説明

有機高分子膜及びその形成方法

【課題】分子内に3次元空孔を有する3次元重合高分子構造を有し、機械強度に優れ且つ低誘電率の有機高分子膜を形成する。
【解決手段】アダマンタン骨格における少なくとも1,3,5,7位に、炭素数が1以上の置換基、官能基、又は置換基を介した官能基が結合しており、官能基と結合している置換基が芳香族であるアダマンタン誘導体よりなるモノマーを重合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機高分子膜及びその形成方法に関するものであり、特に、低誘電率且つ高機械強度である層間絶縁膜及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、超LSI(Large Scale Integration)等の層間絶縁膜として、耐熱性の向上のため芳香族系分子を重合した高分子からなる有機高分子膜が使用されている。具体的には、ポリイミド誘導体、ポリアリルエーテル誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリパラキシレン誘導体などが知られている。これらの高分子は炭素を主成分とするため、SiO2 系の層間絶縁膜に比べて構成分子の分極率が低く、低誘電率層間絶縁膜として注目されている。
【0003】
具体的には、炭素を主成分とする有機高分子の比誘電率は例えば2.4〜3.0程度であり、SiO2 系層間絶縁膜の誘電率が3.3〜4.5程度であるのに比べて低い。但し、SiO2 系の材料においても、有機成分を導入した有機SOG(Spin On Glass )では2.9程度の比誘電率の層間絶縁膜が知られている。
【0004】
これらの従来の有機高分子膜について、有機高分子の分極率がSiO2 の分極率に比べて小さいことから低誘電率化を実現しているが、近年、比誘電率を更に低減させる目的で多孔質化することが検討されている。しかしながら、多孔質化することにより、比誘電率を大幅に低下させることが可能になる一方で、密着性の低下と機械強度の低下とを招くことになる。これは、多孔質化による低誘電率化が有機高分子の架橋密度を低下させることによって実現されるという原理的な欠陥を有することが原因となっている。有機高分子膜の機械強度は架橋密度が高いほど大きいが、多孔質化による架橋密度の低下は、材料そのものの硬さを低下させると共に、ガラス転移温度の低下をも引き起こす。密着性及び機械強度が低下すると、例えば、多層配線構造において、化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing)による平坦化処理の際に、配線構造の破壊を引き起こしてしまう。一方、ガラス転移温度の低下は、有機高分子膜よりなる層間絶縁膜を形成した後の熱処理によって層間絶縁膜の軟化を引き起こし、その結果、多層配線構造の変形又は破壊などを引き起こしてしまう。
【0005】
ところで、密着性の低下及び機械強度の低下を引き起こすことなく、有機高分子膜の低誘電率化を実現させるために、内部に空孔を有する構造の分子を合成し、該分子を重合することにより、3次元空孔を内包する3次元重合高分子構造の有機高分子膜を形成する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。例えば、4つの官能基群を有する3次元重合性モノマーと該官能基に化学結合する2つの官能基群を有し且つ直鎖状の2次元重合性モノマーとの共重合体を形成することにより、分子サイズの3次元空孔を有する3次元重合高分子構造体を形成する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2001−332543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、低分子量の3次元重合性モノマーと2次元重合性モノマーとの重合反応では、2次元重合性モノマーの嵩高さが小さいので、3次元重合性モノマーと2次元重合性モノマーとが相互に入り組んだ構造が形成されやすい。このため、膜密度が高くなり、比誘電率が高くなるという問題があった。また、ベンツイミダゾールをポリマーの基本骨格とする場合には、イミダゾールにおけるNHの分極によって吸湿性が高くなる。このため、脱ガスの発生によって多層配線構造におけるビア抵抗の増大や、比誘電率の増大を招くという問題があった。さらに、低分子量のモノマーを用いた場合には、2次元重合性モノマーである2次元重合性アミン誘導体モノマーの揮発温度と重合温度とがほぼ同様の温度範囲内にあるので、重合反応が2次元重合性アミン誘導体モノマーの揮発と同時に進行する。このため、2次元重合性アミン誘導体モノマーが揮発によって減少するので、重合反応が阻害されてしまい、高分子量のポリマーを形成することができないという問題があった。そして、その結果、ガラス転移温度の低下や、機械強度の低下を更に招くという問題があった。
【0007】
前記に鑑み、本発明の目的は、機械強度に優れ且つ低誘電率である有機高分子膜及びその形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本件発明者が種々検討を重ねた結果、2次元重合性のアミン誘導体モノマーと3次元重合性のアダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体モノマーのカルボキシル基とを反応させることにより、3次元重合性のアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体モノマーを形成することができることを見出した。そこで、本発明は、該3次元重合性のアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体モノマーを用いて、3次元重合性のアダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体モノマーとを共重合反応させることにより、機械強度に優れ且つ低誘電率である有機高分子膜及びその形成方法を提供するものである。
【0009】
本発明で用いる3次元重合性のアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体モノマーは、2次元重合性のアミン誘導体モノマーに比べて嵩高さが大きいので、3次元重合性のアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体モノマーと3次元重合性のアダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体モノマーが互いに貫入し合うことが抑制される。このため、3次元重合性のモノマー同士の間に大きな空間を形成しながら重合反応を進行させることが可能になる。この点、嵩高さの小さい2次元重合性のモノマーと3次元重合性のモノマーとの重合させる場合には、重合反応の進行と共に形成されるオリゴマーの空隙に2次元重合性のモノマーが貫入しながら重合反応が進行するので、高密度の膜が形成されてしまう。これに対して、嵩高さが大きい3次元重合性のアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体モノマーを用いて、3次元重合性のモノマー同士を重合させる場合には、重合反応の進行と共に形成されるオリゴマーの空隙に3次元重合性のアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体モノマーは貫入し難いものである。その上、3次元重合性のアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体モノマーは、sp2 炭素のみからなる芳香族置換基を介した官能基を有しているため、該官能基に結合した芳香族置換基は剛直であって変形し難いものである。このため、高温の熱処理を経ても収縮することなく、低密度であって且つ高架橋密度を有する有機高分子膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、機械強度に優れ且つ低誘電率である有機高分子膜を得ることができる。また、同時に、吸湿性が抑制された有機高分子膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、本発明は、第1のモノマーと第2のモノマーとの共重合によって得られる機械強度に優れ且つ低誘電率の有機高分子膜を提供すると共にその形成方法を提供するものであって、第1のモノマーとして、アダマンタン骨格における少なくとも1,3,5,7位のうち三箇所に、炭素数が1以上の置換基、官能基、又は置換基を介した官能基が結合しており、前記第1のモノマー内における官能基の少なくともひとつがカルボキシル基であり、前記第1のモノマー内における官能基と結合している置換基が芳香族であるアダマンタン誘導体よりなるモノマーを用いると共に、第2のモノマーとして、アダマンタン骨格における少なくとも1,3,5,7位のうち三箇所に、炭素数が1以上の置換基、官能基、又は置換基を介した官能基が結合しており、前記第2のモノマー内における官能基の少なくともひとつが水酸基であり、前記第2のモノマー内における官能基と結合している置換基が芳香族であるアダマンタン誘導体よりなるモノマーを用いることを特徴としている。
【0012】
具体的に、本発明の一実施形態に係る有機高分子膜の形成方法は、第1のモノマーとして、後述する[化61]に示す一般式で表されるアダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体よりなるモノマーと、第2のモノマーとして、後述する[化64]に示す一般式で表されるアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体よりなるモノマーとを用いることを特徴とし、第1のモノマーの一種類又は複数種類と第2のモノマーの一種類又は複数種類とを共重合させることにより、機械強度に優れ且つ低誘電率の層間絶縁膜を形成する方法であり、また、本発明の一実施形態に係る有機高分子膜は、第1のモノマーの一種類又は複数種類と第2のモノマーの一種類又は複数種類との共重合体よりなる有機高分子膜である。
【0013】
ここで、第1のモノマー及び第2のモノマーについて説明する。
【0014】
−−第1のモノマー(アダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体)−−
まず、第1のモノマーは、3次元重合性モノマーであって、下記[化61]に示す一般式で表されるアダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体によって構成されている。
【0015】
【化61】

【0016】
(但し、X1 、X2 、X3 、及びX4 の各々は、下記[化62]に示す置換基、下記[化63]に示す置換基、水素原子、脂肪族基、及び芳香族基よりなる群のうちから選択されるいずれか1つの種類あって、且つ、X1 〜X4 のうちの少なくとも1つは、下記[化62]又は下記[化63]に示す置換基である。)
【0017】
【化62】

【0018】
【化63】

【0019】
ここで、上記X1 〜X4 の取り得る組み合わせの種類について具体的に示すと、下記[表1]の通りである。
【0020】
【表1】

【0021】
[表1]に示すように、X1 〜X4 の取り得る組み合わせの種類としては、組み合わせ1a〜1hであり、具体的には、組み合わせ1aの場合では、X1 〜X4 が(1)に示す置換基(上記[化62]に対応する、以下同じ)であり、組み合わせ1bの場合では、X1 〜X3 が(1)に示す置換基であって、且つ、X4 が水素、脂肪族基又は芳香族基であり、組み合わせ1cの場合では、X1 及びX2 が(1)に示す置換基であって、且つ、X3 及びX4 が水素、脂肪族基又は芳香族基であり、組み合わせ1dの場合では、X1 が(1)に示す置換基であって、且つ、X2 〜X4 が水素、脂肪族基又は芳香族基である。さらに、組み合わせ1eの場合では、X1 〜X4 が(2)に示す置換基(上記[化63]に対応する、以下同じ)であり、組み合わせ1fの場合では、X1 〜X3 が(2)に示す置換基であって、且つ、X4 が水素、脂肪族基又は芳香族基であり、組み合わせ1gの場合では、X1 及びX2 が(2)に示す置換基であって、且つ、X3 及びX4 が水素、脂肪族基又は芳香族基であり、組み合わせ1hの場合では、X1 が(2)に示す置換基であって、且つ、X2 〜X4 が水素、脂肪族基又は芳香族基である。
【0022】
−−第2のモノマー(アダマンタン骨格を含有するアミン酸誘導体)−−
一方、第2のモノマーは、3次元重合性モノマーであって、下記[化64]に示す一般式で表されるアダマンタン骨格を含有するアミン酸誘導体によって構成されている。
【0023】
【化64】

【0024】
(但し、Y1 、Y2 、Y3 、及びY4 の各々は、下記[化65]〜下記[化72]に示す置換基、水素、脂肪族基、及び芳香族基よりなる群のうちから選択されるいずれか1つの種類であって、且つ、Y1 〜Y4 のうちの少なくとも1つは、下記[化65]〜下記[化72]に示す置換基のうちのいずれか1つの種類である。)
【0025】
【化65】

【0026】
【化66】

【0027】
【化67】

【0028】
【化68】

【0029】
【化69】

【0030】
【化70】

【0031】
【化71】

【0032】
【化72】

【0033】
ここで、上記Y1 〜Y4 の取り得る組み合わせの種類について具体的に示すと、下記[表2]及び下記[表3]の通りである。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
まず、[表2]に示すように、Y1 〜Y4 の取り得る組み合わせの種類としては、組み合わせ2a〜2pであり、具体的には、組み合わせ2aの場合では、Y1 〜Y4 が(3)に示す置換基(上記[化65]に対応する、以下同じ)であり、組み合わせ2bの場合では、Y1 〜Y3 が(3)に示す置換基であって、且つ、Y4 が水素、脂肪族基又は芳香族基であり、組み合わせ1cの場合では、Y1 及びY2 が(3)に示す置換基であって、且つ、Y3 及びY4 が水素、脂肪族基又は芳香族基であり、組み合わせ2dの場合では、Y1 が(3)に示す置換基であって、且つ、Y2 〜Y4 が水素、脂肪族基又は芳香族基である。また、組み合わせ2eの場合では、Y1 〜Y4 が(4)に示す置換基(上記[化66]に対応する、以下同じ)であり、組み合わせ2fの場合では、Y1 〜Y3 が(4)に示す置換基であって、且つ、Y4 が水素、脂肪族基又は芳香族基であり、組み合わせ2gの場合では、Y1 及びY2 が(4)に示す置換基であって、且つ、Y3 及びY4 が水素、脂肪族基又は芳香族基であり、組み合わせ2hの場合では、Y1 が(4)に示す置換基であって、且つ、Y2 〜Y4 が水素、脂肪族基又は芳香族基である。
【0037】
さらに、組み合わせ2iの場合では、Y1 〜Y4 が(5)に示す置換基(上記[化67]に対応する、以下同じ)であり、組み合わせ2jの場合では、Y1 〜Y3 が(5)に示す置換基であって、且つ、Y4 が水素、脂肪族基又は芳香族基であり、組み合わせ2kの場合では、Y1 及びY2 が(5)に示す置換基であって、且つ、Y3 及びY4 が水素、脂肪族基又は芳香族基であり、組み合わせ2lの場合では、Y1 が(5)に示す置換基であって、且つ、Y2 〜Y4 が水素、脂肪族基又は芳香族基である。また、組み合わせ2mの場合では、Y1 〜Y4 が(6)に示す置換基(上記[化68]に対応する、以下同じ)であり、組み合わせ2nの場合では、Y1 〜Y3 が(6)に示す置換基であって、且つ、Y4 が水素、脂肪族基又は芳香族基であり、組み合わせ2oの場合では、Y1 及びY2 が(6)に示す置換基であって、且つ、Y3 及びY4 が水素、脂肪族基又は芳香族基であり、組み合わせ2pの場合では、Y1 が(6)に示す置換基であって、且つ、Y2 〜Y4 が水素、脂肪族基又は芳香族基である。
【0038】
さらに、[表3]に示すY1 〜Y4 の取り得る組み合わせ3a〜3pは、上記[表4]に示した組み合わせ2a〜2pと同様であって、組み合わせ2a〜2pで示した(3)〜(6)に示した置換基の代わりに、(7)〜(10)に示す置換基(上記[化69]〜[化72]に対応する)を用いたものであって、その他は組み合わせ2a〜2pと同様である。
【0039】
−−第2のモノマー(アダマンタン骨格を含有するアミン酸誘導体)の合成法−−
ここで、さらに、アダマンタン骨格を含有するアミン酸誘導体よりなる第2のモノマーの合成法について説明する。
【0040】
図1〜図3は、第2のモノマーの合成法の一例を説明するための図であって、具体的には、上記X1 〜X4 が[表2]の組み合わせ2aである場合を例とした合成法と、[表3]の組み合わせ3aである場合を例とした合成法とを説明するための図である。
【0041】
まず、図1に示すように、V,R,Reichertらによる文献 Macromolecules 1994,27 におけるp.7015-7023に示す方法に沿って、カルボキシラトフェニルアダマンタン誘導体(10a)を合成しておく。そして、 該カルボキシラトフェニルアダマンタン誘導体(10a)とSOCl2 (10b)とをシクロヘキサン(cyclohexane)中で80℃、2時間反応させた後、固体(10c)を単離する。
【0042】
次に、図2に示すように、単離された固体(10c)とジヒドロキシジアミノビフェニル(10d)とを、ジメチルアセトアミド(DMAc)中で、トリエチルアミン(Et3N)共存下に、室温で反応させることにより、組み合わせ3aの場合のアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体(10e)を合成する。
【0043】
さらに、図3に示すように、アダマンタン骨格を含有するアミン誘導体(10e)をジメチルアセトアミド(DMAc)中で、空気雰囲気下で、120℃で、10時間反応させることにより、組み合わせ2aの場合のアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体(10f)を合成する。
【0044】
なお、組み合わせ2a及び3a以外の他の組み合わせについては、ここではその説明を省略するが、上記と同様にして形成することができる。
【0045】
−−第1のモノマー(アダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体)と第2のモノマー(アダマンタン骨格を含有するアミン酸誘導体)との共重合−−
本発明は、上記したように、第1のモノマーと第2のモノマーとを共重合させて、機械強度に優れ且つ低誘電率の有機高分子膜を形成することを特徴とするが、以下では、第1のモノマーと第2のモノマーとの共重合について、図4及び図5を用いて説明する。
【0046】
まず、図4に示すように、上記[表1]に示した組み合わせ1aの場合のアダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体よりなる第1のモノマー(20a)と上記[表3]に示した組み合わせ3aの場合のアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体よりなる第2のモノマー(10e)とを共重合させると、モノマー同士の貫入が抑制されて且つモノマー同士の間に空間が形成された構造を有する有機高分子膜(20c)を形成することができる。
【0047】
同様に、図5に示すように、上記[表1]に示した組み合わせ1aの場合のアダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体よりなる第1のモノマー(20a)と上記[表2]に示した組み合わせ2aの場合のアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体よりなる第2のモノマー(10f)とを共重合させた場合にも、モノマー同士の貫入が抑制されて且つモノマー同士の間に空間が形成された構造を有する有機高分子膜(20c)を形成することができる。
【0048】
この点、背景技術において例に挙げたように、3次元重合性モノマーであるカルボン酸誘導体(20a)と、2次元重合性モノマーであるジヒドロキシジアミンビフェニル(20b)とを重合させると、2次元重合性モノマーの嵩高さが小さいので、図6に示すように、該モノマー同士が相互に入り組んだ構造(20d)を有する有機高分子膜が形成されやすい。
【0049】
これに対して、図4及び図5を例に説明したように、3次元重合性のモノマー同士を重合させると、図7の概念図に示すように、重合反応の進行と共に形成されるオリゴマー(30a)の空隙に、本発明におけるデンドリマー型である3次元重合性モノマー(30c)は貫入し難く(これに対して、従来の2次元重合性モノマー(30b)は貫入しやすい)、且つ、3次元重合性のアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体モノマーはsp2 炭素のみからなる芳香族置換基を介した官能基を有しているために剛直であるから変形し難い。このため、高温の熱処理を経ても収縮することなく、低密度であって且つ高架橋密度を有する有機高分子膜を形成することができる。したがって、機械強度に優れ且つ低誘電率の有機高分子膜が実現される。
【0050】
また、本発明では、ベンツオキサゾールがポリマーの基本骨格とする有機高分子膜であり、分極率の大きいイミダゾールにおけるNHがエーテル結合で置き換えられた構造を有するので、吸湿性を低減させている。
【0051】
(実施例)
以下に、上記した本発明の一実施形態を具体化する一実施例、具体的には、回転塗布法を用いて、第1のモノマーと第2のモノマーとを共重合させることによって有機高分子膜よりなる層間絶縁膜を形成する一実施例について、図8を参照しながら説明する。
【0052】
まず、上記[表1]の組み合わせ1aの場合の第1のモノマーとなるアダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体(分子量616.7)300gと、上記[表2]の組み合わせ2aの第2のモノマーとなるアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体(分子量1336.5)650mgとをジメチルアセトアミド20mlに溶解させてなる溶液41を薬液ボトル40内に作製した。次に、薬液ボトル40をヘリウムガスにより加圧することにより、溶液41を薬液ノズル42を介すると共に厚さ0.2μmの例えばフッ素樹脂(4フッ化エチレン樹脂)よりなるフィルター43を通して、コーターカップ44内の回転支持台45に設置された直径300mmのシリコンウェーハ(半導体基板)46上に、溶液41を1ml滴下し、シリコンウェーハ46の回転数が3000rpmとなるように、30秒間、回転塗布を行って、シリコンウェーハ46上に薄膜47を形成した。
【0053】
次に、薄膜47が形成されたシリコンウェーハ46をホットプレートで、180℃、100秒間、加熱処理を行うことにより、薄膜47から溶剤を揮発させた。その後、300℃、10分間、ホットプレートでさらに加熱処理を行った。次に、窒素雰囲気下において、400℃、30分間、電気炉で加熱処理を行った。このようにすることにより、薄膜47内で、第1のモノマーと第2のモノマーとの共重合反応が進行して、シリコンウェーハ46上に有機高分子膜よりなる層間絶縁膜が形成された。
【0054】
分光エリプソメーターを用いて、層間絶縁膜の膜厚を測定したところ、330nmであった。また、水銀プローバーを用いて、層間絶縁膜の比誘電率を測定したところ、2.1の値が得られた。この点、例えば、ポリオキサゾールのバルク材料の比誘電率は2.6程度であるので、上記実施例による方法により、低誘電率の層間絶縁膜を得ることができた。
【0055】
なお、本実施例では、第1のモノマーとして、上記[表1]の組み合わせ1aに示した重合性の官能基を4組有するアダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体よりなるモノマーを用いると共に、第2のモノマーとして、上記[表2]の組み合わせ2aに示した重合性の官能基を4組有するアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体よりなるモノマーを用いた場合について説明したが、例えば、重合性の官能基を3組有するモノマー(上記[表1]の組み合わせ1b)と重合性の官能基を4組有するモノマー(上記[表2]の組み合わせ2a)、重合性の官能基を3組有するモノマー同士(上記[表1]の組み合わせ1bと上記[表2]の組み合わせ2b)、重合性の官能基を2組有するモノマー(上記[表2]の組み合わせ1c)と重合性の官能基を4組有するモノマー(上記[表2]の組み合わせ2a)等、上記[表1]に示した組み合わせ1a〜1hのうちから選択される1種類のモノマー又は複数種類のモノマーと、上記[表2]に示した組み合わせ2a〜2p及び上記[表3]に示した組み合わせ3a〜3pのうちから選択される1種類のモノマー又は複数種類のモノマーとを組み合わせて溶液を調整してもよい。また、この場合、選択される第1のモノマーの種類の数と第2のモノマーの種類の数は、同一である場合でも異なる場合でもよい。
【0056】
このようにすると、形成される有機高分子膜の架橋密度を自由に調整することができるので、機械強度及び比誘電率を適宜所望の値になるように調整することができる。すなわち、モノマーにおける重合性を有する官能基の組の数が多いモノマー同士を組み合わせて重合することにより、架橋密度を高くすることができるので、機械強度は大きいが比誘電率はやや高い有機高分子膜を形成することができる。また、モノマーにおける重合性を有する官能基の組の数が少ないモノマー同士を組み合わせて重合することにより、架橋密度を低減することができるので、機械強度はやや弱いが比誘電率は低い高分子膜を形成することができる。このように、形成される膜の物性を精密に制御することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の有機高分子膜は層間絶縁膜として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態における第2のモノマーの合成過程の一例を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態における第2のモノマーの合成過程の一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態における第2のモノマーの合成過程の一例を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態における第1のモノマーと第2のモノマーとの共重合の一例を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態における第1のモノマーと第2のモノマーとの共重合の一例を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態における比較例としての3次元重合性モノマーと2次元重合性モノマーとの共重合の一例を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態における第1のモノマーと第2のモノマーとが貫入し難いことを説明するための概念図である。
【図8】本発明の一実施形態の実施例における回転塗布法に用いる装置を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
10a カルボキシラトフェニルアダマンタン誘導体
10b SOCl2
10c 固体
10d、20b ジヒドロキシジアミノビフェニル
10e アダマンタン骨格を含有するアミン誘導体
10f アダマンタン骨格を含有するアミン誘導体
20a アダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体
20c 本発明の一実施形態の3次元重合構造を有する有機高分子膜
20d 比較例の3次元重合構造を有する有機高分子膜
30a 重合途中のオリゴマー
30b 従来の2次元重合性モノマー
30c 本発明の一実施形態におけるデンドリマー型の3次元重合性モノマー
40 薬液ボトル
41 溶液
42 薬液ノズル
43 フィルター
44 コーターカップ
45 回転支持台
46 シリコンウェーハ
47 薄膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[化1]の一般式
【化1】

(但し、X1 、X2 、X3 、及びX4 の各々は、下記[化2]に示す置換基、下記[化3]に示す置換基、水素原子、脂肪族基、及び芳香族基よりなる群のうちから選択されるいずれか1つの種類あって、
【化2】

【化3】

且つ、前記X1 〜X4 のうちの少なくとも1つは、前記[化2]又は前記[化3]に示す置換基である。)
で表されるアダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体よりなる第1のモノマーであって、前記X1 〜X4 として選択される種類によって決定される前記第1のモノマーの一種類又は複数種類と、
下記[化4]の一般式
【化4】

(但し、Y1 、Y2 、Y3 、及びY4 の各々は、下記[化5]〜下記[化12]に示す置換基、水素、脂肪族基、及び芳香族基よりなる群のうちから選択されるいずれか1つの種類であって、
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

且つ、前記Y1 〜Y4 のうちの少なくとも1つは、前記[化5]〜前記[化12]に示す置換基のうちのいずれか1つの種類である。)
で表されるアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体よりなる第2のモノマーであって、前記Y1 〜Y4 として選択される種類によって決定される前記第2のモノマーの一種類又は複数種類とを共重合させる工程を備えることを特徴とする有機高分子膜の形成方法。
【請求項2】
下記[化13]の一般式
【化13】

(但し、X1 、X2 、X3 、及びX4 の各々は、下記[化14]に示す置換基、下記[化15]に示す置換基、水素原子、脂肪族基、及び芳香族基よりなる群のうちから選択されるいずれか1つの種類あって、
【化14】

【化15】

且つ、前記X1 〜X4 のうちの少なくとも1つは、前記[化14]又は前記[化15]に示す置換基である。)
で表されるアダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体よりなる第1のモノマーであって、前記X1 〜X4 として選択される種類によって決定される前記第1のモノマーの一種類又は複数種類と、
下記[化16]の一般式
【化16】

(但し、Y1 、Y2 、Y3 、及びY4 の各々は、下記[化17]〜下記[化24]に示す置換基、水素、脂肪族基、及び芳香族基よりなる群のうちから選択されるいずれか1つの種類であって、
【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【化23】

【化24】

且つ、前記Y1 〜Y4 のうちの少なくとも1つは、前記[化17]〜前記[化24]に示す置換基のうちのいずれか1つの種類である。)
で表されるアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体よりなる第2のモノマーであって、前記Y1 〜Y4 として選択される種類によって決定される前記第2のモノマーの一種類又は複数種類とを含む溶液を、基板上に塗布する工程と、
熱処理を施して、前記基板上に塗布された前記溶液に含まれる前記第1のモノマーの一種類又は複数種類と前記第2のモノマーの一種類又は複数種類とを共重合させる工程とを備えることを特徴とする有機高分子膜の形成方法。
【請求項3】
前記第1のモノマーの種類数と前記第2のモノマーの種類数とは、同一又は異なっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機高分子膜の形成方法。
【請求項4】
下記[化25]の一般式
【化25】

(但し、X1 、X2 、X3 、及びX4 の各々は、下記[化26]に示す置換基、下記[化27]に示す置換基、水素原子、脂肪族基、及び芳香族基よりなる群のうちから選択されるいずれか1つの種類あって、
【化26】

【化27】

且つ、前記X1 〜X4 のうちの少なくとも1つは、前記[化26]又は前記[化27]に示す置換基である。)
で表されるアダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体よりなる第1のモノマーであって、前記X1 〜X4 として選択される種類によって決定される前記第1のモノマーの一種類又は複数種類と、
下記[化28]の一般式
【化28】

(但し、Y1 、Y2 、Y3 、及びY4 の各々は、下記[化29]〜下記[化36]に示す置換基、水素、脂肪族基、及び芳香族基よりなる群のうちから選択されるいずれか1つの種類であって、
【化29】

【化30】

【化31】

【化32】

【化33】

【化34】

【化35】

【化36】

且つ、前記Y1 〜Y4 のうちの少なくとも1つは、前記[化29]〜前記[化36]に示す置換基のうちのいずれか1つの種類である。)
で表されるアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体よりなる第2のモノマーであって、前記Y1 〜Y4 として選択される種類によって決定される前記第2のモノマーの一種類又は複数種類との重合体よりなることを特徴とする有機高分子膜。
【請求項5】
前記第1のモノマーの種類数と前記第2のモノマーの種類数とは、同一又は異なっていることを特徴とする請求項4に記載の有機高分子膜。
【請求項6】
第1のモノマーと第2のモノマーとの共重合を行う工程を備える有機高分子膜の形成方法であって、
前記共重合を行う工程は、
前記第1のモノマーとして、
アダマンタン骨格における少なくとも1,3,5,7位のうち三箇所に、炭素数が1以上の置換基、官能基、又は置換基を介した官能基が結合しており、前記第1のモノマー内における官能基の少なくともひとつがカルボキシル基であり、前記第1のモノマー内における官能基と結合している置換基が芳香族であるアダマンタン誘導体よりなるモノマーを用いると共に、
前記第2のモノマーとして、
アダマンタン骨格における少なくとも1,3,5,7位のうち三箇所に、炭素数が1以上の置換基、官能基、又は置換基を介した官能基が結合しており、前記第2のモノマー内における官能基の少なくともひとつが水酸基であり、前記第2のモノマー内における官能基と結合している置換基が芳香族であるアダマンタン誘導体よりなるモノマーを用いることを特徴とする有機高分子膜の形成方法。
【請求項7】
前記第1のモノマーは、
下記[化37]の一般式
【化37】

(但し、X1 、X2 、X3 、及びX4 の各々は、下記[化38]に示す置換基、下記[化39]に示す置換基、水素、脂肪族基、及び芳香族基よりなる群のうちから選択されるいずれか1つの種類あって、
【化38】

【化39】

且つ、前記X1 〜X4 のうちの少なくとも1つは、前記[化38]又は前記[化39]に示す置換基である。)
で表されるアダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体よりなるモノマーであり、
前記第2のモノマーは、
下記[化40]の一般式
【化40】

(但し、Y1 、Y2 、Y3 、及びY4 の各々は、下記[化41]〜下記[化48]に示す置換基、水素、脂肪族基、及び芳香族基よりなる群のうちから選択されるいずれか1つの種類であって、
【化41】

【化42】

【化43】

【化44】

【化45】

【化46】

【化47】

【化48】

且つ、前記Y1 〜Y4 のうちの少なくとも1つは、前記[化41]〜前記[化48]に示す置換基のうちのいずれか1つの種類である。)
で表されるアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体よりなるモノマーであり、
前記共重合を行う工程は、
前記X1 〜X4 として選択される種類によって決定される前記第1のモノマーの一種類又は複数種類と、前記Y1 〜Y4 として選択される種類によって決定される前記第2のモノマーの一種類又は複数種類との共重合を行う工程であることを特徴とする請求項7に記載の有機高分子膜の形成方法。
【請求項8】
第1のモノマーと第2のモノマーとの共重合体よりなる有機高分子膜であって、
前記第1のモノマーは、
アダマンタン骨格における少なくとも1,3,5,7位のうち三箇所に、炭素数が1以上の置換基、官能基、又は置換基を介した官能基が結合しており、前記第1のモノマー内における官能基の少なくともひとつがカルボキシル基であり、前記第1のモノマー内における官能基と結合している置換基が芳香族であるアダマンタン誘導体よりなるモノマーであり、
前記第2のモノマーは、
アダマンタン骨格における少なくとも1,3,5,7位のうち三箇所に、炭素数が1以上の置換基、官能基、又は置換基を介した官能基が結合しており、前記第2のモノマー内における官能基の少なくともひとつが水酸基であり、前記第2のモノマー内における官能基と結合している置換基が芳香族であるアダマンタン誘導体よりなるモノマーであることを特徴とする有機高分子膜の形成方法。
【請求項9】
前記第1のモノマーは、
下記[化49]の一般式
【化49】

(但し、X1 、X2 、X3 、及びX4 の各々は、下記[化50]に示す置換基、下記[化51]に示す置換基、水素、脂肪族基、及び芳香族基よりなる群のうちから選択されるいずれか1つの種類あって、
【化50】

【化51】

且つ、前記X1 〜X4 のうちの少なくとも1つは、前記[化50]又は前記[化51]に示す置換基である。)
で表されるアダマンタン骨格を含有するカルボン酸誘導体よりなるモノマーであり、
前記第2のモノマーは、
下記[化52]の一般式
【化52】

(但し、Y1 、Y2 、Y3 、及びY4 の各々は、下記[化53]〜下記[化60]に示す置換基、水素、脂肪族基、及び芳香族基よりなる群のうちから選択されるいずれか1つの種類であって、
【化53】

【化54】

【化55】

【化56】

【化57】

【化58】

【化59】

【化60】

且つ、前記Y1 〜Y4 のうちの少なくとも1つは、前記[化53]〜前記[化60]に示す置換基のうちのいずれか1つの種類である。)
で表されるアダマンタン骨格を含有するアミン誘導体よりなるモノマーであり、
前記共重合体は、
前記X1 〜X4 として選択される種類によって決定される前記第1のモノマーの一種類又は複数種類と、前記Y1 〜Y4 として選択される種類によって決定される前記第2のモノマーの一種類又は複数種類との共重合体であることを特徴とする請求項8に記載の有機高分子膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−217451(P2007−217451A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36266(P2006−36266)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】