説明

水素利用内燃機関

【課題】液体の炭化水素燃料と水素ガスとの混合性を改善し、且つ、その二種類の燃料の燃料供給手段に係る部品点数を削減すること。
【解決手段】液体の炭化水素燃料と水素ガスとを燃料として使用する水素利用内燃機関1において、その炭化水素燃料を噴射する燃料噴射装置12と、この燃料噴射装置12に炭化水素燃料を供給する燃料供給手段15と、水素ガスの微細気泡を発生させ且つ当該水素ガスの微細気泡を燃料供給手段15内の液体の炭化水素燃料中に混入させる微細気泡発生装置16とを備えること。例えば、その水素ガスの微細気泡は、燃料供給手段15を構成する燃料供給路(第2燃料供給路15d)内や燃料タンク15a内に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素燃料と水素ガスの双方を燃料として使用する水素利用内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリン等の炭化水素燃料で燃焼を行う内燃機関において、その炭化水素燃料と共に水素ガスを燃焼室内に送り込んで燃焼させる水素利用内燃機関がある。この種の水素利用内燃機関においては、炭化水素燃料に加えて水素ガスも燃料として使用することにより、その水素ガスの急速燃焼等の特性を活かして燃焼効率を改善させることができる。そして、その燃焼効率の改善に伴って空燃比をより希薄領域側に移行させることができ(即ち、リーン限界を伸ばすことができ)、燃料消費率の低減、NOx(窒素酸化物)やTHC(全炭化水素)等の排出量の低減を図ることができる。例えば、この種の水素利用内燃機関としては、下記の特許文献1,2に開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−116398号公報
【特許文献2】特開2004−239158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の水素利用内燃機関においては、液体の炭化水素燃料は当該炭化水素燃料専用の燃料噴射装置,燃料デリバリパイプや燃料供給路等の燃料供給手段を経て、水素ガスについても当該水素ガス専用の燃料噴射装置,燃料デリバリパイプや燃料供給路等の水素ガス供給手段を経て吸気経路等に噴射される。このように、従来においては、夫々の燃料が別経路を経て噴射されるので、液体の炭化水素燃料と水素ガスとが燃焼室内で均等に混合され難く、また、その炭化水素燃料中に多量の水素ガスを混合させることができず、水素ガスの添加により燃焼効率の改善を図るという本来の目的を十分に達成することができない。即ち、従来の水素利用内燃機関の如く別々に炭化水素燃料と水素ガスとを噴射させた場合には、燃焼効率の改善を十分に図り得るだけの良好な混合性を得ることができない。
【0005】
更に、この従来の水素利用内燃機関においては、夫々の燃料が別経路を経て供給されるので、夫々に専用の燃料噴射装置等が必要になり、部品点数の増加に伴う搭載性の悪化や製造原価の高騰を招いてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、液体の炭化水素燃料と水素ガスとの混合性に優れ、且つ、その二種類の燃料の燃料供給手段に係る部品点数を削減し得る水素利用内燃機関を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する為、請求項1記載の発明では、液体の炭化水素燃料と水素ガスとを燃料として使用する水素利用内燃機関において、その炭化水素燃料を噴射する燃料噴射装置と、この燃料噴射装置に炭化水素燃料を供給する燃料供給手段と、水素ガスの微細気泡を発生させ且つ当該水素ガスの微細気泡を前記燃料供給手段内の液体の炭化水素燃料中に混入させる微細気泡発生装置とを備えている。
【0008】
この請求項1記載の発明によれば、燃料噴射装置に到達する前の段階で予め液体の炭化水素燃料と水素ガスとを混合させるので、これらを別々に噴射して燃焼室内に送り込む場合よりも炭化水素燃料と水素ガスとの混合性が良好になる。そして、更にその水素ガスを微細気泡で炭化水素燃料中へと混入させるので、その炭化水素燃料中に多量の水素ガスを混合させることができ、これらの混合性がより良好になる。また、燃料噴射装置や燃料デリバリパイプ等を二種類の燃料で共用することができる。
【0009】
また、上記目的を達成する為、請求項2記載の発明では、上記請求項1記載の水素利用内燃機関において、微細気泡発生装置については燃料供給手段を構成する燃料供給路内の炭化水素燃料に対して水素ガスの微細気泡を供給するよう配置している。
【0010】
この請求項2記載の発明によれば、上記請求項1記載の発明と同様の効果を運転状態に応じて得ることができる。即ち、運転状態如何で水素ガスの添加が好ましくない場合には炭化水素燃料のみで燃焼させることもでき、また、水素ガスの添加を要する場合には水素ガスを微細気泡で混入させて請求項1記載の発明と同様に混合性の向上を図ることができる。
【0011】
また、上記目的を達成する為、請求項3記載の発明では、上記請求項1又は2に記載の水素利用内燃機関において、微細気泡発生装置については燃料供給手段を構成する燃料タンク内の炭化水素燃料に対して水素ガスの微細気泡を供給するよう配置している。
【0012】
この請求項3記載の発明によれば、燃料タンク内の炭化水素燃料に対してのみ水素ガスを微細気泡で混入させる場合には上記請求項1記載の発明と同様の効果を奏することができる一方、その燃料タンクと燃料供給路の双方の炭化水素燃料に対して水素ガスを微細気泡で混入させる場合にはより多くの水素ガスを混合させることができるので、炭化水素燃料と水素ガスとの混合性の更なる向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る水素利用内燃機関は、液体の炭化水素燃料と水素ガスとの混合性が向上するので、水素ガスを添加した際には燃焼効率が大幅に改善され、従来よりも大幅にリーン限界を伸ばすことができる。これが為、この水素利用内燃機関によれば、燃料消費率やNOxの排出量の大幅な低減が可能になる。また、液体の炭化水素燃料と水素ガスとを予め混合させる為に燃料噴射装置や燃料デリバリパイプ等を二種類の燃料で共用させているので、それらを夫々の燃料毎に配備せずともよく、部品点数の削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係る水素利用内燃機関の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
本発明に係る水素利用内燃機関の実施例1を図1及び図2に基づいて説明する。
【0016】
最初に、本実施例1における水素利用内燃機関の構成を図1に基づき説明する。この図1の符号1は、本実施例1の水素利用内燃機関を示す。尚、ここでは1気筒のみを図示しているが、本発明は、直列やV型等の形式に拘らず多気筒の水素利用内燃機関にも適用される。
【0017】
本実施例1の水素利用内燃機関1は、図1に示す如く、燃焼室2内に空気及び燃料を供給し且つ当該燃焼室2から燃焼後の筒内ガスを排出するシリンダヘッド3と、このシリンダヘッド3の下部にヘッドガスケット4を介してボルト等で締結されるシリンダブロック5と、このシリンダブロック5のシリンダボア5a内に配設された上下方向へと往復移動可能なピストン6とを備えている。その燃焼室2は、シリンダヘッド3の下面に形成された凹部3aの壁面,シリンダボア5aの壁面及びピストン6の頂面6aで囲まれた空間によって構成される。
【0018】
先ず、本実施例1のシリンダヘッド3には、図1に示す如く、燃焼室2に開口する少なくとも1つの吸気通路3bと少なくとも1つの排気通路3cが形成されている。その吸気通路3bには燃焼室2への開口を開閉させ得る吸気バルブ7が配設されており、その吸気バルブ7を開弁することによって吸気通路3bから燃焼室2内に空気が吸入される。また、その排気通路3cにも燃焼室2への開口を開閉させ得る排気バルブ8が配設されており、その排気バルブ8を開弁することによって燃焼室2から排気通路3cへと燃焼後の筒内ガスが排出される。
【0019】
ここで、その燃焼室2内に吸入される空気量(吸入空気量)は、シリンダヘッド3の吸気通路3bと連通する吸気マニホルド9内に配設されたスロットルバルブ10の開閉角度により調節される。このスロットルバルブ10は、図1に示すスロットルバルブアクチュエータ11によって開閉駆動される。
【0020】
更に、そのシリンダヘッド3には、燃焼室2内に供給する燃料の噴射を行う燃料噴射装置12と、その燃焼室2内に供給された燃料と空気の混合気に対して点火を行う点火プラグ13とが配設されている。本実施例1の水素利用内燃機関1においては、その燃料噴射装置12から上述した吸気通路3bに燃料を噴射し、その燃料が空気と混合されながら吸気通路3bを介して燃焼室2内へと導かれた後に点火プラグ13で点火される。
【0021】
ここで、上述したスロットルバルブアクチュエータ11,燃料噴射装置12及び点火プラグ13は、その夫々の動作が図1に示す電子制御装置(ECU)14によって制御される。
【0022】
例えば、その電子制御装置14は、水素利用内燃機関1の要求トルクに応じて、予め用意されているマップデータから吸入空気量と燃料噴射量を求める。そして、この電子制御装置14は、その吸入空気量となるようにスロットルバルブアクチュエータ11を駆動制御してスロットルバルブ10の開弁角度を調節させると共に、その燃料噴射量となるように燃料噴射装置12を駆動制御する。これが為、吸気通路3bにはその吸入空気量の空気が導かれると共にその燃料噴射量の燃料が噴射され、その夫々の混合気が吸気バルブ7の開弁に伴って燃焼室2内に吸入される。しかる後、電子制御装置14は、点火プラグ13に対して点火制御を行い、要求トルクに応じた点火時期で混合気に対して点火させる。これにより、水素利用内燃機関1は、要求トルクを出力する。
【0023】
尚、吸気バルブ7と排気バルブ8の開閉時期やリフト量が運転条件等によって適宜調節される所謂可変バルブ機構を具備している場合には、その可変バルブ機構の動作についても上述した電子制御装置14により制御される。
【0024】
ところで、本実施例1の水素利用内燃機関1においては、その燃焼に用いる燃料として炭化水素燃料(ここではガソリンを例示する。)と水素ガスの二種類の燃料を使用する。これが為、以下においては、その二種類の燃料を燃焼室2内に供給する為の具体的な方法について詳述する。
【0025】
本実施例1の水素利用内燃機関1においては、上述した1つの燃料噴射装置12を利用して炭化水素燃料と水素ガスの二種類の燃料を吸気通路3bに噴射させる。これが為、その二種類の燃料は、燃料噴射装置12へと送り込まれる前段階で予め混合させる必要がある。
【0026】
ここで、その二種類の燃料が燃料噴射装置12に送り込まれる前段階においては、炭化水素燃料が液体である一方、水素ガスについては気体の状態にある。これが為、その炭化水素燃料と水素ガスとが混ぜ合わされた時点では、液体の炭化水素燃料中に水素ガスが気泡の状態で存在することになる。
【0027】
一般に、液体中における通常の気泡は浮上速度が速く、その気泡同士の合体や吸収が起きてしまう。これが為、多量の水素ガスを液体の炭化水素燃料中に混入すると、その炭化水素燃料中においては合体又は吸収された体積の大きい水素ガスの気泡ができてしまい、これがそのままの状態で燃料噴射装置12に送り込まれると、水素ガスのみの噴射と炭化水素燃料のみの噴射とが断続的に繰り返される可能性がある。これでは、炭化水素燃料と水素ガスの双方を燃料として同時に燃焼させることにより得られるリーン限界の向上等の本水素利用内燃機関1に課せられた本来的な目的を達成することができず、何ら意味をなさなくなってしまう。
【0028】
そのようなことから、かかる体積の大きい水素ガスの気泡を炭化水素燃料中に作らないことが好ましく、その為には、例えば、液体の炭化水素燃料に対する水素ガスの混入量を減じることによって、その水素ガスの気泡同士の合体や吸収が起きても燃料噴射装置12に到達するまでは体積が大きくならないようにする必要がある。しかしながら、炭化水素燃料に対する水素ガスの混入量が少なくなりすぎると、これによっても本水素利用内燃機関1の本来的な目的を達成することができなくなってしまう。
【0029】
ここで、気泡としては、上述した通常の気泡の他に、その通常の気泡よりも径の小さい微細気泡が知られている。そして、この微細気泡には以下の如き特徴がある。
【0030】
先ず第1に、微細気泡は、液体中における浮上速度が遅く、気泡同士の合体や吸収が起こらないので、単一気体のままの状態で液体中に長時間留まることができるという特徴を有している。
【0031】
第2に、微細気泡は、単位体積当たりの気泡表面積が大きいので、液体中で溶解しながら縮小して最終的に消滅してしまうという特徴,即ち、液体中に溶け易いという特徴を有している。
【0032】
そして、第3に、表面張力σの作用による自己加圧効果があるという特徴を有している。この圧力の上昇は下記の式1の如く気泡の直径Dに反比例する為、気泡の縮小と共に内部圧力P1が上昇していき、気泡の内部圧力P1と外部圧力P2の圧力差ΔPが大きくなっていく。
【0033】
ΔP=4σ/D … (1)
【0034】
このように微細気泡には上述した3つの特徴があるので、水素ガスを微細気泡にすることによって、より多くの水素ガスを液体の炭化水素燃料中に混入させることができ、更に、その多量の水素ガスを長期に渡り液体の炭化水素燃料中に存在させておくことが可能になる。
【0035】
そこで、本実施例1にあっては、燃料噴射装置12に燃料が送り込まれる前段階にて水素ガスを微細気泡の状態で液体の炭化水素燃料に混入させるように構成する。ここで、燃料噴射装置12に燃料が送り込まれる前段階とは、その燃料噴射装置12への燃料の供給を行う図1に示す燃料供給手段15における段階のことをいう。
【0036】
本実施例1の燃料供給手段15は、図1に示す如く、液体の炭化水素燃料を貯留する燃料タンク15aと、燃料タンク15a内の炭化水素燃料を第1燃料供給路15bから吸い上げて所定の圧力に加圧した後に送出する燃料ポンプ15cと、この燃料ポンプ15cから送出された燃料を燃料噴射装置12に導く第2燃料供給路15dとを備えている。その燃料ポンプ15cは、水素利用内燃機関1の運転状態に応じて電子制御装置14により動作が制御される。
【0037】
ここで、以下においては、複数の燃焼室2を有する多気筒の水素利用内燃機関1について例示する。従って、シリンダヘッド3には夫々の燃焼室2毎に吸気通路3bが形成されており、その各吸気通路3bには夫々に燃料噴射装置12が配備されている。これが為、本実施例1の燃料供給手段15には、上記の第2燃料供給路15dから送られてきた燃料の圧力を一定にして各燃料噴射装置12に供給する燃料デリバリパイプ15eも設けられている。
【0038】
この燃料供給手段15により、燃料タンク15a内に貯留されている液体の炭化水素燃料が各燃料噴射装置12に供給される。
【0039】
一方、もう1つの燃料たる水素ガスは、上述したが如く、その燃料供給手段15を構成する燃料タンク15a,第1燃料供給路15b,燃料ポンプ15c,第2燃料供給路15d又は燃料デリバリパイプ15eの何れかにおいて存在している液体の炭化水素燃料中に微細気泡にして混入させる。これが為、本実施例1においては、その水素ガスを微細気泡にする図1に示す微細気泡発生装置16を設けている。例えば、微細気泡としては直径が数μm〜数十μm程度のマイクロバブルが知られており、本実施例1にあっては、水素ガスのマイクロバブルを発生させる微細気泡発生装置16を使用する。
【0040】
ここでは、燃料ポンプ15cから夫々の燃料噴射装置12までの間で水素ガスを混入させる場合について例示する。具体的には、燃料ポンプ15cや燃料デリバリパイプ15eにて水素ガスの供給を行うと夫々の機能(ポンプとしての機能、圧力を一定にする機能)を損なわせる可能性があるので、第2燃料供給路15dと微細気泡発生装置16とを接続又は第2燃料供給路15d上に微細気泡発生装置16を配備して、その第2燃料供給路15dに水素ガスを微細気泡で供給する。
【0041】
ここで、本実施例1の微細気泡発生装置16は、水素ガスを微細気泡にすることができるものであれば、如何様な方法によるものであってもよい。以下に、その発生方法の代表的なものを例示する。
【0042】
例えば、微細気泡発生装置16としては、激しい流れの中に水素ガスを吹き込んでその水素ガスを引きちぎって細かくする旋回流を用いた方法のものがある。かかる微細気泡発生装置16においては、装置中心部に液体及び水素ガスの2層旋回流を発生させ、その回転軸部分に空洞を形成させる。また、この空洞部分を竜巻状に細くして、強力なせん断力を発生させ、吸入した水素ガスを切断・粉砕させる。
【0043】
また、別の発生方法による微細気泡発生装置16としては、水素ガスを加圧してより多く液体中に溶解させた状態からその液体の流速を上げる等してキャビテーションを起こすことにより発生させるものがある。
【0044】
更に別の発生方法による微細気泡発生装置16としては、超音波を与えることにより水素ガスの気泡を加振させて分裂させるものがある。
【0045】
このように、上記に例示したが如き代表的な発生方法を用いた微細気泡発生装置16においては、この微細気泡発生装置16に水素ガスを供給しなければ微細気泡を発生させることができない。これが為、本実施例1にあっては、水素ガスを微細気泡発生装置16に供給する図1に示す水素ガス供給手段17が設けられている。
【0046】
例えば、その水素ガス供給手段17は、図1に示す如く、圧縮された高圧の水素ガスが貯蔵されている水素燃料タンク17aと、この水素燃料タンク17aから水素ガスを吸い上げて所定の圧力に加圧した後に送出する水素燃料ポンプ17bと、この水素燃料ポンプ17bから送出された水素ガスを微細気泡発生装置16に導く水素ガス供給路17cとを備えている。
【0047】
また、この水素ガス供給手段17には、水素燃料ポンプ17bから送出された水素ガス供給路17cにおける水素ガスの流量を検出する水素ガス流量計17dも設けられている。この水素ガス流量計17dの検出信号は、電子制御装置14に送られる。
【0048】
電子制御装置14は、水素利用内燃機関1の運転状態に応じて水素燃料ポンプ17bを駆動制御すると共に、これに伴って水素ガスが供給される微細気泡発生装置16を駆動制御して、水素ガスを微細気泡で第2燃料供給路15dに供給する。
【0049】
このように、燃料噴射装置12に到達する前の段階で予め炭化水素燃料と水素ガスとを混合させるので、これらを別々に噴射して燃焼室2内に送り込む場合よりも炭化水素燃料と水素ガスとの混合性が良好になる。そして、更にその水素ガスを微細気泡で液体の炭化水素燃料中に混入させるので、その炭化水素燃料中に多量の水素ガスを混合させることができる。これが為、本実施例1の水素利用内燃機関1は、従来と比して多量の水素ガスを燃焼室2内に供給することができるので、燃焼効率を大幅に向上させ、更に薄い希薄空燃比の領域で運転することができる。即ち、本実施例1の水素利用内燃機関1においては、液体の炭化水素燃料と水素ガスの微細気泡とを予混合させることによって、従来よりも大幅にリーン限界を伸ばすことができ、これにより、燃料消費率やNOxの排出量の大幅な低減が可能になる。
【0050】
ここで、水素燃料ポンプ17bを駆動させる際には、第2燃料供給路15dを流れる炭化水素燃料の流量を考慮して制御することが好ましい。即ち、ある量の炭化水素燃料中に混合し得る水素ガスの微細気泡の供給量には限界があり、その混合可能な限界点よりも多く水素ガスの微細気泡を供給しても無駄になるので、その水素ガスの微細気泡の供給量が混合可能な限界点を超えないように水素燃料ポンプ17bを駆動させることが好ましい。これが為、その際の電子制御装置14は、第2燃料供給路15dを流れる炭化水素燃料の流量に応じた水素ガスの微細気泡を混合可能な限界点を求め、その限界点を超えないように水素ガス流量計17dの検出値をみながら水素燃料ポンプ17bを駆動制御する。
【0051】
その際、例えば、その炭化水素燃料の流量は、第2燃料供給路15dに流量計を設けることにより検出することができるが、その流量の検出値と燃料ポンプ15cの制御量(駆動力)とは略比例関係にあるので、その燃料ポンプ15cの制御量から判断してもよい。また、その炭化水素燃料の流量又は燃料ポンプ15cの制御量と当該流量又は制御量に応じた混合可能な水素ガスの微細気泡の限界供給量(換言すれば、水素燃料ポンプ17bの制御量)との関係を示すマップデータを予め用意しておき、これに基づいて水素燃料ポンプ17bを駆動制御する。
【0052】
このように、本実施例1の水素利用内燃機関1においては、燃料噴射装置12の上流側で液体の炭化水素燃料と水素ガスの微細気泡とを予混合させている。これが為、上述したが如く燃焼効率の改善によるリーン限界の向上に伴って、燃料消費率やNOxの排出量を大幅に低減させることができる。
【0053】
また、本実施例1の水素利用内燃機関1においては、そのように液体の炭化水素燃料と水素ガスの微細気泡とを予混合させることによって部品点数を低減することができる。即ち、従来、水素ガス用に用意されていた水素ガス専用の燃料噴射装置,燃料デリバリパイプ及び燃料供給路(第2燃料供給路15dに相当するもの)等が不要になり、二種類の燃料で燃料噴射装置12,第2燃料供給路15d及び燃料デリバリパイプ15eを共有することができる。これが為、各々の部品の搭載性が向上し、製造原価を低減させることができる。
【0054】
以下に、本実施例1における水素利用内燃機関1の動作の一例を図2のフローチャートに基づいて説明する。
【0055】
先ず、電子制御装置14は、水素利用内燃機関1の機関回転数やアクセル開度から水素利用内燃機関1の要求トルクを算出する(ステップST1)。例えば、その要求トルクは、機関回転数やアクセル開度をパラメータとする予め用意されたマップデータから求める。
【0056】
しかる後、この電子制御装置14は、その機関回転数やアクセル開度、空燃比等から運転状態を検出し、水素ガスの供給を行うか否か判断する(ステップST2)。例えば、低中負荷で且つ理論空燃比又は希薄空燃比での運転との運転状態を検出した際には水素ガスを供給すると判断し、高負荷運転との運転状態を検出した際には水素ガスを供給しないと判断する。
【0057】
ここで、電子制御装置14が水素ガスを供給すると判断した場合には、上記ステップST1の要求トルクに応じた吸入空気量並びに炭化水素燃料及び水素ガスの燃料噴射量を予め用意されているマップデータから求める(ステップST3)。その際、その炭化水素燃料及び水素ガスの燃料噴射量は、例えば、上記ステップST2の運転状態に応じた炭化水素燃料と水素ガスの混合比を予め用意されているマップデータから算出し、その混合比に基づいて上記のマップデータから求める。
【0058】
そして、この電子制御装置14は、その混合比となるように水素燃料ポンプ17bと微細気泡発生装置16を駆動制御して、多量の水素ガスを微細気泡で第2燃料供給路15dの炭化水素燃料中に混入させる(ステップST4)。
【0059】
しかる後、この電子制御装置14は、上記ステップST3で求めた吸入空気量となるようにスロットルバルブアクチュエータ11を駆動制御してスロットルバルブ10の開弁角度を調節させると共に、同じく求めた燃料噴射量となるように燃料噴射装置12を駆動制御する(ステップST5)。
【0060】
これにより、吸気通路3bにはその吸入空気量の空気が導かれると共にその燃料噴射量で炭化水素燃料と水素ガスとの混合燃料が噴射され、その空気と炭化水素燃料及び水素ガスの混合気が吸気バルブ7の開弁に伴って燃焼室2内に吸入される。
【0061】
その後、電子制御装置14は、点火プラグ13に対して点火制御を行って要求トルクに応じた点火時期で混合気に対する点火を行わせ(ステップST6)、水素利用内燃機関1に要求トルクを出力させる。
【0062】
一方、上記ステップST2にて電子制御装置14が水素ガスを供給しないと判断した場合には、上記ステップST1の要求トルクに応じた吸入空気量と炭化水素燃料の燃料噴射量を予め用意されているマップデータから求める(ステップST7)。
【0063】
そして、この電子制御装置14は、上記ステップST5にて、その吸入空気量となるようにスロットルバルブアクチュエータ11を駆動制御してスロットルバルブ10の開弁角度を調節させると共に、その燃料噴射量となるように燃料噴射装置12を駆動制御する。
【0064】
これにより、吸気通路3bにはその吸入空気量の空気が導かれると共にその燃料噴射量で炭化水素燃料が噴射され、その空気と炭化水素燃料の混合気が吸気バルブ7の開弁に伴って燃焼室2内に吸入される。
【0065】
しかる後、電子制御装置14は、上記ステップST6にて点火プラグ13に対して要求トルクに応じた点火時期で点火を行わせ、水素利用内燃機関1に要求トルクを出力させる。
【0066】
ここで、かかる動作の一例においては、運転状態に応じた炭化水素燃料と水素ガスの混合比を求める場合について例示した。かかる場合、その水素ガスは、液体の炭化水素燃料に対して混合可能な限界点まで混合させるときもあれば、その限界点に達しない混合比で混合させるときもある。このように、その2形態を使い分ける境界は運転状態に依存するものであり、緻密な燃焼制御を行う為には、その使い分けにより水素ガスの混合量を制御することは有用である。
【0067】
しかしながら、水素利用内燃機関1によっては、そのような使い分けを必要としないものもあり、水素ガスの混合量を減ずるのであれば、炭化水素燃料のみで運転させる方がエミッション性能等の観点から好ましい場合も考えられる。そこで、かかる場合の水素利用内燃機関1においては、水素ガスの供給を要するときには常に液体の炭化水素燃料に対して混合可能な限界点まで水素ガスを供給して混合させる。
【0068】
ところで、本実施例1にあっては微細気泡としてマイクロバブルを用いた場合について例示したが、その微細気泡としては、直径が1μm以下のナノバブルを用いてもよい。このナノバブルで水素ガスを液体の炭化水素燃料に供給すれば、マイクロバブルの場合よりも更に多量の水素ガスを炭化水素燃料に混合させることができる。これが為、上述した燃焼効率が更に改善されてリーン限界の更なる向上を図ることができ、燃料消費率やNOxの排出量をより大幅に低減させることができる。
【0069】
また、上述した水素燃料タンク17aは、水素吸蔵合金や水素吸着材料により水素ガスが吸蔵されているものであってもよい。また、メタノールやガソリン等の水蒸気改質,プラズマ放電による液体燃料改質又はマイクロチャンネルによる触媒反応改質によって水素ガスを生成する水素生成装置を設け、この水素生成装置から微細気泡発生装置16に水素ガスを供給してもよい。また、有機ハイドライドによる水素分離で水素ガスを生成してもよい。更に、微細気泡発生装置16自体が液体の水素から水素ガスを生成し、更に、その水素ガスを微細気泡にすることができるのであれば、上述した水素燃料タンク17aには液化された水素を充填しておいてもよい。
【0070】
また、本実施例1の燃料噴射装置12としては吸気通路3bへと燃料(炭化水素燃料、水素ガス)を噴射させるものを例示したが、その燃料噴射装置12は、燃料を燃焼室2内に直接噴射するものであってもよい。即ち、上述した本発明に係る技術は、炭化水素燃料と水素ガスを利用する所謂筒内直接噴射式内燃機関にも適用することができる。
【実施例2】
【0071】
次に、本発明に係る水素利用内燃機関の実施例2を図3に基づいて説明する。
【0072】
最初に、本実施例2における水素利用内燃機関の構成について説明する。その図3の符号20は、本実施例2の水素利用内燃機関を示す。尚、本実施例2においても1気筒のみを図示しているが、本発明は、直列やV型等の形式に拘らず多気筒の水素利用内燃機関にも適用される。
【0073】
本実施例2の水素利用内燃機関20は、前述した実施例1の水素利用内燃機関1において、更に多くの水素ガスを液体の炭化水素燃料中に混合させる為に、燃料タンク15aに貯留されている液体の炭化水素燃料にも水素ガスを微細気泡で混入させるよう構成したものである。
【0074】
これが為、先ず、本実施例2にあっては、図3に示す如く、第2燃料供給路15dの炭化水素燃料中に供給する水素ガスの微細気泡を発生させる微細気泡発生装置(以下、本実施例2においては「第1微細気泡発生装置」という。)16に加えて、燃料タンク15a内の炭化水素燃料中に供給する水素ガスの微細気泡を発生させる第2微細気泡発生装置18を設ける。この第2微細気泡発生装置18についても、第1微細気泡発生装置16と同様に電子制御装置14で駆動制御される。
【0075】
その第1及び第2の微細気泡発生装置16,18は、マイクロバブルを発生させるものであってもよく、ナノバブルを発生させるものであってもよい。
【0076】
また、本実施例2においては、その第2微細気泡発生装置18にも水素ガスを供給する為に水素ガス供給手段17の構成に変更を加えている。
【0077】
具体的には、図3に示す如く、水素ガス供給路(以下、本実施例2においては「第1水素ガス供給路」という。)17cにおける水素燃料ポンプ17bと水素ガス流量計(以下、本実施例2においては「第1水素ガス流量計」という。)17dとの間から分岐し、その第1水素ガス供給路17cから第2微細気泡発生装置18へと水素ガスを導く第2水素ガス供給路17eと、この第2水素ガス供給路17eを流れる水素ガスの流量の検出を行う第2水素ガス流量計17fとを新たに設けている。この第2水素ガス流量計17fの検出信号についても電子制御装置14に送られる。
【0078】
更に、本実施例2の水素ガス供給手段17においては、その第1水素ガス供給路17cと第2水素ガス供給路17eとの分岐点に流路切替弁17gが設けられており、この流路切替弁17gを電子制御装置14が切り替えることによって、第1微細気泡発生装置16又は第2微細気泡発生装置18の何れから水素ガスの微細気泡を炭化水素燃料中に混入させるか選択することができる。
【0079】
このように構成された本実施例2においては、先ず、電子制御装置14が、流路切替弁17gを第2微細気泡発生装置18側に切り替え、第2水素ガス流量計17fの検出値をみながら燃料タンク15a内の炭化水素燃料の残存量に応じて水素燃料ポンプ17bを駆動制御すると共に、これに伴って水素ガスが供給される第2微細気泡発生装置18を駆動制御する。その炭化水素燃料の残存量は、図3に示す残存燃料検出手段15fの検出信号から電子制御装置14が判断している。
【0080】
その際、例えば、炭化水素燃料の残存量に対して限界まで混入し得る水素ガスの微細気泡が燃料タンク15a内に供給されるよう水素燃料ポンプ17bを駆動制御する。この水素燃料ポンプ17bの制御量(駆動力)は、燃料タンク15a内の炭化水素燃料の残存量と当該残存量に応じた混合可能な水素ガスの微細気泡の限界供給量(換言すれば、水素燃料ポンプ17bの制御量)との関係を示すマップデータを予め用意しておき、これに基づいて求めることができる。これが為、電子制御装置14は、そのマップデータから求めた結果に基づいて、第2水素ガス流量計17fの検出値をみながら水素燃料ポンプ17bを駆動制御する。
【0081】
これにより、燃料タンク15a内の炭化水素燃料中には多量の水素ガスが微細気泡で混入され、これらが混合可能な限界点まで混合する。
【0082】
かかる炭化水素燃料と水素ガスの混合燃料は、燃料ポンプ15cにより吸い上げられて所定の圧力に加圧された後に第2燃料供給路15dへと送出される。ここで、その混合燃料は、燃料ポンプ15cを通過する際に加圧されて、更に水素ガスを混合させることができるようになる。
【0083】
これが為、電子制御装置14は、流路切替弁17gを第1微細気泡発生装置16側に切り替え、第2燃料供給路15dの混合燃料に対して更に混合可能な水素ガスの微細気泡の限界供給量を求める。この限界供給量は、実施例1と同様の考えに基づいて、その第2燃料供給路15dを流れる混合燃料の流量(又は燃料ポンプ15cの制御量)と当該流量(又は制御量)に応じた混合可能な水素ガスの微細気泡の限界供給量(水素燃料ポンプ17bの制御量)との関係を示すマップデータから求めることができる。
【0084】
そして、電子制御装置14は、その限界供給量の水素ガスの微細気泡が第2燃料供給路15dに供給されるよう第1水素ガス流量計17dの検出値をみながら水素燃料ポンプ17bを駆動制御すると共に、第1微細気泡発生装置16を駆動制御する。
【0085】
これにより、その第2燃料供給路15dに対して第1微細気泡発生装置16で生成した水素ガスの微細気泡が供給され、その第2燃料供給路15dを流れる混合燃料に対して更に多くの水素ガスを混合させることができる。
【0086】
このように、本実施例2によれば、実施例1よりも多くの水素ガスを炭化水素燃料中に予混合させることができるので、その実施例1以上に燃焼効率を改善することができ、リーン限界の更なる向上を図ることができる。これが為、本実施例2の水素利用内燃機関20においては、燃料消費率やNOxの排出量を実施例1以上に大幅に低減させることができる。
【0087】
また、実施例1と同様に、本実施例2の水素利用内燃機関20においても、従来の水素ガス専用の燃料噴射装置,燃料デリバリパイプ及び燃料供給路等が不要になり、二種類の燃料で燃料噴射装置12,第2燃料供給路15d及び燃料デリバリパイプ15eを共有することができる。これが為、この実施例2においても、各々の部品の搭載性が向上し、製造原価を低減させることができる。
【0088】
尚、本実施例2にあっても、燃料噴射装置12から燃焼室2内へと燃料を直接噴射する所謂筒内直接噴射式内燃機関に適用することができる。
【0089】
ところで、本実施例2にあっては2つの微細気泡発生装置(第1及び第2の微細気泡発生装置16,18)から夫々第2燃料供給路15dと燃料タンク15aとに水素ガスの微細気泡を供給するものとして例示したが、1つの微細気泡発生装置から第2燃料供給路15dと燃料タンク15aの双方に水素ガスの微細気泡を供給し得るよう構成してもよい。また、燃料タンク15aのみに対して水素ガスの微細気泡を供給するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上のように、本発明に係る水素利用内燃機関は、炭化水素燃料と水素ガスとを燃料にして燃焼させる内燃機関に有用であり、特に、多量の水素ガスを燃焼室内へと送り込む技術に適している。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係る水素利用内燃機関の実施例1の構成を示す図である。
【図2】実施例1の水素利用内燃機関の動作の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る水素利用内燃機関の実施例2の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1,20 水素利用内燃機関
2 燃焼室
3b 吸気通路
12 燃料噴射装置
14 電子制御装置(ECU)
15 燃料供給手段
15a 燃料タンク
15b 第1燃料供給路
15c 燃料ポンプ
15d 第2燃料供給路
15e 燃料デリバリパイプ
15f 残存燃料検出手段
16 微細気泡発生装置(第1微細気泡発生装置)
17 水素ガス供給手段
17a 水素燃料タンク
17b 水素燃料ポンプ
17c 水素ガス供給路(第1水素ガス供給路)
17d 水素ガス流量計(第1水素ガス流量計)
17e 第2水素ガス供給路
17f 第2水素ガス流量計
17g 流路切替弁
18 第2微細気泡発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の炭化水素燃料と水素ガスとを燃料として使用する水素利用内燃機関において、
前記炭化水素燃料を噴射する燃料噴射装置と、該燃料噴射装置に前記炭化水素燃料を供給する燃料供給手段と、前記水素ガスの微細気泡を発生させ且つ当該水素ガスの微細気泡を前記燃料供給手段内の液体の炭化水素燃料中に混入させる微細気泡発生装置とを備えることを特徴とした水素利用内燃機関。
【請求項2】
前記微細気泡発生装置は、前記燃料供給手段を構成する燃料供給路内の炭化水素燃料に対して前記水素ガスの微細気泡を供給するよう配置したことを特徴とする請求項1記載の水素利用内燃機関。
【請求項3】
前記微細気泡発生装置は、前記燃料供給手段を構成する燃料タンク内の炭化水素燃料に対して前記水素ガスの微細気泡を供給するよう配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の水素利用内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−329009(P2006−329009A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151276(P2005−151276)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】