説明

気体濃度分布測定装置

【課題】 簡単な構成で、ただ一つのガス分析計を使用し、複数の位置でそれぞれ同時に採取したガスを分析して気体濃度分布を測定すると共に、好ましくは、乱流フラックスを測定することができる気体濃度分布測定装置を提供する。
【解決手段】 互いに高さの異なる高度でそれぞれ開口する複数の採気口11a乃至11dと、各採気口に対して個別にそれぞれ低速の第一のポンプ18a乃至18d及び第一のバルブ20a乃至20dを介して接続した採気バッグ13a乃至13dと、各採気バッグからそれぞれ第二のバルブ22a乃至22dを介して、また共通の一つの高速の第二のポンプ23を介して接続するガス分析計30とで気体濃度分布測定装置10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の高度にて所定量の大気を採取して、各高度での気体の高さ方向の濃度分布を測定する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化がますます深刻な問題になってきており、このような地球温暖化を予測するためには、温室効果ガスであると推測されているCO2 (二酸化炭素)などのモニタリングが重要である。このような温室効果ガスのモニタリングのためには、温室効果ガスを連続測定し得る例えば赤外線ガス分析装置が利用される。
また、温室効果ガスのモニタリングのためには、一つの測定箇所において、互いに高さの異なる複数の高度にて、それぞれ大気を採取して、所謂微量濃度プロファイルを測定することが有用である。
【0003】
ところで、このような微量気体濃度プロファイルを測定するために、微量気体濃度を測定すべき各高度にて、それぞれガス分析計を備えて、各高度の微量気体濃度をそれぞれガス分析計により測定することは、赤外線ガス分析装置が高価であることもあって、一般的には行なわれない。このため、一台のガス分析計を使用して、各高度の大気や土壌中での微量気体濃度を測定することにより、微量気体濃度プロファイルの測定を行なうようにしている。
【0004】
このような微量気体濃度分布の測定方法においては、一台のガス分析計により各高度の大気を順次に時間的にずらしてサンプリングすることになる。
しかしながら、大気は所謂乱流状態にあって、比較的短い周期で微量気体濃度プロファイルが変動していることから、サンプリング周期が短くても、測定される微量気体濃度プロファイルに大きな誤差が生ずる可能性がある。
【0005】
また、測定高度が積雪中である場合、大気をサンプリングする流速が速いと、積雪のために当該測定高度における大気量が少ないことから、当該高度以外の周囲の大気や積雪粒子も採取してしまうことになるので、その高度における気体濃度を正確に測定することが困難になってしまう。したがって、例えば0.2ltr(リットル)/分という低速で大気のサンプリングを行なうようにしている。
しかしながら、このような低速で採取される微量の大気は、前述した赤外線ガス分析計で直接に計測することはできない。
【0006】
さらに、赤外線ガス分析装置によって、例えば高度10mにて、例えば10ltr/分の高速で大気を分析することによって、乱流フラックスを測定することが可能となるが、上述した微量気体濃度測定装置は、このような乱流フラックスも測定することができるようには構成されていない。
【0007】
これに対して、特許文献1乃至9には、種々の気体濃度を測定するための各種装置や方法が開示されている。
即ち、特許文献1には、多点から同時にガスを採取して、採取したガスにレーザ光を照射することにより、燃焼生成物の濃度を測定する技術が開示されている。
特許文献2には、多点からガスを計測順に分析計に送出して、大気中のCO濃度等を測定する技術が開示されている。
また、特許文献3乃至5には、多点からの土壌ガス,空気等を、管を切り換えながら採取して、それぞれ分析を行なう技術が開示されている。
また、特許文献6には、多点から空気を採取管を介して連続的に吸引して、この空気を分析し、メタン濃度等を測定する技術が開示されている。
さらに、特許文献7には、多点で空気を採取器にサンプリングする技術が開示されている。
【0008】
これに対して、特許文献8及び9には、多点からガスをエアバッグ内にサンプリングして、ガスフラックス(乱流)を測定する技術が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開2001−004543号公報
【特許文献2】特開平08−122230号公報
【特許文献3】特開2001−221725号公報
【特許文献4】特開平10−281975号公報
【特許文献5】特開2001−165919号公報
【特許文献6】特開平06−317508号公報
【特許文献7】特開平11−223583号公報
【特許文献8】特開平08−261891号公報
【特許文献9】特開平08−261892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1によれば、低速でガスを採取して、高速でガスを分析するようには構成されておらず、さらに乱流フラックスを測定する技術も開示されていない。
また、特許文献2によれば、多点からのガスを同時に低速で個別に採取し、採取した各ガスをそれぞれ個別に分析するようには構成されておらず、また乱流フラックスを測定する技術も開示されていない。
さらに、特許文献3乃至5によれば、低速でガスを採取して、高速でガスを分析するようには構成されていない。
また、特許文献6によれば、同様に低速でガスを採取して、高速でガスを分析するようには構成されていない。
さらに、許文献7によれば、連続的または周期的に空気をサンプリングすることは想定されておらず、したがって、多点から同時にガスを採取して、分析する技術は開示されていない。
最後に、特許文献8及び9には、低速でガスを採取して、高速でガスを分析するようには構成されていない。
【0011】
このように、従来技術においては、ただ一つのガス分析計を使用して、複数の高度でそれぞれ同時に採取したガスを分析して、気体濃度分布を測定すると共に、乱流フラックスを測定することができるようにした、気体濃度分布測定装置が得られていない。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑み、簡単な構成により、ただ一つのガス分析計を使用して、複数の位置でそれぞれ同時に採取したガスを分析して、気体濃度分布を測定すると共に、好ましくは、乱流フラックスを測定することができるようにした、気体濃度分布測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の気体濃度分布測定装置は、互いに異なる位置でそれぞれ開口する複数の採気口と、各採気口に対して個別にそれぞれ第一のポンプ及び第一のバルブを介して接続された採気バッグと、各採気バッグからそれぞれ第二のバルブを介して、そして共通の一つの第二のポンプを介して接続される、導入ガス中の気体濃度を測定するためのガス分析計と、を含んでおり、各第一のバルブが同時に開閉制御されて、その開放時に第一のポンプにより低速で各採気バッグに大気が採取され、各採気バッグに所定量の空気を採取したときに第一のバルブが閉じられ、次に、第二のバルブが順次に開放されて、第二のポンプにより各採気バッグ内に採取された大気が順次に高速でガス分析計に送出され、ガス分析計により気体濃度が計測されることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、すべての第一のバルブを開放して、すべての第一のポンプを運転することにより、各採気口からそれぞれ対応する採気バッグ中に、大気を低速で吸引して採取する。
次に、第二のバルブを順次に開放して、各採気バッグから採取された大気を順次に第二のポンプにより高速でガス分析計に送出する。
これにより、ガス分析計は、各採気口付近の時間平均された大気濃度を検出し、各採気口が開口する位置における大気濃度、大気濃度分布を測定することが可能である。
【0015】
この場合、例えば、種々の高度で開口する各採気口から、同時に所定量の大気が採取される。したがって、各採気口での大気の採取に時間的ずれがない。その際、大気の採取が低速で行なわれることから、採気口が積雪中あるいは土壌中であっても、当該採気口周辺の大気や積雪粒子等を吸引してしまうようなことがなく、当該採気口付近の大気が確実に採取される。
【0016】
また、各採気バッグには十分な量の大気が採取されるので、ガス分析計は、分析に必要な量の大気が高速で送り込まれる。このため、当該大気のガス分析を、短時間に、かつ、正確に行なうことができる。この際、大気中に含まれる微量ガスの分析も行うことができる。
【0017】
上記構成において、好ましくは、さらに、複数の採気口とは異なる位置に開口する乱流測定用の採気口が備えられていて、この採気口が、三方弁を介して第二のポンプの吸引側に接続され、採気口付近の大気を吸引してガス分析計に送出することにより、採気口付近の乱流フラックスを測定する。
上記構成によれば、各採気口から採気バッグに大気が低速で採取されている間に、この乱流測定用の採気口から三方弁を介して第二のポンプにより高速で大気を吸引してガス分析計に送出することにより、ガス分析計は、乱流測定用の採気口から大気を連続的に分析することによって、当該乱流測定用の採気口付近の乱流フラックスを測定することが可能になる。
【0018】
上記構成において、好ましくは、三方弁が、第一のバルブ開放時に第一のポンプにより各採気バッグに大気が採取されている間に、乱流測定用の採気口側を第二のポンプに対して開放する。この構成によれば、ガス分析計により、採気バッグへの大気の採取の間の待ち時間を利用して、当該乱流測定用の採気口付近の乱流フラックスを測定することができる。
【0019】
上記構成において、好ましくは、気体濃度分布測定装置が、さらに、制御部を備えている。また、好ましくは、各第一のバルブ及び各第二のバルブと、第一のポンプ及び第二のポンプと、を制御する制御部を備えている。また、好ましくは、三方弁が、制御部により制御される。
上記構成によれば、制御部を使用することにより、大気の採気において、各第一のバルブ及び各第二のバルブと、第一のポンプ及び第二のポンプと、所定のタイミングで正確に制御することができる。また、乱流測定を所定のタイミングで正確に制御することができる。
【0020】
上記構成において、制御部は、さらに、ガス分析計により計測される気体濃度データを記録するメモリ手段を備えている。また、好ましくは、制御部は、気体濃度分布測定装置を遠隔地から制御する通信手段を備えている。この構成によれば、ガス分析計により計測される気体濃度をメモリ手段に保存することができる。また、通信手段により、測定データを遠隔地に送出したり、遠隔地からの測定指令が受信できるので、無人で大気に含まれる気体の濃度の長時間の測定が可能となる。
【0021】
上記構成において、気体濃度分布測定装置は、好ましくは、さらに、風速計を備えている。この構成によれば、ガス分析計により計測される気体濃度データと共に、例えば、採気口の風速も併せて測定することができる。
【0022】
上記構成において、気体濃度分布測定装置は、好ましくは、さらに、温度計を備えている。この構成によれば、ガス分析計により計測される気体濃度データと共に、例えば採気口が設置されている箇所の気温も併せて測定することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、各採気口から大気を低速で採取することによって、採気口が積雪中あるいは土壌中に在る場合でも、確実に採気口付近の大気を採取することができると共に、各採気口からの大気が同時に採取されることにより、乱流フラックスが発生していても、正確に同一時点での大気を採取することができるので、平均化された気体濃度分布や、気体濃度分布を正確に測定することが可能になる。
さらに、採気バッグへの大気の採取の間の待ち時間を利用して、乱流測定用の採気口から高速で大気を吸引してガス分析計に送出することにより、ガス分析計が乱流測定用の採気口から大気を連続的に分析して、当該乱流測定用の採気口付近の乱流フラックスを測定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に示した実施形態に基づいて、この発明を詳細に説明する。
図1は、本発明による気体濃度分布測定装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。図1において、気体濃度分布測定装置10は、採気口11と、採気口11から大気を採気する大気採気部5(図1の点線で囲んだ部分)と、採気部5で採気した大気を分析するガス分析計30と、を含んで構成されている。採気部5は、制御部31により制御される。
【0025】
採気口11は、互いに異なる位置で開口する複数個、図示の場合、4個の大気の採気口11a,11b,11c,11d及び乱流測定用の採気口11eからなっている。
大気採気部5は、各採気口11a乃至11eから延びる採気管12a乃至12eと、採気管12a乃至12dの先端に接続された採気バッグ13a乃至13dと、各採気バッグ13a乃至13dから延びる吸引管14a乃至14dが一つに合流する吸引管14eと、採気管12eが流入側に接続される三方弁15などから構成されている。この三方弁15から送出管16を介して、ガス分析計30が接続される。
ここで、複数の大気の採気口11a,11b,11c,11dは4個の場合を示しているが、所望の三次元配置による気体濃度分布が得られるように、高さを変えた位置などに必要な個数を設置すればよい。また、乱流測定用の採気口11eは、複数の採気口11a,11b,11c,11dとは異なる別の位置に、設置することが好ましい。
なお、本発明において、乱流とは、大気による風速や、大気に含まれている気体濃度の高周波濃度成分などを含むものである。
【0026】
上記大気採気部5において、各採気管12a乃至12dには、採気口側から順に、フィルタ17a乃至17d,第一のポンプ18a乃至18d,流量調整バルブ19a乃至19d,第一のバルブとなる三方弁20a乃至20d,流量計21a乃至21dが接続されていると共に、採気管12eには、同様にフィルタ17e,流量調整バルブ19eが接続されている。
また、上記各吸引管14a乃至14dには、第二のバルブとなる二方弁22a乃至22dが接続されている。そして、吸引管14eには、流量調整バルブ22eが接続されている。
さらに、上記送出管16には、三方弁15側から順に、第二のポンプ23,流量計24,三方弁25,流量計26が接続されている。この送出管16の三方弁25と流量計26との間には、外部から複数の標準ガス(図示の場合、2つ)32,33が、それぞれ、二方弁27a,27bを介して導入されるようになっている。
【0027】
上記採気口11a乃至11eは、例えば測定箇所において、それぞれ高度0m,2m,3m,4m,10mにて開口するように配置されている。
なお、各採気口11a乃至11eは、雨水や積雪が進入しないように、下方を向いた漏斗を備えている。
【0028】
上記採気管12a乃至12eは、例えば耐候性のテフロン(登録商標)チューブ等から構成されており、それぞれ一端が採気口11a乃至11eに気密的に接続されていると共に、採気管12a乃至12dは、それぞれ採気バッグ13a乃至13dに気密的に接続されており、また採気管12eは、三方弁15の流入側に気密的に接続されている。
【0029】
上記採気バッグ13a乃至13dは、それぞれ、例えば医療用の商品名テドラーバッグ等として市販されている伸縮可能な気密バッグから構成されている。
【0030】
上記吸引管14a乃至14eは、採気管12a乃至12eと同様に、例えば耐候性のテフロン(登録商標)チューブ等から構成されている。吸引管14a乃至14dは、それぞれ、一端が、各二方弁22a乃至22dを介して、採気バッグ13a乃至13dに気密的に接続されていると共に、他端が吸引管14eの一端に纒めて気密的に接続されている。また、吸引管14eの他端が、流量調整バルブ22eを介して、三方弁15の流入側に気密的に接続されている。
【0031】
上記三方弁15は、公知の構成の三方弁であって、例えば電磁弁として構成されており、流入側に接続された採気管12e、または、吸引管14eを択一的に流出側に切り換えるようになっている。
【0032】
上記送出管16は、同様に、例えば耐候性のテフロン(登録商標)チューブ等から構成されており、一端が三方弁15の流出側に気密的に接続されていると共に、他端がガス分析計30のガス導入口に対して気密的に接続されている。
【0033】
上記フィルタ17a乃至17eは、それぞれ公知の構成であって、採気口11a乃至11eから吸引される大気中に含まれる塵埃等の不純物を除去する。
【0034】
上記第一のポンプ18a乃至18dは、採気ポンプで、それぞれ公知の構成の所謂押込ポンプであって、例えば0.2ltr(リットル、1000cm3 )/分の低速で気体を吸引し、送出する。
【0035】
上記流量調整バルブ19a乃至19eは、それぞれ、採気管12a乃至12eを流れる気体の流量を調整することができるようになっている。流量調整バルブ19a乃至19e及び22eは、手動バルブやマスフローコントローラーを用いることができる。マスフローコントローラーの場合には、後述する制御部31により制御されてもよい。
【0036】
上記第一のバルブである三方弁20a乃至20dは、それぞれ公知の構成の三方弁であって、電磁弁として構成されており、流入側が各採気管12a乃至12dの上流側に、また一つの流出側が各採気管12a乃至12dの下流側に接続されると共に、他方の流出側が大気開放されている。
【0037】
上記流量計21a乃至21dは、それぞれ公知の構成の流量計であって、採気管12a乃至12d内を流れる気体の流量を計測する。
【0038】
上記第二のバルブである二方弁22a乃至22dは、それぞれ公知の構成の二方弁であって、電磁弁として構成されており、吸引管14a乃至14eをそれぞれ開閉する。
【0039】
上記第二のポンプ23は、公知の構成の吸引ポンプであって、例えば15ltr/分の高速で気体を吸引し、送出する。
【0040】
上記流量計24は、公知の構成の流量計であって、送出管16を流れる気体の流量を計測する。
【0041】
上記三方弁25は、公知の構成の三方弁であって、電磁弁として構成されており、流入側が送出管16の上流側に、また一つの流出側が送出管16の下流側に接続されると共に、他方の流出側が大気開放されている。
【0042】
上記流量計26は、公知の構成の流量計であって、送出管16からガス分析計30に流入する気体の流量を計測する。
【0043】
上記二方弁27a,27bは、それぞれ公知の構成の二方弁であって、電磁弁として構成されており、外部から導入される標準ガス32,33の通路をそれぞれ開閉する。
【0044】
上記ガス分析計30は、公知の構成の例えば赤外線ガス分析計であって、所定量の大気等のガスが導入口から導入されることにより、当該ガスの分析を行なって、例えば、H2 Oの気体濃度やCO2 等の微量気体濃度を検出し、あるいは乱流フラックスを測定するようになっている。また、上記ガス分析計30は、二方弁27a,27bを介して導入される異なる標準ガス32,33が導入口から導入されることにより、これらのガスの既知の濃度を測定の前や後、または前後に分析して、その結果に基づいて分析結果を較正するようになっている。
【0045】
上記気体濃度分布測定装置10は、さらに、制御部31を含んでいる。この制御部31は、コンピュータなどから構成されており、上述した三方弁15,第一のポンプ18a乃至18d,三方弁20a乃至20d,二方弁22a乃至22e,第二のポンプ23,三方弁25,二方弁27a,27bをそれぞれ所定のタイミングで開閉,切換えまたは駆動制御する。さらに、流量調整バルブ19a乃至19eの制御を行うこともできる。
【0046】
ここで、制御部31は、大気採取部5内の上記各弁の他に、第1のポンプ18a乃至18d及び第2のポンプ23を含む大気採取部5の制御を行うことができる。また、制御部31は上記ガス分析計30による測定データの通信機能を備えていてもよい。
さらに、制御部31は、ガス分析計により計測される気体濃度や乱流フラックスなどの計測データを保存し、蓄積できるメモリ手段や、遠隔地から測定指令の制御ができる手段、所謂テレメトリ手段を備えていてもよい。
このような制御部31は、マイクロプロセッサ、各種メモリ、通信用インターフェイスなどや、所定の制御プラグラム、所謂ソフトウェアを備えたコンピュータにより構成できる。コンピュータとしては、ガス分析計30による測定データの採取及び記録ができるデータロガーに、さらに、大気採取部5の制御と、通信機能と、プログラム制御可能な機能を備えた、所謂インテリジェントなデータロガーをも用いることができる。
これにより、制御部31は、ガス分析計により計測される微量気体濃度データ等を気体濃度分布測定装置が設置されている遠隔地で蓄積することができる。
また、気体濃度分布測定装置の測定者は、遠隔地への測定指令ができるので、無人で、大気に含まれる微量気体濃度などの各種測定データの長時間の測定が可能となる。
なお、採気口及び関連する構成部品は、採気口が4箇所として説明したが、測定に応じて必要な採気口及び関連する構成部品を設置すればよい。
【0047】
本発明の実施形態による気体濃度分布測定装置は以上のように構成されており、以下のように動作する。
最初に、気体濃度分布測定装置10に電源が投入されると、第一のポンプ18a乃至18dと、第二のポンプ23が起動する。次に、測定の前に、ガス分析計30の較正が行なわれる。
この較正のために、各弁が閉じられている状態から、二方弁27a,27bが順次に開放されることにより、標準ガス32及び較正用33ガスが、順次にガス分析計30の導入口から導入され、ガス分析計30によって標準ガスの分析が行なわれ、これらの分析結果に基づいて、分析結果の較正が行なわれる。
【0048】
このような較正が行なわれた後、気体濃度の分布測定が行なわれる。
即ち、まず第一のバルブである三方弁20a乃至20dが制御部31によって同時に開弁され、それぞれ採気バッグ13a乃至13dに、各採気口11a乃至11d付近の大気が採取される。その際、各第一のポンプ18a乃至18dは、0.2ltr/分の低速で大気を採取し、50分間採取して、それぞれ採気バッグ13a乃至13dに10ltrの大気を採取する。
【0049】
そして、このような採気バッグ13a乃至13dへ大気を採取している間、並行して、制御部31の制御によって、三方弁15が採気管12e側に切り換えられると共に、三方弁25がガス分析計30側に切り換えられ、また第二のポンプ23が動作開始することにより、採気口11e付近の大気がガス分析計30に導入される。その際、第二のポンプ23は、10ltr/分の高速で、連続的に大気を採取して、ガス分析計30に送出するので、ガス分析計30は、十分な量の大気に基づいて、連続的に大気の分析を行なうことができる。これにより採気口11eの高さにおける乱流フラックスの測定が行なわれ得ることになる。
【0050】
そして、50分経過後に、制御部31の制御によって、第一のバルブ20a乃至20dが閉じられ、各三方弁20a乃至20dが大気開放側に切り換えられる。これにより、各採気バッグ13a乃至13d内への大気の採取が終了すると共に、採気口11e付近の大気による乱流フラックスの測定が終了する。
【0051】
次に、制御部31の制御によって、三方弁15が吸引管14e側に切り換えられる。このとき、三方弁25がガス分析計30側に切り換えられ、その状態が保持されている。
次に、第二のバルブである二方弁22aが開弁され、第一の採気バッグ13a内に採取された大気が、吸引管14a,14eから三方弁15を介して、第二のポンプ23により、例えば10ltr/分の高速で送出管16を介してガス分析計30の導入口に導入される。
これにより、ガス分析計30は、第一の採気バッグ13a内の十分な量の大気が導入されることになり、その大気の分析を正確に行なうことができる。この分析結果により、例えば、H2 Oの気体濃度やCO2 ,CH4 等の微量気体濃度を計測する。
【0052】
そして、採気バッグ13a内の大気のガス分析が終了すると、制御部31の制御によって、三方弁25が大気開放されることにより、採気バッグ13a内に残った大気が外部に排出される。
これにより、採気バッグ13aが大気のない状態となる。このように、採気バッグ13aを伸縮可能な袋状の形状とすることにより、ガス分析に用いた大気以外の大気を排出して、大気のない状態とすることができる。したがって、前の測定で採取した大気が、次の測定のために吸い込む大気と混合されないようにできる。
続いて、制御部31の制御によって、二方弁22aが閉弁され、二方弁22bが開弁され、三方弁25がガス分析計30側に切り換えられることにより、第二の採気バッグ13b内に採取された大気が、吸引管14b,14eから、第二のポンプ23により高速で送出管16を介してガス分析計30の導入口に導入される。これにより、ガス分析計30は、十分な量の大気が導入され、当該大気の分析を正確に行なって、その分析結果により微量気体の濃度を計測する。
【0053】
同様にして、順次に二方弁22c,22dが開弁されることにより、順次に採気バッグ13c,13d内に採取された大気がそれぞれ高速でガス分析計30内に導入され、ガス分析計30により微量気体濃度が計測されることになる。
このようにして、各採気バッグ13a乃至13d内に同時に採取された大気が、二方弁22a乃至22dの順次の開弁によって、順次にガス分析計30内に高速で導入され、ガス分析されることによって、同一時点で互いに高さの異なる複数の採気口11a乃至11d付近から採取された大気中の微量気体濃度分布が測定され得る。
なお、上記説明においては、大気ガス分析後に残った大気は各採気バッグ13a乃至13d毎に外部に排出したが、大気ガス分析後に採気バッグ13a乃至13dの弁を全て開けて、まとめて排気してもよい。
【0054】
したがって、各採気口11a乃至11dから大気を採取する際には、対応する第一のポンプ18a乃至18dにより、例えば0.2ltr/分の低速で採取することにより、例えば採気口11a乃至11dの何れかが積雪中あるいは土壌中に在ったとしても、周辺の大気を吸引したり、積雪粒子等を吸引するようなことがなく、ガス分析計30でガス分析するために十分な量の大気を同時に採気バッグ13a乃至13dに採取することができる。また、例えば50分という比較的長時間に亘って、各採気口11a乃至11dから大気を採取することにより、所謂乱流フラックスの影響を低減して、平均値に近い濃度を計測することができる。
【0055】
さらに、ガス分析計30でガス分析を行なう場合には、各採気バッグ13a乃至13dに前もって十分な量の大気を採取しておき、各採気バッグ13a乃至13dから順次に第二のポンプ23により、例えば、10ltr/分の高速でガス分析計30に採取した大気を導入することができる。この吸引時間は1分である。このため、ガス分析計30は、十分な量の採取大気を短時間に導入し、かつ、正確にガス分析を行なうことができる。
【0056】
また、各採気バッグ13a乃至13dに大気を採取する間に、採気口11eから第二のポンプ23により高速で大気をガス分析計30に導入することによって、待ち時間を有効利用して、ガス分析計30により乱流フラックスの測定を、50分の間連続的に行なうことができる。
【0057】
本発明によれば、各採気口から大気を低速で採取することによって、採気口が積雪中あるいは土壌中に在る場合でも、確実に採気口付近の大気を採取することができると共に、各採気口からの大気が同時に採取されることにより、乱流フラックスが発生していても、正確に同一時点での大気を採取することができるので、微量気体濃度分布を正確に測定することが可能になる。
さらに、採気バッグへの大気の採取の間の待ち時間を利用して、乱流測定用の採気口から高速で大気を吸引してガス分析計に送出することにより、ガス分析計が乱流測定用の採気口から大気を連続的に分析して、当該乱流測定用の採気口付近の乱流フラックスを測定することが可能になる。
このようにして、本発明によれば、簡単な構成により、ただ一つのガス分析計を使用して、複数の高度でそれぞれ同時に採取したガスを分析して、微量気体濃度分布を測定すると共に、好ましくは乱流フラックスを測定することができるようにした、気体濃度分布測定装置が提供されることになる。
【0058】
次に、本発明の気体濃度分布測定装置の変形例について説明する。
図2は本発明による気体濃度分布測定装置の変形例の構成を示すブロック図である。
気体濃度分布測定装置20が、図1に示した気体濃度分布測定装置10と異なるのは、乱流測定用の採気口11eに、さらに、風速計40を備えていることである。この風速計は、採気口11e付近の大気の風速を測定し、測定データを制御部31に送出する。さらに、採気口11a乃至11eの気温を測定するための温度計が設けられて、制御部31に送出されてもよい。
本発明の気体濃度分布測定装置20によれば、気体濃度分布測定装置10の機能を有すると共に、さらに、採気口付近の大気の風速や温度の測定が可能となる。
【実施例】
【0059】
本発明による気体濃度分布測定装置を、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター・雨竜研究林の林内に設置した。
大気の採気口11a,11b,11c,11d及び乱流測定用の採気口11eは、それぞれ、高度0m,2m,3m,4m,10mにて開口するように配置し、採取した大気のCO2 濃度と、H2 O濃度と、乱流フラックスなどの測定を行った。この際、採気バッグ13a乃至13dは、10ltrの大気を採取できるものを使用し、大気を吸引する第一のポンプ18a乃至18dの吸引速度は0.2ltr/分であり、1回の大気採取時間は50分とした。また、第二のポンプ23の吸引速度は10ltr/分であった。そして、CO2 及びH2 Oの濃度測定には、ガス分析計として、赤外分光計(LI−COR社製、モデルLI−6262)を使用した。
【0060】
図3は、実施例における気体濃度分布測定装置10により測定された各種測定値の時間変化を示すグラフである。測定時間は、1回の大気採取、すなわち、50分の大気採取で行った。
図3において、(A)は水平方向の乱流フラックス(m/s),(B)は鉛直方向の乱流フラックス(m/s),(C)は気温(℃),(D)は高さ4mにおけるCO2 濃度(μmol/mol),そして(E)は高さ4mにおけるH2 O濃度(μmol/mol)をそれぞれ示し、横軸は時間を示している。
図から明らかなように、乱流フラックスが連続的に測定されていることが分かる。また、高さ4mにおけるCO2 濃度及びH2 O濃度が、それぞれ、約380〜395μmol/mol、10.1〜11.2μmol/mol程度の量であることが分かる。
【0061】
図4は、実施例における気体濃度分布測定装置10により測定されたCO2 の高さ方向の濃度分布を示すグラフである。図において、横軸はCO2 濃度(μmol/mol)を示し、縦軸は地面からの高度(m)を示している。ここで、CO2 濃度は、図2の測定における50分で採取した大気10ltrの平均値である。
図4から明らかなように、高さ0m、2m、3m、4mのCO2 濃度は、それぞれが、420μmol/mol、416μmol/mol、397μmol/mol、385μmol/mol程度であることと、地上から離れるに従い、CO2 濃度が減少する傾向があることが分かる。
【0062】
上記実施例の結果から、本発明の気体濃度分布測定装置によれば、簡単な構成により、ただ一つのガス分析計を使用して、複数の高度でそれぞれ同時に採取した大気を分析して、微量なCO2 及びH2 Oなどの気体濃度分布を測定できる共に、乱流フラックスを測定することができた。
【0063】
本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。上述した実施形態においては、採気バッグ13a乃至13dは、それぞれ例えば医療用のテドラーバッグを使用しているが、これに限らず、気密的に気体を収容できる容器であれば、任意の形式のバッグを使用することが可能である。
また、上述した実施形態においては、各採気口11a乃至11eは、それぞれ0m,2m,3m,4m,10mの高さに配置されているが、これに限らず、互いに異なる任意の位置に配置するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明による気体濃度分布測定装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明による気体濃度分布測定装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図3】実施例における気体濃度分布測定装置により測定された各種測定値の時間変化を示すグラフである。
【図4】実施例における気体濃度分布測定装置により測定されたCO2 の高さ方向の濃度分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
5:大気採気部
10:気体濃度分布測定装置
11:採気口
11a乃至11d:大気の採気口
11e:乱流測定用の採気口
12a乃至12e:採気管
13a乃至13d:採気バッグ
14a乃至14e:吸引管
15,25:三方弁
16:送出管
17a乃至17e:フィルタ
18a乃至18d:第一のポンプ(低速)
19a乃至19e:流量調整バルブ
20a乃至20d:第一のバルブ(三方弁)
21a乃至21d:流量計
22a乃至22d:第二のバルブ(二方弁)
22e:流量調整バルブ
23:第二のポンプ(高速)
24,26:流量計
27a,27b:二方弁
30:ガス分析計
31:制御部
32,33:標準ガス
40:風速計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる位置でそれぞれ開口する複数の採気口と、
該各採気口に対して個別にそれぞれ第一のポンプ及び第一のバルブを介して接続された採気バッグと、
各採気バッグからそれぞれ第二のバルブを介して、そして共通の一つの第二のポンプを介して接続される、導入ガス中の気体濃度を測定するためのガス分析計と、
を含んでおり、
上記各第一のバルブが同時に開閉制御されて、その開放時に第一のポンプにより低速で上記各採気バッグに大気が採取され、上記各採気バッグに所定量の空気を採取したときに第一のバルブが閉じられ、
次に、上記第二のバルブが順次に開放されて、上記第二のポンプにより各採気バッグ内に採取された大気が順次に高速でガス分析計に送出され、該ガス分析計により気体濃度が計測されることを特徴とする、気体濃度分布測定装置。
【請求項2】
さらに、前記複数の採気口とは異なる位置に開口する乱流測定用の採気口が備えられていて、この採気口が、三方弁を介して前記第二のポンプの吸引側に接続され、上記採気口付近の大気を吸引して前記ガス分析計に送出することにより、上記採気口付近の乱流フラックスを測定することを特徴とする、請求項1に記載の気体濃度分布測定装置。
【請求項3】
前記三方弁が、前記第一のバルブ開放時に前記第一のポンプにより各採気バッグに大気が採取されている間に、前記乱流測定用の採気口側を前記第二のポンプに対して開放することを特徴とする、請求項2に記載の気体濃度分布測定装置。
【請求項4】
前記気体濃度分布測定装置が、さらに、制御部を備えていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の気体濃度分布測定装置。
【請求項5】
前記各第一のバルブ及び各第二のバルブ及び前記第一のポンプ及び第二のポンプが、前記制御部により制御されることを特徴とする、請求項1又は4に記載の気体濃度分布測定装置。
【請求項6】
前記三方弁が、前記制御部により制御されることを特徴とする、請求項3又は4に記載の気体濃度分布測定装置。
【請求項7】
前記制御部が、前記ガス分析計により計測される気体濃度データを記録するメモリ手段を備えていることを特徴とする、請求項1又は4に記載の気体濃度分布測定装置。
【請求項8】
前記制御部が、気体濃度分布測定装置を遠隔地から制御する通信手段を備えていることを特徴とする、請求項1又は4に記載の気体濃度分布測定装置。
【請求項9】
前記気体濃度分布測定装置が、さらに、風速計を備えていることを特徴とする、請求項1〜8の何れかに記載の気体濃度分布測定装置。
【請求項10】
前記気体濃度分布測定装置が、さらに、温度計を備えていることを特徴とする、請求項1〜8の何れかに記載の気体濃度分布測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−133200(P2006−133200A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325735(P2004−325735)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【出願人】(304012507)有限会社クリマテック (1)
【Fターム(参考)】