説明

水素ガスの充填方法及び充填装置

【課題】水素ガスの冷却手段の簡素化を図るとともに、充填時の水素ガスの温度上昇を抑制することができる水素ガスの充填方法を提供する。
【解決手段】水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮し、冷却手段を備えた充填経路を通して供給先容器に充填する水素ガスの充填方法であって、冷却手段により冷却された水素ガスを、充填経路を通して供給先容器に充填した後に、冷却されていない水素ガスを、充填経路を通して供給先容器に充填することを特徴とする水素ガスの充填方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスの充填方法及び充填装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題への関心の高まりにより、二酸化炭素排出量の少ない次世代自動車の開発が進められている。なかでも、燃料電池自動車は、二酸化炭素を排出せず、究極のエコカーとして注目されている。
【0003】
また、燃料電池自動車のような水素自動車等(以下、単に燃料電池自動車と記す)には、燃料として水素ガスを利用している。そして、燃料電池自動車に燃料を補給する際には、燃料電池自動車に搭載された燃料タンクに、水素ガス充填用の燃料補給装置から高圧の水素ガスを充填する必要がある。
【0004】
ところで、燃料電池自動車の燃料として用いられる水素ガスは、水素ガスが流れる経路に設けられている各種弁や流量計等の部分で断熱膨張すると、ジュールトムソン効果によって温度が上昇するという性質を有している。したがって、燃料タンクへの水素ガスの充填中において、ジュールトムソン効果と充填に伴う断熱圧縮とによって燃料タンク内の水素ガスの温度が上昇してしまう。このように、水素ガスの温度が上昇すると、複合容器からなる燃料タンクの耐熱温度(85℃)を超えてしまうという問題があった。
【0005】
そこで、上記問題を解決するために、水素ガスが流れる経路に熱交換器等の冷却手段を配置し、この冷却手段で水素ガスを所定の温度以下に冷却しながら燃料電池自動車の燃料タンクに充填する装置及び方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
具体的には、図5に示すように、特許文献1に記載された充填装置101は、図示略の水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮機102で昇圧し、充填経路103を通して燃料電池自動車104の燃料タンク104aに充填するものであり、充填経路103の途中には水素ガスを冷却するための冷却手段107が設けられている。
【0007】
この冷却手段107は、冷媒通路107a内に水素ガスの流路を挿入したシェル&チューブ式熱交換器であり、水素ガスを冷媒通路107aに供給される冷媒で冷却するように形成されている。また、冷却手段17には、熱交換器107cに冷媒を循環させる循環経路107bが設けられている。
【0008】
そして、特許文献1に記載された充填方法は、上記充填装置101に設けられた冷却手段107によって水素ガスを冷却しながら燃料電池自動車104の燃料タンク104aに充填する構成とされている。これにより、複合容器からなる燃料タンク104aの耐熱温度(85℃)を超えることなく、水素ガスを充填可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−116619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、熱交換器107c等を有する冷却手段107で水素ガスを冷却しながら燃料電池自動車104の燃料タンク104aに充填しようとすると、水素ガスを所定の温度以下に冷却するために熱交換器107aや107cのサイズが大型化(例えば、二重管式熱交換器の場合には配管長が長くなる)するという課題があった。また、冷却手段107として冷却能力が高いものを使用する必要があり、設備費が上昇するという課題があった。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、水素ガスの冷却手段の簡素化を図るとともに、充填時の水素ガスの温度上昇を抑制することができる水素ガスの充填方法及び充填装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため、本願の発明者が鋭意研究した結果、圧縮された水素ガスを供給先の容器に充填する際、水素ガスの温度は充填を開始した直後に急上昇するが、その上昇幅は徐々に小さくなる傾向を示すため、充填の初期のみ冷却された水素ガスを供給することにより、それ以降は冷却を行なわなくても供給先の容器内の水素ガスの温度上昇を抑制可能であることを見出し、本発明を創案するに至った。
【0013】
すなわち、請求項1に記載の発明は、水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮し、冷却手段を備えた充填経路を通して供給先容器に充填する水素ガスの充填方法であって、
前記冷却手段により冷却された水素ガスを、前記充填経路を通して前記供給先容器に充填した後に、
冷却されていない水素ガスを、前記充填経路を通して前記供給先容器に充填することを特徴とする水素ガスの充填方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記冷却手段が、水素ガスの冷却及び貯留が可能なガス冷却容器であり、前記冷却手段により冷却された水素ガスが、前記ガス冷却容器により冷却されて当該ガス冷却容器に貯留されたものであることを特徴とする請求項1に記載の水素ガスの充填方法である。
請求項3に記載の発明は、前記ガス冷却容器を、前記供給先容器よりも高圧とし、前記ガス冷却容器と前記供給先容器との圧力差を利用して、前記ガス冷却容器により冷却された前記水素ガスを、当該ガス冷却容器から当該供給先容器に充填することを特徴とする請求項2に記載の水素ガスの充填方法である。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記冷却手段により冷却された前記水素ガスが、前記ガス冷却容器により冷却されるとともに当該ガス冷却容器に貯留される第1の冷却水素ガスと、前記ガス冷却容器を通過する際に冷却される第2の冷却水素ガスと、からなり、前記第1の冷却水素ガスを、前記充填経路を通して前記供給先容器に充填し、前記第2の冷却水素ガスを、前記充填経路を通して前記供給先容器に充填した後に、冷却されていない水素ガスを、前記充填経路を通して前記供給先容器に充填することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の水素ガスの充填方法である。
請求項5に記載の発明は、当該供給先容器内の圧力が、充填完了時の圧力の30〜70%に到達するまで前記冷却手段により冷却された前記水素ガスを充填することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の水素ガスの充填方法である。
請求項6に記載の発明は、圧縮された水素ガスを1以上の蓄圧器に一時的に貯留し、前記蓄圧器と前記ガス冷却容器との圧力差を利用して、当該蓄圧器から当該ガス冷却容器に前記水素ガスを間欠的に充填することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の水素ガスの充填方法である。
【0016】
請求項7に記載の発明は、前記水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮して前記蓄圧器に貯留し、当該蓄圧器から前記ガス冷却容器に水素ガスを間欠的に充填しながら冷却して前記第1の冷却水素ガスとし、当該第1の冷却水素ガスを当該ガス冷却容器に貯留する第1のステップと、
前記充填経路と前記供給先容器とを接続し、前記ガス冷却容器に貯留された前記第1の冷却水素ガスを当該供給先容器に充填する第2のステップと、
前記蓄圧器から供給される水素ガスを、前記ガス冷却容器を通過させながら冷却して前記第2の冷却水素ガスとし、前記供給先容器の圧力が充填完了時の圧力の30〜70%に到達するまで前記第2の冷却水素ガスを当該供給先容器に充填する第3のステップと、
前記蓄圧器から供給される水素ガスを、前記ガス冷却容器を通過させないで前記供給先容器に充填して当該供給先容器の充填を完了し、前記充填経路と前記供給先容器との接続を解除する第4のステップと、を備えることを特徴とする請求項6に記載の水素ガスの充填方法である。
【0017】
請求項8に記載の発明は、水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮する圧縮機と、圧縮した水素ガスを供給先容器に充填する充填経路とを備えた水素ガスの充填装置であって、
前記充填経路に設けられた冷却手段と、
前記冷却手段を迂回するバイパス経路と、を備えることを特徴とする水素ガスの充填装置である。
【0018】
請求項9に記載の発明は、前記冷却手段が、水素ガスの冷却及び貯留が可能なガス冷却容器であることを特徴とする請求項8に記載の水素ガスの充填装置である。
請求項10に記載の発明は、前記圧縮機で圧縮した水素ガスを一時的に貯留する1以上の蓄圧器を備え、前記蓄圧器が、前記ガス冷却容器より上流側の充填経路に設けられていることを特徴とする請求項9に記載の水素ガスの充填装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水素ガスの充填方法によれば、供給先容器への充填開始直後のみ、冷却された水素ガスを供給することで充填時の水素ガスの温度上昇を抑制することができる。また、供給先容器へ供給する水素ガスは、充填開始直後のみ冷却すればよいため、水素ガスの冷却手段の小型化、簡素化を図ることができる。
さらに、水素ガスの冷却手段として、水素ガスの冷却及び貯留が可能なガス冷却容器を用いる場合には、充填操作間の待機時間中に水素ガスを冷却するとともに貯留しておけるので、冷媒を冷却する冷凍機も小型化、簡素化することができる。
【0020】
本発明の水素ガスの充填装置によれば、充填経路に設けられた冷却手段と、冷却手段を迂回するバイパス経路とを備えているため、充填開始直後に冷却された水素ガスを供給した後にバイパス経路に切り替えることにより、冷却されていない水素ガスを供給先容器に供給することができる。これにより、水素ガスの冷却手段の小型化、簡素化を図ることができる。したがって、水素ガスの冷却手段の簡素化を図るとともに、充填時の水素ガスの温度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を適用した一実施形態を示す水素ガスの充填装置の系統図である。
【図2】本発明を適用した一実施形態である水素ガスの充填方法におけるガス冷却容器への水素ガスの充填方法を説明するための図であり、充填時間とガス冷却容器内の圧力との関係を示すグラフである。
【図3】本発明を適用した一実施形態である水素ガスの充填方法における充填時間と供給先容器内の温度との関係を示す図である。
【図4】冷却された水素ガスを用いない水素ガスの供給方法における、充填時間と供給先容器内の温度との関係を示す図である。
【図5】水素ガスの冷却手段を備えた従来の水素ガスの充填装置の系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した一実施形態である水素ガスの充填方法について、これに用いる水素ガスの充填装置とともに、図面を用いて詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0023】
先ず、本発明を適用した一実施形態である水素ガスの充填装置(以下、単に「充填装置」という)の構成について説明する。
図1に示すように、本実施形態の充填装置1は、水素ガス供給源(図示略)から供給される水素ガスを圧縮機2で昇圧し、充填経路3を通して燃料電池自動車4の燃料タンク(供給先容器)4aに充填するものである。また、充填経路3の途中には、圧縮後の水素ガスを一時的に貯留する蓄圧器5a,5b,5cからなる蓄圧器ユニット5と、この蓄圧器5を迂回するバイパス経路6と、水素ガスの冷却及び貯留が可能なガス冷却容器(冷却手段)7と、このガス冷却容器7を迂回するバイパス経路8とが設けられている。
【0024】
さらに、充填経路3の終端部には、充填装置1から燃料電池自動車4に水素ガスを供給するフレキシブルホース等の連絡管9の一端が接続されている。そして、連絡管9の他端には、燃料電池自動車4の充填口に接続するカプラー(図示略)が設けられている。
【0025】
本実施形態の水素ガス供給源は、通常、20〜40MPaの水素ガスが充填されている水素カードルや水素トレーラーである。また、図1に示すように、燃料電池自動車4は、水素ガスを70MPaまで充填可能な燃料タンク4aを備えている。なお、70MPa以上の高圧水素ガスが流れる充填経路3等の配管や機器には、高圧対応のものが使用されている。
【0026】
圧縮機2は、図1に示すように、水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮して、蓄圧器5a,5b,5cへそれぞれ充填するために設けられている。圧縮機2としては、特に限定されるものではなく、例えば、ピストン式、ダイアフラム式等の公知のものを適用することができる。
【0027】
蓄圧器ユニット5は、供給先容器である燃料電池自動車4の燃料タンク4aにおける充填圧力よりも高圧とした水素ガスを一時的に貯留するために、ガス冷却容器7よりも上流側の充填経路3に設けられている。
【0028】
この蓄圧器ユニット5は、1以上の蓄圧器を組み合わせて構成されている。本実施形態では、図1に示すように、例えば、3個の蓄圧器5a,5b,5cから構成されている。各蓄圧器5a,5b,5cにおける圧力は、少なくともいずれか一つが上記燃料タンク4aの充填圧力よりも高く設けられていれば特に限定されるものではなく、各蓄圧器5a,5b,5cにおける圧力を同一としても良いし、異なる圧力としても良い。具体的には、例えば、蓄圧器5aを35MPa、蓄圧器5bを70MPa、蓄圧器5cを85MPaと、異なる圧力に設定してもよい。なお、蓄圧器5a,5b,5cの材質としては、特に限定されるものではなく、例えば、鋼製容器、複合容器等を適用することができる。
【0029】
ガス冷却容器7は、蓄圧器ユニット5から供給される高圧の水素ガスを予め冷却し、貯留するためのものである。ガス冷却容器7は、水素ガスを貯留するための断熱容器7aと、この断熱容器7a内部に配置された冷却配管7bとから構成されている。
【0030】
断熱容器7aの容積は、供給先容器である燃料電池自動車4の燃料タンク4aが充填圧力の60%まで充填されたと仮定したときの水素ガス量を、上記充填圧力の60%の圧力において貯留可能な容積以下とすることが好ましい。ここで、断熱容器7aの容積を、上記充填圧力の60%の圧力における貯留可能な容積よりも大きくすると、充填装置1全体の大型化を招くために好ましくない。具体的には、例えば160Lの上記燃料タンク4aに充填圧力70MPaで充填する場合には、断熱容器7aの容積は約30L程度とすることができる。
【0031】
冷却配管7bは、その内部に例えばエチレングリコール等の冷媒が流通されており、熱交換の伝熱面積を増加させるためにコイル状等の屈曲構造や、スターフィン状等のフィン付配管とされている。また、冷却配管7bは、図1に示すように冷媒を冷却するための冷凍機7cと接続されている。なお、冷媒として液体窒素等の低温液化ガスを利用してもよく、その場合には上記冷凍機7cは不要である。
【0032】
次に、本発明を適用した一実施形態である水素ガスの充填方法(以下、単に「充填方法」という)の一例として、上記充填装置1の使用例について説明する。
本実施形態の充填方法は、水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮し、ガス冷却容器(冷却手段)7を備えた充填経路3を通して供給先容器である燃料電池自動車4の燃料タンク4aに充填する水素ガスの充填方法であり、ガス冷却容器7により冷却された水素ガスを、充填経路3を通して燃料タンク4aに充填した後に、冷却されていない水素ガスを、充填経路3を通して燃料タンク4aに充填する方法である。
具体的には、以下に示す第1〜第4ステップから構成される。
【0033】
(第1のステップ)
本実施形態の充填方法における第1のステップでは、先ず、水素ガス供給源(図示略)から供給される水素ガスを圧縮して蓄圧器ユニット5に貯留する。次に、この蓄圧器ユニット5からガス冷却容器7に水素ガスを間欠的に充填しながら冷却して第1の冷却水素ガスを生成する。そして、この第1の冷却水素ガスをガス冷却容器7に貯留する。
【0034】
具体的には、図1に示すように、先ず、燃料電池自動車4への水素ガス充填の待機状態において、バルブV,V,Vを開放するとともにバルブV,V,Vを閉止して、図示略の水素ガス供給源から供給された水素ガスを圧縮機2で昇圧した後に蓄圧器5a,5b,5cにそれぞれ充填する。なお、蓄圧器5a,5b,5cの設定圧力がそれぞれ異なる場合には、バルブV〜Vを適宜切り替えることにより蓄圧器5a,5b,5cへ個別に充填を行う。蓄圧器5a,5b,5cへの高圧水素ガスの貯留完了後、バルブV,V,Vを閉止する。
【0035】
次に、蓄圧器5a,5b,5cに貯留した高圧水素ガスをガス冷却容器7に充填する。先ず、バルブVとVを開放し、蓄圧器5aとガス冷却容器7との圧力差を利用してガス冷却容器7に水素ガスを充填する。これらの圧力差が小さくなったら、バルブVを閉止するとともにバルブVを開放して、蓄圧器5bとガス冷却容器7との圧力差を利用してガス冷却容器7に水素ガスを充填する。
【0036】
ガス冷却容器7が所定の圧力となるまで水素ガスを充填した後、バルブVを閉止してガス冷却容器7内に水素ガスを貯留する。ガス冷却容器7に貯留された圧縮水素ガスは、容器内を通る冷却配管7bの冷媒によって冷却される。
この状態で、燃料電池自動車4が充填装置1に接続されるまで待機する。
【0037】
ここで、本実施形態では、ガス冷却容器7により冷却されるとともにガス冷却容器7に貯留される水素ガスを、第1の冷却水素ガスと称する。そして、ガス冷却容器7内における第1の冷却水素ガスの温度は、例えば、0℃以下、好ましくは−10℃以下、さらに好ましくは−20℃以下とすることが好ましい。
【0038】
また、ガス冷却容器7における第1の冷却水素ガスの圧力は、燃料タンク4aにおける充填完了時の圧力の60%以下とすることが好ましい。それより高圧では、ガス冷却容器7の肉厚を厚くする必要があり、ガス冷却容器7がコスト高になるため好ましくない。
【0039】
また、ガス冷却容器7へ水素ガスを充填することにより圧力が低下した蓄圧器5a,5bに対しては、この待機時間の間に所定の圧力まで昇圧してもよい。
また、ガス冷却容器7への水素ガスの充填は、蓄圧器ユニット5を迂回するバイパス経路6に設けられたバルブV10を開放することにより、圧縮機2で昇圧した水素ガスを直接ガス冷却容器7へ充填してもよい。
【0040】
なお、ガス冷却容器7への圧縮水素ガスの充填は、複数の蓄圧器5a,5b,5cを用いてバルブの開閉動作を制御することにより、間欠充填することが望ましい(図2を参照)。水素ガスの供給動作と停止動作とを繰り返すことによりガス冷却容器7内に乱流が発生し、ガス冷却容器7内の水素ガスが撹拌される。このため、別途撹拌手段を設けずとも水素ガスを効率よく冷却することができる。
【0041】
(第2のステップ)
本実施形態の充填方法における第2のステップでは、充填経路3と供給先容器である燃料タンク4aとを接続し、ガス冷却容器7に貯留された第1の冷却水素ガスを燃料タンク4aに充填する。
具体的には、図1に示すように、先ず、燃料タンク4aを搭載した燃料電池自動車4に、充填装置1から伸びる連絡管9の先端のノズルを接続する。次に、バルブVを開放し、ガス冷却容器7と燃料タンク4aとの圧力差を利用して、ガス冷却容器7内の第1の冷却水素ガスを燃料タンク4aに充填する。
【0042】
(第3のステップ)
本実施形態の充填方法における第3のステップでは、蓄圧器ユニット5から供給される水素ガスを、ガス冷却容器7を通過させながら冷却して第2の冷却水素ガスを生成する。そして、供給先容器である燃料タンク4aの圧力が充填完了時の圧力の30〜70%に到達するまで上記第2の冷却水素ガスを燃料タンク4aに充填する。燃料タンク4aの圧力が上記範囲となるまで第2の冷却水素ガスの充填を実施することにより、水素ガス温度上昇の抑制と冷却手段の簡素化をより確実に両立できる。
【0043】
具体的には、ガス冷却容器7と燃料タンク4aとの圧力差が低下したら、燃料タンク4a内圧力が充填圧力の例えば60%である40MPaに到達するまで、蓄圧器ユニット5を構成するいずれかの蓄圧器5a,5b,5c内の圧縮水素ガスをガス冷却容器7に通過させて冷却しながら、燃料タンク4aに充填する。
【0044】
ここで、本実施形態では、ガス冷却容器7を通過する際に冷却される水素ガスを、第2の冷却水素ガスと称する。そして、第2の冷却水素ガスの温度は、少なくとも0℃以下、例えば、−10℃以下とすることが好ましい。
第3のステップでは、例えば、図1に示すように、バルブV及びバルブVを開放して、蓄圧器5a内の圧縮水素ガスをガス冷却容器7に通過させて冷却しながら、上記第2の冷却水素ガスを生成し、この第2の冷却水素ガスを燃料タンク4aに充填する。
【0045】
(第4のステップ)
本実施形態の充填方法における第4のステップでは、蓄圧器ユニット5から供給される水素ガスを、ガス冷却容器7を通過させないで供給先容器である燃料タンク4aに充填して燃料タンク4aの充填を完了する。そして、連絡管9(充填経路3)と燃料タンク4aとの接続を解除する。
【0046】
具体的には、燃料タンク4a内の圧力が40MPaに到達したら、バルブVを閉止した後にバルブVを開放する。これにより、蓄圧器ユニット5内の外気温の水素ガス、すなわち、ガス冷却容器7により冷却されない水素ガスを、バイパス経路8を介して燃料タンク4aに充填する。次に、バルブV,V,Vを開閉操作しながら蓄圧器5a,5b,5cを適宜切り替え、燃料タンク4a内圧力が所定の充填圧力(70MPa)となった時点で充填を完了する。最後に、充填装置1から伸びる連絡管9の先端のノズルと燃料タンク4aを搭載した燃料電池自動車4との接続を解除する。
【0047】
これにより、燃料電池自動車4への水素ガス充填を完了して、次の燃料電池自動車が来るまでのあいだ待機状態となる。そして、この待機状態のあいだに再び上記第1のステップを実行する。
【0048】
ところで、燃料タンク4a内に高圧の水素ガスを充填する操作を行なった場合には、燃料タンク内の温度が水素ガスの充填とともに上昇することが知られている。ここで、図4は、冷却された水素ガスを用いない水素ガスの供給方法における、充填時間と供給先容器内の温度との関係を示す図である。図4に示すように、充填開始直後と蓄圧器の切り替え時に急激な温度上昇を伴う。そのなかでも充填開始直後、つまり空の燃料タンクに水素ガスを充填したときの温度上昇幅が最大となる。このため、冷却された水素ガスを用いない従来の水素ガスの供給方法では、その後の蓄圧器の切り替え時にさらに燃料タンク内の温度が上昇して、最終的には耐熱温度(85℃)を超えてしまう。
【0049】
これに対して、本実施形態の充填方法では、第2及び第3のステップにおいて、供給先容器である燃料タンク4a内の圧力が、充填完了時の圧力の60%に到達するまでガス冷却容器7により冷却された第1及び第2の冷却水素ガスを充填する構成となっている。このため、図3に示すように、温度上昇幅が最も大きい充填開始直後の温度上昇幅を低減することができる。これにより、その後の蓄圧器5a,5b,5cの切り替え時にさらに燃料タンク4a内の温度が上昇しても、充填完了時の圧力に到達した際に耐熱温度(85℃)を超えることがない。
【0050】
このように、温度上昇幅が大きい充填開始直後のみ冷却された水素ガスを充填することにより、燃料タンク内の温度上昇を抑制し、燃料タンクの使用上限温度を超えないようにすることができる。このとき、冷却された水素ガスは充填の初期のみ供給すればよいため、水素ガスの冷却に要するエネルギーを、最初から最後まで一定に冷却する従来の充填方法(図5を参照)に比べて減らすことができる。
【0051】
特に、予め待機時間の間にガス冷却容器7に冷却された水素ガス(第1の冷却水素ガス)を貯留、冷却しておくことにより、従来方法であるシェル−冷媒、チューブ−水素等の熱交換器で水素を冷却する場合に比べて、冷却に必要なエネルギーを抑制することができるとともに、容器自体の大きさを小型化することができる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態の充填装置1によれば、充填経路3に設けられたガス冷却容器7と、このガス冷却容器7を迂回するバイパス経路8とを備えているため、充填開始直後に第1及び第2の冷却水素ガスを供給した後、バイパス経路8に切り替えることにより、冷却されていない水素ガスを蓄圧ユニット5から燃料タンク4aに供給することができる。これにより、水素ガスのガス冷却容器7を小型化、簡素化することができる。
【0053】
また、本実施形態の充填方法によれば、燃料タンク4aへの充填開始直後のみ、冷却された水素ガスである第1及び第2の冷却水素ガスを供給することにより、水素ガスの充填時の燃料タンク4a内の温度上昇を抑制することができる。また、燃料タンク4aへ供給する水素ガスは、充填開始直後に充填する分のみを冷却すればよいため、水素ガスの冷却手段であるガス冷却容器7の小型化、簡素化を図ることができる。
【0054】
さらに、水素ガスの冷却手段として、水素ガスの冷却及び貯留が可能なガス冷却容器7を用いているため、充填操作間の待機時間中に水素ガスを冷却するとともに貯留しておけるので、冷媒を冷却する冷凍機7cも小型化、簡素化することができる。
【符号の説明】
【0055】
1…充填装置(水素ガスの充填装置)
2…圧縮機
3…充填経路
4…燃料電池自動車
4a…燃料タンク(供給先容器)
5…蓄圧器ユニット
5a,5b,5c…蓄圧器
6,8…バイパス経路
7…ガス冷却容器(冷却手段)
7a…断熱容器
7b…冷却配管
7c…冷凍機
9…連絡管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮し、冷却手段を備えた充填経路を通して供給先容器に充填する水素ガスの充填方法であって、
前記冷却手段により冷却された水素ガスを、前記充填経路を通して前記供給先容器に充填した後に、
冷却されていない水素ガスを、前記充填経路を通して前記供給先容器に充填することを特徴とする水素ガスの充填方法。
【請求項2】
前記冷却手段が、水素ガスの冷却及び貯留が可能なガス冷却容器であり、
前記冷却手段により冷却された水素ガスが、前記ガス冷却容器により冷却されて当該ガス冷却容器に貯留されたものであることを特徴とする請求項1に記載の水素ガスの充填方法。
【請求項3】
前記ガス冷却容器を、前記供給先容器よりも高圧とし、
前記ガス冷却容器と前記供給先容器との圧力差を利用して、前記ガス冷却容器により冷却された前記水素ガスを、当該ガス冷却容器から当該供給先容器に充填することを特徴とする請求項2に記載の水素ガスの充填方法。
【請求項4】
前記冷却手段により冷却された前記水素ガスが、
前記ガス冷却容器により冷却されるとともに当該ガス冷却容器に貯留される第1の冷却水素ガスと、
前記ガス冷却容器を通過する際に冷却される第2の冷却水素ガスと、からなり、
前記第1の冷却水素ガスを、前記充填経路を通して前記供給先容器に充填し、
前記第2の冷却水素ガスを、前記充填経路を通して前記供給先容器に充填した後に、
冷却されていない水素ガスを、前記充填経路を通して前記供給先容器に充填することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の水素ガスの充填方法。
【請求項5】
当該供給先容器内の圧力が、充填完了時の圧力の30〜70%に到達するまで前記冷却手段により冷却された前記水素ガスを充填することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の水素ガスの充填方法。
【請求項6】
圧縮された水素ガスを1以上の蓄圧器に一時的に貯留し、
前記蓄圧器と前記ガス冷却容器との圧力差を利用して、当該蓄圧器から当該ガス冷却容器に前記水素ガスを間欠的に充填することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の水素ガスの充填方法。
【請求項7】
前記水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮して前記蓄圧器に貯留し、当該蓄圧器から前記ガス冷却容器に水素ガスを間欠的に充填しながら冷却して前記第1の冷却水素ガスとし、当該第1の冷却水素ガスを当該ガス冷却容器に貯留する第1のステップと、
前記充填経路と前記供給先容器とを接続し、前記ガス冷却容器に貯留された前記第1の冷却水素ガスを当該供給先容器に充填する第2のステップと、
前記蓄圧器から供給される水素ガスを、前記ガス冷却容器を通過させながら冷却して前記第2の冷却水素ガスとし、前記供給先容器の圧力が充填完了時の圧力の30〜70%に到達するまで前記第2の冷却水素ガスを当該供給先容器に充填する第3のステップと、
前記蓄圧器から供給される水素ガスを、前記ガス冷却容器を通過させないで前記供給先容器に充填して当該供給先容器の充填を完了し、前記充填経路と前記供給先容器との接続を解除する第4のステップと、を備えることを特徴とする請求項6に記載の水素ガスの充填方法。
【請求項8】
水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮する圧縮機と、圧縮した水素ガスを供給先容器に充填する充填経路とを備えた水素ガスの充填装置であって、
前記充填経路に設けられた冷却手段と、
前記冷却手段を迂回するバイパス経路と、を備えることを特徴とする水素ガスの充填装置。
【請求項9】
前記冷却手段が、水素ガスの冷却及び貯留が可能なガス冷却容器であることを特徴とする請求項8に記載の水素ガスの充填装置。
【請求項10】
前記圧縮機で圧縮した水素ガスを一時的に貯留する1以上の蓄圧器を備え、
前記蓄圧器が、前記ガス冷却容器より上流側の充填経路に設けられていることを特徴とする請求項9に記載の水素ガスの充填装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−74925(P2011−74925A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223599(P2009−223599)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】