説明

機械部品及び転がり軸受

【課題】生分解性樹脂組成物からなる機械部品において、一定レベルの生分解性を保持しつつ、機械的強度及び耐湿性を向上する。
【解決手段】エチレン含有量が25〜40モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体をベース樹脂とし、強化繊維材を樹脂組成物全量の15〜40質量%の割合で含有する樹脂組成物からなる機械部品、並びに少なくとも保持器が前記樹脂組成物からなる転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂組成物を成形してなる機械部品、並びに少なくとも保持器が前記生分解性樹脂組成物からなる転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性樹脂は、土壌中等に放置されるとバクテリア等により二酸化炭素及び水等に徐々に分解する。この生分解性樹脂からなる機械部品は、自然環境に放出されても原形を留めなくなるまで自然に分解するため、自然環境に対して悪影響を及ぼし難い。また、植物やその他の生物資源等のように再生可能な原料から生産されるバイオマスプラスチックも、カーボンニュートラルな素材として注目を浴びている。
【0003】
これらの環境対応型プラスチックは、ごみ袋、ボトル容器、食品用トレイ、農業用マルチフィルム等の材料が主たる用途であったが、最近、転がり軸受のシール部材をはじめとして、各種機械部品への適用が検討されている。そのためには、概ね200℃程度の高融点の生分解性樹脂が必要であり、ポリエチレンテレフタレートの分子構造中に脂肪族エステル構造を含有させたポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレートブチレンサクシネート等)やポリビニルアルコールが注目されている。本出願人も先に、ポリビニルアルコールに補強繊維材を配合した樹脂組成物からなる保持器やシールを備える転がり軸受を提案している(特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−92732号公報
【特許文献2】特開2004−92769号公報
【特許文献3】特許第3791439号公報
【特許文献4】特許第4117478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記ポリエステル系樹脂は、引張強度や伸びが小さいために、例えば保持器としたときに玉圧入時に爪部が白化したり、最悪の場合破損するおそれもある。また、ポリビニルアルコールは、引張強度や伸びがポリエステル系樹脂に比べて高いものの、分子内に水酸基を多量に有するために耐水性に劣り、大気中の水分でも吸水が進んで機械的性質の経時的な低下を起こし易いため、取り扱いに注意が必要であり、使用環境が制限されている。
【0006】
そこで本発明は、生分解性樹脂組成物からなる機械部品において、一定レベルの生分解性を保持しつつ、機械的強度及び耐湿性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、下記の生分解性樹脂製機械部品及び転がり軸受を提供する。
(1)エチレン含有量が25〜40モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体をベース樹脂とし、強化繊維材を樹脂組成物全量の15〜40質量%の割合で含有する樹脂組成物からなることを特徴とする機械部品。
(2)ベース樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂を、エチレン−ビニルアルコール共重合体:ポリビニルアルコール樹脂=7:3〜9:1の割合で含有することを特徴とする上記(1)記載の機械部品。
(3)内輪と外輪との間に保持器を介して複数の転動体を転動自在に保持してなり、シール部材を備える転がり軸受であって、少なくとも保持器が上記(1)または(2)に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする転がり軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生分解性に優れるとともに、機械的強度や耐湿性にも優れた、転がり軸受の保持器をはじめとする各種機械部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の転がり軸受の一実施形態を示す深溝玉軸受の断面図である。
【図2】図1の深溝玉軸受に組み込まれる冠型保持器を示す斜視図である。
【図3】仮軸が装着されたリニアガイドの全体構成を示す斜視図である。
【図4】図3のリニアガイドの仮軸を示す斜視図である
【図5】案内レールを備えるリニアガイドの全体構成を示す斜視図である。
【図6】図5のリニアガイドのエンドキャップを示す平面図である。
【図7】図5のリニアガイドのリターンガイドを示す側面図である。
【図8】図5のエンドキャップと図7のリターンガイドとを組み立てた状態を示す斜視図である。
【図9】図5のリニアガイドのハンドキャップ近傍を示す断面図である。
【図10】図5のリニアガイドの保持器を示す斜視図である。
【図11】樹脂プーリを示す側面図である。
【図12】図11のAA断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0011】
樹脂組成物のベース樹脂として使用するエチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体を酸化して得られる生分解性の樹脂である。エチレン含有量が少ないほど融点と強度が高くなり、エチレン含有量が多くなるほど生分解性が低下するとともに、伸びが大きくなる傾向にある。そこで本発明では、エチレン含有量を25〜40モル%とし、27〜32モル%とすることがより好ましい。即ち、エチレン含有量が25モル%未満では耐水性に劣り、水と接触する可能性のある用途での使用が困難になる。一方、エチレン含有量が40モル%を越えると融点が低下して使用上限温度が低下するとともに、生分解性が非常に低くなる。
【0012】
このようなエチレン−ビニルアルコール共重合体は、従来から使用されている一般的な生分解性プラスチックに比べて結晶性が高く、分子構造中に存在する水酸基が別の水酸基と強固な水素結合を多数形成するため、高強度で、かつ大きな伸びを有する。また、一般的な生分解性プラスチックに比べて生分解速度は遅いものの、ポリビニルアルコール樹脂を分解する菌等によって確実に分解される。
【0013】
また、ベース樹脂として、ポリビニルアルコール樹脂を、上記のエチレン−ビニルアルコール共重合体:ポリビニルアルコール樹脂=7:3〜9:1の割合で混合することもできる。ポリビニルアルコール樹脂を混合することにより、生分解速度を高めることができるが、耐湿性を低下させることにもなるため、混合比を前記範囲とする必要がある。
【0014】
尚、ポリビニルアルコールとしては、下記一般式(I)で表わされる基本骨格を有するものが好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
式中、R1はオキシアルキレン基、ポリエーテル基またはポリエステル基であり、l、m、nは整数である。鹸化度はm/(1+m+n)で表わされるが、73〜98モル%であることが好ましく、85〜95モル%であることがより好ましい。鹸化度が73モル%未満では、機械部品が耐湿性に劣るようになり、98モル%を超えると生分解性が悪くなる。
【0017】
また、(l+m+n)は重合度を示すが、500〜3000であることが好ましく、500〜1500であることがより好ましい。分子量が500未満では機械部品の耐熱性が十分ではなく、3000を超えると成形時における流動性が低く、成形性に悪影響を与える。
【0018】
樹脂組成物には、機械的強度の向上を目的として、強化繊維材を樹脂組成物全量の15〜40質量%、好ましくは25〜35質量%の割合で配合する。強化繊維材としては、補強性とコスト面からガラス繊維が最も適当であるが、ベース樹脂が分解して土壌中に残存したときの環境への影響が少ないことから、軽質炭酸カルシウム(結晶形:カルサイト、アルゴナイト)、天然含水ケイ酸アルミニウム(カオリン、クレー)、タルク、ベントナイト、繊維状水酸化マグネシウム、ウォラストナイト、セピオライト、マイカ、二酸化ケイ素、珪藻土等が好適である。強化繊維材量が15質量%未満では機械的強度が不十分であり、40質量%を超えると土壌中に残存したときの環境負荷が高くなるとともに、流動性が低下して成形性が悪くなる。
【0019】
また、強化繊維材は、ベース樹脂中の水酸基との反応性が高いエポキシ基を有するシランカプリング剤で表面されていることが好ましい。
【0020】
更に、目的に応じて他の添加剤を添加することもできる。例えば、形成時や使用時の熱による劣化を防止するための酸化防止剤や、紫外線等による劣化を防止するための紫外線吸収剤、充填材等が好適であるが、何れも環境面を考慮して生分解性プラスチック研究会(BPS)の運用によるグリーンプラ識別表示制度のポジティブリスト(PL)に登録されている材料を選択することが好ましい。
【0021】
機械部品とするには、ベース樹脂及び強化繊維材、更には添加剤を混練して樹脂組成物とし、機械部品の形状に合せて成形する。混練は樹脂やゴム用の混練機を使用でき、例えばヘンシェルミキサーやタンブラー等を用いてドライブレンドしてもよく、バンバリーミキサーやニーダー、押出機、ロールミル等の混練り機を用いて溶融混練してもよい。成形方法にも制限はなく、樹脂やゴム用の成形機を用いることができが、生産性の点では射出成形が好ましい。また、成形後に切削加工してもよい。
【0022】
尚、機械部品の種類には制限はなく、例えば以下に示す転がり軸受、リニアガイド、樹脂プーリの構成部材等にも適用することができる。
【0023】
図1は転がり軸受の一例である深溝玉軸受を示す断面図であるが、内輪11と、外輪12と、該両輪11,12の間に転動自在に配設された複数の玉13と、両輪11,12の間に複数の玉13を深溝玉軸受の円周方向にわたって等配に保持する冠形保持器14(図2を参照)と、両輪11,12の間に介在された接触形のシール部材15と、を備えている。また、シール15は環状で、外輪12の内周面(内輪11の外周面でもよい)に設けられたシール溝12aに嵌合するための取付嵌合部15a(外周縁部)と、内輪11の外周面に滑り接触するリップ部15bと、取付嵌合部15aとリップ部15bとを連結する連結部15cと、で構成されている。このようなシール部材15は外輪12の両端部の内周面に取り付けられて、外輪12の内周面と内輪11の外周面との間の開口部分を覆っており、外部からの異物の侵入や内部からのグリースの漏出を防止している。
【0024】
本発明では、例えば保持器14及びシール部材15を上記の樹脂組成物製とする。
【0025】
また、図3は仮軸が装着されたリニアガイドの全体構成を示す斜視図であり、図4は仮軸のみを示す斜視図である。仮軸101の上面101aと両側面101bとが交差する稜線部には、転動体転動溝に相当する断面ほぼ1/4円弧形状の凹溝102Aが軸方向に形成され、仮軸101の両側面101bの中間位置には、転動体転動溝に相当する断面ほぼ半円形の凹溝102Bが軸方向に形成されている。さらに、両側面101bの中間位置に形成された凹溝102Bの溝底には、通常のリニアガイドの案内レールと同様にボール保持器用の逃げ溝103が形成されている。
【0026】
ただし、案内レールとは異なり、仮軸101はスライダ105を仮に組み付けておくためのものであるから、その軸方向の長さはスライダ105の軸方向の長さよりも若干長ければ十分である。また、仮軸101の上面101aは機能上平面状である必要はないので、仮軸101の寸法精度を向上させるために、凹状の肉ヌスミ104が設けてある。なお、肉ヌスミ104の内部には、肉ヌスミ104を補強するための補強板104aが設けてある。
【0027】
スライダ105が組み付けられた仮軸101を案内レールの端部に連続するように取り付け、スライダ105を仮軸101から案内レールに向けてスライドさせると、仮軸101に組み付けられていたスライダ105を案内レールに移動させることができる。本発明では、この仮軸101を上記の樹脂組成物製とする。
【0028】
また、図5は案内レールを備えるリニアガイドの全体構成を示す斜視図であり、図6はエンドキャップを示す平面図、図7はリターンガイドを示す側面図、図8はエンドキャップとリターンガイドとを組み立てた状態を示す斜視図、図9はハンドキャップ近傍を示す断面図、図10は保持器を示す斜視図である。
【0029】
図示されるように角形の案内レール31上に、横断面形状がほぼコ字形のスライダ32が軸方向に相対移動可能に跨架されている。このスライダ32は、スライダ本体32Aの軸方向の両端部にエンドキャップ32B,32Bが着脱可能に固着されて構成されている。また、案内レール31の上面31aと両側面31b,31bが交差する稜線部には、断面ほぼ1/4円弧形状の凹溝である転動体転動溝33A,33Aが軸方向に形成されている。さらに、案内レール31の両側面31b,31bの中間位置には、断面ほぼ半円形の凹溝である転動体転動溝33B,33Bが軸方向に形成されている。なお、転動体転動溝33Bの溝底には、転動体35の脱落を防ぐ後述の保持器36のための逃げ溝33aが、軸方向に形成されている。
【0030】
一方、スライダ32の本体32Aの両袖部34,34の内側のコーナ部には、案内レール31の転動体転動溝33Aに対向する断面ほぼ半円形の負荷転動体転動溝41が形成され、両袖部34,34の内側面の中央部には案内レール31の転動体転動溝33Bに対向する断面ほぼ半円形の負荷転動体転動溝42が形成されている。そして、上記の案内レール31の転動体転動溝33Aとスライダ32の負荷転動体転動溝41とで負荷転動体転動路43が構成され、案内レール31の転動体転動溝33Bとスライダ32の負荷転動体転動溝42とで負荷転動体転動路44が構成されている。
【0031】
また、スライダ本体32Aの袖部34の上部肉厚に、負荷転動体転動路43に平行な軸方向に延びる断面円形の貫通孔からなる転動体戻し路45が形成され、袖部34の下部肉厚内に、負荷転動体転動路44に平行な同様の軸方向に延びる貫通孔からなる転動体戻し路46が形成されている。エンドキャップ32Bは樹脂材料の射出成形品であり、断面ほぼコ字状に形成されている。そして、スライダ本体32Aとの接合面(裏面)には、図6に示すように、斜めに傾斜した半円状の上凹部51と下凹部52とが、両袖分部34,34の上下に形成されるとともに、半円状の両凹部51,52の中心部を横断して半円柱状の凹溝53が設けてある。
【0032】
そして、その半円柱状の凹溝53には、樹脂材料を射出成形して得た半円筒状のリターンガイド55が嵌合される。このリターンガイド55の外径面の中央部には、転動体35の案内面となる断面円弧状の凹溝56が半円状に形成され、また、リターンガイド55の内径側の凹部57は潤滑剤通路であり、その凹部57から外径側の凹溝56に抜ける貫通孔57Aが給油孔として形成されている。
【0033】
このようなリターンガイド55を半円柱状の凹溝53に組み込むことにより、エンドキャップ32Bの裏面に断面円形の半ドーナツ状の湾曲路58が上下二段に形成される。このエンドキャップ32Bをスライダ本体32Aに取り付けると、湾曲路58によって、スライダ本体32Aの負荷転動体転動路44と転動体戻し路46とが連通される。そして、上段の負荷転動体転動路43と転動体戻し路45も同様に連通される。
【0034】
上記の負荷転動体転動路43,44,転動体戻し路45,46,湾曲路58で構成される転動体無限循環経路に、多数の転動体35が転動自在に装填されている。案内レール31上をスライダ32が移動すると、転動体35は負荷転動体転動路43,44内を転動しつつスライダ32の移動方向にスライダ32より遅い速度で移動し、一端側の湾曲路58でUターンして転動体戻し路45,46を逆方向に転動しつつ移動し、他端側の湾曲路58で逆Uターンして負荷転動体転動路43,44内に戻る循環を繰り返す。
【0035】
なお、エンドキャップ32Bにおいて、転動体35を案内する湾曲路58の内側端部には半円状に突出させた転動体掬いあげ突部59が形成され、その鋭角の先端が案内レール31の転動体転動溝33A,33Bの溝底に近接するようにされている。下段の転動体掬いあげ突部59には、後述する保持器36の取付溝59aと取付穴59bとが設けてある。また、エンドキャップ32Bの表側の給油ニップル37から注入された潤滑剤が、エンドキャップ32Bの裏面の給油溝60を通りリターンガイド55の内径側の凹部57から貫通孔57Aを経て、湾曲路58内へ送り込まれるようになっている。さらに、エンドキャップ32Bの裏面の給油溝60の下方には、後述する保持器61の取付け穴61aが形成してある。
【0036】
スライダ32の上段の負荷転動体転動路43及び下段の負荷転動体転動路44にそれぞれ装填された転動体35は、スライダ32を案内レール31に組み付けない状態では脱落してしまう。よって、これを防止するために、射出成形された樹脂材料製の保持器が用いられている。下段の負荷転動体転動路44内の転動体脱落防止用の保持器36は、断面角形状の保持器で、その長手方向の両端側は転動体35を滑らかに案内するため弓なりに湾曲され、端末には取付け部が形成されている。装着は、エンドキャップ32Bの転動体掬いあげ突部59に形成された保持器取付け穴59bに前記取付け部を差し込んで行われる。スライダ32を案内レール31に組み付けた状態では、保持器36は案内レール31の保持器用の逃げ溝33a内に収容され、案内レール31とは干渉しない。
【0037】
これに対して、上段の負荷転動体転動路43内の転動体脱落防止用の保持器61は、ほぼ長方形の枠形状である。この保持器61は、その枠62の長手方向の外側縁にほぼ1/4円弧状の転動体保持面63が形成され、前後端には係止突部64が突設されている。装着は、エンドキャップ32Bの裏面の取付け穴61aに係止突部64を差し込むことにより行われる。これにより保持器61はエンドキャップ32Bに支持されて、案内レール31の上面31aとこれに向き合うスライダ本体32Aの内面との間の空間に収容され、転動体35を転動体保持面63と負荷転動体転動溝41の溝面とで挟持して保持する。
【0038】
本発明では、保持器36、61を上記の樹脂組成物製とする。
【0039】
また、図11は樹脂プーリを示す側面図であり、図12は図11のAA断面図である。樹脂製プーリは、転がり軸受1と、転がり軸受1の周囲に転がり軸受1と一体的に形成された樹脂部2とから構成されている。樹脂部2は、転がり軸受1の外輪に固着された内径円筒部3と、ベルト案内面4を有する外径円筒部5と、外径円筒部5と内径円筒部3との間に形成された円板部6とを有し、更に、該円板部6には多数のリブ7が放射状に形成されている。また、内径円筒部3には所定ピッチ円で等間隔に多数のゲート8が形成されており、これらゲート8に上記の樹脂組成物の溶融物が流し込まれ、射出成形される。
【0040】
また、転がり軸受1は、図12に示すように、外輪外周部に樹脂部2の脱着を防止する凹溝9を有する接触ゴムシール付きの深溝玉軸受であるが、本発明では接触ゴムシール10も上記の樹脂組成物製とすることができる。
【0041】
上記転がり軸受やリニアガイド、樹脂プーリにおいて潤滑剤には制限はないが、生分解性を有するものが好ましく、例えば、植物油や生分解性合成エステル油、あるいはこれらの油を各種金属石けん、ウレア化合物等の増ちょう剤によって増ちょうさせた生分解性グリースを例示できる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0043】
下記に示す樹脂組成物を用いて6203深溝玉軸受用の冠形保持器(図2参照)を射出成形して作製し、(1)機械的強度(円環強度)、(2)生分解性及び(3)耐湿性を評価した。
【0044】
(実施例1)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(日本合成化学製「ソアライトG25H」;エチレン含有量29モル%、ガラス繊維(エポキシ系シランカップリング剤処理品)含有量25質量%)を用いた。尚、樹脂組成物のJIS K7113法による引張強度は173MPa、引張伸びは9.0%、融点は188℃であった。
【0045】
(実施例2)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(日本合成化学製「ソアライトG25K」;エチレン含有量38モル%、ガラス繊維(エポキシ系シランカップリング剤処理品)含有量30質量%)を用いた。尚、樹脂組成物のJIS K7113法による引張強度は149MPa、引張伸びは10.0%、融点は173℃であった。
【0046】
(実施例3)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(日本合成化学製「ソアライトG25H」のガラス繊維含有量を30質量%に増量;エチレン含有量29モル%)を70質量%、ポリビニルアルコール(日本合成化学製「エコマティAX−300」)にガラス繊維(エポキシ系シランカップリング剤処理品)を30質量%配合したものを30質量%混合したコンパウンドを用いた。
【0047】
(実施例4)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(日本合成化学製「ソアライトG25H」のガラス繊維含有量を30質量%に増量;エチレン含有量29モル%)を90質量%、ポリビニルアルコール(日本合成化学製「エコマティAX−300」)にガラス繊維(エポキシ系シランカップリング剤処理品)を30質量%配合したものを10質量%にて混合した混合物を用いた。
【0048】
(比較例1)
ポリビニルアルコール(日本合成化学製「エコマティAX−300」)にガラス繊維(エポキシ系シランカップリング剤処理品)を30質量%配合したものを用いた。尚、樹脂組成物のJIS K7113法による引張強度は125MPa、引張伸びは3.0%、融点は200℃であった。
【0049】
(比較例2)
ディポン製生分解性プラスチック「Apexa ND201」(ポリエチレンテレフタレートの分子構造中に脂肪酸エステル構造を含有させたものに、ガラス繊維を30質量%配合)を用いた。尚、樹脂組成物のJIS K7113法による引張強度は95MPa、引張伸びは2.0%、融点は200℃であった。
【0050】
(1)機械的強度(円環強度)
保持器の円環強度を、室温(23℃)または120℃にて測定した。結果を表1に示すが、比較例1の測定値に対する相対値とした。
【0051】
(2)生分解性評価
保持器を粉砕し、菱三商事社製微生物酸化分解測定装置「MODA」(JIS K6953、ISO14855対応)の反応筒部分(完熟堆肥+海砂)に投入し、生分解により発生した二酸化炭素を定量して生分解の進行度を測定した。結果を表1に示すが、比較例1が50%まで生分解するまでに要した日数を1とする相対値とした。
【0052】
(3)耐水性試験
保持器を室温で1分間水中に放置し、形状を保持している場合を「○」、形状を保持していない場合を「×」とし、結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から、本発明に従いエチレン−ビニルアルコール共重合体を補強繊維材で強化することにより、生分解性に若干の遅れが見られるものの、確実に分解するとともに、機械的強度及び耐水性が改善されることがわかる。
【符号の説明】
【0055】
2 樹脂部
11 内輪
12 外輪
13 玉
14 保持器
15 シール部材
32B エンドキャップ
36 保持器
55 リターンガイド
61 保持器
101 仮軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン含有量が25〜40モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体をベース樹脂とし、強化繊維材を樹脂組成物全量の15〜40質量%の割合で含有する樹脂組成物からなることを特徴とする機械部品。
【請求項2】
ベース樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂を、エチレン−ビニルアルコール共重合体:ポリビニルアルコール樹脂=7:3〜9:1の割合で含有することを特徴とする請求項1記載の機械部品。
【請求項3】
内輪と外輪との間に保持器を介して複数の転動体を転動自在に保持してなり、シール部材を備える転がり軸受であって、
少なくとも保持器が請求項1または2に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−249203(P2010−249203A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98070(P2009−98070)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】