説明

水性樹脂組成物、水性塗料組成物及びこれを用いた塗膜形成方法

【課題】本発明の目的は、ポリウレタンに脂肪酸及びケトン樹脂に由来するカルボニル基を導入することによって、アクリルエマルション等の他の水性樹脂との相溶性や、形成塗膜の耐溶剤性などの問題点を解消し得る水性樹脂組成物、水性塗料組成物及びこれを用いた塗膜形成方法を提供する。
【解決手段】1分子中に活性水素基を2つ以上含有する脂肪酸エステル(a)、水酸基を2個含有するケトン樹脂(b)を含むポリオール(c)、ポリイソシアネート化合物(d)、及びカルボキシル基含有ジオール(e)との反応によって得られる脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)が、水性媒体中に水分散されていることを特徴とする水性樹脂組成物。さらに該脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)と重合性不飽和モノマー(f)による重合体(B)との複合樹脂の水分散体(C)を含有することを特徴とする水性樹脂組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂組成物、水性塗料組成物及びこれを用いた塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料、インキ、接着剤などの分野では、省資源、環境衛生、無公害といった自然環境への影響、非危険物化や作業者への衛生面の確保といった観点から、有機溶剤型の組成物から水性型の組成物への転換が進められている。
【0003】
水性塗料組成物に使用されるビヒクルとしては、例えば、アクリル樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂などの樹脂が挙げられる。これらの水性塗料組成物において、アクリル樹脂は、速乾性、耐候性に優れているが、防食性に劣る。アルキッド樹脂は、原材料として不飽和脂肪酸を用いることにより、樹脂骨格中に酸化硬化基を導入することができ、それを用いた水性塗料組成物は1液での常温硬化が可能となり、また、金属面へ塗布した場合の防食性も期待できるが、軟質であるため塗膜の乾燥が遅く、一般的に耐候性に劣る。
【0004】
一方、不飽和脂肪酸に由来する酸化硬化基をポリウレタンに導入する試みがなされており、例えば、特許文献1及び2には、木材用の水性ポリウレタン分散液が提案されている。該特許文献に記載の水性ポリウレタン分散液は、低温で酸化硬化可能なポリウレタンであるが、やはり、不飽和脂肪酸を導入することで、可塑化が著しく、速乾性が不十分であり、形成塗膜の耐候性等も十分ではないなどの欠点がある。
【0005】
そこで、上記不具合を解消するために特許文献3では、アクリル成分による複合化が提案されているが、該特許文献に記載のアクリレート変性ポリウレタン−アルキッド樹脂に使用されるポリウレタン−アルキッド樹脂は、分岐構造で分子量分布の広い骨格となるため、含まれる低分子量成分が塗膜を軟化させたり、高分子量部分が仕上がり性を低下させるなどの問題がある。
【0006】
また、特許文献4には、ポリウレタンにケトンジオール基に由来するカルボニル基を導入することで塗膜物性の向上を目的とした、カルボニル−ヒドラジド硬化の常温硬化性水性ポリウレタン樹脂組成物が開示されているが、ケトンジオールを用いた水性ポリウレタン樹脂ではアクリルエマルションとの相溶性が悪く、また、形成塗膜の耐溶剤性が不十分であるという問題点がある。
【0007】
【特許文献1】特開2000−226428号公報
【特許文献2】特開平7−166130号公報
【特許文献3】特表2001−501995号公報
【特許文献4】特開平10−60258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ポリウレタンに脂肪酸及びケトン樹脂に由来するカルボニル基を導入することによって、上記問題を解消し得る水性樹脂組成物、水性塗料組成物及びこれを用いた塗膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、1分子中に活性水素基を2つ以上含有する脂肪酸エステル(a)、水酸基を2個含有するケトン樹脂(b)を含むポリオール(c)、ポリイソシアネート化合物(d)、及びカルボキシル基含有ジオール(e)との反応によって得られる脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)が、水性媒体中に水分散されていることを特徴とし、さらに該脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)と重合性不飽和モノマー(f)による重合体(B)との複合樹脂の水分散体(C)を含有することを特徴とする水性樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水性樹脂組成物は、アクリルエマルションなどの他の水性樹脂との相溶性に優れ、また、常温での乾燥が可能で、耐水性や耐溶剤性だけでなく、仕上がり性、硬度にも優れた硬化塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、1分子中に活性水素基を2つ以上含有する脂肪酸エステル(a)、水酸基を2個含有するケトン樹脂(b)を含むポリオール(c)、ポリイソシアネート化合物(d)、及びカルボキシル基含有ジオール(e)との反応によって得られる脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)が、水性媒体中に水分散されていることを特徴とし、さらに該脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)と重合性不飽和モノマー(f)による重合体(B)との複合樹脂の水分散体(C)を含有することを特徴とする水性樹脂組成物に関するものである。
【0012】
本発明において、脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)(以下、単に「ポリウレタン樹脂(A)」と略すことがある)は、1分子中に活性水素基を2つ以上含有する脂肪酸エステル(a)、水酸基を2個含有するケトン樹脂(b)を含むポリオール(c)、ポリイソシアネート化合物(d)、及びカルボキシル基含有ジオール(e)との反応によって得られるものである。
【0013】
上記脂肪酸エステル(a)は、1分子中に活性水素基を2つ以上含有し、通常、エステル結合を介して脂肪酸に由来する構造単位を有するものであり、低分子量のものから高分子量のものまで特に制限なく、本発明の水性樹脂組成物の用途等に応じて適宜選択することが可能である。
【0014】
例えば、上記脂肪酸エステル(a)として、まずグリセリンモノ脂肪酸エステルが使用できる。該グリセリンモノ脂肪酸エステルには、例えば、グリセリンモノラウリレート、グリセリンモノオレート、グリセリンモノステアレートなどが挙げられ、さらにグリセリンと炭素数10以上の脂肪酸とのエステル化反応、油脂とグリセリンとのエステル交換反応などにより得られるものが挙げられる。また、グリシドールと脂肪酸との反応生成物であってもよい。該グリセリンモノ脂肪酸エステルは、本発明の水性樹脂組成物を建築外装上塗り塗料や金属建材に塗布される下塗り塗料、その他金属面に塗られる1コート仕上げ塗料など、耐候性、防食性、耐水性、速乾性、仕上がり性等が求められる用途において使用する場合、脂肪酸エステル(a)として好適に選択され得るものである。
【0015】
上記脂肪酸としては、炭化水素鎖の末端にカルボキシル基が結合した構造を有しているものが挙げられ、例えば、乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸、不乾性油脂肪酸を挙げることができる。乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸は、厳密に区別できるものではないが、一般に、乾性油脂肪酸はヨウ素価が130以上の不飽和脂肪酸であり、半乾性油脂肪酸はヨウ素価が100以上かつ130未満の不飽和脂肪酸である。また、不乾性油脂肪酸は、一般にヨウ素価が100未満である脂肪酸である。
【0016】
乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸としては、例えば、魚油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ケシ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸、ハイジエン酸脂肪酸などが挙げられる。また、不乾性油脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸、水添ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸などが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。さらに、これらの脂肪酸は、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等と併用することができる。
【0017】
グリセリンと上記脂肪酸との反応は、グリセリン中の水酸基と脂肪酸中のカルボキシル基との当量比が1:0.17〜1:0.5、好ましくは1:0.23〜1:0.43の範囲内となる割合で混合し、通常、エステル化触媒の存在下に、約100〜180℃の温度で約0.5〜10時間加熱することにより、行うのが適している。エステル化触媒としては、例えば、硫酸、硫酸アルミニウム、硫酸水素カリウム、アルキル置換ベンゼン、塩酸、硫酸メチル、リン酸等が挙げられる。一方、油脂(脂肪酸のトリグリセライド)とグリセリンとの反応は、通常、酢酸亜鉛、リサージ、ジブチル錫オキサイド、ナフテン酸カルシウムなどのエステル交換反応触媒の存在下でそれ自体既知の方法により好適に行うことができる。
【0018】
また、脂肪酸エステル(a)として、1分子中に2つ以上のエポキシ基を含有するエポキシ樹脂と脂肪酸の反応生成物が使用できる。該エポキシ樹脂と脂肪酸との反応生成物は、2級の水酸基を有するものであり、本発明の水性樹脂組成物を建築外装上塗り塗料や金属建材に塗布される下塗り塗料、その他金属面に塗られる1コート仕上げ塗料など、耐候性、防食性、耐水性、速乾性、仕上り性等が求められる用途において使用する場合、脂肪酸エステル(a)として好適に使用され得るものである。特にエポキシ樹脂としてビスフェノールAのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を用いる場合には、高防食性が求められる下塗り塗料の用途に適する。
【0019】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAやビスフェノールF等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂;これらのエポキシ樹脂をアルキルフェノール及び脂肪酸から選ばれる少なくとも1種の変性剤によって変性してなる変性エポキシ樹脂;アルキルフェノール又はアルキルフェノールノボラック型樹脂とエピクロルヒドリンとを反応させてなるエポキシ基導入アルキルフェノール又はアルキルフェノールノボラック型樹脂;二塩基酸変性エポキシ樹脂、二塩基酸及びカルボキシル基含有フェノールで変性したエポキシ樹脂等を挙げることができる。エポキシ樹脂の重量平均分子量は、約200〜3,000の範囲内、好ましくは約300〜2,000範囲内であることが好適である。本明細書において、重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、流量1.0ml/min、測定温度40℃でゲルパーミュレーションクロマトグラフィ(以下GPC)により測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算したときの値である。GPC装置には「HLC8120GPC」(東ソー(株)社製、商品名)が使用でき、溶媒のGPCに用いるカラムとしては、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)などを挙げることができる。
【0020】
上記脂肪酸としては、前記グリセリンモノ脂肪酸エステルの説明で列記したものの中から適宜選択して使用することができる。
【0021】
上記エポキシ樹脂と脂肪酸との反応は、エポキシ樹脂中のエポキシ基と脂肪酸中のカルボキシル基との当量比が1:0.6〜1:1.4、好ましくは1:0.8〜1:1.2の範囲内となる割合で混合し、例えばエポキシ基/カルボキシル基反応触媒の存在下で通常1〜10時間程度加熱反応させればよい。エポキシ基/カルボキシル基反応触媒としては、例えば、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルフォスフォニウムブロマイド、トリフェニルベンジルフォスフォニウムクロライド等の4級塩触媒;トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアミン類等を挙げることができる。また、反応温度は、120〜150℃程度が適当である。
【0022】
脂肪酸エステル(a)としては、さらに1分子中にカルボキシル基を2つ以上含有する化合物と長鎖炭化水素基を含有するモノエポキシ化合物との反応生成物などが使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
上記脂肪酸エステル(a)の配合割合は水酸基を2個含有するケトン樹脂(b)を含むポリオール(c)と該脂肪酸エステル(a)との合計固形分量を基準にして、10〜80質量%、好ましくは30〜60質量%の範囲内で使用するのが硬化性、耐水性、仕上がりの点から好適である。
【0024】
本発明で用いられる水酸基を2個含有するケトン樹脂(b)(以下、単に「ケトン樹脂(b)」と略すことがある)は、ケトン類とアルデヒド類との縮合により製造される樹脂であることが好適である。ケトン類として例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、t−ブチルメチルケトンなどの非環式ケトン;シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどの飽和脂環式ケトン;アセトフェノン、メチルアセトフェノン、メチルナフチルケトン、ベンゾフェノン、プロピオフェノンなどの芳香族ケトンが好適に用いられる。またアルデヒド類としては例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクリルアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが挙げられ、また、ケトン樹脂の水素添加物等も好適に用いられる。
【0025】
ケトン樹脂(b)としては、OH価が10〜400、好ましくは70〜300、重量平均分子量が300〜4000、好ましくは500〜2000の範囲であるものが好適に使用できる。また、ポリオール(c)中におけるケトン樹脂(b)の含有割合は、5質量%以上、好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上であることが、硬度、硬化性、耐溶剤性の点から好適である。
【0026】
上記ポリオール(c)は、ケトン樹脂(b)を含むものであり、必要に応じて該ケトン樹脂以外の、1分子中に少なくとも2個以上の水酸基を有する、例えば、低分子量グリコール類、高分子量グリコール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類等をそれぞれ単独に用いてもよく、また、ポリエステルポリオールや高分子量グリコールに低分子量グリコールを併用しても良い。
【0027】
低分子量グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、オクタンジオール、トリシクロデカンジメチロール、水添ビスフェノールA、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAポリエチレングリコールエーテル、ビスフェノールAポリプロピレングリコールエーテル等があり、これらは単独又は2種以上混合して使用しても良い。
【0028】
高分子グリコール類としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリカーボネートグリコール等が挙げられ、ポリエステルポリオール類としては、グリコール成分とジカルボン酸成分を反応させたものが挙げられ、公知の方法で容易に製造でき、エステル化反応に限らず、エステル交換反応によっても製造できる。また、ε−カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環反応によって得られるポリエステルジオール及びこれらの共縮合ポリエステルも含むことができる。
【0029】
ポリイソシアネート化合物(d)は、1分子中にイソシアネート基を2個以上含有するものであり、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート類;これらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;イソホロンジイソシアネート、4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4−(又は−2,6−)ジイソシアネート、1,3−(又は1,4−)ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート類;これらのジイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルエーテルイソシアネート、(m−もしくはp−)フェニレンジイソシアネート、4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、3,3´−ジメチル−4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナトフェニル)スルホン、イソプロピリデンビス(4−フェニルイソシアネート)などの芳香族ジイソシアネート化合物;これらのジイソシアネート化合物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;トリフェニルメタン−4,4´,4´´−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン、4,4´−ジメチルジフェニルメタン−2,2´,5,5´−テトライソシアネートなどの1分子中に3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート類;これらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、ポリアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等のポリオールの水酸基にイソシアネート基が過剰量となる比率でポリイソシアネート化合物を反応させてなるウレタン化付加物;これらのウレタン化付加物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物等を挙げることができる。
【0030】
カルボキシル基含有ジオール(e)としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸及びこれらを縮合したポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオール等が挙げられる。これらに12−ヒドロキシステアリン酸、パラオキシ安息香酸、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオン酸、サリチル酸等を併用することもできる。
【0031】
また、必要に応じてポリウレタン樹脂(A)に重合性不飽和基を導入することができる。該ポリウレタン樹脂(A)の末端に不飽和基を導入する場合は、原料成分としてヒドロキシエチルメタクリレート等の水酸基を1つ有する重合性不飽和化合物が使用でき、ポリウレタン樹脂(A)の樹脂骨格に不飽和基を導入する場合は、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等の水酸基を2つ有する重合性不飽和化合物が使用できる。
【0032】
特に、ポリウレタン樹脂(A)の樹脂骨格に不飽和基を導入することで、後述する重合体(B)との複合化及び水分散後のウレタンの鎖延長ができることなどから、造膜性、塗膜物性に優れた樹脂を得ることができる。
【0033】
上記ポリウレタン樹脂(A)の製造は、特に限定されることなく従来公知の手法が採用でき、例えば、前記した(a)〜(e)成分を一度に反応させても良いし、多段的に反応させても良い。また、ポリウレタン樹脂(A)の製造は、イソシアネート基に不活性な有機溶媒中で行うことができる。後述する重合体(B)との複合化を行う場合のポリウレタン樹脂(A)の製造は、溶剤の持ち込みを排除する点からは、後述の重合性不飽和モノマー(f)中、イソシアネート基に不活性なモノマーを希釈成分として用いて、ポリウレタン樹脂(A)の製造を行うことができる。上記(a)〜(e)成分の使用割合は種々変えることができるが、全成分中のイソシアネート基と水酸基の当量比が一般に1:1〜1:0.5好ましくは1:0.9〜1:0.7となるようにするのが、水性樹脂分散体の安定性の点から望ましい。反応は通常40〜180℃、好ましくは60〜130℃の温度で行われる。この反応を促進させるため、通常のウレタン化反応において使用されるトリエチルアミン、N−エチルモルホリン、トリエチレンジアミン等のアミン系触媒や、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等の錫系触媒などを必要に応じて用いても良い。
【0034】
上記の通り得られるポリウレタン樹脂(A)は、水性媒体へ分散される。水性媒体としては、水、または水を主として水溶性有機溶媒などの有機溶媒を溶解してなる水−有機溶媒混合溶液などを挙げることができる。水分散は、特に制限なく従来公知の方法で行うことができ、例えば上記ポリウレタン樹脂(A)に中和剤、界面活性剤などを必要に応じて添加し、水を徐々に加えながら攪拌して混合分散することができる。中和剤としては、カルボキシル基を中和できるものであれば特に制限はないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメチルアミン、ジメチルアミノエタノール、2−メチル−2−アミノプロパノール、トリエチルアミン、アンモニウムなどが挙げられる。中和剤は、ポリウレタン樹脂(A)に加えてカルボキシル基を中和しておいても良いし、分散媒である水に加えておき、分散と同時に中和しても良い。界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−オキシプロピレンブロック共重合体物等のノニオン系界面活性剤、ラウリル硫酸ソーダ、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ等のアニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0035】
上記ポリウレタン樹脂(A)は、さらに必要に応じて鎖延長剤を反応させることにより高分子量化することができる。鎖延長剤としては、例えばエチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3´−ジメチル−4,4´−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等のジアミン;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアミン;ヒドロキシエチルヒドラジン、ヒドロキシエチルジエチレントリアミン、2−[(2−アミノエチル)アミノ]エタノール、3−アミノプロパンジオール等のアミノ基と水酸基を持つ化合物;ヒドラジン類、酸ヒドラジド類等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組合わせて使用することができる。
【0036】
このように製造されたポリウレタン樹脂(A)は、酸価5〜100mgKOH/g、好ましくは10〜70mgKOH/gであることが、形成被膜の耐水性等の点から好適である。
【0037】
本発明はさらに上記脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)と重合性不飽和モノマー(f)による重合体(B)との複合樹脂の水分散体(C)を含む、水性樹脂組成物をも提供するものである。
【0038】
本発明で使用される重合性不飽和モノマー(f)としては、特に制限なく従来公知のモノマーが使用でき、通常、分子中に少なくとも1個、好ましくは1個の重合性不飽和基、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などを含有する化合物が包含される。
【0039】
上記重合性不飽和モノマー(f)の具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート等のアルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート等のイソボルニル基を有する重合性不飽和化合物;アダマンチル(メタ)アクリレート等のアダマンチル基を有する重合性不飽和化合物;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基を有する重合性不飽和化合物;パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィン等のフッ素化アルキル基を有する重合性不飽和化合物;マレイミド基等の光重合性官能基を有する重合性不飽和化合物;N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等のビニル化合物;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基を有する化合物;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物等の含窒素重合性不飽和化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のC〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、上記C〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体等の水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等の水酸基を有する重合性不飽和化合物;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレート及びそのナトリウム塩やアンモニウム塩等のスルホン酸基を有する重合性不飽和化合物;2−ヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン等のヒドロキシベンゾフェノン類とグリシジル(メタ)アクリレートとの付加反応生成物、あるいは2−(2´−ヒドロキシ−5´−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収性官能基を有する重合性不飽和化合物;4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の紫外線安定性重合性不飽和化合物;アクロレイン、ダイアエトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等のカルボニル基を有する重合性不飽和化合物;アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルテレフタレート、ジビニルベンゼン等の1分子中に少なくとも2個の重合性不飽和基を有する多ビニル化合物等が挙げられ、これらは得られる水性樹脂分散体に望まれる性能などに応じて、単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0040】
また本発明では、重合性不飽和モノマー(f)の少なくとも一部として、カルボニル基含有重合性不飽和モノマーを使用し、且つ、得られる水性樹脂組成物に後述のヒドラジン誘導体を配合せしめることにより、カルボニル基含有重合性不飽和モノマー由来のカルボニル基とヒドラジン誘導体との補助架橋を進行させることができ、塗膜の乾燥性をより一層向上させることができ、耐候性、耐水性等の物性にも優れた塗膜を形成する塗料組成物を調整することができる。
【0041】
かかるカルボニル基含有重合性不飽和モノマーは、一般に、モノマー(f)の合計質量を基準にして、0.5〜35質量%、好ましくは2〜20質量%の範囲内で使用するのが適している。
【0042】
カルボニル基含有重合性不飽和モノマーとしては、1分子中に1個のカルボニル基と1個の重合性不飽和結合を有する化合物が包含され、例えば、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、特にダイアセトン(メタ)アクリルアミドが好適である。
【0043】
さらに本発明では、重合性不飽和モノマー(f)が、その成分の少なくとも一部として脂肪酸変性重合性不飽和モノマーを含有することが、製造される水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の仕上がり性に肉持ち感を付与する点から好適である。
【0044】
上記脂肪酸変性重合性不飽和モノマーは、通常、脂肪酸由来の炭化水素鎖の末端に重合性不飽和基を有する重合性不飽和モノマーが包含される。ここで、重合性不飽和基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などを挙げることができ、特に(メタ)アクリロイル基が好適である。
【0045】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマーとしては、例えば、脂肪酸をエポキシ基含有重合性不飽和モノマー又は水酸基含有重合性不飽和モノマーと反応させることにより得られるものを挙げることができる。
【0046】
脂肪酸としては、炭化水素鎖の末端にカルボキシル基が結合した構造を有しているものが挙げられ、例えば、乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸、不乾性油脂肪酸を挙げることができる。乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸は、厳密に区別できるものではないが、一般に、乾性油脂肪酸はヨウ素価が130以上の不飽和脂肪酸であり、半乾性油脂肪酸はヨウ素価が100以上かつ130未満の不飽和脂肪酸である。また、不乾性油脂肪酸は、一般にヨウ素価が100未満である脂肪酸である。
【0047】
乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸としては、例えば、魚油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ケシ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸、ハイジエン酸脂肪酸などが挙げられる。また、不乾性油脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸、水添ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸などが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。さらに、これらの脂肪酸は、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等と併用することができる。
【0048】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマーを製造するために、上記脂肪酸と反応させ得るエポキシ基含有重合性不飽和モノマーとしては、1分子中に1個のエポキシ基と1個の重合性不飽和基を有する化合物が包含され、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0049】
上記脂肪酸とエポキシ基含有重合性不飽和モノマーは、脂肪酸中のカルボキシル基とエポキシ基含有モノマー中のエポキシ基との当量比が0.75:1〜1.25:1、好ましくは0.8:1〜1.2:1の範囲内となるような割合で反応させることができる。
【0050】
上記脂肪酸とエポキシ基含有重合性不飽和モノマーとの反応は、通常、重合禁止剤の存在下にゲル化などの反応上の問題を起こすことなく、脂肪酸成分中のカルボキシル基とエポキシ基含有重合性不飽和モノマー中のエポキシ基とが円滑に反応できる条件下で行うことができ、通常、約100〜180℃の温度で、約0.5〜10時間加熱することにより行うのが適している。
【0051】
この反応においてN,N−ジメチルアミノエタノール等の3級アミン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム等の4級アンモニウム塩等のエステル化反応触媒を用いることができ、さらに、反応に対して不活性な有機溶剤を使用してもよい。
【0052】
上記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロカテコール、p−tert−ブチルカテコール等のヒドロキシ化合物;ニトロベンゼン、ニトロ安息香酸、o−,m−又はp−ジニトロベンゼン、2,4−ジニトロトルエン、2,4−ジニトロフェノール、トリニトロベンゼン、ピクリン酸等のニトロ化合物;p−ベンゾキノン、ジクロロベンゾキノン、クロルアニル、アンスラキノン、フェナンスロキノン等のキノン化合物;ニトロソベンゼン、ニトロソ−β−ナフトール等のニトロソ化合物等、それ自体既知のラジカル重合禁止剤が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0053】
また、上記脂肪酸変性重合性モノマーは、上記脂肪酸を水酸基含有重合性不飽和モノマーとエステル化反応させることによっても得ることができる。かかる水酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、1分子中に1個の水酸基と1個の重合性不飽和基を有する化合物が包含され、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のC〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、上記C〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体等の水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0054】
上記脂肪酸と水酸基含有重合性不飽和モノマーは、通常、該脂肪酸中のカルボキシル基対水酸基含有モノマー中の水酸基との当量比が0.4:1〜1.25:1、好ましくは0.5:1〜1.2:1の範囲内となるような割合で反応させることができる。
【0055】
上記脂肪酸と水酸基含有重合性不飽和モノマーとの反応は、通常、重合禁止剤の存在下に、ゲル化などの反応上の問題を起こすことなく、脂肪酸成分中のカルボキシル基と水酸基含有重合性不飽和モノマー中の水酸基とが円滑に反応できる条件下で行うことができ、通常、エステル化触媒の存在下に、約100〜180℃の温度で、約0.5〜10時間加熱することにより行うのが適している。エステル化触媒としては、例えば、硫酸、硫酸アルミニウム、硫酸水素カリウム、硫酸メチル、アルキル置換ベンゼン、塩酸、リン酸等が挙げられ、これらの触媒は、通常、反応させる上記脂肪酸と水酸基含有重合性不飽和モノマーの合計量を基準にして、約0.001〜2.0質量%の範囲内で使用することができる。さらに反応に対して不活性な有機溶剤を使用することもできる。
【0056】
上記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロカテコール、p−tert−ブチルカテコール等のヒドロキシ化合物;ニトロベンゼン、ニトロ安息香酸、o−,m−又はp−ジニトロベンゼン、2,4−ジニトロトルエン、2,4−ジニトロフェノール、トリニトロベンゼン、ピクリン酸等のニトロ化合物;p−ベンゾキノン、ジクロロベンゾキノン、クロルアニル、アンスラキノン、フェナンスロキノン等のキノン化合物;ニトロソベンゼン、ニトロソ−β−ナフトール等のニトロソ化合物等、それ自体既知のラジカル重合禁止剤が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0057】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマーの重合性不飽和モノマー(f)中における使用量は、0.5〜40質量%、好ましくは2〜30質量%の範囲内で使用するのが適している。
【0058】
本発明では、ポリウレタン樹脂(A)と重合性不飽和モノマー(f)による重合体(B)との複合樹脂の水分散体(C)の製造は、従来公知の手法が特に制限なく採用でき、例えば、上記ポリウレタン樹脂(A)及び水の存在下で、前述の重合性不飽和モノマー(f)を乳化重合する方法が挙げられる。乳化剤としては、該ポリウレタン樹脂(A)に、必要に応じて公知のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などを適宜併用することができ、該乳化剤の1種または2種以上の存在下で重合開始剤を使用して乳化重合することができる。重合開始剤には、例えばアゾイソバレロニトリル、4,4´−アゾビス−4−シアノ吉草酸のようなアゾ系開始剤、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、t−ブチルハイドロパーオキシド等の過酸化物等の過酸化物等既知のものを用いることができる。また、該重合開始剤には、必要に応じて、糖、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、鉄錯体等の還元剤を併用し、レドックス重合系としても良い。また、乳化重合反応温度は30〜95℃程度が望ましい。
【0059】
また、得られる水性樹脂分散体の粒子の機械的安定性を向上させるために、該水性樹脂分散体が酸性基を有する場合には、これを前述のような中和剤により中和することが望ましい。該中和剤は、中和後の水性樹脂分散体のpHが6.5〜9.0程度となるような量で用いることが望ましい。
【0060】
本発明において、上記ポリウレタン樹脂(A)と重合性不飽和モノマー(f)との使用割合は、固形分質量比で10/90〜90/10、好ましくは20/80〜80/20の範囲内であることが、乳化重合時の安定性や速乾性、塗膜性能の点から好適である。
【0061】
また、上記水性樹脂分散体の製造では、水及び乳化剤の存在下で、前述の重合性不飽和モノマー(f)を用いて多段階で乳化重合を行っても良い。
【0062】
本発明において、上記ポリウレタン樹脂(A)と重合性不飽和モノマー(f)による重合体(B)の複合樹脂の水分散体の平均粒子径は、得られる水性樹脂分散体粒子の親水−疎水組成分布、それを用いて形成される塗膜の均一性の点から500nm以下であることが望ましい。
【0063】
本明細書において、平均粒子径は、試料を脱イオン水にて希釈し、「SALD−3100」(商品名、島津製作所社製、レーザー回折式粒度分布測定装置)を用いて、常温(20℃程度)にして測定した時の値であり、また、平均粒子径の測定は、微粒化された水性樹脂分散体の製造後24時間以内に行うものとする。
【0064】
本発明の水性樹脂組成物は、上記ポリウレタン樹脂(A)の水分散体、又はポリウレタン樹脂(A)と重合性不飽和モノマー(f)による重合体(B)との複合樹脂の水分散体(C)を含むものであり、さらに必要に応じて、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを共重合成分とする水性樹脂分散体(D)(以下、単に「水性樹脂分散体(D)」と略することがある)を含有することができる。脂肪酸変性重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーとしては、上記重合性不飽和モノマー(f)の説明で列記したものから適宜選択して使用することができる。
【0065】
上記脂肪酸変性重合性不飽和モノマーとその他の重合性不飽和モノマーの使用割合は、固形分質量比で、5/95〜40/60の範囲内であることが、硬化性、仕上がりの点から好適である。
【0066】
上記水性樹脂分散体(D)は、通常、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを水性媒体中に微分散させることにより得られるモノマー乳化物を重合することにより製造されるものである。
【0067】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーの水性媒体中への微分散は、通常、高エネルギーせん断能力を有する分散機を用いて行うことができる。その際に使用しうる該分散機としては、例えば、高圧乳化装置、超音波乳化機、高圧コロイドミル、高圧ホモジナイザー等が挙げられる。これらの分散機には、通常、10〜1000MPa、好ましくは50〜300MPa程度の高圧下で操作することができる。また、該機械にて分散を行う前に、該脂肪酸変性重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーをあらかじめディスパー等で予備乳化してもよい。
【0068】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを上記手法により水性媒体中に微分散させることにより得られる樹脂分散体乳化物中の分散粒子の平均粒子径は、形成塗膜の透明性、耐水性等の点から、500nm以下、好ましくは80〜400nm、さらに好ましくは100〜300nmの範囲が適している。
【0069】
かくして得られる樹脂分散体乳化物の重合は、例えば、ミニエマルション重合法に従い、微分散後の樹脂分散体乳化物を、攪拌機を備えた反応器に全量仕込み、重合開始剤を添加し、攪拌しながら加熱することにより行うことができる。
【0070】
上記水性樹脂分散体(D)を使用する場合、その配合量は、本発明の水性樹脂組成物の全樹脂固形分に対して、一般に、5〜70質量%、特に10〜60質量%の範囲内が望ましい。
【0071】
さらに、本発明の水性樹脂組成物では必要に応じて、カルボニル基含有重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを共重合成分とする水性樹脂分散体(E)(以下、単に「水性樹脂分散体(E)」と略すことがある)を含有することができる。カルボニル不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーとしては、上記重合性不飽和モノマー(f)の説明で列記したものから適宜選択して使用することができる。
【0072】
上記カルボニル基含有重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーの共重合割合は、固形分質量比で0.5/99.5〜50/50、好ましくは2/98〜40/60の範囲内であることが適している。
【0073】
上記水性樹脂分散体(E)の製造には、従来公知の手法が特に制限なく採用でき、例えば、上記カルボニル基含有重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを水の存在下で乳化重合する方法が挙げられる。乳化剤及び重合開始剤としては、上記水分散体(C)の製造の説明で列記したものから適宜選択して使用することができる。
【0074】
上記水性樹脂分散体(E)を使用する場合、その配合量は、本発明の水性樹脂組成物の全樹脂固形分に対して、一般に5〜70質量%、特に10〜60質量%の範囲内が望ましい。
【0075】
さらに本発明では必要に応じて、ヒドラジン誘導体(F)を含有しても良い。該ヒドラジン誘導体としては、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等の2〜18個の炭素原子を有する飽和ジカルボン酸ジヒドラジド;マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のモノオレフィン性不飽和ジカルボン酸ジヒドラジド;フタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジドまたはイソフタル酸ジヒドラジド;ピロメリッド酸のジヒドラジド、トリヒドラジドまたはテトラヒドラジド;ニトリロトリヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド;カルボン酸低級アルキルエステル基を有する低重合体をヒドラジンまたはヒドラジン水化物(ヒドラジンヒドラード)と反応させることにより得られるポリヒドラジド;炭酸ジヒドラジド等のヒドラジド基含有化合物;ビスセミカルバジド;ヘキサメチレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネート等のジイソシアネートまたはそれから誘導されるポリイソシアネート化合物にN,N−ジメチルヒドラジン等のN,N−置換ヒドラジンや上記例示のヒドラジドを過剰に反応させて得られる多官能セミカルバジド、該ポリイソシアネート化合物とポリエーテルとポリオール類やポリエチレングリコールモノアルキルエーテル類等の親水性基を含む活性水素化合物との反応物中のイソシアネート基に上記例示のジヒドラジドを過剰に反応させて得られる水系多官能セミカルバジドとの混合物等のセミカルバジド基を有する化合物;ビスアセチルジヒドラゾン等のヒドラゾン基を有する化合物等が挙げられる。
【0076】
本発明の水性樹脂組成物に上記ヒドラジン誘導体(F)を含有することにより、形成塗膜が例えばホルムアルデヒド等を吸着除去することが可能となり、また、上記(A)や(C)成分中のカルボニル基と反応する架橋剤として作用することが可能である。
【0077】
上記ヒドラジン誘導体(F)の配合量は、水性樹脂組成物の樹脂固形分に対して、一般に、0.01〜10質量%、特に0.1〜8質量%の範囲内が望ましい。
【0078】
また、上記水性樹脂組成物は、塗膜の硬化を促進させるために金属ドライヤーを含有することが望ましい。金属ドライヤーとしては、例えば、アルミニウム、カルシウム、セリウム、コバルト、鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、ジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と酸との塩が挙げられ、該酸としては、例えば、カプリン酸、カプリル酸、イソデカン酸、リノレン酸、ナフテン酸、ネオデカン酸、オクテン酸、オレイン酸、パルミチン酸、樹脂酸、リシノール酸、大豆油脂肪酸、ステアリン酸、トール油脂肪酸等が挙げられる。上記金属ドライヤーの使用割合は、水性樹脂組成物の樹脂固形分を基準にして0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜7質量%が好適である。
【0079】
また、本発明の水性樹脂組成物には、上記水性樹脂分散体(C)等が水酸基などの架橋性官能基を有する場合には、該官能基と反応し得る架橋性官能基を有する硬化剤、例えばイソシアネート系硬化剤及び/又はメラミン系硬化剤などを含有することができる
本発明の組成物には、さらに必要に応じて、紫外線吸収剤及び光安定化剤などの耐候性助剤、消泡剤、可塑剤、表面調整剤、沈降防止剤、帯電防止剤、有機溶剤、分散剤、硬化触媒、増粘剤、造膜助剤、防腐剤、防カビ剤、凍結防止剤、pH調整剤、調湿剤、湿潤剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0080】
本発明の水性樹脂組成物は、建築用、工業用、自動車部品用等の塗料用や印刷インキ等の被覆材、塗料用添加剤、不織布用等の接合剤、接着剤、充填剤、成形材料、レジスト等の種々の用途に使用することができる。
【0081】
本発明はまた、上記の水性樹脂組成物を含んでなる水性塗料組成物を提供するものである。
【0082】
上記水性塗料組成物は、クリヤー塗料として又はエナメル塗料として使用することができる。
【0083】
エナメル塗料として使用する場合には、顔料分として塗料分野では既知の着色顔料、光輝性顔料、体質顔料、防錆顔料等を配合することができる。
【0084】
上記水性塗料組成物としては、新しい基材面、旧塗膜面どちらにも適用することができ、該基材としては、特に制限されるものではなく、例えば、コンクリート、モルタル、スレート板、PC板、ALC板、セメント珪酸カルシウム板、コンクリートブロック、木材、石材等の無機基材;プラスチック等の有機基材;鉄、アルミニウム等の金属等が挙げられ、また、旧塗膜としては、これら基材上に設けられたアクリル樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、ポリウレタン樹脂系、フッ素樹脂系、シリコンアクリル樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、エポキシ樹脂系、アルキッド樹脂等の塗膜が挙げられる。これらの被塗面には、水性又は溶剤型の下塗り材を塗布してもよく、必要に応じて、該下塗り材を塗布した後、上記水性塗料組成物を上塗り材として塗布することができる。また、本発明の水性塗料組成物を下塗り材として塗布した後、既知の水性上塗り材を塗布することも可能である。
【0085】
本発明の水性塗料組成物は、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電塗装、刷毛塗装、ローラー塗装、リシンガン、万能ガン等の方法で塗布することができ、また、乾燥方法としては、加熱乾燥、強制乾燥、常温乾燥のいずれであってもよい。本件明細書では40℃未満の乾燥条件を常温乾燥とし、40℃以上で且つ80℃未満の乾燥条件を強制乾燥とし、80℃以上の乾燥条件を加熱乾燥とする。本発明の水性塗料組成物の塗布量としては、例えば、50〜300g/mの範囲内とすることができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。尚、「部」及び「%」は、別記しない限り「質量部」及び「質量%」を示す。また、本文中に記載の「水」は、別記しない限り「脱イオン水」を示す。
水性樹脂分散体の製造−1
実施例1
「エマルジーMU」(商品名、理研ビタミン社製、蒸留モノ脂肪酸グリセライド、モノエステル含量93%以上、ヨウ素価108〜120)105.2g、「ハイラック901」(商品名、日立化成社製、ケトン樹脂、OH価1400、分子量800)165.7g、ジメチロールプロピオン酸29.0g、メチルエチルケトン166.6g、ジブチル錫ジラウリレート0.044gをフラスコに仕込み、窒素ガスを導入しながら80℃まで昇温した。
昇温したのち、イソホロンジイソシアネート200.0gを30分で滴下した。約2時間後、NCO価(注1)が30.3になったところでメチルエチルケトン333.4gを滴下しながら40℃以下になるまで冷却した。その後、中和剤としてトリエチルアミンを17.5g加え均一に攪拌した後、水900gを20分で滴下させた。その後、水30gに溶解したエチレンジアミン5.1gを5分で滴下し、50℃に昇温して2時間エージングさせた。その後、加熱残分が35%になるまでメチルエチルケトンを減圧除去し、固形分濃度35%、平均粒子径45nmの水性樹脂分散体(BP−1)を得た。
【0087】
実施例2
「脂肪酸エステル(M−1)」(注2)186.9g、「ハイラック901」118.6g、ジメチロールプロピオン酸29.8g、メチルエチルケトン166.6g、ジブチル錫ジラウリレート0.044gをフラスコに仕込み、窒素ガスを導入しながら80℃まで昇温した。
昇温したのち、イソホロンジイソシアネート164.6gを30分で滴下した。約2時間後、NCO価(注1)が25.0になったところでメチルエチルケトン333.4gを滴下しながら40℃以下になるまで冷却した。その後、中和剤としてトリエチルアミンを18.0g加え均一に攪拌した後、水900gを20分で滴下させた。その後、水30gに溶解したエチレンジアミン4.2gを5分で滴下し、50℃に昇温して2時間エージングさせた。その後、加熱残分が35%になるまでメチルエチルケトンを減圧除去し、固形分濃度35%、平均粒子径42nmの水性樹脂分散体(BP−2)を得た。
【0088】
(注1)NCO価:下記測定方法にて追跡した。
三角フラスコに試料(g)を正しくはかりとり、ジオキサン10mlを加え、溶解した試
料を50℃に加熱し、正しくはかりとったN/5ジブチルアミン−ジオキサン溶液10m
lを加え、2分間かき混ぜて試料とジブチルアミンを反応させる。次に、ブロムフェノー
ルブルー−エチルアルコール溶液を2〜3敵加えて、N/10塩酸溶液で滴定し、青色か
ら黄緑色に変化したときを終点とする。
計算式N={0.1×42×(A-B)×f}/0.01×S×W}
ここでN:NCO価(試料1g中に含まれるNCOのmg数)
A:空試験のN/5ジブチルアミン-ジオキサン溶液を中和するのに使用したN/10塩酸溶液の量(ml)
B:試料の滴定に使用したN/10塩酸溶液の量(ml)
f:N/10塩酸溶液のファクター
S:試料の加熱残分(%)
W:試料の量(g)
42:NCOの分子量
(注2)「脂肪酸エステル(M−1)」の製造方法
エピコート828EL(商品名、ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ樹脂)280g、アマニ油脂肪酸560g、テトラエチルアンモニウムブロマイド0.6gをフラスコに仕込み攪拌しながら150℃に昇温し、酸価 1mgKOH/g以下まで反応させ、脂肪酸エステル(M−1)を製造した。
【0089】
実施例3
実施例2の方法に従って、配合組成を表1に記載のとおりに変更する以外は上記実施例2と同様にして、水性樹脂分散体(BP−3)を得た。
【0090】
製造例1
「エマルジーMU」120.6g、「PLACCEL205」(商品名、ダイセル化学工業社製、ポリカプロラクトンジオール)127.4g、ジメチロールプロピオン酸29.5g、メチルエチルケトン166.6g、ジブチル錫ジラウリレート0.044gをフラスコに仕込み、窒素ガスを導入しながら80℃まで昇温した。
昇温したのち、イソホロンジイソシアネート222.4gを30分で滴下した。約2時間後、NCO価(注1)が33.7になったところでメチルエチルケトン333.4gを滴下しながら40℃以下になるまで冷却した。その後、中和剤としてトリエチルアミンを17.5g加え均一に攪拌した後、水900gを20分で滴下させた。その後、水30gに溶解したエチレンジアミン5.1gを5分で滴下し、50℃に昇温して2時間エージングさせた。その後、加熱残分が35%になるまでメチルエチルケトンを減圧除去し、固形分濃度35%、平均粒子径50nmの水性樹脂分散体(CP−1)を得た。
【0091】
製造例2
比較例1の方法に従って、配合組成を表1に記載のとおりに変更する以外は上記比較例1と同様にして、水性樹脂分散体(CP−2)を得た。
尚、表1中における(注3)は下記の通りである。
【0092】
【表1】

【0093】
(注3)「ハイラック110H」:商品名、日立化成社製、ケトン樹脂、OH価100、分子量1120
水性樹脂分散体の製造−2
実施例4
「エマルジーMU」49.6g、「ハイラック901」86.2g、ジメチロールプロピオン酸24.5g、n−ブチルアクリレート120.0g、ジブチル錫ジラウリレート0.047g、ベンゾキノン0.017gをフラスコに仕込み、窒素ガスを導入しながら80℃まで昇温した。
昇温したのち、イソホロンジイソシアネート119.6gを20分で滴下した。約2時間後、NCO価(注1)が32.3になったところでn−ブチルアクリレート20g、メチルメタクリレート70g、スチレン 70gを滴下しながら40℃以下になるまで冷却した。その後、中和剤としてトリエチルアミンを14.8g加え均一に攪拌した後、「エルビットN」(商品名、扶桑化学工業社製、イソアスコルビン酸ナトリウムエチレンジアミン)1.7gを水851gに溶かした水溶液を20分で滴下させた。その後、水42gに溶解したエチレンジアミン3.0gを5分で滴下し、50℃に昇温して2時間エージングさせた。続いて温度を65℃まで上げ、水44gに溶かした「カヤブチル H−70」(商品名、化薬アクゾ社製、t−ブチルハイドロパーオキサイド)1.1gを90分滴下した。一時間熟成させて固形分濃度37%、平均粒子径70nmの水性樹脂分散体(BP−4)を得た。
【0094】
実施例5
「エマルジーMU」40.0g、「ハイラック901」81.3g、「ブレンマーGLM」(商品名、日本油脂社製、グリセリンモノメタクリレート)9.0g、ジメチロールプロピオン酸24.2g、n−ブチルアクリレート120.0g、ジブチル錫ジラウリレート0.047g、ベンゾキノン0.017gをフラスコに仕込み、窒素ガスを導入しながら80℃まで昇温した。
昇温したのち、イソホロンジイソシアネート125.4gを20分で滴下した。約2時間後、NCO価(注1)が33.9になったところでn−ブチルアクリレート20g、メチルメタクリレート70g、スチレン70gを滴下しながら40℃以下になるまで冷却した。その後、中和剤としてトリエチルアミンを14.8g加え均一に攪拌した後、「エルビットN」1.7gを水851gに溶かした水溶液を20分で滴下させた。その後、水42gに溶解した「エルビットN」3.0gを5分で滴下し、50℃に昇温して2時間エージングさせた。続いて温度を65℃まで上げ、水44gに溶かした「カヤブチルH−70」1.1gを90分滴下した。一時間熟成させて固形分濃度37%、平均粒子径68nmの水性樹脂分散体(BP−5)を得た。
【0095】
実施例6
実施例5の方法に従って、配合組成を表2に記載のとおりに変更する以外は上記実施例5と同様にして、水性樹脂分散体(BP−6)を得た。
【0096】
実施例7
実施例5の方法に従って、配合組成を表2に記載のとおりに変更する以外は上記実施例5と同様にして、水性樹脂分散体(BP−7)を得た。
尚、表2中における(注4)は下記の通りである。
【0097】
製造例3
実施例4の方法に従って、配合組成を表2に記載のとおりに変更する以外は上記実施例4と同様にして、水性樹脂分散体(CP−3)を得た。
【0098】
製造例4
実施例4の方法に従って、配合組成を表2に記載のとおりに変更する以外は上記実施例4と同様にして、水性樹脂分散体(CP−4)を得た。
【0099】
【表2】

【0100】
(注4)「脂肪酸変性モノマー(M−2)」:フラスコに大豆油脂肪酸560g、ハイドロキノン0.45g、メチル硫酸0.65g、トルエン36gを仕込み120℃に昇温した。続いてヒドロキシエチルメタクリレート325g、ハイドロキノン0.45g、メチル硫酸1.4g、トルエン58.5gを混合した溶液を上記反応容器に2時間かけて滴下した。滴下終了後150℃まで昇温し、縮合水を除去しながら、酸価が8.7以下になるまで約5時間反応させた。その後、加熱残分が95%以上になるまでトルエンを減圧除去し、脂肪酸変性モノマー(M−2)を製造した。
アクリルエマルションの製造
製造例5
水28.5g、「NEWCOL707−SF」(商品名、日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性乳化剤、有効成分30%)0.082gをフラスコに仕込み、窒素ガスを導入しながら80℃まで昇温した。水36.8g、「NEWCOL707−SF」6.6g、n−ブチルアクリレート45g、メチルメタクリレート25g、スチレン25g、ダイアセトンアクリルアミド5gを配合しディスパ−で5分間攪拌し、プレエマルションを別途作成した。上記反応装置が80℃まで温度が上がった後、水10.1gに溶かした過硫酸アンモニウム0.405gを加えた後、作製したプレエマルションを2時間で滴下した。一時間熟成させた後、アンモニア水0.275gを2分で滴下して、固形分濃度55%、平均粒子径180nmのアクリルエマルション(AC−1)を得た。
【0101】
製造例6
ガラスビーカーに「脂肪酸変性モノマー(M−2)」(注4)30g、n−ブチルアクリレート29g、メチルメタクリレート20g、スチレン20g、メタクリル酸1g、水85g、「NEWCOL707−SF」10gを入れ、ディスパーで2000rpmで15分間攪拌し、予備乳化液を製造した。この予備乳化液を、高圧エネルギーを加えて流体同士を衝突させる高圧乳化装置にて100Mpaで高圧処理することにより平均粒子径190nmのモノマー乳化液を得た。
次いで上記モノマー乳化物をフラスコへ移し、水にて固形分濃度が45.0%となるように希釈した。その後85℃まで昇温させ、過硫酸アンモニウム0.5gを水10gに溶かした開始剤水溶液をフラスコに添加し、温度を保持しながら1時間攪拌した後、40℃まで冷却し、トリエチルアミンでpHを8.0に調整し、固形分濃度40%、平均粒子径が185nmのアクリルエマルション(AC−2)を得た。
【0102】
水性樹脂組成物の製造及び塗膜評価試験
実施例8〜11及び比較例1,2
表3記載の配合に従って各水性樹脂組成物を得た。各水性樹脂組成物を下記性能試験に供し評価した。結果を表3にあわせて示す。尚、表3中における(注5)〜(注6)は下記の通りである。
【0103】
【表3】

【0104】
(注5)「TEXANOL」:商品名、イーストマンケミカル社製、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール モノイソブチレート、造膜助剤
(注6)「DICNATE3111」:商品名、大日本インキ社製、金属ドライヤー、モノカルボン酸Co含有率3.0%
実施例12〜16及び比較例3、4
表4記載の配合に従って各水性樹脂組成物を得た。各水性樹脂組成物を下記性能試験に供し評価した。結果を表4にあわせて示す。
【0105】
【表4】

【0106】
実施例17〜20及び比較例5〜8
表5記載の配合に従って各水性樹脂組成物を得た。各水性樹脂組成物を下記性能試験に供し評価した。結果を表5にあわせて示す。
【0107】
【表5】

【0108】
(*1)耐水性:各水性樹脂組成物を鋼板にドクターブレードにて乾燥膜厚が40μmとなるように塗装し、40℃で4日間乾燥させて、各試験板を作成した。
得られた試験板を室温20℃の恒温水槽に7日間浸漬後、塗膜状態を目視で観察した。
◎:異常なし
○:若干フクレ、変色があるが、良好な状態
△:フクレ、変色があり、実用困難
×:フクレ、変色が著しい
【0109】
(*2)硬化性:各水性樹脂組成物をポリプロピレン板にドクターブレードにて乾燥膜厚が40μmとなるように塗装し、40℃4日間乾燥させた後、ポリプロピレン板から乾燥膜を剥離して4×4cmの大きさにカットし、試験片とした。
得られた試験片をアセトンに24時間浸漬し、抽出前後の塗膜重量から塗膜抽出残分を下記の通り算出した。
塗膜抽出残分(%)=(抽出した後の膜の重量/抽出前の膜の重量)×100
【0110】
(*3)鉛筆硬度:各水性樹脂組成物をガラス板にドクターブレードにて乾燥膜厚が40μmとなるように塗装し、40℃で4日間乾燥させて、各試験板を作成した。
得られた試験板に鉛筆を45°の向きにあて、力を加えながら塗面を削った。この時、塗膜表面に傷がつかない鉛筆の硬度を鉛筆硬度とした。
【0111】
(*4)相溶性:鉛筆硬度と同様の方法で塗装、乾燥を行い、塗膜状態を目視で観察した。
○:透明
△:少し濁っている
×:濁っている


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に水酸基を2つ以上含有する脂肪酸エステル(a)、水酸基を2個含有するケトン樹脂(b)を含むポリオール(c)、ポリイソシアネート化合物(d)、及びカルボキシル基含有ジオール(e)との反応によって得られる脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)が、水性媒体中に分散されていることを特徴とする水性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)と重合性不飽和モノマー(f)による重合体(B)との複合樹脂の水分散体(C)を含有することを特徴とする水性樹脂組成物。
【請求項3】
脂肪酸エステル(a)が、グリセリンモノ脂肪酸エステルである請求項1または2記載の水性樹脂組成物。
【請求項4】
脂肪酸エステル(a)が、1分子中に2つ以上のエポキシ基を含有するエポキシ樹脂と脂肪酸の反応生成物である請求項1または2記載の水性樹脂組成物。
【請求項5】
重合性不飽和モノマー(f)が、その成分の少なくとも一部としてカルボニル基含有重合性不飽和モノマーを含有する請求項2記載の水性樹脂組成物。
【請求項6】
重合性不飽和モノマー(f)が、その成分の少なくとも一部として脂肪酸変性重合性不飽和モノマーを含有する請求項2記載の水性樹脂組成物。
【請求項7】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを共重合成分とする水性樹脂分散体(D)をさらに含有する請求項1ないし6のいずれか1項記載の水性樹脂組成物。
【請求項8】
カルボニル基含有重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを共重合成分とする水性樹脂分散体(E)をさらに含有する請求項1ないし7のいずれか1項記載の水性樹脂組成物。
【請求項9】
ヒドラジン誘導体(F)をさらに含有する請求項1ないし8のいずれか1項記載の水性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物を含んでなる水性塗料組成物。
【請求項11】
被塗面に、請求項10記載の水性塗料組成物を塗装することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法により形成される塗装物品。


【公開番号】特開2008−1779(P2008−1779A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171665(P2006−171665)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】