説明

水溶性高分子抗菌剤

【課題】洗浄組成物に配合される、皮膚浸透性が低く、低刺激性であり、かつ水溶性を有する抗菌性化合物の提供。
【解決手段】次式(I)


(式中、n=0〜6、Xは水素原子またはハロゲン原子を示す。)で表される抗菌性モノマーと、ポリエチレングリコールアルキルエーテルメタクリレート等の特定の水溶性モノマーとの共重合体を含有する洗浄剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性重合体を含有する洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品、化粧料等の外用剤の皮膚刺激に対する消費者の関心の高まりとともに、より刺激の低い原料の開発が望まれている。皮膚刺激の多くは原料が皮膚表面の角層を透過し、内部に浸透することによって生ずる。抗菌剤は外用剤、洗浄組成物を保存するために必要であるが、抗菌剤が皮膚の内部に浸透する必要はなく、さらに刺激性の観点からも皮膚の内部に浸透しないことが望ましい。その解決法の一つが抗菌剤等の分子サイズを増大させ、皮膚透過性を低減することである。
【0003】
例えば、紫外線吸収剤に関しては紫外線吸収基を有するモノマーを重合して高分子化したものが提案されている(特許文献1〜4)。
抗菌剤に関しても、低毒性、低刺激性を目指す抗菌活性高分子あるいは高分子抗菌剤と呼ばれるものがあり、従来からポリカチオン型抗菌剤が検討されている(非特許文献1)。しかし、カチオン型抗菌剤は、塩の存在によってその効果が消滅してしまうことから使用できる製剤が限られてしまう問題があった。
【0004】
以上の知見より、非イオン性の抗菌性重合体としてポリp-ビニルフェノールが有望視されている(非特許文献2)。ただし、この化合物は水への溶解性が極端に低く、実効が得られる量を配合できる剤形は、溶剤濃度の高いものや乳化物など狭い範囲に限られる欠点があった。
【特許文献1】特開平3−220213号公報
【特許文献2】特開平6−73369号公報
【特許文献3】特開平10−231467号公報
【特許文献4】特開平10−231468号公報
【非特許文献1】防菌防黴 Vol.23, No.2, p87, 1995
【非特許文献2】防菌防黴vol.8, No.9, p1, 1980
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、洗浄組成物に配合される、皮膚浸透性が低く、低刺激性であり、かつ水溶性を有する抗菌性化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記問題点を解決すべく鋭意研究を行った結果、抗菌性モノマーに水溶性モノマーを共重合することにより、抗菌性と水溶性のバランスに優れた低刺激性抗菌剤を合成することに成功した。より詳細には、本発明者らは、抗菌活性を有する分子構造と重合可能な分子構造とを併せ持つ抗菌性モノマーと、水溶性を付与する分子構造と重合可能な分子構造とを併せ持つある種の水溶性モノマーとを共重合することにより、低刺激性であり、かつ水溶性を有する抗菌性化合物が得られることを見出し本発明に至ったものである。
【0007】
すなわち本発明は、抗菌性モノマーと水溶性モノマーを重合成分とする共重合体を含有する洗浄剤組成物に関するものである。さらに、本発明では、上記の共重合体を構成する抗菌性モノマーが下記一般式(I)で表されるモノマーであることが好ましく、
【化5】



(ここでn=0〜6、Xは水素原子またはハロゲン原子を示す。)
また、水溶性モノマーが下記一般式(II)で表されることが好ましい。
【化6】



(ここでR1は水素またはメチル基であり、R2はアルキル基、フェニル基のいずれかであり、nは1〜30の整数である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明の化合物は、各種菌種に対する抗菌活性を持ちながら、皮膚透過が低く、皮膚に対する安全性に優れることから、洗浄組成物の抗菌剤、防腐剤として極めて有用である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の化合物を構成する抗菌性モノマーは、抗菌活性を有する分子構造と、重合可能な分子構造を併せ持つ化合物である。抗菌活性を有する分子構造は、例えば、第4アンモニウム塩、ビグアニド、ホスホニウム塩、ピリジニウム塩、フェノール、安息香酸、2-ヒドロキシ-2,4,6-シクロヘプタトリエノン、スチピタト酸、多価アルコールなどからなる官能基が挙げられる。重合可能な分子構造はエチレン、プロペン、アミノ基およびカルボキシル基などからなる官能基を挙げることができる。
【0010】
前記モノマーの代表例としては、例えば一般式(I)
【化7】



(ここでn=0〜6、Xは水素原子またはハロゲン原子を示す。)で表わされる化合物があげられる。さらには、p-ビニルフェノールが特に好ましい。
【0011】
本発明の化合物を構成する水溶性モノマーは、水溶性を有する分子構造と、重合可能な分子構造を併せ持つ化合物である。水溶性を有する分子構造は、例えば、水酸基、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどからなる官能基が挙げられる。重合可能な分子構造はエチレン、プロペン、アミノ基およびカルボキシル基などからなる官能基を挙げることができる。
【0012】
前記モノマーの代表例としては、例えば一般式(II)
【化8】



(ここでR1は水素またはメチル基であり、R2はアルキル基、フェニル基のいずれかであり、nは1〜30の整数である)で表わされる化合物が挙げられる。さらには、ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレートが特に好ましい。
【0013】
本発明の共重合体の製造方法は、常法に従えばよく、一般式(I)で表されるモノマーと一般式(II)で表されるモノマーを溶媒中で重合開始剤の存在下、反応させて得られる。本発明の共重合体は、モノマー、ダイマー及びトリマーなどのオリゴマーを実質的に含有しないことが好ましい。本発明で、実質的にモノマー、ダイマー及びトリマーを含有しないとは、モノマー、ダイマー及びトリマーの含有量が3%以下であることをいう。得られた共重合体中に、モノマー、ダイマー及びトリマー、その他不純物が残存する場合には、再沈法、抽出法、分画法などの常法に従って精製を行なうことができる。
【0014】
本発明の共重合体の分子量は特に限定されないが、皮膚刺激の低減効果が現れるためには数平均分子量1,000以上が好ましく、特に好ましくは2,500以上である。皮膚刺激性低減の観点から、分子量は高いほうが好ましいが、抗菌活性は分子量の増大とともに低下するので、10万以下、特に5万以下が好ましい。例えば、本発明の共重合体の分子量は好ましくは1,000〜100,000、特に好ましくは2,500〜50,000を選択することができる。
【0015】
本発明の共重合体はランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。抗菌性モノマーの比率は、一般的に共重合体全体の5〜90モル%、好ましくは20〜80モル%、より好ましくは40〜80モル%である。また、本発明は、抗菌性モノマー、水溶性モノマーの他に必要に応じて1種または2種以上のモノマーを、第3の共重合体成分として、本発明の効果を阻害しない範囲で含むことができる。共重合可能なモノマーは、例えば、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-イソプロピルアミド、2-メタアクリロイルオキシエチルホスホリルコリンなどがある。第3のモノマー成分は全体の60モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0016】
本発明の重合体は、皮膚刺激の低い成分として、外皮に適用される化粧料、洗浄剤、医薬品、医薬部外品等に広く適用可能であり、その剤型も水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、油剤系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水−油2層系、水−油−粉末3層系等、幅広い剤型を取りうる。すなわち、基礎化粧品であれば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス(美容液)、パック・マスク、ひげそり用化粧料などの形態に、上記のような剤型において広く適用可能である。さらに医薬品又は医薬部外品であれば、各種の軟膏剤などの形態に広く適用が可能である。そして、これらの剤型及び形態に、本発明の重合体が取りうる剤型および形態が限定されるものではない。
【0017】
本発明においては、上記の所望する剤型及び形態に応じて通常公知の基剤成分を、その配合により本発明の所期の効果が損なわれない範囲で広く用いて配合することができる。すなわち、オリーブ油、アボカド油、コメヌカ油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ヤシ油、スクワレン、牛脂、馬油、卵黄油等の天然動植物油脂類;ホホバ油、ミツロウ、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、ラノリン等のロウ類;ポリブテン、スクワラン、流動パラフィン、パラフィン、ワセリン等の炭化水素類;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、ヒドロキシステアリン酸等の脂肪酸類;セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オクチルドデカノール、コレステロール、フィトステロール等の高級アルコール類;イソノナン酸イソノニル、オクタン酸イソセチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸イソセチル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル等のエステル類;メチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーン油;エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール等の多価アルコール;ソルビトール、マンニトール、ブドウ糖、マルチトール等の糖類;アラビアガム、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー等の水溶性高分子;エタノール等の有機溶剤;二酸化チタン、マイカ、タルク、カオリン、二酸化チタン被覆雲母等の粉体;ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、モノステアリン酸エチレングリコール、トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の非イオン性界面活性剤;ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、ラウリルアミンオキサイド等のカチオン系界面活性剤;パルミチン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミンエーテル、アシルメチルタウリン酸等のアニオン系界面活性剤;トコフェロール、没食子酸プロピル、アスコルビン酸、クエン酸等の酸化防止剤又は酸化防止助剤;メントール、ハッカ油、サリチル酸メチル等の清涼剤;色素;香料;又は精製水等を所望する剤型に応じた処方に従い、適宜組み合わせて使用することができる。本発明の具体的な処方例については、後述する実施例において記載する。
【0018】
以下に本発明にかかる重合体の合成例を示すが、本発明はこれによりなんら制限されるものではない。
合成例
ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(一般式(II)のnが平均で8.5)とt-ブトキシスチレンをベンゼン溶媒中、AIBNを開始剤としてラジカル共重合を行ない、減圧乾燥により共重合体を合成した。その後、当該共重合体をTHF溶媒中で塩酸を添加し、t-ブトキシ基を水素に置換して目的の共重合体ポリ(p-ビニルフェノール-co-ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート)を合成した。
【0019】
物性測定
上記合成例で得たポリ(p-ビニルフェノール-co-ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート)は黄白色の粘稠体で、1H-NMRによって構造確認を行なった(図1)。分子量および分子量分布の測定はGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって行なった(図2)。なお、図2で、縦軸は分子量を示差屈折検出器で測定した出力信号の大きさを表わしたもので、曲線Aは試料のGPCクロマトグラム、曲線Bは分子量検量線である。測定の結果から、ポリスチレン換算で数平均分子量が2760、重量平均分子量が4824であること、残存モノマーおよびダイマー、トリマーなどの低分子量成分の割合が1.44重量%であり、低分子量成分が存在しない重合体が合成できたことが確認された。
【0020】
水溶性確認
p-ビニルフェノールの単独重合体は、まったく水溶性を示さないのに対して、前記合成例で得たポリ(p-ビニルフェノール-co-ポリエチレングリコールメタクリレート)は、少なくとも10重量%まで無色透明な水溶液が調製できることを確認した。
【0021】
抗菌力測定
前記合成例で得たポリ(p-ビニルフェノール-co-ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート)5重量%水溶液の黄色ブドウ球菌、緑膿菌、大腸菌に対する抗菌活性をUSP XXIIに基づくチャレンジテスト法により評価した。また、比較例として抗菌剤を含まない溶液、抗菌剤として一般的に知られているメチルパラベンの抗菌活性も測定した(表1)。
【0022】



結果から、本発明の化合物が、従来の抗菌剤と同様に、多くの細菌類に対して十分な抗菌力を示していることがわかった。
【0023】
刺激の測定
三次元培養皮膚モデル(LSE-High、東洋紡(株)製)を用いて、ヒト繊維芽細胞に対する毒性試験を行なった。試験は被験物質の水溶液を培養皮膚に所定時間適用した。その後、生細胞がMTT(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide)を吸収分解した際の生成物が発する青紫色の強度から細胞生存率を求めるMTTアッセイ法を用いて、細胞の50%生存率を示す濃度(EC50値)を算出した(表2)。
【0024】



比較例の化合物は、各々の濃度で細胞の半数が死滅するのが確認されたが、実施例の化合物は、濃度1%でも細胞の死滅はまったく確認されなかった。この結果から、本発明の化合物はメチルパラベンや、モノマーであるp-ビニルフェノールに比べ、皮膚内部への刺激が顕著に低減していることが確認された。
【0025】
次に本発明の低刺激高分子抗菌剤を配合した皮膚外用剤、洗浄組成物の配合例を示す。
【0026】
配合例1「ローション」(配合成分) (重量%)
クエン酸ナトリウム 0.1ピロリドンカルボン酸ナトリウム 1.0BG 5.0精製水 全量合成例で得た低刺激高分子抗菌剤 0.5(製法)50℃で上記成分を加温溶解し、攪拌しながら30℃まで冷却する。
【0027】
配合例2「O/W型乳液」(配合成分) (重量%)
マイクロクリスタリンワックス 1.0ミツロウ 2.0吸着精製ラノリン 2.0流動イソパラフィン 30.0ソルビタンセスキオレイン酸エステル 4.0ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル(20E.O.) 1.0ステアリン酸アルミニウム 0.2合成例で得た低刺激高分子抗菌剤 0.4グリセリン 8.0精製水 残部(製法)精製水にグリセリンを加え、混合加熱して70℃とする。他の成分を加熱溶解して70℃とする。この油相成分に、前述した水相成分を徐々にかき混ぜながら加えた後ホモジナイザーにより均一に乳化する。乳化後、熱交換器により30℃まで冷却する。
【0028】
配合例3「洗願クリーム」(配合成分) (重量%)
N-アシル-L-グルタミン酸ナトリウム 25.0パルミチン酸 3.0ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール 5.0グリセリン 20.0マルチトール15.0合成例で得た低刺激高分子抗菌剤 0.4精製水 残部(製法)精製水にグリセリン、マルチトールを加え70℃に加熱する。これにN-アシル-L-グルタミン酸ナトリウムを添加し溶解する(水相)。一方、あらかじめ加熱溶解したパルミチン酸、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを前述の水相に加え混合攪拌し、脱気後熱交換器により30℃まで攪拌冷却する。
【0029】
いずれの外用剤、洗浄組成物も常温3ヶ月放置後においても低刺激高分子抗菌剤の析出は認められず、安定した外用剤、洗浄組成物が製造できた。

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】合成例で得たポリ(p-ビニルフェノール-co-ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート)のNMRスペクトルを示す。
【図2】合成例で得たポリ(p-ビニルフェノール-co-ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート)のゲル浸透クロマトグラフィーを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される抗菌性モノマーと下記一般式(II)で表される水溶性モノマーを重合成分とする共重合体を含有する洗浄剤組成物。
【化1】



(ここでn=0〜6、Xは水素原子またはハロゲン原子を示す。)
【化2】



(ここでR1は水素またはメチル基であり、R2はアルキル基、フェニル基のいずれかであり、nは1〜30の整数である。)


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−51821(P2009−51821A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170696(P2008−170696)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【分割の表示】特願2001−334015(P2001−334015)の分割
【原出願日】平成13年10月31日(2001.10.31)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】