説明

有機EL用マスククリーニング装置、有機ELディスプレイの製造装置、有機ELディスプレイおよび有機EL用マスククリーニング方法

【課題】有機EL用マスクの開口部に形成されているテーパ面に付着している蒸着物質を高い洗浄度でクリーニングすることを目的とする。
【解決手段】テーパ面5A乃至5Dを有する開口部3を複数形成した有機EL用マスク1のクリーニングを行う有機EL用マスククリーニング装置であって、各開口部3に形成される4つのテーパ面5A乃至5Dのうち相互に隣接する2つのテーパ面に向けて、開口部3の対角線D1を挟んで反対側から第1のレーザL1を入射させて開口部3の斜め方向に走査させる第1のレーザ光学系17Aと、対角線D1を挟んで2つのテーパ面の反対側から第1のレーザL1が入射するように、有機EL用マスク1と第1のレーザ光学系17Aとを相対的に移動させる第1のレーザ移動部24Aと、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザを走査して有機EL用マスクのクリーニングを行う有機EL用マスククリーニング装置、有機ELディスプレイの製造装置、有機ELディスプレイおよび有機EL用マスククリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイは、バックライトを必要としない低消費電力・軽量薄型の画像表示装置として多く利用されている。その構造としては、透明性のガラス基板上に有機EL薄膜層を積層しており、有機EL薄膜層は発光層を陽極層と陰極層とにより挟み込む構造を採用している。発光層はガラス基板上に有機材料を蒸着させて薄膜として形成するものが多く用いられており、ディスプレイを構成する各画素の領域を3分割してRGBの3色の有機材料を蒸着させている。従って、各画素の3つの領域に異なる色の有機材料(有機色素材料)を蒸着させるために多数の開口部を形成した有機EL用マスク(シャドーマスク)を用いて蒸着を行う。この有機EL用マスクを画素ピッチ分ずつずらしながら、各色の蒸着物質を蒸着させていくことにより、発光層の蒸着プロセスが完了する。
【0003】
蒸着プロセスを行うときには、ガラス基板だけではなく有機EL用マスクにも有機材料が付着する。有機EL用マスクは1つの蒸着プロセスだけに使用されるのではなく繰り返し使用されることから、次の蒸着プロセスを行うときに有機EL用マスクに蒸着物質が付着していると、新たなガラス基板に蒸着物質が転写して汚損させる。また、有機EL用マスクに多数形成した開口部のエッジ部分にも有機材料が蒸着して、開口部の面積を部分的にまたは全面的に閉塞させる。開口部の全部を塞いだ場合はもちろん、部分的に塞ぐことにより開口面積に変化が生じただけでも、当該有機EL用マスクを用いた場合の蒸着精度は著しく低下し、また使用に耐え得るものではなくなる。従って、有機EL用マスクを定期的に(好ましくは、1つの蒸着プロセスを完了した後に)クリーニングして、蒸着物質の除去を行っている。
【0004】
有機EL用マスクのクリーニングとしては、界面活性剤等を用いたウェットクリーニングが主に行われている。ウェットクリーニングは有機EL用マスクに対して液体を供給して行うクリーニングである。しかし、クリーニングされる有機EL用マスクはミクロンオーダー(数十ミクロン程度)の極薄の金属板であり、ウェットクリーニング時に液圧が作用することにより歪みや変形等の大きなダメージが有機EL用マスクに与えられる。また、界面活性剤等の薬液を用いてウェットクリーニングを行うと、薬液供給機構および使用済みの薬液(排液)を処理する排液処理機構を要するため機構が複雑化し、また排液による環境汚染の問題もある。
【0005】
一方、ウェットクリーニングの薬液を用いないクリーニングとして、有機EL用マスクに対してレーザを照射して行うクリーニング(レーザクリーニング)に関する技術が特許文献1に開示されている。金属素材の有機EL用マスクにレーザを照射することにより、有機EL用マスクと有機材料との間に剥離力を作用させている。特許文献1の技術は、この剥離力により有機EL用マスクから有機材料を除去してクリーニングを行うものである。そして、有機EL用マスクには粘着性のフィルムを貼り付けており、剥離した有機材料を粘着フィルムに転写させることで、クリーニングプロセスを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−169573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機EL用マスクに形成される開口部は、有機EL用マスクを厚み方向に貫通して形成されるが、開口部の側面にはテーパ面が形成されることがある。例えば、エッチングにより有機EL用マスクの開口部を形成する場合には、金属を徐々に除去することにより開口部を形成するため、開口部の側面はストレートに貫通されずにテーパ面が形成される。そして、有機EL用マスクの開口部の形状は矩形になっていることから、開口部には4つのテーパ面が額縁状になって形成される。各テーパ面は有機EL用マスクの表面に対して傾斜していることはもとより、各テーパ面の傾斜角もそれぞれ異なるものになる(つまり、各テーパ面の法線方向がそれぞれ異なっている)。
【0008】
前述した特許文献1の技術のように、レーザを有機EL用マスクの表面に照射してクリーニングを行う場合には、レーザを照射する面に対して深い角度で入射させることが望ましい。深い角度、特に90°の角度で入射させることにより、照射される面に集光されるレーザのスポットは円形になり、有機EL用マスクの面に対して作用するパワー密度が均一になる。これにより、照射された部位によって作用するエネルギーにばらつきを生じることなく、高い洗浄度のクリーニングを行うことができる。一方、照射する面に対して浅い角度でレーザが入射すると、レーザのスポットは短径と長径との差が大きな楕円形になり、有機EL用マスクに対して作用するパワー密度が不均一になる。その結果、部位によってエネルギーにばらつきを生じるため、洗浄度が低いものとなる。
【0009】
従って、面に対して深い角度でレーザを照射させることが望ましく、面の法線方向からレーザを照射することが最も望ましい。ただし、開口部にテーパ面が形成されている場合には、各テーパ面で法線方向が異なっており、有機EL用マスクに対して単にレーザを1方向から入射させただけでは、テーパ面によって洗浄度に大きな差を生じる。テーパ面も有機EL用マスクの一部を構成しており、当該テーパ面に蒸着物質が残存したままの場合には、新たなガラス基板に対する蒸着時に、残存している蒸着物質が転写して汚損させるために、有機EL用マスクは極めて高い洗浄度でクリーニングされなければならない。
【0010】
そこで、本発明は、有機EL用マスクの開口部に形成されているテーパ面に付着している蒸着物質を高い洗浄度でクリーニングすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するため、本発明の請求項1の有機EL用マスククリーニング装置は、テーパ面を有する開口部を複数形成した有機EL用マスクのクリーニングを行う有機EL用マスククリーニング装置であって、前記テーパ面をクリーニングするときには、各開口部に形成される4つのテーパ面のうち相互に隣接する2つのテーパ面に向けて、前記開口部の対角線を挟んで反対側からレーザを入射させて前記開口部の斜め方向に走査させるレーザ走査手段と、前記対角線を挟んで前記2つのテーパ面の反対側から前記レーザが入射するように、前記有機EL用マスクと前記レーザ走査手段とを相対的に移動させる相対移動手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、開口部の4つのテーパ面のうち2つのテーパ面に対して深い角度でレーザを入射させて走査を行うことが出来るようになり、且つ開口部の斜め方向に走査していることから2つのテーパ面を同時にクリーニングすることができる。これにより、テーパ面に付着した蒸着物質を高い洗浄度でクリーニングでき、且つクリーニング時間を大幅に短縮できる。そして、深い角度でレーザを入射させるように有機EL用マスクとレーザ走査手段とを相対移動させているため、全ての開口部のテーパ面に対して常に高い洗浄度でクリーニングを行うことができるようになる。
【0013】
本発明の請求項2の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置であって、前記4つのテーパ面のうち前記2つのテーパ面以外の残り2つのテーパ面に向けて、前記対角線を挟んで反対側から他のレーザを入射させて前記開口部の斜め方向に走査させる他のレーザ走査手段を備え、前記相対移動手段は、前記対角線を挟んで前記残り2つのテーパ面の反対側から前記他のレーザが入射するように、前記有機EL用マスクと前記他のレーザ走査手段とを相対移動させることを特徴とする。
【0014】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、もう1つのレーザ走査手段(他のレーザ走査手段)を備えており、しかも2つのレーザ走査手段から照射されるレーザの入射方向はそれぞれ反対方向になる。これにより、開口部の4つのテーパ面のうち2つのテーパ面は1つのレーザ走査手段により、残りの2つのテーパ面はもう1つのレーザ走査手段により分担してクリーニングを行うことができる。従って、クリーニング時間を実質的に半分に短縮化できる。
【0015】
本発明の請求項3の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置であって、前記有機EL用マスクを複数の開口部を有する矩形エリアに分割して、この矩形エリアの対角線を挟んで2つの領域に分割したときに、前記レーザ走査手段は、前記矩形エリアの対角線を挟んで反対側からまたは前記領域の頂点を挟んで反対側から前記領域に対して前記矩形エリアの斜め方向に前記レーザを走査し、前記相対移動手段は、1つの領域の各開口部に対する走査を完了した後に、前記有機EL用マスクに対して前記レーザ走査手段を相対移動させることを特徴とする。
【0016】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、位置を固定した状態で複数の開口部を有する領域に対してレーザの走査を行うことができる。相対移動は1つの領域のクリーニングが完了した後に行うため、移動回数を大幅に削減できるようになる。そして、対角線を挟んで反対側から、または頂点を挟んで反対側から斜め方向にレーザの走査を行うため、常に2つのテーパ面に対して深い角度でレーザを入射させることができる。
【0017】
本発明の請求項4の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項2記載の有機EL用マスククリーニング装置であって、前記有機EL用マスクを複数の開口部を有する矩形エリアに分割して、この矩形エリアの対角線を挟んで2つの領域に分割したときに、前記レーザ走査手段は前記矩形エリアの対角線を挟んで反対側からまたは前記領域の頂点を挟んで反対側から前記領域に対して前記矩形エリアの斜め方向に前記レーザを走査し、前記他のレーザ走査手段は前記領域の頂点を挟んで反対側からまたは前記矩形エリアの対角線を挟んで反対側から前記領域に対して前記矩形エリアの斜め方向に前記レーザを走査し、前記相対移動手段は、1つの領域の各開口部に対する走査を完了した後に、前記有機EL用マスクに対して前記レーザ走査手段と前記他のレーザ走査手段とを相対移動させることを特徴とする。
【0018】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、2つのレーザ走査手段がそれぞれ領域に含まれる開口部の走査を行っているため、分担してクリーニングを行うことができる。これにより、移動回数の削減を図れると共に、クリーニング時間の短縮化を図ることができる。
【0019】
本発明の請求項5の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項2記載の有機EL用マスククリーニング装置であって、前記レーザ走査手段と前記他のレーザ走査手段とを一体的なユニットとして構成したことを特徴とする。
【0020】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、2つのレーザ走査手段を一体的なユニットとして構成しているため、別個独立に位置調整を行う必要がなくなる。これにより、位置調整の手間を省略できるようになる。
【0021】
本発明の請求項6の有機EL用マスククリーニング装置は、請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置であって、前記レーザ走査手段により走査される前記テーパ面と前記レーザの光軸とのなす角度をαとしたときに、前記相対移動手段は、「70°<α<110°」となるように前記有機EL用マスクに対して前記レーザ走査手段を相対的に移動させることを特徴とする。
【0022】
この有機EL用マスククリーニング装置によれば、テーパ面とレーザの光軸とのなす角度αを70°から110°の間とするように相対移動させていることで、常に高い洗浄度のクリーニングを行うことができるようになる。
【0023】
本発明の請求項7の有機ELディスプレイの製造装置は、請求項1乃至6の何れか1項に記載の有機EL用マスククリーニング装置を備えた事を特徴とする。また、本発明の請求項8の有機ELディスプレイは、請求項7記載の有機ELディスプレイの製造装置により製造されたことを特徴とする。
【0024】
本発明の請求項9の有機EL用マスククリーニング方法は、テーパ面を有する開口部を複数形成した有機EL用マスクのクリーニングを行う有機EL用マスククリーニング方法であって、各開口部に形成される4つのテーパ面のうち相互に隣接する2つのテーパ面に向けて、前記開口部の対角線を挟んで反対側からレーザを入射させて前記開口部の斜め方向に前記レーザを走査させ、前記レーザが前記対角線を挟んで前記2つのテーパ面の反対側から入射するように、前記有機EL用マスクと前記レーザ走査手段とを相対的に移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、有機EL用マスクの開口部に形成される4つのテーパ面に対して常に深い角度でレーザを入射させて走査を行うことができる。これにより、テーパ面に入射するレーザのスポットを円形または円形に近い楕円形にすることができ、ばらつきのない高い洗浄度のクリーニングを行うことができる。相対移動手段は、常に深い角度でレーザをテーパ面に入射させるように相対移動させていることで、全ての開口部について高い洗浄度でクリーニングを行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】有機EL用マスクの平面図である。
【図2】有機EL用マスクの部分断面図および開口部の上面図である。
【図3】有機EL用マスククリーニング装置の概略構成図である。
【図4】1回目のクリーニングを行うときのレーザ光学系の位置関係を説明した図である。
【図5】1回目のクリーニングを行うときのレーザの走査方向および入射方向について説明した図である。
【図6】2回目のクリーニングを行うときのレーザ光学系の位置関係を説明した図である。
【図7】2回目のクリーニングを行うときのレーザの走査方向および入射方向について説明した図である。
【図8】1つの開口部に対して同時にレーザの走査を行う場合を説明した図である。
【図9】開口部とガルバノミラーとの位置関係を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の有機EL用マスククリーニング装置によりレーザ洗浄(レーザを走査して行う洗浄:レーザクリーニング)を行う対象物となる有機EL用マスク1を示している。有機EL用マスク1は、有機ELディスプレイを構成するガラス基板に発光層としての有機材料(蒸着物質)を限定的な領域に蒸着してパターン形成を行うために用いられる金属板である。有機EL用マスク1は大型且つミクロンオーダーの極薄のマスク本体2を有しており、このマスク本体2に多数の開口部3がマトリクス状に規則的に配列されている。そして、マスク本体2は大型且つ極薄であることから、その保形性を維持するために補強枠としてのマスクフレーム4がマスク本体2の周囲に取り付けられている。
【0028】
マスク本体2としては、種々の金属素材を用いることができるが、ここではコバルトとニッケルとの合金が適用されているものとする。有機EL用マスク1は発光層の有機材料を蒸着する図示しない真空蒸着槽においてガラス基板に密着させた状態で、蒸着源から有機材料を蒸着させるようにしている。発光層の蒸着物質としては種々のものを適用できるが、例えばアルミニウム錯体(トリスアルミニウム:Alq)等の有機金属錯体を適用できる。なお、有機金属錯体以外の有機化合物(金属が含まれているものであっても、含まれていないものであってもよい)を蒸着物質として適用するものであってもよい。蒸着源から蒸発した蒸着物質は、有機EL用マスク1の開口部3からガラス基板に蒸着する。これにより、ガラス基板の画素に対応する領域に発光層としての蒸着物質が蒸着してパターンが形成される。
【0029】
有機EL用マスク1を用いて1回の蒸着プロセスを行うと、ガラス基板だけではなく有機EL用マスク1にも蒸着物質が付着する。蒸着プロセスは繰り返し行われることから、有機EL用マスク1に付着した蒸着物質のクリーニングが所定のタイミング(好ましくは、1回の蒸着プロセスごと)で行われる。レーザ洗浄装置が配置されている洗浄槽とガラス基板に蒸着を行う真空蒸着槽とは別個独立に設けられているため、レーザ洗浄装置を行うときには有機EL用マスク1が真空蒸着槽から洗浄槽内に移行される。
【0030】
図2(a)に有機EL用マスク1の部分断面図を示す。この図に示すように、開口部3はマスク本体2の厚み方向に貫通した領域になっているが、側面にテーパ面(傾斜しているフラットな面)5が形成されている。有機EL用マスク1の開口部3をエッチングにより形成した場合には、徐々に開口部3が形成されていくことから、側面がフラットにならずにテーパ面5が形成される。有機EL用マスク1の開口部3は矩形をしているため、図2(b)に示すように、開口部3には4つのテーパ面5A乃至5Dが形成され、上面から見て各テーパ面が額縁状に形成される。テーパ面5Aと5Bとは相互に隣接しており、テーパ面5Cと5Dとは相互に隣接している。なお、図2(b)では正方形の開口部3を示しているが、開口部3は長方形であってもよい。
【0031】
従って、4つのテーパ面5A乃至5Dは有機EL用マスク1の表面に対して傾斜しており、且つ各テーパ面5A乃至5Dはそれぞれ異なる傾斜角度で傾斜している。つまり、各テーパ面5A乃至5Dの法線方向がそれぞれ異なる角度になっており、これら法線方向は有機EL用マスク1の表面の法線方向に対しても異なる角度になっている。
【0032】
次に、図3を用いて、有機EL用マスク1のクリーニングを行うレーザ洗浄装置(有機EL用マスククリーニング装置)について説明する。レーザ洗浄装置10はベース11に設置されており、有機EL用マスク1は搭載ステージ12により搭載されている。搭載ステージ12にはチャック部13が取り付けられており、このチャック部13が有機EL用マスク1のマスクフレーム4を保持する。図3にも示すように、搭載ステージ12と有機EL用マスク1との間には微小間隔を設けるようにして、チャック部13が有機EL用マスク1を保持する。なお、チャック部13はマスクフレーム4の2辺、3辺または4辺を保持するものであればよい。
【0033】
搭載ステージ12の下部には相対移動手段としてのステージ移動部14を備えている。ステージ移動部14は搭載ステージ12を図3に示すX方向に移動可能な移動手段となっており、例えばボールネジ手段やリニアモータ手段等の任意の移動手段を用いることができる。図3では、ステージ移動部14はX方向の1方向に移動可能になっているが、X方向とY方向(X方向に直交する方向)との2方向に移動可能なように構成してもよい。なお、X方向およびY方向は水平面上の直交2軸の方向であり、この水平面と直交する方向がZ方向(垂直方向:高さ方向)になる。
【0034】
搭載ステージ12に保持される有機EL用マスク1の上部には搬送空気流CFが形成される。この搬送空気流CFを形成するために送風手段としての送風部15と吸引手段としての吸引部16とが設けられている。送風部15は送風スリット15Aを備えており、また吸引部16は吸引スリット16Aを備えており、送風スリット15Aと吸引スリット16Aとは同じ高さ位置で対向するように配置されている。これにより、送風スリット15Aと吸引スリット16Aとの間に搬送空気流CFが形成される。この搬送空気流CFは有機EL用マスク1の表面に沿うような流れを有しており、極めて微弱な空気流となっている。
【0035】
搬送空気流CFの上部には、第1のレーザ光学系17Aと第2のレーザ光学系17Bとの2つのレーザ光学系が設けられている。第1のレーザ光学系17Aは第1のレーザ光源21Aと第1のガルバノミラー22Aと第1のガルバノ駆動部23Aとを備えて概略構成しており、第2のレーザ光学系17Bは第2のレーザ光源21Bと第2のガルバノミラー22Bと第2のガルバノ駆動部23Bとを備えて概略構成している。第1のレーザ光学系17Aは有機EL用マスク1に第1のレーザL1を走査させるレーザ走査手段であり、第2のレーザ光学系17Bは有機EL用マスク1に第2のレーザL2を走査させる他のレーザ走査手段である。
【0036】
第1のレーザ光源21Aと第2のレーザ光源21Bとは同じ波長のレーザを発振するレーザ光源であり、このため第1のレーザL1と第2のレーザL2とは同じ波長をもつレーザ(レーザ光)になる。そして、その波長は有機EL用マスク1の金属素材が反応するような波長になっている。有機EL用マスク1がコバルトとニッケルとの合金である場合には、第1のレーザL1および第2のレーザL2は当該合金が反応する532nm近傍の波長を持つレーザになる。勿論、有機EL用マスク1に他の金属素材を用いる場合には、当該金属が反応するレーザを発振するようにする。
【0037】
第1のレーザ光源21Aから発振する第1のレーザL1は第1のガルバノミラー22Aに入射し、第2のレーザ光源21Bから発振する第2のレーザL2は第2のガルバノミラー22Bに入射する。第1のガルバノミラー22Aおよび第2のガルバノミラー22Bは入射したレーザを反射させる反射ミラーであり、ミラー自体を微小振動させることにより、レーザの反射角度を高速に変化させる。これにより、有機EL用マスク1におけるレーザの照射位置が変化して、レーザの走査が行われることになる。第1のガルバノ駆動部23Aは第1のガルバノミラー22Aに取り付けられており、第2のガルバノ駆動部23Bは第2のガルバノミラー22Bに取り付けられている。そして、各ガルバノ駆動部がガルバノミラーの振動制御を行うことにより、有機EL用マスク1にレーザの走査が行われる。
【0038】
第1のレーザ光学系17Aには第1のレーザ移動部24Aが取り付けられており、第2のレーザ光学系17Bには第2のレーザ移動部24Bが取り付けられている。第1のレーザ移動部24Aは第1のレーザ光学系17AをX方向およびY方向に移動させる移動手段であり、第2のレーザ移動部24Bは第2のレーザ光学系17BをX方向およびY方向に移動させる移動手段であり、例えばロボット等の手段を適用できる。そして、第1のレーザ移動部24Aと第2のレーザ移動部24Bとは独立して移動可能になっている。
【0039】
第1のレーザ移動部24Aは有機EL用マスク1と第1のレーザ光学系17Aとを相対的に移動させる相対移動手段であり、第2のレーザ移動部24Bは有機EL用マスク1と第2のレーザ光学系17Bとを相対的に移動させる相対移動手段である。ここでは、第1のレーザ光学系17Aおよび第2のレーザ光学系17Bを有機EL用マスク1に対して移動させているが、各レーザ光学系を固定して有機EL用マスク1を移動させてもよいし(つまり、ステージ移動部14をX方向およびY方向に移動させてもよいし)、両者を移動させてもよい。
【0040】
なお、各レーザ光学系は前述した光学部品により構成しているが、他の光学部品(例えば、複数のレンズ群等)を備えるものであってもよい。また、各ガルバノミラーによりレーザの走査を行うようにしているが、各レーザ光源自身が微小に変位することにより走査させるものであってもよい。
【0041】
次に、動作について説明する。有機EL用マスク1を用いて、前述した真空蒸着槽から取り出された有機EL用マスク1が搭載ステージ12のチャック部13により固定保持されてステージ移動部14によりX方向に移動される。そして、有機EL用マスク1が第1のレーザ光学系17Aと第2のレーザ光学系17Bとの下部に位置する場所でステージ移動部14を停止させる。
【0042】
そして、第1のレーザ移動部24Aと第2のレーザ移動部24Bとを移動させて位置調整を行う。この位置調整について図4を用いて説明する。この図に示すように、有機EL用マスク1を縦横に6つの矩形エリアA1乃至A6に分割する。有機EL用マスク1には多数の開口部3がマトリクス状に配列されており、この有機EL用マスク1を6つのエリアに分割した各矩形エリアにも多数の開口部3がマトリクス状に配列されている。そして、全ての矩形エリアA1乃至A6について対角線D1を引き、この対角線D1を挟んで2つの三角形の領域(領域TA1、TA2)に分割する。なお、図4では、矩形エリアA1およびA6に対角線D1が引かれているが、残りの矩形エリアA2乃至A5にも対角線D1を引いて、領域TA1、TA2に分割する。
【0043】
第1のレーザ光学系17Aおよび第2のレーザ光学系17Bは1つの領域に含まれる各開口部3のクリーニングを行うときには固定された位置からクリーニングを行い、クリーニング完了後に次の領域の各開口部3のクリーニングを行うべく有機EL用マスク1に対して第1のレーザ光学系17Aと第2のレーザ光学系17Bとを相対的に移動させる。図4では、最初に第1のレーザ光学系17Aが矩形エリアA1の領域TA1のクリーニングを行い、第2のレーザ光学系17Bが矩形エリアA6の領域TA2のクリーニングを行う場合を示している。
【0044】
このとき、第1のガルバノミラー22Aは対角線D1を挟んで領域TA1とは反対側に配置しており、第2のガルバノミラー22Bは対角線D1を挟んで領域TA2とは反対側に配置している。第1のレーザ移動部24Aおよび第2のレーザ移動部24Bは、このような配置となるように第1のレーザ光学系17Aおよび第2のレーザ光学系17Bを移動させる。
【0045】
そして、第1のレーザ光源21Aから第1のレーザL1を発振させ、第2のレーザ光源21Bから第2のレーザL2を発振させる。以下、第1のレーザL1について説明するが、第2のレーザL2についても同様である。第1のレーザ光源21Aから発振された第1のレーザL1は第1のガルバノミラー22Aで反射する。ガルバノ駆動部23Aは第1のレーザL1を領域TA1に向けて反射させるが、対角線D1に沿って平行に第1のレーザL1を走査させるようにガルバノミラー22Aの反射方向を微小振動させる。これにより、対角線D1の1ライン分の走査が行われる。そして、対角線D1から開始して走査するライン(走査ライン)を領域TA1の頂点V11に向けて微小シフトさせていく。第1のレーザL1による走査ラインは常に対角線D1に平行となるように第1のガルバノミラー22Aを微小振動させる制御を行う。
【0046】
そして、最終的に頂点V11の位置まで走査ラインをシフトさせることにより、領域TA1のクリーニングが完了する。なお、走査ラインの幅は対角線D1と同じ幅を維持したままシフトさせていってもよく、シフトさせる毎に走査ラインの幅を狭くするようにしてもよい。
【0047】
従って、第1のレーザL1は領域TA1に存在する多数の開口部3に対して走査を行っていく。前述したように、矩形エリアA1には多数の開口部3がマトリクス状に配置されており、各開口部3の各辺は有機EL用マスク1の各辺と平行になるように配置されている。そして、矩形エリアA1の対角線D1に平行な方向に第1のレーザL1が走査を行っていくため、矩形の各開口部3に対して第1のレーザL1が斜め方向に走査を行っていくことになる。
【0048】
図5(a)は領域TA1の一部の開口部3を示しており、この図に示すように、走査ラインの方向は各開口部3に対して斜め方向になっている(図中で走査方向を破線で示している)。そして、第1のガルバノミラー22Aは対角線D1を挟んで領域TA1(クリーニングを行う領域)とは反対側から第1のレーザL1を入射させている。図中では、第1のレーザL1の入射方向を実線で示している。
【0049】
このため、各開口部3の相互に隣接する2つのテーパ面5A、5Bは第1のレーザL1の光軸に対して(傾斜角度はあるものの)対向するような関係になる。これにより、テーパ面5A、5Bには第1のレーザL1が深い角度で入射する。一方で、テーパ面5C、5Dは第1のレーザL1の光軸に対して対向するような関係になっていない。これにより、第1のレーザL1はテーパ面5C、5Dに対して浅い角度で入射する。図5(b)は開口部3の断面を示しており、テーパ面5Aには深い角度で第1のレーザL1が入射しているものの、テーパ面5Cには浅い角度で第2のレーザL2が入射している。この点は、テーパ面5B、5Dについても同様である。
【0050】
第1のレーザL1(第2のレーザL2も同様)の光路断面は円形になっており、テーパ面に対して深い角度でレーザを入射させることができればスポットは円形になるが、浅い角度で入射させればスポットは長径と短径との差が大きい楕円形になる。前述したように、スポットが円形に近づくほど有機EL用マスク1に対して作用するレーザのパワー密度は均一になる。
【0051】
ここで、第1のレーザL1が有機EL用マスク1に入射すると、第1のレーザL1は有機EL用マスク1の金属素材が反応する波長を有しているため、有機EL用マスク1に対して熱衝撃が与えられる。つまり、テーパ面5A乃至5Dに対しても熱衝撃が与えられる。各テーパ面には蒸着物質が膜状となって付着しており、この蒸着物質に対して熱衝撃により破砕力が作用する。そして、蒸着物質は破砕力により分解されて遊離生成物となって、上方に向けて飛散する。この遊離生成物は微小な粒径を有する紛体になっているが、同時にガスも発生する。このため、遊離生成物には紛体だけではなくガスも含まれる。
【0052】
遊離生成物は極めて比重の小さな紛体やガスであるため、レーザによる熱衝撃により勢い良く上方に向けて飛散する。そして、図3に示したように、有機EL用マスク1の上部位置には搬送空気流CFが形成されており、上方に飛散した遊離生成物は搬送空気流CFに捕捉されて、吸引部16に吸引される。これにより、飛散した遊離生成物は有機EL用マスク1に舞い戻ることがなく、有機EL用マスク1から除去することができる。
【0053】
なお、ここでは、搬送空気流CFにより飛散した遊離生成物を除去しているが、搬送空気流CF以外の方法により遊離生成物を除去するようにしてもよい。例えば、有機EL用マスク1に向けて吸引スリット16Aを向けて飛散した遊離生成物を吸引させるようにしてもよい。このように、有機EL用マスク1に付着した蒸着物質にレーザを照射することにより遊離生成物を上方に飛散させて、搬送空気流CFにより捕捉させて搬送させることにより、完全に非接触でクリーニングを行うことができる。例えば、有機EL用マスク1に粘着フィルムを貼り付けて熱衝撃を与えた蒸着物質を付着させるような場合には、最終的には粘着フィルムを剥離しなければならず、有機EL用マスク1に対して著しいダメージが与えられるが、本発明は完全に非接触でクリーニングを行うことができるため、有機EL用マスク1にはダメージは与えられない。
【0054】
従って、第1のレーザL1の熱衝撃により、蒸着物質は遊離生成物となって上方に飛散し、搬送空気流CFにより捕捉されて除去される。このとき、第1のレーザL1のスポットが円形または円形に近い楕円形の場合には、パワー密度にばらつきがなく、テーパ面の洗浄度は高くなる。この点、テーパ面5A、5Bについては第1のレーザL1を深い角度で入射させているため、円形または円形に近い楕円形のスポットが得られ、パワー密度の均一化を図れる。
【0055】
一方、テーパ面5C、5Dについては、第1のレーザL1が浅い角度で入射するため、短径と長径とに大きな差がある楕円形のスポットになる。特に、テーパ面5C、5Dと第1のレーザL1とが平行である場合には、第1のレーザL1を入射させることができなくなる。従って、パワー密度に大きなばらつきがあるクリーニングが行われるか、或いは全くクリーニングが行われないようになる。これにより、洗浄度が大幅に低下する。従って、この時点では、テーパ面5C、5Dのクリーニングは完了していない。
【0056】
なお、テーパ面に浅い角度で入射するレーザのパワーを強力にすることにより、パワー密度が薄い箇所についてもある程度のエネルギーを作用させることができるが、この場合には、パワー密度が濃い箇所に過剰なエネルギーが作用することにより、有機EL用マスク1にダメージを与えるおそれがある。このため、レーザのパワーを極端に大きくすることは望ましくない。
【0057】
以上により、領域TA1の各開口部3のうちテーパ面5A、5Bについて高い洗浄度でクリーニングを行うことができる。図4に戻って、第1のレーザ光学系17Aの動作と並行して、第2のレーザ光学系17Bにより矩形エリアA6の領域TA2の各開口部3のクリーニングを行う。このクリーニングは前述したものとほぼ同じであり、対角線D1を挟んで領域TA2の反対側から対角線D1と平行に第2のレーザL2を走査させる。そして、領域TA2の頂点V62に向けて走査ラインを徐々にシフトさせることにより、領域TA2のクリーニングを完了する。このときには、各開口部3のテーパ面5C、5Dには深い角度で第2のレーザL2を入射させることができ、ばらつきのない均一なクリーニングを行うことができ、高い洗浄度が得られる。ただし、テーパ面5A、5Bについては浅い角度で第2のレーザL2が入射するため、高い洗浄度が得られない。従って、この時点では、矩形エリアA6の領域TA2の各開口部3のうちテーパ面5A、5Bについては、クリーニングが完了していない。
【0058】
第1のレーザ光学系17Aと第2のレーザ光学系17Bとのクリーニングは並行して行われ、1つの領域のクリーニングが完了した後に、次のクリーニングを行う。1つの領域をクリーニングしている間は、有機EL用マスク1に対して第1のレーザ光学系17Aおよび第2のレーザ光学系17Bは固定した状態になっている。そして、1つの領域のクリーニングが完了した後に、次の領域のクリーニングを行うべく、第1のレーザ移動部24Aおよび第2のレーザ移動部24Bにより第1のレーザ光学系17Aおよび第2のレーザ光学系17BはX方向および/またはY方向に移動する。この移動は同時に行うこともできるが、異なるタイミングで行うこともできる。
【0059】
ここで、1つの領域のクリーニングを行う毎に各レーザ光学系を移動させているのは、当該領域に含まれる全ての開口部3の2つのテーパ面(5Aおよび5B、または5Cおよび5D)に対してレーザを深い角度で入射させるためである。有機EL用マスク1の全ての領域に対してクリーニングを行うときに、有機EL用マスク1に対して各レーザ光学系の位置が固定されていると、場所によって各レーザの入射角が大きく変化し、洗浄度にばらつきを生じる。そこで、有機EL用マスク1を複数の矩形エリアに分割し、されにこの矩形エリアを2つに分割した領域のクリーニングが完了する毎に相対移動することで、テーパ面に対してのレーザが常に深い角度で入射させるようにしている。
【0060】
ここでは、第1のレーザ光学系17Aは各矩形エリアについてA1からA6まで順番に領域TA1のクリーニングを行っていき、第2のレーザ光学系17Bは各矩形エリアについてA6からA1まで順番に領域TA2のクリーニングを行っていく。これにより、全ての矩形エリアA1乃至A6の領域TA1、TA2に対して1回目のクリーニングが完了する。ただし、この時点では、各領域TA1、TA2について、4つのテーパ面のうち2つのテーパ面は高い洗浄度でクリーニングされているが、残りの2つのテーパ面についてはレーザによる走査がされているものの洗浄度が低いままになる。このため、2回目のクリーニングとして、残り2つのテーパ面にレーザを走査させる。
【0061】
図6は矩形エリアA1の領域TA1を第2のレーザ光学系17Bがクリーニングし、矩形エリアA6の領域TA2を第1のレーザ光学系17Aがクリーニングを行う場合を示している。この図に示すように、矩形エリアA6の領域TA2の頂点V62を挟んで領域TA2とは反対側の領域(仮想的な領域)TA3から第1のレーザL1を入射させるようにする。ここでは、領域TA3に第1のガルバノミラー22Aを位置させるように、第1のレーザ移動部24が移動させる。また、矩形エリアA1の領域TA1の頂点V11を挟んで領域TA1とは反対側の領域(仮想的な領域)TA4から第2のレーザL2を入射させるようにする。ここでは、領域TA4に第2のガルバノミラー22Bを位置させるように、第2のレーザ移動部24が移動させる。
【0062】
図7(a)は、第2のレーザL2が矩形エリアA1の領域TA1のクリーニングを行う状態を示している。この図に示すように、第2のレーザL2は対角線D1と平行な方向に走査させるようになっている。そして、各開口部3に対して第2のガルバノミラー22Bは頂点V11を挟んで領域TA1の反対側の領域TA3に位置しているため、図7(b)に示すように、第2のレーザL2の光軸とテーパ面5C、5Dとは対向するような位置関係となっている。
【0063】
このとき、領域TA1の各開口部3のテーパ面5A、5Bは既に第1のレーザL1により高い洗浄度でクリーニングがなされている。そして、第2のレーザL2がテーパ面5C、5Dに対して深い角度で入射させることにより、当該テーパ面5C、5Dの洗浄度も高いものとすることができる。これにより、領域TA1の各開口部3について全てのテーパ面5A乃至5Dを高い洗浄度でクリーニングできる。
【0064】
これと並行して、第1のレーザ光学系17Aが矩形エリアA6の領域TA2のクリーニングを行う。これにより、領域TA2のテーパ面5A、5Bに対して第1のレーザL1を深い角度で入射させることができ、当該テーパ面5A、5Bの洗浄度を高いものとすることができる。従って、領域TA2の各開口部3について全てのテーパ面5A乃至5Dを高い洗浄度でクリーニングできる。
【0065】
そして、クリーニングを行う対象となる領域の頂点を挟んで反対側の領域から第1のレーザL1および第2のレーザL2を入射させるように、第1のレーザ光学系17Aおよび第2のレーザ光学系17BをX方向および/またはY方向に移動させる制御を行う。これにより、各矩形エリアA1乃至A6の各領域TA1、TA2の全てのテーパ面5A乃至5Dを高い洗浄度でクリーニングすることができる。
【0066】
ここで、1つの開口部3に着目したクリーニングについて説明する。第1のレーザL1は2つのテーパ面5Aおよび5Bを同時に深い角度で入射して走査させるために、(1)矩形の開口部3の斜め方向にレーザの走査を行い、(2)開口部3の対角線を挟んでテーパ面5Aおよび5Bとは反対側からレーザを入射させる、という2つの条件を満たすようにしている。
【0067】
(1)の条件については、第1のレーザL1を斜め方向、前述した例では対角線D1と平行な方向に走査させるべく、第1のガルバノ駆動部23Aが第1のガルバノミラー22Aの反射角度の制御を行う。第1のガルバノミラー22Aは、第1のガルバノ駆動部23Aに角度制御の設定を行えば、反射角度を自由に変化せることができる。これにより、開口部3の斜め方向に第1のレーザL1を斜め方向に走査を行うことができる。従って、2つのテーパ面を同時に走査することができる。つまり、4つのテーパ面をそれぞれ走査する必要がなく、2つのテーパ面を1回で走査することができる。この点は、第2のレーザL2についても同様である。
【0068】
(2)の条件については、領域TA1、TA2について対角線D1を挟んで反対側から、頂点を挟んで反対側から第1のレーザL1、第2のレーザL2を入射させている。本実施形態では、第1のガルバノミラー22A、第2のガルバノミラー22Bを反対側の領域に配置している。これにより、クリーニングを行う領域の全ての開口部3について、開口部3の対角線を挟んでテーパとは反対側からレーザを入射させることができるようになる。
【0069】
従って、最低限(1)および(2)の2つの条件を満たすことにより、開口部3の4つのテーパ面のうち相互に隣接する2つのテーパ面に対して深い角度でレーザを入射させることができ、且つ1度に2つのテーパ面を走査することができる。そして、次に(2)の条件とは反対側から再度レーザを斜め方向に走査することで、4つのテーパ面を高い洗浄度でクリーニングすることができる。
【0070】
本実施形態では、複数の開口部3を有する領域毎に各レーザ光学系を移動させていたが、1つの開口部3のクリーニングを行う毎に各レーザ光学系を移動させることもできる。この場合には、各テーパ面5A乃至5Dに対する第1のレーザL1および第2のレーザL2の入射角を最も厳格に制御することができる。一方、有機EL用マスク1を分割した矩形エリアおよびこれを2つに分けた領域は広範な領域であるため、有機EL用マスク1と各レーザ光学系との位置関係を固定したままでレーザ走査を行うと、入射角の角度制御は低下する。
【0071】
ただし、有機EL用マスク1に形成される開口部3は極めて多数のため、1つの開口部3毎に各レーザ光学系を移動させると、移動回数が飛躍的に増加し、移動処理が著しく煩雑になる。これにより、処理時間が大幅に長くなる。このため、ある程度の矩形エリアに分割して、領域毎に各開口部3のテーパ面5A乃至5Dのクリーニングを行うことで、移動回数を非常に少ないものとすることができる。
【0072】
以上説明した実施形態において、第1のレーザ光学系17Aと第2のレーザ光学系17Bとの2つのレーザ光学系を用いているが、レーザ光学系は1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。レーザ光学系が1つの場合、例えば第1のレーザ光学系17Aのみが設けられている場合には、各矩形エリアA1乃至A6の全て(2つの領域TA1およびTA2を含む)のクリーニングを完了した後に、有機EL用マスク1と第1のレーザ光学系17Aとを相対的に180度回転させることにより、第1のレーザ光学系17Aを第2のレーザ光学系17Bとして機能させることができる。この状態で、各矩形エリアA1乃至A6の全て(2つの領域TA1およびTA2を含む)のクリーニングを行うことにより、クリーニング処理が完了する。
【0073】
ただし、レーザ光学系が1つの場合には、有機EL用マスク1の全ての洗浄を1つのレーザ光学系により行うため、処理時間が長くなる。また、回転動作等も必要になる。このため、2つ以上のレーザ光学系を用いて並列的にクリーニングを行うことが望ましい。例えば、4台のレーザ光学系を用いて並列的にクリーニングを行えば、その分だけ時間短縮効果を図ることができる。ただし、レーザ光学系を増やした分だけ機構の大型化・複雑化を招来するため、処理時間と装置構成との観点から適宜にレーザ光学系の数を設定する。
【0074】
また、前述してきた例では、レーザの走査方向を開口部3に対して斜めにすべく、第1のガルバノミラー22Aおよび第2のガルバノミラー22Bの反射方向を制御していたが、例えばレーザ光源21A、21B自身が開口部3に対して斜め方向に移動するようにしてもよい。この場合には、第1のガルバノミラー22Aおよび第2のガルバノミラー22Bは不要になる。また、ステージ移動部14が有機EL用マスク1を斜め方向に移動させれば、第1のガルバノミラー22Aおよび第2のガルバノミラー22BはX方向またはY方向の何れか一方の方向に走査させることもできる。
【0075】
また、前述してきた例では、第1のレーザ光学系17Aは矩形エリアA1から順番にA6まで、第2のレーザ光学系17Bは矩形エリアA6から順番にA1までクリーニングを行っているが、クリーニングを行う矩形エリアの順番は任意に設定してもよい。そして、第1のレーザL1と第2のレーザL2とが同じ矩形エリアの同じ領域の中にある同じ開口部3を同時にクリーニングするようにしてもよい。
【0076】
また、前述してきた例では、第1のレーザ光学系17Aおよび第2のレーザ光学系17Bはテーパ面5の洗浄を行っているが、図4等にも示したように、テーパ面5のみの洗浄を行っているものではなく、有機EL用マスク1を全面的にクリーニングしている。この場合には、第1のレーザL1および第2のレーザL2は有機EL用マスク1の表面に対しては斜め方向から入射することになり、表面におけるスポットは楕円形になる。このため、十分な洗浄度は得られないが、ある程度の洗浄度を得ることはできる。従って、当該洗浄度が十分でない場合には、表面に直交する方向からレーザが照射されるように、改めて有機EL用マスク1に対して全面的なクリーニングを行う。
【0077】
図8(a)は、矩形エリアA1の領域TA1に対して第1のレーザ光学系17Aと第2のレーザ光学系17Bとが同時にクリーニングを行っている例を示している。第1のレーザL1と第2のレーザL2とが相互に干渉しないように、僅かな時間差を持たせているが、時間的にはほぼ同じタイミングで同じ個所に対して入射させている。つまり、第1のガルバノミラー22Aで反射させた第1のレーザL1は最初に対角線D1に沿って平行に走査させ、第2のガルバノミラー22Bで反射させた第2のレーザL2は第1のレーザL1とほぼ同じタイミングで追従して走査させている。従って、第1のレーザL1と第2のレーザL2とは同じ開口部3に対して同時に入射させていることになる。
【0078】
これにより、図8(b)に示すように、テーパ面5A(および5B)には第1のレーザL1が入射し、テーパ面5C(および5D)には第2のレーザL2が入射する。第1のレーザL1は深い角度で入射しているため、テーパ面5A(および5B)を高い洗浄度でクリーニングし、第2のレーザL2も深い角度で入射しているため、テーパ面5C(および5D)を高い洗浄度でクリーニングする。つまり、1つの開口部3の4つのテーパ面の全てが同時に高い洗浄度でクリーニングされるようになる。
【0079】
この場合には、第1のレーザ光学系17Aと第2のレーザ光学系17Bとを独立して移動させる必要がなく、一体的に移動させることが可能になる。つまり、第1のレーザ光学系17Aと第2のレーザ光学系17Bとを一体的なユニットとして構成して、当該ユニットを移動させることにより、各矩形エリアのクリーニングが可能になる。前述したように、レーザ光学系の位置を正確に調整した後にレーザを走査させており、2つのレーザ光学系を独立して動作させる場合には、2つのレーザ光学系をそれぞれ位置調整しなければならない。
【0080】
これに対して、一体的なユニットとして構成した場合には、当該ユニットのみを位置調整すればよいため、位置調整の処理が単純になる。なお、一体的なユニットとして構成する場合には、第1のレーザ光学系17Aと第2のレーザ光学系17Bとの位置関係を予め正確に設定しておくようにする。
【0081】
また、前述した実施形態では、有機EL用マスク1を6つの矩形エリアA1乃至A6に分割しているが、分割する数は任意に設定してもよい。ただし、有機EL用マスク1の分割の仕方としては、(1)開口部3の対角線と矩形エリアの対角線D1とが平行になるように、(2)開口部3のテーパ面に対して入射するレーザの入射角をαとしたときに、「70°<α<110°」、の条件を満たすような分割の仕方が望ましい。(1)および(2)の2つの条件を満たすことが最も望ましいが、何れか1つの条件を満たすものであってもよい。
【0082】
まず、最初の(1)の条件については、前述したように、第1のレーザL1および第2のレーザL2は矩形エリアの対角線D1に平行となるように走査を行う。このため、矩形エリアの対角線D1と開口部3の対角線とが平行になるように矩形エリアの分割を行えば、領域TA1、TA2に含まれる全ての開口部3について対角線と平行に走査を行うことができるようになる。例えば、開口部3が正方形であれば、矩形エリアが正方形となるように分割することが望ましい。これにより、常に開口部3に対して45度の角度となるように走査を行うことができる。
【0083】
レーザの走査は開口部3の対角線に対して平行な方向であることが望ましいが、対角線と平行な方向でなくても、開口部3に対して斜め方向であればよい。開口部3に対して斜め方向にレーザの走査を行うことにより、1度に2つのテーパ面の走査を行うことは可能になる。ただし、この場合には、2つのテーパ面の間に走査の偏りが生じるため、できる限り開口部3の対角線に対して平行に走査することが望ましい。このために、開口部3に対して平行な方向にレーザを走査するようになし、矩形エリアの対角線方向に走査するようにすることが望ましい。
【0084】
次に、(2)の条件については、レーザの入射角αが前記のような条件を満たすことが望ましい。つまり、α=90°となれば、テーパ面の法線方向からレーザを入射させることができ、この場合にはテーパ面でのスポットは円形になるため、パワー密度が完全に均一になる。従って、この場合が最も洗浄度が高くなる。一方で、αが90°からずれるに従ってスポットは楕円形になり、洗浄度が低くなる。この場合、±20°の範囲内であれば、テーパ面から蒸着物質を剥離する効果が高くなり、高い洗浄度が得られるようになる。逆に、αがこの範囲を外れると洗浄度が低くなるばかりでなく、剥離される蒸着物質の領域が大きく変化(例えば、10%以上の領域変化を生じる)し、レーザ走査によるクリーニングにばらつきが生じる。よって、αは90°から±20°の範囲内に収めるようにする。
【0085】
そこで、αは「70°<α<110°」としている。ここで、図9に示すように、第1のレーザL1の入射角をα、テーパ面の傾斜角(有機EL用マスク1の表面に対して傾斜している角度)をβ、開口部3と第1のガルバノミラー22Aとの水平面上の距離をL、有機EL用マスク1に対する第1のガルバノミラー22Aの高さをHとしたときに、有機EL用マスク1に対する第1のレーザL1の入射角は「α―β」になる。従って、LおよびHの正接との関係から、tan(α―β)=(H/L)になり、αについてみれば、α=tan―1(H/L)+βになる。
【0086】
そして、「70°<α<110°」であることから、「H―1×tan(70°―β)<L<H―1×tan(110°―β)」となるように開口部3と第1のガルバノミラー22A(第2のガルバノミラー22Bも同様)との距離を設定することが望ましい。つまり、この条件を満たすような距離を維持するように、有機EL用マスク1と各レーザ光学系とを相対移動させるようにする。当該移動を行うように、第1のレーザ移動部24Aおよび第2のレーザ移動部24Bの移動制御を行うようにすることで、常に高い洗浄度を得ることができるようになる。
【符号の説明】
【0087】
1 有機EL用マスク 3 開口部
5A〜5D テーパ面 10 レーザ洗浄装置
12 搭載ステージ 14 ステージ移動部
15 送風部 16 吸引部
17A 第1のレーザ光学系 17B 第2のレーザ光学系
22A 第1のガルバノミラー 22B 第2のガルバノミラー
A1〜A6 矩形エリア CF 搬送空気流
D1 対角線 L1 第1のレーザ
L2 第2のレーザ TA1 領域
TA2 領域 V11 頂点
V62 頂点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーパ面を有する開口部を複数形成した有機EL用マスクのクリーニングを行う有機EL用マスククリーニング装置であって、
前記テーパ面をクリーニングするときには、各開口部に形成される4つのテーパ面のうち相互に隣接する2つのテーパ面に向けて、前記開口部の対角線を挟んで反対側からレーザを入射させて前記開口部の斜め方向に走査させるレーザ走査手段と、
前記対角線を挟んで前記2つのテーパ面の反対側から前記レーザが入射するように、前記有機EL用マスクと前記レーザ走査手段とを相対的に移動させる相対移動手段と、
を備えたことを特徴とする有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項2】
前記4つのテーパ面のうち前記2つのテーパ面以外の残り2つのテーパ面に向けて、前記対角線を挟んで反対側から他のレーザを入射させて前記開口部の斜め方向に走査させる他のレーザ走査手段を備え、
前記相対移動手段は、前記対角線を挟んで前記残り2つのテーパ面の反対側から前記他のレーザが入射するように、前記有機EL用マスクと前記他のレーザ走査手段とを相対移動させること
を特徴とする請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項3】
前記有機EL用マスクを複数の開口部を有する矩形エリアに分割して、この矩形エリアの対角線を挟んで2つの領域に分割したときに、
前記レーザ走査手段は、前記矩形エリアの対角線を挟んで反対側からまたは前記領域の頂点を挟んで反対側から前記領域に対して前記矩形エリアの斜め方向に前記レーザを走査し、
前記相対移動手段は、1つの領域の各開口部に対する走査を完了した後に、前記有機EL用マスクに対して前記レーザ走査手段を相対移動させること
を特徴とする請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項4】
前記有機EL用マスクを複数の開口部を有する矩形エリアに分割して、この矩形エリアの対角線を挟んで2つの領域に分割したときに、
前記レーザ走査手段は前記矩形エリアの対角線を挟んで反対側からまたは前記領域の頂点を挟んで反対側から前記領域に対して前記矩形エリアの斜め方向に前記レーザを走査し、
前記他のレーザ走査手段は前記領域の頂点を挟んで反対側からまたは前記矩形エリアの対角線を挟んで反対側から前記領域に対して前記矩形エリアの斜め方向に前記レーザを走査し、
前記相対移動手段は、1つの領域の各開口部に対する走査を完了した後に、前記有機EL用マスクに対して前記レーザ走査手段と前記他のレーザ走査手段とを相対移動させること
を特徴とする請求項2記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項5】
前記レーザ走査手段と前記他のレーザ走査手段とを一体的なユニットとして構成したこと
を特徴とする請求項2記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項6】
前記レーザ走査手段により走査される前記テーパ面と前記レーザの光軸とのなす角度をαとしたときに、
前記相対移動手段は、「70度<α<110度」となるように前記有機EL用マスクに対して前記レーザ走査手段を相対的に移動させること
を特徴とする請求項1記載の有機EL用マスククリーニング装置。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか1項に記載の有機EL用マスククリーニング装置を備えたことを特徴とする有機ELディスプレイの製造装置。
【請求項8】
請求項7記載の有機ELディスプレイの製造装置により製造されたことを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項9】
テーパ面を有する開口部を複数形成した有機EL用マスクのクリーニングを行う有機EL用マスククリーニング方法であって、
各開口部に形成される4つのテーパ面のうち相互に隣接する2つのテーパ面に向けて、前記開口部の対角線を挟んで反対側からレーザを入射させて前記開口部の斜め方向に前記レーザを走査させ、
前記レーザが前記対角線を挟んで前記2つのテーパ面の反対側から入射するように、前記有機EL用マスクと前記レーザ走査手段とを相対的に移動させること
を特徴とする有機EL用マスククリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−58063(P2011−58063A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210264(P2009−210264)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】