説明

歯車及びこの歯車を用いた連結装置

【課題】歯車列の噛合い率を高める。
【解決手段】互いに動力伝達可能に噛合した状態で設けられるリクライニング装置4の内歯車11と外歯車21との噛合い線Trは、その噛合い領域Geを定める二本の曲線(内歯車11の有効歯先円11hと外歯車21の有効歯先円21h)のうち半径方向内側に位置する曲線(有効歯先円11h)上から、この二本の曲線間の間隔が広くなる側の円周方向に延びて半径方向外側に位置する曲線(有効歯先円21h)と交わる円弧曲線として形成されている。更に、この噛合い線Trの円弧の中心点Toは、両歯車11,12のピッチ円11p,21p同士が接触するピッチ点Pと各ピッチ円11p,21pの中心点11r,21rとを通って真っ直ぐに延びる基準直線から外れた位置に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車及びこの歯車を用いた連結装置に関する。詳しくは、互いに動力伝達可能に噛合した状態で設けられる歯車列を構成する歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートにおいて、シートバックがリクライニング装置を介してシートクッションと連結されており、その背凭れ角度の調整操作が行えるようになっているものが知られている。ここで、下記特許文献1には、上述したリクライニング装置の具体的な構成が開示されている。この開示のリクライニング装置は、シートクッションに一体的に連結される外歯車とシートバックに一体的に連結される内歯車とが互いに噛合した状態に組み付けられて構成されている。
【0003】
そして、リクライニング装置は、外歯車を内歯車の内周歯面に沿って互いの噛合い位置を変えるように相対的に周回運動させることにより、シートバックの背凭れ角度を変動させるようになっている。ここで、同開示のリクライニング装置では、上述した内歯車や外歯車の歯形が、トロコイド曲線より成る歯形によって形成されている。これにより、両歯車の噛合い線が円弧状に湾曲して形成されることとなり、噛合い線が直線で形成される歯車列と比べると、両歯車の噛合い率が高められるため噛合い強度を高めることができる。
【0004】
【特許文献1】特許第4029847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記開示の従来技術では、トロコイド曲線の歯形より成る歯車列では、その噛合い線の形が限定されてしまうため、噛合い線をより長くするための工夫が難しいものとなっている。
【0006】
本発明は、上記した問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、歯車列の噛合い率を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の歯車及びこの歯車を用いた連結装置は次の手段をとる。
先ず、第1の発明は、互いに動力伝達可能に噛合した状態で設けられる歯車列を構成する歯車である。歯車列の噛合い線は、その噛合い領域を定める二本の曲線のうち、半径方向の内側に位置する曲線上から、二本の曲線間の間隔が広くなる側の円周方向に延びて半径方向の外側に位置する曲線と交わる円弧曲線として形成されている。この円弧曲線は、その円弧の中心点が、歯車列の各ピッチ円同士が接触するピッチ点と各ピッチ円の中心点とを通って真っ直ぐに延びる基準直線から外れた位置に設定されている。
【0008】
この第1の発明によれば、トロコイド曲線の歯形より成る歯車列では、その噛合い線は、歯車列の各ピッチ円同士が接触するピッチ点と各ピッチ円の中心点とを通って真っ直ぐに延びる基準直線上の一点を中心に描かれる円弧曲線となって形成される。しかし、本構成では、噛合い線が上記した基準直線から外れた位置を中心に描かれる円弧曲線によって描かれる。したがって、上述したトロコイド曲線の歯形より成る歯車列と比べると、限られた噛合い領域の中で噛合い線の長さを長く確保できるようにその形を多様に設定することができるため、歯車列の噛合い率を高めることができる。
【0009】
次に、第2の発明は、上述した第1の発明において、歯車列の噛合い線を形成する円弧曲線は、その円弧の中心点が、基準直線をY軸とし基準直線に垂直でかつ一方の歯車のピッチ円の中心点を通る垂直線をX軸とした場合のXY座標平面において第1象限となる領域内の位置に設定されている。
【0010】
この第2の発明によれば、噛合い線の円弧の中心点を、上記したXY座標平面における第1象限の領域内の位置に定めることにより、特定の円周方向に向けて半径方向の外側に広がる噛合い線の形状を具現化して形成することができる。
【0011】
次に、第3の発明は、上述した第1又は第2の発明の歯車を用いた連結装置である。この連結装置は、車両用シートのシートバックとシートクッションとを連結するリクライニング装置として構成されている。このリクライニング装置は、内歯車を備えた内歯部材と、外歯車を備えた外歯部材と、を有する。内歯部材は、シートバック或いはシートクッションの一方に連結されている。外歯部材は、外歯車が内歯部材の内歯車に噛合した状態で組み付けられ、シートバック或いはシートクッションの他方と連結されている。外歯車は、内歯車よりも小径で、かつ、互いに異なる歯数に形成されている。外歯車と内歯車との噛合によって歯車列が形成されており、外歯車が内歯車の内周歯面上を相対的に噛合い位置を変えながら周回する動きによって、シートバックの背凭れ角度が変動するようになっている。
【0012】
この第3の発明によれば、リクライニング装置の外歯車と内歯車との噛合い線が長く確保されることにより、シートバックの支持強度を高めることができる。
【0013】
次に、第4の発明は、上述した第3の発明において、内歯車は半抜き加工によって円筒状に突出して形成されており、外歯車も半抜き加工によって円筒状に突出して形成されている。内歯部材には、その内歯車の中心部に、軸方向に円筒状に突出した筒部が形成されている。外歯部材には、その外歯車の中心部に、内歯部材に形成された筒部を内部に受け入れることのできる円形状の貫通孔が形成されている。筒部と貫通孔とは、両歯車の噛合状態では互いの中心部が偏心した配置関係となっている。更に、内歯部材の筒部とこの筒部を受け入れる外歯部材の貫通孔との間の隙間内には、この隙間の一部を埋める形状を持つ一対の偏心部材が配設されている。一対の偏心部材は、常時は附勢によって互いが上述した隙間形状の狭くなる領域に向けて挟込み状に入り込んで、外歯車を内歯車の内周歯面に押し付けた状態に保持している。そして、そのどちらか一方側の偏心部材が筒部の筒内に挿通された軸ピンの回転操作によって円周方向に押動されることにより、この一方側の偏心部材が狭い隙間から押し出されると共に前記外歯部材の貫通孔の内周面を押圧して前記外歯車を周回させるようになっている。
【0014】
この第4の発明によれば、外歯車の内歯車に対する相対的な周回運動は、一対の偏心部材が両歯車の間に形成された狭くなる隙間内に附勢によって押し込まれる力によって押し留められた状態に保持される。このように、内歯車と外歯車とを回転留め可能に連結する構造を具現化して構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための最良の形態の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
始めに、実施例1の歯車及びこの歯車を用いた連結装置の構成について図1〜図11を用いて説明する。ここで、図2には、本発明の連結装置に相当するリクライニング装置4,4を備えた車両用シート1の概略構成が示されている。この車両用シート1は、背凭れとなるシートバック2が、その両サイドの下部位置に配設された左右一対のリクライニング装置4,4によって、着座部となるシートクッション3と連結されている。
【0017】
これらリクライニング装置4,4は、常時はシートバック2の背凭れ角度を維持した回転留め状態に保持されている。しかし、各リクライニング装置4,4は、それらの内部に挿通された操作軸4c,4cが軸回転操作される動きによって、シートバック2の背凭れ角度を変化させるようになっている。ここで、各操作軸4c,4cは、連結ロッド4rによって互いに一体的に連結されており、その一方の操作軸4cに連結された図示しない電動モータの駆動に伴って、左右で同期した軸回転操作が行われるようになっている。
【0018】
この図示しない電動モータは、例えば車両用シート1の側部位置に配設されたスイッチの切り換え操作によって、ON/OFFに切り換えられたり、正転・逆転の切り換えが行われたりするようになっている。これにより、各リクライニング装置4,4は、各操作軸4c,4cが軸回転操作される前の常時は、シートバック2の傾き角度を維持した状態に保たれている。そして、各リクライニング装置4,4は、電動モータの駆動によって各操作軸4c,4cが軸回転操作されることにより、その動きに連動して、シートバック2の背凭れ角度を変動させるように作動する。
【0019】
以下、各リクライニング装置4,4の構成について詳しく説明をする。なお、各リクライニング装置4,4は、互いに左右で対称の構成となっているが、実質的には同じ構成となっている。したがって、以下では、これらを代表して、図2の紙面向かって右側に示されているリクライニング装置4の構成についてのみ説明をする。
【0020】
このリクライニング装置4は、図1に示されるように、円盤形状の内歯部材10及び外歯部材20と、一対の駒状の偏心部材30A,30Bと、開リング形状のバネ部材40と、筒状の操作部材50と、棒状の操作軸4cと、薄い円筒状の保持部材70とが一つに組み付けられて構成されている。これら各部材は、鉄鋼製の部材によって形成されており、内歯部材10を保持部材70の円筒内部に組み付けるように軸方向に順にセットしていくことにより一つに組み付けられている(図3参照)。以下、図1を参照しながら、上記した各部材の構成について詳しく説明をしていく。
【0021】
先ず、内歯部材10の構成について説明をする。この内歯部材10は、その円盤形状の外周縁部が、板厚方向(軸方向)への半抜き加工によって円筒状に突出した形状に形成されている。そして、この円筒状に突出した部位の内周面には内歯11aが形成されており、この突出した円筒部が内歯車11として形成されている。そして、内歯部材10の中心部には、上述した内歯車11の突出方向と同じ方向に突出する円筒形状の筒部12が形成されている。
【0022】
この筒部12の軸心は、内歯部材10(内歯車11)の中心点11rと同心となっており、その筒内には、円形状の軸孔12aが貫通して形成されている。この内歯部材10は、図3に示されるように、その外盤面がシートバック2の骨格を成すバックフレーム2fの板面と接合されることによって、バックフレーム2fと一体的に連結されている。
【0023】
ここで、内歯部材10の円盤部には、その外盤面から円筒状に突出する複数のダボ13a・・やDダボ13bが形成されている。これらダボ13a・・やDダボ13bは、円盤部のより外周縁に近い位置で、円周方向に等間隔に並んで配置形成されている。このうち、Dダボ13bは、その突出した円筒形状の一部が断面D字状に切り欠かれて形成されており、円筒形状に突出したダボ13a・・とは形状が区別できるようになっている。
【0024】
一方、バックフレーム2fには、上述したダボ13a・・やDダボ13bを嵌合させることのできるダボ孔2a・・やDダボ孔2bが貫通形成されている。したがって、これらダボ13a・・やDダボ13bを、バックフレーム2fに形成されたダボ孔2a・・やDダボ孔2bにそれぞれ嵌合させて、各嵌合部を溶着して接合することにより、内歯部材10がバックフレーム2fに対して強固に一体的に連結されることとなる。
【0025】
なお、バックフレーム2fにも、上述した内歯部材10に貫通形成された軸孔12aと同径となる円形状の軸孔2cが板厚方向に貫通して形成されている。これら各軸孔12a,2c内には、後述する棒状の操作軸4c(図1参照)が挿通されるようになっている。
【0026】
次に、図1に戻って、外歯部材20の構成について説明する。この外歯部材20は、上述した内歯部材10よりもひとまわり大きな外径をもった円盤型形状に形成されている。この外歯部材20は、その円盤形状の中心部が、板厚方向(軸方向)への半抜き加工によって円筒状に突出した形状に形成されている。そして、この円筒状に突出した部位の外周面には外歯21aが形成されており、この突出した円筒部が外歯車21として形成されている。この外歯車21は、上述した内歯部材10に形成された内歯車11よりも小径に形成されている。
【0027】
したがって、上述した外歯部材20は、内歯部材10に対して、外歯車21を内歯車11に噛合させるように軸方向に組み付けられることにより、互いに噛合し合って相対回転することのできる状態に組み付けられる。ここで、外歯部材20の中心部には、上述した内歯部材10の中心部に形成された軸孔12aよりもひとまわり大きな内径をもつ大孔22が形成されている。この大孔22の軸心は、外歯部材20(外歯車21)の中心点21rと同心となっている。
【0028】
よって、上述した外歯部材20は、図4〜図6に示されるように、その大孔22の孔内に、内歯部材10に形成された筒部12を受け入れた状態として、内歯部材10に対してそれらの中心点21r,11rが互いに偏心した配置状態に組み付けられる。ここで、外歯車21は、内歯車11よりも少ない歯数で形成されている。具体的には、外歯車21の外歯21aの歯数は33個であり、内歯車11の内歯11aの歯数は34個となっている。
【0029】
したがって、図5に示されるように、上述した外歯部材20は、外歯車21を内歯車11の内周面に沿って互いの噛合位置を変えるように相対的に公転運動させることにより、互いの歯数差によって、内歯部材10に対する姿勢向きが漸次変動していくようになっている。具体的には、例えば図6を参照して、外歯車21が内歯車11の内周面に沿って時計回り方向に公転する相対運動が行われると、外歯部材20は、内歯部材10に対して図示反時計回り方向にその姿勢向きを回転(自転)させていく。
【0030】
なお、実際には、内歯部材10がバックフレーム2fと連結されており、外歯部材20が後述するようにシートクッション3の骨格を成すクッションフレーム3fと連結されるため、内歯部材10が外歯部材20に対して噛合位置を変えながら回転運動するようになっている。したがって、上記のように外歯車21と内歯車11との間の回転運動が行われることにより、図2に示されるようにシートバック2の背凭れ角度の調整操作が行われることとなる。なお、これら内歯車11や外歯車21の歯形形状については、後に詳しく説明をする。
【0031】
ここで、外歯部材20の円盤部には、その外盤面から円筒状に突出する複数のダボ23a・・やDダボ23bが形成されている。これらダボ23a・・やDダボ23bは、円盤部のより外周縁に近い位置で、円周方向に等間隔に並んで配置形成されている。このうち、Dダボ23bは、その突出した円筒形状の一部が断面D字状に切り欠かれて形成されており、円筒形状に突出したダボ23a・・とは形状が区別できるようになっている。
【0032】
一方、図3に示されるように、クッションフレーム3fには、上述したダボ23a・・やDダボ23b(図1参照)を嵌合させることのできるダボ孔3a・・やDダボ孔3bが貫通形成されている。したがって、これらダボ23a・・やDダボ23bを、クッションフレーム3fに形成されたダボ孔3a・・やDダボ孔3bにそれぞれ嵌合させて、各嵌合部を溶着して接合することにより、外歯部材20がクッションフレーム3fに対して強固に一体的に連結されることとなる。
【0033】
なお、クッションフレーム3fにも、上述した外歯部材20に貫通形成された大孔22と同じ内径をもつ円形状の大孔3cが板厚方向に貫通して形成されている。これら大孔22,3cの内部には、後述する棒状の操作軸4c(図1参照)が挿通されるようになっている。
【0034】
次に、図1に戻って、一対の偏心部材30A,30Bの構成について説明する。これら偏心部材30A,30Bは、互いに左右対称に湾曲した円弧形状の駒部材として形成されている。これら偏心部材30A,30Bは、前述した外歯部材20に形成された大孔22の内部に収められた状態に組み付けられる。これにより、各偏心部材30A,30Bは、図5に示されるように、大孔22の内周面と前述した内歯部材10の筒部12の外周面との間に形成される偏心した隙間内に配置されるようになっている。
【0035】
詳しくは、各偏心部材30A,30Bは、外歯部材20の大孔22と内歯部材10の筒部12との間の狭くなる隙間内(図5では下方側に形成される狭くなる隙間内)に両挟み状に入り込む先細状の形状に形成されている。ここで、各偏心部材30A,30Bには、これらに跨るようにして、開リング形状のバネ部材40の掛部41A,41Bがそれぞれ掛着されている。これにより、各偏心部材30A,30Bは、常時はバネ部材40の附勢力によって、それらの先細状の下端部を上記した狭くなる隙間内に入り込ませた状態に保持されている。
【0036】
そして、このバネ部材40のバネ力の作用によって、外歯部材20は、常時は各偏心部材30A,30Bによって筒部12に対して図示上方側に押圧された状態として、外歯車21が内歯車11に対して互いの間に隙間(バックラッシ)が生じない状態に押し付けられた状態として保持されている。そして、この保持力により、外歯部材20は、内歯部材10に対して、前述した公転運動が押し留められた状態(回転留め状態)とされて保持されている。
【0037】
しかし、この両偏心部材30A,30Bの附勢による回転留め状態は、操作軸4cの軸回転操作が行われることによって解除される。具体的には、図1に示されるように、操作軸4cには、筒状の操作部材50が軸方向に嵌め込まれて互いに回転方向に一体的に連結されている。詳しくは、操作軸4cの外周面には、セレーション状の凹凸形状が軸方向に延びて形成されている。そして、この操作軸4cが、操作部材50の筒部51に貫通形成された軸孔50a内に嵌め込まれることにより、操作軸4cがこの軸孔50aの内周面に形成されたセレーション状の凹凸形状と嵌合して、操作部材50と回転方向に一体的に連結されるようになっている。
【0038】
そして、この操作軸4cと連結された操作部材50の円筒端部に形成された円盤部には、その両肩側の部位に、前述した各偏心部材30A,30Bを押し回し操作することのできる押部52A,52Bが形成されている。これら押部52A,52Bは、図5に示されるように、各偏心部材30A,30Bに形成された軸方向に突出する突部31A,31Bの図示下部側の位置に配置されるようになっている。
【0039】
これにより、押部52A,52Bは、図6に示されるように、操作部材50が例えば図示時計回り方向に回転操作されると、図示左側の偏心部材30Aの突部31Aを押部52Aによって下方側から押圧し、同左側の偏心部材30Aを大孔22の内周面に沿って同方向に押し回す。そして、この偏心部材30Aの回転移動に伴って、外歯車21は、その大孔22の内周面が押される動きに合わせて、内歯車11の内周面に沿って図示時計回り方向に噛合い位置を移動させながら回転運動する。
【0040】
そして、この動きによって、図示右側の偏心部材30Bは、上記の移動によって空けられた隙間内に更に入り込むようにして、バネ部材40の附勢によって図示時計回り方向に回転移動する。そして、この移動により、図2において前述したように、シートバック2が前倒し方向に回転操作されたり、後倒し方向に回転操作されたりするようになっている。
【0041】
そして、図5に示されるように、上記した操作軸4cの回転操作をやめることにより、各偏心部材30A,30Bが再びバネ部材40の附勢力によって狭くなる隙間内に入り込んだ状態となり、リクライニング装置4が再び回転留めされた状態に戻される。
【0042】
次に、図1に戻って、保持部材70について説明する。この保持部材70は、薄い鉄鋼板がリング状に打ち抜かれて形成されており、更に軸方向に半抜き加工されることによって、図示左奥側の一端に軸方向に面を向けたフランジ状の当てがい面71を有する円筒型形状に形成されている。この保持部材70は、その円筒内部に前述した内歯部材10と外歯部材20とを組み付けてから、その図示右手前側の他端を半径方向内方側に折り曲げてかしめることにより、外歯部材20の外盤面側に軸方向に面を向けたフランジ状の当てがい面72が形成されるようになっている。
【0043】
これにより、内歯部材10と外歯部材20とは、内歯部材10の外盤面と当てがい面71との間に僅かな隙間が設けられた状態として、互いの相対回転が阻害されない状態として保持部材70の両当てがい面71,72によって軸方向に保持された状態に組み付けられている。
【0044】
次に、前述した内歯車11と外歯車21の歯形について、図7〜図11を用いて説明する。ここで、図7には、内歯車11のピッチ円11pと、外歯車21のピッチ円21pと、両歯車11,21の内歯11aと外歯21aとが噛合う点の軌跡として描かれる噛合い線Trとが示されている。本実施例では、この両歯車11,21の噛合う噛合い線Trが、中心点Toのまわりに描かれる円弧となるように設定されている。そして、この噛合い線Trを基にして、内歯11aや外歯21aの歯形がそれぞれ次の手順によって求められている。
【0045】
先ず、内歯11aの歯形の求め方について説明する。ここで、上述した各ピッチ円11p,21pの直径は、予め設定された各歯車の歯数(内歯車11の歯数:34、外歯車21の歯数:33)とモジュール(2.6)との積によって与えられている。具体的には、内歯車11のピッチ円11pの直径は88.4mmとして、外歯車21のピッチ円21pの直径は85.8mmとしてそれぞれ与えられている。
【0046】
そして、各ピッチ円11p,21pは、同図におけるピッチ点Pにおいて互いに接触して与えられており、その幾何学的関係から、それらの中心点11r,21r間の距離が1.3mmとして与えられている。なお、噛合い線Trの噛合い領域Geは、後述する内歯車11の有効歯先円11hと交わる点(交点a)と、外歯車21の有効歯先円21hと交わる点(交点b)と、の間に描かれる円周方向の角度領域に設定されている。
【0047】
ここで、図8に示されるように、上述した噛合い線Trの円弧の中心点Toは、上述したピッチ点Pと各ピッチ円11p,21pの中心点11r,21rとを通って真っ直ぐに延びる基準直線Yから外れた位置に設定されている。詳しくは、噛合い線Trの中心点Toは、上述した基準直線YをY軸とし、この基準直線Yに垂直でかつ内歯車11のピッチ円11pの中心点11rを通る垂直線XをX軸とした場合のXY座標平面において、図示右上側に区画された第1象限となる領域内(ハッチングを施した領域内)の位置に設定されている。
【0048】
より詳しくは、噛合い線Trの中心点Toは、同図において外歯車21のピッチ円21pの中心点21rから垂直線Xの延びる方向に1.5mm離間した位置に設定されている。これにより、噛合い線Trは、図7において半径方向の内側に位置する有効歯先円11hの曲線上から、両有効歯先円11h,21h間の間隔が広くなる側の円周方向(図示時計回り方向)に延びて、半径方向の外側に位置する有効歯先円21hの曲線と交わる円弧曲線として描かれている。
【0049】
続いて、内歯車11の歯形を求める。先ず、図9に示されるように、上述した噛合い線Trの線上の位置に任意の点Oを定め、更に、点Oから順に少しずつ離れた位置に点B1,B2,B3,・・・を任意に定めていく。次に、点Oを通るピッチ点Pから延びる線分P−Oの垂直線Ve1を引く。そして、上述した内歯車11の中心点11rと、点B1及びピッチ点Pとの相対的な位置関係を変えないで、点B1及びピッチ点Pを、中心点11rの回りに紙面内時計回り方向に回転させる。そして、この回転により、点B1と垂直線Ve1とが交わった点を点A1として定め、この回転によるピッチ点Pの移動後の点を点P1として定める。
【0050】
次に、点A1を通る点P1から延びる線分P1−A1の垂直線Ve2を引く。そして、内歯車11の中心点11rと、点B2及びピッチ点Pとの相対的な位置関係を変えないで、点B2及びピッチ点Pを、中心点11rの回りに紙面内時計回り方向に回転させる。そして、この回転により、点B2と垂直線Ve2とが交わった点を点A2として定め、この回転によるピッチ点Pの移動後の点を点P2として定める。
【0051】
同じように、点A2を通る点P2から延びる線分P2−A2の垂直線Ve3を引く。そして、内歯車11の中心点11rと、点B3及びピッチ点Pとの相対的な位置関係を変えないで、点B3及びピッチ点Pを、中心点11rの回りに紙面内時計回り方向に回転させる。そして、この回転により、点B3と垂直線Ve3とが交わった点を点A3として定め、この回転によるピッチ点Pの移動後の点を点P3として定める。
【0052】
そして、このように得られた点O,A1,A2,A3,・・・を滑らかに結ぶと、これが内歯車11の歯形の一部となる。なお、外歯車21の歯形も、同じようにして噛合い線Tr上に定めた任意の各点をピッチ点Pと共に外歯車21の中心点21rの回りに順に回転移動させていく手法によって得ることができる。なお、このように二つのピッチ円11p,21pと噛合い線Trとの幾何学的関係からそれぞれの歯形を求める手法は、公知の手法であり、刊行物(福永節夫ら著、「図説 機構学」、第1版、理工学社、1972年4月10日、図10.2)に記載されている。
【0053】
したがって、上記の手法を用いることにより、図10に示されるように内歯車11と外歯車21の歯形を得ることができる。ここで、内歯車11や外歯車21の歯先や歯底には、それらのプレス成形時に必要なR形状部(丸みを付けた形状部)R1〜R4がそれぞれ設定されている。このうち、内歯車11の歯先に形成されたR形状部R1は、内歯車11において実質的に噛合って機能する歯部の先端を指す有効歯先円11hと実質的には噛合しないが歯の形状自体の先端を指す歯先円11mとの間の形状部にそれぞれ丸みをつけるように形成されている。
【0054】
また、内歯車11の歯底となるR形状部R2は、内歯車11において実質的に噛合って機能する歯部の根元端を指す有効歯底円(図示省略)と実質的には噛合しないが歯の形状自体の根元端を指す歯底円11nとの間の形状部にそれぞれ丸みをつけるように形成されている。そして、外歯車21の歯先となるR形状部R3は、外歯車21において実質的に噛合って機能する歯部の先端を指す有効歯先円21hと実質的には噛合しないが歯の形状自体の先端を指す歯先円21mとの間の形状部にそれぞれ丸みをつけるように形成されている。
【0055】
また、外歯車21の歯底となるR形状部R4は、外歯車21において実質的に噛合って機能する歯部の根元端を指す有効歯底円(図示省略)と実質的には噛合しないが歯の形状自体の根元端を指す歯底円21nとの間の形状部にそれぞれ丸みをつけるように形成されている。
【0056】
このように、本実施例のリクライニング装置4(連結装置)では、図8において前述したように、内歯車11と外歯車21との噛合い線Trが、ピッチ点Pと両ピッチ円11p,21pの中心点11r,21rとを通る基準直線Yから外れた位置を中心に描かれる円弧曲線によって描かれる。したがって、トロコイド曲線の歯形より成る歯車列のように噛合い線の円弧の中心が基準直線Y上の位置に設定される噛合い線と比べると、噛合い線の長さを長く確保できるようにその形を多様に設定することができるため、噛合い率を高めることができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態を一つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施できるものである。例えば、本発明の歯車は、上記実施例で示したリクライニング装置としての用途以外にも、互いに動力伝達可能に噛合した状態で設けられる歯車列を構成する様々な構成に適用することができる。また、リクライニング装置としての連結装置は、傾動式シートバックを車体フロアに対して連結する用途にも適用することができる。
【0058】
また、連結装置を、シート本体を車体フロアに対して旋回方向に回転させられるように連結する用途にも適用することができる。また、連結装置を、着座者の下腿部を下方側から持ち上げて支持するいわゆるオットマン装置をシートクッションや車体フロアに対して傾動可能に連結する用途にも適用することができる。
【0059】
また、上記実施例において、外歯車が内歯車よりも歯数が多く形成されたものであってもよい。この場合には、外歯車の相対的な公転運動に伴って、外歯部材が内歯部材に対して上記実施例で示した方向とは逆方向に相対回転することとなる。また、噛合い線として描かれる円弧線は、直線が小刻みに折り曲げられて曲線に近似した線として描かれたものであってもよい。また、噛合い線の円弧の中心点は、両ピッチ円の中心点とを通る基準直線から外れた位置に設定されていれば良く、第1象限から外れた領域に設定されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1のリクライニング装置の分解斜視図である。
【図2】車両用シートの概略構成を表した斜視図である。
【図3】リクライニング装置の組み付け構造を表した分解斜視図である。
【図4】図3のIV-IV線断面図である。
【図5】図4のV-V線断面図である。
【図6】リクライニング装置が回転操作された状態を表した構成図である。
【図7】両歯車の噛合い線及びその噛合い領域を定める二つの円を表した構成図である。
【図8】噛合い線の中心点の設定位置を示した模式図である。
【図9】噛合い線から内歯車の歯形を求める手順を示した構成図である。
【図10】形成された内歯車及び外歯車の歯形を拡大して表した模式図である。
【図11】内歯車及び外歯車の全体形状を表した模式図である。
【符号の説明】
【0061】
1 車両用シート
2 シートバック
2f バックフレーム
2a ダボ孔
2b Dダボ孔
2c 軸孔
3 シートクッション
3f クッションフレーム
3a ダボ孔
3b Dダボ孔
3c 大孔
4 リクライニング装置
4c 連結軸
4r 連結ロッド
10 内歯部材
11 内歯車
11a 内歯
11r 中心点
11p ピッチ円
11h 有効歯先円
11m 歯先円
11n 歯底円
12 筒部
12a 軸孔
13a ダボ
13b Dダボ
20 外歯部材
21 外歯車
21a 外歯
21r 中心点
21p ピッチ円
21h 有効歯先円
21m 歯先円
21n 歯底円
22 大孔
23a ダボ
23b Dダボ
30A,30B 偏心部材
31A,31B 突部
40 バネ部材
41A,41B 掛部
50 操作部材
50a 軸孔
51 筒部
52A,52B 押部
70 保持部材
71 当てがい面
72 当てがい面
Tr 噛合い線
To 中心点
P ピッチ点
O 点
B1〜B7 点
A1〜A7 点
P1〜P7 点
Ve1〜Ve7 垂直線
Ge 噛合い領域
R1〜R4 R形状部
a,b 交点
Y 基準直線
X 垂直線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに動力伝達可能に噛合した状態で設けられる歯車列を構成する歯車であって、
前記歯車列の噛合い線はその噛合い領域を定める二本の曲線のうち半径方向の内側に位置する曲線上から当該二本の曲線間の間隔が広くなる側の円周方向に延びて半径方向の外側に位置する曲線と交わる円弧曲線として形成されており、該円弧曲線はその円弧の中心点が前記歯車列の各ピッチ円同士が接触するピッチ点と各ピッチ円の中心点とを通って真っ直ぐに延びる基準直線から外れた位置に設定されていることを特徴とする歯車。
【請求項2】
請求項1に記載の歯車であって、
前記歯車列の噛合い線を形成する円弧曲線はその円弧の中心点が前記基準直線をY軸とし該基準直線に垂直でかつ一方の歯車のピッチ円の中心点を通る垂直線をX軸とした場合のXY座標平面において第1象限となる領域内の位置に設定されていることを特徴とする歯車。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の歯車を用いた連結装置であって、
該連結装置は、車両用シートのシートバックとシートクッションとを連結するリクライニング装置として構成されており、
該リクライニング装置は、
前記シートバック或いはシートクッションの一方に連結される内歯車を備えた内歯部材と、
該内歯部材の内歯車に噛合した状態で組み付けられる外歯車を備え前記シートバック或いはシートクッションの他方と連結される外歯部材と、を有し、
前記外歯車は前記内歯車よりも小径で、かつ、互いに異なる歯数に形成されており、該外歯車と前記内歯車との噛合によって前記歯車列が形成されており、前記外歯車が前記内歯車の内周歯面上を相対的に噛合い位置を変えながら周回する動きによって前記シートバックの背凭れ角度が変動するようになっていることを特徴とする連結装置。
【請求項4】
請求項3に記載の連結装置であって、
前記内歯車は半抜き加工によって円筒状に突出して形成され、前記外歯車も半抜き加工によって円筒状に突出して形成され、
前記内歯部材にはその内歯車の中心部に軸方向に円筒状に突出した筒部が形成されており、前記外歯部材にはその外歯車の中心部に前記内歯部材に形成された筒部を内部に受け入れることのできる円形状の貫通孔が形成されており、該筒部と貫通孔とは前記両歯車の噛合状態では互いの中心部が偏心した配置関係となっており、
更に、前記内歯部材の筒部と該筒部を受け入れる外歯部材の貫通孔との間の隙間内には該隙間の一部を埋める形状を持つ一対の偏心部材が配設されており、該一対の偏心部材は常時は附勢によって互いが前記隙間形状の狭くなる領域に向けて挟込み状に入り込んで前記外歯車を内歯車の内周歯面に押し付けた状態に保持しており、そのどちらか一方側の偏心部材が円周方向に押動操作されることにより該一方側の偏心部材が狭い隙間から押し出されると共に前記外歯部材の貫通孔の内周面を押圧して前記外歯車を周回させるようになっていることを特徴とする連結装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−25133(P2010−25133A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183514(P2008−183514)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】