説明

気化器

【課題】固体の粒子を安定的にを昇華させることが可能な気化器を提供する。
【解決手段】常温において固体状態である固体の粒子を気化させる気化器において、前記固体の粒子を供給するための供給部と、前記供給部より供給された前記固体の粒子を気化するための加熱部を有する気化部と、を有し、前記加熱部には傾斜が設けられており、前記固体の粒子は前記傾斜を転がりながら気化することを特徴とする気化器を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気化器に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスに用いられる材料は、近年無機材料から有機材料へと幅を広げつつあり、無機材料にはない有機材料の特質等から半導体デバイスの特性や製造プロセスをより最適なものとすることができる。
【0003】
このような有機材料の1つとして、ポリイミドが挙げられる。ポリイミドは密着性が高く、リーク電流も低いことから絶縁膜として用いることができ、半導体デバイスにおける絶縁膜として用いることも可能である。
【0004】
このようなポリイミド膜を成膜する方法としては、原料モノマーとして、無水ピロメリット酸(PMDA:pyromellitic dianhydride)と4,4'−オキシジアニリン(ODA:4,4'-oxydianiline)を用いた蒸着重合による成膜方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
この蒸着重合は、原料モノマーとして用いられるPMDA及びODAを昇華させてチャンバー内で重合させる方式であるが、良好なポリイミド膜を得るためには、気化させたPMDA及びODAを継続的に一定量チャンバー内に供給する必要がある。しかしながら、PMDAはODAよりも気化する温度が高く、継続して一定量をチャンバー内に供給することは困難であった。
【0006】
一方、昇華性を有する有機化合物材料を昇華させて成膜する成膜方法として、フラッシュ蒸着法を有機化合物材料の成膜に適用することができるよう改良した成膜方法が開示されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−141821号公報
【特許文献2】特開2004−346371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、成膜されたポリイミド膜を半導体素子の一部として用いる場合、密着性の高い良好なポリイミド膜が要求される。このため、PMDA及びODAを単に加熱することにより気化させてチャンバー内に供給する方法では、気化したPMDA及びODAを一定量継続して安定的に供給することが困難であるため、半導体素子の一部として用いることが可能な良好なポリイミド膜を得ることは困難である。
【0009】
また、引用文献2に記載される方法を利用して有機化合物材料を昇華させる場合であっても、PMDAを変質等させることなく厳密に気化したPMDAを一定量継続して安定的に供給することは困難である。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、PMDAを安定的に気化させてチャンバー内に供給することにより、半導体素子を形成する材料としても用いることが可能な良好なポリイミド膜を形成するため気化器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、常温において固体状態である固体の粒子を気化させる気化器において、前記固体の粒子を供給するための供給部と、前記供給部より供給された前記固体の粒子を気化するための加熱部を有する気化部と、を有し、前記加熱部には傾斜が設けられており、前記固体の粒子は前記傾斜を転がりながら気化することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、前記気化器は、チャンバー内に設置された基板に、気化した第1の物質と気化した第2の物質とを供給し反応させることにより前記基板上に第3の物質の膜を形成する成膜装置に接続されており、前記固体の粒子は前記第1の物質の粒子であって、前記気化器は、気化した第1の物質を前記チャンバー内に供給するものであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記加熱部には複数の傾斜が設けられており、前記固体の粒子は、前記複数の傾斜において、上方の傾斜を転がった後、下方の傾斜を順次転がることを特徴とする特徴とする。
【0014】
また、本発明は、前記加熱部において、前記複数の傾斜の配列されている方向は重力の働く方向であって、前記複数の傾斜の向きが交互となるよう配置されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、前記傾斜の配置される間隔は、重力が働く方向に従って狭くなっており、前記傾斜のうち最下部に存在する傾斜よりも下側において、キャリアガスが導入されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、前記気化部には、前記固体の粒子が気化した気体が通過する気化経路を有しており、前記気化経路は、重力が働く方向に気流が流れる下方向気化経路と、前記下方向気化経路とは反対方向に流れる上方向気化経路とを有し、前記下方向気化経路と前記上方向気化経路とは、重力が働く方向の端部において接続されており、前記気化した気体は、前記下方向気化経路の前記端部とは反対側から流入し、前記下方向気化経路の前記端部とは反対側から排出されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、前記第1の物質はPMDAであり、前記第2の物質はODAであり、前記第3の物質はポリイミドであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、原料モノマーとしてPMDAとODAを用いて良好なポリイミド膜を形成することが可能な気化器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施の形態における成膜装置の構成図
【図2】第1の実施の形態におけるPMDA気化器の構成図
【図3】第1の実施の形態におけるPMDA気化器の説明図
【図4】第2の実施の形態におけるPMDA気化器の構成図
【図5】第2の実施の形態におけるPMDA気化器の説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための形態について、以下に説明する。
【0021】
〔第1の実施の形態〕
第1の実施の形態は、原料モノマーとしてPMDAとODAを用いて蒸着重合によりポリイミド膜を成膜するための成膜装置に関するものである。
【0022】
(成膜装置)
図1に基づき、本実施の形態における成膜装置について説明する。
【0023】
本実施の形態における成膜装置は、不図示の真空ポンプ等により排気が可能なチャンバー11内にポリイミド膜が成膜されるウエハWを複数設置することが可能なウエハボート12を有している。また、チャンバー11内には、気化したPMDA及びODAを供給するためのインジェクター13及び14を有している。このインジェクター13及び14の側面には開口部が設けられており、インジェクター13及び14より気化したPMDA及びODAが図面において矢印で示すようにウエハWに供給される。供給された気化したPMDA及びODAは、ウエハW上で反応し蒸着重合によりポリイミド膜が成膜される。尚、ポリイミド膜の成膜に寄与しない気化したPMDA及びODA等は、そのまま流れ、排気口15よりチャンバー11の外に排出される。また、ウエハW上に均一にポリイミド膜が成膜されるようにウエハボート12は、回転部16により回転するように構成されている。更に、チャンバー11の外部には、チャンバー11内のウエハWを一定の温度に加熱するためのヒーター17が設けられている。
【0024】
また、インジェクター13及び14は、PMDA気化器21及びODA気化器22とバルブ23及び24を介し導入部25において、それぞれ接続されており、PMDA気化器21及びODA気化器22より気化したPMDA及びODAが供給される。
【0025】
PMDA気化器21には高温の窒素ガスをキャリアガスとして供給し、PMDA気化器21においてPMDAを昇華させることにより気化した状態で供給する。このため、PMDA気化器21は、260℃の温度に保たれている。また、ODA気化器22では、高温の窒素ガスをキャリアガスとして供給し、高温に加熱され液体状態となったODAを供給された窒素ガスによりバブリングすることにより、窒素ガスに含まれるODAの蒸気とし、気化した状態で供給する。このため、ODA気化器22は220℃の温度に保たれている。この後、バルブ23及び24、導入部25を介し、気化したPMDA及びODAは、インジェクター13及び14内に供給され、更に、インジェクター13及び14より気化したPMDAと気化したODAとが、チャンバー11内に供給されて、ウエハW上において反応しポリイミド膜が成膜される。
【0026】
従って、本実施の形態における成膜装置では、インジェクター13及び14より横方向に、気化したPMDAと気化したODAとが噴出し、ウエハW上において反応し蒸着重合によりポリイミド膜が成膜される。
【0027】
(PMDA気化器)
次に、図2に基づき本実施の形態の成膜装置に用いられるPMDA気化器21について説明する。このPMDA気化器21は、PMDA供給部31と、絞り32、PMDA気化部33により構成されている。PMDA気化部33は、加熱部34、気化経路35及び気化PMDA排出口36により構成されている。
【0028】
PMDA供給部31では、粒子状のPMDA粒子30が納められており、絞り32を調節することにより、PMDA粒子30の供給量が制御される。PMDA粒子30の供給は連続的であっても断続的であってもよいが、好ましくは連続的である。
【0029】
PMDA気化部33は、全体がPMDAを気化するために設定された温度である260℃で加熱されており、内部において、重力の働く方向に傾斜板が配列された加熱部34が設けられている。加熱部34では各々の傾斜板34a、34b、34c、34d,34e、34fにおける傾斜の向きが交互となるよう配置されている。即ち、PMDA供給部31より絞り32を介して、矢印Aに示す方向に供給されたPMDA粒子30が、重力に従って転がり落ちるように配置されている。尚、本実施の形態では、PMDAを気化するための温度として260℃に設定されているが、PMDAが気化する温度であって、再凝固しない温度であれば、より低い温度であってもよい。
【0030】
具体的には、傾斜板34aは図面において左方向にPMDA粒子30が転がるように設置されており、傾斜板34bは図面において右方向にPMDA粒子30が転がるように設置されており、傾斜板34cは図面において左方向にPMDA粒子30が転がるように設置されており、傾斜板34dは図面において右方向にPMDA粒子30が転がるように設置されており、傾斜板34eは図面において左方向にPMDA粒子30が転がるように設置されており、傾斜板34fは図面において右方向にPMDA粒子30が転がるように設置されている。
【0031】
また、傾斜板34aの端部、即ち、図面における左端まで転がったPMDA粒子30は、傾斜板34aの端部より傾斜板34bに落下し、傾斜板34bの端部、即ち、図面における右端まで転がったPMDA粒子30は、傾斜板34bの端部より傾斜板34cに落下し、傾斜板34cの端部、即ち、図面における左端まで転がったPMDA粒子30は、傾斜板34cの端部より傾斜板34dに落下し、傾斜板34dの端部、即ち、図面における左端まで転がったPMDA粒子30は、傾斜板34dの端部より傾斜板34eに落下し、傾斜板34eの端部、即ち、図面における左端まで転がったPMDA粒子30は、傾斜板34eの端部より傾斜板34fに落下する。
【0032】
前述のとおり、PMDA気化部33は全体が加熱されているため、各々の傾斜板34a、34b、34c、34d、34e、34fの表面上を転がるPMDA粒子30は、傾斜板34a、34b、34c、34d、34e、34fからの加熱によって、気化することにより、粒径は次第に小さくなる。
【0033】
このことを図3に基づき説明する。図3は加熱部34の傾斜板34a、34b、34cを転がる様子を示す概念図である。最初、図に示されるように傾斜板34aを転がるPMDA粒子30の粒径は大きい。このPMDA粒子30は傾斜板34a、34b、34cより加熱されて気化しるため次第に粒径が小さくなる。よって、傾斜板34aの下に設けられている傾斜板34bを転がるPMDA粒子30の粒径は、傾斜板34aを転がるPMDA粒子30の粒径よりも小さくなり、同様に、傾斜板34bの下に設けられている傾斜板34cを転がるPMDA粒子30の粒径は、傾斜板34bを転がるPMDA粒子30の粒径よりも小さくなる。
【0034】
このように、加熱部34においては、傾斜板34a、34b、34c、34d、34e、34fを順に転がり落ちていくに従い、PMDA粒子30は気化することより小さくなっていく。尚、加熱部34の加熱温度の設定等により、加熱部34の設けられている領域において、PMDA粒子30をすべて気化させることも可能であるが、加熱部34においてPMDA粒子30が完全に気化されず微粒子として残存する場合がある。この場合には、傾斜板34fの下のPMDA気化部の底面に堆積する。
【0035】
この後、加熱部34において気化したPMDAは、気化経路35に矢印B1に示す方向に流れる。尚、本実施の形態におけるPMDA気化器21には、キャリアガスとして窒素(N)ガスが、窒素ガス供給部41よりPMDA供給部31に供給されており、また、窒素ガス供給部42より絞り32とPMDA気化部33との間に供給されている。キャリアガスとして供給された窒素ガスにより、気化したPMDAは気化経路35に導かれる。
【0036】
気化経路35は、下方向気化経路35aと上方向気化経路35bとにより構成されている。気化経路35に導かれた気化したPMDAは、最初に、下方向気化経路35aを矢印B2に示すように下向きに流れる。尚、下方向気化経路35aの形成される方向は重力方向と略同一方向である。下方向気化経路35aの端まで流れた気化したPMDAは、この後、矢印B3に示すように上向気化経路35bに入り込み、上向気化経路35bを矢印B4に示すように上向きに流れる。上向気化経路35bの端部近傍には、気化PMDA排出口36が設けられており、気化したPMDAは矢印B5に示す方向に流れ、バルブ23を介し、インジェクター13に供給される。尚、上向気化経路35bにおいて気化したPMDAが流れる方向は、下方向気化経路35aにおいて気化したPMDAが流れる方向と逆方向、即ち、重力方向とは逆方向となるように構成されている。
【0037】
本実施の形態におけるPMDA気化器21では、気化経路35に下方向気化経路35aと上方向気化経路35bとを設け、更に、気化PMDA排出口36を上方気化経路35bの上部に設けることにより、気化したPMDAと一緒に気化経路35内に流れ込む粉末状のPMDA微粒子を除去することが可能である。即ち、上方向気化経路35bにおける流速を粉末状のPMDA微粒子が上昇することのない流速とすることにより、気化PMDA排出口36よりPMDA微粒子が排出されることなく、下方向気化経路35aと上方向気化経路35bとの接続領域となる底部35cにおいてPMDA微粒子を堆積させ、除去することが可能である。尚、このような流速の制御は、窒素ガス供給部41及び42からの窒素ガスの供給量を制御することにより行うことが可能である。
【0038】
本実施の形態におけるPMDA気化器21は、前述のとおり、PMDA気化部33の全体がPMDAを気化するために設定された温度である260℃、または、これ以上の温度に設定されているため、PMDA気化部33内の壁面に凝固し付着することはない。
【0039】
本実施の形態の説明においてはキャリアガスとして窒素ガスを用いた場合について説明したが、キャリアガスはアルゴン(Ar)等の不活性ガスであってもよい。
【0040】
本実施の形態におけるPMDA気化器21において、供給されるPMDA粒子30の粒径は250μmであり、比重は1.68×10kg/mである。また、本実施の形態における各々の傾斜板34の傾斜板34a、34b、34c、34d、34e、34fの傾斜角は、水平面に対し、1.5°であり、斜面方向の長さは400mmである。
【0041】
本実施の形態におけるPMDA気化器21では、加熱部34は複数の傾斜板34a、34b、34c、34d、34e、34fにより構成されているため、PMDA粒子30が転がる距離が長くても、気化器全体の大きさを小さくすることができる。また、PMDA粒子30は、転がりながら気化するため、PMDA粒子30が一定の場所に長時間滞留し、長時間加熱され、PMDAが熱により変質してしまうおそれがない。
【0042】
即ち、長時間加熱され、PMDAが熱により変質してしまうと、気化したPMDAは安定的に供給されないのみならず、変質したPMDAが異物として気化したPMDAに混入し供給される場合がある。この場合、ウエハW上に成膜されるポリイミド膜の膜質に悪影響を与えてしまう。しかしながら、本実施の形態におけるPMDA供給器21では、加熱により変質したPMDAが気化したPMDAに混入することがないため、純度の高い気化したPMDAのみを供給することができる。
【0043】
尚、PMDA気化器21は、絞り32によりPMDA粒子30の供給量を制御されるが、不図示のコンピュータで動作する制御プログラムにより制御することも可能である。また、この制御プログラムは、コンピュータにより読み取ることが可能な記憶媒体に記憶させておくことも可能である。
【0044】
〔第2の実施の形態〕
次に、第2の実施の形態について説明する。本実施の形態におけるPMDA気化器は、PMDA気化部の底部近傍よりキャリアガスを導入した構成ものである。
【0045】
図4に基づき本実施の形態におけるPMDA気化器について説明する。本実施の形態におけるPMDA気化器は、PMDA供給部51と、絞り52、PMDA気化部53により構成されている。PMDA気化部53は、加熱部54、気化経路55及び気化PMDA排出口56により構成されている。
【0046】
PMDA供給部51では、粒子状のPMDA粒子30が納められており、絞り52を調節することにより、PMDA粒子30の供給量が制御される。PMDA粒子30の供給は連続的であっても断続的であってもよいが、好ましくは連続的である。
【0047】
PMDA気化部53は、全体がPMDAを気化するために設定された温度である260℃に加熱されており、内部において、重力の働く方向に傾斜板が配列された加熱部54が設けられている。加熱部54では各々の傾斜板54a、54b、54c、54d,54e、54fにおける傾斜の向きが交互となるよう配置されている。即ち、PMDA供給部51より絞り52を介して矢印Cに示す方向に供給されたPMDA粒子30が、重力に従って転がり落ちるように位置されている。
【0048】
具体的には、傾斜板54aは図面において左方向にPMDA粒子30が転がるように設置されており、傾斜板54bは図面において右方向にPMDA粒子30が転がるように設置されており、傾斜板54cは図面において左方向にPMDA粒子30が転がるように設置されており、傾斜板54dは図面において右方向にPMDA粒子30が転がるように設置されており、傾斜板54eは図面において左方向にPMDA粒子30が転がるように設置されており、傾斜板54fは図面において右方向にPMDA粒子30が転がるように設置されている。
【0049】
また、傾斜板54aの端部、即ち、図面における左端まで転がったPMDA粒子30は、傾斜板54aの端部より傾斜板54bに落下し、傾斜板54bの端部、即ち、図面における右端まで転がったPMDA粒子30は、傾斜板54bの端部より傾斜板54cに落下し、傾斜板54cの端部、即ち、図面における左端まで転がったPMDA粒子30は、傾斜板54cの端部より傾斜板54dに落下し、傾斜板54dの端部、即ち、図面における左端まで転がったPMDA粒子30は、傾斜板54dの端部より傾斜板54eに落下し、傾斜板54eの端部、即ち、図面における左端まで転がったPMDA粒子30は、傾斜板54eの端部より傾斜板54fに落下するように配置されている。
【0050】
また、本実施の形態においては、加熱部54における各々の傾斜板54a、54b、54c、54d,54e、54fは、重力方向において、順に、その間隔が狭くなるように配置されている。具体的には、54aと54bとの間隔K1、54bと54cとの間隔K2、54cと54dとの間隔K3、54dと54eとの間隔K4、54eと54fとの間隔K5とした場合に、K1>K2>K3>K4>K5となるように配置されている。
【0051】
第1の実施の形態と同様に、PMDA気化部53は全体が加熱されているため、各々の傾斜板54a、54b、54c、54d、54e、54fの表面上を転がるPMDA粒子30は、傾斜板54a、54b、54c、54d、54e、34fからの加熱によって、気化することにより、粒径は次第に小さくなる。
【0052】
本実施の形態におけるPMDA気化器のPMDA気化部53の底部近傍、即ち、PMDA気化部53の底部と傾斜板54fとの間には、窒素ガス供給部60より窒素(N)がキャリアガスとして導入されている。導入されるキャリアガスは、加熱部54において、各々の傾斜板54a、54b、54c、54d、54e、54fの間を下から上、即ち、キャリアガスが流れていない場合に、PMDA粒子30が転がる方向とは逆方向に流れる。よって、キャリアガスは、キャリアガスが通過する領域の断面積が狭いところでは流速が速く、キャリアガスが通過する領域の断面積が広いところでは流速が遅くなる。これにより、粒径の大きなPMDA粒子30をより下の傾斜板に導くことができる。
【0053】
このことを、図5に基づき説明する。図5(a)に示すように、傾斜板の間隔が広い場合、即ち、加熱部54における傾斜板54aと54bのように、その間隔K1が広い場合では、キャリアガスの流速は、矢印D1に示すように遅くなる。このため、大きな粒径のPMDA粒子30a、中程度の粒径のPMDA粒子30b、小さな粒径のPMDA粒子30cは、全て傾斜板54bにおける傾斜に沿って転がる。但し、PMDA粒子30の粒径の大きさに応じてキャリアガスより受ける力が異なることから、大きな粒径のPMDA粒子30aは比較的速い速度で傾斜を転がり落ち、小さな粒径のPMDA粒子30cは比較的遅い速度で傾斜を転がり落ち、中程度の粒径のPMDA粒子30bは大きな粒径のPMDA粒子30aと小さな粒径のPMDA粒子30cとの中間程度の速度で傾斜を転がり落ちる。
【0054】
次に、図5(b)に示すように、傾斜板の間隔が狭い場合、即ち、加熱部54における傾斜板54cと54dのように、その間隔K3が狭い程度の場合では、キャリアガスの流速は、矢印D2に示すように速くなる。このため、大きな粒径のPMDA粒子30aは傾斜板54dを傾斜に沿って転がり落ちるが、小さな粒径のPMDA粒子30cはキャリアガスにより受ける力により、傾斜板54dの傾斜とは逆方向に転がり、逆に傾斜をさかのぼる。また、中程度の粒径のPMDA粒子30bは、キャリアガスにより受ける力により減速し停止してしまう。従って、大きな粒径のPMDA粒子30aのみが傾斜に沿って転がり落ちる。
【0055】
このようにして、PMDA粒子30のうち粒径の大きなものは加熱部54において、速く転がり落とすことができる。傾斜板54a、54b、54c、54d,54e、54fはPMDAが気化する温度に加熱されておりPMDA粒子30が気化することにより、粒径は下段にいくに従い小さくなり、最後には、完全に気化され蒸発してしまう。加熱部54の上段部では、PMDA粒子30の粒径が大きく、同じ場所に供給されるため傾斜板において温度降下等が生じ、効率的にPMDAを気化することができない場合があるが、加熱部54の下段部では、PMDA粒子30の粒径が小さくなっており、また分散されており、気化するための余剰能力を有している。よって、大きなPMDA粒子30であっても効率的に気化させることができる。このため、大きな粒径のPMDA粒子30aを加熱部54の下段に導き、効率よくPMDA粒子30を気化させることができる。
【0056】
次に、加熱部54において気化したPMDAは、気化経路55に矢印E1に示す方向に流れる。尚、本実施の形態におけるPMDA気化器には、別のキャリアガスとして窒素(N)ガスが、窒素ガス供給部61よりPMDA供給部51に供給されており、また、窒素ガス供給部62より絞り52とPMDA気化部53との間に供給されている。別のキャリアガスとして供給された窒素ガスにより、気化したPMDAを気化経路55に導く。気化経路55は、下方向気化経路55aと上方向気化経路55bとにより構成されている。気化経路55に導かれた気化したPMDAは、最初に、下方向気化経路55aを矢印E2に示すように下向きに流れる。尚、下方向気化経路55aの形成される方向は重力方向と略同一方向である。下方向気化経路55aの端まで流れた気化したPMDAは、この後、矢印E3に示すように上向気化経路55bに入り込み、上向気化経路55bを矢印E4に示すように上向きに流れる。上向気化経路55bの端部近傍には、気化PMDA排出口56が設けられており、気化したPMDAは矢印E5に示す方向に流れ、バルブ23を介し、インジェクター13に供給される。尚、上向気化経路55bにおいて気化したPMDAが流れる方向は、下方向気化経路55aにおいて気化したPMDAが流れる方向と逆方向、即ち、重力方向とは逆方向となるように構成されている。
【0057】
本実施の形態におけるPMDA気化器では、気化経路55に下方向気化経路55aと上方向気化経路55bとを設け、更に、気化PMDA排出口56を上方気化経路55bの上部に設けることにより、気化したPMDAと一緒に流れる気化していない粉末状のPMDA微粒子を除去することが可能である。即ち、上方向気化経路55bにおける流速を粉末状のPMDA微粒子が上昇することのない流速とすることにより、気化PMDA排出口56よりPMDA微粒子が排出されることなく、下方向気化経路55aと上方向気化経路55bとの接続領域の底部55cにおいてPMDA微粒子を堆積させ、除去することができる。尚、このような流速の制御は、窒素ガス供給部60、61及び62からの窒素ガスの供給量を制御することにより行うことが可能である。
【0058】
本実施の形態におけるPMDA気化器は、前述のとおり、PMDA気化部53の全体がPMDAを気化するために設定された温度である260℃、または、これ以上の温度に設定されているため、PMDA気化部53内の壁面に凝固し付着することはない。
【0059】
本実施の形態の説明においてはキャリアガスとして窒素ガスを用いた場合について説明したが、キャリアガスはアルゴン(Ar)等の不活性ガスであってもよい。
【0060】
本実施の形態におけるPMDA気化器において、供給されるPMDA粒子30の粒径は250μmであり、比重は1.68×10kg/mである。また、本実施の形態における各々の加熱部54における傾斜板54a、54b、54c、54d、54e、54fの傾斜角は、水平方向に対し、1.5°であり、斜面方向の長さは400mmである。窒素ガス供給部60より供給されるキャリアガスの流量は、50sccmである。
【0061】
本実施の形態における気化器では、加熱部54は複数の傾斜板54a、54b、54c、54d、54e、54fにより構成されているため、PMDA粒子30が転がる距離が長くても、気化器全体の大きさを小さくすることができる。また、PMDA粒子30は、転がりながら気化するため、PMDA粒子30が一定の場所に長時間滞留し、長時間加熱され、PMDAが熱により変質してしまうおそれがない。
【0062】
また、窒素ガス供給部60より供給された窒素ガスにより、PMDA粒子30の粒径の大きなものほど、加熱部54の下段に向かいやすくなるため、加熱部54において、より均一に、効率よくPMDA粒子30を気化させることが可能である。更に、本実施の形態における気化器では、PMDA粒子30の粒径の大きさを均一にする必要がないことから、PMDA粒子30の前加工や前処理等を必要としないため、より低コストでポリイミド膜を形成することが可能である。
【0063】
尚、本実施の形態のPMDA気化器は、第1の実施の形態におけるPMDA気化器と同様に、ポリイミド膜の成膜装置に用いることが可能である。また、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。
【0064】
以上、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。
【符号の説明】
【0065】
11 チャンバー
12 ウエハボート
13 インジェクター
14 インジェクター
15 排気口
16 回転部
17 ヒーター
21 PMDA気化器
22 ODA気化器
23 バルブ
24 バルブ
25 導入部
30 PMDA粒子
31 PMDA供給部
32 絞り
33 PMDA気化部
34 加熱部
34a、34b、34c、34d、34e、34f 傾斜板
35 気化経路
35a 下方向気化経路
35b 上方向気化経路
36 気化PMDA排出口
41 窒素ガス供給部
42 窒素ガス供給部
W ウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温において固体状態である固体の粒子を気化させる気化器において、
前記固体の粒子を供給するための供給部と、
前記供給部より供給された前記固体の粒子を気化するための加熱部を有する気化部と、を有し、
前記加熱部には傾斜が設けられており、前記固体の粒子は前記傾斜を転がりながら気化することを特徴とする気化器。
【請求項2】
前記気化器は、チャンバー内に設置された基板に、気化した第1の物質と気化した第2の物質とを供給し反応させることにより前記基板上に第3の物質の膜を形成する成膜装置に接続されており、
前記固体の粒子は前記第1の物質の粒子であって、
前記気化器は、気化した第1の物質を前記チャンバー内に供給するものであることを特徴とする請求項1に記載の気化器。
【請求項3】
前記加熱部には複数の傾斜が設けられており、
前記固体の粒子は、前記複数の傾斜において、上方の傾斜を転がった後、下方の傾斜を順次転がることを特徴とする特徴とする請求項1または2に記載の気化器。
【請求項4】
前記加熱部において、前記複数の傾斜の配列されている方向は重力の働く方向であって、前記複数の傾斜の向きが交互となるよう配置されていることを特徴とする請求項3に記載の気化器。
【請求項5】
前記傾斜の配置される間隔は、重力が働く方向に従って狭くなっており、
前記傾斜のうち最下部に存在する傾斜よりも下側において、キャリアガスが導入されていることを特徴とする請求項3または4に記載の気化器。
【請求項6】
前記気化部には、前記固体の粒子が気化した気体が通過する気化経路を有しており、
前記気化経路は、重力が働く方向に気流が流れる下方向気化経路と、前記下方向気化経路とは反対方向に流れる上方向気化経路とを有し、
前記下方向気化経路と前記上方向気化経路とは、重力が働く方向の端部において接続されており、
前記気化した気体は、前記下方向気化経路の前記端部とは反対側から流入し、前記下方向気化経路の前記端部とは反対側から排出されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の気化器。
【請求項7】
前記第1の物質はPMDAであり、前記第2の物質はODAであり、前記第3の物質はポリイミドであることを特徴とする請求項2に記載の気化器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−9379(P2011−9379A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150243(P2009−150243)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】