説明

極低水分ガス生成装置、不活性ガス、処理装置、及びガス中の水分量測定方法

【課題】半導体製造装置において、真空容器内壁および試料からの脱水を加熱なしに行ない、また極めて水の少ないガスの水分を安価な方法でモニターする極低水分ガス生成装置を提供する。
【解決手段】極低水分ガス生成装置で生成されたガスは、酸素分圧が10のマイナス29乗気圧以下10のマイナス35乗気圧以上、水分量が1ppb以下0.83ppt以上となり、その極低水分ガスが処理装置内に導入され、内部の水分が除去され、そのガス中の酸素分圧を酸素センサで測定することにより、計算で水分量が求められるように、低水分ガス生成装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜表面からの水分を極限までに低減させるための極低水分ガスを生成するための極低水分ガス生成装置、及び、この極低水分ガス生成装置で生成された低水分量を有する不活性ガス、並びに低水分量を有する不活性ガスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属・絶縁体・半導体等の固体表面、もしくは固体内部から水を脱水除去する技術開発が進行している。特に半導体の製造においては、製造装置の装置壁面金属からの脱水はもちろん、堆積した薄膜、特に金属や絶縁体・半導体薄膜の表面に付着した水分を脱水除去するのが必須となっている。これは、残留水分が薄膜の信頼性、ひいては半導体装置の信頼性に大きく影響を及ぼすためであり、そのため半導体製造時には十分に水分量を低下させる必要があるためである(引用文献1の論文を参照)。
【0003】
そこで、製造環境における脱水処理が必須となっているが、通常の室温の空気中では、表面からの脱水乾燥には長時間を要するため、大気圧よりも減圧した真空下での脱水処理乾燥が広く行われている。これは、通常よりも減圧下とすることで、水蒸気の分圧を低下させ、蒸発を促進させる効果に基づく。さらには、上記真空下で部材や膜を100℃−200℃程度に加熱し、水の蒸発をより活発に促し、より短時間での脱水処理が行われている。
【0004】
たとえば、半導体製造装置においては、装置を大気圧から真空排気して、水のない良質な真空を実現するには、真空下で装置を100℃−200℃に加熱し、ステンレスもしくはアルミニウム等で構成される装置内壁部に付着した水分を加熱除去し、到達する真空度を向上させる手法が用いられる。
また、半導体装置の製造においても、十分に到達真空度を向上させた装置内にて、薄膜堆積、熱処理、エッチング処理を行うことにより、半導体薄膜中に含まれる残留水分を極力低減させ、水分による膜の変質、酸化や信頼性の低下を防止している。
また、薄膜堆積後に、当該薄膜から水分を加熱除去することなども通常行なわれている。
さらには、半導体製造装置を構成する各種部品も、あらかじめ真空槽内にて加熱脱水処理を行うことにより、十分に脱水処理を施した後に装置に組み入れられる。
【0005】
【非特許文献1】Review of Scientific Instruments,vol.74,No.9,September 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来は、金属や絶縁体、半導体等の固体表面および固体内部からの水分を脱水除去するためには、通常真空装置内で材料・部材を加熱していた。しかしながら、樹脂部品なども含まれるため真空装置材料固有の耐熱性限界があり、通常は100℃−200℃の加熱に留まるため、十分な脱水処理が行えないなどの制約がある。
また、真空度も通常は最大でも10-5Pa程度の低真空中での加熱が用いられるため、十分に水分圧が低い状態での脱水ではないため、残留水分の影響を受けてしまうという制約があった。特に、真空装置や乾燥ガス中の水分量を1ppb以下に低下させるのは、一般に困難であった。
そこで、本願発明では、ガス中の水分量を1ppb以下となる極限まで乾燥した雰囲気を、新規の手法を用いて実現させ、当該雰囲気を用いて脱水処理および半導体装置の製造を行なう環境を新規に提供することを課題とする。
【0007】
一方、半導体の製造においては、特に、薄膜の堆積や原料の導入時に、極限まで水分を除去する必要があるが、これまでは不純物として水分量を1ppb以下に取りきることが不可能であり、したがって、膜中に残留水分が存在し、装置のメンテナンス回数が増加するなどの課題が存在する。そこで本発明では、水分量を1ppb以下から0.83ppt以上に乾燥させた環境を新規に実現させ、半導体を製造する環境を実現するのが第2の課題である。
【0008】
一般に使用されている不活性ガス、窒素等の産業用途のガスには、微量ではあるが、不純物として酸素を含む。このことは、あらゆる分野において、酸化を防ぐ目的の工程がある場合に、酸素分子が問題となる場合がある。例えば、CVD、スパッタ等による金属薄膜の作成時、金属間化合物の製造時、半導体製造工程の配線処理等で問題になることがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明による極低水分ガス生成装置は、
1対の金属製管体と、
前記各管体にそれぞれ接続され、前記管体からのガスが通過する中空を有するセラミック製固体電解質体と、
該電解質体の内面に設けられた内側電極と外側電極と、
ここで前記管体は、前記内側電極と共に内側電極を構成し固体電解質体を構成するセラミック材料の熱膨張係数とほぼ同じ金属材料で作られて固体電解質体と密封固着されており、を備える酸素分子排出装置と、
前記酸素分子排出装置を加熱する加熱装置と、
前記酸素分子排出装置の電極間に電圧を印加する印加手段と、
ここで、前記酸素分子排出時に電圧印加をONにして、酸素分圧:10のマイナス29乗気圧以下10のマイナス35乗気圧以上を得る、を備え、
酸素分圧:10のマイナス29乗気圧以下10のマイナス35乗気圧以上時に、前記固体電解質体を通過後の不活性ガス中の水分量:1ppb以下0.83ppt以上を得る。
【0010】
(2)本発明による極低水分ガス生成装置は、
1対の金属製管体と;
前記各管体にそれぞれ接続され、前記管体からのガスが通過する中空を有するセラミック製固体電解質体と、
該電解質体の内面に設けられた金又は白金製の内側電極と外側電極と、
前記管体は、ジルコニア製固体電解質体の熱膨張係数とほぼ同じコバール材料で作られて固体電解質体と銀ロウ付けで固着されており、かつ、該管体は、前記白金製内側電極と共に内側電極を構成し、
を備える酸素分子排出装置と;
前記酸素分子排出装置を加熱する加熱装置と;
前記酸素分子排出装置の電極間に電圧を印加する印加手段と、
ここで、前記酸素分子排出時に電圧印加をONにし、酸素分圧:10のマイナス29乗気圧以下10のマイナス35乗気圧以上を得る;
を備え、
酸素分圧:10のマイナス29乗気圧以下10のマイナス35乗気圧以上時に、前記固体電解質体を通過後の不活性ガス中の水分量:1ppb以下0.83ppt以上を得る。
【0011】
(3)本発明による極低水分ガス生成装置は、
1対の金属製管体と;
前記各管体にそれぞれ接続され、前記管体からのガスが通過する中空を有するセラミック製固体電解質体と、
該電解質体の内面に設けられた金又は白金製の内側電極と外側電極と、
前記管体は、ジルコニア製固体電解質体の熱膨張係数とほぼ同じコバール材料で作られて固体電解質体と銀ロウ付けで固着されており、かつ、該銀ロウ付け固着部分と該管体は、金又は白金で電解メッキを施した電解メッキ層と、電解メッキ部分を酸又はアルカリで前処理した後に無電解の金又は白金メッキを施した無電解メッキ層とを備え、
を備える酸素分子排出装置と;
前記酸素分子排出装置を加熱する加熱装置と;
前記酸素分子排出装置の電極間に電圧を印加する印加手段と、
ここで、前記酸素分子排出時に電圧印加をONにし、酸素分圧:10のマイナス29乗気圧以下10のマイナス35乗気圧以上を得る;
を備え、
酸素分圧:10のマイナス29乗気圧以下10のマイナス35乗気圧以上時に、前記固体電解質体を通過後の不活性ガス中の水分量:1ppb以下0.83ppt以上を得る。
【0012】
(4)(1)〜(3)のいずれかの極低水分ガス生成装置において、
前記ガス中の酸素分圧測定は、酸素イオン伝導体を用いた酸素センサにより行われる。
【0013】
(5)(1)〜(3)のいずれかの極低水分ガス生成装置により生成された不活性ガスであって、水分量:1ppb以下0.83ppt以上を備える不活性ガスとして構成される。
【0014】
(6)(5)の不活性ガスは、窒素、アルゴン、又は窒素及びアルゴンの混合ガスとして構成される。
【0015】
(7)(1)〜(3)のいずれかの極低水分ガス生成装置により生成された、水分量:1ppb以下0.83ppt以上を備える不活性ガス、を導入してなる処理装置を構成する。
【0016】
(8)本発明によるガス中の水分量測定方法は、
脱水処理前のガスの水素分圧と水分圧を測定する工程と、
脱水処理後のガスの酸素分圧を測定する工程と、
水、水素、酸素からなる系の以下の化学平衡を用いて熱力学計算により処理後の水分量を計算する工程と、備える。
【0017】
【数1】


ここで、Kは平衡定数、
なお、600℃におけるKは8.69×1011[atm-1/2]
【0018】
(9)(8)のガス中の水分量測定方法において、
前記脱水処理前のガスは、フィルターを通した後のガスを使用する。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、水分量が1ppb以下0.83ppt以上というこれまで実現しえなかった値まで不活性ガス中の水分除去を行うことができる。
これにより、脱水時間を顕著に短縮し、残留水分を低減化する顕著な効果が得られる。
また、極めて水の少ない環境下で半導体装置の製造を行うことができるので、半導体装置に不純物として残留する水を極限まで低減させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、極低水分ガス生成装置によって不活性ガスの酸素分圧を低減させて得られる極低水分ガスを酸素センサに導き、酸素分圧を測定する概略構成を示す図である。該図において、市販の不活性ガスは、極低水分ガス生成装置10で極めて低い酸素分圧を有する極低水分ガスに生成され、酸素分圧が酸素センサ12で検知される。
【0022】
極低水分ガスの酸素分圧を制御するための酸素分圧制御装置14が設けられている。この酸素分圧制御装置14は、所望の酸素分圧値を設定する酸素分圧設定部と、処理装置に供給する側の極低水分ガスの酸素分圧を測定する供給側酸素分圧センサと処理装置から排出される側の極低水分ガスの酸素分圧を測定する排出側酸素分圧センサによるモニタ値を酸素分圧設定部による設定値と比較して極低水分ガス生成装置から送り出されるガスの酸素分圧を所定値に制御するPID制御方式による酸素分圧制御部と、酸素分圧設定部による酸素分圧設定値と供給側の酸素センサと排気側の酸素センサ によるモニタ値を表示する酸素分圧表示部とを備える。
【0023】
図2は、極低水分ガス生成装置を構成する酸素分子排出装置26を示す要部概略図である。酸素分子排出装置26は、酸素イオン伝導性を有するジルコニア製固体電解質体21と、固体電解質体21の内面及び外面に配設され金又は白金よりなるネット状の電極22,23と、を備える。ジルコニア製固体電解質体21は、両端部でコパール材からなる金属製管体20と銀ロウ付け24(図3参照)で固着される。固体電解質体の電極と管体は、内側電極を構成する。酸素分圧排出装置の内圧は、3kg/cm以下であり、通常0.1〜1.0kg/cmである。
【0024】
内面電極22と外面電極24との間に直流電源Eから電流Iを流すと、酸素分子(O)が内面電極22において電気的に還元されてイオン(O2−)化され、固体電解質21を通して輸送され、外面電極23で電子を奪われて再び酸素分子に変えられる。この密閉容器の外部に放出された酸素分子を空気等の補助気体をキャリアガスとして排気することにより、密閉容器に供給される不活性ガス中の酸素分子を除去して、その酸素分圧を制御できる。
このようにすると、H2Oの熱分解によって生じたH2とO2のうち、O2が酸素分子排出装置26により除去される。従ってH2O←→H2+(1/2)O2という化学平衡が連続的に右辺側へと進行し、水分が分解除去されることになる。
【0025】
このように酸素分子排出装置26は、固体電解質体内21に導入されたガスが固体電解質体内21中を通過する間にガス中の酸素分子を外気に排出して、極めて低い水分ガス及び酸素分圧を生成する。極低水分ガスが、固体電解質体から真空処理装置に向けて供給される。図2において、●は、ガス、○○は、水分及び酸素分子、○は、水分及び酸素イオンである。
【0026】
固体電解質体21を構成する固体電解質 は、例えば、一般式( ZrO )1-x-y(In )x( Y ) y( 0< x < 0.20、0< y < 020、0.08< x +y < 0.20) で表されるジルコニア系が利用できる。その中でも、0< x < 0.20、y = 0 であることが望ましく、さらに、0.06< x < 0.12、y = 0 であることがより望ましい。
【0027】
固体電解質 は、上記に例示したもの以外に、例えば、Ba およびIn を含む複合B 酸化物であって、この複合酸化物のBa の一部をLaで固溶置換したもの、特に、原子数比{ La /( Ba+La )}を0.3以上としたものや、さらにInの一部をGaで置換したものや、一般式{ Ln 1 - x Srx Ga 1 - ( y + z )Mg y Co z O 、ただし、Ln = La,Nd の1 種または2 種、x= 0.05〜0.3、y= 0〜0.29、z= 0.01〜0.3、y+z=0.025〜0.3}で示されるものや、一般式{ Ln ( 1 - x ) A x Ga ( 1 - y - z ) B1y B2z O3−d、ただし、Ln = La,Ce,Pr,Nd,Sm の1種または2種以上、A = Sr,Ca,Ba の1種または2種以上、B 1 = Mg,Al,In の1種または2種以上、B 2 = Co,Fe,Ni, Cu の1 種または2 種以上} で示されるものや、一般式{ Ln2−x Mx Ge 1 - y Ly O5、ただし、Ln = La,Ce,Pr,Sm,Nd,Gd, Yd,Y,Sc、M = Li,Na,K,Rb,Ca,Sr,Ba の1種もしくは2種以上、L = Mg,Al,Ga,In,Mn,Cr,Cu,Zn の1 種もしくは2 種以上}や、一般式{ La ( 1 - x ) Sr x Ga ( 1 - y - z ) Mg Al 、ただし、0< x ≦ 0.2、0< y ≦ 0.2、0< z < 0.4} や、一般式{ La ( 1 - x ) A x Ga ( 1 - y - z ) B 1y B 2z O 3 、ただし、Ln = La,Ce,Pr,Sm,Ndの1 種もしくは2種以上、A = Sr,Ca,Ba の1 種もしくは2 種以上、B 1= Mg,Al,In の1 種もしくは2 種以上、B 2 = Co,Fe,Ni,Cu の1 種もしくは2 種以上、x = 0.05〜0.3、y = 0〜0.29、z = 0.01〜0.3、y +z =0.025〜0.3}等が採用できる。
【0028】
上述した固体電解質体の両端部と管体との気密性の良さが酸素分圧に強い影響を与える。イオン伝導性を発揮させるために固体電解質は、600℃〜1000℃に加熱される。より極低水分量のガスを生成するには、固体電解質体をより高温に加熱することが、好ましい。
従来は、両端部はOリングや、真空機器用接着剤を用いて気密性を保っていたが、耐熱性を考えて、空冷等の措置がとられていた。しかし、十分な機密性を得ることができなかった。
固体電解質体の両端部と管体との密封構造として、管体と固体電解質体を金属のロウで接合することを採用する.その結果、耐熱温度が向上するため、高い気密性を得ることができ、より低い極低酸素分圧ガスを得ることができる。
【0029】
固体電解質体の両端部と管体との密封を保つためのシール構造は、以下のようにして行った。
固体電解質体の両端部と管体とを銀ロウ付けにより固着する。次に、銀ロウ付け固着部分及び金属製管体を金又は白金で電解メッキを施す。そして、電解メッキ部分を酸又はアルカリで前処理した後、固体電解質体も同時に無電解白金メッキを施す。
【0030】
固体電解質体として長さが50cmの6%モルのイットリアをドープしたジルコニア管を6本用いた(図4及び図5参照)。管体とジルコニア管との気密性は銀ロウ付けにより接合することで強度、耐熱性を向上させた。容器25内にジルコニア管26を6本並列して配設した。ジルコニア管の上下に加熱ヒーター27が配設される。
【0031】
ガス導入口よりアルゴンガスを導入し、マスフローコントローラで2L/min.となるように設定した。酸素分子排出装置の両電極間に電圧として2V印加した。なお、固体電解質体の外側にはパージガスとして空気を流した状態としておく。
【0032】
また、シール構造の耐熱性及び酸素分子排出装置の機能向上を考慮すると、この酸素分子排出装置を構成する固体電解質体は一本よりも、図4及び図5に示すように、複数本、例えば6本あることが望ましく、かつそれぞれの固体電解質体は長ければ長いほど酸素分子排出機能が良く、加熱部分から離れたところでシール機能を持たせることができる。よって管体の耐熱性も考える必要がなくなる。しかしながら、固体電解質体は、コストや取り扱いを考慮すると、15cm〜60cmの長さ有することが望ましい。片側の各管体の長さは、3cm〜60cmであることが望ましい。
【0033】
酸素分子排出装置内のジルコニア管を通過した酸素分圧を低減させたガスを酸素センサに導き、酸素分圧を測定した。酸素分圧の測定に酸素イオン伝導体を用いることにより安価に測定できる。酸素分圧の測定には固体電解質体の内外の酸素分圧差に伴う濃淡電池反応による起電力を用いた。濃淡起電力式の酸素センサは、ジルコニア等の酸素イオン伝導性固体電解質からなり、その一側及び他側を測定ガス中及び既知の濃度の基準ガス、例えば大気中にそれぞれ露出させ、ネルンストの式により表わされる起電力をセンサの出力として測定することで酸素濃度を検出するように構成されている。そして、約2時間で酸素分圧は10のマイナス29乗気圧以下10のマイナス35乗気圧以上を得た。
【0034】
水分と酸素を含む不活性ガス中から酸素を除去すると、化学平衡の原理により水分が分解されて水素だけが残る。この原理を用いてガス中の水分を除去する。脱水処理前のガスの水素含有量と水分量がわかっていれば処理後のガスの酸素分圧を測定することにより、熱力学計算により処理後の水分量を計算することができる。酸素分圧;10のマイナス29乗気圧以下10マイナス35乗気圧が得られる上述の極低水分ガス生成装置に窒素、アルゴン等の不活性ガスを通過させた時の窒素、アルゴン等の不活性ガス中の水分量は、以下の如くに求められる。
【0035】
まず水分量推定の例として、露点計で直接測れる範囲の水分量と今回の酸素分圧から推定した値とを比較してみる。
水素を体積比0.208%含むアルゴンガスを600℃に熱せられたジルコニア管に導き、酸素分子排出装置内のジルコニア管を通過した酸素分圧を低減させたガスを酸素センサで分圧を測定する。この方法でp(O2)を測定したところ、7.2×10-27気圧であった。水、水素、酸素からなる系の化学平衡は以下の式で与えられる。
【0036】
【数2】

【0037】
は、平衡定数であり、600℃におけるKは8.69×1011 [atm-1/2]である。上式にp(H2)= 2.08×10-3atm, p(O2)= 7.2×10-27atmを代入すると、p(H2O)=1.54×10-4atm=154ppmと計算される。露点計で水分量を測定したところ130ppmであり、よい一致を見た。
【0038】
上記の実験から、水素濃度が既知のガスの酸素分圧をジルコニア酸素センサで測定することにより、水分量が推定できることがわかったので、酸素分子排出装置を通過した後のガス中の水分量を、ガス中の酸素分圧を測ることで推定した例を次に説明する。
処理前のガスの水素含有量と水分量は、ガス供給業者の分析により、それぞれ0.1ppm, 0.2ppmであった。酸素分子排出装置をガスが通過すると、p(H2), p(O2), p(H2O)は全て変化するが、水素原子の数は保存される。従って、
p(H2)before+p(H2O)before=p(H2)after+p(H2O)after (2)
が成り立つ。beforeという添字は酸素分子排出装置通過前を表わし、afterは通過後を表わしている。
p(O2)afterは、ジルコニア酸素センサによる測定で最もよく引けたときに1×10-35atmであった。(2)の左辺は 1×10-7+2×10-7=3×10-7atmであるので、これと(1)式を連立することにより、p(H2)after, p(H2O)afterが求められる。結果は、p(H2)after=3×10-7atm, p(H2O)after=8.3×10-13atm=0.83pptとなる。
p(O2)afterが1×10-29atmのときには、同様の計算により、p(H2O)after=8.3×10-10atm=0.83ppbが得られる。
【0039】
このように極めて低い水分量に制御された不活性ガスは、酸素センサによってその分圧がモニタされた後、真空処理装置の反応室に供給される。なお、処理の際の圧力は、減圧下で行っても、あるいは常圧で行っても良く、また使用済みガスは、真空ポンプを介して装置外に排気しても、あるいは処理の間に使用済みガスを再び酸素分子ガス排出装置に戻すような閉ループを形成してもよい。
【0040】
以上は、水素含有量と水分量が、それぞれ0.1ppm, 0.2ppmのガスを使用した例であるが、ガス中の不純物をフィルター等により予め低減させて、その後酸素分子排出装置を通すことにより、さらにガス中の水分量を減らすことができる。例えば、フィルターを通してガス中の水素を1ppb,水分を1ppbに減らした後、酸素分子排出装置内に導いて、この分子排出装置から出てきたガスのp(O2)の測定値が、1×10-35atmであったならば、p(H2O)after=5.5×10-15atm=0.0055pptとなる。
【0041】
処理装置としての半導体製造装置に極低水分ガスを導入して、装置内の水分除去を以下の如くに行った。まずターボ分子ポンプにより10−5Pa程度にまで装置内を真空排気した後、酸素分圧10のマイナス35乗気圧、水分量1ppb以下0.83ppt以上の窒素ガスを流量2SLMで導入して、大気圧まで装置内を満たした。続いて窒素ガスの導入をやめて、再びターボ分子ポンプにより10−5Paまで真空排気し、さらに窒素ガスを大気圧まで流入させる動作を繰り返した。その後上記動作を合計で6回繰り返した後、真空装置を改めて真空ポンプにより排気した。
【0042】
その時の、大気圧からの排気曲線を図6に示す。極低水分ガスによる水分除去を行なわないで、ただ単に真空排気を行なった場合に比べて、極低水分ガスを導入した後の排気速度および到達真空度共に向上することが分かった。そこで、装置内の水分を調べたところ、本発明による極低水分ガスを導入すると、真空処理装置内部の水分量が低下して、排気速度および到達真空度が向上することが明らかになった。なお、水分の低減効果は、本発明に係る低水分ガスを、装置内に少なくとも1回以上導入すれば効果があり、さらにはガスの種類としては、一般的な不活性ガスである窒素以外にもアルゴン、ヘリウム、等の不活性ガスを用いても同様に効果があることを確認した。
【0043】
また、極低水分ガスを100℃に加熱して、真空処理装置内に導入した場合、さらには、真空処理装置を100℃に加熱(ベーキング)して、なおかつ、極低水分ガスを導入すると、水分が更に効率的に除去され、到達真空度がさらに向上する効果があることが分かった。
また、上記記載したように、窒素ガスと真空排気の繰り返し動作、いわゆるサイクルパージを行わずに、当該窒素ガスを真空処理装置内に連続的に流し続けて使用した場合も、到達真空度が向上する同様の効果が得られることが分かった。この場合、大気圧以上になると真空処理装置から余剰の窒素ガスが漏れ出すが、この漏れ出したガスはそのまま排気放出してもよく、あるいは、溢れたガスを再び極低水分発生装置に戻し、水分量を再び低減させて再び製造装置に戻す様な一種の閉ループを構成した場合も同様な効果があることが分かった。
【0044】
なお、半導体製造装置の材質はステンレス(SUS304,316,316L)製でもアルミニウム製でも、石英製でもよく、更には、半導体製造装置の内部にウエハー加熱機構や、プラズマ源、ウエハー支持機構等の様々な付帯機構があっても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
極低水分ガスを使用して製品を製造する分野に用いられ、半導体製造装置、液晶製造装置、電気・電子部品製造装置、食品製造装置などに利用される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る極低水分ガスを生成し、その酸素分圧を測定する構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係る酸素分子排出装置の原理を説明する概略図である。
【図3】本発明に係る極低水分ガス生成装置を示す概略断面図である。
【図4】本発明に係る固体電解質を複数本配設した平面図である。
【図5】本発明に係る固体電解質を複数本配設した側面図である。
【図6】排気時間と圧力との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
10 極低水分ガス生成装置
12 酸素センサ
14 酸素分圧制御装置
20 管体
21 固体電解質体
22、23 電極
24 ロウ付け部分
26 酸素分子排出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の金属製管体と、
前記各管体にそれぞれ接続され、前記管体からのガスが通過する中空を有するセラミック製固体電解質体と、
該電解質体の内面に設けられた内側電極と外側電極と、
ここで前記管体は、前記内側電極と共に内側電極を構成し固体電解質体を構成するセラミック材料の熱膨張係数とほぼ同じ金属材料で作られて固体電解質体と密封固着されており、を備える酸素分子排出装置と、
前記酸素分子排出装置を加熱する加熱装置と、
前記酸素分子排出装置の電極間に電圧を印加する印加手段と、
ここで、前記酸素分子排出時に電圧印加をONにして、酸素分圧:10のマイナス29乗気圧以下10のマイナス35乗気圧以上を得る、
を備え、
酸素分圧:10のマイナス29乗気圧以下10のマイナス35乗気圧以上時に、前記固体電解質体を通過後の不活性ガス中の水分量:1ppb以下0.83ppt以上を得る、ことを特徴とする極低水分ガス生成装置。
【請求項2】
1対の金属製管体と;
前記各管体にそれぞれ接続され、前記管体からのガスが通過する中空を有するセラミック製固体電解質体と、
該電解質体の内面に設けられた金又は白金製の内側電極と外側電極と、
前記管体は、ジルコニア製固体電解質体の熱膨張係数とほぼ同じコバール材料で作られて固体電解質体と銀ロウ付けで固着されており、かつ、該管体は、前記白金製内側電極と共に内側電極を構成し、
を備える酸素分子排出装置と;
前記酸素分子排出装置を加熱する加熱装置と;
前記酸素分子排出装置の電極間に電圧を印加する印加手段と、
ここで、前記酸素分子排出時に電圧印加をONにし、酸素分圧:10のマイナス29乗気圧以下10のマイナス35乗気圧以上を得る;
を備え、
酸素分圧:10のマイナス29乗気圧以下10のマイナス35乗気圧以上時に、前記固体電解質体を通過後の不活性ガス中の水分量:1ppb以下0.83ppt以上を得る、ことを特徴とする極低水分ガス生成装置。
【請求項3】
1対の金属製管体と;
前記各管体にそれぞれ接続され、前記管体からのガスが通過する中空を有するセラミック製固体電解質体と、
該電解質体の内面に設けられた金又は白金製の内側電極と外側電極と、
前記管体は、ジルコニア製固体電解質体の熱膨張係数とほぼ同じコバール材料で作られて固体電解質体と銀ロウ付けで固着されており、かつ、該銀ロウ付け固着部分と該管体は、金又は白金で電解メッキを施した電解メッキ層と、電解メッキ部分を酸又はアルカリで前処理した後に無電解の金又は白金メッキを施した無電解メッキ層を備え、
を備える酸素分子排出装置と;
前記酸素分子排出装置を加熱する加熱装置と;
前記酸素分子排出装置の電極間に電圧を印加する印加手段と、
ここで、前記酸素分子排出時に電圧印加をONにし、酸素分圧:10のマイナス29乗気圧以下10のマイナス35乗気圧以上を得る;
を備え、
酸素分圧:10のマイナス29乗気圧以下10のマイナス35乗気圧以上時に、前記固体電解質体を通過後の不活性ガス中の水分量:1ppb以下0.83ppt以上を得る、ことを特徴とする極低水分ガス生成装置。
【請求項4】
前記ガス中の酸素分圧測定は、酸素イオン伝導体を用いた酸素センサにより行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の極低水分ガス生成装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の極低水分ガス生成装置により生成された不活性ガスであって、
前記不活性ガスは、水分量:1ppb以下0.83ppt以上を備える、ことを特徴とする不活性ガス。
【請求項6】
前記不活性ガスは、窒素、アルゴン、又は窒素及びアルゴンの混合ガスである、ことを特徴とする請求項5に記載の不活性ガス。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか1項に記載の極低水分ガス生成装置により生成された不活性ガスを導入してなる処理装置であって、
前記不活性ガスは、水分量:1ppb以下0.83ppt以上を備える、ことを特徴とする処理装置。
【請求項8】
脱水処理前のガスの水素分圧と水分圧を測定する工程と、
脱水処理後のガスの酸素分圧を測定する工程と、
酸素分子が排出された後のガスの酸素分圧を測定する工程と、
水、水素、酸素からなる系の以下の化学平衡を用いて熱力学計算により処理後の水分量を計算する工程と、
【数1】


ここで、Kは平衡定数、
を備える、ことを特徴とするガス中の水分量測定方法。
【請求項9】
前記脱水処理前のガスは、フィルターを通した後のガスを使用する、ことを特徴とする請求項8に記載のガス中の水分量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−272608(P2008−272608A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115872(P2007−115872)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度文部科学省「ベンチャー開発戦略研究センター」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(507026729)株式会社リドクシオン (5)
【Fターム(参考)】