説明

構造体、電子放出素子、2次電池、電子源、画像表示装置、情報表示再生装置及びそれらの製造方法

【課題】カーボンファイバーの支持体の酸化を抑制し、カーボンファイバーとカーボンファイバーの支持体との電気的な接続を改善する。
【解決手段】カーボンファイバー4が支持体5上に配置される。支持体5は、IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種と、C、Al、Si、Cr、Zrからなる群から選択された少なくとも1種と、窒素と、を含む。好ましくは、IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種が、Tiであり、さらに好ましくは、支持体5中にAlまたはSiが含まれ、Tiに対する、AlまたはSiの割合が、10atm%以上30atm%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンファイバーを用いた構造体、電子放出素子、2次電池、電子源、画像表示装置ならびにそれらの製造方法に関する。また、上記画像表示装置を用いたフラットテレビやコンピュータなどの情報表示再生装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電界放出型電子放出素子において、電子放出体としてカーボンファイバーを用いるものがある。電子放出体にカーボンファイバーを用いることで、形状による電界増倍効果により、膜状(平面状)のカーボン等からなる電子放出体に比べて、より低い電界強度で電子放出体から電子を放出させることが可能となる。
【0003】
電子放出体に用いるカーボンファイバーを形成する方法としては、予め用意しておいたカーボンファイバーを電極(カソード電極)の表面に塗布する方法や、触媒粒子をその表面に備える電極(カソード電極)を用いてカーボンファイバーを気相成長させる方法等がある。カーボンファイバーを気相成長法で形成する場合には、カーボンファイバーと電極(カソード電極)との電気的および物理的な接続を考慮する必要がある。また、電極(カソード電極)としては導電性の高い材料を用いることが好ましいため、電極(カソード電極)上に電極(カソード電極)とは異なる別の導電体(支持体)を配置し、さらに、この支持体上に触媒粒子を配置して気相成長法によりカーボンファイバーを形成する方法がある。
【0004】
特許文献1では、Fe,Co,Niのうち1種類以上からなる金属を含有する触媒超微粒子を、Cu,Ag,Au,Crのうち1種類以上からなる金属が主成分である材料に分散せた膜をSiなどの基体上に配置し、そして上記触媒粒子を用いてカーボンナノチューブを気相成長させることが開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、電極(カソード電極)上に支持体を配置し、この支持体上に、触媒粒子を用いてカーボンファイバーを気相成長法により成長させる手法が開示されている。カーボンファイバーの支持体としては、Ti,Zr,Ta,Nbの中から選択された少なくとも1種の窒化物、あるいはTi,Zr,Ta,Nbの中から選択された少なくとも1種の酸化物、あるいは前記窒化物と前記酸化物の混合物を用いることが開示されている。
【特許文献1】特開平11−139815号公報
【特許文献2】特開2002−289087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、触媒粒子を分散させた金属や、基体のSiは、カーボンファイバーを成長させるプロセスを経ることで、表面に酸化膜が形成され易い。酸化シリコンは絶縁体であるので、このような酸化膜が厚くなると、カーボンファイバーとの間の電気的な接続が阻害される場合があった。Siの他にも、Alなどのd軌道電子をもたない原子の電子配置を有する元素の酸化物材料は、絶縁体であるため、これらの材料をカーボンファイバーの支持体の材料として用いる場合には、支持体表面に形成される酸化膜を薄くする必要があった。
【0007】
また、特許文献2に開示される、カーボンファイバーの支持体としてTiN、ZrN、
TaN、NbNからなる材料を用いる場合においては、以下の問題が生じる場合があった。即ち、気相成長法で触媒粒子を用いてカーボンファイバーを成長させる際に、触媒として金属を用いると、触媒金属が支持体に拡散する場合があった。この様に支持体に触媒金属が拡散した場合、触媒粒子の粒径が変化することによって、形成されるカーボンファイバーの直径、長さ、結晶構造等が変化する場合があった。また、触媒として、合金触媒を用いた場合においては、合金を組成する元素毎の支持体への拡散速度が異なると、合金触媒中の組成比が変化してしまう。したがって、合金を組成する元素の組成比が初期の所望状態から変化すると、形成されるカーボンファイバーの直径、長さ、結晶構造等が変化し、電子放出特性の劣化やばらつきといった問題を生じてしまう場合がある。
【0008】
本発明の目的は、カーボンファイバーの支持体の酸化を抑制し、カーボンファイバーとカーボンファイバーの支持体との電気的な接続を改善することにある。また、本発明の別の目的は、触媒材料がカーボンファイバーの支持体内へ拡散することを抑制し、所望形状のカーボンファイバーを支持体表面上に再現性良く形成することで、電気特性の劣化やばらつきの少ない電子放出素子、電子源、画像表示装置、2次電池を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために以下の構成を採用する。
【0010】
本発明における第1の発明は、支持体と、該支持体上に配置されたカーボンファイバーとを備える構造体であって、前記支持体は、(A)IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種と、(B)C、Al、Si、Cr、Zrからなる群から選択された少なくとも1種と、(C)窒素と、を含むことを特徴とする。
【0011】
上記第1の発明において、「C、Al、Si、Cr、Zrからなる群から選択された少なくとも1種がAlまたはSiであること」が好ましい。また、上記第1の発明においては、「IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種が、Tiであること」も好ましく、「前記支持体中において、Tiに対する、AlまたはSiの割合が、10atm%以上30atm%以下であること」がさらに好ましい。
【0012】
また、本発明の第2の発明は、カソード電極と、該カソード電極上に配置された支持体と、該支持体上に配置されたカーボンファイバーとを備える電子放出素子であって、前記支持体は、(A)IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種と、(B)AlまたはSiと、(C)窒素と、を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第3の発明は、カソード電極と、該カソード電極上に配置された支持体と、該支持体上に配置されたカーボンファイバーと、陽極とを備える2次電池であって、前記支持体は、(A)IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種と、(B)AlまたはSiと、(C)窒素と、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、「上記電子放出素子を複数備える電子源」、「該電子源と、該電子源から放出される電子の照射により発光する発光体とを備える画像表示装置」、「受信した信号に含まれる映像情報、文字情報及び音声情報の少なくとも1つを出力する受信器と、前記受信器に接続された上記画像表示装置とを少なくとも備える情報表示再生装置」をも、その特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の第4の発明は、触媒を備える支持体上に、前記触媒を用いて気相成長法によりカーボンファイバーを成長させる工程を備えるカーボンファイバーの製造方法であって、前記支持体は、(A)IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種と、(B)C、Al、Si、Cr、Zrからなる群から選択された少なくとも
1種と、(C)窒素と、を含むことを特徴とする。
【0016】
上記第4の発明において、「C、Al、Si、Cr、Zrからなる群から選択された少なくとも1種がAlまたはSiであること」が好ましい。また、上記第4の発明においては、「IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種が、Tiであること」も好ましく、「前記支持体中において、Tiに対する、AlまたはSiの割合が、10atm%以上30atm%以下であること」がさらに好ましい。また、上記第4の発明においては、「前記触媒は、Pd、Ni、FeまたはCoから選択された少なくとも1種を含むこと」、或いは、「前記触媒は、CoとPdとを含むこと」も好ましい。
【0017】
また、本発明は、さらに、「第1電極と、該第1電極上に配置された支持体と、該支持体上に配置されたカーボンファイバーとを備える電子放出素子の製造方法において、前記カーボンファイバーを上記第4の発明により製造すること」、「複数の電子放出素子を備える電子源の製造方法であって、前記複数の電子放出素子の各々を上記電子放出素子の製造方法により製造すること」、「電子源と、該電子源から放出される電子の照射により発光する発光体とを備える画像表示装置の製造方法であって、前記電子源を上記電子源の製造方法により製造すること」、「受信した信号に含まれる映像情報、文字情報及び音声情報の少なくとも1つを出力する受信器と、前記受信器に接続された画像表示装置とを接続する工程を備える情報表示再生装置の製造方法であって、前記画像表示装置を上記画像表示装置の製造方法により製造すること」、「カソード電極と、該カソード電極上に配置された支持体と、該支持体上に配置されたカーボンファイバーと、陽極とを備える2次電池の製造方法であって、前記カーボンファイバーを上記第4の発明により製造すること」をもその特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、カーボンファイバーと電極との間の電気的な接続を安定に長期に渡って維持することができる。その結果、電子放出特性に優れた電子放出素子や、高輝度でバラツキの少ない画像表示装置やテレビなどの情報表示再生装置や、安定な電流を取り出せる2次電池を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に図面を参照して、本発明の好的な実施の形態を例示的に説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対位置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0020】
図1A及び図1Bは、本発明を最も簡略化して示した模式図である。図1A及び図1Bにおいて、4はカーボンファイバーである。各々のカーボンファイバー4は、その軸方向(長手方向もしくは成長方向ともいう。)において、2つの端部(両端部)を備えており、一方の端部が支持体5の表面に接続されている。図1Aは、カーボンファイバーが屈曲した形態を備えている場合であり、図1Bはカーボンファイバーがほぼ直線状の形態を備えている場合である。図1Bの形態のカーボンファイバーは、一般に、カーボンナノチューブと呼ばれる形態である。そして、本発明においては、上記支持体5が、(A)IVa族の金属またはVa族の金属(以降これらを母材料と呼ぶ)から選択された1種と、(B)C、Al、Si、Cr、Zr(以降、これらを添加材料と呼ぶ)から選択された1種と、(C)窒素とを含むものである。尚、当然ではあるが、支持体5は導電性を有する。
【0021】
尚、本発明における「カーボンファイバー」とは、カーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバー、アモルファスカーボンファイバー、ダイアモンドファイバーなどを含む。また「カーボンファイバー」は炭素を含むファイバーであり、炭素を主成分とするファイバーであることが好ましい。カーボンファイバーはその軸方向に2つの端部(両端部
)を備える。この2つの端部(両端部)は、図1Bの形態のようにカーボンファイバーが直線状である場合には、「軸方向において対向する2つの端部」と呼ぶこともできる。また、本発明においては、カーボンファイバーに電流を流すため、カーボンファイバーの直径は、1nm以上1μm以下であることが好ましく、1nm以上500nm以下であることがより好ましく、5nm以上100nm以下であることが安定な電流供給を実現する上で更に好ましい。また、カーボンファイバーの長さは直径の10倍以上であることが好ましい。そして、カーボンファイバーを電界放出型電子放出素子に応用する場合には印加される電界強度を増倍させる効果を得る上で、カーボンファイバーの長さは直径の50倍以上であることがより好ましく、直径の100倍以上であることが更に好ましい。
【0022】
図1A及び図1Bに示したカーボンファイバーは、本発明においては、典型的には、図2A及び図2Bに示すように、以下の工程1および工程2によって形成することができる。(工程1)上述した支持体5の表面に触媒粒子6を配置する(図2A)。(工程2)そして、支持体5上に配置された触媒粒子6と、カーボンファイバー4の原料とを反応させて、支持体5上にカーボンファイバー4を成長させる(図2B)。
【0023】
本発明者らは、様々な組成の支持体上に触媒粒子を配置し、この触媒粒子を用いて炭素含有ガスを熱分解することによりカーボンファイバーを支持体上に形成することによって、形成されたカーボンファイバーと支持体との安定な電気的接合を形成することのできる支持体の材料について検討した。
【0024】
本発明者らが、鋭意検討した結果、支持体5の材料として、二元系の窒化物材料よりも、三つの元素からなる三元系の窒化物材料を用いた方が、触媒材料の支持体5への拡散が少なく、且つ支持体5の酸化が少ない傾向が見られた。様々な組成の材料を用いた支持体を検討した結果、カーボンファイバー4が再現性良く成長し、かつ、支持体5とカーボンファイバー4との良好な電気的接続を長期に渡って維持することができる材料としては、(A)IVa族の金属またはVa族の金属(以降これらを「母材料」と呼ぶ)から選択された一つの金属と、(B)C、Al、Si、Cr、Zr(以降、これらを「添加材料」と呼ぶ)から選択された1つの元素と、(C)窒素と、を含む材料であることを本発明者らは見出した。
【0025】
上記材料としては、より具体的には、
Ti1−xN(x<1)、TiAl1−xN(x<1)、TiSi1−xN(x<1)、TiCr1−xN(x<1)、TiZr1−xN(x<1)、Zr1−xN(x<1)、ZrAl1−xN(x<1)、ZrSi1−xN(x<1)、ZrCr1−xN(x<1)、Nb1−xN(x<1)、NbAl1−xN(x<1)、NbSi1−xN(x<1)、NbCr1−xN(x<1)、NbZr1−xN(x<1)、Ta1−xN(x<1)、TaAl1−xN(x<1)、TaSi1−xN(x<1)、TaCr1−xN(x<1)、TaZr1−xN(x<1)で表すことが出来る材料であることが好ましい。
【0026】
これらの材料を、反応性スパッタにて基板上に成膜する場合は、例えば、基板温度を室温から300℃程度に加熱した状態で、Ti1−x(x<1)、TiAl1−x(x<1)、TiSi1−x(x<1)、TiCr1−x(x<1)、TiZr1−x(x<1)、Zr1−x(x<1)、ZrAl1−x(x<1)、ZrSi1−x(x<1)、ZrCr1−x(x<1)、Nb1−x(x<1)、NbAl1−x(x<1)、NbSi1−x(x<1)、NbCr1−x(x<1)、NbZr1−x(x<1)、Ta1−x(x<1)、TaAl1−x(x<1)、TaSi1−x(x<1)、TaCr1−x(x<1)、TaZr1−x(x<1)等のターゲット材料を用いて、真空装置内にアルゴンと微量の窒素を同時に導入することに
より容易に形成することが出来る。
【0027】
また、最初から所望の窒化物ターゲットを用いても形成できる。また、上記本発明の材料の形成方法は、反応性スパッタの他に、例えば、熱CVD、PVD、イオンプレーティング等の手法を採用することも可能である。
【0028】
なお、ここには列挙しないが、さらに複雑な例としてTiZrAlN(x+y+z=1)、TiZrSiN(x+y+z=1)のような四元系以上のより複雑な場合も本発明に含まれる。
【0029】
また、本発明における支持体5には、上記三元系の窒化物材料や四元系の窒化物材料が含まれるが、他の元素が含まれることを除外するものではない。また、上記三元系の窒化物材料や四元系の窒化物材料を構成する各元素間で形成される種々の化合物を含む場合もある(例えば、TiAl1−xNの支持体の場合であれば、支持体はTiAl1−xNからなる三元系窒化物の他に、TiNおよびAlNからなる二元系窒化物を含む場合もある)。
【0030】
これらの材料が酸化や拡散を防ぐ効果については以下のように考えられる。
【0031】
Al、Si、Cr、Zrはいずれも窒化物も酸化物も形成可能な材料であり、そのため、外部から進入した酸素原子をトラップするゲッター材料として働くことができる。また、酸化に際して体積膨張を伴い、酸化することで表面の密度が高まり、酸素が進入しづらくなる。形成されるAl、Si、Cr、Zrの酸化物自身は高温においても安定であり、酸化物単体の場合は酸化に伴う反応の自由エネルギーが大きい傾向がある。さらに、上記添加材料の中でも、AlまたはSiは、その効果が大きい。効果の大きいAlあるいはSiの添加は、TiN、ZrN、NbN、TaNの各々の結晶粒界にAlNあるいはSiとして析出する傾向があり、結晶粒界からの酸素拡散を抑制する働きがあることが確認された。従って、スパッタ蒸着法等で形成することで、前記母材料の柱状の結晶の結晶粒界に、AlNあるいはSi等を形成することができるので、母材料の結晶粒界を経由して拡散する酸素原子を効果的に抑制されると考えられる。
【0032】
また、上述した材料からなる支持体をスパッタ蒸着法で形成する場合においては、ターゲット(スパッタ蒸着源)に含まれる酸素原子の濃度は、支持体の導電性、耐酸化性に大きく影響する。本発明においては、ターゲットに含まれる酸素濃度(原子パーセント)は5000ppm以下が望ましく、特に3000ppm以下が望ましい。しかし、全く酸素を取り除くと、かえって拡散や酸化が助長される結果となった。このため、ターゲットに含まれる酸素濃度は10ppm以上であることが望ましい。
【0033】
一方、母材料への添加材料として炭素を用いた場合は、拡散に対してだけ効果が認められた。この理由として炭素の酸化物は気体であることに起因しているように想像される。炭素は侵入型元素であるため、結晶の欠陥を埋める。このため外部からの原子は拡散のサイトをあらかじめ炭素で占有されていることで拡散しづらくなるものと思われる。
【0034】
さらに、電子放出素子や燃料電池や配線回路などの各種の電子デバイスに用いる電極としての特性として重要な、比抵抗(体積抵抗率)と熱伝導率について上記材料の特性を述べる。
【0035】
ここに挙げた導電性材料としての性質を理解するには、母材料と添加材料の体積抵抗(比抵抗)が重要なパラメータとなる。
【0036】
以下、母材料のおよその体積抵抗(室温における)、熱伝導率(室温における)を表1に列挙する。
【表1】

【0037】
添加材料のおよその体積抵抗(室温)、熱伝導率(室温)を表2に列挙する。
【表2】

【0038】
上述した三元系窒化物のうちのいくつかの材料について、体積抵抗、熱伝導率を調べた結果、表3に示す結果が得られた。
【表3】

【0039】
これから明らかなように、母材料に絶縁体の添加材料を加えた場合は比抵抗が上昇し、特に添加材料が60%を超えると比抵抗が指数関数的に急激に上昇することが分かった。
【0040】
一方、熱伝導率は熱伝導率の大きな材料を添加する割合に応じて緩やかに変化した。
【0041】
従って、望ましい導電性材料は、熱伝導率、比抵抗、耐酸化性、耐拡散性に関する上記の特性を適宜組み合わせることで達成される。
【0042】
特に、比抵抗が小さく、熱伝導率が大きく、耐酸化性、耐拡散性の良好な材料としては母材料がTiN、ZrNであり、添加材料がAlNであり、その割合が30重量%以下のTiAl1−xN(x<1)、ZrAl1−xN(x<1)が特に望ましい。
【0043】
次に、支持体5の材料と、触媒の材料の酸化状態とのいくつかの組み合わせについて述べる。
【0044】
支持体5の材料が上記した三元系の材料であり、かつ触媒粒子6を構成する材料が金属
である(例えばPdを主成分とする)場合は、触媒材料を酸化させるプロセスを用いずとも、金属状態の触媒からカーボンファイバーを成長させることが可能であることを見出した。このため、酸化や加熱プロセスに弱い材料をカーボンファイバーを用いた電子デバイスの一部に使用することが可能となり、製造プロセスの選択肢に幅を持たせることが可能となった。
【0045】
支持体5の材料が炭窒化物材料あるいは三元系の窒化物材料であり、かつ触媒粒子6を構成する材料が酸化物状態である場合(例えば酸化パラジウムを主成分とする場合)は、酸化物触媒に対し減圧下での熱分解還元あるいは水素による還元を行った後において、触媒を用いて安定にカーボンファイバーを成長させることが可能であることを見出した。
【0046】
また、図1A、図1Bなどで示した本発明の支持体5は、基板上に固定されていても良い。そしてまた、本発明の支持体5は、基板と支持体との間に電極などの別の部材を配置することもできる。
【0047】
支持体5上に配置されるカーボンファイバー4は、支持体5上に配置された触媒を用いて、カーボンファイバーの原料ガスを分解することによって、支持体5上に直接、気相成長させたカーボンファイバーであっても良い。気相成長方法としては、熱CVD法、プラズマCVD法など各種のCVD法を用いることができる。このような気相成長は、支持体5が、基板上や電極上に積層された構成においても行うことができる。
【0048】
触媒材料としては、Fe、Co、NiやPd、或いはこれらの中から選択された少なくとも1種を含む合金を好ましく用いることができる。特に、PdとCoとの合金が、グラファイトナノファイバーを形成する上で好ましく用いられる。PdとCoとの合金を用いた場合には、低温で、良好な電子放出特性のカーボンファイバーを得ることができる。特に、後述するグラファイトナノファイバーを形成する際には、PdとCoとを含む触媒を用いることが好ましい。そして、触媒に含まれるPdに対するCoの比率としては、5atm%以上80atm%以下であれば、良好な電子放出特性を示すカーボンファイバーを再現性良く得ることができる。
【0049】
また、気相成長に用いるカーボンファイバーの原料ガスとしては、炭素を含むガスを用いることができる。
【0050】
本発明に用いられる炭素を含むガスとしては例えばアセチレン、エチレン、メタン、プロパン、プロピレンなどの炭化水素ガスが好ましく用いられる。エタノールやアセトンなどの有機溶剤の蒸気を用いることもできる。また、上記炭化水素ガスと水素ガスとの混合ガスがより好ましく用いられる。炭化水素ガスと水素ガスとの混合ガスを用いた場合には、触媒が、混合ガス中に含まれる水素ガスで還元処理されるので、カーボンファイバーを良好に成長させることができるので好ましい。特に上記炭化水素ガスを、窒素あるいはAr等の不活性ガスにて、希釈した混合ガスをカーボンファイバーの原料ガスとして用いることにより、特別な防爆設備を不要とした簡易な設備で製造することが可能である。
【0051】
このような気相成長法を用いて、本発明の支持体上に直接カーボンファイバーを形成する方法の具体例としては、例えば以下の方法が挙げられる。まず、例えば、基板上に導電膜(例えばPt)を全面に形成し、さらに導電膜の一部上に本発明の支持体(例えばTi1−xN(x<1))の微小領域を形成し、その後、導電膜および支持体の全面に、触媒(例えばパラジウム)を被覆する。そして、この基板を加熱しながら、カーボンファイバーの原料ガスと触媒とを接触させることにより、カーボンファイバーを支持体5上だけに選択的に安定に成長させることができる。そして、形成されたカーボンファイバーとPtからなる導電膜との電気的な接続は、長期に渡って安定に維持することができる。
【0052】
本発明で用いることのできるカーボンファイバー4は、典型的には、炭素の割合が50atm%以上であるものを指し、また、好ましくは、炭素の割合が70atm%以上のものであり、さらに好ましくは炭素の割合が90atm%以上である。尚、図2を用いて前述したような方法により、カーボンファイバーが触媒(典型的には金属)を用いて成長させたものである場合には、カーボンファイバーが触媒材料を内包したり担持したりする場合が多い。そのため、本発明のカーボンファイバーは、触媒材料を内部に含むカーボンファイバーや触媒材料を担持したカーボンファイバーをも含むものである。そして、このような金属を内包するカーボンファイバーの場合においても、本発明のカーボンファイバーは、炭素の割合が50atm%以上であるものを指し、また、好ましくは、炭素の割合が70atm%以上のものであり、さらに好ましくは炭素の割合が90atm%以上である。また、触媒材料などの炭素とは異なる材料を内包または担持する場合においては、その内包または担持される材料は、カーボンファイバー中に含まれる炭素に比較すると実効的には20質量%以下であることが好ましい。また、本発明における「カーボンファイバー」としては、より具体的には、カーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバー或いはアモルファスカーボンファイバーなどの導電性のカーボンファイバーを含む。そして、中でも、電子放出特性の観点からグラファイトナノファイバーが最も好ましい。
【0053】
上記カーボンファイバーの形態の一例を図13、図14に示す。図13A及び図14Aは光学顕微鏡レベル(〜1000倍)で見える形態を示す。図13B及び図14Bは走査電子顕微鏡(SEM)レベル(〜3万倍)で見える形態を示し、図13Bは図13Aの20の部分拡大図、図14Bは図14Aの23の部分拡大図である。図13C、図14C及び図14Dは透過電子顕微鏡(TEM)レベル(〜100万倍)で見えるカーボンの形態を模式的に示し、図13Cは図13Bの21の部分拡大図、図14Cと図14Dはそれぞれ図14Bの24、25の部分拡大図である。図中、22,26はグラフェンである。
【0054】
図13Cのように、グラフェン22が円筒形状の形態をとるものは「カーボンナノチューブ」と呼ばれる。そして、円筒形のグラフェン22が多重構造になった多数の円筒で構成されているものは「マルチウォールナノチューブ」と呼ばれ、1つの円筒で構成されているものは「シングルウォールナノチューブ」と呼ばれる。特にチューブの先端を開放させた構造の時に、電子放出に要するしきい値電界が最も下がる。また、マルチウォールカーボンナノチューブの中空構造の中に、竹の節のような構造を持つ物があるが、これらの多くはファイバーの軸に対する最外周のグラフェンの角度がほぼ0°であり、このような構造もカーボンナノチューブに含まれる。これらのカーボンナノチューブはファイバーの軸方向と円筒形に形成された最外周に形成されるグラフェンの面が略平行(ファイバーの軸(ファイバーの長手方向)とグラフェンとがなす角度がおおよそ0°)であり、チューブ内が中空であるのが特徴である。
【0055】
図14C及び図14Dに模式的に示すように、ファイバーの軸と非垂直な方向に積層されたグラフェン26によって構成されるファイバー(c軸がファイバーの軸方向に対して非垂直になるように配置されたファイバー)は「グラファイトナノファイバー」と呼ばれる。より具体的には、グラファイトナノファイバーは、その長手方向(ファイバーの軸方向あるいは成長方向)にグラフェンが積層されたカーボンファイバーを指し、換言すると、図14に示す様に、ファイバーの軸方向に対して非平行に配置された複数のグラフェンが積層されてなるカーボンファイバーである。一方のカーボンナノチューブは、その長手方向(ファイバーの軸方向)を囲むよう(円筒形状)にグラフェンが配置されているカーボンファイバーであり、換言すると、グラフェン(複数のグラフェン)がファイバーの軸に対して実質的に平行に配置されるカーボンファイバーである。つまり、前述のカーボンナノチューブにおいては、c軸(複数のグラフェンが積み重なる方向、あるいはグラフェンの面に対して垂直な方向)が、ファイバーの軸方向(ファイバーの長手方向)に対して
実質的に垂直であるのに対し、グラファイトナノファイバーは、c軸(グラフェンの重なる方向、あるいはグラフェンの面に対して垂直方向)が、ファイバーの軸方向(ファイバーの長手方向)と非垂直である(典型的には平行である)。
【0056】
ファイバーの軸とグラフェンの面とが形成する角度がほぼ90°である場合には「プレートレット型」のグラファイトナノファイバーと呼ぶ。換言すれば、グラフェンがトランプのように多数枚積み重なった構造をしている。一方、図14C及び図14Dに示すように、ファイバーの軸方向に対する、グラフェン26の面の角度が90°より小さく0°より大きい角度である形態を「ヘリンボーン型」のグラファイトナノファイバーと呼ぶ。「ヘリンボーン型」の形態には穴のあいたカップ状のグラフェンを積み重ねたような形態もある。また、図14Dのように、開いた本を積み重ねたような形態(V字状のグラフェンを積み重ねたような形態)も「ヘリンボーン型」に含まれる。
【0057】
ヘリンボーン型におけるファイバー軸の中心付近は、中空である場合や、アモルファスカーボン(TEMレベルの電子線回折像で明確な結晶格子に伴うスポットや格子の明暗像が見えず、ブロードなリングパターン程度しか見えないもの)が詰まっている場合等がある。
【0058】
図14Bには、カーボンファイバーの直線性が悪い状態で成長した場合の概略図を示した。本発明の製造方法により形成されるファイバーが、全てがこのように直線性が悪いわけではない。本発明には、図13Bの様に、直線性の高いカーボンファイバーも含まれる。
【0059】
尚、グラファイトの1枚面を「グラフェン」或いは「グラフェンシート」と呼ぶ。より具体的には、グラファイトは、炭素原子がsp混成により共有結合でできた正六角形を敷き詰める様に配置された炭素平面が積層された(理想的には3.354Åの距離を保って積層された)ものである。この一枚一枚の炭素平面を「グラフェン」或いは「グラフェンシート」と呼ぶ。
【0060】
カーボンナノチューブもグラファイトナノファイバーも、電子放出のしきい値が1V〜10V/μm程度であり、本発明の電子放出材料として好ましく用いられる。特にグラファイトナノファイバーは、カーボンナノチューブよりも放出電流を得ることができるので好ましい。
【0061】
カーボンナノチューブとグラファイトナノファイバーは、触媒の種類及び/あるいはカーボンファイバーの原料ガスを熱分解するための温度によって作り分けることが可能である。従って、同一の触媒であっても、カーボンファイバーの原料ガスを熱分解するための温度を選択することによって、所望の構造のカーボンファイバーを選択的に形成することが可能である。
【0062】
カーボンファイバーを用いて電子放出素子を形成する場合には、1つの電子放出素子は、複数のカーボンファイバーを含む。そして、電子放出材料としては、カーボンファイバーとしてグラファイトナノファイバーを用いることがより好ましい。何故なら、複数のグラファイトナノファイバーを電子放出材料として用いた電子放出素子では、カーボンナノチューブを用いた場合よりも、電子放出電流密度を大きく確保できる為である。
【0063】
グラファイトナノファイバーは、カーボンナノチューブとは異なり、図14Cなどに示した様に、表面(ファイバーの側面)に微細な凹凸形状を有する。そのため、電界集中が起きやすく、電子を放出しやすいと考えられる。そして、また、ファイバーの中心軸からファイバーの外周(表面)に向かってグラフェンが伸びている形態であるため、電子放出
をし易いのではないかと考えられる。
【0064】
一方のカーボンナノチューブの側面は、基本的に、グラファイトのc面に相当する。そのため、カーボンナノチューブの側面は、化学的に不活性であり、グラファイトナノファイバーの様な凹凸もないため、側面からは電子の放出は生じにくいと考えられる。
【0065】
グラファイトナノファイバーを用いた電子放出素子では、ファイバーが曲がっているなどしても十分に多い電子放出量を確保することができるので、カーボンナノチューブを用いた電子放出素子よりもグラファイトナノファイバーを用いた電子放出素子の方が好ましい。
【0066】
以上述べた本発明の支持体5上に配置したカーボンファイバーを用いた電子放出素子について、好ましい実施態様を挙げて詳述する。
【0067】
本発明の電子放出素子においては、上述した支持体と、支持体上に固定されたカーボンファイバーとを備える。安定な電子放出を得るためには、支持体上に固定されるカーボンファイバーは、複数であることが好ましい。尚、以下の例においては、さらに、カーボンファイバーから電子を引き出す目的あるいはカーボンファイバーから放出された電子を制御する目的で設けられた制御電極と、支持体の導電性が低い場合を想定して配置した陰極(カソード電極)とを更に具備する場合を示す。勿論、本発明の電子放出素子は、制御電極および/または陰極を用いない構成も含む。
【0068】
図3Aは本発明の電子放出素子の構成の一例を示す模式図であり、図3Bは図3AのA−A断面図である。図3A、図3Bにおいて、1は絶縁性の基板、2は第2電極であるところの制御電極(ゲート電極)、3は第1電極であるところの陰極電極(カソード電極)、4は複数のカーボンファイバー、5は複数のカーボンファイバー4が配置された上述した材料からなる支持体を示している。尚、上記した形態および以下で説明する例においては、支持体5を陰極電極3上に配置した例を示すが、支持体5が十分な導電性を備えている場合においては、陰極電極3を用いず、支持体5自体を第1電極として用いることもできる。この様な場合は、支持体5が陰極電極(カソード電極)として機能することになる。
【0069】
図3A、図3Bの例においては、陰極電極3と制御電極2とを同一の基板表面上に離れて配置した、所謂、横型の電子放出素子の場合を示した。しかしながら、本発明は、図17に示すような、所謂、縦型の電子放出素子に用いることもできる。図17において、1は基板、3は陰極電極(カソード電極)、2は制御電極(ゲート電極として用いる場合もある)、4はカーボンファイバー、5は支持体、10は絶縁層、11はアノード電極である。
【0070】
例えば、図8に示す様に、真空容器60内に配置された上述した電子放出素子の上方にアノード電極61を設けることで、カーボンファイバー4から放出された電子をアノード電極61で捕獲する電子放出装置を構成することができる。尚、図8において、1は基板、2はゲート電極などの制御電極、3は陰極電極、4は複数のカーボンファイバー、5は支持体、60は真空容器、61はアノード電極、62は電子線の照射により発光する発光体、63は、基板1とアノード電極61との間に形成される等電位線、64は複数のカーボンファイバー4のうちで最も高い電界強度が印加される部分、65は排気装置である。陰極電極3と制御電極2との距離dは、好ましくは1μm以上100μm以下に設定される。また、基板1とアノード電極61との距離Hは、好ましくは500μm以上20mm以下に設定され、さらに好ましくは1mm以上5mm以下に設定される。アノード電極61には1kV以上30kV以下、好ましくは10kV以上25kV以下の電圧が印加され
る。真空容器60内は、好ましくは10-4Pa以上の真空度に維持される。このような
電子放出装置は、3端子構造の電子放出装置である。アノード電極61の表面に電子の照射によって発光する発光体62を設ければ、ランプなどの発光装置を形成することができる。そして、このような発光装置を多数並べることで後述するディスプレイなどの画像表示装置を形成することができる。尚、図8に示す構成から、制御電極2を省いた電子放出装置においては、2端子構造の電子放出装置となる。2端子構造の電子放出装置においては、陰極電極3(支持体5)とアノード電極61との間に印加される電圧によって、電子がカーボンファイバー4から放出される。
【0071】
図8に示す制御電極2をカーボンファイバー4から電子を放出させるためのゲート電極として用いる場合においては、複数のカーボンファイバー4のうち、より制御電極2に近い位置に配置されたカーボンファイバー4の先端(図8中の符号64で示される部分)から優先的に電子が放出されると考えられる。
【0072】
前記絶縁性の基板1としては、その表面を十分に洗浄した、石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させKなどに一部置換したガラス、青板ガラス或いはシリコン基板等にスパッタ法等により酸化シリコン(SiO)を積層した積層体、アルミナ等のセラミックス、などを用いることができる。
【0073】
前記制御電極2および陰極電極3は導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術などにより形成することができる。電極2、3の材料は、導電性材料であれば良い。例えば、金属、金属の炭窒化物、金属の炭化物、金属のホウ化物、半導体、半導体の金属化合物から適宜選択することができる。前記陰極(カソード)電極3の厚さとしては、数十nmから数十μmの範囲で設定される、好ましくは炭素、金属、金属の炭窒化物、金属の炭化物の耐熱性材料が望ましい。支持体5に加えて陰極電極3を用いる場合においては、陰極電極3の抵抗が支持体5の抵抗よりも低くなるようにする。
【0074】
制御電極2と陰極電極3(支持体5)の間隔は、カーボンファイバーに印加される横方向電界と縦方向電界とを比較した時に、横方向電界が縦方向電界よりも1倍から50倍程度の値になるように、制御電極2と陰極電極3との間に印加する駆動電圧との兼ね合いで決めればよい。図8に示す様なアノード電極61に発光体62を配置する電子放出装置や画像表示装置の場合には、縦方向電界は、10−1V/μmから10V/μmの範囲が好ましい。例えば、アノード電極61と陰極電極3との間隔(あるいはアノード電極61と基板1との間隔H)を2mmに設定し、アノード電極61と陰極電極3との間に10kVを印加する場合においては、縦方向電界は5V/μmとなる。この様に、縦方向電界とは、典型的には、カーボンファイバー4が配置された陰極電極3(支持体5)と、アノード電極61との間の電界と見なすことが出来る。従って、縦方向電界の値は、典型的には、アノード電極61と陰極電極3との間の電圧を、アノード電極61と陰極電極3との距離で割ることで得られる値である。また、横方向電界は、典型的には、陰極電極3と制御電極(引き出し電極)2との間の電界と見なすことができる。従って、横方向電界の値は、典型的には、陰極電極3と制御電極2との間の電圧を、制御電極2と陰極電極3との距離dで割ることで得られる値である。
【0075】
このような電子放出装置において、陰極電極3と制御電極2との間に駆動電圧Vf(10V以上100V以下)のパルス電圧を印加して、陰極電極3と制御電極2との間に流れる素子電流Ifと電子放出電流Ieを計測すると、図9に示す様な特性が得られる。すなわち駆動電圧Vfの約半分から電子放出電流Ieが急激に立ち上がる。また、素子電流If(不図示)は電子放出電流Ieの特性に類似しているが、その値は電子放出電流Ieと比較して十分に小さな値である。このような電子放出特性は、図17に示した縦型の電子
放出素子においても同様である。
【0076】
以下この電子放出特性に基づき、電子放出素子を複数配して得られる電子源について、図10を用いて説明する。
【0077】
図10において、81は電子源基板、82はX方向配線(Dx1〜Dxm)、83はY方向配線(Dy1〜Dyn)である。84は上述した本発明の電子放出素子である。なお、n、mは共に正の整数である。
【0078】
m本のX方向配線82は、Dx1,Dx2,..Dxmからなり、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成された金属膜などで構成することができる。配線の材料、膜厚、巾は、適宜設計される。Y方向配線83は、Dy1,Dy2,..Dynのn本の配線よりなり、X方向配線82と同様に形成される。これらm本のX方向配線82とn本のY方向配線83との間には、両配線を電気的に分離するための層間絶縁層(不図示)が設けられている。
【0079】
層間絶縁層は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成されたSiO等で構成される。例えば、層間絶縁層は、X方向配線82を形成した電子源基板81の全面或は一部に所望の形状で形成され、特に、X方向配線82とY方向配線83の交差部の電位差に耐え得るように、膜厚、材料、製法が適宜設定される。X方向配線82とY方向配線83のそれぞれの端部は、外部端子として引き出されている。
【0080】
電子放出素子84の一対の電極(不図示)は、X方向配線82とY方向配線83とに電気的に接続されている。X方向配線82とY方向配線83を構成する材料及び一対の素子電極を構成する材料は、その構成元素の一部あるいは全部が同一であっても、またそれぞれ異なってもよい。
【0081】
X方向配線82には、X方向に配列した電子放出素子84の行を選択するための走査信号を印加する不図示の走査信号印加手段が接続される。一方、Y方向配線83には、Y方向に配列した電子放出素子84の各列からの電子放出量を、走査信号に同期して変調するための不図示の変調信号発生手段が接続される。各電子放出素子84に印加される駆動電圧は、当該素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として供給される。
【0082】
上記構成においては、個別の素子を選択し、独立に駆動可能とすることができる。
【0083】
このようなマトリクス配置の電子源を用いて構成した画像表示パネルについて、図11を用いて説明する。図11は、画像表示パネル(外囲器)の一例を示す模式図である。図11において、81は電子放出素子84を複数配した電子源基板(「リアプレート」と呼ぶ場合もある)、96はガラス基体93の内面に蛍光膜94とメタルバック95等が形成されたフェースプレートである。92は支持枠であり、該支持枠92には、リアプレート81とフェースプレート96がフリットガラスやインジウム等の接着材を用いて接続されている。接着材としてフリットガラスを用いた場合には、外囲器97は、例えば大気中、真空中あるいは、窒素中で、400〜500度の温度範囲で10分以上焼成することで、封着して構成される。また、フェースプレート96とリアプレート81の間に、スペーサーとよばれる不図示の支持部材を設置することにより、大気圧に対して十分な強度をもつ外囲器97を構成することもできる。
【0084】
また、図11を用いて説明した本発明の外囲器(画像表示パネル)97を用いて情報表示再生装置を構成することができる。
【0085】
具体的には、テレビジョン放送などの放送信号を受信する受信装置と、受信した信号を選局するチューナーと、選曲した信号に含まれる映像情報、文字情報および音声情報の少なくとも1つを、外囲器(表示パネル)97に出力して表示および/あるいは再生させる。この構成によりテレビジョンなどの情報表示再生装置を構成することができる。勿論、放送信号がエンコードされている場合には、本発明の情報表示再生装置はデコーダーも含むことができる。また、音声信号については、別途設けたスピーカーなどの音声再生手段に出力して、外囲器(表示パネル)97に表示される映像情報や文字情報と同期させて再生する。
【0086】
また、映像情報または文字情報を外囲器(表示パネル)97に出力して表示および/あるいは再生させる方法としては、例えば以下のように行うことができる。まず、受信した映像情報や文字情報から、外囲器(表示パネル)97の各画素に対応した画像信号を生成する。そして生成した画像信号を、外囲器(表示パネル)97の駆動回路に入力する。そして、駆動回路に入力された画像信号に基づいて、駆動回路から外囲器(表示パネル)97内の各電子放出素子に印加する電圧を制御して、画像を表示する。
【0087】
図12は、本発明に係るテレビジョン装置のブロック図である。受信回路70は、チューナーやデコーダー等からなり、衛星放送や地上波等のテレビ信号、ネットワークを介したデータ放送等を受信し、復号化した映像データをI/F部71に出力する。I/F部71は、映像データを画像表示装置72の表示フォーマットに変換して、画像表示装置72に画像データを出力する。画像表示装置72は、外囲器(表示パネル)97、制御回路73及び駆動回路74を含む。制御回路73は、入力された画像データに外囲器(表示パネル)97に適した補正処理等の画像処理を施すともに、駆動回路74に画像データ及び各種制御信号を出力する。駆動回路74は、入力された画像データに基づいて、外囲器(表示パネル)97の各配線(図10、図11のX方向配線Dx1〜Dxm、Y方向配線Dy1〜Dyn参照)に駆動信号を出力する。これにより、テレビ映像が表示される。受信回路70とI/F部71は、セットトップボックス(STB)として画像表示装置72とは別の筐体に収められていてもよいし、また画像表示装置72と同一の筐体に収められていてもよい。
【0088】
ここで述べた画像表示装置の構成は、本発明を適用可能な画像表示装置の一例であり、本発明の技術思想に基づいて種々の変形が可能である。また、本発明の画像表示装置は、テレビ会議システムやコンピュータ等の表示装置等としても用いることができる。
【0089】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0090】
図3Aに本実施例により作製した電子放出素子を素子上部から見た様子を示し、図3Bは図3AのA−A断面図を示す。
【0091】
図3A及び図3Bにおいて1は絶縁性の基板、2は制御電極(引き出し電極、ゲート電極ともいう)、3は陰極電極(カソード電極ともいう)、4は複数のカーボンファイバー、5は本発明の支持体材料からなる導電性の支持体を示している。
【0092】
以下に、図7を用いて本実施例の電子放出素子の製造工程を詳細に説明する。
【0093】
(工程1:図7A参照)
基板1には石英基板を用いる。基板1を十分洗浄した後、スパッタ法により厚さ5nm(不図示)のTi及び厚さ30nmのPtを連続的に基板1上に蒸着した。次に、フォトリソグラフィー工程で、ポジ型フォトレジストを用いてレジストパターンを形成した。次
に、パターニングした前記フォトレジストをマスクとして、ArガスによりPt層及びTi層のドライエッチングを行い、制御電極2および陰極電極3を形成した。電極ギャップの距離は、5μmに設定した。
【0094】
(工程2:図7B参照)
スパッタ装置を十分に排気した後、基板温度を25℃〜300℃にする。Ar中に窒素を混合させてガスの圧力を0.4〜10Pa程度に保つ。Alの原子比が30%以下のTiAlターゲットを用い、反応性スパッタ法(Ar+Nの混合ガスを使用)にてTiAl(1−x)Nを厚さ300nmの厚さに蒸着し、TiAl(1−x)N層50を形成した。
【0095】
(工程3:図7C参照)
次に、基板を十分に室温に冷却した後、工程2と同一の真空装置を用いてArガスを用いたスパッタ法にてPd−Coを島状になる程度の量だけ蒸着した。この段階で素子表面には粒子の直径が約3〜10nmの微粒子6が形成された。この時の粒子の密度は約1011〜1012個/cmと見積もられた。
【0096】
(工程4:図7D参照)
次に、フォトリソグラフィー工程で、ポジ型フォトレジストを用いてレジストパターンを形成した。パターニングした前記フォトレジストをマスクとして、CFと微量の酸素の混合ガスにより、島状Pd−Co層(触媒粒子6)およびTiAl(1−x)N層50のドライエッチングを行い、一方の電極(陰極電極3)の上にのみ支持体5とPd−Co触媒粒子6が形成されるようにした。
【0097】
(工程5:図7E参照)
続いて、大気圧で窒素希釈した0.1%エチレン気流中で500℃、10分間加熱処理をした。これを走査電子顕微鏡で観察すると、Pd−Co塗布領域に直径5nm〜25nm程度で、屈曲しながら繊維状に伸びた多数のカーボンファイバー4が形成されているのがわかった。このときカーボンファイバー4の層の厚さは約1000nmとなっていた。
【0098】
本素子を図8に示すような真空容器60に設置し、真空排気装置65によって2×10-5Paに到達するまで十分に排気した。そして、図8に示すように、素子からH=2m
m離して設置された陽極(アノード電極)61に、Va=10kVの陽極(アノード)電圧を印加した。このとき素子には駆動電圧Vf=20Vからなるパルス電圧を印加し、流れる素子電流Ifと電子放出電流Ieを計測した。
【0099】
素子のIf−Ie特性は図9に示すような特性であった。すなわち印加電圧(駆動電圧Vf)の約半分から電子放出電流Ieが急激に増加し、駆動電圧Vfが15Vでは約1μAの電子放出電流Ieが測定された。一方、素子電流Ifは電子放出電流Ieの特性に類似していたが、その値は電子放出電流Ieと比較して一桁以上小さな値であった。
【0100】
本実施例では、陰極電極3の上に支持体5を用いたことでカーボンファイバー4を所望の密度で成長させることが可能となった。また支持体5をカーボンファイバーの電気的接続層として用いたことにより、陰極電極3の上においても安定に電子放出させることが可能となった。
【0101】
本手法にて形成した支持体5(TiAl(1−x)N(x<1))を分析した結果、TiとAlの比率はターゲットとほぼ同じ7:3であった。
【0102】
また、カーボンファイバー4のラマン分光を行い、全く同じ触媒を用いてTiN導電層
を用いた場合との比較を行った結果、明らかにTiAl(1−x)N層を用いたファイバーの方がGバンドのピークが高く、かつ半値幅が鋭いピークが見られた。
【0103】
この現象を調べるために、導電層に触媒材料を積層後、適当な温度に保持した基板を作製し、Arスパッタ時の原子発光分析(GDS分析法)を用いて、触媒材料の導電層への拡散プロファイルを観測した。
【0104】
この結果、TiN層では明確にTiN層の内部にCoのピークが認められた。しかし、TiAl(1−x)N層ではピークが小さくなるか、界面への僅かな裾引きが見られるだけであり、明らかにCoの拡散量が減少したことが確認された。
【0105】
この素子のカーボンファイバー4を透過電顕で観察したところ、グラフェンが図14Dに示すように積層された構造であった。グラフェンの積層間隔(c軸方向)は温度が低い500℃程度では不鮮明であり、その間隔が0.37nmであった。
【実施例2】
【0106】
本発明の実施例2に係る電子放出素子の構成を図4A及び図4Bに示す。以下、実施例1の製造方法との相違点について説明する。
【0107】
本実施例では、工程1において、陰極電極3の厚さを500nm、制御電極2の厚さを30nmに形成した。また、工程2において、スパッタリング用ターゲットとしてZrAlを用いた。本手法にて形成した支持体5(ZrAl(1−x)N(x<1))を分析した結果、ZrとAlの比率はターゲットとほぼ同じ7:3であった。また、工程3では、金属PdにCoを約20atm%添加した触媒を用いた。
【0108】
本実施例の支持体5(ZrAl(1−x)N(x<1))でも、カーボンファイバー4の成長前後でシート抵抗に変化がないことから、安定にコンタクト層が形成されていることが確認された。また合金化した触媒により安定してカーボンファイバー4の成長が可能となった。
【実施例3】
【0109】
本発明の実施例3に係る電子放出素子の構成を図5A及び図5Bに示す。以下、実施例1の製造方法との相違点について説明する。
【0110】
本実施例では、工程4において、支持体5および金属触媒粒子6が電極ギャップと陰極電極3にまたがるように形成される。支持体5は、電極ギャップのほぼ中間位置(ギャップ間距離の約半分)まで形成される。また本実施例では、工程2において、ターゲットにNbC(ニオブカーバイド)からなるターゲットを用いた。本手法にて形成した支持体5(Nb(1−x)N(x<1))を分析した結果、NbとCの比率はターゲットとほぼ同じ1:1であった。また、工程3では、金属PdにFeを約10atm%添加した触媒を用いた。さらに、工程5では、カーボンファイバーの成長ガスとして窒素希釈した0.1%アセチレンを用いた。
【0111】
本実施例の支持体5(Nb(1−x)N)でも、カーボンファイバー4の成長前後でシート抵抗に変化がないことから、安定にコンタクト層が形成されていることが確認された。また合金化した触媒により安定してカーボンファイバー4の成長が可能となった。
【0112】
本実施例の素子では実施例1と比較してギャップ間距離が小さい分、電界が約2倍程度強い。このため駆動の電圧は8V程度まで低下させることが可能となった。また支持体5をカーボンファイバーの電気的接続層として用いたことによりギャップ内のカーボンファ
イバーから安定に電子放出させることが可能となった。
【実施例4】
【0113】
本発明の実施例4に係る電子放出素子の構成を図6A及び図6Bにしめす。本実施例では実施例1で述べた工程1、2、3が以下に示すように変更される。
【0114】
(工程1)
基板1には石英基板を用いる。基板1を十分洗浄した後、スパッタ法により厚さ5nmのCr及び厚さ30nmのPtを連続的に基板1上に蒸着した。
【0115】
(工程2)
スパッタ装置を十分に排気した後、基板温度を25℃〜300℃にする。Ar中に窒素を混合させてガスの圧力を0.4〜10Pa程度に保つ。Siの原子比が30%以下のTiSiターゲットを用い、反応性スパッタ法にてTiSi(1−x)Nを厚さ500nmの厚さに蒸着した。
【0116】
(工程3)
次に、基板を十分に室温に冷却した後、工程2と同一の真空装置を用いてArガスを用いたスパッタ法にてPdにNiを50atm%を含む合金を島状になる程度の量だけ蒸着した。
【0117】
次に、フォトリソグラフィー工程で、ポジ型フォトレジストを用いてレジストパターンを形成した。パターニングした前記フォトレジストをマスクとして、CFガスによりTiSi(1−x)N層をドライエッチングして支持体5を形成するとともに、続いて、ArガスによりPt層及びCr層をドライエッチングして陰極電極3を形成した。
【0118】
次に、陰極電極3をマスクとして用い、フッ酸とフッ化アンモニウムからなる混酸を用いて、約500nmの深さ、石英基板をエッチングした。
【0119】
続いて、制御電極2として再びスパッタ法により厚さ5nmのCr及び厚さ30nmのPtを連続的に蒸着した。陰極電極3のフォトレジストを剥離後、再びポジ型フォトレジストを用いて制御電極形状を形成するためのレジストパターンを形成した。パターニングした前記フォトレジストをマスクとして、ArガスによりPt層及びCr層をドライエッチングし、制御電極2を形成した。
【0120】
制御電極2と陰極電極3の間に形成された基板1の段差は、電極ギャップとして作用する。本実施例の方法によれば、より微細なギャップを作ることが可能となり、約6V程度から電子放出させることが出来るようになった。また電子放出材料の高さ(膜厚)が厚いことに起因して、膜の上部からだけでなく中間位置から電子が出ることで、制御電極2に電子が衝突し、効率の低下や、ビーム径の増大を防ぐことが出来た。
【実施例5】
【0121】
本発明の実施例5に係る電子放出膜を図15及び図16に示す。本実施例では、本発明の支持体を微粒子状に粉砕し、分散塗布する。図15及び図16において、1は基板(支持基体)、3は陰極電極、5は導電性をもつ粒子状の支持体(導電性粒子ともよぶ)、4はカーボンファイバー、6は触媒粒子を示す。本実施例における支持体5は、本発明に係る支持体材料を粉砕して粒子状にしたものである。
【0122】
以下、図16を用いて電子放出膜の製造工程を詳細に説明する。
【0123】
(工程1:図16A参照)
基板1としてステンレス系合金材料を用いる。基板1を十分洗浄した後、Agペーストを厚さ1μmの厚さに印刷、塗布し、約500℃に焼成し、有機成分を蒸発させ、陰極電極3を形成した。その後、TiAlNを約1μmに粉砕することで形成した粒子状の支持体5をアルコール系溶液に混合し、撹拌しながらスプレーノズルから空気と一緒に送り出す手法を用いて、支持体5を陰極電極3上に配置した。
【0124】
このとき、支持体5の粒子間の距離が、その平均粒径よりも大きくなるように、アルコール系溶液と粒子の量、スプレー時の送り出し空気量、塗布時のノズル−基体間距離を調整した。
【0125】
(工程2:図16B参照)
支持体5が、Agとよくなじむように窒素雰囲気で約300℃の加熱を行なった。次に、Pd−Co(50atm%)からなる触媒粒子6を含むアルコール系溶液をインクジェットによる手法を用いて支持体5上および陰極電極3上に塗布した。尚、本発明において、触媒粒子6の配置方法は、インクジェット法に限るものではない。溶液中の触媒粒子6は互いに凝集しないように処理されており、触媒粒子6の平均的な直径は10nm〜30nmからなる。
【0126】
(工程3:図16C参照)
続いて、大気圧で水素2%と0.01%アセチレンを窒素で希釈した気流中で500℃、10分間加熱処理をすることで、粒子状の支持体5の上に複数のカーボンファイバー4を形成した。
【0127】
これを走査電子顕微鏡で観察すると、支持体5上に直径5nm〜25nm程度で、屈曲しながら繊維状に伸びた多数のカーボンファイバー4が形成されているのがわかった。このときカーボンファイバー4の膜の厚さは約1000nmとなっていた。さらに、このカーボンファイバー4はAgからなる陰極電極3の上には見出されず、支持体5上にのみ形成されていた。
【0128】
本実施例では、支持体5の形成工程とは異なる工程で触媒粒子6を形成したが、支持体5の溶液中に触媒粒子6を混合して陰極電極3上に配置することで、上記触媒の形成工程(工程2)を省略し、一回の工程で支持体5と触媒粒子6の形成を同時に行うことも可能である。
【実施例6】
【0129】
本発明の実施例6では、図10、図11、図12を参照して、上記実施例1で述べた電子放出素子を用いたテレビジョンの構成を説明する。
【0130】
図10において、81は電子源基板(リアプレート)、82はX方向配線、83はY方向配線である。84は実施例1の電子放出素子である。
【0131】
m本のX方向配線82はDx1,Dx2,..Dxmからなり、真空蒸着法にて形成された厚さ約1μm、幅300μmのアルミニウム系配線材料で構成されている。n本のY方向配線83はDy1,Dy2,..Dynからなり、真空蒸着法にて形成された厚さ0.5μm、幅100μmのアルミニウム系配線材料で構成されている。これらm本のX方向配線82とn本のY方向配線83との間には、両配線を電気的に分離するための層間絶縁層(不図示)が設けられている。
【0132】
層間絶縁層は、スパッタ法を用いて厚さ約0.8μmのSiOで構成される。層間絶
縁層は、X方向配線82を形成した電子源基板81の全面或は一部に所望の形状で形成される。本実施例では、X方向配線82とY方向配線83の交差部の電位差に耐え得るように、1素子当たりの素子容量が1pF以下、素子耐圧30Vになるように層間絶縁層の厚さが決められた。X方向配線82とY方向配線83のそれぞれの端部は、外部端子として引き出されている。
【0133】
電子放出素子84の一対の電極(不図示)は、X方向配線82とY方向配線83とに電気的に接続されている。
【0134】
X方向配線82には、X方向に配列した電子放出素子84の行を選択するための走査信号を印加する不図示の走査信号印加手段が接続される。一方、Y方向配線83には、Y方向に配列した電子放出素子84の各列からの電子放出量を、走査信号に同期して変調するための不図示の変調信号発生手段が接続される。各電子放出素子84に印加される駆動電圧は、当該素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として供給される。本実施例では、Y方向配線83が高電位、X方向配線82が低電位になるように、走査信号及び変調信号が生成される。
【0135】
図11は、上述したマトリクス配置の電子源を用いて構成した画像表示パネル(外囲器)を示している。図11において、81は電子放出素子84を複数配した電子源基板(リアプレート)、96はガラス基体93の内面に蛍光膜94とメタルバック95等が形成されたフェースプレートである。本実施例では、電子源基板81の材料としてソーダライムガラスを用いた。92は支持枠であり、該支持枠92には、リアプレート81とフェースプレート96がインジウムを用いて接続されている。
【0136】
外囲器(画像表示パネル)97は、上述の如く、フェースプレート96、支持枠92、リアプレート81で構成される。フェースプレート96とリアプレート81の間に、スペーサーとよばれる不図示の支持部材を設置することにより、大気圧に対して十分な強度をもたせた。
【0137】
メタルバック95(アノード電極に相当する)は、蛍光膜作製後、蛍光膜94の内面側表面の平滑化処理(通常、「フィルミング」と呼ばれる。)を行い、その後Alを真空蒸着等にて堆積させることで作られた。フェースプレート96には、更に蛍光膜94の導電性を高めるため、蛍光膜94の外面側に透明電極(不図示)を設けた。
【0138】
本実施例では、カーボンファイバーからの電子放出は、制御電極(ゲート電極)側に向けて行われるので、アノード電圧を10kV、アノードとリアプレートとの間の距離を2mmに設定し、蛍光体をカーボンファイバーの直上から、ゲート側に200μmオフセットして配置した。
【0139】
このように形成した本実施例の外囲器(画像表示パネル)97に、図12に示す様にTVチューナーを有する受信回路70と、インターフェース部71と、γ補正を行う制御回路73と、各電子放出素子84に接続されるX方向配線およびY方向配線のそれぞれに印加する電圧を出力する駆動回路74を接続した。そして、TV信号を受信し、本実施例で作成した画像表示パネルに表示させたところ、鮮明で輝度の高い画像を長期に渡って安定に表示することができた。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】図1A及び図1Bは本発明の構成を簡略化して示した模式図である。
【図2】図2A及び図2Bは図1A及び図1Bに示したカーボンファイバーの製造工程を示す図である。
【図3】図3Aは本発明の実施例1に係る電子放出素子の上視図であり、図3Bは図3AのA−A断面図である。
【図4】図4Aは本発明の実施例2に係る電子放出素子の上視図であり、図4Bは図4AのA−A断面図である。
【図5】図5Aは本発明の実施例3に係る電子放出素子の上視図であり、図5Bは図5AのA−A断面図である。
【図6】図6Aは本発明の実施例4に係る電子放出素子の上視図であり、図6Bは図6AのA−A断面図である。
【図7】図7A〜図7Eは実施例1に係る電子放出素子の製造工程を示す図である。
【図8】図8は電子放出素子を動作させるための電子放出装置の構成例を示す図である。
【図9】図9は電子放出素子の動作特性の一例を示す図である。
【図10】図10は複数の電子放出素子から構成される電子源の構成例を示す図である。
【図11】図11は電子源を用いた外囲器(表示パネル)の構成例を示す図である。
【図12】図12は外囲器(表示パネル)を用いたテレビジョン装置の構成例を示す図である。
【図13】図13A〜図13Cはカーボンナノチューブの構造を示す図である。
【図14】図14A〜図14Dはグラファイトナノファイバーの構造を示す図である。
【図15】図15は本発明の実施例5に係る電子放出膜の断面図である。
【図16】図16A〜図16Cは実施例5に係る電子放出膜の製造工程を示す図である。
【図17】図17は縦型の電子放出素子の一構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0141】
1 基板
2 制御電極
3 陰極電極
4 カーボンファイバー
5 支持体
6 触媒粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、該支持体上に配置されたカーボンファイバーとを備える構造体であって、
前記支持体は、
IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種と、
C、Al、Si、Cr、Zrからなる群から選択された少なくとも1種と、
窒素と、
を含むことを特徴とする構造体。
【請求項2】
支持体と、該支持体上に配置されたカーボンファイバーとを備える構造体であって、
前記支持体は、
IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種と、
AlまたはSiと、
窒素と、
を含むことを特徴とする構造体。
【請求項3】
前記IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種が、Tiであることを特徴とする請求項1または2に記載の構造体。
【請求項4】
前記支持体中にAlまたはSiが含まれ、Tiに対する、AlまたはSiの割合が、10atm%以上30atm%以下であることを特徴とする請求項3に記載の構造体。
【請求項5】
カソード電極と、該カソード電極上に配置された支持体と、該支持体上に配置されたカーボンファイバーとを備える電子放出素子であって、
前記支持体は、
IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種と、
AlまたはSiと、
窒素と、
を含むことを特徴とする電子放出素子。
【請求項6】
カソード電極と、該カソード電極上に配置された支持体と、該支持体上に配置されたカーボンファイバーと、陽極とを備える2次電池であって、
前記支持体は、
IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種と、
AlまたはSiと、
窒素と、
を含むことを特徴とする2次電池。
【請求項7】
複数の電子放出素子を備える電子源であって、
前記複数の電子放出素子の各々が請求項5に記載の電子放出素子であることを特徴とする電子源。
【請求項8】
電子源と、該電子源から放出される電子の照射により発光する発光体とを備える画像表示装置であって、
前記電子源が請求項7に記載の電子源であることを特徴とする画像表示装置。
【請求項9】
受信した信号に含まれる映像情報、文字情報及び音声情報の少なくとも1つを出力する受信器と、前記受信器に接続された画像表示装置とを少なくとも備える情報表示再生装置であって、
前記画像表示装置が、請求項8に記載の画像表示装置であることを特徴とする情報表示
再生装置。
【請求項10】
触媒を備える支持体上に、前記触媒を用いて気相成長法によりカーボンファイバーを成長させる工程を備えるカーボンファイバーの製造方法であって、
前記支持体は、
IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種と、
C、Al、Si、Cr、Zrからなる群から選択された少なくとも1種と、
窒素と、
を含むことを特徴とするカーボンファイバーの製造方法。
【請求項11】
触媒を備える支持体上に、前記触媒を用いて気相成長法によりカーボンファイバーを成長させる工程を備えるカーボンファイバーの製造方法であって、
前記支持体は、
IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種と、
AlまたはSiと、
窒素と、
を含むことを特徴とするカーボンファイバーの製造方法。
【請求項12】
前記IVa族元素とVa族元素とからなる群から選択された少なくとも1種は、Tiであることを特徴とする請求項10または11に記載のカーボンファイバーの製造方法。
【請求項13】
前記支持体はAlまたはSiを含み、Tiに対する、AlまたはSiの割合が10atm%以上30atm%以下であることを特徴とする請求項12に記載のカーボンファイバーの製造方法。
【請求項14】
前記触媒は、Pd、Ni、FeまたはCoから選択された少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項10乃至13のいずれかに記載のカーボンファイバーの製造方法。
【請求項15】
前記触媒は、CoとPdとを含むことを特徴とする請求項10乃至13のいずれかに記載のカーボンファイバーの製造方法。
【請求項16】
第1電極と、該第1電極上に配置された支持体と、該支持体上に配置されたカーボンファイバーとを備える電子放出素子の製造方法であって、
前記カーボンファイバーが請求項10乃至15のいずれか1項に記載の製造方法により製造されることを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項17】
複数の電子放出素子を備える電子源の製造方法であって、
前記複数の電子放出素子の各々が請求項16に記載の製造方法により製造されることを特徴とする電子源の製造方法。
【請求項18】
電子源と、該電子源から放出される電子の照射により発光する発光体とを備える画像表示装置の製造方法であって、
前記電子源が請求項17に記載の製造方法により製造されることを特徴とする画像表示装置の製造方法。
【請求項19】
受信した信号に含まれる映像情報、文字情報及び音声情報の少なくとも1つを出力する受信器と、前記受信器に接続された画像表示装置とを接続する工程を備える情報表示再生装置の製造方法であって、
前記画像表示装置が請求項18に記載の製造方法により製造されることを特徴とする情報表示再生装置の製造方法。
【請求項20】
カソード電極と、該カソード電極上に配置された支持体と、該支持体上に配置されたカーボンファイバーと、陽極とを備える2次電池の製造方法であって、
前記カーボンファイバーが請求項10乃至15のいずれか1項に記載の製造方法により製造されることを特徴とする2次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−114307(P2006−114307A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299769(P2004−299769)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】