説明

有機電界発光素子及び有機電界発光装置

【課題】従来の有機電界発光素子の劣化機構そのものに配慮し,特定の元素組成分布を有する金属酸化物電極を用いることによって、寿命を向上させた有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】有機電界発光素子を構成する金属酸化物からなる電極2の化合物組成比が、該電極2から電荷を注入される表面3から該電極2の深層部4まで、ほぼ一定であることにより、電極として化学量論的な安定な組成とし、電極物質の劣化、有機層への拡散を抑止することで、長寿命化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子及び有機電界発光装置に係り、薄膜、軽量、高精細にして、高効率かつ長寿命な有機電界発光素子及びそれを用いた薄膜平面ディスプレイ、小型携帯投射型ディスプレイ、携帯電話表示装置、立体ディスプレイ、電子紙、携帯型パーソナルコンピュータ用ディスプレイ、リアルタイム電子掲示板等に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、各種携帯電話や移動体端末、モバイルコンピュータ、カーナビゲーション等の普及により、軽量で、高精彩、高輝度でかつ安価な小型平面ディスプレイへの要求は高まっている。
【0003】
また、家庭内やオフィスにおいても、省スペース型のデスクトップディプレイや壁掛けテレビ等の平面ディスプレイが、従来のCRT管ディスプレイから置き換わりつつある。
【0004】
特に、高速インターネットの普及やデジタル放送の進展により、数百〜数ギガビット/秒級のデジタル信号伝送が、有線、無線の双方で実用化され、一般利用者が極めて大容量の情報をリアルタイムにやり取りする時代に移りつつある。
【0005】
このことから、これら平面ディプレイに対する要求は、従来以上の軽量性、高精彩、高輝度、低価格に加えて、デジタル信号処理可能な高速表示性が求められている。
【0006】
このような平面ディスプレイとしては、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display, LCD)やプラズマディスプレイ(Plasma Display, PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(Field Emission Display, FED)等が検討されているが、これら各種平面ディスプレイに加えて、近年有機電界発光素子(Organic Electroluminescense Device, OELD)又は有機発光ダイオード(Organic Light Emitted Diode, OLED)と呼ばれる新しい型の平面ディスプレイが着目されつつある。
【0007】
有機電界発光素子とは、陰極と陽極の間に挟んだ有機化合物に電流を流すことにより、その中に含まれる蛍光性又は燐光性の有機分子を発光させることで表示する素子である。
【0008】
有機電界発光素子の研究は、古くはアントラセンやペリレン等の有機半導体単結晶を中心に検討が進められていたが、1987年にTangらが発光性の有機化合物薄膜と正孔輸送性の有機化合物薄膜とを積層した2層型の有機電界発光素子を提案し、発光特性の大幅な向上が可能(発光効率1.5 lm/W、駆動電圧10 V、輝度1000 cd/m2)になったことがその研究の出発点である。
【0009】
その後、色素ドープ技術や、高分子OLED、低仕事関数電極、マスク蒸着法等々の要素技術が研究開発され、1997年に単純マトリックス方式と呼ばれる電荷注入方式での有機電界発光素子が一部実用化されている。さらに、アクティブマトリックス方式と呼ばれる新しい電荷注入方式での有機電界発光素子の開発も検討されつつある。
【0010】
このような有機電界発光素子は、以下のような原理で駆動されている。すなわち、蛍光性又は燐光性の有機発光材料を一対の電極間に薄膜化させて、正と負の電極から電子と正孔を注入させる。
【0011】
有機発光材料中において、注入電子は発光性分子の最低非占有分子軌道(Lowest unoccupied molecular orbital, LUMO)に入った1電子化有機分子(以下、単に「電子」という。)となり、また、注入正孔は発光性分子の最高占有分子軌道(Highest occupied molecular orbital, HOMO)に入った1正孔化有機分子(以下、単に「ホール」という。)となって、有機材料中をそれぞれ対向電極に向けて移動する。
【0012】
その途中で電子とホールが出会うと発光性分子の一重項または三重項励起状態が形成され、それが光を輻射しながら失活することで、光を放出する。
【0013】
一般に有機発光材料には、各種レーザ色素のように光励起に対する量子効率の高い材料が数多く知られているが、それらを電荷注入により発光させようとすると、多くの有機化合物が絶縁体であるために、電子とホールの電荷輸送性が低く、数百V級の高電圧が初期の有機電界発光素子には必要であったが、複写機の感光体として用いられている有機電子写真感光体の電荷輸送性能の高さを利用し、電荷(ホール)を輸送する薄膜と発光する薄膜とに機能分離することで、発光特性を向上させたものが、先に述べたTangの2層型の有機電界発光素子であり、今日では、もう一つの電荷の電子の輸送性を別の有機薄膜に担わせた3層型の有機電界発光素子が報告されている。
【0014】
これ以外に、ホールと電子の有機材料への注入特性を向上させるための電荷注入層や両者の再結合確率を上げるためのホール停止層等、各種機能を担わせた薄膜を追加することで、機能分離型、多層膜型の有機電界発光素子が提案されている。
【0015】
しかしながら、その発光のもととなる部分は、有機発光層に含まれる有機発光分子からの励起状態の失活過程における光輻射であることには変わりがない。
【0016】
また、蛍光又は燐光を発する有機発光材料は、インキ、染料、シンチレータ等様々な用途で開発されたものが数多く知られており、有機電界発光素子には、これらの有機発光材料が利用されている。
【0017】
その種類は分子量で分けると大きく、低分子系と高分子系に分類され、低分子系は真空蒸着法等のドライプロセスで、高分子系はキャスト法で薄膜形成されている。
【0018】
Tang以前の初期の有機電界発光素子で高効率な素子を得られなかった理由の一つが、良質な有機薄膜を形成することができなかったことによると言われ、特に、低分子系で必要な条件として、(1) 真空蒸着法にて、薄膜(100nmレベル)の作製可能、(2) 製膜後均一薄膜構造維持可能(結晶の析出なし)、(3) 固体状態での高蛍光量子収率、(4) 適度なキャリア輸送性、(5) 耐熱性、(6) 精製容易、(7) 電気化学的に安定等が挙げられている。
【0019】
また、発光過程の分類から、直接電子とホールの再結合によって発光する発光材料と発光材料から発生した光励起によって発光する蛍光材料(又はドーパント材料)等に分けられる場合もある。
【0020】
これらは、化学構造上の違いからは、金属錯体型発光材料(配位子として8-キノリノール、ベンゾオキサゾール、アゾメチン、フラボン等。中心金属としてはAl、Be、Zn、Ga、Eu、Pt等)と、蛍光色素系発光材料(オキサジアゾール、ピラゾリン、ジスチリルアリレーン、シクロペンタジエン、テトラフェニルブタジエン、ビススチリルアントラセン、ペリレン、フェナントレン、オリゴチオフェン、ピラゾロキノリン、チアジアゾロピリジン、層状ペロプスカイト、p-セキシフェニル、スピロ化合物等)等が知られている。
【0021】
このように有機電界発光素子の発光材料及び素子化プロセスについては、多種多様な材料及び手法が検討されてきた。このような有機電界発光素子から最大でどの程度の効率で発光量を得ることができるかについては、未だ明確でないところが多い。
【0022】
有機電界発光素子の外部に取り出される光エネルギは、素子を流れる電子又はホール1個当たりの放出光子数で与えられ、これを電界発光の外部量子効率ηφ(ext)で表わすと、以下の関係があることが知られている。
【0023】
ηφ(ext)=ηext×ηφ(int)=ηext×[γ×ηr×ηf] ………(1)
【0024】
ここで、ηφ(int)は素子内部での素子を流れる電子又はホール1個当たりの放出光子数を表わす内部量子効率、ηextは素子内部で発生した光が素子界面での反射や吸収より減少させられた後の素子外部への光の取り出し効率を示す。また、γは素子内部に注入される電子とホールの数の比率に相当するチャージバランス、ηrは注入された電荷から発光に寄与する1重項励起子を発生する割合を示す一重項励起子生成効率、ηfは一重項励起子の中で光を発生して失活する割合を示す発光量子効率を表わす。
【0025】
これら素子外部への発光量に相当する外部量子効率ηφ(ext)は、発光材料自身の性質によって決まるηr及びηfと、素子への電子とホールの注入比によって決まるγ、及び素子の構造によって決まるηextとに大きく分けることができる。
【0026】
ηr及びηfとは、発光材料自身の物性に関係する効率であり、用いる発光材料によって一義的に決定される。また、γは電極とそれに接する有機層との電気的ポテンシャル差や界面ポテンシャル、有機層中の電子とホールの易動度等によって決まる量であり、電極材料と素子内部の有機材料の物性によって一義的に決まる効率である。
【0027】
これら因子のうち、チャージバランスγ≦1である。一重項励起子生成効率ηrは電荷のスピンの関係からηr≦0.25であると言われる。発光量子効率ηfは超放射的過程以外はηf<1である。したがって、素子内部の有機材料及び電極材料によって決定される因子の部分(式(1)の[γ×ηr×ηf]の部分)は0.25以下であると言われる。
【0028】
一方、取り出し効率は古典光学の反射と屈折の法則によって決定され、発光層の屈折率をnとすると、以下の式で与えられる。
【0029】
ηext =1/(2n2) ………(2)
【0030】
多くの有機電界発光素子の発光層、または、それらを保持するガラス基板の屈折率は1.6程度であり、これからηext =0.2とされている。これらのことから、全体としての電界発光の外部量子効率ηφ(ext)≦0.2×0.25=0.05となり、その外部量子効率は高々5%であると言われている。
【0031】
これら有機電界発光素子の効率を支配する因子、即ちチャージバランス、励起子生成効率、発光量子効率、光取り出し効率等の因子を高効率化することは、より少ない電力によって大きな光を発生させることができるため、素子に与える電気的負荷が低減し、長寿命化することが期待される。
【0032】
有機電界発光素子を一層長寿命化させる手段としては、いくつかの方法が報告されている。
【0033】
その一つは、有機電界発光素子の外気水分からの保護を意図した各種手段である。例えば、光硬化性樹脂を素子外面に塗布して大気から保護する方法がある。
【0034】
また、有機カバー部材と基板のガラス剤の周辺を金属で包んで、馴染みのより低融点金属でロウ付けすることて、封止缶端面からの外気進入を抑制する方法がある。
【0035】
また、陰極の上にアルミニウムなどの耐酸化性膜を積層して第2電極とし、発光部を挟む電極を保護する方法がある。
【0036】
あるいは、吸着剤や素子構造改良によって長寿命化を図る各種手段が報告されている。例えば、有機電界発光素子の封止缶の内側にゼオライトのような水分吸着剤を塗りこむ方法がある。
【0037】
また、透明基板の伝熱をよくする方法、強制的に冷却する方法があり、これらは素子内部で発生する熱を効率良く除去することによって長寿命化を図るものである。
【0038】
あるいは、有機層材料の耐久性向上によって長寿命化を図る手段は各種報告されている。例えば、ポリシリレンを正孔注入層に用いる方法、長時間駆動時に結晶化を抑止する化合物を用いる方法、耐熱性ポリイミド膜を用いる方法がある。
【0039】
また、耐久性のあるトリフェニルアミン誘導体を用いる方法、耐久性のあるジフェニル化合物を用いる方法がある。
【0040】
また、無機半導体を正孔輸送層に用いる方法、アントラセン誘導体を用いる方法がある。
【0041】
あるいは、有機層と電極材料との密着性を向上させることによって長寿命化を図る方法も開示されている。例えば、有機層の中に電極と同一成分を傾斜的に分散させて電極との密着性を改良させる方法ある。
【0042】
また、電極としてのITOと発光層の間にポリシランのような剥離しにくい劣化防止膜を介在させる方法がある。
【0043】
あるいは、電極の低電圧化によって、高効率長寿命化を図る方法も知られている。例えば、陽極から順に無機アモルファス正孔注入層、無機電子障壁層、有機発光層という順序で積層することにより長寿命か素子が得られる方法がある。
【0044】
また、正孔注入層の反対側に仕事関数の高い金属をコートして耐食性を高める方法がある。
【0045】
あるいは、駆動する電気信号を工夫することにより長寿命化する方法も報告されている。例えば、発光終了後に逆電圧をかけて劣化を防止する方法がある。
【0046】
また、正孔と電子の再結合確率を向上させる方法として、正孔輸送層に正孔注入効率を高めかつ電子ブロック機能を備え、陽極側よりも陰極側の電子輸送能力を高める方法がある。
【0047】
また、長寿命化を図る方法として、発光層又は電子輸送層にホール輸送性物質を分散させることで発光層又は電子輸送層のホールによる劣化を抑制する方法がある。
【0048】
また、ITO表面にO2プラズマ処理を施すことによって長寿命化する方法がある。
【0049】
また有機電界発光素子の有機層蒸着時の基板温度を最適化することにより長寿命化を図る方法がある。
【0050】
また、単純な直流駆動ではなく、デューティ比を最適化させることにより長寿命化させる方法がある。
【0051】
さらに、下記特許文献1,2には、透明電極としてのITOのIn23に対するSnO2の混合比は、1〜20質量%、さらには5〜12質量%が好ましいと記載されている。
【特許文献1】特開2001−223088号公報
【特許文献2】特開2001−223089号公報
【0052】
以上のように、各種方法を用いて長寿命化することが、これまで提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0053】
このように有機電界発光素子を実用化する上で、その優れた発光特性をいかに長時間維持し続けることが可能であるか、すなわち、有機電界発光素子の長寿命化技術が重要である。
【0054】
これまで検討されてきた多くの有機電界発光素子の長寿命化技術は、発光素子の高効率化(有機材料の発光効率の向上、チャージバランスを上げる層構造、電極と有機層とのポテンシャルギャップ低減による低電圧化、光取り出し効率を上げるための光学構造の導入、トップエミッション構造導入による開口率拡大等)によって、必要光量を得るのに必要な駆動電力を引き下げることによって長寿命化を図るものであった。
【0055】
しかしながら、これらの手法は、有機電界発光素子が何故通電駆動によって劣化していくのかという、劣化機構そのものに配慮したものではなかった。
【0056】
本発明では、これら高効率化による長寿命化技術とは独立に、有機電界発光素子に関わる周辺部材の構造最適化によって、素子構造自体の安定性を高め、それによって長寿命化を図る。
【0057】
すなわち、有機電界発光素子を構成する部材の物質的安定性そのものに着目し、最適条件の構成範囲について種々の検討を加えることで、最も長期にわたる通電によっても変質しない材料構成を提供する。
【0058】
また、このような最適条件範囲は、有機電界発光素子形成の一連の過程の中で、各種表面処理を施すことで変化しており、最終的に素子化するまでの途中で、その範囲外になることもある。
【0059】
このため、いかにして素子化直前の段階で、その条件を達成するかが重要であり、製造プロセスにおける初期の材料構成のみで決まるものでもない。最終的に完成した有機電界発光素子の構成部材が、最適条件下にあるかどうかについての判定方法についても、本発明は、その検証方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0060】
以上、説明した有機電界発光素子の長寿命化を図る本発明の解決手段は、以下のとおりである。
【0061】
すなわち、少なくとも2つ以上の電極を有し、該電極の間に挟まれた少なくとも1種類以上の薄膜層を有しており、かつ該薄膜層の少なくとも1つは有機物質を含む薄膜層であって、かつ該電極を通じて正負の両電荷の注入、輸送することが可能で、該正負の両電荷により生成された正孔と電子の再結合により光を発生可能な有機電界発光素子であり、かつ該有機電界発光素子に含まれる再結合による発光物質または該発光物質からの光を受けて二次的に光を発生させることが可能な蛍光または燐光物質を含むことが可能な有機電界発光素子であり、かつ該有機電界発光素子の該電極の少なくとも1つが金属酸化物からなる有機電界発光素子において、該金属酸化物からなる電極の化合物組成比の少なくとも1つが該電極から電荷を注入される表面から該電極の深層部までほぼ一定であることを特徴とする有機電界発光素子にある。
【0062】
また、該有機電界発光素子において、該金属酸化物からなる電極の化合物組成のうち、該金属酸化物電極表面に付着した物質の元素とは異なるすべての元素に関して、その化合物組成比が該電極から電荷を注入される表面から該電極の深層部までほぼ一定であることを特徴とする有機電界発光素子にある。
【0063】
また、該有機電界発光素子において、該深層部の深さが該電極から電荷を注入される表面から6nm以内であることを特徴とする有機電界発光素子にある。
【0064】
また、該有機電界発光素子において、該電極の金属酸化物を構成する金属元素として、In、Sn、Zn、Fe、Co、Sr、Cu、Ag、Pt、W、Ni、のいずれか1つを含む金属酸化物であることを特徴とする有機電界発光素子にある。
【0065】
また、該有機電界発光素子において、該電極の可視光領域における光透過率が30%以上であることを特徴とする有機電界発光素子にある。
【0066】
また、該有機電界発光素子において、該電極のシート抵抗が50Ω/□以下であることを特徴とする有機電界発光素子にある。
【0067】
また、該有機電界発光素子において、該電極の表面粗さが1nm以上であり、かつ該有機電界発光素子の該金属酸化物に接触して形成される薄膜層の膜厚よりも小さいことを特徴とする有機電界発光素子にある。これは、金属酸化物からなる電極の直上に形成される有機層の厚み以上であってはリークの原因となるためである。
【0068】
また、該有機電界発光素子において、該電極の仕事関数が5.0eV以下であることを特徴とする有機電界発光素子にある。
【0069】
また、該有機電界発光素子において、該電極の可視光領域における光透過率が30%以上であり、または該電極のシート抵抗が50Ω/□以下であり、または該電極の表面粗さが1nm以上であり、または該電極の仕事関数が5.0eV以下であることを特徴とする有機電界発光素子にある。
【0070】
また、電極の間に挟まれた少なくとも1種類以上の薄膜層と、前記薄膜層の少なくとも1つは、前記電極を通じて薄膜層に正と負の電荷が注入され、輸送されて、前記正と負の電荷により生成された正孔と電子の再結合により光を発生する有機発光層、又は前記有機発光層からの光を受けて二次的に光を発生させる蛍光若しくは燐光層であって、前記電極の少なくとも1つは電荷が注入される金属酸化物からなる有機電界発光素子をマトリクス状に配置した有機電界発光装置において、前記金属酸化物からなる電極の表面から深層部までの化合物組成比が一定化されていることを特徴とする有機電界発光装置にある。
【0071】
ここでいう有機電界発光素子とは、有機発光分子を含む発光層に対して、陽極電極から正孔を、陰極電極から電子を注入可能であって、該発光層内部で正孔と電子の再結合によって光を放出することが可能な有機電界発光素子であり、該発光層は単一層であっても、または多層であってもよい。
【0072】
また、該発光層は該正孔と電子の再結合により光を放射する有機発光分子以外に、該有機発光分子から発生した光を吸収して別の光を発生することが可能な蛍光物質(または燐光物質)を含んでいてもよい。
【0073】
また、該発光層は正孔または電子の該発光層内部での易動度を高めることが可能な正孔輸送物質または電子輸送物質を含んでいてもよい。
【0074】
また、該発光層は特定の空間的位置に正孔または電子を補足するまたは輸送性を低下させるための正孔捕捉物質または電子捕捉物質を含んでいてもよい。
【0075】
さらに、これら有機発光分子、蛍光物質(または燐光物質)、正孔輸送物質、電子輸送物質、正孔捕捉物質、電子捕捉物質は同一の層に含まれていてもよく、または別個の層に分離されていてもよい。
【0076】
複数の層に分離されてこれらの構成物質を含む層が形成されている場合も、本発明においては一括して発光層と呼ぶことにする。
【0077】
また、本発明の該発光層と、該発光層に正孔または電子を注入する該陽極または該陰極との間には、正孔または電子の注入効率を向上させるための正孔注入層または電子注入層を設けていてもよい。
【0078】
また、該発光層や、陽極、陰極、正孔注入層、電子注入層を保持するための基板を設けていてもよく、それら以外の中間層を適宜設けていてもよい。
【0079】
そのような中間層としては、光の反射特性を変調するための反射鏡や部分透過鏡、特定光を透過するフィルタ、光の出射タイミングを調整する光スイッチ、光の位相特性を調整するために波長板、光の出射方向を拡散するための拡散板、素子を構成する物質の外部光や熱、酸素、水分等による劣化を防ぐための保護膜等が挙げられる。
【0080】
また、これら中間層は、該発光層、陽極、陰極、正孔注入層、電子注入層、基板との間、またはその外部に素子特性を著しく劣化させないような仕様で適宜設けることができる。特に、該有機電界発光素子から外部に光が取り出される最表面にあたる層を取り出し最表層と呼ぶことにする。
【0081】
また、本発明に用いることが可能な電界発光材料としては、各種金属錯体型発光材料(配位子として8-キノリノール、ベンゾオキサゾール、アゾメチン、フラボン等。中心金属としてはAl、Be、Zn、Ga、Eu、Ru、Pt等)や蛍光色素系発光材料(オキサジアゾール、ピラゾリン、ジスチリルアリレーン、シクロペンタジエン、テトラフェニルブタジエン、ビススチリルアントラセン、ペリレン、フェナントレン、オリゴチオフェン、ピラゾロキノリン、チアジアゾロピリジン、層状ペロプスカイト、p-セキシフェニル、スピロ化合物等)を用いることができる。
【0082】
あるいは、各種高分子材料(ポリフェニレンビニレン、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレン、等)を発光材料としたり、または非発光性の高分子材料(ポリエチレン、ポリスチレン、ポリオキシエチレン、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル、ポリイソプレン、ポリイミド、ポリカーボネート等)をマトリックスとして、各種発光材料または蛍光材料を混合したり共重合したりすることも可能である。
【0083】
また、各種有機正孔または電子輸送材料(トリフェニルアミン、等)を介在させることもできる。さらには、各種正孔または電子注入層(例えばLi、Ca、Mg、Cs、CuPc等)を介在させることも可能であり、素子構成に合わせて適宜材料を選ぶことができる。
【0084】
本発明の有機電界発光素子を作成する手段としては、各種薄膜形成技術、例えばスピンコート法、塗布法、キャスト法、スパッタ法、真空蒸着法、分子線蒸着法、液相エピタキシャル法、原子層エピタキシャル法、ロール法、スクリーン印刷法、インクジェット法、電界重合法、ラビング法、吹き付け法、水面展開法、ラングミュア・ブロジェット膜法等を用いることができる。
【0085】
また、これら製膜中または製膜後の配向化を促進させるために、基板自身に配向規制力を有するような結晶性基板や、配向膜塗布基板、物理的または化学的な表面処理を施した基板等を用いることができる。
【0086】
また、このような配向処理に適した化合物中の分子骨格としては、配向処理過程で液晶性を示すものが望ましく、配向処理を施した後に、試料温度のガラス転移温度以下への冷却や、光や熱等による反応により分子間に新たな化学結合を形成することにより、その配向状態を固定することも有効である。
【0087】
また、基板には、ガラス、シリコン、ガリウム砒素等の無機物質からなる基板や、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の有機物質からなる基板、あるいは両者を複合化させた基板を用いることができる。
【0088】
これら基板は、その母材からの切り出し研磨、射出成形、サンドブラスト法、ダイシング法等の手法によって形成することができる。
【0089】
また、発光状態を制御するために薄膜トランジスタを形成した基板を用いることも可能であり、薄膜トランジスタを形成した基板上に有機電界発光層を形成したり、あるいは薄膜トランジスタを形成した基板と有機電界発光層を形成した基板とをそれぞれ別々に形成した後に、両者を接合させることによって一体化形成したりすることも可能である。
【0090】
また、本発明の有機電界発光素子は、その素子形成の過程で、必要とする光学的素子構造を作製するために、各種精密加工技術を用いることができる。例えば、精密ダイアモンド切断加工、レーザ加工、エッチング加工、フォトリソグラフィ、反応性イオンエッチング、集束イオンビームエッチング等が挙げられる。
【0091】
また、あらかじめ加工された有機電界発光素子を複数個配列させたり、多層化したり、またはその間を光導波路で結合したり、またはその状態で封止したりすることもできる。
【0092】
また、素子を不活性ガスまたは不活性液体を充填させた容器に保存することをも可能である。さらにその動作環境を調整するための冷却または加熱機構を共存させることもできる。
【0093】
容器に用いることができる素材としては、銅、銀、ステンレス、アルミニウム、真鍮、鉄、クロム等の各種金属やその合金、あるいはポリエチレンやポリスチレン等の高分子材料等にこれら金属を分散させた複合材料、セラミック材料等を用いることができる。
【0094】
また、断熱層には、発泡スチロール、多孔質セラミックス、ガラス繊維シート、紙等を用いることができる。特に、結露を防止するためのコーティングを行うことも可能である。
【0095】
また、内部に充填する不活性液体としては、水、重水、アルコール、低融点ワックス、水銀、等の液体やその混合物を用いることができる。
【0096】
また、内部に充填する不活性ガスとしては、ヘリウム、アルゴン、窒素等を挙げることができる。また、容器内部の湿度低減のために、乾燥剤を入れることも可能である。
【0097】
また、本発明の有機電界発光素子は、製品の形成後に、外観、特性の向上や長寿命化のための処理を行ってもよい。
【0098】
こうした後処理としては、熱アニ−リング、放射線照射、電子線照射、光照射、電波照射、磁力線照射、超音波照射等が挙げられる。
【0099】
さらに、該有機電界発光素子を各種の複合化、例えば接着、融着、電着、蒸着、圧着、染着、溶融成形、混練、プレス成形、塗工等、その用途または目的に応じた手段を用いて複合化させることができる。
【0100】
また、本発明の有機電界発光素子は、その素子を駆動させるための電子回路と近接させて高密度実装させることも可能であり、また外部との信号の授受のインターフェースとすることもできる。
【発明の効果】
【0101】
本発明の有機電界発光素子を用いると、従来数多く報告されている有機電界発光素子の発光部の基本構造を変化させることなく、より簡便な手法で取り出し効率ηextを改善し、従来報告されてきた同じ組成の有機電界発光素子に対しても、同じ駆動条件でありながら、より多くの光を素子外部に取り出すことができる。
【0102】
このような効率化によって、必要とする電力の低減や画素サイズの最適化、高精細化を図り、加えて素子寿命の長寿命化を図ることができる。
【0103】
特に、10インチ以上の大画面表示素子や、小面積でも高精細な画像表示素子として駆動させる場合に、従来の有機材料を用いた表示素子は、高密度な画像表示素子としての利用は制限され、高々8インチまでの画像表示素子が提案されたに過ぎなかったが、このような高精細素子、大画面素子に対しても有機電界発光素子を適用可能なものとすることができる。
【0104】
これら素子電気特性の向上によって、素子駆動の低電圧化、高輝度化、長寿命化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0105】
以下、図面を用いて、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0106】
最初に、本発明に係る有機電界発光素子の基本構造について説明する。
【0107】
図1(a)は、本発明に係る有機電界発光素子の基本構造図であって、有機電界発光素子は、基板(1)上に形成されており、一例としてその直上に金属酸化物電極(2)が形成されている。
【0108】
この金属酸化物電極(2)の上に、含有機物質薄膜層(5)を形成し、さらにその上に金属酸化物電極(2)とは異なる第2の電極(6)からなる構造を有している。
【0109】
この含有機物質薄膜層(5)は、簡便のため図中ではただ一つの層として記載されているが、実際には多くの有機電界発光素子において知られているように、各種薄膜(有機薄膜、無機薄膜、有機無機複合薄膜等)の多層構造であってもよい。
【0110】
この第2の電極(6)としては、既に知られている多くの金属(例えば、Al、Ag、Au、In、MgAg、Ca、Cs、W、MoW、Cu等)や、金属酸化物(ITO、IZO等)の電極でもよい。
【0111】
この含有機物質薄膜層(5)が、2つの電極として金属酸化物電極(2)と第2電極(6)とで挟まれた構造をしており、これらの電極から正と負の電荷が注入される。
【0112】
したがって、金属酸化物電極(2)から電荷が注入される表面は図中の電荷注入表面(3)であり、金属酸化物電極(2)の深層部とは、図中の電荷注入表面(3)よりも下側の領域である金属酸化物電極深層部(4)に当たる。
【0113】
本発明の最大の特徴は、金属酸化物電極(2)を構成する化合物組成の比率が、電荷注入表面(3)から金属酸化物電極深層部(4)にかけて、一定であることにある。この特徴を模式的に示したものが図1(b)である。
【0114】
この図1(b)では、電極化合物組成1から3について、その金属酸化物電極深層部方向の位置と、各電極化合物組成1から3の電極組成比との関係を示しているが、その電極組成比が電荷注入表面位置から金属酸化物電極深層部方向にかけて、一定であることを示している。
【0115】
すなわち、表面近傍での電極組成比が一定であるような有機電界発光素子を形成することが重要である。実際の製造プロセスにおいては、ナノスケールにわたって電極表面まで組成を一定に保つ手段の確立が重要であり、ある許容範囲において、組成を一定に保つことが望まれる。
【0116】
本発明は、精査検討した結果その許容範囲についても具体的に明らかにしている。また、このような組成比が一定であるべき深さの最低限の範囲についても、本発明では明らかにしている。
【0117】
以下、この構成を満たした金属酸化物電極を有する有機電界発光素子の作製とその効果の検証を行った具体的な例について、図2を用いて説明する。ただし、本発明の効果は以下に示された具体的な素子構成物にのみ限定されるものではない。
【0118】
次に、最も代表的な有機電界発光素子用の金属酸化物電極である酸化インジウム錫(Indium Tin Oxide、ITO)を用いた場合の結果について紹介する。
【0119】
図2において、基板(7)には、旭ガラス製硼珪ガラスAN100(厚み0.7mm)を用いた。
【0120】
金属酸化物電極(8)には、ITOを用いた。ITOとしては、以下に説明する独自のスパッタ装置にて形成したITOを用いた。
【0121】
含有機物質薄膜層(17)には、金属酸化物電極(8)に近い側から、正孔注入層(9)、正孔輸送層(10)、発光層(11)、電子輸送層(12)からなる以下のような4層からなる有機多層膜を用いた。
【0122】
正孔注入層(9)には、一般的な材料を用い、厚みは90nmとした。また、正孔輸送層(10)にも一般的な材料を用い、厚みは10nmとし、発光層(11)にも一般的なホスト材料と、一般的なドーパント材料とを用い、ホストに対するドーパントの重量濃度比は5%とし、厚みは40nmとした。
【0123】
電子輸送層(12)には、新日鐵化学製化合物Alq3を用い、厚みは20nmとした。
【0124】
第2電極(18)には、含有機物質薄膜層(17)に近い側から、電子注入層(13)、対向電極(14)からなる以下のような2層からなる無機多層膜を用いた。
【0125】
電子注入層(13)には、レアメタリックス製化合物LiF(純度4N)を用い、厚みは0.5nmとした。また、対向電極(14)には、レアメタリックス製化合物Al(純度6N)を用い、厚みは150nmとした。
【0126】
次に、図3から図5を用いて、この素子の製造プロセス全体の流れを説明する。
【0127】
まず、ステップ1では、市販のガラス基板(19)を用意し、この基板(19)を中性洗剤(アズワン製、クリーンエースS)を純水にて10倍に希釈した洗浄液を用いて洗浄した。
【0128】
その後、純水にて洗浄、純水流水洗浄、純水超音波洗浄を施した後、基板(19)をクラス100の専用基板乾燥室にて乾燥保管し、次の金属酸化物電極形成のステップ2の直前に、紫外線照射装置(東芝製、紫外線照射装置、KAH−08101−2652)にて表面清浄化処理を施したものを基板(19)とした。
【0129】
次に、本発明の特徴とするステップ2では、洗浄済み基板(19)上に、ITOを専用のスパッタ薄膜形成装置(DCマグネトロンスパッタ装置:パワー密度1W/cm2、酸素分圧1%、圧力0.7Pa、製膜速度10nm/min)を用いて、金属酸化物電極(20)を形成した。
【0130】
スパッタターゲットには高純度化学製のターゲット材を用い、基板上全面にITO薄膜を形成した後、その基板を専用の焼成炉中で、200℃、8時間焼成して、スパッタ直後のアモルファス状態から多結晶状態に変化させた。この状態のITOを図3において金属酸化物電極(20)として示した。
【0131】
次に、この金属酸化物電極(20)をパターニングするステップ3では、最初にスピンコート法によってフォトレジスト膜を金属酸化物電極(20)上に形成し、所定のフォトマスクを使って図4(a)に示すパターンで金属酸化物電極(20’)が残るように紫外線照射してフォトレジストを硬化させ、未硬化フォトレジストをレジスト除去液で除去した後、エッチング液でパターン外の金属酸化物電極(20)を除去し、最後に硬化したフォトレジストも別のレジスト剥離液で取り除いた。
【0132】
このステップ3は、標準的なITOパターニング工程であり、特に用いた装置や試薬については記述していないが、特定のパターニング手法に限定されるものではない。
【0133】
このようにパターニングが完了した金属酸化物電極(20’)は、次のステップに移行する前に、中性洗剤スクライブ洗浄を施し、次に、純水にて洗浄、純水流水洗浄、純水超音波洗浄を施した後、イソプロパノール蒸気洗浄を施し、純水メガソニックスピン洗浄を施し、専用乾燥室にて乾燥後、使用直前に紫外線照射を施した。この状態まで仕上げたものをパターニング後の金属酸化物電極(20’)とした。
【0134】
次に、ステップ4では、含有機物質薄膜層(21)を形成した。具体的には、真空蒸着装置(トッキ製、有機EL作成装置、CM−29GL)を用いた。
【0135】
図5に、この真空蒸着装置の概要を示した。真空蒸着装置は大別して、パターニング後の金属酸化物電極(20')が形成された基板を搬入し、基板表面にプラズマ処理を行うことが可能な前処理室(28)、含有機物質薄膜層を真空蒸着によって形成可能な有機室(29)、第2電極を真空蒸着によって形成可能な金属室(30)、第2電極形成後の基板を封止するための封止室(32)、封止室(32)まで基板を中継したり、封止後の素子を外部に取り出したりするための受渡室(31)からなる。
【0136】
これら各室はゲートバルブ(35)によって仕切られており、特に、前処理室(28)、有機室(29)、金属室(30)、受渡室(31)の間の基板搬送には、搬送棒(34、34’)を用いて、真空状態を保持したまま行われる。
【0137】
金属酸化物電極(20’)が形成された基板を前処理室(28)の基板搬入口(33)挿入後、直ちにベース圧力5×10-5Paまで真空排気し、この前処理室(28)内部で各種キャリアガスを流しつつプラズマ処理を行うか、または、そのまま全く処理を施さない状態で、有機室(29)(ベース圧力1×10-5Pa)へ搬送する。
【0138】
有機室(29)では、所定の条件で、含有機物質層(21)が蒸着されるが、この際、基板上の特定領域にのみ蒸着物質が飛来付着可能となるようにパターン化した開口部を有するメタルマスク(ソノコム製、SUS、厚さ1mm)を金属酸化物電極(20’)面にほぼ密着させるように配置させて蒸着させる。このようにして、図4(b)に示めす含有機物質薄膜層(21)を形成する。本実施例の場合、含有機物質薄膜層(21)は、4層の有機層からなっているが、装置上は最大6層まで多層化が可能である。
【0139】
先に説明した図2の構成の場合、基板(7)側から順次正孔注入層(9)、正孔輸送層(10)、発光層(11)、電子輸送層(12)を蒸着した。これらは、当然ながら、特定の装置構成に由来する最大積層数に限定されるものではない。
【0140】
次に、図3に戻って、ステップ5では、第2電極(22)を形成した。ステップ4で含有機物質薄膜層(21)まで形成された基板は、図5に示す有機室(29)から金属室(30)(ベース圧力1×10-5Pa)まで、真空を破ることなく搬送される。
【0141】
金属室(30)では、含有機物質薄膜層(21)形成時と同様にパターン化した開口部を有するメタルマスクを含有機物質薄膜層(21)にほぼ密着させるように配置させて、所定の第2電極(22)を真空蒸着させる。このようにして、図4(c)に示す第2電極(22)を形成する。この金属室(30)では最大6つの蒸発源が蒸着可能である。
【0142】
先に説明した図2の構成の場合、電子輸送層(12)の上に、電子注入層(13)、対向電極(14)を順次蒸着積層した。
【0143】
図3のステップ5で、第2電極(22)まで形成し終えた基板は、真空状態を保持したまま、図5に示す受渡室(31)に搬送され、ゲートバルブ(35)を閉じた後、高純度乾燥窒素(窒素純度6N、露点−90℃、酸素濃度0.01ppm以下)で、大気圧まで戻される。この後、予め同じ高純度乾燥窒素が満たされた封止室(32)に搬送される。
【0144】
次に、ステップ6では、封止缶(23)を取り付けた。この封止缶(23)は、硼珪ガラス製封止缶(エヌエスジーガラスコンポーネンツ製)で、特に図示はしていないが、内側に窪みが設けてあり、そこに酸化カルシウム(サエスゲッタ製)が乾燥剤として貼り付けられている。
【0145】
基板(19)上に封止缶(23)が取り付けられる配置は、図4(d)に示されたような位置であり、この部分に相当する封止缶(23)の端部に紫外線硬化性エポキシ樹脂(スリーボンド製)を塗布して、所定の位置で基板と封止缶を貼りあわせ、その状態で紫外線を照射して光硬化させる。
【0146】
しかる後、封止された基板を、再び受渡室(31)に搬送し、封止室(32)との間のゲートバルブ(35)を閉じた後、素子取出口(36)から、封止された基板を装置外部に取り出す。
【0147】
この段階では、十分にエポキシ樹脂は硬化していないので、別の樹脂硬化オーブンに封止された基板を搬送し、その中で80℃、1時間、ポストキュアして、硬化を完成させる。このようにして、一連の素子作製ステップは完成する。
【0148】
図4(d)は、本発明に係る有機電界発光素子をマトリクス状に配置した有機電界発光装置の各構成部位の配置を示す。基板(19)は5cm角で、その上に金属酸化物電極(20’)が、例えば、一例として計8本形成されている。
【0149】
また、含有機物質薄膜層(21)は、金属酸化物電極(20’)の一部を覆う配置になっている。その上に形成される第2電極(22)は、金属酸化物電極(20’)とは直交するような配置になっている。なお、第2電極(22)の一端は、含有機物質薄膜層(21)が形成されず、直接金属酸化物電極(20’)と接触している。これらが封止缶(23)で封止されている。
【0150】
この図4(d)において、有機電界発光素子として光を発生する領域は、金属酸化物電極(20’)、含有機物質薄膜層(21)及び第2電極(22)の3つの構成要素が重なった部分である。なお、このような発光部分は、例えば、一例として計6箇所あり、それらを今後、画素と称する。
【0151】
所定の画素を発光させるためには、その画素に繋がる金属酸化物電極(20’)を陽極として選択し、その画素に繋がる第2電極(22)を陰極として選択して、電圧を印加して電流を流すことで発光させている。また、このような選択を順次行って全ての画素を発光させる。なお、ここでは、第2電極(22)と直接接触している金属酸化物電極(20’)を陰極としている。
【0152】
次に、図6を用いて、パターニング後の基板を図5に示す前処理室(28)にて、基板表面処理を施す際の、表面処理機構部分について説明する。
【0153】
図6において、前処理室チャンバ(39)の内部には搬入した基板を保持するための基板保持機構(40)が取り付けられており、この前処理室(39)自身はゲートバルブ(41)を介して、有機室に接続されている。また、前処理室(39)はゲートバルブ(41’)を介して排気系に接続されている。
【0154】
搬入された基板に表面処理を施す際には、高周波電源(日本電子製JRF−300)(37)とマッチングボックス(日本電子製EH−MN01M)(38)を用いて高周波プラズマを発生させ、その際にゲートバルブ(41’’)とガス調整器(42)を介して接続されたガスボンベ(43)から所定の圧力で高純度ガス(ガス種としては、O2、H2、Ar、N2、及びこれらガスの混合ガス)を流入させた状態にすることで、基板表面にこれらガスのプラズマが発生させることができる。
【0155】
これらガスの種類、混合比率、流入量、あるいは高周波電源出力等の条件を変えることで、種々のプラズマ処理が施され、その金属酸化物電極表面の電極組成状態を調整することができる。
【0156】
次に、金属酸化物電極の電荷注入表面から金属酸化物電極深層部への電極組成比を解析評価する方法について説明する。分析方法としては、以下の2つの方法を採用した。
【0157】
一つはX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy, XPS)であり、もう一つはオージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy, AES)である。
【0158】
XPS分析の分析条件は以下のとおりである。分析装置には島津製作所/Kratos社製X線光電子分光装置AXIS−HSを用いた。スペクトル条件としては、X線源はモノクロAl(管電圧15kV、管電流15mA)、レンズ条件30mmf(分析面積30mmf)、分解能Pass energy 40、走査速度20eV/minである。
【0159】
イオン銃設定条件としては、加速電圧2.5kV、励起電流15mA、Arガス圧3×10-5Pa、ビームサイズmanual、ラスターサイズ2mm×2mmである。ArガスによるエッチングレートはSiO2換算で1.5nm/minである。
【0160】
AES分析の分析条件は以下のとおりである。分析装置にはPerkin−Elmer社製オージェ電子分光装置PHI650を用いた。電子銃(熱放射型)設定条件は、加速電圧2.0kV、ビーム電流70nA、ビーム径1mm以下、分析領域20mm×20mm、試料傾斜60degである。
【0161】
イオン銃設定条件としては、加速電圧3.0kV、励起電流25mA、Arガス圧15×10-5Pa、ラスターサイズ3mm×3mm、試料傾斜60degである。ArガスによるエッチングレートはSiO2換算で1.5nm/minである。
【0162】
次に、金属酸化物電極表面の表面粗さを分析した方法を説明する。表面粗さ分析には原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy, AFM)を用いた。
【0163】
分析機器はDigital Instruments社製NS3-257(Ver.3.20)で、プローブはSi34、測定雰囲気は大気中、観察領域は1×1mmで、この観察領域の自乗平均表面粗さRq、平均表面粗さRa、10点平均表面粗さRz、Z軸の最高値Rmax等を評価した。
【0164】
次に、金属酸化物電極表面の仕事関数を分析した方法を説明する。分析機器は理研計器製AC−1を用い、測定雰囲気は大気中、励起光源は重水素ランプ、励起エネルギ帯は3.4〜6.2eVである。
【0165】
表面の仕事関数は大気中で変化しやすいため、測定にあたっては前処理室(39)のなるべく近くで測定を行い、表面処理完了後、5分以内に測定を実施した。
【0166】
次に、完成した有機電界発光素子の有機電界発光特性を評価した方法について説明する。有機電界発光素子の発光特性評価(即ち、印加電圧に対する電流密度、発光輝度の関係)には、輝度計(ミノルタ製、ハンディ輝度計LS−110)と精密電源電流計(ヒューレットパッカード製、4140B pAmeter/DC voltage source)を用いた。
【0167】
測定には、0Vを始点として、0.2Vずつ電圧をプラス側に上昇させた場合(以下「順バイアス方向」という。)とマイナス側に下降させた場合(以下「逆バイアス方向」という。)の電圧印加方向がある。
【0168】
所定の電圧を印加した時の流れた電流(及び画素面積で規格化した電流密度)と発光輝度を測定したが、輝度計の指示値の安定性を得るために、電圧印加後2秒経過した時点での電流と輝度をその時の測定値とした。
【0169】
図7は、代表的な発光特性の模式図であって、同図(a)は電流密度と電圧の関係、同図(b)は輝度と電圧の関係を示した。有機電界発光素子は一種の発光ダイオードであり、0Vから始めて順バイアス方向に電圧を上昇させると、少しずつ電流量が増加する。ある電圧に達すると急速に電流量が増加し、発光が開始する。
【0170】
この時の電圧を閾値電圧(Vth)とした。さらに電圧を増加させ続けるにつれ、電流量は著しく増加し、それに比例して発光量も増加する。この十分に発光した領域での特性を指標化するために、発光量が1000cd/m2に到達した時点の電流密度をI1000、電圧をV1000とした。
【0171】
有機電界発光素子の電界発光スペクトル及び画素内の発光分布測定には、蛍光顕微鏡(顕微鏡部はニコン製落射蛍光装置Y−FL、分光システムは浜松ホトニクス製AQUACOSMOS U7 501)を用いた。測定波長域は380〜800nm、分解能は0.1nmである。
【0172】
有機電界発光素子の寿命特性は以下の手法で評価した。電源には直流電源(アドバンテスト製DC voltage current source / meter)を、光量測定には輝度計(トプコン製BM-7 fast)を用いた。
【0173】
事前に発光特性評価を行って、輝度1000cd/m2が得られる特性電流密度I1000を測定しておき、この特性電流密度I1000を直流電源に常時一定電流で印加させて対象画素を通電発光させ、その輝度と電圧の経時変化を測定した。
【0174】
これらの測定では開始直後数秒から1時間の範囲で輝度が一旦上昇した後、なだらかに下降したり、電圧が一旦下降した後、なだらかに上昇したりする初期変動が見られる。このため、初期1000cd/m2相当の定電流で寿命測定を開始しても、時刻0でその値に達しない場合が多い。
【0175】
これらの状況から、各種有機電界発光素子の寿命特性を評価する際には、通電後数時間の範囲での最大輝度Bmaxで規格化した相対輝度B/Bmaxと、最小電圧Vminで規格化した相対電圧V/Vminをもって、寿命特性評価を行った。
【0176】
図8は、代表的な寿命特性の模式図であって、同図(a)は輝度変化を、同図(b)は電圧変化を示した。各有機電界発光素子の寿命特性を比較する際には、例えば相対輝度がX%となった時の時間tx、及びその時の相対電圧RVxをもって比較し、txが大きい程寿命が長い、もしくはRVxが小さい程電圧上昇が小さいとした。
【0177】
次に、このような評価手段によって、得られた素子の諸特性を比較検討した結果について説明する。
【0178】
以下に示す表1は、上述した装置を用いて作製したITOからなる金属酸化物電極(表1では、ITO−Hと表記)の特性図であって、前処理室(39)にて、各種基板表面処理(表1では、各種プラズマ処理1A〜1C)を施した素子の金属酸化物電極の電極表面から電極の深層部にかけての元素組成比の変化をXPSによって分析した結果、電極表面での仕事関数と表面粗さ(Rz:10点平均)、そしてそれら素子の発光特性(Vth、V1000、I1000)と寿命特性(X、tx、RVx)を示す。
【表1】

【0179】
まず、これら金属酸化物電極の電極表面から電極深層部にかけての化合物組成の変化を比較する。これら3種の金属酸化物電極にはITOを構成するIn、Sn、Oと有機物汚染に由来するCとが検知されている。
【0180】
そこで、これら4つの元素の組成比をその総和が100%となるように表示したものが表1である。ここで、スパッタ時間とはXPS分析時のArガスによるスパッタ時間を示し、そのエッチングレートはSiO2換算で1.5nm/minである。
【0181】
各金属酸化物電極の元素組成は程度の差はあれ、スパッタ時間1分以上(SiO2換算で1.5nm以上の深さ)ではほぼ一定の組成である。
【0182】
このうち、Cは表面の有機汚染物に由来するものであるため、電極深層部に向かうにつれて急速に無くなる(1%前後の検知されるのは装置内でのスパッタ時の再汚染による)。これは元々電極本来の組成物ではなく、各種洗浄手段で除去されるべきものである。
【0183】
これに対して、OはITO電極本来の組成物と表面の有機汚染物に含まれる酸素、あるいは表面吸着水由来の酸素も含まれる。
【0184】
そこで、ITO電極本来の組成物が、その最表層まで一定組成であるかどうかを比較するために、ITOの酸素以外の元素であるInとSnの組成比をSn/(In/2)のパーセント比で比較した。すると、各処理によってこのInとSnの組成比は異なることがわかる。
【0185】
例えば、プラズマ処理1Cでは、表面8.80%から電極深層部に向かって12.36、12.75、13.69、13.75%となり、プラズマ処理1Bでは、表面10.26%から電極深層部に向かって13.51、14.35、14.07、13.69%となり、程度の差はあれ、いずれも電極表面のSnの割合がInよりも低く、電極深層部に向かうにつれてSnの割合が増加し、ほぼ13〜14%と一定になることがわかる。
【0186】
なお、プラズマ処理1Aでは、表面15.02%から電極深層部に向かって15.14、14.95、14.97、14.83%と、Snの割合は表面から電極深層部に向かって15%と一定であり、この5点平均が14.982%で、最表層は、この平均に対して+0.3%で小さい変動幅である。これに対して、プラズマ処理1Bでは、平均が12.27%で、最表層は、この平均に対して−28%であり、プラズマ処理1Cでは、平均が13.176%で、最表層は、この平均に対して−22%である。
【0187】
このように元のITOは同じであっても、プラズマ表面処理によって、その最表層での金属酸化物電極の元素組成を変化させることができる。
【0188】
次に、これら金属酸化物電極の仕事関数をみてみる。プラズマ処理1Aから1Cを比べると、仕事関数はそれぞれ4.6、5.0、4.4eVである。また、表面粗さ(Rz、10点平均)を比べると、それぞれ7.640、7.487、8.021nmである。
【0189】
一般に有機電界発光素子の陽極としては、その仕事関数が大きい程正孔が注入しやすく高効率な素子ができると言われ、また、その表面粗さは平坦である程リーク電流が少なく、安定な素子が形成されると言われている。したがって、表1において、仕事関数が最も大きく、かつ平坦度が最も高いプラズマ処理1Bが高効率で長寿命であるように予想される。
【0190】
次に、これらの素子の発光特性と寿命特性を比較した。発光特性をみると、発光開始電圧(Vth)は2.8から3.0Vであり、プラズマ処理1Cが若干小さい。
【0191】
1000cd/m2に達する電圧は、プラズマ処理1Bが9.1Vと他の7.3Vより大きい。しかし、その電圧での流れる電流密度は1Aから1Cでそれぞれ0.018、0.023、0.010A/cm2とプラズマ処理1Bが最も大きい。このように発光特性上は、プラズマ処理1Bが高電圧であるが、他はほぼ同じ特性を示している。
【0192】
これに対して、寿命特性を比較すると、輝度半減寿命(相対輝度が50%に到達する時間)はプラズマ処理1Cが950hrで一番短く、次にプラズマ処理1Bが3640hr、プラズマ処理1Aが4830hrである。
【0193】
しかしその輝度や電圧の変化をみると、特徴的な挙動を示していることがわかる。すなわち、一番短寿命であったプラズマ処理1Cでは、相対輝度90%に達するのが1時間、80%に達するのが4時間と早く、以後輝度低下率はなだらかになる。また、相対電圧は増加の一途を辿り、輝度半減寿命時間では160%の増加となっている。
【0194】
これに対して、2番目の寿命を呈したプラズマ処理1Bでは、プラズマ処理1Cよりは初期輝度低下は少なく、最も長寿命のプラズマ処理1Aでは、さらに初期輝度低下も小さく、全体的に長寿命であり、電圧上昇率はプラズマ処理1Bよりもやや小さい。
【0195】
このように金属酸化物電極のプラズマ表面処理の違いは、その表面から電極深層部側への電極元素組成比を変化させるが、その比率の変化度が小さいもの程、長寿命化していることがわかる。
【0196】
この原因については、明確な解明が現時点では得られていないが、一つの可能性としては金属酸化物電極の元素組成がその深層部から最表面まで一定であること、そして用いている金属酸化物の深層部自体が持つ元素の組成は、その金属酸化物としては化学量論的に最も安定な組成であるために、それとはずれた組成が表面に局在すると不安定な表面元素が電気化学的に分解拡散している可能性がある。
【0197】
〔比較例〕
次に、市販のITO基板を用いて、その諸特性を比較した例について説明する。
【0198】
市販のITOとしては、旭ガラス製の研磨ITOを用いた(ITO−Aと略した)。下地のガラス基板は、実施例1と同様に硼珪ガラスAN100からなり、厚みは0.7mmである。ITO層の厚みは150nmの多結晶ITOからなる。
【0199】
このITO基板に対して、実施例1と同一の基板洗浄工程を施したものを図3に示すステップ2の金属酸化物電極(20)とし、以下、実施例1と同一の金属酸化物電極のパターニング工程を経て、同一の基板前処理を行い、含有機物質薄膜層形成、第2電極形成、封止缶による封止等の工程を経て、有機電界発光素子を作製した。
【0200】
したがって、実施例1と異なる点は、下地の金属酸化物電極が市販品であること、それに対して各種の表面処理を施した点のみ以外は同一の構成からなる素子である。この素子の金属酸化物電極の諸物性や素子の発光特性、寿命特性を以下の表2にまとめて示した。
【表2】

【0201】
まず、その金属酸化物電極の元素組成比を比較する。このITO電極についても、実施例1と同様にIn、Sn、O、Cが検知され、スパッタ時間1min以上では、その組成比はほぼ一定になっている。
【0202】
最表層の組成比をみるために、同様にSnとInの比率に着目すると、今回の2種類の表面処理ではいずれも16%台であり、金属酸化物電極深層部は13〜14%であるのに比べてSnの割合が高い。
【0203】
比較例での処理ではいずれも実施例1のような金属酸化物電極表面から深層部にかけて元素比が一定となるような処理を見出すことができなかった。留意すべき点は、スパッタ時間1min以上の深層部における元素組成比は、実施例1と同じであり、最表面以外の組成が電極の特徴を決定している点である。
【0204】
また、これらの仕事関数は、処理1C、1Bで、それぞれ5.1、5.6eVであり、表面粗さは0.915、0.902nmとなった。
【0205】
実施例1のITO−Hと比べると、仕事関数はいずれも大きく、表面粗さは著しく小さい。このことは、実施例1の有機電界発光素子は、正孔の注入効率が高く、リーク電流が発生しにくい安定な素子を与えることを期待させる。
【0206】
次に、その発光特性と寿命特性を比較する。まず、発光特性をみると、発光開始電圧は2.8eVで実施例1とほぼ同じであるが、輝度1000cd/m2に達する電圧V1000と電流密度I1000は異なり、処理1Cでは、それぞれ6.8V、0.031A/cm2であるのに対して、処理1Bでは、それぞれ9.0V、0.010A/cm2である。
【0207】
次に、寿命特性をみると、実施例1においては、最もV1000が小さな素子(ITO−H/プラズマ処理1C)が、最もV1000が大きな素子(ITO−H/プラズマ処理1B)よりも短寿命であったが、このITOの場合は、その傾向は逆であり、輝度低下は処理1Cの方が小さい。
【0208】
電圧上昇率は、初期の上昇率が処理1Cの方がやや大きい以外はほぼ同等である。また、これらの寿命は、いずれも実施例1の最も長寿命であった素子よりも短寿命である。
【0209】
このように、金属酸化物電極の元素組成比自体が、実施例1のように最表面から電極深層部にかけて一定である場合に比べると、短寿命であるが、特に、Sn対Inの比率に着目した場合、実施例1と異なり最表面におけるSnの割合が多くなっている場合は、やや複雑な挙動を示している。
【0210】
以上、金属酸化物電極の組成比を、本発明のように表面から深層部にかけて一定化できない場合は、深層部分の金属酸化物電極がほとんど同じであっても長寿命化させることができない。
【実施例2】
【0211】
次に、別の含有機物質薄膜層からなる有機電界発光素子に関して、実施例1と同様の検討を行った結果について説明する。
【0212】
ここでは、より単純な含有機物質薄膜層からなる素子として、αNPDとAlq3の有機層2層からなる素子を用いて検討した。αNPD及びAlq3はいずれも新日鐵化学製のものを用い、金属酸化物電極及びその表面処理は、ITO−Hに対してプラズマ処理1Aを施した以外は、比較例と同じにした。
【0213】
素子構成は、金属酸化物電極上に、同様の手法でαNPDを50nm積層した後、Alq3を50nm積層し、実施例1同様の第2電極(LiF0.5nm、Al150nm)を積層し、最終的には封止した。
【0214】
以下に示す表3に、完成した素子に対して、実施例1と同じ発光特性評価と寿命特性評価を行った結果をまとめた。
【表3】

【0215】
これら素子の発光特性は、発光開始電圧が2.4〜2.6Vで、1000cd/m2に達する電圧は6.6〜7.0V、その時の電流密度は0.140〜0.143A/cm2であり、特に著しい差異は認められない。
【0216】
しかしながら、その寿命特性をみると、輝度半減時間は3.55時間から17.09時間と大きく異なり、実施例1同様、ITO−Hに対してプラズマ面処理1Aを施したものが最も長寿命であった。
【0217】
電圧上昇については、明確な差異が認められず、今回の素子構成については、ほぼ同等のようにみえる。
【0218】
このように、金属酸化物電極の表面から電極深層部にかけて、その電極を構成する化合物組成を一定にすることは、有機電界発光素子の長寿命化に一定の効果を与えることが、本実施例の素子構成の場合にも確認された。
【0219】
しかしながら、実施例1の素子構成に比べると、圧倒的に寿命は短い。つまり、金属酸化物電極だけでなく、含有機物質薄膜層の選択も最終的な寿命向上には必要である。
【実施例3】
【0220】
次に、以下に示す表4を用いて、本発明に係る金属酸化物電極の組成比の最適範囲について、見積もった結果を説明する。ここで、表4は、表1,2における金属酸化物電極ITO−HとITO−AのInとSnの組成比を再び整理して示した。
【表4】

【0221】
この表4において、各金属酸化物電極/表面処理の組み合わせによって、種々の組成分布を有する金属酸化物電極が得られるが、スパッタ時間の長い部分、つまり金属酸化物電極深層部の方は組成比がほぼ一定となっている。
【0222】
そこで、各組み合わせにおけるスパッタ時間1〜4分の範囲の平均組成(%)を求め、これを各金属酸化物電極の深層部組成とした。
【0223】
この値に対する最表面のInとSnの組成比の割合を求めたところ、最も寿命の長かったITO−H/1Aでは0.72%であるのに対して、寿命の長いその他の金属酸化物電極の場合、ITO−H/1B、ITO−H/1C、ITO−A/1C、ITO−A/1Bでそれぞれ、−26.92、−34.30、21.72、21.51となった。
【0224】
このことから、少なく共深層部に対する表面での組成のずれは−21〜+21%の範囲に収まっていれば、その最適範囲をカバーしていることがわかる。したがって、金属酸化物からなる電極の表面から深層部までの化合物組成比が一定化されていると判断される化合物組成比の変動幅は大きくとも21%以内である。
【0225】
また、今回はスパッタ時間とし4分までの範囲をみて、この中で金属酸化物電極の組成比がほぼ一定となるような処理を施した。これをSiO2換算で深さの値とすると、表面から最大6nmの範囲で、ほぼ一定になることで、本発明のような特性を有する金属酸化物電極が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0226】
【図1】本発明に係る有機電界発光素子の基本構成図及び電極組成比を表すグラフ
【図2】本発明に係る有機電界発光素子の具体的素子構造図
【図3】本発明に係る有機電界発光素子の作製工程図
【図4】本発明に係る有機電界発光素子構成部材のパターニング配置図
【図5】本発明に係る有機電界発光素子の作製装置の配置図
【図6】図5に示す作製装置の前処理室構成図
【図7】有機電界発光素子の代表的発光特性図
【図8】有機電界発光素子の代表的寿命特性図
【符号の説明】
【0227】
1…基板、2…金属酸化物電極、3…電荷注入表面、4…金属酸化物電極深層部、5…含有機物質薄膜層、6…第2電極、
7…基板、8…金属酸化物電極、9…正孔注入層、10…正孔輸送層、11…発光層、12…電子輸送層、13…電子注入層、14…対向電極、15…電荷注入表面、16…金属酸化物電極深層部、17…含有機物質薄膜層、18…第2電極、
19…基板、20…金属酸化物電極、20’…パターニング後の金属酸化物電極、21…含有機物質薄膜層、22…第2電極、23…封止缶、
28…前処理室、29…有機室、30…金属室、31…受渡室、32…封止室、33…基板搬入口、34,34’…搬送棒、35…ゲートバルブ、36…素子取出口、
37…高周波電源、38…マッチングボックス、39…前処理室、40…基板保持機構、41,41’,41’’…ゲートバルブ、42…ガス調整器、43…ガスボンベ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極の間に挟まれた少なくとも1種類以上の薄膜層と、前記薄膜層の少なくとも1つは、前記電極を通じて薄膜層に正と負の電荷が注入され、輸送されて、前記正と負の電荷により生成された正孔と電子の再結合により光を発生する有機発光層、又は前記有機発光層からの光を受けて二次的に光を発生させる蛍光若しくは燐光層であって、前記電極の少なくとも1つは電荷が注入される金属酸化物からなる有機電界発光素子において、
前記金属酸化物からなる電極の表面から深層部までの化合物組成比が一定化されていることを特徴とする有機電界発光素子
【請求項2】
前記金属酸化物からなる電極の表面に付着する物質の元素とは異なる全ての元素の化合物組成比が、金属酸化物からなる電極の表面から深層部まで一定化されていることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子
【請求項3】
前記深層部の深さが6nm以内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機電界発光素子
【請求項4】
前記金属酸化物を構成する金属元素は、In、Sn、Zn、Fe、Co、Sr、Cu、Ag、Pt、W、Ni、のいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の有機電界発光素子
【請求項5】
前記金属酸化物からなる電極の表面粗さが1nm以上であり、かつ前記有機電界発光素子の前記金属酸化物に接触して形成される薄膜層の膜厚よりも小さいことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の有機電界発光素子
【請求項6】
前記金属酸化物からなる電極の仕事関数が5.0eV以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の有機電界発光素子
【請求項7】
電極の間に挟まれた少なくとも1種類以上の薄膜層と、前記薄膜層の少なくとも1つは、前記電極を通じて薄膜層に正と負の電荷が注入され、輸送されて、前記正と負の電荷により生成された正孔と電子の再結合により光を発生する有機発光層、又は前記有機発光層からの光を受けて二次的に光を発生させる蛍光若しくは燐光層であって、前記電極の少なくとも1つは電荷が注入される金属酸化物からなる有機電界発光素子をマトリクス状に配置した有機電界発光装置において、
前記金属酸化物からなる電極の表面から深層部までの化合物組成比が一定化されていることを特徴とする有機電界発光装置

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−318837(P2006−318837A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142255(P2005−142255)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】