説明

気密容器及び画像表示装置の製造方法

【課題】局所加熱光の照射中のガラス基板と接合材の摩擦を低減する。
【解決手段】気密容器の製造方法は、一対のガラス基板1,2が対向配置し、一対のガラス基板で挟まれる空間に、各々が一方のガラス基板に形成され他方のガラス基板に当接する複数の枠状の接合材が互いに離れて位置する組立体を得る工程と、少なくとも一部の接合材に局所加熱光を照射することにより、少なくとも一部の接合材を溶融する工程と、を有している。接合材を溶融する工程は、局所加熱光が照射された接合材42を順次つないで形成される1つの閉じた領域41の内部に少なくとも1つの未照射の接合材43が存在するように、一部の接合材42に局所加熱光を照射する第1の照射工程と、1つの閉じた領域41の内部にある未照射の接合材43に局所加熱光を照射する第2の照射工程と、を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密容器及び画像表示装置の製造方法に関し、特に複数の気密容器を一対の基板から製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対向するガラス基板を接合して気密性を有する内部空間を形成する技術が知られている。この技術は、有機LEDディスプレイ(OLED)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)等のフラットパネルディスプレイに用いられる気密容器(外囲器)の他、真空断熱ガラスの製造にも適用されている。これらの気密容器の製造においては、対向するガラス基板の間に必要に応じて間隔規定部材や局所的な接着材を配置した上で、周辺部に接合材を配置して、加熱等によりガラス基板同士を接合する。ガラス基板同士の接合方法としては、ガラス基板を仮組みして得られた組立体を加熱炉によって全体加熱(ベーク)する方法と、組立体の周縁部のみを局所加熱手段によって選択的に加熱する方法と、が提案されている。加熱冷却時間、加熱に要するエネルギーの低減、容器内部の機能デバイスの熱劣化防止といった観点で、局所加熱は全体加熱よりも有利である。小型の気密容器を製造する場合は、一対のガラス基板とその間に挿入された多数の枠状のガラス接合材料とによって、各々が封止された気密容器を多数形成し、その後にガラス基板を切断して個々の気密容器を得ることもできる。
【0003】
特許文献1には、多数の有機発光画像表示装置を同時に製造する方法として、局所加熱光にレーザを使用し、複数のガラス接合材料を溶融してマザーガラスを接合する方法が開示されている。マザーガラスは接合された後に、個々の単位ディスプレイ素子に切断分離される。レーザでマザーガラスを接合する際には、複数のガラス接合材料に同時にレーザが照射される。同時に照射されることによって、マザーガラスに加えられるストレス偏差が最小化され、切断面の突起や微細破片などの発生が抑制される。
【0004】
特許文献2には、気密封止された多数の画像表示装置を同時に製造する方法として、局所加熱光にレーザを使用し、複数のガラス接合材料を溶融してマザーガラスを接合する方法が開示されている。画像表示装置を製造するには、隣接する接合材料に順番にレーザが照射される。これにより、画像表示装置の生産性を向上することができる。
【0005】
このように、局所加熱光を用いてガラス基板を接合し多数の気密容器を製造するために、局所加熱光を単純に接合材に照射するのではなく、複数の接合材に同時に照射しまたは順番に照射する方法が知られている。このような方法で密閉空間を形成することで、気密信頼性や生産性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-037194号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0128965号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に記載された方法では、あらかじめ一方のガラス基板にガラス接合材料が形成される。他方のガラス基板が一方のガラス基板と対向配置される際には、ガラス接合材料はこの他方のガラス基板に当接する。しかしながら、このような態様でガラス接合材料を保持する場合、ガラス接合材料に局所加熱光を照射したときのガラス接合材料から各ガラス基板への熱移動量が異なるため、一対のガラス基板の間に温度差が生じる。この温度差に基づく熱膨張の差によって、接合材とガラス基板との間に摩擦を伴う相対移動が生じ、ガラス基板の損傷や微細破片の発生を招来する場合があった。
【0008】
そこで本発明は、このようなガラス基板と接合材の摩擦を低減し、ガラス基板の損傷や微細破片の発生を低減することのできる、気密容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の気密容器の製造方法は、一対のガラス基板が対向配置し、一対のガラス基板で挟まれる空間に、各々が一方のガラス基板に形成され他方のガラス基板に当接する複数の枠状の接合材が互いに離れて位置する組立体を得る工程と、少なくとも一部の接合材に局所加熱光を照射することにより、少なくとも一部の接合材を溶融する工程と、を有している。接合材を溶融する工程は、局所加熱光が照射された接合材を順次つないで形成される1つの閉じた領域の内部に少なくとも1つの未照射の接合材が存在するように、一部の接合材に局所加熱光を照射する第1の照射工程と、1つの閉じた領域の内部にある未照射の接合材に局所加熱光を照射する第2の照射工程と、を含んでいる。
【0010】
第1の照射工程の結果、局所加熱光が照射された接合材を順次つないで形成される1つの閉じた領域が得られる。この閉じた領域の内部では、局所加熱光が照射されて硬化した接合材の拘束力によって、ガラス基板同士の相対変位が制限されている。その状態で閉じた領域の内部にある未照射の接合材に局所加熱光を照射するため、ガラス基板同士で温度差が生じても相対変位が拘束され、接合材とガラス基板の間のずれと、それに伴う摩擦が生じにくくなる。この結果、ガラス基板の損傷や微細破片の発生を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によればガラス基板と接合材の摩擦を低減し、ガラス基板の損傷や微細破片の発生を低減することのできる、気密容器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の製造方法によって製造される有機EL画像表示装置を示す平面図及び断面図である。
【図2】第1のガラス基板と発光部を詳細に説明する断面図である。
【図3】本発明のプロセスフローの一例を示す、ガラス基板の断面図である。
【図4】個々の気密容器についての局所加熱光の照射方法を示す斜視図である。
【図5】複数の気密容器についての局所加熱光の照射方法を示す平面図及び断面図である。
【図6】第1の照射工程で得られた閉じた領域を示す平面図である。
【図7】実施例における局所加熱光の照射方法を示す平面図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の気密容器の製造方法は、内部空間が外部雰囲気から気密遮断されることが必要なデバイスを有するFED、OLED、PDP等の製造方法に適用することが可能である。特に、内部に水や酸素に弱い有機発光材料を含むOLED等の画像表示装置では、画像表示装置内部と外部を遮断する高い気密性が求められるが、本発明の気密容器の製造方法によれば、長期的に高い気密性を確保することができる。本発明の気密容器の製造方法は、上述の用途の気密容器の製造に限定されるものではなく、対向するガラス基板の周縁部に気密性が要求される接合部を有する気密容器の製造に広く適用することができる。
【0014】
図1は、本発明の製造方法によって製造される有機EL(エレクトロルミネッセンス)画像表示装置を示す模式図であり、(a)は平面模式図、(b)は断面模式図である。図1(b)に示すように、図1の有機EL画像表示装置10は、第1のガラス基板1と、第2のガラス基板2と、これらのガラス基板1,2の間に設けられた発光部3及び接合材4と、を有している。発光部3は、図1(a)及び(b)に示すように、第1のガラス基板1上に複数設けられている。接合材4は、図1(a)に示すように、発光部3を取り囲むように設けられ、発光部3を封止すると共に、図1(b)に示すように、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とを接合している。
【0015】
次に、発光部3について説明する。図2は、図1(b)の点線で囲んだ部分の部分拡大図である。発光部3は、下部電極31と有機EL層32と上部電極33とがこの順に積層された有機EL素子34と、有機EL素子34の上面及び側面を被覆する保護層35と、を含んでいる。発光部3に通電することで、陽極(図示せず)から注入された正孔と陰極(図示せず)から注入された電子とが、有機EL層32の発光層(図示せず)において再結合する。発光層は発光層に含まれる発光材料の発光色に応じて赤色、緑色、青色のそれぞれの光を放出する。発光層から発せられた光は、保護層35側から取り出すことができる。
【0016】
発光部3をアクティブマトリックス形式で駆動させる場合、第1のガラス基板1は、基板11と、基板11上に設けられたTFT回路12と、TFT回路12上に設けられた平坦化膜13と、から構成される。TFT回路12は、コンタクトホール14を介して、下部電極31と電気接続されている。
【0017】
次に、図1の有機EL画像表示装置10を構成する構成部材について説明する。
【0018】
第1のガラス基板1及び第2のガラス基板2は、特に限定されるものではないが、例えば透明なガラス材から形成することができる。発光部3をアクティブマトリックス形式で駆動させる場合、基板1,2には透明なガラス材等が使用される。
【0019】
発光部3を構成する下部電極31は、発光層から発せられた光を反射する反射電極である。下部電極31は、少なくとも反射率が50%以上、好ましくは80%以上の金属材料で構成される。反射率が高いほど光取り出し効率を向上できるので好ましい。上記の反射率を有する金属材料として、特に限定されるものではないが、例えば銀、アルミニウム、クロム、金、白金等の金属材料が挙げられる。下部電極31は、上記の金属材料からなる金属薄膜のみで構成されてもよいが、当該金属薄膜のみでは有機EL層32への電荷注入がしにくい場合は、当該金属薄膜上に透明電極層をさらに設けてもよい。透明電極層として、金属酸化物からなる導電膜が挙げられる。この導電膜として、具体的には、酸化インジウムと酸化錫とからなる化合物膜(ITO)や、酸化インジウムと酸化亜鉛とからなる化合物膜(IZO)が挙げられる。
【0020】
発光部3を構成する有機EL層32の層構成は特に限定されない。例えば、陽極側から正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の順で積層される構成が挙げられる。
【0021】
正孔注入層を構成する正孔注入材料及び正孔輸送層を構成する正孔輸送材料は、陽極からの正孔の注入を容易にし、かつ注入された正孔を発光層に輸送するに優れた正孔移動度を有する材料が好ましい。正孔注入材料及び正孔輸送材料は特に限定されるものではなく、さまざまな低分子系及び高分子系の材料を用いることができる。低分子系材料の例として、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体が挙げられる。他の低分子系材料の例として、オキサゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体が挙げられる。高分子系材料の例として、ポリビニルカルバゾール、ポリシリレン、ポリチオフェンが挙げられる。
【0022】
発光層を構成する発光材料には、発光効率の高い蛍光材料や燐光材料が使用される。
【0023】
電子輸送層を構成する電子輸送材料は、陰極から注入された電子を発光層に輸送する機能を有するものから任意に選ぶことができ、正孔輸送材料の正孔移動度とのバランス等を考慮して選択される。電子輸送材料として、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体等が挙げられる。さらに、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機金属錯体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
電子注入層を構成する電子注入材料としては、上述した電子輸送材料に、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属、またはこれらの化合物を0.1%〜数十%含有させた材料が挙げられる。電子輸送材料にアルカリ金属等を含ませることにより、電子注入性を付与することができる。
【0025】
発光部3を構成する上部電極33は、発光層から発せられた光が十分に取り出されるように80%〜100%の透過率を有する材料であることが好ましい。上部電極33の構成材料は、特に限定されるものではない。例えば、銀、アルミニウム、クロム、金、白金等の金属材料を光が透過する程度の膜厚で形成した金属薄膜、ITOやIZO等の酸化物導電膜、あるいは上記の金属材料で形成された薄膜と上記の酸化物導電膜とを積層した積層体が挙げられる。
【0026】
発光部3を構成する保護層35は、有機EL素子34が大気中の酸素や水分等と接触するのを防止する目的で設けられる。保護層35の構成材料は、有機EL素子34との接着性を示す有機化合物であれば特に限定されない。好ましくは、熱硬化樹脂、紫外線硬化樹脂または2液混合型硬化樹脂であり、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。保護層35は、第2のガラス基板2に密着させてもよい。防湿性をより高めるために、上部電極33と保護層35との間に、窒化シリコン、窒化酸化シリコン等の金属窒化物膜や、酸化タンタル等の金属酸化物膜、ダイヤモンド薄膜をさらに設けてもよい。保護層35内に吸湿材を含有させてもよい。
【0027】
有機EL画像表示装置10が、有機EL素子34から放出される光を第2のガラス基板2側から外部に放出するトップエミッション型である場合、保護層35は透明な材料で構成される。
【0028】
図3は、本発明の気密容器の製造方法の具体的な工程を示すプロセスフローチャートである。以下、図3のプロセスチャートに従い、本発明の気密容器の製造方法を具体的に説明する。
【0029】
(ステップ1)第1のガラス基板の準備工程(図3(a))
本発明の製造方法では、始めに第1のガラス基板1を準備する。具体的には、後述する発光部3を設けるのに必要な基板を準備する。製造する有機EL画像表示装置10がアクティブマトリックス型の表示装置である場合は、この工程で、図2に示されるTFT回路12、平坦化膜13及びコンタクトホール14を順次設けておく。
【0030】
(ステップ2)発光部の形成工程(図3(b))
次に、発光部3を形成する。発光部3を構成する下部電極31、有機EL層32、上部電極33及び保護層35は、公知の方法によって形成することができる。
【0031】
(ステップ3)第2のガラス基板の準備工程(図3(c))
次に、第2のガラス基板2を準備する。第2のガラス基板上には次ステップで枠状の接合材4が複数個配置される。
【0032】
(ステップ4)接合材の第2のガラス基板への形成工程(図3(d))
次に、接合材4の薄膜を第2のガラス基板2上に形成する。接合材4は、最外周の接合材4が矩形領域の4辺に沿って配列するように形成される。接合材4としては、ガラスフリットが用いられる。接合材4は、粘度が負の温度係数を有し、第1及び第2のガラス基板1,2よりも軟化点が低い。具体的には、まずガラスフリットに適当な液体物質を混合してフリットペーストを調製する。次に、調製したフリットペーストを、発光部3を取り囲むように第2のガラス基板2上に塗布して薄膜を形成する。フリットペーストの塗布方法として、ディスペンス法、スクリーン印刷法等が挙げられる。次に、フリットペーストからなる薄膜4を前焼成し、接合材4とする。接合材4の高さは、好ましくは、前焼成の段階で5μm〜300μmとなるようにする。
【0033】
(ステップ5)第1のガラス基板と第2のガラス基板とを対向配置する工程(図3(e))
次に、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とを対向配置する。具体的には、第1のガラス基板1に設けられている発光部3が、第2のガラス基板2と、第2のガラス基板2上に設けられた各発光部3に対応する接合材4と、で取り囲まれるように、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2との位置合わせを行う。そして、第1のガラス基板1と接合材4とを接触させる。この際、接合材4と第1のガラス基板1との当接ないし接触を確保するために、補助的にガラス基板5でガラス基板1,2を覆い、接合材4を第1のガラス基板1に押しつけることが好ましい。これにより、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2との間にガラスフリットが介在するようになる。
【0034】
本実施形態では接合材4は第2のガラス基板2に形成されるが、接合材4の一部または全部が第1のガラス基板1に形成されてもよい。いずれの場合でも、一対のガラス基板1,2が対向配置し、一対のガラス基板1,2で挟まれる空間16内に、各々が一方のガラス基板に形成され他方のガラス基板に当接する複数の枠状の接合材4が互いに離れて位置する組立体15が得られる。
【0035】
(ステップ6)第1のガラス基板と第2のガラス基板を接合する工程(図3(f))
次に、対向配置された一対のガラス基板1,2の間に位置する複数の接合材4に順次局所加熱光を局部的に照射し、接合材4を溶融することにより、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とを接合する。局所加熱光としてはレーザ光9が好適に用いられる。
【0036】
具体的には、図4に示すように、レーザヘッド8からレーザ光9を複数の接合材4に移動照射し、対向配置された第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とを接合する。図の例ではレーザ光9は第2の基板2側から第2の基板2を透過して接合材4に照射されるが、第1の基板1側から第1の基板1を透過して接合材4に照射されてもよい。レーザ光9は、接合材4が枠状に延びる方向Dに沿って、接合材4に移動照射される。レーザ光9は、接合材4の接合領域の近傍を局所的に加熱可能であればよく、光源としては半導体レーザが好適に用いられる。接合材4を局所的に加熱する性能やガラス基板1,2の透過性等の観点から、赤外域に波長を有する加工用半導体レーザが好ましい。
【0037】
前述のように、レーザ光9は第2のガラス基板2を透過することにより、接合材4にそのエネルギーが吸収される。それに伴い、図5に示すように、接合材4は発熱し、その熱は第1のガラス基板1及び第2のガラス基板2に拡散する。図5(a)はレーザ光の照射を示す模式図であり、図5(b)は図5(a)の破線部の拡大図である。接合材4は第2のガラス基板2上に形成されており、第1のガラス基板1には当接しているだけであるため、第2のガラス基板2への熱6の拡散(熱移動量)の方が、第1のガラス基板1への熱7の拡散(熱移動量)よりも多くなる。それゆえ、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2との間には、温度差に起因した熱膨張差が発生する。その結果、レーザ光9の照射による接合を任意の方向Eから順番に行った場合、未照射の接合材4と第1のガラス基板1との間に摩擦が発生する。
【0038】
例えば、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2の熱膨張係数が同じである場合、より高温となる第2のガラス基板2はより大きな熱膨張を示し、それに伴い、未照射の接合材4の位置は方向Eに向かって、位置P1から位置P2までずれる(図5(b))。これに対し第1のガラス基板1は第2のガラス基板2ほど大きな熱膨張を示さないため、接合材4との当初の当接部の位置は、位置P1から、位置P1と位置P2の中間の位置P3までしかずれない。しかし、接合材4は第1のガラス基板1に当接しているだけであり、第1のガラス基板1に固定されているわけではないので、当接位置は位置P3から最終的に位置P2までずれる。その際に接合材4と第1のガラス基板1との間に摩擦を伴う相対移動が生じ、第1のガラス基板1や接合材4が損傷して、微細破片が発生する可能性が生じる。また、それに起因して接合部の気密性が低下する可能性もある。
【0039】
本実施形態においては、接合材を溶融する工程、すなわちレーザ光9の照射工程は第1の照射工程と第2の照射工程の2段階に分けて行う。第1の照射工程では、図6(a)に示すように、特定の複数の接合材42に局所加熱光を順次照射する。この特定の接合材42は、局所加熱光が照射された複数の接合材42を順次つないだときに1つの閉じた領域41が形成され、かつこの1つの閉じた領域41の内部に、少なくとも1つの未照射の接合材43が存在するように選択される。1つの閉じた領域41の範囲は接合材42のつなぎ方、つまり隣接する接合材42のどの角部同士をつなぐかに依存する。1つの閉じた領域41は、局所加熱光が照射された各接合材42を内側に含みかつ最小長さとなるように引かれた閉じた線分(線分の一部が破線で示されている)によって画定される。この線分は、例えば各接合材42の外側に糸を掛けまわし、糸に張力を与えることによって得られる線分と一致している。隣接する接合材42同士を結ぶ線は、接合材4が形成されている領域の周縁部にできるだけ近い位置を通る。
【0040】
第2の照射工程では、図6(a)に示すように、レーザ光9は既接合部42に囲まれた領域41に含まれる未照射の接合材43に照射される。既接合部42は、既にレーザ光9が照射され、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とが接合されている部分である。図6(a)を参照すると、本実施形態においては、3つの既接合部42に囲まれた領域41内に存在する13個の接合材43にレーザ光9を照射することができる。このように、既接合部42に囲まれた領域41内は第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とが相互にある程度拘束された状態にあるため、前述の熱膨張差に起因した摩擦を低減することが可能となる。その結果、接合材4や第1のガラス基板1の損傷を低減することが可能となる。
【0041】
このように、本実施形態では、第2の照射工程においてレーザ光9が照射される接合部43は既接合部42で囲まれており、レーザ光9は、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2が互いに拘束された状態で照射される。このため、接合材4と第1のガラス基板1との間の摩擦による接合材4や第1のガラス基板1の損傷を低減することができる。
【0042】
既接合部の位置及び数は図6(a)に示す3箇所に限定されない。図6(b)、(c)に示すように4箇所、あるいはそれ以上の既接合部42によって1つの閉じた領域41を形成し、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2を拘束することがさらに望ましい。図6(b)の例では、第1の照射工程において、接合材4が配置される矩形領域の各辺につき1つの接合材42が局所加熱光を照射される。任意の辺につき2以上の接合材が局所加熱光を照射されてもよい。図6(c)の例では、第1の照射工程において、接合材が配置される矩形領域の4隅に位置する接合材42だけが局所加熱光を照射される。こうして、一対のガラス基板1,2の間に位置する少なくとも一部の接合材4に局所加熱光が照射される。既接合部の数が多いほど拘束効果が向上し、また、領域41を広く取ることで拘束効果の生じる範囲が拡大する。これによって、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2の拘束力が一層強化され、信頼性の高い気密容器を得ることができる。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
以下、具体的な実施例を挙げて本発明の主要な工程をさらに詳しく説明する。第1の実施例では、上記実施形態の図6(c)で説明した製造方法を適用して第1のガラス基板と第2のガラス基板の気密接合を行い、7行7列に切り出すことによって、アクティブマトリックス型の有機EL画像表示装置(表示ユニット)を49個製造した。
【0044】
工程1(第1のガラス基板1を準備する工程、第2のガラス基板2に接合材4を形成する工程)
第1のガラス基板1、第2のガラス基板2として0.7mm厚のガラス基板(旭硝子株式会社製AN100)を用意し、外形570mm×500mm×0.7mmに切り出した。次に、有機溶媒洗浄、純水リンス及びUV-オゾン洗浄によって、第1のガラス基板1及び第2のガラス基板2の表面を脱脂した。
【0045】
第1のガラス基板1(一方のガラス基板)には図2に示されるTFT回路12、平坦化膜13及びコンタクトホール14を設けた。次に、発光部3を形成した。
【0046】
本実施例では、接合材4としてガラスフリットを用いた。ガラスフリットとしては、熱膨張係数α=45×10-7/℃、軟化点348℃のP25系鉛非含有ガラスフリット(旭硝子株式会社社製LFP−A50Z)を母材とし、バインダーとして有機物を分散混合したペーストを用いた。このペーストを、図3(d)に示すように、第2のガラス基板2(他方のガラス基板)上にスクリーン印刷で、幅1mm、厚さ20μm、縦50mm×横40mmの寸法にて枠状に形成した。表示ユニット同士の間隔は20mmとした。その後、有機物をバーンアウトするため460℃で加熱、焼成した(図3(a)-(d))。
【0047】
工程2(第1のガラス基板1と接合材4とを接触させる工程)
次に、接合材4が形成された第2のガラス基板2を第1のガラス基板1に対してアライメントしながら、接合材4が第1のガラス基板1の発光部3を備えた面と接触するように、これらの部材を仮組みした。これによって、発光部と発光部を取り囲む接合材とからなる組が複数個形成された。その後、接合材4への加圧力を均一化するために、補助的に、ガラス基板5(旭硝子株式会社製PD200)を配置した。さらに、加圧力を補助するために、不図示の加圧装置によって第一のガラス基板1と、第二のガラス基板2と、接合材4とを、大気圧がかかるように加圧した。このようにして、第一のガラス基板1と第二のガラス基板2とを接合材4を介して接触させた(図3(e))。
【0048】
工程3(第2のガラス基板2の4隅の接合材4にレーザ光9を照射する工程)
図3,4,6を用いて、本発明の特徴部分である局所加熱光を利用した接合工程を詳細に説明する。
【0049】
まず第1の照射工程として、図3(e)に示す工程で作成した、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2と接合材4とからなる仮組み構造物(組立体15)に、局所加熱光(レーザ光9)を照射した。本実施例においては、加工用半導体レーザ装置を1個用意した。レーザ光9はガラス基板1,2に対して垂直方向に光軸を設定した。レーザヘッド8は、レーザ出射口と第2のガラス基板2との距離が8cmとなるように配置した(図4)。
【0050】
まず、図6(c)に示すように、第2のガラス基板2の角部に形成した接合材42にレーザ光9を照射した。レーザ光9の照射条件は、波長980nm、レーザパワー40W、有効ビーム径2.0mmとし、図4に示す走査方向Dに10mm/sの速度で走査した。レーザパワーは、レーザヘッドから出射した全光束を積分した強度値として規定し、有効ビーム径は、レーザ光の強度がピーク強度のe-2倍以上となる範囲として規定した。レーザ光9の走査中は、接合材4を含む被照射物は固定し、レーザヘッド8を方向Dの向きに移動させて照射した。
【0051】
上記の工程を残りの3つの角部に対しても同様に行い、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とを接合した。
【0052】
工程4(領域41の接合材4にレーザ光9を照射する工程)
次に第2の照射工程として、領域41に形成された、レーザ光9が未照射の接合材43に順次レーザ光9を照射し、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2を全ての接合材4によって接合した。レーザ光9の照射条件は工程3と同様の条件とした。
【0053】
工程5(第1のガラス基板1と第2のガラス基板2を切断する工程)
第2の照射工程の終了後、最後に第1のガラス基板1と第2のガラス基板2の接合体を、接合材4の間で切断し、49個の有機EL画像表示装置に切り分けた。具体的には、第1と第2の両方のガラス基板1,2を所定の位置でガラス切りにて加傷した後、外力を加えることで第1のガラス基板1と第2のガラス基板2を加傷部から割った。これによって、1つの接合材と1つの発光部の組ごとに分割された個々の有機EL画像表示装置が形成された。
【0054】
以上の様にして作成した有機EL画像表示装置を作動させたところ、画像表示性能が長時間安定して維持され、接合部が有機EL画像表示装置に適用可能な程度の強度と安定した気密性とを確保していることが確認された。
【0055】
(実施例2)
本実施例では、まず第1の照射工程として、図6(a)に示すように、3箇所の接合材42にレーザ光9を照射した(工程3及び工程4)。続いて第2の照射工程として、これらの既接合部42に囲まれた領域41内の9つの接合材43にレーザ光9を照射し、これらの接合材43について順次接合を行った。以上を除き、実施例1と同様にして有機EL画像表示装置を作成した。作成された装置を作動させたところ、画像表示性能が長時間安定して維持され、接合部が有機EL画像表示装置に適用可能な程度の強度と安定した気密性とを確保していることが確認された。
【0056】
(実施例3)
本実施例は、工程2において図7に示される加圧装置を用いたことを除き、実施例1と同様とした。
【0057】
加圧部材20は、図7(b)に示すように、レーザ光が照射されて接合される第1、第2のガラス基板1,2の上部に配置され、第1、第2のガラス基板1,2を上側から加圧する。ガラス基板5が第2のガラス基板2の上側に載置され、加圧部材20と第2のガラス基板2とが直接接触することを防止する。これによって、第2のガラス基板2の破損及び損傷が防止される。
【0058】
加圧部材20は、ベース21と接触部22とを備えている。ベース21は、加圧部材20の本体部をなし、ガラス基板に相当程度の圧力を加えるように一定程度以上の重量を有している。ベース21はステンレス(SUS)で形成されている。接触部22は、接触部22と接しているガラス基板5の上部の不均一性を補償し、ガラス基板5の損傷及び破損を防止する。このため接触部22は、所定の弾性を有する材料、例えばゴムまたはアクリルのような材質で形成される。
【0059】
加圧部材20は、図7(a)に示すように格子構造で形成されており、格子の大きさ(間隙の大きさ)はそれぞれの表示ユニットより大きく形成されている。加圧部材20は、レーザ光9が照射されている表示ユニットに隣接しかつ当該表示ユニットを取り囲む表示ユニットを加圧するようにされている。すなわち、最初に第2のガラス基板の4隅に配置された4つの接合材42にレーザ光9を照射するときは、接合材42に隣接する3つの表示ユニットの接合材43が力Fで加圧される。次に、加圧部材20に覆われていない12個の接合材43に順次レーザ光9が照射される。その後、加圧部材20を方向Xに1ユニット分移動させることにより新たに照射可能となった接合材43に、レーザ光を順次照射する。このとき、レーザ光9が照射されている接合材43を取り囲む表示ユニットは順次加圧される。引き続き、加圧部材20をY方向に1ユニット分移動させ、未照射の全ての接合材43にレーザ光9を照射する。
【0060】
このように、物理的な方法で基板を加圧可能な加圧部材を用いて有機EL画像表示装置の気密容器を製造したところ、フリットの接着力が向上し、有機EL画像表示装置の長期信頼性が向上する効果が得られた。以上の様にして作成した有機EL画像表示装置を作動させたところ、画像表示性能が長時間安定して維持され、接合部が有機EL画像表示装置に適用可能な程度の強度と安定した気密性とを確保していることが確認された。
【符号の説明】
【0061】
1 第1のガラス基板
2 第2のガラス基板
41 閉じた領域
42,43 接合材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のガラス基板が対向配置し、該一対のガラス基板で挟まれる空間に、各々が一方の前記ガラス基板に形成され他方の前記ガラス基板に当接する複数の枠状の接合材が互いに離れて位置する組立体を得る工程と、
少なくとも一部の前記接合材に局所加熱光を照射することにより、前記少なくとも一部の接合材を溶融する工程と、を有し、
前記接合材を溶融する工程は、局所加熱光が照射された接合材を順次つないで形成される1つの閉じた領域の内部に少なくとも1つの未照射の接合材が存在するように、一部の前記接合材に局所加熱光を照射する第1の照射工程と、前記1つの閉じた領域の内部にある前記未照射の接合材に局所加熱光を照射する第2の照射工程と、を含む、気密容器の製造方法。
【請求項2】
前記接合材は、粘度が負の温度係数を有し、前記ガラス基板よりも軟化点が低い、請求項1に記載の気密容器の製造方法。
【請求項3】
前記接合材は、最外周の接合材が矩形領域の4辺に沿って配列するように、前記空間内に形成され、
前記第1の照射工程では、前記矩形領域の各辺につき少なくとも1つの前記接合材が局所加熱光を照射される、請求項1または2に記載の気密容器の製造方法。
【請求項4】
前記接合材は、最外周の接合材が矩形領域の4辺に沿って配列するように、前記空間内に形成され、
前記第1の照射工程では、前記矩形領域の4隅に位置する前記接合材だけが局所加熱光を照射される、請求項1または2に記載の気密容器の製造方法。
【請求項5】
前記1つの閉じた領域は、局所加熱光が照射された前記各接合材を内側に含みかつ最小長さとなるように引かれた閉じた線分によって画定される、請求項1から4のいずれか1項に記載の気密容器の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の気密容器の製造方法を用いた画像表示装置の製造方法であって、
一方の前記ガラス基板に複数の発光部を、他方の前記ガラス基板に複数の前記接合材を形成する工程を有し、
前記組立体を得る工程は、前記各接合材が前記各発光部を取り囲むように、前記一対のガラス基板を対向配置することを含み、
前記第2の照射工程が終了した後に、両方の前記ガラス基板を切断し、1つの前記接合材と1つの前記発光部の組ごとに分割する工程を有する、画像表示装置の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−169068(P2012−169068A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27339(P2011−27339)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】