説明

樹脂基材及びその製造方法

【課題】 平面方向の線膨張係数を低減でき、且つ、方向による線膨張係数差を低減できる樹脂基材及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 熱可塑性樹脂1に少なくとも1種類の無機フィラー2を混入してなり、厚さ方向と直交する平面をもった平板状の樹脂基材10において、所定の方向性を有する形状の無機フィラー2を、平面に沿う方向において、異なる複数の方向に配列させた。
このように本発明によると、所定の方向性をもった無機フィラー2が、平面に沿う方向において、異なる複数の方向に配列しているので、平面に沿う方向の線膨張係数を低減でき、且つ、方向による線膨張係数差(例えば平面を構成するx,y軸方向の線膨張係数差)を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂に少なくとも1種類の無機フィラーを混入してなる樹脂基材及びその製造方法に関し、特にフレキシブルプリント基板や多層基板等の配線基板を構成する基材として適用される樹脂基材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂材料からなる矩形状の樹脂基材と金属材料からなる配線部材とを積層配置してなるフレキシブルプリント基板や多層基板において、樹脂基材と配線部材との平面方向における線膨張係数(室温〜金属箔積層温度,リフロー温度,又は電子部品実装温度)差による基板の反りを低減するために、樹脂材料に例えばガラス繊維を含有させた(樹脂をガラスクロスに含浸させた)樹脂基材が適用されている。しかしながら、ガラス繊維の場合、ビアホール形成時の加工性、フレキ性の低下や、ガラスクロスに沿って発生するマイグレーションを防止するために高密度化し難い等の問題がある。
【0003】
そこで、上記問題を解決するものとして、樹脂材料に無機フィラーを混入し、平面方向における樹脂基材の線膨張係数を調整した樹脂基材が、例えば特許文献1,2に開示されている。例えば結晶性熱可塑性樹脂であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)と非晶性熱可塑性樹脂であるポリエーテルイミド(PEI)との混合物に球状の無機フィラー(例えばマイカ)を混合し、Tダイを備えた押出機を用いて所定の設定温度で所定厚さのフィルム状に押出成形して得られるものである。尚、得られた樹脂基材に対し、例えば片面に銅箔を重ねてPEEKのガラス転移点以上の温度で熱プレスすることにより、銅張り樹脂基材を得ることができる。
【特許文献1】特開2001−323078号公報
【特許文献2】特開2002−151848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、球状の無機フィラーの場合、形状が所定の方向性を有していないので、平面方向の線膨張係数を低減する効果が小さいという問題がある。
【0005】
また、板状(例えば平面が長方形)のように形状が所定の方向性を有している無機フィラーの場合、無機フィラーは樹脂材料の流動方向(例えば押出機のTダイからの押出方向)に沿った1軸方向のみの配向となる。従って、得られた樹脂基材は、無機フィラーの配向方向の線膨張係数が小さくなるが、無機フィラーの配向方向と配向方向に直交する方向とに線膨張係数差が生じるため、例えば銅箔を積層配置した際に反りが生じる。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑み、平面方向の線膨張係数を低減でき、且つ、方向による線膨張係数差を低減できる樹脂基材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する為に請求項1〜8に記載の発明は、熱可塑性樹脂に少なくとも1種類の無機フィラーを混入してなり、厚さ方向と直交する平面をもった平板状の樹脂基材に関するものである。
【0008】
先ず請求項1に記載のように、無機フィラーは、その形状が所定の方向性を有しており、平面に沿う方向において、異なる複数の方向に配列していることを特徴とする。
【0009】
このように本発明によると、所定の方向性をもった無機フィラーが、平面に沿う方向において、異なる複数の方向に配列している。すなわち、平面に沿う方向において、無機フィラーの配向が1方向に規定されておらずランダムであるので、平面に沿う方向(平面方向)の線膨張係数を低減でき、且つ、方向による線膨張係数差を低減(例えば平面を構成するx,y軸方向の線膨張係数差を低減)できる。
【0010】
例えば、厚さ方向の線膨張係数が小さくなるように熱可塑性樹脂を構成し、平面に沿う方向に無機フィラーを異なる複数の方向に配向させることで、樹脂基材の3軸方向(x,y,z軸方向)の線膨張係数を低減し、且つ、3軸方向の線膨張係数差を低減することができる。
【0011】
尚、鱗片状や平面形状がくの字や十字の平板状のように、無機フィラーの形状によっては配向を考慮しなくとも、樹脂基材の平面に沿う方向の線膨張係数を低減でき、且つ、方向による線膨張係数差を低減することができる。しかしながら、このような無機フィラーは形状が複雑なため、高価であり、所定方向の線膨張係数を所定値に調整しにくい。
【0012】
それに対し、所定の方向性をもった無機フィラーとして、請求項2に記載のように、針状の無機フィラーを適用すると良い。この場合、単純な直線形状であるので安価である。また、配列する一方向の線膨張係数を効果的に低減することができるので、線膨張係数を所定値に調整しやすい。尚、所定の方向性をもった無機フィラーの形状は針状に限定されるものではない。例えば、方向性を有する板状(例えば平面形状が長方形)の無機フィラーでも良い。
【0013】
請求項3に記載のように、1方向に配列する無機フィラーと、この無機フィラーと異なる方向に配列する無機フィラーとがなす角度のうち、その最大角が45度以上90度以下の範囲にあることが好ましい。45度未満であると、平面に沿う方向において、方向による線膨張係数差を低減することができるもののその効果が小さい。それに対し、45度以上であると、平面に沿う方向において、方向による線膨張係数差低減により効果的である。例えば、請求項4に記載のように、無機フィラーが、少なくとも直交する2方向に配列した構成としても良い。
【0014】
請求項5に記載のように、平面に沿う方向において、直交する2軸(例えばx,y軸)方向の線膨張係数が略同一であることが好ましい。
【0015】
請求項6に記載のように、配線基板を構成する基材の少なくとも一部として適用される場合、2軸方向の線膨張係数が、配線基板を構成する配線部材の線膨張係数と略同一に調整された構成とすると良い。このような構成とすると、平面に沿う方向において、樹脂基材と配線部材との線膨張係数差に基づく配線基板の反りを抑制することができる。
【0016】
また、請求項7に記載のように、2軸方向の線膨張係数が、配線基板に実装される電子部品のパッケージ構成材料の線膨張係数と、配線基板を構成する配線部材の線膨張係数との間に調整された構成としても良い。このような構成とすると、樹脂基材と配線部材との線膨張係数差だけでなく、樹脂基材と電子部品のパッケージ構成材料との線膨張係数差に基づく配線基板の反りを抑制することができる。請求項6,7に示す配線基板は、1層の樹脂基材のみから構成されても良いし、複数の樹脂基材を積層して構成されても良い。また、樹脂基材と他材料からなる基材とを積層して構成されても良い。
【0017】
尚、請求項8に記載のように、平面上に、配線部材として金属箔が重ねられて一体化(重ねて加熱プレスによる一体化)された構成に特に効果的である。一体化する際の、加熱プレス後の樹脂基材と配線部材との線膨張係数差に基づく配線基板(金属張り樹脂基材)の反り抑制に特に効果的である。
【0018】
請求項9及び請求項10に記載の発明は、請求項1〜8いずれかに記載の樹脂基材を製造するための製造方法に関するものである。
【0019】
先ず、請求項9に記載のように、無機フィラーとして、所定の方向性を有する形状のものを適用し、無機フィラー混入後の熱可塑性樹脂を、平面に沿う方向において、複数の異なる方向に延伸する延伸工程を備えることを特徴とする。
【0020】
このように、本発明によると、所定の方向性を有する無機フィラーを混入した熱可塑性樹脂を、延伸工程において複数の異なる方向に延伸する。従って、平面に沿う方向において、無機フィラーを異なる複数の方向に配列させることができる。すなわち、平面に沿う方向(平面方向)の線膨張係数が低減され、且つ、方向による線膨張係数差が低減された樹脂基材を形成することができる。
【0021】
例えば請求項10に記載のように、延伸工程において、直交する2方向に延伸することで、無機フィラーを異なる複数の方向に配列させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本実施の形態における樹脂基材の概略構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。図2は、本実施の形態に対する比較例としての樹脂基材の概略構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B断面図である。図1(b),図2(b)においては、便宜上、無機フィラーを省略して図示している。尚、本実施形態に示す樹脂基材は、例えばフレキシブル基板や多層基板といった配線基板を構成する基材として適用することができる。
【0023】
樹脂基材10は、熱可塑性樹脂1に方向性を有する形状の無機フィラー2を混入してなるものであり、図1(a),(b)に示すように、厚さ方向と直交する平面を持った平板状(フィルム状)に形成されている。また、本実施形態においては、樹脂基材10の一方の平面(表面)上に、配線基板における回路を構成するための金属箔20が重ねられて加熱プレスにより一体化されている。金属箔20の構成材料は、特に限定されるものではない。本実施形態においては金属箔20として銅箔を適用しており、金属箔20の貼着された樹脂基材10が所謂片面銅張り基板として構成されている。
【0024】
熱可塑性樹脂1としては、特に限定されるものではない。用途に応じた耐熱性等を有していれば良い。ガラス転移点(Tg)以上の温度でゴム状弾性を示す温度領域を有する結晶性樹脂でも良いし、非晶性樹脂でも良い。また両者を所定の比率で混合した混合物でも良い。結晶性樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルファイド(PPS)、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂(SPS)、液晶ポリマー(LCP)等がある。また、非晶性樹脂としては、例えばポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)等がある。
【0025】
無機フィラー2は無機系の粉末であり、混入することで熱可塑性樹脂1に配向を起こさせることなく、熱可塑性樹脂1の線膨張係数を低下させることができるものであれば、適用が可能である。また、熱可塑性樹脂1の所定方向の線膨張係数を低下させるために、形状が所定の方向性を有している。成分としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、珪酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、シリカ等がある。また、形状としては、多軸方向の長さに対する1軸方向の長さのアスペクト比が大きいものが好ましく、このような形状としては、例えば、針状(繊維状含む)がある。
【0026】
尚、鱗片状や平面形状がくの字や十字の平板状のように、無機フィラー2の形状によっては配向を考慮しなくとも、樹脂基材10の平面に沿う方向の線膨張係数を低減でき、且つ、方向による線膨張係数差を低減することができる。しかしながら、このような無機フィラー2は形状が複雑なため、高価であり、所定方向の線膨張係数を所定値に調整しにくい。それに対し、針状の無機フィラー2の場合、単純な直線形状であるので安価である。また、配列する一方向の線膨張係数を効果的に低減することができるので、線膨張係数を所定値に調整しやすい。尚、所定の方向性をもった無機フィラーの形状は針状に限定されるものではない。例えば、方向性を有する板状(例えば平面形状が長方形)の無機フィラー2でも良い。
【0027】
本実施形態における樹脂基材10は、PEEK50重量%とPEI50重量%を混合してなる熱可塑性樹脂1に、無機フィラー2として針状の珪酸マグネシウム(タルク)を混入し、厚さ75μmの平板状(フィルム状)に形成されている。このようなフィルム状の樹脂基材10は、一般的にTダイを用いた押出法やカレンダー法等によって形成することができる。なかでも、Tダイを用いた押出法が、所定厚さの樹脂基材10を成形しやすく、安定生産できる点から良く利用されている。
【0028】
しかしながら、針状の無機フィラー2を含み、加熱により流動状態とした熱可塑性樹脂1を、例えば押出機のTダイから冷却ロールに押し出し、巻取機で巻き取られるまでの過程において、無機フィラー2を含む流動状態の熱可塑性樹脂1は1軸方向のみに延伸される。従って、従来の樹脂基材10において、無機フィラー2は、図2(a)に示すように熱可塑性樹脂1の流動方向に沿った1軸方向のみの配向となっていた。
【0029】
このように無機フィラー2が配向された樹脂基材10において、無機フィラー2の配向方向(例えばy軸方向とする)の線膨張係数αyが無機フィラー2の効果により小さくなり、無機フィラー2の配向方向に直交する方向(x軸方向)の線膨張係数αxは、ほとんど変化しない。従って、無機フィラー2の配向方向(例えばy軸方向)の線膨張係数αyを金属箔20と略同一としても、樹脂基材10に金属箔20を加熱プレスにより一体化する際、加熱プレスにより一体化する際の熱融着温度(例えば熱可塑性樹脂1のガラス転移点以上の温度)から室温までの冷却過程で、金属箔20と接する平面に沿う方向において、方向(x,y軸方向)による線膨張係数差が生じ、図2(b)に示すように、金属箔20を一体化した樹脂基材10に特にx軸方向の反りや寸法収縮が生じるという問題があった。
【0030】
それに対し、本実施形態の樹脂基材10においては、図1(a)に示すように、無機フィラー2が、金属箔3と接する平面に沿う方向において、異なる複数の方向に配列(すなわちランダムに配向)している。従って、平面に沿う方向(平面方向)の線膨張係数を低減でき、且つ、方向による線膨張係数差を低減(例えば平面を構成するx,y軸方向の線膨張係数差を低減)することができる。
【0031】
尚、異なる複数の無機フィラー2の配列は、図3に示すように、1方向に配列する無機フィラー2aと、この無機フィラー2aと異なる方向に配列する無機フィラー2bとがなす角度θのうち、その最大角θmaxが45度以上90度以下の範囲の角度となるように、無機フィラー2が配列されていることが好ましい。45度未満であると、平面に沿う方向において、方向(x,y軸方向)による線膨張係数差を低減することができるもののその効果が小さい。それに対し、45度以上であると、平面に沿う方向において、方向(x,y軸方向)による線膨張係数差低減により効果的である。図3は、無機フィラー2の配列を説明するための模式図である。
【0032】
本実施形態においては、最大角θmaxが45度以上90度以下の範囲の角度となるように無機フィラー2が配列されており、かつ、平面に沿う方向において、むらなく複数の方向に配向している。そして、これにより、平面を構成する樹脂基材10の2軸(x,y軸)方向の線膨張係数αx,αyが、ともに金属箔20の線膨張係数(17ppm/K)と略同一の値となっている。従って、加熱プレスにより樹脂基材10に金属箔20を一体化する構成であっても、熱融着温度から室温までの冷却過程で、金属箔20を一体化した樹脂基材10に生じる反りや寸法収縮を抑制することができる。
【0033】
上記構成の樹脂基材10は、例えば図4に示す製造工程を経て形成することができる。図4は、樹脂基材10の製造工程を示す概略図である。
【0034】
先ず、樹脂基材10の構成材料である熱可塑性樹脂1と無機フィラー2を所定の比率で混合し、加熱することにより流動状態とした熱可塑性樹脂1を、無機フィラー2を含んだ状態で押出機30のTダイから冷却ロール40に押し出して所定温度まで冷却する。そして、冷却後、延伸部50にて、無機フィラー2を含む熱可塑性樹脂1を上記した平面に沿う方向において、異なる複数の方向に延伸する。この延伸部50が特許請求の範囲に示した延伸工程に相当する。
【0035】
本実施形態における延伸部50は、2軸延伸可能に構成されている。具体的には、前段であるx軸方向延伸部51と後段であるy軸方向延伸部52とにより構成される。尚、無機フィラー2を含む熱可塑性樹脂1の流れ方向において、x軸方向延伸部51とy軸方向延伸部52が逆に配置された構成でも良い。これにより、シート状に延伸された熱可塑性樹脂1に対し、無機フィラー2が異なる複数の方向に配列された構成となる。尚、x軸方向延伸部51とy軸方向延伸部52との間で、図示されない余熱部にて余熱される構成となっている。
【0036】
そして、延伸部50を経て冷却された無機フィラー2を含む熱可塑性樹脂1は、巻取機60にて巻き取られ、用途に応じて適宜所定寸法に裁断される。本実施形態において図1(a),(b)に示した樹脂基材10は、この裁断された状態のものに、金属箔20を一体化してなるものである。
【0037】
以上本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態のみに限定されず、種々変更して実施することができる。
【0038】
本実施形態において、延伸部50が、前段であるx軸方向延伸部51と後段であるy軸方向延伸部52とにより構成される例を示した。しかしながら、延伸部50の構成は上記例に限定されるものではない。無機フィラー2を含む熱可塑性樹脂1を、平面に沿う方向において、異なる複数の方向に延伸するものであれば良い。例えば、図5に示すように、x,y軸方向に同時に延伸する構成としても良い。図5は、延伸部50の変形例を示す図であり、斬層ピッチスクリュ式の2軸同時延伸機である。それ以外にも、例えばパンダグラフ式の2軸同時延伸機を適用しても良い。
【0039】
また、冷却ロール40を経て、延伸部50にて延伸する構成例を示したが、冷却ロール40はなくとも良い。
【0040】
また、本実施形態においては、樹脂基材10の片面に金属箔20が一体化された構成例を用いて、無機フィラー2の配向による効果を説明した。しかしながら、無機フィラー2の配向による効果は、上記構成に限定されるものではない。例えば、図6に示すように、樹脂基材10を含む基材と配線部材とを積層して多層基板100を構成する場合、平面を構成する樹脂基材10の2軸(x,y軸)方向の線膨張係数αx,αyが、ともに金属箔20の線膨張係数と略同一の値となるように、樹脂基材10を形成する段階で無機フィラー2を配列すると良い。図6に示す多層基板100は、片面に金属箔20(エッチングによりパターン化された)が一体化された樹脂基材10を3枚積層し、加熱プレスにより相互に接着(熱可塑性樹脂1を軟化させて溶着)しなてるものである。このような構成であっても、熱プレス温度から室温までの冷却過程で樹脂基材10に生じる反りや寸法収縮を抑制することができる。図6は、変形例を示す概略断面図であり、符号21は、金属箔20を底面として形成された有底ビアホールであり、符号22は、ビアホール21内に充填された導電性ペーストを焼結してなる接続部材22である。
【0041】
尚、図6に示す多層基板100においては、厚さ方向(z軸方向)の線膨張係数αzが小さくなるように樹脂部材10の熱可塑性樹脂1を構成し、平面に沿う方向(x,y軸方向)に無機フィラー2を異なる複数の方向に配向させることで、樹脂基材10の3軸方向(x,y,z軸方向)の線膨張係数αx,αy,αzを金属箔20を低減し、且つ、3軸方向の線膨張係数差を低減している。このように、樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂1の配向と無機フィラー2の配向とによって、3軸方向(x,y,z軸方向)の線膨張係数αx,αy,αzを低減した樹脂基材10を構成することも可能である。
【0042】
尚、図6においては、多層基板100が片面に金属箔20を備える樹脂基材10のみから構成される例を示した。しかしながら、金属箔20を有さない樹脂基材10を含む構成でも良い。また、配線部材が、スクリーン印刷、蒸着等によって樹脂基材10の表面に形成される構成でも良い。さらには、樹脂基材10以外の基材を含む構成でも良い。
【0043】
また、多層基板100の表面に電子部品200が実装される構成においては、平面を構成する樹脂基材10の2軸(x,y軸)方向の線膨張係数αx,αyが、金属箔20の線膨張係数(上述した17ppm/K)と、電子部品200のパッケージ201の構成材料の線膨張係数(例えば3ppm/K)との間の値(例えば10ppm/K)となるように、樹脂基材10を形成する段階で無機フィラー2を配列すると良い。この場合、電子部品200を多層基板100に実装した後の、実装温度から室温までの冷却過程で樹脂基材10に生じる反りや寸法収縮を抑制することができる。図7は、変形例を示す概略断面図であり、符号202は外部電極としてのバンプである。
【0044】
また、本実施形態においては、樹脂基材10の平面沿う方向において、無機フィラー2がむらなく複数の方向に配向している例を示した。しかしながら、無機フィラー2が、少なくとも異なる2方向に配列した構成でも良い。好ましくは異なる2方向がなす角θが45度以上90度以下の範囲にあると良い。この場合、無機フィラー2の配向が2方向であっても、樹脂基材の2軸方向(x,y軸方向)の線膨張係数を低減し、且つ、2軸方向の線膨張係数差を低減することができる。さらには、異なる2方向が直交する関係にあるとより好ましい。
【0045】
また、本実施形態においては、樹脂基材10を配線基板を構成する基材として適用される例を示した。しかしながら、樹脂基材10の用途は上記例に限定されるものではない。例えば、樹脂基材10の少なくとも一方の平面が、樹脂基材10を構成する熱可塑性樹脂1よりも線膨張係数の低い材料からなる部材と接する構成であれば適用が可能である。
【0046】
また、本実施形態においては、熱可塑性樹脂1に1種類の無機フィラー2のみを混入する例を示した。しかしながら、複数種類の無機フィラー2を混入した構成としても良い。この場合、複数種類の無機フィラー2のうち、少なくとも1つの無機フィラー2が、樹脂基材10の平面に沿う方向において異なる複数の方向に配列していれば良いが、全種類の無機フィラー2が異なる複数の方向に配列した構成がより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施形態における樹脂基材の概略構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図2】本実施の形態に対する比較例としての樹脂基材の概略構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【図3】無機フィラーの配列を説明するための模式図である。
【図4】樹脂基材の製造工程を示す概略図である。
【図5】延伸部の変形例を示す図である。
【図6】変形例を示す概略断面図である。
【図7】変形例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1・・・熱可塑性樹脂
2・・・無機フィラー
2a・・・第1の無機フィラー
2b・・・第2の無機フィラー
10・・・樹脂基材
20・・・金属箔
30・・・押出機
50・・・延伸部
51・・・x軸方向延伸部
52・・・y軸方向延伸部
100・・・多層基板
200・・・電子部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂に少なくとも1種類の無機フィラーを混入してなり、厚さ方向と直交する平面をもった平板状の樹脂基材であって、
前記無機フィラーは、その形状が所定の方向性を有しており、前記平面に沿う方向において、異なる複数の方向に配列していることを特徴とする樹脂基材。
【請求項2】
前記無機フィラーは、針状であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂基材。
【請求項3】
1方向に配列する無機フィラーと、この無機フィラーと異なる方向に配列する無機フィラーとがなす角度のうち、その最大角が45度以上90度以下の範囲にあることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂基材。
【請求項4】
前記無機フィラーは、少なくとも直交する2方向に配列していることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の樹脂基材。
【請求項5】
前記平面に沿う方向において、直交する2軸方向の線膨張係数が略同一であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の樹脂基材。
【請求項6】
配線基板を構成する基材の少なくとも一部として適用され、
前記2軸方向の線膨張係数が、前記配線基板を構成する配線部材の線膨張係数と略同一であることを特徴とする請求項5に記載の樹脂基材。
【請求項7】
配線基板を構成する基材の少なくとも一部として適用され、
前記2軸方向の線膨張係数が、前記配線基板に実装される電子部品のパッケージ構成材料の線膨張係数と、前記配線基板を構成する配線部材の線膨張係数との間にあることを特徴とする請求項5に記載の樹脂基材。
【請求項8】
前記平面上に、前記配線部材として、金属箔が重ねられて一体化されていることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の樹脂基材。
【請求項9】
熱可塑性樹脂に無機フィラーを混入してなり、厚さ方向と直交する平面をもった平板状の樹脂基材を製造する方法であって、
前記無機フィラーとして、所定の方向性を有する形状のものを適用し、
前記無機フィラー混入後の前記熱可塑性樹脂を、前記平面に沿う方向において、複数の異なる方向に延伸する延伸工程を備えることを特徴とする樹脂基材の製造方法。
【請求項10】
前記延伸工程において、直交する2方向に延伸することを特徴とする請求項11に記載の樹脂基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−321853(P2006−321853A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144472(P2005−144472)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】