媒の選択と液滴が着弾する絶縁層2、ソース電極3、ドレイン電極4及び基板6の濡れ性を制御すると、着弾したインクの形状は、概ね円形又は楕円形状となる〔図4(A−1)参照〕。このような形状の場合は、インクの乾燥が速い液滴周辺部で溶質の析出が起こり、半導体層の輪郭14を形成する。この輪郭の形状は、インク13の形状に起因して円形又は楕円形となることが多い。しかし、析出直前に微結晶が結合し合って大きな結晶を作る場合や析出が局所的に起こる場合はこの限りではない。そのような場合は、結晶の形状や析出の分布によって決まる形状、例えば多角形になることがある。いずれの場合も、半導体層の輪郭となる部位から着弾したインクの中心に向かって溶媒が乾燥すると共に結晶成長が促され、液滴中心に高配向した結晶膜が形成される。半導体層の輪郭のそれぞれから成長した結晶が衝突することで発生する結晶粒界αや、結晶の不連続領域、又は残留溶媒や不純物を含みやすい領域は、形成された半導体膜の中心部であり、半導体層の輪郭の最大幅を与える線分の中心位置となる〔図4(B−4)参照〕。
【0033】
本発明においては、そのような特性の低下やばらつきを発生させる要因となる半導体膜の中心位置16がチャネル部に含まれないようにすることで、移動度の低下や特性のばらつきを確実に低減することに成功した。例えば、トップコンタクト型のトランジスタを作製する場合には、形成された半導体膜の中心を含まないように、前記ソース電極及びドレイン電極を形成すればよい。図5にその一例の説明図を示す。(A)は中心に向かって結晶粒が配向した結晶膜の偏光顕微鏡写真上に、結晶膜の輪郭14を示すための点線を描いたものである。特性を低下させる結晶粒界αは半導体膜の中心16の位置にある。(B)はソース電極3及びドレイン電極4と、輪郭14内の結晶膜との関係を示す模式図であり、(C)はそれを真横からみた模式図である。ここで、前記有機半導体層の輪郭の最大幅を与えるR(17)に対して、チャネル長L(18)が「L<R/2」を満たすようにし、チャネル部が半導体膜の中心の結晶粒界αを含まないように配置すれば、特性の低下を招く結晶粒界αをチャネル部から無くし、結晶粒が高配向した領域15を優先的に使用できる。
【0034】
ボトムコンタクト型のトランジスタを作製する場合には、絶縁層2、ソース電極3、ドレイン電極4及び基板6のインクに対する濡れ性やインクの滴下量を調整した上で、インクの着弾中心をソース電極3又はドレイン電極4の一方に偏って位置させればよい。
図6は、絶縁層2、ソース電極3、ドレイン電極4及び基板6上にインクを滴下した場合の乾燥過程の模式図であり、乾燥が進行するに伴い(A)から(D)に変化することを示す。また(E)は、実際に作製したトランジスタの偏光顕微鏡写真である。
このように作製されたトランジスタは、液滴の周辺から成長した結晶が衝突する領域がチャネル部に無いため、良好な特性が得られることを確認した。高配向した領域をチャネル部に形成する方法としては、ソース電極3とドレイン電極4の濡れ性に差をつけ、着弾時のインクの乾燥に異方性を持たせることで、結晶粒界αが形成される中心位置をチャネル部に含まないようにすることもできる。また、ソース電極3とドレイン電極4のチャネル長L方向の長さを非対称にしておき、有機半導体層の中心位置を制御することもできる。また、チャネル長Lのサイズは、形成される有機半導体層全体のサイズに合わせて適宜選択することで、ソース電極3とドレイン電極4を高配向した結晶膜で電気的に接続することができる。
【0035】
本発明の有機薄膜トランジスタは、集積化することにより電子デバイスに応用できる。例えば、液晶、有機電界発光、電気泳動などの画像表示素子を駆動するための素子として利用でき、これらを集積化することにより、いわゆる「電子ペーパー」と呼ばれるディスプレイを製造することが可能である。また、ICタグ等の電子デバイスとして、本発明の機能性有機薄膜を集積したICを利用することも可能である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0037】
実施例1
以下の手順で図1(A)に示す構造の有機薄膜トランジスタを作製した。
膜厚300nmの熱酸化膜を絶縁層として、Nドープのシリコンウェハーを基板及びゲート電極として用いた。
酸化膜表面を酸素プラズマで洗浄した後、気相でHMDS処理を施し、絶縁層の表面の濡れ性を変化させた。
次いで、公知のフォトリソグラフィーにより、チャネル長10μm、膜厚100nmのAu電極パターンを形成した。
次いで、10mMのパーフルオロベンゼンチオールを含むエタノール溶液中に上記基板を18時間浸漬させて、ソース電極及びドレイン電極の表面の濡れ性を変化させた。
次いで、下記構造式〔化5〕で示される化合物を1重量%含む、溶媒6溶液をインクとして用い、インクジェット法で、およそ10ピコリットルの微小液滴を、図6(A)に示すように絶縁層及び電極表面上に滴下し、溶媒を乾燥させてソース電極及びドレイン電極をつなぐように結晶薄膜を形成し、有機薄膜トランジスタを得た。図6(E)に、その偏光顕微鏡写真を示す。
次いで、得られた有機薄膜トランジスタを、グローブボックス中で、80℃で加熱処理した。
同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、グローブボックス中で評価したところ、平均移動度0.08cm2/Vs(最大値が0.09cm2/Vs、最小値が0.07cm2/Vs)となり、ぱらつきが少なく、良好な特性が得られた。
これは、高配向した領域をチャネル部に用いており、ソース電極とドレイン電極の各方向から成長した結晶が衝突して形成される結晶粒界αがチャネル部に無いため、特性の低下やばらつきが抑えられたことによると考えられる。
【化5】
【0038】
比較例1
インクの着弾位置をチャネル部の中心にすることを除いて、実施例1と同様にして結晶薄膜を形成した。その偏光顕微鏡写真を図7に示す。
次いで、得られた有機薄膜トランジスタを、グローブボックス中で、80℃で加熱処理した。
同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、グローブボックス中で評価したところ、平均移動度0.01cm2/Vs(最大値が0.05cm2/Vs、最小値が0.001cm2/Vs)となった。これは、ソース電極とドレイン電極の各方向から成長した結晶がチャネル部で衝突して形成された電荷移動を阻害する結晶粒界αがあるためと考えられる。
【0039】
比較例2
電極の表面処理をしないことと、インク溶媒として溶媒4を用いることを除いて、実施例1と同様にして結晶薄膜を形成した。その偏光顕微鏡写真を図8に示す。
次いで、得られた有機薄膜トランジスタを、グローブボックス中で、80℃で加熱処理した。
作製したトランジスタの特性を、グローブボックス中で評価したところ、移動度0.0002cm2/Vsとなり、特性が大きく低下した。これは、図8からもわかるように、チャネル部で微結晶が分散した膜となっており、多くの結晶粒界αが電荷移動を阻害しているためと考えられる。
【0040】
比較例3
チャネル長Lを20μmにしたこと、電極の表面処理をパーフルオロデカンチオールに変更したこと、及び溶媒として溶媒5を用いたことを除いて、実施例1と同様にして結晶薄膜を形成した。その偏光顕微鏡写真を図9に示す。
次いで、得られた有機薄膜トランジスタを、グローブボックス中で、80℃で加熱処理した。
同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、グローブボックス中で評価したところ、平均移動度0.002cm2/Vs(最大値が0.05cm2/Vs、最小値が0.0003cm2/Vs)となり、特性のばらつきが大きいことがわかった。
図9には、結晶粒界αを点線で強調して示してある。このように、チャネル部に大きな結晶粒ができていることで良好な特性が得られる場合があるものの、ソース電極及びドレイン電極側から成長した結晶が衝突する結晶粒界αがチャネル部に存在し、電荷移動を阻害する度合いが異なるため、ばらつきを制御できていないと考えられる。
【0041】
実施例2
以下の手順で有機薄膜トランジスタを作製した。
膜厚300nmの熱酸化膜を絶縁層として、Nドープのシリコンウェハーを基板及びゲート電極として用いた。
酸化膜表面を酸素プラズマで洗浄した後、液相でフェニルトリクロロシラン処理を施し、絶縁層の表面の濡れ性を変化させた。
次いで、前記〔化5〕で示される化合物を1重量%含む溶媒5をインクとして用い、インクジェット法で、およそ50ピコリットルの微小液滴を絶縁層上に滴下し、溶媒を乾燥させて結晶薄膜を形成した。図5(A)はその偏光顕微鏡写真の一例である。
次いで、真空蒸着法により、図10の模式図に示すように、膜厚100nmのAu電極パターンを形成し、有機薄膜トランジスタを得た。
次いで、得られた有機薄膜トランジスタを、グローブボックス中で、80℃で加熱処理した。
同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、グローブボックス中で評価したところ、平均移動度0.02cm2/Vs(最大値が0.021cm2/Vs、最小値が0.017cm2/Vs)となり、ばらつきが少なく、良好な特性が得られた。これは、高配向した領域をチャネル部に用いており、液滴周辺から成長した結晶が衝突して形成される結晶粒界αがチャネル部に無いため、特性の低下やばらつきが抑えられたことによると考えられる。
【0042】
比較例4
電極の配置を図11の模式図に示すように変更したことを除いて、実施例2と同様にして有機薄膜トランジスタを作製した。
同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、グローブボックス中で評価したところ、平均移動度0.007cm2/Vs(最大値が0.01cm2/Vs、最小値が0.003cm2/Vs)となり、ぱらつきが大きく、特性の低下が見られた。
【0043】
実施例3〜6
下記〔化6〕〜〔化9〕に示す有機半導体材料を用いた点以外は実施例1と同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、実施例1と同様にしてグローブボックス中で評価した。結果を表3に示すが、いずれも、ばらつきが少なく良好な特性が得られた。
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【0044】
【表3】
【符号の説明】
【0045】
1 有機半導体層
2 絶縁層
3 第一の電極(ソース電極)
4 第二の電極(ドレイン電極)
5 第三の電極(ゲート電極)
6 基板
7 インクジェットヘッド
8 ステージ
9 液滴が着弾する層
10 ズームレンズ
11 カメラ本体
12 照明手段
13 インク
14 滴下されたインクの輪郭
15 結晶粒が高配向している領域
16 輪郭から成長してきた結晶が衝突する中心(大きな結晶粒界αが発生する部位)
17 有機半導体層の輪郭の最大幅(R)
18 チャネル長(L)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0046】
【特許文献1】特許第4103530号公報
【特許文献2】特開2008−227141号公報
【特許文献3】特開2007−294704号公報
【非特許文献】
【0047】
【非特許文献1】Marcia M.Payne et al.J.AM.CHEM.SOC.2005,127,4986〜4987
【非特許文献2】Hideaki Ebata et al.J.AM.CHEM.SOC.2007,129,15732〜15733
【非特許文献3】森井克行・下田達也 表面科学Vol.24,No.2,pp.90〜97,2003
【非特許文献4】Jung Ah Lim et al.Langmuir 2009,25(9),5404〜5410
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体を利用した薄膜トランジスタの研究開発が盛んに行なわれている。有機薄膜トランジスタの主な利点は、製造工程において、真空プロセスや高温プロセスの代わりに、印刷・塗布法のような生産性に優れたプロセスを用いることができ、製造コストを抑えることができること、大面積化やフレキシブル基板への適応の可能性などが挙げられる。
印刷・塗布法の中でも、インクジェット法に代表される液滴塗布法は、基板の所定の位置にのみ液滴を滴下させるため、材料を無駄なく利用することができ、他の方法に必要な不要部分の材料除去プロセスがいらないので、工程を簡略化することができる。
従来、インクジェット法による有機半導体層の形成には、有機溶剤への溶解性が比較的高い高分子材料が用いられてきた。しかし、このような可溶性の高分子有機半導体材料はキャリア移動度が低いという問題がある。
有機半導体層のキャリア移動度は、形成される有機半導体材料膜中における分子の配列により決まってくるが、可溶性の高分子材料は分子の配向状態の秩序性(結晶性)が充分高くないためキャリア移動度が低い。また、分子間力を高めることによって高次の秩序性を持たせた結晶性高分子材料では、高いキャリア移動度のものも報告されているが、分子間力の要因となる自己凝集力により、一般有機溶剤に対する溶解性が乏しいという問題がある。このように高分子材料では一般的にキャリア移動度と溶解性の両立は難しい。
【0003】
一方、真空蒸着法のようなドライプロセスによる低分子系材料を用いた有機半導体膜が多数報告されている。これらは高い結晶性薄膜となりやすく、キャリア移動度が大きいことが知られている。
最近になって、有機溶剤に対する溶解性を向上させた塗布型の低分子材料も開発されており(非特許文献1、2参照)、ウェットプロセスによって高い結晶性を有する有機半導体層が形成され、キャリア移動度が大きいことが報告されている。
しかし、非特許文献1、2に示される低分子系有機半導体材料を用い、該文献に記載の遠心塗工法やブレード塗工法に代えて、仮にインクジェット法により塗布製膜して有機半導体層を形成したとしても、良好な特性を得ることは難しい。
一般に、インクジェット法のような微小液滴塗布法により滴下された液滴は、溶媒が気化蒸発して乾燥する過程において、液滴周縁部における蒸発が中央部における蒸発よりも速く、不均一な膜プロファイルを与えることが知られている(非特許文献3参照)。
加えて、分子量の小さい低分子材料は、一般に材料自身の凝集力が強いため、インクジェット法で吐出された微小液滴の場合、溶媒蒸発が即座に進行して過飽和度が上昇し、核生成が多数生じ、サブミクロンサイズの微小な結晶核の集合体が分散した状態になりやすいことが知られている(特許文献1参照)。そのため、膜としての均一性及び連続性が得られなかったり、有機半導体層の結晶性を向上させることができないため、特性を発現させることが困難であるという課題がある。
【0004】
上記の課題に対して、例えば特許文献2では、有機半導体膜の形成領域を囲む隔壁層を設け、滴下した液体の一部分を早く乾燥させることでドメイン境界のない薄膜結晶を製造する方法を開示している。しかしながら、上記隔壁層を設ける方法は、製造工程の増加や複雑化を招くことが懸念される。また、前記特許文献1では、一つの種結晶から大きな結晶ドメインを形成する技術的な情報が十分開示されているとは言い難い。さらに、一般に有機半導体材料は結晶構造に異方性を有しており、結晶軸の向きが異なると移動度も変化するため、一つの種結晶から大きな結晶ドメインを成長させた場合、トランジスタ素子間の特性のばらつきが大きくなることも懸念される。
結晶性低分子有機半導体材料を溶液から結晶成長させ半導体層を形成する方法で、結晶粒を高配向させる方法としては、例えば、特許文献3に、ソース電極又はドレイン電極の一方に複数個の凹部を設けて溶液の乾燥に異方性を持たせることで、結晶粒が配向した有機半導体層を製造する方法が開示されている。この方法では、溶液が乾燥する方向に結晶粒を配向させることができるが、チャネル部の電流が流れる方向に結晶粒界ができることを防ぐことはできず、移動度の低下やトランジスタ素子間の特性のばらつきを招く可能性がある。また、電極に微細な構造を形成する必要があるため製造工程が複雑化するという課題がある。また、前記特許文献2では、インクジェット法のような微小液滴塗布法においても、その有効性を発揮しうるかどうか不明である。
【0005】
これに対し、非特許文献4では、ソース電極及びドレイン電極の形状を円形にすることで、結晶粒を溶媒の乾燥方向に配向できることが示されている。この方法では、インクジェット法を用いて有機半導体層を形成しているが、電極形状が同心円である特有の方法のため、電極形状が変わった場合に同じ効果を発揮できるとは言えない。また、トランジスタを集積化して電子デバイスに応用する際には、電極の形成方法や配線方法を複雑にする可能性がある。
また、上述した文献のいずれにも、溶液から結晶膜を形成する過程において生じる結晶粒界を確実に低減する方法については何ら言及されていない。
以上のように、インクジェット法により簡便に有機半導体層を形成し、特性の優れた、ばらつきの少ない有機薄膜トランジスタを得ることについては、いまだ十分な解決手段は提示されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、高性能でばらつきの少ない有機薄膜トランジスタとその簡便な製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、次の1)〜4)の発明によって解決される。
1) 基板上にソース電極、ドレイン電極、及びソース電極とドレイン電極の間のチャネル部を構成する有機半導体層を有し、前記チャネル部は、平面視において前記有機半導体層の輪郭の最大幅Rを与える線分の中点を含まず、チャネル長Lが、前記最大幅Rに対し「L<R/2」を満たすことを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
2) 前記有機半導体層では、前記輪郭から中点に向かって結晶粒が配向しており、前記ソース電極領域から成長した結晶粒と、ドレイン電極領域から成長した結晶粒とが衝突して形成される結晶粒界αが前記チャネル部に無いことを特徴とする1)記載の有機薄膜トランジスタ。
3) 前記ソース電極及びドレイン電極が、チオール化合物により表面修飾されていることを特徴とする1)又は2)記載の有機薄膜トランジスタ。
4) 有機半導体材料を含むインクを用い、インクジェット法により有機半導体層を形成することを特徴とする1)〜3)のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、チャネル部に、ソース電極領域から成長した結晶粒と、ドレイン電極領域から成長した結晶粒とが衝突して形成される結晶粒界αがなく、結晶粒が高配向した有機半導体層をインクジェット法で作製することができ、高性能でばらつきの少ない有機薄膜トランジスタとその簡便な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】有機薄膜トランジスタの一例の概略構造を示す図。(A)ボトムコンタクトボトムゲート型、(B)ボトムコンタクトトップゲート型、(C)トップコンタクトボトムゲート型、(D)トップコンタクトトップゲート型。
【図2】インクジェット塗布装置及び、微小液滴の挙動を観察するための装置を示す図。(A)概略図、(B)高速度カメラユニット及び照明手段12を、液滴の飛翔方向から約45度の角度をもって配置し、液滴が着弾する基板9上でピントを合わせるようにした図、(C)高速度カメラユニットとインクジェットヘッドを基板9の真上に並列に配置した図、(D)高速度カメラユニットと照明手段12を液滴の飛翔方向に対して垂直に配置した図。
【図3】インクジェット法で吐出された微小液滴の乾燥過程の様子を、図2(C)の配置により実際に観察した例を示す図。(1)から(4)へ変化する。
【図4】インクジェット法で吐出された微小液滴の乾燥過程及び結晶成長の様子の説明図。(A−1)〜(A−4)は乾燥過程及び結晶成長の様子を実際に捉えた偏光顕微鏡写真の一部、(B−1)〜(B−4)はその模式図、(C−1)〜(C−4)は液滴を真横からみた模式図。
【図5】結晶粒界αの発生する部位16をチャネル部として使用せず、結晶粒が高配向した領域15をチャネル部とするトランジスタの一例の説明図。(A)は中心に向かって結晶粒が配向した結晶膜の偏光顕微鏡写真(実施例2)上に、結晶膜の輪郭14を示すための点線を描いた図、(B)はソース電極3及びドレイン電極4と、輪郭14内の結晶膜との関係を示す模式図、(C)はそれを真横からみた模式図。
【図6】絶縁層2、ソース電極3、ドレイン電極4及び基板6上にインクを滴下した場合の乾燥過程の模式図。(A)〜(D)は乾燥の進行に伴う変化を示す図。(E)は実際に作製したトランジスタの偏光顕微鏡写真(実施例1)。
【図7】比較例1の結晶薄膜の偏光顕微鏡写真を示す図。
【図8】比較例2の結晶薄膜の偏光顕微鏡写真を示す図。
【図9】比較例3の結晶薄膜の偏光顕微鏡写真を示す図。
【図10】実施例2で作製した電極パターンの模式図。
【図11】比較例4で作製した電極パターンの模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明者らは、インクジェット法で吐出される微小液滴の乾燥過程と低分子有機半導体の結晶化の様子を高速度カメラによって捉え、有機半導体層が形成される過程をリアルタイムで観察することにより、良好なキャリア移動度を示す高性能の有機薄膜トランジスタに寄与する重要な因子を見出した。
すなわち、後述する図4(インクジェット法で吐出された微小液滴の乾燥過程及び結晶成長の様子を説明するための図)に示すように、インクジェット法で吐出され滴下されたインク13は、平面視におけるインクの周辺部から有機半導体の析出が始まり、その輪郭14から中心に向かって結晶成長が進行する。したがって、15で示される領域は、結晶粒が高配向しており、輪郭からそれぞれ成長してきた結晶が衝突する中心16は、大きな結晶粒界が発生する部位となる。
そこで、後述する図5に示すように、ソース電極領域から成長した結晶粒と、ドレイン電極領域から成長した結晶粒とが衝突して形成される境目(結晶粒界α)の発生する部位16をチャネル部として使用せず、結晶粒が高配向した領域15をチャネル部とするトランジスタを作製することにより、従来技術の問題点を改善できることがわかった。
つまり、インクの自然な乾燥過程によって結晶粒が高配向した領域を選択的にチャネル部として用い、チャネル部の結晶粒界αをなくすことにより、性能の低下やばらつきの発現を確実に回避することができる。その結果、高性能で、ばらつきの少ない有機薄膜トランジスタとその簡便な製造方法を提供することができる。
【0011】
本発明で用いる有機半導体材料としては、塗布型低分子有機半導体材料が好適である。特に下記(式1)に示すような、有機溶媒への溶解性を付与する溶解性基を有する芳香族化合物が好ましい。
【化1】
(式中、Arは複素環を含んでもよいアリール基、ポルフィリン環基、発色性アゾ残基等のπ型共役性基又は芳香族基を表し、RはArに結合する溶解性基を表し、n、mは自然数である。)
溶解性基としては例えば、アルキル基、アルコキシ基、チオアルキル基、トリアルキルシリル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリル基、アルアリル基、アリルアルキル基、アリロキシ基、パーフロロアルキル基、パーフロロアルケニル基、アルキルカルボニル基、アルキルカルボキシル基などが挙げられる。
【0012】
芳香族基であるArは、複素環を含んでもよい多環縮合などが挙げられ、具体例としては例えば、下記[化2]などを部分構造として有するものが挙げられる。
【化2】
【0013】
溶解性基であるRの具体例としては、例えば下記〔化3〕に示す官能基が挙げられる。ここで、a,b,cは、それぞれ独立に1〜30の整数である。溶解性の効果と汎用性の面から1〜22の整数の範囲がより好ましい。なお、〔化3〕中の「*」は、ここに前記Arが結合するという印である。
【化3】
【0014】
塗布型低分子有機半導体材料の具体例としては以下のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化4】
【0015】
次に、本発明の有機薄膜トランジスタの構造について図を参照しつつ説明する。
図1は有機薄膜トランジスタの一例の概略構造を示す図であるが、基板6上に絶縁層2により空間的に分離された第一の電極3、第二の電極4及び第三の電極5が設けられており、第三の電極5への電圧印加により、有機半導体層1を流れる電流を制御することができる。以下、第一の電極3をソース電極、第二の電極4をドレイン電極、第三の電極5をゲート電極と呼ぶ。図1(A)はボトムコンタクトボトムゲート型のもの、図1(B)はボトムコンタクトトップゲート型のもの、図1(C)はトップコンタクトボトムゲート型のもの、図1(D)はトップコンタクトトップゲート型のもので、いずれも電界効果型トランジスタ(FET)である。
また、本発明の有機薄膜トランジスタは、必要に応じて各電極からの引き出し電極を設けることができる。さらに、水分、大気及びガスからの保護、又はデバイスの集積の都合上の保護等のため、必要に応じて保護層を設けることもできる。
【0016】
基板6としては、例えば、金属基板、ガラス基板、プラスチック基板、シリコン基板等が挙げられる。一連の製造工程において寸法変化が少ない基板は製造工程を容易にすることができる。また、導電性基板を用いることにより、ゲート電極を兼ねたり、さらには、ゲート電極と導電性基板とを積層した構造にすることもできる。
プラスチック基板を用いると、完成するデバイスにフレキシビリティ、軽量化、安価、耐衝撃性などの特性を与えることができる。
プラスチック基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなる基板が挙げられる。
【0017】
絶縁層2には無機又は有機の種々の絶縁層材料を用いることができる。
無機絶縁層材料としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル等が挙げられる。
また、有機絶縁層材料としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、無置換又はハロゲン置換ポリパラキシリレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン、ポリメチルメタクリレート、シルセスキオキサン、ポリビニルブチラール等が挙げられる。
なお、絶縁性を向上させるために、有機材料に無機材料を添加してもよい。
絶縁層の作製方法は、その種類に応じて適宜選択できる。例えば、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、蒸着法、スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、ブレードコート法、バーコート法、印刷法、ディスペンサ法、インクジェット法などを用いることができる。
【0018】
ソース電極3、ドレイン電極4、及びゲート電極5の材料は、導電性材料であれば特に限定されない。
具体例としては、金、白金、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、銀、チタン、鉄、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの合金、インジウム酸化物などの導電性金属酸化物、あるいは、ドーピング等で導電率を向上させた無機半導体及び有機半導体、例えば、シリコン、ゲルマニウム、グラファイト、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチエニレンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体などが挙げられる。
また、ソース電極3とドレイン電極4は、有機半導体層1との接触面において電気抵抗の少ない材料で形成することが望ましい。
【0019】
電極の形成方法としては、上記材料を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて導電性薄膜を形成し、公知のフォトリソグラフィー法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅等の金属箔上に熱転写法、インクジェット法等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。
また、導電性ポリマーの溶液又は分散液、あるいは導電性微粒子分散液を直接インクジェット法でパターニングしても良いし、塗工膜からリソグラフィーやレーザーアブレーション等により形成しても良い。さらに、導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペースト等を、凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等の印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
【0020】
次に、インクジェット法を用いて有機半導体層1を形成する方法について説明する。
インクジェット法で用いる溶媒には、インクジェットのノズルから液滴を安定に吐出させることができる有機溶媒を選択する。安定に吐出させるためには、少なくとも、溶媒の乾燥速度と、溶質の溶解度に対するインクの溶質濃度の二点から検討する必要がある。
乾燥速度については、過度に高い蒸気圧、すなわち、沸点が比較的低い溶媒は、インクジェットのノズル周辺での急激な溶媒乾燥によって溶質が析出し、ノズルの目詰まりが生じるという問題が発生するため、工業的製造において不適切である。したがって、一般にインクジェット法に用いる溶媒は高沸点のものが良いとされているが、本発明では、少なくとも150℃以上の沸点を有する溶媒を含むことが望ましい。さらに望ましくは、少なくとも200℃以上の沸点を有する溶媒を含むことである。
また、インク溶媒に対する溶質の溶解度としては、本発明で用いられる有機半導体材料を0.1重量%以上溶解させる溶媒が望ましい。さらに望ましくは0.5重量%以上溶解させる溶媒である。このような溶媒としては、クメン、シメン、メシチレン、2,4−トリメチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、アミルベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、ニトロベンゼン、ベンゾニトリル、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、テトラリン、1,5−ジメチルテトラリン、シクロヘキサノン、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0021】
図2(A)に、インクジェット塗布装置及び、微小液滴の挙動を観察するための装置の概略図を示す。インクジェット塗布装置は、インクジェットヘッド7、電圧印加コントローラ(図示せず)、及びステージ8からなる。微小液滴の挙動を観察装置は、ズームレンズ10とCMOSイメージセンサ収納のカメラ本体11からなる高速度カメラユニット、撮影コントローラ(図示せず)、及び照明手段12からなる。
インクジェットヘッド7から吐出される微小液滴の着弾の様子、及び、乾燥過程を観察する場合には、図2(B)のように、高速度カメラユニット及び照明手段12を、液滴の飛翔方向から約45度の角度をもって配置し、液滴が着弾する層9上でピントを合わせるようにする。
一般に、インクジェット法で用いられる微小液滴の液量は数ピコリットルオーダーであり、液滴のサイズは数十ミクロンとなる。
ズームレンズ10は最大1000倍まで拡大することができるため、液滴の微小な変化を詳細に観察することができる。
【0022】
また、カメラ本体11は最大24000fpsの解像度で録画することが可能であり、吐出された微小液滴の乾燥過程を撮影することで、乾燥時間を調べることができる。また微小液滴の挙動だけでなく、溶質である半導体材料の析出や結晶化の様子も録画することができる。高速度カメラユニット及び照明手段12に偏光子を入れて偏光観察し、結晶の異方性を調べることもできる。
安定にインクを吐出するための印加電圧の条件は、液滴の飛翔状態を観察することにより決めることができる。
また、図2(C)のように、高速度カメラユニットとインクジェットヘッドを液滴が着弾する層9の真上に並列に配置すれば、インクが層9上に着弾した後、ステージ8を移動させ、着弾したインクをカメラの視野に移動させて、直上から乾燥過程や結晶成長の様子を観察することもできる。
また、図2(D)のように、高速度カメラユニットと照明手段12を液滴の飛翔方向に対して垂直に配置し、照明手段12の光源をストロボ発光するLEDとすれば、インクジェットヘッド7に印加する電気信号と同期した信号を光源に送ることにより、インクの吐出とLEDの発光を同期させることが可能である。この状態で、一定の周波数でインクを吐出し、飛翔中の液滴の影をカメラで撮影する。この飛翔液滴の形状を球形として見積もることにより液量を計算することができる。液量を見積もる方法としては、上記の他に、インクの滴下数とインクの重量から一滴当たりの重量及び体積を計算してもよい。
【0023】
通常、ディスペンサ等により滴下される液量はマイクロリットルオーダーであり、インクジェット法で用いられる液量(体積)はそれより6桁ほど小さい量である。また、液滴の表面積で比較すると4桁の違いがあるため、液滴周辺の雰囲気(蒸気圧や気化した溶媒の拡散速度)は大きく異なる。したがって、マイクロリットルオーダーの液滴の乾燥時間からピコリットルオーダーの微小液滴の乾燥時間を見積もる場合には、乾燥するときの溶媒雰囲気が同じになるように注意する必要がある。
また、液滴の重量減少から乾燥時間を見積もる場合には、測定精度の問題を考慮する必要がある。したがって、上記の評価には測定上困難な点が多くある。
しかしながら、本装置では、微小液滴の着弾後の様子をその場で観察できることから、実際のインクの乾燥時間を測定することができる。また、乾燥に伴う溶質の析出や結晶化の過程を直に観察できることから、微小液滴そのものの挙動を正確に把握することが可能である。
【0024】
一般に、溶液から良質な結晶を得るためには、溶媒蒸発による過飽和状態での結晶核の発生後に、更なる結晶核の生成よりも結晶成長の方が優先的に生じる状態にすればよいことが知られている。微小液滴において、このような状態を実現するためには、溶媒の乾燥速度をできるだけ落として、結晶核が生成する過飽和状態に緩やかにもっていくことや、結晶核が生じた後により大きな結晶ドメインが形成されるようにゆっくり成長させるのがよいと考えられる。これは、使用する溶媒や微小液滴が着弾する表面の濡れ性、そして、溶質の溶解度やインクの溶質濃度もまた、適切にコントロールする必要があることを意味している。
例えば、液滴の表面エネルギーよりも着弾表面のエネルギーが極端に小さい場合には、乾燥過程において半導体材料が結晶化して基板を被覆していくよりも前に液滴が収縮していくため、液滴の乾燥と共に液滴中心に溶質が移動して限りなく一点に集まってしまう。この様子を図3に示す。すなわち、インクジェット法で吐出された微小液滴の乾燥過程の様子を、図2(C)の配置で実際に観察した例について、図3(1)〜(4)に示す。
このようにして出来たものは、溶質の微結晶が無秩序に集合した状態であり、不連続な微結晶間をキャリアが伝導できなかったり、ソース電極とドレイン電極を連続的に被覆することができなかったりするため特性を発現できない。このような現象は、低分子化合物同士の凝集力の方が基板と低分子化合物が結合する力よりも大きいことや、溶質が低分子化合物であるインクは粘度が低いため、表面の濡れ性に応じた液滴の形態変化が大きいことが原因であると考えられる。
【0025】
上記のように極端に表面エネルギーが小さくなく、インク着弾後に液滴の形態が保持される場合には、液滴の周辺部で溶媒の蒸発が先に進み、先に飽和濃度に達して結晶が析出し始めることが確認される。この様子を図4に示す。(A−1)〜(A−4)は、インクジェット法で吐出された微小液滴の乾燥過程及び結晶成長の様子を、図2(C)の配置で実際に観察した結果である。(B−1)〜(B−4)は、インク液滴の乾燥及び結晶成長の様子の模式図であり、(C−1)〜(C−4)は、インク液滴を真横からみた様子の模式図である。インクジェット法で塗布されたインクの形状は、インクに対する濡れ性がほぼ均一な単一表面の場合、平面視でほぼ円形となる。また、複数種の表面にまたがって塗布される場合も、濡れ性に大きな差が無い場合には、概ね円形又は楕円形となる。このような場合には、液滴の周辺部での溶媒の蒸発が先に進み、溶質濃度が先に飽和濃度に達して結晶が析出し始める。その後、溶媒の蒸発と結晶成長が進行するにつれ、液滴の周辺から中心部に向かって結晶が成長していく様子が確認できる。これは、低分子化合物の自己凝集力が強いためで、安定な結晶核が形成され析出が始まると、溶液中の分子が次々に結晶に取り込まれ大きな結晶へと成長していくからである。その結果、放射状に配向した結晶膜が得られることがわかった。
【0026】
このようにして形成された結晶膜では、結晶膜の輪郭から中心に向かう領域15は結晶粒が高配向していることがわかる。そして、周辺から成長してきた結晶が衝突する中心には明確な結晶粒界αが発生する。このような部位は、微視的には膜の連続性を損なう空隙や分子配列の乱れた箇所であって、キャリアトラップの原因となり、キャリア伝導がスムーズに行えない原因となる。また、周辺部から結晶が成長すると、溶液中の分子は周辺部に向かって取り込まれていくため中心部の溶質が足りなくなり、明確な不連続領域を作る場合もある。溶質が低分子化合物の場合は、インク中の溶媒やその他の不純物と溶質分子が相互作用する力よりも、溶質分子同士の相互作用の方が強いため、結晶成長の過程で溶媒分子や不純物は中心部に取り残されやすくなる。このような残留溶媒や不純物は電荷移動を阻害すると考えられ、移動度の低下や素子間の特性ばらつきの原因となると考えられる。
本発明においては、上記のようなインクの自然な乾燥過程によって、結晶粒が高配向した領域を選択的にチャネル部として用いることで、チャネル部での結晶粒界αや不純物の影響を低減させ、性能の低下やばらつきの発現を確実に回避することができる。
【0027】
前記図3に示すような凝集物の形成を避け、図4に示すような連続的な結晶膜を作製するには、インクの極端な弾きを抑える必要がある。各種表面の濡れ性を測定する手段としては、溶媒の接触角の測定が挙げられる。そこで、濡れ性の異なる各種表面におけるインク溶媒の接触角を測定した。その結果を表1に示す。溶媒の接触角は協和界面科学社製DropMaster500により測定した。測定用基板には熱酸化膜付きのシリコンウェハーを用い各種表面処理を施した。
パリレン膜は第三化成社製diXCを、ポリイミド膜は京セラケミカル社製CT4112を、ナノ銀はアルバックマテリアル社製L−Ag1TeHを用いた。Au及びAgは真空蒸着法により形成した。また、PhTSはフェニルトリクロロシラン(東京化成工業社製)、HMDSはヘキサメチルジシラザン(東京応化工業社製)、C8TSはオクチルトリクロロシラン(東京化成工業社製)、C18TSはオクタデシルトリクロロシラン(東京化成工業社製)、FC8TSはパーフルオロオクチルトリクロロシラン(セントラル薬品社製)、PFBTはパーフルオロベンゼンチオール(シグマアルドリッチ社製)、PFDTはパーフルオロデカンチオール(シグマアルドリッチ社製)を表す。
【0028】
【表1】
【0029】
上記の各種表面上に、低分子有機半導体材料を溶解させたインクを吐出させたときの、連続的な結晶膜の形成の可否を調べた。その結果、溶媒の接触角が70度を越える表面では、図3(4)のような凝集物ができてしまい、綺麗な結晶膜を形成できなかった。したがって、インクが着弾する表面のインク溶媒に対する接触角は70度以下が好ましいことがわかった。C18TS処理表面よりも濡れやすい表面、すなわち、インク溶媒の接触角が55度よりも小さい場合には、特に安定して連続膜を作製することができた。
図1(A)(B)のボトムコンタクト型の素子を作製する場合には、インクの着弾表面が複数にまたがるため、濡れ性の違いに注意する必要がある。
そこで、絶縁層2、ソース電極3、ドレイン電極4及び基板6の各種表面の組み合わせにおいて、低分子有機半導体材料を溶解させたインクを吐出させたときの連続的な結晶膜の形成の可否を調べた。
その結果を表2に示す。「◎、○、×」は連続的な結晶膜の形成度合いの評価結果であり、評価基準は次のとおりである。
×:作製できなかった場合
○:作製できた場合
◎:より安定に作製できた場合
【0030】
【表2】
【0031】
表1の結果からもわかるように、表面修飾を施していない金属表面は有機溶媒を濡らしやすいため、大部分のインクが電極上へ移動してしまい、ソース・ドレイン電極間に連続膜が形成できなかった。したがって、前記図1(A)(B)のような2種類の表面(電極とチャネル部)にインクを着弾させることになる場合には、電極表面のインク溶媒に対する接触角は10度以上であることが好ましいことがわかった。
上記の理由から、絶縁層2、ソース電極3、ドレイン電極4及び基板6のインク溶媒に対する濡れ性が適切でない場合は、それらの表面を修飾することにより濡れ性を制御するとよい。表面処理材料は処理する表面との相互作用により適宜選択される。
絶縁層の表面処理材料としては、例えばシランカップリング材料が挙げられ、具体的には、HMDS、アルキルトリクロロシラン、アルキルトリメトキシシラン、アルキルトリエトキシシラン、パーフルオロアルキルエチルトリクロロシラン、パーフルオロアルキルエチルトリメトキシシラン、パーフルオロアルキルエチルトリメトキシシラン、アミノアルキルトリクロロシラン、ヒドロキシアルキルトリクロロシラン、フェニルアルキルトリクロロシラン等が挙げられる。また、電極の表面処理材料としては、例えばチオール化合物が挙げられ、具体的には、飽和又は不飽和アルキルチオール、パーフルオロアルキルチオール、置換又は無置換のベンゼンチオールなどが挙げられる。
【0032】
このようにインク溶媒の選択と液滴が着弾する絶縁層2、ソース電極3、ドレイン電極4及び基板6の濡れ性を制御すると、着弾したインクの形状は、概ね円形又は楕円形状となる〔図4(A−1)参照〕。このような形状の場合は、インクの乾燥が速い液滴周辺部で溶質の析出が起こり、半導体層の輪郭14を形成する。この輪郭の形状は、インク13の形状に起因して円形又は楕円形となることが多い。しかし、析出直前に微結晶が結合し合って大きな結晶を作る場合や析出が局所的に起こる場合はこの限りではない。そのような場合は、結晶の形状や析出の分布によって決まる形状、例えば多角形になることがある。いずれの場合も、半導体層の輪郭となる部位から着弾したインクの中心に向かって溶媒が乾燥すると共に結晶成長が促され、液滴中心に高配向した結晶膜が形成される。半導体層の輪郭のそれぞれから成長した結晶が衝突することで発生する結晶粒界αや、結晶の不連続領域、又は残留溶媒や不純物を含みやすい領域は、形成された半導体膜の中心部であり、半導体層の輪郭の最大幅を与える線分の中心位置となる〔図4(B−4)参照〕。
【0033】
本発明においては、そのような特性の低下やばらつきを発生させる要因となる半導体膜の中心位置16がチャネル部に含まれないようにすることで、移動度の低下や特性のばらつきを確実に低減することに成功した。例えば、トップコンタクト型のトランジスタを作製する場合には、形成された半導体膜の中心を含まないように、前記ソース電極及びドレイン電極を形成すればよい。図5にその一例の説明図を示す。(A)は中心に向かって結晶粒が配向した結晶膜の偏光顕微鏡写真上に、結晶膜の輪郭14を示すための点線を描いたものである。特性を低下させる結晶粒界αは半導体膜の中心16の位置にある。(B)はソース電極3及びドレイン電極4と、輪郭14内の結晶膜との関係を示す模式図であり、(C)はそれを真横からみた模式図である。ここで、前記有機半導体層の輪郭の最大幅を与えるR(17)に対して、チャネル長L(18)が「L<R/2」を満たすようにし、チャネル部が半導体膜の中心の結晶粒界αを含まないように配置すれば、特性の低下を招く結晶粒界αをチャネル部から無くし、結晶粒が高配向した領域15を優先的に使用できる。
【0034】
ボトムコンタクト型のトランジスタを作製する場合には、絶縁層2、ソース電極3、ドレイン電極4及び基板6のインクに対する濡れ性やインクの滴下量を調整した上で、インクの着弾中心をソース電極3又はドレイン電極4の一方に偏って位置させればよい。
図6は、絶縁層2、ソース電極3、ドレイン電極4及び基板6上にインクを滴下した場合の乾燥過程の模式図であり、乾燥が進行するに伴い(A)から(D)に変化することを示す。また(E)は、実際に作製したトランジスタの偏光顕微鏡写真である。
このように作製されたトランジスタは、液滴の周辺から成長した結晶が衝突する領域がチャネル部に無いため、良好な特性が得られることを確認した。高配向した領域をチャネル部に形成する方法としては、ソース電極3とドレイン電極4の濡れ性に差をつけ、着弾時のインクの乾燥に異方性を持たせることで、結晶粒界αが形成される中心位置をチャネル部に含まないようにすることもできる。また、ソース電極3とドレイン電極4のチャネル長L方向の長さを非対称にしておき、有機半導体層の中心位置を制御することもできる。また、チャネル長Lのサイズは、形成される有機半導体層全体のサイズに合わせて適宜選択することで、ソース電極3とドレイン電極4を高配向した結晶膜で電気的に接続することができる。
【0035】
本発明の有機薄膜トランジスタは、集積化することにより電子デバイスに応用できる。例えば、液晶、有機電界発光、電気泳動などの画像表示素子を駆動するための素子として利用でき、これらを集積化することにより、いわゆる「電子ペーパー」と呼ばれるディスプレイを製造することが可能である。また、ICタグ等の電子デバイスとして、本発明の機能性有機薄膜を集積したICを利用することも可能である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0037】
実施例1
以下の手順で図1(A)に示す構造の有機薄膜トランジスタを作製した。
膜厚300nmの熱酸化膜を絶縁層として、Nドープのシリコンウェハーを基板及びゲート電極として用いた。
酸化膜表面を酸素プラズマで洗浄した後、気相でHMDS処理を施し、絶縁層の表面の濡れ性を変化させた。
次いで、公知のフォトリソグラフィーにより、チャネル長10μm、膜厚100nmのAu電極パターンを形成した。
次いで、10mMのパーフルオロベンゼンチオールを含むエタノール溶液中に上記基板を18時間浸漬させて、ソース電極及びドレイン電極の表面の濡れ性を変化させた。
次いで、下記構造式〔化5〕で示される化合物を1重量%含む、溶媒6溶液をインクとして用い、インクジェット法で、およそ10ピコリットルの微小液滴を、図6(A)に示すように絶縁層及び電極表面上に滴下し、溶媒を乾燥させてソース電極及びドレイン電極をつなぐように結晶薄膜を形成し、有機薄膜トランジスタを得た。図6(E)に、その偏光顕微鏡写真を示す。
次いで、得られた有機薄膜トランジスタを、グローブボックス中で、80℃で加熱処理した。
同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、グローブボックス中で評価したところ、平均移動度0.08cm2/Vs(最大値が0.09cm2/Vs、最小値が0.07cm2/Vs)となり、ぱらつきが少なく、良好な特性が得られた。
これは、高配向した領域をチャネル部に用いており、ソース電極とドレイン電極の各方向から成長した結晶が衝突して形成される結晶粒界αがチャネル部に無いため、特性の低下やばらつきが抑えられたことによると考えられる。
【化5】
【0038】
比較例1
インクの着弾位置をチャネル部の中心にすることを除いて、実施例1と同様にして結晶薄膜を形成した。その偏光顕微鏡写真を図7に示す。
次いで、得られた有機薄膜トランジスタを、グローブボックス中で、80℃で加熱処理した。
同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、グローブボックス中で評価したところ、平均移動度0.01cm2/Vs(最大値が0.05cm2/Vs、最小値が0.001cm2/Vs)となった。これは、ソース電極とドレイン電極の各方向から成長した結晶がチャネル部で衝突して形成された電荷移動を阻害する結晶粒界αがあるためと考えられる。
【0039】
比較例2
電極の表面処理をしないことと、インク溶媒として溶媒4を用いることを除いて、実施例1と同様にして結晶薄膜を形成した。その偏光顕微鏡写真を図8に示す。
次いで、得られた有機薄膜トランジスタを、グローブボックス中で、80℃で加熱処理した。
作製したトランジスタの特性を、グローブボックス中で評価したところ、移動度0.0002cm2/Vsとなり、特性が大きく低下した。これは、図8からもわかるように、チャネル部で微結晶が分散した膜となっており、多くの結晶粒界αが電荷移動を阻害しているためと考えられる。
【0040】
比較例3
チャネル長Lを20μmにしたこと、電極の表面処理をパーフルオロデカンチオールに変更したこと、及び溶媒として溶媒5を用いたことを除いて、実施例1と同様にして結晶薄膜を形成した。その偏光顕微鏡写真を図9に示す。
次いで、得られた有機薄膜トランジスタを、グローブボックス中で、80℃で加熱処理した。
同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、グローブボックス中で評価したところ、平均移動度0.002cm2/Vs(最大値が0.05cm2/Vs、最小値が0.0003cm2/Vs)となり、特性のばらつきが大きいことがわかった。
図9には、結晶粒界αを点線で強調して示してある。このように、チャネル部に大きな結晶粒ができていることで良好な特性が得られる場合があるものの、ソース電極及びドレイン電極側から成長した結晶が衝突する結晶粒界αがチャネル部に存在し、電荷移動を阻害する度合いが異なるため、ばらつきを制御できていないと考えられる。
【0041】
実施例2
以下の手順で有機薄膜トランジスタを作製した。
膜厚300nmの熱酸化膜を絶縁層として、Nドープのシリコンウェハーを基板及びゲート電極として用いた。
酸化膜表面を酸素プラズマで洗浄した後、液相でフェニルトリクロロシラン処理を施し、絶縁層の表面の濡れ性を変化させた。
次いで、前記〔化5〕で示される化合物を1重量%含む溶媒5をインクとして用い、インクジェット法で、およそ50ピコリットルの微小液滴を絶縁層上に滴下し、溶媒を乾燥させて結晶薄膜を形成した。図5(A)はその偏光顕微鏡写真の一例である。
次いで、真空蒸着法により、図10の模式図に示すように、膜厚100nmのAu電極パターンを形成し、有機薄膜トランジスタを得た。
次いで、得られた有機薄膜トランジスタを、グローブボックス中で、80℃で加熱処理した。
同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、グローブボックス中で評価したところ、平均移動度0.02cm2/Vs(最大値が0.021cm2/Vs、最小値が0.017cm2/Vs)となり、ばらつきが少なく、良好な特性が得られた。これは、高配向した領域をチャネル部に用いており、液滴周辺から成長した結晶が衝突して形成される結晶粒界αがチャネル部に無いため、特性の低下やばらつきが抑えられたことによると考えられる。
【0042】
比較例4
電極の配置を図11の模式図に示すように変更したことを除いて、実施例2と同様にして有機薄膜トランジスタを作製した。
同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、グローブボックス中で評価したところ、平均移動度0.007cm2/Vs(最大値が0.01cm2/Vs、最小値が0.003cm2/Vs)となり、ぱらつきが大きく、特性の低下が見られた。
【0043】
実施例3〜6
下記〔化6〕〜〔化9〕に示す有機半導体材料を用いた点以外は実施例1と同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、実施例1と同様にしてグローブボックス中で評価した。結果を表3に示すが、いずれも、ばらつきが少なく良好な特性が得られた。
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【0044】
【表3】
【符号の説明】
【0045】
1 有機半導体層
2 絶縁層
3 第一の電極(ソース電極)
4 第二の電極(ドレイン電極)
5 第三の電極(ゲート電極)
6 基板
7 インクジェットヘッド
8 ステージ
9 液滴が着弾する層
10 ズームレンズ
11 カメラ本体
12 照明手段
13 インク
14 滴下されたインクの輪郭
15 結晶粒が高配向している領域
16 輪郭から成長してきた結晶が衝突する中心(大きな結晶粒界αが発生する部位)
17 有機半導体層の輪郭の最大幅(R)
18 チャネル長(L)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0046】
【特許文献1】特許第4103530号公報
【特許文献2】特開2008−227141号公報
【特許文献3】特開2007−294704号公報
【非特許文献】
【0047】
【非特許文献1】Marcia M.Payne et al.J.AM.CHEM.SOC.2005,127,4986〜4987
【非特許文献2】Hideaki Ebata et al.J.AM.CHEM.SOC.2007,129,15732〜15733
【非特許文献3】森井克行・下田達也 表面科学Vol.24,No.2,pp.90〜97,2003
【非特許文献4】Jung Ah Lim et al.Langmuir 2009,25(9),5404〜5410
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にソース電極、ドレイン電極、及びソース電極とドレイン電極の間のチャネル部を構成する有機半導体層を有し、前記チャネル部は、平面視において前記有機半導体層の輪郭の最大幅Rを与える線分の中点を含まず、チャネル長Lが、前記最大幅Rに対し「L<R/2」を満たすことを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記有機半導体層では、前記輪郭から中点に向かって結晶粒が配向しており、前記ソース電極領域から成長した結晶粒と、ドレイン電極領域から成長した結晶粒とが衝突して形成される結晶粒界αが前記チャネル部に無いことを特徴とする請求項1記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記ソース電極及びドレイン電極が、チオール化合物により表面修飾されていることを特徴とする請求項1又は2記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
有機半導体材料を含むインクを用い、インクジェット法により有機半導体層を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項1】
基板上にソース電極、ドレイン電極、及びソース電極とドレイン電極の間のチャネル部を構成する有機半導体層を有し、前記チャネル部は、平面視において前記有機半導体層の輪郭の最大幅Rを与える線分の中点を含まず、チャネル長Lが、前記最大幅Rに対し「L<R/2」を満たすことを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記有機半導体層では、前記輪郭から中点に向かって結晶粒が配向しており、前記ソース電極領域から成長した結晶粒と、ドレイン電極領域から成長した結晶粒とが衝突して形成される結晶粒界αが前記チャネル部に無いことを特徴とする請求項1記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記ソース電極及びドレイン電極が、チオール化合物により表面修飾されていることを特徴とする請求項1又は2記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
有機半導体材料を含むインクを用い、インクジェット法により有機半導体層を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−233724(P2011−233724A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102956(P2010−102956)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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