説明

毛包アポトーシス反応阻害剤および毛髪化粧料組成物

【課題】毛包アポトーシスに起因する抜け毛防止と、それによる健やかな髪の毛の成長促進効果のある毛包アポトーシス阻害剤、および毛包アポトーシス阻害剤を配合した毛髪化粧料組成物を提供する。
【解決手段】抗酸化物質および抗炎症物質を共に含むことにより、効果に優れた毛包アポトーシス阻害剤および毛包アポトーシス阻害剤を用いた毛髪化粧料組成物を構成する。抗酸化物質としてはピロクトンオラミンや特定の群から選ばれる植物エキス、カロテノイド、アスコルビン酸、コエンザイムQ10、グルタチオンなど、抗炎症物質としてはグリチルレチン酸及びまたはその誘導体、グリチルリチン酸及びまたはその塩、アラントイン、抗酸化物質とは別の特定の群から選ばれる植物エキスなどが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抜け毛防止効果に優れ、健やかな髪の毛の成長を促す毛包アポトーシス反応阻害剤、および毛包アポトーシス反応阻害剤を含む毛髪化粧料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
頭皮は、皮脂の過剰分泌、あるいは頭皮微生物による皮脂等の分解に起因する脂肪酸と紫外線の作用によって生じる過酸化脂質や、カラーリング剤などの使用時に用いられる過酸化水素などの酸化ストレスに曝されている。従来、こうした酸化ストレスの生体に及ぼす影響としては、頭皮の外側に伸びた毛髪にダメージを与えることが知られており、こうしたダメージを軽減する組成物が種々、開示されてきた。
【0003】
しかしながら、頭皮の表面で生じた酸化ストレスが、頭皮の深部に存在する毛包器官に及ぼす影響については、これまで殆ど研究がなされてなく、従って、これらを対象にした組成物は開示例がない。
一方、抗炎症剤であるグリチルレチン酸と抗酸化剤であるピロクトンオラミンを併用した白髪の防止・抑制、フケ・かゆみ防止剤が既に開示されている(特許文献1)が、毛包細胞への影響や抜け毛防止効果については何ら言及していない。
【特許文献1】特開2001−89329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、毛包アポトーシスに起因する抜け毛防止と、それによる健やかな髪の毛の成長促進効果のある毛包アポトーシスを阻害剤、および毛包アポトーシス阻害剤を配合した毛髪化粧料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これまで不明であった頭皮の酸化ストレスが毛包器官に与える影響を調べた結果、過酸化脂質あるいは過酸化水素によって、毛包にアポトーシスと呼ばれる反応が生じることが判明した。よく知られているように、毛髪の成長は、髪の毛が成長する成長期、成長が停止する退行期、成長が全く見られない休止期に分類される一定の周期に沿ってコントロールされているが、アポトーシス反応は、この内、退行期で起こっていることがわかっている。そこで、更に検討を進めた結果、頭皮の酸化ストレスによって通常よりも早く退行期に移行してしまうこともわかった。これらの結果から、頭皮の酸化ストレスは従来いわれてきた毛髪のダメージだけではなく、髪の毛の成長にも悪影響を与えていることが判明した。
【0006】
こうした頭皮表面で生じた酸化ストレスが毛包に与える悪影響を軽減することで、毛包に生じたダメージに起因する抜け毛防止作用を図り、それにより健やかな髪の毛の成長を促進すること、及び抜け毛防止効果に優れた毛髪化粧料組成物を提供する目的を達成するために、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、抗酸化物質と抗炎症物質を併用した場合のみに、目的とする作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は<1> 抗酸化物質および抗炎症物質を含むことを特徴とする毛包アポトーシス阻害剤である。
更に<2> 抗炎症物質がグリチルレチン酸及びまたはその誘導体、グリチルリチン酸及びまたはその塩、アラントイン、アロエベラエキス、アルテアエキス、アルニカエキス、イチョウエキス、オウバクエキス、オタネニンジンエキス、オドギリソウエキス、カミツレエキス、カワラヨモギエキス、キダチアロエエキス、クチナシエキス、クマザサエキス、ケープアロエエキス、シナノキエキス、シラカバ樹皮エキス、スギナエキス、エイヨウキズタエキス、セージエキス、ゼニアオイエキス、センブリエキス、ソウハクヒエキス、チョウジエキス、トウキエキス、トウキンセンカエキス、ドクダミエキス、ブクリョウエキス、ヘチマエキス、ベニバナエキス、バチルアルコール、ムクロジエキス、ボタンエキス、ユキノシタエキス、ヨモギエキス、ワレモコウエキス、アスピリン、インドメタシン、フェルナビクからなる群より選ばれた1種または2種以上を含む<1>の毛包アポトーシス阻害剤である。
また、<3> 抗酸化物質がピロクトンオラミン、アシタバエキス、ウーロン茶エキス、ウコンエキス、オウゴンエキス、オウレンエキス、オリザノール、コメヌカ発酵エキス、コメ胚芽油、コンフリーエキス、シソエキス、シャクヤクエキス、ダイズエキス、チャエキス、トコフェロール、トコトリエノール、ビワ葉エキス、マロニエエキス、ラクトフェリン、ラベンダーエキス、ローズマリーエキス、カロテノイド、アスコルビン酸、コエンザイムQ10、グルタチオンからなる群より選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする<1>または<2>の毛包アポトーシス阻害剤である。
さらに<4> <1>〜<3>記載の毛包アポトーシス阻害剤を有効成分として含むことを特徴とする毛髪用組成物。
【0008】
本発明の抗炎症剤であるグリチルリチン酸及びまたはその塩、グリチルレチン酸及びまたはその誘導体としては、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸アンモニウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸メチル、β−グリチルレチン酸、グリチルレチン酸ステアリルなどが挙げられ、中でもβ−グリチルレチン酸、グリチルリチン酸ジカリウムが好ましい。
【0009】
本発明に使用される抗酸化剤は、ヒドロキシピリドン誘導体が好ましく、1−ヒドロキシ−4−メチル−6−フェニル−ピリドン、ヒドロキシ−4−メチル−ピリドン、ピロクトンオラミンなどが挙げられるが、ピロクトンオラミンが特に好ましい。
【0010】
本発明の組成物における抗炎症物質の配合量は、通常0.001〜2.0%であるが、0.01〜1.0%が好ましく、特に0.05〜0.5%がより好ましい。配合量が少なすぎると十分な効果が得られない場合がある。
また、本発明の組成物における抗酸化物質の配合量は、通常0.001〜2.0%であるが、0.005〜1.0%が好ましく、特に0.01〜0.5%がより好ましい。配合量が少なすぎると十分な効果が得られない場合があり、多すぎると皮膚刺激が生じる可能性が高まり、本発明の目的に適合しない。
【0011】
本発明の組成物には、酸化ストレスが毛包に与える悪影響を軽減する効果を増強させるために、既知の薬効成分、例えば、血行促進剤、細胞賦活剤、抗男性ホルモン剤、保湿剤、アミノ酸類等を配合することができる。また、上記薬効成分以外の任意の成分、例えば、精製水、エタノール、セルロース類、界面活性剤、油脂類、エステル油、高分子樹脂、色材、香料、紫外線吸収剤等を配合することができる。
本発明の毛髪用組成物に香料を配合する場合、通常用いられる香料を通常の量使用することができる。例えば特開2003−95895号に記載した香料、香料組成物に準じ、液状組成物全量に対して香料組成物が0.00001〜50質量%となるように配合すると好適であり、より好ましくは0.0001〜30質量%配合される。
【0012】
本発明の毛髪化粧料組成物は、常法に従って、均一溶液、ローション、ジェル、クリーム、エアゾール等の形態で使用することができる。
【0013】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の例において%は、質量%である。
(試験例)
マウス背部皮膚を6平方センチメートル抜毛処理し、次表に示す試験例1、2及び比較例1〜3の組成物を1日1回50μl、1週間塗布した。その後、0.1%過酸化リノレン酸を塗布し、酸化ストレスによる毛包部アポトーシス反応を惹起した。過酸化リノレン酸を塗布してから1日後に背部皮膚を採取し、市販アポトーシス検出キット(TACS2 アポトーシス検出キット:トレビゲン社)により、アポトーシス陽性細胞を染色し、全毛包数あたりのアポトーシス陽性毛包数の割合を算出した。
【0014】
【表1】

【0015】
表1に示すように、抗酸化物質(表1ではピロクトンオラミン)及び抗炎症物質(表1ではグリチルレチン酸)単独では、毛包に生じるアポトーシス反応を予防することができないが、併用することで毛包のアポトーシスを予防することが可能であることが判明した。
【0016】
(実施例1〜4、比較例4〜8)
表2に示す実施例1〜4、比較例4〜8のトニック剤を調製し、その抜け毛防止を評価した。表2に示す組成の育毛トニック剤を常法により製造し、それらを使用したときのフケ防止効果及び洗髪時の抜け毛予防効果について試験した。試験方法は次のとおりである。結果を表2に示す。
【0017】
(試験方法)
1:抜け毛予防効果
洗髪時に抜け毛数の多い、やや頭髪が薄くなったことを自覚する男性100名を10名ずつ10群に分け、各群に対して調製した育毛トニック剤を1日1回2mLとし、1ヶ月間頭皮に塗布した。それぞれにつき、塗布開始前連続3日間の洗髪時の抜け毛本数の1人当たり平均(A)と使用1ヵ月後の連続3日間の洗髪時の抜け毛本数の1人当たり平均(B)の相対値(B/A×100)を求め、その相対値の和を人数で平均化した。
【0018】
【表2】

【0019】
表2に示すように、抗酸化剤であるピロクトンオラミン及び抗炎症剤であるグリチルレチン酸単独では、抜け毛減少効果は認められないが、併用することで予防することが可能であることが判明した。
【0020】
以下に示す組成の毛髪化粧料組成物を常法により製造した。
実施例5(頭皮用エッセンス)
イソプロピルメチルフェノール 0.1%
アロエベラエキス 0.5
ポリエチレングリコール400 0.1
酢酸DL−α−トコフェロール 0.1
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(10EO) 2.0
ショ糖ミリスチン酸エステル 0.5
コレウスエキス 0.5
コハク酸 0.3
L−メントール 0.3
香料 0.05
メチルパラベン 0.1
95%エタノール 20
精製水 残部
【0021】
実施例6(育毛トニック)
イソプロピルメチルフェノール 0.1%
アラントイン 1.0
ポリエチレングリコール300 0.1
ペンタデカン酸グリセリド 2.5
ローズマリーエキス 0.1
ポリオキシエチレンステアリルエーテル(20EO) 2.0
ユカフォーマー AMPHOSET(三菱化学) 0.5
ミリスチン酸イソプロピル 3.0
L−メントール 0.2
香料 0.05
99%エタノール 80
精製水 残部
【0022】
実施例7(養毛剤)
イソプロピルメチルフェノール 0.1%
オウバクエキス 0.5
ポリエチレングリコール400 0.1
ポリオキシエチレンステアリルエーテル(20EO) 2.0
ラクトフェリン 0.1
L−メントール 0.2
香料 0.05
99%エタノール 80
精製水 残部
【0023】
実施例8(養毛剤)
6−ベンジルアミノプリン 3.0%
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(10EO) 2.0
β-グリチルレチン酸 1.0
ヒノキチオール 0.5
ポリエチレングリコール200 1.0
ピロクトンオラミン 0.1
ミリスチン酸イソトリデシル 2.0
メチルフェニルポリシロキサン 2.0
L−メントール 0.1
没食子酸オクチル 0.1
香料 0.05
99%エタノール 70
精製水 残部
【0024】
実施例9(養毛剤)
センブリエキス 3.0%
パントテニエーテル 0.5
ジンクピリチオン 1.0
ポリエチレングリコール2000 0.5
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(10EO) 2.0
POE(40)硬化ひまし油 0.5
トコトリエノール 1.0
L−メントール 0.1
クエン酸 0.1
香料 0.05
99%エタノール 20
精製水 残部
【0025】
実施例10(養毛剤)
セージエキス 1.0%
ポリエチレングリコール600 1.0
ピロクトンオラミン 0.05
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(20EO) 2.0
グルタチオン 0.1
パルミチン酸イソプロピル 2.0
メチルフェニルポリシロキサン 2.0
L−メントール 0.1
エチナシ葉エキス 1.0
コレウスエキス 0.2
香料 0.05
99%エタノール 70
精製水 残部
【0026】
実施例11(養毛剤)
ゼニアオイエキス 0.1%
ポリエチレングリコール600 3.0
β−グリチルレチン酸 0.05
イソプロピルメチルフェノール 0.05
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(20EO) 2.0
シソエキス 0.1
パルミチン酸イソプロピル 2.0
メチルフェニルポリシロキサン 2.0
L−メントール 0.1
エチナシ葉エキス 1.0
香料 0.05
99%エタノール 80
精製水 残部
【0027】
実施例12(育毛スプレー)
(原液)
イチョウエキス 0.2
ポリエチレングリコール600 2.0
アシタバエキス 1.0
ラウリン酸ソルビタン 0.5
オレイン酸エチル 0.1
クエン酸 0.3
ショ糖ラウリン酸エステル 0.5
香料 0.1
L−メントール 0.1
99%エタノール 残部
(原液/噴射剤:LPG) 80/20
【0028】
実施例13(育毛クリーム)
A油相部
コメ胚芽油 0.2%
イソプロピルメチルフェノール 0.1
ジメチルシリコーンガム(重合度12000) 1.0
ジメチルシリコーン(重合度500) 0.1
オレイン酸エチル 2.0
ミリスチン酸オクチルドデシル 1.5
流動パラフィン 1.0
モノステアリン酸ポリエチレングリコール(40EO)3.0
ヤシ油脂肪酸ソルビタン 2.0
モノステアリン酸グリセリン 1.0
セトステアリルアルコール 1.0
パントテニルエチルエーテル 0.5
プロピルパラベン 0.1
B水相部
N−ミリストイルバリン 4.0
オルニチン 1.0
ポリエチレングリコール1540 1.0
ポリエチレングリコール1500 1.0
1,3−ブチレングリコール 2.5
ジプロピレングリコール 2.5
メチルパラベン 0.25
チョウジエキス 0.2
精製水 残部
C:香料 適量
上記処方物A、Bを70℃でそれぞれ溶解し、BにAを加えて均一に乳化した。更に冷却しながらCを加えて育毛クリームを調整した。
【0029】
実施例13(育毛トニック)
6−ベンジルアミノプリン 0.5
ユキノシタエキス 0.05
イソプロピルメチルフェノール 0.2
ポリエチレングリコール400 3.0
POE(40)硬化ひまし油 0.2
酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体 0.1
L−メントール 0.1
チャエキス 1.0
コハク酸 0.05
エタノール 70
精製水 残部
【0030】
実施例14(エアゾール型育毛トニック)
(原液)
ヨモギエキス 0.05%
パントテニエーテル 0.2
ダイズエキス 0.02
ジグルコシル没食子酸 0.5
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(50%溶液) 0.1
ポリエチレングリコール300 0.5
L−メントール 0.5
クエン酸 0.05
香料 適量
エタノール 80
精製水 残部
(噴射剤)
ジメチルエーテル/窒素 30/1
(原液/噴射剤) 85/15
【0031】
実施例5〜14で得られた毛髪化粧料組成物はいずれも、抜け毛防止効果に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗炎症物質および抗酸化物質を含むことを特徴とした、毛包アポトーシス反応阻害剤。
【請求項2】
抗炎症物質が、グリチルレチン酸及びまたはその誘導体、グリチルリチン酸及びまたはその塩、アラントイン、アロエベラエキス、アルテアエキス、アルニカエキス、イチョウエキス、オウバクエキス、オタネニンジンエキス、オドギリソウエキス、カミツレエキス、カワラヨモギエキス、キダチアロエエキス、クチナシエキス、クマザサエキス、ケープアロエエキス、シナノキエキス、シラカバ樹皮エキス、スギナエキス、エイヨウキズタエキス、セージエキス、ゼニアオイエキス、センブリエキス、ソウハクヒエキス、チョウジエキス、トウキエキス、トウキンセンカエキス、ドクダミエキス、ブクリョウエキス、ヘチマエキス、ベニバナエキス、バチルアルコール、ムクロジエキス、ボタンエキス、ユキノシタエキス、ヨモギエキス、ワレモコウエキス、アスピリン、インドメタシン、フェルナビクからなる群より選ばれる1種または2種以上である請求項1の毛包アポトーシス反応阻害剤。
【請求項3】
抗酸化物質が、ピロクトンオラミン、アシタバエキス、ウーロン茶エキス、ウコンエキス、オウゴンエキス、オウレンエキス、オリザノール、コメヌカ発酵エキス、コメ胚芽油、コンフリーエキス、シソエキス、シャクヤクエキス、ダイズエキス、チャエキス、トコフェロール、トコトリエノール、ビワ葉エキス、マロニエエキス、ラクトフェリン、ラベンダーエキス、ローズマリーエキス、カロテノイド、アスコルビン酸、コエンザイムQ10、グルタチオンからなる群より選ばれる1種または2種以上である請求項1または2の毛包アポトーシス反応阻害剤。
【請求項4】
請求項1から3の毛包アポトーシス反応阻害剤を含む毛髪化粧料組成物。

【公開番号】特開2007−22923(P2007−22923A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−202692(P2005−202692)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】