説明

歪Si−SOI基板の製造方法及び該方法により製造された歪Si−SOI基板

【課題】歪Si層表面が平坦で欠陥が少ない歪Si−SOI基板を簡便に製造する。
【解決手段】SOI基板10の第1Si層13上にSiGe混晶層14を形成し、SiGe混晶層上に第1Si層の厚さより厚い55〜550nmの厚さの第2Si層16を形成する。基板を酸化性雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、950℃以上で熱処理してSiGe混晶層を溶融するとともに第1Si層と第2Si層の一部にGeを拡散する。基板を降温して溶融したSiGe混晶層18,19,21を固化し、固化したSiGe混晶層22の上に歪Si層16aが形成された歪Si−SOI基板23を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高性能半導体装置用の歪Si−SOI(Silicon-On-Insulator)基板の製造方法及びこの方法により製造された歪Si−SOI基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンMOSデバイスは、スケーリング則に従った微細化や動作電圧の低減を行うことにより、高速化と低消費電力化を両立してきた。しかし、ゲート長が100nm以下の領域となると、上記の両立が困難となりつつある。このため、SOI基板及び歪シリコン(以下、歪Si)の導入が検討され、特にSOI基板上に歪Siを導入した基板が究極の基板と考えられ、研究が進められている。
【0003】
第1の方法としてSOI基板とSiGeエピ技術との組み合わせが提供されている。例えば、SOI基板上にSiGeエピタキシャル層を形成してSiGe層の歪緩和を起こし、その上にSiエピタキシャル層を形成して歪Siとする方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。第2の方法として酸素イオン注入分離法(SIMOX)により埋込み酸化膜上に歪緩和SiGe層を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。第3の方法としてSOI基板上にSiGe膜を形成し、その後に酸化雰囲気の熱処理によりGeを下方拡散させつつ薄膜濃縮化させて歪緩和を行う方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。第4の方法としてSOI基板上にSiGe膜を形成し、熱処理にSiGe層を溶融し、その後にGeを拡散させつつSiGe層を固化させることにより歪緩和を行う方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。第5の方法として、Si−SOI基板の形成方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。第6の方法として、貼り合わせ法による埋込み酸化膜上に歪Siのみ存在させる歪Si−SOI基板の形成法が発表されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−169926号公報
【特許文献2】特開平9−321307号公報
【特許文献3】特開2000−243946号公報
【特許文献4】特開平10−308503号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】2002年国際固体素子・材料コンファレンス(ISSDM2002)(名古屋)予稿集9-10頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記第1〜5の方法は、Si基板上に形成された絶縁層上に緩和したSiGe層を形成してその上に更に歪Siを形成する方法である。Ge組成比を一定の緩い傾斜で増加させたバッファ層を用いる場合等では、発生した転位のため、転位線の分布を反映したクロスハッチと呼ばれる格子状の段差を有する凹凸が発生してしまい、この凹凸はデバイス製造工程のフォトリソグラフィ工程で問題となるため、従来は、通常のSi同様の研磨工程を用いて研磨が行われていたが、成膜されたSiGe層は、貫通転位密度や表面ラフネスがデバイス及び製造プロセスとして要望されるレベルには及ばない状態であった。特に、上記クロスハッチは全面に均等な凹凸を生じるのではなく、およそ数μm周期で数十nmの大きな凹凸を呈するものであり、このような凹凸は、通常のSi同様の研磨では除去することができなかった。
【0007】
一方、第6の方法は、Si基板上に形成された絶縁層上に歪Siのみが形成されるけれども、貼り合わせ法により歪Si−SOI基板を作製するため、厚膜の歪Si/SiGe層をエピタキシャル成長する必要があると同時に、貼り合わせ工程、剥離工程、薄膜化工程等が必要になり、製造コストを押上げる欠点を有する。
【0008】
本発明の目的は、歪Si層表面が平坦で欠陥が少ない歪Si−SOI基板を簡便に製造する方法を提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、この方法により製造された歪Si−SOI基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点は、図1に示すように、(a) Si基板11上に絶縁層12及びこの絶縁層12上に厚さ50〜500nmの第1Si層13を有するSOI基板10を用意する工程と、(b) SOI基板10の第1Si層13上にSiGe混晶層14を形成する工程と、(c) SiGe混晶層14上に第1Si層13の厚さより厚い55〜550nmの厚さの第2Si層16を形成する工程と、(d) 基板を酸化性雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、950〜1400℃で熱処理してSiGe混晶層14を溶融するとともに第1Si層13と第2Si層16の一部にGeを拡散する工程と、(e) 工程(d)の基板を降温して溶融したSiGe混晶層18,19,21を固化する工程とを含むことを特徴とする歪Si−SOI基板の製造方法である。
【0011】
この第1の観点では、工程(d)の熱処理によりSiGe混晶層14を溶融するとともに、第1Si層13と第2Si層16の一部にGeが拡散してSiGe混晶層となり歪緩和する。その結果所定の厚さで残留する第2Si層16が歪緩和したSiGe混晶層に格子整合して歪Si層16aとなる。
【0012】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に工程(b)のSiGe混晶層14がエピタキシャル層であることを特徴とする。
【0013】
SiGe混晶層14がエピタキシャル層ではない場合、例えば、CVD法による多結晶又はアモルファスのSiGe層が考えられる。また、SiGe層の上には第2Si層16を形成するが、このSi層の形成方法の代表例として、エピタキシャル成長法がある。エピタキシャル成長法は、定義の如く、下地層の格子定数と同じ格子定数で上の層が成長することを意味する。従って、ここでいう下地は多結晶又はアモルファスのSiGe層であり、この下地層上に成長するSi層は、単結晶にはならず多結晶又はアモルファスとなる。ところが、このSi層は上記工程(d)の熱処理で歪緩和したSiGe混晶層に格子整合することができず、単結晶のSi層にはならない。結果として、上記工程(d)の熱処理後の所定の厚さで残留する第2Si層は、多結晶又はアモルファス層であり、欠陥が内在されたままとなる。
【0014】
一方、エピタキシャル成長で形成したSiGe混晶層14は、SOI基板10の活性層である第1Si層13と同じ格子定数を有する単結晶膜となる。そして、このエピタキシャル層のSiGe混晶層14上にエピタキシャル成長法で形成する第2Si層16は、エピタキシャル層のSiGe混晶層14と同じ格子定数を有する単結晶膜となる。
【0015】
以上のことから、この第2の観点では、工程(b)のSiGe混晶層14をエピタキシャル層にすることにより、Si層16の欠陥をなくすことができる。
【0016】
そして、上記工程(d)の熱処理で所定の厚さで残留したSi層は、歪緩和したSiGe混晶層に格子整合して歪Si層16aとなる。この歪Si層16aは、単結晶の第2Si層が歪緩和したSiGe混晶層に格子整合することで得られているため、欠陥が少ない。
【0017】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に図2に示すように、工程(c)と工程(d)の間に第2Si層16上に保護膜24を形成する工程(g)を更に含むことを特徴とする。
【0018】
この第3の観点では、第2Si層16上に保護膜24を形成することにより、工程(d)の熱処理時にSiGe混晶層14中のGeが飛散するのを防止することができる。
【0019】
本発明の第4の観点は、第3の観点に基づく発明であって、更に工程(g)の保護膜24が気相成長法により形成されたSiO2膜であることを特徴とする。
【0020】
この第4の観点では、SiO2を気相成長することにより、Si層16を減らすことなく保護膜を得られる。
【0021】
本発明の第5の観点は、第3の観点に基づく発明であって、更に工程(g)の保護膜24がSi層及びこのSi層上に気相成長法により形成されたSiO2膜からなる複合膜であることを特徴とする。
【0022】
この第5の観点では、保護膜24をSi層とSiO2膜の複合膜とすることにより気相成長などによりSi層16上に容易に形成できる。
【0023】
本発明の第6の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に図3に示すように、工程(c)と工程(d)の間に絶縁層12と第1Si層13の界面又は界面より下方の絶縁層12中にイオン濃度のピークが位置するように水素又はヘリウムのイオンを注入する工程(h)を更に含むことを特徴とする。
【0024】
この第6の観点では、絶縁層12と第1Si層13の界面又は界面より下方の絶縁層12中に水素又はヘリウムのイオンを注入することにより、工程(d)の熱処理によりイオン注入した水素又はヘリウムが熱処理中に第1Si層13と絶縁層12との結合力を弱め、SiGe混晶層が歪緩和するのを容易にする。その結果所定の厚さで残留する第2Si層16が歪緩和したSiGe混晶層に格子整合して歪Si層16aとなる。
【0025】
本発明の第7の観点は、第6の観点に基づく発明であって、更に工程(h)と工程(d)の間でイオン注入した基板を酸化性雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、400〜650℃で30分〜6時間熱処理して注入した水素又はヘリウムを除去することを特徴とする。
【0026】
この第7の観点では、イオン注入後に上記条件で熱処理することにより、注入した水素又はヘリウムを基板から除去でき、水素又はヘリウム残存による欠陥をなくすことができる。
【0027】
本発明の第8の観点は、第7の観点に基づく発明であって、更に工程(h)のイオン濃度のピーク位置が絶縁層12と第1Si層13の界面より0〜30nmだけ下方の絶縁層12中であることを特徴とする。
【0028】
この第8の観点では、上記界面より下方にイオン注入する場合に、上記範囲にすることでより緩和したSiGe層を得ることができ、表面に残るSiを歪ませることができる。
【0029】
本発明の第9の観点は、第1ないし第8の観点に基づく方法により製造され、Si基板11上に絶縁層12、SiGe混晶層22及びこのSiGe混晶層22上に厚さ1〜50nmの歪Si層16aを有する歪Si−SOI基板である。
【0030】
この第9の観点では、本発明の方法で製造された歪Si−SOI基板は歪Si層表面が平坦で欠陥が少ない。
【発明の効果】
【0031】
以上述べたように、本発明によれば、歪Si層表面が平坦で欠陥が少ない歪Si−SOI基板を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明第1実施形態における歪Si−SOI基板の製造するまでの各工程での断面図。
【図2】本発明第2実施形態における歪Si−SOI基板の製造するまでの各工程での断面図。
【図3】本発明第3実施形態における歪Si−SOI基板の製造するまでの各工程での断面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に本発明の第1の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0034】
本発明の歪Si−SOI基板は次の方法により製造される。先ず図1(a)に示すように、工程(a)としてSi基板11上に絶縁層12及びその絶縁層12上に第1Si層13を有するSOI基板10を用意する。このSOI基板としては、薄膜化される活性ウェーハと支持ウェーハを貼り合わせて作製される貼り合わせSOI基板や、ウェーハ表面より酸素イオンを注入してウェーハ表面から所定の深さの領域に埋込み酸化膜層(Buried OXide、BOX層)を形成するSIMOX(Separation by IMplanted OXygen)法によるSOI基板がある。ここで、貼り合わせSOI基板には、活性ウェーハ側を機械加工及び化学エッチング、気相エッチング等によりウェーハの薄膜化処理したものや、活性ウェーハの所定の深さの領域に水素イオンを注入し、この注入層を起点としてウェーハを面平行に分割するスマートカット法によるものや、或いは貼り合わせ後の分割面にあらかじめ多孔質のポーラスSi層を形成しておくELTRAN法によるものがある。
【0035】
SOI基板10の第1Si層13の厚さは50〜500nmの範囲、好ましくは50〜100nmの範囲に設定される。50nm未満では、熱処理時間が短すぎ、溶融によるSiGe層の厚さの制御が困難になる不具合を生じ、500nmを越えると熱処理時間が長くなる不具合を生じる。絶縁層12としてはSiO2膜が例示される。
【0036】
次いで図1(b)に示すように、工程(b)としてSOI基板10の第1Si層13上にSiGe混晶層14を形成する。このSiGe混晶層14は、SOI基板10を分子線エピタキシ(以下、MBEという。)装置内に設置した後、シランガスとゲルマンガスを導入することにより、第1Si層13上にエピタキシャル層として形成される。SiGe混晶層14は、MBE法以外に、CVD法により形成してもよい。
【0037】
このSiGe混晶層14におけるGeの組成比は、室温で3〜90%である。下限値未満では、後述する歪Si層16aの歪み効果が低く、また上限値を越えるとSi層16が結晶化しない不具合がある。SiGe混晶層14の厚さは10〜500nmの範囲、好ましくは30〜150nmの範囲に設定される。10nm未満では、後述する歪Si層16aの歪み効果が低く、また上限値を越えても歪Si層16aの歪み効果はそれほど変わらないためである。
【0038】
次に、図1(c)に示すように、工程(c)としてSiGe混晶層14上に第2Si層16を形成する。この第2Si層16は、第1Si層13の厚さより厚い55〜550nmの厚さに形成される。第2Si層16は、化学的気相成長(CVD)法、物理的気相成長(PVD)法又はMBE法により形成される。MBE法で第2Si層16を形成する場合には、SiGe混晶層14を形成した後にゲルマンガスの供給を停止して、Si層が形成される。
【0039】
次に、図1(d)に示すように、工程(d)として基板を酸化性雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、950〜1400℃で熱処理する。本発明で熱処理時の酸化性雰囲気とは酸素含有ガス雰囲気であり、不活性ガス雰囲気とは窒素ガス、Arガス、Heガス等の雰囲気である。熱処理温度は、後述する当該の固化したSiGe混晶層のGe濃度に応じた固相線より低い温度に設定する。更に熱処理時間は、SOI基板の第2Si層16全体がSiGe層とならず、所定の厚さで単結晶Siを残すような時間設定とする。即ち、好ましい熱処理条件は、SiGe混晶層14が全て溶融し、かつ第2Si層16のうちGeが拡散していない部分の厚さが1〜50nmになる程度の温度と時間が設定される。例えばSiGe混晶層のGeの割合が90%であって、950℃の場合、1時間〜6時間熱処理する。またGeの割合が3%であって、熱処理温度が上限値の1400℃の場合、10〜30分間熱処理する。第2Si層16のうちGeが拡散していない部分が次に述べる歪Si層16aの厚さとなる。
【0040】
この熱処理によりSiGe混晶層14を溶融するとともに第1Si層13と第2Si層16の一部にGeが拡散してSiGe混晶層18,19,21となる。その結果所定の厚さで残留する第2Si層16が歪緩和したSiGe混晶層に格子整合して歪Si層16aとなる。図1(d)の区切り線17aより上の領域は第2Si層16にGeが拡散した領域19であり、区切り線17aと区切り線17bに挟まれた領域はSiGe混晶層14が溶融した領域18であり、区切り線17bより下の領域は第1Si層13にGeが拡散した領域21である。なお、上記熱処理を行う前に、ウェーハ裏面やウェーハの面取り部を研磨加工又は酸エッチング処理して、残留するGeを除去しておくことが好ましい。
【0041】
次に、図1(e)に示すように、工程(e)として上記基板を降温して溶融したSiGe混晶層18,19,21を固化し、結晶層のSiGe混晶層22を得る。但し、Geが拡散することによりGeが低濃度化するため、工程(d)で処理した温度のままでもSiGe混晶層18,19,21は固化する。このため、工程(e)は省略してもよい。また上記熱処理が酸化性雰囲気下による場合は、表面酸化膜を剥離した後、歪Si層を形成しても良い。また上記熱処理が不活性ガス雰囲気下による場合は、引続き歪Si層を形成しても良い。これにより歪Si−SOI基板23が得られる。このSOI基板23の歪Si層16aは低欠陥で平坦な表面を有する。
【0042】
次に本発明の第2の実施の形態を図2に基づいて説明する。
【0043】
この第2の実施の形態では、工程(a)〜工程(c)は前述した第1実施形態と同一の工程である。工程(c)を終え、工程(d)を施す前に、図2(g)に示すように、工程(g)として第2Si層16上に保護膜24を形成する。この保護膜24は、後述する熱処理を不活性ガス雰囲気で行うときにはSiの表面ラフネスを維持するなどの理由でSiO2膜であるか、又はSi層とこのSi層上に形成されたSiO2膜とからなる複合膜である。いずれも後述する熱処理時にSiGe混晶層中のGeが飛散するのを防止するためであり、またSiの表面ラフネスを維持するためである。保護膜24としてのSiO2膜或いはSi層とSiO2膜との複合膜は、CVD法、PVD法又はMBE法により形成される。MBE法で保護膜24を形成する場合には、シランガスを供給してSi層を形成した後、基板をMBE装置から取り出し、電気炉に入れて酸化性雰囲気中、900℃以下の温度でこのSi層の全部又は一部を酸化してSiO2膜との複合膜を形成することができる。この工程(g)に続く工程(d)及び工程(e)は、前述した第1実施形態と同一の工程である。
【0044】
次に本発明の第3の実施の形態を図3に基づいて説明する。
【0045】
この第3の実施の形態では、工程(a)〜工程(c)は前述した第1実施形態と同一の工程である。工程(c)を終え、工程(d)を施す前に、図3(h)に示すように、工程(h)として絶縁層12と第1Si層13の界面又は界面より下方の絶縁層12中にイオン濃度のピークが位置するように水素又はヘリウムのイオンを注入する。界面より下方にイオン濃度のピーク位置を設ける場合には、この界面より0〜30nmだけ下方にすることがより緩和したSiGe層を得ることができ、表面に残るSiを歪ませることができるため好ましい。水素イオン(H+)の場合には、好ましくは1×1014atoms/cm2以上、より好ましくは10×1014atoms/cm2〜1×1017atoms/cm2のドーズ量でイオン注入する。水素イオンの注入に代えて、或いは水素イオンの注入とともに、ヘリウムイオン(He+)を注入してもよい。この場合、ヘリウムイオンのドーズ量は好ましくは0.5×1014atoms/cm2以上、より好ましくは5×1014atoms/cm2〜0.5×1017atoms/cm2である。ここで、図3(h)中の符号26はイオン濃度のピーク位置を含むイオン注入領域であり、このイオン注入領域26は絶縁層12と第1Si層13の界面に平行に形成される。イオン注入後、注入した水素又はヘリウムを基板から除去するために、酸化性雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、400〜650℃で30分〜6時間熱処理することが好ましい。
【0046】
この工程(h)に続いて、図3(d)に示すように、工程(d)としてイオン注入した基板を酸化性雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、950℃〜1400℃で熱処理する。この熱処理によりSiGe混晶層14を溶融するとともに、第1Si層13、第2Si層16の一部にGeが拡散してSiGe混晶層となるが、同時にイオン注入した水素又はヘリウムが熱処理中に第1Si層13と絶縁層12との結合力を弱め、SiGe混晶層14が歪緩和するのを容易にする。この工程(d)に続く工程(e)は、前述した第1実施形態と同一の工程である。
【実施例】
【0047】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0048】
<実施例1>
先ず、第1Si層100nm、絶縁層150nmのSIMOXウェーハを準備した。次に、その上にGe濃度25%のエピタキシャルSiGe層をCVD法により50nm形成し、引続き第2Si層を360nm形成した。このウェーハを1%酸化性雰囲気下、1250℃で10分間熱処理した。以上の処理を行い、歪Si層10nm、最大Ge濃度が5%のSiGe層を有するSOI基板を得た。
【0049】
<実施例2>
先ず、第1Si層100nm、絶縁層150nmのSIMOXウェーハを準備した。次に、その上にGe濃度25%のエピタキシャルSiGe層をCVD法により50nm形成し、引続き第2Si層を360nm形成した。その後更に、CVD法によりSiO2膜を100nm形成した。このウェーハを1%酸化性雰囲気下、1250℃で10分間熱処理した。以上の処理を行い、歪Si層10nm、最大Ge濃度が5%のSiGe層を有するSOI基板を得た。
【0050】
<実施例3>
先ず、第1Si層100nm、絶縁層150nmのSIMOXウェーハを準備した。次に、その上にGe濃度25%のエピタキシャルSiGe層をCVD法により50nm形成し、引続き第2Si層を360nm形成した。その後、第1Si層と絶縁層の界面より30nmだけ下方の絶縁層中にイオン濃度のピーク位置がくるように水素イオンを5×1015atoms/cm2のドーズ量でイオン注入をした。このウェーハを500℃で1時間熱処理した後、1%酸化性雰囲気下、1250℃で10分間熱処理した。以上の処理を行い、歪Si層10nm、最大Ge濃度が5%のSiGe層を有するSOI基板を得た。
【0051】
<比較例1>
先ず、第1Si層100nm、絶縁層150nmのSIMOXウェーハを準備した。次に、その上にGe濃度5%のエピタキシャルSiGe層をCVD法により50nm形成し、引続き第2Si層を10nm形成した。このウェーハを50%酸化性雰囲気下、1200℃で40分間熱処理し、その後Si層を10nm形成し、歪Si層とした。以上の処理を行い、歪Si層10nm、Ge濃度が5%のSiGe層を有するSOI基板を得た。
【0052】
<比較試験及び評価>
実施例1〜3及び比較例1で得られた歪Si−SOI基板について、歪量、表面粗さ及び欠陥数を測定し、比較例1の測定結果を1としたときの相対値を求めた。その結果を次の表1に示す。
【0053】
【表1】

上記表1から明らかなように、実施例1〜3は、比較例1に比べて、表面粗さが小さく、また、欠陥数が少ない結果が得られた。この結果から、本発明の方法により歪Si表面が平坦で欠陥の少ない歪Si−SOI基板を製造できることが判った。
【符号の説明】
【0054】
10 SOI基板
11 Si基板
12 絶縁層
13 第1Si層
14 SiGe混晶層
16 第2Si層
16a 歪Si層
18 溶融したSiGe混晶層
19 Geが第1Si層に拡散形成されたSiGe混晶層
21 Geが第2Si層に拡散形成されたSiGe混晶層
22 固化したSiGe混晶層
23 歪Si−SOI基板
24 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) Si基板(11)上に絶縁層(12)及びこの絶縁層(12)上に厚さ50〜500nmの第1Si層(13)を有するSOI基板(10)を用意する工程と、
(b) 前記SOI基板(10)の第1Si層(13)上にSiGe混晶層(14)を形成する工程と、
(c) 前記SiGe混晶層(14)上に前記第1Si層(13)の厚さより厚い55〜550nmの厚さの第2Si層(16)を形成する工程と、
(d) 前記基板を酸化性雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、950〜1400℃で熱処理して前記SiGe混晶層(14)を溶融するとともに前記第1Si層(13)と前記第2Si層(16)の一部にGeを拡散する工程と、
(e) 工程(d)の基板を降温して前記溶融したSiGe混晶層(18,19,21)を固化する工程と
を含むことを特徴とする歪Si−SOI基板の製造方法。
【請求項2】
工程(b)のSiGe混晶層(14)がエピタキシャル層である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
工程(c)と工程(d)の間に第2Si層(16)上に保護膜(24)を形成する工程(g)を更に含む請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
工程(g)の保護膜(24)が気相成長法により形成されたSiO2膜である請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
工程(g)の保護膜(24)がSi層及びこのSi層上に気相成長法により形成されたSiO2膜からなる複合膜である請求項3記載の製造方法。
【請求項6】
工程(c)と工程(d)の間に絶縁層(12)と第1Si層(13)の界面又は界面より下方の前記絶縁層(12)中にイオン濃度のピークが位置するように水素又はヘリウムのイオンを注入する工程(h)を更に含む請求項1記載の製造方法。
【請求項7】
工程(h)と工程(d)の間でイオン注入した基板を酸化性雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下、400〜650℃で30分〜6時間熱処理して注入した水素又はヘリウムを除去する請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
工程(h)のイオン濃度のピーク位置が絶縁層(12)と第1Si層(13)の界面より0〜30nmだけ下方の前記絶縁層(12)中である請求項6記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8いずれか1項に記載の方法により製造され、Si基板(11)上に絶縁層(12)、SiGe混晶層(22)及びこのSiGe混晶層(22)上に厚さ1〜50nmの歪Si層(16a)を有する歪Si−SOI基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−74146(P2010−74146A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172143(P2009−172143)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】